JP6524977B2 - 高強度鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、自動車、電機等に供して好適な引張強さが1180MPa以上を有する延性に優れた高強度鋼板およびその製造方法に関する。
近年、地球環境保全の観点から自動車の燃費向上が重要になっており、車体の軽量化が進められている。車体の軽量化に対しては、使用される鋼板を高強度化し、板厚を薄くすることが、最も有効な手段である。また、自動車の搭乗者の衝突安全性向上も重要である。衝突安全性向上に対しても、使用される鋼板の高強度化が有効な対策となる。従来、冷延鋼板の強度を高めるためには、熱間圧延とその後の焼鈍条件を厳格に管理するとともに、鋼板中にC、Si、Mnなどに加えて、Cr、Mo、Niなど高価な合金元素を添加することが必要であった。特に、最近では、1180MPa以上の引張強さを有する極めて強度の高い高強度鋼板の適用も進んでいる。
従来、引張強さが1180MPa以上の高強度鋼板は軽加工部品に適用されることが多かったが、最近では、より一層の衝突安全性と車体軽量化による燃費向上を両立させるべく、引張強さが1180MPa以上の高強度鋼板に対しても複雑形状のプレス部品への適用が検討されており、加工性に優れる鋼板に対するニーズは高い。しかしながら、鋼板の強度が上昇すると延性が低下し、ひいてはプレス成形時に割れが発生することが問題となる。
延性に優れた高強度冷延鋼板に関する従来技術として、例えば特許文献1〜3に、鋼成分や組織の限定、熱延条件、または焼鈍条件の最適化により、焼戻しマルテンサイトや残留オーステナイトを主体とした高強度冷延鋼板の製造技術が開示されている。
特許文献1には、Ca及び/又はREMを所定量添加した鋼組成を有し、焼戻マルテンサイト若しくは焼戻ベイナイト、あるいはさらにフェライトを有する組織を母相組織とし、第2相組織として残留オーステナイトを全組織に対して占積率で3〜30%含有すると共に、前記残留オーステナイト全体に占めるラス状の残留オーステナイトの比率が70%以上である鋼板が開示されている。また、特許文献1では、このような鋼板の製造方法として、焼戻マルテンサイトまたは焼戻ベイナイトを母相とする場合、熱間圧延工程、冷間圧延工程を経た鋼板を、A3点以上(γ域)からMs点以下に急速冷却して得られたマルテンサイト(焼入マルテンサイト)を、あるいはA3点以上(γ域)よりMs点以上Bs点以下に急速冷却して得られたベイナイト(焼入ベイナイト)を、A1点以上(約700℃以上)A3点以下の温度で加熱保持後、所定温度まで冷却して保持し、母相組織を焼き戻すとともに、所望の第2相組織を得ることが記載される。また、焼戻マルテンサイトとフェライト(α)との混合組織、または焼戻ベイナイトとフェライト(α)との混合組織を母相とする場合、熱間圧延工程、冷間圧延工程を経た鋼板を、A1点以上A3点以下もしくはA3点以上からMs点以下に急速冷却して得られたマルテンサイトとフェライトの混合組織(焼入マルテンサイト+α)を、あるいはMs点以上Bs点以下に急速冷却して得られたベイナイト(焼入ベイナイト+α)をA1点以上(約700℃以上)、A3点以下の温度で加熱保持後、所定温度まで冷却して保持することが開示されている。
特許文献2には、所定の成分組成を有し、面積率で2〜20%の残留オーステナイトを含み、ベイナイトと異なる転位密度の高いベイニティック・フェライト(BF)を主相とする伸びフランジ性に優れる高強度鋼板であり、BFを母相とするTRIP鋼板について、残留オーステナイトの微細化により伸びフランジ性を向上することが開示されている。
特許文献3には、Cr、Cu、Ni、Ti、NbおよびBを所定量添加した鋼組成を有する鋼板における加工率3%の引張加工後の金属組織が、残留オーステナイトの面積率が1%以上有し、前記残留オーステナイトの結晶粒の平均軸比(長軸/短軸)が5以上、平均短軸長さが1μm以下、および結晶粒間の最隣接距離が1μm以下を有する耐遅れ破壊性に優れた鋼板が開示されている。
特許4062616号公報 特許5110970号公報 特許4174593号公報
しかしながら、特許文献1〜3に記載の技術では、引張強さ1180MPa以上の高強度と高延性を両立するには至っていない。
特許文献1は、表2〜4に開示されるように、引張強さが1180MPa以上を確保すると、0.45%以上のCを含有する必要がある。そのため、スポット溶接性において十分な継ぎ手強度が得られない懸念がある。特許文献2は、引張強さが1180MPa以上を確保することが困難である。特許文献3は、引張強さが1180MPa以上での強度と伸びのバランスが不十分である。
本発明は係る問題に鑑み、引張強さが1180MPa以上を有する延性に優れた高強度鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を達成するため、引張強さが1180MPa以上を有する鋼板を対象に、優れた延性を確保するための鋼板の成分組成、製造方法およびミクロ組織を決定する各種要因に関し鋭意研究を行い、以下の知見を得た。
1.1180MPa以上の引張強さと優れた延性を両立するためには、鋼板の構成組織であるフェライトおよび/またはベイナイト、残留オーステナイト、およびマルテンサイトの面積率を厳密に制御する。これと同時に、鋼板中のTiCおよびTiCを含む複合析出物の、サイズおよび個数密度を制御することが重要である。
2.上記1の構成組織を達成するためには、成分組成を厳格に管理する。特に、成分組成中にTiを添加するとともに、Tiと結合しやすいC、NおよびO量を厳格に管理する。TiCおよびTiCを含む複合析出物を多量に有することにより、析出強化が発現し、延性の低下を極力抑えながら強度を格段に上昇することが可能となる。ただし、粗大なTiCまたはTiCを含む複合析出物が混在すると、破壊の発生起点となり、延性が低下する。そのため、析出物のサイズおよび個数密度を調整するための成分組成および製造条件を選択することが重要である。
3.上記2の性能を効果的に発現するためには、鋼素材の鋳造過程において不可避的に生成する粗大なTi系晶出物に対して、引き続き行われる熱間圧延工程の再加熱、圧延および冷却条件を厳格に管理し、更に、冷間圧延後の焼鈍条件を制御することが重要である。
本発明は以上の知見に基づいてなされたものであり、以下を要旨とするものである。
[1]成分組成は、質量%で、C:0.20%以上0.45%未満、Si:0.50%以上2.50%以下、Mn:1.5%以上4.0%以下、P:0.050%以下、S:0.0050%以下、Al:0.01%以上0.10%以下、Ti:0.020%以上0.150%以下、N:0.0005%以上0.0070%以下、O:0.0050%以下を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、
組織は、面積率で、
フェライトとベイナイトの合計が30%以上70%以下、残留オーステナイトが15%以上、およびマルテンサイトが5%以上35%以下であり、かつ、前記残留オーステナイトの平均円相当直径が3.0μm以下であり、
組織中に、長径が5nm以上100nm以下である、TiCとTiCを含む複合析出物の合計が1mm当たり2×10個以上を有し、かつ、長径が250nm以上である、Tiを含む炭化物、窒化物、酸化物およびこれらを含む複合析出物の合計が1mm当たり8×10個以下を有することを特徴とする高強度鋼板。
[2]前記成分組成に加えて、質量%で、Cr:0.01%以上1.0%以下、Mo:0.01%以上1.0%以下、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下、B:0.0050%以下より選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする[1]に記載の高強度鋼板。
[3]前記成分組成に加えて、質量%で、REM:0.02%以下、Ca:0.005%以下、Mg:0.005%以下より選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする[1]または[2]に記載の高強度鋼板。
[4]前記成分組成に加えて、質量%で、Sn:0.2%以下、Sb:0.2%以下より選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1に記載の高強度鋼板。
[5]鋼板表面に亜鉛系めっき皮膜を有することを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1に記載の高強度鋼板。
[6][1]〜[4]のいずれか1に記載の成分組成を有する鋼素材を、
Tsを式(1)で示す温度とするとき、(Ts−180)℃以上(Ts+20)℃以下の温度域に加熱し、仕上圧延終了温度:850℃以上の熱間圧延を施した後、300℃以上600℃以下の温度域まで平均冷却速度300℃/min.以上2400℃/min.以下で冷却し、300℃以上600℃以下の温度域で巻取り、
次いで、冷間圧延を施した後、700℃以上900℃以下の温度域に加熱し、その後200℃以上450℃以下の温度域まで平均冷却速度300℃/min.以上2400℃/min.以下で冷却し、200℃以上450℃以下の温度域で1min.以上20min.以下保持する最終焼鈍を行うことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
Ts(℃)=7000/{2.75−log10([%Ti]×[%C])}−273 (1)
ここで、[%Ti]、[%C]は、それぞれ鋼中のTiおよびCの含有量(質量%)を示す。
[7]前記最終焼鈍の前に、加熱温度650℃以下の箱焼鈍を行うことを特徴とする[6]に記載の高強度鋼板の製造方法。
[8]前記最終焼鈍の後に、亜鉛系めっき処理を施すことを特徴とする[6]または[7]に記載の高強度鋼板の製造方法。
[9]前記亜鉛系めっき処理は、溶融亜鉛めっき処理、電気亜鉛めっき処理のいずれかであることを特徴とする[8]に記載の高強度鋼板の製造方法。
[10]さらに、前記亜鉛系めっき処理後、合金化処理温度450〜600℃で合金化処理を行うことを特徴とする[8]または[9]に記載の高強度鋼板の製造方法。
なお、本発明において、高強度鋼板とは、引張強さが1180MPa以上の鋼板であり、冷延鋼板、めっき処理、合金化めっき処理などの表面処理を冷延鋼板に施した鋼板を含むものである。また、本発明において、延性に優れたとは、伸び(全伸び)が15%以上であることを意味する。
本発明によれば、引張強さが1180MPa以上を有する延性に優れた鋼板が得られる。そして、本発明により製造した構造部品を自動車車体に適用することにより、自動車搭乗者の衝突安全性向上、および燃費向上に伴う環境負荷の軽減に大きく寄与し、産業上格段の効果を奏する。また、自動車構造などの鋼構造物作製時の製造効率の向上に寄与することができる。
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明の高強度鋼板の成分組成と、その限定理由について説明する。なお、以下の成分組成を表す%は、特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C:0.20%以上0.45%未満
Cは、鋼を強化する上で最も重要な元素であり、高い固溶強化能を有する。そのうえ、強力なオーステナイト安定化元素であり、残留オーステナイトの生成を促進して均一伸びの向上に寄与する。また、Cは、マルテンサイトの面積率、硬さに影響して、高強度化に寄与する元素である。引張強さが1180MPa以上で、これらの効果を得るためには、C量は0.20%以上含有することが必要である。なお、C量が0.20%未満では、フェライトが過度に生成し、引張強さの確保が困難となる。また、所望の残留オーステナイト量が得られず、優れた伸び(延性)の確保が困難となる。一方、C量が0.45%以上になると溶接性が著しく劣化する。また、マルテンサイトが過度に硬質化して、優れた延性の確保が困難となる。従って、C量は0.20%以上0.45%未満とする。好ましくは0.22%以上とし、より好ましくは0.24%以上とする。好ましくは0.43%以下とし、より好ましくは0.40%以下とする。
Si:0.50%以上2.50%以下
Siは、脱酸剤として作用し、製鋼上、必要である。これだけでなく、鋼に固溶して固溶強化により鋼板を高強度化する効果を有する。また、セメンタイトの生成抑制効果を介して残留オーステナイトを安定化させ、均一伸びの向上に寄与する。これらの効果を得るためには、0.50%以上の含有を必要とする。一方、2.50%を超えてSi量を含有すると、溶接部の靱性が顕著に劣化する。従って、Si量は0.50%以上2.50%以下とする。好ましくは、0.70%以上とする。好ましくは、2.30%以下とする。
Mn:1.5%以上4.0%以下
Mnは、比較的安価に鋼の焼入れ性を増加させる効果を有する。引張強さ1180MPa以上の強度を確保するためには、Mn量は1.5%以上含有することが必要である。また、Mnは、オーステナイト安定化元素であり、残留オーステナイトの生成を促進する。これとともに、マルテンサイトを所望量生成させて、高強度化に寄与する。一方、Mn量は4.0%を超えて含有すると、マルテンサイトが過度に硬質化して優れた延性の確保が困難となる。これとともに、ミクロ偏析が大きくなり、偏析部を起点とした遅れ破壊の発生を助長する。従って、Mn量は1.5%以上4.0%以下とする。好ましくは、1.7%以上とする。好ましくは3.8%以下とする。
P:0.050%以下
Pは固溶強化能が大きい元素であるが、Mnとともにミクロ偏析を助長する。Pは0.050%を超えて含有すると、延性および靭性が低下するだけでなく、粒界偏析部が遅れ破壊の発生起点となる。従って、P量は0.050%を上限とする。好ましくは0.030%以下とする。なお、Pは、可能なかぎり低減することが望ましい。しかし、過度のP低減は精錬コストを高騰させ、経済的に不利となる。よって、P量の下限は0.005%以上が好ましい。より好ましくは、0.007%以上とする。
S:0.0050%以下
Sは粒界に偏析して熱間圧延時の延性を低下させる。これとともに、介在物として鋼中に存在し、介在物割れの起点となる。従って、S量は0.0050%を上限とする。好ましくは0.0040%以下とする。なお、Sは低減することが望ましい。しかし、過度のS低減は工業的に困難であり、製鋼工程における脱硫コストの増加、生産性の低下を伴う。よって、S量の下限は0.0001%程度が好ましい。より好ましくは、0.0007%以上とする。
Al:0.01%以上0.10%以下
Alは、脱酸剤として作用し、鋼板の溶鋼脱酸プロセスに於いて、もっとも汎用的に使われる。また、鋼中の固溶Nを固定してAlNを形成することにより、固溶Nによる脆化を抑制する効果を有する。これらの効果を得るには、Al量は0.01%以上含有させることが必要である。一方、Al量は0.10%を超えて含有すると、スラブ製造時の表面割れを助長するため、0.10%を上限とする。従って、Al量は0.01%以上0.10%以下とする。好ましくは、0.02%以上とする。好ましくは、0.07%以下とする。
Ti:0.020%以上0.150%以下
Tiは、本発明において重要な元素である。Tiは、冷間圧延後の焼鈍工程の加熱において、固溶Tiで存在することによりソリュートドラッグ効果を発現し、冷間圧延で生成した加工組織の再結晶を遅延することにより、焼鈍後の鋼板を高強度化する効果を有する。また、連続鋳造、熱間圧延、冷間圧延および焼鈍工程で生成する、TiCおよびTiCを含む複合析出物のサイズおよび量を厳密に制御することにより、延性の低下を極力招くことなく引張強さを格段に向上させる効果を有する。これらの効果を得るためには、Ti量は0.020%以上含有することが必要である。一方、Ti量は0.150%を超えて含有すると、粗大なTi系晶出物がスラブ製造時の表面割れを助長する。これとともに、引張時の延性破壊の起点となり、延性が低下する。従って、Ti量は0.020%以上0.150%以下とする。好ましくは0.022%以上とし、より好ましくは0.025%以上とする。好ましくは0.140%以下とし、より好ましくは、0.120%以下とする。
N:0.0005%以上0.0070%以下
Nは不可避的不純物として鋼中に含まれるが、Tiを適量添加することにより、TiNを形成し、結晶粒の粗大化を抑制する効果を有する。このような効果を得るためには、N量は0.0005%以上とする。一方、N量は0.0070%を超えて含有すると、粗大なTiNが析出し、延性の低下を招く。従って、N量は0.0005%以上0.0070%以下とする。好ましくは、0.0010%以上とする。好ましくは0.0065%以下とする。
O:0.0050%以下
Oは不可避的不純物として含有され、鋼中では酸化物として存在し、清浄度を低下させる。このため、本発明では、できるだけ低減することが好ましい。O量は0.0050%を超えて含有されると、TiO系介在物が粗大化して、延性に悪影響を及ぼす。従って、O量は0.0050%以下とする。好ましくは0.0040%以下とする。なお、O量の過度の低減は工業的に困難であり、製鋼工程における脱酸コストの増加、生産性の低下を伴う。よって、O量の下限は0.0005%程度とすることが好ましい。より好ましくは、0.0007%以上とする。
残部は鉄および不可避的不純物である。
以上の必須元素で本発明の鋼板は目的とする特性が得られるが、上記の必須元素に加えて、必要に応じて下記の元素を含有することができる。
Cr:0.01%以上1.0%以下、Mo:0.01%以上1.0%以下、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下、B:0.0050%以下より選ばれる1種または2種以上
Cr:0.01%以上1.0%以下
Crは、鋼の強度向上に寄与する元素として、有用である。このような効果を有効に発揮させるためには、0.01%以上含有することが好ましい。一方、1.0%を超えて含有すると、過度な強度上昇により脆化を助長する場合がある。また、経済的に不利になる場合がある。従って、Crを含有する場合、0.01%以上1.0%以下が好ましい。より好ましくは0.03%以上とする。より好ましくは0.8%以下とする。
Mo:0.01%以上1.0%以下
Moは、鋼の強度向上に寄与する元素として、有用である。このような効果を有効に発揮させるためには、0.01%以上含有することが好ましい。一方、1.0%を超えて含有すると、過度な強度上昇により脆化を助長する場合がある。また、経済的に不利になる場合がある。従って、Moを含有する場合、0.01%以上1.0%以下が好ましい。より好ましくは、0.03%以上とする。より好ましくは0.8%以下とする。
Cu:1.0%以下
Cuは、鋼の強度向上に寄与する元素として、有用である。このような効果を有効に発揮させるためには、0.1%以上含有することが好ましい。しかしながら、1.0%を超えて含有すると、熱間脆性を生じて鋼板の表面性状を劣化させる場合がある。従って、Cuを含有する場合、1.0%以下が好ましい。
Ni:1.0%以下
Niは、鋼の強度向上に寄与する元素として、有用である。このような効果を有効に発揮させるためには、0.1%以上含有することが好ましい。しかしながら、1.0%を超えて含有すると、上述の効果が飽和する場合がある。また、経済的に不利になる場合がある。従って、Niを含有する場合、1.0%以下が好ましい。
B:0.0050%以下
Bは、焼入れ性の向上を介して、鋼の強度向上に寄与する元素として、有用である。このような効果を有効に発揮させるためには、0.0005%以上含有することが好ましい。しかしながら、0.0050%を超えて含有すると、母材および溶接部の延性が低下する場合がある。従って、Bを含有する場合、0.0050%以下が好ましい。
REM:0.02%以下、Ca:0.005%以下、Mg:0.005%以下より選ばれる1種または2種以上
REM、Ca、Mgは、鋼中硫化物の形態を粒状に制御することによって、局部延性を向上する元素として、有用である。よって、必要に応じて添加してもよい。このような効果を有効に発揮させるためには、それぞれREM:0.0050%以上、Ca:0.0005%以上、Mg:0.0005%以上含有することが好ましい。しかしながら、過度に添加しても上述の効果が飽和する場合がある。また、経済的に不利になる場合がある。従って、含有する場合、それぞれREM:0.02%以下、Ca:0.005%以下、Mg:0.005%以下が好ましい。
Sn:0.2%以下、Sb:0.2%以下より選ばれる1種または2種
Sn、Sbは、鋼板表面の酸化により生じる脱炭層生成の抑制を介して、鋼板表層での残留オーステナイトおよびマルテンサイトの減少を防止する元素として、有用である。よって、必要に応じて添加してもよい。このような効果を有効に発揮させるためには、それぞれSn:0.01%以上、Sb:0.01%以上含有することが好ましい。しかしながら、含有量が0.2%を超えると靭性が劣化する場合がある。従って、含有する場合は、それぞれSn:0.2%以下、Sb:0.2%以下が好ましい。
以上、基本の成分組成の適正範囲について説明した。しかしながら、本発明の目的とする効果を得るためには成分組成を管理するだけでは不十分であり、Tiの存在状態を適正範囲に制御することが重要である。また、鋼板の組織等を適正範囲に制御することも重要である。以下に、Tiの存在状態および鋼板の組織等について説明する。
本発明の高強度鋼板の重要な要件である、鋼板組織中のTiの存在状態について説明する。
鋼板組織中に長径が5nm以上100nm以下である、TiCとTiCを含む複合析出物の合計が1mm当たり2×10個以上を有し、かつ、鋼板組織中に長径が250nm以上である、Tiを含む炭化物、窒化物、酸化物およびこれらを含む複合析出物の合計が1mm当たり8×10個以下を有する
本発明は、後述する焼鈍工程で、Ti析出物により組織が微細化され、鋼板の穴拡げ性が向上する。これとともに、焼鈍後の鋼板の組織中のTiが微細な炭化物として存在すると、延性の低下を極力抑制したまま引張強さを格段に向上することができる。これらの効果を得るためには、焼鈍後の鋼板の組織中に、長径が5nm以上100nm以下のTiCと長径が5nm以上100nm以下のTiCを含む複合析出物が、合計で、1mm当たり2×10個以上を有する必要がある。好ましくは3×10個以上とする。
なお、上述の析出物の形態、すなわちTiCとTiCを含む複合析出物は、TiCの単独、またはTiCと他の析出物との複合析出物が主であるが、複合析出物にTi酸化物またはTi窒化物が混入しても、それらの影響は無視できる。
一方、焼鈍後の鋼板の組織中に、長径が250nm以上の、Tiを含む炭化物、窒化物、酸化物およびこれらを含む複合析出物のいずれか一つ以上が存在すると、破壊の起点となり、延性を低下させる。なお、Tiを含む炭化物、窒化物、酸化物とは、Tiを含む炭化物、Tiを含む窒化物、Tiを含む酸化物をいい、これらを含む複合析出物とは、Tiを含む炭化物、Tiを含む窒化物、Tiを含む酸化物のいずれか一つ以上を含む複合析出物をいう。従って、焼鈍後の鋼板の組織中に、長径が250nm以上の、Tiを含む炭化物、窒化物、酸化物およびこれらを含む複合析出物が、合計で、1mm当たり8×10個以下とする必要がある。好ましくは、6×10個以下とする。なお、上述のTiを含む析出物の個数密度および長径は、後述する実施例に記載の方法にて測定することができる。
続いて、本発明の高強度鋼板の重要な要件である、鋼板の組織等について説明する。なお、以下の面積率は、鋼板組織全体に対する面積率とする。
フェライトとベイナイトの合計の面積率:30%以上70%以下
フェライト、セメンタイトとフェライトから構成されるベイナイトは、マルテンサイトよりも軟質であり、伸びおよび曲げ性に寄与する。本発明の目的とする所望の伸びおよび曲げ性を得るためには、鋼板組織全体に対する面積率で、フェライトとベイナイトの合計の面積率を30%以上にする必要がある。なお、本発明におけるフェライトとは、組織中にセメンタイトを含まないポリゴナルフェライトおよび/またはベイニティックフェライトを意味する。フェライトとベイナイトの合計の面積率が30%に満たない場合、硬質なマルテンサイトの面積率が増加し、過度に高強度化して、所望の延性が得られなくなる。一方で、フェライトとベイナイトの合計の面積率が70%を超えると、1180MPa以上の引張強さの確保が困難となる。また、延性に寄与する残留オーステナイトを所定量確保することが困難となる。従って、フェライトとベイナイトの合計の面積率は30%以上70%以下とする。好ましくは35%以上とする。好ましくは65%以下とする。なお、フェライト、ベイナイトの面積率は、後述する実施例に記載の方法にて測定することができる。
残留オーステナイトの面積率:15%以上
残留オーステナイトは歪誘起変態、すなわち材料が変形する場合に歪を受けた部分がマルテンサイトに変態することで変形部が硬質化し、歪の集中を防ぐことにより均一伸びを向上させる効果がある。この高い均一伸びを得るには、15%以上の残留オーステナイトを含有させることが必要である。従って、残留オーステナイトの面積率は15%以上とする。好ましくは16%以上とする。なお、残留オーステナイトの面積率の上限については特に規定しない。しかし、残留オーステナイトはC濃度が高く硬質なため、鋼板中に35%を超えて過度に存在すると局所的に硬質な部分が存在することとなり、優れた伸び(全伸び)および曲げ性を確保することが困難となる場合がある。よって、残留オーステナイトの面積率は、35%以下が好ましい。より好ましくは33%以下とする。なお、残留オーステナイトの面積率は、後述する実施例に記載の方法にて測定することができる。
残留オーステナイトの平均円相当直径:3.0μm以下
残留オーステナイトが偏在すると、引張応力の負荷時、残留オーステナイトと異相との界面に局所的な歪集中が起こる。これにより、早期に歪誘起変態が生じ、均一伸びが低下する。局所的な歪集中を抑制し、高い均一伸びを得るためには、残留オーステナイトの平均円相当直径を3.0μm以下とする。好ましくは2.7μm以下とする。なお、残留オーステナイトの平均円相当直径は、後述する実施例に記載の方法にて測定することができる。
マルテンサイトの面積率:5%以上35%以下
転位密度が高く硬質なマルテンサイトは、転位密度の低い焼き戻された軟質なマルテンサイト(以下、焼戻しマルテンサイトと称す。)とは明確に区別される。硬質なマルテンサイトは強度に大きく寄与する。本発明では、1180MPa以上の引張強さを確保するために、マルテンサイトの面積率は5%以上とする。一方、マルテンサイトの面積率が過度に多い場合には過度に高強度化し、伸びが低下する。このため、マルテンサイトの面積率は35%以下にする。従って、マルテンサイトの面積率は5%以上35%以下とする。マルテンサイトを組織全体に対する面積率で5%以上35%以下の範囲内で含有する組織とすることで、本発明の目的とする良好な伸びが得られる。好ましくは10%以上とする。好ましくは30%以下とする。なお、マルテンサイトの面積率は、後述する実施例に記載の方法にて測定することができる。
ここで、本発明において、フェライト、ベイナイト、マルテンサイト、残留オーステナイト以外の組織は、パーライト、セメンタイト、焼戻しマルテンサイトなどであってよい。ただし、本発明の効果を損なわない範囲においては、パーライト、セメンタイトの合計を面積率で5%未満、焼戻しマルテンサイトを面積率で5%以下有していてもよい。
次に、本発明の高強度鋼板の製造方法について説明する。なお、本発明に係る鋼板は、板厚0.4mm以上4.0mm以下の冷延鋼板に好適である。
本発明の高強度鋼板は、上記した成分組成を有する鋼素材を、Tsを後述する式(1)で示す温度とするとき、(Ts−180)℃以上(Ts+20)℃以下の温度域に加熱し、仕上圧延終了温度:850℃以上の熱間圧延を施した後、300℃以上600℃以下の温度域まで平均冷却速度300℃/min.以上2400℃/min.以下で冷却し、300℃以上600℃以下の温度域で巻取り、次いで、冷間圧延を施した後、700℃以上900℃以下の温度域に加熱し、その後200℃以上450℃以下の温度域まで平均冷却速度300℃/min.以上2400℃/min.以下で冷却し、200℃以上450℃以下の温度域で1min.以上20min.以下保持する最終焼鈍を行うことで得られる。さらに、最終焼鈍の前に、加熱温度650℃以下の箱焼鈍を行うことができる。また、最終焼鈍の後に、亜鉛系めっき処理を施すことができる。また、亜鉛系めっき処理後に、合金化処理温度450〜600℃で合金化処理を行うことができる。
以下、詳細に説明する。なお、説明において、温度に関する「℃」表示は、鋼板の表面温度を意味するものとする。
本発明に係る鋼板は、上記した成分組成の溶鋼を、転炉、電気炉等、公知の溶製方法で溶製することができる。また、真空脱ガス炉にて2次精錬を行ってもよい。その後、連続鋳造法または造塊−分塊圧延法等、公知の鋳造方法により、所定寸法のスラブ等の鋼素材とすることが好ましい。
鋳造後スラブ:得られた鋼素材を、室温まで冷却することなく、または、室温まで冷却した後に、Tsを式(1)で示される温度とするとき、(Ts−180)℃以上(Ts+20)℃以下の温度域に再加熱
Ts(℃)=7000/{2.75−log10([%Ti]×[%C])}−273 (1)
ここで、[%Ti]、[%C]は、それぞれ鋼中のTiおよびCの含有量(質量%)を示す。
再加熱温度が(Ts−180)℃未満では、鋳造時に生成した粗大なTi系晶出物が十分に固溶せず、焼鈍後まで残存し、強度低下を招く。これだけでなく、破壊の起点となり、延性が低下する。一方、再加熱温度が(Ts+20)℃を超えると、加熱のための燃料費の増加を招く。これとともに、スケールオフ増大により歩留まりが低下するため、経済的に不利となる。さらに、加熱後の冷却過程で生成したTi系炭化物が高温で長時間滞留するため、オストワルド成長により粗大化し、強度低下を招く。これだけでなく、破壊の起点となり、延性が低下する。従って、再加熱温度は、(Ts−180)℃以上(Ts+20)℃以下とする。好ましくは、(Ts−160)℃以上とする。好ましくはTs℃以下とする。
熱間圧延:粗圧延後、仕上圧延での仕上圧延終了温度を850℃以上とする
仕上圧延終了温度が850℃未満になると、圧延能率が低下する。これだけでなく、圧延荷重が増大し、圧延機への負荷が大きくなる。従って、仕上圧延終了温度を850℃以上とする。
仕上圧延終了後、300℃以上600℃以下の温度域まで平均冷却速度300℃/min.以上2400℃/min.以下で冷却
熱間圧延後の平均冷却速度が300℃/min.未満では、高温で長時間滞留するため、Ti系炭化物がオストワルド成長により粗大化して強度低下を招く。これだけでなく、破壊の起点となり、延性が低下する。一方、平均冷却速度が2400℃/min.を超えると、鋼板形状の確保が困難になる。従って、熱間圧延後の平均冷却速度は300℃/min.以上2400℃/min.以下とする。好ましくは500℃/min.以上とする。好ましくは2000℃/min.以下とする。なお、ここでの平均冷却速度とは、仕上圧延終了後、300℃以上600℃以下の温度域までの冷却速度の平均である。
巻取温度300℃以上600℃以下で巻取り
熱延鋼板の巻取り温度が600℃を超えると、巻取り中にTi系炭化物が過度に粗大化するため、脆化し、破壊の起点となる。一方、熱延鋼板の巻取り温度が300℃未満では、その後の冷間圧延荷重が増大し、圧延機への負荷が大きくなる。従って、300℃以上600℃以下の温度域で巻取を行う。好ましくは350℃以上とする。好ましくは550℃以下とする。
巻取り後、酸洗(好適条件)
以上により得られた熱延鋼板に対して、酸洗を行う。酸洗の方法は特に限定しない。塩酸酸洗や硫酸酸洗が挙げられる。酸洗によって、鋼板表面のスケールが除去される。また、亜鉛系めっき処理を行った場合のめっき密着性が良好となる。
酸洗後、冷間圧延
酸洗後、得られた熱延鋼板に対して、冷間圧延を行う。冷間圧延の条件は特に規定しない。なお、後述する焼鈍工程後に鋼板の強度を確保するためには、総圧下率を10%以上とすることが好ましい。一方、圧延機への過度の負荷を掛けないためには、総圧下率を70%以下とすることが好ましい。
冷間圧延後、700℃以上900℃以下の温度域に加熱し、その後、200℃以上450℃以下の温度域まで平均冷却速度300℃/min.以上2400℃/min.以下で冷却した後、200℃以上450℃以下の温度域で1min.以上20min.以下保持する最終焼鈍
加熱温度:700℃以上900℃以下の温度域
最終の焼鈍工程での加熱温度が700℃未満であると、オーステナイトの逆変態が不十分となる。これにより、その後の冷却時に生成する硬質なマルテンサイトまたはベイナイトの量が不十分となり、本発明の目的とする所定の強度が得られない。一方、加熱温度が900℃を超えると、熱処理中のオーステナイトの面積率が増加し、冷却保持後の鋼板のフェライトの面積率が少なく、マルテンサイトの面積率が大きくなる。これにより、本発明の目的とする所定のミクロ組織が得られず、強度と延性のバランスが劣る。従って、加熱温度は700℃以上900℃以下の温度域とする。好ましくは720℃以上とする。好ましくは880℃以下とする。
なお、上述の加熱温度での保持時間は特に規定しないが、均一な温度分布と安定したミクロ組織を確保するためには、0.5min.以上保持することが好ましい。一方、長時間の保持は、製造能率の低下を招くうえ、オーステナイト粒の粗大化を招くため、10min.以下が好ましい。
200℃以上450℃以下の温度域まで平均冷却速度300℃/min.以上2400℃/min.以下で冷却
最終の焼鈍工程での再加熱後の平均冷却速度が300℃/min.未満であると、冷却の途中に粗大なフェライトやパーライトが生成し、鋼板の強度が低下する。一方、平均冷却速度が2400℃/min.を超えると、鋼板形状の確保が困難になる。また、加速冷却を200℃未満まで実施するには、鋼板の搬送速度を極端に低下させる必要があるため、製造能率が低くなる。一方、450℃を超える温度で冷却を停止すると、フェライトなどの軟質の組織が過度に生成し、強度が不足する。従って、200℃以上450℃以下の温度域までの平均冷却速度は、300℃/min.以上2400℃/min.以下とする。好ましくは500℃/min.以上とする。好ましくは2000℃/min.以下とする。なお、ここでの平均冷却速度とは、700℃以上900℃以下の温度域(加熱温度)から、200℃以上450℃以下の温度域までの冷却速度の平均である。
200℃以上450℃以下の温度域で1min.以上20min.以下保持
加速冷却後の保持時間が1min.未満であると、鋼板内の温度および材質の均一性が低下する。一方、保持時間が20min.を超えると、製造能率が低下する。従って、保持時間は1min.以上20min.以下とする。好ましくは、2min.以上とする。好ましくは15min.以下とする。
ここで、本発明の焼鈍工程は、最終の焼鈍が上述の条件であれば、2回以上繰り返して実施してもよい。なお、4回以上の繰返しは、製造コストの増大を招くため好ましくない。
最終焼鈍の前に、加熱温度650℃以下の箱焼鈍(好適要件)
最終焼鈍の前に、加熱温度650℃以下の箱焼鈍を行うことができる。なお、本発明では、焼鈍を2回以上繰り返して実施する場合、最終焼鈍とそれ以外の焼鈍との間で、箱焼鈍を行ってもよい。加熱温度650℃以下の箱焼鈍を行うことは、TiCまたはTiCを含む複合析出物の、析出量およびサイズを制御することに有効であり、引張強さ向上に有効である。このため、必要に応じて実施することができる。しかしながら、加熱温度が650℃を超えると析出物が粗大化し、引張強さおよび延性の低下を招く。このため、加熱温度は650℃以下とする。なお、上述の作用を得るためには、箱焼鈍の加熱温度の下限は150℃以上が好ましい。より好ましくは、200℃以上とする。
なお、加熱温度650℃以下での保持時間は特に規定しないが、均一な温度分布と安定したミクロ組織を確保するには、1min.以上保持することが好ましい。一方、長時間の保持は、製造能率の低下を招く。また、オーステナイト粒の粗大化を招く。よって、保持時間は60min.以下が好ましい。
以上により、本発明の高強度鋼板が製造される。得られた高強度鋼板は、亜鉛系めっき処理やめっき浴の組成によって材質に影響をおよぼされずに、本発明の効果は得られる。このため、亜鉛系めっき処理として、溶融亜鉛めっき処理、合金化溶融亜鉛めっき処理、電気亜鉛めっき処理のいずれも施すことができる。例えば、亜鉛めっき鋼板、合金化亜鉛めっき鋼板、亜鉛−アルミニウムめっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−マグネシウムめっき鋼板、亜鉛−マグネシウムめっき鋼板、亜鉛−ニッケルめっき鋼板とすることができる。
亜鉛系めっき処理(好適要件)
焼鈍後、さらに、鋼板の表面に亜鉛系めっき皮膜を形成する亜鉛系めっき処理を行うことができる。なお、めっき処理の方法は常法に従えばよい。例えば、亜鉛系めっき鋼板を製造する場合は、焼鈍後、連続的に連続式溶融亜鉛めっきラインまたは連続式電気亜鉛系めっきラインで亜鉛系めっき処理を行うことが可能である。
亜鉛系めっき処理後、合金化処理温度450〜600℃で合金化処理(好適要件)
亜鉛系めっき処理後、450〜600℃まで再加熱をおこない、再加熱温度で所定時間保持することで合金化めっき鋼板とすることができる。再加熱温度が450℃未満では、合金化が不十分である。一方、600℃超えでは溶融亜鉛の蒸発が多くなるためコストの上昇を招く場合がある。よって、合金化処理温度は450〜600℃が好ましい。なお、合金化処理温度での保持時間は特に限定されないが、保持時間が1s未満では合金化が不十分である。よって、保持時間の下限は1s以上が好ましく、より好ましくは2秒以上である。保持時間の上限は40秒以下が好ましく、より好ましくは30秒である。
以下、本発明の高強度鋼板およびその製造方法の作用・効果について、実施例を用いて説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
通常公知の手法、転炉−取鍋精錬−連続鋳造法で、表1に示す成分組成を有する鋼スラブを製造した。これらの鋼スラブを、表2に示す製造条件で、熱間圧延、冷却、巻取りを行い、板厚2.0〜4.0mmの熱延鋼板とした。その後、表2、3に示す条件で、冷間圧延、焼鈍を行い、板厚1.2〜2.6mmの冷延鋼板を得た。
Figure 0006524977
Figure 0006524977
Figure 0006524977
上記のようにして得た冷延鋼板について、以下に示す、鋼板の構成組織の定量評価、引張試験を行った。得られた結果を表4に示す。
鋼板の組織全体に占める各相の面積率
鋼板の組織全体に占める各相の面積率は、圧延方向断面かつ板厚1/4位置の面を光学顕微鏡で観察することにより求めた。倍率1000倍の断面組織写真を用いて、画像解析により、任意に設定した100μm×100μm四方の正方形領域内に存在する各組織の占有面積を求め、平均値を算出し、これを面積率とした。なお、観察はN=5(観察視野5箇所)で実施した。また、組織観察に際しては、3vol.%ピクラールと3vol.%ピロ亜硫酸ソーダの混合液でエッチングした。
フェライトとベイナイトの合計の面積率
フェライト、ベイニティックフェライトは、塊状な形状として観察される黒色領域をフェライト(ポリゴナルフェライト)またはベイナイトであるとして、フェライトとベイナイトの合計の面積率を求めた。
残留オーステナイトの面積率
残留オーステナイトの面積率は、CoのKα線を用いてX線回折法により求めた。すなわち、鋼板の板厚1/4付近の面を測定面とする試験片を使用し、オーステナイトの(211)面および(220)面と、フェライトの(200)面と(220)面のピーク強度比から残留オーステナイトの体積率を算出し、3次元的に均質であることから、これを残留オーステナイトの面積率とした。
マルテンサイトの面積率
上述したフェライト(ポリゴナルフェライト)またはベイナイト以外の残部領域のうち、比較的平滑な表面を有し塊状な形状として観察される白色領域を、マルテンサイトと残留オーステナイトであるとして、マルテンサイトと残留オーステナイトの合計の面積率を求めた。そして、マルテンサイトと残留オーステナイトの面積率の合計から、上記した測定方法により求めた残留オーステナイトの面積率を差し引くことにより、マルテンサイトの面積率を求めた。
残留オーステナイトの平均円相当直径
残留オーステナイトの結晶粒径、すなわち残留オーステナイトの平均円相当直径は、まず透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて10視野観察し、得られた組織画像に対して画像解析ソフトImage−Proを用いて、個々の残留オーステナイトの面積を測定した。そして、個々の残留オーステナイトの面積から円相当直径を算出し、それらの平均値を求め、残留オーステナイトの平均円相当直径とした。
析出物の個数密度および析出物の長径
析出物の個数密度および析出物の長径の調査は、各鋼板の板厚1/4位置における圧延方向に平行な断面について、電解エッチングした後の透過型電子顕微鏡(TEM)にて20000倍の撮影を10視野行った。視野内の析出物をエネルギー分散型X線分光分析(EDS)にて分析し、個々の析出物の長径を測定した。その上で、1mm当たりの析出物の個数を調べて、析出物の個数密度を求めた。
機械特性
機械特性(引張強さTS、伸びEl)は、圧延方向に対して直角方向を長手方向(引張方向)とするJIS5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241(2011)に準拠した引張試験を行って評価した。引張強さおよび伸びを測定した。
以上により得られた結果を、表4に示す。
Figure 0006524977
本発明例の鋼板は、引張強さが1180MPa以上、かつ伸びが15%以上であり、延性に優れる高強度鋼板であることがわかる。これに対して、本発明の範囲を外れる比較例の鋼板は、実施例からも明らかなように、引張強さおよび/または伸びが目標性能を満足できない。

Claims (11)

  1. 成分組成は、質量%で、C:0.20%以上0.45%未満、Si:0.50%以上2.50%以下、Mn:1.5%以上4.0%以下、P:0.050%以下、S:0.0050%以下、Al:0.01%以上0.10%以下、Ti:0.020%以上0.150%以下、N:0.0005%以上0.0070%以下、O:0.0050%以下を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、
    組織は、面積率で、
    フェライトとベイナイトの合計が30%以上70%以下、残留オーステナイトが15%以上、およびマルテンサイトが5%以上35%以下であり、かつ、前記残留オーステナイトの平均円相当直径が3.0μm以下であり、
    組織中に、長径が5nm以上100nm以下である、TiCとTiCを含む複合析出物の合計が1mm当たり2×10個以上を有し、かつ、長径が250nm以上である、Tiを含む炭化物、窒化物、酸化物およびこれらを含む複合析出物の合計が1mm当たり8×10個以下を有することを特徴とする高強度鋼板。
  2. 前記成分組成に加えて、質量%で、Cr:0.01%以上1.0%以下、Mo:0.01%以上1.0%以下、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下、B:0.0050%以下より選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度鋼板。
  3. 前記成分組成に加えて、質量%で、REM:0.02%以下、Ca:0.005%以下、Mg:0.005%以下より選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高強度鋼板。
  4. 前記成分組成に加えて、質量%で、Sn:0.2%以下、Sb:0.2%以下より選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高強度鋼板。
  5. 鋼板表面に亜鉛系めっき皮膜を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の高強度鋼板。
  6. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の高強度鋼板の製造方法であって、
    前記成分組成を有する鋼素材を、Tsを式(1)で示す温度とするとき、(Ts−180)℃以上(Ts+20)℃以下の温度域に加熱し、仕上圧延終了温度:850℃以上の熱間圧延を施した後、300℃以上600℃以下の温度域まで平均冷却速度300℃/min.以上2400℃/min.以下で冷却し、300℃以上600℃以下の温度域で巻取り、
    次いで、冷間圧延を施した後、700℃以上900℃以下の温度域に加熱し、700℃以上900℃以下の温度域で0.5min.以上10min.以下保持し、その後200℃以上450℃以下の温度域まで平均冷却速度300℃/min.以上2400℃/min.以下で冷却し、200℃以上450℃以下の温度域で1min.以上20min.以下保持する最終焼鈍を行うことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
    Ts(℃)=7000/{2.75−log10([%Ti]×[%C])}−273 (1)
    ここで、[%Ti]、[%C]は、それぞれ鋼中のTiおよびCの含有量(質量%)を示す。
  7. 前記最終焼鈍の前に、加熱温度650℃以下の箱焼鈍を行うことを特徴とする請求項6に記載の高強度鋼板の製造方法。
  8. 請求項5に記載の高強度鋼板の製造方法であって、
    前記成分組成を有する鋼素材を、Tsを式(1)で示す温度とするとき、(Ts−180)℃以上(Ts+20)℃以下の温度域に加熱し、仕上圧延終了温度:850℃以上の熱間圧延を施した後、300℃以上600℃以下の温度域まで平均冷却速度300℃/min.以上2400℃/min.以下で冷却し、300℃以上600℃以下の温度域で巻取り、
    次いで、冷間圧延を施した後、700℃以上900℃以下の温度域に加熱し、700℃以上900℃以下の温度域で0.5min.以上10min.以下保持し、その後200℃以上450℃以下の温度域まで平均冷却速度300℃/min.以上2400℃/min.以下で冷却し、200℃以上450℃以下の温度域で1min.以上20min.以下保持する最終焼鈍を行い、
    前記最終焼鈍の後に、亜鉛系めっき処理を施すことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
    Ts(℃)=7000/{2.75−log 10 ([%Ti]×[%C])}−273 (1)
    ここで、[%Ti]、[%C]は、それぞれ鋼中のTiおよびCの含有量(質量%)を示す。
  9. 前記最終焼鈍の前に、加熱温度650℃以下の箱焼鈍を行うことを特徴とする請求項8に記載の高強度鋼板の製造方法。
  10. 前記亜鉛系めっき処理は、溶融亜鉛めっき処理、電気亜鉛めっき処理のいずれかであることを特徴とする請求項8または9に記載の高強度鋼板の製造方法。
  11. さらに、前記亜鉛系めっき処理後、合金化処理温度450〜600℃で合金化処理を行うことを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の高強度鋼板の製造方法。
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