現在、スマートフォンの爆発的な普及に伴って、利便性の高いマイクロ波帯の周波数資源が枯渇している。対策として、第3世代の携帯電話から第4世代の携帯電話への移行や、新しい周波数帯の割り当てが行われている。しかし、サービスの提供を望む事業者が多いことから、各事業者に割り当てられる周波数資源は限られている。
携帯電話のサービスにおいては、複数のアンテナ素子を利用したマルチアンテナ・システムによる周波数利用効率の向上を目指す検討が進められている。既に普及している無線標準規格IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.)802.11nでは、送信と受信との双方に複数のアンテナ素子を用いるMIMO伝送技術を用いることで空間多重伝送が行われている。これにより、IEEE802.11nでは、伝送容量を高めて周波数利用効率を向上させることが行われている。なお、MIMOという用語は、一般には送信局及び受信局共に複数アンテナを備えることを想定して使われる。受信側が単数アンテナの場合には、MIMOではなく、MISO(Multiple Input Single Output)という用語が使われる。ただし、以下では、これらを全て包含する意味でMIMOという用語を用いる。
最近の通信技術としては、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調方式やSC−FDE(Single Carrier Frequency Domain Equalization)方式のように、複数のサブキャリア(周波数成分)に分割して周波数軸上で信号処理を行う方式が一般的である。以下の説明では、特にOFDMやSC−FDEの区別をせず、それらに共通する一般的な方式を前提として「サブキャリア」という用語を用いて説明する。
MIMO伝送技術においては、送信局と受信局との間の伝送路情報を知ることで、より効率的な伝送を行うことが可能となる。最も単純な例としては、送信側にN本のアンテナ素子を備え、受信側に1本のアンテナ素子のみを備え、N本のアンテナ素子から送信される信号が受信アンテナにおいて同位相合成されるように送信側で指向性制御を行う技術がある。これにより、回線利得を高めることができる。具体的には、第kサブキャリアにおける送信局の第jアンテナから受信局のアンテナまでの間のチャネル情報をhj (k)としたときに、そのアンテナ素子に対して下記の式(1)の送信ウエイトwj (k)を算出し、これを送信信号に乗算したものを各アンテナから送信する。なお、上記チャネル情報は、厳密には、送信系および受信系のRF(Radio Frequency)回路内のアンプ、フィルタ等の複素位相の回転、及び振幅の変動情報を含む。
各アンテナに対応させたチャネル情報及び送信ウエイトを各成分とするベクトルを、チャネルベクトルh(k)=(h1 (k),...,hj (k),...,hN (k))および送信ウエイトベクトルw(k)=(w1 (k),...,wj (k),...,wN (k))T(Tは転置を表す)と称する。受信信号Rxは、送信信号Txおよびノイズnを用いて下記の式(2)で与えられる。
式(1)を式(2)に代入すると、チャネルベクトルh(k)の各成分hj (k)の絶対値を全成分にわたって加算した値がチャネル利得として得られる。N本のアンテナで信号が送信された場合、1本のアンテナで信号が送信された場合と比較して、受信信号は振幅がN倍になると期待される。この値が複数のアンテナ素子をアレーアンテナとして利用した場合の利得である。
一般的には、シャノンの定理により、SNR(Signal-Noise Ratio)の改善量に対して、伝送容量の増加は、低SNR領域ほど大きく、高SNR領域ほど小さいことが知られている。そのため、回線利得の改善によって伝送容量の向上を目指すより、受信側にも複数のアンテナを備え、空間多重によって伝送容量の向上を目指すことが多い。空間多重によって伝送容量のアップを目指すのがMIMO伝送技術である。複数の送信アンテナと受信アンテナとの間のチャネル情報が既知の場合には、そのチャネル行列をSVD(Singular Value Decomposition)分解し、固有モードでの伝送を行うことで伝送容量を最大化する。具体的には、式(3)のように、チャネル行列Hをユニタリー行列UとV、および特異値λを対角成分にもつ対角行列Dに分解する。
この際、送信ウエイト行列としてユニタリー行列Vを用いれば、受信信号ベクトルRxは、送信信号ベクトルTx、ノイズベクトルnに対して、式(4)で与えられる。
受信側では、ユニタリー行列Uのエルミート共役の行列UHを乗算することで、式(5)を得る。
式(5)において、対角行列Dの非対角成分はゼロであるから、送信信号のクロスタームは既にキャンセルされ、信号分離された状態となる。各特異値λの絶対値の2乗値が個別の信号系列の回線利得に相当する。各特異値λは、信号系統ごとに異なる値となる。この固有モードの特異値にあわせた伝送モードを最適化することによって、伝送容量を最大化することができる。伝送モードは、変調多値数と誤り訂正の符号化率などの組み合わせで定まる信号伝送の具体的なモードである。
上記は、1台の基地局装置と1台の端末局装置とを想定したシングルユーザMIMO伝送技術に関する説明である。同様の説明は、1台の基地局装置と複数台の端末局装置との間において同時に同一周波数軸上で通信を行うマルチユーザMIMOにも拡張可能である。マルチユーザMIMOにおいては、一般に、各端末局装置は空間多重する合計の信号系統数よりも少ない本数のアンテナ素子で通信を行う。そのため、ダウンリンクにおいては、送信側で事前にユーザ間干渉を抑圧するための指向性制御を行う。具体的な式は若干異なるが、基本的には上記の固有モード伝送と同様に、チャネル行列を把握した上でそれに合わせた送信ウエイトを用いる。
また、上記の説明では、ダウンリンクを中心に説明を行ったが、アップリンクにおいても同様に事前にチャネル情報を把握した上で、そのチャネル情報を利用した通信を行うことができる。例えば、最初に説明したアレーアンテナとしての処理においては、式(1)にて与えられる同位相合成のウエイトを受信ウエイトとして用いる他、最大比合成のウエイトとして、式(6)で与えられるものを用いることも可能である。
式(6)の定数Cは適宜定められる係数である。ベクトルの各成分の中でhj (k)の絶対値が大きいものは大きな重みで足し合わさるように、また小さな信号は小さな重みで足し合わされるように、係数Cが決定される。これにより、SNRの大きな信号を重視し、SNRの小さな信号の雑音が過度に影響を与えないように調整が図られる。
以上のマルチユーザMIMO及びアレーアンテナの技術を更に発展させた新しい空間多重伝送技術として、大規模アンテナシステムの提案がなされている(非特許文献1及び非特許文献2参照)。
図6は、大規模アンテナシステムの例を示す図である。図6には、基地局装置1と、無線局装置2と、見通し波3と、ビル等の構造物による安定反射波4と、地上付近の多重反射波5と、地上付近の多重反射波6と、構造物7とが示されている。図6の大規模アンテナシステムにおいては、基地局装置1は、多数(例えば100本以上)のアンテナ素子を用いて、ビルの屋上や高い鉄塔の上など高所に設置される。無線局装置2も同様に、ビルの屋上、家屋の屋根の上、電信柱や鉄塔の上など高所に設置される。そのため、基地局装置1と無線局装置2の間は概ね見通し環境にあり、その間には見通し波3のパスや大型の安定的な構造物7の安定反射波4などに加え、地上付近での車や人などの移動体などによる多重反射波5及び6が混在する。無線局装置2は高所にある。更に指向性アンテナを用いる場合などは特に、地上付近の多重反射波5及び6は、見通し波3及び安定反射波4などに比べて受信レベルが低くなる。
図7は、見通し外環境と見通し環境とのそれぞれにおける、インパルス応答を示す図である。図7(a)は見通し外環境でのインパルス応答を示している。図7(b)は見通し環境でのインパルス応答を示している。図7(a)と図7(b)において、横軸は遅延時間、縦軸は各遅延波の受信レベルを表す。図7(a)に示した見通し外環境の場合、見通し区間の直接波成分は存在せず、様々な経路の多重反射波が数多く成分として存在し、各振幅及び複素位相は時間と共にランダムに激しく変動する。これに対し、図6に示した大規模アンテナシステムのような見通し環境を想定する場合、見通し波3及び構造物7による安定反射波4の安定パスはレベルが高い。見通し波3及び構造物7による安定反射波4よりも一般的に遅延量が大きい時変動パスの多重反射波は、多重反射と経路長にともなう減衰により、図7(b)に示すように相対的にレベルが小さくなる。このようなチャネル情報を複数回取得して平均化すると、安定パスの成分は振幅及び複素位相共に毎回安定して同様の値を取っているにもかかわらず、時変動パスの成分は複素空間上でランダムに合成され平均化される。そのため、平均化により安定成分のみを効果的に抽出することが可能になる。
このようにして得られる時変動のない安定パスのチャネル情報に基づいて、基地局装置1(図6参照)は送受信ウエイトを算出する。基地局装置1は、算出した送受信ウエイトを用いて多数のアンテナ素子で同位相合成を行うための指向性制御を行う。上記の送受信ウエイトを用いることで、基地局装置1は、指向性制御のターゲットとする通信相手の無線局装置への指向性利得をアンテナ本数Nの2乗倍に比例して高めることができる。また、ターゲット以外の無線局装置への与干渉の指向性利得はN倍に留まるため、相対的に希望信号と干渉信号との間には単純計算でN倍のギャップが生じる。結果的にSIR(Signal to Interference Ratio)の期待値は10Log10(N)[dB]となる。この期待値は、Nが100の場合には20dBとなる。更に相関の小さな無線局装置を選択的に空間多重する場合には、更なるSIR特性の改善が期待され、より高い空間多重が実現できる。
非特許文献2には、上記の送受信ウエイトでは抑圧しきれない干渉を更に抑圧するための技術や、チャネル情報の空間相関(チャネル相関)のより低い無線局装置の組み合わせを選択する技術が紹介されている。超高次の空間多重を実現するためには、チャネル相関の小さな無線局装置を組み合わせることが重要である。基地局装置の多数のアンテナと第j無線局装置との間の第kサブキャリアに関するチャネル情報を成分とするチャネル情報ベクトル→hj (k)(「hj (k)」の前の記号「→」は、hの上に付与されてベクトルを表すための記号である)と、別の第i無線局装置におけるチャネル情報ベクトルhi (k)との間のチャネル相関は、式(7)で与えられる。
見通し波のみで構成される仮想的なチャネルモデルを想定すると、上記のチャネル相関は、2台の無線局装置2の方位角の差θに強く依存した振る舞いを示すと考えられる。
図8は、基地局装置1からの方位角の差がθである2台の無線局装置2の座標の例を示す図である。無線局装置2−1のチャネル情報ベクトルを→h1 (k)とし、無線局装置2−2のチャネル情報ベクトルを→h2 (k)とすると、基地局装置1からの方位角の差θに依存するチャネル相関を算出することができる。
図9は、基地局装置1からの方位角の差と、チャネル相関との関係の例を示す図である。ここでのシミュレーション条件としては、基地局装置1のアンテナ数を128本とし、5.2GHzの周波数帯において、2波長間隔で128本のアンテナを円形に配置することを想定した。基地局装置1と無線局装置2との間は3kmで固定し、円形に無線局装置2の座標を動かしながらチャネル相関を計算している。図9を読み取ると、方位角の差θが例えば5度程度以下である場合、チャネル相関は大きな値になる場合があるが、方位角の差θが閾値α度を越える場合、チャネル相関は概ね0.2以下となる。非特許文献2に示されるスケジューリング法は、基地局装置1からの方位角の差が5度以上である場合にチャネル相関が低くなることを積極的に利用するスケジューリング方法である。
本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態における、無線通信システムの第1例を示す図である。図1では、無線通信システム100(大規模アンテナシステム)は、基地局装置10と、無線局装置20と、無線局装置30と、アンテナ40とを備える。無線通信システム100は、更に多くの無線局装置を備えてもよい。基地局装置10は、例えば、基地局に備えられる。基地局装置10は、アンテナ40を制御する。アンテナ40は、ブロードサイドアレー41を備える。ブロードサイドアレー41は、アンテナ素子を直線上に水平方向に配置した等間隔アレーである。
無線通信システム100は、送受信される無線信号を多数のアンテナ素子によって同位相合成することにより、指向性利得を向上させ、空間多重時のSIR特性を改善することができる。ここで、空間多重時のSIR特性は、無線局装置20と無線局装置30との間のチャネルの空間相関が低相関であるほど向上する。
なお、指向性を向けた所望の受信点(例えば、無線局装置20)において、所望波が同位相で受信されるように所望波の位相が制御された場合、干渉波の位相については制御されずにランダムに合成される。したがって、干渉波が一部で重なることはあっても、平均化すると干渉波の合成利得は無視することができる。
見通し波が支配的な場合、無線局装置20と無線局装置30との間のチャネルの空間相関は、基地局装置10が制御するアンテナ40のアンテナ素子の配置と、無線局装置20と無線局装置30との間の位置関係とに依存する。基地局装置10が制御するアンテナが等間隔アレーである場合、基地局装置10は、無線局装置20と、無線局装置20に対して高相関となる可能性が高い無線局装置30との位置関係を、把握することができる。
まず、基地局装置10のアンテナが、アンテナ素子を水平方向に等間隔に配置するブロードサイドアレーである場合における、チャネルの空間相関が高相関となる確率が高い無線局装置20と無線局装置30との位置関係について説明する。
以下、基準方位50は、アンテナ40のアンテナ素子の指向性が向く方向である。図1では、無線局装置20(無線局装置i)は、基地局装置10からの水平方向の方位角が基準方位50に対してθhiとなる方位に位置している。また、無線局装置30(無線局装置j)は、基準方位50に対して水平方向に無線局装置20とは反対側(負値)の方位角「−θhj」となる位置に存在している。
以下、dhantは、アンテナ40において等間隔に並ぶアンテナ素子の水平方向の間隔を示す。λは波長を示す。無線信号の位相状態が等しくなることによって無線局装置20(無線局装置i)とのチャネルの空間相関が高相関となる水平方向の方位角θhg(i)は、式(8)で与えられる。
式(8)に示すnは、式(9)を満たす値0以上の整数である。
無線局装置20(無線局装置i)とのチャネルの空間相関が高相関となる方位角θhg(i)は、無線局装置20(無線局装置i)に対して所望のメインビームを形成した場合に、水平方向のリニアアレーによってグレーティングローブが出現する水平方向の方位角である。また、n=0である場合、θhg(i)は、無線局装置20(無線局装置i)に対して所望のメインビームをアンテナ40が形成した場合に、メインビームが干渉する水平方向の方位角である。
したがって、無線局装置20(無線局装置i)の方位角θhiが基準方位50に対して−90度から+90度までの範囲にあり、かつ、間隔dhantが2分の1波長(=λ/2)以下である場合、チャネルの空間相関が高相関となる方位角θhg(i)は、メインビームのみの方向を示す方位角となる。
無線局装置20(無線局装置i)に対して所望のメインビームをアンテナ40が形成した場合に、式(8)に示す方位角θhg(i)と無線局装置30(無線局装置j)の方位角θhjとの差が、ビーム幅ΔΨの半分(=ΔΨ/2)以上に広い角度である場合、基地局装置10は、無線局装置20と無線局装置30とのチャネルの空間相関が高相関となる(閾値を超える)ことを、回避することができる。ここで、ある方位角にビームの指向性が向いている場合、アンテナ40のビーム幅(角度)は、そのビームの指向性が有効となる実効的なビーム幅として、式(10)によって与えられる。
式(10)におけるNは、アンテナ40のアンテナ素子の数を示す。dantは、アンテナ40のアンテナ素子の間隔を示す。したがって、無線局装置30である無線局装置jの方位角θhjが無線局装置iに対して式(11)を満たす場合、基地局装置10は、無線局装置20(無線局装置i)と無線局装置30(無線局装置j)とのチャネルの空間相関が高相関となる(閾値を超える)ことを回避することができる。
式(11)におけるNhは、アンテナ40のアンテナ素子の数を表す。また、θhg(i)は、無線局装置20(無線局装置i)の式(8)を満たすグレーティングローブの方位角を示す。なお、式(11)は一例である。式(11)の右辺の式は、ビーム幅に応じて高相関が回避できる(閾値以下となる)条件式であれば、特定の条件式に限定されない。
次に、基地局装置10が制御するアンテナが、アンテナ素子を垂直方向に等間隔に配置したリニアアレーである場合における、チャネルの空間相関が高相関となる確率が高い無線局装置20と無線局装置30との位置関係について説明する。
図2は、無線通信システムの第2例を示す図である。図2では、無線通信システム101は、基地局装置10と、無線局装置20と、無線局装置30と、アンテナ40とを備える。無線通信システム101は、更に多くの無線局装置を備えてもよい。基地局装置10は、例えば、基地局に備えられる。基地局装置10は、アンテナ40を制御する。リニアアレー42は、アンテナ素子を直線上に垂直方向に配置した等間隔アレーである。
図2では、無線局装置20(無線局装置i)は、基地局装置10から距離riの位置に存在する。無線局装置20(無線局装置i)は、リニアアレー42の高度を基準にして、高度差Liとなる高度に存在する。この場合、垂直方向の方位角θviは、式(12)によって与えられる。
dvantは、アンテナ40に等間隔に配置されたアンテナ素子の垂直方向の間隔を示す。無線信号の位相状態が等しくなることによって無線局装置iとのチャネルの空間相関が高相関となる垂直方向の方位角θvg(i)は、式(13)によって与えられる。
式(13)に示すmは、式(14)を満たす値0以上の整数である。
無線局装置20(無線局装置i)とのチャネルの空間相関が高相関となる方位角θvg(i)は、無線局装置20(無線局装置i)に対して所望のメインビームをアンテナ40が形成した場合に、垂直方向のアレーによってグレーティングローブが出現する垂直方向の方位角である。また、m=0である場合、θvg(i)は、無線局装置20(無線局装置i)に対して所望のメインビームをアンテナ40が形成した場合に、メインビームが干渉する垂直方向の方位角である。
式(13)における方位角θvg(i)となる位置に無線局装置g(不図示)が配置されている場合、基地局装置10と無線局装置gとの距離rgと、基地局装置10と無線局装置gとの高度差Lgとは、式(15)を満たす。
無線局装置iに対して所望のメインビームを形成した場合に、式(13)に示す方位角θvg(i)と無線局装置30の方位角θvjとの差が、ビーム幅ΔΨの半分(=ΔΨ/2)以上に広い角度である場合、基地局装置10は、無線局装置20と無線局装置30とのチャネルの空間相関が高相関となる(閾値を超える)ことを、回避することができる。したがって、無線局装置30(無線局装置j)の方位角θvjが、無線局装置20(無線局装置i)に対して式(16)を満たす場合、基地局装置10は、無線局装置20と無線局装置30とのチャネルの空間相関が高相関となることを回避することができる。
式(16)におけるNvは、アンテナ40のアンテナ素子の数を表す。また、θvg(i)は、無線局装置20(無線局装置i)の式(13)を満たすグレーティングローブの方位角を示す。図2では、無線局装置30(無線局装置j)は、基地局装置10からの垂直方向の方位角が基準方位50に対してθvjとなる方位に位置している。なお、式(16)は一例である。式(16)の右辺の式は、ビーム幅に応じて高相関が回避できる条件式であれば、特定の条件式に限定されない。
次に、基地局装置10のアンテナが、アンテナ素子を垂直面上に正方格子状に配置した正方アレーである場合における、チャネルの空間相関が高相関となる確率が高い無線局装置20と無線局装置30との位置関係について説明する。
図3は、無線通信システムの第3例を示す図である。図3では、無線通信システム102は、基地局装置10と、無線局装置20と、無線局装置30と、アンテナ40とを備える。無線通信システム100は、更に多くの無線局装置を備えてもよい。基地局装置10は、例えば、基地局に備えられる。基地局装置10は、アンテナ40を制御する。アンテナ40は、正方アレー43を備える。正方アレー43は、アンテナ素子を垂直平面上に正方格子状に配置する等間隔アレーである。
正方アレーのように垂直平面上に2次元的にアンテナ素子を配置する場合、水平方向に位置の異なるアンテナ素子同士は、無線局装置20と無線局装置30との間の水平方向の方位差に対して、チャネルの空間相関の低減に寄与する。また、正方アレーのように垂直平面上に2次元的にアンテナ素子を配置する場合、垂直方向に位置の異なるアンテナ素子同士は、距離riと距離rjとの差と、無線局装置20と無線局装置30との高度の差とに応じて、垂直方向の方位角の差に対して、チャネルの空間相関の低減に寄与する。
したがって、正方アレーのような平面アレーの指向性特性は、水平方向の指向特性と垂直方向の指向特性との乗算により表現することができる。このため、水平方向に並ぶリニアアレーにおける式(11)と、垂直方向に並ぶリニアアレーにおける式(16)とを、無線局装置20及び無線局装置30が満たす場合、基地局装置10は高相関を回避することができる。
正方アレー43は、平行四辺形の格子状にアンテナ素子を配置した平行四辺形アレーでもよい。特許文献1や非特許文献3に示されている平行四辺形格子状に配置する平行四辺形アレーを想定した場合に、高相関となる確率が高い無線局装置の位置関係について説明する。平行四辺形アレーにおいても、正方アレーのように水平方向の指向特性と垂直方向の指向特性の乗算により表現することができる。
平行四辺形アレーは正方アレーに傾斜を与えたものと考えることができる。このため、平行四辺形アレーにおいて高相関となる無線局装置同士の位置関係は、正方アレーにおいて高相関となる無線局装置同士の位置関係を、傾斜面上で考えればよい。したがって、水平方向において高相関となり得る方位角θhgは、正方アレーと同様に式(8)で表すことができる。また、水平方向の条件式は式(11)を用いればよい。
無線局装置30(無線局装置j)の方位角θhjが方位角θhgと等しい場合に、平行四辺形アレーの傾斜に相当する垂直方向の高度の差が正方アレー43に生じた場合、正方アレーと同様に、無線局装置20と無線局装置30とが高相関となる確率は高くなる。平行四辺形アレーである正方アレー43のアンテナ素子の水平方向へのオフセット(シフト)を示す傾斜θSは、式(17)で与えられる。
ここで簡単のため、水平方向の素子間隔dhantと、垂直方向の素子間隔dvantとが等しいとする。この場合、式(17)は式(18)のように表される。
したがって、垂直方向については傾斜θSを考慮し、無線局装置20である無線局装置iに対して、無線局装置30(無線局装置j)が、式(19)又は式(20)を満たす場合、基地局装置10はチャネルの空間相関が高相関となることを回避可能である。
式(19)に示す条件式と、式(20)に示す条件式とは、正方アレー43が垂直方向に対して傾く方向に応じて適宜選択される。ブロードサイドアレー、リニアアレー、正方アレー等について、条件式による高相関の判定には、正方アレー43に対する無線局装置30等の方位角に応じて複数の条件式を切り替えて用いられてもよい。
したがって、ブロードサイドアレー41の条件式は、例えば、式(11)である。リニアアレー42の条件式は、例えば、式(16)である。正方アレー43の条件式は、例えば、式(11)及び式(16)の少なくとも一方である。正方アレー43が平行四辺形アレーである場合、平行四辺形アレーの条件式は、例えば、式(19)及び式(20)の少なくとも一方である。
図4は、空間スケジューリング装置11の構成例を示す図である。空間スケジューリング装置11は、ベースバンド信号を処理する装置である。空間スケジューリング装置11は、例えば、ベースバンド・ユニット(BBU:Base Band Unit)としての基地局装置10に備えられる。空間スケジューリング装置11は、記憶部110と、割当判定部111と、選択部112と、算出部113と、条件判定部114と、割当部115とを備える。
割当判定部111と、選択部112と、算出部113と、条件判定部114と、割当部115との一部または全部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサが、メモリに記憶されたプログラムを実行することにより機能するソフトウェア機能部である。また、これらの機能部のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェア機能部であってもよい。
記憶部110は、例えば、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)などの不揮発性の記憶媒体(非一時的な記憶媒体)を有する。記憶部110は、例えば、RAM(Random Access Memory)やレジスタなどの揮発性の記憶媒体を有していてもよい。記憶部110は、例えば、ソフトウェア機能部を機能させるためのプログラムを記憶してもよい。
記憶部110は、基地局装置10、無線局装置20及び無線局装置30の各位置情報を記憶する。位置情報は、人工衛星からの電波を利用した測位結果を示す座標情報でもよいし、地図データを利用した測位結果を示す座標情報でもよい。人工衛星は、例えば、GPS(Global Positioning System)衛星や準天頂衛星である。
割当判定部111は、無線リソースの割り当て(空間スケジューリング)の対象とする無線局装置20及び無線局装置30の組み合わせの数を管理する。例えば、割当判定部111は、無線リソースの割り当て待ちとなっている無線局装置20が存在するか否かを判定する。
選択部112は、無線リソースの割り当て待ちとなっている無線局装置20が存在する場合、割り当て待ちの順番の先頭の無線局装置20を1局選択する。選択部112は、選択した無線局装置20を無線リソースの割り当て待ちの無線局装置iと定める。割り当て待ちの順番は、例えば、送信要求があった無線局装置の順である。
算出部113は、基地局装置10、無線局装置20及び無線局装置30の各位置情報(座標)を、割当判定部111及び選択部112を介して、記憶部110から取得する。位置情報は、基地局装置10に対する座標及び高度で表現される。位置情報は、基地局装置10に対する水平方向の方位角θhi、垂直方向の方位角θviで表現されてもよい。算出部113は、選択された無線局装置20である無線局装置iの位置情報に基づいて、式(8)を満たすグレーティングローブの水平方向の方位角θhg(i)と、式(13)を満たすグレーティングローブの垂直方向の方位角θvg(i)とを算出する。
条件判定部114は、算出された方位角θhg(i)及び方位角θvg(i)が、無線リソースを割り当て済みの無線局装置の全てに対して条件式を満たすか否かを判定する。
割当部115は、方位角θhg(i)及び方位角θvg(i)が、無線リソースを割り当て済みの無線局装置の全てに対して条件式を満たす場合、選択された無線局装置20(無線局装置i)に対する無線リソースの割り当てを承認する。すなわち、割当部115は、方位角θhg(i)及び方位角θvg(i)が、無線リソースを割り当て済みの無線局装置の全てに対して所定の条件式を満たす場合、選択された無線局装置20(無線局装置i)を、同時に空間多重を行う無線局装置の組み合わせに加える。割当部115は、無線局装置の組み合わせについて、無線リソースの割り当てを示す情報を、無線処理装置12に出力する。
無線処理装置12は、無線リソースの割り当てを示す情報に基づいて、選択された無線局装置20である無線局装置iに対して無線リソースを割り当てる。すなわち、無線処理装置12は、無線リソースの割り当てを示す情報に基づいて、空間スケジューリングを実行する。無線処理装置12は、無線リソースの割り当てに応じて変調処理を実行する。無線処理装置12は、変調処理に応じてアンテナ40を制御する。無線処理装置12は、例えば、RRH(Remote Radio Head)に備えられる。
アンテナ40は、無線リソースの割り当てを示す情報に基づく無線処理装置12による制御に応じて、ビームフォーミングを実行する。例えば、アンテナ40は、無線処理装置12による制御に応じて、無線通信のビームを無線局装置20及び無線局装置30に向けて送信する。空間スケジューリング装置11と無線処理装置12とアンテナ40とは、同一の基地局に備えられてもよい。
次に、空間スケジューリング装置11の動作を説明する。
図5は、空間スケジューリング処理の例を示すフローチャートである。空間スケジューリング装置11は、図5に示す空間スケジューリング処理を実行する。
割当判定部111は、無線リソースの割り当ての対象とする無線局装置の組み合わせ(基地局装置10が同時に空間多重を行う無線局装置の組み合わせ)における無線局装置の数を管理するためのカウンタ(変数)の値iを、初期値1にリセットする(ステップS101)。
割当判定部111は、無線リソースの割り当て待ちとなっている無線局装置20が存在するか否かを判定する(ステップS102)。無線リソースの割り当て待ちとなっている無線局装置20が存在しない場合(ステップS102:NO)、空間スケジューリング装置11は、図5に示す空間スケジューリング処理を終了する。
無線リソースの割り当て待ちとなっている無線局装置20が存在する場合(ステップS102:YES)、選択部112は、割り当て待ちの順番の先頭の無線局装置20を1局選択し、選択した無線局装置20を無線リソースの割り当て待ちの無線局装置iと定める(ステップS103)。
算出部113は、選択された無線局装置20である無線局装置iの位置情報に基づいて、式(8)を満たすグレーティングローブの水平方向の方位角θhg(i)と、式(13)を満たすグレーティングローブの垂直方向の方位角θvg(i)とを算出する(ステップS104)。
条件判定部114は、算出された方位角θhg(i)及び方位角θvg(i)が、割り当て済みの(i−1)局の無線局装置の全てに対して、予め定められた条件式を満たすか否かを判定する(ステップS105)。
算出された方位角θhg(i)及び方位角θvg(i)が、割り当て済みの(i−1)局の無線局装置の全てに対して条件式を満たす場合(ステップS105:YES)、割当部115は、選択された無線局装置20である無線局装置iを、同時に空間多重を行う無線局装置の組み合わせに加える。すなわち、割当部115は、選択された無線局装置20である無線局装置iに対する無線リソースの割り当てを承認する。割当部115は、同時に空間多重を行う複数の無線局装置の組み合わせについて、無線リソースの割り当てを示す情報を、無線処理装置12に出力する(ステップS106)。
割当部115は、無線リソースの割り当ての対象とする無線局装置の組み合わせにおける無線局装置の数を管理するためのカウンタの値iに、値1を加算する(ステップS107)。
条件判定部114は、無線局装置20及び無線局装置30の組み合わせの数の上限値Iと、更新されたカウンタの値iとが等しいか否かを判定する(ステップS108)。無線局装置20及び無線局装置30の組み合わせの数の上限値Iと、カウンタの値iとが等しい場合(ステップS108:YES)、空間スケジューリング装置11は、図5に示す空間スケジューリング処理を終了する。無線局装置20及び無線局装置30の組み合わせの数の上限値Iと、カウンタの値iとが異なる場合(ステップS108:NO)、条件判定部114は、ステップS102に処理を戻す。
算出された方位角θhg(i)及び方位角θvg(i)が、割り当て済みの(i−1)局の無線局装置の全てに対して条件式を満たさない場合(ステップS105:NO)、割当部115は、選択された無線局装置20である無線局装置iに対する無線リソースの割り当てをせずに保留する(ステップS109)。条件判定部114は、ステップS108に処理を進める。
以上のように、実施形態の空間スケジューリング方法は、等間隔アレーを有するアンテナ40を制御する基地局装置10と、無線局装置20や無線局装置30などの複数の無線局装置との間で、空間多重伝送を実行する無線通信システム102などにおける空間スケジューリング方法である。実施形態の空間スケジューリング方法は、無線局装置20や無線局装置30などの複数の無線局装置の位置情報を取得するステップと、空間多重伝送を同時に実行する無線局装置の組み合わせに対して、予め定められた条件式を満たすか否かを位置情報に基づいて無線局装置ごとに判定するステップと、条件式を満たす無線局装置を組み合わせに加えるステップと、組み合わせに対して無線リソースを割り当てるステップとを有する。
実施形態の空間スケジューリング装置11は、等間隔アレーを有するアンテナ40を制御する基地局装置10と、無線局装置20や無線局装置30などの複数の無線局装置との間で、空間多重伝送を実行する無線通信システム102などにおける空間スケジューリング装置である。複数の無線局装置の位置情報を取得し、空間多重伝送を同時に実行する無線局装置の組み合わせに対して、予め定められた条件式を満たすか否かを位置情報に基づいて無線局装置ごとに判定し、条件式を満たす無線局装置を組み合わせに加える条件判定部114と、組み合わせに対して無線リソースを割り当てる割当部115とを備える。
これによって、実施形態の空間スケジューリング方法、及び、空間スケジューリング装置11は、等間隔アレーを用いた空間多重伝送において、チャネル容量を向上させることが可能となる。
実施形態の空間スケジューリング方法、及び、空間スケジューリング装置11は、基地局装置10及び無線局装置20等の位置情報を事前に取得し、位置情報に基づいて空間スケジューリングを実行する。これにより、実施形態の空間スケジューリング方法、及び、空間スケジューリング装置11は、空間相関が高くならない無線局装置20及び無線局装置30を選択してMIMO伝送を実行する。空間相関を低くできればSIR値は下がるので、空間多重数を増やしてもチャネル容量の規定値は満たされる。実施形態の空間スケジューリング方法、及び、空間スケジューリング装置11は、伝送モードに要求されるSIR値を、位置情報を利用して実現することが可能となる。
上述した実施形態における基地局装置、空間スケジューリング装置、無線局装置をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。