JP6300287B2 - インスリン産生膵島細胞移植用製剤 - Google Patents

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Description

この発明は新規なインスリン産生細胞移植方法に関するものである。更に詳細には、この発明は、インスリン産生細胞を皮下脂肪組織に移植する新規なインスリン産生細胞移植方法に関するものである。
糖尿病は、代表的な生活習慣関連疾患であり、炭水化物、脂質ならびにタンパク質を適切に維持ならびに利用できない複雑な慢性疾患である。糖尿病はまた様々な遺伝的、環境的要因により生起されるインスリン産生欠乏もしくはインスリン機能低下による異常な高血糖レベルに特徴がある。糖尿病の症状が進行すると、網膜症、腎症、神経障害等の合併症を引き起こし、脳卒中、脳血管障害等の発作の原因となって、その結果、患者の生活の質(QOL)の著しい低下をもたらして、最終的には患者を致命的な予後に至らしめることになる。
最近では、糖尿病患者数は世界中で約3.5億人にも達すると推定されている(非特許文献1)。しかも、糖尿病の総患者数は、糖尿病に罹患していると強く疑われる患者や、糖尿病予備軍の患者数を加えると、その数は膨大な数になり、明らかに大問題である。それに加えて、ごく限られた数の糖尿病患者しか適切な治療を受けていないことも医学的にも、経済的にも非常に大きな問題である。
糖尿病には2つの主要な形態、つまり1型糖尿病(T1DM)と2型糖尿病(T2DM)とがある。1型糖尿病(以前はインスリン依存糖尿病(IDDM)と知られていた)はインスリンを産生する膵β細胞が特異的に破壊され、インスリンが枯渇することに特徴がある。この1型糖尿病は、子供や若年者にしばしば発症する。2型糖尿病(以前は非インスリン依存糖尿病(NIDDM)と知られていた)は、インスリン産生膵β細胞の機能不全によるインスリン産生不足や筋肉や肝臓の細胞が膵臓で産生されたインスリンに適切に反応できないときなどのインスリンの相対的不足により発症する。この2型糖尿病は、大人に最も頻繁に発生するが、若者にも増加していることが注目されている。2型糖尿病は総糖尿病患者数の約90%を占めている。特に、2型糖尿病患者数は、肥満、運動不足の生活習慣、加齢によって急激に増加している。さらに注目すべきことは、2型糖尿病の多くの若年患者に膵臓の自己免疫異常が認められことから、2型糖尿病を1型糖尿病から区別すること、またはその逆の区別が難しい症例が増加していることである。
上記したように、1型糖尿病(T1DM)患者は、ランゲルハンス島(膵島)内のインスリン産生β細胞が免疫細胞の浸潤により完全にもしくはほぼすべてが破壊され、血液中のグルコース値の急激な変動を引き起こして、最終的には生命ならびに死に関わる高血糖(高血糖症)に関連する合併症の原因となる事象により、インスリン産生能力を喪失している。したがって、1型糖尿病患者は、1日に1回から数回のインスリン注射もしくはインスリンポンプによるインスリンを外部から投与することによるインスリン療法に依存せざるを得ない(非特許文献2)。
しかしながら、1型糖尿病患者がインスリンによる高度な治療を受けたとしても、血中グルコース濃度を安定的にかつ持続的に維持し、高血糖症によって引き起こされる慢性的な長期にわたる臓器障害を引き起こす合併症を予防するのは困難である。インスリン療法はまた過剰なインスリン投与の原因にもなり、それにより致命的にもなりうる重大な意識の変調を伴う急性低血糖症の発症の危険性を増加させる結果にもなる。かかる困難と危険性があるにもかかわらず、現在ではインスリン療法は、突然死に繋がる緊急状態から1型糖尿病を救命するのに非常に重要な役割を果たしている。しかしながら、インスリン療法は、あくまでも対処治療であって、1型糖尿病を完全に根治させる療法にはなりえず、低血糖症の危険性や長期にわたる合併症の発症などの非常に困難な問題が解決されないままになっている(例えば、特許文献1日本特許公開第2008−189574号公報)。
1型糖尿病を治療するかかるインスリン療法の別の方法として、膵臓から単離したランゲルハンス膵島のインスリン産生β細胞を1型糖尿病患者に直接移植する膵島移植法がある。この膵島移植法は、膵島細胞に障害を有する糖尿病患者にとっては理論的には優れた方法であって、臨床においても1960年代後半から幅広い試みがなされている内分泌補完療法である。この膵島移植は今では1型糖尿病治療に対する非常に有望な取り組みである。この膵島移植は、膵島細胞を肝臓の門脈に点滴にて注入するだけで移植する簡便な方法であるので、全臓器を移植する手術に比べて、手術的にも極めて安全で、かつ、危険性が高い患者にとっても実施ができるという利点がある。この膵島移植はまた腹部の手術や血管吻合の必要がないことからも利点がある。これらに加えて、この膵島移植は、たとえ移植拒否反応が起こっても除去が必要なく、患者の負担が極めて低いという利点もある(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、この膵島移植法は、早期の移植片拒絶のために移植膵島の生着率が極めて低いという欠点に直面している。したがって、1型糖尿病患者が1人のドナーの膵臓から膵島細胞の移植を受けたとしても、インスリン非依存になることができない(例えば、非特許文献3、4)。移植した膵島細胞が早期に喪失する割合は移植した膵島細胞総数の60%程度であると推定されている。したがって、現在の膵島移植においては、1人の糖尿病患者を良好な状態に治療するためには2人もしくはそれ以上の人の膵臓からの膵島細胞を繰り返し移植する必要がある(例えば、非特許文献3、4、5参照)。
しかしながら、この膵島移植はまた、膵島移植片が末梢門脈中に塞栓を形成して糖尿病患者の肝臓内に着床し、対応領域において虚血性変質を引き起こすという危険性がある。このことは、移植後免疫反応を引き起こして、膵島細胞片に対して有害な炎症性サントカインを放出する結果になりかねない。インスリンを分泌するβ細胞は、例えばIFN−γ、TNF−α、IL−1β等の炎症誘発サイトカインに曝露されるとin vitroで影響を受けやすい(例えば、非特許文献6)。
ヒトの患者に対する膵島細胞の臨床移植が初めて行われたのは、ミネソタ大学で行われた1974年である。しかしながら、その実績は、他の臓器移植に比べて、最近まで貧弱なものであった。しかしながら、2000年になって、アルバータ大学から、ステロイド剤を全く使用しないで免疫抑制を用いたいわゆる「エドモントン・プロトコール(Edmonton Protocol)」と呼ばれる臨床的膵島移植プロトコール下ではインスリンが極めて高率で放出されたとの報告が出された(例えば、非特許文献4)。それ以来、膵島移植は、1型糖尿病治療のブレイクスルーとなる方法として確立した。
上記したように、膵島移植は根本的な糖尿病治療法として有用性が高まっているけれども、膵島移植を成功させるためには更なる改良が必要である。その理由は、現在の膵島移植は、例えば、膵島細胞の生着率が低いこと、かかる低生着率のために多量の膵島細胞の点滴が必要なこと、さらにはドナーの数が少ないことなどの数々の問題になお直面しているためである。2006年に、シャピロら(A.M. Shapiro et al.)による、エドモントン・プロトコールを用いた膵島移植した患者の結果についての報告によると、膵島移植によって一旦はインスリン療法が必要でなくなった患者の76%が移植2年後にはインスリン療法を再開していた。
さらに、大きな問題は、現在の膵島移植では、肝臓に移植した膵島細胞の生着率が低いために、1人の糖尿病レシピエントのために、2人以上のドナーが必要であることである。このことは、ドナーが少ないという観点からしても喫緊に解決すべきことである。この問題が解決されて、ドナーとレシピエントとの割合が改善して1対1という割合になったとしたら、膵島移植は、爆発的に普及し、糖尿病治療に多大なる貢献をすることが期待される。
このように膵島移植はいくつかの問題点に直面しているけれども、肝臓内膵島デリバリーを改善するという10年にも亘る研究の結果、肝臓内スペースは、膵島に対して栄養的かつ物理的な支持体となり、かつ、移植した膵島細胞の生着ならびに機能を長期間維持するのに本質的な役割を果たすことが判明した。したがって、膵島移植は、糖尿病治療にとって魅力的な方法であり、現在では、糖尿病患者の門脈経由の肝臓は臨床設定における移植部位である(例えば、非特許文献4、7参照)。しかしながら、一方では、肝脈管系は生着や機能を制限する敵対的な環境であるとの報告もある(非特許文献8、9)。この結果、膵島移植に対する多くの別の部位が、膵島の生着ならびに機能を最適化し、必要な移植膵島細胞塊の数を減少し、かつ、免疫原性を低下させるかどうか調べられた(非特許文献9、10)。
肝臓門脈内部位に加えて、例えば、腎臓被膜下部位、脾臓、大網(omentum)、膵臓、胃腸壁、胸腺や脳や精巣等の免疫保護部位、骨髄等の筋骨格部位、皮下部位などを含む多くの別の移植部位が調べられた(例えば、非特許文献9、11、12)。上記したように患者の多くの別の移植部位が試験されたけれども、これまで患者を非インスリン依存にすることはできなかった。その結果、門脈内膵島移植は、経験的に患者において使用するための最善の部位として認められている(非特許文献9)。
しかしながら、肝臓の門脈内部位以外の新規移植部位の開発は、糖尿病患者に移植された膵島細胞の損失を少なくするため、また移植すべき膵島細胞の不足に関わる問題を克服するためにも必要である。
さらに、最新の研究では、インスリンとグルカゴンの両者の顆粒を含有する膵島細胞が明らかになった。これまでは、インスリンはランゲルハンス島のβ細胞で産生され、グルカゴンはそのα細胞で産生されると知られていた(非特許文献13参照)。さらに、数十年の間インスリン欠乏が糖尿病の唯一の問題であると考えられていたけれども、グルカゴンもまた糖尿病の病因にも重要な役割を果たしていることが示唆された(非特許文献14)。
したがって、これらの膵島細胞は、糖尿病患者に一旦移植されるとin vivoでこれらのホルモンを分泌するのに何らかの役割を果たしていることが期待される。
上記の背景技術を前提として、本発明者は、鋭意研究した結果、膵島細胞を移植するに際して取り扱いが簡単で、かつ、一旦移植した膵島細胞に不具合が生じた場合にすぐに摘出可能な新規の皮下移植部位を見いだした。皮下移植は従来の報告では、1匹の糖尿病レシピエントラットの糖尿病を治療するのに5匹以上のドナーラットからの約5,000個の膵島細胞が必要である(非特許文献15)という程度に生着効率が非常に低いとの報告がある。本発明者は、生着効率がこのように低いのは栄養血管が不足していることで移植後に膵島細胞が低酸素で死に至ったのではないかと理由付けをした。そして、鼠蹊(そけい)部の皮下脂肪部を、両側に下腹壁動静脈の栄養血管が通っていることから(非特許文献16)、生着効率の改善が見込める新規な皮下移植部位として選択した。
特開第2008−189574号公報
Danaei, G., et al. Lancet, 2011, 378(9785): 31-40 Atkinson, M.A., et al. N. Engl. J. Med. 1994; 331:1428-1436 Ricordi, C., et. al., 2004, Nat. Rev. Imunol., 4:259-268 Shapiro, A. M., 2000, N. Engl. J. Med., 343:230-238 Ryan, E. A., et. al., 2002, Diabetes, 51:2148-2157 Rabinovitch, A., 1993., Diabetes Rev., 1: 215-240 McCall, M., et al. Cold Spring Herb. Perspect. Med. 2, a007823, 2012 Chentoufi, A.A., et al., Clin. Develop. Immun., vol. 2011, Article ID 103738, 2 pages, 2011; Pepper, A.R., et al., Clin. Develop. Immun., vol. 2013, Article ID 352315, 1-13 pages Merani, S., et al., British Journal of Surgery, vol. 95, no. 12, pp. 1449-1461, 2008 Komori, J., et al. Nat. Biotechnol. 30, 976-983 (2012) Kakabadze, Z., et al. The American Society of Transplantation and the American Society of Transplant Surgeons 13, 2550-2557 (2013) Unger, R.H. and Orci, L. Lancet. 1975; 1(7897):14-16 Bramswig, N.C., et al. The Journal of Clinical Investigation, Vol. 123, No. 3, pp. 1275-1284, 2013 Kawakami, Y., Pancreas, 23, 375-381 (2001) Vitali, A., et al., J. Lipid Res. 53, 619-629 (2012)
そこで、本発明者は、糖尿病マウスの鼠蹊部の皮下脂肪組織への膵島細胞移植が血糖レベルを正常なレベルに低下させるとともに、従来の肝臓への移植と同程度に効率よい移植を達成することを見いだした。
さらに、本発明者は、ドナー1人の膵島細胞数と同数または少数のインスリン産生膵島を、糖尿病レシピエント1人の皮下脂肪組織に移植するだけで該レシピエントの糖尿病を治癒できること、または長期間正常な血糖値に維持することが期待できることを見いだした。
また、非常に驚いたことに、本発明者は、皮下脂肪組織に移植した膵島細胞中に、同一の移植膵島細胞にインスリンとグルカゴンの両者が発現しているインスリン/グルカゴン同時陽性細胞(insulin/glucagon double positive cells)を見いだした。
したがって、この発明は、インスリン産生細胞を栄養血管が広範に分布している皮下脂肪組織に移植する新規なインスリン産生細胞移植方法を提供することを目的としている。
なお、本明細書で使用する用語「皮下脂肪組織」とは、糖尿病罹患レシピエントの皮下脂肪組織であって、その体内に局在するとともに、その膵島細胞に必須の栄養を補給できる栄養補給血管がその領域に広範に循環・分布している皮下脂肪組織を意味するものとする。かかる皮下脂肪組織としては、例えば、下腹壁動静脈が循環している鼠蹊部、腋下、背中または腹部などの皮下脂肪組織を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらの組織のうち、血管がその領域全体に分布しているので、鼠蹊部が好ましい。
本明細書に使用する用語「栄養血管」とは、移植膵島に必須の栄養を皮下脂肪組織に補給できる血管を意味するものとする。かかる血管としては、例えば、動脈、静脈および/または毛細血管を挙げることができる。
この発明はまた、糖尿病レシピエント1人の皮下脂肪組織に、ドナー1個体の膵島細胞数と同数または少数のインスリン産生膵島を移植するだけで糖尿病レシピエントの血糖値を長期間正常な血糖値に維持して糖尿病を治療することからなる新規な糖尿病治療方法を提供することを別の目的としている。
さらに、この発明は、インスリンとグルカゴンが同一細胞中に発現する細胞であるインスリン/グルカゴン同時陽性細胞(insulin/glucagon double positive cells)を提供することを目的としている。
上記目的を達成するために、この発明は、インスリン産生細胞を、栄養血管が広範囲に分布している鼠蹊部皮下脂肪組織に、移植するインスリン産生細胞を、1ドナーの膵島細胞数と同数から1/10、好ましくは2/3から1/6、より好ましくは1/2から1/5の割合の細胞数割合で移植する新規なインスリン産生細胞移植方法を提供する。
この発明の好ましい態様は、インスリン産生細胞がヒト膵島細胞、ブタ等の異種膵島細胞またはインスリン/グルカゴン同時陽性細胞(insulin/glucagon double positive cells)であることからなるインスリン産生細胞移植方法を提供する。
この発明の好ましい態様では、インスリン産生細胞を栄養血管が分布している鼠蹊部皮下脂肪組織に、移植するインスリン産生細胞を、1ドナーの膵島細胞数と同数から1/10、好ましくは2/3から1/6、より好ましくは1/2から1/5の割合の細胞数割合で移植し、当該移植細胞からインスリンを産生して糖尿病を治療することからなる糖尿病治療方法を提供する。
この発明の更に別の形態では、インスリン産生細胞が1ドナーの膵島細胞数と同数から1/10、好ましくは2/3から1/6、より好ましくは1/2から1/5の割合の細胞数が含まれている細胞含有容器を、栄養血管が分布している鼠蹊部皮下脂肪組織内に留置することによって血中グルコース濃度を低下させることからなる血中グルコース濃度低下方法を提供する。
この発明は、インスリン産生細胞を移植する移植部位を糖尿病レシピエントの鼠蹊部、腋下、背中などの栄養血管が広範囲に分布している部位に存在する皮下脂肪組織に選択することによって、移植を簡便に実施することが可能であるばかりではなく、一旦移植したインスリン産生細胞が移植片拒絶などを惹起した場合には、その移植インスリン産生細胞を摘出できるという大きな利点がある。
さらに、この発明は、これまで不可能であったドナー1個体のインスリン産生細胞、例えばヒト膵島またはブタ等の異種膵島細胞とほぼ同数または少ない数の膵島細胞を移植するだけで糖尿病患者の治療が可能であるという極めて大きな利点がある。
図1は、新規膵島移植部位としてのマウス鼠蹊部皮下脂肪組織の一部を示す図である。図1(A)は、ピンセットで持ち上げた状態の左側鼠蹊部の皮下脂肪組織を示す。図1(A)、1(B)には鼠蹊部の皮下脂肪組織の栄養血管が見える。長短矢印は大腿部動静脈ならびに下腹壁動静脈をそれぞれ示す。 図2は、マウス鼠蹊部皮下脂肪組織への膵島移植の手法を示す図である。図2aは左側鼠蹊部皮膚切開部の上面図である。図2bは鼠蹊部皮下脂肪組織に作成した小さなポケットを示す。図2c、2dは、ポケット内部に留置したチューブ先端に取り付けた膵島を示す。図面中、矢印はポケット中の膵島をそれぞれ示し、矢じり印はチューブ先端の膵島を示す。図2eはピンセットで持ったポケットの開口部を示す。図2fはホッチキスで閉じたポケットの開口部を示す。目盛は1mmである。 図3は、鼠蹊部皮下脂肪組織に同種同系膵島を移植したstreptozotocin (STZ)誘発糖尿病C57BL/6マウスの血漿グルコース濃度を示すグラフである。上部の線グラフは単独のドナーマウス膵臓から膵島200個を移植した症例を、また下部の線グラフは膵島400個を移植した症例を示す。線グラフ中、印(+)を付けた線は重度の糖尿病で死亡したマウスを示し、印(*)を付けた線は糖尿病レシピエントマウスの鼠蹊部皮下脂肪組織に移植した膵島を除去した症例を示す。 図4は、移植60日後の鼠蹊部皮下脂肪への移植膵島の形態を示す。図4aは露出した鼠蹊部皮下脂肪組織を示し、図中、矢印はポケットを閉じたホッチキスの針を示す。図4bの矢じり印は新しい血管形成をした移植膵島の塊を示す。図4bにおいて、短い矢印と長い矢印は下腹壁動静脈と大腿部動静脈をそれぞれ示す。 図5aは、DAP1、インスリンならびにグルカゴンについて染色した移植膵島の切片およびこれらを1つに組み合わせた画像を示す。図5bは図5aの高倍率の画像である。図5c、5d、5eはインスリン、グルカゴンならびにDAP1について染色した画像をそれぞれ示す。図5bには、インスリン/グルカゴン同時陽性細胞が示されている。図5a、5bの横線は50μmと5μmをそれぞれ示す。 図6は、移植後60日目の腎臓被膜下(kc、上部のパネル)と肝臓(pv、下部のパネル)内の膵島移植片の組織を示す。図中左から右に、DAP1、インスリン、グルカゴン、ならびにこれらを組み合わせた染色画像を示すパネルである。ただし、この画像にはインスリン/グルカゴン同時陽性細胞は認められない。 図7は、鼠蹊部皮下脂肪組織にヒト膵島を移植したSTZ誘発糖尿病NOD/scidマウスの血漿グルコースレベルを示す。図中、印(*)を付けた線はレシピエントマウスの鼠蹊部皮下脂肪組織に移植した膵島を除去したことを示している。 図8は、移植後60日目のSTZ誘発糖尿病NOD/scidマウスの鼠蹊部皮下脂肪組織中のヒト膵島移植片の共焦点顕微鏡画像を示す。図8(A)はHEで染色したヒト膵島移植片を示す。図8(B)、8(C)、8(D)は図8(A)の四角で囲った部分の拡大画像であって、インスリン、グルカゴン、DAP1について染色したヒト膵島移植片をそれぞれ示す。図8(E)は、図8(B)、8(C)、8(D)のヒト膵島移植片の染色画像を組み合わせた画像を示している。図8(E)中の矢じり印はインスリン/グルカゴン同時陽性細胞を示す。 図9は、STZ誘発糖尿病レシピエントマウスの鼠蹊部皮下脂肪組織への移植後6時間目の移植膵島の形態を示す。図9(A)は移植6時間後の移植膵島のHE染色切片を示す。上部左隅の四角で囲った部分はHE染色膵島の右側部分に示した四角で囲った部分の高倍率部分である。高倍率部分において、矢じり印は移植膵島の浸潤好中球を示す。図9(B)は、インスリン(緑色)ならびにGr−1(赤色)について染色した膵島移植片の免疫蛍光画像をそれぞれ示す。左図ならびに右図中の横線は100μmと10μmをそれぞれ示す。 図10は、鼠蹊部皮下脂肪組織に同種同系膵島を移植したSTZ誘発糖尿病Jα18欠如(NKT細胞欠乏)マウスの血漿グルコースレベルを示す線グラフである。特に、STZ誘発糖尿病Jα18欠如(NKT細胞欠乏)マウスの糖尿病は1匹のドナーからの膵島の1/4に相当する50個の膵島を鼠蹊部皮下脂肪組織に移植した後に寛解した。このことは、レシピエントのNKT細胞が欠乏した状態での鼠蹊部皮下脂肪組織への膵島移植は4倍も改善したことを示している。 図11は、ヒト移植膵島細胞の免疫電子顕微鏡写真である。
この発明は、インスリン産生細胞を糖尿病レシピエントの皮下脂肪組織に移植し、移植インスリン産生細胞を皮下脂肪組織内に生着させ、インスリンを分泌することによって糖尿病レシピエントの血糖値を正常血糖値に低下させて糖尿病を治療することからなっている。
この発明において選択できるインスリン産生細胞移植部位は、皮下脂肪組織が局在する様々な身体部分のうち、移植したインスリン産生細胞が生着しインスリンを分泌する足場として利用できる皮下脂肪組織であって、かつ、その皮下脂肪組織内に移植インスリン産生細胞に栄養を補給するのに必須の栄養補給血管が組織内に循環し分布している限り、いかなる皮下脂肪組織であってもよい。かかる移植部位として好ましい例としては、鼠蹊部、腋下、背中または腹部などが挙げられる。これらの組織のうち、循環している下腹壁動静脈が移植膵島細胞に栄養を補給することができることから、鼠蹊部が好ましい。
この発明において移植するインスリン産生細胞としては、例えば、ヒト膵島細胞、ブタ等の異種膵島細胞の他に、この発明にて初めて発見されたインスリンとグルカゴンとが同一細胞中に発現するインスリン/グルカゴン同時陽性細胞を挙げることができる。
また、この発明のインスリン産生細胞移植は、糖尿病レシピエントの体内に埋設した細胞含有容器から注射で糖尿病レシピエントの皮下脂肪組織にインスリン産生膵島細胞を移植することができる。かかる容器を使用する大きな利点は、一旦移植したインスリン産生細胞が移植片拒絶を引き起こした場合、それを除去できる。このことは細胞移植により糖尿病を治療するに当たって極めて有益である。
NKT細胞欠如(Jα18欠如)マウスを使用した本発明者による実験結果は、皮下脂肪組織に移植したインスリン産生膵島の生着率を顕著に改善したことを示している。このことは、NKT細胞が移植片拒絶に関与していることを意味している。したがって、この発明に係るインスリン産生細胞の皮下脂肪組織への移植は、早期拒絶を大幅に防止し、かつ、移植すべき細胞数を顕著に減少できるという大きな利点がある。その結果、1糖尿病患者に対して、1ドナーの細胞数と同数もしくは少数の細胞を移植することができる。換言すると、この発明の移植方法は、1ドナーのインスリン産生細胞を、1もしくは複数の糖尿病レシピエントに移植して糖尿病レシピエントの糖尿病を逆転もしくは寛解することができる。更に詳細には、1糖尿病レシピエントの皮下脂肪組織に、1ドナーの細胞数の1/1〜1/10、好ましくは2/3〜1/6、より好ましくは1/2〜1/5の細胞数を移植すればよい。
この発明に係るインスリン産生膵島細胞の皮下脂肪組織への移植方法は、糖尿病の治療・寛解の効果的な方法である。この発明は、細胞移植方法が極めて単純でかつ従来の手法で移植でき、かつ、皮下脂肪組織に移植する細胞の数を劇的に低減することができ、かつ、移植した細胞を必要なら移植後でも移植した皮下脂肪組織から除去できるという利点がある。
最近の状況では、2型糖尿病の多くの若年患者に膵臓の自己免疫異常が認められことから1型糖尿病と2型糖尿病とを識別するのか困難な例が増加している。したがって、この発明は、以上の説明は1型糖尿病患者を例に挙げて主に説明したが、細胞移植を必要とする2型糖尿病患者にも1型糖尿病患者と実質的に同じ方法で適用できることにも注目すべきである。
上記したように、本発明者が初めて見出したインスリンとグルカゴンの両者が移植した同一の細胞内に発現するインスリン/グルカゴン同時陽性細胞は、インスリン顆粒とグルカゴン顆粒は同一細胞中で別個にかつ独立して染色された。このインスリン/グルカゴン同時陽性細胞は、腎臓被膜下移植膵島にも、肝臓内移植膵島にも見出せなかった。このインスリン/グルカゴン同時陽性細胞が、どの細胞から、つまり、α細胞、β細胞またはその他の細胞から派生したのかはまだ未解明のままである。
この発明を実施例により詳細に説明するが、下記実施例は、この発明を限定するものでは一切なく、例示の目的だけで説明するものである。したがつて、この発明は、上記の明細書の記載ならびに下記の実施例から派生するあらゆる改変ならびに改良をこの発明の範囲内に包含するものである。
〔材料ならびに方法〕
(マウス)
オスのC57BL/6ならびにNOD/scidマウスはチャールス・リーバー・ジャパン社(日本神奈川県)から購入した。Jα18欠如(NKT細胞欠如)マウスは文献記載の方法で作製し(Cui, J., et al. Science 278, 1623-1626 (1997))、C57BL/6マウスに戻し交雑した。マウスは特定の無菌室で飼育し、8−16週齢で実験に使用した。全ての実験は福岡大学動物管理使用委員会の事前承認を受けたプロトコールに従って実施した。
(マウス膵島単離、移植ならびに回収)
膵島は文献記載の手法(Sutton, R., et al., Transplantation, 42, 689-691 (1986); Okeda, T., et al., Endocrinol. Jpn. 26, 495-499 (1979))に従って単離し、直径150−250μMのマウスを厳選して実験に供した。単離した膵島は、CO培養器(5% CO2+95%空気)内で10%FBS添加培地(D−MEM、ニッスイ)を用いて24℃で1夜培養し、ドナーとして使用した。膵島は、STZ注射3日目に、STZ(Sigma)(180mg/kg)誘発糖尿病シンジェニツクレシピエントマウスの左側鼠蹊部皮下脂肪組織に移植した。非絶食状態の血漿グルコースレベルを、GlucoCard DIA meter (Arkray)を用いてSTZ注射の前後2回、膵島移植後は週に1回測定した。移植細胞の回収に当たっては、糖尿病レシピエントの膵島を含むポケットの閉口に使用したホッチキスの針をまず確認して、その針の基部と末端側を約5mmの長さに切除して以下の実験に使用した。比較のために、STZ誘発糖尿病レシピエントの肝臓内(Kemp., C. B., et al. Nature 244, 447 (1973))または腎臓被膜下(Yasunami, Y., et al., Transplantation 35, 281-284 (1983))に移植した。
(形態)
膵島移植片を有する糖尿病レシピエントの切除した鼠蹊部皮下脂肪組織、肝臓ならびに腎臓は、10%ホルマリンで固定、加工、バラフィン包埋した後、形態分析のために切片にした。切片は、ヘマトキシリンとエオシンで染色し、免疫蛍光顕微鏡で観察した。使用した抗体は次の通りである:抗インスリン抗体、抗グルカゴン抗体、抗ソマトスタチン抗体ならびに抗PP抗体。染色した膵島移植切片は蛍光顕微鏡で観察した。
(ヒト膵島移植)
ヒト膵島は、Prodo Lab (Irvine, CA)から提供を受け、下記実験前2−3日間2%ヒトアルブミンを含むCMRL1066培地(Mediatech)中において24℃で培養した。
膵島移植のために、全体で3バッチのヒト膵島細胞を使用した。各バッチにつき、膵島細胞(1500 IEQ)を用いた移植を1−2回実施した。ヒト膵島細胞は、STZ(170mg/kg, iv注射)誘発糖尿病オスNOD/scidマウスの鼠蹊部皮下脂肪組織内または1個の腎臓被膜下に移植した。非絶食血漿グルコース値と体重は移植後週1回測定した。ヒト膵島移植片を持つ糖尿病レシピエントの鼠蹊部皮下脂肪組織と腎臓を摘出し、10%ホルマリン固定、パラフィン包埋後、形態分析のために切片にした。
(統計分析)
膵島移植後のSTZ誘発糖尿病マウスの正常血糖率についての統計分析は、Fisher's exact testによって決定した。p値が0.05未満である場合は有意差ありと判断した。
この実施例では、図1を参照して、マウスの鼠蹊部皮下脂肪組織への膵島移植の手法を説明する。
図1は、マウスの左側鼠蹊部皮下脂肪組織の解剖所見を示す。図1(A)と図1(B)は、栄養血管が認められる左側鼠蹊部皮下脂肪組織をピンセット(左側)で持ち上げた状態をそれぞれ示す。図中、長短矢印は大腿部動静脈と下腹壁動静脈とをそれぞれ示す。
図2はマウス鼠蹊部皮下脂肪組織へ膵島移植をした状態を示す。図2(a)はマウスの左側鼠蹊部皮下脂肪組織の皮膚切開口部を上から見た図である。図2(b)は鼠蹊部皮下脂肪組織に設けた小さなポケットを示していて、縫合線で開口を開いた状態に保っている。図2(c)、2(d)はポケット内部に留置したチューブ先端に存在する膵島細胞を示す。図2(c)、2(d)中、矢印はポケットに配置した膵島細胞を示し、矢じり印はチューブ先端の膵島細胞を示す。図2(e)は鉗子で保持したポケットの開口部を示し、図(f)はホッチキスの針で閉口したポケットの開口部を示す。図中、目盛は1mmである。
図3は、同種同系膵島細胞を鼠蹊部皮下脂肪組織に移植したストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病C57BL/6マウスの血漿グルコースレベルのグラフを示す。上部のグラフは膵島細胞200個を移植した症例、下部のグラフは膵島細胞400個を移植した症例を示す。各線グラフは各マウスの血漿グルコースレベルを示す。図中、個々の線は各動物の血漿グルコースレベルを表わしていて、印(+)は重篤の糖尿病で死亡したマウスを示し、印(*)は各レシピエントの鼠蹊部皮下脂肪組織に移植した膵島細胞を除去したことを示す。
図3で示した結果は、STZ誘発糖尿病マウスの高血糖症が、同種同系膵島細胞400個を鼠蹊部皮下脂肪組織に移植した後に寛解したが、同種同系膵島細胞200個を移植した場合には寛解しなかったことを示している。この移植によって達成された移植効率は、本発明者らによってこれまで報告された従来の肝臓に対する移植の場合と同等であった(Yasunami, Y., et al., J. Exp. Med., 202, 913-918 (2005); Matsuoka, N., et al., J. Clin. Invest., 120, 735-743 (2010))。これに加えて、しかしながら、図3は、同種同系膵島細胞400個を鼠蹊部皮下脂肪組織に移植して正常血糖になった後に、鼠蹊部皮下脂肪組織から膵島移植片を除去するとすぐに高血糖症に戻ってしまったことを示している。この結果は、移植後の正常血糖が移植膵島細胞に依存していることを示している。
図4は移植60日後の鼠蹊部皮下脂肪組織に移植した膵島細胞の形態を示す。図4(a)は膵島細胞を移植した鼠蹊部皮下脂肪組織の露出表面部分を示す。図中、矢印はポケットの閉口に使用したホッチキスの針を示す。図4(b)は、新規血管が形成された塊状の移植膵島細胞を示す(矢じり印)。図4(b)中に示す長短の矢印は、下腹壁動静脈と大腿部動静脈とをそれぞれ示す。
図4の結果から、鼠蹊部皮下脂肪組織に移植した膵島細胞のいくつかに新規な血管が形成されたうえに様々な大きさの塊り状に形成されていることが顕微鏡的に示されている。また移植した膵島細胞が膵臓の内分泌細胞が認められる脂肪組織によって取り囲まれていることが顕微鏡的に判明した。
驚いたことに、同種同系膵島細胞をマウスの鼠蹊部皮下脂肪組織に移植したところ、移植した膵島細胞内に、インスリンがグルカゴンと一緒に存在しているインスリン/グルカゴン同時陽性細胞が形成されていることが判明した。図5bは、移植膵島細胞内に形成したインスリン/グルカゴン同時陽性細胞の顕微鏡写真を示す1連のパネルを示す。移植膵島細胞の切片は、インスリン、グルカゴンならびにDAP1についてそれぞれ染色し、共焦点蛍光顕微鏡で観察した。
図5は、移植した膵島細胞にインスリン/グルカゴン同時陽性細胞が出現した状態を共焦点蛍光顕微鏡で観察した図を示す。移植後120日目にインスリン、グルカゴン、ならびにDAP1について染色した移植膵島の切片をDAP1(青色)、インスリン(緑色)ならびにグルカゴン(赤色)についてそれぞれ染色した移植膵島細胞をそれぞれ示し、またこれらの染色画像を組み合わせた画像を示す。上部ならびに下部の組合せ画像パネル中の各横線は50μmと10μmをそれぞれ示す。左側上部画像の四角で囲った部分は高倍率の画像パネルで、その四角部分の高倍率画像を下部の組合せ画像パネルに示す。図11は移植したヒト膵島細胞中にインスリンとグルカゴンが同時に発現した免疫電子顕微鏡写真を示している。本顕微鏡写真の左図は、組織切片を18nmと12nm金粒子にそれぞれ結合した抗インスリン抗体ならびに抗グルカゴン抗体で染色して撮影したものであり、図中四角で囲った部分に局在する2個のグルカゴン顆粒(中抜き矢じり印)と1個のインスリン顆粒(黒塗り矢じり印)を拡大した図である(右図)。
図6は、移植後60日目の腎臓被膜下(kc、上部パネル)と肝臓内(pv、下部パネル)の膵島移植片の組織分析を示す。この結果にはインスリン/グルカゴン同時陽性細胞は認められなかった。横線は50μmを示す。
興味深いことに、インスリン/グルカゴン同時陽性細胞は、移植30日後と60日後にピークとして移植膵島細胞のいくつかに出現したことが示された。インスリン/グルカゴン同時陽性細胞には、インスリンとグルカゴンの顆粒が同一細胞内の細胞質中に別々に図5および図11に示すように染色された。反対に、インスリン/グルカゴン同時陽性細胞は、図6に、レシピエントマウスの腎臓被膜下にも、肝臓内にも認められなかったことは注目すべきである。
本実施例は、ヒト膵島細胞を、STZ誘発糖尿病NOD/scidマウスに移植した症例に関する。驚いたことに、いくつかの移植膵島細胞がインスリン/グルカゴン同時陽性細胞に変換されていたことが判明した。
図7は、ヒト膵島細胞を鼠蹊部皮下脂肪組織に移植したSTZ誘発糖尿病NOD/scidマウスの血漿グルコースレベルを示す線グラフである。印(*)は、糖尿病レシピエントの皮下脂肪組織に移植した膵島細胞を除去したことを意味する。
図7に示す結果は、マウス膵島細胞について得られた上記知見はヒト膵島細胞についての症例にも当てはまることを示す。図7は、ヒト膵島細胞(1500IEQ)を鼠蹊部皮下脂肪組織に移植した後、STZ誘発糖尿病NOD/scidマウスの血糖が正常血糖になり、移植膵島細胞を除去するとすぐに再度高血糖に戻ったことを示す。
図8は、ヒト膵島細胞を移植した60日後のSTZ誘発糖尿病NOD/scidマウスの鼠蹊部皮下脂肪組織中のヒト膵島移植片の共焦点顕微鏡画像を示す。を示す。図8(A)は、移植後60日目のマウスのHE染色移植切片を示し、図8(B)、8(C)、8(D)および8(E)は、図8(A)で四角に囲った部分のヒト膵島細胞の共焦点顕微鏡画像を示す。図8(B)はインスリンについて染色した断面部分を示し、図8(C)はグルカゴンについて染色した断面部分を示す。図8(D)はDAP1について染色した断面部分を示す。図8(E)は、図8(B)〜8(D)の3つの画像を合併して1画像にした組合せ画像であり、矢じり印で示した細胞はインスリン/グルカゴン同時陽性細胞である。HE染色画像と免疫蛍光染色画像中の横棒の長さは200μmと20μmをそれぞれ示す。驚いたことに、図8には、インスリン/グルカゴン同時陽性細胞が大量に鼠蹊部皮下脂肪組織に移植した膵島移植片に現れたことが示されている。
本実施例は、低い移植効率が膵島移植の臨床応用を制限する主要な要因であることから、鼠蹊部皮下脂肪組織を移植部位に選択したときの膵島移植効率を評価するものである。したがって、鼠蹊部皮下脂肪組織という新規移植部位は、もしこの障害を潜在的に解決するものでなければ、臨床で現実には利用できない。
図9は、STZ誘発糖尿病レシピエントの鼠蹊部皮下脂肪組織に移植後6時間目の移植膵島細胞の組織分析を示す。図9(A)はHEで染色した移植膵島細胞の断面を示す。上部左隅の四角部分は、図9(A)で示したHE染色した左側に示した四角部分の高倍率画像である。この四角部分の高倍率画像において、矢印は移植膵島細胞内の湿潤好中球を示す。図9(B)は、インスリン(緑色)と好中球マーカーであるGr−1(赤色)について染色した膵島移植片の免疫蛍光画像である。図9(A)および9(B)の画像中の横棒は、100μmおよび10μmとをそれぞれ示す。
図9に示すように、組織学的には、鼠蹊部皮下脂肪組織に移植した膵島移植片は、移植後6時間目には好中球で湿潤されていた。これらの知見は、本発明者が以前論文(非特許文献8)に報告した肝臓に移植した移植膵島細胞に見られた知見と正確に類似している。このことは、NKT細胞依存好中球活性化がこの部位への膵島細胞移植の早期損失に根本的な役割をも果たしていることを示唆している。
図10は、同種同系膵島細胞を鼠蹊部皮下脂肪組織に移植したSTZ誘発糖尿病Jα18欠如(NKT細胞欠如)マウスの血漿グルコースレベルを示す線グラフである。最上部のグラフは、同種同系膵島細胞200個を移植した症例、上から2番目のグラフは100個を移植した症例、上から3番目のグラフは50個を移植した症例、一番下のグラフは25個を移植した症例を示す。
上記の結果から、移植膵島細胞が容易に回収でき、かつ、より重要なことには、膵島細胞50個、つまり1ドナーの1/4の膵島細胞を、NKT細胞を標的にして移植することで、糖尿病を逆転もしくは寛解できることから、鼠蹊部皮下脂肪組織が膵島細胞移植の新規な機能的な部位であることを示している。さらには、出生後には全く見られなかったインスリン/グルカゴン同時陽性細胞がマウスにみられると共に、ヒト膵島細胞移植片がこの部位にだけ認められた。
総括すれば、上記の知見は、鼠蹊部皮下脂肪組織が、臨床的膵島移植が直面する現在の障害、つまり、移植膵島細胞の評価・回収の困難さならびに低移植効率に対する潜在的な解決法となりうる膵島移植の新規な機能的な部位となることを示していることから、膵島移植の臨床応用に対して大きな影響を有している。更には、この発明は、インスリン/グルカゴン同時陽性細胞がマウスの鼠蹊部皮下脂肪組織に移植した膵島細胞にだけ出現し、このインスリン/グルカゴン同時陽性細胞がβ細胞、α細胞またはその他の細胞群もしくは内分泌前駆体から派生したかどうかは未定であるけれども、β細胞分化の新規なin vivoモデルを提供しているとの証拠を提供する。

Claims (6)

  1. 1ドナーのインスリン産生膵島細胞数と略同数〜1/4の細胞数の同種又は異種由来インスリン産生膵島細胞を含む、栄養血管が広範囲に分布する鼠蹊部、腋下、背中、腹部から選択される少なくともいずれかの部位に存在する皮下脂肪組織へ移植してインスリン産生膵島細胞をNKT細胞活性抑制下にて生着させインスリン/グルカゴン同時陽性細胞を出現させるためのインスリン産生膵島細胞移植用製剤。
  2. 請求項1に記載のインスリン産生膵島細胞移植用製剤を収容してなる糖尿病レシピエントの皮下脂肪組織へ埋設し、皮下脂肪組織へ移植してインスリン産生膵島細胞をNKT細胞活性抑制下にて生着させるための移植用細胞含有容器。
  3. インスリン産生細胞を栄養血管が分布している非ヒト動物の鼠蹊部皮下脂肪組織に、NKT細胞活性抑制下にて、1ドナーの膵島細胞数と同数から1/4の割合の細胞数割合で移植することからなるインスリン産生細胞移植方法。
  4. 請求項3に記載のインスリン産生細胞移植方法であって、前記インスリン産生細胞が、ヒト膵島細胞、異種膵島細胞またはインスリン/グルカゴン同時陽性細胞であることからなるインスリン産生細胞移植方法。
  5. インスリン産生細胞を栄養血管が分布している非ヒト動物の鼠蹊部皮下脂肪組織に、NKT細胞活性抑制下にて、1ドナーの膵島細胞数と同数から1/4の割合の細胞数割合で移植し、移植インスリン産生細胞がインスリンを分泌し、分泌インスリンによって非ヒト動物の糖尿病を治療することからなる糖尿病治療方法。
  6. 請求項5に記載の糖尿病治療方法であって、前記インスリン産生細胞が、ヒト膵島細胞、異種膵島細胞またはインスリン/グルカゴン同時陽性細胞であることからなる糖尿病治療方法。
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