以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。かかる実施形態に示す具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
[本実施形態に係る車両用表示装置の外観構成]
本実施形態に係る車両用表示装置として、車両が備えるルームミラー(バックミラー)に取り付けられて使用されるヘッドアップディスプレイを例に挙げ、図1及び図2を参照して、その外観構成について説明する。図1は、本実施形態に係るヘッドアップディスプレイ10を、このヘッドアップディスプレイ10が取り付けられたルームミラー600から車両の図示しないウィンドシールドの方に向かう視野により観察した態様を示す斜視図である。また図2は、同じく図示しないウィンドシールドからルームミラー600の方に向かう視野により、ヘッドアップディスプレイ10を観察した態様を示す斜視図である。以後の説明において、前後、左右及び上下で示される方向は、それぞれ車両の前方、後方、車両の左側方向、右側方向、車両が配置された路面に垂直で当該面から車両側の方向及びその反対方向を意味する。
ヘッドアップディスプレイ10は、コンバイナ400に虚像として表示される画像に係る画像信号を生成し、その生成された画像信号を光学ユニット200に出力する回路基板111(図5参照)が収納された基板収納部100を備える。回路基板111は、ナビゲーション装置やメディア再生装置などの図示しない外部装置から出力された画像信号が入力され、その入力された信号に対して所定の処理を行った後、光学ユニット200に出力することもできる。この基板収納部100が、ヘッドアップディスプレイ10の構成要素の一つである後述する取付部材500(図14参照)と連結され、ルームミラー600が取付部材500に保持されることで、ヘッドアップディスプレイ10がルームミラー600に取り付けられる。なお、基板収納部100と取付部材500との連結、及び取付部材500のルームミラー600の保持に係る各機構の詳細については後述する。また、ヘッドアップディスプレイ10の全体構成の説明及び理解の容易のため、図1及び図2では取付部材500の記載を省略している。
ヘッドアップディスプレイ10は、回路基板111から出力された画像信号が入力される光学ユニット200を備える。光学ユニット200は、光学ユニット本体210、及び投射部300を備える。光学ユニット本体210には、後述する光源231、画像表示素子240、及び各種光学レンズなどが収納される。投射部300には、後述する各種投射ミラー及び中間像スクリーン360が収納される。回路基板111が出力した画像信号は、光学ユニット本体210の上記各デバイス、及び投射部300の上記各デバイスを介して、投射口301から凹面形状を有するコンバイナ400に画像表示光として投射される。なお、本実施形態では画像表示素子240として反射型液晶表示パネルであるLCOS(Liquid crystal on silicon)を用いる場合を例示するが、画像表示素子240としてDMD(Digital Micromirror Device)を用いてもよい。その場合、適用する表示素子に応じた光学系及び駆動回路で構成するものとする。
運転者であるユーザは投射された画像表示光をコンバイナ400を介して虚像として認識する。図1では、投射部300が「A」の文字の画像表示光をコンバイナ400に投射している。ユーザはコンバイナ400を見ることで、「A」の文字が、ユーザから例えば1.7m〜2.0m前方(車両前方)に表示されているかのように認識する、すなわち虚像450を認識することができる。ここで、投射部300からコンバイナ400に投射される画像表示光の中心軸を投射軸320と定義する。
詳細は後述するが、光学ユニット200は基板収納部100に対して回動可能な構成となっている。さらに、本実施形態に係るヘッドアップディスプレイ10では、投射部300及びコンバイナ400は光学ユニット本体210の所定の面に対して取付け向きが変更可能、また脱着可能な構成となっている。
[本実施形態に係る車両用表示装置の内部構成:光学系]
次にヘッドアップディスプレイ10の内部構成について説明する。図3及び図4は、上述したヘッドアップディスプレイ10の光学ユニット200の内部構成について説明するための図である。図3は光学ユニット本体210の内部構成、及び投射部300の内部構成の一部を画像表示光に係る光路とともに示す図である。図4は投射部300の内部構成、及び光学ユニット本体210の内部構成の一部を、コンバイナ400まで投射される画像表示光に係る光路とともに示す図である。
まず図3を参照して光学ユニット本体210の内部構成及び画像表示光に係る光路について説明する。光学ユニット本体210は、光源231、コリメートレンズ232、UV−IR(UltraViolet-Infrared Ray)カットフィルタ233、偏光子234、フライアイレンズ235、反射鏡236、フィールドレンズ237、ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッタ238、1/4波長板239、検光子241、投射レンズ群242、及びヒートシンク243を備える。
光源231は白色、又は青色、緑色、及び赤色の三色の光を発する発光ダイオードからなる。光源231には発光に伴い発生する熱を放冷するためのヒートシンク243が取り付けられている。光源231が発光した光は、コリメートレンズ232によって平行光に変えられる。UV−IRカットフィルタ233は、コリメートレンズ232を通過した平行光から紫外光及び赤外光を吸収し除去する。偏光子234は、UV−IRカットフィルタ233を通過した光を乱れのないP偏光へと変える。そしてフライアイレンズ235が、偏光子234を通過した光の明るさを均一に整える。
反射鏡236は、フライアイレンズ235の各セルを通過した光の光路を90度変更する。反射鏡236で反射された光はフィールドレンズ237によって集光される。フィールドレンズ237が集光した光は、P偏光を透過するワイヤーグリッド偏光ビームスプリッタ238及び1/4波長板239を介して、画像表示素子240に照射される。
画像表示素子240は、画素毎に赤色、緑色、及び青色のカラーフィルタを備えている。画像表示素子240に照射された光は、各画素に対応する色となり、画像表示素子240の備える液晶組成物によって変調が施され、S偏光の画像表示光となってワイヤーグリッド偏光ビームスプリッタ238に向けて出射される。出射されたS偏光の光はワイヤーグリッド偏光ビームスプリッタ238で反射され、光路を変えて検光子241を通過した後に投射レンズ群242へ入射される。
投射レンズ群242を透過した画像表示光は、光学ユニット本体210を出て投射部300に入る。そして投射部300が備える第1投射ミラー351が、入ってきた画像表示光の光路を変更する。
次に図4を参照して投射部300の内部構成及び画像表示光に係る光路について説明する。投射部300は、第1投射ミラー351、第2投射ミラー352、及び中間像スクリーン360を備える。
上述の通り、光学ユニット本体210の備えるワイヤーグリッド偏光ビームスプリッタ238、検光子241、及び投射レンズ群242を通過した画像表示光の光路は、第1投射ミラー351及び第2投射ミラー352によって、コンバイナ400へと向かう光路に変更される。その間で、第2投射ミラー352で反射された画像表示光に基づく実像が中間像スクリーン360で結像する。中間像スクリーン360で結像した実像に係る画像表示光は、中間像スクリーン360を透過し、コンバイナ400に投射される。ユーザは上述の通り、コンバイナ400を介して、この投射された画像表示光に係る虚像を前方に認識することになる。
以上のような内部構成とすることで、ユーザは、回路基板111から出力された画像信号に基づく虚像を、コンバイナ400を介して現実の風景に重畳して視認することができる。
[本実施形態に係る車両用表示装置の内部構成:光学ユニット200の内部構成詳細]
光学ユニット200は基板収納部100に対して回動可能な構成となっている。次に図5を参照して光学ユニット200及び基板収納部100の内部構成について、光学ユニット200及び基板収納部100の連接箇所の付近を中心に詳述する。
図5は、光学ユニット200の内部の一部及び基板収納部100の内部の一部について示す図である。この図5では、光学ユニット200と基板収納部100の連接箇所の付近が主に示されている。光学ユニット200の備える光学系配置部245は、上述したヒートシンク243を除く各種デバイスが収納されている。そして、光学ユニット200内における光学系配置部245の基板収納部100側である基板収納部100との連接箇所の付近には、ヒートシンク243と空間部248が設けられている。
回路基板111は、光学系配置部245に収納された画像表示素子240及び光源231を電気的に制御する。回路基板111と光学系配置部245に収納された画像表示素子240とは、配線であるフレキシブルケーブル246で接続されている。ここで、フレキシブルケーブル246は一例であり、フレキシ基板その他の電気信号を伝達する配線を使用することができる。光学ユニット200は筐体の一面に光学ユニット側開口部247が形成され、基板収納部100は筐体の一面に基板収納部側開口部112が形成されている。フレキシブルケーブル246は、これらの光学ユニット側開口部247及び基板収納部側開口部112を介して回路基板111と画像表示素子240を接続している。フレキシブルケーブル246は、基板収納部100と光学ユニット200の回動を自在にできるような長さを有することが好ましい。
図6は、図5の光学ユニット200の内部の一部及び基板収納部100の内部の一部について、上述したヒートシンク243及びフレキシブルケーブル246を取り外した際の様子について示す図である。
光学ユニット側開口部247及び基板収納部側開口部112はそれぞれ、所定の角度で広がる対向する2辺を有する形状、一例として所定の角度を有する略扇形の形状で形成されている。これによって、後述するように光学ユニット200が基板収納部100に対して回動された場合に、光学ユニット200の光学ユニット側開口部247が設けられた面に係る筺体、ないし基板収納部100の基板収納部側開口部112が設けられた面に係る筺体が、フレキシブルケーブル246に加える力を軽減することができる。従って、回動に伴いフレキシブルケーブル246が各筺体によって破損又は切断されることを防止することができる。
また、上述の通り光学ユニット200内の基板収納部100の連接箇所の付近には空間部248が設けられており、フレキシブルケーブル246は、光学ユニット200内では主にこの空間部248に収納される。この空間部248を設けることで、フレキシブルケーブルの長さを余裕をもって確保することができる。従って、光学ユニット200が基板収納部100に対して回動された場合に、フレキシブルケーブル246に加えられる張力を軽減することができる。よって、回動に伴う張力でフレキシブルケーブル246が破損又は切断されることを防止することができる。
光学ユニット200及び基板収納部100とは、互いの回動の回動軸となる回動部材であるヒンジ113と、回動の角度範囲を制限する回動止め機構114とで連接されている。光学ユニット200は、このヒンジ113を中心として所定の角度だけ、基板収納部100に対して回動する。ここで、本実施形態ではヒンジ113を用いているが、その他の回動部材を使用することができる。
基板収納部100の基板収納部側開口部112及び光学ユニット200の光学ユニット側開口部247は上述した通り略扇形の形状からなる。基板収納部100が光学ユニット200に対して回動する場合には、基板収納部側開口部112及び光学ユニット側開口部247の両方により形成されるフレキシブルケーブル246を通すための開口は狭められることとなるが、基板収納部側開口部112及び光学ユニット側開口部247が略扇形の形状からなることにより、回動止め機構114による制限された角度範囲において、フレキシブルケーブル246を通すのに十分な開口は維持される。
なお、上述した基板収納部側開口部112及び光学ユニット側開口部247の形状は例示に過ぎず、回動に伴いフレキシブルケーブル246を破損等しない形状であればいかなる形状であってもよい。例えば、基板収納部側開口部112及び光学ユニット側開口部247の一方のみを所定の角度で広がる対向する2辺を有する形状に形成して、フレキシブルケーブル246に負荷がかからないようにしてもよい。
上述した通り、ヘッドアップディスプレイ10は、光学ユニット200と基板収納部100とがヒンジ113を中心として回動可能な構成となっている。そしてコンバイナ400は光学ユニット200に設けられ、基板収納部100は取付部材500によってルームミラー600に取り付けられている。以上のようにすることで、ユーザはルームミラーの観察角度の調整と、コンバイナ400の観察角度の調整をそれぞれ独立して行うことができる。従って、ユーザはルームミラー600を車両後方を適切に確認できる角度に調整するとともに、コンバイナ400の視認角度を調整して歪みのない適切な画像(虚像)の認識を行うことが可能となる。
また、余裕のある長さが確保されたフレキシブルケーブル246を収納するための空間部248を光学ユニット200内に設けたことで、光学ユニット200の基板収納部100に対する回動が自在となりユーザは上記各観察角度の調整を適切に実施することができ、回動により生じる張力がフレキシブルケーブル246を破損又は切断するのを防止することができる。
さらに、基板収納部側開口部112及び光学ユニット200の光学ユニット側開口部247を上述した略扇形の形状とすることで、光学ユニット200の基板収納部100に対する回動により、光学ユニット200及び基板収納部100の各筺体外壁がフレキシブルケーブル246を破損又は切断するのを防止することができ、ユーザは上記各観察角度の調整を適切に実施することができる。
また、図3に示されたように、本実施形態では、反射鏡236及びワイヤーグリッド偏光ビームスプリッタ238を用いることにより、画像表示光の光路を2回90度方向に曲げている。そして、画像表示光は光源231での光の出射方向とは逆向き方向で投射部300に出射される。このように画像表示光の経路をコの字型とすることにより、フレキシブルケーブル246を光源231とを近接させないように配線することができる(図5参照)。これにより、光源231から発生する電磁波による雑音が画像信号へ混入することを防ぐことができると共に、光源231で発生する熱によりフレキシブルケーブル246が損傷することも防ぐことができる。更に、光源231に近接して設置されるヒートシンク243もフレキシブルケーブル246から離れて配置されるため、フレキシブルケーブル246を収納する空間部248を設けることができる。
[ヒンジを用いた角度調整]
次に上述した光学ユニット200の基板収納部100に対する回動について詳述する。図7は、ルームミラー600に取付けられたヘッドアップディスプレイ10の側面図である。この図に示されるように、ルームミラー600は、通常、運転者が車両後方を視認できるように運転者側に向けられる。つまり、ルームミラー600のミラー面602が車両底面ないし走行路面に対し垂直な状態で運転者が運転を行うことはまれであり、通常、運転者はルームミラー600のミラー面602を車両底面等と垂直な面に対して角度を有するように、ルームミラー600の向きを傾ける。このためルームミラー600にヘッドアップディスプレイ10を取り付けると、ルームミラー600の傾きに伴って基板収納部100も車両底面等と平行な面に対して角度を有する。
本願の発明者は、多くの車両および様々なユーザに対してコンバイナ400が提示する虚像を認識させる実験を行った結果、ルームミラー600の長手方向と基板収納部100の長手方向とが同じ方向となるようにヘッドアップディスプレイ10を設置したときに、ユーザが虚像を歪みなく認識する位置となるようにコンバイナ400および光学ユニット200の角度を調整すると、多くの場合、ミラー面602と光学ユニット本体210の基準面212とのなす角度がおよそ100度となることを実験により確認した。
ここで光学ユニット本体210の「基準面」とは、ルームミラー600のミラー面602に対する光学ユニット本体210の傾きを測定するための基準として用いられる角度測定基準面である。基準面212の一例としては、光学ユニット本体210の光軸を含む平面またはそれと平行な平面である。基準面212の別の例としては、ヘッドアップディスプレイ10を右ハンドル用に取り付けた際の下側の面である第1本体面221または第1本体面221と対向する面である第2本体面222、あるいはそれらの面と平行な平面である。光学ユニット本体210の「基準面」は、光学ユニット200の基準面としてもよい。
上記の実験結果を鑑みて、実施の形態に係るヘッドアップディスプレイ10は、ルームミラー600の長手方向と基板収納部100の長手方向とが同じ方向となるように、取付部材500や取付プレート571、581等を用いてヘッドアップディスプレイ10をルームミラー600に取り付けたときに、ミラー面602と基準面212とのなす角度が所定の基準角度となるときに歪みのない最適な映像が提示できるように設計されている。具体的には、上述の条件において最適な映像が提示できるように、ヘッドアップディスプレイ10の光学系を成す光学部の設計がなされている。
ここで「ヘッドアップディスプレイ10の光学系を成す光学部」とは、基板収納部100に収納されている回路基板111が出力した画像信号に基づいて画像表示光を生成して投射する系である。より具体的には、光学ユニット本体210中の、光源231、コリメートレンズ232、UV−IR(UltraViolet-Infrared Ray)カットフィルタ233、偏光子234、フライアイレンズ235、反射鏡236、フィールドレンズ237、ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッタ238、1/4波長板239、検光子241、および投射レンズ群242、投射部300中の第1投射ミラー351、第2投射ミラー352、および中間像スクリーン360、ならびにコンバイナ400の全てまたは、所定の一部分である。
また「所定の基準角度」とは、ミラー面602と基準面212とのなす角度であって、ヘッドアップディスプレイ10の光学設計時に設計基準として想定する角度である。「所定の基準角度」は、多くの車両および様々なユーザに対して歪みのない最適な映像が提示できるように実験により定めればよい。所定の基準角度の一例としては鈍角であり、より具体的には100度である。また、「所定の基準角度」は、図7においてはφを用いて示されている。
このように、実施の形態に係るヘッドアップディスプレイ10はミラー面602と基準面212とのなす角度が所定の基準角度となるときを基準として光学系を成す光学部が設計されているので、通常の使用状態で想定されるルームミラー600の傾きに対応して最適に光学設計されていることになる。多くの車両および様々なユーザ実施の形態に係るヘッドアップディスプレイ10を歪みのない最適な映像が提示できるように取り付けると、多くの場合光学ユニット200は水平付近に保たれる。このような取り付けによって、光学ユニット200がユーザの方向を向かないため、運転者であるユーザが受ける圧迫感を低減することができる。
図7では不図示の取付部材500を介して取付けられる基板収納部100は、上記のようにユーザの方に向けられるルームミラー600に固定的に設置される。このため、基板収納部100はルームミラー600に加えられる向きの変更と同様の向きの変更を加えられることになる。一方で、上述したように、投射部300を含む光学ユニット200及びコンバイナ400は、基板収納部100に対してヒンジ113で一体的に回動可能である。したがって、運転者は、ルームミラー600の調整角度にかかわらず、コンバイナ400に投射された画像(虚像)に歪みを生じさせることなく、視認できる位置に調整することができる。
図8は、ルームミラー600に取付けられたヘッドアップディスプレイ10のルームミラー600のミラー面602側からの視野による図である。この図に示されるように、ヒンジ113による回動により形成される基板収納部100及び光学ユニット200の境界面であるヒンジ113の回動面は、ミラー面602と垂直でかつ投射軸320と平行な面であることにより、ルームミラー600を横切らない位置にある。従って、基板収納部100がルームミラー600に固定されたまま、ルームミラー600に接触することなく光学ユニット200及びコンバイナ400を一体的に回動させることができる。
図9及び図10は、コンバイナ400に投射される画像(虚像)の視認可能な空間について示す図であり、上述したヒンジ113によって回動された光学ユニット200及びコンバイナ400の運転者の観察方向の変化を説明するための図である。例えば、運転者Aより眼の位置の高い運転者Bの両者が同じ車両に取付けられたヘッドアップディスプレイ10を使用する場合、運転者Aが使用するときのヒンジ113による調整角度は図9に示されるように、角度φ1となる。この角度で運転者Aにコンバイナ400に投射された画像(虚像)を歪みなく視認させることができる。一方、運転者Bが使用するときのヒンジ113による調整角度は、図10に示されるように角度φ1より大きい角度φ2であり、この角度φ2で運転者Bにコンバイナ400に投射された画像(虚像)を歪みなく視認させることができる。この角度φ1から角度φ2へのヒンジ113の回動は、コンバイナ400により虚像として表示される画像が認識される位置を、主に回動面とルームミラー600のミラー面602とで形成される直線に平行な方向で変化させる。
したがって、本実施形態のヘッドアップディスプレイ10は、車両内の狭い空間に設置されていたとしても、省スペースで投射部300からの画像表示光の投射方向、及び画像表示光が投射されるコンバイナ400の調節をすることができる。また、ヘッドアップディスプレイ10の全体を動かすことなく、光学ユニット200及びコンバイナ400のみを一体的に動かすことができるため、容易に表示画像を視認できる空間を調整することができる。
[コンバイナ及び投射部の回動及び脱着]
図11、図12、及び図13は、ヘッドアップディスプレイ10を右ハンドルの車両に対応した取付位置と左ハンドルの車両に対応した取付位置に取り付けた場合について説明するための図である。図11には、右ハンドルの車両用に取付けられたヘッドアップディスプレイ10において、投射部300及びコンバイナ400を光学ユニット本体210から取り外したときの様子が示されている。右ハンドル車用に取付けられたヘッドアップディスプレイ10では、光学ユニット本体210及びコンバイナ400は運転者側から見てルームミラー600の運転者側である右側に配置される。基板収納部100は、第1取付面115と、第1取付面115と対向する第2取付面117とを有しており、図11において、第1取付面115が不図示の取付部材500に接する向きでルームミラー600に取付けられている。また、光学ユニット本体210は、基板収納部100の第1取付面115と同じ側に第1本体面221を有する。第1本体面221に対向する光学ユニット本体210の面を、第2本体面222とする。
図11に示されるヘッドアップディスプレイ10は、基板収納部100の第1取付面115と光学ユニット本体210の第1本体面221とが下側に向き、投射部300の投射口301及びコンバイナ400の下端404が第1本体面221側にある配置状態で、ルームミラー600に取付けられている。従って投射軸320は第1本体面221側にある(図1参照)。
図12には、左ハンドル車用に取り付けられたヘッドアップディスプレイ10が示されている。この図に示されるように、左ハンドル車用に取り付ける場合には基板収納部100の第2取付面117を下側にして、第2取付面117が不図示の取付部材500に接する向きでルームミラー600に取付けられる。この場合には、運転者側から見た場合にルームミラー600の運転者側である左側に光学ユニット本体210及びコンバイナ400が配置される。
図13は、左ハンドル車用に取り付けられたヘッドアップディスプレイ10を示す図である。基板収納部100の第2取付面117と光学ユニット本体210の第2本体面222とが同じ側である下側にあり、投射部300の投射口301及びコンバイナ400の下端404が、第2本体面222側にある配置状態で、ヘッドアップディスプレイ10はルームミラー600に取付けられている。
図11及び図13に示すように、投射部300及びコンバイナ400は、投射口301と下端404とが光学ユニット本体210の第1本体面221側または第2本体面222側のいずれの側にある状態でも、光学ユニット本体210に対して配置可能である。また図11及び図12に示すように、光学ユニット本体210から投射部300及びコンバイナ400を取り外してそれぞれの取付方向を変更することも可能であり、図示を省略するが光学ユニット本体210と投射部300及びコンバイナ400は回動部材にて連接され、回動部材を介してそれぞれの取付方向を変更することも可能である。すなわち、ヘッドアップディスプレイ10では投射部300及びコンバイナ400はそれぞれ光学ユニット本体210に対して取付の向きを変えて取付けられることが可能であり、取付の向きを変更することにより、投射部300からコンバイナ400に投射される画像表示光を出射する投射口301の配置及び画像表示光の投射方向に関する投射軸320を第1本体面221側とすることも、第2本体面222側とすることもできる。
図13に示されるように、第2取付面117が下側になった場合であっても、投射部300の投射口301が光学ユニット本体210の第2本体面222側にある状態で投射部300を配置できるため、光学ユニット本体210から画像表示光が下方向に投射される。従って投射軸320は第2本体面222側にある。
上述したように、投射部300及びコンバイナ400は、投射口301と下端404とが光学ユニット本体210の第1本体面221側または第2本体面222側のいずれの側にある状態でも、光学ユニット本体210に対して配置可能である。すなわち、投射部300の投射口301及びコンバイナ400の下端404が光学ユニット本体210の一方の面(第1本体面221または第2本体面222)に対して、180°変更した位置にて、投射部300及びコンバイナ400を取付可能である。光学ユニット本体210に対する投射部300及びコンバイナ400の取付位置が変更でき、基板収納部100の第1取付面115(または第2取付面117)に対する投射部300及びコンバイナ400の取付位置も変更できる。
ここで、投射部300及びコンバイナ400を、それぞれ光学ユニット本体210に対して180°取付位置を変えて取付けた場合には、コンバイナ400で視認される画像(虚像)は、取付を変更する前と比較して向きが180°変わる可能性がある。そこでヘッドアップディスプレイ10では、投射部300又はコンバイナ400の取付位置や向きのセンサーによる検出や運転者が図示しないリモコン等の操作部を介して設定することにより、回路基板111が取付変更前とは画像の向きを変更した画像信号を出力する。
例えば図11に示すように取り付けられたヘッドアップディスプレイ10において、投射部300の投射口301が第1本体面221側にある取付位置で出力された画像の向きと、投射部300の投射口301が第2本体面222側にある取付位置で出力された画像の向きとを180°異ならせることで、光学ユニット本体210に対する投射部300の取付位置が180°変わっても同じ向きの画像を視認することが可能となる。
これにより、画像表示素子240は投射部300の取付位置に応じて画像の方向(上下左右、180°等)を変更して画像を出力するため、運転者は取付位置を変更しても画像(虚像)を視認することができる。
また、左ハンドル車用に取り付けた場合であっても、ヒンジ113の回動面は、図8で示された場合と同様に、ルームミラー600を横切らない位置にあるため、基板収納部100がルームミラー600に固定されたまま、ルームミラー600に接触することなく光学ユニット200及びコンバイナ400を一体的に回動させることができる。
[ルームミラー取付部材]
次にヘッドアップディスプレイ10をルームミラー600に取り付けるための取付部材500について詳述する。図14には、ヘッドアップディスプレイ10をルームミラー600に取り付けるための取付部材500が示されている。この図に示されるように、取付部材500は、ルームミラー600を掴むようにしてルームミラー600に固定される一対の把持部590と、その一対の把持部590と基板収納部100とを取り付けるための取付プレート581とを有している。ここで、把持部590は、ルームミラー600の下側端部を挟むために前後に摺動可能な爪部分を有する2つの下側把持機構部591と、ルームミラー600の上側端部を挟むために前後に摺動可能な爪部分を有する2つの上側把持機構部592と、ルームミラー600を後ろ側から上下に挟むために上下に摺動可能な高さ調整部593と、取付プレート581が載せられる上面に、取付プレート581の把持部590に対する位置調整を行うための長孔である位置調整溝594とを有している。ここで、取付プレート581は、一対の把持部590のそれぞれの上面に跨がるように配置され、位置調整溝594に後述する取付プレート581の一対の突起部584が係合されて取付けられる。
図15は、図14の取付部材500における取付プレート581の三面図である。この図に示されるように取付プレート581は、全体として略長方形の板状部材からなり、取付面である平らな表面には、一対の異なる向きの円弧形状の孔である円弧孔部582と、円弧孔部582の円弧の基となる円の中心位置にそれぞれ形成された一対の孔である中心孔部583と、裏面側に、把持部590に取り付ける際に、把持部590に形成された位置調整溝594に嵌合するよう取り付けることにより位置調整溝594の長手方向に摺動可能とするための突起部584と、を備えている。
中心孔部583は、取付プレート581の一対の突起部を結ぶ直線に直交する方向である幅方向の中央に設けられている。これに対して、一対の突起部584は、前述の幅方向の中央に取付けられるのではなく、中央から一定の距離(オフセットD)だけ、幅方向に離れた位置に配置されている。これにより、取付プレート581を、それぞれの突起部584がそれぞれの中心孔部583よりも高さ調整部593に近くなるように取り付けた第1の状態と、その第1の状態から取付プレート581の面に垂直な方向を軸にして一対の突起部584下にしたまま180°回転させて、幅方向の2つの端を入れ替えて利用した状態である第2の状態とで、摺動の範囲を大きく異ならせることができ、基板収納部100の位置の調整可能範囲を大きくすることができる。なお、第2の状態とは突起部584が中心孔部583よりも高さ調整部593から遠くなるように取り付けた状態である。
ルームミラー600と車のウィンドシールド(フロントガラス)との距離は車種によって様々であるため、以上のように、一対の突起部584を中央からオフセットDをとって配置することにより、ルームミラー600に対するヘッドアップディスプレイ10を固定する前後方向の位置の自由度が大きくなり、種々の車に装着可能となる。また、把持部590を複数(本実施形態では一対)設けたことによって、より様々な車に対応可能となっている。
なお、一対の把持部590間の距離は、2つの位置調整溝594の間の距離が、取付プレート581の2つの突起部584間の距離と同じ距離になるようにして、配置することもできるが、2つの位置調整溝594の間の距離を2つの突起部584間の距離よりも短くなるように一対の把持部590を配置することもできる。一対の突起部584間の距離は変わらないため、このようにして配置すると、必然的に取付プレート581を斜めに取り付けることになり、位置調整溝594の長手方向に対する角度を変化させて取付けることができる。つまり、取付プレート581及び基板収納部100を取付プレート581上の平面に沿って回動させて角度をつけ取り付けることができる。このように、把持部590を複数(本実施形態では一対)設けて、その複数の把持部590間の距離を調整することによって、より様々な取り付け位置にすることが可能となっている。
基板収納部100を取り付ける際には、取付プレート581の表面(突起部584が設けられていない面)と、基板収納部100の第1取付面又は第2取付面とが重なるように配置した上で、円弧孔部582とその円弧の中心に位置する中心孔部583とから止めネジ118(固定部材)を挿入して、基板収納部100をネジ止めして固定する。ネジ止めする際、基板収納部100は、取付プレート581の表面上で中心孔部583を中心として回動可能であり、基板収納部100の取付プレート581の面の法線を回転軸とする向きが調整される。このとき、中心孔部583を中心として、基板収納部100、光学ユニット200及びコンバイナ400が一体的に回動するため、運転者がコンバイナ400に表示される画像(虚像)を視認できる位置になるように取付プレート581の表面の法線を回転軸とする取付角度を調整することができる。なお、円弧孔部582の円弧の中心角は、運転者がコンバイナ400に表示される画像(虚像)を視認できる位置に調整するのに十分な範囲の角度となるように定められている。また、円弧孔部582の円弧の中心角は、コンバイナ400がウィンドシールドに接しない範囲の角度となるように定めることがさらに好ましい。
なお、円弧孔部582の円弧中心方向を内側、円弧中心方向の逆方向を外側とすると、本実施形態においては、一対の円弧孔部582は互いの内側が対向するように配置されているが、基板収納部100の止めネジで止められる位置によっては、互いの外側が対向するように配置されていてもよい。
図16には、ルームミラー600に取り付けられたヘッドアップディスプレイ10が示されている。取付部材500の把持部590は、ルームミラー600の裏面(ここではミラーがない面)からルームミラー600の上端及び下端を2カ所で把持し、取付プレート581は、突起部584を把持部590の上側把持機構部592に形成された位置調整溝594に嵌合させることにより、位置調整溝594の長手方向、主にルームミラー600のミラー面に垂直方向の位置を調整可能に取り付けられる。また、取付プレート581は、基板収納部100の取付プレート581面の法線を回転軸とする角度を調整可能に固定する。
次に図16を用いて、ルームミラー600の位置とコンバイナ400の位置との関係について説明する。なお、ルームミラー600の長手方向を水平面と平行にするとともに、ミラー面を水平面と垂直にした状態にあるとして説明する。また、ルームミラー600の上下方向の中央を通るとともにルームミラー600の横方向と平行な線をルームミラー中心線605と呼ぶこととする。また、コンバイナ400の上下方向の中央を通るとともにコンバイナ400の横方向と平行な線をコンバイナ中心線403と呼ぶこととする。
なお、本実施形態においては、コンバイナ400の観察角度が調整可能となっており、コンバイナ400の観察角度を調整することに伴って、ルームミラー600の高さに対するコンバイナ400の相対的な高さも変わってくる。コンバイナ400とルームミラー600との相対的な高さとは、コンバイナ中心線403の高さと、ルームミラー中心線605の高さとの差であると言い換えることができる。例えばコンバイナ中心線403がルームミラー中心線605よりも高い位置にある場合は、コンバイナ400がルームミラー600よりも相対的に高い位置にあると言える。
また、以下で説明するコンバイナ400の位置条件は使用状態(画像を投射しその画像をユーザが視認できる状態)におけるコンバイナ400の位置全てで満たすことが好ましい。つまり、コンバイナ400が取り得る観察角度全てで満たすことが好ましいが、少なくとも、コンバイナ400が取り得る、ルームミラー600の高さに対する相対的な高さの内の平均の高さにあるときに満たしていれば十分な効果を発揮できる。例えば、コンバイナ400のルームミラー600の高さに対する相対的な高さを、コンバイナ中心線403がルームミラー中心線605よりも5cm高い位置から5cm低い位置まで調整可能な場合は、コンバイナ中心線403とルームミラー中心線605とが同じ高さにあるときに満たせばよい。
また、ルームミラー600の高さに対するコンバイナ400の相対的な高さを、ネジ止め等によって調整できないように固定できるよう構成した場合、つまり、ヘッドアップディスプレイ10が車両のルームミラー600に取付けることに伴ってルームミラー600の高さに対するコンバイナ400の相対的な高さが固定されるように(高さが一意に決まるように)構成した場合は、その固定された位置において、以下で説明するコンバイナ400の位置条件を満たせばよい。
また、図16に示されるように、ルームミラー600は、横方向(長手方向)の長さL及び上下方向の高さHを有している。
まず、コンバイナ400の好ましい位置条件について説明する。本実施形態において、使用状態におけるコンバイナ400の上端402がルームミラー600のルームミラー中心線605よりも上側にあり、コンバイナ400の下端606がルームミラー600のルームミラー中心線605よりも下側になるように構成されている。ヘッドアップディスプレイ10をルームミラー600に取り付けるとともに、コンバイナ400がこのような位置になるような取り付け構造にすることで、表示画像を見る際の視点移動が少ない最適な位置に、ヘッドアップディスプレイ10を設置することができる。
さらには、使用状態におけるコンバイナ400のコンバイナ中心線403とルームミラー中心線605とがほぼ同じ高さになるように構成してもよい。ヘッドアップディスプレイ10をルームミラー600に取り付けるとともに、コンバイナ400がこのような位置になるような取り付け構造にすることで、表示画像を見る際の視点移動がさらに少ない最適な位置に、ヘッドアップディスプレイ10を設置することができる。
また、コンバイナ400の上下方向の高さが、ルームミラー600の上下方向の高さHよりも大きい場合については、使用状態におけるコンバイナ400の上端402がルームミラー600の上端604よりも上側にあり、コンバイナ400の下端606がルームミラー600の下端606よりも下側になるように構成してもよい。ヘッドアップディスプレイ10をルームミラー600に取り付けるとともに、コンバイナ400がこのような位置になるような取り付け構造にすることで、表示画像を見る際の視点移動がさらに少ない最適な位置に、ヘッドアップディスプレイ10を設置することができる。
なお、本実施形態のような位置が最適ではあるが、少なくとも、使用状態におけるコンバイナ400の上端402がルームミラー600の下端606よりも上側にあるか、または、コンバイナ400の下端606がルームミラー600の上端604よりも下側になるように構成されていれば表示画像を見る際の視点移動が少ない好適な位置に、ヘッドアップディスプレイ10を設置することができる。本実施形態において、コンバイナ400がルームミラー600の側方にある状態とは、この上述の効果を発揮することができる条件を満たすとともに、コンバイナ400の横方向の位置が、車両の座席から表示画像を視認できる位置であればよい。つまり、ルームミラー600によって、コンバイナ400に投射される表示画像が遮られなければよい。
なお、上述の位置条件に加えて、コンバイナ400の横方向の位置を、ルームミラー600の横方向の端(側端)からルームミラー600の長さLまでの範囲に配置されるようにすれば、ルームミラー600とコンバイナ400とが離れ過ぎることがなく、さらに視点移動が少なくなるため、さらに好ましい。
図17は、基板収納部100の第1取付面115が取付プレート581に接するように取り付けられた場合の止めネジ118部分の断面図であり、図18は、基板収納部100の第2取付面117が取付プレート581に接するように取り付けられた場合の止めネジ118部分の断面図である。一般にルームミラー600の上側と天井との隙間は非常に狭いため、第1取付面115が取付プレート581に接する場合でも、第2取付面117が取付プレート581に接する場合でも、止めネジ118は下からのみ締められる。また、基板収納部100も極力薄く設計されるため、回路基板111の止めネジ118による固定位置には貫通孔があり、より長いネジによる固定を可能としている。また、第1取付面115には、第2取付面117まで伸びる固定部材係合部であるインサートナット116が形成され、第2取付面117の対応する位置には貫通孔が形成され、止めネジ118は、第1取付面115が取付プレート581に接する場合でも、第2取付面117が取付プレート581に接する場合でも、同じインサートナット116と係合して固定されるようになっている。したがって、基板収納部100は、車両のルームミラー600と天井との間の狭い領域であっても設置されることができる。したがって、本実施形態のヘッドアップディスプレイ10では、省スペースで位置及び角度の調節を行うことができる。
図19には、取付プレート581の変形例である取付プレート571が示されている。取付プレート571は、基板収納部100を取付ける際に使用される同一方向に伸びる一対の直線状の直線孔部572を有し、基板収納部100の第1取付面115及び第2取付面117のいずれの取付面と取付プレート571の取付面が対向する場合であっても、両方の直線孔部572に止めネジ118が通されて固定される。取付プレート571においては、基板収納部100を取付ける際に、一対の直線孔部572の両方の長手方向の取付け位置を変更して取付けることにより、基板収納部100の直線孔部572の長手方向に関する位置を調整することができる。ここで、直線孔部572のそれぞれの穴の幅は、止めネジ118のネジ径よりも十分大きく形成されており、これにより、一対の直線孔部572のうち、片方の長手方向の取付け位置を変更することにより、基板収納部100の取付プレート581の面の法線を回転軸とする向きが調整される。直線孔部572の長さ及び幅は、コンバイナ400がウィンドシールドに接しない範囲で定められる。
このように、上述の取付プレート581においては円弧状の一対の長孔としたが、この変形例の取付プレート571のように、直線状の一対の長孔としても、基板収納部100の向きを自在に調整することができる。
なお、図14から図19を用いて説明した形態は、基板収納部100及び光学ユニット200が各々別体として構成された例について示したが、これらが別体として構成されていない画像生成部50(図16)であっても適用することができる。また、図14から図19を用いて説明した形態では、位置調整溝594を2つとしたが、1つ以上で位置調整の機能を有する溝であればよい。
[コンバイナ収納]
図20及び図21は、それぞれコンバイナ400が収納ヒンジ472により収納時の位置に置かれた様子を示す側面図及び正面図である。図20及び図21に示されるように、コンバイナ400は、コンバイナ400の回動部である収納ヒンジ472により、光学ユニット200の筐体面、すなわち光学ユニット本体210の筐体面に対向し、例えば筐体面に重ねられるように回動されて収納される。ここで、投射部300は、コンバイナ400が取付けられる側とは筐体面を挟んで反対側にあり、収納ヒンジ472の回動中心から最も遠いコンバイナ400の端である下端404までの長さは、光学ユニット本体210の長さより短く、下端404は、投射部300よりも収納ヒンジ472側にある。また、光学ユニット本体210の筐体面からの高さは、投射部300の筐体面からの高さよりも低くなっている。そのため、ヘッドアップディスプレイ10を使用していない場合には、コンバイナ400を収納ヒンジ472で収納することにより、コンバイナ400を使用時よりも運転者に圧迫感を感じさせない位置(コンバイナ400を使用時よりも運転者の視界に入りにくい位置)に配置することができる。また、収納ヒンジ472で回動させて収納することにより、車両の天井及び光学ユニット本体210により太陽光を防ぐことができるため、コンバイナ400の劣化を防ぐことができる。更に、収納ヒンジ472は、コンバイナ400の使用時の角度で停止するため、コンバイナ400を収納ヒンジ472で回動させて収納した後、再び使用を開始する場合であっても、運転者は改めて位置を調整することなく使用を開始することができる。ここで、コンバイナ400の下端404側の角部には透明なラバー406を取り付けてもよい。ラバー406をつまんでコンバイナ400を収納ヒンジ472で収納しても、コンバイナ400に汚れ等が付着するのを防ぐことができる。ラバー406は透明であることにより運転者の視界をほとんど遮ることがない。
なお、ルームミラー600の裏面側から取り付けられることとしたが、ルームミラー600の支柱に取り付けることとしてもよいし、ミラー面602である前面側から取り付けられてもよい。この場合には、ミラー面602に対応する位置の車両用表示装置の面に代替ミラーを配置してもよい。
また、上述の実施形態においては、ルームミラー600は、車両においてその後方を確認するために用いられるミラーであればよく、車両内部におけるミラーの位置等は限定されない。また、ヘッドアップディスプレイ10は、ルームミラー600に取付けることとしたが、ダッシュボード上においても使用してもよい。また、コンバイナ400の位置に液晶表示装置又は有機EL表示装置等の表示装置を配置し、車両用表示装置とするものであってもよい。
[中間像スクリーンの種類]
上述したように、中間像スクリーン360は、画像表示素子240が生成した画像を結像して実像を生成する。ここで、中間像スクリーン360を実現する方法として、少なくとも「透過型」と「反射型」とのふたつの方法がある。
「透過型」の中間像スクリーン360では、スクリーンの一方の面に入射した映像光は、スクリーンを透過して他方の面から出射される。一方、「反射型」の中間像スクリーン360では、スクリーンの一方の面に入射した映像光はスクリーンの他方の面付近で反射され、再び入射した面から出射する。以下本明細書において、「透過型」の中間像スクリーンを透過型中間像スクリーン361、「反射型」の中間像スクリーンを反射型中間像スクリーン362と記載し、両者を特に区別しない場合は中間像スクリーン360と総称する。以下、透過型中間像スクリーン361について図面を参照しながら説明する。
[透過型中間像スクリーン]
車両用表示装置ではない、室内で使用されるプロジェクタなどの従来の表示装置で使用される透過型スクリーン(以下、「通常用途の透過型スクリーン」という。)では、ゲインが低く暗くなり、また視野角が広い。このため、通常用途の透過型スクリーンは、車両用表示装置としてのヘッドアップディスプレイに使用するには不向きである。一方で、通常用途の透過型スクリーンよりもヘイズ値(曇価)の低い拡散シートを用いると光源のホットスポットが眩しすぎ、輝度分布が大きすぎて映像が見づらくなってしまう。
これらのことを解決するために、適切な透過型の配光分布を有し、かつ高ゲインの拡散フィルム又は拡散板面上に映像を投影する透過型中間像スクリーンが開発されつつある。しかしながら、ヘッドアップディスプレイ用の透過型中間像スクリーンは、スクリーン上で結像した実像をコンバイナ400またはウィンドシールドに映り込ませ、その拡大虚像を運転者であるユーザに認識させることが想定されている。このため、ヘッドアップディスプレイ用の透過型中間像スクリーンは通常用途の透過型スクリーンと比較して画面サイズが極端に小さく、高い解像度であることが要求される。
図22(a)−(b)は、実施の形態に係る透過型中間像スクリーン361の断面を模式的に示す断面図である。より具体的には、図22(a)は、プラスティックベース363上にビーズ拡散材364を塗布して拡散層を形成した透過型中間像スクリーン361の断面図を示し、図22(b)は、アクリル系の母材365にビーズ拡散材364を含有して拡散層を形成した透過型中間像スクリーン361の断面図を示す。
図22(a)および図22(b)に示す透過型中間像スクリーン361の例は、いずれもヘイズ値が84〜90%であり、拡散材として直径が10マイクロメートル以下の光学用高透明ビーズが用いられている。これらの透過型中間像スクリーン361に平行光を入射したときの透過配光角は、光度半値角で±7.5〜10度である。この透過配光角は、日本電色工業株式会社製の変角光度計GC5000Lで測定した値である。
図22(a)に示すようにプラスティックベース363上にビーズ拡散材364を塗布する場合、ビーズ拡散材364は所定のバインダで固定される。しかしながら、拡散層の厚さがおよそ50マイクロメートル以上となると、図21(a)に示すプラスティックベースで補強する必要が無くなり、拡散層の厚さがおよそ50マイクロメートル以上とする場合、図22(b)に示すようにアクリル系の母材365にビーズ拡散材364を含有させることで、拡散層の厚みを変更することが可能である。
上述したように、実施の形態に係るヘッドアップディスプレイ10は、透過型中間像スクリーン361で結像した実像をコンバイナ400を介して運転者であるユーザに虚像として提示する。ここで実施の形態に係るヘッドアップディスプレイ10は、ユーザがコンバイナ400を介しておよそ1.7〜2メートル前方に、10インチ程度の大きさの映像を観察することを想定している。この条件において、視力が2.0であるユーザが提示された虚像を視認したときに認識できる解像力は、透過型中間像スクリーン361上では40〜50マイクロメートル程度である。
一般に、視力が2.0であるユーザは十分な視力を持っていると考えられ、ほとんどのユーザの視力は2.0未満であると考えられる。したがって、上記の条件において透過型中間像スクリーン361上で結像した実像の分解能が50マイクロメートル程度以下であれば、ユーザにとって十分な解像度の映像を提供できるといえる。
また、実施の形態に係るヘッドアップディスプレイ10は、コンバイナ400が提示する虚像の視認可能空間の視野角が少なくとも±10度程度を確保するように設計されている。このため上述したように、透過配光角が光度半値角で±7.5〜10度となる透過型中間像スクリーン361を採用している。
なお当然のことながら、上記の具体的な数値はあくまでも一例であり、これらはヘッドアップディスプレイ10の利用シーンに応じて自由に変更できることは当業者であれば容易に理解されることである。
図23は、拡散層の厚みT、透過配光角の半値半角A、および透過型中間像スクリーン361に結像した映像の分解能Rとの関係を模式的に示す図である。図23は、拡散層の一方の面366上の点Uに入射した光が拡散層において透過配光角が光度半値半角Aで拡散されていることを示している。拡散層の一方の面366上の一点Uに入射した光は拡散され、拡散層の入射面の反対側の面367において、図22に示すような光強度分布を維持して点Vから点Wまでの間に広がる。点Vから点Wに至るまでの距離をRとすると、拡散層の一方の面366上の一点に入射した光は直径Rの円形に光強度0.5までの分布を維持して広がることになる。この距離Rの大きさが小さいほど、画像表示光の重なりが少ないため、拡散層の入射面の反対側の面367における映像は細かな表現が可能である。この意味で、拡散層の入射面の反対側の面367における分解能は、透過配光角の光度が半値である光強度0.5の画像表示光が、隣接する光強度0.5の画像表示光と重なり合う点Vから、同様に光強度0.5の画像表示光が、隣接する光強度0.5の画像表示光と重なり合う点Wまでの距離Rで近似できることを本願の発明者は見いだした。
図23において、拡散層の厚みT、透過配光角の半値半角A、点Vから点Wに至るまでの距離Rの関係は、以下の式(1)で表せる。
T×tan(A)×2=R (1)
式(1)から明らかなように、分解能Rは拡散層の厚みTに比例する。したがって、設計の目標値とする分解能Rと、透過配光角の半値半角Aとを定めると、拡散層の厚みTが満たすべき条件は、以下の式(2)で表せる。
0<T≦R/(2×tan(A)) (2)
ここで条件0<Tは拡散層が存在するための条件であり、条件T≦R/(2×tan(A))は設計の目標値とする分解能Rを確保するための条件である。「目標値」とは、実施の形態に係るヘッドアップディスプレイ10が提示する虚像が確保すべき解像度を実現するために、透過型中間像スクリーン361における映像が持つべき解像度の下限値である。「目標値」は目標とする解像度の下限値であるため、「目標値」よりも高い解像度が達成されることは問題なく、むしろ好ましい。目標値の具体的な値は、ヘッドアップディスプレイ10が想定する虚像とユーザとの間の距離、提示する虚像の大きさ、ユーザの視力等の種々のパラメータを考慮して定めればよいが、一例としては、上述したように40〜50マイクロメートル程度である。
図24は、拡散層の厚みTを可変して、拡散層厚Tが透過型中間像スクリーン361面上で結像する実像の分解能に与える影響を調査した結果と、式(1)を用いた分解能Rの計算値とを表形式で示す図である。図24に示すように、拡散層の厚みTの値が増加するにしたがって、透過型中間像スクリーン361の分解能が低下する。また式(1)を用いて計算した分解能Rの計算値は、実験による透過型中間像スクリーン361の実像の分解能Rと近い数値であることがわかる。
図25は、拡散層の厚みTと透過型中間像スクリーン361面上で結像する実像の分解能R、および拡散層の厚みTと式(1)を用いた分解能Rの計算値との関係を示すグラフである。上述したとおり、実施の形態に係るヘッドアップディスプレイ10においては、透過型中間像スクリーン361面上で結像する実像の分解能Rが50マイクロメートル程度あれば、ユーザに十分な解像度の映像を提供できる。図25に示すように、透過型中間像スクリーン361面上で結像する実像の分解能Rが50マイクロメートル以下となるために拡散層の厚みTが満たすべき条件は、Tが140マイクロメートル以下であることがわかった。また図24の比較例1〜3に示すように、拡散層の厚みTが125マイクロメートルよりも厚くなると、透過型中間像スクリーン361面上で結像する実像の分解能Rが50マイクロメートル以上となることも実験により確かめられた。
以上まとめると、実施の形態に係るヘッドアップディスプレイ10を用いて、コンバイナ400を介してユーザにおよそ1.7〜2メートル前方に10インチ程度の大きさの、視野角が10度の映像を提示する場合、透過型中間像スクリーン361内の拡散層の厚みTを125マイクロメートル以下にすることが好ましい。透過型中間像スクリーン361内の拡散層の厚みTを125マイクロメートル以下にすることにより、視野角が広くホットスポットが無く明るい映像を、視力2.0以下のユーザが1.7〜2メートル以上先に10インチ程度の虚像を視認する際、十分な分解能を有する映像を提供することができる。
[反射型中間像スクリーン]
以上、中間像スクリーン360として透過型中間像スクリーン361を使用する場合について説明した。次に、中間像スクリーン360として反射型中間像スクリーン362を使用する場合について説明する。なお説明の便宜上、ヘッドアップディスプレイとして自動車等のダッシュボード上に設置して使用するオンダッシュボード型ヘッドアップディスプレイ11を前提として説明するが、上述したルームミラー600に取り付けて使用することを前提とするヘッドアップディスプレイ10であっても、反射型中間像スクリーン362を利用可能であることは当業者であれば容易に理解できることである。
図26は、実施の形態に係るオンダッシュボード型ヘッドアップディスプレイ11の外観を示す斜視図である。オンダッシュボード型ヘッドアップディスプレイ11は、制御基板や光学ユニットを収納する本体20、コンバイナ400、反射型中間像スクリーン362、通気口22、23を有する放熱部21、およびヒートパイプカバー24を含む。
ヒートパイプカバー24中にはヒートパイプ25が収納されており、ヒートパイプ25は、本体20中で発生した熱を放熱部21に送出する。放熱部21はヒートシンク243および冷却ファン26を含み、オンダッシュボード型ヘッドアップディスプレイ11が発生する熱を外部に放出する。
図27は、オンダッシュボード型ヘッドアップディスプレイ11の設置位置と、運転者Cに提示される虚像450の位置との関係を模式的に示す図である。図27において、ダッシュボード上に設置されたオンダッシュボード型ヘッドアップディスプレイ11の本体20から投射された映像光は、反射型中間像スクリーン362で結像しつつ反射され、コンバイナ400に投影される。コンバイナ400に投影された映像を観察する運転者Cにとっては、コンバイナ400に対してさらに視線方向の奥側に虚像450が存在するように観察される。オンダッシュボード型ヘッドアップディスプレイ11の内部構成およびその動作は上述したヘッドアップディスプレイ10と同様である。したがって、以下ヘッドアップディスプレイ10と重複する説明については、適宜省略または簡略化して説明する。
従来型の通常用途の反射型スクリーンには、マット系、ビーズ系、パール系、シルバー系、サウンドスクリーン系等、種々のバリエーションがある。しかしながら、いずれのバリエーションであっても、ゲインが低く暗くなり、また視野角が広いため、ヘッドアップディスプレイ用には不向きである。また、鏡面によりスペキュラー反射させると、ユーザにとっては光源231のホットスポットが眩しすぎ、輝度分布が大きすぎて映像が見づらくなるという問題がある。
これらのことを解決するために、板状もしくはシート状の鏡面反射面直上に、透過型の最適な配光分布でかつ高ゲインの拡散層又は拡散フィルムを積層し、その面上に映像を投影する反射型スクリーンが開発されつつある。しかしながら、ヘッドアップディスプレイ用の反射型中間像スクリーン362は、スクリーン上で結像した実像をコンバイナ400またはウィンドシールドに映り込ませ、その拡大虚像を運転者であるユーザに観察させることが想定されている。このため、通常用途の反射型スクリーンと比較して画面サイズが小さく、高い解像度が要求される。
図28は、実施の形態に係る反射型中間像スクリーン362の断面を模式的に示す断面図である。反射型中間像スクリーン362は、光の入射面側から順に、ビーズ拡散材364、第1フィルムベース370、第1粘着層371、銀幕が蒸着された反射膜372、第2フィルムベース373、第2粘着層374、および補強ベースプレート375が積層されている。
図28において、ビーズ拡散材364の層に入射した光はビーズ拡散材364で拡散されて反射膜372に至り、反射膜372で反射されて再度ビーズ拡散材364の層に至る。したがって、反射型中間像スクリーン362においては、ビーズ拡散材364と第1フィルムベース370とを合わせた層厚がスクリーンの分解能に影響すると考えられる。また、第2フィルムベース373および補強ベースプレート375は、反射型中間像スクリーン362に強度を与えてユーザの扱いを容易にする機能がある。
図22に示した透過型中間像スクリーン361の場合と同様に、図28に示すビーズ拡散材364は光学用の高透明ビーズであり、その直径は10マイクロメートル以下である。ビーズ拡散材364は、第1フィルムベース370の表面に、10〜15マイクロメートル厚で塗布されている。これに平行光を入射した時の反射配光視野角は、光度半値角で±7.5〜10度である。この反射配光角は、日本電色工業株式会社製の変角光度計GC5000Lで測定した値である。
図29は、反射型中間像スクリーン中の拡散層における画像表示光の入射面側から反射面に至るまでの距離L、反射配光角の半値半角A、および反射型中間像スクリーン362に結像した映像の分解能Rとの関係を模式的に示す図である。図29は、拡散層の表面376上の点U'に入射した光が反射配光角の光度半値半角Aで拡散されていることを示している。拡散層の表面376上の一点U'に入射した光はその点で拡散され、反射面377上の点Xにおいて反射され、拡散層の表面376上の点V'および点W'から再度拡散して出射する。点V'から点W'に至るまでの距離をRとすると、拡散層の表面376上の一点U'に入射した光は、反射面377で反射して直径Rの円形に光強度0.5までの分布を維持して広がることになる。この距離Rの大きさが小さいほど画像表示光の重なりが少ないため、拡散層の光入射面であり光出射面でもある拡散層の表面376における映像は細かな表現が可能である。この意味で、拡散層の表面376における分解能は、反射配光角の光度が半値である光強度0.5の画像表示光が、隣接する光強度0.5の画像表示光と重なり合う点V'から、同様に光強度0.5の画像表示光が、隣接する光強度0.5の画像表示光と重なり合う点W'までの距離Rで近似できることを本願の発明者は見いだした。
図29において、拡散層における画像表示光の入射面側から、入射した画像表示光の反射面に至るまでの距離L、反射配光角の半値半角A、点V'から点W'に至るまでの距離Rの関係は、以下の式(3)で表せる。
L×tan(A)×2=R (3)
式(3)から明らかなように、分解能Rは拡散層における画像表示光の入射面側から反射面に至るまでの距離Lに比例する。したがって、設計の目標値とする分解能Rと、反射配光角の半値半角Aとを定めると、拡散層における画像表示光の入射面側から反射面に至るまでの距離Lが満たすべき条件は、以下の式(4)で表せる。
0<L≦R/(2×tan(A)) (4)
ここで条件0<Lは拡散層が存在するための条件であり、条件L≦R/(2×tan(A))は設計の目標値とする分解能Rを確保するための条件である。
図30は、拡散層における画像表示光の入射面側から反射面に至るまでの距離Lを可変して、反射面に至るまでの距離Lが反射型中間像スクリーン362面上で結像する実像の分解能に与える影響を調査した結果と、式(3)を用いた分解能Rの計算値とを表形式で示す図である。図30に示すように、反射面に至るまでの距離Lの値が増加するにしたがって、反射型中間像スクリーン362の分解能が低下する。また式(3)を用いて計算した分解能Rの計算値は、実験による反射型中間像スクリーン362の実像の分解能Rと近い数値であることがわかる。
図31は、拡散層における画像表示光の入射面側から反射面に至るまでの距離Lと反射型中間像スクリーン362面上で結像する実像の分解能R、および反射面に至るまでの距離Lと式(3)を用いた分解能Rの計算値との関係を示すグラフである。ヘッドアップディスプレイ10の場合と同様にオンダッシュボード型ヘッドアップディスプレイ11においても、反射型中間像スクリーン362面上で結像する実像の分解能Rが50マイクロメートル程度あれば、ユーザに十分な解像度の映像を提供できる。図31に示すように、反射型中間像スクリーン362面上で結像する実像の分解能Rが50マイクロメートル以下となるために拡散層における画像表示光の入射面側から反射面に至るまでの距離Lが満たすべき条件は、Lが140マイクロメートル以下であることがわかった。また図30の比較例1〜3に示すように、拡散層における画像表示光の入射面側から反射面に至るまでの距離Lが110マイクロメートルよりも厚くなると、反射型中間像スクリーン362面上で結像する実像の分解能Rが50マイクロメートル以上となることも実験により確かめられた。
以上まとめると、実施の形態に係るオンダッシュボード型ヘッドアップディスプレイ11を用いて、コンバイナ400を介してユーザにおよそ1.7〜2メートル前方に10インチ程度の大きさの、視野角が±10度の映像を提示する場合、反射型中間像スクリーン362内の拡散層における画像表示光の入射面側から反射面に至るまでの距離Lを110マイクロメートル以下にすることが好ましい。反射型中間像スクリーン362内の拡散層における画像表示光の入射面側から反射面に至るまでの距離Lを110マイクロメートル以下にすることにより、視野角が広くホットスポットが無く明るい映像を、視力2.0以下のユーザが1.7〜2メートル以上先に10インチ程度の虚像を視認する際、十分な解像度を有する映像を提供することができる。
[中間像スクリーンの設置]
以上説明したように、実施の形態に係る中間像スクリーン360は、「透過型」や「反射型」の種類によらず、およそ20マイクロメートル〜200マイクロメートルの厚さである。このため、中間像スクリーン単体では剛性に乏しくなりうるので、設置や交換等の取り扱い時には中間像スクリーン360を何らかの保持部材を用いて保持することが好ましい。更には、充分な剛性の中間像スクリーン360を用いた場合でも、中間像スクリーン360の汚れや傷つき等を防止するために何らかの保護部材を設置することが好ましい。以下、実施の形態に係る透過型中間像スクリーン361の保持および保護について説明する。
図32は、実施の形態に係る三層部380の一例を模式的に示す図である。三層部380は、第1板380aと第2板380bとを含み、第1板380aと第2板380bとの間に透過型中間像スクリーン361を挟み込む3層構造となっている。
第1板380aは透過型中間像スクリーン361に対して画像表示光の入射側の面に位置する前面板であり、透過型中間像スクリーン361を保護する保護板として機能する。第1板380aはアクリルやポリカーボネート等の高透明プラスチックであり、画像表示光が入射する面には防塵、耐薬品性、傷つき防止機能が付加されている。
第2板380bは透過型中間像スクリーン361をはさんで第1板380aに対向して設けられる後面板であり、前面板と同様に透過型中間像スクリーン361を保護する保護板として機能する。第2板380bも第1板380aと同様にアクリルやポリカーボネート等の高透明プラスチックである。第2板380bは第1板380aとともに透過型中間像スクリーン361を挟持して、透過型中間像スクリーン361の反りやうねりを抑制して形状を平坦に保ち、挟持位置がずれないように補強する。なお、実施の形態に係る第1板380aおよび第2板380bの大きさの一例としては、高さ19.0mm、幅13.0mm、厚さが1mmである。第1板380aおよび第2板380bは透過型中間像スクリーン361と比較して厚みがあるため、透過型中間像スクリーン361の設置状態を補強する補強板としても機能する。
このように、三層部380は第1板380aと透過型中間像スクリーン361と第2板380bとの3層部を少なくとも有する多層構造を持つが、これらの層を単に重ね合わせて密着させただけでは挟持位置のズレが搬送中や走行中に起こりうる。また夫々がプラスチック部材であるため、内外部の環境温度による熱膨張や反りにより挟持位置の微小ズレが起こりうる。そのため、この多層構造を何らかの手段で固定することが好ましい。ここで、第1板380aと透過型中間像スクリーン361、または第2板380bと透過型中間像スクリーン361とを接着剤や粘着剤を含む粘着層を挟んで固定する方法も考えられる。しかしながら、透過型中間像スクリーン361の固定に粘着層を使用すると、温度や湿度等を原因とする経年変化によって粘着層が黄色く変色する「黄変」が生じ、この結果スクリーンとしての性能が劣化する可能性があることを本願の発明者は実験により見いだした。
そこで実施の形態に係る三層部380は、各層間に粘着層を形成して第1板380aと透過型中間像スクリーン361と第2板380bとの3層を積層固定する代わりに、これら3層を固定的に容易に安価に保持する手段を用いる。
図33は、実施の形態に係る投射部内のスクリーン保持部390を模式的に示す斜視図である。スクリーン保持部390は、三層部380を収納するための収納空間392が設けられている。収納空間392は、三層部380をはめ込んで保持するための空間である。
図34は、スクリーン保持部390に三層部380が設置された状態を説明する斜視図である。透過型中間像スクリーン361と前面版および後面板を含む三層部380は、まず収納空間392の基準位置となる図中下側の台座に三層部380の側面があてがわれ、段差部に三層部380の外周を落とし込み、押さえ付けながら三層部380の側面両端中央2箇所を接着剤にて一括固着することによりスクリーン保持部390に固定される。固着する接着剤は熱硬化性樹脂でも紫外線硬化性樹脂でも固着できればどのようなものでもよい。また、実施の形態では両端中央2箇所を固着したが、両端4箇所でも4角4箇所でも1箇所以上の箇所が固着されていれば何箇所でもよい。
図35は、中間像スクリーンマスク部材394が三層部380を覆い設置される状態を示す斜視図である。図35に示すように、スクリーン保持部390に固着された三層部380は、図中上辺2箇所のネジ391によって取り付けられる中間像スクリーンマスク部材394によって三層部380の外周部が覆い隠される。または、中間像スクリーンマスク部材394によって三層部380の外周部を覆い隠すと同時に、中間像スクリーンマスク部材394の弾性力でスクリーン保持部390に三層部380を押さえつけて固定してもよい。この際の中間像スクリーンマスク部材394の取り付けネジ391は、図中上辺2箇所とは限らず、上下2箇所、左右2箇所、上下左右4箇所、4角4箇所でも複数の箇所がネジ止めされていれば何箇所でもよい。
これにより、スクリーン保持部390は三層部380を簡易にかつ安価に固定することが可能となる。また、第1板380aと透過型中間像スクリーン361と第2板380bとの3層を各層間に接着層や粘着層を使用せずに固定するため、経年変化を少なくすることができる。また、第1板380aと透過型中間像スクリーン361と第2板380bとの3層は接着されていないため、三層部380から透過型中間像スクリーン361の脱着も自在となる。これにより、例えば透過型中間像スクリーン361のみの交換もできるため、経年変化で性能の低下した透過型中間像スクリーン361を取り替えることが可能となる。さらには、運転者であるユーザの好みに応じて視野角、すなわち図23に示す透過配光角の透過型中間像スクリーン361を設置することも可能となる。
図36および図37は、実施の形態に係る投射部300中に中間像スクリーンマスク部材394が三層部380を覆い投射部300が完成した状態を示す斜視図とその断面図である。
図36および図37に示すように、投射部300は中間像スクリーンマスク部材394をはずすことにより、透過型中間像スクリーン361と前面版および後面板を含む三層部380は、投射部300の投射口301側から脱着自在となっている。上述したとおり、投射部300は光学ユニット本体210から脱着自在となっているので、ヘッドアップディスプレイ10をルームミラー600に設置した状態であっても、投射部300のみを取り外して容易に交換することができる。
以上説明したように、本発明の実施の形態に係るヘッドアップディスプレイ10によれば、ヘッドアップディスプレイにおけるスクリーンの交換や組み立てが容易で、安価に製造する技術を提供することができる。また、透過型中間像スクリーン361の固定に各層間接着層や粘着層を用いないことにより、接着層や粘着層の黄変による光学的な性能低下はおこらない。
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
[中間像スクリーンの変形例]
上記本発明の実施の形態では、透過型中間像スクリーン361および反射型中間像スクリーン362の拡散層には、平行光を入射した時のヘイズ値(曇価)が84〜90%であるものを使用した場合について説明した。拡散シートの拡散層や表面性はヘイズ値(曇価)が84〜90%の範囲であれば、ビーズ拡散でなく、凹凸形状タイプの拡散、気泡タイプの拡散、レンズタイプの拡散、およびレリーフホログラムパターンの拡散等どの様なものでもよい。もちろん、上記中間像スクリーンの拡散層を形成する拡散機能を有した最小単位である拡散材粒径やレンズピッチ、凹凸形状ピッチ、パターンピッチおよび気泡径は、容易に類推できるように中間像スクリーンで結像する実像の分解能の目標値Rよりも小さい必要性があることは言うまでも無い。
また更に付け加えると、反射型中間像スクリーン362の反射面には、鏡面銀膜シートの代わりに鏡面アルミニウム膜シートを用いても良い。また、シート状でなくても板状でも高反射率の鏡面反射面が拡散層又は拡散フィルムの下層にあればよい。
[三層部の変形例]
上記本発明の実施の形態では、三層部380中の第1板380aと透過型中間像スクリーン361と第2板380bとの3層が独立している場合について説明した。三層部380から少なくとも透過型中間像スクリーン361が脱着可能であればよく、必ずしもこれら3層が全て独立している必要はない。
図38は、実施の形態に係る三層部380の別の例を模式的に示す図である。図38に示す例では、第1板380aと第2板380bとは小型のヒンジ382によって接続されている。このため、第1板380aと第2板380bとはヒンジ382により回動自在となっている。上述したとおり第1板380aと第2板380bとは高さ19.0mm、幅13.0mm、厚さが1mm程度で小型である。このため、両者が独立してバラバラに動かせる場合と比較して、図38に示すように両者の動きが制限されている方が、かえって透過型中間像スクリーン361の交換等の作業が容易となり得る点で効果がある。
図示はしないが、実施の形態に係る三層部380の形状のさらに別の例として、第1板380aの三辺と、第2板380bの辺のうち第1板380aの三辺と対応する三辺とが接続しており、残りの一辺が透過型中間像スクリーン361を出し入れ可能となるように開いている形状であってもよい。実施の形態に係る三層部380の形状のさらに別の例として、第1板380aの二辺と、第2板380bの辺のうち第1板380aの二辺と対応する二辺とが接続しており、残りの二辺が透過型中間像スクリーン361を出し入れ可能となるように開いている、いわばクリアフォルダ状の形状であってもよい。