1.印刷システムの構成
本発明の液体噴射装置の実施形態として、液体噴射型印刷装置に適用されたものについ
て説明する。
図1は、本実施形態の液体噴射型印刷装置(プリンター1)を含む印刷システムの全体構成を示すブロック図である。後述するように、プリンター1は用紙S(図2、図3参照)が所定の方向に搬送され、その搬送途中の印刷領域で印刷される、ラインヘッドプリンターである。
プリンター1はコンピューター80と通信可能に接続されており、コンピューター80内にインストールされているプリンタードライバーが、プリンター1に画像を印刷させるための印刷データを作成し、プリンター1に出力する。プリンター1は、コントローラー10と、用紙搬送機構30と、ヘッドユニット40と、検出器群70と、を有する。なお、後述するようにプリンター1は複数のヘッドユニット40を含んでもよいが、ここでは、1つのヘッドユニット40を代表させて図1に示して説明する。
プリンター1内のコントローラー10は、プリンター1における全体的な制御を行うためのものである。インターフェース部11は、外部装置であるコンピューター80との間でデータの送受信を行う。そして、インターフェース部11は、コンピューター80から受け取ったデータのうち、印刷データ111をCPU12に出力する。印刷データ111は例えば画像データ、印刷モードを指定するデータ等を含む。
CPU12は、プリンター1の全体的な制御を行うための演算処理装置であり、駆動信号生成部14、制御信号生成部15、搬送信号生成部16を介してヘッドユニット40、用紙搬送機構30を制御する。メモリー13は、CPU12のプログラム、データを格納する領域や作業領域等を確保するためのものである。検出器群70によってプリンター1内の状況が監視され、コントローラー10は検出器群70からの検出結果に基づき制御を行う。なお、CPU12のプログラム、データはストレージメディア113に格納されていてもよい。ストレージメディア113は、例えばハードディスクなどの磁気ディスク、DVDなどの光学ディスク、フラッシュメモリーなどの不揮発性メモリーのいずれかであってもよいが、特に限定されるものではない。図1のように、CPU12はプリンター1に接続されたストレージメディア113にアクセス可能であってもよい。また、ストレージメディア113はコンピューター80に接続されており、CPU12はインターフェース部11およびコンピューター80を介してストレージメディア113にアクセス可能(経路は不図示)であってもよい。
駆動信号生成部14は、ヘッド41に含まれる圧電素子PZTを変位させる駆動信号COMを生成する。駆動信号生成部14は、後述するように、元駆動信号生成部25の一部、信号変調部26、信号増幅部28(デジタル電力増幅回路)、信号変換部29(平滑フィルター)を含む(図7参照)。駆動信号生成部14は、CPU12からの指示に従って、元駆動信号生成部25で元駆動信号125を生成し、信号変調部26で元駆動信号125をパルス変調して変調信号126を生成し、信号増幅部28で変調信号126を増幅し、信号変換部29で増幅変調信号128(増幅された変調信号126)を平滑化して駆動信号COMを生成する。
制御信号生成部15は、CPU12からの指示に従って制御信号を生成する。制御信号は、例えば噴射するノズルを選択するといったヘッド41の制御に用いられる信号である。本実施形態では、制御信号生成部15は、クロック信号SCK、ラッチ信号LAT、チャンネル信号CH、駆動パルス選択データSI&SPを含む制御信号を生成するが、これらの信号の詳細については後述する。なお、制御信号生成部15はCPU12に含まれる構成(すなわち、CPU12が制御信号生成部15の機能を兼ねる構成)であってもよい。
ここで、駆動信号生成部14が生成する駆動信号COMは連続的に電圧が変化するアナログ信号であり、制御信号であるクロック信号SCK、ラッチ信号LAT、チャンネル信号CH、駆動パルス選択データSI&SPはデジタル信号である。駆動信号COMと制御信号は、フレキシブルフラットケーブル(以下、FFCとも記載する)であるケーブル20を経由してヘッドユニット40のヘッド41へと伝送される。制御信号については、差動シリアル方式を用いて複数種類の信号を時分割で伝送してもよい。このとき、制御信号を種類毎にパラレルに伝送する場合と比べて、必要な伝送線の数を減らすことができ、多くのFFCの重ね合わせによる摺動性の低下を回避し、コントローラー10およびヘッドユニット40に設けるコネクターのサイズも小さくなる。
搬送信号生成部16は、CPU12からの指示に従って、用紙搬送機構30を制御する信号を生成する。用紙搬送機構30は、例えばロール状に巻かれた連続する用紙Sを回転可能に支持すると共に回転により用紙Sを搬送し、印刷領域にて所定の文字や画像等が印刷されるようにする。例えば用紙搬送機構30は、搬送信号生成部16で生成された信号に基づいて用紙Sを所定の方向に搬送する。なお、搬送信号生成部16はCPU12に含まれる構成(すなわち、CPU12が搬送信号生成部16の機能を兼ねる構成)であってもよい。
ヘッドユニット40は、液体吐出部としてのヘッド41を含んでいる。紙面の都合上、図1では1つのヘッド41だけを示しているが、本実施形態のヘッドユニット40は複数のヘッド41を含んでいるものとする。ヘッド41は、圧電素子PZT、キャビティCA、ノズルNZを含むアクチュエーター部を少なくとも2つ含み、圧電素子PZTの変位を制御するヘッド制御部HCも含んでいる。アクチュエーター部は、駆動信号COMによって変位可能な圧電素子PZTと、内部に液体が充填されており、圧電素子PZTの変位により内部の圧力が増減されるキャビティCAと、キャビティCAに連通しており、キャビティCA内の圧力の増減により液体を液滴として吐出するノズルNZを含む。ヘッド制御部HCは、コントローラー10からの駆動信号COMおよび制御信号に基づいて圧電素子PZTの変位を制御する。
ここで、各アクチュエーター部に含まれる要素を区別する場合には、符号に括弧書きの数字を付すものとする。図1の例では、アクチュエーター部は3つあり、第1のアクチュエーター部は、第1圧電素子PZT(1)、第1キャビティCA(1)、第1ノズルNZ(1)を含み、第2のアクチュエーター部は、第2圧電素子PZT(2)、第2キャビティCA(2)、第2ノズルNZ(2)を含み、第3のアクチュエーター部は、第3圧電素子PZT(3)、第3キャビティCA(3)、第3ノズルNZ(3)を含む。なお、アクチュエーター部は3つに限るものではなく、例えば2つでもよいし、4つ以上であってもよい。また、図1では、図示の都合上、第1〜第3のアクチュエーター部が1つのヘッド41に含まれているが、その一部が不図示の別のヘッド41に含まれていてもよい。
駆動信号COMは、図1のように駆動信号生成部14で生成されて、ケーブル20、ヘッド制御部HCを経由して第1圧電素子PZT(1)、第2圧電素子PZT(2)、第3圧電素子PZT(3)へと伝えられる。また、クロック信号SCK、ラッチ信号LAT、チャンネル信号CH、駆動パルス選択データSI&SPを含む制御信号は、図1のように制御信号生成部15で生成されて、ケーブル20を経由して、ヘッド制御部HCにおける制御に用いられる。
2.プリンターの構成
図2はプリンター1の概略断面図である。図2の例では、用紙Sはロール状に巻かれた連続紙であるとして説明するが、プリンター1が画像を印刷する記録媒体は連続紙に限ら
ず、カット紙でもよいし、布やフィルム等でもよい。
プリンター1は、回転により用紙Sを繰り出す巻軸21と、巻軸21から繰り出された用紙Sを巻き掛けて上流側搬送ローラー対31に導く中継ローラー22と、を有する。そして、プリンター1は用紙Sを巻き掛けて送る複数の中継ローラー32,33と、印刷領域よりも搬送方向の上流側に配設された上流側搬送ローラー対31と、印刷領域よりも搬送方向の下流側に配設された下流側搬送ローラー対34と、を有する。上流側搬送ローラー対31及び下流側搬送ローラー対34は、それぞれ、モーター(不図示)に連結されて駆動回転する駆動ローラー31a,34aと、駆動ローラー31a,34aの回転に伴って回転する従動ローラー31b,34bと、を有する。そして、上流側搬送ローラー対31及び下流側搬送ローラー対34がそれぞれ用紙Sを挟持した状態で駆動ローラー31a,34aが駆動回転することにより用紙Sに搬送力が付与される。プリンター1は、下流側搬送ローラー対34から送られた用紙Sを巻き掛けて送る中継ローラー61と、中継ローラー61から送られた用紙Sを巻取る巻取り駆動軸62と、を有する。巻取り駆動軸62の回転駆動に伴って印刷済みの用紙Sはロール状に順次巻き取られる。なお、これらのローラーや不図示のモーターは、図1の用紙搬送機構30に対応する。
プリンター1は、ヘッドユニット40と、印刷領域にて用紙Sを印刷面の反対側面から支持するプラテン42と、を有する。プリンター1は、複数のヘッドユニット40を備えていてもよい。プリンター1は、例えばインクの色毎にヘッドユニット40を用意してもよく、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のインクを吐出可能な4個のヘッドユニット40を搬送方向に並べる構成であってもよい。なお、以下の説明においては、1つのヘッドユニット40を代表させて説明するが、そのノズルごとにインクの色が割り当てられておりカラー印刷が可能であるものとする。
図3に示すように、ヘッドユニット40では、複数のヘッド41(1)〜41(4)が、用紙Sの搬送方向と交差する用紙Sの幅方向(Y方向)に並んでいる。なお、説明のため、Y方向の奥側のヘッド41から順に小さい番号を付す。また、各ヘッド41における用紙Sとの対向面(下面)では、インクを吐出する多数のノズルNZがY方向に所定の間隔おきに並んでいる。なお、図3では、ヘッドユニット40を上から見たときのヘッド41とノズルNZの位置を仮想的に示す。Y方向に隣り合うヘッド41(例えば、41(1)と41(2))の端部のノズルNZの位置は少なくとも一部が重複しており、ヘッドユニット40の下面では、用紙Sの幅長さ以上に亘って、ノズルNZがY方向に所定の間隔おきに並んでいる。よって、ヘッドユニット40の下を停まることなく搬送される用紙Sに対してヘッドユニット40がノズルNZからインクを吐出することにより、用紙Sに2次元の画像が印刷される。
なお、図3では、紙面の都合上、ヘッドユニット40に属するヘッド41を4個として示しているがこれに限るものではない。つまり、ヘッド41は4個より多くても少なくてもよい。また、図3のヘッド41は千鳥格子状に配置されているが、このような配置に限るものではない。ここで、ノズルNZからのインク吐出方式は、本実施形態では圧電素子PZTに電圧をかけてインク室を膨張・収縮させることによりインクを吐出させるピエゾ方式であるが、発熱素子を用いてノズルNZ内に気泡を発生させ、その気泡によりインクを吐出させるサーマル方式でもよい。
また、本実施形態では、プラテン42の水平な面で用紙Sを支持しているがこれに限らず、例えば、用紙Sの幅方向を回転軸として回転する回転ドラムをプラテン42とし、回転ドラムに用紙Sを巻き掛けて搬送しつつヘッド41からインクを吐出してもよい。この場合、回転ドラムの円弧形状の外周面に沿ってヘッドユニット40が傾斜して配置される。また、ヘッド41から吐出されるインクが、例えば、紫外線を照射することにより硬化
するUVインクである場合には、ヘッドユニット40の下流側に紫外線を照射する照射器を設けてもよい。
ここで、プリンター1は、ヘッドユニット40のクリーニングを行うためにメンテナンス領域を設けている。プリンター1のメンテナンス領域には、ワイパー51と、複数のキャップ52と、インク受け部53が存在する。メンテナンス領域は、プラテン42(すなわち、印刷領域)よりもY方向の奥側に位置し、クリーニング時にヘッドユニット40はY方向の奥側に移動する。
ワイパー51とキャップ52は、インク受け部53で支持され、インク受け部53によってX方向(用紙Sの搬送方向)に移動可能となっている。ワイパー51は、インク受け部53から立設した板状の部材であり、弾性部材や布、フェルト等で形成されている。キャップ52は、弾性部材等で形成された直方体の部材であり、ヘッド41毎に設けられている。そして、ヘッドユニット40におけるヘッド41(1)〜41(4)の配置に合わせて、キャップ52(1)〜52(4)も幅方向に並んでいる。よって、ヘッドユニット40がY方向の奥側に移動するとヘッド41とキャップ52が対向し、ヘッドユニット40が下降すると(又はキャップ52が上昇すると)、ヘッド41のノズル開口面にキャップ52が密着し、ノズルNZを封止することができる。インク受け部53は、ヘッド41のクリーニング時にノズルNZから吐出されたインクを受ける役割も担う。
ヘッド41に設けられたノズルNZからインクが吐出される際には、メインのインク滴と共に微小なインク滴が発生し、その微小なインク滴がミストとして舞い上がり、ヘッド41のノズル開口面に付着する。また、ヘッド41のノズル開口面には、インクだけでなく、埃や紙粉等も付着する。これらの異物をヘッド41のノズル開口面に付着させたまま放置して堆積させてしまうと、ノズルNZが塞がれ、ノズルNZからのインク吐出が阻害されてしまう。そこで、本実施形態のプリンター1では、ヘッドユニット40のクリーニングとしてワイピング処理が定期的に行われる。
3.駆動信号および制御信号
以下に、ケーブル20で伝送されるコントローラー10からの駆動信号COMおよび制御信号の詳細について説明する。まず、ヘッド41の構造を説明し、駆動信号COMおよび制御信号の波形を例示した後に、ヘッド制御部HCの構成について説明する。
3.1.ヘッドの構造
図4は、ヘッド41の構造を説明するための図である。図4には、ノズルNZ、圧電素子PZT、インク供給路402、ノズル連通路404、及び、弾性板406が示されている。インク供給路402、ノズル連通路404はキャビティCAに対応する。
インク供給路402には、不図示のインクタンクからインク滴が供給される。そして、インク滴はノズル連通路404に供給される。圧電素子PZTには、駆動信号COMの駆動パルスPCOMが印加される。駆動パルスPCOMが印加されると波形に従って圧電素子PZTが伸縮(変位)し、弾性板406を振動させる。そして、駆動パルスPCOMの振幅に対応する量のインク滴がノズルNZから吐出されるようになっている。このようなノズルNZ、圧電素子PZT等からなるアクチュエーター部が図3のように並んで、ノズル列を有するヘッド41を構成している。
3.2.信号の波形
図5は、駆動信号生成部14からの駆動信号COMおよびドット形成に用いられる制御信号を説明するための図である。駆動信号COMは、圧電素子PZTに印加されて液体を噴射させる単位駆動信号としての駆動パルスPCOMを時系列的に接続したものであり、
駆動パルスPCOMの立ち上がり部分がノズルに連通するキャビティCAの容積を拡大して液体を引込む段階であり、駆動パルスPCOMの立下がり部分がキャビティCAの容積を縮小して液体を押出す段階であり、液体を押出した結果、液体がノズルから噴射される。
この電圧台形波からなる駆動パルスPCOMの電圧増減傾きや波高値を種々に変更することにより、液体の引込量や引込速度、液体の押出量や押出速度を変化させることができ、これにより液体の噴射量を変化させて異なる大きさのドットを得ることができる。従って、複数の駆動パルスPCOMを時系列的に連結する場合でも、そのうちから単独の駆動パルスPCOMを選択して圧電素子PZTに印加し、液体を噴射したり、複数の駆動パルスPCOMを選択して圧電素子PZTに印加し、液体を複数回噴射したりすることで種々の大きさのドットを得ることができる。即ち、液体が乾かないうちに複数の液体を同じ位置に着弾すると、実質的に大きな液体を噴射するのと同じことになり、ドットの大きさを大きくすることができる。このような技術の組合せによって多階調化を図ることが可能となる。なお、図5の左端の駆動パルスPCOM1は、駆動パルスPCOM2〜PCOM4とは異なり、液体を引込むだけで押出していない。これは、微振動と呼ばれ、液体を噴射せずにノズルの増粘を抑制防止したりするのに用いられる。
ヘッド制御部HCには、駆動信号生成部14からの駆動信号COMの他、制御信号生成部15からの制御信号として、クロック信号SCK、ラッチ信号LAT、チャンネル信号CH、駆動パルス選択データSI&SPが入力される。このうち、ラッチ信号LAT、チャンネル信号CHは、駆動信号COMのタイミングを定める制御信号であり、図5のように、ラッチ信号LATで一連の駆動信号COMが出力され始め、チャンネル信号CH毎に駆動パルスPCOMが出力されることになる。駆動パルス選択データSI&SPは、インク滴を吐出させるべきノズルに対応した圧電素子PZTを指定する画素データSI(SIH、SIL)及び駆動信号COMの波形パターンデータSPを含む。SIH、SILは、それぞれ、2ビットの画素データSIの上位ビット、下位ビットに対応する。
3.3.ヘッド制御部
図6は、ヘッド制御部HCの構成を説明するブロック図である。ヘッド制御部HCは、液体を噴射させるノズルに対応した圧電素子PZTを指定するための駆動パルス選択データSI&SPを保存するシフトレジスター211と、シフトレジスター211のデータを一時的に保存するラッチ回路212と、ラッチ回路212の出力をレベル変換して選択スイッチ201に供給することにより、駆動信号COMの電圧を圧電素子PZTに印加するレベルシフター213を備えて構成されている。
シフトレジスター211には、駆動パルス選択データSI&SPが順次入力されると共に、クロック信号SCKの入力パルスに応じて記憶領域が初段から順次後段にシフトする。ラッチ回路212は、ノズル数分の駆動パルス選択データSI&SPがシフトレジスター211に格納された後、入力されるラッチ信号LATによってシフトレジスター211の各出力信号をラッチする。ラッチ回路212に保存された信号は、レベルシフター213によって次段の選択スイッチ201をオンオフできる電圧レベルに変換される。これは、駆動信号COMが、ラッチ回路212の出力電圧に比べて高い電圧であり、これに合わせて選択スイッチ201の動作電圧範囲も高く設定されているためである。従って、レベルシフター213によって選択スイッチ201が閉じられる圧電素子PZTは駆動パルス選択データSI&SPの接続タイミングで駆動信号COM(駆動パルスPCOM)に接続される。
また、シフトレジスター211の駆動パルス選択データSI&SPがラッチ回路212に保存された後、次の印刷情報をシフトレジスター211に入力し、液体の噴射タイミン
グに合わせてラッチ回路212の保存データを順次更新する。なお、この選択スイッチ201により、圧電素子PZTを駆動信号COM(駆動パルスPCOM)から切り離した後も、当該圧電素子PZTの入力電圧は、切り離す直前の電圧に維持される。
3.4.駆動信号
図7は、駆動信号COMの生成までの流れを説明する図である。上記のように、図7の元駆動信号生成部25の一部、信号変調部26、信号増幅部28(デジタル電力増幅回路)、信号変換部29(平滑フィルター)は駆動信号生成部14に対応している。元駆動信号生成部25は、インターフェース部11からの印刷データ111に基づいて例えば図7のような元駆動信号125を生成する。
元駆動信号生成部25は、後述するようにCPU12、DAC39等を含み、CPU12が印刷データ111に基づいて元駆動データを選択して、DAC39に出力することで元駆動信号125を生成する。
信号変調部26は、元駆動信号生成部25からの元駆動信号125を受け取ると、所定の変調を行って変調信号126を生成する。後述するように、本実施形態では所定の変調としてエラーアンプ37(誤差増幅器)を用いる変調を行うが、その基本変調動作はパルス密度変調(Pulse-Density Modulation、PDM)と同じである。なお、所定の変調として、例えばパルス幅変調(Pulse-Width Modulation、PWM)といった他の変調方式が用いられてもよい。
信号増幅部28は、変調信号126を受け取って電力増幅を行い、信号変換部29は、増幅変調信号128を平滑化してアナログの駆動信号COMを生成する。
ここで、図7に示した機能ブロックについて詳細な構成を説明する。図8は、本実施形態のプリンター1の駆動信号生成部14等の詳細ブロック図である。図8には、駆動信号生成部14が生成する駆動信号COMを受け取るヘッドユニット40も示されている。
元駆動信号生成部25は、デジタル電位データなどで構成される元駆動信号125の元駆動データを記憶するメモリー13と、インターフェース部11からの印刷データ111に基づいてメモリー13から元駆動データを読み込むCPU12と、CPU12から出力される電圧信号をアナログ変換して元駆動信号125として出力するDAC39と、を含む。
信号変調部26は、基本変調動作がパルス密度変調方式(以下、PDM方式)と同じである変調信号126を生成する回路であって、誤差を増幅するエラーアンプ37と比較器35とを含む。
ここで、PDM方式は、出力波形と入力波形を比較することで自励発振させパルス密度を変調させるものである。通常、PDM方式での変調を実現する回路は、積分回路、比較器および遅延器で構成されており、基本的な構成は一般的に知られているΔΣ変調器と同じである。ΔΣ変調とは信号を量子化するA/D変換の一つである。ΔΣ変調はオーバーサンプリングとノイズシェーピングといった2つの特性により量子化器(比較器)で発生する誤差、すなわち量子化ノイズを入力信号より高い周波数帯域にシフトさせるため、低域信号に対する精度が良く、高周波数帯域にシフトした量子化ノイズを広帯域に分布させる。そして、入力信号レベルに対応してパルス周波数が変化する。
本実施形態の信号変調部26では、変調信号126が信号増幅部28等を経由して帰還する経路が遅延器に対応する。また、信号変調部26は、PDM方式の変調回路で用いら
れることが多い積分器の代わりに2つの入力信号の差を増幅するエラーアンプ37を使用する。このとき、信号変調部26への帰還信号は、増幅変調信号128ではなく駆動信号COMであり、駆動信号COMと元駆動信号125との差に基づいて量子化が行われる。本実施形態の信号変調部26は、積分器が不要であるため遅延時間(遅延要素)を小さくすることができ、変調処理の高速化を図ることができる。また、信号変調部26は、駆動信号COMの元駆動信号125に対する位相遅れを、例えばエラーアンプ37の位相進み補正によって減少させることができる。遅延要素を小さくすることで発振周波数が上がるので、信号変調部26は波形再現性の高い変調を行うことができる。
信号増幅部28は、デジタル電力増幅回路であって、実質的に電力を増幅するためのハイサイド側のスイッチング素子QH及びローサイド側のスイッチング素子QLからなるハーフブリッジ出力段と、信号変調部26からの変調信号126に基づいて、ハイサイド側のスイッチング素子QH、ローサイド側のスイッチング素子QLのゲート入力信号GH、GLを調整するためのゲートドライブ回路38とを備えて構成されている。スイッチング素子QH、QLとしては、例えばパワーMOSFETを用いることができるが、これに限られない。
信号増幅部28では、変調信号126がハイレベルであるとき、ハイサイド側のスイッチング素子QHのゲート入力信号GHはハイレベルとなり、ローサイド側のスイッチング素子QLのゲート入力信号GLはローレベルとなるので、ハイサイド側のスイッチング素子QHはオン状態となり、ローサイド側のスイッチング素子QLはオフ状態となり、その結果、ハーフブリッジ出力段の出力は、供給電圧Vddとなる。一方、変調信号126がローレベルであるとき、ハイサイド側のスイッチング素子QHのゲート入力信号GHはローレベルとなり、ローサイド側のスイッチング素子QLのゲート入力信号GLはハイレベルとなるので、ハイサイド側のスイッチング素子QHはオフ状態となり、ローサイド側のスイッチング素子QLはオン状態となり、その結果、ハーフブリッジ出力段の出力は0となる。
なお、CPU12から出力される増幅指示信号112によって、動作の停止が指示された場合には、ゲートドライブ回路38はハイサイド側のスイッチング素子QH、ローサイド側のスイッチング素子QLを共にオフ状態とする。ハイサイド側のスイッチング素子QH、ローサイド側のスイッチング素子QLを共にオフ状態とすることは、信号増幅部28の動作を停止することと同義であり、電気的には容量性負荷である圧電素子PZTからなるアクチュエーターがハイインピーダンス状態に維持されることになる。
信号変換部29は、平滑フィルターであり、コイルLとコンデンサーCとからなる2次のフィルターを用いている。この信号変換部29によって、信号変調部26で生じた変調周波数、即ちパルス変調の周波数成分を減衰して除去し、駆動信号COMを生成して、ヘッドユニット40へと出力する。
ヘッドユニット40は、ヘッド41を有し、液体を吐出するノズルに対応して多くの圧電素子PZTを含む。第1圧電素子PZT(1)、第2圧電素子PZT(2)、第3圧電素子PZT(3)は、全体の圧電素子PZT(例えば数千個)の一部である。ヘッド41はヘッド制御部HCを含み、ヘッド制御部HCは圧電素子PZTのそれぞれに駆動信号COMの電圧を印加するかを選択する選択スイッチ201を含んでいる。なお、図8では、キャビティCA、ノズルNZ、ヘッド制御部HCの選択スイッチ201以外の機能ブロック(例えばシフトレジスター211等、図6参照)の図示を省略している。
以上に説明したように、コイルLは、信号増幅部28(デジタル電力増幅回路)からの増幅変調信号128を平滑化して駆動信号COMを生成するのに用いられるが、一般に、
デジタル電力増幅回路からの増幅変調信号128を平滑化するのに用いられるコイルの発熱・損失は、液体噴射型印刷装置の全体の発熱・消費電力で大きな部分を占める傾向がある。よって、発熱・損失を抑えたコイルを選択することは、液体噴射型印刷装置の設計における1つの大きな課題である。
特に、プリンター1では、十分な品質、解像度の印刷物を得るために、MHzオーダーといった高い周波数の増幅変調信号128が用いられることから、コイルLの選択によって消費電力が大きく異なる。そこで、以下において、プリンター1での使用に適しているコイルの選択手法について検討を行う。
4.コイルの選択について
4.1.コア材の種類
一般に、コイルは、電線を円筒形に巻き、円筒の中に何も入れない空芯型コイルとコアに巻線を巻いたコアコイルとに大別できる。コアコイルは磁性材料であるフェライトを使用することが多くフェライトコイルと呼ばれる。空芯型は低歪みであるが損失が大きいためプリンター1の使用に適さない。よって、以下のように、フェライトコイルの中からコア材の異なる複数のコイルを評価し、コイルLに適するコア材の種類を検討した。
コア材としては、Mn−Zn系フェライト(以下、単にMn−Zn系とする)、Ni−Zn系フェライト(以下、単にNi−Zn系とする)、ダストコア系の3種類が一般的である。ここで、ダストコア系とは、コア材として高圧プレスで成型された磁性粉を用いたものである。図9は、上記の3種類のコア材を用いたコイルについてRsを測定したものであり、コア材の種類によるRsの違いを示している。ここで、Rsはコイルの抵抗成分であり、鉄損(コアの損失)に寄与する抵抗成分と銅損(線材の損失)に寄与する抵抗成分とを含む。なお、以下において、「鉄損(コアの損失)に寄与する抵抗成分」を単に「鉄損(コアの損失)」と、「銅損(線材の損失)に寄与する抵抗成分」を単に「銅損(線材の損失)」と表現することがある。また、抵抗成分としてはコイルの直流抵抗(例えば2mΩ程度)もあるが、Rsに比べて十分(例えば2桁)小さいので、検討の対象からは除外してよい。
図9のように、Mn−Zn系のコア材を用いたコイル(以下、単にMn−Zn系コイルともいう)は、Ni−Zn系のコア材を用いたコイル(以下、単にNi−Zn系コイルともいう)やダストコア系のコア材を用いたコイル(以下、単にダストコア系コイルともいう)よりも、Rsの値が大きい。詳細は後述するが、Rsが大きいと渦電流損を小さくできるため、コイルLとしてMn−Zn系コイルを選択することが好ましい。
また、コア材の種類による他の特徴として、Ni−Zn系コイルは飽和磁束密度が低いことが挙げられる。このことは、所望のインダクタンス値を得るのに、他の種類のコイルに比べて例えば巻数を増やす必要があることを意味する。しかし、プリンター1では小型のコイルLが使用されるため、巻数を大幅に増加させることは困難である。よって、飽和磁束密度の観点からNi−Zn系コイルはプリンター1のコイルLとして適切とは言えない。そして、Mn−Zn系コイルとダストコア系コイルとを比較すると、一般にダストコア系コイルは渦電流損が比較的大きい傾向がある。そのため、渦電流損を十分に抑えたダストコア系コイルが使用可能でない限り、Mn−Zn系コイルを選択することが好ましいと言える。
ここで、図9のRsの値は、4MHz動作、すなわち周波数4MHzのパルス信号をMn−Zn系コイル、Ni−Zn系コイル、ダストコア系コイルにそれぞれ与えた場合の評価結果である。増幅変調信号128の交流成分の周波数帯域は1MHz以上かつ8MHz未満であるが、この周波数帯域において、Mn−Zn系コイルのRsの値が相対的に大き
いことは変わらない。
なお、増幅変調信号128の交流成分の周波数帯域が1MHz以上であるのは、以下の理由による。図15のCOMAは、元駆動信号125におけるパルス波形(例えば、図5のPCOM2に対応する元駆動信号125の一部の波形)について周波数スペクトル解析をした結果を表す。図15によると、約10kHz〜400kHz程度の周波数が含まれていることが知られている。デジタル電力増幅回路である信号増幅部28で増幅して駆動信号COMを得るためには、最低でも元駆動信号125に含まれる周波数成分の10倍以上のスイッチング周波数で信号増幅部28を駆動させる必要がある。もし、元駆動信号125に含まれる周波数スペクトルに比して、信号増幅部28のスイッチング周波数が10倍未満である場合、元駆動信号125に含まれる高周波スペクトル成分を変調し増幅することができず、駆動信号COMの角(エッジ)が鈍り丸くなってしまう。駆動信号COMが鈍ると波形の立ち上り、立ち下りエッジに応じて動作する圧電素子PZTの動きが緩慢になり、ノズルNZからの吐出量が不安定になったり、吐出しなかったりする可能性がある。つまり、不安定な駆動が発生してしまう虞がある。ここで、図15によると、元駆動信号125におけるパルス波形の高周波スペクトル成分は、約60kHzにピークを有し、多くの成分が100kHz未満にある。そのため、最低でも100kHzの10倍である1MHz程度のスイッチング周波数で信号増幅部28を駆動させることが望ましい。
ここで、元駆動信号125に含まれる周波数成分は、吐出させるインク滴の大きさや、印刷ドットのサイズに応じた元駆動信号125の波形によって異なる。例えば図15のスペクトル解析で用いた元駆動信号125の一部の波形は、標準よりも小さいサイズのインク滴を吐出させるための元駆動信号125であるため、図15のように振動幅が約2V程度と小さくなっている。このように、小さいサイズのインク滴を吐出させるためには、圧電素子PZTを急峻に動かし少量のインク滴を吐出させる。そのための駆動信号COMは、高周波スペクトル成分を多く含む必要があるゆえ、また、高速印刷を行うためには、圧電素子PZTを速く動かさなければいけない都合上、高周波スペクトル成分を多く含む必要がある。つまり、高速高画質印刷を追求すればするほど、要求される最低限度の周波数は高くなる傾向にある。なお、本実施形態における駆動信号COMは一般的な家庭およびオフィスでの使用を目的とした設計されたものであって、180個の圧電素子PZTを用いて5760×1440dpi程度のA4サイズの印刷物を毎分5枚程度印刷することを想定して設計されたものである。
また、増幅変調信号128の交流成分の周波数帯域が8MHz未満であるのは、以下の理由による。スイッチング周波数が高い場合、圧電素子PZTを駆動させるような高圧かつ高周波でスイッチングを行おうとするとスイッチング用のトランジスター(QH、QL)の構造上の理由から、接合容量が増加しそれに起因するノイズが発生したり、高周波駆動によるスイッチング損失が増加したり、など種々の問題が発生してしまう。特に、スイッチング損失の増加は大きな問題となり得る。つまり、スイッチング損失の増加は、デジタル電力増幅回路(デジタルアンプ)がAB級アンプと比して優位性を確保している省電力性・省発熱性と言うメリットが損なわれてしまう恐れがあるからである。
本実施形態においては、従来から使用していたアナログアンプ(AB級アンプ)と比した場合、8MHzまでは、デジタルアンプの方が優位であるとの結果が得られたが、それ以上の周波数でトランジスターを駆動させた場合には、AB級アンプの方が優位となることもあり得るからである。
以下に、上記の3種類のうち、Rsが大きいMn−Zn系コイルを選択することが好ましい理由について図10〜図11(B)を参照して説明する。図10は、Rsにおける鉄損と銅損の比率を説明する図である。なお、図10の縦軸(抵抗値)は、対数目盛を使用
している。
上記の通り、Rsは鉄損と銅損とを含むコイルの抵抗成分である。図10の実線で表されるRsは、インピーダンスアナライザーで測定されたデータに基づくものである。プリンター1のコイルLに入力される増幅変調信号128は、プリンター1が印刷を行う通常動作時に、図10のFmin〜Fmaxの範囲の周波数をとり得る。つまり、本実施形態ではFminは1MHzであり、Fmaxは約8MHzである。
ここで、Rsのうち銅損の電気抵抗Rcは、電気抵抗率ρ、導体の長さL、導体の断面積S0を用いて式(1)で求められる。
図10の点線で表される銅損は、式(1)のRcを示したものである。よって、図10において、実線のRsと点線の銅損との差が鉄損を表す。ここで、縦軸(抵抗値)が対数目盛であることから、周波数がFmin〜Fmaxの範囲において、鉄損≫銅損の関係があり、プリンター1におけるコイルLの損失は鉄損が支配的である。
ここで、鉄損(W)はヒステリシス損(Wh)と渦電流損(We)との総和であり、下記の式(2)のように表すことができる。
式(2)において、Bmは磁束密度、Kh、Ke1、η1、η2はそれぞれ定数であり、fはコイルLの信号の周波数である。ヒステリシス損(Wh)はコア内の磁界の向きが変化する際に発生する損失である。磁場変化回数に比例して生じるため、ヒステリシス損(Wh)は周波数(f)に比例する。一方、渦電流損(We)はコア内の磁界の変化により電磁誘導で起電力が発生し、コアに誘導電流が流れることで起こる損失である。コアに流れる渦電流の大きさは,磁場の変化速度,つまり周波数(f)に比例する。それに周波数(発生回数)を乗じるため,渦電流損は周波数(f)の2乗に比例することになる。
図11(A)は、ヒステリシス損と渦電流損の比率を説明する図であり、上記の式(2)に基づくものである。プリンター1は、高い周波数範囲(Fmin〜Fmax)で使われる増幅変調信号128を用いる。そのため、図11(A)のように、同範囲では周波数(f)の2乗に比例する渦電流損が支配的であり、鉄損のほとんどは渦電流損であると言える。
図11(B)は渦電流ECを説明するための図である。コアCMの内部の磁界(図11(B)の点線)の変化により電磁誘導で起電力が発生することにより生じる。ここで、渦電流損を抑えるためには、渦電流を小さくすること、つまり、電気抵抗の大きいコアCMの材料を選択することが必要である。よって、Mn−Zn系コイル、Ni−Zn系コイル、ダストコア系コイルのうちで、抵抗成分であるRsが大きいMn−Zn系コイルを選択することにより、渦電流損を抑えることができる。上記のように、高い周波数範囲で使われる増幅変調信号128を用いるプリンター1では、銅損よりも鉄損、そして、鉄損のうちでも渦電流損が支配的である。よって、コイルLとしてMn−Zn系コイルを選択することにより、最も支配的な渦電流損を抑えることができるため、コイルLの発熱・損失を抑制し、低消費電力のプリンター1を提供することができる。
4.2.コイルの選択
4.2.1.選択基準
ここで、プリンター1のコイルLは、増幅変調信号128を平滑化するためのフィルターを構成するものであるが、選択の幅があることが通常である。例えば、図12(A)に示すように、いずれもMn−Zn系コイルであるコイルL1、L2、L3があり、いずれも所望のフィルター特性を満たすことができるとする場合、いずれが最適であるかを示す基準があることが好ましい。以下では、コア材の種類以外の選択の基準について検討する。
図12(A)、図12(B)はMn−Zn系コイルのRsと消費電力との相関関係を説明するための図である。図12(A)は、Mn−Zn系コイルである3つのコイルL1、L2、L3のそれぞれのRsを測定した結果を示している。図12(A)のように、コイルL1、L2、L3の順にRsが高くなっている。そして、図12(B)に示すように、消費電力についてもコイルL1、L2、L3の順に高くなっている。つまり、実験により、Mn−Zn系コイルについては、抵抗成分であるRsと消費電力については、正の相関関係があるという結果が得られた。
なお、図12(A)、図12(B)は、ともに4MHz動作のときの測定値を示すものであるが、Fmin〜Fmaxの範囲の動作において上記の相関関係は変わらない。また、さらにサンプルを増やして検証した結果、4MHz動作において、Rsが200mΩ未満のコイルを選択した場合に、発熱・損失が小さくなり良好な結果が得られた。
したがって、Mn−Zn系コイルについては、Rsが200mΩ未満であることを選択基準とすることで、適切なコイルを選ぶことが可能である。この選択基準に従うと、コイルL1、L2、L3のうち、図12(A)のようにRsが200mΩ未満であるコイルL1を選択することが好ましい。
4.2.2.調整手法
次に、上記の選択基準を満たすコイルがない場合について検討する。例えばコイルL1のようなコイルはないが、巻数やコアギャップCGを調整可能なコイルL2が使用可能であるような場合を想定する。
上記のように、周波数がFmin〜Fmaxの範囲において、鉄損≫銅損の関係があり、鉄損としては渦電流損が支配的である。ここで、上記の式(2)において、定数η2は具体的には“2”であり、渦電流損(We)は磁束密度(Bm)の2乗に比例する。そのため、渦電流損(We)を下げるためには、磁束密度(Bm)を下げることが有効である。
磁束(Φ)、磁束密度(Bm)、インダクタンス値(VL)は、それぞれ、以下の式(3)、式(4)、式(5)で表される。
式(3)〜式(5)において、Iはコイルに流れる電流、Nは巻数、S1はコアの断面
積、kはコイルの形状によって定まる比例定数、μeは実効透磁率である。式(3)〜式(5)によると、コイルに対する以下のような調整により、磁束密度(Bm)を下げることが可能である。
まず、インダクタンス値(VL)またはコイルに流れる電流(I)を下げることで、磁束密度(Bm)を下げることが可能である。しかし、インダクタンス値(VL)とコイルに流れる電流(I)とは反比例の関係にあるため、一方を変化させても他方が打ち消してしまうために、磁束密度(Bm)を下げる効果は薄い。
また、コアの断面積(S1)を増加させることで、磁束密度(Bm)を下げることが可能である。しかし、コイルの実装面積の増加、コイル設計の自由度低下など、設計上の制約が多くなり現実的ではない。
そこで、実効透磁率(μe)を下げることで、磁束密度(Bm)を下げる調整手法が考えられる。実効透磁率(μe)は、例えば、コイルのコアギャップCGの変化に伴って変化する。
図13(A)はコイル(上記のコイルL2に対応)の外観平面図、図13(B)はそのA−A断面図である。図13(A)、図13(B)のように、コアCMの周りに線材がまかれたコイル本体が、上部パッケージPu、側部パッケージPs、底部パッケージPbで囲まれた構造となっている。なお端子T1、T2はコイルの線材の両端に接続されている。図13(B)のように、コアCMと上部パッケージPuとの間隔がコアギャップCGである。
図13(C)は、コアギャップCGを広げた場合を表すA−A断面図である。このとき、コアギャップCGが広がると実効透磁率(μe)が下がり、磁束密度(Bm)も下がることになる。
しかし、上記の式(5)の通り、巻数(N)の増加はインダクタンス値(VL)を変化させてしまう。インダクタンス値(VL)が変化すると平滑化フィルターの特性が変わる可能性がある。そこで、巻数(N)を増やして、インダクタンス値(VL)を保つように、同時に調整することが好ましい。図13(C)では、図13(B)の状態と比べて、コアギャップCGを広げた上で、巻数を2ターンから3ターンに増やすことで、インダクタンス値(VL)を保つように調整している。
図14は、コアギャップCG、コイルの巻数の違いによる、周波数−Rs特性の変化を例示する図である。点線で示された特性曲線CC0は、コアギャップCGと巻数の調整をする前のコイル(上記のコイルL2に対応)の特性を表している。このとき、コイルのRsは、4MHz動作で、上記の選択基準である200mΩ未満を満たしていない。
そして、図14の実線で示された特性曲線CC2は、コアギャップCGを1.1mmまで拡張した場合における特性を表している。このとき、磁束密度(Bm)の低下に伴って、Rsが4MHz動作で200mΩ未満まで低下している。しかし、インダクタンス値(VL)も低下しているため、インダクタンス値(VL)をコアギャップCGの拡張前と同じに保つ調整が必要である。
図14の細かい点線で示された特性曲線CC1は、さらに巻数を3ターンに増やして、インダクタンス値(VL)をコアギャップCGの拡張前と同じにした場合の特性を表している。この場合でも、Rsが4MHz動作で200mΩ未満まで低下しており、コイルの発熱・損失を十分に小さくすることができる。
以上のように、上記の選択基準を満たさないコイルに対しても、コアギャップCGを1.1mm以上に広げる調整を行うことで、Rsを十分に低下させることができる。また、巻数を3ターン以上に増やすことによって、インダクタンス値(VL)を保つ調整が可能であり、この調整を行ってもRsが十分に低い(200mΩ未満)状態を保つことができる。つまり、上記の調整手法によって、平滑化フィルターの特性に影響を与えることなく、Rsを十分に低下させることができる。
ここで、本実施形態では、Mn−Zn系コイルであることを前提に上記の調整手法を説明しているが、Mn−Zn系コイルに限らず他の種類のコイル(例えばNi−Zn系コイル)にも適用可能である。上記の式(3)〜式(5)は、コイルの種類に依存するものではなく、上記の調整手法は式(3)〜式(5)に基づく検討により導かれたものであるから、Mn−Zn系コイルに限らず他の種類のコイルに対しても適用可能である。
以上に述べたように、プリンター1のような高い周波数の増幅変調信号128が用いられる液体噴射型印刷装置において、増幅変調信号128を平滑化する際の発熱・損失を抑えることができる変換効率の高いコイルが選択可能である。まず、Mn−Zn系コイルを選択することで、鉄損の多くを占める渦電流損を抑えて発熱・損失を小さくできる。また、4MHz動作時のRsが200mΩ未満であるとの選択基準を用いることで、Rsと消費電力の相関関係に基づいて発熱・損失の小さいコイルを選択できる。また、コアギャップCGを1.1mm以上に広げる調整をする、またはそのようなコイルを選択することで、渦電流損を抑えて発熱・損失を小さくできる。このとき、巻数を3ターン以上に増やす調整も行う、またはそのようなコイルを選択することでインダクタンス値を保つことができ、フィルター特性にも影響を与えない。そして、このようなコイルを用いることで、低消費電力の液体噴射型印刷装置等を提供することができる。
なお、本実施形態は、ラインヘッド方式の液体吐出装置に限らず(例えばシリアルヘッド方式の液体吐出装置でも)、高い周波数の増幅変調信号128が用いられる液体噴射型印刷装置であれば、同様の効果を得られるものである。
5.その他
本発明は、上記の実施例および適用例で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施例等で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施例等で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施例等で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。