以下に、本発明による圧力交換装置の好ましい実施形態を説明する。
図1に示すように、海水淡水化施設は、前処理装置1と、ろ過海水槽2と、供給ポンプ3と、保安フィルター4と、昇圧ポンプ5と、逆浸透膜装置6等を備えている。
前処理装置1で夾雑物が取り除かれた海水は、ろ過水槽2に貯留され、供給ポンプ3で保安フィルター4に供給され、そこで海水に含まれる微細な異物が除去される。後段に設置された逆浸透膜装置6の逆浸透膜の詰まりを防止するためである。その後、海水は、昇圧ポンプ5によって浸透圧以上の所定の圧力に昇圧されて逆浸透膜装置6に供給される。
逆浸透膜装置6に供給された高圧の海水は、逆浸透膜でろ過されることにより、各種塩類が除去されて淡水となる。こうして得られた淡水が飲料用水や工業用水等として利用される。
逆浸透膜装置6は、逆浸透膜の一方側の海水に圧力をかけることにより、逆浸透膜の他方側に海水中の各種塩類が除去された淡水を染み出させる装置であり、海水をろ過するために、海水を浸透圧以上の所定の圧力に昇圧する必要がある。
逆浸透膜装置6に供給された海水の全てが淡水化されるのではなく、例えば、逆浸透膜装置6に供給される海水のうち40%が淡水化されて取り出され、残りの60%は淡水化されることなく逆浸透膜装置6から排水される。この淡水化されなかった60%の濃縮海水は非常に高い圧力を保持している。
そこで、逆浸透膜装置6から排水された高い圧力の濃縮海水(以下「高圧濃縮海水Hi」と記す)の圧力を利用して逆浸透膜装置6に供給する海水を昇圧する圧力交換装置10を海水淡水化施設に備えて、海水淡水化施設全体で使用するエネルギーのエネルギー効率の向上を図っている。
例えば、保安フィルター4から逆浸透膜装置6に供給される海水のうち40%の海水が、高圧ポンプ5によって逆浸透膜の浸透圧以上の6.9MPaに昇圧され、残りの60%の海水(以下、「低圧海水Li」と記す)が、圧力交換装置10とブースターポンプ7によって6.9MPaに昇圧される。
ろ過対象となる低圧海水Liと、逆浸透膜装置6から排水された高圧濃縮海水Hiとが、圧力交換装置10に供給されて圧力を交換し、高圧濃縮海水Hiによって6.75MPaに昇圧された低圧海水Liが高圧海水Hoとして圧力交換装置10から排水される。
この高圧海水Hoがブースターポンプ7によって6.9MPaに昇圧されて、逆浸透膜装置6に供給される。尚、圧力交換装置10で低圧海水Liに圧力を伝達した高圧濃縮海水Hiは低圧濃縮海水Loとして圧力交換装置10から排水される。
以下に説明する圧力交換装置の実施形態では、高圧濃縮海水Hiと低圧濃縮海水Loを第1流体と表現し、低圧海水Liと高圧海水Hoを第2流体と表現している。また、低圧海水Liを被濃縮流体と表現している。
図2に示すように、圧力交換装置10は、回転体40と、回転体40を挟むように回転体40の両端側にそれぞれ配置された第1側方部材20及び第2側方部材30と、第1側方部材20及び第2側方部材30の間で回転体40の周部を覆うように配置された筒状の保持部材11を備えている。
さらに、第1側方部材20、第2側方部材30、及び保持部材11を内部に収容する筒状のケーシング13が設けられ、ケーシング13の両端面のうち第1側方部材20側の一端面を封止する第1エンドカバー14と、第2側方部材30側の他端面を封止する第2エンドカバー15等を備えている。
図2及び図3(a),(b)に示すように、第1エンドカバー14及び第2エンドカバー15は、両端にねじが切られた複数のボルト12aと、両端のねじに螺合するナット12b,12cで構成された連結部材12によって締結されている。
第1エンドカバー14には、第1流体である高圧濃縮海水Hiの流入配管となる高圧入力ポート51及び圧力交換後の低圧濃縮海水Loの流出配管となる低圧出力ポート54が形成されるとともに、第2流体である低圧海水Liの流入配管となる低圧入力ポート53及び圧力交換後の高圧海水Hoの流出配管となる高圧出力ポート52が形成されている。さらに、第2エンドカバー15には、回転体40の回転状態を外部から目視確認可能な覗き孔19が形成されている。
図2及び図4(a),(b),(c)に示すように、回転体40は、一端側から第1流体が流入及び流出する第1流路41と、同じく一端側から第2流体が流入及び流出する第2流路42とが、回転軸心Pに沿って回転軸心P周りに、同心円状に複数本配設された円柱状部材で構成されている。
当該回転体40には、内周側に貫通形成された16本の第1流路41と、外周側に貫通形成された16本の第2流路42とが回転軸心周りに放射状に16組配置されている。これら16組の第1流路41と第2流路42とが夫々回転体40の端面40b側に形成された連通部40cで連通するように構成され、当該連通部40cと第1流路41と第2流路42の一部によって、第1流路に流入する第1流体と第2流路に流入する第2流体との間で圧力伝達する圧力伝達部Ptが構成されている。
第1流路41と第2流路42の断面積が略等しくなるように形成され、各流路壁の強度と各流路の断面積とのバランスがとられている。従って、流体が第1流路と第2流路を通流するときの圧力損失が低減され、効率のよい圧力伝達が可能になる。尚、第1流路41と第2流路42の断面積は多少異なる値に設定されていてもよい。
図2及び図5(a),(b),(c)に示すように、第1側方部材20は、第1流体流入路21と、第2流体流出路22と、第2流体流入路23と、第1流体流出路24との四本の流路が回転軸心Pと同心円で円弧状のスリットとして厚み方向に形成された円盤状部材で構成されている。
第1流体流入路21は第1エンドカバー14側から供給される第1流体を隣接する複数の第1流路41(本実施形態では5本に設定されているが、適宜設定される値である。)に同時に案内する流路であり、第2流体流出路22は圧力伝達部Ptにおいて第1流体との間で圧力交換された第2流体を隣接する複数の第2流路42(本実施形態では5本に設定されている。)から同時に案内する流路である。
第2流体流入路23は第1エンドカバー14側から供給される第2流体を隣接する複数の第2流路42(本実施形態では5本に設定されている。)に同時に案内する流路であり、第1流体流出路24は圧力伝達部Ptにおいて第2流体との間で圧力交換された第1流体を隣接する複数の第1流路41(本実施形態では5本に設定されている。)から同時に案内する流路である。
図2及び図7(a),(b),(c)に示すように、第2側方部材30も円盤状部材で構成され、回転体40の対向面側に第1流路41の径方向長さに対応する幅で深さ数ミリ程度の一対の円弧状の凹部31,34が形成されるとともに、第2流路42の径方向長さに対応する幅で深さ数ミリ程度の一対の円弧状の凹部32,33が形成されている。各凹部31,32,33,34の周方向長さは、第1側方部材20に形成された四本の流路21,22,23,24の回転体40側の開口部21b,22b,23b,24bの周方向長さに対応している。
図2に戻り、回転体40の中心部には回転軸心Pに沿って空洞の挿通部44が貫通形成されている。両端にねじ部が形成された支軸43が当該挿通部44に挿通され、支軸43の各端部が第1側方部材20及び第2側方部材30の端面側でナット43a,43bによって締結されている。
上述したように、保持部材11は第1側方部材20と第2側方部材30との間で回転体40を覆い、回転体40の軸心方向長さよりも僅かに長く(本実施形態では、数十ミクロン)形成された筒状体で構成され、第1側方部材20と第2側方部材30と保持部材11で仕切られる空間に、流体が進入する隙間を介して回転体40が収容されている。
第1流体流入路21から回転体40に流入し、回転体40から第2流体流出路22に流出する高圧流体、または、第2流体流入路23から回転体40に流入し、回転体40から第1流体流出路24に流出する低圧流体が、第1側方部材20と回転体40との間の隙間及び回転体40と第2側方部材30との間の隙間に進入する。回転体を保持する部材の間の圧力を均一にするため、回転体40の両端部の外周縁部及び保持部材11の内周縁部をそれぞれ面取りして空間を設けている。
回転体40と第1側方部材20との間の隙間に進入した第1流体または第2流体によって、回転体40が第2側方部材30に向けて押圧され、回転体40と第2側方部材20との間の隙間に進入した第1流体または第2流体によって、回転体40が第1側方部材20に向けて押圧される結果、回転体40は軸心P方向に沿って両側から略等しい力で押圧され、第1側方部材20及び第2側方部材30の何れか一方向に片寄ることなく圧力バランスが保たれる。
さらに、回転体40と保持部材11との間の隙間に進入した第1流体または第2流体によって回転体40と保持部材11との間の隙間は全面にわたって同じ圧力となり、回転体40の外周と保持部材11の内周との隙間が維持される。各隙間に浸入した流体が潤滑剤として機能し、回転体40が第1側方部材20または第2側方部材30と摺動すること無く、また回転体40が保持部材11の内周面と摺動することなく、安定して円滑に回転するようになる。
即ち、保持部材11の内周面と回転体40の外周面とで回転体40を回転可能に支持する軸受部が構成されている。各隙間は、狭過ぎると大きな摺動抵抗が発生して回転に必要なエネルギーが増加し、広過ぎると流体の漏れ量が多くなり圧力の交換効率が低下するため、好ましくは1〜100μm程度に設定される。各隙間は、回転体40と保持部材11の軸方向の長さの差等によって設定されるが、摺動の発熱や流体の温度変化により膨張または収縮しても隙間が変動しないように回転体40と保持部材11等は熱膨張率が同等または近い値の素材で形成することが好ましい。
圧力交換装置10には、第1流体及び第2流体のエネルギーによって回転体40が回転するトルク付与機構が設けられている。
トルク付与機構により付与されるトルクで回転体40が回転軸心周りに回転することにより、第1流体流入路21から第1流路41に流入する高圧の第1流体(高圧濃縮海水Hi)と、第2流体流入路23から第2流路42に流入する低圧の第2流体(低圧海水Li)とが、圧力伝達部Ptで圧力交換され、高圧の第2流体(高圧海水Ho)が第2流体流出路22から流出する。
同じく、第1流体流入路21から第1流路41に流入する高圧の第1流体(高圧濃縮海水Hi)と、第2流体流入路23から第2流路42に流入する低圧の第2流体(低圧海水Li)とが、圧力伝達部Ptで圧力交換され、低圧の第1流体(低圧濃縮海水Lo)が第1流体流出路24から流出する。
つまり、第1側方部材20及び第2側方部材30と保持部材11で仕切られる空間内で回転体40が回転することで、第1流体流入路21から第1流路41に流入した第1流体から圧力伝達された第2流体が第2流路42から第2流体流出路22へ流出し、第2流体流入路23から第2流路42に流入した第2流体から圧力伝達された第1流体が第1流路41から第1流体流出路24へ流出する圧力交換処理が連続的に行なわれる。
第1側方部材20、第2側方部材30、回転体40、保持部材11のそれぞれは、アルミナ等のセラミックス、FRP、または、二相ステンレス鋼やスーパー二相ステンレス鋼等のように、海水に対する耐食性があり、十分に強度のある材料を用いることができる。
二相ステンレス鋼やスーパー二相ステンレス鋼を用いた場合には、回転体40と第1側方部材20及び第2側方部材30との対向面、及び保持部材11の内周面を窒化処理し、或はアルミナ等のセラミックを溶射し、肉盛溶接し、或はHIP処理して摩擦係数を低減する耐磨耗層を形成することが好ましい。
また、回転体40と保持部材11は、温度変化による熱膨張を考慮すると、熱膨張率が同等の素材を選択して構成することが好ましい。
ケーシング13は、樹脂材料、FRPまたは、二相ステンレス鋼やスーパー二相ステンレス鋼等の金属材料のように、海水に対する耐食性があり、ある程度強度を備えた材料を用いることができる。
回転体40はステンレス鋼等の高強度の金属管を樹脂材料やセラミックスで被覆して耐食性を付加して構成してもよい。これにより、耐食性に劣る安価な材料を利用することができコストダウンが図れる。
第1エンドカバー14は球状黒鉛鋳鉄(例えば、FCD450)で形成された鋳物にナイロン11等の樹脂がコーティングされて構成され、第2エンドカバー15は鉄系材料(例えばSS400)にナイロン11等の樹脂がコーティングされて構成されている。
尚、エンドカバーの材質は、海水に対する耐食性と強度があればよく、樹脂材料、FRPまたは、二相ステンレス鋼やスーパー二相ステンレス鋼でもよく、前述のように耐食性を付与するためのコーティングがなされた鉄等の金属材料であってもよい。
トルク付与機構について詳述する。
図5(a),(b),(c)及び図6(a),(b)に示すように、第1流体流入路21となる円弧状のスリットは、第1側方部材20の入口側開口部21aから出口側開口部21bにかけて、一対の回転方向端面に形成された傾斜流路壁21cを備えて構成されている。
また、第2流体流入路23となる円弧状のスリットは、第1側方部材20の入口側開口部23aから出口側開口部23bにかけて、一対の回転方向端面に形成された傾斜流路壁23cを備えて構成されている。
傾斜流路壁23cの傾斜方向と傾斜流路壁21cの傾斜方向は円周方向に対して同じ向きに設定され、このような形状を備えた各流入路21,23によって回転体40へのトルク付与機構が構成されている。
各種実験及びシミュレーションの結果に基づけば、傾斜流路壁23cの基端側及び他端側の傾斜角度θ1,θ2は、50±20°の範囲が好ましく、傾斜流路壁21cの基端側及び他端側の傾斜角度θ3,θ4は、70±15°の範囲が好ましい。
傾斜流路壁21c及び傾斜流路壁23cの基端側とは、回転体40の回転方向に沿って上流側の傾斜流路壁をいい、傾斜流路壁21c及び傾斜流路壁23cの他端側とは、回転体40の回転方向に沿って下流側の傾斜流路壁をいう。また、傾斜角度θ1は第1側方部材20のうち、第1流体流入路21の入口側端面との成す角度を指し、傾斜角度θ2は第1側方部材20のうち、第1流体流入路21の出口側端面との成す角度を指している。傾斜角度θ3,θ4も同様である。
傾斜角度θ1,θ2の何れか一方が90°、つまり流路42と平行な方向に形成されていてもよく、その場合には他方の傾斜角度は30°から50°の範囲に設定されることが好ましい。また、傾斜角度θ3,θ4の何れか一方が90°、つまり流路41と平行な方向に形成されていてもよく、その場合には他方の傾斜角度は55°から70°の範囲に設定されることが好ましい。
既述したように、第1流体流入路21は出口側開口部21bにおいて、回転体40の周方向に配列された複数の第1流路41と同時に連通するように構成され、第2流体流入路23は出口側開口部23bにおいて、回転体40の周方向に沿って複数の第2流路42と連通するように構成されている。この様子が図13(a)にハッチングした領域として示されている。
第1側方部材20の入口側開口部23aから第2流体流入路23に流入した低圧海水Liは、第2傾斜部としての流路壁23cに沿って流れて、出口側開口部23bから複数の第1流路41に分散して流入する。このとき、回転体40の周方向に沿って第2流体流入路23を流れる低圧海水Liは、複数の第2流路42間に形成された壁面へ圧力を付与し、この圧力が回転体40を回転させるトルクとなる。
同様に、高圧濃縮海水Hiが第1流体流入路21の流路壁21cに沿って第1流路41に流入するときのエネルギーにより回転体40を回転させるトルクが発生する。
つまり、トルク付与機構は、回転体40に流入する低圧海水Liが第2流体流入路23の流路壁23cに沿って第2流路42に流入するときのエネルギー、及び回転体40に流入する高圧濃縮海水Hiが第1流体流入路21の流路壁21cに沿って第1流路41に流入するときのエネルギーにより、回転体40に回転トルクを付与する機構である。
従って、外部動力を付与しなくても圧力変換対象となる流体のエネルギーによって回転体40を回転させることができるようになる。そして、回転体40の回転に伴って、圧力伝達部Ptへの第1流体の流入と流出、第2流体の流出と流入が切り替えられるので、別途の流路の切替機構も不要になる。
仮に、第1側方部材20に備えた流体流入路21,23に傾斜流路壁21c,23cが形成されず回転体40の軸心方向に沿う垂直流路壁が形成されている場合であっても、流入ポート51,53が傾斜ポートで構成されていれば、流体流入路21,23から回転体40に流入する流体が、隣接する第1流路41の隔壁及び隣接する第2流路43の隔壁に向けて作用する運動エネルギーによって、回転体40にトルクが付与される。
図8(a),(b),(c)及び図9(a),(b),(c)に示すように、第1エンドカバー14は、一対の流入ポート51,53及び一対の流出ポート52,54等を備えた円盤状の部材で構成されている。
一対の流入ポート51,53は、出口部において回転軸心P方向視で各流体流入路21,23の傾斜流路壁21c,23cの基端側で、半径方向で中心における接線TL方向に沿うように、且つ、回転体40の回転軸心Pとは直交する方向視で回転軸心Pと交差するように形成された傾斜ポートで構成されている(図6(a),(b)参照)。
また、第1エンドカバー14に形成された一対の流出ポート52,54は、回転軸心Pと平行に、つまり第1側方部材20の端面と垂直方向に延出形成されている。
流入ポート51,53及び流出ポート52,54を構成する管体は、ヘッダー管へ接続するヘッダー管接続部位51a,53a,52a,54a、言い換えればポートの第1側方部材側とは異なる側で真円形状となり、管体の断面積を略一定に保ちながら第1側方部材20に接近するにつれて次第に扁平形状になるように構成され、第1側方部材20と接合するポートの第1側方部材側の第1側方部材接続部位51b,53b,52b,54bでは、各流体流入路21,23の入口部21a,23a及び各流体流出路22,24の入口部22a,24aの円弧状のスリット形状に対応する形状となるように成形されている。
上述の構成によれば、各管体51,53に流体が流入する際に流体に発生する圧力損失を効果的に低減でき、しかも効率よくトルクを回転体に付与することができる。同様に、各管体52,54に流体が流出する際に流体に発生する圧力損失を効果的に低減できるようになる。
傾斜ポートである流入ポート51,53に流入した第1流体または第2流体が、円弧状のスリット形状に形成された第1側方部材20の各流体流入路21,23に対して、回転軸心P方向視で基端側の接線TL方向に沿って流入するため、流入ポートから流体流入路へと通過する際に大きな圧力損失が発生することなく、各流体の運動エネルギーが効率的に回転体40の回転力として寄与するようになる。
傾斜ポートである流入ポート51,53は回転軸心Pとは直交する方向視で回転軸心Pと交差(本実施形態では直交)する姿勢になり、他のポート52,54と延出方向を異ならせることができるので、複数台の圧力交換装置10を用いる場合でも、各圧力交換装置10が互いに干渉しないように各流入ポート51,53及び出力ポート52,54をコンパクトなスペースで各ヘッダー管に接続することができるようになり、各配管の設置作業やメンテナンス作業等の作業性も良好になる。
このような構成によれば、同じ流量の圧力交換処理を行なう場合に回転体の軸心方向の長さを短く構成することができ、しかも各ポートを回転体の一方の側にのみ配置できるので、装置のコンパクト化と低コスト化を図ることができるようになる。
傾斜ポートである流入ポート51,53の出口近傍で、その軸心と回転軸心P方向視で対応する流体流入路の基端側の接線方向TLとの成す角度φ1,φ2が±20°の角度範囲に収まるように配置されていることが好ましく、特に接線方向TLに対して0°から20°の角度範囲であることが好ましい。ここで、角度がプラス方向とは、時計回りの方向を意味している。傾斜ポートがこのような角度範囲に収まるように構成されていると、流体が流入ポートから流体流入路へと流れる際に生じる圧力損失と流体が回転体に付与するトルクとのバランスが保たれ、良好な圧力交換を行なうことができる。
傾斜ポートの軸心とは、傾斜ポートの入口から出口に向けて流れる流体の流線と直交する各断面の中心位置を流線方向に連結した仮想線をいう。
図17(a)には、高圧流体流入ポート51の軸心を回転軸心P方向視で基端側の接線方向TLに対して傾斜させた場合の圧力損失と発生トルクの変動をシミュレーションした結果が示されている。同様に図17(b)には、低圧流体流入ポート53の軸心を回転軸心P方向視で基端側の接線方向TLに対して傾斜させた場合の圧力損失と発生トルクの変動をシミュレーションした結果が示されている。
何れも横軸は入口角度を示し、流入ポート51,53の軸心が接線方向TLと一致する場合を0°に設定し、+側が時計回り−側が反時計回りの傾斜角度を示している。高トルクが得られ且つ圧力損失が低くなる条件が好ましいと評価できる。図17(a),(b)に示すように、何れも接線方向TLに対して±20°の角度範囲がバランスのとれた範囲として評価できる。
既述したように、傾斜ポートである流入ポート51,53に対応する各流体流入路21,23の一対の回転方向端面の基端側または他端側の少なくとも何れか一方に回転体40にトルクを付与する傾斜面21c,23cが形成されている。当該流入ポート51,53は、各流体流入路21,23の入口部21a,23aで傾斜流路壁の傾斜角方向に沿うように形成されていることが好ましい(図6(a),(b)参照)。
当該流入ポート51,53から流体流入路21,23に流入する流体が流体流入路21,23の傾斜流路壁21c,23cに沿って流れ、その流れによって回転体40に形成された流路間の隔壁に圧力が付与され、その圧力によって回転体40が回転する。このとき、各流体流入路21,23の入口部21a,23aで当該流入ポート51,53が当該傾斜面21c,23cの傾斜角方向に沿うように配置されていると、滑らかに傾斜面21c,23cに沿って流体が流れ、効率的にトルクが付与されるようになる。具体的に、流入ポート51,53の出口部近傍でその軸心と回転体40の回転軸心Pとの成す角度が、それぞれθ1とθ2の間の角度(50±20°)及びθ3とθ4の間の角度(70±15°)に設定されていることが好ましい。
図2に示すように、圧力交換装置10には、第1側方部材20または第2側方部材30の少なくとも一方を押圧して、第1側方部材20と第2側方部材30との間隔を調整する押圧機構が設けられ、当該押圧機構により隙間が良好に調整可能に構成されている。
具体的に、第1エンドカバー14と第2エンドカバー15を連結する連結部材12が押圧機構として機能し、ナット12b,12cの締付力を調整することによって、第1エンドカバー14と第2エンドカバー15の間隔が調整され、これにより、第1側方部材20及び第2側方部材30が、第1エンドカバー14及び第2エンドカバー15で押圧されて、第1側方部材20及び第2側方部材30と回転体40との隙間が調整される。
また、第1側方部材20及び第2側方部材30を貫通する支軸43も押圧機構として機能し、ナット43a,43bの締付力を調整することによって、第1側方部材20及び第2側方部材30と回転体40との隙間が調整される。
連結部材12により、主に第1側方部材20及び第2側方部材30と回転体40との周縁領域の間隙が調整され、支軸43により、主に第1側方部材20及び第2側方部材30と回転体40との中心部分の隙間が調整される。
第1エンドカバー14のうちケーシング13との接触面には、円周方向にシール13aが配設される凹部14aが形成され、ケーシング13の外部への流体の漏れが防止されている。第2エンドカバー15のうち第2側方部材30側には、例えばアクリル樹脂等の透明樹脂製の封止板70がボルト固定され、封止板70のうちケーシング13との接触面にはシール13bが配設される凹部54が形成され、同様にケーシング13の外部への流体の漏れが防止されている。
圧力交換装置10には、上述した軸受部で回転体40が円滑に回転するように、回転体40と第1側方部材20との間の隙間、回転体40と第2側方部材30との間の隙間及び回転体40と保持部材11との間の隙間に進入した各流体によって、第1側方部材20及び第2側方部材30、保持部材11にかかる押圧力を、第1側方部材20と第2側方部材30の両端面、さらには保持部材11の内外周面でバランスさせて、第1側方部材20及び第2側方部材30が変形しないように複数の調圧機構が設けられている。
図2に示すように、第1側方部材20と第2側方部材30を連結する支軸43の各端部を覆うように、第1側方部材20と第1エンドカバー14とで区画される第1閉空間16、及び、第2側方部材30と第2エンドカバー15とで区画される第2閉空間18が形成され、第1閉空間16と挿通部44を連通する連通路、及び第2閉空間18と挿通部14を連通する連通路49a,49bが支軸43に形成されている。当該連通路49a,49bによって調圧機構が構成される。
回転体40と第1側方部材20の隙間を経由して挿通部44に進入した流体が、連通路49aを経由して第1閉空間16に流入するとともに、回転体40と第2側方部材30の隙間を経由して挿通部44に進入した流体が、連通路49bを経由して第2閉空間18に流入し、第1閉空間16と第2閉空間18と挿通部44とが略同じ圧力に維持される。
従って、第1側方部材20のうち第1閉空間16を区画する部位で撓みが生じないように両面の圧力バランスが保たれ、第2側方部材30のうち第2閉空間18を区画する部位で撓みが生じないように両面の圧力バランスが保たれる。このような構成を採用すれば、第1側方部材及び第2側方部材の両面で圧力は略一定となり、変形することなく薄肉化することができ、装置のコンパクト化と低コスト化を図ることができる。尚、連通路49a,49bは支軸43に設けるのではなく、第1側方部材20及び第2側方部材30の支軸43近傍位置に形成することもできる。
同じく図2に示すように、第1側方部材20及び第2側方部材30と、保持部材11の外周面と、ケーシング13の内周面とで外周閉空間が区画され、回転体40と保持部材11との隙間と、外周閉空間とを連通するように、保持部材11に連通路45が形成されている。当該連通路45によって調圧機構が構成される。
回転体40と第1側方部材20及び第2側方部材30との隙間を経由して、回転体40の外周面と保持部材11の内周面との隙間に進入した流体が、回転体40の周部に形成された溝40a及び保持部材11に形成された連通路45を通って保持部材11の外周面とケーシング13の内周面との外周閉空間に進入する結果、外周閉空間に導かれた流体の圧力と、回転体40の外周面と保持部材11の内周面との隙間に作用する流体の圧力とがバランスし、保持部材11を径方向に歪ませるような力が生じない。
図2及び図10(a),(b),(c)に示すように、第2エンドカバー15にボルト固定された封止板70には、図11(b)に示す形状のガスケット70Gを嵌入するためのガスケット溝71が形成されている。
中心部の円形のガスケット溝71aによって上述した第2閉空間18が区画され、上下の扇形状のガスケット溝71b,71cによって2つの調圧領域72,73が区画されている。ガスケット溝71a,71b,71cには嵌入したガスケット70Gが組立時に脱落しないように、要所に幅狭部71dが形成されている。図13(c)には、ガスケット70Gが嵌入された封止板70が示されている。調圧領域73に示された円形のハッチング領域76は覗き孔19に対応する領域で、少なくともこの領域が透明であればよい。つまり、封止板は、全て透明でも覗き孔19に対応する領域のみ透明の何れかでよい。
第2側方部材30のうち回転体40に対向する面に形成された凹部32,33には、それぞれ回転体40に対する圧力調整用の連通孔32a,33aが形成され、連通孔32aを経て高圧流体が封止板70の調圧領域72に進入し、連通孔33aを経て低圧流体が封止板70の調圧領域73に進入することによって第2側方部材30の各領域の両面で圧力バランスがとられる。当該連通孔32a,33aによって調圧機構が構成される。
図13(b)には、第2側方部材30に形成された凹部31,32に高圧流体の圧力が作用する領域と、同じく第2側方部材30に形成された凹部33,34に低圧流体の圧力が作用する領域がハッチングにより示されている。
さらに、凹部31,32と凹部33,34に挟まれた領域には、それぞれ幅数ミリ、深さ数ミリ程度の連通溝68,69が形成されている。連通溝68,69は、高圧流体の圧力を受ける凹部31,32から低圧流体の圧力を受ける凹部33,34へと回転体40が回転し、或いは低圧流体の圧力を受ける凹部33,34から高圧流体の圧力を受ける凹部31,32へと回転体40が回転する際に、回転体40の流路41,42及び第2側方部材30の受圧面に掛かる大きな圧力変動を緩和するために形成されている。
つまり、連通溝68,69を介して回転体40の第1流路41及び第2流路42と、その径方向のほぼ反対側にある第1流路41及び第2流路42とが連通して圧力が平均化され、回転に伴なう圧力の急変による回転体40のリブの割れ、及び、キャビテーションの発生が防止される。当該連通溝68,69によって調圧機構が構成される。
連通溝68,69で圧力が平均化された流体が第2側方部材30の外周部とケーシング13との僅かな隙間を経由して封止板70と第2側方部材20との隙間に進入し、それぞれの領域の第2側方部材の両面で圧力バランスがとられる。
第2側方部材30のうち回転体40に対向する面には、第2エンドカバー15の覗き孔19から回転体40の回転状態を目視確認するための円形の覗き窓35が2つ形成されている。当該覗き窓35には、図12(c)に示すような透明樹脂、例えばアクリル樹脂で構成された円柱形状の窓部材60がOリングを介して嵌め込まれる。
図8(c)に示すように、第1エンドカバー14のうち第1側方部材20への対向面には、図11(a)に示す形状のガスケット14Gを嵌入するためのガスケット溝140が形成されている。
中心部の円形のガスケット溝140aによって上述した第1閉空間16が区画され、上下の円弧状のガスケット溝140b、140c及びガスケット溝140b、140cを上下に二分するガスケット溝140dによって4つの調圧領域81,82,83,84が区画されている。
調圧領域81には高圧流体流入ポート51の流入口が開口され、調圧領域82には高圧流体流出ポート52の流出口が開口され、調圧領域83には低圧流体流入ポート53の流入口が開口され、調圧領域84には低圧流体流出ポート54の流出口が開口されている。
第1側方部材20と回転体40との隙間に進入する流体のうち第1流体流入路21から進入する高圧流体からの圧力が調圧領域81によって調圧され、第2流体流出路22から進入する高圧流体からの圧力が調圧領域82によって調圧され、第2流体流入路23から進入する低圧流体からの圧力が調圧領域83によって調圧され、第1流体流出路24から進入する低圧流体からの圧力が調圧領域84によって調圧される。
このような調圧機構によって、軸受部に支持されて回転体40が円滑に回転するようになる。
以下、別実施形態を説明する。
上述した実施形態では、傾斜流路壁21cを備えた第1流体流入路21、及び、傾斜流路壁23cを備えた第2流体流入路23によってトルク付与機構が構成された例を説明したが、図14(a),(b),(c)及び図15に示すように、傾斜流路壁23cを備えた第2流体流入路23のみでトルク付与機構が構成されていてもよい。この場合、流路壁23cの基端側及び他端側の傾斜角度θ1は60±15°、θ2は50°±15°の角度範囲が好ましい。
同様に、傾斜流路壁21cを備えた第1流体流入路21のみでトルク付与機構が構成されていてもよい。さらに、全ての流体流入路及び流体流出路にそれぞれ傾斜流路壁を備えていてもよい。この場合、同一方向のトルクが付与されるように、傾斜流路壁の傾斜方向を切替える必要がある。
さらに、流体流入路21,23、流体流出路22,24に傾斜流路壁が形成されていなくても、流入ポート51,53が上述したような傾斜ポートで構成されていることで斜め方向の流れを生じトルクが付与される。
上述した実施形態では、回転体40に形成された第1流路41と第2流路42の連通部40cが圧力伝達部Ptとして構成された例を説明したが、図16に示すように、回転体40に形成された第1流路41と第2流路42の連通部38が第2側方部材30に形成された凹部で構成され、圧力伝達部Ptが当該凹部と第1流路41と第2流路42の一部とで構成されていてもよい。
回転体40の一端側から第1流路41に流入した第1流体と第2流路42に流入した第2流体は、回転体40の回転に伴って回転体40の他端側に備えた第2側方部材30に形成された連通部38を介して接触し、圧力伝達された後に回転体40の一端側から流出するので、圧力伝達時に回転体40に形成された第1流路41と第2流路42とを区画する流路間の隔壁に大きな圧力が作用しないため、回転体40に形成する第1流路41と第2流路42とを区画する流路間の隔壁を薄肉に形成し、軽量化を図ることができる。
トルク付与機構として第1側方部材20の各流体流出路に傾斜流路壁を備え、第1エンドカバー14に形成された一対の流出ポートが、回転軸心方向視で各流体流出路の基端側の接線方向に沿い、回転軸心とは直交する方向視で回転軸心と交差する傾斜ポートで構成されていてもよい。
第1エンドカバー14に形成された一対の流出ポート52,54が上述の傾斜ポートで構成されると、各流体流出路22,24から傾斜ポート52,54に向けて流出する第1流体または第2流体が、当該円弧状のスリット形状に形成された各流体流出路22,24に対して、回転軸心方向視で基端側の接線方向に沿って流出するため、大きな圧力損失が発生することなく、各流体の運動エネルギーが効率的に回転体の回転力として寄与するようになる。
傾斜ポートに対応する各流体流入路または各流体流出路の基端側または他端側の少なくとも何れか一方に回転体にトルクを付与する傾斜面が形成され、傾斜ポートは各流体流入路の入口部または各流体流出路の出口部で傾斜面の傾斜角方向に沿うように形成されていてもよい。
傾斜ポートから流体流出路に流出する流体が流体流出路の傾斜面に沿って流れると、その流れの反力によって回転体に形成された第1流路間または第2流路間の壁面に圧力が付与され、その圧力によって回転体が回転する。このとき、各流体流出路の出口部で傾斜ポートが当該傾斜面の傾斜角方向に沿うように配置されていると、滑らかに傾斜面に沿って流体が流れ、少ない圧力損失で効率的にトルクが付与されるようになる。
第1流路41及び第2流路42の断面形状は特に限定されず、真円や楕円等の円形状、三角、四角等の多角形状であってもよい。
第1流路41及び第2流路42の数や断面形状を変更することで、圧力交換装置の処理流量を変更することができる。
保持部材11と第2側方部材30をカップ状に一体形成してもよい。その場合、カップ状の第2側方部材30と第1側方部材20とで形成される閉空間内に回転体40が配置されるように構成すればよい。同様に保持部材11と第1側方部材20をカップ状に一体形成してもよい。
上述した実施形態では流入ポート及び流出ポートが一体に形成された第1エンドカバー14を説明したが、第1エンドカバー14に流入ポート及び流出ポートが着脱自在に構成されていてもよい。また、第1エンドカバー14と第1側方部材20を別体に構成した例を説明したが、第1エンドカバー14と第1側方部材20を一体に形成してもよい。
上述した実施形態では第2側方部材30と封止板70を別体に構成した例を説明したが、第2側方部材30と封止板70を一体に形成してもよい。さらに封止板70と第2エンドカバー15を一体に形成してもよく、第2側方部材30と封止板70と第2エンドカバー15を一体に形成してもよい。尚、これらを一体に形成すると部品点数を減らすことができるが、部材の両面にかかる圧力を均等にする圧力調整が為されないので、圧力に耐えるために部品が大きくなるので、別体に構成した方が好ましい。
上述した実施形態では保持部材11とケーシング13を別体で構成した例を説明したが、保持部材11とケーシング13を一体に構成してもよい。また、ケーシング13を備えずに、保持部材をケーシングとして機能させてもよい。
上述した実施形態では、第1流体流入路に高圧濃縮海水を流入させ、第2流体流入路に被濃縮流体である低圧海水を流入させる構成を説明したが、第1流体流入路に被濃縮流体である低圧海水を流入させ、第2流体流入路に高圧濃縮海水を流入させてもよい。
上述した実施形態では、圧力交換装置の第1流体流入路に供給される第1流体が逆浸透膜装置から排水される高圧濃縮流体であり、第2流体流入路に供給される第2流体が逆浸透膜装置に給水される被濃縮流体である例を説明したが、本発明による圧力交換装置は、圧力の異なる2流体間で圧力交換するものであれば、任意の非圧縮流体に適用可能である。
以上説明した圧力交換装置は、上述した実施形態の具体的な構成に限定されるものではなく、本発明による作用効果を奏する範囲において、各部の形状、サイズ、素材等を適宜選択することが可能であることはいうまでもない。