以下、添付の図面を参照しつつ本発明の実施形態を具体的に説明する。
まず、図1を参照しつつ、本発明に係る土壌浄化方法を用いる土壌浄化施設の概略構成を説明する。図1に示すように、敷地Rに設置された土壌浄化施設Sは、混合部1と、分級部2と、沈降分離部3と、濾過部4と、キレート剤再生部5と、キレート剤補充部6とを備えている。そして、敷地Rの外に、土壌浄化施設Sのためのキレート剤回収装置Tが設けられている。
混合部1は、礫と砂と細粒土(シルト及び/又は粘土)とを含み、かつ有害金属等(有害金属及び/又はその化合物)で汚染された土壌と、キレート剤を含む洗浄水とを混合し、該土壌に付着している有害金属等を該土壌から離脱させてキレート剤に捕捉させる。分級部2は、混合部1から排出された土壌と洗浄水の混合物を受け入れ、該混合物から粗骨材(礫)及び砂を分離する。沈降分離部3は、分級部2から排出された細粒土を含む洗浄水を、沈降分離により、上澄水と、細粒土を含むスラッジとに分離する。濾過部4は、沈降分離部3から排出されたスラッジを濾過するとともに、この濾過により生じた濾過ケークにすすぎ水を散布又は噴射し、この濾過ケークに含まれているキレート剤を洗い流す。キレート剤再生部5は、沈降分離部3から排出された上澄水(洗浄水)を受け入れ、上澄水(洗浄水)中の有害金属等を捕捉しているキレート剤から有害金属等ないしはこれらのイオンを除去してキレート剤を再生する。キレート剤補充部6は、キレート剤の目減り分を補充して洗浄水のキレート剤濃度が予め設定された値に維持されるように、洗浄水にキレート剤を供給する。
後で詳しく説明するように、キレート剤再生部5は、キレート剤より錯生成力が高く上澄水と接触したときに有害金属等ないしはこれらのイオンを吸着する固相吸着材を有し、上澄水中のキレート剤から有害金属等ないしはこれらのイオンを除去して上澄水を洗浄水として再生するとともに、キレート剤を再生する。固相吸着材は、担体に環状分子を担持させ、該環状分子にキレート配位子を修飾した配位結合及び水素結合による多点相互作用を有するとともに有害金属等ないしはこれらのイオンを選択的に取り込むものである。なお、固相吸着材に吸着された有害金属等ないしはこれらのイオンは、酸液により除去することができるので、固相吸着材の再生は容易である。
キレート剤回収装置Tは、濾過ケークを洗浄し濾過部4から排出された洗浄廃水からキレート剤を回収する。具体的には、キレート剤回収装置Tは、敷地Rに降下した雨水を濾過部4に濾過ケークのすすぎ水として供給する雨水供給部7と、濾過部4から排出された洗浄廃水からキレート剤を回収するキレート剤回収部8とを有する。
次に、図2を参照しつつ、土壌浄化施設Sの具体的な構成を説明する。図2に示すように、土壌浄化施設Sにおいては、まず、有害金属等(有害金属及び/又はその化合物)で汚染され、場合によってはその他の汚染物質(例えば、フッ素、ホウ素、シアン等の第二種特定有害物質)で汚染された地盤の掘削等により採取された土壌(汚染土壌)が、投入ホッパ11に受け入れられる。そして、投入ホッパ11内の土壌はまず混合装置12(混合部)に導入され、混合装置12内で、キレート剤を含む洗浄水と混合される。ここで、土壌は、細粒土(粒径が0.075mm以下のシルト又は粘土)と礫と砂とを含み、場合によっては石を含むものである。混合装置12内では、土壌に付着している有害金属等が該土壌から離脱させられ、キレート剤によって捕捉される。
投入ホッパ11内の土壌は有害金属等で汚染され、場合によってはさらにその他の汚染物質で汚染されている。有害金属等としては、例えばクロム、鉛、カドミウム、セレン、水銀、金属砒素及びこれらの化合物などが挙げられる。その他の汚染物質としては、例えば、フッ素又はその化合物、ホウ素又はその化合物、シアン化合物等の第二種特定有害物質などが挙げられる。
混合装置12で生成された土壌と洗浄水の混合物(以下「土壌・水混合物」という。)は湿式のミルブレーカ13に移送される。ミルブレーカ13としては、例えばロッドミルを用いることができる。ミルブレーカ13は、石あるいは礫に衝撃力、剪断力、摩擦力等を加えてこれを破砕する。その際、石、礫等に付着し又は含まれている有害金属等あるいはその他の汚染物質は剥離又は除去され、洗浄水中に離脱する。土壌の表面から離脱した有害金属等あるいはその他の汚染物質ないしはこれらのイオンは、洗浄水中のキレート剤によって捕捉される。なお、土壌の状態によっては(例えば、土壌が石を含まない場合)は、ミルブレーカ13を省略してもよい。
キレート剤としては、例えば、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、HIDS(3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸)、IDS(2,2’−イミノジコハク酸)、MGDA(メチルグリシン二酢酸)、EDDS(エチレンジアミンジ酢酸)又はGLDA(L−グルタミン酸ジ酢酸)のナトリウム塩などを用いることができる。キレート剤は、土壌に付着している有害金属等ないしはこれらのイオンを捕捉する(キレートする)。土壌を処理する際には、土壌に含まれる有害金属等の種類に応じて、該処理に適したキレート剤が選択される。洗浄水中のキレート剤の濃度は、高ければ高い程有害金属等ないしはこれらのイオンの捕捉量が増えるが、実用上は0.005〜0.1モル/リットルの範囲、好ましくは0.01〜0.05モル/リットルの範囲に設定される。
ミルブレーカ13から排出された土壌・水混合物(ミルブレーカ13を設けない場合は、混合装置12から排出された土壌・水混合物)はトロンメル14に導入される。トロンメル14は、洗浄水を貯留することができる受槽と、水平面に対して傾斜して配置された略円筒形のドラムスクリーンとを有する湿式の篩分装置であって、ドラムスクリーンは、モータによりその中心軸まわりに回転することができる。また、ドラムスクリーン内に、洗浄水をスプレー状で噴射することができる。
トロンメル14の回転しているドラムスクリーンの内部を土壌・水混合物が流れる際に、ドラムスクリーンの網目より細かい土壌粒子は、洗浄水とともにドラムスクリーンの網目を通り抜け、ドラムスクリーン外に出て受槽内に入る。他方、ドラムスクリーンの網目より粗い土壌粒子は、ドラムスクリーンの下側の開口端を経由して、ドラムスクリーン外に排出される。トロンメル14内では、土壌・水混合物中の土壌粒子同士が互いに擦れ合うので、土壌粒子の表面に残留・付着している有害金属等あるいはその他の汚染物質が剥離され、洗浄水中に離脱させられる。洗浄水中に離脱した有害金属等あるいはその他の汚染物質ないしはこれらのイオンは、洗浄水中のキレート剤によって捕捉される。
この実施形態では、トロンメル14のドラムスクリーンの網目の分級径(目開き)は、粒径が2mm未満の土壌粒子がドラムスクリーンの網目を通り抜けるように設定されている。したがって、このトロンメル14では、粒径が2mm以上の土壌粒子(礫)が土壌・水混合物から分離ないしは回収される。粒径が2mm以上の土壌粒子(礫)は、ほとんど汚染物質を含まない。このため、トロンメル14で分離された粒径が2mm以上の土壌粒子(礫)は、例えばコンクリート用の骨材ないしは粗骨材として用いることができる。なお、トロンメル14のドラムスクリーンの網目の寸法(目開き)は前記のものに限定されるわけではなく、得ようとする比較的粒径が大きい土壌粒子の粒径に応じて、任意に設定することができる。
トロンメル14の受槽内に収容された粒径が2mm未満の土壌粒子と洗浄水とを含む土壌・水混合物はサイクロン15に導入される。サイクロン15は、土壌・水混合物を、比較的粒径が小さい(例えば0.075mm未満)細粒土と洗浄水の混合物と、比較的粒径が大きい(例えば0.075mm以上)土壌粒子とに分離する。そして、細粒土と洗浄水の混合物(以下「細粒土含有水」という。)はサイクロン15の上端部から排出され、比較的粒径が大きい土壌粒子はサイクロン15の下端部から排出される。ここで、細粒土含有水はシールタンク16(中間貯槽)に一時的に貯留される。細粒土含有水に含まれる細粒土は、例えばその粒径が0.075mm未満のシルト又は粘土である。
他方、サイクロン15の下端部から排出された比較的粒径が大きい土壌粒子はサンドクリーン17に導入される。この比較的粒径が大きい土壌粒子は、例えばその粒径が0.075〜2mmの砂である。サンドクリーン17は、所定の圧力及び水量で洗浄水を流動させて、比較的粒径が大きい土壌粒子すなわち砂にすすぎ洗浄処理を施すとともに、残留している浮遊物ないしは異物を除去する。この砂は、汚染物質をほとんど含んでいないので、再生砂(洗い砂)として使用され、あるいは販売される。サンドクリーン17から排出された洗浄水は、フィードタンク18(中間貯槽)に一時的に貯留される。
シールタンク16に貯留された細粒土含有水はPH調整槽19に導入される。また、フィードタンク18に一時的に貯留された洗浄水もPH調整槽19に導入され、細粒土含有水に加えられる。そして、PH調整槽19では、細粒土含有水のpH(水素指数)が、pH調整剤、例えば酸性液(例えば、硫酸、塩酸等)及びアルカリ性液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液等)を用いて、ほぼ中性又は所定のpH(例えば、pH7〜8)となるように調整される。
PH調整槽19でpHが調整された細粒土含有水は凝集槽20に導入される。凝集槽20では、細粒土含有水にポリ塩化アルミニウム液(PAC)と、高分子凝集剤と、pH調整剤(酸性液又はアルカリ性液)とが添加される。これにより、凝集槽20内に非水溶性の金属水酸化物と細粒土とが混在する多数のフロックが生成される。その際、洗浄水中の水質汚濁物質がフロックに吸着され又はフロックに付着する。なお、ポリ塩化アルミニウム液及び高分子凝集剤を、凝集槽20ではなく、pH調整槽19で細粒土含有水に添加してもよい。
凝集槽20内の細粒土含有水は、浮遊物回収装置21により浮遊物が除去された後、シックナ22に導入される。シックナ22は、細粒土含有水がほぼ静止している状態で非水溶性のフロックないしは細粒土を重力により沈降させ、下部に位置するスラッジ層(固形分の比率:5〜10%)と、上部に位置しほとんどフロックないしは細粒土を含まない上澄水(洗浄水)とを形成する。なお、上澄水の表面に浮遊している浮上油は、少量の上澄水をシックナ22の上部から溢流させることにより除去される。
シックナ22の下部に滞留ないしは堆積しているスラッジは、スラッジポンプ等により引き抜かれて中間タンク23に移送され、中間タンク23内に一時的に貯留される。そして、中間タンク23内のスラッジは、スラッジポンプ等により連続的に、濾過ケークすすぎ機構を備えたドラム回転式の真空濾過機24に移送される。真空濾過機24は、中間タンク23から受け入れたスラッジを、連続的に真空濾過(減圧濾過)するとともに、濾過ケークにすすぎ水を散布又は噴射して濾過ケークに含まれているキレート剤を洗い流す。なお、濾過ケークすすぎ機構を備えた真空濾過機24の具体的な構成及び機能は、後で詳しく説明する。かくして、真空濾過機24からは、ほとんどキレート剤を含まない濾過ケーク(土)と、キレート剤を含む濾液と、濾過ケークから洗い流されたキレート剤を含む洗浄廃水とが排出される。濾過ケーク(土)は、有害金属等あるいはその他の汚染物質をほとんど含まず、かつキレート剤をほとんど含まないので、必要に応じて乾燥処理を施した上で、例えば農業用の培土として再利用し、又は販売することができる。濾液はシックナ22に戻される。また、キレート剤を含む洗浄廃水は、後で説明するキレート剤回収部8(図6参照)に送られ、キレート剤が回収される。
他方、シックナ22内の上澄水(洗浄水)は、洗浄水槽25に導入されて貯留される。洗浄水槽25が満杯になったときには予備水槽26が使用される。洗浄水層25ないしは予備水槽26に貯留されている上澄水(洗浄水)はキレート剤再生部5に導入される。なお、洗浄水槽25に貯留されている洗浄水(循環水)が蒸発等により減少したときには、適宜に洗浄水槽25に水道水が補給される。
土壌浄化施設Sにおいては、有害金属等で汚染された土壌が、順に混合装置12とミルブレーカ13とトロンメル14とサイクロン15とサンドクリーン17とで処理される際に、土壌に付着している有害金属等あるいはその他の汚染物質は、キレート剤を含む洗浄水中に離脱するが、洗浄水中に離脱したこれらの汚染物質は、比較的粒径が小さい細粒土の表面に集約される。したがって、トロンメル14で回収される粗骨材、あるいはサンドクリーン17で回収される砂は、ほとんど有害金属等を含まないので、土木・建築用の材料として再使用することができる。
前記のとおり、混合装置12からサンドクリーン17までの流通過程で洗浄水中に離脱した有害金属等あるいはその他の汚染物質は、比較的粒径が小さい細粒土の表面に集約されるが、細粒土は、シールタンク16又はフィードタンク18からシックナ22までの流通過程で、キレート剤を含む洗浄水と、十分に長い時間(例えば、1〜4時間)接触する。このため、細粒土に付着している有害金属等あるいはその他の汚染物質は、ほとんど洗浄水中に離脱する。そして、洗浄水中に離脱した有害金属等あるいはその他の汚染物質ないしはこれらのイオンはキレート剤に捕捉される。したがって、真空濾過機24で生成される濾過ケーク(土)は、有害金属等あるいはその他の汚染物質をほとんど含まず、また前記のとおりキレート剤もほとんど含まないので、乾燥させて利用することができる。
以下、図3を参照しつつ、土壌浄化施設Sのキレート剤再生部5の具体的な構成及び機能を説明する。図3に示すように、キレート剤再生部5には、洗浄剤再生装置として液系流動層装置30が設けられている。液系流動層装置30の内部には、固相吸着材の粒子又は固相吸着材が固定された小片もしくは粒状物(以下、これらを「固相吸着材粒子」と総称する。)が収容され、洗浄水槽25に貯留された再生すべき洗浄水(以下、単に「洗浄水」という。)が下側から上側に向かって流通し、固相吸着材粒子は洗浄水の上昇流によって流動化されるようになっている。液系流動層装置30には略円筒形の外套30a(シェル)が設けられ、その内部において上部に上側多孔板30bが配設される一方、下部に下側多孔板30cが配設されている。下側多孔板30cの下側には、洗浄水を整流する整流部材30dが配設されている。
両多孔板30b、30cは、これらを厚み方向に貫通する多数の貫通孔が形成された円板である。貫通孔の口径は、固相吸着材粒子が通り抜けるのを阻止できる範囲の好ましい値に設定されている。そして、両多孔板30b、30c間の中空部に固相吸着材粒子が収容されている。ここで、固相吸着材粒子の粒径は、液系流動層装置30内を流れる洗浄水の流速に応じて、固相吸着材粒子が動的にサスペンドして流動層を形成することができる範囲の好ましい値に設定されている。また、キレート剤再生部5には、洗浄水(キレート剤)を再生するときに、洗浄水槽25に貯留された洗浄水を液系流動層装置30に移送する一方、液系流動層装置30で再生された洗浄水を洗浄水タンク27に移送するためのポンプ33及び複数の管路34〜37が設けられている。なお、洗浄水タンク27内の再生された洗浄水は、ポンプ31及び管路32により、混合装置12とトロンメル14とサンドクリーン17とに供給(還流)される。
また、キレート剤再生部5には、固相吸着材粒子を再生する際に、酸液タンク28に貯留された酸液を液系流動層装置30に移送する一方、液系流動層装置30から排出された酸液を酸液タンク28に戻すためのポンプ38及び複数の管路39、40が設けられている。さらに、キレート剤再生部5には、酸液で再生された固相吸着材粒子を水洗する際に、水タンク29に貯留された水を液系流動層装置30に移送する一方、液系流動層装置30から排出された水を水タンク29に戻すためのポンプ41及び複数の管路42、43が設けられている。
液系流動層装置30に洗浄水、酸液又は水を移送するための入口側の管路34、35、39、42には、それぞれ、対応する管路を開閉するバルブ44、45、46、47が介設されている。他方、液系流動層装置30から洗浄水、酸液又は水を排出するための出口側の管路36、37、40、43には、それぞれ、対応する管路を開閉するバルブ48、49、50、51が介設されている。これらのバルブ44〜51の開閉状態を切り換えることにより、液系流動層装置30に対して、洗浄水、酸液又は水のいずれかを給排することができる。なお、これらのバルブ44〜51の開閉は、図示していないコントローラによって自動的に制御される。
以下、図3に示すキレート剤再生部5の運転手法の一例を説明する。洗浄水(キレート剤)を再生する際には、管路34〜37に介設されたバルブ44、45、48、49が開かれる一方、その他のバルブ46、47、50、51が閉じられ、ポンプ33が運転される。これにより、洗浄水槽25内の洗浄水が、液系流動層装置30を流通して洗浄された後、洗浄水タンク27に移送される。
液系流動層装置30内では、有害金属等を捕捉しているキレート剤を含む洗浄水が、キレート剤より錯生成力が高い固相吸着材(固相吸着材粒子)と接触させられる。固相吸着材は、担体に環状分子を担持させ、環状分子にキレート配位子を修飾した配位結合及び水素結合による多点相互作用を有するとともに有害金属等のイオンを選択的に取り込むものである。その結果、キレート剤に捕捉されている有害金属等ないしはこれらのイオンがキレート剤から離脱させられ、固相吸着材(固相吸着材粒子)に吸着ないしは抽出される。これにより、洗浄水から有害金属等が除去・回収される一方、キレート剤は再び有害金属等を捕捉することができる状態となり、洗浄水が再生される。
このように再生された洗浄水は、洗浄水タンク27に一時的に貯留された後、ポンプ31及び管路32により、混合装置12とトロンメル14とサンドクリーン17とに還流させられる。つまり、キレート剤を含有する洗浄水は、土壌の浄化とキレート剤の再生とを繰り返しつつ、土壌浄化施設S内を循環する。すなわち、土壌浄化施設Sにおける洗浄水の循環機構はクローズドシステムであり、基本的には外部に排水を排出しない。このようにキレート剤を再生しつつ循環使用するので、基本的にはキレート剤を供給する必要はなく、目減り分を適宜に補充するだけでよい。
キレート剤より錯生成力が高い固相吸着材は、例えばゲル等の固体状のものであり、一般に、金属を捕捉しているキレート剤を含む水溶液と接触したときに、キレート剤と配位結合している金属イオンをキレート剤から離脱させて該固相吸着材に移動させることができる程度の共有結合以外の強い結合力を有しているものである。このような固相吸着材としては、例えばシリカゲルや樹脂等の担体に環状分子を密に担持させ、この環状分子にキレート配位子を修飾させたものなどが挙げられる。このような固相吸着材を用いる場合、隣り合う環状分子及びキレート配位子により、配位結合、水素結合などの複数の様々な結合や相互作用が生じて多点相互作用が生じ、金属イオンに対してキレート剤よりも強い化学結合が生じるとともに環状分子の性状により金属イオンを選択的に取り込むことができる。
このような洗浄水の再生に伴って、固相吸着材における有害金属等の吸着量は経時的に増加してゆくが、固相吸着材の吸着能力には上限がある。このため、固相吸着材における有害金属等の吸着量が飽和状態ないしはその近傍に達したときには、固相吸着材は、固相吸着材再生機構(酸液タンク28、ポンプ38、管路39、35、36、40等)によって再生される。すなわち、固相吸着材再生機構は、洗浄水が排除された状態で液系流動層装置30に酸液を流し、固相吸着材に吸着された有害金属等を酸液により除去して固相吸着材を再生する。かくして、有害金属等が酸液によって回収される一方、固相吸着材は再生されて再び有害金属等ないしはこれらのイオンを吸着又は抽出することが可能な状態となる。なお、固相吸着材は、酸液によって再生された後、水洗機構(水タンク29、ポンプ41、管路42、35、36、43等)によって水洗され、固相吸着材に付着している微量の酸液が除去される。
このように、液系流動層装置30内の固相吸着材の有害金属等の吸着量が飽和状態ないしはその近傍に達して固相吸着材を酸液で再生する際には、管路39、35、36、40に介設されたバルブ46、45、48、50が開かれる一方、その他のバルブ44、47、49、51が閉じられ、ポンプ38が運転される。これにより、酸液タンク28内の酸液が、液系流動層装置30を流通して酸液タンク28に還流する。固相吸着材の再生操作を開始する前には、液系流動層装置30内の洗浄水は排除される。なお、複数の液系流動層装置30を並列に配設すれば、一部の液系流動層装置30への洗浄水の供給が停止されているときでも、洗浄水を連続的に再生することができる。固相吸着材の有害金属等の吸着量が飽和状態ないしはその近傍に達したか否かは、液系流動層装置30から排出された洗浄水中の有害金属等の含有量を検出することにより判定することができる。
液系流動層装置30内に酸液を流す時間は、液系流動層装置30の寸法ないしは形状、固相吸着材粒子の寸法等に応じて好ましく設定される。酸液は、酸液タンク28と液系流動層装置30とを循環して流れる。その際、液系流動層装置30内の固相吸着材は酸液と接触し、固相吸着材に吸着されている有害金属等が酸液中に離脱させられる。すなわち、有害金属等が酸液によって回収される一方、固相吸着材は再生されて再び有害金属等ないしはこれらのイオンを吸着することが可能な状態となる。
また、酸液による固相吸着材の再生が終了した後に固相吸着材を水洗する際には、管路42、35、36、43に介設されたバルブ47、45、48、51が開かれる一方、その他のバルブ44、46、49、50が閉じられ、ポンプ41が運転される。これにより、水タンク29内の水が、液系流動層装置30を流通して水タンク29に還流する。このような固相吸着材(固相吸着材粒子)の水洗操作を開始する前には、液系流動層装置30内の酸液は排除される。水は、水タンク29と液系流動層装置30との間を循環して流れる。その際、液系流動層装置30内の固相吸着材粒子は水と接触し、固相吸着材粒子に付着している酸液が除去される。この後、洗浄水の再生が再開される。
図9に、図2に示す土壌浄化施設Sにより、例えば0.3質量%のキレート剤を含む洗浄水で、1時間あたり100トン(水を含む質量)の土壌を浄化する場合における、土壌浄化施設Sの要所における土壌、水及びキレート剤の流量の具体例を示す。図9に示す例では、100トンの土壌は、25トンの礫等(石及び礫)と、30トンの砂と、25トンの細粒分と、20トンの水とを含み、その含水比は25%である。また、真空濾過機24から排出される濾過ケークないしは土は25トン(乾燥基準)であり、その含水比は40%である。この濾過ケークは、真空濾過機24の濾過ケークすすぎ機構によるすすぎ処理が施されているので、キレート剤を含んでいない。しかしながら、すすぎ処理を施す前は、濾過ケークに含まれていた洗浄水が0.3質量%のキレート剤を含んでいるので、該濾過ケークには0.03(25トン×0.4×0.003=0.03トン)トンのキレート剤が含まれている。このキレート剤は、すすぎ水によって洗い流され、キレート剤回収部8ないしは洗浄廃水蒸発装置81(図6参照)に導入されることになる。なお、土壌浄化施設Sで1.0質量%のキレート剤を含む洗浄水を用いる場合は、図9中の各表におけるキレート剤の流量は、これらの約3.3倍となる。この場合、1時間あたり0.1トンのキレート剤が、キレート剤回収部8(図6参照)に導入されることになる。
以下、図4及び図5を参照しつつ、濾過ケークすすぎ機構を備えた真空濾過機24の具体的な構成及び機能を説明する。
図4に示すように、真空濾過機24は、基本的にはドラム回転式の真空濾過機であり、中間タンク23(図2参照)から供給されるスラッジを収容するスラッジ槽60と、その下部がスラッジ槽60内のスラッジに浸漬される真空ドラム61とを備えている。スラッジ槽60にはスラッジ入口部62を介して連続的にスラッジが供給される一方、所定の高さを有する堰板63を溢流するスラッジは、スラッジ出口部64を介して中間タンク23(図2参照)に還流する。したがって、スラッジ槽60内には、堰板63の高さに対応する一定量のスラッジが保持され、これにより真空ドラム61の浸漬深さがほぼ一定となる。なお、スラッジ槽60には、スラッジ中の細粒土の沈降ないしは偏在を防止するための攪拌機(図示せず)が配設されている。
真空ドラム61はその中心部に、モータを備えた回転駆動機構(図示せず)によって回転させられる回転シャフト65を有し、これにより真空ドラム61は矢印Pで示す方向(反時計回り方向)に一定速度で回転する。そして、真空ドラム61の外周面には濾材66(ないしは濾布)が配設されている。また、真空ドラム61の外周部の内側には、複数の仕切版67により円周方向に互いに仕切られた複数の濾過室68が設けられている。なお、図4では、8つの濾過室68が設けられているが、濾過室68の数はこれより多くても(例えば、16〜32室)よいのはもちろんである(むしろ多い方がよい。)。濾過室68は、それぞれ、各濾過室68に対応する吸引管69を介して、各濾過室68に対応する、回転シャフト65に設けられた吸引通路70に接続されている。また、真空ドラム61の中心を通る水平面Hより上側において、真空ドラム61の近傍(上方又は斜め上方)には、真空ドラム61の外周面に取り付けられた濾材66上の濾過ケークにすすぎ水(工業用水)を散布又は噴射する複数の散水ノズル71が設けられている。
図5に示すように、一定速度で回転する回転シャフト65の中心軸方向の一方の端面には、該端面と当接ないしは摺接する端面を有する、固定配置された(回転しない)中空の接続部材72が設けられている。そして、接続部材72の中空部は、仕切壁73よって上下に仕切られ(二等分され)、接続部材72内には、上側吸引室74と下側吸引室75とが形成されている。なお、回転する回転シャフト65の端面と、回転しない接続部材72の端面の当接部ないしは摺接部には、外部からの空気の侵入を防止する(すなわち、真空状態を維持する)シール機構(図示せず)が設けられている。
上側吸引室74及び下側吸引室75は、それぞれ、回転シャフト65側と反対側の端面の上端部近傍で、真空通路76、77を介して、図示していない真空源(例えば、真空ポンプ、スチームエジェクタ等)に接続されている。また、上側吸引室74はその下端部近傍で洗浄廃水排出管78に接続され、下側吸引室75は下端部近傍で濾液排出管79に接続されている。なお、洗浄廃水排出管78及び濾液排出管79は、それぞれ、上側吸引室74及び下側吸引室75が真空状態にあるときでも、空気が逆流せず、洗浄廃水及び濾液が下方に支障なく排出されるように、10m又はこれより長く下向きに伸びている。そして、洗浄廃水排出管78及び濾液排出管79の下端部は、それぞれ、上側吸引室74及び下側吸引室75が真空状態を維持できるように(空気が流入しないように)、洗浄廃水タンク(図示せず)及び濾液貯槽(図示せず)に浸漬されている。
以下、真空濾過機24の機能を説明する。各濾過室68が真空状態ないしは減圧状態にある真空ドラム61が矢印Pで示す方向(反時計回り方向)に回転すると、スラッジ槽60に浸漬されている濾過室68に隣接する濾材66に濾過ケークが形成される。その際、スラッジ中の水分は、濾材66と濾過ケーク自体とを介して、対応する濾過室68に吸引される。これらの濾過室68が、スラッジ槽内のスラッジから出た後、水平面Hより下側に位置するときには、該濾過室68の上の濾過ケークは、真空引きにより脱水される。濾過室68に吸引された水分ないしは濾液、すなわち洗浄液は、対応する吸引管69及び吸引通路70を介して下側吸引室75に入る。下側吸引室75内の濾液は、濾液排出管79を介して濾液貯槽(図示せず)に排出され、この後シックナ22(図2参照)に還流させられる。つまり、各濾過室68が水平面Hより下側に位置するときには、該濾過室68に吸引された濾液すなわち洗浄液は、対応する吸引管69及び吸引通路70と、下側吸引室75と、濾液排出管79とを介して、シックナ22に還流させられる。
この後、これらの濾過室68が水平面Hより上側に回転移動したときに、該濾過室68上の濾過ケークに散水ノズル71からすすぎ水が散布又は噴射される。散布するすすぎ水の量は、例えば、すすぎ前の濾過ケークに含まれる水分(洗浄液)の量の1.2〜2.0倍に設定される。これにより、濾過ケークに含まれ又は付着していたキレート剤を含む洗浄液は、濾過ケークから除去される。すなわち、濾過ケークに含まれ又は付着していたキレート剤はすすぎ水(洗浄廃水)中に移行する。
濾過室68が水平面Hより上側に位置するときには、該濾過室68の上の濾過ケークは、真空引きにより脱水される。濾過室68に吸引された水分すなわち洗浄廃水は、対応する吸引管69及び吸引通路70を介して上側吸引室74に入る。上側吸引室74内の洗浄廃水は、洗浄廃水排出管78を介して洗浄廃水タンク(図示せず)に排出され、この後、後で説明する洗浄廃水排出通路83を介して洗浄廃水貯槽84に導入される(図6参照)。つまり、各濾過室68が水平面Hより上側に位置するときには、該濾過室68に吸引された水分すなわち洗浄廃水は、対応する吸引管69及び吸引通路70と、上側吸引室74と、洗浄廃水排出管78とを介して、洗浄廃水貯槽84に導入される。かくして、最初に濾過ケークに含まれ又は付着していたキレート剤は、洗浄廃水とともに洗浄廃水貯槽84に回収される。
以下、図6〜図8を参照しつつ、本発明に係る土壌浄化方法ないしはキレート剤回収方を具体的に説明する。
図6に示すように、雨水供給装置7は、敷地Rに降下した雨水をすべて、雨水排出通路(図示せず)を経由して受け入れ貯留する雨水貯槽55と、雨水貯槽55に貯留された雨水を、真空濾過機24(濾過部4)の散水ノズル71にすすぎ水として供給する、ポンプ及び配管等を備えた雨水供給装置56とを備えている(図4参照)。雨水貯槽55は、地面に埋設された、平面形状が矩形であるコンクリート製の貯水池である。
例えば、敷地Rの面積が2000m2(例えば、平面視で左右40m×前後50mの矩形の土地)であり、土壌浄化施設Sの土壌処理量が500m3/日(約850トン/日)である場合、雨水貯槽55の仕様は、例えば下記のように設定してもよい。
<雨水貯槽55の仕様の一例>
・直方体状貯槽(左右寸法:15m、前後寸法:30m、深さ:3m)
・上面面積 450m2
・最大貯水量 約1300m3
キレート剤回収部8は、土壌浄化施設Sの真空濾過機24(図2参照)から排出された洗浄廃水を蒸発処理する洗浄廃水蒸発装置81を備えている。洗浄廃水蒸発装置81には、真空濾過機24(図2参照)から排出されたキレート剤を含む洗浄廃水を、洗浄廃水排出通路83を介して受け入れる洗浄廃水貯槽84が設けられている。洗浄廃水貯槽84は、地面に埋設された、平面形状が長方形であるコンクリート製の貯水槽である。なお、以下ではキレート剤回収部8ないしは洗浄廃水蒸発装置81における施設ないしは装置の位置関係を簡明に示すため、図6中において洗浄廃水貯槽84と洗浄廃水排出通路83とが並ぶ方向(図6中の位置関係では左右方向)に関して、洗浄廃水貯槽84が位置する側を「左」といい、洗浄廃水排出通路83が位置する側を「右」ということにする。
さらに、洗浄廃水蒸発装置81には、洗浄廃水貯槽84に対して、左右方向と垂直な方向に適度に離間して、水蒸発用砂を収容する容器状の砂収容部85が配設されている。本実施形態では、このような水蒸発用砂として細砂(粒径が0.075〜0.25mmの砂)を用いている。なお、以下では、キレート剤回収部8ないしは洗浄廃水蒸発装置81における施設ないしは装置の位置関係を簡明に示すため、洗浄廃水貯槽84と砂収容部85とが並ぶ方向(左右方向と垂直な方向)に関して、洗浄廃水貯槽84が位置する側を「前」といい、砂収容部85が位置する側を「後」ということにする。
砂収容部85は、前端壁86と後端壁87と左側壁88と右側壁89と底壁90とを有し、左右方向の長さが比較的短く、前後方向の長さが比較的長い長方形の平面形状を有し、適量の水蒸発用砂を収容することができる深さを有する、地上に設置され又は地中に埋設されたコンクリート製の容器である。砂収容部85の左側には側溝91が設けられ、この側溝91は、砂収容部85の左側壁88の外面(左側の表面)に隣接して配設されている。側溝91はコンクリート製であり、砂収容部85と一体形成されている。
さらに、洗浄廃水蒸発装置81には、洗浄廃水貯槽84に貯留されている洗浄廃水を側溝91に供給する洗浄廃水供給装置92と、側溝91内の余剰の洗浄廃水を洗浄廃水貯槽84に還流させる洗浄廃水還流路93と、側溝91内の洗浄廃水の水位を、予め設定された砂収容部85内の砂浸漬上端位置に保持する水位保持装置94とを有している。ここで、砂浸漬上端位置は、該砂浸漬上端位置と砂収容部85の内部空間に収容されている水蒸発用砂の上面の位置との間に位置する水蒸発用砂が毛管水帯(飽和水分状態の砂層)を形成するように設定されている。
以下、洗浄廃水蒸発装置81の具体的な構成及び機能を説明する。水蒸発用砂を収容するための砂収容部85は、コンクリートで作成され、その上端部近傍部が大気中に露出するようにして地面100に埋設されている。砂収容部85は、平面視では左右方向の長さが比較的短く(例えば30〜50m)、前後方向の長さが比較的長い(例えば100〜300m)長方形の形状を有し、その深さが適量の水蒸発用砂を収容することができるように設定された(例えば0.8〜1.0m)、前端壁86と後端壁87と左側壁88と右側壁89と底壁90とを有する箱状の容器である。なお、砂収容部85の左右方向及び前後方向の長さは、該砂収容部85で蒸発させる水の量等に応じて好ましく設定される。また、砂収容部85に収容する水蒸発用砂としては、土壌処理施設Sで生成された細砂を用いるのが好ましい。なお、細砂は、例えば、土壌処理施設Sの分級部2から排出された砂を乾燥させて篩分することにより生成することができる。
底壁90の上面には、前後方向に所定の間隔を隔てて左右方向に平行に伸び、所定の深さ(例えば10〜15cm)を有する複数の底溝101が設けられている。これらの底溝101は、それぞれ、左側壁88に形成された連通孔102を介して側溝91の内部空間と連通している。つまり、側溝91の内部空間(下部空間)と砂収容部85の内部空間(下部空間)は、これらの底部近傍で、連通孔102と底溝101とを介して互いに連通している。
そして、前後方向に関してこれらの底溝101間に位置する複数の凸部103の上には、洗浄廃水は通過させるが水蒸発用砂は通過させない多孔板104が配設されている。ここで、多孔板104は単一の板状部材ではなく、製作及び運搬に適した寸法の多数の多孔板(例えば、左右1〜2m、前後2〜5m、厚さ5〜10mmの多孔板)で構成されている。そして、多孔板104の上に、所定の厚さ(例えば、50〜80cm)の砂層105が設けられている。また、砂収容部85の上方に、フレーム構造116によって支持され砂収容部85内の水蒸発用砂への雨水の降下を阻止する屋根117が設けられている。
かくして、側溝91に洗浄廃水が導入されたときには、この洗浄廃水が連通孔102と底溝101とを介して砂収容部85内に流入し、砂粒子の間隙に入る。その結果、砂層105は、側溝91内の洗浄廃水の水位と実質的に同一の高さの位置Lまで完全に洗浄廃水に浸漬され、各砂粒子の間隙には空気は存在せず完全に洗浄廃水で満たされ、洗浄廃水による浮力が各砂粒子に作用する砂浸漬状態となる。以下では、このような洗浄廃水に完全に浸漬された砂層105の上端位置を「砂浸漬上端位置L」ということにする。
また、砂浸漬上端位置Lより上側には、毛細管現象により洗浄廃水が砂層105内に吸い上げられ、砂粒子の間隙の大部分は洗浄廃水で満たされるが、多少は空気も存在する毛管水帯(ないしは飽和毛管水帯)、すなわち実質的に飽和水分状態の砂層105が形成される。このような毛管水帯では、砂粒子間から大気中への洗浄廃水の蒸発量は非常に大きくなり、例えば池の水面からの蒸発量(0.5〜1.0m3/m2・年)に比べて、3〜5倍であるものと推定される。
毛管水帯ないしは飽和毛管水帯の高さないしは厚さは、水蒸発用砂の粒径が小さいほど大きくなる。例えば、非特許文献1には、粒径が0.02mmの砂の毛管水帯の高さは180cmであり、粒径が0.2mmの砂の毛管水帯の高さは21cmであるとの記載がある。また、非特許文献2には、粒径が0.1mmのガラスビーズの毛管水帯の高さは約55cmであるとの記載がある。
このような事実に鑑みれば、砂収容部85内に収容する水蒸発用砂として細砂(粒径0.075〜0.25mm)を用いている本実施形態では、毛管水帯の高さは、0.2〜0.4m程度であるものと推定される。したがって、砂浸漬上端位置Lは、例えば砂層105の上面から下方に20〜40cmの範囲の位置に設定するのが好ましい。なお、砂収容部85内の砂層105の上面近傍部分(例えば、砂層上面から下方に2〜3cm)の部位では、砂粒子の間隙には大量の空気が存在する一方、砂粒子の表面が洗浄廃水の膜で覆われている皮膜水帯(不飽和水分状態の砂層)が形成されるものと推定される。
なお、本発明において、砂収容部85で用いる水蒸発用砂は細砂に限定されるものではなく、細砂とは粒径が異なる砂を用いてもよいのはもちろんである。この場合は、その粒径に対応する毛管水帯の高さを推定し、これに基づいて砂浸漬上端位置Lを設定すればよい。例えば中砂(粒径0.25〜0.85mm)を用いる場合は、砂浸漬上端位置Lを、例えば砂層105の上面から下方に10〜20cmの範囲の位置に設定してもよい。
側溝91は、砂収容部85と一体形成されたコンクリート製の水路であり、側溝91の底壁は砂収容部85の底壁90(底溝101の底部)と同一の高さの位置にある。また、側溝91の上端部は、砂収容部85の左側壁88の上端部と同一の高さの位置にある。側溝91の幅(左右方向の寸法)は、例えば0.5〜1m程度であるのが好ましい。
水位保持装置94は、側溝91と連通する一方洗浄廃水還流路93に接続された水槽110と、該水槽110と洗浄廃水還流路93との間に配設され水槽110内の洗浄廃水を洗浄廃水還流路93に溢流させて水槽110及び側溝91の水位を一定値に保持する堰111とを有している。ここで、水槽110は、地面100に設置され上部が開かれたコンクリート製の容器であり、その上端は側溝91の上端と同一の高さの位置にある。そして、水槽110の底部は、側溝91の底部より適度に低い位置(例えば、0.5〜1.5m低い位置)にある。水槽110と側溝91とは互いに接続されて連通し、これらに収容されている洗浄廃水の水位は互いに等しくなっている。なお、水槽110の平面形状は矩形であるのが好ましく、その水面積は例えば20〜50m2程度であるのが好ましい。
堰111は、水槽110及び側溝91の洗浄廃水の水位を一定に維持するためのものであるが、この水位は堰111の溢流高さを変えることにより、自在に変更することができる。そして、堰111の溢流高さは、水槽110及び側溝91の水位が所定の砂浸漬上端位置Lと一致するように好ましく設定される。なお、水槽110から堰111を介して洗浄廃水還流路93に溢流した洗浄廃水は、洗浄廃水貯槽84に還流する。
洗浄廃水供給装置92は、洗浄廃水貯槽84内の洗浄廃水を水槽110に連続的に供給するための洗浄廃水供給ポンプ112及び洗浄廃水供給管113を備えている。ここで、洗浄廃水供給ポンプ112は、洗浄廃水貯槽84内に貯留されている洗浄廃水を、砂収容部85における水の蒸発量より十分に大きい流量(例えば、10〜20倍)で水槽110に供給する。したがって、水槽110及び側溝91の水位は、常に、予め設定された砂浸漬上端位置Lに維持される。
以下、キレート剤を含む洗浄廃水を、キレート剤回収部8ないしは洗浄廃水蒸発装置81により処理する方法を具体的に説明する。真空濾過機24(図2、図4参照)から排出されたキレート剤を含む洗浄廃水は、大気中に自然に蒸発(気化)する水を除いて、洗浄廃水排出通路83を介して洗浄廃水貯槽84に流入し、貯留される。なお、洗浄廃水貯槽84に屋根が付設されていない場合は、洗浄廃水貯槽84自体に降下した雨水も洗浄廃水貯槽84に貯留される。
洗浄廃水貯槽84内に貯留された洗浄廃水は、洗浄廃水供給ポンプ112により、洗浄廃水供給管113を介して水槽110に連続的に供給される。前記のとおり、洗浄廃水供給ポンプ112は、砂収容部85内の砂層105における水の蒸発量より十分に大きい流量で側溝91に洗浄廃水を供給するので、水槽110及び側溝91の水位は、堰111の溢流高さに対応する一定の位置、すなわち予め設定された砂浸漬上端位置Lに維持される。なお、余剰の洗浄廃水は堰111を前方に溢流し、洗浄廃水還流路93を介して洗浄廃水貯槽84に還流する。
このように、側溝91の水位が砂浸漬上端位置Lに維持されるので、側溝91の内部空間と連通している砂収容部85の内部空間の水位も砂浸漬上端位置Lに維持される。これに伴って、砂浸漬上端位置Lの上側の砂層105に毛管水帯(飽和水分状態の砂層)が形成される。前記のとおり、本実施形態では細砂を用いている一方、砂浸漬上端位置Lを砂層105の上面から下方に20〜40cmの範囲の位置に設定するので、皮膜水帯が形成されると推定される砂層105の上面近傍部(砂層上面から下方に2〜3cmの砂層)を除けば、砂浸漬上端位置Lの上側に毛管水帯、すなわち飽和水分状態(例えば、含水比30〜35%)の砂層105が形成される。
そして、砂浸漬上端位置Lの上側の砂層105中に保持された洗浄廃水中の水分は、大気中に蒸発(気化)する。かくして、洗浄廃水貯槽84に流入する洗浄廃水(屋根が付設されていない場合は、洗浄廃水貯槽84に降下する雨水を含む)中の水分は、すべて砂層105から大気中に蒸発する。その際、洗浄廃水に含まれていたキレート剤は、砂層105内に残留する。したがって、洗浄廃水に含まれていたキレート剤は外部に排出されることなく、確実に回収される。なお、洗浄廃水を砂層105から蒸発させるために必要とされる砂収容部85の面積ないしは寸法は、後で説明する。
このような洗浄廃水の蒸発処理を繰り返し実施すると、砂収容部85内の砂層105にはキレート剤が次第に蓄積されてゆく。そこで、所定の期間が経過するごとに(例えば2〜6か月ごとに)、砂収容部85内の所定の領域ないしは区画(例えば、100〜200m2の領域)の水蒸発用砂を除去して土壌浄化施設Sの分級部2(トロンメル14)に導入し、キレート剤を土壌浄化施設Sに戻す。そして、砂収容部85の水蒸発用砂が除去された区画ないしは領域には、土壌浄化施設Sで汚染土壌を浄化することにより得られた砂から篩分した細砂を導入する。すなわち、砂収容部85内の所定の区画ないしは領域のキレート剤を含む水蒸発用砂を、土壌浄化施設Sの分級部2(サンドクリーン17)から排出された砂から篩分された細砂と交換する。よって、土壌浄化施設Sから外部へのキレート剤の逸失を防止又は低減することができる。また、土壌浄化施設Sから出る砂の一部を、砂収容部85に収容する水蒸発用砂として用いるので、砂収容部85で用いる水蒸発用砂を容易に調達することができる。
以下、洗浄廃水を砂層105から蒸発させるために必要とされる洗浄廃水貯槽84及び砂収容部85の仕様(表面積、寸法等)の一例を説明する。例えば、図9に示すような、0.3質量%のキレート剤を含む洗浄水で1時間あたり100トンの汚染土壌(水分を含む)を浄化する土壌浄化施設Sを、1日8時間使用して年間250日稼働させた場合は、洗浄廃水貯槽84及び砂収容部85の仕様を、例えば下記のように設定してもよい。なお、洗浄廃水貯槽84には屋根が設けられ、洗浄廃水貯槽84に雨水が降下又は流入しないものとする。
図9に示すように、100トンの土壌(水分を含む)は、25トンの礫等(乾燥基準)と、30トンの砂(乾燥基準)と、25トンの細粒分(乾燥基準)と、20トンの水とを含み、その含水比は25%である。ここで、真空濾過機24で生成される濾過ケークの含水比を40%とする。なお、ここで説明する仕様は、あくまでも一例であり、土壌処理施設Sの土壌処理量、あるいは稼動時間又は稼働日数がこれらと異なる場合でも、同様の手法で洗浄廃水貯槽84及び砂収容部85の仕様ないしは寸法を設定することができるのはもちろんである。
<洗浄廃水貯槽の仕様>
洗浄廃水貯槽84の仕様は、例えば下記のように設定される。
・直方体状貯槽(左右寸法:15m、前後寸法:30m、深さ:3m)
・表面積 450m2
・最大貯水量 約1300トン
<砂収容部の仕様>
砂収容部85の仕様は、例えば下記のように設定される。
・直方体状(左右寸法:40m、前後寸法:200m、深さ:0.8m)
・上面面積 8000m2
・砂収容量 約4000m3
<真空濾過機からの洗浄廃水の排出量>
土壌浄化施設Sの真空濾過機24からのキレート剤を含む洗浄廃水の排出量は、すすぎ水の使用量を、濾過ケークに含まれ又は付着している洗浄水の1.2倍とすれば、24000トン/年となる。
10トン/hr×8hr×250日×1.2=24000トン/年
<洗浄廃水貯槽での水蒸発量>
一般に、湖沼や溜池などにおける水面からの水の蒸発量は、水面1m2あたり年間0.5〜1.0トンであることが知られている。したがって、洗浄廃水貯槽84(表面積450m2)からは、少なくとも年間225トンの雨水が蒸発するものと推定される。
0.5トン/m2・年×450m2=225トン/年
前記のとおり、洗浄廃水貯槽84の最大貯水容量は約1300トンであるが、真空濾過機24からの洗浄廃水の排出量(24000トン/年、すなわち約100トン/日)の約13日分に相当する。他方、洗浄廃水貯槽84内に貯留されている洗浄廃水は、日々砂収容部85で処理されてゆくので、洗浄廃水貯槽84は、洗浄廃水を溢流させることなく十分な余裕をもって貯留することができる。
<砂層における水蒸発量>
砂収容部85内の砂層105における水の蒸発量は、以下で説明するように3.15トン/m2・年であると推算される。すなわち、まず非特許文献3には、温度が14.2℃であり、相対湿度が59%であり、空気の流速が250cm/秒であるときにおける、含水比が32.1%(飽和水分状態)の土壌からの水の蒸発速度は11.3×10−6g/cm2・秒であると開示されている。また、温度が14.8℃であり、相対湿度が57%であり、空気の流速が170cm/秒であるときにおける、含水比が32.9%(飽和水分状態)の土壌からの水の蒸発速度は7.9×10−6g/cm2・秒であると開示されている。
このような非特許文献3の開示事項(研究結果)に鑑みれば、日本における平均的な気候状態を、温度15℃、相対湿度60%、風速2m/秒程度と想定したときには、砂収容部85内の飽和水分状態にある砂層105からの平均的な水の蒸発量は、おおむね10.0×10−6g/cm2・秒であるものと推定される。この蒸発量は、実用的な単位に換算すれば、3.15トン/m2・年となる。
10.0×10−6g/cm2・秒
=10.0×10−6×10−6×104トン/m2・秒=1.0×10−7トン/m2・秒
=1.0×10−7×3600×24×365トン/m2・年=3.15トン/m2・年
したがって、砂収容部85内の砂層105からは年間25200トンの水が蒸発する。
3.15トン/m2・年×8000m2=25200トン/年
<洗浄廃水蒸発装置における水の収支>
前記のとおり、土壌浄化施設Sの真空濾過機24からの洗浄廃水の排出量は、年間24000トンと推定される。他方、洗浄廃水貯槽84では少なくとも年間225トンの水が蒸発し、砂収容部85では年間25200トンの雨水が蒸発する。したがって、洗浄廃水蒸発装置81では、年間25425トンの水が蒸発する。このように、洗浄廃水蒸発装置81では、1年間で全体的には、真空濾過機24から排出される洗浄廃水の量(年間24000トン)より多くの水を蒸発させることができるので、基本的には、洗浄廃水をすべて蒸発させて処理することができることになる。しかしながら、例えば冬季あるいは梅雨の時期には水の蒸発量が少なくなるので、前記の具体例における砂収容部85の前後方向の寸法(200m)を、10〜20%程度長くするのが好ましい。
以上、本発明に係る土壌浄化方法ないしはキレート剤回収方法によれば、濾過ケークないしは土によってキレート剤が外部に持ち去られるのを防止ないしは低減することができ、有害金属等で汚染された土壌を、キレート剤を含む洗浄水で浄化する土壌浄化施設Sにおけるキレート剤の補充量を大幅に低減することができ、汚染土壌の処理コストを低減することができる。
また、土壌洗浄装置Sの敷地Rに降下した雨水をすべて、真空濾過機24ですすぎ水として利用するので、土壌浄化施設Sの敷地Rに降下した雨水を、これに含まれる有害金属等を未処理で外部へ排出することなく確実に処理することができる。さらに、真空濾過機24で水道水ないしは工業用水を使用せず、雨水をすすぎ水として有効に利用するので、真空濾過機24のランニングコストを低減することができる。