JP6218210B2 - がんの予防用または治療用物質のスクリーニング方法 - Google Patents
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Description
胃がんは、世界中の悪性腫瘍の中で4番目に多いがんであり、2番目の主要な死因である。ヘリコバクターピロリ感染は、胃悪性腫瘍の前兆となる可能性がある慢性胃炎を誘発する。ヘリコバクターピロリ由来毒性因子は胃腫瘍形成に関与するが、ヘリコバクターピロリ感染に対する炎症反応も胃がん発生に重要である。例えば、炎症誘発性サイトカイン遺伝子、IL-1β、IL-1受容体の内在性アンタゴニストをコードするIL-1RN、および腫瘍壊死因子(TNF)-αにおける遺伝子多型は、胃がんのリスクの増加に関連する。
さらに、IL-1β、IL-1RN、TNF-αおよびIL-10における特定の多型の組み合わせは、胃がんについてのオッズ比を27倍に増加させるが、このことは、胃腫瘍形成におけるこれらのサイトカインの重要な役割を示している。胃内でIL-1βを発現するトランスジェニックマウスは胃炎関連胃がんを発症したが、このことは、IL-1βが胃腫瘍形成を誘発する可能性があることを示している。一方、胃腫瘍形成におけるTNF-αの役割は、遺伝子モデル系を用いてまだ完全には検討されていない。
以前からの報告により、TNF-αが、様々な器官におけるがん発生における重要なサイトカインであることが示されている。TNF-α産生は予後不良に関連し、一部の進行がん患者においてTNF-αの血漿濃度が増加する(非特許文献1)。マウスの遺伝子研究では、肝臓、皮膚および大腸におけるがん発生におけるTNF-αまたはTNFR1受容体シグナリングの役割が示されている(非特許文献2,3,4)。
さらに、TNF-αは、IL-6およびCXCL12を有する卵巣がん細胞内において腫瘍促進サイトカイン/ケモカインシグナリングネットワークを生成し、それは腹膜播種に重要である(非特許文献5)。これらの結果は、炎症性微小環境におけるTNF-αががん発生において主要な役割を果たすことを示す。
本発明者等は、Ganマウスを用いて胃腫瘍形成におけるTNF-αの役割を検討した。Ganマウスは、標準的なWntシグナリングおよびCOX-2/PGE2経路の両方の活性化を誘発する、腺胃内でそれぞれWnt1、COX-2およびmPGES-1をコードするWnt1、Ptgs2およびPtgesの同時発現によって引き起こされる腺型胃腫瘍を発症する(非特許文献6,7)。Wntシグナリング活性化は、ヒト胃がん発生の主要原因の1つである(非特許文献7,8)。COX-2/PGE2経路は、胃がんを含む広範囲にわたるがんにおいて誘発され、COX-2/PGE2経路に関連した炎症反応は、腫瘍発生にとって重要である(非特許文献9)。
さらに、ヘリコバクターピロリ感染関連前悪性および悪性胃がん組織においてCOX-2が発現し、そのレベルはヘリコバクターピロリの根絶によって低下するが(非特許文献10,11)、このことは、ヘリコバクターピロリ感染がCOX-2/PGE2経路誘発の原因の1つであることを示している。従って、Ganマウスは、ヒト胃がんと同様の分子メカニズムおよび宿主反応によって引き起こされる胃腫瘍を発症する。さらに、Ganマウス腫瘍の遺伝子発現プロファイルは、ヒトintestinal型胃がんと同様である(非特許文献12)。
Noxo1は、NOXのサイトゾル調節サブユニットの成分であるNADPHオキシダーゼ(NOX)組織化タンパク質1をコードし、触媒アイソフォームNOX1に関連する(非特許文献13)。NOX1は、活性酸素種産生酵素であり、レドックス感受性シグナリング経路を調節するNOXファミリーメンバーの内の1つである。
Gna14については、ほとんど知られていない。Gna14は、グアニンヌクレオチド結合タンパク質サブユニットアルファ14(Gα14)(Gタンパク質のGqαサブファミリーのメンバー)をコードする(非特許文献14)。Gα14は、NF-κB経路を活性化するソマトスタチン2型受容体およびケモカイン受容体CCR1を含む様々なGタンパク質共役型受容体(GPCR)によって用いられる(非特許文献15、16)。
さらに、本発明者等は、Noxo1およびGna14がTNF-αに依存して胃腫瘍において誘発され、これらの分子が胃がん細胞の腫瘍形成性および幹細胞性にとって重要であることを見出した。
1.TNF-αをコードする遺伝子若しくはTNFR1をコードする遺伝子の発現、または、TNF-α若しくはTNFR1の機能を抑制することにより、増殖が抑制される胃がん細胞における、Gna14遺伝子の発現若しくはGna14遺伝子にコードされるタンパク質の機能を抑制する被検物質、および/または、Noxo1遺伝子の発現若しくはNoxo1遺伝子にコードされるタンパク質の機能を抑制する被検物質を選択する工程を含む、がんの予防用または治療用物質のスクリーニング方法。
2.前記胃がん細胞は、WntシグナリングおよびCOX-2/PGE2経路の両方が活性化している細胞である、前項1に記載のスクリーニング方法。
3.前記胃がん細胞は、未分化状態である、前項1または2に記載のスクリーニング方法。
4.1)TNF-αをコードする遺伝子若しくはTNFR1をコードする遺伝子の発現、または、TNF-α若しくはTNFR1の機能を抑制することにより、増殖が抑制される胃がん細胞と被験物質を接触させる工程;
2)前記胃がん細胞のNoxo1遺伝子および/またはGna14遺伝子の発現量を測定する工程、または、前記胃がん細胞のNoxo1および/またはGna14の発現量を測定する工程;
3)該発現量を被験物質と接触のない対照群の発現量または予め設定された基準発現量と比較する工程
を含む、前項1〜3のいずれか一に記載のスクリーニング方法。
したがって、本発明のスクリーニング方法により選択された物質は、Noxo1遺伝子およびGna14遺伝子の発現を抑制し、細胞の未分化状態の維持を解除することにより、腫瘍の発生、維持を阻害することができる。
これにより、本発明のスクリーニング方法により選択された物質をがん予防用薬、がん治療薬として用いることができる。
本発明は、「Gna14遺伝子および/またはNoxo1遺伝子の発現を抑制する被験物質を選択する工程を含む、がんの予防用または治療用物質のスクリーニング方法」に関する。より 詳しくは、下記の工程を含むスクリーニング方法であるが、特に限定されない。
1)がん由来細胞株と被験物質を接触させる工程
2)がん由来細胞株のNoxo1遺伝子および/またはGna14遺伝子の発現量を測定する工程
3)該発現量を被験物質と接触のない対照群の発現量または予め設定された基準発現量と比較する工程
なお、対照群とは、がん由来細胞株に限らない。
本発明で、発現抑制されるNoxo1遺伝子は、NADPH oxidase organizer 1をコードしている遺伝子であり、GenBank Accession: NM_172167.2、NM_001267721.1、NM_172168.2、NM_144603.3等で示される遺伝子であるが、これらに限定されない。これら遺伝子のバリアントやこれらの遺伝子の一部を含む遺伝子を含む。好ましくは、これら遺伝子と塩基配列が80%以上同一の遺伝子を含む。より好ましくは、85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上同一の塩基配列の遺伝子である。
本発明で、発現抑制されるGna14遺伝子は、グアニンヌクレオチド結合タンパク質サブユニットアルファ14(Gα14)(Gタンパク質のGqαサブファミリーのメンバー)をコードする遺伝子であり、GenBank Accession: NM_004297.3等で示される遺伝子であるが、これらに限定されない。これら遺伝子のバリアントやこれらの遺伝子の一部を含む遺伝子を含む。好ましくは、これら遺伝子と塩基配列が80%以上同一の遺伝子を含む。より好ましくは、85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上同一の塩基配列の遺伝子である。
Noxo1遺伝子および/またはGna14遺伝子は、それぞれ単独で指標(ターゲット)としてもよいし、組み合わせて指標としてもよい。好ましくは組み合わせて指標する。
さらに、他の指標となる遺伝子と組み合せて指標とされてもよい。好ましい他の遺伝子としては、例えばProm1遺伝子(CD133:GenBank Accession: NM_001145847、NM_001145848.1、NM_001145849.1、NM_001145850.1、NM_001145851.1、NM_001145852.1、NM_006017.2 )等が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の方法でスクリーニングされる物質は、がんの予防および治療に効果を奏する。がんの種類は、特に限定されるものではないが、TNF-αが発症に関与しているがん、炎症が発症に関与しているがんに好適に効果を奏する。具体的には、胃がん、皮膚がん、卵巣がん、肝臓がん、大腸がん等が挙げられる。特に胃がん、炎症起因の胃がんの予防、治療用の物質のスクリーニングに適している。
Noxo1遺伝子および/またはGna14遺伝子の発現を抑制する物質を選択する方法については限定されるものではない。
例えば、被験物質と細胞を接触させた後に、該遺伝子の発現量を測定し、対照群の発現量または予め設定されている基準発現量と比較して、発現量の低い物質を選択する方法を挙げることができる。基準発現量とは、事前に測定したNoxo1遺伝子および/またはGna14遺伝子の発現量を意味する。
被験物質は、特に限定されないが、例えば、低分子化合物、核酸、タンパク質、ペプチドが挙げられる。また、被験物質は、天然物質でも合成物であってもよい。
本発明における発現量の測定の方法は、発現量が測定できればよく、特に限定されるものではない。例えば、Noxo1遺伝子および/またはGna14遺伝子mRNAの量を測定する方法、発現タンパク質の量を測定する方法等が挙げられる。
mRNAを測定するには、例えば、RT-PCR、競合的RT-PCR、リアルタイムRT-PCR、RNase保護分析法、ノ−ザンブロットティングおよびDNAチップからなる群から選択されるいずれか一つを使用することができる。
発現タンパク質の発現量を測定するには、該タンパク質に特異的に結合する抗体またはリガンドを用いて検出する方法等が挙げられる。
がんの予防用または治療用組成物として、以下のいずれか一のsiRNAを有効成分として含むことができる。
NOXO1用siRNA
s195651:CAAGAGGCUCCAAACGUUUTT(センスプライマー:配列番号1)
AAACGUUUGGAGCCUCUUGAT(アンチセンスプライマー:配列番号2)
s195652:UGCGCGUGUUGGAAACGUCTT(センスプライマー:配列番号3)
GACGUUUCCAACACGCGCACG(アンチセンスプライマー:配列番号4)
s195653:GGAGUUGGGACGAAUUCAGTT(センスプライマー:配列番号5)
CUGAAUUCGUCCCAACUCCTG(アンチセンスプライマー:配列番号6)
GNA14用siRNA
s18509:GGACCGAAACAGGAUGUCATT(センスプライマー:配列番号7)
:UGACAUCCUGUUUCGGUCCTG(アンチセンスプライマー:配列番号8)
s18510:GACUUUAUCCUGAAGCUUUTT(センスプライマー:配列番号9)
:AAAGCUUCAGGAUAAAGUCTC(アンチセンスプライマー:配列番号10)
実施例で使用した材料および方法は、以下の通りである。
K19-Wnt1およびGanマウスは、本発明者等の文献(非特許文献7およびOshima H, Oguma K, Du Y-C, et al. Prostaglandin E2, Wnt and BMP in gastric tumor mouse models. Cancer Sci 2009;100:1779-1785.)の記載の方法に従って、構築した。詳しくは、K19-Wnt1マウスは、胃上皮細胞内で転写的に活性なKrt19遺伝子プロモータで駆動されるWnt1を発現するが、Ganマウスは、Krt19プロモータで駆動されるWnt1、Ptgs2およびPtgesを発現する。Jackson Laboratories(Bar Harbor, ME)からTNF-α(Tnf)についてのマウスホモ接合ヌルを購入した。TNFR1(Tnfrsf1a)変異体マウスは、文献(非特許文献4)の記載の方法に従って、構築した。K19-Wnt1、GanおよびTnf-/-マウスの遺伝的背景はC57BL/6であり、Tnfrsf1a-/-マウスのそれはBALB/cだった。Tnfrsf1a-/-マウスからの骨髄移植にBLAB/c-Ganマウスを用いた。金沢大学のSPF施設で全マウスを維持した。腫瘍表現型分析のため、50週齢でGanマウスを安楽死させ、検討した(各遺伝子型についてn=8〜10)。腺胃の半分を組織学的分析のために用い、残り半分をRNAまたはタンパク質試料調製のために用いた。
組織学的検査セクションを用いてGanマウス胃腫瘍の粘膜厚さ(腫瘍高さ)を測定した。Tnf+/+ Ganマウスのレベルの平均を100%として平均相対腫瘍粘膜厚さを算出した。独立した8つの組織学的検査セクションを用いてTnf+/+ K19-Wnt1およびTnf-/- K19-Wnt1マウス(各遺伝子型についてn=6)の腺胃内の腫瘍発生前病変の数を計数し、1セクション当たりの平均数を算出した。
トータルRNAを、ISOGEN(ニッポンジーン、東京、日本)を用いて胃腫瘍または正常組織、単離胃腺、または培養細胞から抽出し、PrimeScript RT reagent Kit(タカラバイオ、東京、日本)で逆転写させ、SYBR Premix ExTaqII(タカラバイオ)を用いてStratageneMx300P(Agilent Technologies, Santa Clara, CA)によりPCR増幅した。単一の胃腫瘍における分化および増殖状態の位置的差異を回避するため、腫瘍の異なる領域から2〜3個の試料を回収し、RT-PCR分析に用いた。リアルタイムRT-PCR用プライマーについては、市販品(タカラバイオ)を使用した。
ドナーマウスの大腿骨および脛骨から骨髄細胞の懸濁液を調製し、濾過した。レシピエントマウスに9-Gyを照射した後、1×107の骨髄細胞の静脈内注射を行った。以下の骨髄キメラマウスを作製した。GFPマウスからTnf-/- Ganマウス、野生型マウスからTnf+/+ Ganマウス、Tnfrsf1a-/-マウスからGanマウス、野生型マウスからBALB/c Ganマウス。Tnfrsf1a-/-からGanマウスおよび野生型マウスからBALB/c Ganマウスに対する骨髄移植のWeek 0および8に、LaTheta LCT-100(日立アロカメディカル、東京、日本)を用いて、生きているマウスの胃腫瘍のX線コンピュータートモグラフィー(CT)画像を検討した。
4%のパラホルムアルデヒド中で胃組織を固定し、パラフィン包埋し、4μmの厚さで切断した。これらの切片をH&Eで染色したか、または免疫組織化学法のために処理した。また、組織もOCT化合物内で包埋し、凍結し、10μmの厚さで切断した。それらの凍結切片をCD4およびCD8免疫染色のために用いた。一次抗体として、CD44(Millipore, Billerica, MA)、Muc5AC(Thermo Fischer Scientific, Ockford,IL)、H+K+/ATPase(MBL、名古屋、日本)、Ki-67(Dako,Carpinteria, CA)、F4/80(Serotec,Oxford, UK)、GFP(LifeTechnology, Grand Island, NY)、CD3ε(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)、CD4およびCD8(BD Pharmingen, San Jose, CA)に対する抗体を用いた。Vectastain Elite Kit(Vector Laboratories,Burlingame, CA)を用いて染色シグナルを視覚化した。蛍光免疫染色のため、二次抗体としてAlexa Fluor 594またはAlexa Fluor 488抗体(MolecularProbes, Eugene, OR)を用いた。安楽死の1.5時間前にBrdUを1 ml(1 mg/ml、Roche Diagnostics, IN)マウスに注射した。パラフィン切片のために組織を処理し、抗BrdU抗体(Roche)で免疫染色した。5つの視野の内の1つの顕微鏡視野(200×)当たりの標識細胞を計数することによって平均BrdU標識指数を算出した。
ISOGEN(ニッポンジーン、東京、日本)を用いてTnf+/+ GanマウスおよびTnf-/- Ganマウスの胃腫瘍と野生型マウスの正常な胃からトータルRNAを抽出した(各遺伝子型についてn=3)。発現プロファイル分析のためにGneChip Mouse Genome 430 2.0 Array(Affymetrix,Inc)を用いた。標準Affymetrixプロトコルを用いて標識cRNAを調製し、GeneChip Scanner 3000 7G(Affymetrix)を用いて走査し、Affymetrix Service Provider(タカラバイオ、東京、日本)によってプローブセットのシグナル強度を検出し、正規化した。GeneExpression Omnibus(GEO)に、マイクロアレイの結果を受託番号GSE43145として寄託した。
10% FBSを添加したRPMI1640またはDMEM中で、胃がん細胞株(MKN45、MKN74、Kato-III)(理化学研究所筑波研究所バイオリソースセンター、つくば、日本)およびAGS(ATCC)を培養した。Silencer Select Pre-designed siRNA(Life Technologies, Carlsbad,CA)を用いて、ノックダウン実験を行った。陰性対照のために非特異的siRNAを用いた。軟寒天増殖/コロニー形成アッセイのために、細胞を0.4%の寒天に混合し、96ウェルプレートまたは6ウェルプレート内に播種し、それぞれ1週間または3週間培養した。96ウェルプレートの軟寒天培養物にAlamarBlue試薬(Life Technologies)を染色し、蛍光強度を測定して、軟寒天内における細胞増殖を検討した。ギムザ溶液(和光純薬工業、大阪、日本)で6ウェルプレートを染色し、コロニーの数をスコアした。スフェアコロニー形成アッセイのために、1% N-2、2% B-27(LifeTechnologies)と20 ng/mlの塩基性FGF(PeproTech, Rocky Hill, NJ)と100 ng/mlのEGF(BD biosciences, Bedford, MA)とを添加した超低アタッチメントプレート(Corning, Corning, NY)内でMKN74細胞を平板培養し、3% O2および5% CO2の酸素圧低下状態で培養した。10日目にスフェアの数を計数した。
詳しくは、マウス腺胃を0.1%コラゲナーゼで30分間処理した後、20 gで3分間遠心分離して胃腺を単離した。単離した腺をトリプシンで消化し、コラーゲン被覆皿上に播種した。Day 2に、一次培養細胞を10 mM EDTA-PBSで処理し、継代を行って分化を誘発した。発現分析のためにDay 2(P0)およびDay 6(P1)の一次培養細胞を用いた。
溶解緩衝液中で組織をホモジネートし、音波破砕し、20,000×gで遠心分離し、10%のSDS−ポリアクリルアミドゲル中で10μgの上澄みタンパク質試料を分離した。Tyr705でのリン酸化Stat3に対する抗体(Cell Signaling, Danvers, MA)を一次抗体として用いた。内部対照として抗β-アクチン(Sigma)を用いた。シグナルを検出するためにECL検出システム(GE Healthcare, Buckinghamshire, UK)を用いた。
100μlのMatrigel(BDBiosciences San Jose, CA)にMKN74細胞(1.4×106)を懸濁させ、麻酔下ヌードマウス(日本チャールス・リバー、大阪、日本)の多重部位(1部位当たり約20μl)の腺胃の粘膜下組織に注射した。移植の2週間後に移植マウスの剖検を行い、組織学的分析によって腫瘍表現型を検討した。
データは、対応のないt検定を用いて分析し、平均±標準偏差(s.d.)として示した。P < 0.05の値は、統計的に有意(アスタリスク、P < 0.05)と考えた。
GanマウスとTnfノックアウトマウスを交配し、50週齢での複合型変異体の腫瘍表現型を検討した。重要なことに、胃腫瘍発生はTnf-/- Ganマウスにおいて有意に抑制され(図1Aおよび1B)、平均腫瘍サイズは同腹仔Tnf+/+ Ganマウス(図1C)の約40.5%に減少した。これらの結果は、TNF-αが胃腫瘍発生に重要な役割を果たすことを示す。
Tnf+/- Ganマウスの平均腫瘍サイズは、Tnf+/+ Ganマウスと比較して減少したものの、それは有意な減少ではなかった。このことは、TNF-αのヘテロ接合性発現が腫瘍形成にとって十分であることを示している。Tnf-/- Ganマウス腫瘍において、BrdU標識指数は、Tnf+/+ Ganマウスと比較して有意に低下したが、このことは、TNF-αシグナリングの阻害によって腫瘍細胞増殖が抑制されたことを示している(図1D)。
腫瘍細胞の未分化状態を調べるために、Tnf-/- Ganマウス腫瘍におけるCD44(がん始原細胞のマーカー)発現を検討した。野生型マウス胃においては扁平円柱上皮接合部に位置する上皮細胞においてのみCD44発現が検出されたのに対して、Ganマウスにおいては大部分の腫瘍細胞がCD44を発現した(図2A)。一方、Tnf-/-Ganマウスにおいては、有意な数のCD44陰性腫瘍細胞を見出した。RT-PCRによって検出されるCD44 mRNAレベルに関し、Tnf+/+およびTnf+/- Ganマウス胃腫瘍レベルは野生型マウス胃レベルの8倍超えて有意に増加したが、Tnf-/- Ganマウスにおいては野生型レベルの約5倍低下した(図2B)。特に、Tnf-/-GanマウスにおけるCD44陰性腫瘍細胞は、それぞれピット細胞および壁細胞の分化マーカーであるMuc5ACおよびH+K+/ATPaseを発現したが、一方でCD44陽性細胞はそれらを発現しなかった(図2C)。ピット細胞系統への分化は、PAS染色陽性ムチンの検出によって確認された。特に、Ki-67陽性増殖細胞は、主にCD44陽性上皮細胞において見つかった。これらの結果は、未分化状態の腫瘍細胞の維持にとってTNF-αシグナリングが重要であり、それが腫瘍促進に寄与することを示す。
腫瘍促進にとってのマクロファージ由来TNF-αの役割を調べるために、Tnf+/+ GFPトランスジェニックマウスからTnf-/- Ganマウスへの骨髄移植を実施した。特に、骨髄移植Tnf-/- Ganマウスにおいて胃腫瘍表現型が現れた(図3A)。強いGFP発現が胃腫瘍において検出されたが、骨髄キメラマウスの正常組織においては検出されず、このことは、骨髄由来細胞(BMDC)の腫瘍への重度の浸潤を示している。骨髄キメラマウスの腫瘍間質で多くのGFP陽性細胞ならびにF4/80陽性マクロファージが見つかったが、GFP発現細胞の78%はF4/80陽性マクロファージであった(図3A)。これらの結果は、マクロファージを含むBMDCによって発現したTNF-αが胃腫瘍発生にとって重要であることを示している。
TNF-α依存性機構によって誘発される腫瘍形成促進因子を同定するため、Tnf-/- GanおよびTnf+/+ Ganマウス腫瘍ならびに野生型マウス胃を用いてマイクロアレイ分析を実施し、候補遺伝子を選択した(図4A)。まず、野生型マウス胃と比較して、Tnf+/+ Ganマウス腫瘍において2倍以上上方制御された遺伝子を抽出した。次に、Tnf+/+ Ganマウスと比較してP<0.05でTnf-/- Gan腫瘍において有意に下方制御された遺伝子を抽出した。これらの2つの遺伝子セットの比較によって、157の遺伝子がTNF-αに依存して胃腫瘍において上方制御される遺伝子であると同定した(図4B)。図2に示すように、TNF-αは、未分化状態の腫瘍細胞の維持にとって重要である。従って、選択された157の遺伝子とLgr5+胃幹細胞において2倍以上上方制御された遺伝子セット(Barker N, Huch M, Kujala P, et al. Lgr5(+ve) stem cells drive self-renewal in the stomach and buildlong-lived gastric units in vitro. Cell Stem Cell 2011;6:25-36)と比較し、157の遺伝子の中で11の遺伝子が胃幹細胞においても上方制御されることを確認した(図4C)。
次に、選択された候補遺伝子のsiRNAをKato-III胃がん細胞にトランスフェクトし、軟寒天中での細胞増殖を検討した。特に、Noxo1、Gna14およびProm1発現の阻害によって軟寒天中の細胞増殖が有意に減少したが、他の9つの遺伝子についてのsiRNAは変化を引き起こさなかった(図5A)。更に、それぞれNoxo1、Gna14およびProm1の異なる配列を標的とする複数のsiRNAのトランスフェクションによってKato-III、MKN-45およびMKN-74胃がん細胞の腫瘍形成性を検討した。特に、Noxo1またはGna14に対するsiRNAは、全細胞株において軟寒天コロニー形成を抑制したが、Prom1 siRNAはKato-III細胞においてのみ抑制した(図5B〜D)。これらの結果は、広範囲にわたる胃がん細胞の腫瘍形成性にNoxo1およびGna14が必須とされることを示す。
従って、TNF-αは、腫瘍細胞におけるNoxo1およびGna14の誘発によって腫瘍を促進する役割を果たすことが考えられる。
一次培養胃上皮細胞の分化は、Wnt標的遺伝子Sox9の下方制御とMuc5AC発現の誘発とに関連した(図6A)。特に、Noxo1およびGna14の両方の発現は、Sox9のような未分化細胞の場合と比較して、分化上皮細胞において有意に減少したが、このことは、未分化状態の上皮細胞の維持におけるNoxo1およびGna14の役割を示している。
さらに、マクロファージを含むBMDCは、炎症微環境に召集されて、TNF-αを発現し、更に、TNF-αはTNFR1レセプタを介してBMDCを活性化する。これらは、腫瘍上皮細胞における、腫瘍形成促進因子であるNoxo1およびGna14の誘導に重要である(図6D)。
1.がん由来細胞株と被験物質との接触
被験物質として、Noxo1のsiRNAおよびGna14のsiRNAを使用する。
Noxo1のsiRNA、Gna14のsiRNAはそれぞれ、がん由来細胞株、Kato-III、MKN-45およびMKN-74にトランスフェクトし、導入された細胞を2日間培養する。陰性対照として非特異的siRNAを用いる。
各siRNA導入細胞から、トータルRNAを抽出し、RT-PCRにより発現量を測定する。
Noxo1のsiRNAをトランスフェクトしたKato-III、MKN-45およびMKN-74におけるNoxo1遺伝子の発現量が対照のNoxo1遺伝子の発現量と比較して50%以下である場合には、Noxo1のsiRNAは、がんの予防用または治療用物質として選択することができる。
Gna14のsiRNAをトランスフェクトしたKato-III、MKN-45およびMKN-74におけるGna14遺伝子の発現量が対照のGna14遺伝子の発現量と比較して50%以下である場合には、Gna14のsiRNAは、がんの予防用または治療法物質として選択することができる。
Claims (4)
- TNF-αをコードする遺伝子若しくはTNFR1をコードする遺伝子の発現、または、TNF-α若しくはTNFR1の機能を抑制することにより、増殖が抑制される胃がん細胞における、Gna14遺伝子の発現若しくはGna14遺伝子にコードされるタンパク質の機能を抑制する被検物質、および/または、Noxo1遺伝子の発現若しくはNoxo1遺伝子にコードされるタンパク質の機能を抑制する被検物質を選択する工程を含む、がんの予防用または治療用物質のスクリーニング方法。
- 前記胃がん細胞は、WntシグナリングおよびCOX-2/PGE2経路の両方が活性化している細胞である、請求項1に記載のスクリーニング方法。
- 前記胃がん細胞は、未分化状態である、請求項1または2に記載のスクリーニング方法。
- 1)TNF-αをコードする遺伝子若しくはTNFR1をコードする遺伝子の発現、または、TNF-α若しくはTNFR1の機能を抑制することにより、増殖が抑制される胃がん細胞と被験物質を接触させる工程;
2)前記胃がん細胞のNoxo1遺伝子および/またはGna14遺伝子の発現量を測定する工程、または、前記胃がん細胞のNoxo1および/またはGna14の発現量を測定する工程;
3)該発現量を被験物質と接触のない対照群の発現量または予め設定された基準発現量と比較する工程
を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
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