JP6202563B2 - 負電荷バブルリポソーム及びカチオン性ペプチドからなる薬物送達キャリア - Google Patents

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Description

本発明は、負電荷帯電バブルリポソームと正電荷に帯電したカチオン性ペプチドとが、前記バブルリポソームの表面において静電的相互作用により結合してなることを特徴とする、薬物送達キャリアに関する技術である。
また、本発明は、前記薬物送達キャリアを利用した薬物送達複合体に関する技術である。また、本発明は、前記薬物送達複合体と所定の超音波照射装置とからなる、薬物送達システムに関する技術である。
医薬の開発分野においては、疾患や病状を治療又は抑制する有効成分の開発に重点が置かれていた。
しかし、医薬成分として全般的にある疾患や病状に対して有効な作用を示す反面、別の組織や器官に対しては副作用を及ぼすものが多く存在する。通常の血管投与や経口投与を行った場合、多くの薬理成分が利用されないまま、体外に排出されてしまう場合が多い。また、体内の目的場所に到達する過程において、成分が変化してしまう場合も多い。
そのため、通常の薬物投与において、十分な薬理効果を得るためには、高い濃度での全身投与等が必要となる場合が多く、これに起因する健常組織への副作用が問題となる場合がある。特に癌治療や遺伝子治療の分野では、副作用の問題が深刻となる場合が多い。
このような問題を解決するため、患部に効率的に薬剤を送達する技術として、薬物送達システム(DDS)の開発が注目されている。薬物送達システムの目的としては、薬物送達を最適化することによって、必要な臓器(組織)に必要な量だけ、目的とする薬物を選択的に送達することにある。具体的には、以下のような技術が開発されている。
(1) 薬物送達システムの初期の代表的な技術の一つとしては、抗体に薬物を結合させて指向性を得る方法が挙げられる(例えば、特許文献1,2等 参照)。当該技術は、心筋症や緑内障の治療における患者の負担を軽減するために開発が始まった技術である。しかし、抗体を利用した方法では、マウス抗体を利用した場合、抗体自体が抗原となってしまう問題が指摘されていた。また、ヒト抗体を用いた場合でも、対象とする臓器に特異的に結合する抗体作成が困難であるという課題が指摘されていた。
(2) また、ウイルスの感染力を利用したウイルスベクターを利用する方法が挙げられる。しかし、ウイルス内にパッキングされるものは核酸分子に限られるため、治療対象が遺伝子治療に限られるという課題がある。また、ウイルスの安全性に関する問題も指摘されている。
(3) そこで、ユニバーサルな薬物送達キャリアとして、リポソーム内に薬物を封入する技術が提案されてきた(例えば、特許文献3等 参照)。リポソームは、生体成分である脂質から構成されるため、毒性や抗原性が低いという優れた利点があるキャリアである。しかし、リポソームが肝臓や脾臓で捕捉されてしまうという技術的な課題があり、目的組織に十分な薬物送達を実現できないという問題が指摘されていた。
(4) また、リポソームを微細にしたバブルリポソームを調製し、その表面に薬物を結合させる技術が提案されているが、表面に結合できる量(搭載量)が十分でないという課題が指摘されていた。
(5) そこで、リポソームへの搭載量を増加させるために、脂質組成における構成脂質にカチオン性脂質を含ませる技術が提案されている(例えば、特許文献4等 参照)。当該技術では、表面に負電荷に帯電している核酸分子を静電気的に付着させることが可能となる。
しかし、当該技術では、搭載物が負電荷物質に限定されてしまうという課題がある。この点、リポソーム表面を帯電させただけでは、「ユニバーサル」な薬物送達キャリアとはなりえない。
特開平05-262669号公報(作用物質デリバリー) 特表2002-524533号公報(癌細胞に診断薬及び治療薬をデリバリーするためのC3b(i)に対する抗体) 特開平9-248182号公報(プラスミド包埋多重リポソーム) 特表2003-501363号公報(遺伝子伝達用カチオン性脂質及びその製造方法)
本発明では、上記課題を解決し、毒性や抗原性等の安全性が高いことに加えて任意の薬物の大量搭載が可能である薬物送達キャリア、を提供することを課題とする。また、本発明では、任意の薬物を必要な組織に必要な量だけ選択的に送達する技術、を提供することを課題とする。
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、上記課題に対する解決手段を見出した。
(1) 負電荷に帯電したバブルリポソームを含む溶液に、正電荷に帯電したカチオン性ペプチドを添加混合することによって、バブルリポソームの表面にカチオン性ペプチドが大量に搭載できることを見出した。
(2) カチオン性ペプチドに薬物を結合することによって、電荷や分子種に依存することなく、任意の薬物を負電荷バブルリポソームに搭載できることを見出した。即ち、負電荷バブルリポソームとカチオン性ペプチドの静電気的結合体は、ユニバーサルな薬物送達キャリアとなることを見出した。
(3) 負電荷バブルリポソームには、封入したパーフルオロ炭化水素ガスを安定して保持する性質があることを見出した。即ち、負電荷バブルリポソームには、バブルリポソーム破裂時における衝撃波発生能(ジェット流による血管壁透過能)を、長時間保持できる性質があることを見出した。
(4) カチオン性ペプチドを介して薬物を搭載した負電荷バブルリポソーム(薬物送達複合体)を、体内に血管投与し、目的の組織に対して特定条件の超音波を照射することによって、当該特定組織に選択的に大量の薬物を送達できることを見出した。
(5) カチオン性ペプチドとして、細胞膜透過性ペプチドを用いることによって、さらに薬物送達率が向上することを見出した。
(6) 抗体やリガンド分子を利用することによって、さらに薬物送達率が向上できることに想到した。
(7) 衛星リポソーム又は帯電した高分子ポリマーを利用することによって、さらに薬物送達率が向上できることに想到した。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
即ち、[請求項1]に係る本発明は、負電荷帯電バブルリポソームと、正電荷に帯電したカチオン性ペプチドとが、前記バブルリポソームの表面において静電的相互作用により結合してなることを特徴とする、薬物送達運搬体に関するものである。
また、[請求項2]に係る本発明は、前記負電荷帯電バブルリポソームが、下記(A1)〜(A4)に記載の全ての特徴を有するものである、請求項1に記載の薬物送達運搬体に関するものである。
(A1): 構成脂質の30 mol%以上がアニオン性脂質であるバブルリポソーム。
(A2): 構成脂質の4 mol%以上がPEG結合性脂質であるバブルリポソーム。
(A3): 内部にパーフルオロ炭化水素ガスを封入してなるバブルリポソーム。
(A4): 平均粒子径が50nm〜1μmであるバブルリポソーム。
また、[請求項3]に係る本発明は、前記負電荷帯電バブルリポソームの表面に、PEG分子に由来する水和層が形成されてなる、請求項1又は2のいずれかに記載の薬物送達運搬体に関するものである。
また、[請求項4]に係る本発明は、前記負電荷帯電リポソームを構成する脂質が、リン脂質である、請求項1〜3のいずれかに記載の薬物送達運搬体に関するものである。
また、[請求項5]に係る本発明は、前記PEG結合性脂質が、PEG分子に抗体又はリガンド分子を結合してなるものである、請求項1〜4のいずれかに記載の薬物送達運搬体に関するものである。
また、[請求項6]に係る本発明は、前記カチオン性ペプチドが、下記(B1)及び(B2)に記載の特徴を有するものである、請求項1〜5のいずれかに記載の薬物送達運搬体に関するものである。
(B1): 塩基性ペプチドであって、分子全体として正電荷に帯電しているペプチド。
(B2): 6〜50アミノ酸残基からなる直鎖又は分岐型ペプチド。
また、[請求項7]に係る本発明は、前記カチオン性ペプチドが、下記(B3)〜(B5)に記載の全ての特徴を有するものである、請求項1〜6のいずれかに記載の薬物送達運搬体に関するものである。
(B3): アルギニン残基を5残基以上含む塩基性ペプチドであって、分子全体として正電荷に帯電しているペプチド。
(B4): 6〜30アミノ酸残基からなる直鎖又は分岐型ペプチド。
(B5): 細胞膜透過性を有するペプチド。
また、[請求項8]に係る本発明は、前記カチオン性ペプチドが、抗体又はリガンド分子を結合してなるものである、請求項1〜7のいずれかに記載の薬物送達運搬体に関するものである。
また、[請求項9]に係る本発明は、負電荷帯電バブルリポソームと、正電荷に帯電したカチオン性ペプチドと、を含んでなることを特徴とする、薬物送達運搬体を製造するためのキットに関するものである。
また、[請求項10]に係る本発明は、請求項1〜8のいずれかに記載の薬物送達運搬体を構成するカチオン性ペプチドと、下記(C1)〜(C3)のいずれかに記載のものと、が結合してなることを特徴とする薬物送達複合体に関するものである。
(C1): 薬理成分。
(C2): 薬理成分が封入され且つ気体が封入されていないリポソーム。
(C3): 静電的作用により薬理成分が結合している高分子ポリマー。
また、[請求項11]に係る本発明は、負電荷帯電バブルリポソームと、下記(C1)〜(C3)のいずれかに記載のものと、を含んでなることを特徴とする、薬物送達複合体を製造するためのキットに関するものである。
(C1): 薬理成分。
(C2): 薬理成分が封入され且つ気体が封入されていないリポソーム。
(C3): 静電的作用により薬理成分が結合している高分子ポリマー。
また、[請求項12]に係る本発明は、請求項10に記載の前記薬物送達複合体と、;体内に血管投与した前記薬物送達複合体に対して下記(D1)及び(D2)に記載の条件を満たす超音波を照射する手段を備えた装置と、;を含んでなることを特徴とする薬物送達システムに関するものである。
(D1): 周波数が0.2〜10 MHzである条件。
(D2): Mechanical index 値が0.3以上である条件。
また、[請求項13]に係る本発明は、下記(A1)〜(A4)に記載の全ての特徴を有する負電荷帯電バブルリポソームを有効成分として含有してなる、超音波診断用造影剤に関するものである。
(A1): 構成脂質の30 mol%以上がアニオン性脂質であるバブルリポソーム。
(A2): 構成脂質の4 mol%以上がPEG結合性脂質であるバブルリポソーム。
(A3): 内部にパーフルオロ炭化水素を封入してなるバブルリポソーム。
(A4): 平均粒子径が50nm〜1μmであるバブルリポソーム。
本発明によれば、毒性や抗原性等の安全性が高いことに加えて任意の薬物の大量搭載が可能である薬物送達キャリア、を提供することを可能とする。
また、本発明によれば、‘任意の薬物’を‘任意の組織’に‘必要な量だけ’選択的に送達する技術を提供することを可能とする。
これにより、本発明では、患部への効率的な薬物送達が可能となることによって、(i) 薬剤の薬理効果を向上させることが可能となる。また、薬物投与量を減らすことが可能となり、(ii) 患者の投与負担の軽減、(iii) 副作用を軽減させることが可能となる。
このような本発明が奏する作用効果により、患者のQOLを大幅に向上させることが可能となる。また、本発明の技術は、特に副作用が深刻である癌、脳神経疾患、及び遺伝子疾患などの患者に対して、有効な技術となることが期待される。
本発明における薬物送達複合体である「薬物-カチオン性ペプチド搭載負電荷バブルリポソーム」を示した概念図である。(A):薬物-カチオン性ペプチドを搭載した負電荷バブルリポソーム。(B):カチオン性ペプチドと薬物の結合体。 本発明における薬物送達キャリア、薬物送達複合体、及び薬物送達システムの構成要素を示した概念図である。 本発明における薬物送達複合体の一態様として、衛星リポソームを利用した態様を示した概念図である。 本発明における薬物送達システムを利用して、任意の組織に選択的に薬物を送達する方法を示した概念図である。 本発明における薬物送達キャリアである「バブルリポソーム」と「カチオン性ペプチド」の結合状態を示した概念図である。(A):負電荷バブルリポソーム(本発明)。(B):中性電荷バブルリポソーム(比較)。 試験例1において、バブルリポソームに搭載可能なカチオン性ペプチド量を推定するために行ったFACS解析の結果図である。 試験例2において、EMCS-linkerを介して、カチオン性ペプチド(オクタアルギニン)と核酸分子(PMO)の結合体を合成する反応を示す図である。(A):Amine-PMO-FITCにおけるPMOの5'端のアミノ基と、EMCS(N-(ε-Malaimidocaproyloxy)succinimide)のアシル基が縮重結合する反応(反応式(1))。(B):反応(1)の反応生成物におけるEMCS由来リンカー部分に、(Arg)-CysのCys由来のSH基が結合する反応(反応式(2))。 試験例2において、バブルリポソームに搭載可能なカチオン性ペプチド-核酸分子結合体の量を推定するために行ったFACS解析の結果図である。 試験例3において、バブルリポソームに搭載可能なカチオン性ペプチド-高分子タンパク質結合体の量を推定するために行ったFACS解析の結果図である。 試験例4のバブルリポソームの溶血性試験において、上清のO.D.540を測定した結果図である。 試験例5のバブルリポソームの細胞毒性試験において、WST-8 assayのO.D.450を測定した結果図である。 試験例6のバブルリポソームのIn vivo造影試験において、心臓のエコー画像を撮影した写真像図である。 試験例6のバブルリポソームのIn vivo造影試験において、心臓のエコー画像から画像解析により算出したROI(Region of intensity)値の経時変化を示す結果図である。 試験例7の組織選択的薬物送達試験において、薬物送達対象の脳組織からFITC蛍光及びDAPI蛍光を検出した蛍光顕微像図である。
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明は、負電荷帯電バブルリポソームと正電荷に帯電したカチオン性ペプチドとが、前記バブルリポソームの表面において静電的相互作用により結合してなることを特徴とする、薬物送達キャリアに関する技術である。
また、本発明は、前記薬物送達キャリアを利用した薬物送達複合体に関する技術である。また、本発明は、前記薬物送達複合体と所定の超音波照射装置とからなる、薬物送達システムに関する技術である。
[負電荷帯電バブルリポソーム]
本発明に係る薬物送達キャリアは、その構成要素として「負電荷帯電バブルリポソーム」を含むことを必須とする技術である。
・バブルリポソームの基本性質
‘バブルリポソーム’(ナノバブル、Babble Liposome)とは、脂質二重膜が球状化して形成されるリポソームのうち、内部にガスが封入されてなるリポソームを指すものである。当該封入ガスに超音波を照射することによって当該内封ガスが共振し、一定の音圧に達すると破裂する。
・粒子径
本発明に係るバブルリポソームは、粒子サイズが微小なものを好適に用いることができる。当該バブルリポソームの調製法としては、常法によって調製した粒子径の大きなリポソームを、ナノフィルター等を通過させて微小化させることで調製することが可能である。
本発明の負電荷帯電バブルリポソームの具体的な粒子サイズとしては、平均粒子径が50〜1000nm(1μm)、好ましくは100〜950nm、より好ましくは200〜800nm、さらに好ましくは300〜700nm、特に好ましくは400〜600nm、一層好ましくは450〜550nm、最も好ましくは500nm程度のものを用いることが好適である。当該範囲の粒子サイズのものは、薬物の搭載量を十分に担保しつつ且つ臓器や組織内の毛細血管内の移動に適したキャリアとなる。
平均粒子径の下限値として具体的には、50nm以上、好ましくは100nm以上、より好ましくは150nm以上、さらに好ましくは200nm以上、特に好ましくは250nm以上、もっと好ましくは300nm以上、一層好ましくは350nm以上、より一層好ましくは400nm以上、を挙げることができる。当該平均粒子径が小さすぎる場合、薬物の搭載量が少なくなってしまい好適でない。
また、平均粒子径の上限値として具体的には、1000nm以下、好ましくは950nm以下、より好ましくは900nm以下、さらに好ましくは800nm以下、特に好ましくは750nm以下、もっと好ましくは700nm以下、一層好ましくは650nm以下、より一層好ましくは600nm以下、を挙げることができる。当該平均粒子径が大きすぎる場合、毛細血管内の移動に適さず、血管投与に好適に用いることができない。また、組織深部への移行性も悪くなり好適でない。
負電荷帯電バブルリポソームの膜は、脂質分子の二重膜によって構成されるものである。ここで、当該膜を構成する脂質分子としては、リン脂質、グリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質などを挙げることができるが、特に細胞膜成分の主成分であるリン脂質であることが、体内に投与した際の安全性の点で好適である。
リン脂質としては、具体的には、DPPG(ジパルミトイルフォスファチジルグリセロール)、DPPC(ジパルミトイルフォスファチジルコリン)、DSPE(ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン)、DSPC(ジステアロイルホスファチジルコリン)、DSPG(ジステアロイルホスファチジルグリセロール)、DSPA(ジステアロイルホスファチジン酸)、EPC(卵黄ホスファチジルコリン)、POPC(パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン)、PS(ホスファチジルセリン)、PG(ホスファチジルグリセロール)、PI(ホスファチジルイノシトール)、DMPG(ジミリストイルホスファチジルグリセロール)、DMPC(ジミリストイルホスファチジルコリン)、DLPG(ジラウリルホスファチジルグリセロール)、HSPG(水素化大豆ホスファチジルグリセロール)、HEPG(水素化卵ホスファチジルグリセロール)、等を用いることができる。
また、脂質(特にリン脂質)にPEGが結合した誘導体(PEG結合性脂質)も用いることができる。
・負電荷帯電性
本発明における‘負電荷帯電バブルリポソーム’とは、pH7.3〜7.5付近、好ましくはpH7.35〜7.45、より好ましくはpH7.4(哺乳類の血液のpH)において、表面が負電荷に帯電する性質を有するバブルリポソームを指すものである。具体的には、生理的食塩水、PBS、グルコース緩衝溶液中において、表面が負電荷に帯電するものであることが好適である。
当該負電荷帯電性は、本発明の技術において重要な性質である。
当該性質は、構成成分である脂質組成としてアニオン性脂質を一定量以上含むことによって発揮される性質である。当該負電荷の帯電強度は、脂質組成におけるアニオン性脂質が占める割合に大きく依存するため、当該バブルリポソームにおいては、アニオン性脂質含量が高いものであることが好適である。
カチオン性ペプチドとの十分な結合を担保しえるアニオン性脂質含量としては、具体的には、バブルリポソームを構成する脂質全量のmol数に対して、30mol%以上、より好ましくは40mol%以上、さらに好ましくは50mol%以上、特に好ましくは60mol%以上、もっと好ましくは70mol%以上、一層好ましくは80mol%以上、より一層好ましくは90mol%以上、さらに一層好ましくは92mol%以上、特に一層好ましくは94mol%以上、が好適である。
なお、後述するPEG結合性脂質の含有量を考慮すると、アニオン性脂質含量の上限としては96mol%程度が限界である。
また、負電荷の帯電強度は、アニオン性脂質分子の種類にも依存する。ここで、分子全体として負電荷に帯電している脂質分子であれば、如何なるものを用いることが、具体的には、DPPG(ジパルミトイルフォスファチジルグリセロール)、HSPG(水素化大豆ホスファチジルグリセロール)、HEPG(水素化卵ホスファチジルグリセロール)、DSPG(ジステアロイルホスファチジルグリセロール)、DMPG(ジミリストイルホスファチジルグリセロール)、DLPG(ジラウリルホスファチジルグリセロール)等を用いることができる。
・PEG分子による水和層
本発明の負電荷帯電バブルリポソームは、表面にPEG(Polyethylene glycol、ポリエチレングリコール)分子間の相互作用による‘水和層’が形成されてなるものである。当該水和層は、バブルリポソームの表面に形成される層であって、搭載した薬物を物理的に保護する役割をもつ。血液中には、RNA分解酵素、タンパク質分解酵素などが多く存在するため、通常の方法により血管投与した薬物は、その分子種の種類(特に核酸、ペプチド、タンパク質など)によっては、患部に到達する前に、その大部分が分解されてしまう。
この点、本発明の薬物送達キャリアに搭載した薬物では、当該水和層によって酵素分解から防御された状態となる。従って、分解のロスを考慮して人体への投与量を上乗せする必要がなくなり、結果として薬物投与量を著しく低減させることが可能となる。
負電荷帯電バブルリポソームの表面に水和層を形成させるためには、構成成分である脂質組成中に、PEG結合性脂質を一定量以上含ませることが必要となる。具体的には、バブルリポソームを構成する脂質全量のmol数に対して、4mol%以上、より好ましくは5mol%以上、さらに好ましくは6mol%以上、特に好ましくは7mol%以上、もっと好ましくは8mol%以上、一層好ましくは9mol%以上、より一層好ましくは10mol%以上が好適である。
なお、PEG結合性脂質の含有量の上限には特に制限はないが、アニオン性脂質含量を考慮すると、50mol%以下、より好ましくは40mol%以下、特に好ましくは30mol%以下、特に好ましくは20mol%以下を挙げることができる。
なお、PEG分子は重合度によって物理化学的な性質が異なる。当該水和層を形成させるのに好適なPEG分子の分子量(Mw)としては、200〜50000、好ましくは400〜40,000、より好ましくは500〜20,000、さらに好ましくは800〜10,000、特に好ましくは1,000〜8,000、もっと好ましくは1,200〜6,000、一層好ましくは1,500〜4,000、より一層好ましくは1,600〜3,000、さらに一層好ましくは1,800〜2,500、特に一層好ましくは1,800〜2,200を挙げることができる。
PEG分子としては、通常のPEGの他にもPEG誘導体を好適に用いることができる。PEG誘導体としては、PEG末端にマレイミド基、アルデヒド基、アミノ基、ヒドロキシル基、又はカルボキシル基などが付与されたものや、末端がNHS化されているものを挙げることができる。
当該水和層形成のために必要なPEG結合性脂質としては、PEGが結合されてなる脂質分子であれば如何なるものを用いることができる。好ましくは上記リン脂質にPEG又はPEG誘導体が結合したものを用いることができる。例えば、DSPE-PEGやその誘導体(例えば、DSPE-PEG-NHS、DSPE-PEG-maleimideなど)を好適に用いることができる。
・抗体又はリガンド分子
本発明におけるPEG結合性脂質としては、PEG分子のバブルリポソーム表面側の末端に、抗体又はリガンド分子を結合してなるものであることが好適である。これらの分子の機能によって、標的とする組織への送達指向性をさらに向上させることが可能となる。
ここで、抗体又はリガンド分子としては、特徴的な配列を有するペプチド、タンパク質、糖タンパク質などを指すものである。これらの分子は、標的とする組織に特徴的に多く(好ましくは特異的に)存在するタンパク質等を認識して、特異的に結合するものであることが好適である。
また、抗体やリガンド分子が標的とするタンパク質等としては、細胞膜や細胞外マトリックス中に存在する抗原、レセプター、細胞接着分子など、を挙げることできる。
PEG分子と、抗体やリガンドとの結合は、リンカーとなる分子や官能基を介して、容易に行うことが可能である。例えば、PEG分子の末端にアルイミドを付加し、一方、抗体等の末端にシステインを付加することによって、当該システインのSH基とアルイミドに由来する官能基とを、結合させることが可能となる。
・封入ガス
本発明の負電荷帯電バブルリポソームは、内部にパーフルオロ炭化水素ガスを封入してなるものである。バブルリポソーム中に封入された当該ガスの気泡は、特定条件の超音波照射によって共振し、一定の閾値以上の音圧でバブルリポソームの崩壊を誘導する作用を発揮する。
また、当該ガスが封入されてなるバブルリポソームでは、破裂する際に強い衝撃波(キャビテーション)が発生する。本発明では、その衝撃波のジェット流を利用することによって細胞膜に一次的な小孔を生じさせ、搭載していた薬物が血管壁や細胞膜を透過することを可能とする。
本発明の負電荷帯電バブルリポソームは、中性電荷である通常のバブルリポソームに比べて、パーフルオロ炭化水素ガスを著しく長い時間保持することが可能である。即ち、体内に投与した後であっても、長時間の衝撃波発生能の保持が可能となる。
当該性質によって、本発明では、薬物送達複合体が血液中を移動する数十分〜数時間の間、衝撃波発生能がほとんど低下しないため、体中の全ての標的組織に対する高効率での薬物送達が可能となる。
なお、従来技術である通常の中性電荷バブルリポソームでは、衝撃波発生能が低下しやすいため、薬物送達に時間を要する血管が入り組んだ組織(特に脳神経組織)に対しては、その送達が困難であった。
パーフルオロ炭化水素ガスとして具体的には、パーフルオロメタン、パーフルオロエタン、パーフルオロプロパン、パーフルオロブタン、パーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタン、などを挙げることができる。
パーフルオロ炭化水素ガスの封入方法としては、当該ガスが充満した容器内にて超音波処理などを行うことによって、当該ガスが充填されたバブルリポソームを調製することができる。
なお、パーフルオロプロパンは造影ガスであることを踏まえると、負電荷帯電バブルリポソームは、強い反射信号保持能を長時間保持できる性質があると認められる。即ち、パーフルオロプロパンを封入した負電荷帯電バブルリポソームは、超音波診断用造影剤の有効成分としても極めて有用であると認められる。
ここで超音波診断とは、目的部位にプローブを当てて体外から超音波を照射し、組織等からの超音波反射を検出して内部を画像化することによって、組織の状態を診断する行為を指す。なお、当該超音波診断用の超音波照射は、バブルリポソーム中の封入ガスが破裂しないような周波数及び音圧条件(後述する条件)を採用することが望ましい。
[カチオン性ペプチド]
本発明に係る薬物送達キャリアは、その構成要素として「カチオン性ペプチド」を含むことを必須とする技術である。当該カチオン性ペプチドは、静電的相互作用により負電荷帯電バブルリポソームの表面と結合する性質を有する。
・正電荷帯電性
‘カチオン性ペプチド’とは、ペプチド分子全体として塩基性アミノ酸残基を多く含むペプチドであって、pH7.3〜7.5付近、好ましくはpH7.35〜7.45、より好ましくはpH7.4(哺乳類の血液のpH)において分子全体として正電荷に帯電しているペプチドを指す。なお、当該pH範囲において正電荷に荷電していないペプチドについては、本発明に係るカチオン性ペプチドとして採用することができない。
具体的には、生理的食塩水、PBS、グルコース緩衝溶液中において、分子全体が正電荷に帯電するものであることが好適である。
本発明に係るカチオン性ペプチドとしては、ペプチドを構成するアミノ酸残基に塩基性アミノ酸残基を多く含むものであるが、上記pH範囲において分子全体の正電荷が保たれものであれば、酸性アミノ酸残基や電荷的中性アミノ酸残基を含むものであっても良い。
好ましくは、ペプチド全体での正電荷アミノ酸残基数(塩基性アミノ酸残基数から酸性アミノ酸残基数を引いた数)が、6残基以上、好ましくは7残基以上、より好ましくは8残基以上、であることが好適である。
ここで、塩基性アミノ酸残基とは、アルギニン(Arg)、リシン(Lys)、又はヒスチジン(His)のアミノ酸残基を指すものである。
また、酸性アミノ酸残基とは、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、システイン(Cys)、又はチロシン(Tyr)のアミノ酸残基を指すものである。
また、塩基性アミノ酸残基の含有率は、ペプチドを構成する全アミノ酸残基に対して一定値以上であることが望ましい。
具体的には、全アミノ酸残基に対して塩基性アミノ酸残基の含有率が40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上、もっと好ましくは90%以上、一層好ましくは95%以上、より一層好ましくは98%以上、であることが好適である。最も好ましくは、塩基性アミノ酸残基の含有率が100%であることが望ましい。
また、当該カチオン性ペプチドにおいては、酸性アミノ酸残基の含有率が、ペプチドを構成する全アミノ酸残基に対して一定値以下であることが望ましい。
具体的には、全アミノ酸残基に対して20%以下、好ましくは15%以下、より好ましくは12%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは8%以下、もっと好ましくは6%以下、一層好ましくは4%以下、より一層好ましくは2%以下、さらに一層好ましくは1%以下、であることが好適である。最も好ましくは、酸性アミノ酸残基の含有率が0%であることが望ましい。
カチオン性ペプチドを構成するアミノ酸残基数の下限としては、ペプチド全体での正電荷アミノ酸残基数(塩基性アミノ酸残基数から酸性アミノ酸残基数を引いた数)が、6残基以上、好ましくは7残基以上、より好ましくは8残基以上、となる数であることが好適である。
また、アミノ酸残基数の上限としては、特に制限はないが、50残基数以下、好ましくは45残基以下、より好ましくは40残基以下、さらに好ましくは35残基以下、特に好ましくは30残基以下、を挙げることができる。アミノ酸残基数が多すぎる場合、ペプチド質量に対するmol数の割合が減少し、搭載できる薬物のmol数が減少してしまい好適でない。
また、カチオン性ペプチドの形状としては、通常の直鎖型ポリペプチドを好適に用いることができる。また、ペプチドの構成条件が上記条件を満たす限り、分岐型の形状の分子についても好適に用いることができる。
・細胞膜透過性
本発明に係るカチオン性ペプチドとしては、上記正電荷帯電性を有することに加えて、さらに‘細胞膜透過性’を有するペプチドであるともっと好適である。
ここで、細胞膜透過性ペプチド(膜透過性ペプチド、CPP、Cell-Penetrating Peptide)とは、細胞に損傷を与えることなく非侵襲的に、細胞自体の生理機構であるマクロピノサイトーシス、エンドサイトーシスなどを介して、細胞内に取り込まれる性質を有するペプチドを指す。
当該ペプチドの細胞膜透過性は、塩基性ペプチドであって且つアルギニン残基を多く含むペプチドである場合に発揮される性質である。即ち、単なる塩基性ペプチド(例えば、リシン残基のみからペプチドなど)は、当該細胞膜透過性を有さない(例えば、二木史郎, 蛋白質 核酸 酵素 Vol.47 No.11 1415-1419 (2002) 参照)。また、アルギニンを多く含むペプチドであっても、ペプチド分子全体として酸性を示すペプチドは、当該細胞膜透過性を有さない。
また、塩基性ペプチドが細胞膜透過性を発揮するためには、ペプチド分子内に一定数のアルギニン残基が含まれることが必要となる。具体的には、5〜20残基、好ましくは6〜18残基、より好ましくは6〜16残基、さらに好ましくは6〜10残基、特に好ましくは6〜12残基、もっと好ましくは6〜10残基、一層好ましくは6〜9残基、より一層好ましくは7〜9残基、最も好ましくは8残基程度、のアルギニン残基が含まれることが望ましい。当該範囲にある場合、ペプチドは効率良く細胞膜を透過して細胞膜に取り込まれる。
アルギニン残基数の下限として、具体的には、5残基以上、好ましくは6残基以上、より好ましくは7残基以上、を挙げることができる。アルギニン残基数が少なすぎる場合、細胞膜透過性が発揮されない。
一方、上限としては、20残基以下、好ましくは18残基以下、より好ましくは16残基以下、さらに好ましくは15残基以下、特に好ましくは14残基以下、もっと好ましくは13残基以下、一層好ましくは12残基以下、より一層好ましくは11残基以下、さらに一層好ましくは10残基以下、特に一層好ましくは9残基以下、を挙げることができる。アルギニン残基数が多すぎる場合も、細胞膜透過性が発揮されにくくなる。
また、アルギニン残基は、ペプチド分子内でクラスターを形成するように配置されることが望ましい。当該クラスターとは、アルギニン残基が連続して配置された領域を指すものである。具体的には、アルギニン残基が2残基以上、好ましくは3残基以上、より好ましくは4残基以上、が連続して配置されたクラスターとすることが好適である。
また、ペプチド内に配置されたアルギニン残基とアルギニン残基の間には、少数であれば他のアミノ酸残基が配置されたものであっても良い。アルギニン残基間に配置できる他のアミノ酸残基の数としては、少ないほど望ましいが、例えば6残基以下、好ましくは5残基以下、より好ましくは4残基以下、さらに好ましくは3残基以下、特に好ましくは2残基以下、もっと好ましくは1残基以下、とすることが好適である。特に3残基以下であれば、膜透過効率にはほとんど影響がないと認められる。
また、膜透過性ペプチドの形状としては、通常の直鎖型ポリペプチドを好適に用いることができる。また、ペプチドの構成条件が上記条件を満たす限り、分岐型の形状の分子についても好適に用いることができる。
上記性質を有する当該透過性ペプチドとしては、具体的には配列番号1〜12に記載のアミノ酸配列からなるペプチドを挙げることができる(表1 参照)。HIV-1ウイルス由来のTat等のウイルス由来のペプチドをはじめ、ウイルス由来のペプチドが多く知られている。
また、アルギニンを重合して合成したポリアルギニンには、優れた膜透過性を発揮するものが多い。例えば、オクタアルギニン((Arg))は極めて優れた膜透過性を発揮するペプチドである。
また、アルギニンと6-アミノヘキサン酸(C6飽和脂肪酸の-COOHの反対側の末端水素が-NHに置換されてなるアミノ酸類似体)をペプチド結合して合成したものについても、優れた膜透過性を発揮するペプチドとなる。当該合成ペプチドとしては、例えば、(R-Ahx-R)や(R-Ahx-R)AhxBなどを挙げることができる。なお、配列中の「Ahx」は6-アミノヘキサン酸を示す。また、「B」は、β-アラニンを示す。
・抗体又はリガンド分子
本発明におけるカチオン性ペプチドとしては、当該ペプチド末端に抗体又はリガンド分子を結合してなるものであることが好適である。これらの分子の機能によって、標的とする組織への送達指向性をさらに向上させることが可能となる。
ここで、抗体又はリガンド分子としては、特徴的な配列を有するペプチド、タンパク質、糖タンパク質などを指すものである。これらの分子は、標的とする組織に特徴的に多く(好ましくは特異的に)存在するタンパク質等を認識して、特異的に結合するものであることが好適である。
また、抗体やリガンド分子が標的とするタンパク質等としては、細胞膜や細胞外マトリックス中に存在する抗原、レセプター、細胞接着分子など、を挙げることできる。
カチオン性ペプチドと、抗体やリガンド分子との結合は、ペプチド結合によって容易に行うことができる。また、カチオン性ペプチドと抗体等とが一体化した分子(ペプチド、タンパク質、糖タンパク質)として合成することも可能となる。
また、カチオン性ペプチドと抗体等との間に、リンカーとなる分子や官能基を挿入することによって、両者を結合させることも可能である。
[薬物送達キャリア]
本発明では、上記カチオン性ペプチドを介することによって、‘荷電状態’に依存することなく、任意の薬物を負電荷バブルリポソームに搭載することが可能となる。
従って、負電荷バブルリポソームとカチオン性ペプチドの静電気的結合体は、如何なる荷電状態の薬物についても搭載可能なユニバーサルな薬物送達キャリア(薬物送達運搬体)となる(図1,2 参照)。
本発明に係る負電荷帯電バブルリポソームは、血球に対する溶血性および細胞毒性を示さない物質である。そのため、薬物送達キャリアの構成要素として安全に使用することができる。また、カチオン性ペプチドは、負電荷リポソーム表面に結合するため、負電荷バブルリポソーム表面に形成されるPEG分子の水和層に保護された状態となる。そのため、当該カチオン性ペプチドは、血管投与の際の免疫系の攻撃対象とはなりにくい。
これらの点を踏まえると、本発明に係る薬物送達キャリアは、血管投与による薬物送達において、安全に使用可能なキャリアであると認められる。
なお、負電荷バブルリポソームと、カチオン性ペプチドとは、別途の試薬として分けて密封し、キットの形態にして需要者に提供することが可能となる。
[搭載可能な薬物]
本発明に係る薬物送達キャリアには、如何なる荷電状態(正電荷、負電荷、電気的中性)の薬物についても、好適に搭載することが可能となる。
また、本発明に係る薬物送達キャリアには、分子量が非常に大きい薬物についても、搭載することが可能となる。搭載可能な分子量としては、具体的には、800,000以下、好ましくは600,000以下、より好ましくは400,000以下、さらに好ましくは300,000以下、特に好ましくは200,000以下、もっと好ましくは180,000以下、一層好ましくは160,000以下、より一層好ましくは140,000以下、さらに一層好ましくは120,000以下、特に一層好ましくは100,000以下、もっと一層好ましくは90,000以下、よりもっと一層好ましくは80,000以下、さらにもっと一層好ましくは75,000以下、特にもっと一層好ましくは72,000以下、を挙げることができる。
搭載可能な薬物の分子数(mol数)としては、バブルリポソームの平均粒子径、バブルリポソーム表面の負電荷帯電強度、カチオン性ペプチドの正電荷帯電強度、などによって変化するため、一概には決定できないが、従来の中性電荷のバブルリポソームに比べて10倍以上の分子数の搭載が可能である。
例えば、後述する試験例で調製した負電気バブルリポソーム(平均粒子径500nm、アニオン性脂質含量94mol%)およびカチオン性ペプチド(オクタアルギニン)の組み合わせの場合、負電気バブルリポソームの脂質1μgに対して8〜8.5pmolの薬物の搭載が可能となる。
搭載可能な薬物としては、原理的には既知の薬理成分となる化合物の全てを対象とすることができる。特に、癌、脳神経、遺伝子疾患の薬理成分を搭載することで、有効な治療効果が期待できる。
具体的な薬理成分としては、例えば、核酸(DNA, RNA, PMO等)、ペプチド、タンパク質、糖タンパク質、多糖類、などを好適に搭載することができる。特に遺伝子治療においては、アンチセンス核酸であるPMO(モルフォリノオリゴマー)、siRNA(small interfering RNA)、miRNA(micro RNA)などの核酸オリゴマーを好適に搭載することが可能である。また、核酸アプタマーも好適に搭載することができる。
また、有機合成した医薬化合物、金属ナノ粒子、ナノクリスタル(ナノ結晶化した化合物)、デンドリマーナノ粒子、などを搭載することも可能である。
・カチオン性ペプチドとの結合
本発明に係る薬物送達キャリアに薬物を搭載するためには、薬物(薬理成分)とカチオン性ペプチドとを結合させることが必須となる。
カチオン性ペプチドと薬理成分との結合は、リンカーとなる分子や官能基を介して、容易に行うことが可能である。例えば、薬理成分となるとなる化合物に対してリンカー分子や官能基を付加し(核酸の場合はEMCSを付加し)、一方、カチオン性ペプチドの末端にシステインを付加することによって、当該システインのSH基とリンカーに由来する官能基とを、結合させることが可能となる。
また、薬理成分がペプチド、タンパク質、糖タンパク質の場合、上記のようにリンカーとなる分子や官能基を介して結合させることも可能であるが、ペプチド結合によって連続した分子とすることが好適である。
この場合、薬理成分とカチオン性ペプチドとの結合を、ペプチド結合によって容易に行うことが可能となる。また、薬理成分とカチオン性ペプチドとが連続してコードしたDNAを調製し、発現ベクターを利用して合成することも可能となる。
・衛星リポソームの利用
さらに、本発明では、衛星リポソーム(薬物を封入した小型リポソーム)を利用し、当該衛星リポソームとカチオン性ペプチドを結合させることによって、負電荷バブルリポソームに薬物を搭載することが可能となる(図3 参照)。この場合、カチオン性ペプチドが結合する相手は、薬物そのものでなく‘衛星リポソーム’となる。
なお、当該態様の場合、薬物とカチオン性ペプチドが直接結合した結合体を調製するよりも、さらに大量の薬物送達が可能となる。
ここで‘衛星リポソーム’とは、リポソーム内部に薬物(薬理成分)を封入してなるリポソームであって、内部に気体(ガス)が封入されていないものを指す。
衛星リポソームの大きさは、上記負電荷帯電バブルリポソーム(本体のリポソーム)より小型のものであることが望ましい。衛星リポソームの平均粒子径としては、50〜200μm、好ましくは100〜200μm、であることが好適である。粒子径が小さすぎる場合、封入できる薬物量が少なくなり好ましくない。一方、粒子径が大きすぎる場合、負電荷帯電バブルリポソーム(本体のリポソーム)に搭載させることが困難となり好ましくない。
カチオン性ペプチドと、衛星リポソームとの結合は、リンカーとなる分子や官能基を介して、容易に行うことが可能である。
なお、衛星リポソームは、その内部に共振ガスを封入していないため、後述する超音波照射により破裂しない。そのため、負電荷帯電バブルリポソーム(本体のリポソーム)が超音波照射により破裂した場合でもリポソームの状態のまま維持され、衝撃波によって生じた小孔を介してそのまま細胞内に取り込まれる。
なお、衛星リポソームが細胞に取り込まれやすくするためには、カチオン性ペプチドとして、膜透過性ペプチドを採用することが好適である。
・高分子ポリマーの利用
また、本発明では、正電荷又は負電荷に帯電した高分子ポリマーを、カチオン性ペプチドに結合(コンジュゲート)させることによって、薬物をさらに効率的に搭載することが可能となる。当該態様では、カチオン性ペプチドが結合する相手は、薬物そのものでなく‘高分子ポリマー’となる。
ここで高分子ポリマーとしては、薬物である化合物の電荷とは逆の電荷を帯びた高分子ポリマーを用いることが好適である。例えば、負電荷に帯電した薬物を搭載させたい場合であれば、正電荷に帯電した高分子ポリマーを用いることができる。反対に、正電荷に帯電した薬物を搭載させたい場合であれば、負電荷に帯電した高分子ポリマーを用いることができる。
高分子ポリマーの分子種としては、正電荷に帯電した高分子ポリマーであるポリエチレンイミン(PEI)、キトサン、ポリL-リシン(PLL、poly-L-lysine)など、;負電荷に帯電した高分子ポリマーであるポリγ-グルタミン酸(γ-PGA、poly γ-glutamic acid)、ポリアスパラギン酸など、;を挙げることができる。
高分子ポリマーの分子量としては、320〜800,000、好ましくは600〜60,000、より好ましくは1,000〜50,000、さらに好ましくは1,200〜40,000、特に好ましくは1,400〜35,000、もっと好ましくは1,600〜30,000、一層好ましくは2,000〜20,000、より一層好ましくは3,000〜15,000、さらに一層好ましくは5,000〜12,000のものを好適に用いることができる。分子量が小さすぎる場合、薬物の搭載量を担保することができず好ましくない。一方、分子量が大きすぎる場合、負電荷帯電バブルリポソームに搭載させることが困難となり好ましくない。
また、高分子ポリマーの形状としては、直鎖型のものを好適に用いることができるが、上記条件を満たす限り、分岐型の形状の分子についても好適に用いることができる。
当該態様では、高分子ポリマーの全ての表面に対して、薬物である化合物を電気的静電作用により結合させて複合体を形成させることが可能となる。そのため、薬物とカチオン性ペプチドが直接結合した結合体を調製するよりも、さらに大量の薬物送達が可能となる。
当該態様の具体的な例を挙げると、正電荷に帯電した高分子ポリマー(例えばポリエチレンイミン)に、負電荷に帯電しているポリアニオン(特に核酸であるDNA, RNA, PMO分子)を静電的に結合させて複合体を形成させ、負電荷バブルリポソームに搭載させることが可能となる。この場合、極めて大量の搭載が可能となる。特に、長鎖核酸分子の大量搭載も可能となる。
[薬物送達複合体]
上記のようにして調製した「薬物-カチオン性ペプチド」(具体的には、(i) 薬物及びカチオン性ペプチドの結合体、又は、(ii) 薬物を封入した衛星リポソーム及びカチオン性ペプチドの結合体、又は、(iii) 薬物と静電的複合体を形成した高分子ポリマー及びカチオン性ペプチドの結合体)は、負電荷に帯電したバブルリポソームの表面に、静電的相互作用により結合させることによって、所望の薬物を搭載した‘薬物送達複合体’とすることができる。
ここで、「薬物送達複合体」は、本発明に係る「薬物送達キャリア」(薬物送達運搬体:負電荷帯電バブルリポソーム+カチオン性ペプチド)に、「薬物」が結合(搭載)された状態のものを指す用語である(図1,2 参照)。
また、「静電的相互作用による結合」(負電荷バブルリポソームへの薬物-カチオン性ペプチドの搭載)は、負電荷帯電バブルリポソームと、薬物-カチオン性ペプチドとを、溶液中にて混合することによって、容易に実現することが可能である。溶液のpHとしては、pH7.3〜7.5付近、好ましくはpH7.35〜7.45、より好ましくはpH7.4(哺乳類の血液のpH)であることが好適である。
なお、薬物送達複合体の調製は、極めて容易に行うことが可能であるため、負電荷バブルリポソームと、薬物-カチオン性ペプチドを、別途の試薬として分包しておき、使用時に混合して即座に調製することが可能である。即ち、本発明に係る薬物送達複合体は、負電荷バブルリポソームと、薬物-カチオン性ペプチドとを、別途の試薬として分包したキット(製造キット)の形態にして、需要者に提供することが可能となる。
[血管投与]
本発明における薬物送達複合体は、血管内に投与をすることによって、全身の血管系を通じて、全身の血管及び毛細血管に到達させることが可能となる。
標的組織によっては、止血帯を用いての局所投与も可能であるが、静脈投与によって全身投与を行うことで、5〜20分程度で、脳、心臓、その他内臓など全ての臓器や組織への送達が可能となる。
特に、上記薬物送達キャリアに抗体やリガンド分子を付与しておいた場合であれば、薬物送達複合体が標的に集積した時点で超音波照射することで、より高い送達効果が期待される。
投与量としては、薬物の種類によって様々であるが、体重60kgの成人の場合、バブルリポソームの総脂質量に換算して、0.05〜2mg、好ましくは0.1〜1mg、より好ましくは0.1〜0.5mgの投与が可能である。
[超音波照射]
本発明は、薬物送達複合体は、血管投与して薬物送達複合体が標的組織に十分に到達する時間が経過した後、標的組織に対して「特定条件の超音波を照射」することを特徴とする技術である(図4 参照)。
当該超音波照射を行うことによって、バブルリポソーム内部に封入したパーフルオロ炭化水素ガスが共振し、一定の閾値以上の音圧で破裂する。その際に強い衝撃波(キャビテーション)が発生し、当該衝撃波により発生した小孔を介して、搭載していた薬物を血管壁や細胞膜を透過させることが可能となる。
・周波数条件
バブルリポソーム内部に封入したパーフルオロ炭化水素ガスを‘共振’させるためには、特定の周波数の超音波を照射することが必要となる。‘照射周波数’(frequency)としては、0.2〜10MHz、好ましくは0.5〜8MHz、より好ましくは0.8〜5MHz、さらに好ましくは1〜4MHz、で行うことが望ましい。当該範囲の周波数の超音波を照射した場合、当該ガスの共振を発生させることが可能となる。
照射周波数の下限としては、具体的には、好ましくは0.2MHz以上、より好ましくは0.3MHz以上、さらに好ましくは0.4MHz以上、特に好ましくは0.5MHz以上、もっと好ましくは0.6MHz以上、一層好ましくは0.8MHz以上、より一層好ましくは1MHz以上、を挙げることができる。
また、照射周波数の上限としては、具体的には、好ましくは10MHz以下、より好ましくは9MHz以下、さらに好ましくは8MHz以下、特に好ましくは7MHz以下、もっと好ましくは6MHz以下、一層好ましくは5MHz以下、より一層好ましくは4MHz以下、を挙げることができる。
なお、照射周波数が当該範囲から外れた高周波や低周波の場合、パーフルオロ炭化水素ガスの共振を発生させることができない。
・音圧条件
上記共振を利用してバブルリポソームの崩壊を誘導し‘破裂’させるためには、一定以上の閾値の音圧の超音波を照射することが必要となる。
音圧の閾値としては、Mechanical index 値(MI値)が、0.3以上、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.6以上、特に好ましくは0.8以上、もっと好ましくは1以上、の音圧の超音波を照射することが必要となる。当該範囲の音圧の超音波を照射した場合、バブルリポソーム崩壊を誘導し破裂させることが可能となる。
一方、照射音圧が上記値に満たない場合、パーフルオロ炭化水素ガスの共振は起こるものの、バブルリポソームの崩壊を誘導することまではできない。
なお、MI値が高すぎる場合、照射部位が高温になって人体に対する安全性が懸念される場合がある。診断目的の超音波照射では、通常、MI値が1以下であることが推奨されている。しかし、MI値を高くした場合であっても、総照射時間を短くする及び/又はDuty比を低くることによって、照射総エネルギー量を低く抑え、照射部位の高温化を回避することが可能となる。
このような知見を踏まえると、MI値の上限としては、例えば5以下、好ましくは4以下、より好ましくは3.5以下、さらに好ましくは3以下の音圧で超音波照射を行うことが可能である。
なお、ここでMechanical index 値(MI値)とは、超音波の音圧を表す値であって下記の数式(i)によって算出される値である。即ち、1MHzの負音圧に換算した値である。なお、式(i)における「PNP」は、超音波のパルス強度の積分値が最大となる点の負音圧(ピーク負音圧:Peak Negative Pressure)を示す値(単位:MPa)である。また、「fc」は超音波の中心周波数(center frequency)を表す値(MHz)である。
他の照射条件
本発明における超音波照射の‘照射時間’(Duty比を考慮した総照射時間)としては、バブルリポソームを崩壊させるために必要な時間だけ行えばよい。例えば1〜120秒、好ましくは2〜100秒、より好ましくは3〜80秒、さらに好ましくは4〜60秒、特に好ましくは5〜40秒、もっと好ましくは6〜30秒、を挙げることができる。
照射時間が短すぎる場合、バブルリポソームの破裂が十分に起こらず好ましくない。なお、照射部位が高温になることを回避するためには、当該照射時間が短時間であることが望ましい。例えば、MI値が高い場合には、25秒以下、好ましくは20秒以下、より好ましくは15秒以下、さらに好ましくは10秒以下、であることが望ましい。
また、‘Duty比’(ONの時間/ON+OFFの時間)としては、MI値が低い場合には特に制限はないが、MI値が高い場合にはDuty比を低い値に設定することによって、照射部位への影響(高温化)を低減することができる。
Duty比の具体的な値としては、例えば、70%以下、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下、特に好ましくは20%以下、もっと好ましくは15%以下、一層好ましくは12%以下、より一層好ましくは10%以下、さらに一層好ましくは8%以下、特に一層好ましくは6%以下、を挙げることができる。
なお、Duty比が小さすぎる場合、総照射時間が短くなりすぎ、バブルリポソームの破裂を十分に起こすことができなくなる。例えば1%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上に設定することが望ましい。
・超音波照射手段
本発明において、上記条件を満たす超音波を照射することが可能な手段を備えた装置であれば、如何なる装置でも用いることが可能である。特に、照射域をピンポイントに狭めた集束超音波(HIFU: High Intensity Focused Ultrasound)を照射できる手段を備えた装置を用いることが特に好適である。
集束超音波を用いた場合は、原理的には人体の全ての組織への超音波照射が可能となる。例えば、頭蓋骨に覆われた脳組織、心臓、体腔内の深部にある内臓組織に対しても、パルスを減衰させずに所定の音圧の超音波照射が可能となる。
超音波照射装置としては、表皮に近い組織が標的の場合であれば、臨床用の超音波診断装置の照射機能を利用することが可能である。しかし、脳組織等超音波照射が困難な部位を標的とする場合、又は、精度の高い条件での照射を行う場合には、専用の照射装置を用いることが好適である。
専用の照射装置としては、例えば、NEPA GENE社製のSONITRON, SONOPORE等の専用の超音波照射装置を用いることが好適である。
超音波照射装置を用いた超音波の照射は、標的組織(患部)に対して、「体外」から超音波照射装置のプローブを当てることによって行うことができる。超音波照射は、通常は切開等を要せずに実行可能であるため、患者への負担が少ない。特に、集束超音波を用いる場合、原理的には人体の全ての組織への超音波照射が可能となり望ましい。
なお、体毛や毛髪(ヒトの毛髪、動物の体毛など)で覆われている部位に対して照射する場合は、毛等を刈ってから行うことで照射効率を向上できる。
[薬物送達システム]
本発明では、上記調製した薬物送達複合体と、体内に血管投与した当該薬物送達複合体に対して上記超音波照射条件を満たす超音波照射手段を備えた装置と、を構成要素と含むことによって、薬物送達システム(DDS)を構築することができる(図2,4 参照)。当該システムを利用することによって、目的とする標的組織に対して選択的に大量の薬物を送達することが実現可能となる。
以下、試験例を挙げて本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。なお、以下の記載においてバブルリポソームを「BL」と略して記載する場合がある。
[試験例1(実施例)]『負電荷バブルリポソームへのカチオン性ペプチド搭載試験』
表面が負電荷に帯電したバブルリポソームを調製し、当該バブルリポソームに搭載できるカチオン性ペプチドの量を測定した。
(1)「バブルリポソームの調製」
脂質原料として‘アニオン性脂質’であるDPPG(Dipalmitoylphosphatidylglycerol), ‘中性脂質’であるDPPC(Dipalmitoylphosphatidylcholine), ‘PEG結合性脂質’であるDSPE-PEG2K(Distearoylphosphatidylethanolamine-PEG2000)の3種を使用し、脂質組成のモル比が表2に示す割合になるようにして、有機溶媒(クロロホルム:ジイソプロピルエーテル:PBS = 1:1:1)に添加して溶解した。
調製した溶液に対してプローブ型ソニケーター(20kHz)を用いて超音波処理した後、ロータリーエバポレーターを用いて有機溶媒を留去し、リポソーム(PEG-リポソーム)を得た。
得られたリポソームは、凍結融解を行った後、Extruder(Lipex Biomembrane Inc.)を用いてpore size 0.2μmのpoly carbonate membraneを通し、その後pore size 0.45μmのcellulose acetate syringe filterを用いて、濾過滅菌を行った。
当該調製したリポソーム溶液2mL(脂質換算濃度:1μg/μL)を、パーフルオロプロパン置換下の5mLバイアル瓶に封入し、バス型ソニケーター(42kHz)を用いて超音波処理することで、パーフルオロプロパンを封入したバブルリポソームの懸濁液を調製した。当該ガス封入により、調製したバブルリポソームの平均粒子径は約500nmとなった。
ここで調製した各バブルリポソームは、アニオン性脂質含量が多いほど表面の負電荷が強い性質を示す。即ち、当該試験例においては、試料1-1(DPPG 94 mol%)のものは、表面負電荷が最も強いバブルリポソームとなる。一方、試料1-6(DPPG 0 mol%)のものは、表面電荷がない中性のバブルリポソームとなる。
(2)「カチオン性ペプチドの調製」
アルギニン(Arg)をリピート重合させてオクタアルギニン((Arg):配列番号1に記載のアミノ酸配列)を調製した。当該ペプチドの遊離アミノ基に、蛍光色素であるFITC(fluorescein isothiocyanate)を結合させて蛍光標識した。
(3)「カチオン性ペプチド搭載バブルリポソームの調製」
上記調製した各バブルリポソームを含む溶液60μL(脂質換算濃度:1μg/μL)に、上記調製したオクタアルギニン100 pmol(脂質1μgに対して1.67 pmol)を添加し、10秒間ボルテックス振動を与えて3分間静置した。当該処理によって、オリゴアルギニンを搭載したバブルリポソームを調製した(図5の模式図 参照)。
(4)「FACSによるペプチド搭載量の測定」
上記調製したペプチド搭載バブルリポソームについて、FITC蛍光強度を指標としたFACS(Fluorescence Activated Cell Sorting)解析を行うことによって、各バブルリポソームに搭載されたペプチド量を算出した。なお、対照(Control)として、上記(3)の搭載処理をしなかった負電荷バブルリポリポソーム(DPPG 94 mol%のバブルリポソーム)の値を測定した。結果を図6に示した
(5) 結果及び考察
その結果、アニオン性脂質であるDPPGを30 mol%以上含むバブルリポソーム(試料1-1〜1-4)には、中性電荷のバブルリポソーム(試料1-6:DPPG含量0 mol%)に対して10〜20倍ものオクタアルギニンが搭載できることが示された。
特に、DPPG含量50mol%以上(特に90mol%)のバブルリポソーム(試料1-1〜1-3)を用いた場合、オクタアルギニンの搭載量を顕著に多くできることが示された。
以上の知見から、負電荷帯電バブルリポソームには、カチオン性ペプチドを大量に搭載できることが明らかになった。特に、アニオン性脂質含量が30mol%以上とした場合、顕著な搭載効果が発揮された。
当該搭載原理としては、負電荷帯電リポソーム表面に、正電荷に帯電したペプチドが電気的相互作用で結合することによって奏される効果と推測された。
[試験例2(実施例)]『オクタアルギニン-核酸結合体の搭載試験』
遺伝子治療の薬理成分として有効な核酸分子について、カチオン性ペプチドとの結合を介して、負電荷バブルリポソームへの搭載が可能かを検討した。
(1)「バブルリポソームの調製」
脂質組成が、
表3に示す脂質組成のモル比となるようにして、バブルリポソーム(粒子径約500nm、パーフルオロプロパン封入)を調製した。当該調製の基本操作は、試験例1(1)に記載の方法と同様にして行った。
(2)「核酸分子とカチオン性ペプチドの結合」
試験例1(2)と同様にしてオクタアルギニンペプチド((Arg))を合成した。当該オクタアルギニンのC末端にリンカーとなるシステイン(Cys)を重合させたペプチド((Arg)-Cys)を合成した。
搭載対象の核酸分子であるPMOとしては、モルフォリノサブユニットの重合度が25merの配列番号13に記載の塩基配列からなるPMO修飾体であって、5'端にアミノ基修飾、3'端にFITC修飾したもの(Amine-PMO-FITC)を調製した。当該PMO修飾体の分子量は、Mw8,400であった。なお、配列表(sequence listing)の表記上の制約の関係で、核酸分子種としてPMOを選択できないため、配列番号13の配列は便宜的にDNA配列として記載した。
上記Amine-PMO-FITCを2μmol/mLで含有するリン酸緩衝液(50mM, pH7.0)1mLを調製し、EMCS(N-(ε-Malaimidocaproyloxy)succinimide、Mw 308.29)を2μmol/mLで含有するDMSO溶液 2mLを加えて、室温にて2時間撹拌した。当該処理により、下記反応式(1)(化学式(1)及び図7(A) 参照)に示す反応がおこり、PMOの5'端のアミノ基とEMCSのアシル基が縮重結合した中間体が生成される。得られた処理液は、ゲル濾過クロマトグラフィー(担体:Sephadex G-25, GE ヘルスケア)で分離処理を行って、265 nmの吸収波長を有する画分5mLを回収した。
当該画分5mLに、上記(Arg)-Cysを6.84mg(終濃度1mMになる量)添加し、室温で3時間撹拌した。当該処理により、下記反応式(2)(化学式(2)及び図7(B) 参照)に示す反応がおこり、Cysの-SH基がEMCS由来のリンカー部分と結合し、EMCS由来リンカーを介して「(Arg)」と「PMO-FITC」の結合体((Arg)-EMCS linker-PMO(25mer)-FITC)が生成される。
得られた処理液は、ゲル濾過クロマトグラフィー(担体:Sephacryl S-300, GE ヘルスケア)で分離処理を行って、265 nmの吸収波長を有する画分7mLを回収した。当該画分を限外濾過(Amicon Ultra 10k, ミリポア、;遠心条件14kg, 30分, 4℃)にて濃縮及び脱塩した。乾燥処理後、生理食塩水に溶解し濃度調製した。
(3)「カチオン性ペプチド-核酸分子を搭載したバブルリポソームの調製」
上記調製した各バブルリポソームを含む溶液60μL(脂質換算濃度:1μg/μL)に、上記調製したオクタアルギニン-PMO結合体を表3に記載の濃度になるように添加し、オクタアルギニン-PMO結合体を搭載したバブルリポソームを調製した(図1の模式図 参照)。なお、当該調製の基本操作は、試験例1(3)に記載の方法と同様にして行った。
(4)「FACSによるPMO搭載量の測定」
上記調製したカチオン性ペプチド-PMO結合体を搭載したバブルリポソーム(薬物送達複合体)について、FACS解析によりFITC蛍光強度を測定することによって、搭載されたPMO量を算出した。なお、対照(Control)として、上記(3)の搭載処理をしなかった負電荷バブルリポリポソーム(DPPG 94 mol%のバブルリポソーム)の値を測定した。結果を図8に示した。
(5) 結果及び考察
その結果、負電荷帯電バブルリポソームには、オクタアルギニンを介して、25merのPMO(修飾基を含めてMw 8,400の核酸分子)を搭載できることが示された。
また、カチオン性ペプチド-PMO結合体の添加量を増やすことによって、負電荷帯電バブルリポソームに搭載される当該結合体の量も増加する傾向があることが示された(試料2-1〜2-6)。
以上の知見から、負電荷帯電バブルリポソームには、カチオン性ペプチドを介して、遺伝子治療の薬理成分と想定される核酸分子を、大量に搭載できることが明らかになった。また、当該試験例で調製した負電荷バブルリポソームの搭載量の上限は、8.33pmol/脂質μg付近(PMO修飾体換算量69.97ng/脂質μg)であると考えられた。
[試験例3(実施例)]『カチオン性ペプチド-高分子化合物結合体の搭載試験』
分子量の非常に大きい高分子化合物について、カチオン性ペプチドとの結合を介した負電荷バブルリポソームへの搭載が可能かを検討した。
(1)「バブルリポソームの調製」
脂質組成が、表4に示す脂質組成のモル比となるようにして、バブルリポソーム(粒子径約500nm、パーフルオロプロパン封入)を調製した。当該調製の基本操作は、試験例1(1)に記載の方法と同様にして行った。
(2)「高分子化合物とカチオン性ペプチドの結合」
搭載対象分子である高分子化合物として、高分子タンパク質であるアビジン-ビオチン結合体にFITC標識したものを調製した。当該結合体の分子量は、Mw 72,000であった。
試験例1(2)に記載の方法と同様にしてオクタアルギニンペプチド((Arg))を合成し、当該オクタアルギニンのC末端に、当該アビジン-ビオチン結合体を重合させたもの(FITC-avidin-biotin-(Arg))を調製した。
(3)「高分子化合物-カチオン性ペプチド搭載バブルリポソームの調製」
上記調製した各バブルリポソームを含む溶液60μL(脂質換算濃度:1μg/μL)に、上記調製した高分子化合物-オクタアルギニン結合体100 pmol(脂質1μgに対して1.67 pmol)を添加し、高分子化合物-オクタアルギニン結合体を搭載したバブルリポソームを調製した(図1の模式図 参照)。なお、当該調製の基本操作は、試験例1(3)に記載の方法と同様にして行った。
(4)「FACSによる高分子化合物搭載量の測定」
上記調製した高分子化合物-カチオン性ペプチドを搭載したバブルリポソーム(薬物送達複合体)について、FACS解析によりFITC蛍光強度を測定することによって、搭載されたPMO量を算出した。なお、対照(Control)として、上記(3)の搭載処理をしなかった負電荷バブルリポリポソーム(DPPG 94 mol%のバブルリポソーム)の値を測定した。結果を図9に示した。
(5) 結果及び考察
その結果、負電荷に帯電したバブルリポソームには、カチオン性ペプチドであるオクタアルギニンを介して、分子量 Mw 72,000の高分子タンパク質を搭載できることが示された。
また、搭載量としては、バブルリポソームの脂質1μgに対して1.67pmol(上記高分子タンパク質換算で120.24ng)搭載できることが示された(試料3-1〜3-6)。
以上の知見から、負電荷帯電バブルリポソームには、カチオン性ペプチドを介して、薬理成分として想定される高分子タンパク質を大量に搭載できることが明らかになった。
なお、本試験例で搭載した高分子タンパク質の質量(120.24ng/脂質μg)は、試験例2の搭載対象であるPMO修飾体の質量(14.03ng/脂質μg)の約8.57倍であった。この点を踏まえると、負電荷バブルリポソームの搭載量の上限は、対象分子の質量よりもモル数に依存することが示唆された。
[試験例4(検討例)]『溶血性試験(安全性試験)』
負電荷帯電バブルリポソームを血管投与した際の安全性を確認するため、赤血球に対する溶血性試験を行った。
(1)「バブルリポソームの調製」
脂質組成が、表5に示す脂質組成のモル比となるようにして、バブルリポソーム(粒子径約500nm、パーフルオロプロパン封入)を調製した。当該調製の基本操作は、試験例1(1)に記載の方法と同様にして行った。
(2)「溶血活性の測定」
マウスICR系統の5週齢の雄から血液を採取した。これにPBS溶液を加え、遠心(1,000×g、10分)し上清を除く処理(洗浄)を3回行い、得られた血球をPBS溶液に再懸濁して、赤血球再懸濁液を調製した。
遠心チューブにPBS溶液60μLを入れ、上記調製した各バブルリポソーム(搭載物なし)を含む溶液60μL(脂質換算濃度:1μg/μL)を加えて懸濁した。ここに、上記赤血球懸濁液60μLを加えて、緩やかに混合し、37℃で4時間静置した。なお、陽性対照として、上記バブルリポソーム溶液に代えて、細胞溶解剤(Cell Lysis Buffer)を加えて混合静置した。
その後、遠心して上清を回収し、マイクロプレートリーダーにより当該上清の540nmの吸光度を測定した。各試料の吸光度の値を、陽性対照(細胞溶解剤)の値を100とした場合の相対値として示すことによって、各試料の溶血性を評価した。結果を表5及び図10に示した。
(4) 結果及び考察
その結果、DPPG含量が高いバブルリポソーム(負電荷帯電バブルリポソーム)を添加した場合、上清におけるO.D.540の値は、DPPC含量が高いバブルリポソーム(中性電荷のバブルリポソーム)を添加した場合と同程度の低い値であることが示された(試料4-1〜4-4)。当該O.D.540の値は、赤血球の溶血がほとんど起こっていないことを示す値である。
以上の結果から、負電荷バブルリポソームは、溶血性の観点から薬物送達キャリアとして安全に使用できる物質であることが確認された。
[試験例5(検討例)]『細胞毒性試験(安全性試験)』
負電荷帯電バブルリポソームを血管投与した際の安全性を検討するため、細胞に対する毒性試験を行った。
(1)「バブルリポソームの調製」
脂質組成が、表6に示す脂質組成のモル比となるようにして、バブルリポソーム(粒子径約500nm、パーフルオロプロパン封入)を調製した。当該調製の基本操作は、試験例1(1)に記載の方法と同様にして行った。
(2)「細胞毒性の測定」
培養したCOS7細胞(アフリカミドリザル腎臓由来培養細胞)を96穴プレートの各ウェルに5×103細胞ずつ播種し、次いで上記調製した各バブルリポソーム(搭載物なし)60μgを加えた。液量は100μLに調整した。
Cell Counting Kit-8 (株式会社同仁化学研究所)を用いて、CO2インキュベーター内で4時間静置(WST-8 assay)することより、生存細胞の働きによりホルマザン色素を生成させた。なお、なお、陽性対照として、バブルリポソーム溶液を加えず静置(WST-8 assay)した。
その後、マイクロプレートリーダーにより450nmの吸光度を測定した。各試料の吸光度の値を、陽性対照(細胞のみ)の値を100とした場合の相対値(cell viabilityを示す値)として示すことによって、各試料の細胞毒性を評価した。結果を表6及び図11に示した。
(3) 結果及び考察
その結果、バブルリポソームを添加した場合のO.D.450の値(WST-8 assayでのcell viabilityを示す値)は、脂質の負電荷性の強弱に関わらず、細胞のみ(対照)を添加した場合と同程度の値となることが示された(試料5-1〜5-4)。このことから、負電荷帯電バブルリポソームには、細胞活性を低下させる作用がないことが明らかになった。
以上を踏まえると、負電荷バブルリポソームは細胞に対する毒性を示さない物質であり、溶血性の観点から薬物送達キャリアとして安全に使用できる物質であることが示された。
[試験例6(検討例)]『In vivo造影試験』
負電荷帯電バブルリポソームを全身投与した場合における造影作用(封入ガス保持能が奏する強反射信号保持能)の持続性を検証した。
(1)「バブルリポソームの調製」
脂質組成が、表7に示す脂質組成のモル比となるようにして、バブルリポソーム(粒子径約500nm、パーフルオロプロパン封入)を調製した。当該調製の基本操作は、試験例1(1)に記載の方法と同様にして行った。
(2)「全身投与及びIn vivo造影」
5〜6週齢のICR系統マウスに、上記調製したバブルリポソーム(搭載物なし)溶液200μL(脂質換算濃度:1μg/μL)を、尾静脈注射により全身投与した。
投与後、超音波診断装置を用いて経時的に(1分間隔で10分間)、‘心臓’のエコー画像を撮影した。当該超音診断装置のエコー照射(12MHz)では、バブルリポソームの破裂は起こらないため、当該エコーでの造影画像は、破裂していないバブルリポソーム(封入した造影ガスであるパーフルオロプロパン)の造影作用を示すものとなる。また、全身投与により、当該バブルリポソームは全身の血管を造影しているが、画像のイメージング解析を容易とする理由により心臓を選択して撮影した。当該撮影した写真像図を図12に示した。
得られた心臓エコー画像を用いて造影作用を評価した。当該画像において心臓を含むように直径0.5cmの円を設定し(図12 参照)、円内のシグナル強度をNIH imageソフトフェアにより解析し、ROI(Region of intensity)値を算出した。当該ROI値は、造影作用を示す値に相当する。測定した結果を表7及び図13に示した。
(3) 結果及び考察
その結果、DPPGを30mol%以上で含量バブルリポソーム(負電荷帯電バブルリポソーム)を全身投与した場合、DPPCを高含有するバブルリポソーム(中性電荷のバブルリポソーム)を全身投与した場合に比べて、心臓エコー画像のROI値の減少率が大幅に小さいことが示された(試料6-1〜6-4)。具体的には、10分経過時において、2.31〜2.80倍の差が生じることが示された。
以上の結果から、負電荷帯電バブルリポソームは、内部に封入したパーフルオロプロパンを、中性電荷のバブルリポソームよりも大幅に長い時間安定して保持できるため、強反射信号が長時間維持可能であることが示された。この点、当該負電荷帯電バブルリポソームは、優れた診断用の造影剤となることが示された。
また、ここで、当該ガスの保持量は、バブルリポソーム破裂時に衝撃波(キャビテーション)を発生させるエネルギー量に相当すると認められる。
これらの点を踏まえると、負電荷帯電バブルリポソームは、中性電荷のバブルリポソームよりも、非常に高い衝撃波発生能を有する薬物送達キャリアであることが示唆された。当該性質は、特定部位への薬物送達システムにおいて有利な性質である。
[試験例7(検討例)]『組織選択的薬物送達試験』
カチオン性ペプチド及び負電荷帯電バブルリポソームを利用した薬物送達キャリアを用いることによって、組織選択的な薬物送達が可能かを検証した。
(1)「カチオン性ペプチド-核酸搭載バブルリポソームの調製」
試験例2(3)に記載の方法と同様にして、「(Arg)-linker-PMO-FITC」を搭載したバブルリポソーム(脂質組成:表8に示す割合、粒子径約500nm、パーフルオロプロパン封入)を調製した。なお、当該調製においては、搭載物をバブルリポソームの脂質1μgに対して1.67pmol(上記PMO修飾体換算で14.03ng)になるように添加して行った。
(2)「全身投与及び集束超音波照射」
5〜6週齢のICR系統マウスに対して、上記調製したカチオン性ペプチド-核酸搭載バブルリポソーム(薬物送達複合体)の溶液200μL(脂質換算濃度:1μg/μL)を、尾静脈注射により全身投与した。対照として、上記調製したカチオン性ペプチド-核酸のみを含む溶液200μL((Arg)-linker-PMO-FITC濃度:1.67pmol/μL)を、尾静脈注射により全身投与した。
投与後、直ちに、頭部右脳領域に対して、集束超音波照射装置(SONITRON HIFU 5000, NEPA GENE, CO, LTD)のプローブを当て、頭蓋外から集束超音波照射(照射条件:HIFU照射、周波数:3.5MHz、照射強度:1.5kW/cm、Duty比:10%、照射時間:60sec.、焦点深度:50mm、収束領域:φ1.1mm×16mmの円柱状領域)を行った。なお、当該照射条件におけるMI値(音圧値)は約3に相当する。また、当該照射条件では、照射時間60秒でDuty比が10%であるから、当該照射の実質的な照射時間は6秒間に相当する。
超音波照射したマウスは、飼育ケージに戻して24時間通常に飼育した。
(4)「蛍光検出」
上記飼育後の照射個体に対して、心臓左心室からPBS50mLを潅流させた後、4%パラホルムアルデヒド50mLを潅流させることで固定を行った。当該固定個体から脳を摘出し、4%パラホルムアルデヒド中で一晩4℃浸漬処理することで、組織固定を行った。
その後、30%ショ糖溶液に一晩4℃にて浸漬し、-80℃で凍結した後、当該凍結組織から厚さ6μmの切片を作成して核染色剤(DAPI: VECTASHIELD Hard Set Mounting Medium with DAPI ,フナコシ)を含む包埋剤で封入した。
蛍光顕微鏡(Axiovert 200 M: Carl Zeiss, KEYENCE: BZ8100)を用いて、右脳のHIFU照射域における蛍光(脳組織に導入されたPMO)を検出した。また、HIFU照射を行っていない左脳領域についても同様に蛍光検出を行った。撮影した写真像図を図14に示した。
また、撮影した写真像について、J-Imageソフトウェアを用いてDAPIの蛍光強度(核ゲノムDNA:青色)及びFITC蛍光強度(PMO:緑色)の値を算出し、標準化したFITC蛍光強度(1mm2あたりの値)を算出した。結果を表8に示した。
(5) 結果及び考察
その結果、オクタアルギン-PMO結合体を搭載した負電荷帯電バブルリポソーム(薬物送達複合体)を全身投与した後、頭蓋外から脳組織に集束超音波処理を行うことによって、超音波照射した部位(右脳領域)に著しく強いFITC蛍光が観察された(試料7-1)。当該FITC蛍光が強く観察された領域は、照射域の周辺2mm×8mmの領域であった。このことから、本試験例の処理によって、薬物送達が困難である脳組織に対しても、PMO(核酸薬理成分)を大量に導入されたことが示された。
一方、中性電荷のバブルリポソームを用いた場合では、集束超音波照射をしても僅かなFITC蛍光しか観察されず、PMOの導入はほとんど確認できなかった(試料7-2)。
以上の結果から、負電荷帯電バブルリポソーム及びオクタアルギニンを利用した薬物送達複合体を投与し所定の部位に超音波照射を行うことによって、任意の組織に大量に薬物を導入できることが実証された。また、当該システムを用いて、核酸導入による効率的な遺伝子治療が可能となることが示された。
また、脳組織は頭蓋骨に囲まれているため、通常の超音波照射が困難な組織であるが、集束超音波装置を用いることによって、脳組織に対しても当該システムを用いた薬物送達ができることが示された。
なお、当該システムにおいて導入効率が飛躍的に向上する原理としては、 (i) 負電荷帯電バブルリポソームにカチオン性ペプチドを介した薬物の大量搭載が可能である点、(ii) 負電荷帯電バブルリポソームには優れた封入ガス保持能があるため、超音波破壊により強い衝撃波(キャビテーション)が発生し、オクタアルギニン-PMO結合体が血管壁や細胞膜を効率良く透過する点、(iii) オクタアルギニンは、細胞膜透過性を有するアルギニンリッチペプチドであるため、脳組織の細胞内に効率良く取り込まれる点、などが考えられた。

本発明の薬物送達キャリア、薬物送達複合体、及び薬物送達システムは、医薬及び医療技術分野に大きく貢献する技術となることが期待される。具体的には、薬剤の薬理効果向上、患者への投与負担の軽減、副作用軽減の観点から、患者のQOLを大幅に向上させる技術となることが期待される。特に、癌、脳神経疾患、及び遺伝子疾患などの患者に対して有効な技術となることが期待される。
1: 薬物-カチオン性ペプチドを搭載した負電荷バブルリポソーム(薬物送達複合体)
2: 表面が負電荷に帯電した脂質二重膜
3: PEG
4: PEGにより形成された水和層
5: パーフルオロ炭化水素
6: カチオン性ペプチド
7: 薬理成分化合物(薬物)
11: 薬物封入衛星リポソーム-カチオン性ペプチドを搭載した負電荷バブルリポソーム(薬物送達複合体)
12: 抗体又はリガンド分子
13: 薬物封入衛星リポソーム
20: 被験体
21: 血管注射した部位
22: 血管
23: 超音波発生装置のプローブ
24: 超音波
25: 薬物導入対象部位(任意の標的組織)
30: カチオン性ペプチド搭載負電荷バブルリポソーム(本発明に係る薬物送達キャリア)
31: カチオン性ペプチド搭載中性電荷バブルリポソーム
32: 表面が帯電していない脂質二重膜
41: ROI(Region of intensity)測定用に設定した領域
51: FITC蛍光(緑色蛍光:PMO修飾体)
52: DAPI蛍光(青色蛍光:核のゲノムDNA)

Claims (13)

  1. 負電荷帯電バブルリポソームと、正電荷に帯電したカチオン性ペプチドとが、前記バブルリポソームの表面において静電的相互作用により結合してなることを特徴とする、薬物送達運搬体。
  2. 前記負電荷帯電バブルリポソームが、下記(A1)〜(A4)に記載の全ての特徴を有するものである、請求項1に記載の薬物送達運搬体。
    (A1): 構成脂質の30 mol%以上がアニオン性脂質であるバブルリポソーム。
    (A2): 構成脂質の4 mol%以上がPEG結合性脂質であるバブルリポソーム。
    (A3): 内部にパーフルオロ炭化水素ガスを封入してなるバブルリポソーム。
    (A4): 平均粒子径が50nm〜1μmであるバブルリポソーム。
  3. 前記負電荷帯電バブルリポソームの表面に、PEG分子に由来する水和層が形成されてなる、請求項1又は2のいずれかに記載の薬物送達運搬体。
  4. 前記負電荷帯電リポソームを構成する脂質が、リン脂質である、請求項1〜3のいずれかに記載の薬物送達運搬体。
  5. 前記PEG結合性脂質が、PEG分子に抗体又はリガンド分子を結合してなるものである、請求項1〜4のいずれかに記載の薬物送達運搬体。
  6. 前記カチオン性ペプチドが、下記(B1)及び(B2)に記載の特徴を有するものである、請求項1〜5のいずれかに記載の薬物送達運搬体。
    (B1): 塩基性ペプチドであって、分子全体として正電荷に帯電しているペプチド。
    (B2): 6〜50アミノ酸残基からなる直鎖又は分岐型ペプチド。
  7. 前記カチオン性ペプチドが、下記(B3)〜(B5)に記載の全ての特徴を有するものである、請求項1〜6のいずれかに記載の薬物送達運搬体。
    (B3): アルギニン残基を5残基以上含む塩基性ペプチドであって、分子全体として正電荷に帯電しているペプチド。
    (B4): 6〜30アミノ酸残基からなる直鎖又は分岐型ペプチド。
    (B5): 細胞膜透過性を有するペプチド。
  8. 前記カチオン性ペプチドが、抗体又はリガンド分子を結合してなるものである、請求項1〜7のいずれかに記載の薬物送達運搬体。
  9. 負電荷帯電バブルリポソームと、正電荷に帯電したカチオン性ペプチドと、を含んでなることを特徴とする、薬物送達運搬体を製造するためのキット。
  10. 請求項1〜8のいずれかに記載の薬物送達運搬体を構成するカチオン性ペプチドと、下記(C1)〜(C3)のいずれかに記載のものと、が結合してなることを特徴とする薬物送達複合体。
    (C1): 薬理成分。
    (C2): 薬理成分が封入され且つ気体が封入されていないリポソーム。
    (C3): 静電的作用により薬理成分が結合している高分子ポリマー。
  11. 負電荷帯電バブルリポソームと、下記(C1)〜(C3)のいずれかに記載のものと、を含んでなることを特徴とする、薬物送達複合体を製造するためのキット。
    (C1): 薬理成分。
    (C2): 薬理成分が封入され且つ気体が封入されていないリポソーム。
    (C3): 静電的作用により薬理成分が結合している高分子ポリマー。
  12. 請求項10に記載の前記薬物送達複合体と、;体内に血管投与した前記薬物送達複合体に対して下記(D1)及び(D2)に記載の条件を満たす超音波を照射する手段を備えた装置と、;を含んでなることを特徴とする薬物送達システム。
    (D1): 周波数が0.2〜10 MHzである条件。
    (D2): Mechanical index 値が0.3以上である条件。
  13. 下記(A1)〜(A4)に記載の全ての特徴を有する負電荷帯電バブルリポソームを有効成分として含有してなる、超音波診断用造影剤。
    (A1): 構成脂質の30 mol%以上がアニオン性脂質であるバブルリポソーム。
    (A2): 構成脂質の4 mol%以上がPEG結合性脂質であるバブルリポソーム。
    (A3): 内部にパーフルオロ炭化水素を封入してなるバブルリポソーム。
    (A4): 平均粒子径が50nm〜1μmであるバブルリポソーム。
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