全身性炎症反応症候群(SIRS:systemic inflammatory response syndrome)は集中治療領域において、未だに致死率が高い疾患であるが有効な治療法は少ない。
1991年の米国胸部疾患学会(ACCO)/米国集中治療学会(SCCM)合同カンファレンスでは、感染、外傷、熱傷、膵炎、その他の生体侵襲が引き金となって各種サイトカインが過剰に放出され、全身の炎症反応が亢進した状態を全身性炎症反応症候群(SIRS)、感染を合併したSIRSを敗血症(sepsis)と定義された。これらの状態は、さらに、サイトカインを中心とした各種humoral mediatorが関与して、侵襲後の重傷病態から臓器不全に陥ることが明らかにされている。侵襲後に臓器障害が発生する過程は、小川によってsecond attack theoryで説明されている。直接臓器障害には至らない程度の過大侵襲の場合、好中球がprimingされて重要臓器へ集積した状態下に、感染等のsecond attackが契機となって臓器障害が生じ多臓器不全に陥る。そのため、複数の臓器が直接、同時に障害される多臓器不全の場合とは異なり、second attackによる多臓器不全への移行を防止または治療できる可能性が指摘されている。
多臓器不全を防ぐために、早期に治療を開始しようという試みが行われ始めているが、SIRSのすべてが多臓器不全に陥るわけではない。したがって、いくつかの重症度判定や診断基準が提唱されている。ACCO/SCCM合同カンファレンスでは、SIRSと敗血症に関する診断基準は示されているが、多臓器不全(MODS、multiple organ dysfunction syndrome)の診断基準は示されていない。multiple organ dysfunction score(MOD スコア)では、測定項目として、呼吸器(PaO2/FiO2 ratio)、腎臓(クレアチニン値[μmol/L])、肝臓(ビリルビン値[μmol/L])、心血管(Par:pressure adjusted heart rate)、血液(血小板数[個/mL×10−3])、神経(Glasgow Coma Scale)があり、点数と死亡率が相関するように設定されている。また、1994年に欧州集中治療学会(ESICM)が作成したSOFA(Sepsis−related Organ Failure Assesment)スコアは、測定項目として、呼吸機能(PaO2/FiO2 [torr])、凝固機能(血小板数[×103/mm2])、肝機能(ビリルビン値[mg/dL])、循環機能(血圧低下)、中枢神経機能(Glasgow Coma Scale)、腎機能(クレアチニン値[mg/dL])があり、敗血症に合併するMODSに焦点を絞ったものとして作られたが、その後敗血症に限定したものではないことから、今ではSOFAはSequential Organ Failure Assesmentの略とされ、広く用いられている。
感染を合併したSIRS、すなわち敗血症から、さらにサイトカインを中心とした各種humoral mediatorが関与して、侵襲後の重傷病態から多臓器不全になっていくが、これに対する集学的治療の要点としては、手術や抗生物質投与等による組織酸素代謝の維持や、血液浄化法を用いた各種humoral mediator除去による細胞障害の治療、栄養管理等による自己防衛機能の増強等の治療が考えられてきている。
多臓器不全患者は、腎臓や肝臓での代謝・排泄能等の機能が著しく低下し、体内に病因物質や代謝産物等が蓄積したり、輸液スペースの確保が困難な状態にあるので、このような悪条件を打破するため、近年、有効な治療法の1つとして血液浄化法が注目され行われてきている。
例えば、非特許文献1には、多臓器不全に用いられる主な血液浄化法として、持続的血液濾過(CHF:continuous hemofiltration)/持続的血液ろ過透析(CHDF:continuous hemodiafiltration)、間歇的血漿交換(IPE:intermittent plasma exchange)/持続的血漿交換(CPE:continuous plasma exchange)、エンドトキシン吸着療法(PMX)が挙げられると記載されている。
多臓器不全に対するCHF/CHDFの最大の利点は、中分子量領域および一部低分子量タンパク領域の物質除去といった本来の意義の他に、水分・電解質・酸塩基平衡の管理のしやすさが挙げられる。重症病態ほど投与薬剤が増え、十分な栄養投与が必要となるが、CHF/CHDFを導入することによって安全に水分管理を行うことが可能となる。humoral mediatorの除去に関するCHF/CHDFの効果には、未だ一定の見解は得られていないが、サイトカインに関しては有効な除去は行い得ないという説が支持されつつある。但し、現在未測定の物質がCHF/CHDFによって除去され、循環動態や酸素化の改善効果に寄与している可能性も否定できないとしている。
急性肝不全に対して施行されてきた血漿交換がエンドトキシンやサイトカインの除去に対して有用であるとの報告もみられるが、クリアランスは低いため、短時間の血漿交換(IPE)では分布容量の大きなhumoral mediatorの除去には大きな期待はできない。血漿交換の施行時間を長くすることや(CPE)、アルブミンに結合した毒素の除去を目的に透析液にアルブミンを添加するContinuous Albumin Purification System(CAPS)等の工夫も行われている。
しかし、上記のCHF/CHDFとIPE/CPEは、量的には少なくても複雑なサイトカインネットワークに関与するmediatorすべてを除去しようとするコンセプトであるため、多臓器不全に対するサイトカインのモノクローナル抗体投与とは異なった機序による有効性も考えられている。
一方、PMXはグラム陰性桿菌の敗血症性ショックに保険適用があり、特に発症後早期(hyperdynamic state時)で、感染巣に対する処置後の改善に有用であるとの報告がある。また、エンドトキシンはグラム陽性菌の毒性(TSST−1)を増強する作用もあることから、グラム陽性菌感染症症例に対する効果も期待されている、しかし、エンドトキシンの測定法が確立されていないこと、エンドトキシン除去のメカニズムでは説明のできない早期の昇圧効果が見られること等不明な点も多い。
エンドトキシンショックに関する知見としては、LPS/LBP複合体がCD14/TLR4と結合し、シグナルが細胞内に伝達されることによって、サイトカインが放出されるが、このサイトカイン放出前に細胞膜で放出されるearly mediatorである内因性大麻(cannabinoid:マクロファージからanandamide(ANA)、血小板から2−arachidonyl glyceride(2−AG)の2種類)とサイトカイン放出後にマクロファージの核内から放出されるlate mediatorであるhigh mobility group−1(HMGB−1) proteinといった2つのmediatorが発見された。ANAはCB1、CB2受容体を介して、血圧低下や精神神経症状を呈する。一方、HNGB−1 proteinは自身は致死性で、血清HMGB−1 protein濃度は敗血症生存群に比べ死亡群で優位に高いことが報告されている。cannabinoidは、phosphatidic acidやarachidonic acidから生成される代謝産物で、分子量はわずか数百ダルトンであるが、HMGB−1 proteinの分子量は30kDである。ANAは、polymixin−Bを介してPMXに吸着されることが報告されている。
また、非特許文献2では、心大血管術後の血液浄化法として、急性腎不全(ARF)、急性肝不全、敗血症性ショックに対して、humoral mediatorをも考慮したCHDF、CPE、PMX治療が行われている。ARFを対象にしたCHDFによる治療成績は、原因病態別予後では、低心拍出量症候群(LOS)の死亡率が75%、敗血症の死亡率が83%と高く、急性肝不全を対象に、CHDFとIPE、CHDFとCPEとの併用療法を比較したところ、生命予後の改善が得られるようになってきたが、敗血症に伴う急性肝不全の予後は依然として不良であったとしている。また、心大血管術後の敗血症の原因である肺炎や縦隔洞炎に起因する胸部感染巣群に対して敗血症性ショックとPMX治療との関係を検討したところ、やはり予後が不良であったとしている。
また、非特許文献3〜6では、敗血症や敗血症性多臓器不全に対して、各種膜素材によるCHFやCHDFによる施行の試みが行われている。
非特許文献3では、著者らは、Polyacrylonitrile(PAN)膜を用いたCHFを敗血症性多臓器不全10例に行い濾液側および血液側それぞれの炎症性サイトカインであるIL−6、IL−8、及び抗炎症性サイトカインであるIL−10のクリアランスを算出して検討している。その結果、800〜1000[mL/時]の濾過量ではIL−6、IL−8、IL−10の濾液から求めたクリアランスはそれぞれ11.9±0.6、8.1±1.9、2.2±0.5[mL/分]であり、内因性クリアランスに比べると比較にならない程少なかったとしている。また、polymethyl methacrylate(PMMA)膜は他の膜に比較して吸着能が高くPMMA膜を用いたCHDFでのサイトカインの除去は有効であるとされているが、著者らは、敗血症多臓器不全9例で検討したところ吸着によるクリアランスの高々10[mL/分]程度で有意な差はなかったと報告している。
非特許文献4には、PMMA膜によるCHDFが、重症敗血症、敗血症性ショックやARDS等のような高humoral medeator血症に対して有効であると記載されている。
非特許文献5には、周術期におけるCHDF/CHDの施行について記載されている。
非特許文献6には、PMMA膜によるCHDFの施行時において、各種humoral mediatorの除去について記載されている。
また、非特許文献7〜9では、敗血症患者及びSIRSモデルラットにおける血液中のサイトカイン・ケモカイン類が検討されている。
非特許文献7には、腹膜炎と診断された敗血症手術25症例を対象として、術前、術後にヘパリン加全血採血を行い、遠心分離した血漿を−80℃にて凍結保存後、サスペンジョンアレイシステムであるCytokine 17−plex panelTM(米国、BIO−RAD Laboratories,Hercules,CA)をもちい血漿30μlで各種サイトカイン・ケモカイン類が測定されている。具体的には、IL−1β、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−10、IL−12、IL−13、IL−17、G−CSF、CM−CSF、IFN−γ、TNF−α、MCP−1、MIP−1βの項目が測定されている。
また、4名の健常人の血清中のサイトカイン類についても測定されており、その結果、TNF−α、IL−1β、IL−4,IL−5,IL−7、IL−10、IL−12は低値であった(グラフから読み取れる数値は、せいぜい10[pg/mL]以下)。一方、IL−6、monocyte chemotactic chemotacic protein−1(MCP−1)、macrophage inflammatory protein−1(MIP−1β)は高値であり、グラフから読み取れるそれぞれのmaxの値は、約100[pg/mL]、約300[pg/mL]、約100[pg/mL]であったことが記載されている。
非特許文献8には、ICUに入ってから24時間以内に重症敗血症又は敗血症性ショックとなった29名の患者に対して、17種類のサイトカイン・ケモカイン類をCytokine 17−plex panelTM(米国、BIO−RAD Laboratories,Hercules,CA)を用いて測定したという報告がある。具体的には、IL−1β、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−10、IL−12、IL−13、IL−17、G−CSF、CM−CSF、IFN−γ、TNF−α、MCP−1、MIP−1βの項目が測定されている。その結果、死亡した患者のIL−6、IL−8、IL−10及びMCP−1の値は、生存した患者に比べて高値であり、なかでも、死亡した患者のIL−10値は、生存した患者の値に比べて極めて高かったことが記載されている。
非特許文献9には、LPSを投与して6時間後に、全身性炎症を起こしたモデルラットに、ポリスルホン膜からなる小膜面積のダイアライザーを用いてCHF/CHDFによる血液浄化法を行うと、LPSを投与した後に何もしなかったコントロール群に比較して、CHDF群>CHF群>コントロール群の順に生存率が向上することが報告されている。
また、非特許文献10〜20及び特許文献1〜3には、ビタミンE誘導体やリポ酸誘導体の抗酸化能や抗炎症作用について記載されている。
非特許文献10には、ビタミンEの誘導体であるETS−GS(γ−L−glutamyl−S−[2−[[[3,4−dihydro−2,5,7,8−tetramethyl−2−(4,8,12−trimethyltri−decyl)−2H−1−benzopyran−6−yl]oxy]carbonyl]−3−oxo−3−[(2−sulfoethyl)amino]propyl]−L−cysteinylglycine sodium salt)を虚血再灌流時の腎障害(AKI)モデルラットに静注(静脈投与)すると、投与していないコントロールラット群に比べて、生存率が向上することを報告している。その理由としては、虚血再灌流時に腎臓から血清中に産生されるNOがETS−GSによって抑制され、また、ETS−GS投与された腎臓中のMDA(malondialdehyde)のレベルは、ETS−GSで処理されていないものに比べて極めて低いことが記載されている。また、RAW264.7細胞を用いたin vitroの実験において、ETS−GSで処理された細胞は、活性酸素のレベルを低減させることから、ETS−GSは、新しい抗酸化物質であり、虚血再灌流時の障害を軽減する薬剤になりうることが記載されている。
非特許文献11には、リポポリサッカライドで誘導されたラットの肺や肝臓の急性障害に対して、ビタミンEの誘導体であるETS−GSを投与すると、肺組織の浮腫や白血球の浸潤が低減され、また、肝臓組織の出血や白血球の浸潤が低減されることが報告されている。また、リポポリサッカライド投与後のTNF−α、IL−6、NOxの産生も追跡しているが、ETS−GSで処理されたラットでは、その産生が抑制されていることから、ETS−GSがこれまでにない新しい抗酸化物質であり、リポポリサッカライドで誘導された炎症反応をブロックし、エンドトキシンが関与する急性肺障害、急性肝障害に対しても防御するということを報告している。そして、ETS−GSは、敗血症のための潜在的な治療薬になりうることが記載されている。
非特許文献12には、ビタミンEの誘導体であるETS−GSが、虚血再灌流時の肝臓障害モデルラットに投与すると、肝臓組織の変化(肝臓細胞の壊死や溶血等)、肝臓からの酵素(AST、ALT、LDH)やIL−6、TNF−α、HMGB1の産生が、投与しないものに比べて少ないことが記載されており、ETS−GSが、虚血再灌流時の肝臓障害に対する治療薬となりうることが報告されている。
非特許文献13には、ビタミンEの誘導体であるETS−GSが、腸結紮穿刺によって誘導された敗血症由来の全身性炎症が誘発されたモデルラットに経口投与すると、肺組織の変化(肺細胞の壊死や溶血等)や血中のIL−6、TNF−α、HMGB1の産生が、投与しないものに比べて少ないことが記載されており、ETS−GSは、敗血症のための潜在的な治療薬になりうることが記載されている。
非特許文献14には、ビタミンEの誘導体であるE−Ant−S−GS(vitamin E,glutathione,5−OH−anthranilic acid,succinic acidが化学結合した化合物)が、腸結紮穿刺によって全身性炎症である敗血症を起こし、肺障害が誘発されたモデルラットに静注(静脈投与)すると、投与していないラットに比べて、血中のIL−6産生が抑制され、また、肺組織の炎症度合いも低く、肺組織内のMPO活性も抑制されていることが記載されている。したがって、E−Ant−S−GSが、抗炎症作用を持つ物質であり、全身性炎症に対する治療薬になることが示唆されている。
非特許文献15には、ビタミンEの誘導体(anthranilic acidの誘導体)であるEAntS−GS(vitamin E,glutathione,5−OH−anthranilic acid,succinic acidが化学結合した化合物)が、フロインド完全アジュバントで誘導された急性疼痛のモデルラットに皮下投与すると、投与していないラットに比べて、疼痛の低減やmyeloperoxidase、iNOS、PAR2のレベルを低減させるため、EAntS−GSが、急性疼痛や慢性疼痛に対する新しい治療ツールとして考慮すべきであると報告している。
非特許文献16には、ビタミンEの誘導体であるESeroS−GS(γ−L−glutamyl−S−[2−[[[3,4−dihydro−2,5,7,8−tetramethyl−2−(4,8,12−trimethyltridecyl)−2H−1−benzopyran−6−yl]oxy]carbonyl]−3−[[2−(1H−indol−3−yl)ethyl]amino]−3oxopropyl]−L−cysteinyl−glycine sodium salt)が、新しい抗酸化剤であり、虚血再灌流時の腎障害モデルラットに静注(静脈投与)すると、投与していないラットに比べて、BUNやクレアチニンの値が改善され、腎組織の障害度合いや腎組織中のMPOの値も低減し、さらには、血中のIL−6やTNF−αの産生が抑制されることを報告している。したがって、ESeroS−GSが、種々のヒトの虚血再灌流による障害に対して治療効果があると示唆されるとしている。
非特許文献17には、ビタミンEの誘導体であるEPC−K1(L−ascorbic acid [2−[3,4−dihydro−2,5,7,8−tetramethyl−2−(4,8,12−trimethyltridecyl)−2H−1−benzopyran−6−yl−hydrogen phosphate]potassium salt)が、新しい抗酸化剤であり、肝臓の虚血再灌流時の障害モデルラットに皮下投与すると、投与していないラットに比べて、肝機能障害の程度を示す酵素であるAST,ALTやLDHの活性が抑制され、また、血中のIL−6、TNF−α、HMGB1の産生が抑制され、さらに、肝臓組織細胞のアポトーシスを防御することが報告されている。すなわち、EPC−K1が、肝臓の虚血再灌流時における障害に対して、抗炎症作用を持つ物質であり、アポトーシスを防ぐということから、新しい治療薬になることが示唆されている。
特許文献1には、肝障害抑制剤、抗白内障剤、脳代謝改善剤、抗酸化剤、及び化粧品成分として有用なビタミンEを骨格とする種々の化合物に関する合成法や薬剤としての用途が開示されている。
特許文献2には、ビタミンEを骨格とする種々の化合物における抗サイトカイン介在疾患剤が開示されている。
非特許文献18には、リポ酸の誘導体であるDHLHZn(sodium Zinc dihydrolipoylhistidinate)が、新しい抗酸化剤であり、心臓の虚血再灌流時の障害モデルラットに投与すると、投与していないラットに比べて、心筋機能の障害や心筋細胞のミトコンドリア機能障害が投与量に依存して抑制されることを報告している。したがって、DHLHZnは、心臓の虚血再灌流時の障害に対する治療に使用できることが示唆されるとしている。
非特許文献19には、リポ酸の誘導体であるDHLHZn(sodium Zinc dihydrolipoylhistidinate)が、新しい抗酸化剤であり、腎臓の虚血再灌流時の障害モデルラットに静脈投与すると、投与していないラットに比べて、BUNやクレアチニンの値が改善され、腎組織の障害度合いや腎組織中のMDAの値も低減されることを報告している。したがって、DHLHZnが、種々のヒトの虚血再灌流による障害に対して治療効果があると示唆されるとしている。
特許文献3には、α−リポ酸がミトコンドリアに存在する補酵素で、抗酸化能を有し、酸化ストレスによる種々の病態の治療、例えば動脈硬化症および白内障の治療薬として知られていること、新規のα−リポイルアミノ酸の還元体(ジハイドロ体)の金属キレート化合物及びそれらの薬理学的に許容される塩の合成に成功し、これらの化合物がチロシナーゼ阻害作用、メラニン産生抑制作用及びエラスターゼ阻害作用を有することが記載されており、これらが、抗しわ剤や美肌剤として有効であることが記載されている。
非特許文献20には、ビタミンEとリポ酸が結合した化合物であるリポイルビタミンEが、新しい抗酸化剤であり、LPSを投与して、全身性炎症を起こしたモデルラットに経口投与すると、投与していないラットやビタミンE投与のラットに比べて、血清サイトカインの顕著な減少、肺や肝臓の組織障害の軽減が認められたことを報告している。したがって、リポイルビタミンEは、ビタミンEよりも強力な抗炎症作用を示すことから、急性肺障害を含めた呼吸器疾患に対する、新しい予防、治療薬としての可能性が示唆されたとしている。
本邦では、1990年日本救命医療研究会が血液凝固系を含めた7臓器ないしは系を対象に、広義のMOF(multiple organ failure)と狭義のMOFを定義し、1998年からスコア化のための議論がなされてきた。しかしながら、いずれのスコアにおいても、SIRSをひきおこすサイトカインを中心とした各種humoral mediatorについては、言及されていない。したがって、血中のどのサイトカインがどの程度あるときに、どのような治療をすればよいのか、明確ではなかった。
また、非特許文献1や2に記載された血液浄化法は、多臓器不全を含むSIRSに対する集学的治療法として、極めて重要な位置を占めつつあるが、残念ながら、未だに、完全な治療法といえるまでにはなっていないのが現状である。その理由としては、(i)血液浄化法では、血液を一旦、体外に出し血液濾過、濾過透析や吸着を行うことから、血液(血球と血漿)成分が、異物であるデバイス材料との接触を避けることは難しく、より生体適合性の高い(SIRS治療に適した)素材でできた適切なデバイスでないこと、(ii)患者の血液状態(サイトカイン類の濃度)が治療に適した状態で処置されていない、すなわち、血液中のサイトカイン・ケモカイン類の適正な濃度領域での治療処置が施されていないためであると考えられる。
ところで、サイトカインは炎症局所で免疫担当細胞の細胞表面受容体に結合するほか、一旦血中に入るとα2マクログロブリンや可溶性受容体との結合により免疫複合体となり不活化される。血液中のサイトカインの半減期は5〜10分と極めて短く、例えばIL−6は3〜7分、TNF−αは5〜10分であるといわれている。血中に入ったサイトカインは指数関数的に低下するが、SIRSにおいてサイトカインが高値を示し続けているのは炎症局所においてめまぐるしく産生され続けられているためと考えられている。例えば、体重60Kgの成人の循環血液量を約4600mLとした場合、サイトカインが5〜10分で半減するとなると、5〜10分で4600mLの半分つまり2300mL中のサイトカインが除去されることになり生体がもつサイトカインの内因性クリアランスは230〜460[mL/分]ということになる。したがって、上述したようにCHF/CHDFによるクリアランスは高々10[mL/分]であるので、サイトカインのクリアランスは、そのほとんどが生体内の消去機構により除去されていることになる。すなわち、これまでの単なるCHF/CHDFによるサイトカインの除去による効果のみでは、SIRSや多臓器不全の治療は難しいことがわかる。
上述したように、非特許文献3〜6では、敗血症や敗血症性多臓器不全に対して、各種膜素材によるCHFやCHDFによる施行の試みが行われている。
しかしながら、非特許文献3では、サイトカイン類としては、IL−6、IL−8、IL−10しか測定されておらず、患者が感染してからの時間や治療のタイミング、治療した時点のサイトカイン・ケモカイン類の濃度等の血液状態については、一切、触れられていない。
また、非特許文献4では、血中のIL−6のクリアランスの結果を示しているが、せいぜい20[mL/分]程度であり、上述したようにPMMA膜によるIL−6の除去だけでは、治療の有効性については十分な説明は全くできない。さらに、血中のIL−6の濃度が100[pg/mL]以上の高値症例に対して、PMMA膜、CTA(cellulose tri acetate)膜、PEPA膜、EVAL膜、PAN膜、PS膜によるCHDFの3日間施行によって、IL−6の濃度が下がるとの結果が開示されている。しかしながら、実際にこれらの膜によるCHDFが行われた症例のIL−6以外のサイトカイン・ケモカイン類の血中濃度がどの程度であったか等、その正確な治療のタイミングや、それらの治療効果がどの程度であったかについては、言及されていていない。
非特許文献5には、PMMA膜やEVAL膜を用いた施行例が開示されており、EVAL−CHDが、SIRSの範疇に入る敗血症性ショックの症例に施行された例も含まれている。しかしながら、施行のタイミングや、施行時の血中のサイトカイン・ケモカイン類の血中濃度がどの程度であったかは記載されておらず、その症例の転帰は死に至っている。
非特許文献6では、TNF、IL−6、IL−8、C3a、過酸化脂質、II型PLA2、顆粒球エラスターゼの血中濃度とそれらのクリアランスについてのデータが開示されている。しかしながら、対象となった患者の原疾患や上述のhumoral mediator以外のサイトカイン・ケモカイン類については、触れられていない。また、PMMA膜のCHDFによる治療効果についても一切触れられていない。また、非特許文献6には、PAN膜によるCHDFの施行時のTNF、IL−6、IL−8の除去について、その血中濃度とクリアランスの関係を示すデータも開示されている。しかしながら、これについても、TNF、IL−6、IL−8以外のサイトカイン・ケモカイン類については、触れられておらず、また、PAN膜のCHDFによる治療効果についても一切触れられていない。また、非特許文献6には、EVAL膜のCHDによる施行時のTNF、IL−6、IL−8の除去について、その血中濃度とクリアランスの関係を示すデータも開示されているが、やはり、TNF、IL−6、IL−8以外のサイトカイン・ケモカイン類については、触れられておらず、また、EVAL膜のCHDによる治療効果についても一切触れられていない。
一方、PMMA膜によるCHDFをMOF患者に対して3日間施行した際のTNF、IL−6、IL−8、C3a、過酸化脂質、II型PLA2、顆粒球エラスターゼの血中濃度変化について、それぞれの高値群と低値群とで調べられている。その結果、TNFやIL−6等については、高値群では、CHFD施行前と施行3日後で比較すると、施行3日後のデータは、優位に低下していたことが報告されているが、低値群は、ほとんど変化がなかったとしている。また、その他の膜素材として、EVAL膜群とPAN膜でも施行前と施行3日後の上述したサイトカイン類のデータが検討されている。PMMA膜では、TNF、IL−6、IL−8は低下していたが、EVAL膜やPAN膜では変化しなかったというデータを記載している。しかしながら、いずれにしても、これらの膜を用いた治療効果については、記載されておらず、さらには、TNF、IL−6、IL−8、C3a、過酸化脂質、II型PLA2、顆粒球エラスターゼ以外のサイトカイン・ケモカイン類については、調べられておらず、CHDF施行の正確なタイミング等についても一切記載されていない。
また、上述したように、非特許文献7〜9では、敗血症患者及びSIRSモデルラットにおける血液中のサイトカイン・ケモカイン類が検討されている。
しかしながら、非特許文献7では、手術前に上述したサイトカイン類を測定しているものの、これらの患者に対して、CHF/CHDF等のような、血液を一旦体外に出して血液処理デバイスと接触させる血液浄化法は行われていない。
また、非特許文献8においても、患者に対してどのような処置がなされたかとか、CHF/CHDF等のような、血液を一旦体外に出して血液処理デバイスと接触させる血液浄化法が行われたか否かについて記載されていない。
また、非特許文献9においても、IL−6及びTNF−α以外のサイトカイン類については記載されていない。
また、非特許文献10〜20や特許文献1〜3に記載されているように、ビタミンE誘導体やリポ酸誘導体に関しては、薬剤としての抗酸化能や抗炎症作用についての多くの知見がある。しかしながら、これらの化合物を担体に固定化した基材や、この基材を用いた血液体外循環による血液浄化法については検討されていない。
このように、SIRSを治療するための血液浄化法を行うに際して、その治療タイミングを推し量る血中の有効なサイトカイン・ケモカインの種類やその濃度に関する知見はなかった。また、血液浄化法に最適な基材やデバイスは、これまで存在しなかった。
このような現状に鑑み、本発明は、SIRSに代表されるサイトカイン・ケモカイン類が介在して発症または悪化する疾患によって生じる、臓器炎症の抑制に有効な基材及びデバイスを提供することを目的とする。本発明はまた、上記の疾患によって生じる臓器炎症の治療タイミングを決定するためのサイトカイン・ケモカイン類を特定し、治療に適した血中濃度を明らかにすることを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、LPS投与後にSIRSの状態を示したラット(全身炎症性反応症候群モデルラット)の血液中のサイトカイン・ケモカイン類を測定し、ある特定のケモカイン類が、特定の濃度以上のラットに対して、所定の基材を用いて血液体外循環による血液浄化法を行うと、従来の透析膜や持続緩徐式血液濾過器に使用されているポリスルホン膜を使用して血液浄化法を行った場合と比較して、生存率が上がることを見出し、本発明を完成するに至った。
上述したように、ビタミンE誘導体やリポ酸誘導体を投与することにより抗酸化能や抗炎症作用が奏されることが知られているが、ビタミンE誘導体を、臓器と直接接触させることなく、血液体外循環回路で血液と接触させることにより、臓器の炎症を抑えるという効果が得られるというのは全く意外なことである。
本発明は、水不溶性担体と、該水不溶性担体に担持された下記式(1)で表されるビタミンE誘導体とを備え、血液体外循環回路に、治療対象の血液と接触するように配置される(接続される)基材を提供する。
式(1)中、R1〜R3はそれぞれ独立に水素又はメチル基であり、R4は下記式(2)〜(4)で表されるいずれかの基であり、下記式(3)中、Mは金属元素であり、下記式(4)中、R5及びR7はそれぞれ独立に水素及び下記式(5)〜(10)で表される基からなる群より選択されるいずれかの基又はこれらの基のカルボキシル基がエステル化された基であり、R6は水酸基及び下記式(11)〜(20)で表される基からなる群より選択されるいずれかの基又はこれらの基のカルボキシル基若しくは水酸基がエステル化された基であり、下記式(11)及び(12)中、nは1〜5のいずれかの整数を示す。
このような基材を用いて血液体外循環による血液浄化法を行うことにより、SIRSに代表されるサイトカイン・ケモカイン類が介在して発症または悪化する疾患によって生じる臓器炎症を抑制することができる。すなわち、上記の基材は臓器炎症抑制用として好適である。また、上記式(1)で表されるビタミンE誘導体は、血液体外循環による血液浄化法における体外での使用のための臓器炎症抑制剤として好適である。
上記の水不溶性担体は、ポリスルホン系ポリマーであることが好ましい。また、上記の水不溶性担体は、中空糸、粒子又は不織布であってもよく、中空糸であることが好ましい。このような水不溶性担体を使用することにより、効率よく血液浄化法を行うことができる。
上記の治療対象は、血液中のGROの濃度が3500[pg/mL]以上又はMIP−1αの濃度が5100[pg/mL]以上であることが好ましい。また、血液中のGROの濃度は100000[pg/mL]以下であることがより好ましく、MIP−1αの濃度は100000[pg/mL]以下であることがより好ましい。すなわち、上記の基材は、血液中のGROの濃度が上記の範囲である治療対象用である。
上記の基材を用いた血液浄化法は、GRO及びMIP−1αの濃度が上記の範囲である治療対象の治療効果が高い。
本発明はまた、血液を流入させる入口ポート及び血液を流出させる出口ポートを有する容器と、該容器に充填された上記の基材とを備えるデバイスを提供する。
このようなデバイスは、SIRSに代表されるサイトカイン・ケモカイン類が介在して発症または悪化する疾患によって生じる臓器炎症を抑制する血液浄化法に好適に用いることができる。
本発明はまた、水不溶性担体と、該水不溶性担体に担持された上記一般式(1)で表されるビタミンE誘導体とを備え、血液体外循環回路に、治療対象の血液と接触するように配置される基材を、治療対象の血液と接触させるステップを含む、臓器炎症の治療方法を提供する。
本発明はまた、水不溶性担体と、該水不溶性担体に担持された上記一般式(1)で表されるビタミンE誘導体とを備え、血液体外循環回路に、治療対象の血液と接触するように配置される基材の、臓器炎症抑制剤としての使用を提供する。
本発明はまた、水不溶性担体と、該水不溶性担体に担持された上記一般式(1)で表されるビタミンE誘導体とを備え、血液体外循環回路に、治療対象の血液と接触するように配置される基材からなる臓器炎症抑制剤を提供する。
本発明によれば、SIRSに代表されるサイトカイン・ケモカイン類が介在して発症または悪化する疾患、特に敗血症性ショック、急性臓器障害や臓器不全、虚血再還流によって生じる臓器炎症の治療に有効な基剤及びデバイスが提供される。
本発明は、水不溶性担体と、該水不溶性担体に担持されたビタミンE誘導体とを備え、血液体外循環回路に、治療対象の血液と接触するように配置される基材を提供する。
(ビタミンE誘導体)
ビタミンE誘導体としては下記式(1)で表される化合物を使用することができる。
式(1)中、R1〜R3はそれぞれ独立に水素又はメチル基であり、R4は下記式(2)〜(4)で表されるいずれかの基であり、下記式(3)中、Mは金属元素であり、下記式(4)中、R5及びR7はそれぞれ独立に水素及び下記式(5)〜(10)で表される基からなる群より選択されるいずれかの基又はこれらの基のカルボキシル基がエステル化された基であり、R6は水酸基及び下記式(11)〜(20)で表される基からなる群より選択されるいずれかの基又はこれらの基のカルボキシル基若しくは水酸基がエステル化された基であり、下記式(11)及び(12)中、nは1〜5のいずれかの整数を示す。
上記式(3)中、Mが示す金属元素は、2価の金属元素である亜鉛若しくはコバルト、2価若しくは3価の金属元素である鉄、又は4価の金属元素であるゲルマニウムであることが好ましい。なかでも、精製が容易で安定した化合物が得られることから、2価の金属元素であることが好ましく、亜鉛であることがより好ましい。
より具体的には、ビタミンE誘導体は、例えば、下記式(21)〜(26)のいずれかの化合物であってよい。
(担体)
水不溶性担体とは、水に不溶性の担体を意味する。水に不溶性であることにより、基材が血液に接触した際の血液中への溶出を防止することができる。
水不溶性担体としては、中空糸状、粒子状、不織布状、繊維状、シート状、スポンジ状等の任意の形状のものを用いることができる。
中空糸とは、中空繊維でストロー状の繊維壁面に目的に応じた大きさの細孔を有し、中空糸内外での物質交換が可能である中空状の膜である。中空糸膜の素材には、特に限定はなく、例えば、ポリスルホン、ポリスルホンとポリビニルピロリドンとからなる共重合体等のポリスルホン系ポリマー、エチレンビニルアルコール、ポリアクリルニトリル、ポリエチレン、再生セルロース、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、ポリエーテルスルホン、ポリメチルメタクリレート等が挙げられる。
水不溶性担体として、中空糸状のものを用いる場合には、中空糸内部に血液を流すこと、及び物質交換効率の観点から、中空糸の内径は100〜300μmが好ましい。
水不溶性担体として、粒子状のものを用いる場合には、粒子状担体の平均粒径は、25〜2500μmのものを利用できる。粒子は球状であってもよい。ここで、粒径とは、顕微鏡で観察した場合の担体の輪郭上の任意の2点を結ぶ直線のうち最も長い直線の長さをいう。また、平均粒径とは、無作為に選択した100個の粒子状担体の粒径の算術平均値をいう。
粒子状担体は、その比表面積と体液の流通性を考慮すると、平均粒径50〜1500μmのものが好ましく、全血を通過させることを考慮すると、100〜1000μmのものが更に好ましい。
粒子状担体としては、セルロース系ゲル、デキストラン系ゲル、アガロース系ゲル、ポリアクリルアミド系ゲル、多孔質ガラス、ビニルポリマーゲル等の有機または無機の多孔体が使用でき、通常のアフィニティクロマトグラフィーに用いられる担体用の材料は全て用いることができる。
具体的な粒子状担体としては、旭化成マイクロキャリア(旭化成(株)社製)、CM−セルロファイン(登録商標)CH(商品名、排除限界タンパク質分子量:約3×106、生化学工業(株)販売)等のセルロース系担体、特公平1−44725号公報記載の全多孔質活性化ゲルや、CM−トヨパール(登録商標)650C(商品名、排除限界タンパク質分子量:5×106、東ソー(株)製)等のポリビニルアルコール系担体、CM−トリスアクリルM(CM−Trisacryl M、商品名、排除限界タンパク質分子量:1×107、スウェーデン国ファルマシア−LKB(Pharmacia−LKB)社製)等のポリアクリルアミド系担体、セファロースCL−4B(SepharoseCL−4B、商品名、排除限界タンパク質分子量:2×107、スウェーデン国ファルマシア−LKB(Pharmacia−LKB)社製)等のアガロース系担体等の有機質担体、及びCPG−10−1000(商品名、排除限界タンパク質分子量:1×108、平均細孔径100nm、米国エレクトロ−ニュークレオニクス(Electro−nucleonics)社製)等の多孔性ガラス等の無機質担体が挙げられる。
粒子状担体の組成は、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ビニル化合物の重合体等、多孔性構造をとりうる公知の重合体であってよい。
不織布とは、繊維を熱、機械的若しくは化学的な作用によって接着又は絡み合わせる事で布にしたものをいう。不織布の厚みや繊維径には特に制限はなく、血液が通過できる形態であれば使用できる。また、不織布状担体の組成についても特に限定はないが、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、再生セルロース等が挙げられる。
(担体の表面積の測定方法)
担体の表面積は、担体が中空糸膜の場合には、中空糸膜内径×3.14×中空糸長さ×中空糸本数により算出して求めることができる。また、中空糸膜の内径は中空糸一定本数をパラフィンブロックへ包埋させた後、任意の厚さにミクロトームを用いてスライスした後、パラフィン薄片を光学顕微鏡(100倍)で観察し、中空糸膜内径を測定して求めることができる。
担体が不織布の場合は、日本国(株)島津製作所製『アキュソーブ2100E』又はこれと同等仕様機を用いて、0.50g〜0.55gの範囲で秤量した担体を試料管に充填し、上記アキュソーブ本体で1×10−4mmHgの減圧度(室温下)にて20時間脱気処理した後、吸着ガス:窒素ガス、吸着温度:液体窒素温度にて測定して表面積を求めることができる。
担体が粒子の場合においても、不織布と同様に、日本国(株)島津製作所製『アキュソーブ2100E』又はこれと同等仕様機を用いて、0.50g〜0.55gの範囲で秤量した担体を試料管に充填し、上記アキュソーブ本体で1×10−4mmHgの減圧度(室温下)にて20時間脱気処理した後、吸着ガス:窒素ガス、吸着温度:液体窒素温度にて測定して表面積を求めることができる。
(基材)
本発明の基材は、上記の水不溶性担体と、該水不溶性担体に担持された上記のビタミンE誘導体とを備える。
ビタミンE誘導体の水不溶性担体への担持方法(固定化方法)としては、その様式を問わないが、ビタミンE誘導体が、アミノ基やカルボキシル基等のような官能基を持つ場合には、共有結合が好ましい。例えば、水不溶性担体がカルボキシル基を有する場合には、N−ヒドロキシコハク酸イミドと反応させることによって、スクシンイミドオキシカルボニル基に変換し、これにビタミンE誘導体をアミノ基の部分で反応させる方法(活性エステル法)が挙げられる。水不溶性担体がアミノ基またはカルボキシル基を有する場合には、ジシクロヘキシルカルボジイミド等の縮合試薬の存在下で、ビタミンE誘導体のカルボキシル基またはアミノ基を縮合反応させる方法(縮合法)、水不溶性担体とビタミンE誘導体とをグルタルアルデヒド等の2個以上の官能基を有する化合物を用いて結合する方法等が挙げられる。また、水不溶性担体が水酸基を有する場合には、臭化シアン等のハロゲン化シアンを水不溶性担体に作用させ、ビタミンE誘導体のアミノ基の部分で反応させる方法やエピクロロヒドリン等のエポキシドを水不溶性担体に作用させ、ビタミンE誘導体のアミノ基の部分や水酸基の部分で反応させる方法等が挙げられる。
必要に応じて、水不溶性担体とビタミンE誘導体との間に任意の長さの分子(スペーサー)を導入することもできる。スペーサー分子としては、ポリメチレン鎖、ポリエチレングリコール鎖等が挙げられる。例えば、アガロースの水酸基とヘキサメチレンジイソシアナートの一方のイソシアナート基を反応、結合させ、他方のイソシアナート基とビタミンE誘導体のアミノ基、水酸基、カルボキシル基等を反応、結合させることができる。
ビタミンE誘導体がアミノ基やカルボキシル基等の官能基を持たない場合には、水不溶性担体を溶解せずに、ビタミンE誘導体を溶解することができる溶媒、例えば、エタノール等でビタミンE誘導体を溶解し、この溶解物を水不溶性担体の表面にコーティングすることで担持(固定化)させることができる。以上の方法により、基材を製造することができる。上記の基材は、血液体外循環回路に、治療対象の血液と接触するように配置するものである。すなわち、上記の基材は、血液体外循環回路配置用基材ということもできる。血液体外循環回路としては、透析装置、持続緩徐式血液濾過装置、血漿分離(交換)装置、白血球除去装置、全血及び血漿分離吸着型血液浄化装置、二重濾過血漿交換装置等が挙げられる。
(ビタミンE誘導体固定化量測定方法)
ビタミンE誘導体の固定化量の測定については、担体が中空糸膜の場合は、中空糸膜に担持されたビタミンE誘導体の量を測定するために、ハウジングを解体し中空糸膜75mm×105本(膜面積:45cm2、膜面積は、中空糸内径×3.14×中空糸長さ×中空糸本数で算出した。)を取り出し、85%(w/w)エタノール50mL中へ浸漬させた後、30℃、50回/分で6時間震盪抽出を行った抽出液中のビタミンE誘導体の濃度を、高速液体クロマトグラフィ(HPLC:島津製作所 20Aシリーズ、CBM−20AT Prominence Communications Bus Module, DGU20AT3 Prominence Degasser, LC−20AT Prominence Liquid Chromatogram, SIL−20A Auto−Sampler, SPD−20A Prominence UV/VIS Detector, CTO−20A Prominence Colum Oven)を用いて波長285nmの紫外線の吸収に基づいて測定、算出することができる。
担体が不織布及び粒子の場合については、0.50g〜0.55gの範囲で秤量し表面積を測定したフィルター基材又は粒子基材を85%(w/w)エタノール50mL中へ浸漬させた後、30℃、50回/分で6時間震盪抽出を行った抽出液中のビタミンE誘導体の濃度を、高速液体クロマトグラフィ(HPLC:島津製作所 20Aシリーズ、CBM−20AT Prominence Communications Bus Module, DGU20AT3 Prominence Degasser, LC−20AT Prominence Liquid Chromatogram, SIL−20A Auto−Sampler, SPD−20A Prominence UV/VIS Detector, CTO−20A Prominence Colum Oven)を用いて波長285nmの紫外線の吸収に基づいて測定、算出することができる。
(ビタミンE誘導体の固定化量の適正範囲)
ビタミンE誘導体の固定化量の範囲については、特に制限はないが、固定化量が低すぎると、臓器炎症抑制の効果がなくなり、また、固定化量が大きすぎると溶出の懸念があるので好ましくない。したがって、固定化量の範囲としては、10〜1000mg/m2が適正であり、50〜500mg/m2がより好ましく、100〜300mg/m2が更に好ましい。
(デバイス)
本発明はまた、血液を流入させる入口ポート及び血液を流出させる出口ポートを有する容器と、該容器に充填された上記の基材とを備えるデバイスを提供する。図9はデバイスの一実施形態を示す断面図である。図9において、デバイス100は、血液体外循環回路に接続するモジュールである。円筒110の一端開口部に、内側にフィルター120を張ったパッキン130を介して入口ポート140を有するキャップ150をネジ嵌合し、円筒110の他端開口部に内側にフィルター120’を張ったパッキン130’を介して出口ポート160を有するキャップ170をネジ嵌合して容器を形成し、フィルター120及び120’の間隙に上記の基材を充填保持させて臓器炎症抑制用基材層180を形成している。
臓器炎症抑制用基材層180には、上記の基材を単独で充填してもよく、他の基材を混合又は積層してもよい。他の基材としては、例えばDNA等の他の悪性物質(抗原)の吸着材や、幅広い吸着能を有する活性炭等を用いることができる。これにより基材の相乗効果による広範な臨床効果が期待できる。臓器炎症抑制用基材層180の容積は、血液体外循環による血液浄化法に用いる場合、50〜400mL程度が適当である。
図10はデバイスの別の実施形態を示す断面図である。図10において、デバイス200は、血液体外循環回路に接続するモジュールである。円筒210の両端に、上記の基材(中空糸)220がポッティング剤230によって保持されている。中空糸の両端面は、開口している。入口ポート240を有するキャップ250及び出口ポート260を有するキャップ250’を円筒210に嵌合し、基材(中空糸)220を充填保持させている。また、円筒210の側面には、透析液導入口270と透析液導出口280が具備されている。
血液体外循環による血液浄化法に使用する際には、治療対象の体内から導出させた血液を入口ポート240から導入させ、基材(中空糸)220の内空を通過させ、出口ポート260を通して、治療対象の体内へと戻すことで、血液体外循環による血液浄化法を行うことができる。その際に、透析液導入口270から透析液を導入させ、透析液導出口280から透析液を導出して、デバイス200内の透析液を循環させることによって、血液体外循環中に透析を行うことができる。また、この透析液の循環は行わなくてもよく、透析液導入口270、透析液導出口280を開放してもよい。この場合、血液の濾過が行われる。また、透析液導入口270と透析液導出口280を栓等で塞ぐことによって、血液の濾過を抑制して血液体外循環による血液浄化法を行うこともできる。
血液体外循環による血液浄化法における血液の通過速度は、基材が中空糸の場合には中空糸の内径を変化させることにより調節することができる。この場合、内径が大きいほど高い通過速度を得ることができる。また、基材が粒子や不織布の場合には、粒子径や繊維径を大きくし、また、基材の充填度を低くすることにより、高い通過速度を得ることができる。血液の通過速度が高いほど多量の体液処理を行うことができる。血液体外循環は、臨床上の必要等に応じて、連続的に行ってもよいし、断続的に行ってもよい。
上記のデバイスは、サイトカイン・ケモカイン類が介在する疾患において、臓器炎症を抑制又は治療するために有効に使用することができる。具体的な疾患名としては、敗血症、敗血症性ショック、毒素ショック症候群、虚血再還流障害、成人呼吸促進症候群(ARDS)、パジェット病、骨粗鬆症、多発性骨髄腫、急性及び慢性骨髄性白血病、膵臓β細胞破壊、炎症性腸疾患、乾癬、クローン病、潰瘍性大腸炎、アナフィラキシー、接触性皮膚炎、喘息、筋変性症、悪液質、ライター症候群、I型およびII型糖尿病、骨吸収症、移植片対宿主反応、アテローム性動脈硬化、脳外傷、多発性硬化症、大脳マラリア、発熱、及び感染による筋肉痛等が挙げられる。
上記の基材を用いた血液対外循環による血液浄化法により、炎症を抑制する対象臓器としては、肺、腎臓、肝臓、大腸、小腸、十二指腸、胃、脾臓、すい臓、脳、心臓、血管等が挙げられる。ケモカイン類による白血球遊走性の働きによって、白血球がより集積しやすい臓器であることから、対象臓器は、肺、腎臓、肝臓であることがより好ましい。
(サイトカイン・ケモカイン)
上述したように、治療対象の血液体外循環による血液浄化法において、上記の基材を治療対象の血液と接触させることにより、治療対象の臓器炎症を抑制することができる。ここで、治療対象は、血液中のGROの濃度が3500[pg/mL]以上、MIP−1αの濃度が5100[pg/mL]以上、RANTESの濃度が500[pg/mL]以上、又はMIP−3αの濃度が150[pg/mL]以上のいずれかであれば、臓器炎症の抑制効果が高いが、とりわけ、血液中のGROの濃度が3500[pg/mL]以上又はMIP−1αの濃度が5100[pg/mL]以上であると、より臓器炎症の抑制効果が高い。
GROとは、サイトカインの一群であるケモカインの一つである。ケモカインとは、Gタンパク質共役受容体を介してその作用を発現する塩基性タンパク質であり、白血球等の遊走を引き起こし炎症の形成に関与することが知られている。ケモカインはその構造上の違いからCCケモカイン、CXCケモカイン、Cケモカイン及びCX3Cケモカインに分類される。GROは、CXCケモカインに分類される。GROの濃度は、種々のGRO分子の合計値の濃度である。後述する実施例で測定された、ラットのGRO/KCもCXCケモカインに分類されるGRO分子であり、ラットのGROの濃度はこの濃度で示される。GRO分子は、ヒトではGRO1、GRO2及びGRO3の3種類あり、これらの合計値がGROの濃度となる。ヒトのGROとラットのGROは、ともに臓器の炎症性を判断でき、生体としての炎症性のレベルはほぼ同等といえるため、治療対象のGROの濃度としては同じ水準で判断することができる。
MIP−1α、RANTES、MIP−3αも、サイトカインの一群であるケモカインの一つであり、CCケモカインに分類される。これまで、これらのケモカイン類については、SIRSにおける発現状態や機能等が十分には知られていなかった。本発明者らにより、GRO、MIP−1α、RANTES及びMIP−3αが、SIRSの治療タイミングを決定するマーカーとして有用であり、とりわけGRO及びMIP−1αが重要であることが初めて見出された。また、GROと同様に、ヒトのMIP−1αとラットのMIP−1αは、ともに臓器の炎症性を判断でき、生体としての炎症性のレベルはほぼ同等といえるため、治療対象のMIP−1αの濃度としては同じ水準で判断することができる。
生体内において、軽度から中程度の炎症反応が惹起されると、血中のサイトカイン・ケモカイン濃度は、そのサイトカイン・ケモカイン類の種類によって、その上昇時期や濃度レベルは異なるが、一般的に、ある特定の閾値を超えた後、経時的に徐々に上昇し、ピークを迎え、その後、徐々に低下し、ある特定の閾値を経てさらに低下していく。
この場合、サイトカイン・ケモカイン濃度が上昇するときの閾値と下降するときの閾値との間の期間(ピリオド)内に、治療すると治療効果が高い。つまり、GROであれば、その閾値を3500[pg/mL]以上、また、MIP−1αであれば、その閾値を5100[pg/mL]以上とすることで、一義的に治療に効果的な期間(ピリオド)が決まることになる。
一方、中程度以上の強い炎症反応が起こる場合においては、血中のサイトカイン・ケモカインは、そのサイトカイン・ケモカイン類の種類によって、その上昇時期は異なるが、その濃度の上昇動態は、ある特定の閾値を超えた後、個体の死に至るまで経時的に上昇し続けていくか、又は、ある高濃度のレベルで頭打ちとなって維持された状態が継続することによって最終的には個体の死に至ってしまう。したがって、炎症が起こって血中のサイトカイン・ケモカインが上昇し、ある閾値を超えたら、なるべく早い段階で処置することが好ましく、さらには、その閾値を超えて上昇していくサイトカイン・ケモカインの血中レベルが可能な限り低いうちに処置することが好ましい。
すなわち、GROであれば、その濃度範囲は3500〜100000[pg/mL]の範囲が好ましく、3500〜50000[pg/mL]の範囲がより好ましい。また、MIP−1αであれば、その濃度範囲は5100〜100000[pg/mL]の範囲が好ましく、5100〜50000[pg/mL]の範囲がより好ましい。また、RANTESであれば、その濃度範囲は500〜50000[pg/mL]の範囲が好ましく、500〜30000[pg/mL]の範囲がより好ましい。また、MIP−3αであれば、その濃度範囲は200〜50000[pg/mL]の範囲が好ましく、200〜30000[pg/mL]の範囲がより好ましい。
なお、上述した一連の血中のケモカイン類の測定は、一般的に抗原抗体反応の原理に基づく、酵素免疫測定法や多種類のケモカインを同時に測定するために、後述する実施例に記載される、Bio−Plex(商標)サスペンションアレイシステム(米国、BioRad社)に代表されるようなマルチプレックスビーズテクノロジーを利用した方法等で測定することができる。
血液浄化法(血液浄化療法)による臓器の炎症制御効果を評価する一つの指標として、試験動物の臓器の炎症状態の評価が挙げられる。とりわけ、肺組織は正常な状態においても好中球が豊富に存在し、感染、外傷、熱傷等の生体侵襲が引き金となって放出されたサイトカインによりこれら好中球が活性化されるため、炎症反応の影響を反映しやすいとされている。血液浄化法の実施後の肺組織を摘出し、ホルマリン固定後パラフィンへ包埋・薄切した後、ヘマトキシリン及びエオシンで染色することにより、肺組織の炎症状態の評価を行うことができる。
血液浄化法による臓器の炎症抑制効果を評価する指標として、試験動物の臓器中のMDA(Malondialdehyde)の定量が挙げられる。炎症反応を亢進させる一つの要因は、炎症初期段階で放出されるサイトカインであるTNF−αにより、顆粒球から放出された活性酸素である。この活性酸素により、α1−antitrypsinやα2−microglobulinと結合して活性発現を抑制されていたElastaseが活性化される。活性化されたElastaseにより周囲の組織が損傷され、炎症反応が加速することが知られている。臓器中のMDAの濃度の測定は、上記の過程における活性酸素の産生量を示す指標であることから、炎症反応の亢進度合いを示す指標となる。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
〔実施例1〕
Wister系雄性ラット(体重250〜300g)に、リポポリサッカライド(LPS)10[mg/kg]を投与することで、全身炎症性反応症候群モデルラットを作製し、被験ラットとした。LPS投与後ラットは、LPSを投与しない正常ラットと混合し、食物と水を無制限に摂取できるようにした。LPS投与後6時間の被験ラット(27匹)と正常ラット(3匹)より採血した血液中の4種類のケモカイン類(GRO/KC、MIP−1α、RANTES、MIP−3α)をBio−Plexシステム(Bio−Rad社製 Bio−Plex Pro ラットサイトカインプレミックスパネル 23−Plexパネル)を用いて測定した。結果を表1及び図1に示す。その結果、被験ラットのGRO/KC、MIP−1α、RANTES及びMIP−3αの血中濃度は、正常ラットと比較して高く、とりわけ、GRO/KC及びMIP−1αが極めて高く、GRO/KC及びMIP−1αが、血液体外循環の治療タイミングを推し量る有効なマーカーになることが明らかとなった。また、この結果及び後述する実施例2、4等の結果から、血液体外循環による血液浄化法において本発明の基材を治療対象の血液と接触させる場合に、治療対象の血液中のGROの濃度が3500[pg/mL]以上又はMIP−1αの濃度が5100[pg/mL]以上であると、臓器炎症を抑制する効果が高いことが示された。
〔実施例2〕
(ビタミンE誘導体)
下記化学式(21)で示されるビタミンE誘導体を、(有)オガリサーチ(大阪府豊中市)より入手した。
(基材及びデバイスの作製)
ポリスルホン及びポリビニルピロリドンからなる中空糸膜(中空糸内径185μm、膜厚45μm、水の限外濾過性能(UFR)250[mL/時/0.13kPa/m2])50cm2を、透析液の導入口及び導出口を備えたポリカーボネート樹脂性ハウジングに内包したのち、両端をウレタン樹脂によりハウジングへ固定した。ウレタン樹脂硬化後、ハウジング端面にて切断し中空糸を開口させた後、血液の入口ポート及び出口ポートを備えた蓋をハウジング両端面に接着することにより、デバイスを得た。このデバイスの血液の入口ポートより0.5質量%の上記化学式(2)で示されるビタミンE誘導体の2−プロパノール溶液を5[mL/分]で20秒間流通させて、中空糸内表面にビタミンE誘導体をコーティングし、基材及びデバイスを作製した。
(血液体外循環による血液浄化法の実施)
実施例1と同様に被験ラット12匹を作製した。被験ラットの外頸静脈及び大腿動脈にカテーテルを挿入して、血液体外循環の血液の出入り口を確保すると共にラット血液を採血し、実施例1と同様の方法で血液中のGRO/KC、MIP−1αを測定した。結果を表2に示す。上記のデバイスを用いて血液流量1[mL/分]で血液体外循環による血液浄化法を30分間実施した。この際、透析液の導入口に、8[mL/時]の流量で血液ろ過用補充液BSG(扶桑薬品工業)を供給した。30分間の積算補液量から、血液中より濾過された水分量を算出し、血液体外循環後、同量の生理食塩水を被験ラット体内に補充した。血液体外循環後、被験ラットを無制限に飲食可能な環境下に置き、血液体外循環3時間後(LPS投与より9時間後)及び18時間後(LPS投与より24時間後)の生存判定を実施した。LPS投与後24時間の生存率を算出した結果83%であった(生存ラット数10匹/被験ラット数12匹)。血液体外循環18時間後(LPS投与より24時間後)に生存していた被験ラットを儀死させ、肺の組織標本を採取した。採取した肺の組織標本をホルマリン固定し、パラフィン内に包埋し、ミクロトームで切片を作成した。作成した切片をヘマトキシン及びエオシンで染色して観察した。図2は、肺の組織観察の結果を示す写真である。肺組織内に鬱血、浮腫、出血は見られず、炎症も非常に軽度であった。
〔実施例3〕
(中空糸膜に担持されたビタミンE誘導体の定量)
実施例2にて作製したデバイスの中空糸膜に担持されたビタミンE誘導体の量を測定する為に、ハウジングを解体し中空糸膜75mm×105本(膜面積:45cm2、膜面積は、中空糸内径×3.14×中空糸長さ×中空糸本数で算出した。)を取り出し、85%(w/w)エタノール50mL中へ浸漬させた後、30℃、50回/分で6時間震盪抽出を行った。抽出液中のビタミンE誘導体の濃度を、高速液体クロマトグラフィ(HPLC:島津製作所 20Aシリーズ、CBM−20AT Prominence Communications Bus Module, DGU20AT3 Prominence Degasser, LC−20AT Prominence Liquid Chromatogram, SIL−20A Auto−Sampler, SPD−20A Prominence UV/VIS Detector, CTO−20A Prominence Colum Oven)を用いて波長285nmの紫外線の吸収に基づいて測定し、算出した。ビタミンE誘導体の量の測定結果を表3に示す。
〔実施例4〕
(血液浄化法の実施後の炎症状態の評価)
実施例2の血液浄化法の実施後24時間生存したラットを犠死させ、臓器をヘマトキシリン及びエオシンで染色したサンプル(HE染色サンプル)の評価、並びに臓器中のMDA(Malondialdehyde)の濃度の評価により、臓器の炎症状態を評価した。
(HE染色サンプルの評価)
実施例2の血液浄化法の実施後24時間生存したラットを犠死させた後、肺を摘出し、ホルマリン固定の後、パラフィンへ包埋させ、ミクロトームを用いて約6μmに薄切し、薄切サンプルをヘマトキシリン及びエオシンで染色した。続いて、次のようにして、後述する比較例2、4のサンプルと共に肺組織の炎症度合いを評価した。
後述する比較例2において、ビタミンE誘導体がコーティングされていないデバイスを用いてラットに血液浄化法を実施し、上記と同様にして肺組織のHE染色サンプルを作製した。また、後述する比較例4において、回路のみを用いてラットに血液体外循環を実施し、上記と同様にして肺組織のHE染色サンプルを作製した。
これらの実施例4、比較例2及び比較例4の肺組織のHE染色サンプルについて、光学顕微鏡を用いて100〜400倍にてそれぞれ6視野ずつ臓器観察を行った。そして、うっ血、浮腫、炎症細胞、大出血の4項目のそれぞれについて、炎症度合いの軽い視野から順位付けを行い、各項目の順位の合計を各HE染色サンプルの組織学スコアとした。
結果を図3に示す。ビタミンE誘導体でコーティングされた基材を備えたデバイスで血液浄化法を実施したラットの肺組織(実施例4、図3中、「ビタミンE誘導体コーティング」と示す。)は、コーティング無しの基材を備えたデバイスで血液浄化法を実施したラットの肺組織(比較例2、図3中、「コーティング無」と示す。)、血液体外循環回路のみで血液浄化法を実施したラットの肺組織(比較例4、図3中、「回路のみ」と示す。)と比較して、全ての評価項目について、組織学スコアが改善されていた。
(臓器中のMDAの濃度の測定)
肺、肝臓中のMDA(Malondialdehyde)の濃度の測定は以下の方法で実施した。実施例2の血液浄化法の実施後24時間生存したラットを犠死させた後、肺、肝臓を摘出し、液体窒素中で凍結させた後に各組織を塩化カリウム溶液中で粉砕し、溶解させた。この溶解液をサンプルとし、MDA測定キット(TBARS法)(日本老化制御研究所製)にてMDAの濃度を測定した。また同時に、サンプル中の総タンパク量をBCAプロテインアッセイキット(Thermo社製)を用いて定量し、各組織のMDAの濃度を単位タンパク質量当たりの値で規格化した。
結果を図4、5に示す。ビタミンE誘導体でコーティングされた基材を備えたデバイスで血液浄化法を実施したラットの肺(実施例4、図4、「ビタミンE誘導体」と示す。)、肝臓組織(実施例4、図5、「ビタミンE誘導体」と示す。)の炎症状態は、後述するコーティング無しの基材を備えたデバイスで血液浄化法を実施したラットの肺(比較例2、図4、「コーティング無」と示す。)、肝臓組織(比較例2、図5、「コーティング無」と示す。)と比較して、顕著に改善されていた。
〔比較例1〕
(基材及びデバイスの作製)
基材がビタミンE誘導体でコーティングされていない点以外は実施例2と同様にしてデバイスを作製した。
(血液体外循環による血液浄化法の実施)
実施例1と同様に被験ラット12匹を作成した。被験ラットの外頸静脈及び大腿動脈にカテーテルを挿入して、血液体外循環の血液の出入り口を確保すると共にラット血液を採血し、実施例1と同様の方法で血液中のGRO/KC、MIP−1αを測定した。結果を表4に示す。上記の基材がビタミンE誘導体でコーティングされていないデバイスを用いて血液流量1[mL/分]で体外循環による血液浄化法を30分間実施した。この際、透析液の導入口に、8[mL/時]の流量で血液ろ過用補充液BSG(扶桑薬品工業)を供給した。30分間の積算補液量から、血液中より濾過された水分量を算出し、血液体外循環後、同量の生理食塩水を被験ラット体内に補充した。血液体外循環後、被験ラットを無制限に飲食可能な環境下に置き、血液体外循環3時間後(LPS投与より9時間後)及び18時間後(LPS投与より24時間後)の生存判定を実施した。LPS投与後24時間の生存率を算出した結果50%であった(生存ラット数6匹/被験ラット数12匹)。血液体外循環18時間後(LPS投与より24時間後)に生存していた被験ラットを儀死させ、肺の組織標本を採取した。採取した肺の組織標本をホルマリン固定し、パラフィン内に包埋し、ミクロトームで切片を作成した。作成した切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色して観察した。図6は、肺の組織観察の結果を示す写真である。肺組織内に鬱血、浮腫は見られないが、肺組織が肥大し、軽度の炎症を起こしている部分がみられた。
〔比較例2〕
(血液浄化法の実施後の臓器の炎症状態の評価)
比較例1の血液浄化法の実施後24時間生存したラットを犠死させ、臓器のHE染色サンプルの評価、及び、臓器中のMDAの濃度の評価により、臓器の炎症状態を評価した。
(HE染色サンプルの評価)
実施例4と同様にして、ヘマトキシリン及びエオシンで染色した肺の組織を6視野観察し、うっ血、浮腫、炎症細胞、大出血の4項目についてビタミンE誘導体コーティング基材での肺組織観察結果、回路のみでの肺組織観察結果と合わせて、炎症度合いの軽い視野から順位付けを行った後、ビタミンE誘導体コーティング基材を備えたデバイス、コーティング無し基材、回路のみのそれぞれの順位の合計を算出した。結果を図3に示す。コーティング無しの基材を備えたデバイスで血液浄化法を実施したラットの肺組織(図3中、「コーティング無」と示す。)は、後述する血液体外循環回路のみで血液浄化法を実施したラットの肺組織(図3中、「回路のみ」と示す。)と比較して、組織学スコアが改善されていた。しかしながら、上述した、ビタミンE誘導体でコーティングされた基材を備えたデバイスで血液浄化法を実施したラットの肺組織(図3中、「ビタミンE誘導体コーティング」と示す。)と比較すると、全ての評価項目について組織学スコアが悪化していた。
(臓器中のMDAの濃度の測定)
実施例4と同様にして、肺、肝臓の組織の溶解液を作成し、MDAの濃度を測定した。結果を図4、5に示す。コーティング無しの基材を備えたデバイスで血液浄化法を実施したラットの肺組織(図4、「コーティング無」と示す。)、肝臓組織(図5、「コーティング無」と示す。)は、上述した、ビタミンE誘導体でコーティングされた基材を備えたデバイスで血液浄化法を実施したラットの肺組織(図4、「ビタミンE誘導体」と示す。)、肝臓組織(図5、「ビタミンE誘導体」と示す。)と比較すると、MDAの濃度が高かった。
〔比較例3〕
(回路のみでの血液体外循環の実施)
実施例1と同様に被験ラット12匹を作製した。被験ラットの外頸静脈及び大腿動脈にカテーテルを挿入して、血液体外循環の血液の出入り口を確保すると共にラット血液を採血し、実施例1と同様の方法で血液中のGRO/KC、MIP−1αを測定した。結果を表5に示す。デバイスを接続せずに血液体外循環回路のみを接続し、血液流量1[mL/分]で血液体外循環を30分間実施した。血液体外循環後、被験ラットを無制限に飲食可能な環境下に置き、血液体外循環3時間後(LPS投与より9時間後)及び18時間後(LPS投与より24時間後)の生存判定を実施した。LPS投与後24時間の生存率を算出した結果33%であった(生存ラット数3匹/被験ラット数12匹)。血液体外循環18時間後(LPS投与より24時間後)に生存していた被験ラットを儀死させ、肺の組織標本を採取した。採取した肺の組織標本をホルマリン固定し、パラフィン内に包埋し、ミクロトームで切片を作成した。作成した切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色して観察した。図7は、肺の組織観察の結果を示す写真である。肺組織内に鬱血がみられ、組織肥大が激しく、重度の炎症がみられた。
〔比較例4〕
(血液浄化法の実施後の炎症状態の評価)
比較例3の血液浄化法の実施後24時間生存したラットを犠死させ、臓器のHE染色サンプルの評価により、臓器の炎症状態を評価した。
(HE染色サンプルの評価)
実施例4と同様にして、ヘマトキシリン及びエオシンで染色した肺の組織を6視野観察し、うっ血、浮腫、炎症細胞、大出血の4項目について、ビタミンE誘導体コーティング基材での肺組織観察結果、コーティング無し基材での肺組織観察結果と合わせて、炎症度合いの軽い視野から順位付けを行った後、ビタミンE誘導体コーティング基材を備えたデバイス、コーティング無し基材、回路のみのそれぞれの順位の合計を算出した。結果を図3に示す。血液体外循環回路のみで血液浄化法を実施したラットの肺組織(図3中、「回路のみ」と示す。)は、上述した、ビタミンE誘導体でコーティングされた基材を備えたデバイスで血液浄化法を実施したラットの肺組織(図3中、「ビタミンE誘導体コーティング」と示す。)、コーティング無しの基材を備えたデバイスで血液浄化法を実施したラットの肺組織(図3中、「コーティング無」と示す。)と比較すると、全ての評価項目について組織学スコアが悪化していた。
〔比較例5〕
(回路のみでの血液体外循環の実施)
LPSを投与しない正常ラットの外頸静脈及び大腿動脈にカテーテルを挿入した。
デバイスを接続せずに血液体外循環回路のみを接続し、血液流量1[mL/分]で血液体外循環を30分間実施した。血液体外循環後、ラットを無制限に飲食可能な環境下に置き、血液体外循環18時間後に儀死させ、肺の組織標本を採取した。採取した肺の組織標本をホルマリン固定し、パラフィン内に包埋し、ミクロトームで切片を作成した。作成した切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色して観察した。図8は、肺の組織観察の結果を示す写真である。肺組織内に鬱血、浮腫、出血は皆無であり、肺組織の肥大等の炎症も見られなかった。