JP6522512B2 - 多焦点眼科用レンズ - Google Patents

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Description

本発明は、多焦点眼科用レンズ及び多焦点眼科用レンズを決定するための方法に関する。
視力矯正のために眼鏡を装着する人(装着者)は、正又は負の屈折力矯正を処方される。老眼の装着者(すなわち、対象物が近いほどそれに焦点を合わせる能力が低くなる人)の場合、屈折力矯正の値は、遠方視と近方視により異なる。
老眼装着者に適する眼科用レンズは、遠方視領域(「FV領域」)と近方視領域(「NV領域」)間で階段状に変化する種々の屈折値の領域を有する多焦点レンズ(たとえば、二焦点、三焦点)、又は屈折率がFV領域とNV領域間で累進的に変化する多焦点表面(累進的)として滑らかに移行する種々の屈折値の領域を有する多焦点レンズである。
したがって、処方は、遠方視度数値及び遠方視と近方視間のジオプトリー度数の増分を表す加入度(「Add」)を含んでいる。加入度数Addは、FV領域とNV領域間の屈折力の差を示す。したがって、個々の装着者のための処方は、FV領域の遠方視度数及び遠方視と近方視間のジオプトリー度数の増分を表すAddを含んでいる。
処方は、乱視の矯正も包含することができる。装着者の乱視からもたらされる視覚低下は、たとえば、角膜の円環状湾曲のために、装着者の眼の光学系が点物体を網膜上の鮮明な焦点像に集束できないことによるものである。網膜上に像を形成する光線の非点収差は、多焦点レンズにより引き起こされる収差に起因する場合もある。
たとえば、在来の累進多焦点レンズでは、湾曲は、レンズ表面の少なくとも1つの各領域に応じて変化する。非点収差の収差、すなわち望ましくない非点収差は、湾曲の差がx方向(眼鏡が装着されているときに水平の方向)及びy方向(x方向に垂直なレンズ沿いの方向)間にFV領域からNV領域にわたって生ずるために引き起こされる。
非点収差を処方されない装着者は、レンズに現れる非点収差が1.0ジオプター以下、好ましくは0.5ジオプター以下である場合、像の著しい減衰を感ずることなく明視を得ることができる。したがって、累進多焦点レンズでは、1.0ジオプター以下、好ましくは0.5ジオプター以下の非点収差を有する比較的広い明視域がFV領域(ここでは眼の運動の範囲が広い)に配置される。
眼科処方は、乱視矯正処方を含むことがある。かかる処方は、軸値(度単位)及び振幅値(ジオプター単位)により形成される1対の値の形式で眼科医により作成される。本出願においては「モジュラス」とも呼ばれる振幅値は、所与の方向における最小度数と最大度数の差を表す。平均度数(処方における平均球面SMに対する)は、最低度数と最高度数の算術平均である。
本発明は、眼鏡装着者の眼から物体を見るための多焦点眼科用レンズに関し、このレンズは、
屈折力を有する遠方視(「FV」)領域と、
FV領域の屈折力とは異なる屈折力を有する近方視(「NV」)領域を含み、前記NV領域の屈折力から前記FV領域の屈折力を差し引くことにより得られる値を加入度数Addとした場合に、物体側の表面(「前面」)の前記FV領域の平均表面度数D11と前面のNV領域の平均表面度数D12、及び眼側の表面(「後面」)のFV領域の平均表面度数D21と「後面」の前記NV領域の平均表面度数D22が関係式D21−D22=Add−(D12−D11)を満たし、
前記平均表面度数D11と前記平均表面度数D12が関係式D12−D11>Addを満たし、
前記前面がモジュラスで0.25Dより大きい円柱値を有する円環状構成要素を有し、
前記前面が変曲点及び/又はプラトーを有することを特徴とする。
単独又は組み合わせとして考慮することができるさらなるいくつかの実施形態によると、
− この多焦点レンズは、前記FV領域とNV領域間において屈折力が累進的に変化する累進領域を有し;及び/又は
− D12−D11=4.0Dであり;及び/又は
− 前面が非回転式に対称であり;及び/又は
− 前面が対称軸を有し;及び/又は
− 前記前面上の円環状構成要素が装着者の処方非点収差補正の少なくとも一部に同等であり;及び/又は
− 前記前面上の円環状構成要素が装着者の処方非点収差補正を完全に与え;及び/又は
− 後面が変曲点及び/又はプラトーを有する累進表面である。
本発明は、さらに、眼鏡装着者の眼から物体を見るための多焦点眼科用レンズであって、屈折力を有する遠方視(「FV」)領域と、FV領域の屈折力とは異なる屈折力を有する近方視(「NV」)領域を含む多焦点眼科用レンズを決定する方法に関し、前記NV領域の屈折力から前記FV領域の屈折力を差し引くことにより得られる値を加入度数Addとした場合に、物体側の表面(「前面」)の前記FV領域の平均表面度数D11と前面のNV領域の平均表面度数D12、及び眼側の表面(「後面」)の前記FV領域の平均表面度数D21と後面のNV領域の平均表面度数D22が関係式D21−D22=Add−(D12−D11)を満たし、この方法は、以下のステップ:
関係式、D12−D11>Addを満たすように平均表面度数D11及び平均表面度数D12を決定するステップと、
モジュラスで0.25Dより大きい円柱値を有する前面上の円環状構成要素を決定するステップと、
前面上の変曲点及び/又はプラトーを決定するステップと
を含む。
本発明は、プロセッサにアクセス可能であり、プロセッサにより実行されたときに本発明による方法のステップをプロセッサに実行させる1つ以上の蓄積命令シーケンスを含むコンピュータ・プログラム製品にも関する。
本発明は、さらに、本発明のコンピュータ・プログラム製品の1つ以上の命令シーケンスルを実行するコンピュータ可読媒体に関する。
本発明は、本発明の方法に従って決定されるレンズの第1表面に関するデータを含む一連のデータにも関する。
本発明は、さらに、累進眼科用レンズの製造するための方法であって、以下のステップ:
装着者の眼に関するデータを与えるステップと、
装着者に関するデータを転送するステップと、
本発明の方法に従ってレンズの第1表面を決定するステップと、
第1表面に関するデータを転送するステップと、
転送された第1表面に関するデータに基づいてレンズの光学的最適化を行うステップと、
光学的最適化の結果を転送するステップと、
光学的最適化の結果に従って累進眼科用レンズを製造するステップと
を含む方法にも関する。
本発明は、累進眼科用レンズを製造するための一連の装置にも関する。この場合、それらの装置は、本発明による方法のステップを実行するように適合される。
本発明の特徴及び長所は、以下に列挙する添付図面を参照しつつ非限定的実施例を示す本発明の実施形態に関する以下の説明から明らかとなるであろう。
図1は、累進多焦点レンズの概略構造を示しており、概略構造を示す正面である。 図2は、累進多焦点レンズの概略構造を示しており、主視線沿いの断面図である。 図3は、レンズ(全処方:SPH +2、CYL +2、AXIS 45°、ADD=2.5;前面:ADD=4)の前面について、平均球面値、最小球面値及び最大球面値の基準点x=0、y=+8mmにおける球面値からの主要メリディアン沿いの偏差の屈折能特性を示す。 図4は、図3に示したレンズについて、レンズの前部レンズ表面全体に関する、平均球面値の基準点x=0、y=+8mmにおける球面値からの偏差の前面平均球面マップを示す。 図5は、図3に示したレンズの前面柱状マップを示す。 図6は、図3〜5に示したレンズの後面について、平均球面値、最小球面値及び最大球面値の基準点x=0、y=+8mmにおける球面値からの主要メリディアン沿いの偏差の後面屈折能特性を示す。 図7は、図6に示したレンズについて、レンズの後部レンズ表面全体に関する、平均球面値の基準点x=0、y=+8mmにおける球面値からの偏差の後面平均球面マップを示す。 図8は、図6に示したレンズの後面柱状マップを示す。 図9は、図3〜8に示したレンズの望ましくない非点収差(すなわち、前面と後面の組み合わせ)のマップを示す。 図10は、レンズ(全処方:SPH +2、CYL +2、AXIS 45°、ADD=2.5;前面:ADD=4、CYL +2、AXIS 45°)の前面について、平均球面値、最小球面値及び最大球面値の基準点x=0、y=+8mmにおける球面値からの主要メリディアン沿いの偏差の前面屈折能特性を示す。 図11は、図10に示したレンズについて、レンズの前部レンズ表面全体に関する、平均球面値の基準点x=0、y=+8mmにおける球面値からの偏差の前面平均球面マップを示す。 図12は、図10に示したレンズの前面柱状マップを示す。 図13は、図10〜12に示したレンズの後面について、平均球面値、最小球面値及び最大球面値の基準点x=0、y=+8mmにおける球面値からの主要メリディアン沿いの偏差の後面屈折能特性を示す。 図14は、図13に示したレンズについて、レンズの後部レンズ表面全体に関する、平均球面値の基準点x=0、y=+8mmにおける球面値からの偏差の後面平均球面マップを示す。 図15は、図13に示したレンズの後面柱状マップを示す。 図16は、図10〜15に示したレンズの望ましくない非点収差(すなわち、前面と後面の組み合わせ)のマップを示す。 図17は、レンズ(全処方:SPH −2、ADD=2.5;前面:ADD=4)の前面について、平均球面値、最小球面値及び最大球面値の基準点x=0、y=+8mmにおける球面値からの主要メリディアン沿いの偏差の表面屈折能特性を示す。 図18は、図17に示したレンズについて、レンズの前部レンズ表面全体に関する、平均球面値の基準点x=0、y=+8mmにおける球面値からの偏差の前面平均球面マップを示す。 図19は、図17に示したレンズの前面柱状マップを示す。 図20は、図17〜19に示したレンズの後面について、平均球面値、最小球面値及び最大球面値の基準点x=0、y=+8mmにおける球面値からの主要メリディアン沿いの偏差の後面屈折能特性を示す。 図21は、図20に示したレンズについて、レンズの後部レンズ表面全体に関する、平均球面値の基準点x=0、y=+8mmにおける球面値からの偏差の後面平均球面マップを示す。 図22は、図20に示したレンズの後面柱状マップを示す。 図23は、図17〜22に示したレンズの望ましくない非点収差(すなわち、前面と後面の組み合わせ)のマップを示す。 図24は、レンズ(全処方:SPH −2、ADD=2.5;前面:ADD=4、CYL +2、AXIS 90°)の前面について、平均球面値、最小球面値及び最大球面値の基準点x=0、y=+8mmにおける球面値からの主要メリディアン沿いの偏差の表面屈折能特性を示す。 図25は、図24に示したレンズについて、レンズの前部レンズ表面全体に関する、平均球面値の基準点x=0、y=+8mmにおける球面値からの偏差の前面平均球面マップを示す。 図26は、図24に示したレンズの前面柱状マップを示す。 図27は、図24〜26に示したレンズの後面について、平均球面値、最小球面値及び最大球面値の基準点x=0、y=+8mmにおける球面値からの主要メリディアン沿いの偏差の後面屈折能特性を示す。 図28は、図27に示したレンズについて、レンズの後部レンズ表面全体に関する、平均球面値の基準点x=0、y=+8mmにおける球面値からの偏差の後面平均球面マップを示す。 図29は、図27に示したレンズの後面柱状マップを示す。 図30は、図24〜29に示したレンズの望ましくない非点収差(すなわ、前面と後面の組み合わせ)のマップを示す。 図31は、図23と30を重ね合わせた望ましくない非点収差のマップを示す。 図32は、累進眼科用レンズを決定する方法の実施例のフローチャートを示す。 図33は、図33の方法を実現する装置を示す。 図34は、累進眼科用レンズを決定する方法の別の実施例のフローチャートを示す。
本発明の説明においては、表現「前面は、変曲点を有する」は、多焦点眼科用レンズの少なくともメイン・ラインに沿って、多焦点眼科用レンズの前面の平均表面度数が少なくとも1つの変曲点を有することを意味する。変曲点は、その点における接線が曲線自体と交差する曲線上の点として定義される。
メリディアン・ラインとも呼ばれるメイン・ラインは、遠方視制御点、フィッティング・クロス、プリズム基準点及び近視制御点を次々に通過して、レンズの上縁と下縁を結ぶ。
図1及び2は多焦点レンズの例として示した多焦点レンズ10であるが、図1の上部には遠距離の物体を見るための視野領域であるFV領域26、図1の下部には近距離の物体を見るための視野領域であり、FV領域26の屈折力とは異なる屈折力を有するNV領域28が示されている。本発明を説明する例示目的のために、以下の記述は累進多焦点レンズに当てはまる。しかし、当然のことながら本発明はそれに限られない。
累進多焦点レンズ10は、物体側の前面(「FS」)2上及び眼側の後面(「BS」)3上に、それぞれ、累進屈折面5a及び5bを備えている。FV領域26及びNV領域28は、屈折力が連続的に変化する累進領域30により結合されている。図2に示すように、累進多焦点レンズ10は、物体側のFV領域26の平均表面度数がFSFVであり、NV領域28の平均表面度数がFSNVであり、眼側のFV領域26の平均表面度数がBSFVであり、NV領域の平均表面度数がBSNVであり、かつ、FV領域26に対するNV領域28の加入度数Addが以下により定義される多焦点レンズである:
BSFV−BSNV=Add−(FSNV−FSFV) (1)
本発明の1つの態様によると、物体側のFV領域26の平均表面度数FSFVと物体側のNV領域の平均表面度数FSNVの差は、次の式により表現されるように加入度数Addより大きい:
FSNV−FSFV>Add (2)
この特徴は、NV領域における高倍率の利点を与え、たとえば、小さい物体に焦点を合わせて細かい文字を読む装着者を助ける。
本発明の1つの特定の実施形態では、物体側のAddは、4.0Dである。
この改良倍率機能のより詳しい説明は次のとおりである。レンズの倍率SMは、一般的に次の等式により表される。
SM=Mp*Ms (3)
Mpは屈折力係数であり、Msは形状係数である。頂点からの距離Lが眼側のレンズの表面の頂点(内側頂点)から眼までの距離であり、Poがレンズの屈折力(内側頂点屈折力)であり、tがレンズの中心厚さであり、nがレンズの屈折度であり、かつ、Pbが物体側のレンズの表面の屈折力(ベース・カーブ)である場合、これらの値は次のように表される。
Mp=1/(1−L*Po) (4)
Ms=1/(1−(t*Pb)/n) (5)
等式(4)及び(5)の計算において、レンズの屈折力Po及び物体側の表面の屈折力Pbについてジオプター(D)を用い、また、距離L及び厚さtについてメートル(m)を用いる。これらの等式から明らかであるように、多焦点レンズでは、屈折力PoがFV領域とNV領域間で異なるために、FV領域の倍率SM1とNV領域の倍率SM2は、相異なる。装着者により視覚化される像の寸法もこの倍率の差のために異なる。
この例の累進多焦点レンズ10のFV領域26及びNV領域28の倍率は、上述の等式(3)、(4)及び(5)をFV領域26及びNV領域28に適用することにより、それぞれの視野領域の倍率SM1及びSM2を求めた場合、以下のとおりとなる。まず、FV領域26の倍率SM1は、次のように表される:
SM1=Mp1*Ms1 (9)
Mp1はFV領域の屈折力係数であり、Ms1はFV領域の形状係数であり、また、これらの値は、表面度数Pbが物体側の表面2の平均表面度数FSFVとして現れることを考えると、以下のとおりとなる。
Mp1=1/(1−L*Po) (10)
Ms1=1/(1−(t/n)*FSFV) (11)
同じ方法により、NV領域28の倍率SM2は、以下のように表される。
SM2=Mp2*Ms2 (12)
Mp2=1/(1−L*(Po+Add)) (13)
Ms2=1/(1−(t/n)*FSNV) (14)
Mp2はNV領域の屈折力係数であり、Ms2は形状係数であり、表面度数Pbは物体側の表面2の平均表面度数FSNVとして現れ、また、NV領域28の屈折力は加入度数AddをFV領域26の屈折力に加えた値である。
本発明のレンズと在来のレンズ間の以下の比較は、本発明により与えられる改良近方視倍率SM2を証明する。以下のパラメータを在来のレンズに適用する:
頂点からの距離Lは、13.00mm(L=0.0130m)に設定される。
中心厚さは、3.0mm(t=0.0030m)に設定される。
屈折度nは、1.67(n=1.67)に設定される。
レンズの度数Poは、0.0Dである。
Addは、2.50Dである。
FV領域の平均表面度数FSFVは、3.75Dである。
NV領域の平均表面度数FSNVは、3.75+2.50=6.25Dである。
上記の値を用いると、近方視倍率SM2は次のとおりとなる。
SM2=1.045
在来の累進多焦点レンズの別の例は、球形前面を有し、かつ、その処方は、もっぱら後面上で与えられる。このレンズでは、NV領域の平均表面度数FSNVが3.75+0=3.75Dであるから、近方視倍率SM2は次のとおりである。
SM2=1.041
上で述べたとおり、本発明の1つの実施形態は、物体側で4.00DのAddを与える。その結果、NV領域のFSNVが3.75+4.00=7.75Dである場合、近方視倍率SM2は次のとおりとなる。
SM2=1.048
したがって、本発明の1つの実施形態による累進多焦点レンズにより与えられる改良近方視倍率SM2は、一見して明らかである。
本発明の別の態様は、乱視の矯正に関する。具体的には、レンズの前面上に円環状領域を形成することにより一定の長所が得られる。以下の実施例により、これを示す。
実施例1
第1の実施例を図3〜16に示す。装着者のための処方は、SPH +2.0、CYL +2、軸45°、及び2.5のAddである。前面に4.0の表面Addを適用する。図3〜9に、この処方の第1の実装を示す。この場合、乱視矯正全体を与える円環状領域は、後面に形成されている。
図10〜16に、この処方の第2の実装を示す。この場合、乱視矯正全体を与える円環状領域は、前面に形成されている。図9と16の比較から、図16において、図9と対比して、望ましくない非点収差が低減されていることがはっきり分かる。これは、チェルニングの法則によると、前面湾曲(「表面度数」)が光学収差に影響を及ぼすからである。各レンズ度数について、対応する最適表面度数が存在する。よって、処方された乱視について、処方された乱視に対応する(モジュール及び軸において)円環状構成要素を有する前面が、チェルニングの法則による適切な方向の効果を与える(すなわち、最高レンズ度数の方向の最高表面度数)。
実施例2
第2の実施例を図17〜30に示す。装着者のための非乱視処方は、SPH −2.0、及び2.5のAddである。前面に4.0の表面Addを適用する。図17〜23に、この非乱視処方の第1の実装を示す。
図24〜30に、第2の実装を示す。これは、上記非乱視処方にCYL +2及び軸90°の前面上の円環状領域を加えている。
図31は、図23及び30の重ね合わせである。点線は、図23、すなわち円環状構成要素を有さない例を表しているのに対し、実線は、図30、すなわち前面に追加された円環状構成要素を有する例を表している。図31からすぐ分かるように、レンズ上の度数変動及び度数分布のために、全体としてのレンズ度数は種々の方向により異なっている。その結果、レンズの前面全体に適用される円環状構成要素は、光学収差を部分的に補正することができる。
図32は、累進眼科用レンズを決定する方法の実施例のフローチャートを示す。この実施形態では、この方法は、装着者に適する目標光学機能(「TOF」)を選択するステップ40を含んでいる。知られているように、眼科用レンズの光学性能を改善するために、眼科用レンズのパラメータを最適化する方法がこのように用いられる。このような最適化方法は、所定の目標光学機能に可能な限り近い眼科用レンズの光学性能を得るように考案される。
目標光学機能は、当該眼科用レンズのもつべき光学特性を表す。本発明に関して、また、本明細書のこれからの部分においては、表現「レンズの目標光学機能」は、便宜的に使用される。この使用法は、目標光学機能が装着者−眼科用レンズ及びエルゴラマ系にとってのみ意味を有する限りにおいて、厳密には正しくない。実際に、かかるシステムの光学目標機能は、所与の注視方向について定義される一連の光学基準である。これは、1つの注視方向に関する光学基準の評価が光学基準値を与えることを意味する。得られた一連の光学基準値が目標光学的機能である。したがって、目標光学機能は、達成されるべき性能を表す。最も単純な場合には、屈折力又は非点収差などの単一の光学基準のみ存在するであろう。しかし、屈折力と非点収差の組み合わせのおかげで評価することのできる視力低下など、より精緻な基準が使用されることがある。高次の収差を含む光学基準が考えられるであろう。考慮される基準の個数Nは、所望の精度によって決まる。実際に、考慮される基準が多いほど、それにより得られるレンズは装着者のニーズを満たす可能性が高い。しかし、基準の個数Nを増やすことは、計算に要する時間及び解決するべき最適化問題の複雑性の増大をもたらすであろう。考慮する基準の個数Nの選択は、したがって、これらの2つの要件間の得失評価となる。目標光学機能、光学基準定義及び光学基準評価に関する詳細は、欧州特許出願公開第A2207118号明細書に記載されている。
この方法は、レンズの第1非球体表面及びレンズの第2非球体表面を定義するステップ42も含んでいる。たとえば、第1表面は物体側(すなわち前側)表面であり、かつ、第2表面は眼球側(すなわち後側)表面である。各表面は、各点において、平均球面値SPHmean、円柱値CYL及び円柱軸γAXを有する。
この方法は、さらに、レンズの目標光学機能を実現し、かつ、レンズの最適鮮明度を保証するために第2非球体表面を修正するステップ50を含んでいる。第2表面の修正は、現在の光学機能と目標光学機能間の差を目的関数により最小化する光学的最適化により行われる。目的関数は、2つの光学機能間の隔たりを表す数学的数量である。それは、最適化において好まれる光学基準に従って種々の方法により表すことができる。本発明の説明においては、「最適化を実行すること」は、むしろ目的関数を「最小化すること」として理解されるべきである。もちろん、当業者は、本発明が最小化それ自体に限られないことを理解するであろう。最適化は、当業者により考慮される目的関数の表現に従う実関数の最大化とすることもできる。すなわち、実関数の「最大化」は、その正反対の「最小化」と等価である。かかる条件1及び2のとき、得られたレンズ(図10〜16に示したものの1つのような)は、したがって低減された収差を示す一方、目標光学機能、すなわち最適鮮明度の像を装着者に与えるように定義された目標光学機能を保証する。かかる効果は、第1表面の湾曲の値及び方向が変更され、それにより、レンズの倍率に対する影響が変更されて近方視の快適性向上をもたらすということから定性的に理解され得る。言い換えると、第1表面の形状は、装着者の近方視快適性が向上するように選択される。第2表面は、像の鮮明度に影響を及ぼす最適光学性能を確保するように決定される。
第1及び第2表面を修正するステップ48及び50は、第1目標光学機能を倍率増大専用の前面に関連付ける一方、第2目標光学機能を像の鮮明さを確保する後面に関連付けて、第1表面と第2表面を切り替えることにより実行することができる。第1及び第2表面間のかかる切り替えによる最適化は、たとえば、本出願による引用により本出願に含まれている内容を有する欧州特許出願公開第A2207118号に記載されている。
プロセッサにアクセス可能であり、プロセッサにより実行されたときに本発明による方法のステップをプロセッサに実行させる1つ以上の蓄積命令シーケンスを含むコンピュータ・プログラム製品も提案する。
かかるコンピュータ・プログラムは、フロッピー・ディスク(登録商標)、光ディスク、CD−ROM、光磁気ディスクを含む任意の種類のディスク、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)、電気的にプログラム可能な読み出し専用メモリ(EPROM)、電気的に消去可能な読み出し専用メモリ(EEPROM)、磁気又は光カード、又は電子命令を蓄積し、かつ、コンピュータ・システム・バスに結合され得るその他の種類の媒体などを含むがこれらに限られないコンピュータ可読記憶媒体に格納することができる。このコンピュータ・プログラム製品の1つ以上の命令シーケンスを格納するコンピュータ可読媒体も提案する。これは、任意の場所における本方法の実行を可能にする。
本出願において提示するプロセス及び表示は、特定のコンピュータ又はその他の装置に本質的に関連するものではない。本出願における教示に従うプログラムにより種々の汎用システムを使用し得る一方、所望の方法を実行するためにより特殊化した装置を構築することもまた至便であろう。以下の説明により、さまざまなこれらのシステムのための望ましい構造が示される。また、本発明の実施形態は、特定のプログラミング言語に準拠して説明されるのではない。当然のことながら、本出願において記述される本発明の教示を実施するために種々のプログラミング言語を使用することができる。
前述した方法に従って決定されるレンズの第1表面を使用するレンズ対を得るために、多数の装置又はプロセスを使用することができる。これらのプロセスは、一連のデータの交換を含むことが多い。たとえば、この一連のデータは、この方法により決定されるレンズの第1表面のみの場合もあり得る。この一連のデータは、さらに、装着者の眼に関するデータも含み、それにより累進眼科用レンズを製造できることも好ましいであろう。
このデータ交換は、数値データを受け取る装置333を表す図33の装置により図式的に理解できるであろう。この装置は、キーボード88,ディスプレイ104、外部情報センター86、データ受信装置102、これらと結合されている入出力装置98、これを含み、論理装置として実現されているデータ処理装置100を含む。
このデータ処理装置100は、データ/アドレスバス92により相互に接続されている以下の装置を含んでいる:
− 中央処置装置90
− RAMメモリ96
− ROMメモリ94、及び
− 前記入力/出力装置98。
図33に示した前記要素は、当業者によりよく知られている。これらの要素については、これ以上説明しない。
装着者処方に対応する累進眼科用レンズを得るために、処方室は、レンズ・メーカーから半製品眼科用レンズ・ブランクを入手することができる。一般的に、半製品眼科用レンズは、光学基準表面に対応する第1表面(たとえば累進レンズ場合の累進表面)及び第2未仕上げ表面を含む。装着者処方に基づいて適切な光学特性を持つ半製品レンズ・ブランクが選択される。未仕上げ表面は、処方に合致する表面を得るために処方室により最終的に切削・研磨される。このようにして処方に合致する眼科用レンズが得られる。
その他の製造方法も使用できる。図34による方法は、一例である。この製造方法は、第1の場所において装着者の眼に関するデータを提供するステップ74を含んでいる。このデータは、この方法のステップ76において第1の場所から第2の場所に転送される。次にステップ78において、前述した決定方法に従って累進眼科用レンズが第2の場所において決定される。この製造方法は、さらに、第1表面に関して第1の場所に転送するステップ80を含んでいる。この方法は、転送された第1表面に関するデータに基づいて光学的最適化を行うステップ82も含んでいる。この方法は、さらに、光学的最適化の結果を第3の場所に転送するステップ84を含んでいる。この方法は、さらに、光学的最適化の結果に従って累進眼科用レンズを製造するステップ86を含んでいる。
かかる製造方法は、レンズのその他の光学的性能を劣化させることなく歪みの少ない累進眼科用レンズを得ることを可能にする。
転送ステップ76及び80は、電子的に実行することができる。これは、この方法を加速することを可能にする。累進眼科用レンズは、より迅速に製造される。
この効果を高めるために、第1の場所、第2の場所及び第3の場所を3つの別々のシステム、すなわち、1つはデータ収集専用、1つは計算専用、残りの1つは製造専用とし、これらの3つのシステムを同一建屋内に配置することができる。しかし、これらの3つの場所は、3つの別々の会社、たとえば、1つは眼鏡販売店(眼鏡技師)、1つは処方室及び1つはレンズ設計会社とすることもできる。
本発明の好ましい実施形態について上記において詳細に開示したが、当業者にとって当然のことながら、それに対する種々の改変を容易に行うことができる。すべてのかかる改変は、以下の請求項により定義される本発明の範囲内に属するものと解される。

Claims (14)

  1. 眼鏡装着者の眼から物体を見るための多焦点眼科用レンズであって、
    屈折力を有する遠方視(「FV」)領域と、
    前記FV領域の前記屈折力とは異なる屈折力を有する近方視(「NV」)領域を含み、
    前記NV領域の前記屈折力から前記FV領域の前記屈折力を差し引くことにより得られる値を加入度数Addとした場合に、前記物体の側の表面(「前面」)の前記FV領域の平均表面度数D11と前記前面の前記NV領域の平均表面度数D12、及び前記眼の側の表面(「後面」)の前記FV領域の平均表面度数D21と前記後面の前記NV領域の平均表面度数D22が関係式D21−D22=Add−(D12−D11)を満たし、
    前記平均表面度数D11と前記平均表面度数D12が関係式D12−D11>Addを満たし、
    前記前面がモジュラスで0.25Dより大きい円柱値を有する円環状構成要素を有し、かつ、
    前記前面が変曲点及び/又は平坦状態を有する、多焦点眼科用レンズ。
  2. 前記多焦点レンズが、前記FV領域と前記NV領域間で、屈折力が累進的に変化する累進領域を有する、請求項1に記載の多焦点眼科用レンズ。
  3. D12−D11=4.0Dである、請求項1に記載の多焦点眼科用レンズ。
  4. 前記前面が非回転式に対称である、請求項1に記載の多焦点眼科用レンズ。
  5. 前記前面が対称軸を有する、請求項1に記載の多焦点眼科用レンズ。
  6. 前記前面上の前記円環状構成要素が前記装着者の処方非点収差補正の少なくとも一部に等しい、請求項1に記載の多焦点眼科用レンズ。
  7. 前記前面上の前記円環状構成要素が前記装着者の処方非点収差補正を完全に与える、請求項1に記載の多焦点眼科用レンズ。
  8. 前記後面が変曲点及び/又は平坦状態を有する累進表面である、請求項2に記載の多焦点眼科用レンズ。
  9. 眼鏡装着者の眼から物体を見るための多焦点眼科用レンズであって、屈折力を有する遠方視(「FV」)領域と、前記FV領域の前記屈折力とは異なる屈折力を有する近方視(「NV」)領域とを含む多焦点眼科用レンズを決定する方法において、前記NV領域の前記屈折力から前記FV領域の前記屈折力を差し引くことにより得られる値を加入度数Addとした場合に、前記物体の側の表面(「前面」)の前記FV領域の平均表面度数D11と前記前面の前記NV領域の平均表面度数D12、及び前記眼の側の表面(「後面」)の前記FV領域の平均表面度数D21と前記後面の前記NV領域の平均表面度数D22が関係式D21−D22=Add−(D12−D11)を満たし、かつ、以下のステップ:
    関係式D12−D11>Addを満たすように前記平均表面度数D11及び前記平均表面度数D12を決定するステップと、
    モジュラスで0.25Dより大きい円柱値を有する前記前面上の円環状構成要素を決定するステップと、
    前記前面上の変曲点及び/又は平坦状態を決定するステップと
    を含む方法。
  10. プロセッサにアクセス可能であり、前記プロセッサにより実行されたときに請求項9に記載の前記ステップを前記プロセッサに実行させる1つ以上の蓄積命令シーケンスを含むコンピュータ・プログラム製品。
  11. 請求項10に記載のコンピュータ・プログラム製品の1つ以上の命令シーケンスを実行するコンピュータ可読媒体。
  12. 請求項9に記載の方法に従って決定されるレンズの第1表面に関するデータを含む一連のデータ。
  13. 累進眼科用レンズを製造するための方法であって、以下のステップ:
    装着者の眼に関するデータを提供するステップと、
    前記装着者に関するデータを転送するステップと、
    請求項9に記載の方法に従ってレンズの第1表面を決定するステップと、
    前記第1表面に関するデータを転送するステップと、
    前記第1表面に関する前記転送データに基づいて前記レンズの光学的最適化を行うステップと、
    前記光学的最適化の結果を転送するステップと、
    前記最適化の結果に従って前記累進眼科用レンズを製造するステップと
    を含む方法。
  14. 累進眼科用レンズを製造するための一連の装置であって、請求項13に記載の方法のステップを実行するように適合される一連の装置。
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