JP6202294B2 - 視力調整用シートおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
従来、視力低下方法として、健眼を眼帯で完全に隠す完全遮閉方法や調節麻痺剤(特許文献1)を使用し健眼の視力を低下させる薬理的治療法が用いられてきた。しかし、これらの方法は、健眼の視力を大きく低下させるものであり、生活に支障をきたす恐れがあるばかりでなく、両目で見ることで初めて成立する立体視の発達を阻害し、その結果、治療が長期化するといった問題があった。
<1>基材上に透光性微粒子を含有する層を有し、全光線透過率が85%以上であり、かつヘイズ値が10%以上70%以下である視力調整用シート。
<2>前記シートのヘイズ値が、10%以上70%以下から選択される所定のヘイズ値である前記<1>記載の視力調整用シート。
<3>前記シートのヘイズ値が、20%以上50%以下である前記<1>または<2>記載の視力調整用シート。
<4>前記透光性微粒子の平均粒子径が、0.3〜50μmである前記<1>〜<3>のいずれかに記載の視力調整用シート。
<5>前記透光性微粒子が、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニアから選ばれた少なくとも一つ以上の微粒子を含む前記<1>〜<4>のいずれかに記載の視力調整用シート。
<6>前記基材が、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、アクリル樹脂から選ばれた少なくとも一つ以上の高分子材料である前記<1>〜<5>のいずれかに記載の視力調整用シート。
<7>前記透光性微粒子を含有する層の厚みが、50μm以下である前記<1>〜<6>のいずれかに記載の視力調整用シート。
<8>前記<1>〜<7>のいずれかに記載のシートが、弱視の矯正用シートである視力調整用シート。
<9>透光性微粒子と接着剤とを含む塗液を基材上に塗布し、乾燥することにより基材上に透光性微粒子を含有する層を作成する視力調整用シートの製造方法。
<10>前記透光性微粒子が、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニアから選ばれた少なくとも一つ以上の微粒子であり、その平均粒子径が0.3〜50μmである前記<9>記載の視力調整用シートの製造方法。
<11>前記塗液における透光性微粒子の濃度が、1〜50重量%である前記<9>または<10>に記載の視力調整用シートの製造方法。
<12>前記接着剤が、エマルジョン系接着剤である前記<9>〜<11>のいずれかに記載の視力調整用シートの製造方法。
<13>前記<9>〜<12>のいずれかに記載の製造方法により得られてなる視力調整用シート。
また、本発明にかかる視力調整用シートは、弱視治療期間中に視力を正確に調整することができ、視機能への副作用を及ぼす危険性も少ない。さらに、健眼と患眼の視力を均等に保つことができるため立体視の発達を阻害することがなく、矯正時間に制約を受けたり、治療の完了までに長時間を要したりすることがなく、短期間で適切な治療効果を得ることができるという効果を有する。
以下本発明のシートおよびその原材料、シートの製造方法について詳述する。
本発明の視力調整用シートは、基材上に透光性微粒子を含有する層を有する視力調整用シートである。本発明の視力調整用シートは、全光線透過率が85%以上であり、かつヘイズ値が10%以上70%以下であることが必要である。
本発明の視力調整用シートを構成する基材としては、透明性を有する高分子材料や無機材料が使用できる。
高分子材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、トリアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、アクリル樹脂等が挙げられる。その中でも、ポリエチレンテレフタレート、トリセチルセルロース、ポリカーボネート、アクリル樹脂が好ましく使用される。また、無機材料として、ガラス等が示される。
かかる基材の形状は、最終製品である本発明の視力調整用シートの形状とほぼ同じであり、フィルム、箔、膜、板、レンズ等の形状を有する。
レンズとして達成する場合、ガラスレンズ、プラスチック製のレンズ等、公知の眼鏡用途に用いられるレンズを基材として用いることができる。
次に、本発明の透光性微粒子としては、有機微粒子のものでは、スチレン樹脂ビーズ、メラミン樹脂ビーズ、アクリル樹脂ビーズ、アクリル−スチレン樹脂ビーズ、ポリカーボネートビーズ、ポリエチレンビーズ、ポリ塩化ビニルビーズ、シリコーンビーズなどが挙げられる。また、無機微粒子としては、シリカ(SiO2)、チタニア(TiO2)、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、Al−SiO2、GeO2等の微粒子が挙げられる。これらの中でもシリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニアから選ばれた1種又は2種以上の無機微粒子が好適に使用され、特に、入手性の点でシリカ微粒子が好ましい。
平均粒子径は塗工膜厚にも依存するが、0.3〜50μmであることが好ましく、塗工適性に優れるという点で0.5〜10μmが最も好ましい。平均粒子径は、電子顕微鏡写真を撮影し、形状を観察するとともに100個の粒子について粒子径を測定し、その平均値として得られる。粒子の観察画像が円状でない場合は、円相当径を求め粒子径として計算する。
透光性微粒子を透明フィルム上に積層する場合、透光性微粒子をフィルム上に固定させるための接着剤を用いることが好ましい。本目的の接着剤は、公知の接着剤を用いることができるが、たとえば、溶剤系粘着剤、エマルジョン系粘着剤、UV硬化型無溶剤系粘着剤がある。水性エマルジョン樹脂には、無機−有機複合樹脂エマルジョン、フッ素樹脂エマルジョン、アクリル−スチレン樹脂エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョン、ポリエーテル系ウレタン樹脂エマルジョン、ポリエステル系ウレタン樹脂エマルジョン、不飽和カルボン酸の不飽和ビニルとアクリル共重合樹脂エマルジョン、酢ビ系樹脂エマルジョン、酢ビ−アクリル系樹脂エマルジョン、酢ビと不飽和カルボン酸の不飽和ビニル共重合樹脂エマルジョン、エチレン−酢ビ樹脂エマルジョン、ウレタン−アクリル複合樹脂エマルジョン、無機−有機複合樹脂エマルジョン、シリコン−アクリル複合樹脂エマルジョン等がある。特に、環境負荷の少ないエマルジョン系粘着剤を用いることが好ましい。
[視力調整用シートの製造方法]
本発明の視力調整用シートの製造方法は、透光性微粒子と接着剤とを含む塗液を基材上に塗布し、乾燥することにより基材上に透光性微粒子を含有する層を作成するものである。
透光性微粒子と接着剤とを含む塗液の調整は以下の方法による。塗液は、前述した透光性微粒子と接着剤を含むものとして作成されるが、必要に応じて溶剤を添加してもよい。ここで用いる溶剤は主に水や各種有機溶媒である。有機溶媒としては、アルコール系やケトン系、芳香族系等の溶媒から、良好な塗膜を得るために適した溶媒を適宜選択すればよいが、生産性の観点から沸点が150℃以下、また塗布性を高めるために常温における粘度が低く、かつ本発明にかかるシートは目の近くで使用されるもののため人体に対する影響が比較的少ない溶媒であることが好ましい。このような好ましい溶媒として、水やエタノールが例示される。
これらの塗液の原料は、十分に溶解または分散するように撹拌したほうがよい。
前記、透光性微粒子と接着剤とを含む塗液を基材に塗布する方法については、特に制限はなく、公知の方法、例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバー法、ディップコート法、エクストルージョン法、カーテンコート法、スプレーコート法、流延製膜法、バーコート法、グラビアコート法、ドクターブレード法、ダイコーター法等の方法などを用いることができる。塗布は、常温でおこなってよいが、塗液の濃度や、用いた溶媒によっては、常温以下、たとえば0℃〜20℃の低い温度でおこなってもよいし、常温以上、たとえば、30℃〜80℃で塗布してもよい。また、埃等の異物の混入を避けるため、クリーン度の高い環境で塗布することが好ましい。
塗膜の形成は、基材上に、前記塗液に水や有機溶媒のような溶媒を加えた塗液を用いて塗膜を形成した後、水や有機溶媒のような、揮発性のものを乾燥により揮発させることにより行われる。乾燥方法は、特に限定されるものではないが、たとえばドライオーブンを用いて乾燥することができる。
本発明のシートの製造において、塗膜の乾燥温度は20℃以上150℃以下とすることが好ましい。乾燥温度が低すぎる場合、溶剤乾燥に要する時間が長くなり生産性が低下することがあり、また溶剤が十分に揮発せず接着剤が固まらずに透光性微粒子層が脱落しやすくなることがある。乾燥温度が高すぎる場合、基材の耐熱性が不足するために、全体に熱による劣化が生じたり、厚みムラが発生したりすることがあり、面状が悪化することがある。乾燥温度は、一定ではなく、はじめ常温〜50℃程度の低い温度で乾燥させ、その後50℃以上の高温で乾燥する、多段乾燥とした方が、透光性微粒子層の面状がよくなることがある。
かくして得られた本発明のシートを用いるにあたっては、眼鏡の上に、本シートを重ねる等の方法で使用することができる。本発明の視力調整用シートを用いると、目的とする視力低下量調整機能を容易に達成することが可能である。弱視治療用として用いるには、シートは患眼の回復に合わせて、段階的に変更することが好ましい。そのため、着脱が容易な方法で達成されることが望まれる場合がある。シートを眼鏡に単に重ねるのみでは、剥がれやすいため、シートと眼鏡を粘着剤により固定することで、安定した視力低下効果を得ることができるが、より好ましくは、取り換えが可能な粘着剤により貼付することがより好ましい。または簡易的には、シートを水でレンズに接着させて用いることもできる。
視力とは、二次元的に広がったものの形や位置を見分ける能力である。実用的には、1909年の国際眼科学会で決められた最小分離閾、あるいは最小可読閾で規定される。本実施例では、最小分離閾を用いて視力を測定した。最小分離閾とは、2つの点または線を分離して見分けることのできる最小視角(MAR:minmum angle of resolution;単位:分)で、一般的にはランドルト環の切れ目の方向を識別できる最も小さなランドルト環の切れ目の大きさをいう。視力値は、この識別できる最小視角から換算される。ここで、小数視力値、対数視力値とMARの関係は次の通りである。
小数視力値=1/MAR
対数視力値=log(MAR)
1)塗液調整用溶液(A)の調整
接着剤として用いたエマルジョン系粘着剤(DIC株式会社製、商品名:ボンコート(登録商標) DV−961)をエチルアルコールを用いて希釈して、塗液調整用溶液(A)を調整した。希釈濃度は各組成物の重量比が、接着剤:エタノール=1:1となるように調整した。
透光性微粒子として用いたシリカ微粒子(日揮触媒化成株式会社製、商品名:SILICA MICROBEADS Series P−1500、SiO2濃度99%、平均粒子径4μm)を水に混合した液を調整した。本液は、シリカ粒子の濃度が20重量%となるように秤量し、超音波装置を用いて20分処理し、調整溶液中にシリカ粒子が十分に分散するようにした。
塗液(C)は塗液調整用溶液(A)と塗液調整用溶液(B)を用いてシリカ微粒子濃度が表1に示す濃度となるように調整した。
塗液(C)をバーコーター(第一理化株式会社製、番線の番号No.09、膜厚約20μm)を用いて、OHPシート(富士ゼロックス製,REORDER No.V515)上に塗布する。塗布後2分間、常温(25℃)で乾燥。その後,ドライオーブンを用いて乾燥温度80℃にて30分間乾燥することで、基材であるOHPシート上にシリカ微粒子を含有する層を設けたシートを得た。
濁度計(ヘーズメータ)NDH−300A (日本電色工業株式会社製、JIS K7105に対応する。)を用いて、全光線透過率およびヘイズ値を測定した。
全光線透過率(%)=平行透過率(%)+拡散透過率(%)
ヘイズ値(%)=拡散透過率(%)/全光線透過率(%)×100
実施例1〜8のシートの視力低下量を以下の条件で評価した。
被験者:屈折異常以外の眼科的疾患のない成人2名
視力表:ランドルト環表記のlogMAR視力表
測定視力値:5mからの遠見視力値
測定眼:右目
試験回数:1人あたり4回測定
まず、被験者の視力値を、logMAR視力値で−0.1(小数視力値で1.26)になるように矯正した。次に試験枠に各箔を取り付けたものを被験者に装用させ、視力検査を行った。各実施例のシートごとに使用する視力表は新しいものにとりかえて、測定順による視力値の測定結果の変化が起こらないようにした。
本実施例により得られたシートのlogMARの測定結果を図3に示す。本発明にかかるシートはシリカ微粒子濃度の調整によりヘイズ値を調整しており、図2に示すように、シリカ微粒子濃度とヘイズ値は相関する。また、シリカ微粒子濃度と視力調整効果logMARの相関性が高く、また、logMARが0.4を超えるような視力低下量の大きい範囲でも、安定して期待される視力低下効果を得られている。このことから、透光性微粒子を用いてヘイズ値を制御したシートにより、安定した視力調整効果を得ることができることがわかる。
[Bangerterの眼鏡箔]
参考例として、透光性微粒子を用いていない、従来、弱視治療用眼鏡箔として利用されてきたBangerterの原理に基づく眼鏡箔である、Ryser社製弱視治療用フィルムの光学特性を評価した。測定結果を表2および図4、図5に示す。表2および図4、図5においてRyser社の眼鏡箔表示視力は、小数視力値で示した視力低下量である。非特許文献1に示されているようにその実際の視力低下効果は表示されている値との差が大きいことが指摘されており、表2および図4、5に示すように全光線透過率、ヘイズ値の調整により視力低下量を調整しようとするものではない。前述の非特許文献1に記載されている、Bangerterの原理に基づく眼鏡箔の表面構造を観察した写真によると、200〜300μm程度の円状の凹凸を配列させることで視認性を低下させるものであると考えられる。
Claims (12)
- 眼鏡に貼りつけられるまたは眼鏡用レンズの形状である視力調整用シートであって、
基材上に透光性微粒子を含有する層を有し、全光線透過率が85%以上であり、かつヘイズ値が10%以上70%以下である弱視の矯正用の視力調整用シート。 - 前記シートのヘイズ値が、20%以上50%以下である請求項1記載の視力調整用シート。
- 前記透光性微粒子の平均粒子径が、0.3〜50μmである請求項1または2記載の視力調整用シート。
- 前記透光性微粒子が、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニアから選ばれた少なくとも一つ以上の微粒子を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の視力調整用シート。
- 前記基材が、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、アクリル樹脂から選ばれた少なくとも一つ以上の高分子材料である請求項1〜4のいずれか1項に記載の視力調整用シート。
- 前記透光性微粒子を含有する層の厚みが、50μm以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の視力調整用シート。
- 眼鏡に貼りつけられるまたは眼鏡用レンズの形状である視力調整用シートの製造方法であって、
透光性微粒子と接着剤とを含む塗液を基材上に塗布し、乾燥することにより基材上に透光性微粒子を含有する層を作成する弱視の矯正用の視力調整用シートの製造方法。 - 前記透光性微粒子が、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニアから選ばれた少なくとも一つ以上の微粒子であり、その平均粒子径が0.3〜50μmである請求項7記載の視力調整用シートの製造方法。
- 前記塗液における透光性微粒子の濃度が、1〜50重量%である請求項7または8記載の視力調整用シートの製造方法。
- 前記接着剤が、エマルジョン系接着剤である請求項7〜9のいずれか1項に記載の視力調整用シートの製造方法。
- 眼鏡に貼りつけられるまたは眼鏡用レンズの形状であり、視力調整に用いられる視力調整用シートの製造方法であって、
基材上に透光性微粒子を含有する層を有し、全光線透過率が85%以上であり、かつヘイズ値が10%以上70%以下から選択され、
前記ヘイズ値が、視力調整量に応じて選択された所定のヘイズ値である弱視の矯正用の視力調整用シートの製造方法。 - 眼鏡に貼りつけられるまたは眼鏡用レンズの形状である視力調整用シートのセットであって、
前記セットが、基材上に透光性微粒子を含有する層を有し、全光線透過率が85%以上であり、かつヘイズ値が10%以上70%以下である複数のシートを有し、
前記複数のシートが異なるヘイズ値のものを含む弱視の矯正用の視力調整用シート。
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