I.miR−31に関する組成物および方法、ならびに転移におけるその役割
マイクロRNA(miRNA)は、約20〜25ヌクレオチド(nt)、例えば21〜22ntの長さの範囲の小型RNAの進化的に保存されたクラスを構成し、配列特異的な様式での切断または翻訳抑制のためにmRNAを標的にすることにより動物および植物において多様で重要な調節性の役割を演じる。哺乳類の細胞において、miRNAは、翻訳阻害(例えば同族mRNA標的の3’非翻訳領域(UTR)との配列特異的相互作用による)および/またはmRNA分解による転写後の遺伝子サイレンシングを行う(Bartel, D.、MicroRNAs: genomics, biogenesis, mechanism, and function. Cell、116巻(2号):281〜97頁、2004年)。miRNAの生合成は、プリmiRNAと呼ばれる1次miRNA転写産物の核切断を含み、これは、miRNA前駆体またはプレmiRNAとして公知であるおよそ60〜70ntのステムループ中間体をもたらし、これが細胞質に輸送されて、ここでこれはダイサーによるさらなるプロセシングを受け、成熟miRNAとプレmiRNAの他方の腕に由来する同様のサイズの断片(miRNA*)とを含むsiRNA様の不完全2重鎖を残す。マイクロRNAは、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と呼ばれるリボヌクレオタンパク質複合体に組み込まれ、ここで、これらは、mRNA切断および/または翻訳抑制により遺伝子発現の下方制御を指図する。一般的に、miRNAは、mRNAがmiRNAと十分に相補的である場合に切断を特異的にすることができ、mRNAが適切な一群のmiRNA相補的部位(これらはしばしば、3’UTRにある)を有する場合に、生産的翻訳を抑制できる。
miRNAは、広い範囲の生物学的プロセスを変調でき、いくつかのヒト疾患と関連する遺伝子を調節することが公知である。ヒト腫瘍の確立および進行におけるmiRNAの中心的な役割は、明らかになり始めている。miRNAをコードする遺伝子座のうち50%より多くは、腫瘍発生中に変更される染色体領域中にあり(Calinら、2004年)、発現プロファイリングにより、疾患状態および臨床転帰を予測する、乳房腫瘍を含む多くのタイプの腫瘍について特徴的なmiRNAシグネチャーが明らかになる(CalinおよびCroce、2006年)。さらに、伝統的な癌遺伝子または癌抑制遺伝子として機能するmiRNA(VenturaおよびJacks、2009年)とともに、腫瘍進行の後期に作用する限定数のmiRNAが同定されている(Maら、2007年;Tavazoieら、2008年;Huangら、2008年;Asanganiら、2008年;Zhuら、2008年;Lujambioら、2008年)。転移に影響すると報告された全てのmiRNAが、原発腫瘍発生、アポトーシスおよび/または細胞増殖に対しても潜在的な著しい影響を示すので、miRNAが転移に特異的に影響する程度は不明確なままである(Voorhoeveら、2006年;Sathyanら、2007年;Maら、2007年;Siら、2007年;Tavazoieら、2008年;Kondoら、2008年;Lujambioら、2008年)。さらに、局所浸潤後の浸潤−転移カスケードのステップにおけるmiRNAの役割は、記載されていない。
転移促進性(miR−10b、−21および−373/520c)または転移抑制性(miR−34b/c、−126、−148a、−206および−335)の機能を有する限定数のmiRNAが同定されている。しかし、特異的に転移促進に対するmiR−10b、miR−21およびmiR−373/520cの寄与は、それらの分裂促進性および/または抗アポトーシス性の役割のために、容易に見分けられない(Voorhoeveら、2006年;Maら、2007年;Siら、2007年)。同様に、転移抑制性miRNAであるmiR−34b/c、miR−126およびmiR−148aは、原発腫瘍成長を損なうが(Lujambioら、2008年;Tavazoieら、2008年)、miR−206およびmiR−335は、増殖を阻害するかもしくはアポトーシスを促進し(Sathyanら、2007年;Kondoら、2008年)、ここでもまた転移におけるそれらの厳密な役割を不明瞭にする。
miRNAが示す遺伝子調節の多指向性の性質に基づいて、本発明者らは、あるいくつかのmiRNAが、腫瘍の転移の重要な修飾因子として機能する能力を授かっていると仮定した。実施例にさらに記載するように、本発明者らは、転移促進性標的のコホートの抑制により浸潤−転移カスケードの複数のステップにて作用する転移抑制性ヒトmiRNAであるmiR−31を同定した。本発明者らは、ヒト乳癌でのmiR−31の下方制御またはmiR−31ゲノム遺伝子座の欠失が、全ゲノム研究において検出されたことを観察した(Calinら、2004年;Zhangら、2006年;Yanら、2008年)。臨床的乳腺腫瘍の発現プロファイルの試験により、管腔細胞型B(管腔細胞型Aと比べて)、基底膜細胞型およびHER2+腫瘍において低減されたmiR−31が明らかになった(これらの研究について、Mattieら、2006年;Blenkironら、2007年を参照されたい)(低減のパターンは攻撃性疾患と相関する(Sorlieら、2001年))。これとは対照的に、別のプロファイリング研究により、ヒト乳腺腫瘍において上昇したmiR−31が見出された(Voliniaら、2006年)。これらの研究のいずれも、患者を転移状態により階層分けしなかった。さらに、miR−31は、異なって発現された多数の遺伝子のうちの1つにすぎなかった。
本発明は、miR−31が、乳癌転移を阻害するために必要かつ十分である多指向活動性miRNAであることを見出したことに少なくとも部分的に基づく。実施例9に記載するように、原発乳腺腫瘍におけるmiR−31発現は、転移再発と逆の相関があった。本発明者らは、miR−31が、あるいくつかの標的遺伝子、例えばFzd3、ITGA5、M−RIP、MMP16、RDXおよびRhoAの発現を阻害するように通常は作用することを示した。よって、miR−31の喪失はmiR−31標的遺伝子の上方制御をもたらし、このような上方制御は、転移の増加と関連する。これらの研究結果に少なくとも部分的に基づいて、本発明は、例えば腫瘍が転移したかもしくは転移するかという可能性を評価または予測し、かつ/あるいは腫瘍の攻撃性または再発の可能性を評価するための、診断および予後のための組成物ならびに方法を提供する。本発明は、さらに、研究または療法のための組成物および方法を提供する(例えば転移の可能性を低減させ、かつ/または転移の成長を阻害し、かつ/または浸潤性もしくは運動性のような転移表現型の特徴であるとみなされる1または複数の態様を阻害するため)。いくつかの実施形態において、組成物および方法は、miR−31の効果を模倣し、例えば、これらは、1または複数のmiR−31標的遺伝子(複数可)を阻害する。このような作用物質は、例えば1もしくは複数のmiR−31標的遺伝子を阻害するmiR−31と同一もしくは十分に類似のオリゴヌクレオチド(例えばRNA)、またはmiR−31標的遺伝子を標的にするsiRNAであり得る。いくつかの実施形態において、組成物は、医薬組成物である。いくつかの実施形態において、組成物または組成物中に含有される作用物質は、単離されている(例えば天然または人工的に合成された場合に一緒に見出される少なくともいくつかのその他の成分から分離されている)。
本発明の種々の実施形態において有用な作用物質(本明細書において「化合物」ともいう)は、例えばペプチド、ポリペプチド、核酸、オリゴヌクレオチド、小分子(例えば1.5kD以下、例えば1kD未満の分子量と通常は複数の炭素−炭素結合を有する有機分子)、抗体、糖類、脂質などであり得る。作用物質は、共有結合していてよい2つ以上の上記のタイプの物質を含み得ると理解される。いくつかの実施形態において、「小分子」とは、複数の炭素−炭素結合と、2000ダルトン未満、例えば50〜1,500ダルトンの分子量を有する有機化合物のことをいう。典型的には、このような化合物は、タンパク質との構造的相互作用、例えば水素結合を媒介する1または複数の官能基を含み、典型的には少なくともアミン、カルボニル、ヒドロキシまたはカルボキシ基、いくつかの実施形態においては少なくとも2つの化学官能基を含む。小分子は、1もしくは複数の化学官能基および/または複素原子で置換された環状炭素もしくは複素環構造および/または芳香族もしくは多環芳香族構造を含んでよい。核酸、例えばオリゴヌクレオチド(これは、典型的には、短い、例えば50ヌクレオチド以下の長さの核酸のことをいう)について、1本鎖、2本鎖(ds)、平滑末端、突出を有する2本鎖を本発明の種々の実施形態において用いることが意図される。研究もしくは治療の目的のためのsiRNAまたはアンチセンスに基づく分子の関係において有用であると当該技術において公知の改変(例えばヌクレオシドおよび/または主鎖の改変)、非標準的ヌクレオチド、送達媒体およびシステムなどの全範囲を、本発明の種々の実施形態において用いることが意図される。本明細書において有用なポリペプチドは、タンパク質において天然に見出されるもの(例えば20の「標準」アミノ酸)、タンパク質中に天然に見出されないアミノ酸および/またはアミノ酸でないアミノ酸類似体のようなアミノ酸を含有してよい。ポリペプチド中のアミノ酸の1または複数を、例えば、炭化水素基、ホスフェート基、脂肪酸基などのような化学部分の付加により改変してよい。核酸およびポリペプチドは、当該技術において公知の任意の適切な方法を用いて生成できる。いくつかの実施形態において、核酸またはポリペプチドは、化学合成される。いくつかの実施形態において、核酸は、例えばin vitro転写またはPCRのような増幅反応による酵素合成を用いて生成される。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、例えばin vitro翻訳による酵素合成を用いて生成される。いくつかの実施形態において、核酸またはポリペプチドは、細胞または多細胞生物により合成され、それから単離される。細胞または生物は、核酸を発現するように遺伝子改変されていてよい。用語「抗体」は、免疫グロブリンおよび抗原と結合できる免疫グロブリンドメインを含有するその誘導体を包含する。抗体は、任意の哺乳類または鳥類の種、例えばヒト、げっ歯類(例えばマウス、ウサギ)、ヤギ、ニワトリなどを起源とし得るか、例えばファージディスプレイを用いて作製できる。抗体は、任意の免疫グロブリンクラス、例えばIgG、IgM、IgA、IgD、IgEまたはIgG1、IgG2などのようなそのサブクラスのメンバーであってよい。本発明の種々の実施形態において、「抗体」とは、Fab’、F(ab’)2、scFv(単鎖可変)もしくは抗原結合部位を保持するその他の断片、または組換え生成された断片を含む組換え生成されたscFv断片のような抗体断片のことをいう。抗体は、種々の実施形態において1価、2価または多価であり得る。抗体は、キメラまたは「ヒト化」抗体であってよく、これらは、当該技術において公知の方法を用いて作製できる。抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナルであってよいが、本発明の目的のために、モノクローナル抗体が一般的に好ましい。実質的にいずれの目的分子にも特異的に結合する抗体を生成する方法は、当該技術において公知である。例えば、モノクローナルまたはポリクローナル抗体は、(例えば分子もしくはその抗原性断片への自然な曝露またはそれを用いる免疫化の後に)抗体を生成する動物の血液または腹水から精製できるか、細胞培養またはトランスジェニック生物における組換え技術を用いて生成できるか、または化学合成により少なくとも部分的に作製できる。本発明において有用な化合物または作用物質(例えば研究、試験、予後および/または療法のため)は、組成物の部分として用いてよく、これは、1または1より多い分子体で構成されてよい。組成物は、例えばイオン、塩、水性もしくは非水性の希釈剤または担体、緩衝剤、酵素阻害剤、防腐剤などを含有してよいが、含有する必要はない。
いくつかの態様において、本発明は、遺伝子改変細胞、例えばmiR−31の発現もしくはmiR−31の活性が低減するように遺伝子改変された細胞に関するか、またはそれを利用する。「遺伝子改変」または「工学的改変」細胞とは、人間の手を含むプロセスにより核酸が導入された細胞(または核酸の少なくとも一部分を受け継いだこのような細胞の子孫)のことをいう。核酸は、例えば、細胞において天然に見出されない配列を含んでよく、これは、天然配列(すなわち細胞において天然に見出される配列)を天然に生じない配置(例えば異なる遺伝子からのプロモーターと連結されたコード領域)で含んでよい、または天然配列の変更されたバージョンなどを含んでよい。核酸を細胞に移動するプロセスは、任意の適切な技術により達成でき、ベクターの使用をしばしば伴う。適切な技術は、リン酸カルシウムもしくは脂質媒介形質移入、エレクトロポレーション、およびウイルスベクターを用いる形質導入もしくは感染を含む。いくつかの実施形態において、核酸またはその一部分は、細胞のゲノムに組み込まれ、かつ/またはそうでなければ安定的に受け継がれることができる。核酸は、その後、ゲノムから除去または切り出してよい(但し、このような除去または切り出しが未改変であるがその他の点では等価な細胞に対して細胞の検出可能な変更をもたらすことを条件とする)。いくつかの態様において、本発明は、遺伝子改変多細胞生物に関するか、またはそれを利用する。細胞の少なくともいくつかが工学的遺伝子改変されている生物またはそのような細胞に由来する生物は、工学的遺伝子改変生物とみなす。本明細書で用いる場合、「ベクター」は、例えば制限消化とその後のライゲーションにより所望の核酸をその中に挿入し得る任意の多様な核酸分子を含んでよい。ベクターは、例えば核酸を目的の細胞に導入し、場合によってそのような細胞における発現を指図するために、異なる環境間でこのような核酸を輸送するために用い得る。ベクターは、しばしば、DNAで構成されるが、RNAベクターも公知である。ベクターは、それらに限定されないが、プラスミドおよびウイルスゲノムまたはそれらの部分を含む。ベクターは、ベクターで形質転換もしくは形質移入されたかまたはされていない細胞を同定および/または選択するために用いるのに適切なマーカーをコードする1または複数の核酸を含有してよい。マーカーは、例えば、抗生物質もしくはその他の化合物に対する耐性または感受性を増加または減少させるタンパク質、当該技術において公知の標準的なアッセイにより活性を検出できる酵素(例えばβ−ガラクトシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)および形質転換もしくは形質移入された細胞の表現型に検出可能に影響するタンパク質またはRNA(例えば蛍光タンパク質)を含む。発現ベクターは、調節要素(「調節配列」、「発現制御要素」または「発現制御配列」ともいう)と機能的に連結され、かつRNA転写産物(例えばタンパク質に翻訳され得るmRNA、またはshRNAもしくはmiRNA前駆体のような非コードRNA)として発現され得るようにその中に所望の核酸を挿入できるものである。調節要素は、ベクターに含有されてよいか、または挿入核酸の部分であってよいか、もしくはその発現が所望される核酸の挿入の前もしくは後に挿入されてよい。本明細書で用いる場合、核酸および調節要素(複数可)は、調節要素(複数可)の影響もしくは制御下に核酸の発現または転写が行われるようにこれらが共有結合する場合に、「機能的に連結される」と言われる。例えば、プロモーター領域が核酸の転写を行うことができた場合に、プロモーター領域は、その核酸と機能的に連結される。当業者は、遺伝子発現に必要とされる調節配列の厳密な性質が、種または細胞のタイプ間で変動し得るが、一般的に、必要に応じて、TATAボックス、キャップ配列、CAAT配列などのようなそれぞれ転写および翻訳の開始に関与し得る5’非転写および/または5’非翻訳配列を含むことができることを認識するであろう。その他の調節要素は、IRES配列を含む。このような5’非転写調節配列は、機能的に連結された遺伝子の転写制御のためのプロモーター配列を含むプロモーター領域を含むことになる。調節配列は、エンハンサー配列または上流活性化配列も含んでよい。ベクターは、場合によって、5’リーダーまたはシグナル配列を含んでよい。ベクターは、場合によって、切断および/もしくはポリアデニル化シグナルならびに/または3’非翻訳領域を含んでよい。適切なベクターおよび調節要素(複数可)の選択ならびに設計は、当業者の能力および判断の範囲内に含まれる。例えば、当業者は、所望の種(例えば哺乳類の種)または細胞タイプでの発現のために適切なプロモーター(またはその他の発現制御配列)を選択することになる。当業者は、Tet系および小分子などにより調節され得るその他のもののような調節可能(例えば誘導可能または抑制可能)発現系、ならびに組織特異的および細胞タイプ特異的調節要素を認識する。いくつかの実施形態において、ウイルスベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルスおよび弱毒化ポックスウイルスを含むポックスウイルス、レトロウイルス(例えばレンチウイルス)、セムリキ森林ウイルス、シンドビスウイルスなどからなる群より選択される。場合によって、ウイルスは、複製欠損性である。いくつかの実施形態において、複製欠損レトロウイルス(すなわち1または複数の所望の転写産物の合成を指図できるが、感染性粒子を製造できないウイルス)が用いられる。核酸分子を細胞に導入するために種々の技術を用いてよい。このような技術は、核酸分子−リン酸カルシウム沈殿物の形質移入、DEAEと会合した核酸分子の形質移入、目的の核酸分子を含有するウイルスでの形質移入または感染、リポソーム媒介形質移入、ナノ粒子媒介形質移入などを含む。
いくつかの態様において、本発明の方法は、被験体を含む。「被験体」は、ヒトまたは非ヒト動物であってよい。被験体は、医療的および/もしくは外科的な手当が正当化される疾患(例えば癌)に罹患しているかまたは予後情報を必要としていてよいか、あるいは集団の平均的なメンバーと比べて疾患を発生する危険性が増加していてよい。いくつかの実施形態において、被験体は、女性である。非ヒト被験体は、非ヒト哺乳動物、例えばマウス、ラット、ハムスター、ウサギもしくはモルモットのようなげっ歯類、イヌ、ネコ、ウシもしくはヒツジ、非ヒト霊長類などであってよい。いくつかの実施形態において、被験体は、癌、例えば乳癌についての動物モデルとして働くことがある。例えば、被験体は、腫瘍を発生する素因を有する工学的遺伝子改変非ヒト哺乳動物、例えばマウスであってよい。哺乳動物は、癌遺伝子(例えば導入遺伝子として)を過剰発現するか、または癌抑制遺伝子を過小発現してよい(例えば動物は、癌抑制遺伝子に変異または欠失を有してよい)。
あるいくつかの態様において、本発明は、例えば腫瘍の転移の可能性を評価または予測するための診断および予後のための組成物ならびに方法を提供する。いくつかの実施形態において、方法は、miR−31遺伝子産物の発現を評価するステップを含む(例えば、miR−31遺伝子、例えばプリmiRNAもしくはプレmiRNAから転写される成熟miR−31 RNAまたはmiR−31前駆体RNAのレベルを評価するステップ)。いくつかの実施形態において、方法は、miR−31による調節の標的である遺伝子の発現産物のレベルまたは活性を評価するステップを含む。「発現産物」は、遺伝子から転写されたRNAおよび/または遺伝子から転写されたmRNAの翻訳により得られるポリペプチド(その翻訳後プロセシングされた形態を含む)のことであり得る。上記の方法は、腫瘍から得られた生物学的試料中のレベルまたは活性を評価するステップを含んでよい。試料は、例えば組織生検、細針生検、手術標本、ブラッシングなどから得られる細胞を含んでよい。いくつかの実施形態において、細胞は、腫瘍から得られた後に培養で増殖させてよい。いくつかの実施形態において、生物学的試料は、さらに加工して(例えば適切に処理する、染色するなど)、後続のアッセイ手順で用いるためにそれが適切になるようにしてよい。このような加工材料も、用語「生物学的試料」または「試料」の範囲内である。いくつかの実施形態において、方法は、1または複数の他のマイクロRNA(例えば転移促進もしくは転移抑制の特性を有する1または複数のmiRNA)の発現を測定すること、またはその他の診断/予後のアプローチ、例えばエストロゲンもしくはプロゲステロン受容体の状態、癌遺伝子もしくは癌抑制遺伝子における変異の存在などを評価することとともに用いられる。方法は、例えば、腫瘍を治療もしくは再発を妨げるために治療上の結論を勧めるかまたは決定して、例えば特定のアプローチ(例えば手術、化学療法、放射線照射など)を選択するために用いてよい。いくつかの実施形態において、本発明は、適切な対照との比較を含む。適切な対照レベルは、例えば、非転移性腫瘍におけるレベル、正常組織または細胞(例えば腫瘍が由来するのと同じタイプもしくは同じ器官からの細胞または組織)におけるレベルなどであってよい。対照または参照レベルは、目的の生物学的試料を評価するステップと同時に決定してよいか、または過去の対照もしくは参照レベルであってよい(例えば方法を行うより以前に回収された複数の試料から得られる平均的な測定)。本発明は、本発明の診断、予後および治療方法において使用が適切な作用物質および試薬を含み、場合によって使用説明書を含むキットにも関する。いずれのキットも、本発明の方法を行うためにキットの内容物を用いるための使用説明書と、場合によって、方法を行うために有用な試薬(例えば酵素、緩衝剤)または適切な対照とを含み得る。
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、miR−31標的シグネチャーに関する。このようなシグネチャーは、本発明の診断および予後の方法において用いてよい。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、1または複数のmiR−31標的遺伝子、例えばFzd3、ITGA5、M−RIP、MMP16、RDXおよび/またはRhoAに関する。本発明の実施形態は、培養している細胞における1もしくは複数のこのような遺伝子の発現または活性を評価することに関する。本発明の実施形態は、in vivoでの細胞における1もしくは複数のこのような遺伝子の発現または活性を評価することに関する。本発明の実施形態は、培養している細胞における1もしくは複数のこのような遺伝子の発現または活性を変調(例えば増加または阻害)することに関する。本発明の実施形態は、in vivoでの細胞における1もしくは複数のこのような遺伝子の発現または活性を変調(例えば増加または阻害)することに関する。いくつかの実施形態において、細胞は、動物被験体、例えばげっ歯類、非ヒト霊長類またはヒトにある。いくつかの実施形態において、げっ歯類もしくは非ヒト霊長類またはその他の非ヒト動物は、腫瘍の形成、発達および/または治療薬剤の効力を評価するために有用な動物モデルである。いくつかの実施形態において、動物は、易感染性である。いくつかの実施形態において、細胞は、腫瘍原性細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は、非腫瘍原性細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は、不死化されている。いくつかの実施形態において、細胞は、遺伝子改変されている。例えば、細胞は、1または複数の癌遺伝子、癌抑制遺伝子などを発現してよい。本発明の実施形態は、任意の上記の遺伝子または任意のその部分集合に関する。
本発明の種々の実施形態において、腫瘍は、癌腫、例えば乳癌である。いくつかの実施形態において、腫瘍は、腺癌である。いくつかの実施形態において、腫瘍は、肉腫である。いくつかの実施形態において、腫瘍は、乳房、リンパ節、前立腺、腎臓、膀胱、肺、肝臓、消化管、結腸、精巣、胃、膵臓、甲状腺、皮膚、卵巣、子宮、子宮頚部、皮膚、神経、骨および神経系(例えば脳)から選択される器官または器官系に影響する。多様な種々の腫瘍タイプが、これらの器官のいくらかを起源とすることがあり、用語「腫瘍」は、全てのこのような腫瘍タイプを包含することを意図する。「癌」は、本明細書で用いる場合、転移する可能性がある任意の腫瘍タイプ、例えば任意の悪性腫瘍(例えば種々の実施形態の癌腫または肉腫)を包含すると理解されよう。いくつかの実施形態において、腫瘍は、上皮細胞、例えば乳房上皮細胞を起源とする。
本出願は、米国特許出願第10/990,993号(米国特許出願公開第20050193432号)、2008年8月11日にファイルされたPCT/US2008/009639および/または2008年11月26日にファイルされたPCT/US08/85040に記載される発明、技術、方法および材料を、本発明の関係において用いることを意図する。例えば、このような発明、技術、方法および/または材料は、腫瘍の転移におけるmiR−31および/もしくはmiR−31標的遺伝子の役割に関するさらなる分析において、かつ/またはmiR−31および/もしくはmiR−31標的遺伝子などに関する治療薬剤および薬物候補をスクリーニングおよび評価するために有用であり得る。例えば、miR−31標的遺伝子を阻害する作用物質の能力および/または腫瘍の成長もしくは転移の可能性または重度を低減する作用物質の能力を評価できる。
miR−31、例えばヒトmiR−31の配列および遺伝子配置は、当該技術において公知であり、miRBase(www.mirbase.org)miRBase:マイクロRNAゲノム学のためのツール(Griffiths−Jones Sら、NAR 2008年36巻(データベース版):D154〜D158頁;Griffiths−Jones Sら、NAR 2006年34巻(データベース版):D140〜D144頁;Griffiths−Jones S. NAR 2004年32巻(データベース版):D109〜D111頁)およびGenBankのような公共データベースにおいて入手可能である。クローニング研究において最も一般的に観察される成熟ヒトmiR−31は、以下の配列を有すると報告され:AGGCAAGAUGCUGGCAUAGCU(配列番号1;miRBase受託番号MIMAT0000089)、以下の配列を有すると予測されるステム−ループ内にある:GGAGAGGAGGCAAGAUGCUGGCAUAGCUGUUGAACUGGGAACCUGCUAUGCCAACAUAUUGCCAUCUUUCC(配列番号2;miRBase受託番号MIMAT0004504;GenBank受託番号NR_029505)。
5’および3’末端のいくつかの配列は、ドローシャ切断により生成される中間前駆体miRNAに含まれないことがある。異なる個体の間に配列の違い(多型)が存在し得ることが認識されよう。例えば、配列は、配列番号2と比較して1〜5つの位置間で異なってよい。さらに、成熟miR−31は、さらなるヌクレオチド(複数可)、例えば1または2ntを5’および/または3’末端に有するかまたは欠いていてよい。本発明は、あるいくつかの実施形態において非ヒト動物からのmiR−31またはmiR−31前駆体の使用を包含する。例えば、マウスmiR−31を、例えば腫瘍の転移および薬物発見のためのモデルに関する実施形態において用いることができる。成熟マウスmiR−31は、以下の配列を有し:AGGCAAGAUGCUGGCAUAGCUG(配列番号3;miRBase受託番号MIMAT0000538)、以下の配列のステム−ループにある:UGCUCCUGUAACUCGGAACUGGAGAGGAGGCAAGAUGCUGGCAUAGCUGUUGAACUGAGAACCUGCUAUGCCAACAUAUUGCCAUCUUUCCUGUCUGACAGCAGCU(配列番号4;miRBase受託番号MI0000579)。当業者は、miR−31もしくはそのステム−ループ前駆体またはそれらの一部分を検出および/または増幅するためのプローブを容易に設計できる。当業者は、miR−31またはそのステム−ループ前駆体をコードするDNA配列を、場合によってフランキング配列(複数可)、例えば約100〜150ntまでのフランキング配列と一緒に容易にクローニングまたは合成することもできる。このようなDNAは、適切なベクターに挿入して、目的の細胞において発現させることができる。
II.予後方法
本発明は、情報、例えば腫瘍、例えば乳腺腫瘍に関する予後情報を提供する多様な方法を提供する。方法は、いくつかの実施形態において、miR−31もしくはmiR−31前駆体の発現レベルまたは活性を評価する(例えば検出する、定量するなど)こと(またはいくつかの実施形態において、1または複数のmiR−31標的遺伝子の発現レベルまたは活性を評価すること)に少なくとも部分的に基づく。このような方法は、本明細書において、「miR−31に基づく方法またはアッセイ」という。いくつかの実施形態において、miR−31のレベルを用いて、転移の危険性が高い腫瘍と危険性が低い腫瘍とを識別する。例えば、いくつかの実施形態において、腫瘍が、参照レベルと比べて著しく低減したレベルのmiR−31を有する場合、腫瘍は、転移の危険性が高いと分類されるが、腫瘍が、参照レベルと比べて著しく低減したレベルのmiR−31を有さない場合、腫瘍は、危険性が低いと分類される。参照レベルは、多様な方法で決定してよい。いくつかの実施形態において、参照レベルは絶対レベルであり、その他の実施形態において、参照レベルは相対レベルである。いくつかの実施形態において、腫瘍は、腫瘍コホートとの比較に基づいてmiR−31陽性または陰性と分類される。例えば、実施例9に記載するように、腫瘍は、miR−31の正規化された発現がコホート内の腫瘍のそれぞれ上位または下位30%内にある場合に、miR−31陽性または陰性とみなしてよい。miR−31陽性である腫瘍は、転移の危険性が低く、miR−31陰性である腫瘍は、転移の危険性が高い。その他の実施形態において、腫瘍は、miR−31の正規化された発現がコホート内の腫瘍のそれぞれ上位または下位25%内にある場合に、miR−31陽性または陰性とみなしてよい。その他の実施形態において、腫瘍は、miR−31の正規化された発現がコホート内の腫瘍のそれぞれ上位または下位35%内にある場合に、miR−31陽性または陰性とみなしてよい。その他の値を用いて、miR−31陽性または陰性の腫瘍を規定してよいことが理解されよう。いくつかの実施形態において、1または複数の試料は、腫瘍から得られ、1または複数の試料は、同様の細胞タイプで構成される近傍の患者一致正常(非腫瘍)組織から得られる。患者一致非腫瘍試料対腫瘍試料中のmiR−31の相対レベルを決定する。いくつかの実施形態において、非腫瘍試料対腫瘍試料中のmiR−31の相対レベル(比)が、予め決定された値より高い場合(腫瘍の細胞が有するmiR−31が低減しているかまたはそれらを欠くことを示す)、腫瘍は、危険性が高いと分類される。いくつかの実施形態において、予め決定された値は、例えば少なくとも1.5、2.0、2.5、3.0などである。いくつかの実施形態において、予め決定された値は、約1.5〜約10である。種々の危険性カテゴリーを規定してよい。例えば、腫瘍は、転移の危険性が低い、中間または高いと分類してよい。多様な統計学的方法を用いて、転移の危険性を、miR−31発現もしくは発現の喪失の相対または絶対レベルと相関させてよい。
本発明は、被験体における腫瘍の転移の発生の可能性を評価する方法であって、(a)対照から得られた生物学的試料中のmiR−31遺伝子産物のレベルを決定するステップと、(b)(a)で決定されたレベルを適切な対照レベルと比較するステップとを含み、(a)で決定されたレベルがmiR−31遺伝子産物の対照レベルより低い場合に、被験体において転移が発生する可能性が増加している(例えば、(a)で決定されたレベルが対照レベルより低くない場合の可能性と比較して)方法を提供する。miR−31遺伝子産物は、miR−31遺伝子から転写された任意の転写産物またはそのプロセシングされた形態であり得る。例えば、miR−31遺伝子産物は、成熟miR−31 RNAまたはmiR−31前駆体RNAであり得る。いくつかの実施形態において、生物学的試料は、腫瘍から得られる。いくつかの実施形態において、対照レベルは、被験体から得られた非腫瘍組織の試料を用いて決定される。本発明は、被験体における腫瘍が転移するかまたは転移した可能性を評価するための方法であって、(a)腫瘍から得られた生物学的試料中の1または複数のmiR−31標的遺伝子(複数可)の発現産物のレベルを決定するステップと、(b)該レベルを対照レベルと比較するステップとを含み、(a)で決定されたレベルが対照レベルより高い場合に、腫瘍が転移するかまたは転移した可能性が増加しているとみなされる(例えば、(a)で決定されたレベルが対照レベルより大きくない場合の可能性と比較して)方法をさらに提供する。いくつかの実施形態において、少なくとも2つのmiR−31標的遺伝子の発現レベルが評価される。本明細書で用いる場合、「miR−31標的遺伝子」は、その発現がmiR−31により直接調節される遺伝子であり、すなわち、miR−31が、miR−31が存在するよりもmiR−31が存在しない場合に該遺伝子の発現レベルが高くなるように、該遺伝子のmRNAの切断および/または翻訳抑制を指図する。いくつかの実施形態において、miR−31標的遺伝子は、RhoA、RDXおよびITGA5から選択される。予後方法が、転移するかまたは転移した危険性が低下している腫瘍を同定する観点で表現できることが認識されよう。例えば、miR−31遺伝子産物のレベルが対照と比較して低減していないかまたは不在でない腫瘍は、腫瘍のmiR−31遺伝子産物のレベルが低減しているかまたはそれらを欠く場合に存在する可能性と比較して、転移する可能性が低下していた。miR−31標的遺伝子(複数可)の発現のレベルが対照と比較して増加していない腫瘍は、腫瘍のmiR−31標的遺伝子(複数可)の発現レベルが増加している場合に存在する可能性と比較して、転移する可能性が低下していた。
本発明は、被験体における腫瘍が転移する可能性に関する予後情報を提供するための方法であって、(a)腫瘍から得られた生物学的試料中のmiR−31遺伝子産物のレベルを決定するステップと、(b)該レベルを対照レベルと比較するステップとを含み、(i)(a)で決定されたレベルが対照レベルより低い場合に、腫瘍が予後不良であるとみなされるか、(ii)(a)で決定されたレベルが対照レベルより高い場合に、腫瘍が予後良好であるとみなされる方法をさらに提供する。「腫瘍の予後」についての、例えば腫瘍が予後良好または予後不良である、および類似の表現への言及は、そのような腫瘍を有する被験体が、それぞれ予後良好または予後不良であることを意味することに留意されたい。いくつかの実施形態において、本発明の予後方法は、癌、例えば乳癌についての治療を必要とする被験体を準備するステップを含む。いくつかの実施形態において、本発明の予後方法は、癌、例えば乳癌についての治療を必要とする被験体を診断するステップを含む。
miR−31に基づく予後方法において用いられる生物学的試料は、典型的には、被験体から単離された細胞を含むか、またはそれに由来することになる。細胞は、典型的には、腫瘍細胞、例えば乳腺腫瘍細胞を含むであろう。試料は、例えば手術試料、組織生検試料、細針生検試料、針生検試料であり得る。試料は、当該技術において公知の方法を用いて得てよい。試料は、1または複数の加工ステップに供することができる。いくつかの実施形態において、試料は、凍結および/または固定される。いくつかの実施形態において、試料は、切片化され、かつ/または例えばパラフィンに包埋される。いくつかの実施形態において、腫瘍細胞、例えば上皮腫瘍細胞は、少なくともいくらかの周囲間質組織(例えば間質細胞および/または細胞外基質)から分離されている。目的の細胞は、例えば組織マイクロダイセクション、例えばレーザキャプチャマイクロダイセクションを用いて単離できる。
いくつかの実施形態において、試料の細胞は、可溶化されている。核酸またはポリペプチドは、単離してよい。いくつかの実施形態において、場合によって試料から単離されたRNAは、逆転写および/または増幅される。いくつかの実施形態において、短いRNA(例えば約200ヌクレオチド未満)を、より長い核酸から分離する。RNA、例えばmiR−31のようなmiRNAの検出のために、広範囲の溶液相または固相方法が利用可能である。適切な方法は、例えばハイブリッド形成法に基づくアプローチ(例えばヌクレアーゼプロテクションアッセイ、ノザンブロット、マイクロアレイ、in situハイブリッド形成法)、増幅に基づくアプローチ(例えば逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(リアルタイムPCR反応であり得る)または配列決定(例えばRNA転写産物を定量するためにハイスループット配列決定技術を用いるRNA−Seq(例えばWang, Z.ら、Nature Reviews Genetics 10巻、57〜63頁、2009年を参照されたい))を含む。興味のあるいくつかの実施形態において、定量PCR(qPCR)アッセイを用いる。その他の方法は、電気化学的検出、生物発光に基づく方法、蛍光相関分光法などを含む。少なくとも部分的にロックド核酸(LNA)で構成されるプローブは、有用である。いくつかの実施形態において、miR−31は、ホルマリン固定試料中でin situハイブリッド形成法を用いて検出される。プローブとのインキュベーションの前に、組織を、RNAの5’ホスフェートをタンパク質側鎖と不可逆的に連結する水溶性固定液であるEDCで処理する。例えばPena, Jら、Nature Methods 6巻、139〜141頁、2009年を参照されたい。miRNAを単離、検出および/または定量するためのキットは、Ambion/Applied BiosystemsからのmiRvana(商標)キット;副木−ライゲーション技術によるトータルRNAからの成熟miRNAおよび小型RNAの標識および検出のための方法であるUSB Corp.(Affymetrix)からのmiRtect−IT(商標)miRNA標識および検出キットのように商業的に入手可能である。副木−ライゲーション技術は、miRNAと検出オリゴヌクレオチドとの塩基対を形成するためにmiRNA特異的ブリッジオリゴヌクレオチドを用いる核酸ハイブリッド形成アッセイである。捕捉されたmiRNAは、その後、検出オリゴヌクレオチドとライゲーションされる。例えばMaroney, PAら、Nature Protocols、13巻(1号)279〜287頁、2008年を参照されたい。適切な対照および正規化手順を用いて、miR−31発現を正確に定量できることが理解されよう。例えば、値は、その発現が癌および/または転移と相関しない5S RNAまたはマイクロRNAのような小型RNAの発現に基づいて正規化できる。値は、異なる試料が含有する目的の細胞タイプ、例えば癌細胞対非癌細胞の割合が異なり得るという事実を根拠として正規化することもできる。例えば、間質細胞、例えば線維芽細胞のパーセンテージは、間質細胞特異的マーカーの発現を測定することにより評価し、全体的な結果を、腫瘍細胞中に特異的なmiR−31発現を正確に反映するように調整してよい。本発明のあるいくつかの実施形態において、miR−31発現のレベルは、少なくとも10の異なる遺伝子(例えば少なくとも20、30、50または100遺伝子)の発現が測定される(例えばマイクロアレイを用いて)遺伝子発現プロファイルの部分として測定されない。本発明のあるいくつかの実施形態において、例えばmiR−31発現が、少なくとも10の異なる遺伝子の発現が測定される(例えばマイクロアレイを用いて)遺伝子発現プロファイルの部分として測定される場合、miR−31発現のレベルは、全体的な遺伝子発現プロファイルに対するその寄与とは別個の転移の可能性の指標または予後指標として用いられる。あるいくつかの実施形態において、本発明の方法は、miR−31発現レベルを、遺伝子発現プロファイルに対するmiR−31の寄与に少なくとも部分的に依存しない様式で、腫瘍の攻撃性、転移の可能性または予後の指標として用いるステップを含む。一実施形態において、miR−31レベルは、遺伝子発現プロファイルの部分として評価されるが、miR−31について得られた結果は、全体的な遺伝子発現プロファイルに基づく分類への寄与因子としてのその使用とは異なる様式で分析されるかまたは用いられる。発現レベルmiR−31標的遺伝子は、任意の適切な方法を用いて評価してよい。mRNAまたはタンパク質のいずれのレベルを測定してもよい。mRNAを測定するための例示的な方法は、ハイブリッド形成に基づくアッセイ、ポリメラーゼ連鎖反応アッセイ、配列決定、in situハイブリッド形成法などを含む。タンパク質レベルを測定するための例示的な方法は、ELISAアッセイ、ウェスタンブロット、質量分析法または免疫組織化学法を含む。
miR−31に基づく予後アッセイの結果は、被験体についての治療計画を選択するために有用であり得る。例えば、このような結果は、被験体が、1または複数の化学療法剤(化学療法)、ホルモン療法またはトラスツズマブのような抗HER2抗体の施与を受けるべきかどうか、例えばそれが有益である可能性があるかどうかを決定するために有用であり得る。いくつかの実施形態において、「化学療法剤」とは、細胞傷害性または細胞増殖抑制性の特性を有し、特定の細胞タイプ(複数可)に特異的または比較的特異的であるホルモン経路と相互作用する(例えば干渉する)ことにより主に作用しない抗腫瘍薬(抗悪性腫瘍薬とも呼ばれる)のことをいう。例示的な化学療法剤は、代謝拮抗剤、アルキル化剤、微小管安定化剤または阻害剤(例えばタキサン)、トポイソメラーゼ阻害剤およびDNA挿入剤(例えばアントラサイクリン抗生物質)を含む。このような薬剤は、通常、全身投与される。しばしば、複数の薬剤が投与される。乳癌のための例示的な計画は、CMF(シクロホスファミド、メトトレキセートおよび5−FU)、AC(ドキソルビシンおよびシクロホスファミド)、およびアントラサイクリンに基づく計画を含む。「ホルモン療法」とは、特定の細胞タイプ(複数可)に特異的または比較的特異的であるホルモン経路と相互作用する(例えば干渉する)ことにより主に作用する抗腫瘍薬の投与のことをいう。「アジュバント療法」とは、1または複数の抗腫瘍薬を、手術および/または放射線照射のような局所療法と結び付けて、例えば局所療法の後に投与することをいう。アジュバント療法は、癌が大部分または完全に根絶されたように見受けられるが、再発の危険性がある場合に用いてよい。このような療法は、原発腫瘍部位での残存細胞を排除し、かつ/または散在したいずれの細胞も排除することを補助し得る。「ネオアジュバント療法」とは、例えば原発腫瘍を収縮させるために局所療法の前に施与されるアジュバント療法のことをいう。
いくつかの実施形態において、本発明の予後方法は、アジュバント療法、例えばアジュバントホルモン療法および/またはアジュバント化学療法を必要としない癌患者(例えば、このような治療を行わずに臨床的に明確な転移を経験しない可能性が非常に高い患者)を同定するために用いてよい。このような治療は、著しい副作用を引き起こし得るので、それが有益でないと考えられる個体にそのような治療を施与することを回避することが有益である。いくつかの実施形態において、本発明の予後方法は、再発および/または転移の危険性が高く、よってアジュバント療法が有益である癌患者を同定するために用いてよい。いくつかの実施形態において、本発明の予後方法は、その他の予後指標に基づいて危険性が高いと考えられない(よってアジュバント療法を受けないことがある)が、実際には再発および/または転移の危険性が高い癌患者を同定するために用いてよい。本発明の予後アッセイの結果は、特定のタイプの化学療法計画を選択するため、ならびに/または治療後の転移再発について被験体を監視するために用いる手順のタイプおよび/もしくはそのような手順を行う頻度を選択するために有用であり得る。例えば、転移の危険性が高いと分類された被験体は、危険性が低いと分類された被験体よりもより高い頻度で評価され得る。よって、予後方法のいずれも、アッセイにより得られた情報を用いて、癌に罹患しているかもしくは癌の危険性がある被験体の治療または監視の計画を選択するか、あるいはアジュバント療法を行うことなく悪い転帰(例えば癌に関連する死亡または再発)の危険性を推定することを補助するステップをさらに含み得る。いくつかの実施形態において、上記の方法のいずれも、アッセイの結果に少なくとも部分的に基づいて、例えばmiR−31遺伝子産物のレベルに部分的に基づいて治療を勧めるかまたは治療を施与するステップを含むことができる。いくつかの実施形態において、上記の方法のいずれも、(i)腫瘍が予後良好であるとみなされる場合に、化学療法(例えばアジュバント化学療法)を被験体が受けないことを勧めるステップ、または(ii)腫瘍が予後不良であるとみなされる場合に、化学療法(例えばアジュバント化学療法)を被験体が受けることを勧めるか、もしくはそのような化学療法を施与するステップを含むことができる。
miR−31に基づく方法は、1もしくは複数の認識された臨床病理学的特徴を有するか、かつ/または遺伝子発現プロファイルに基づいて特定のクラスに含まれる腫瘍を有する被験体についての予後情報を提供するために用いてよい。当該技術において公知であるように、乳癌は、組織学的サブタイプ(例えば乳管;小葉;混合)、組織学的グレード(グレード1、2、3);エストロゲン受容体(ER)および/またはプロゲステロン受容体(PR)の状態(陽性(+)または陰性(−))、HER2(ERBB2)発現の状態、ならびにリンパ節の関与のようないくつかの異なる臨床病理学的特徴に基づいて分類できる。例えば、以下の乳癌サブタイプは、エストロゲン受容体(ER)またはプロゲステロン受容体(PR)の発現と、ヒト上皮成長因子受容体2(Her2)とに基づいて、例えば免疫組織化学法(IHC)により評価して規定できる:ER+、Her2+;ER+、Her2−;ER−、Her2+;およびER−、Her2−。発現のレベルは、これらのサブタイプをさらに分割するために用いることができる。HER2遺伝子座の増幅は、例えば蛍光in situハイブリッド形成法(FISH)を用いて評価できる。乳癌は、遺伝子発現プロファイルに基づいて分子サブタイプ、例えば管腔細胞型A、管腔細胞型B、ERBB2関連型、基底膜細胞型および正常型に分類することもできる(例えばSorlie, T.ら、2001年およびDesmedt, C.ら、2008年を参照されたい)。
全ての乳癌の約半数が、組織学的グレード1または3状態(それぞれ再発の危険性が低い、または高い)に割り当てられるが、腫瘍の実質的なパーセンテージ(30%〜60%)は、組織学的グレード2として分類され、このことは、再発の危険性が中間であるので、臨床上の決定を行うためにあまり有益でないことが報告されている(Sotiriou
Cら、J Natl Cancer Inst.、98巻(4号):262〜72頁、2006年)。この背景において、改良された予後方法は、著しく有用であり得る。いくつかの実施形態において、本発明の方法を、組織学的グレード2として分類された腫瘍に用いて、例えば組織学的グレード2腫瘍を高再発危険性群と低再発危険性群とに分類する。いくつかの実施形態において、本発明の方法を、組織学的グレード2として分類された腫瘍に用いて、例えば組織学的グレード2腫瘍を高再発危険性群と低再発危険性群とに分類する。いくつかの実施形態において、本発明の方法をER+である腫瘍に用い、他の実施形態において、本発明の方法をER−である腫瘍に用いる。いくつかの実施形態において、本発明の方法をHER2陽性である腫瘍に用い、他の実施形態において、本発明の方法をHER2陰性である腫瘍に用いる。特に興味があるいくつかの実施形態において、本発明の方法をER−/HER2−である腫瘍に用いる。特に興味がある他の実施形態において、本発明の方法を、エストロゲンおよびプロゲステロン受容体ならびにHER2の発現について陰性である(「トリプルネガティブ」)腫瘍に用いる。いくつかの実施形態において、被験体は、リンパ節の関与を有さず、すなわち被験体は「リンパ節転移陰性」(LNN)である。いくつかの実施形態において、被験体は、ステージIまたはステージII乳癌である。いくつかの実施形態において、被験体は、タモキシフェンまたは別の抗エストロゲン薬、例えばラロキシフェンもしくはトレミフェンのような別の選択的エストロゲン受容体調節薬で治療されている。いくつかの実施形態において、被験体は、予め規定された年齢の群または範囲、例えば50歳以下、60歳以下、40〜60歳などにあてはまる。本明細書で特に言及していなくても、任意の年齢の群または範囲を選択してよい。
いくつかの実施形態において、miR−31に基づく予後アッセイは、2番目のアッセイ(または複数のアッセイ)の結果のようなさらなる情報および/または臨床病理学的情報と一緒に用いられる。いくつかの実施形態において、このような情報は、例えば、被験体の年齢、腫瘍のサイズ、リンパ節の関与、腫瘍の組織学的グレード、ER/PR状態、および/またはHER2状態などを含む。いくつかの実施形態において、miR−31に基づくアッセイからの情報は、コンピュータプログラムAdjuvant!Online(https://www.adjuvantonline.com/index.jsp)のような意思決定または危険性評価ツールと一緒に用いる。Adjuvant!の初期のバージョンの基本的なフォーマットは、Ravdin、Siminoff、DavisらJCO 19巻(4号)980〜991頁、2001年の文献に記載された。いくつかの実施形態において、2番目のアッセイは、MammaPrint(登録商標)(Agendia BV、Amsterdam、the Netherlands)、Oncotype DX(商標)(Genomic Health、Redwood City、CA)、Celera Metastasis Score(商標)(Celera,Inc.、Rockville、MD)、Breast BioClassifier(ARUP、Salt Lake City、UT)、ロッテルダムシグネチャー76遺伝子パネル(Erasmus University Cancer Center、Rotterdam、The Netherlands)または浸潤性遺伝子シグネチャー(OncoMed Pharmaceuticals、Redwood City、CA)または腫瘍を(例えば高危険性群または低危険性群に)、複数の遺伝子の発現レベルに基づいて、例えばマイクロアレイもしくは多重RT−PCRアッセイを用いて分類するNuvoSelect(商標)アッセイ(Nuvera Biosciences、Woburn、MA)のような遺伝子発現プロファイリングアッセイである。2つ以上のアッセイに関して「一緒に用いる」の句は、2つ以上のアッセイを特定の腫瘍に対して用いることを意味する。例えば、miR−31に基づくアッセイを、少なくとも10の異なる遺伝子(「分類指標遺伝子」)の発現レベルを用いて腫瘍が分類される遺伝子発現プロファイリングアッセイと一緒に用いてよい。このようなアッセイは、対照遺伝子および分類指標遺伝子の発現を典型的に測定することが理解されよう。いくつかの実施形態において、miR−31に基づくアッセイは、HOXB13およびIL−17B遺伝子の発現比を用いて腫瘍が分類されるH:I(商標)試験(AvariaDX、Carlsbad、CA)と一緒に用いられる。いくつかの実施形態において、miR−31に基づく予後アッセイは、抗体に基づくアッセイ、例えばProEx(商標)Br(TriPath Oncology、Durham、NC)、Mammostrat(登録商標)(Applied Genomics,Inc.、Huntsville、AL)、またはeXaagenBC(商標)(eXagen Diagnostics,Inc.、Albuquerque、NM)のようなFISHに基づく試験と一緒に用いられる。miR−31に基づくアッセイは、いくつかの方式で2番目のアッセイと一緒に用いてよい。例えば、2つの試験の結果が一致しない場合(すなわち、一方の試験は、被験体の危険性が高いことを予測し、他方は、被験体の危険性が低いことを予測する)、被験体を治療してよい。いくつかの実施形態において、結果が一致する場合に、確信が増大し得る。例えば、両方の試験が、被験体の危険性が低いことを示す場合、アジュバント化学療法を施与しない決定の確信が増大し得る。
本発明は、本発明のmiR−31に基づく予後アッセイを行うために適する試薬を含むキットを提供する。このようなキットは、例えば(i)miR−31もしくはmiR−31前駆体を検出し、逆転写し、かつ/または増幅するためのプローブまたはプライマー(場合によって標識され、かつ/または支持体と結合している)、(ii)miR−31標的遺伝子から転写されたmRNAを検出し、逆転写し、かつ/または増幅するためのプローブまたはプライマー、(iii)miR−31標的遺伝子によりコードされるタンパク質を検出するための抗体、(iv)1または複数の対照(例えば、miR−31を検出もしくは増幅しないプローブまたはプライマー)を含有してよい。場合によって、キットは、例えば紙または電子フォーマット(例えばコンピュータ読み取り可能媒体)での成文資料、例えば使用説明書を含む。使用説明書は、アッセイを行うための指図ならびに/または例えば腫瘍の分類、転移の可能性および/もしくは予後に関する結果の解釈についての指図を含んでよい。このような資料は、オンラインで提供することもできる。いくつかの実施形態において、本発明は、miR−31に基づくアッセイを行うように適合またはプログラムされたシステムを提供する。システムは、1または複数の装置(例えばPCR装置)および/またはコンピュータ処理機を含んでよい。システムには、例えば腫瘍試料中のmiR−31の検出および/もしくは定量のために選択されたかまたは最適化されたパラメータでプログラムされていてよい。システムは、複数の試料の並行したアッセイを行うように適合されていてよく、かつ/または結果の解釈を行う適切なソフトウェアを有してよい。システムは、適切な入力および出力デバイス、例えばキーボード、ディスプレイなどを含み得る。
いくつかの実施形態において、miR−31に基づくアッセイは、アッセイを行い、場合によって結果の解釈を行うことを特別に限定していることもある1または複数の中央試験施設にて行われる。後者の場合、試料は実験室に送られ、アッセイの結果が提供される。本発明は、(a)試験施設に被験体から得られた試料と(b)本発明のmiR−31に基づくアッセイを行うための指示(および場合によって、ICH、FISH、遺伝子発現プロファイルまたは本明細書に記載されるその他のアッセイのような1または複数のさらなるアッセイを行うための指示)とを試験施設に提供するステップを含む方法を提供する。本発明は、(a)被験体から得られた試料を試験施設に提供するステップと、(b)本発明の予後アッセイの結果を受領するステップとを含む方法も提供する。本発明は、さらに、本発明の予後アッセイの結果を例えば電子的に提供するステップを含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、提供される結果は、付随する予後情報とともにまたはなしで、試料に対して行った測定結果を含む。本発明は、被験体から試料を得た場所から離れた試験施設にてアッセイが行われ得ることを意図する。試料および/または結果が、本発明の1もしくは複数のステップを行い得るか、またはその結果を伝達もしくは受領し得る1または複数の異なる実体を通して伝達され得ることも意図する。このような作用の全ては、本発明の範囲内である。
III.miR−31もしくはmiR−31標的遺伝子のレベルまたは活性の変調
本発明は、あるいくつかの実施形態において、miR−31および/または1もしくは複数のmiR−31標的遺伝子のレベルあるいは活性を変調するステップを含む多様な方法を提供する。変調は、細胞もしくは生物におけるmiR−31および/または1もしくは複数のmiR−31標的遺伝子の量あるいは活性における質的または量的な変化、変更または改変(例えば増加または減少)を引き起こすかあるいは促進することを含み得る。miRNAのレベルまたは活性を変調するための多様な方法は、本発明において有用である。細胞を、in vitroにて、取り上げられかつmiRNA発現もしくは活性を変調する分子と接触させることができるか、またはそのような分子を被験体に投与できる。miRNA、miRNA前駆体またはmiRNAもしくはmiRNA前駆体に似せた合成オリゴヌクレオチドを細胞に導入して、miRNA標的遺伝子発現の阻害の増加をもたらすことができる。例えば、Pre−miR(商標)miRNA前駆体分子(Ambion)は、内因性成熟miRNAを模倣するように設計された小型化学改変2本鎖RNA分子である。miRNAまたはmiRNA前駆体の転写のための鋳型を提供する核酸を細胞に導入し、その中で安定的または一過的に発現させることができる。miRNA前駆体を発現するベクターは、当該技術において周知であり、例えばOpen Biosystemsから市販されている。このようなベクターは、目的のmiRNA配列を挿入して、miRNA前駆体の転写のための鋳型を創出するための部位、miRNAフランキング配列、miRNA前駆体配列の転写を指図するプロモーターを含有してよい。例えば、Dickens NGら、Nature Genetics、37巻(11号):1289〜1295頁、2005年を参照されたい。
miRNAは、多様なアプローチにより阻害できる。いくつかの実施形態において、miR−31は、miR−31またはmiR−31前駆体に相補的なオリゴヌクレオチドを細胞に導入する(例えばin vitroで)か、またはこのようなオリゴヌクレオチドを被験体、例えばヒトに投与することにより阻害される。時に「antagomir」とも呼ばれるオリゴヌクレオチドは、miR−31またはmiR−31前駆体と完全に相補的である必要はなく、例えば、これは、1、2、3、4、5もしくはそれより多いミスマッチを有してよく、かつ/またはそれと少なくとも70%、少なくとも80%もしくは少なくとも90%の相補性を有してよい。いくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチドは、約17nt〜約50ntの長さ、例えば約19〜25ntの長さである。例えばKrutzfeldt Jら、Nature 438巻:685〜9頁、2005年を参照されたい。いくつかの実施形態において、このようなオリゴヌクレオチドは、細胞において発現される(Scherr, M.ら、Nucleic Acids Res.、35巻(22号):e149頁、2007年)。その他の実施形態において、miRNAは、特定のmiRNAについての多重結合部位を含むRNAを細胞内で発現させるか、または特定のmiRNAについての複数の結合部位を含む核酸を細胞に導入するステップを含むmiRNAスポンジアプローチを用いて阻害される(例えば、Ebert, M.S.ら、MicroRNA sponges: competitive inhibitors of small RNAs in mammalian cells. Nat Methods 4巻、721〜726頁ならびに実施例4および5を参照されたい)。
オリゴヌクレオチドは、1もしくは複数の非標準ヌクレオチド、改変ヌクレオチド(例えば改変塩基および/または糖を有する)またはヌクレオチド類似体を含有してよく、かつ/あるいは改変主鎖を有してよい。いくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチドは、1または複数の非核酸部分と結合する。いくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチドは、標準的RNAまたはDNAと比較して1または複数の改変を有して、RNアーゼからの保護ならびに/または組織および/もしくは細胞による取り込みの増進、半減期の増大などのような薬理学的特性を少なくとも部分的に提供する。いくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチドは、糖の部分的もしくは完全な2’−O−メチル化または2’−O−メトキシエチル修飾、ホスホロチオエート主鎖および/あるいは3’末端のコレステロール部分を有することにより、標準的RNAまたはDNAとは異なる。いくつかの実施形態において、モルホリノオリゴヌクレオチドを含む核酸またはロックド核酸が用いられる。米国特許出願公開第20080171715号、第20070213292号およびPCT公報WO/2006/137941、WO/2008/025025は、miRNAを変調するために有用な多様な化合物および方法を開示する。miRNAのレベルまたは活性を変調するいくつかのある作用物質が、多様な供給業者から入手可能である(例えばThermo Scientific、Ambion)。
いくつかの実施形態において、miRNA変調剤は、細胞侵入性ペプチドのような細胞取り込みを増加させる部分と物理的に会合している。いくつかの実施形態において、miR−31変調剤は、ターゲティング部分と物理的に会合し、該部分は、変調剤を目的の細胞タイプに向けて標的させる。いくつかの実施形態において、ターゲティング部分は、上皮細胞、例えば乳房上皮細胞の表面に曝露された分子またはその一部分と結合する。いくつかの実施形態において、ターゲティング部分は、癌細胞、例えば乳癌細胞の表面に曝露された分子またはその一部分と結合する。いくつかの実施形態において、ターゲティング部分は、腫瘍抗原と結合する。いくつかの実施形態において、ターゲティング部分は、受容体、例えばホルモン受容体と結合する。ターゲティング部分は、例えば抗体、アプタマー、ペプチド、糖、小分子などであり得る。「物理的に会合する」2つ以上の部分は、直接もしくは第3部分を介して互いに共有結合または非共有結合してよい。作用物質を細胞にin vitroまたはin vivoで送達するために多様な組成物および方法を用いることができる。例えば、作用物質は、リポソーム、リポプレックスまたはポリマーに基づく粒子、例えば1もしくは複数の生体適合性ポリマーまたはポリ(ラクチド−グリコリド)、コポリオキサレート、ポリカプロラクトン、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシ酪酸および/もしくはポリ無水物を含むコポリマーで少なくとも部分的に構成されたマイクロ粒子またはナノ粒子のような種々のタイプの粒子に組み込まれるか、あるいは結合させることができる。
miR−31標的遺伝子の発現は、例えば、RNA干渉(RNAi)とも呼ばれるRNAサイレンシングを用いて阻害でき、これは、遺伝子発現の配列特異的なサイレンシングが、組み込まれた短いRNA鎖を有するRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)により行われるプロセスを包含し、この鎖が、相補性を有するmRNAの配列特異的分解もしくは翻訳抑制を指図または「手引き」する。短いRNAとmRNAとの相補性は、完全(100%)である必要はないが、遺伝子発現の阻害をもたらすのに十分であることだけが必要である。例えば、mRNAと短いRNA鎖のハイブリッド形成により形成される構造の相補性の程度および/または特徴は、鎖が、(i)RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)中のmRNAの切断を手引きし、かつ/または(ii)RISCによるmRNAの翻訳抑制を引き起こすことができるようなものであり得る。短いRNAは、しばしば、RISCに、短い2本鎖RNA(dsRNA)の部分として組み込まれる。RNAiは、哺乳類細胞において種々の方法で人工的に達成してよい。例えば、RNAiは、適切な短い2本鎖核酸を細胞に導入するか、または細胞内でプロセシングされてこのような短いdsRNAを生じる核酸を細胞内で発現させることにより達成してよい。用語「RNAi作用物質」は、哺乳類細胞においてRNAサイレンシングを達成するために用い得る核酸を包含する。例示的なRNAi作用物質は、短いヘアピンRNA(shRNA)、短い干渉RNA(siRNA)およびマイクロRNA前駆体である。siRNAは、典型的には、互いにハイブリッド形成して2本鎖を形成する2つの別々の核酸鎖を含む。これらは、in vitroで、例えば標準的な核酸合成技術を用いて合成できる。これらは、広範囲の改変ヌクレオシド(例えば改変塩基を含む)、改変主鎖などを含み得る。RNAiもしくはオリゴヌクレオチドのその他の使用について有用であると当該技術で認識されている任意の改変または類似体を用いることができる。いくつかの改変は、安定性、細胞取り込み、効力などの増加をもたらす。あるいくつかの実施形態において、siRNAまたはshRNAは、約19ヌクレオチドの長さの2重鎖を含み、ここで、一方または両方の鎖は、1〜5ヌクレオチドの長さ(例えば2ヌクレオチド)の3’突出を有し、これはデオキシリボヌクレオチドで構成されてよい。shRNAは、優勢に非自己相補性の領域で分けられている2つの相補性部分を含有する1本鎖核酸を含む。相補性部分がハイブリッド形成して2本鎖構造を形成し、非自己相補性領域が、2重鎖の一方の鎖の3’末端と他方の鎖の5’末端とを連結するループを形成する。shRNAは、細胞内プロセシングを受けて、siRNAを生じ得る。あるいくつかの実施形態において、用語「RNAi作用物質」は、siRNA(例えばハイブリッド形成できる2つの別々の鎖)、shRNAまたはマイクロRNA前駆体の転写のための鋳型を含み、このような鋳型を哺乳類細胞に導入して、その一過性もしくは安定的な発現をもたらすように使用できるベクター、例えば発現ベクターも包含する。miR−31標的遺伝子の発現または活性を阻害するその他の方法は、例えば小分子、抗体、アプタマー、ドミナントネガティブアプローチなどの使用を含む。
IV.薬物の発見および特徴決定
本発明は、例えば癌の治療用の化合物の同定、特徴決定および/または評価のための方法を提供する。本発明のあるいくつかの態様は、例えばmiR−31を発現する細胞、例えばmiR−31の発現が低減していないかもしくは不在でない細胞に対する効果と比較して、miR−31の発現が低減しているかもしくは存在しない細胞を選択的に死滅させるかまたはその増殖を阻害する化合物を同定することに関する。このような化合物は、例えば転移の可能性を低減させ、かつ/またはmiR−31発現が低減しているかもしくは存在しない細胞から生じる転移の成長を阻害するための抗腫瘍薬として有用であり得る。
理論と結び付けられることを望まないが、miRNAの発現もしくは活性の異常な低減または不在は、miRNAにより通常は調節される1または複数の遺伝子(複数可)の発現における変更の結果として、あるいくつかの化合物に対する脆弱性の増加をもたらすことがある。同様に、miRNAの発現または活性の異常な増加は、miRNAにより通常は調節される1または複数の遺伝子(複数可)の発現における変更の結果として、あるいくつかの化合物に対する脆弱性の増加をもたらすことがある。このような脆弱性は、変更されたmiRNA発現を有する細胞に対して選択的活性を有する化合物を同定するために利用できる。本発明は、この原理を用いて、目的のmiRNAの発現が変更された、例えば低減された細胞に対して選択的活性を有する化合物を発見することを包含し、ここで、発現の低減は、疾患または望ましくない状態、例えば癌を引き起こすかまたはそれに寄与する能力の増加を細胞に与える。例えば、また理論と結び付けられることを望まないが、細胞に対して増加した転移能力を与えることに加えてmiR−31の発現の低減または不在は、miR−31により通常は調節される1または複数の遺伝子(複数可)の発現における変更の結果として、あるいくつかの化合物に対する脆弱性の増加をもたらすことがある。このような脆弱性は、miR−31発現が低減しているかまたはそれらを欠く細胞に対して選択的活性を有する化合物を同定するために利用できる。本発明は、この原理を用いて、目的のmiRNAの発現が増加された細胞に対して選択的活性を有する化合物を発見することも包含し、ここで、発現の増加は、疾患または望ましくない状態、例えば癌を引き起こすかまたはそれに寄与する能力の増加を細胞に与える。
一実施形態において、本発明は、(a)第2細胞と比較してmiR−31発現または活性が低減しているかまたはそれらを欠く第1細胞を提供するステップと、(b)第1細胞を試験化合物と接触させるステップと、(c)第1細胞の生存または増殖が参照値と比べて低減される場合に、試験化合物を潜在的抗腫瘍化合物として同定するステップとを含む潜在的抗腫瘍化合物を同定する方法を提供する。第1細胞は、遺伝子的に実質的に同一であり得る細胞の集団のメンバーとしてしばしば提供されることが理解されよう。第2細胞と比較してmiR−31の発現または活性が低減しているかまたはそれらを欠く(またはmiR−31発現または活性が低減しているかまたはそれらを欠くように誘導できる)第1細胞は、本明細書において「試験細胞」ということがあり、第2細胞は、「対照細胞」ということがある。いくつかの実施形態において、対照細胞におけるmiR−31の発現または活性は、試験細胞におけるものよりも少なくとも1.2倍、例えば約1.5倍〜約100倍、500倍、または1000倍以上高いことがある。いくつかの実施形態において、試験細胞におけるmiR−31発現または活性は、対照細胞と比較して、少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%以上低減される。いくつかの実施形態において、参照値は、同じ化合物に曝露された(典型的には同じまたはほぼ同じ濃度で)対照細胞を用いて得られる値である。いくつかの実施形態において、miR−31の発現もしくはmiR−31の活性が低減しているかまたはそれらを欠く細胞は、癌細胞(例えば乳癌細胞)であり、参照値は、癌細胞でない細胞、例えば正常乳房上皮細胞を用いて得られる。本発明は、さらに、細胞の生存および/または増殖を阻害する化合物の能力を試験するための方法であって、(a)1または複数の試験細胞を化合物と接触させるステップであって、1または複数の試験細胞が、対照細胞と比較してmiR−31の発現もしくはmiR−31の活性が低減しているかまたはそれらを欠くステップと、(b)化合物による1もしくは複数の試験細胞の生存および/または増殖の阻害のレベルを検出するステップとを含む方法を提供する。種々の実施形態において、試験および/または対照細胞は、初代細胞、不死化していない細胞株、不死化細胞株、形質転換不死化細胞株、良性腫瘍由来の細胞もしくは細胞株、悪性腫瘍由来の細胞もしくは細胞株(原発腫瘍または転移に由来してよい)、トランスジェニック細胞株などであり得る。場合によって、方法は、化合物による1もしくは複数の試験細胞の生存および/または増殖の阻害のレベルを、化合物による1もしくは複数の対照細胞の生存および/または増殖の阻害のレベルと比較するステップをさらに含み、対照細胞(複数可)よりも試験細胞(複数可)に対してより高い阻害効果を有する化合物を同定するステップをさらに含むこともある。化合物による1もしくは複数の対照細胞の生存および/または増殖の阻害のレベルの決定は、1もしくは複数の試験細胞の生存および/または増殖の阻害のレベルの決定の前、並行してあるいはその後に行うことができる。
試験化合物の生物活性のアッセイは、in vitroまたはin vivoで、任意の適切な方法を用いて同定または作製された細胞を用いて、そして試験化合物の効果を試験するための任意の適切なシステムで行ってよい。いくつかの実施形態において、miR−31の発現もしくはmiR−31の活性が低減しているかまたはそれらを欠くように遺伝子改変されたかあるいは処理された非腫瘍原性または腫瘍原性細胞を試験細胞として用いる。例えば、このような細胞は、miR−31遺伝子の変異または欠失を有し得る。miR−31活性を低減または排除するその他の方法が用いられる試験細胞を、本発明において用いてよい。例えば、いくつかの実施形態において、試験細胞は、多重miR−31結合部位を含む核酸を安定的に発現するように遺伝子改変された非腫瘍原性または腫瘍原性細胞である。場合によって、このような核酸の発現は、調節可能な発現制御要素(複数可)、例えば誘導性プロモーターの制御下にある。いくつかの実施形態において、miR−31の発現が天然に(すなわち、意図的な遺伝子改変またはその他の処理によらない)低減しているかまたは存在しない癌細胞(初代細胞または細胞株)を、試験細胞として用いる。いくつかの実施形態において、癌細胞は、実験的に形質転換され、例えば1もしくは複数の癌遺伝子を発現し、かつ/または1もしくは複数の癌抑制遺伝子の発現が低減しているかまたはそれらを欠くようにそれらを工学的に改変することにより腫瘍原性にされている。miR−31の発現もしくはmiR−31の活性が低減しているかまたはそれらを欠く細胞を、対照細胞として用いてよい。対照細胞は、癌細胞であってもよいし、癌細胞でなくてもよい。いくつかの実施形態において、対照細胞は、miR−31の発現が天然に低減しているかまたは存在しない細胞、例えば癌細胞に由来し、対照細胞は、miR−31前駆体をコードするベクターを細胞に導入するか、またはそうでなければmiR−31を発現するように細胞を遺伝子改変することにより作製される。
いくつかの実施形態において、試験細胞および対照細胞は、遺伝子的に一致する。「遺伝子的に一致する」とは、ほぼ同一のゲノムを有する細胞または細胞の集団を含み、例えばそれらのゲノムは、少なくとも95%、98%、99%、99.5%、99.9%、または99.99%以上同一である。必要に応じて、例えば試験細胞と対照細胞のゲノムの全てまたは重要な部分(例えば少なくとも1%、5%または10%)を配列決定して比較することにより、正確なまたはおおよその同一性レベルの測定を確立できる。典型的には、遺伝子的に一致する細胞は、同じ被験体に由来するか、またはマウスもしくはラットのようなある特定の種の場合は、特定の近交系に属する異なる対照に由来する。本発明のいくつかの実施形態において、遺伝子的に一致する細胞は、同じ組織試料に由来する。本発明のいくつかの実施形態において、試験細胞および対照細胞は、同じ細胞または遺伝子的に一致する細胞の同じ最初の集団に由来し、本発明の方法で用いられる前に2回、5回、10回、15回、20回、25回、30回、35回、40回、50回、60回、70回、80回、90回または100回を超えない細胞分裂を受けることになる。本発明は、本発明の方法を行うために適する細胞株の遺伝子的に一致する対を提供し、ここで、対の一方の細胞株は、他方の細胞株と比較してmiR−31の発現もしくはmiR−31の活性が低減しているかまたはそれらを欠く(またはmiR−31の発現もしくはmiR−31の活性が低減しているかまたはそれらを欠くように誘導できる)。例えば、いくつかの実施形態において、試験細胞または対照細胞のいずれかは、miR−31遺伝子における工学的に作製された変異のような特異的遺伝子改変を有する。いずれの理論にも結び付けられることを望まず、そして本発明をいずれの方法でも限定することなく、遺伝子的に一致し、かつ試験細胞ではmiR−31発現(または等価のもの)が低減しているかまたは存在せず、対照細胞が「通常の」miR−31発現を有することにおいて主にまたは本質的に異なる試験細胞および対照細胞を用いることにより、本発明は、試験細胞と対照細胞におけるその他のおそらくは未知の遺伝子的または後成的な違いによるよりもむしろ、miR−31発現レベルの違いの結果として生じる試験細胞と対照細胞における違いの結果として、試験細胞対対照細胞に異なって影響する化合物(例えば試験細胞の生存および/または増殖を、それらが対照細胞の成長を阻害する程度よりも著しく大きい程度で阻害する化合物)を同定することを可能にする。
いくつかの実施形態において、試験細胞および対照細胞は、乳房細胞、例えば乳房上皮細胞である。多数の乳房細胞株が公知であり、本発明の実施形態において用いることができる。その例は、184A1、BT20、BT474、BT483、BT549、Hs578T、hTERT−HME1、MCF7、MCF10A、MDA−MB134、MDA−MB157、MDA−MB175、MDA−MB231、MDA−MB361、MDA−MB436、MDA−MB453、MDA−MB468、SKBR3、T47D、UACC812、UACC893、ZR75−1およびZR75−30(ATCC、Manassas、VA、USAから入手可能)を含む。EFM19およびEFM192A(DSMZ、Braunschweig、Germanyから入手可能)。HCC38、HCC70、HCC202、HCC712、HCC1007、HCC1143、HCC1395、HCC1419、HCC1428、HCC1500、HCC1569、HCC1599、HCC1806、HCC1937、HCC1954、HCC2157、HCC2185、HCC2218、HCC2688およびHCC3153(Hamon Center for Therapeutic Oncology Research、UT Southwestern Medical Centerの細胞リポジトリおよび/またはATCCから入手可能)。SUM44PE、SUM52PE、SUM102PT、SUM149PTおよびSUM190PT(Asterand、Detroit、MIから入手可能)。さらにその他の細胞株は、実施例で論じる。いくつかの実施形態において、細胞株は、例えば1もしくは複数の不死化遺伝子および/または癌遺伝子を発現するベクターを導入することにより実験的に作製される。例えば、細胞は、hTERT、SV40LTおよびH−Rasを発現するようにそれらを工学的に遺伝子改変することにより腫瘍原性にすることができる。
当業者は、場合によって腫瘍原性または非腫瘍原性の系統を選択できる。当業者は、組織学的サブタイプ、分子サブタイプ、ERおよび/またはPR受容体の状態、HER2状態、増殖速度などのような目的であり得る特徴に少なくとも部分的に基づいて細胞株を選択することもできる。その他の実施形態において、試験細胞および対照細胞は、非乳癌細胞である。任意のタイプの癌細胞を種々の実施形態において用いてよい。さらにその他の実施形態において、試験細胞および対照細胞は、癌細胞でない。
いくつかの実施形態において、試験細胞および対照細胞は、アッセイを行うために実質的に同一の条件下で別々の容器(例えばマイクロウェルプレートの別々のウェル)中で維持される。試験細胞、対照細胞および1または複数の試験化合物、例えば10、100、1000、10,000またはそれより多くの試験化合物を含むアッセイ系であって、細胞および試験化合物(複数可)が、細胞に対する試験化合物(複数可)の影響を評価するのに適する様式で1または複数の容器内に配置されているアッセイ系は、本発明の態様である。典型的には、容器は、適切な組織培養培地を含有し、試験化合物は、組織培養培地中に存在する。当業者は、特定の細胞タイプを培養するために適切な培地を選択できる。いくつかの実施形態において、培地は、血清または組織抽出物を含有せず、例えば培地は化学的に明確であるが、その他の実施形態において、このような成分が存在する。いくつかの実施形態において、培地は、0.01%、0.05%もしくは0.1重量または容量%以下の血清または組織抽出物を含有する。いくつかの実施形態において、細胞は、プラスチックまたはガラスの表面で培養される。いくつかの実施形態において、細胞は、少なくともいくつかの点において多くの組織で見出される細胞外環境に似せた環境を提供することを意図して、コラーゲン、ラミニン、Matrigel(登録商標)または合成材料、例えば合成ヒドロゲルを含む材料上または材料中で培養される。いくつかの実施形態において、試験細胞および/または対照細胞は、非癌性間質細胞と培養される。いくつかの実施形態において、試験細胞および/または対照細胞は、線維芽細胞と培養される。
いくつかの実施形態において、細胞に対する試験化合物の影響を評価するために、アッセイがex vivoで(例えば培養で)行われる。このようなアッセイは、例えば細胞生存、増殖、浸潤、遊走、アポトーシス、アノイキス、コロニー形成などを測定できる。適切なアッセイは、当該技術において公知である。いくつかの実施形態において、細胞は、3次元培養マトリクスまたは軟寒天で培養される。試験化合物を、典型的に培養培地に加える。いくつかの実施形態において、化合物を、試験細胞(および場合によって対照細胞)と、予め決められた用量(例えば予め決められた濃度)で接触させる。一実施形態において、用量は、約1nMまでであってよい。別の実施形態において、用量は、約1nM〜約100nMであってよい。別の実施形態において、用量は、約100nM〜約1μMであってよい。別の実施形態において、用量は、1μM以上、例えば約10μMまたは100μMまでであってよい。適切な時間、場合によって予め決められた時間のインキュベーションの後に、試験細胞の成長および/または生存に対する化合物または組成物の影響を、当業者に公知の適切な方法により決定する。細胞を化合物と種々の期間接触させることができる。あるいくつかの実施形態において、細胞を、12時間〜20日間、例えば1〜10日間、2〜5日間、または任意の介在する範囲もしくは特定の値にわたって接触させる。細胞は、一過的または連続的に接触させ得る。必要に応じて、化合物を除去した後に生存および/または増殖(またはその他の特徴)を評価できる。本明細書で用いる場合、「抑制する」、「阻害する」または「低減する」および類似の用語は、完全であってもまたはそうでなくてもよい。例えば、細胞増殖は、細胞増殖の抑制、阻害または低減のうちの1つの考慮される影響のせいで完全な停止状態まで低減されてもまたはそうでなくてもよい。いくつかの実施形態において、「抑制する」、「阻害する」または「低減する」は、増殖細胞の増殖を阻害することを含む。いくつかの実施形態において、「抑制する」、「阻害する」または「低減する」は、現在の状態を維持することを含んでよい。例えば、細胞増殖を阻害することとは、非増殖細胞の増殖を妨げること(非増殖状態を維持すること)についていうことがある。細胞生存を阻害することとは、壊死もしくはアポトーシス(例えばアノイキス)によるような1または複数の細胞を死滅させること、および細胞を死に対して感受性にするプロセスについていうことがある。抑制、阻害または低減は、参照レベル(例えば対照レベル)の少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%であってよい。いくつかの実施形態において、対照レベルと比較した変調(例えば抑制、阻害または低減)のレベルは、統計学的に有意である。本明細書で用いる場合、「統計学的に有意」とは、適切な統計学的検定(例えばANOVA、t検定など)を用いて0.05未満のp値、例えば0.025未満のp値または0.01未満のp値のことをいう。あるいくつかの実施形態において、試験細胞および/もしくは対照細胞の生存ならびに/または増殖は、細胞計数アッセイ、細胞膜完全性アッセイ、細胞性ATPに基づく生存性アッセイ、ミトコンドリア還元酵素活性アッセイ、カスパーゼ活性アッセイ、アネキシンV染色アッセイ、DNA含量アッセイ、DNA分解アッセイおよび核断片化アッセイから選択されるアッセイにより決定される。例示的なアッセイは、BrdU、EdUまたはH3−チミジン組み込みアッセイ;ヘキスト色素、DAPI、アクチノマイシンD、7−アミノアクチノマイシンDまたはヨウ化プロピジウムのような核酸色素を用いるDNA含量アッセイ;AlamarBlue、MTT、XTTおよびCellTitre Glo(登録商標)のような細胞代謝アッセイ;細胞質ヒストン関連DNA断片化アッセイ;PARP切断アッセイ;ならびにTUNELアッセイを含む。
いくつかの実施形態において、少なくとも2つの別個の細胞集団を含む細胞の混合物を用い、ここで、これらの集団は、miR−31の発現または活性に関して異なる。例えば、いくつかの実施形態において、第1集団の細胞は、miR−31の発現が低減しているかまたは存在せず、第2集団の細胞はそうでない。いくつかの実施形態において、少なくとも2つの別個の細胞集団を含む細胞の混合物を用い、ここで、これらの集団は、1または複数のmiR−31標的遺伝子の発現に関して異なる。いくつかの実施形態において、第1集団の細胞は、少なくとも1つ(例えば2、3またはそれより多く)のmiR−31標的遺伝子の発現が、同じ細胞タイプの正常細胞と比べて増加しており、第2集団の細胞はそうでない。典型的には、各細胞集団は、検出可能であり、混合物中のその他の細胞集団(複数可)から細胞を区別するために用い得る識別性の特徴を有するであろう。いくつかの実施形態において、識別性の特徴は、容易に検出可能なタンパク質の発現のレベルを含む。容易に検出可能なタンパク質は、例えば蛍光タンパク質(例えばGFP)または基質に対して働いてそれを検出可能にする酵素(例えばルシフェラーゼ、ベータ−グルクロニダーゼ)であり得る。混合物中の2つ以上の細胞集団のそれぞれの検出および場合によって定量を可能にする(例えばFACSまたはその他の適切な方法により)その他の識別性の特徴を用いることができる。細胞表面上で発現されるエピトープと結合する検出可能に標識された結合性物質、例えば抗体を用いることができる。このような物質は、放射活性部分、金属原子もしくはクラスタ、磁性部分、同位元素、蛍光部分、量子ドットなどで標識できる。組成物は、例えば第1集団の1%〜99%の細胞と、第2集団の少なくともいくつかの細胞(例えば1%〜99%)を含むことができ、これは本発明の態様である。いくつかの実施形態において、第1集団の細胞のパーセンテージは、10%〜90%、20%〜80%、30%〜70%、40%〜60%、例えば約50%である。いくつかの実施形態において、2つの集団は、試験化合物の存在下で一緒に培養される。培養は、種々の時点で評価して、miR−31(または1もしくは複数のmiR−31標的遺伝子)の発現が低減しているかまたはそれらを欠く細胞の割合が時間とともに変化したかどうかを決定する。miR−31の発現が低減しているかまたはそれらを欠く細胞の割合が、時間とともに、試験化合物の非存在下でよりも大きい程度で減少する場合、試験化合物は、miR−31の発現が低減しているかまたはそれらを欠く細胞に対して選択的に毒性であり得る。
本方法のいくつかの実施形態において、試験および/または対照細胞の集団を、異なる用量の化合物と接触させる。用量応答曲線を作製でき、ここで、試験用量応答曲線は、複数の用量の化合物による試験細胞の生存、増殖(または任意のその他の関連する特徴、例えば転移関連特徴)の阻害のレベルを示し、対照用量応答曲線は、複数の用量の化合物による対照細胞の生存、増殖(または任意のその他の関連する特徴)の阻害のレベルを示す。いくつかの実施形態において、方法は、試験細胞および/または対照細胞に対する化合物のIC50またはEC50の値を決定するステップを含む。いくつかの実施形態において、試験細胞に対する化合物のIC50またはEC50の値が、対照細胞に対する化合物のIC50またはEC50の値よりも統計学的に有意により小さい場合、化合物は、miR−31の発現が低減しているかまたはそれらを欠く細胞に対して選択的であると同定される。いくつかの実施形態において、試験細胞に対する化合物のIC50またはEC50の値が、対照細胞に対する化合物のIC50またはEC50の値よりも統計学的に有意により小さい場合、化合物は、転移細胞および/または転移する傾向を有する細胞に対して選択的であると同定される。
miR−31の発現もしくは活性が低減しているかまたはそれらを欠く細胞は、miR−31の発現が低減していないかまたは不在でない対照細胞に対する化合物の影響の比較を含まない方法においても用いることができる。例えば、本発明は、(a)正常細胞と比較してmiR−31の発現が低減しているかまたはそれらを欠く第1細胞を提供するステップと、(b)第1細胞を試験化合物と接触させるステップと、(c)第1細胞の生存または増殖が参照値と比べて低減している場合に、試験化合物を潜在的抗腫瘍化合物として同定するステップとを含む、潜在的抗腫瘍化合物を同定する方法を提供する。いくつかの実施形態において、参照値は、化合物と接触させない細胞を用いて得られる値である。
いくつかの実施形態において、試験化合物は、in vivoで、化合物を被験体、例えば非ヒト被験体に投与することにより試験される。いくつかの実施形態において、試験化合物は、上記のもののようなin vitroアッセイを用いてまず同定されることがある。いくつかの実施形態において、試験化合物は、複数の癌細胞、例えば1もしくは複数の腫瘍の形成を誘導するのに十分ないくつかの癌細胞、腫瘍異種移植片などを投与した(例えば移植または注射により)非ヒト被験体に投与される。いくつかの実施形態において、癌細胞は、ヒト起源のもの、例えばヒト乳癌細胞である。いくつかの実施形態において、癌細胞は、例えば注射により循環に導入され、例えば肺、肝臓、骨などにおける腫瘍成長のサイズおよび/または数を監視する。いくつかの実施形態において、癌細胞は、局所的に、例えば器官に、例えば同所的に導入される。いくつかの実施形態において、癌細胞は、皮下導入される。いくつかの実施形態において、癌細胞は、乳腺、例えば乳腺脂肪パッドに導入される。細胞は、Matrigel(商標)、コラーゲンまたは例えば間質環境もしくは細胞外基質を模倣するその他の材料のような物質と一緒に導入できる。いくつかの実施形態において、癌細胞は、非癌性細胞、例えば非癌性線維芽細胞、例えば非癌性乳腺線維芽細胞と一緒に導入される。細胞株は、遺伝子改変して、例えば転移の検出および/または測定を促進するための容易に検出可能なタンパク質を発現できる。非ヒト被験体は、例えばマウスまたはラットのようなげっ歯類であり得る。場合によって、非ヒト被験体は、易感染性、例えばヌード、SCID、NOD−SCID、Rag1−/−、Rag2−/−、および/もしくは胸腺欠損マウスまたは免疫抑制剤の投与により免疫抑制にされたものである。いくつかの実施形態において、試験被験体は、癌になりやすい動物、例えば活性化癌遺伝子を有し、かつ/もしくは癌抑制遺伝子を欠いている動物モデル、または動物が癌を発生しやすくなるようにする条件、化合物もしくは刺激物質に曝露した動物であり、すなわち、動物は、その他の点では実質的に同一であるが、それぞれ、活性化癌遺伝子を有さないか、癌抑制遺伝子を欠いているか、または条件、化合物もしくは刺激物質に曝露されていない動物と比べて癌を発生する可能性が増加している。場合によって、ホルモン、例えばエストロゲンまたはエストロゲン受容体刺激薬を試験被験体に投与する。当該技術において公知の癌の任意の動物モデルを用いることができる。乳癌モデルが特に興味深い。このようなモデルは、例えば、変異体もしくは野生型のERBB−2、TGFアルファ、Wnt−1、c−Myc、IGF−I、IGF−II、変異体p53、SV−40T抗原および/またはサイクリンDを、場合によって組織特異的調節要素(複数可)の制御下で発現するように工学的に改変されたげっ歯類、例えばマウスまたはラットを含む。いくつかの実施形態において、米国特許出願第10/990,993号またはPCT/US2008/085040(公開番号WO/2009/070767)に記載されるもののような動物モデルを用いる。いくつかの実施形態において、動物モデルは、そこから腫瘍が生じると予測されるタイプの細胞、例えば乳癌上皮細胞において容易に検出可能なタンパク質を発現する。このようなタンパク質は、例えば適切なイメージング方法を用いて転移の検出および/または測定を促進し得る。
試験化合物は、被験体に、当該技術において公知の任意の計画により投与できる。例えば、試験化合物を、癌細胞の投与もしくは癌の発生を促進する条件への曝露の前、同時および/または後に投与できる。試験化合物は、定期的に、例えば1日に1、2、3回以上、毎週、2週間毎、もしくは毎月、癌細胞の投与が開始される前または癌細胞が投与された後に投与することもできる。その他の実施形態において、試験化合物は、被験体に継続的に投与される(例えば、インプラント、ポンプ、持続放出製剤などからの放出により)。投与される試験化合物の用量は、化合物の種類、被験体の体重、投与頻度などを含む複数の因子に依存し得る。投与量の決定は、当業者にとって日常的である。あるいくつかの実施形態における例示的用量は、0.1μg〜10,000mg、例えば約1μg〜5000mg、例えば約10μg〜100mgを1日、1週間、1カ月あたり1回もしくはそれより多くまたはその他の時間間隔である。体重の点について、あるいくつかの実施形態における例示的投与量は、0.01〜200mg/kg/日(例えば0.1〜20または1〜10mg/kg/日、例えば約1〜5mg/kg/日)である。
被験体における原発腫瘍および/もしくは転移のサイズならびに/または数、ならびに/あるいは浸潤性、運動性、血管外遊走、遠位部位(導入部位に対して)での生存などのような細胞特性もしくはプロセスは、腫瘍細胞および試験化合物の投与の後に決定できる。このような特徴は、当該技術において公知の任意の手段により非侵襲的に決定できる。例えば、標識された腫瘍細胞(例えば蛍光タンパク質を発現することにより)を、種々のイメージング技術または装置により監視できる。有用なイメージング方法は、核イメージング、光学イメージング(例えば近赤外(NIR)光学イメージング)、陽電子放射断層撮影(PET)(場合によって(18)F−フルオロデオキシグルコース(FDG)を用いる)および核磁気共鳴イメージング(MRI)を含む。標識されたイメージング剤を投与でき、これは、それらを導入された細胞またはその子孫に選択的に標的させるターゲティング部分と物理的に会合してよい。化合物が腫瘍サイズおよび/または転移に影響するかどうかを決定するために、被験体における腫瘍のサイズおよび/または数(または任意の目的の細胞特性もしくはプロセス)を、参照標準(例えば対照値)と比較できる。参照標準は、癌細胞の投与の同じ計画と、場合によってモック化合物投与を与えられた対照の被験体を用いて得ることができる。モック投与は、試験化合物を欠くか、または不活性であると考えられる化合物を含有することができる。参照標準は、未処理の被験体において予測される腫瘍もしくは転移のサイズおよび/または数(または任意の目的の細胞特性もしくはプロセス)を表す1つの数値、複数の数値または数値の範囲であり得、これは、未処理被験体の代表的な試料を観察することにより決定できる。
任意の化合物またはその組合せを、本発明の方法において試験できる。化合物は、有機小分子、無機分子、核酸、ポリペプチド、抗体などであり得る。いくつかの実施形態において、評価される核酸またはポリペプチドは、例えば核酸またはポリペプチドをコードするベクターを細胞に導入することにより、組換え核酸技術を用いて細胞において発現される。例えば、多様なタンパク質をコードするcDNAライブラリー(天然または人工的配列を有してよい)を評価してよい。化合物は、例えば化学物質ライブラリー、天然物ライブラリー、コンビナトリアルライブラリーなどのメンバーであり得る。化学物質ライブラリーは、種々の化学構造を含むことができ、そのうちのいくつかは、公知化合物、公知化合物の類似体または別の薬物発見スクリーニングにおいて「ヒット」もしくは「リード」として同定された類似体もしくは化合物であってよく、他のものは、天然物に由来し、さらに他のものは無向性の合成有機化学から生じる。このようなライブラリーからの化合物は、しばしば、マルチウェルプレートに配置される(例えば96、384または1536ウェルプレート)。これらは、適切な溶剤、例えばDMSOに溶解してよい。天然物ライブラリーは、例えば、例えば(1)微生物からのブロスの発酵および抽出または(2)植物もしくは海洋生物の抽出によりスクリーニングのための混合物を創出するために用いられる微生物、動物、植物または海洋生物のコレクションから調製できる。化合物ライブラリーは、Sigma−Aldrich、TimTec(Newark、DE)およびChemBridge Corporation(San Diego、CA)のようないくつかの会社から市販されている。種々の政府および非営利研究機関は、科学界が利用可能な化合物ライブラリーを有する。例えば、国立衛生研究所(NIH)Molecular
Libraries Programを構成するMolecular Libraries Small Molecule Repository(MLSMR)は、例えばハイスループットスクリーニング(HTS)アッセイにおいて用いるための公知および未知の生物活性を有する>300,000の化学的に多様な化合物のコレクションを同定、獲得、維持および分配するために設計されている(https://mli.nih.gov/mli/を参照されたい)。NIH Clinical Collection(NCC)は、ヒト臨床試験で有用な経歴を有するおよそ450の小分子のめっきアレイである。これらの化合物は、公知の安全性プロファイルを有し、非常に薬物に近い。いくつかの実施形態において、薬物は、米国食品医薬品局のような政府取締機関により承認されたもの、あるいは前臨床もしくは臨床開発中または治療薬剤として開発が考慮されている化合物である。いくつかの実施形態において、薬物は、癌、例えば乳癌における使用が承認されており、その他の実施形態において、承認されていない。化合物は、典型的には、標準的な細胞培養培地中に存在しないか、または存在するならば本発明で用いた場合よりも低い量で存在するものである。
本出願人らは、「試験化合物」の範囲ならびに/または本発明の組成物および方法から任意の特定の1つの化合物、複数の化合物または化合物クラスを除外する権利を留保する。いくつかの実施形態において、「試験化合物」は、組織培養培地中で見出されるかまたは組織培養培地の成分として当該技術において公知である化合物、例えば細胞を培養する目的で用いられる化合物でない。いくつかの実施形態において、試験化合物は、組織培養培地中で見出されるかまたは組織培養培地の成分として当該技術において公知であるものであってよいが、組織培養培地の成分として典型的に用いられるものとは異なる濃度で試験化合物として用いられる。いくつかの実施形態において、化合物は、癌を治療するためおよび/または化学療法に付随する副作用を低減するために有用であると当該技術において公知である化合物でない。
本明細書に開示される化合物同定および特徴決定の方法のあるいくつかの結果は、化合物が転移の抑制因子(例えば浸潤−転移カスケードの1または複数のステップの抑制因子)である場合、および/または化合物が転移する傾向を有する細胞の生存または増殖を阻害する場合のように、治療上の目的であり得る。その他の有益な結果は、(a)本発明により同定される作用物質を投与することにより、転帰を損なうことなく化学療法の用量または期間を低減する(または化学療法を全く回避する)能力、(b)本発明により同定される作用物質を投与することにより、転帰を損なうことなく、その他の作用物質と比較して毒性が低減された化学療法剤を用いる能力、および(c)試験被験体の生存の延長を含み得る。臨床上有益な結果を有する化合物は、潜在的化学療法剤であり、そのまま処方してよい。
有用な効果を有すると同定された化合物を選択して、例えば合理的設計を用いて系統的に変更して、結合親和性、結合活性、特異性またはその他のパラメータを最適化できる。例えば、本明細書に記載される方法を用いて第1化合物ライブラリーをスクリーニングし、「ヒット」もしくは「リード」である1または複数の化合物を(例えば転移を阻害するそれらの能力により)同定し、これらのヒットを系統的構造変化に供して、ヒットまたはリードと構造的に関連する第2化合物ライブラリーを創出できる。第2ライブラリーは、次いで、本明細書に記載される方法または当該技術において公知のその他の方法を用いてスクリーニングできる。化合物は、(i)効力の改善、(ii)毒性の低下および/または副作用の低下、(iii)治療作用の開始および/または効果の期間の改変、ならびに/あるいは(iv)薬物動態学的パラメータの改変(吸収、分布、代謝および/または排泄)を達成するように改変または選択できる。
本発明のあるいくつかの実施形態において、本発明の方法を用いて同定または開発された化合物は、対照細胞に対するその活性と比べて試験細胞に対して選択的な活性(例えば生存および/または増殖の選択的阻害、選択的毒性)を示す。例えば、化合物のIC50は、対照細胞に対して、試験細胞について約2、5、10、20、50、100、250、500または1000倍低いことがある。いくつかの実施形態において、化合物のIC50は、miR−31を発現する遺伝子的に一致する細胞についてよりも(例えばそのタイプの細胞について通常のレベルにて)、miR−31の発現が低減しているかまたはそれらを欠く細胞について約2、5、10、20、50、100、250、500または1000倍低いことがある。いくつかの実施形態において、化合物のIC50は、非癌細胞についてよりも癌細胞について約2、5、10、20、50、100、250、500または1000倍低いことがある。いくつかの実施形態において、化合物のIC50は、miR−31発現を欠く非癌細胞についてよりもmiR−31発現を欠く癌細胞について約2、5、10、20、50、100、250、500または1000倍低いことがある。
本発明は、本発明の方法を用いて同定された化合物、例えばmiR−31の発現を欠く癌細胞の生存または増殖を選択的に阻害する化合物の生物学的標的(複数可)を同定することを包含する。用語「生物学的標的」は、本明細書において、生物活性作用物質がそれに対して効果、例えば癌細胞の生存、増殖および/または転移を阻害するような治療上の利益を導く効果を奏する生体分子(例えば被験体の体内に存在する生体分子)について言及する当該技術におけるその意味と一貫して用いられる。例えば、化合物は、1または複数の細胞遺伝子産物に対して直接(物理的相互作用により)または間接的に作用してよい。生物学的標的は、例えば細胞表面または細胞内受容体、酵素、チャネル、分泌タンパク質などであってよい。本発明の方法を用いて同定された化合物の生物学的標的は、さらなる薬物発見の取り組みのための候補である(このような候補は、時には、「薬物発見標的」という)。本発明は、よって、薬物発見取り組みが有用にそれに対して向けられ得る候補生体分子を同定するための方法を提供する。このような生体分子に対して作用することが当該技術において既に公知である化合物は、miR−31発現が低減しているかまたはそれらを欠く癌細胞に対する選択的活性を有する作用物質として有用であり得る。このような作用物質は、本明細書に記載される方法を用いて試験してよい。さらに、当該技術において公知の標準的なスクリーニング方法を、このような生体分子に対して作用する小分子、タンパク質、アプタマー、抗体、核酸(例えばsiRNA)などのようなさらなる化合物を同定するために用いることができる。多様なアプローチを用いて、目的の化合物の1または複数の生物学的標的(複数可)を同定できる。いくつかの実施形態において、RNAiライブラリー(例えばshRNAまたはsiRNAライブラリー)または遺伝子抑制要素(GSE)ライブラリーを用いて、細胞、例えばmiR−31の発現が低減しているかまたは存在せず、化合物による阻害に対して感受性である細胞における個別の遺伝子を阻害する。一実施形態において、cDNAライブラリーを用いて、細胞、例えばmiR−31の発現が低減しているかまたは存在せず、化合物による阻害に対して感受性である癌細胞において各遺伝子を過剰発現させる。特定の遺伝子の阻害または過剰発現が、化合物に対する細胞の感受性を変調する(本発明の種々の実施形態において例えば廃止する、低減するまたは増加する)場合に、遺伝子またはこのような遺伝子の産物は、化合物の標的および/または薬物発見のための標的の候補である。当業者は、適切なアッセイまたはアッセイの組合せを選択するであろう。
その他の実施形態において、化合物を用いて、その分子標的を同定する。任意の適切な方法を標的同定のために用いることができる。化合物は、反応性基またはタグを含むように標識または改変されてよい。反応性基またはタグは、例えばこのような組み込みが化合物の活性に実質的に影響しない部位にて組み込まれてよい。細胞を化合物と接触させ、化合物がその標的(複数可)と相互作用する条件下に維持する。細胞は、試験細胞、例えばmiR−31の発現もしくはmiR−31の活性が低減しているかまたはそれらを欠く細胞であってよいが、そのような細胞である必要はない。これらは、化合物を最初に同定するために用いたものと同じタイプであってよいが、そうである必要はない。場合によって、化合物は、それが物理的に相互作用する生体分子(複数可)と架橋されている。化合物は、次いで、それが結合している生体分子(複数可)と一緒に単離される(例えばいくらかまたは全てのその他の細胞構成成分から除去される、部分的に精製される)。化合物にタグが付加されている場合、タグを用いて化合物を単離してよい。別の実施形態において、アフィニティクロマトグラフィーを用いて、化合物の生物学的標的(複数可)を同定する。化合物は、支持体、例えばクロマトグラフィー樹脂またはその他の支持体と結合し、そのことによりアフィニティマトリクスを形成する。アフィニティマトリクスを細胞可溶化液(例えば試験細胞可溶化液、対照細胞可溶化液)とインキュベートし、次いで洗浄し、結合した生体分子、例えばタンパク質を、例えばSDS含有緩衝液中での煮沸により溶出する。アフィニティマトリクスにより保持されるタンパク質は、例えばSDS/PAGEにより分離し、例えば銀染色または任意の適切な方法により視覚化してよい。これらは、次いで、ゲルから単離してよい。生体分子は、次いで、例えばペプチド配列決定、質量分析法などを用いて同定される。いくつかの実施形態において、試験細胞に選択的に存在し、かつ/または対照細胞に対して試験細胞において化合物と選択的に結合する生体分子は、目的である。その他の実施形態において、マイクロアレイ分析、遺伝子発現の連続分析(SAGE)または類似の技術を用いて、選択されたタイプの細胞、例えば試験細胞、対象細胞、癌細胞などにおける遺伝子発現に対する本発明の方法を用いて同定された化合物の効果を評価する。その発現が化合物への曝露の結果として変調された遺伝子は、化合物の標的および/または薬物送達のための標的であることについての候補である。本発明のその他の実施形態において、当該技術において公知の方法を用いて、タンパク質レベル、局在化および/または改変状態(例えばリン酸化状態)などに対する化合物の影響を決定する。そのレベル、局在化および/または改変状態が、化合物への曝露の結果として変調されたタンパク質は、化合物の標的および/または薬物送達のための標的であることについての候補である。本発明の方法を用いて同定された化合物は、よって、癌の生物学、例えば転移および/または転移する傾向を有する細胞の生存もしくは増殖において重要な役割を有する遺伝子および遺伝子産物を同定するためのプローブとして有用である。このような遺伝子および遺伝子産物は、限定することなく、転移細胞および/もしくは転移する傾向を有する細胞の成長ならびに/または増殖を選択的に阻害するさらなる作用物質を同定する目的のための薬物発見の標的として有用である。
その他の実施形態において、スクリーニングを行って、その阻害が、例えばmiR−31発現が低減していないかまたは不在でない細胞(例えば遺伝子的に一致する細胞)と比較して、miR−31発現が低減しているかもしくは存在しない細胞、例えば癌細胞の生存または増殖の変更、例えば低下をもたらす(または任意のその他の関連する特徴、例えば浸潤能力のような転移と関連する特徴の変更をもたらす)遺伝子を同定する。スクリーニングは、例えばsiRNAまたはshRNAライブラリーを用いて行ってよい。このような遺伝子、例えばmiR−31を用いて生存性の著しい低減、例えば「合成致死性」を示す遺伝子(すなわちmiR−31および同定された遺伝子の両方の喪失が、生存性の大きい低減をもたらす)も、薬物送達についての標的である。
上記のように、本方法は、その異常な発現が疾患、例えば癌に寄与するその他のmiRNAに対して用いることができる。例えば、本発明は、(a)第2細胞と比較してmiRNAの発現もしくは活性が低減しているかまたはそれらを欠く第1細胞を提供するステップであって、miRNAの発現もしくは活性の低減または不在が、腫瘍の発生、進行または転移に寄与するステップと、(b)第1細胞を試験化合物と接触させるステップと、(c)第1細胞の生存または増殖が参照値と比べて低減される場合に、試験化合物を潜在的抗腫瘍化合物として同定するステップとを含む、潜在的抗腫瘍化合物を同定する方法を提供する。参照値は、例えばmiRNAの発現もしくは活性が低減していないかまたは不在でない細胞、例えば非腫瘍細胞を用いて得られた値であってよい。別の実施形態において、本発明は、(a)第2細胞と比較してmiRNAの発現が増加している第1細胞を提供するステップであって、miRNAの発現もしくは活性の増加が、腫瘍の発生、進行または転移に寄与するステップと、(b)第1細胞を試験化合物と接触させるステップと、(c)第1細胞の生存または増殖が参照値と比べて低減される場合に、試験化合物を潜在的抗腫瘍化合物として同定するステップとを含む、潜在的抗腫瘍化合物を同定する方法を提供する。参照値は、例えばmiRNAの発現もしくは活性が増加していない細胞、例えば非腫瘍細胞を用いて得られる値であってよい。
V.細胞に基づくモデル、動物モデルおよびそれらの使用
上で論じたように、本発明は、miR−31発現および/または活性が変更される(例えば増加または減少する)ように遺伝子改変された細胞、例えば癌細胞を提供する。このような細胞(例えばセクションIVおよび/または実施例に記載される任意の細胞)は、薬物送達および/もしくは特徴決定に加えてまたはその代わりに多様な目的のために用いることができる。例えば、このような細胞は、in vitroまたはin vivo前臨床毒性研究において用いて、例えば(例えば癌以外の疾患のための)潜在的治療薬剤が転移を促進するかどうかを試験できる。in vivo研究は、典型的には、細胞を非ヒト動物に導入することを含むであろう。このような細胞は、食品の成分もしくは添加物、農薬またはヒトが接触することがある任意の作用物質のような作用物質のin vitroまたはin vivo毒性研究において用いて、例えばこのような作用物質が転移を促進(または阻害)するかどうかを試験できる。このような細胞は、転移に対する放射線照射、食餌もしくは任意の目的のパラメータのような条件または治療の影響を評価するために用いることもできる。いくつかの実施形態において、このような細胞は、転移に対する免疫系の状態および/または免疫系調節剤(例えば「癌ワクチン」)の影響を評価するために用いる。別の態様において、このような細胞は、転移に関与する事象についてのさらなる理解を深めることを目的とする研究において用いることができる。例えば、このような細胞は、in vitroまたはin vivoモデルにおいて用いて、細胞浸潤、運動性などを研究できる。
本発明は、動物の少なくともいくつかの細胞において、例えば動物の全てもしくは実質的に全ての細胞において、miR−31遺伝子の少なくとも1つの対立遺伝子が無能もしくは欠失されたか、またはmiR−31活性が少なくとも20%安定的に阻害されている工学的に遺伝子改変された非ヒト動物を提供する。本発明の目的のために、このような動物を、「miR−31欠損動物」とよぶ。いくつかの実施形態において、miR−31遺伝子は、例えばmiR−31の発現を低減し、かつ/またはmiR−31配列を変更することによりmiR−31活性が少なくとも20%低減されるような方法でそれが変更される場合に、「無能にされている」とみなされる。いくつかの実施形態において、無能にされたmiR−31遺伝子は、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%またはそれより多いmiR−31活性の低減をもたらす。いくつかの実施形態において、miR−31活性は、約1.5〜約20の係数で低減される。いくつかの実施形態において、miR−31遺伝子の両方の対立遺伝子が、動物の少なくともいくつかの細胞において、例えば動物の全てもしくは実質的に全ての細胞において、無能または欠失される。いくつかの実施形態において、miR−31活性は、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%またはそれより多く安定的に阻害される。いくつかの実施形態において、miR−31活性は、約1.5〜約20の係数で低減される。いくつかの実施形態において、乳房細胞、例えば乳房上皮細胞において、miR−31遺伝子が無能もしくは欠失されるか、またはmiR−31活性が安定的に阻害される。いくつかの実施形態において、動物がの少なくともいくつか(例えば全てまたは実質的に全て)の細胞は、1または複数のmiR−31結合部位を含む核酸をコードする導入遺伝子を含有して、miR−31標的遺伝子のmiR−31阻害の低減をもたらす。いくつかの実施形態において、導入遺伝子は、調節可能な発現制御要素(複数可)例えば調節可能なプロモーター、例えば誘導性プロモーターを含む。いくつかの実施形態において、導入遺伝子は、組織特異的発現制御要素(複数可)、例えば組織の部分集合、例えば乳房上皮細胞において主にまたは独占的に活性であるプロモーターを含む。いくつかの実施形態において、プロモーターは、MMTVプロモーターまたは乳清酸性タンパク質(WAP)プロモーターである。いくつかの実施形態において、欠失または変更を、発生の後胚期もしくは出生後段階でおよび/またはあるいくつかの組織もしくは細胞タイプにおいて誘導できる。例えば、miR−31遺伝子は、遺伝子の少なくとも一部が、特定の細胞もしくは組織でおよび/または発生の特定の段階にて発現あるいは誘導され得るリコンビナーゼの部位で挟まれているバージョンで置き換えることができる。例えば、Frt−Flp系のCre−Loxを用いることができる、例えば、Wang, X.、Cre transgenic mouse lines. Methods Mol Biol.、561巻:265〜73頁、2009年を参照されたい。いくつかの実施形態において、miR−31欠損動物は、動物が腫瘍、例えば乳癌を発生する可能性を増加させる1または複数の天然または工学的に遺伝子改変された変異もしくは改変を有する。本発明は、当該技術において公知の乳癌についての任意の動物モデルにおいてmiR−31を欠失または無能にすることを意図する。このような動物は、本発明の態様である。これらは、例えばmiR−31欠損動物、例えば癌になりやすいことが公知ではないmiR−31欠損動物を、上記のもののような癌になりやすい動物に育種すること、またはこのような動物を遺伝子改変することにより得てよい。いくつかの実施形態において、動物は、無能もしくは欠失されたmiR−31遺伝子および/または動物を癌になりやすくする遺伝子変更についてヘテロ接合性である。いくつかの実施形態において、動物は、無能もしくは欠失されたmiR−31遺伝子および/または動物を癌になりやすくする遺伝子変更についてホモ接合性である。本発明は、当該技術において公知の乳癌についての任意の動物モデルにおいてmiR−31を欠失または無能にすることを意図する。いくつかの実施形態において、非ヒト動物は、対照動物、例えばmiR−31の発現もしくはmiR−31の活性が低減しているかまたはそれらを欠くように工学的に遺伝子改変されていない、その他の点では遺伝子的に同一の動物と比較して腫瘍の転移についての傾向の増加を示す。例えば、動物は、対照動物と比較して、平均してより多くの転移を発生し、かつ/またはより短い潜伏期でそれらを発生する。
非ヒト動物は、例えば抗悪性腫瘍化合物、腫瘍診断物理療法、例えばイメージング技術および試薬などを試験するかまたは特徴決定するための動物モデルとして用いてよい。非ヒト動物は、例えば潜在的治療薬剤(例えば癌以外の疾患のため)が転移を促進するかどうかを試験するためのin vivo前臨床毒性研究のために用いてよい。このような動物は、食品の成分もしくは添加物、農薬またはヒトが接触することがある任意の作用物質のような作用物質のin vivo毒性研究において用いて、例えばこのような作用物質が転移を促進(または阻害)するかどうかを試験し、かつ/または転移に対する放射線照射、食餌もしく任意の目的のパラメータのような条件または治療の影響を評価できる。いくつかの実施形態において、このような動物は、転移に対する免疫系の状態および/または免疫系調節剤(例えば「癌ワクチン」)の影響を評価するために用いられる。その他の態様において、このような動物は、転移に関与する事象についてのさらなる理解を深めることを目的とする研究において用いることができる。いくつかの実施形態において、化合物は、それらが転移を促進するかどうかを決定するために試験される。例えば、試験化合物を動物に投与して、例えばin vivoイメージング、例えば生物発光イメージングを用いて転移の出現を決定してよい。miR−31欠損非ヒト動物を用いて例えば転移に対する影響に関して化合物を試験または特徴決定する方法は、本発明の態様である。例えば転移を検出および/または定量するそれらの能力に関して腫瘍診断物理療法を試験または特徴決定する方法は、本発明の態様である。
VI.治療への応用
本発明は、癌に罹患しているかまたは癌もしくは癌再発の危険性がある被験体を治療する方法を提供する。いくつかの実施形態において、癌は、乳癌である。癌の危険性がある被験体は、例えば、癌と診断されていないが、同じ性別の年齢一致対照と比較して癌を発生する危険性が増加している被験体であってよい。例えば、被験体は、年齢および性別一致対照のものの少なくとも1.2倍の危険性を有してよい。被験体が癌の「危険性がある」とみなされるかどうかを決定することは、被験体を手当する熟練した医師の自由裁量の範囲内であり得る。任意の適切な診断試験(複数可)および/または基準を用いることができる。例えば、被験体は、(i)被験体が、変異もしくは遺伝子多型を有さない一般的な集団のその他のメンバーと比べて癌を発生するかまたは癌である危険性の増加と関連する変異、遺伝子多型、遺伝子もしくはタンパク質発現プロファイルおよび/または血液中の特定の物質の存在を有するか、(ii)被験体が、癌の家族歴を有する、発癌物質または癌促進性作用物質もしくは条件、例えばアスベスト、喫煙、アフラトキシン、放射線照射、慢性の感染/炎症などに曝露されている、高齢のような1または複数の危険因子を有するか、(iii)被験体が、1または複数の癌の症状を有するなどの場合に、癌を発生する「危険性がある」とみなされることがある。本明細書で用いる場合、治療または治療するとは、癌の改善、治癒および/または治癒の維持(すなわち再発の防止または遅延)を含み得る。障害後の治療は、障害および/もしくはそれに関連する症状の少なくともいくらかを低減、改善または完全に排除すること、それがより重症になることを妨げること、進行速度を遅くすること、または障害が最初に一旦排除されたらそれが再発することを妨げることを目的として開始された。治療は、予防的であり得、例えば癌と診断されていない被験体、例えば癌を発生する危険性が著しい被験体に施与できる。癌再発の危険性がある被験体は、癌と診断され、癌がほとんどまたは完全に根絶されたとみられるように治療されている。いくつかの実施形態において、本発明の治療方法は、癌、例えば乳癌の治療を必要とする被験体を準備するステップを含む。いくつかの実施形態において、本発明の治療方法は、癌、例えば乳癌の治療を必要とする被験体を診断するステップを含む。
いくつかの態様において、本発明は、転移を阻害する方法を提供する(例えば、被験体が明らかな転移を(例えば診断の5または10年後のような規定された期間内に)発生する可能性を低減させ、かつ/または成長を遅くし、かつ/または転移の平均数を低減させる)。乳癌は、上記の種々の実施形態に記載される任意の臨床病理学的および/または分子的特徴を有し得る。いくつかの実施形態において、方法は、本明細書のセクションIVに記載されるようにして同定された化合物を、癌、例えば乳癌に罹患しているかまたはその危険性がある被験体に投与するステップを含む。いくつかの実施形態において、方法は、少なくともいくらかの目的細胞におけるmiR−31活性またはmiR−31様活性を機能的に増加させるステップを含む。いくつかの実施形態において、目的の細胞は、同じ細胞タイプの正常細胞と比較して(例えば癌細胞がそこから生じた細胞と比較して)miR−31の発現が低減しているかまたはそれらを欠く細胞、例えば癌細胞を含む。いくつかの実施形態において、miR−31の発現が低減しているかまたはそれらを欠く細胞は、乳癌上皮細胞を含む。(方法が、目的細胞でない少なくともいくらかの細胞におけるmiR−31活性またはmiR−31様活性の増加ももたらし得ることが理解されよう。)「miR−31様活性」は、少なくともいくらかのmiR−31標的遺伝子またはそれによりコードされるタンパク質、例えば少なくとも2、3、4もしくはそれより多くのmiR−31標的遺伝子またはそれによりコードされるタンパク質の発現あるいは活性を抑制(阻害、低減)する能力のことをいう。いくつかの実施形態において、miR−31標的遺伝子は、以下の遺伝子の少なくとも2つを含む:インテグリン−α5(ITGA5)、ラディキシン(RDX)およびRhoA。いくつかの実施形態において、miR−31標的遺伝子は、これらの遺伝子の3つ全てを含む。いくつかの実施形態において、方法は、少なくともいくつかの目的細胞におけるmiR−31のレベルを増加させるステップを含む。例えば、miR−31またはmiR−31前駆体(例えばプリmiR−31またはプレmiR−31)の配列を有する核酸を投与できる。いくつかの実施形態において、miR−31前駆体をコードするベクターを全身的または局所的に投与する。例えば、miR−31の発現を、AAVベクターのようなウイルスベクターを用いて再確立してよい(例えばKota, J.ら、Cell.、137巻(6号):1005〜17頁、2009年を参照されたい)。
本発明のある態様は、3つの遺伝子、すなわちITGA5、RDXおよびRhoAの抑制が、乳癌細胞におけるmiR−31の転移抑制活性の根拠になり得るという認識である。理論と結び付けられることを望まないが、これらの遺伝子もしくはそれらのコードされるタンパク質の少なくとも2つの同時の阻害/拮抗は、転移を阻害するために特に有益であり得る。本発明は、よって、最少で2つのmiR−31標的遺伝子もしくはそれらのコードされるタンパク質の発現または活性を阻害するステップを含み、遺伝子がITGA5、RDXおよびRhoAから選択される癌、例えば乳癌に罹患しているかまたはその危険性がある被験体を治療する方法を提供する。いくつかの実施形態において、方法は、これらの遺伝子もしくはそれらのコードされるタンパク質の3つ全ての発現または活性を阻害するステップを含む。ITGA5、RDXおよび/またはRhoAを阻害するために任意の適切な方法、例えばRNAサイレンシングに基づくアプローチ、小分子、抗体、ドミナントネガティブアプローチなどを用いてよい。例えば、RhoAは、小分子(例えばスタチン)を用いて阻害してよく、RDXは、siRNAを用いて阻害してよく、ITGA5は、モノクローナル抗体またはJSM6427のような小分子を用いて阻害してよい。
本発明は、本明細書のセクションIVに記載されるようにして同定された化合物を含む医薬組成物を提供する。本発明は、さらに、miR−31標的遺伝子の発現または活性を阻害する化合物を含む医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、第1のmiR−31標的遺伝子もしくはそれによりコードされるタンパク質の発現または活性を阻害する第1化合物と、第2のmiR−31標的遺伝子もしくはそれによりコードされるタンパク質の発現または活性を阻害する第2化合物とを含む。医薬組成物は、多様な医薬的に許容され得る担体を含んでよい。
化合物は、有効量で送達でき、これは、目的の生物学的応答、例えば遺伝子発現もしくはタンパク質活性をある量低減すること、疾患もしくは状態の1または複数の症状もしくは発現を低減すること、例えば転移の可能性を低減することを達成するために十分な量を意味する。医薬的に許容され得る担体は、当該技術において周知であり、例えば水、5%ブドウ糖もしくは生理緩衝食塩水のような水溶液、あるいはグリコール類、グリセロール、オリーブ油のような油またはヒトもしくは非ヒト被験体に投与するために適する注射用有機エステル類のようなその他の溶剤または媒体を含む。いくつかの実施形態において、医薬的に許容され得る担体または組成物は、滅菌されている。医薬組成物は、活性物質に加えて、例えば充填剤、増量剤、可溶化剤、安定化剤、浸透圧剤、取り込み促進剤などとして作用する生理的に許容され得る化合物を含み得る。生理的に許容され得る化合物は、例えばグルコース、スクロース、ラクトースのような炭水化物;デキストラン類;マンニトールのようなポリオール類;アスコルビン酸もしくはグルタチオンのような抗酸化剤;防腐剤;キレート剤;緩衝剤;またはその他の安定化剤もしくは賦形剤を含む。医薬的に許容され得る担体(複数可)および/または生理的に許容され得る化合物(複数可)の選択は、例えば活性物質の性質、例えば組成物の溶解性、適合性(通常の使用状況の下で医薬組成物の医薬的な効力を実質的に低減する様式で相互作用することなく組成物中に物質が一緒に存在できることを意味する)、および/または投与経路に依存し得る。医薬組成物は、液剤、ゲル剤、ローション剤、錠剤、カプセル剤、軟膏剤、経皮パッチなどの形態であり得る。医薬組成物は、例えば非経口投与を含む種々の経路により被験体に投与できる。例示的な投与経路は、静脈内投与、呼吸器投与(例えば吸入により)、鼻投与、腹腔内投与、経口投与、皮下投与および局所投与を含む。経口投与のために、化合物は、医薬的に許容され得る担体とともに、錠剤、丸剤、糖衣剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー、懸濁剤などに処方できる。いくつかの実施形態において、化合物は、組織、例えば癌細胞が存在するかもしくは存在する可能性があるか、または癌が生じる可能性がある組織に直接投与してよい。直接投与は、例えば注射または組織内に持続放出インプラントを移植することにより達成できる。もちろん、持続放出インプラントは、任意の適切な部位に移植できる。いくつかの実施形態において、持続放出インプラントは、再発癌を発生する危険性がある被験体の予防的治療のために特に適切であり得る。いくつかの実施形態において、持続放出インプラントは、活性物質の治療レベルを少なくとも30日間、例えば少なくとも60日間、例えば3カ月、6カ月またはそれより長くまで送達する。当業者は、患者の体重および全身の健康、治療される特定の状態などの因子を考慮して、有効な用量および投与計画を選択するであろう。例示的な用量は、in vitro研究を用いて選択し、動物モデル、かつ/または当該技術において標準的なヒト臨床試験において試験してよい。
いくつかの実施形態において、医薬組成物は、マイクロ粒子またはナノ粒子またはリポソームまたはその他の送達媒体もしくはマトリクスにより送達される。薬物送達目的のために有用ないくつかの生体適合性の合成または天然のポリマー材料が、当該技術において公知である。それらの例は、ポリラクチド−co−グリコリド、ポリカプロラクトン、ポリ無水物、セルロース誘導体およびそれらのコポリマーまたはブレンドを含む。例えばリン脂質またはその他の脂質からなるリポソームは、作製および投与が比較的単純な、非毒性で生理的に許容され得る代謝可能な担体である。
いくつかの実施形態において、本発明の化合物は、1または複数のその他の抗腫瘍薬と共投与される。このような薬剤は、化学療法剤、ホルモン剤、抗HER2抗体などであってよい。薬剤は、同じ組成物または別々の組成物で投与してよい。
VII.miRNA発現を阻害するための組成物および方法
本発明は、細胞または被験体、例えば動物においてマイクロRNA発現を阻害することに関する組成物および方法を提供する。あるいくつかの実施形態において、本発明は、マイクロRNAスポンジ技術の改良を提供する。本発明は、ヒトまたはげっ歯類の細胞のような哺乳類細胞におけるmiRNAの活性を阻害する方法であって、細胞においてmiRNAのための複数の結合部位を含むかまたはコードする核酸を安定的に発現させるステップを含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、核酸は、ゲノムに組み込まれる。いくつかの実施形態において、核酸は、ウイルスベクター、例えばレトロウイルスベクター、例えばレンチウイルスベクターを用いて発現される。いくつかの実施形態において、ベクターは、pBABEベクターである。いくつかの実施形態において、miRNAのための少なくとも5つの結合部位、例えば5〜10の部位、例えば20、50またはそれより多くまでの部位が提供される。結合部位は、同じ配列を有してよいか、または異なる配列を有する部位を含み得る。いくつかの実施形態において、細胞は、培養される。いくつかの実施形態において、細胞は、多細胞生物、例えばヒトまたはげっ歯類の部分である。いくつかの実施形態において、本発明のmiRNAスポンジは、miRNAの機能(例えば標的遺伝子の発現を阻害するmiRNAの能力により評価される)を、2〜10倍、例えば約2.5倍または約5倍安定的に低減する。いくつかの実施形態において、miRNAは、その発現または過剰発現が、ヒト疾患、例えば癌において原因因子または寄与因子であると関連付けられており、miRNAの阻害が疾患を治療するために有用であり得るものである。本発明は、さらに、目的のmiRNAについての複数の結合部位をある位置に挿入でき、そのことにより、哺乳類細胞における安定的発現のための適切な発現制御要素と機能的に連結されるベクター、例えばレトロウイルスベクターを提供する。本発明のベクターは、研究または治療の目的のために用いることができる。いくつかの実施形態において、ベクターは、キットとして提供される。
(実施例1)
miR−31発現は、転移性乳癌細胞株において特異的に減弱化される
注:実施例1〜9においてS3、S6、S7、S10、S11、S12、S13、S14、S15およびS17と言及される図面は、Valastyan, S.ら、A pleiotropically acting microRNA, miR−31, inhibits breast cancer metastasis、Cell、137巻(6号):1032〜46頁(Valastyan、2009年)および本出願が優先権を主張する米国特許出願第61/120,322号で見出される。
乳癌転移を調節するmiRNAを同定するために、本発明者らは、さらなる特徴決定のための10の癌関連miRNAを、臨床的乳腺腫瘍の発現プロファイリングの研究(Iorioら、2005年;Voliniaら、2006年)と、ヒト乳癌におけるmiRNAコピー数変動の全体的分析(Zhangら、2006年)と、染色体異常の癌関連部位へのmiRNA遺伝子座の局在化(Calinら、2004年)との間で調和したそれらの同定により選択した(表1)。これらの研究は、転移状態に基づいて患者を階層分けしていなかった。
a下方制御、上方制御および変化なしとは、正常乳腺組織と比べた原発ヒト乳腺腫瘍検体における、記載されるmiRNAの発現のことである。
10の候補miRNAの発現を、15のヒトおよびマウス乳腺細胞株においてアッセイしたが、これらは、正常上皮細胞、腫瘍原性であるが非転移性細胞、および転移性腫瘍細胞を含んでいた(表2)。1つのmiRNA、miR−31のレベルが、初代正常ヒト乳腺上皮細胞(HMEC)と比較した場合に攻撃性ヒト乳癌細胞において特異的に減弱化されていた。非転移性腫瘍細胞(HMLER、MCF7−RasおよびSUM−149)は4倍低減されたmiR−31を示したが、転移性SUM−159およびMDA−MB−231細胞におけるこのmiRNAの発現は、100倍を超えて減少した(図1A)。
a免疫不全宿主マウス(ヒト細胞株)または同質遺伝子背景(マウス細胞株)への同所性移植の場合。
正常マウス乳腺(NMuMG)細胞におけるそれらの発現と比べて、単一のマウス乳腺腫瘍に由来する亜系統におけるmiR−31のレベルは、転移するそれらの能力を反映した:miR−31は、転移性D2.1およびD2A1細胞において2倍低減されたが、非攻撃性D2.OR細胞においてはそうでなかった(図1B)。miR−31レベルは、単一の自然発症腫瘍に由来する4つのマウス乳癌亜系統における転移能力とも逆の相関があった:非攻撃性67NR細胞におけるmiR−31レベルは、NMuMGにおけるものと同様であったが、miR−31発現は、局所的に浸潤し(168FARN)、微小転移を形成し(4TO7)、巨視的な転移を生じる(4T1)能力の獲得とともに漸進的に減少した(図1B)。よって、miR−31レベルは、攻撃性乳癌細胞において特異的に減弱化される。
miR−31発現は、4T1細胞原発乳腺腫瘍において不均質であった。特に、miR−31を発現する細胞の割合は、肺転移において、それらが由来する原発腫瘍におけるmiR−31陽性細胞の画分と比べて10倍低減していた(図1C)。また、4T1細胞乳腺腫瘍の浸潤先進部付近にあるmiR−31を発現する細胞は、これらの腫瘍の内部にある細胞と比較して、5倍少なかった(図1D)。これらのデータにより、選択圧が、転移の進行の経過中にうまく転移した細胞のプール内でのmiR−31発現細胞の普及を減少させる可能性が高まる。
(実施例2)
miR−31発現は、転移関連形質をin vitroで抑制する
実施例1に記載するmiR−31レベルと悪性表現型との逆の相関関係に鑑みて、本発明者らは、miR−31についての転移抑制性の役割の潜在性を評価した。つまり、本発明者らは、miR−31を転移性MDA−MB−231ヒト乳癌細胞(「231細胞」)にクローニングして安定的に発現させた。この過剰発現により、miR−31レベルが、HMECにおけるものと同等になった(図8A)。
異所性miR−31は、in vitroで増殖に影響しなかったが、浸潤を20倍、そして運動性を10倍低減した(図2Aおよび8B〜8C)。これらの効果は、miR−31の生物活性に特異的に起因した。なぜなら、対照miRNAであるmiR−145の等価な過剰発現は、浸潤または運動性に影響できなかったからである(図2A、およびデータは示さず)。また、miR−31発現細胞は、アノイキス媒介細胞死に対して60%減少した耐性を示した(図2B)。
これらの欠損は、異所性miR−31によりもたらされる毒性に起因し得なかった(図S1D)。miR−31発現の結果は、231細胞に独特でなかった:miR−31は、攻撃性SUM−159ヒト乳癌細胞において、浸潤、運動性およびアノイキス耐性を低減したが、それでも増殖に影響しなかった(図9)。よって、miR−31は、転移能力のin vitroでの代替を損なう。
(実施例3)
miR−31発現は、in vivoで転移を抑制する
高いグレードの悪性と関連するin vitro形質に対するその影響により、本発明者らは、異所性miR−31がその他の点では攻撃性の細胞における転移を阻害できるかという疑問を持った。よって、miR−31を発現する231細胞を、マウスの同所性の部位、すなわち乳腺脂肪パッドに注射した。予期せぬことに、miR−31は、原発腫瘍成長を1.5倍増進し、それに対応して細胞増殖を増加させた(図2Cおよび9A)。対照231細胞原発腫瘍は、局所浸潤の証拠を示した。しかし、miR−31発現腫瘍は、うまく被包され、非浸潤性であった(図2Dおよび2E)。これらの変化は、新血管新生の変更を伴わなかった(図9B)。
より大きい原発腫瘍を生じるそれらの能力にもかかわらず、miR−31を発現する231細胞は、肺転移の種をまくそれらの能力が著しく損なわれた。miR−31発現細胞は、移植の62日後に対照が行ったよりも95%少ない病変を形成した(図2F)。つまり、miR−31は、表面上は、少なくとも部分的には局所浸潤を妨害するその能力により、同所性部位からの転移を抑制する。
本発明者らは、これらのパラメータに対するmiR−31の影響が本発明者らの231細胞におけるクローンの変動に起因する可能性について、miR−31を親の231細胞から単離した単細胞由来集団において発現させることにより対処した(図10A)(Minnら、2005年)。以前と同様に、同所的に注射した場合に、miR−31発現細胞は大きく、うまく被包された原発腫瘍を形成し、肺転移も5倍低減した(図10B〜10D)。miR−31を発現するSUM−159細胞の同所性注射は、本発明者らの初期の研究結果をさらに支持した:miR−31は原発腫瘍成長を増進したが、miR−31発現腫瘍は、対照腫瘍よりも良好に限局されていた(図11)。これらの観察結果は、より大きく、浸潤性がより低い原発腫瘍を形成し、かつより少ない転移の種をまくmiR−31発現細胞の能力が、miR−31の生物活性の特異的結果であることを示した。
本発明者らは、転移に対するmiR−31の影響も、局所浸潤に対するその影響とは独立して、浸潤−転移カスケードのより後のステップに対する影響に起因するかどうかを決定した。つまり、本発明者らは、miR−31発現231細胞をマウスの循環に直接注射することにより、局所浸潤および血管内異物侵入の最初のステップを回避した。1日後に、miR−31発現細胞は、肺において存続するそれらの能力を4倍損なった(図2G)。この違いは、miR−31発現細胞が肺の微小脈管構造において最初にとどまるようになることができないことの結果によるのではなかった。なぜなら、同数のmiR−31発現細胞と対照細胞が、注射の10分後および2時間後に肺において検出されたからである(図2G)。これらの観察結果は、miR−31が、管腔内生存性、血管外遊走および/または肺実質における最初の生存のような初期の血管内異物侵入後事象を調節することを示唆した。
尾静脈注射の3カ月後に、miR−31発現231細胞は、対照が生じたよりも40倍少ない肺転移を生じた(図2G)。本発明者らは、最終的に形成された病変のサイズに対する劇的な影響も観察した:3カ月後に、miR−31発現細胞は、小さい微小転移のみを生じたが、対照細胞は巨視的な転移を形成した。このことは、miR−31発現細胞および対照細胞が、注射の1カ月後に同等のサイズの微小転移を確立したにもかかわらず発生した(図2G)。病変サイズに対するこのような効果は、miR−31が、局所浸潤および初期の血管内異物侵入後事象に対するその影響に加えて、転移定着にも影響することを意味した。
(実施例4)
miR−31の阻害は、in vitroで転移関連形質を促進する
上記の実施例に記載した観察結果は、miR−31発現が、高いグレードの悪性度に関連する属性を転移細胞から奪うことを示した。本発明者らは、次に、miR−31が、その他の点では非転移性のヒト乳癌細胞により攻撃性の形質の獲得を妨げるかという疑問を持った。これを行うために、本発明者らは、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmiRNAスポンジのいずれかを用いて、非浸潤性MCF7−Ras細胞においてmiR−31を一過的に阻害した。miRNAスポンジは、その3’UTRに、miRNAと結合し、よってそれを力価決定するmiRNA認識モチーフを有する発現構築物である(Ebertら、2007年)。両方のアプローチは、miR−31機能を>4.5倍阻害した(図12A)。miR−31の抑制は、浸潤を20倍、そして運動性を5倍増進したが、細胞生存性はいずれの阻害因子によっても影響されなかった(図3Aおよび12B)。
安定的なmiRNAの阻害のための技術は、利用可能でなかった(Krutzfeldtら、2006年)。この問題に対処するために、本発明者らは、一過的に発現されたmiRNAスポンジに由来する要素を改変し、それらをレトロウイルスベクターにクローニングし、改変miRNAスポンジを安定的に発現するMCF7−Ras細胞を創出した。miR−31スポンジは、miR−31機能を2.5倍低減したが、その他の公知の転移抑制性miRNAの活性には影響しなかった(図12Aおよび12B)。安定的なスポンジ発現により与えられたmiR−31の比較的穏やかな抑制は、強い応答を惹起した:浸潤は12倍、運動性は8倍、そしてアノイキス耐性は2.5倍増進された(図3Bおよび12C)。miR−31スポンジは、in vitro増殖を変更できなかった(図12D)。
不死化HMECまたは腫瘍原性であるが非転移性のSUM−149ヒト乳癌細胞で安定的に発現させた場合に、miR−31スポンジは、浸潤、運動性およびアノイキス耐性の増加を、増殖に影響することなく惹起した(図13、およびデータは示さず)。これらのデータはまとめて、持続性miR−31活性が、腫瘍細胞および変換していない乳房上皮細胞の両方による攻撃性の形質の獲得を妨げるために必要であることを示した。
(実施例5)
miR−31の阻害は、in vivoで転移を促進する
本発明者らは、miRNAを安定的に阻害する本発明者らの能力を、miR−31活性がin vivoで転移を妨げるために必要であるかどうかを評価するために利用した。これを行うために、miR−31スポンジを安定的に発現する、その他の点では非転移性のMCF7−Ras細胞を、マウスに同所性移植した。miR−31の阻害は、in vivo増殖および原発腫瘍成長を変更できなかった(図3C)。miR−31スポンジ発現細胞に由来する原発腫瘍は、ほとんど被包されず局所的に浸潤性であったが、対照MCF7−Ras腫瘍は、良好に限局され、非浸潤性であるとみられた(図3Dおよび3E)。ここでもまた、新血管新生は異ならなかった。
miR−31スポンジ発現MCF7−Ras細胞は、著しい数で肺に著しく転移したが、対照腫瘍を有する宿主の肺には、ほとんど腫瘍細胞がなかった。損なわれたmiR−31活性を有する細胞は、対照よりも10倍多い病変を形成した(図3F)。よって、連続的なmiR−31機能が、同所性部位からの転移を妨げるために必要である。
本発明者らは、miR−31活性の喪失も、局所浸潤の後の浸潤−転移カスケードのステップに介在することにより転移を促進するかという疑問を持った。よって、本発明者らは、miR−31スポンジ発現MCF7−Ras細胞をマウスに静脈内注射した。1日以内に、miR−31阻害は、肺における細胞数を6倍増進した。同様に、注射後からさらに後で、miR−31スポンジ発現細胞は、対照よりも、肺において10倍多く普及していた(図3G)。対照細胞とmiR−31スポンジ発現細胞との転移能力の違いは、肺の脈管構造に対照細胞が最初にとどまることができないことにより生じるのではなかった。なぜなら、各コホートからの同数の細胞が、注射の10分後に存在していたからである(図3G)。
miR−31の抑制は、尾静脈注射の4カ月後の病変サイズにも影響した:対照細胞は小さい微小転移のみを形成したが、miR−31スポンジ発現細胞は、巨視的な転移を生成した(図3G)。これらのデータはまとめて、miR−31が局所浸潤、初期の血管内異物侵入後事象および転移定着に影響することを示すことにより、本発明者らの異所性発現研究を拡張して強化した。
(実施例6)
miR−31は、転移促進性遺伝子のコホートを直接調節する
浸潤−転移カスケードの複数のステップを妨害するmiR−31の能力は、転移散在の多様な局面に関与する遺伝子を多指向的に調節するその能力に由来する場合がある。miR−31のエフェクターを同定するために、本発明者らは、miRNAのmRNA標的を予測する2つのアルゴリズム、すなわちPicTar(Krekら、2005年)およびTargetScan(Grimsonら、2007年)を用いた。それらの3’UTR中のmiR−31部位の提示に基づいて、>200のmRNAがmiR−31により調節されると予測された。遺伝子オントロジー(Ashburnerら、2000年)により、これらの標的が、細胞接着、細胞骨格リモデリングおよび細胞極性のような運動性に関連するプロセスにおける役割を有するタンパク質をコードする不均衡に多数の遺伝子を含めたことが明らかになった(データは示さず)。
この遺伝子オントロジー分析に誘導されて、本発明者らは、腫瘍浸潤に関わるいくつかのもの(SahaiおよびMarshall、2002年;McClatchey、2003年)を含む、これらの大きな比率を占めるカテゴリーからの16の推定miR−31標的の3’UTRを、ルシフェラーゼ構築物にクローニングした。miR−31発現231細胞を用いるレポーターアッセイにより、miR−31がUTRの6つ:frizzled3(Fzd3)、インテグリンα5(ITGA5)、ミオシンホスファターゼ−Rho相互作用タンパク質(M−RIP)、マトリクスメタロペプチダーゼ16(MMP16)、ラディキシン(RDX)およびRhoAを抑制したことが明らかになった(図4A)。これらの6つの3’UTRにおける推定miR−31部位(複数可)の変異(表3)は、miR−31に対する反応性を廃止した(図4B)。そのUTRが152ヌクレオチドにより分けられた2つのmiR−31部位を含有するRhoAの場合、いずれのモチーフの変異も、miR−31反応性を廃止し(図4B)、このことは、これらの部位の間の機能的相互作用を示唆している(Grimsonら、2007年)。
aヒトRhoA3’UTRのヌクレオチド145〜151でのmiR−31モチーフ。
bRhoA3’UTRのヌクレオチド303〜309にまたがるmiR−31モチーフ。太字(およびカラーならば赤色):変異誘発レポーター構築物中で変更されたヌクレオチド。
内因性Fzd3、ITGA5、MMP16、RDXおよびRhoAのタンパク質レベルを、miR−31発現231細胞においてアッセイした。miR−31は、これらのタンパク質のレベルを40〜60%抑制した(図4C)。M−RIPタンパク質のレベルに対するmiR−31の影響は、適切な抗体がないことにより評価できなかった。また、miR−31は、これらの6つの標的の内因性mRNAのレベルをSUM−159細胞において2倍低減し、Fzd3、ITGA5、MMP16、RDXおよびRhoAのmRNAレベルも231細胞において低減した(図4D)。miR−31は、このmiRNAにより調節されないことが見出された計算的に推測されたmiR−31標的であるCXCL12のmRNAレベルに、いずれの細胞タイプにおいても影響しなかった(図4Aおよび4D)。これらのデータは、miR−31が、内因性Fzd3、ITGA5、M−RIP、MMP16、RDXおよびRhoA発現をヒト乳癌細胞において直接調節することを示した。
本発明者らは、Fzd3、ITGA5、M−RIP、MMP16、RDXおよびRhoAの同時の抑制が、臨床的乳癌における疾患進行と相関するかを、295の原発乳腺腫瘍からの発現プロファイリングデータを調べることにより決定した(表4)(van de
Vijverら、2002年)。これを行うために、本発明者らは、これらの6つの遺伝子の協調した示差的発現に基づいてmiR−31標的シグネチャーを構築した。このコホート内で、miR−31標的シグネチャーの高い発現は、シグネチャー陰性腫瘍と比べて、転移および乏しい生存と関連した。標的シグネチャーについて陰性の患者のうちの5年生存率は、90%であったが、標的シグネチャー陽性患者の>35%が、この期間中に疾患に屈した(図5Aおよび5B)。よって、Fzd3、ITGA5、M−RIP、MMP16、RDXおよびRhoAの協調した抑制が、臨床的乳腺腫瘍におけるより好ましい転帰と相関していた。
攻撃性表現型に対するこれらのmiR−31標的の機能的な寄与を評価するために、本発明者らは、まず、それらの阻害が、231細胞の浸潤または運動性に影響するかを調べた。siRNAの形質移入は、細胞生存性に影響することなく標的タンパク質のレベルを強力に低減し
た。Fzd3、ITGA5、RDXまたはRhoAを標的にするsiRNAは、浸潤性および運動性を低減したが、M−RIPまたはMMP16に対するsiRNAは、これらの形質に影響できなかった(図5C
)。
本発明者らは、これらのエフェクターの阻害が、アノイキスへの耐性を損なうかという疑問を持った。ITGA5、RDXまたはRhoAに対するsiRNAは、231細胞をアノイキスに対して感作した。これとは対照的に、Fzd3、M−RIPまたはMMP16を標的にするsiRNAは、アノイキス耐性に対して影響しなかった(図5D)。よって、Fzd3、ITGA5、RDXまたはRhoAの抑制は、in vitroで転移関連形質を損なった。
(実施例7)
Fzd3、ITGA5、RDXおよびRhoAの再発現は、in vitroでmiR−31依存性転移関連表現型を反転する miR−31発現と関連するin vitro表現型を、Fzd3、ITGA5、M−RIP、MMP16、RDXまたはRhoAレベルの回復により反転できるかを決定するために、本発明者らは、miR−31発現231細胞に、それらの3’UTRの欠失によりmiRNA非感受性にした個別の発現構築物を形質移入した。これは、細胞傷害性でなかった。miR−31発現細胞において、Fzd3、ITGA5、RDXまたはRhoAは、少なくとも部分的に、miR−31により強制される浸潤および運動性の欠損を反転した。これとは対照的に、M−RIPまたはMMP16は、これらの形質に対して影響しなかった(図5E)。驚くべきことに、RDXまたはRhoAの再発現は、miR−31により媒介される浸潤および運動性の欠損を完全に救済した。6つの標的の発現は、対照231細胞の浸潤または運動性を増進できなかった(図5E)。
本発明者らは、6つの標的のうちのいずれかの再発現が、アノイキスに対するmiR−31の影響を救済するかについて評価した。ITGA5、RDXまたはRhoAは、少なくとも部分的に、異所性miR−31に起因するアノイキス感受性を反転した。これとは対照的に、Fzd3、M−RIPまたはMMP16は、この形質に影響できなかった(図5F)。実際に、ITGA5またはRhoAは、miR−31依存性アノイキス表現型を完全に救済した。6つの標的は、対照231細胞におけるアノイキス耐性を増進しなかった(図5F)。よって、Fzd3、ITGA5、RDXおよびRhoAは、悪性形質をin vitroで与えるためのmiR−31の機能的に関連するエフェクターである。
(実施例8)
RhoAの再発現は、miR−31により強制される転移欠損をin vivoで部分的に反転する
RhoAは、miR−31により媒介される表現型を最も著しく反転した。よって、本発明者らは、miR−31または対照ベクターのいずれかに既に感染させた231細胞においてmiRNA耐性RhoAを安定的に再発現させた。RhoAは、in vitroで増殖に影響しなかったが、miR−31により強制される浸潤、運動性およびアノイキス耐性の欠損を廃止した。
回復したRhoAレベルが、miR−31に起因するin vivo転移表現型を反転するかを確認するために、本発明者らは、miR−31、RhoAおよび対照ベクターの組合せを発現する231細胞をマウスに同所的に注射した。以前に観察されたことと同様に、miR−31は、原発腫瘍成長を増進した(図6A)。RhoAは、異所性miR−31の存在下で原発腫瘍成長を最初は増強したが、対照231細胞ではそのようにできなかった(図6A)。本発明者らの初期の研究結果と調和して、対照231原発腫瘍は局所的に浸潤性であったが、miR−31発現腫瘍は非浸潤性であった(図6Bおよび6C)。対照231細胞において、異所性RhoAは、局所浸潤の程度を悪化させることができなかった。これとは対照的に、RhoAは、miR−31発現腫瘍の前もって被包された外観を廃止し、周囲の正常組織への浸潤を可能にした(図6Bおよび6C)。
RhoAの再発現は、miR−31発現231細胞における肺転移を、対照細胞レベルの75%まで回復したが、RhoAは、対照231細胞における転移を増進できなかった(図6D)。つまり、RhoAの再発現は、部分的に、そして堅固に、miR−31により強制される転移抑制を反転する。観察された救済の大きさは、驚異的である。なぜなら、RhoAは、miR−31により抑制される転移関連遺伝子のより大きいコホートのうちの唯一のメンバーであるからである。
miR−31および/またはRhoAを発現する231細胞をマウスに静脈内注射することにより、本発明者らは、miR−31により強制される転移欠損がRhoAにより媒介されて反転することが、局所浸潤に対する影響にのみ起因するかを測定した。miR−31および/またはRhoAの発現は、腫瘍細胞が肺の脈管構造に最初にとどまることに影響できなかったが、肺に存続した細胞の数は、注射の1日以内に変わった(図6EおよびS15)。以前と同様に、miR−31は、形成された転移の数およびそれらの最終的なサイズの両方を阻害した(図6E)。対照231細胞におけるRhoAの発現は、転移を増強できなかったが、RhoAは、肺転移の数を、対照細胞レベルの60%まで、miR−31発現細胞において回復した。しかし、RhoAは、異所性miR−31とともに細胞における巨視的な転移の形成を促進しなかった(図6E)。
これらのデータはまとめて、転移を阻害するmiR−31の能力が、著しい部分において、RhoAを阻害するその能力に起因することを示した。RhoAのmiR−31媒介抑制は、局所浸潤および初期の血管内異物侵入後事象にともに影響する。しかし、これらのデータは、転移に対するmiR−31の影響の全範囲が、複数の標的の協調した抑制によってのみ惹起されることも意味する。なぜなら、RhoA単独の抑制は、形成された転移の数に対するmiR−31の完全な影響または転移定着に対するその影響を説明できなかったからである。
(実施例9)
miR−31発現は、ヒト乳腺腫瘍における転移と逆の相関がある
樹立された細胞株および異種移植研究は、臨床的悪性腫瘍を完全に再現できないので、本発明者らは、56名のヒト乳癌患者からの検体におけるmiR−31発現をアッセイすることにより本発明者らの分析を拡張した(表5;フォローアップの中央値=59カ月)。より好ましい疾患転帰と関連する(Sorlieら、2001年)グレード一致エストロゲン受容体(ER)+腫瘍と比べて、基底膜細胞型腫瘍は、40%低減したmiR−31を示した。miR−31レベルの差は、ER+腫瘍とHER2+腫瘍の間で観察されなかった(図14)。
a最初の症状のとき。ER=エストロゲン受容体;PR=プロゲステロン受容体;LN=リンパ節;U=未知;D=乳管;L=小葉;M=混合型;ERLG=ER陽性低グレード;ERHG=ER陽性高グレード;p=陽性;n=陰性;pl=陽性−低い;lp=低い−陽性。
これらの56の腫瘍を、臨床的進行に基づいて階層分けした場合に、本発明者らは、miR−31発現が、その後に転移した原発腫瘍において、正常乳房組織および再発しなかった原発腫瘍と比較して減少したことを見出した。さらに、低いmiR−31のレベルは、高いmiR−31の腫瘍と比べて、遠位疾患なしの生存の低減と強く相関した。同様に、腫瘍のこのコホート内で、高いRhoA発現が、遠位の転移の出現の増加と関連した。
低いmiR−31のレベルと転移との関連は、腫瘍グレードおよび分子サブタイプの両方とは独立して存続した(図15)。このようなグレードおよびサブタイプ独立性は、かなり驚くべきことである。なぜなら、乳癌のために臨床的に用いられる予後マーカーはほとんど、これらのパラメータと相関し、さらに、現在利用可能なマーカーは、より攻撃的な基底膜細胞型またはHER2+サブタイプ内のより不良の予後の群を同定しないからである(Desmedtら、2008年)。結果として、miR−31は、原発乳癌における攻撃性疾患についての遍在性マーカーであるとみられ、このmiRNAのレベルは、よって、ヒト乳癌についてのむしろ独特に指導的な予後因子であるとみられる。要するに、原発乳腺腫瘍におけるmiR−31発現は、転移再発と逆の相関があった。よって、この一連のヒト乳腺腫瘍試料から得られたデータに基づいて、miR−31は、この一連のヒト乳腺腫瘍試料から得られたデータに基づく多様な乳癌サブタイプにおける転移のマーカーであるとみられる。予後指標としてのその有用性をさらに評価することは、より大きいコホートの分析のようなこれらの最初の観察結果の拡張を含み得る。
本発明者らは、次に、ヒト原発乳腺腫瘍におけるmiR−31発現の不均質性、および同じ患者で生じる遠位転移を評価した。miR−31は、これらの原発腫瘍における細胞の65%で発現された。しかし、miR−31は、患者一致遠位転移における細胞の12〜30%でしか検出されなかった。これらのデータは、乳癌進行の経過中に働く選択圧が、うまく転移した細胞の集団内のmiR−31発現細胞の提示を減らす可能性を高める。
最後に、本発明者らは、ITGA5、RDXおよびRhoAの発現が、原発ヒト乳腺腫瘍においても不均質であるかという疑問を持った。RDXおよびRhoAは、調べた原発腫瘍の細胞の60〜75%で発現されたが、ITGA5は、細胞の>80%で検出された。転移における細胞の>90%がRDXおよびRhoAを発現したので、遠位転移は、RDXおよびRhoAの発現について、それらが由来する原発腫瘍よりも均質であった。同様に、転移における細胞の>90%がITGA5を発現した。しかし、患者一致原発腫瘍で観察された広範なITGA5発現は、遠位転移におけるその発現の解釈を複雑にする。
実施例1〜9の考察
miRNAは、広い多様性の生物学的プロセスを変調できる。上記の実施例において、本発明者らは、単一のヒトmiRNA、miR−31が、複数の転移促進性標的を同時に抑制し、それにより浸潤−転移カスケードのいくつかの別個のステップを阻害する能力を有することを証明する。さらに、miR−31レベルは、腫瘍グレードおよびサブタイプの両方とは独立して存続するとみられる群集であるヒト乳腺腫瘍のコホートにおける転移再発と逆の相関がある。
転移促進性または転移抑制性の機能を有すると報告されている種々のその他のmiRNAとは対照的に、miR−31は、原発腫瘍の発生に対して混乱性の影響を奏することなく転移を妨げる。それ自体で、mir−31は、「転移抑制因子遺伝子」として分類されやすいこともある(Steeg、2002年)。miR−31機能のこの独特の局面は、なかでも、正常細胞および生物生理機能におけるこのmiRNAのまだ特徴づけられていない役割に関する疑問を呈する。重要なことに、miR−31活性の喪失は、変換していないヒト乳腺上皮細胞における浸潤性、運動性およびアノイキス耐性を増進する。よって、正常上皮におけるmiR−31の不活性化は、完全な腫瘍性状態への変換前に散在を促進し得る。このことは、臨床的な乳腺腫瘍において最近観察された現象である(Husemannら、2008年)、腫瘍進行の経過中の非常に初期に浸潤−転移カスケードを開始し得る1つの推定的な機構を示唆する。
原発腫瘍成長を増進するmiR−31の能力に鑑みて、このmiRNAの発癌性の役割(その転移抑制性の機能とは機械論的に独立する)を、形式的に除外できない。このような作用の二元性は新奇でなく(Massague、2008年)、転移を可能にする属性および腫瘍発生を可能にする属性が生物学的に異なり、悪性腫瘍進行中の独立した選択圧により獲得され得るという考え方と一致する。
以前の研究は、浸潤−転移カスケードの初期段階である局所浸潤に対する特定のmiRNAの影響について記載している。本研究は、miRNAが、転移のより後のステップにも影響でき、個別のmiRNAが浸潤−転移カスケードの複数の別個の段階に干渉し得ることを証明する。miR−31は、原発乳腺腫瘍の局所浸潤、ならびに管腔内生存、血管外遊走および/または外来微小環境における最初の生存性を調節する。miR−31は、転移の最終の律速ステップである定着も抑制する(Fidler、2003年)。miR−31により強制されるRhoA抑制は、局所浸潤および初期の血管内異物侵入後事象に対するこのmiRNAの影響を部分的に説明する。しかし、miR−31が転移定着を抑制する機構は、その他の遺伝子に対するその影響に少なくとも部分的に依存する。
実施例1〜9で用いた実験手順
細胞培養。MDA−MB−231およびMCF7−Ras細胞は、ATCCから得て、標準的な条件下で培養した。HMECおよびHME細胞は、記載されている(Maら、2007年)。SCP3細胞は、J. Massagueから得た(Minnら、2005年)。SUM−149および−159細胞は、S. Ethierから提供された(Maら、2007年)。D2細胞は、記載されている(Morrisら、1993年)。67NR、168FARN、4TO7および4T1細胞は、F. Millerから得た(AslaksonおよびMiller、1992年)。
miRNA検出。小型RNA画分を含むトータルRNAを、培養細胞から、mirVana miRNA単離キット(Ambion)を用いて抽出した。成熟miR−31および5S rRNAのRT−PCRに基づく検出を、mirVana miRNA検出キットおよび遺伝子特異的プライマー(Ambion)を用いて達成した。
miRNA in situハイブリッド形成法。miRNA発現を、パラフィン切片から、Silahtarogluら(2007年)から適合したプロトコルを用いて評価した。簡単に述べると、4時間のプレハイブリダイゼーションの後に、miR−31を標的にする5’FITC標識miRCURY LNAプローブ(Exiqon)を、プロテイナーゼK処理した10μm切片と55℃にて12時間ハイブリッド形成させた。スライドを、次いで、抗FITC−HRP(PerkinElmer)とインキュベートし、得られたシグナルを、TSA Plusフルオレセインシステム(PerkinElmer)を用いて強めた。
ヒト乳腺腫瘍。原発乳腺腫瘍、遠位転移および正常乳房組織を、Brigham and Women’s Hospital IRBにより承認されたプロトコルを遵守して回収して加工した。新鮮な組織を患者から採集し、OCT包埋し、急速凍結し、−80℃にて保存した。再発の事例は、遠位転移を発生した患者からの原発腫瘍であった。それぞれの再発事例について、2つの非再発事例を選択して、診断日時、分子サブタイプ、リンパ節状態およびフォローアップの時間について制御した。トータルRNAを、35μm切片からTRIzol抽出およびmirVana miRNA単離キットにより単離した。miR−31レベルが遠位転移と相関するかを識別するために、原発腫瘍をmiR−31陽性または陰性として分類した。miR−31の正規化した発現がこのコホートの腫瘍のそれぞれ上位または下位30%にある場合に、腫瘍をmiR−31陽性または陰性とみなした。同様に、腫瘍を、それらのRhoAレベルが調べた腫瘍の上位または下位30%にある場合に、高RhoAまたは低RhoAと分類した。
浸潤および運動性アッセイ。浸潤アッセイのために、1.0×105細胞を、8.0μmの孔を有するMatrigel被覆チャンバ(BD Biosciences)に播種した。運動性アッセイのために、5.0×104細胞を、8.0μmの孔を有する非被覆メンブレン(BD Biosciences)の頂上で培養した。細胞を無血清培地に播種し、完全成長培地に向かって20時間移動させた。Fugene6(Roche)を用いて細胞を形質移入し、24時間後に培養した。200nMのmiRIDIAN miRNA阻害剤(Dharmacon)を用いてmiR−31を一過的に阻害した。Fzd3、ITGA5、M−RIP、MMP16、RDXまたはRhoAに対するSMARTpool siRNA(Dharmacon)は、100nMで用いた。アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびsiRNAは、播種の48時間前にOligofectamine(Invitrogen)を用いて形質移入した。
アノイキスアッセイ。アノイキス耐性は、7.5×104細胞を超低接着性プレート(Corning)に播種することにより評価した。24時間の足場非依存性培養の後に、細胞を0.4%トリパンブルー(Sigma)に再懸濁し、細胞生存性を評価した。
動物実験。動物が関与する全ての研究は、MIT Committee on Animal Careにより承認されたプロトコルを遵守した。自発的転移アッセイについて、年齢一致雌性NOD/SCIDマウス(現場で繁殖)に、1:2のMatrigel(BD Biosciences)と通常成長培地中の記載する数の腫瘍細胞を、乳腺脂肪パッドに両側注射した。実験的転移アッセイのために、年齢一致雌性NOD/SCIDマウスに、5.0×105細胞(PBSに再懸濁)を、尾静脈から注射した。転移を、検体単離の3時間以内に蛍光顕微鏡を用いて定量した。
ルシフェラーゼアッセイ。5.0×104細胞に、50ngの記載されるpIS1 Renillaルシフェラーゼ構築物と50ngのpIS0ホタルルシフェラーゼ正規化対照とを同時形質移入した。可溶化液を形質移入の24時間後に回収し、Renillaおよびホタルルシフェラーゼ活性を、二重ルシフェラーゼレポーターシステム(Promega)を用いて測定した。
イムノブロット。可溶化液を電気泳動で分離し、PVDFメンブレンに移し、β−アクチン(Santa Cruz)、Fzd3(Abcam)、ITGA5(Santa Cruz)、MMP16(Abcam)、RDX(Cell Signaling)またはRhoA(Santa Cruz)に対する抗体で調べた。
miR−31標的シグネチャー。295のヒト乳腺腫瘍の発現プロファイリング(van de Vijverら、2002年)を用いて、腫瘍を、miR−31標的シグネチャー陽性または陰性として分類した。本明細書で同定する6つのmiR−31標的の複数の正規化された発現が、このコホートにおける腫瘍のそれぞれ上位または下位15%にある場合に、腫瘍を、標的シグネチャー陽性または陰性とみなした。
免疫組織化学法。Ki−67(Pharmingen)、MECA−32(U.of Iowa)、ITGA5(Santa Cruz)、RDX(Santa Cruz)またはRhoA(Abcam)の検出を、5μmパラフィン切片上で、記載される抗体、Vectastain Elite ABCキット(Vector)およびImmPACT
DAB基質(Vector)を用いて行った。
統計解析。データは、平均±s.e.m.として表す。そうでないと記載しない限り、スチューデントのt検定を比較のために用い、P<0.05を有意とみなした。
プラスミド構築および安定細胞株の作製。ヒトmiR−31遺伝子を、ゲノムDNAからPCR増幅し、pcDNA3.1(Invitrogen)にクローニングし、次いで、pBABE−puroレトロウイルスベクター(MorgensternおよびLand、1990年)のBamHIおよびSalI部位にサブクローニングした。合成miR−31、miR−126、miR−206およびmiR−335結合部位含有Renillaルシフェラーゼレポーター遺伝子を、アニーリング、精製および対応する短いオリゴヌクレオチドをD. Bartelにより提供される(Farhら、2005年)pIS1ベクター主鎖の3’UTRのSacIおよびAgeI部位にクローニングすることにより構築した。一過性CMV駆動miRNAスポンジ主鎖は、P. Sharpにより提供された。直列型非ターゲティング結合部位を含有する対照スポンジは、以前に用いたものと同一であったが(Ebertら、2007年)、miR−31スポンジは、アニーリング、精製、および7つの直列型「バルジ含有」(9位〜12位にて)miR−31結合モチーフを含有するオリゴヌクレオチドを、CMVスポンジ主鎖のXhoIおよびApaI部位にクローニングすることにより構築した。安定発現研究のために、miR−31および対照CMVスポンジ構築物のBamHI−ApaI断片を、pBABE−puroレトロウイルスベクターにサブクローニングした。記載されるコンピュータ推定miR−31標的の3’UTRにより駆動されるルシフェラーゼレポーター遺伝子を、PCRに基づく増幅によりヒトゲノムDNAから創出し、次いで、pIS1 Renillaルシフェラーゼレポーター主鎖の3’UTR内のAgeI,SacI、SpeIおよび/またはXbaI部位にクローニングした。記載される変異誘発miR−31認識部位含有ルシフェラーゼレポーター遺伝子を、QuikChangeII XL部位特異的変異誘発キット(Stratagene)を製造者の使用説明書に従って用いて作製した。一過性過剰発現実験のために、Fzd3(Deardorffら、2001年)、ITGA5(KuwadaおよびLi、2000年)、M−RIP(Surksら、2003年)、MMP16(Hotaryら、2006年)、RDX(Batchelorら、2004年)およびRhoA(Subausteら、2000年)をコードする以前に記載された構築物が、それぞれP. Klein、S. Kuwada、H. Surks、S. Weiss、S. CrouchおよびG. Bokochより提供された。安定過剰発現研究のために、RhoAを、pcDNA3(Invitrogen)からレトロウイルスベクターpBABE−zeo(MorgensternおよびLand、1990年)に直接サブクローニングした。
全ての安定細胞株は、以前に記載されたようにして(Elenbaasら、 2001年)、HEK293T細胞を用いるレトロウイルス感染により作製した。GFP標識MDA−MB−231およびMCF7−Ras細胞は、pWZL−blast−EGFPを感染させることにより創出した。
in vitro細胞増殖の測定。in vitro増殖動態を、7.5×104細胞を6ウェルプレートのウェルあたりに播種することによりアッセイした。全細胞数は、トリプシン処理および血球計数器を用いる手動計数により、記載されるように2〜3日毎に評価した。
細胞生存性アッセイ。細胞生存性に対する種々の構築物および反応物での一過性形質移入の影響を、トリパンブルー色素排除アッセイにより評価した。簡単に述べると、対応する浸潤、運動性およびアノイキスアッセイと並行して、2.0×105細胞を6ウェルプレートに播種し、次いで、記載される発現構築物、siRNAまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドを、実験手順に記載されるようにして形質移入した。24時間(発現構築物)または48時間(siRNAおよびアンチセンスオリゴヌクレオチド)後に、細胞をトリプシン処理し、0.4%トリパンブルー染色溶液(Sigma)に再懸濁し、血球計数器を用いて手動で計数した。
cDNA合成およびリアルタイムRT−PCR。記載される場合、cDNAは、200ngのトータルRNAから、SuperScriptIII第1鎖合成システム(Invitrogen)を用いて調製し、標的レベルを、SYBR Greenに基づくリアルタイムRT−PCR(Applied Biosystems)により評価した。
オリゴヌクレオチド配列。本研究で用いたオリゴヌクレオチドは、次のとおりであった:
(実施例10)
ヒト乳癌におけるmiR−31のさらなる分析
実施例9を、より大きい乳腺腫瘍コホートを用いて繰り返す。miR−31発現が高いまたは低い患者のうちでの5年および10年の転移なし生存および全体的な生存率を、適切な統計学的検定を用いて比較する。
(実施例11)
3つの標的遺伝子の同時抑制は、転移に対するmiR−31の影響を説明できる
注:実施例11で言及する図および表は、Valastyan, S.ら、Concomitant Suppression of Three Target Genes Can Explain the Impact of a MicroRNA on Metastasis、Genes & Development、23巻(22号):2592〜7頁、2009年、Epub 2009年10月29日(Valastyan、2009b)で見出される。
上記のように、本発明者らは、miR−31が、細胞運動性および腫瘍進行において役割を有するタンパク質をコードする6つのmRNA:frizzled3(Fzd3)、インテグリン−α5(ITGA5)、マトリクスメタロペプチダーゼ16(MMP16)、ミオシンホスファターゼ−Rho相互作用タンパク質(M−RIP)、ラディキシン(RDX)およびRhoAを調節することを証明した(Valastyanら、2009年)。これらのエフェクターの1または複数のmiR−31により強制される阻害がmiR−31の転移抑制性影響を媒介することを担うかどうかに取り組むことを開始するために、本発明者らは、これらの6つのmRNAを個別に、その他の点では転移性のMDA−MB−231ヒト乳癌細胞(「231細胞」)において、短いヘアピンRNA(shRNA)を用いて安定的に抑制した。231細胞は、内因性miR−31をほぼ有さず、これらの6つのエフェクターを堅固に発現する。さらに、異所性miR−31は、これらの細胞による転移を損なう。
それぞれの遺伝子について、shRNAオフターゲットの影響からの混乱性の影響を最小限にするために、本発明者らは、コードされたmRNA中に別々のshRNAターゲティングユニーク配列を安定的に発現する複数の細胞株を導いた(補足の図1Aおよび2A)。6つのエフェクターのそれぞれに対する少なくとも1つのshRNAは、その標的のレベルを、miR−31発現により惹起されるものと同等の係数で低減した(Valastyanら、2009年)。このことにより、本発明者らは、それぞれ個別の下流エフェクターに対するmiR−31の作用の結果を適度に見積もることが可能になった。
これらのshRNA発現231細胞を、転移のために重要な形質のモデルとなるin vitroアッセイに供した。本発明者らは、ITGA5、RDXまたはRhoAの個別の抑制が、浸潤、運動性およびアノイキス媒介細胞死に対する耐性をin vitroで低減したことを観察した。これとは対照的に、Fzd3、MMP16またはM−RIPのshRNAは、これらの挙動に実質的に影響することができなかった(補足の図1B〜Dおよび2B〜D)。測定可能な応答を有したshRNAについて、これらの応答の大きさは、達成されたノックダウンの程度と直接相関し、このことは、これらの影響が、標的にされたタンパク質のレベルの低減の特異的な結果として起こったことを示唆した。Fzd3、ITGA5、MMP16、M−RIP、RDXまたはRhoAの阻害は、in vitro増殖に影響できなかった(補足の図1Eおよび2E)。また、ITGA5、RDXおよびRhoAのshRNAにより誘発された応答は、miRNA生合成装置の飽和に起因し得なかった。なぜなら、8つの対照miRNAの成熟レベルは、これらの細胞において影響されなかったからである(補足の図3)。
本発明者らは、これらの6つのmRNAの抑制が、転移能力をin vivoで変更するかどうかを、shRNA発現231細胞をマウスに静脈内注射することにより決定した。1カ月後に、ITGA5、RDXまたはRhoAを標的にするshRNAを有する細胞は、対照よりもそれぞれ80%、85%および55%少ない肺転移を生じた。しかし、Fzd3、MMP16またはM−RIPの下方制御は、生じた転移の数に影響しなかった(補足の図4)。よって、Fzd3、MMP16またはM−RIPではそうではないが、ITGA5、RDXまたはRhoAの阻害は、転移能力のin vitro代替およびin
vivo転移に影響する。
これらの分析を拡張するために、本発明者らは、miRNA非感受性バージョンのFzd3、ITGA5、MMP16、M−RIP、RDXまたはRhoAをコードするmRNAを個別に、miR−31または対照ベクターのいずれかを既に発現している231細胞で安定的に再発現させた(補足の図5A)。このことにより、本発明者らは、再発現されたときにin vivo転移に対するmiR−31の影響を反転するこれらのエフェクターのそれぞれの能力を測定することが可能になった。マウスの静脈循環に導入した場合に、miR−31発現細胞は、注射の1カ月後に対照よりも85%少ない肺転移を形成し(補足の図5B)、これは本発明者らの以前の研究結果と一貫していた(Valastyanら、2009年)。ITGA5、RDXまたはRhoAの個別の再発現は、miR−31発現細胞における肺転移の数を、対照レベルのそれぞれ55%、50%および65%まで回復した。これとは対照的に、Fzd3、MMP16またはM−RIPは、病変の数を増加できなかった(補足の図5B)。ITGA5、RDXまたはRhoAの過剰発現は、対照231細胞において転移をさらに増進せず(補足の図5B)、このことは、これらの経路からのシグナル伝達が、RhoA制御ネットワークについて以前に確立されたように(Pilleら、2005年)、231細胞において既に飽和していたことを示唆した。これらの研究結果はまとめて、miR−31が多数のmRNA種を抑制できるが、これらのエフェクターの部分集合のみを調節するこの能力は、転移を損なうその能力にとって重要であるとみられることを意味した。
この考えを支持するものとして、231細胞において安定的に再発現させた場合に、Fzd3、MMP16またはM−RIPは、浸潤、運動性およびアノイキス耐性のmiR−31により強制される減弱化をin vitroで反転できなかった(補足の図6)。これとは対照的に、本発明者らの以前の研究は、ITGA5、RDXまたはRhoAの回復されたレベルは、少なくとも部分的に、これらの表現型におけるmiR−31により誘発される欠損を救済したことを明らかにした(Valastyanら、2009年)。これらのin vitroおよびin vivoの再発現データ、ならびに上記のin vitroおよびin vivoでの機能喪失の研究結果に基づいて、本発明者らは、miR−31の転移抑制性活性の根拠になるITGA5、RDXおよびRhoAの阻害の能力について本発明者らのその後の分析を集中することにした。
このために、本発明者らは、ITGA5、RDXまたはRhoAを個別に抑制することの結果について、同所性注射アッセイにおいて調べた。よって、本発明者らは、ITGA5、RDXまたはRhoAのいずれかを標的にするshRNAを発現する231細胞を、マウスの乳腺脂肪パッドに移植した。ITGA5またはRhoAの抑制は、原発腫瘍成長に影響しなかった。逆に、RDXの阻害は、得られる乳腺腫瘍のサイズを低減した(図1A)。原発腫瘍成長における差について正規化した後に、ITGA5、RDXまたはRhoAに対するshRNAを発現する細胞は、注射の2.5カ月後に対照よりもそれぞれ85%、70%および50%少ない肺転移を形成した(図1B)。つまり、ITGA5、RDXまたはRhoAの阻害は、それぞれ転移を妨害する。しかし、このアッセイは、ITGA5、RDXまたはRhoAの抑制により損なわれた浸潤−転移カスケードの特定のステップ(複数可)を明らかにしなかった。
本発明者らの以前の研究において、本発明者らは、miR−31が、浸潤−転移カスケードの3つのステップ、すなわち局所浸潤、初期の血管内異物侵入後事象(管腔内生存性、血管外遊走および/または遠位組織での最初の生存)ならびに定着にin vivoで影響することを観察した(Valastyanら、2009年)。したがって、本発明者らは、ITGA5、RDXまたはRhoAの個別の抑制が、転移プロセスに対するmiR−31の複数の影響の1または複数を再現するために十分かどうかを評価した。本発明者らは、ITGA5、RDXまたはRhoAのいずれかに対するshRNAを含有する231細胞が、組織学的に浸潤性であると考えられ、対照と区別できない原発腫瘍を形成したことを見出した(図1C)。よって、ITGA5、RDXまたはRhoA単独の阻害は、in vivoでの局所浸潤を廃止しない。
初期の血管内異物侵入後事象に対する推定の影響を、静脈内注射の1日後に肺におけるshRNA発現231細胞を定量することにより調べた。ITGA5またはRhoAのいずれかが抑制された細胞は、対照よりそれぞれ40%および30%少なく普及していた。しかし、RDXノックダウンは、肺における存続性を低減しなかった(図1D)。これらの影響は、肺の微小脈管構造において最初にとどまるようになる細胞の能力の差に起因しなかった。なぜなら、同数の細胞が、静脈内注射の10分後に肺において検出されたからである(補足の図7)。これらのデータは、ITGA5またはRhoAのいずれかの阻害が、in vivoでの初期の血管内異物侵入後事象を損なうことを示した。
定着(すなわち大きい多細胞転移を生じる散在単細胞の能力)に対する可能性のある影響を調べるために、静脈内注射した動物における肺転移のサイズを、移植の3カ月後に分析した。ITGA5またはRDXのいずれかのshRNAを発現する231細胞は、小さい微小転移のみを形成したが、RhoA shRNA含有細胞は、対照細胞により生じるものと同等の巨視的な転移を生じた(図1E)。よって、ITGA5またはRDXいずれか単独の抑制は、in vivoでの定着を妨げる。
これらの観察結果はまとめて、ITGA5、RDXまたはRhoAの個別の抑制は、浸潤−転移カスケードの1または複数のステップを損なうが、これらのタンパク質単独のいずれか1つの阻害は、転移に対するmiR−31の影響の全範囲を表現型模写できないことを明らかにした。このことは、miR−31が、いくつかの下流エフェクターの同時の抑制により転移プロセスの複数の異なる段階に対するその影響を達成し得ることを示唆した。刺激的に、本発明者らの機能喪失分析は、ITGA5、RDXおよびRhoAが、浸潤−転移カスケードの少なくとも部分的に異なるステップ中に作用することを示した(例えば、RhoAは初期の血管内異物侵入後事象に影響したが定着には影響せず、RDXは初期の血管内異物侵入後事象に影響しなかったが定着を変更させた)。よって、これらの同時の調節は、それによりmiR−31がその複数の転移抑制性効果を惹起し得るもっともらしい機構を提供する。
この仮説を試験するために、本発明者らは、ITGA5、RDXおよびRhoAをmiR−31または対照ベクターのいずれかとともに一緒に組み合わせてコードするmiRNA非感受性mRNAを、231細胞において安定的に再発現させた。これらの細胞をマウスに同所性注射した場合に、miR−31は原発腫瘍成長を増進し、本発明者らの先行の研究結果を再現した(Valastyanら、2009年)。ITGA5、RDXおよびRhoAの同時再発現は、miR−31含有または対照の原発腫瘍のサイズを変更できなかった(図2A)。より大きい原発腫瘍を生じるそれらの能力にもかかわらず、miR−31発現231細胞は、肺転移を生じるそれらの能力の>80%を損なった(図2B)。ITGA5、RDXおよびRhoAは、対照231細胞において転移を増進しなかった。しかし、miR−31を含有する231細胞でのITGA5、RDXおよびRhoAの同時再発現は、miR−31により強制される転移抑制を完全に廃止した(図2B)。これらのデータは、in vivo転移に対するmiR−31の影響が、3つの下流エフェクターのコホートを阻害するmiR−31の能力により説明できることを意味した。このことは、かなり驚異的であった。なぜなら、コンピュータアルゴリズムは、miR−31が>200のmRNAを調節することを予測し、これらの多くが転移関連プロセスにおいて機能するタンパク質をコードするからである(Krekら、2005年;Grimsonら、2007年)。
ITGA5、RDXおよびRhoAの組み合わせた再発現が、miR−31により誘発される転移抑制を完全に廃止したので、本発明者らは、これらの3つのエフェクターが、個別にまたは異なる組合せでのいずれかで再発現された場合に、転移に対するmiR−31の影響の部分集合を反転できるかどうかについても決定した。よって、本発明者らは、miR−31または対照ベクターと、これらのmiR−31標的の0、1、2または3つの全ての可能な順列とを安定的に発現する231細胞(全てmiRNA耐性にされる)を創出した(補足の図8)。miR−31、ITGA5、RDXおよびRhoAは、in vitroでの細胞増殖に影響できなかった(補足の図9A)。しかし、ITGA5、RDXまたはRhoAの個別の再発現は、少なくとも部分的に、異所性miR−31により与えられる浸潤、運動性およびアノイキス耐性におけるin vitro欠損を救済した。この反転の程度は、複数のエフェクターを組み合わせて再発現させた場合に、より著しかった(補足の図9B〜D)。つまり、ITGA5、RDXおよびRhoAは、miR−31の下流の転移のために重要なin vitro挙動を制御する。
再発現されたITGA5、RDXおよび/またはRhoAの全ての可能な組合せのそれぞれの、in vivo転移に対するmiR−31の影響を反転する能力をアッセイするために、miR−31、ITGA5、RDXおよび/またはRhoAを発現する231細胞を、マウスに同所性移植した。miR−31は、全般的に原発腫瘍成長を促進したが、ITGA5、RDXおよびRhoAの回復されたレベルは、原発腫瘍の成長に一貫して影響できなかった(図3Aおよび補足の表1)。miR−31は、肺における転移病変の出現を>90%低減した(図3B)。miR−31含有細胞において個別に再発現させた場合に、ITGA5、RDXまたはRhoAは、転移を対照レベルのそれぞれ40%、45%および65%まで増加させた。miR−31陽性細胞におけるこれらの標的のいずれか2つの再発現は、対照の85%ほど多くの転移を生じた(図3B)。以前と同様に、miR−31を含有する細胞におけるITGA5、RDXおよびRhoAの同時再発現は、肺転移の数を、対照で観察されるものの100%まで回復した(図3B)。よって、これらの3つのエフェクターは、in vivo転移に対して異なって寄与し、これらの寄与は、このプロセスに対するmiR−31の影響を説明するために共同して働くことができる。しかし、これらの観察結果は、再発現されたITGA5、RDXおよび/またはRhoAの種々の組合せにより影響される浸潤−転移カスケードの特定のステップ(複数可)を詳細に示すことができなかった。
miR−31は、in vivoでの浸潤−転移カスケードの3つのステップ、すなわち局所浸潤、初期の血管内異物侵入後事象および定着に影響する(Valastyanら、2009年)。ITGA5、RDXおよびRhoAが、過剰発現された場合に、局所浸潤に対するmiR−31の影響を相乗して反転できるかを調べるために、本発明者らは、同所性注射されたマウスにおいて発生した原発腫瘍の組織学的外観を調べた。対照231細胞腫瘍は浸潤の明確な証拠を示したが、miR−31発現腫瘍は、本発明者らが以前に文書化したように(Valastyanら、2009年)、良好に限局された(図3C)。ITGA5、RDXおよびRhoAは対照231細胞腫瘍において浸潤を変更しなかったが、これらの3つの標的の組み合わせた再発現は、miR−31発現腫瘍の以前にうまく被包された表現型を廃止した(図3C)。RDXまたはRhoAいずれか単独の回復されたレベルを有するmiR−31含有細胞は、浸潤性であるとみられる原発腫瘍を形成したが、miR−31により強制される浸潤欠損の反転は、不完全であった。ITGA5は、被包化に影響しなかった(図3C)。これらの観察結果は、局所浸潤のmiR−31依存性減弱化が、RDXおよびRhoAを調節するmiR−31の能力に起因し得ることを明らかにした。表面上、本発明者らのshRNA研究(図1C)に鑑みて、RDXおよびRhoAは、互いに一緒にまたはさらなる未同定のmiR−31標的とともに重複して機能して、in vivoでの浸潤を促進する。
本発明者らは、これらの3つの標的の再発現が、初期の血管内異物侵入後事象に対するmiR−31の影響を反転できるかどうかについても調べた。これを行うために、本発明者らは、231細胞をマウスの静脈循環に導入し、注射の1日後の肺における細胞数をアッセイした。本発明者らの以前の研究結果と一致して(Valastyanら、2009年)、miR−31発現細胞は、肺に存続するそれらの能力が5倍損なわれており(図4A)、このことは、miR−31が1または複数の初期の血管内異物侵入後事象を妨害したことを示した。ITGA5、RDXおよびRhoAは、対照231細胞において初期の血管内異物侵入後事象に影響できなかった(図4A)。これとは対照的に、ITGA5またはRhoAのいずれかの個別の再発現は、肺におけるmiR−31発現細胞数を、対照レベルの50%まで回復した。RDXは、この時点で、肺に存続するmiR−31含有細胞の能力を強化しなかった(図4A)。miR−31発現細胞へのITGA5およびRhoAの同時再導入は、初期の血管内異物侵入後事象のmiR−31により強制される妨害を完全に覆すのに十分であった(図4A)。これらの影響は、肺の微小脈管構造において最初にとどまるようになるITGA5、RDX、RhoAおよび/またはmiR−31発現細胞の能力の変更の結果ではなかった。なぜなら、同数の細胞が、静脈内注射の10分後に肺において検出されたからである(補足の図10)。これらのデータは、初期の血管内異物侵入後事象のmiR−31により誘発される抑制が、ITGA5およびRhoAを変調するmiR−31の能力に起因し得ることの証拠を提供した。
静脈内注射の3カ月後に、対照231細胞は、大きい巨視的な転移を生じたが、miR−31発現細胞は、小さい微小転移のみを生じた(図4B)。よって、定着に対するmiR−31の報告されている影響と調和して(Valastyanら、2009年)、miR−31は、散在腫瘍細胞が転移部位にてそれらの増殖プログラムを再開することを妨げた。miR−31含有細胞におけるITGA5、RDXおよびRhoAの同時再発現は、miR−31により強制される定着抑制を廃止したが、対照231細胞におけるこれら3つの標的の過剰発現は、病変サイズを増加できなかった(図4B)。miR−31発現細胞におけるITGA5またはRDXのいずれかの個別に回復されたレベルは、定着に対するmiR−31の影響を反転した。RhoAは、このパラメータに影響しなかった(図4B)。よって、定着を阻害するmiR−31の能力は、ITGA5およびRDXを抑制するその能力に由来し得る。
この同じアッセイにおいて、miR−31発現231細胞は、対照よりも20倍少ない肺転移を形成した(図4C)。miR−31含有細胞において個別に再発現させた場合、ITGA5、RDXまたはRhoAは、形成された転移の数を対照レベルのそれぞれ60%、60%および50%まで増加させた(図4C)。miR−31発現細胞におけるこれら3つの標的の2つ1組の組合せの回復されたレベルは、病変の数を対照の>70%まで増進した。重要なことに、miR−31含有細胞におけるITGA5、RDXおよびRhoAの同時再発現は、miR−31により媒介される転移抑制を完全に廃止した(図4C)。上記の実験はまとめて、転移に対するmiR−31の影響が、ITGA5、RDXおよびRhoAを調節するmiR−31の能力により完全に説明できることを示した。これらの3つの標的は、in vivoでmiR−31の下流の浸潤−転移カスケードの部分的に重複するステップにて作用する(表1)。
miR−31の作用を覆すITGA5、RDXおよびRhoAの能力が、231細胞系のいくらかの特殊性により起こることがまだ可能であった。このことに対処するために、本発明者らは、本発明者らの分析を、SUM−159ヒト乳癌細胞に拡張した。231細胞と同様に、SUM−159細胞は、内因性miR−31を欠き、in vitroで高度に攻撃性であり、異所性miR−31により損なわれた浸潤、運動性およびアノイキス耐性を示す(Valastyanら、2009年)。本発明者らは、miR−31または対照ベクターのいずれかとITGA5、RDXおよび/またはRhoAをコードするmiRNA耐性mRNAとの16全ての可能な組合せを安定的に発現するSUM−159細胞を創出した。全ての系統は、同等のin vitro増殖動態を示した(補足の図11A〜B)。231細胞における本発明者らの観察結果と一致して、miR−31含有SUM−159細胞におけるITGA5、RDXまたはRhoAの個別の再発現は、異所性miR−31に起因し得る浸潤、運動性およびアノイキス耐性のin vitro欠損を少なくとも部分的に救済した。以前と同様に、救済の程度は、複数のエフェクターを同時に再発現させた場合に、より著しかった(補足の図11C〜E)。よって、miR−31の作用を覆すITGA5、RDXおよびRhoAの再発現の能力は、231細胞に限定されない。
ITGA5、RDXまたはRhoAの個別の再発現は、in vitroでのあるいくつかのmiR−31により強制される転移関連欠損を大部分反転させた(補足の図9および11)が、ITGA5、RDXまたはRhoAレベルの個別の回復は、転移に対するmiR−31の影響をin vivoで部分的にしか救済しなかった(図3〜4)。このことは、利用可能なin vitroアッセイが、in vivo転移の十分な複雑さのモデルになるには適当でないという事実を強調する。よって、これらの技術を導入する場合、特に並行するin vivo分析がない場合には注意を払わなければならない。
まとめると、この実施例に記載した研究結果は、転移に対するmiR−31の影響が、比較的少数の下流標的を抑制するその能力により説明できることを示唆する。今回の場合、関連するエフェクターは、このmiRNAが標的にするmRNAの全体のリストの小さいパーセンテージしか含まない。本発明者らのデータは、ITGA5、RDXおよびRhoAが、その調節が転移に対するmiR−31の影響を説明するのに十分であるエフェクターの最小限のコホートであることを示すが、これらの観察結果は、ITGA5、RDXおよび/またはRhoAの作用と表面上は機能的に重複する様式で転移関連経路に影響するさらなるmiR−31標的の存在を除外しない。また、転移関連性を有するmiR−31の1または複数の真の標的が、231細胞においてこのmiRNAにより著しく下方制御され得なかったという可能性がある。全体として、転移が、癌腫からの患者の死亡率の圧倒的大部分を担うという事実により、この研究は、miR−31およびそのエフェクターの変調が、臨床的に有用であると判明し得ることをさらに強調する。
プラスミド構築。miR−31は、本発明者らが(Valastyanら、2009年)に詳細に述べるように、pBABE−puroから発現させた。Fzd3(Deardorffら、2001年)、ITGA5(KuwadaおよびLi、2000年)、MMP16(Hotaryら、2006年)、M−RIP(Surksら、2003年)、RDX(Batchelorら、2004年)およびRhoA(Subausteら、2000年)をコードする構築物(但し内因性3’UTR配列を欠き、よってそれらはmiRNA耐性になっている)は、それぞれpBABE−hygro、pBABE−neo、pBABE−hygro、pBABE−hygro、pBABE−hygroおよびpBABE−zeoにサブクローニングした(Elenbaasら、2001年)。Fzd3、ITGA5、MMP16、M−RIP、RDXおよびRhoAを標的にするshRNAは、pLKO.1−puro(Open Biosystems)から発現させた。
イムノブロッティング。可溶化液をNuPAGEゲル電気泳動(Invitrogen)で分離し、PVDFメンブレンに移し、β−アクチン(Santa Cruz)、ITGA5(Santa Cruz)、RDX(Cell Signaling)またはRhoA(Abcam)に対する抗体で調べた。
マイクロRNA検出およびRT−PCR。小型RNAを含むトータルRNAを、記載される231細胞から、mirVanaマイクロRNA単離キット(Ambion)を用いて抽出した。成熟マイクロRNAおよび5S rRNAのRT−PCRに基づく検出を、mirVanaマイクロRNA検出キットおよび遺伝子特異的プライマーセット(Ambion)を用いて達成した。Fzd3、GAPDH、ITGA5、MMP16、M−RIP、RDXおよびRhoAの転写産物レベルを検出するために、cDNAを、200ngのトータルRNAからSuperScriptIII第1鎖合成システム(Invitrogen)を用いて調製し、SYBR GreenリアルタイムRT−PCR(Applied Biosystems)により定量した。
浸潤および運動性アッセイ。浸潤アッセイのために、1.0×105細胞を、8.0μmの孔を有するMatrigel被覆チャンバ(BD Biosciences)で培養した。運動性アッセイのために、5.0×104細胞を、8.0μmの孔を有する非被覆メンブレン(BD Biosciences)の頂上に播種した。細胞を無血清培地に播種し、完全成長培地に向かって20時間移動させた。非浸潤または非遊走細胞を、次いで、物理的に除去した。うまく移動した細胞を、Diff−Quick染色セット(Dade)を用いて視覚化して、計数した。
アノイキスアッセイ。アノイキス耐性は、7.5×104細胞を超低接着性プレート(Corning)に播種することにより評価した。24時間後に、細胞を0.4%トリパンブルー(Sigma)に再懸濁し、生存細胞の割合を、血球計数器を用いて定量した。
in vitro細胞増殖の測定。そうでないと記載しない限り、増殖動態は、1.0×105細胞を6ウェルプレートのウェルあたりに播種することによりアッセイした。全細胞数は、トリプシン処理および血球計数器を用いる手動計数により、2〜3日毎に評価した。代わりに、細胞増殖は、96ウェルプレートのウェルあたり5.0×102または1.0×103細胞を播種し、CellTiter96 AQueous One Solution MTS細胞増殖アッセイ(Promega)を用いることにより測定した。細胞を、MTS試薬と1.5時間インキュベートし、次いで、全細胞数を、96ウェルプレートリーダーで492nmにて吸光度を測定することにより定量した。
当業者は、本明細書に記載される本発明の具体的な実施形態についての多くの等価物について、認識するか、または日常的な実験を超えずに確かめることができる。本発明の範囲は、上記の実施形態に限定されることを意図しない。本発明は、本明細書に記載されるそれぞれ個別の特徴、システム、物品、材料、キットおよび/または方法を対象とする。さらに、このような特徴、システム、物品、材料、キットおよび/または方法が互いに矛盾するのでなければ、このような特徴、システム、物品、材料、キットおよび/または方法の2つ以上の任意の組合せは、本発明の範囲内に含まれる。
「a」および「an」などのような冠詞は、反対であると記載しない限りまたは文脈からそうでないと明確でない限り、1または1より多くを意味し得る。
本明細書および特許請求の範囲において用いられるように「および/または」の句は、このように連結される要素の「いずれかまたは両方」を意味すると理解されよう。「および/または」を用いて列挙される複数の要素は、同じ様式、すなわち、そのように連結される要素の「1または複数」で解釈されよう。「および/または」の節で具体的に同定される要素以外のその他の要素も場合によって存在してよい。明細書および特許請求の範囲において用いる場合、「または」は、上で定義する「および/または」と同じ意味を有すると理解されよう。例えば、一連の要素において用いる場合、「または」または「および/または」は、包含的、すなわち一連の要素の少なくとも1つ、しかし場合によって1より多くと、場合によってさらなる列挙されていない要素を含めると解釈されるものとする。「1つのみの」または「厳密に1つの」のような明確に反対を示す用語のみが、いくつかまたは一連の要素のうちの厳密に1つの要素の包含について言及することになる。よって、群の1または複数のメンバー間に「または」を含む請求項は、反対であると記載しない限り、群のメンバーの1つ、1より多くまたは全てが、ある所定の製品またはプロセスに存在するか、用いられるかまたはそうでなければ関連する場合に、満たされると考えられる。本発明は、群のうちの厳密に1つのメンバーが、ある所定の製品またはプロセスに存在するか、用いられるかまたはそうでなければ関連する実施形態を提供する。本発明は、群のメンバーの1より多くまたは全てが、ある所定の製品またはプロセスに存在するか、用いられるかまたはそうでなければ関連する実施形態も提供する。本発明は、ある請求項の1または複数の限定、要素、条項、記述的用語などが別の請求項に導入される実施形態を包含する。例えば、別の請求項に従属する請求項は、同じ基本請求項に従属する任意のその他の請求項で見出される1もしくは複数の要素または限定を含むように改変できる。
請求項が組成物を記載する場合、本明細書に開示されるような組成物を用いる方法が提供され、本明細書に開示される任意の製造方法に従う該組成物の製造方法が提供されると理解される。請求項が方法を記載する場合、その方法を行うための組成物が提供されると理解される。要素が一覧または群として表される場合、それぞれのサブグループも開示される。一般的に、発明または発明の態様が、具体的な要素、特徴などを含むと言及される場合、発明または発明の態様のあるいくつかの実施形態は、このような要素、特徴などからなるかまたはそれから本質的になる。
反対であると明確に記載しない限り、1より多いステップまたは活動を含む本明細書で請求される任意の方法において、方法のステップまたは活動の順序は、方法のステップまたは活動が記載される順序に必ずしも限定されないことも理解されよう。
本明細書において範囲を記載する場合、本発明は、終点が含まれる実施形態、両方の終点が除外される実施形態、および一方の終点が含まれ、他方が除外される実施形態を提供する。そうでないと記載しない限り、両方の終点が含まれると考えられる。さらに、そうでないと記載しない限りまたは文脈および当業者の理解からそうでないと明確でない限り、範囲として表される値は、文脈がそうでないと明確に指図しない限り、本発明の種々の実施形態において記載される範囲内の任意の特定の値または部分範囲を、範囲の下限の単位の10分の1まで呈することができる。数値についての「約」とは、全般的に、そうでないと記載しない限りまたは文脈からそうでないと明確でない限り、値の±10%、いくつかの実施形態において±5%、いくつかの実施形態において±1%、いくつかの実施形態において±0.5%内になる値の範囲のことをいう。数値が「約」で始まる本発明における任意の実施形態において、本発明は、厳密な値が記載される実施形態を提供する。数値が「約」で始まらない本発明の任意の実施形態において、本発明は、値が「約」で始まる実施形態を提供する。一連の数が「少なくとも」の句で始まる場合、この句は、列挙されるそれぞれの数に用いられることが理解されよう(パーセント同一性について記載するような文脈によっては、100%の値が上限であり得ることが理解される)。本発明の任意の具体的な実施形態、特徴または態様は、任意の1または複数の請求項から明示的に除外される場合があることも理解される。