以下、図面を参照して、実施形態について説明する。尚、各実施形態において、説明済みの要素と同一または類似の要素には同一または類似の符号を付し、重複する説明を基本的に省略する。
以降の各実施形態の説明は、キャリアセンスに基づく無線通信方式の一例として、IEEE802.11無線LANを想定して述べる。勿論、各実施形態は他の無線通信方式にも適宜応用することができる。
IEEE802.11は、複数の周波数帯を扱っている。IEEE802.11は、これら複数の周波数帯の各々に対して物理(PHYsical;PHY)層の規定を設けている。このPHY規定の上位に媒体アクセス制御(Medium Access Control;MAC)層の規定が設けられる。
例えば、802.11aは5GHz帯、802.11gは2.4GHz帯、802.11nは2.4GHz帯及び5GHz帯について規定している。更に、策定中である802.11adは、60GHz帯(ミリ波帯)について規定することになる。
これら各PHY規定は、キャリアセンスレベルの規定を包含する。無線通信装置は、規定されたキャリアセンスレベル以上の電力を受信すると媒体(Clear Channel Assessment)がビジーであると判定する必要がある。より詳細には、無線通信装置が対応するPHY方式の信号を受信した場合には、その受信レベル(Receive Signal Strength Indicator;RSSI)が当該PHY方式の最小受信感度以上であれば当該無線通信装置は媒体(CCA)がビジーであると判定する必要がある。そうでない場合(例えば、対応するPHY方式であるか不明な信号を受信した場合、対応するPHY方式と異なるPHY方式の信号を受信した場合、単に雑音を受信した場合など)には、その受信レベルが上記最小受信感度に固定値を加えた値以上であれば当該無線通信装置は媒体(CCA)がビジーであると判定する必要がある。尚、IEEE802.11無線LANにおいて、この固定値は基本的に20dBと定められている。以降の説明において、キャリアセンスレベルの調整について言及するが、このキャリアセンスレベルは対応するPHY方式の信号を受信した場合の(即ち、固定値を加えていない)キャリアセンスレベルを指すものとする。
ここで、PHY方式の検出手法について簡単に述べる。PHYパケットのPHYヘッダには、当該PHYパケットを送信するために使用されたPHY方式が記載されている。従って、無線通信装置は、受信信号がPHYパケットであればこのPHYヘッダを参照することによって、対応するPHY方式の信号を受信したか否かを判定できる。
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る無線通信装置は、図1に示されるように、上位処理部100、MAC処理部10、PHY処理部40、周波数変換回路50及びアンテナ60を含む。
上位処理部100は、MAC層に対して上位層のための処理を行う。上位処理部100は、MAC処理部10との間で信号をやり取りすることができる。
MAC処理部10は、MAC層のための処理を行う。前述のように、MAC処理部10は、上位処理部100との間で信号をやり取りすることができる。更に、MAC処理部10は、PHY処理部40との間で信号をやり取りすることができる。MAC処理部10は、受信処理部20及び送信処理部30を含む。
PHY処理部40は、PHY層のための処理を行う。前述のように、PHY処理部40は、MAC処理部10との間で信号をやり取りすることができる。PHY処理部40は、周波数変換回路50を介してアンテナ60に接続されている。周波数変換回路50は、信号の送受信のためにアップコンバート/ダウンコンバートを行う。
尚、アンテナ60は、図1または他の図面において1本であるかのように示されているが、複数本であっても勿論よい。また、複数の異なるPHY処理部40が設けられてもよい。複数のPHY方式処理部40が設けられる場合に、これらの各々に対応する受信処理部20及び送信処理部30が設けられてもよい。更に、複数のPHY処理部40に跨る共通処理部が設けられてもよい。
また、本実施形態に係る無線通信装置は、図1に示されるようにアンテナ60を構成要素として含む(一体化する)ことで、このアンテナ60の実装面積を小さく抑えることができる。更に、本実施形態に係る無線通信装置は、図1に示されるように、受信処理部20及び送信処理部30がアンテナ60を共用している。受信処理部20及び送信処理部30がアンテナ60を共用することにより、図1の無線通信装置を小型に実装することができる。尚、本実施形態に係る無線通信装置は、図1に例示されたものと異なる構成を備えても勿論よい。
信号送信に際して、PHY処理部40は、送信処理部30からMACフレームを受け取る。PHY処理部40は、MACフレームに符号化などの処理を行ってPHYパケットに変換する。周波数変換回路50は、PHYパケットを必要な周波数帯(例えば、60GHzのミリ波帯)の無線信号に変換する。アンテナ60は、周波数変換された無線信号を輻射する。尚、PHY処理部40は、信号送信の期間中に、媒体がビジーであることを示す信号をMAC処理部10(より正確には受信処理部20)へ出力する。
信号受信に際して、周波数変換回路50は、アンテナ60が受信した無線信号を必要な周波数帯(PHY処理部40が処理可能な基底帯域(Baseband))の信号に変換する。PHY処理部40は、ベースバンドの受信信号を受け取り、その受信レベルを検出すると共にそのPHY方式を判定する。PHY処理部40は、PHY方式に応じてキャリアセンスレベルを選択し、受信レベルと比較する。受信レベルが選択したキャリアセンスレベル以上であれば、PHY処理部40は媒体(CCA)がビジーであるということを示す信号をMAC処理部10(より正確には、受信処理部20)へ出力する。そうでなければ、PHY処理部40は、媒体(CCA)がアイドルであるということを示す信号をMAC処理部10(より正確には受信処理部20)へ出力する。PHY処理部40は、受信信号のPHY方式が適切な(即ち、無線通信装置が対応する)ものであれば、復号化処理、プリアンブル及びPHYヘッダを取り除く処理などを行って、ペイロードを抽出する。PHY処理部40は、ペイロードをMACフレームとして受信処理部20に渡す。更に、PHY処理部40は、MACフレームを受信処理部20に渡す前にPHYパケットの受信開始を受信処理部20に通知し、MACフレームを受信処理部20に渡した後にPHYパケットの受信終了を受信処理部20に通知する。また、PHY処理部40は、受信したPHYパケットが正常であれば(エラーを検出しなければ)、PHYパケットの受信終了を通知すると共に媒体がアイドルであるということを示す信号を受信処理部20に渡す。PHY処理部40は、受信したパケットにエラーを検出した場合にも、受信処理部20にエラーを検出したことを通知する。
MAC処理部10は、データフレーム、制御フレーム及び管理フレームの3種類のMACフレームを扱い、MAC層において規定される各種処理を行う。ここで、3種類のMACフレームについて説明する。
管理フレームは、他の無線通信装置との間の通信リンクの管理のために用いられる。例えば、管理フレームは、IEEE802.11におけるBasic Service Set(BSS)である無線通信グループを形成するためにグループの属性及び同期情報を報知するBeaconフレーム、認証のためにまたは通信リンク確立のために交換されるフレームなどを包含する。
データフレームは、他の無線通信装置との間で通信リンクが確立した状態で、データを当該他の無線通信装置に送信するために用いられる。例えばユーザのアプリケーション操作によって図1の無線通信装置においてデータが生成され、係るデータがデータフレームによって搬送される。具体的には、生成されたデータは、上位処理部100から送信処理部30に渡され、データフレームのフレームボディフィールドにペイロードとして格納されて送信される。また、受信処理部20がデータフレームを受信すると、そのフレームボディフィールドの情報をデータとして抽出及び処理し、上位処理部100に渡す。この結果、データの書き込み、再生などのアプリケーション上の動作が生じる。
制御フレームは、管理フレーム及びデータフレームを他の無線通信装置との間で送受信(交換)するときの制御のために用いられる。制御フレームは、管理フレーム及びデータフレームの交換を開始する前に媒体を予約するために他の無線通信装置との間で交換するRTS(Request to Send)フレーム、CTS(Clear to Send)フレームなどを包含する。また、制御フレームは、受信した管理フレーム及びデータフレームの送達確認のために送信されるACK(Acknowledgement)フレーム、BA(Block Ack)フレームなどを包含する。
MAC処理部10は、MACフレームを送信する前に、媒体上でのアクセス権(送信権)を獲得する必要がある。送信処理部30は、受信処理部20からのキャリアセンス情報(後述される)に基づいて送信タイミングを計る。送信処理部30は、係る送信タイミングに従って、PHY方式処理部40に送信指示を与えてMACフレームを渡す。送信指示に加えて、送信処理部30は送信に使用される変調方式及び符号化方式を合わせて指示してもよい。これらに加えて、送信処理部30は、送信電力を指示してもよい。MAC処理部10は、アクセス権を一旦獲得すると、媒体を占有可能な時間、QoS(Quality of Service)属性などの制限を伴うものの、他の無線通信装置との間でMACフレームを連続して交換することができる。アクセス権は、無線通信装置が所定のフレームを送信し、他の無線通信装置から応答フレームを正しく受信した場合に獲得される。この所定のフレームが例えば他の無線通信装置によって受信されると、当該他の無線通信装置は最小フレーム間隔(Short InterFrame Space)後に上記応答フレームを送信する。
受信処理部20は、キャリアセンス情報を管理する。このキャリアセンス情報は、PHY処理部40から入力する媒体(CCA)のビジー/アイドルに関するキャリアセンス(Physical Carrier Sense)情報と、受信フレームの中に記載されている媒体予約時間に基づく仮想的なキャリアセンス(Virtual Carrier Sense)情報との両方を包含する。いずれか一方のキャリアセンス情報がビジーを示すならば媒体がビジーであるとみなされ、その間の信号の送信が禁止される。尚、IEEE802.11において、媒体予約時間は、MACヘッダの中のいわゆるDuration/IDフィールドに記載される。MAC処理部10は、他の無線通信装置宛ての(自己宛てでない)MACフレームを受信した場合に、当該MACフレームを含むPHYパケットの終わりから媒体予約時間に亘って媒体が仮想的にビジーであると判定する。このような仮想的に媒体をビジーであると判定する仕組み、或いは、仮想的に媒体をビジーであるとする期間は、NAV(Network Allocation Vector)と呼ばれる。
本実施形態に係る無線通信装置は、後述されるように、前述のPHY方式についての最小受信感度に従うキャリアセンス(CCA)を用いた通常の無線通信方式をベースとし、当該通常の無線通信方式と共存可能な近接無線通信方式を実現する。尚、以降の説明では、通常の無線通信方式は便宜的にノーマル方式(或いは、非近接方式と呼ぶこともできる)と称され、ノーマル方式と共存可能な近接無線通信方式は便宜的に近接方式と称される。
尚、本実施形態に係る無線通信装置は、特定の周波数帯の方式にだけ対応するものであってもよいし、複数の周波数帯の方式に対応するハイブリッドなものであってもよい。更に、本実施形態に係る無線通信装置は、近接方式及びノーマル方式(例えば無線LAN)の両方をサポートするものであってもよい。以降の説明では、本実施形態に係る無線通信装置は、通常の無線LAN方式をベースにした近接方式を少なくともサポートするものとする。ここで、近接方式として、通信レンジが数cmオーダー(例えば3cm)に制限され、当該通信レンジの内部に限って通信が可能となるものが想定される。
無線通信装置は、通信レンジを制限するために、最大送信電力を制御する。例えば、無線通信装置がミリ波帯を使用する場合に、伝搬ロスを自由空間伝搬ロス+10dB、アンテナ利得を送受信共に0dBと仮定できる。ここで、無線通信装置は、例えばBeaconなどの基本的な管理フレームを、システムにおいて最も受信感度の低い所定の変調符号化方式(Modulation and Coding Scheme;MCS)を選択して送信する。このMCSをMCS0、その受信感度を−78dBmとする。一方、無線通信装置は、データフレームなどを含む他のフレームを、MCS0に比べて受信感度の高いMCS1〜MCS12のいずれかを選択して送信する。これらMCS1〜MCS12のうち、最小受信感度はMCS1の−68dBであるとする。また、MCS0と、MCS1〜MCS12とは相異なるPHY方式として区別されるものとする。
例えば、無線通信装置がMCS0を選択する場合に、3センチ離れた位置での受信レベルを−78dBmとするためには送信電力を−30dBmにする必要があると仮定する。一方、無線通信装置がMCS4を選択する場合に、3センチ離れた位置での受信レベルをその受信感度−64dBmにするためには送信電力を−16dBmにする必要があると仮定する(MCS4の受信感度−64dBmはMCS0の受信感度−78dBmよりも14dB高いので、送信電力も14dB高くする必要がある)。送信電力が−16dBmであるとき、キャリアセンス(CCA)がビジーとなる距離、即ち、受信レベルがMCS1の受信感度−68dBmを超える距離は例えば5センチになる。即ち、無線通信装置がMCS0を選択する場合に比べて、キャリアセンス(CCA)がビジーとなる距離が延びる。もし、近接無線通信において、所定の通信レンジにおける最低の伝送速度の要求があるならば、無線通信装置は当該伝送速度を達成可能なMCSのいずれかを選択し、当該所定の通信レンジ端において最低受信感度となるように最大送信電力を設定すればよい。そして、無線通信装置は、当該MCSまたはより高い伝送速度のMCSだけを選択可能とすると共に、設定された最大送信電力以下の送信電力で送信を行えばよい。即ち、無線通信装置の最大送信電力は、ノーマル方式に比べて減少する。
ところで、ノーマル方式の送信電力は通常0dBmから数十dBm程度である。即ち、前述の制御後の送信電力は、MCS0,MCS1〜4について例示したように、ノーマル方式に比べて数十dB程度減少することになる。
また、最大送信電力を制御することによって通信レンジを制限する方式は、ノーマル方式との共存において劣勢となる。例えば、送信電力10dBmでBeaconフレームを送信する無線通信装置(本実施形態において、便宜的に第2の無線通信装置と称される)と、最大送信電力を−30dBmに制限してBeaconフレームを送信する無線通信装置(本実施形態において、便宜的に第1の無線通信装置と称される)とが配置されるとする。第2の無線通信装置がMCS0を選択して送信電力10dBmでBeaconフレームを送信すると、3m離れた位置の受信感度が−78dBmとなる。従って、第1の無線通信装置から第2の無線通信装置までの距離が3m以内であれば、第1の無線通信装置における受信レベルは−78dBm以上となる。即ち、第1の無線通信装置は、CCAをビジーと判定する。一方、第1の無線通信装置がMCS0を選択して−30dBでBeaconフレームを送信すると、3cm離れた位置の受信感度は−78dBmとなる。従って、第2の無線通信装置から第1の無線通信装置までの距離が3cmを超えれば、第2の無線通信装置における受信レベルは−78dBm未満となる。即ち、第2の無線通信装置は、CCAをアイドルと判定する。従って、第2の無線通信装置が信号を送信している間、第1の無線通信装置は干渉を検知するので信号を送信できない。一方、第1の無線通信装置が信号を送信している間も、第2の無線通信装置は干渉を検知しないので信号を送信できる。故に、第1の無線通信装置は、第2の無線通信装置に比べて送信権を獲得しにくく、劣勢である。
そこで、本実施形態に係る無線通信装置は、以下に説明する近接方式を実現する。この近接方式は、例えば、最大送信電力を制限すると共に、ノーマル方式に比べて高いキャリアセンスレベルを使用する。即ち、近接方式の無線通信装置は、ノーマル方式の無線通信装置に干渉を与えない(近接方式の無線通信装置が信号を送信するときにノーマル方式の無線通信装置がCCAをビジーと判定しない)程度に離れている場合には、ノーマル方式の無線通信装置からの信号を受信しても干渉を検知しない。具体的には、PHY処理部40はCCAがビジーであると判定せず、係る通知をMAC処理部10(より正確には、受信処理部20)に与えない。尚、近接方式は、ノーマル方式と同じPHY方式(同じPHYパケットフォーマット、同じMCSのセット)を用いることとする。また、近接方式は、3cm離れた位置でMCS0の伝送速度を達成することが要求されているとする。
以下、図2を用いて近接方式の無線通信装置が使用するキャリアセンスレベルを説明する。ノーマル方式の無線通信装置は送信電力10dBmでMCS0を選択して信号を送信し、近接方式の無線通信装置は送信電力0dBm(即ち、近接方式の最大送信電力は0dBmに制限されている)でMCS0を選択して信号を送信すると仮定する。更に、伝搬ロスを自由空間伝搬ロス+10dB、アンテナ利得を送受信共に0dBと仮定する。図2において、無線通信装置は、「STA(station)」と表示されている。ノーマル方式の無線通信装置と近接方式の無線通信装置との間の距離が1mであるとき、近接方式の無線通信装置からMCS0を選択して送信される信号は、ノーマル方式の無線通信装置において受信レベル−78dBmで受信される。従って、両者の距離が1mを超えて離れていれば、ノーマル方式の無線通信装置は近接方式の無線通信装置からの信号によってCCAをビジーと判定せず、信号を送信できる。
ここで、両者の距離が1mを超えた状態で近接方式及びノーマル方式が対等に共存できるように、近接方式の無線通信装置が使用するキャリアセンスレベルを考察する。両者の距離が1mであるとき、ノーマル方式の無線通信装置からMCS0を選択して送信される信号は、近接方式の無線通信装置において受信レベル−68dBmで受信される。この受信レベル−68dBmは、要求されるMCS0の受信感度−78dBmよりも高い。前述の例から明らかなように、送信電力10dBmでMCS0を選択して送信された信号は、3m離れた位置でようやく受信感度−78dBmとなる。故に、近接方式の無線通信装置をノーマル方式の無線通信装置から1mよりも多少遠ざけたとしても受信レベルは−78dBmを超えるので、近接方式の無線通信装置はノーマル方式の無線通信装置からの信号によってCCAをビジーと判定することになる。
そこで、本実施形態に係る無線通信装置は、係る状況でもCCAをビジーと判定しないようにキャリアセンスレベルを例えば−68dBmよりも高く設定する。仮に、近接方式の最大通信レンジを3cmと想定し、送信電力0dBmでMCS0を選択して信号を送信した場合の3cm離れた位置における受信レベルが−48dBmであるとする。係る条件下において、本実施形態に係る無線通信装置は、MCS0のキャリアセンスレベルを−48dBmに設定する。即ち、PHY処理部40は、受信レベルが−48dBm以上であるときにCCAをビジーと判定し、MAC処理部10へCCAがビジーであることを通知する。そして、PHY処理部40は、受信レベルが−48dBm以上であるときに受信成功したPHYパケットからペイロードを抽出し、MACフレームとしてMAC処理部10に渡す。
尚、受信レベルが−48dBmよりもある程度小さいとしてもこの受信レベルは無線通信装置の受信性能(受信感度)よりは十分高いので、無線通信装置はこの信号の受信に成功できるかもしれない。しかしながら、PHY処理部40は、受信レベルが−48dBm未満であるときにCCAがビジーであると判定せず(即ち、CCAがアイドルであると判定し)、MAC処理部10へCCAがビジーであることを通知しない。また、PHY処理部40は、PHYパケットのペイロードをMAC処理部10に渡さない。故に、本実施形態に係る無線通信装置は、前述のMACレベルでの仮想的なキャリアセンスについても、受信レベルが−48dBmであるときに受信成功したPHYパケットからのMACフレームに基づいて実施する。
続いて、MCS1以上のMCSを用いたPHYパケットを受信する場合の動作について考察する。
まず、MCS0とMCS1〜12とが同一のPHY方式としてカテゴライズされる場合を考察する。この場合には、無線通信装置は、全てのMCSについて−48dBmをキャリアセンスレベルとして使用すればよい。即ち、PHY処理部40は、任意のMCSについて受信レベルが−48dBm以上であればCCAがビジーであると判定し、そうでなければCCAがアイドルであると判定すればよい。
次に、MCS0とMCS1〜12とが異なるPHY方式としてカテゴライズされる場合を考察する。前述のように、ノーマル方式においてMCS1の最小受信感度−68dBmをキャリアセンスレベルとして使用するならば、ノーマル方式におけるMCS0のキャリアセンスレベルとMCS1のキャリアセンスレベルとの差分は10dBである。ところが、前述の通り、送信電力を0dBmに制限した場合に3cm離れた位置における受信レベルは−48dBm(即ち、近接方式におけるMCS0のキャリアセンスレベル)である。この受信レベルは、ノーマル方式におけるMCS1の最小受信感度−68dBmに比べて20dBも高い。故に、無線通信装置は、近接方式において、MCS1のキャリアセンスレベルをMCS0のものと同じ−48dBmに設定しても、MCS1の信号を十分に受信することができる。
即ち、近接方式における最低の伝送速度のMCS(例えば、MCS0)の最小受信感度(例えば、−78dBm)に対する所与のMCS(例えば、MCS1)の最小受信感度(例えば、−68dBm)の差分(例えば、10dB)が、ノーマル方式のキャリアセンスレベル(例えば、−78dBm)に対する近接方式のキャリアセンスレベル(例えば、−48dBm)の差分(例えば、30dB)以下であれば、無線通信装置は近接方式において当該所与のMCSの信号を受信できる。一方、近接方式における最低の伝送速度のMCSの最小受信感度に対する所与のMCSの最小受信感度の差分が、ノーマル方式のキャリアセンスレベルに対する近接方式のキャリアセンスレベルの差分よりも大きければ、当該所与のMCSの通信レンジは最低の伝送速度のMCSの通信レンジ(例えば、3cm)よりも狭くなる。MCSの伝送速度の上昇に伴って通信レンジが狭くなることは、いわゆるリンクアダプテーションと同様であるので問題ない。従って、MCS0とMCS1〜12とが異なるPHY方式としてカテゴライズされる場合にも、無線通信装置は近接方式用の1つのキャリアセンスレベル(例えば、−48dBm)を使用すればよい。即ち、PHY処理部40は、任意のMCSについて受信レベルが−48dBm以上であればCCAがビジーであると判定し、そうでなければCCAがアイドルであると判定すればよい。
また、前述のように、無線通信装置は、対応するPHY方式以外の信号を受信した場合には、当該PHY方式の最小受信感度に20dBを加えた値をキャリアセンスレベルとして使用する。しかしながら、仮に、MCS1の最小受信感度(−68dBm)に20dBを加えたとしても、近接方式用のキャリアセンスレベル−48dBmを上回らない。故に、無線通信装置は、上記固定値を考慮した場合にも、近接方式用の1つのキャリアセンスレベル(例えば、−48dBm)を使用すればよい。即ち、PHY処理部40は、任意のMCSについて受信レベルが−48dBm以上であればCCAがビジーであると判定し、そうでなければCCAがアイドルであると判定すればよい。
ところで、ノーマル方式においてMCS0とMCS1〜12とが異なるPHY方式としてカテゴライズされる理由の1つとして、一般に、ミリ波帯の通信においてデータフレーム交換時のPHY方式(即ち、MCS1〜12)は高いアンテナ利得(指向性)を利用することが挙げられる。ここで、MCS0は、1つの無線通信グループの存在を周囲に周知させるために通信レンジを広くカバーするPHY方式として設計されている。具体的には、MCS0は、ミリ波帯において現実的に達成可能な最も広い指向性幅を持つ(即ち、準無指向(quasi−omni)の)ロバストなPHY方式として設計されている。一方、MCS1〜12は、無線通信装置同士が実際にデータフレームを交換するために指向性を積極的に活用するというポリシーに従って設計されている。具体的には、MCS1〜12は、指向性のトレーニングを行ってアンテナ利得を高めたうえで高い伝送速度を提供するPHY方式として設計されている。
一方、近接方式は、短時間で通信相手を発見し、通信リンクを確立してデータフレームを交換することがしばしば要求されるので、指向性を必ずしも積極的に活用しないというポリシーでPHY方式が設計されるかもしれない。即ち、近接方式は、ノーマル方式のようにBeaconフレームなどの管理フレームをMCS0で送信するようには設計されず、管理フレームもデータフレームと同様にMCS1〜12で送信するように設計されるかもしれない。この場合には、近接方式はMCS0を使用せず1つのPHY方式(MCS1〜12)を使用することになるが、前述の説明を「近接方式は3cm離れた位置でMCS1の伝送速度を達成することが要求されている」として読み替えればよい。
更に、近接方式は、伝送速度の要求次第でMCS1〜12のうちの一部のMCSに限って使用するように設計されるかもしれない。この場合にも、無線通信装置は、使用されるPHY方式の中で最小受信感度よりも高いキャリアセンスレベルを1つ設け、この値を基準にCCAのビジー/アイドルを判定すればよい。
以上説明したように、第1の実施形態に係る無線通信装置は、ノーマル方式に比べて低く制限された最大送信電力を使用し(例えば、ノーマル方式が10dBmに対して近接方式が0dBm)、かつ、ノーマル方式に比べて高いキャリアセンスレベル(例えば、ノーマル方式が−78dBmに対して近接方式が−48dBm)を使用する近接方式によって近接無線通信を行う。従って、本実施形態に係る無線通信装置によれば、他の無線通信装置からの信号に対して干渉を検知するときの基準がノーマル方式に比べて厳格となり、近接方式の無線通信装置がノーマル方式の無線通信装置に対して劣勢となる事態が解消される。即ち、ノーマル方式の無線通信装置と近接方式の無線通信装置とが対等に共存することができる。
尚、上記考察から明らかなように、近接方式を使用する無線通信装置のごく近くにノーマル方式の無線通信装置が配置されている場合には、無線通信装置は近接方式用にキャリアセンスレベルを高く設定しても干渉を検知することになる。係る場合には、無線通信装置は他の干渉のない周波数チャネルに移動することが望ましい。また、近接方式の無線通信装置が無線通信を開始した後に、ごく近くでノーマル方式の無線通信装置が無線通信を開始する場合も同様である。勿論、近接方式を用いる相異なるBSSの無線通信装置同士が極端に近づき過ぎている場合も同様である。概括すれば、これらの現象は、ノーマル方式を用いる相異なるBSS(即ち、無線通信グループ)の無線通信装置同士が干渉し合うことと同様のものなので、同様の対策を講じればよい。即ち、ノーマル方式における干渉の検出、BSSの周波数チャネルの変更などを適宜応用することができる。
また、近接方式用のキャリアセンスレベル及び最大送信電力は、例えば、MAC処理部10を管理する機能部(例えば、後述されるMAC/PHY管理部70)、或いは、係る機能部の一部を組み込んだMAC処理部10によって設定されてよい。また、近接方式用のキャリアセンスレベル及び最大送信電力は、近接方式が使用される場合に自動的に設定されてもよいし、ユーザなどの人間の指示に応じて設定されてもよい。
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る無線通信装置は、前述の第1の実施形態に係る無線通信装置を補足するものである。本実施形態に係る無線通信装置は、前述の近接方式及びノーマル方式の両方をサポートし、必要に応じて一方を選択して動作することができる。尚、本実施形態に係る無線通信装置は、デフォルトではノーマル方式を選択している。
本実施形態に係る無線通信装置は、図3に例示されるように、上位処理部100、MAC処理部10、PHY処理部40、周波数変換回路50、アンテナ60及びMAC/PHY管理部70を含む。
MAC/PHY管理部70は、上位処理部100、MAC処理部10(より詳細には、受信処理部20及び送信処理部30)及びPHY処理部40の夫々と接続されている。MACH/PHY管理部70は、無線通信装置におけるMAC動作及びPHY動作を管理する。
MAC/PHY管理部70は、IEEE802.11無線LANにおけるSME(Station Management Entity)に相当する。MAC/PHY管理部70とMAC処理部10との間のインタフェースは、IEEE802.11無線LANにおけるMLME SAP(MAC subLayer Managament Entity Service Access Point)に相当する。MAC/PHY管理部70とPHY処理部40との間のインタフェースは、IEEE802.11無線LANにおけるPLME SAP(Physical Layer Management Entity Service Access Point)に相当する。
尚、図3においてMAC/PHY管理部70はMAC管理のための機能部とPHY管理のための機能部とが一体であるかのように描かれているが、以下の動作を実現できるのであれば異なる態様で実装されてもよい。
MAC/PHY管理部70は、情報管理ベース(Management Information Base;MIB)を保持する。MIBにおいて、近接方式を実現するための各種情報が保持される。
例えば、MIBには、近接方式で動作するか否か(近接方式用の属性を選択するか否か)を示すアトリビュートが保持される。係るアトリビュートは、例えばdot11CloseProximityCommunicationEnabledと名付けることができる。当該アトリビュートは、無線通信装置が近接方式を使用するときにTRUEの値を設定され、無線通信装置がノーマル方式を使用するときにFALSEの値を設定されている。前述のように、当該アトリビュートのデフォルト値はFALSE(ノーマル方式)である。
例えば、ユーザが近接方式用のアプリケーションを選択すると、dot11CloseProximityCommunicationEnabledの値をTRUEに書き換えることの指示が上位処理部100経由でMAC/PHY管理部70に与えられる。MAC/PHY管理部70は、指示に従ってdot11CloseProximityCommunicationEnabledの値をTRUEに書き換える。或いは、上位処理部100が何らかのアルゴリズムによって近接方式を選択した場合に、係る書き換え指示をMAC/PHY管理部70に与えてもよい。また、ユーザが近接方式を選択した場合に、上位処理部100が係る書き換え指示をMAC/PHY管理部70に与えてもよいし、MAC/PHY管理部70が自発的に書き換えを行ってもよい。
尚、ノーマル方式に限ってサポートする(換言すれば、近接方式をサポートしない)無線通信装置は、上記アトリビュートdot11CloseProximityCommunicationEnabledを保持していない(保持する必要がない)。
更に、MIBには、近接方式で使用される最大送信電力及びキャリアセンスレベルを夫々指定するアトリビュートも保持される。最大送信電力を指定するアトリビュートは、例えばdot11CloseProximityCommunicationMaximumTransmitPowerLevelと名付けることができる。キャリアセンスレベルを指定するアトリビュートは、例えばdot11CloseProximityCommunicationCarrierSenseLevelと名付けることができる。前述の第1の実施形態によれば、dot11CloseProximityCommunicationMaximumTransmitPowerLevelの値は例えば0dBmに設定され、dot11CloseProximityCommunicationCarrierSenseLevelの値は例えば−48dBmに設定される。尚、両アトリビュート値は、固定であってもよいし、上位処理部100などによって変更可能であってもよい。
或いは、近接方式で使用される最大送信電力及びキャリアセンスレベルそのものを指定する代わりに他のパラメータを指定するアトリビュートを用意することもできる。例えば、近接方式の最大送信電力の代わりにノーマル方式の最大送信電力に対する近接方式の最大送信電力の減少量(第1の実施形態によれば例えば10dB)を指定するアトリビュートが用意されてもよい。近接方式のキャリアセンスレベルの代わりにPHY方式の最小受信感度に対する近接方式のキャリアセンスレベルの増加量(第1の実施形態によれば例えば30dB)を指定するアトリビュートが用意されてもよい。
PHY処理部40は、dot11CloseProximityCommunicationEnabledの値がTRUEである場合には、近接方式に従って動作する。即ち、PHY処理部40は、送信電力がdot11CloseProximityMaximumTransmitPowerLevelの値以下となるように送信を行う。また、PHY処理部40は、dot11CloseProximityCommunicationCarrierSenseLevelの値に基づいて、CCAがビジー/アイドルであると判定する。
一方、PHY処理部40は、dot11CloseProximityCommunicationEnabledの値がFALSEである場合には、ノーマル方式に従って動作する。即ち、PHY処理部40は、送信電力がノーマル方式の最大送信電力以下となるように送信を行う。また、PHY処理部40は、PHY方式の最小受信感度に基づいて、CCAがビジー/アイドルであると判定する。尚、ノーマル方式の最大送信電力もMIBにおいて保持しておくことが好ましい。ノーマル方式の最大送信電力を指定するアトリビュートは、例えばdot11MaximumTransmitPowerLevelと名付けることができる。
尚、PHY処理部40が使用する送信電力は、近接方式またはノーマル方式の最大送信電力に固定されてもよい。或いは、MAC処理部10(より詳細には送信処理部30)が近接方式またはノーマル方式の最大送信電力以下の送信電力を指定し、PHY処理部40に通知してもよい。或いは、ユーザが近接方式またはノーマル方式の最大送信電力以下の送信電力を指定してもよい。係る場合には、ユーザによって指定された送信電力がMAC/PHY管理部70を経由してPHY処理部40に通知されてもよい。
更に、MIBは、必ずしもMAC/PHY管理部70に保持されなくてもよい。例えば、MIBは、図示しない共通のメモリ部に保持されてもよい。共通のメモリ部に保持されたMIBは、MAC/PHY管理部70、MAC処理部10及びPHY処理部40から参照可能(読み取り可能)であって、書き換え可能なアトリビュートをMAC/PHY管理部70が書き換え可能とするように設計してもよい。
以上説明したように第2の実施形態に係る無線通信装置は、MIBにおいて近接方式用の各種アトリビュートを保持している。従って、本実施形態に係る無線通信装置によれば、近接方式及びノーマル方式の両方をサポートし、必要に応じて一方を選択して動作することができる。
(第3の実施形態)
第3の実施形態に係る無線通信装置は、前述の第1乃至第2の実施形態に係る無線通信装置を補足するものである。本実施形態は、近接方式の無線通信グループ(例えば、IEEE802.11におけるBSS)の形成及び維持について述べる。即ち、本実施形態によれば、近接方式をサポートする無線通信装置同士が近接方式のBSSを形成する。
一般に、IEEE802.11においてBSSを形成する場合には、Beaconフレーム(管理フレーム)を送信する無線通信装置(本実施形態において、係る役割の無線通信装置は便宜的に第1の無線通信装置と称される)と、Beaconフレームを受信する無線通信装置(本実施形態において、係る役割の無線通信装置は便宜的に第2の無線通信装置と称される)とが存在する。第2の無線通信装置は、受信Beaconフレーム内の情報に基づいて自己の動作をBSSの属性に合致させるように調整すると共に、自己の情報(例えば、後述されるタイマー値)を受信Beaconフレーム内の同期情報に同期させる。第1の無線通信装置は、BSSの形成前(即ち、BSSに参加する第2の無線通信装置が存在しない)の期間及びBSSの形成後の期間において、BSSの形成及び維持のためにBeaconフレームを周期的に送信するものとする。
第2の無線通信装置は、Beaconフレームを受信することによって第1の無線通信装置を探索してもよい(いわゆるパッシブスキャン(passive scan))。或いは、第2の無線通信装置は、探索時間を短縮するために、第1の無線通信装置を探索する管理フレーム(例えば、IEEE802.11におけるProbe Requestフレーム)を送信し、第1の通信装置からその応答フレーム(例えば、IEEE802.11におけるProbe Responseフレーム)を受信することによって第1の無線通信装置を探索してもよい(いわゆるアクティブスキャン(active scan))。尚、Probe Responseフレームには、Beaconフレームと同様の情報が格納される。故に、第2の無線通信装置は、Beaconフレームの代わりにProbe Responseフレームから必要な情報を取得できる。
尚、Beaconフレームは基本的には無指向(omni)で送信される。ところが、ミリ波帯において、アンテナパターンが設計に依存して準無指向(quasi−omni)となることが想定される。係る場合には、無線通信装置同士がアンテナパターンの方向をある程度合わせる必要がある。従って、アクティブスキャンを行う(Probe Requestを送信する)第2の無線通信装置が、始めにBeaconフレームを第1の無線通信装置に送信することもある。
ここで、近接方式のBSSとは、近接方式を使用する複数の無線通信装置によって形成される無線通信グループであるとする。従って、一部の例外を除き、近接方式をサポートしない無線通信装置は、近接方式のBSSに参加することができない。
本実施形態に係る無線通信装置は、近接方式のBSSのために送信されるBeaconフレーム/Probe Responseフレームのフレームボディフィールドにおいて、BSSの属性が近接方式であることを示す情報を格納する。従って、これらBeaconフレーム/Probe Responseフレームを受信する無線通信装置は、探索したBSSが近接方式のものであるか否かを認識できる。
本実施形態に係る無線通信装置は、図4に例示されるように、MAC処理部10においてMAC共通処理部15を含む。MAC共通処理部15は、MAC/PHY管理部70と信号をやり取りする。具体的には、MAC共通処理部15は、MAC/PHY管理部70からの指示を一旦受け取り、当該指示を受信処理部20及び送信処理部30に適したものに変換して出力する。また、MAC共通処理部15は、上位処理部100にも接続される。従って、MAC共通処理部15は、受信処理部20から上位処理部100への受信データの受け渡し及び上位処理部100から送信処理部30への送信データの受け渡しを夫々仲介する。
以下、本実施形態に係る無線通信装置が、近接方式のBSSから送信されるBeaconフレーム/Probe Responseフレームのフレームボディフィールドにおいて、BSSの属性が近接方式であることを示す情報を格納するときの動作について説明する。
本実施形態に係る無線通信装置は、前述の第2の実施形態と同様に、MIBにおいてアトリビュートdot11CloseProximityCommunicationEnabledを保持している。MAC/PHY管理部70がBSS(の形成)を開始する指示(例えば、IEEE802.11においてMLME−START.requestと呼ばれるプリミティブ)を出力すると、Beaconフレームの送信処理が開始する。MAC共通処理部15は、上記指示を受けると、dot11ClosePoximityCommunicationEnabledの値を参照する。値がTRUEであれば、MAC共通処理部15はBSSの属性が近接方式であることを示す情報を格納したフレームボディを生成し、当該フレームボディを含むBeaconフレームの送信指示を送信処理部30へ周期的に与える。このBeaconフレームの送信周期(Beacon IntervalまたはBeacon Period)は、例えば前述のBSSを開始する指示において指定される。或いは、送信周期がMIBにおいて指定されていてもよく、係る場合にはMAC共通処理部15はMIBを参照すればよい。送信処理部30は、受信処理部20からのキャリアセンス情報に基づいて、BeaconフレームをPHY処理部40、周波数変換回路50及びアンテナ60を介して送信する。
一方、本実施形態に係る無線通信装置は、他の無線通信装置(第2の無線通信装置に相当する)からProbe Requestフレームを受信すると、受信処理部20が当該Probe RequestフレームをMAC共通処理部15に渡す。MAC共通処理部15は、Probe Requestフレームのフレームボディにおいて指定されている要求条件が満たされる場合に、Probe Responseフレームのフレームボディを生成して送信処理部30に渡す。但し、MAC共通処理部15は、dot11ClosePoximityCommunicationEnabledの値に応じて、Probe Responseフレームのフレームボディを生成する。具体的には、値がTRUEであれば、MAC共通処理部15はBSSの属性が近接方式であることを示す情報を格納したフレームボディを生成する必要がある。送信処理部30は、受信処理部20からのキャリアセンス情報に基づいて、Probe ResponseフレームをPHY処理部40、周波数変換回路50及びアンテナ60を介して送信する。
尚、BSSの属性が近接方式であることを示す情報は、以下に例示される態様でBeaconフレーム/Probe Responseフレームのフレームボディフィールドに格納できる。仮に、ノーマル方式においてBSSの属性を示すフィールドが用意されていて、そのフィールドの一部がReservedであれば、当該Reservedの部分に係る情報を格納することを定義できる。例えば、近接方式はミリ波帯に限って使用され、このミリ波帯には近接方式のベースとなるノーマル方式が存在し、ミリ波帯における運用属性を示すフィールドがBeaconフレーム/Probe ResponseフレームのフレームボディフィールドにおいてInformation Element(IE)として用意されており、この運用属性を示すフィールドにおいて1以上のビットがReservedであると仮定する。係る場合には、Reservedの1ビットに運用中のBSSの属性が近接方式であるか否かを示す情報を格納することを定義できる。即ち、MAC共通処理部15は、運用中のBSSの属性が近接方式であれば当該1ビットの値を1に設定し、そうでなければ(例えば、運用中のBSSの属性がノーマル方式であれば)当該1ビットの値を0のままにすればよい。
そして、近接方式をサポートする無線通信装置(第2の無線通信装置に相当する)は、例えばこのミリ波帯における運用属性を示すIEを抽出し、BSSの属性が近接方式であるか否かを示す情報を格納するビットの値を参照することによって、BSSが近接方式で運用されているか否かを認識できる。一方、近接方式をサポートしない無線通信装置は、BSSの属性が近接方式であるか否かを示す情報を格納するビットを認識する必要がないのでこれを無視するかもしれない。或いは、近接方式をサポートしない無線通信装置は、本来はReserved、即ち0であるべき当該ビットに1が設定されていることを認識し、自己のサポートしない無線通信方式がBSSにおいて要求されているとみなして当該BSSへの参加を差し控えるかもしれない。
続いて、本実施形態に係る無線通信装置(即ち、少なくとも近接方式をサポートする無線通信装置)がBSSに参加するときの動作について説明する。
MAC/PHY管理部70がBSSの探索を行うことを決定すると、BSSの探索指示をMAC共通処理部15へ出力する。この探索指示は、IEEE802.11におけるMLME−SCAN.requestプリミティブに相当する。このプリミティブは、図6に例示されるパラメータを備えている。
パラメータScan Typeによってパッシブスキャンを指示されると、MAC共通処理部15はパラメータChannel Listを参照し、指定された周波数チャネルに移動するようにPHY処理部40へ指示を与える。それから、MAC共通処理部15は、PHY処理部40及び受信処理部20を介して受信された管理フレームのうち、Min Channel Time以上かつMax Channel Time以下の時間におけるBeaconフレームの情報を収集する。ここで、MAC共通処理部15は、BSSの探索指示に対象条件の制限が含まれているならば、当該対象条件を満たすBeaconフレームの情報に限って収集する。尚、Channel Listにおいて複数の周波数チャネルが指定されているならば、MAC共通処理部15は指定された周波数チャネル毎に上記パッシブスキャン動作を実施する。そして、一連のパッシブスキャン動作が終了すると、MAC共通処理部15は収集したBeaconフレームの情報をMAC/PHY管理部70に渡す。
一方、パラメータScan Typeによってアクティブスキャンを指示されると、MAC共通処理部15は入力した指示に応じてProbe Requestフレームのフレームボディを生成する。MAC共通処理部15は、指定された各周波数チャネルにおいてBSSの探索条件(例えば、図6におけるパラメータProbe Delay)に従ってProbe Requestフレームが送信されるように、送信処理部30にProbe Requestフレームを渡す。パッシブスキャンとは異なり、MAC共通処理部15は、Beaconフレームの代わりにProbe Responseフレームの情報を収集する。尚、パッシブスキャンと同様に、Channel Listにおいて複数の周波数チャネルが指定されているならば、MAC共通処理部15は指定された周波数チャネル毎に上記アクティブスキャン動作を実施する。そして、一連のアクティブスキャン動作が終了すると、MAC共通処理部15は収集したProbe Responseフレームの情報をMAC/PHY管理部70に渡す。
図6に例示されるように、MAC/PHY管理部70からのBSSの探索指示は、スキャン対象のBSSの種別を指定するパラメータBSS Typeを含むことができる。仮に、このパラメータにおいて、近接方式のBSSであるか否かを指定することが可能であるとすれば、MAC共通処理部15はBeaconフレーム/Probe Responseフレームの情報を収集するときに係るパラメータを活用することができる。即ち、MAC/PHY管理部70が近接方式のBSSを指定するBSS Typeを含む探索指示をMAC処理部15に与えると、MAC処理部15はBSSの属性が近接方式であることを示す情報を格納するBeaconフレーム/Probe Responseフレームに限って収集する。
また、MAC/PHY管理部70が近接方式のBSSを指定するBSS Typeを含む探索指示をMAC共通処理部15に与えるならば、これに伴ってMAC/PHY管理部70はアトリビュートdot11CloseProximityCommunicationEnabledの値をTRUEに書き換えることが有効である。係る書き換え処理の結果、PHY処理部40は近接方式用のキャリアセンスレベルを使用することになる。換言すれば、MAC共通処理部15は係るキャリアセンスレベル以上の受信レベルを伴うBeaconフレーム/Probe Responseフレームに限って収集することになる。従って、MAC処理部15は、収集したBeaconフレーム/Probe Responseフレームに対応するBSSからの信号が近接方式用のキャリアセンスレベル以上で受信されることを当該BSSに参加する前に確認することができる。従って、係る書き換え処理によれば、参加対象のBSSからの信号が近接方式用のキャリアセンスレベルを満たさず、ひいては近接無線通信が不能となる事態を回避できる。
MAC/PHY管理部70は、MAC共通処理部15がパッシブスキャン/アクティブスキャンによって収集したBeaconフレーム/Probe Responseフレームの情報に基づいて、参加するBSSを決定する。MAC/PHY管理部70は、特定のBSSへの参加指示(例えば、IEEE802.11におけるMLME−JOIN.requestプリミティブ)をMAC共通処理部15に与える。
ところで、例えばアプリケーション要求がノーマル方式及び近接方式の両方を許容するなどの理由により、上位処理部100はMAC/PHY管理部70にノーマル方式及び近接方式のいずれの指定も伴わないBSSの探索指示を与えるかもしれない。ここで、アトリビュートdot11CloseProximityCommunicationEnabledの値はFALSEである。MAC/PHY管理部70は、BSSの種別(近接方式か否か)を指定しないBSSの探索指示をMAC共通処理部15に与える。この場合にも、MAC処理部15は近接方式のBSSのBeaconフレーム/Probe Responseフレームの情報を収集し、MAC/PHY管理部70に通知することができる。但し、前述の通りdot11CloseProximityCommunicationEnabledの値がFALSEなので、無線通信装置はノーマル方式の送信電力及びキャリアセンスレベルを使用する。即ち、より正確には、ノーマル方式のキャリアセンスレベル以上の受信電力が得られる信号を送信する近接方式のBSSが存在すれば、MAC処理部15はこの近接方式のBSSのBeaconフレーム/Probe Responseフレームの情報を収集することができる。
ところが、無線通信装置は、近接方式のBSSに参加する場合に、dot11CloseProximityCommunicationEnabledの値をTRUEに書き換え、近接方式用の送信電力及びキャリアセンスレベルを使用する必要がある。従って、無線通信装置が近接方式のBSSをスキャンできることと、当該無線通信装置が当該BSSに参加して近接無線通信を実現できることとは等価でない。具体的には、スキャンされた近接方式のBSSからの信号の受信レベルは近接方式のキャリアセンスレベル未満となり、近接無線通信が不能となるかもしれない。
そこで、本実施形態に係る無線通信装置が前述の第2の実施形態のようにノーマル方式及び近接方式の両方をサポートするのであれば、以下の動作が有効である。具体的には、MAC共通処理部15はスキャン動作によって収集したBeaconフレーム/Probe Responseフレームの情報(即ち、BSSの情報)に当該フレームの受信レベルを追加してMAC/PHY管理部70に通知する。この通知は、IEEE802.11におけるMLME−SCAN.confirmプリミティブに相当する。このプリミティブを前提とするならば、各BSS情報をまとめて表現するBSSDescriptionと呼ばれるパラメータに受信レベルを記載する項目を追加することによって上記動作を実現できる。例えば、PHY処理部40は、MACフレームに加えて当該MACフレームの受信レベルを受信処理部20に渡す。また、受信処理部20は、少なくともBeaconフレーム/Probe Responseフレームの情報に加えて当該フレームの受信レベルをMAC共通処理部15に渡す。そして、MAC共通処理部15はスキャン結果に加えて各BSSに付随する情報としてBeaconフレーム/Probe Responseフレームの受信レベルをMAC/PHY管理部70に渡すことができる。MAC/PHY管理部70は、スキャンされたBSSの属性が近接方式であれば、受信レベルに基づいて当該近接方式のBSSに参加可能であるか否か(参加した場合に近接方式のキャリアセンスレベル以上の受信レベルが得られるか否か)を判定すればよい。
また、無線通信装置が近接方式をサポートするか否かを示すアトリビュートとして例えばdot11CloseProximityCommunicationImplementedを定義することができる。このアトリビュートは、例えばMIBにおいて保持される。即ち、MAC共通処理部15は、このアトリビュート値がTRUE(近接方式をサポートすることを示す)であれば、スキャン結果に加えて各BSSのBeaconフレーム/Probe Responseフレームの受信レベルをMAC/PHY管理部70に渡せばよい。一方、MAC共通処理部15は、このアトリビュート値がFALSE(近接方式をサポートしないことを示す)であれば、単にスキャン結果をMAC/PHY管理部70に渡せばよい(即ち、上記受信レベルをMAC/PHY管理部70に渡さなくてよい)。更に、MAC共通処理部15は、このアトリビュートが定義されていなければ無線通信装置は近接方式をサポートしないとみなし、当該アトリビュート値がFALSEである場合と同様に振る舞えばよい。尚、dot11CloseProximityCommunicationImplementedが定義され、かつ、このアトリビュート値がTRUEであるならば、前述のアトリビュートdot11CloseProximityCommunicationEnabledもまた定義されており、TRUEまたはFALSEの値が設定されていることになる。
例えばMAC/PHY管理部70は、収集された有効な(即ち、参加した場合に近接無線通信が可能であることが例えば受信レベルに基づいて確認された)BSS候補と上位層におけるアプリケーションの要求とに基づいて、参加するBSSを決定する。決定されたBSSの属性が近接方式であれば、MAC/PHY管理部70は、アトリビュートdot11CloseProximityCommunicationEnabledの値をTRUEに書き換え、近接方式の送信電力及びキャリアセンスレベルに切り替える。尚、近接方式のBSSへの参加動作は、ノーマル方式におけるものと同様である。即ち、無線通信装置は、近接方式のBSSのBeaconフレームを受信し、受信Beaconフレーム内の情報に基づいて自己の動作をBSSの属性に合致させるように調整すると共に、自己の情報(例えば、後述されるタイマー値)を受信Beaconフレーム内の同期情報に同期させる。
尚、BSSの属性が近接方式であることを示す情報は、アソシエーション応答(Association Response)フレームに格納されてもよい。Association Responseフレームは、上記第1の無線通信装置に上記第2の無線通信装置がアソシエーション要求(Association Request)フレームを送信した場合に、第1の無線通信装置によって第2の無線通信装置へ送信される。BSSの属性が近接方式であることを示す情報をAssociation Responseフレームに格納すれば、第2の無線通信装置はアソシエーション過程においてBSSの属性が近接方式であることを確認できる。
以上の説明は、本実施形態に係る無線通信装置が近接方式のBSSに参加するときの動作及び本実施形態に係る無線通信装置が近接方式のBSSを運用するときの動作について述べている。ところで、近接無線通信に関して、近接方式を使用する無線通信装置は同じく近接方式を使用する無線通信装置に限って通信したいという要求仕様が想定される。係る要求仕様によれば、近接方式をサポートしない無線通信装置が近接方式のBSSへ参加することを排除ないし制限することが好ましい。以下の説明は、本実施形態に係る無線通信装置が近接方式のBSSを運用する場合に、近接方式をサポートしない無線通信装置の当該BSSへの参加を排除ないし制限するときの動作について述べる。
IEEE802.11において、BSSへの参加の定義は、上記第2の無線通信装置が自己の動作を当該BSSの属性に合致させるように調整すると共に、自己の情報を同期情報に同期させることとされている。従って、第2の無線通信装置は、第1の無線通信装置との間でフレーム交換による認証手順を経ることなく、BSSに参加することができる。仮に、第2の無線通信装置が、前述のアトリビュートdot11CloseProximityCommunicationImplementedの値がTRUEであって、かつ、ノーマル方式のBSSへ参加を希望しているならば、BeaconフレームなどによってBSSの属性が近接方式であるとことを認識し、近接方式のBSSへの参加を差し控えるかもしれない。しかしながら、このアトリビュートの値がFALSEである、或いは、このアトリビュートが定義されていないならば、第2の無線通信装置は近接方式をサポートしない(ノーマル方式に限ってサポートする)。故に、係る第2の無線通信装置は、BSSの属性が近接方式であることを認識できないかもしれない。即ち、近接方式をサポートしない無線通信装置が、自己の動作をBSSの属性に合致させるように調整すると共に、自己の情報を同期情報に同期させて、近接方式のBSSに参加するかもしれない。従って、近接方式をサポートしない無線通信装置が近接方式のBSSに参加すること自体を排除ないし制限するのは容易でない。そこで、最初に、近接方式をサポートしない無線通信装置が近接方式のBSSに参加する無線通信装置へデータフレームを送信することを排除ないし制限するための手法について述べる。
IEEE802.11において、アソシエーション過程が用意されている。そして、近接方式のBSSにおいて、アソシエーション過程を経なければデータフレームの交換を開始できないと定めることができる。即ち、近接方式のBSSに参加する無線通信装置は、データフレームの交換を開始する前にアソシエーション過程を完了させる必要がある。
上記第2の無線通信装置は、アソシエーション過程において上記第1の無線通信装置にAssociation Requestフレームを送信するが、このフレームボディフィールドに当該第2の無線通信装置が近接方式をサポートするか否かを示す情報を格納する。例えば、近接方式はミリ波帯に限って使用され、このミリ波帯には近接方式のベースとなるノーマル方式が存在し、ノーマル方式のAssociation Requestフレームにはミリ波帯における無線通信装置の能力(capability)を示すフィールドが含まれており、このフィールドにおいて1以上のビットがReservedであると仮定する。係る場合には、Reservedの1ビットに第2の無線通信装置が近接方式をサポートするか否かを示す情報を格納することを定義できる。即ち、アトリビュートdot11CloseProximityCommunicationImplementedの値がTRUEであって、かつ、アトリビュートdot11CloseProximityCommunicationEnabledの値がFALSE(デフォルト)であれば、第2の無線通信装置のMAC共通処理部15は、MAC/PHY管理部70からの指示に従ってAssociation Requestフレームのフレームボディを生成するときに上記特定の1ビットに1を設定する。一方、アトリビュートdot11CloseProximityCommunicationImplementedの値がFALSEであれば、第2の無線通信装置のMAC共通処理部15は、上記特定の1ビットを0のままにしておく。
そして、近接方式のBSSを運用する第1の無線通信装置は、Association Requestフレームを受信し、上記特定の1ビットの値を確認する。上記特定の1ビットの値が0であれば、第1の無線通信装置はアソシエーションを拒否する。具体的には、第1の無線通信装置は、Association Responseフレーム中のStatus CodeにRejectを設定し、このAssociation Responseフレームを第2の無線通信装置へ送信する。ここで、Status Codeは、近接方式をサポートしていないため、という理由を追記したものであってもよい。一方、上記特定の1ビットの値が1であれば、第1の無線通信装置は他の条件次第でアソシエーションを許可することができる。第1の無線通信装置は、アソシエーションを許可する場合には、Association Responseフレーム中のStatus CodeにSuccessfulを設定し、このAssociation Responseフレームを第2の無線通信装置へ送信する。第2の無線通信装置は、Association Responseフレームによってアソシエーションが許可されたことを認識すると、アトリビュートdot11CloseProximityCommunicationEnabledの値をTRUEに書き換えて近接方式を使用し始める。
尚、上記説明はアトリビュートdot11CloseProximityCommunicationImplementedの値がTRUEであって、かつ、アトリビュートdot11CloseProximityCommunicationEnabledの値がFALSEであるときに、Association Requestフレームの特定の1ビットに1を設定することについて述べた。上記手法によると、アソシエーションが許可されるまでアトリビュートdot11CloseProximityCommunicationEnabledの値はFALSEのままである。即ち、無線通信装置が近接方式を使用する/しないの切り替えは、他の無線通信装置からの応答に依存することとなる。
そこで、上記手法は下記のように変形することができる。具体的には、前述のように、近接方式をサポートする(アトリビュートdot11CloseProximityCommunicationImplementedの値がTRUEである)無線通信装置は、近接方式のBSSに参加することを決めた段階でアトリビュートdot11CloseProximityCommunicationEnabledの値をTRUEに書き換えることができる。係る無線通信装置がAssociation Requestフレームを送信する場合にも、上記特定の1ビットに1を設定することが有効である。具体的には、例えばMAC/PHY管理部70はMAC共通処理部15からスキャン結果(周辺のBSSの探索情報)をMLME−SCAN.confirmを用いて受け取る。MAC/PHY管理部70は、スキャン結果の中から近接方式のBSSを選択し、係るBSSへの参加を決定することができる。MAC/PHY管理部70は、MLME−JOIN.requestを用いてMAC共通処理部15に近接方式のBSSへの参加を指示すると共に、アトリビュートdot11CloseProximityCommunicationEnabledの値をTRUEに書き換える。それから、MAC/PHY管理部70はMLME−ASSOCIATION.requestをMAC共通処理部15へ出力し、MAC共通処理部15はこれに応じてAssociation Requestフレームのフレームボディを生成する。ここで、MAC共通処理部15は、アトリビュートdot11CloseProximityCommunicationEnabledの値を参照し、値がTRUEであれば、Association Requestフレームのフレームボディフィールドにおける上記特定の1ビットに1を設定する。一方、MAC共通処理部15は、アトリビュートdot11CloseProximityCommunicationEnabledの値がFALSEであれば、Association Requestフレームのフレームボディにおける上記特定の1ビットを0のままにしておく。この手法によると、無線通信装置は、Association Requestフレームを送信する段階で近接方式の送信電力及びキャリアセンスレベルを使用する。従って、無線通信装置は、近接方式の通信レンジでアソシエーションに関するフレーム交換が実施されているか否かを確認できる。具体的には、無線通信装置は、Association Requestフレームの送信から一定時間待ってもAssociation Responseフレームを受信できなければ、通信相手(即ち、上記第1の無線通信装置)における当該Association Requestフレームの受信レベルが近接方式のキャリアセンスレベル未満であったとみなすことができる。即ち、無線通信装置は、通信相手からの距離が近接方式の通信レンジを超えているとみなすことができる。尚、MAC/PHY管理部70は、Association Responseフレームを待つ時間長を指定し、MAC共通処理部15にMLME−ASSOCIATION.requestを与えるときに、そのプリミティブの中で当該時間長を通知することができる。
続いて、近接方式をサポートしない無線通信装置が近接方式のBSSに参加してデータフレームの送信することを排除ないし制限するための手法について述べる。
例えば、上記第1の無線通信装置は、アソシエーションを許可していない無線通信装置がBeacon Intervalの中でデータフレームを送信できないようにスケジュールすることができる。仮に、近接方式のベースとなるノーマル方式において、BSSに参加した無線通信装置はBeacon Intervalの中の送信スケジュールに従ってフレームを送信するという仕組みがあれば、近接方式においてもこの仕組みを利用することができる。具体的には、第1の無線通信装置は、図5に例示されるように、Beacon Intervalの中のある一定期間に限ってAssociation Requestフレームなどの管理フレームを送信可能とすると共に、Beacon Intervalの中の残りの全ての期間では当該第1の無線通信装置または当該第1の無線通信装置がアソシエーション許可した無線通信装置に限ってデータフレームを送信可能とするようにスケジュールすればよい。スケジュール情報は、Beaconフレームによって各無線通信装置へ通知される。
図5は、第1の無線通信装置を「STA1」で表し、第1の無線通信装置がアソシエーションを許可した1台の無線通信装置を「STA2」で表している。即ち、図5の例によれば、STA1及びSTA2以外の無線通信装置がデータフレームを送信可能な期間はスケジュールされない。尚、図5において、管理フレーム送信可能期間は、Association Requestフレームなどの管理フレームを送信するためのものである。しかしながら、第1の無線通信装置は、管理フレーム送信可能期間においても何らかの無線通信装置を指定して送信許可を与えてもよい。
近接方式をサポートしない無線通信装置は自己の参加しているBSSの属性が近接方式であることを認識できないかもしれないが、係るスケジュールによればデータフレームを送信できる期間がスケジュールされず、結果的にデータフレームを一切送信できない。そこで、近接方式をサポートしない無線通信装置は、自己の送信期間がスケジュールされることを望んで管理フレーム送信可能期間においてAssociation Requestフレームを生成して第1の無線通信装置へ送信するかもしれない。しかしながら、近接方式をサポートしない無線通信装置は、Association Requestフレームにおいて近接方式をサポートするか否かを示す情報を格納するための特定の1ビットに1を設定することができない。従って、第1の無線通信装置は、このアソシエーションを拒否できる。仮に、送信期間のスケジュールを要求するための何らかの管理フレームが定義されているとしても、Association Requestフレームと同様に上記特定の1ビットを定義すれば、同様の効果を得ることができる(即ち、近接方式をサポートしない無線通信装置からのスケジュール要求を拒否したり、当該無線通信装置のための送信期間をスケジュールから除外したりすることができる)。
また、Beacon Intervalの中でアソシエーションが許可されていない無線通信装置(即ち、近接方式をサポートしない無線通信装置)、が送信可能な期間を制限することも有効である。具体的には、図5の例における管理フレーム送信可能期間は、コンテンション期間に置き換えられてもよい。このコンテンション期間において、送信可能なフレームは管理フレームに制限されず、更に、フレームを送信可能な無線通信装置も制限されない。係るスケジュールによれば、近接方式をサポートしない無線通信装置は、コンテンション期間に限ってデータフレームを送信することができる。尚、コンテンション期間は、近接方式を使用する無線通信装置の送信要求(QoS(Quality of Service)要求)が満たされるように十分に短く設定されることが望ましい。コンテンション期間を十分に短く設定すれば、近接方式をサポートしない無線通信装置が近接方式のBSSに参加しても、当該無線通信装置からのフレーム送信が近接方式を使用する無線通信装置からのフレーム送信を実質的に妨害しない。
また、BSSの属性に関してBSSに参加するために必須のパラメータを定義することが可能であれば、この仕組みを利用することも有効である。具体的には、上記第1の無線通信装置は、係るパラメータにおいて、近接方式をサポートする無線通信装置には理解可能であって、かつ、近接方式をサポートしない無線通信装置には理解不能なコードを挿入する。係るコードの挿入によって、近接方式をサポートしない無線通信装置を近接方式のBSSから排除することができる。例えば、BSSにおいて用いられるMCSセットを示すIEが存在し、当該IEにおいてBSSでの受信に必須のMCSを示す方法があると仮定する。第1の無線通信装置は、この方法を利用して実際にはMCSを示さないコードを近接方式のために定義する。近接方式をサポートする無線通信装置は、上記コードが近接方式のために定義されていることを理解し、BSSに参加できる。一方、近接方式をサポートしない無線通信装置は、上記コードを理解できないうえ、当該コードが示すMCSがBSSでの受信に必須であると定義されているので、BSSに参加できない(BSSへの参加を指示できない)。
また、近接方式のベースとなるノーマル方式において、BSSから無線通信装置を追い出すためのフレームが定義されていれば、係るフレームを利用することも有効である。具体的には、上記第1の無線通信装置は、近接方式をサポートしない無線通信装置が近接方式のBSSに参加していることを認識すると、当該無線通信装置を追い出すために上記フレームを送信すればよい。但し、第1の無線通信装置は、近接方式をサポートしない無線通信装置が近接方式のBSSに参加していることを、当該無線通信装置がデータフレームの交換を開始する段階まで認識できないかもしれない。
以上説明したように、第3の実施形態に係る無線通信装置によれば、近接方式をサポートする無線通信装置同士が近接方式のBSSを形成することができる。尚、本実施形態及び他の実施形態の説明において、Beaconフレーム及びProbe Responseフレームなどの具体的な管理フレームを例示しているが、これらが他の管理フレームに置き換えられても勿論よい。
(第4の実施形態)
第4の実施形態に係る無線通信装置は、前述の第1乃至第3の実施形態に係る無線通信装置を補足するものである。具体的には、本実施形態に係る無線通信装置は、ノーマル方式において用意されるネットワーク識別子に依存することなく近接方式における接続を可能とする。
例えば、IEEE802.11は、BSSの属性を示す情報の1つとして、当該BSSが含まれるネットワーク識別子を示すSSID(Service Set IDentifier)を定めている。ところで、近接方式に関して、無線通信装置同士が近づいたときに直ちに通信を開始するというユースケースが考えられる。係るユースケースを考慮すると、仮にノーマル方式がSSIDを必要とするとしても、近接方式では通信相手を制限せず、かつ、ネットワーク識別子を不問とすることが要求されるかもしれない。
そこで、近接方式がノーマル方式のポリシーを踏襲し、何らかのSSIDを定める必要がある場合に、本実施形態に係る無線通信装置は例えば乱数カウンタを用いて暫定的にSSIDを決めてもよいし、近接方式のBSSを開始した無線通信装置固有の識別子を利用してもよい。そして、近接方式のBSSに参加する無線通信装置の間ではSSIDを無視すればよい。
以上説明したように、第4の実施形態に係る無線通信装置は、近接方式のBSS内ではネットワーク識別子を無視するようにしている。従って、本実施形態に係る無線通信装置によれば、近接方式について想定されるユースケースに適した近接無線通信を実現できる。
(第5の実施形態)
第5の実施形態に係る無線通信装置は、前述の第1乃至第4の実施形態に係る無線通信装置を補足するものである。本実施形態に係る無線通信装置は、近接方式においてデータフレームの交換を開始するまでに要する時間をノーマル方式に比べて短縮する。
ここで、近接無線通信のユースケースの一部において、データ通信(即ち、デーフレームの交換)を開始するまでに要する時間を短縮したいという要求がある。換言すれば、通信リンクのセットアップ時間を短縮したいという要求がある。
通信リンクのセットアップ時間には、近接方式のBSSの動作するチャネルを選択するために要する時間、近接方式のBSSを探索するために要する時間、Beaconフレームを周期的に送信する無線通信装置が衝突した場合にネゴシエーションするための時間などの要素が含まれる。尚、近接無線通信のユースケースによっては、これらの一部しか関係しないかもしれない。
まず、近接方式のBSSの動作するチャネルを選択するために要する時間の短縮について述べる。前述の第1の実施形態によれば、近接方式においてノーマル方式(物理方式の最小受信感度)に比べて高いキャリアセンスレベルが使用されるので、近接方式において干渉を検出する確率はノーマル方式に比べて低くなる。故に、近接方式においてBSSの動作するチャネルを選択する場合に候補となるチャネル(干渉が少ないチャネル)の数は、ノーマル方式に比べて多くなりやすい。従って、本実施形態に係る無線通信装置は、第1の実施形態と同様のキャリアセンスレベルを使用することによって、近接方式のBSSの動作するチャネルを選択するために要する時間を短縮できる。
続いて、近接方式のBSSを探索するために要する時間の短縮について述べる。係る時間は、BSSにおいて使用される可能性のあるBeacon Intervalの最大長に依存する。そこで、本実施形態に係る無線通信装置は、近接方式におけるBeacon Intervalの最大長をノーマル方式のものに比べて短く制限する。例えば、無線通信装置は、ノーマル方式におけるBeacon Intervalの最大長を1sに設定し、近接方式におけるBeacon Intervalの最大長を10msに設定する。係る設定によれば、無線通信装置が特定の周波数チャネルにおいて近接方式のBSSをパッシブスキャンによって探索する場合には、10msに亘って探索を継続すればよい。一方、無線通信装置が特定の周波数チャネルにおいてノーマル方式のBSSをパッシブスキャンによって探索する場合には、1sに亘って探索を継続する必要がある。従って、近接方式においてパッシブスキャンに要する時間は、ノーマル方式に比べて短縮できる。
一方、アクティブスキャンに関して、ミリ波帯を使用する無線通信装置同士がBeaconフレームを互いに送信し合ってアンテナの指向角を調整する手順が実施されることがある。この手順におけるBeacon IntervalがBeacon Intervalの最大長以下の範囲からランダムに選択されるとすれば、近接方式におけるBeacon Intervalの最大長をノーマル方式のものに比べて短く制限することの効果が得られる。即ち、近接方式においてアクティブスキャンに要する時間もまた、ノーマル方式に比べて短縮できるかもしれない。
続いて、Beaconフレームを周期的に送信する無線通信装置が衝突した場合にネゴシエーションするための時間の短縮について述べる。例えば、2つの無線通信装置の各々が、近接方式を用いるアプリケーションを起動しており、近接方式のBSSを形成する途上にあると仮定する。一方の無線通信装置(本実施形態において、便宜的に第1の無線通信装置と称される)は他方(本実施形態において、便宜的に第2の無線通信装置と称される)よりも先にBeaconフレームを周期的に送信している。しかしながら、第2の無線通信装置は、アプリケーションの要求(例えばBeacon Intervalの長さを所望の値に設定したい、Beacon Interval内のスケジュールを管理したい、など)などの要因でBeaconフレームを周期的に送信する無線通信装置(グループオーナーとも称される)となることを望んでいる。
係る状況において、一般に、第2の無線通信装置は、Beaconフレームの送信権を獲得したい(グループオーナーになりたい)という要求を第1の無線通信装置へ送信する。そして、第1の無線通信装置及び第2の無線通信装置の間でいずれがBeaconフレームの送信権を獲得するか(グループオーナーになるか)をネゴシエーションすることになる。従来、このネゴシエーションは、管理フレームの交換によって実現されている。具体的には、無線通信装置同士が最初に交換する2つのフレームには、送信側の無線通信装置の要求レベルが夫々表示される。そして、要求レベルのより高い無線通信装置がBeaconフレームの送信権を獲得する(グループオーナーになる)。従って、係るネゴシエーションは、互いの要求レベルを通知するための2フレームと、最終的な決定(譲る/譲らない)を通知するための1フレームとの3フレームを要する。また、係るネゴシエーションによると、両要求レベルが同一であるときにいずれの無線通信装置がBeaconフレームの送信権を獲得するかを一意に決定することが困難である。更に、無線通信装置は、ネゴシエーション用のフレームを交換するまで通信相手の要求レベルを認識できない。
そこで、本実施形態に係る無線通信装置は、自己の要求レベルと通信相手の要求レベルとが同一であるならば、当該無線通信装置に固有の識別子(例えばMACアドレス)を参照する。具体的には、無線通信装置は、自己の識別子と通信相手の識別子とを比較し、値の大きい方(或いは、小さい方でもよい)がBeaconフレームの送信権を獲得することを決定する。
更に、第1の無線通信装置がBeaconフレームのフレームボディフィールドに自己の要求レベルを記載しておくことも有効である。係る手法によれば、第2の無線通信装置は第1の無線通信装置からのBeaconフレームを受信した場合に、第1の無線通信装置の要求レベルを認識できる。従って、第2の無線通信装置は、自己の要求レベルと第1の無線通信装置の要求レベルとを比較し、自己の要求レベルが高ければネゴシエーション開始の要求フレームを第1の無線通信装置へ送信すればよいし、第1の無線通信装置の要求レベルが高ければBeaconフレームの送信権を第1の無線通信装置に譲ればよい。
尚、一般に、Beaconフレームには送信元の無線通信装置(本例では、第1の無線通信装置)のMACアドレスが無線通信グループの識別子(BSSID)として記載されている。故に、第1の無線通信装置のMACアドレスは、要求レベルと同様に受信Beaconフレームを通じて参照可能である。第2の無線通信装置は、自己の要求レベルと第1の無線通信装置の要求レベルとが同一であれば、自己のMACアドレスと第1の無線通信装置のMACアドレスを比較し、自己のMACアドレスが大きければネゴシエーション開始の要求フレームを第1の無線通信装置へ送信すればよいし、第1の無線通信装置のMACアドレスが大きればBeaconフレームの送信権を第1の無線通信装置に譲ればよい。
従って、Beaconフレームのフレームボディフィールドに第1の無線通信装置の要求レベルを記載することによって、第2の無線通信装置は第1の無線通信装置の要求レベルをネゴシエーションの開始前に認識できる。故に、ネゴシエーションにおける無駄なフレーム交換が省略される。換言すれば、第2の無線通信装置は、Beaconフレームの送信権を獲得できるか否かを予め認識できるので、Beaconフレームの送信権を獲得できない場合には要求フレームを第1の無線通信装置へ送信しない。一方、第2の無線通信装置はBeaconフレームの送信権を獲得できる場合には要求フレームを第1の無線通信装置へ送信するが、第1の無線通信装置はこれを了承する応答フレームを返すので、計2フレームでネゴシエーションが終了する。即ち、近接方式におけるネゴシエーションのための時間はノーマル方式に比べて短くなる。尚、Beaconフレームに変えてProbe Responseフレームのフレームボディフィールドに要求レベルを記載しても同様の効果を得ることができる。
尚、両方の要求レベルが同一であるときに、無線通信装置に固有の識別子(例えば、MACアドレス)以外のパラメータを比較することも可能である。例えば、無線通信装置は、タイマー値を比較してもよい。具体的には、Beaconフレームは他の無線通信装置を同期させるために用いられるので、その内部には送信元が保持するタイマー値が記載されている。IEEE802.11では、TimestampフィールドにBeaconフレームの送信元の保持するタイマー値が記載される。そして、一般に、無線通信装置がBSSに参加することを決定する(即ち、MAC/PHY管理部70がMLME−JOIN.requestをMAC共通処理部15へ出力する)と、受信処理部20は参加対象のBSSのBeaconフレームを受信し、MAC共通処理部15は自己のタイマー値を受信BeaconフレームのTimestamp値に一致させる(同期させる)。
以下、タイマー値を比較する場合の動作について述べる。MAC/PHY管理部70が参加するBSSを決定した段階で、当該BSSのBeaconフレームの送信権を獲得する(グループオーナーになる)ことを望むのであれば、前述の通り要求レベルの比較が行われる。そして、自己の要求レベルよりも受信Beaconフレームに記載された要求レベルが低い場合には、MAC/PHY管理部70はネゴシエーション開始の要求フレームを送信するようにMAC共通処理部15に指示する。受信Beaconフレームに記載された要求レベルよりも自己の要求レベルが低い場合には、MAC/PHY管理部70はネゴシエーション開始の要求フレームを送信する指示をせずに、通常の手順に従ってMLME−JOIN.requestをMAC共通処理部15に出力する。また、自己の要求レベルが受信Beaconフレームに記載された要求レベルと同一である場合にも、MAC/PHY管理部70はネゴシエーション開始の要求フレームを送信するようにMAC共通処理部15に指示するが、MAC共通処理部15は要求フレームを送信する前にタイマー値を比較する。具体的には、MAC共通処理部15は、自己のタイマー値と受信BeaconフレームのTimestamp値とを比較し、自己のタイマー値が大きければ指示通りに要求フレームを送信する。一方、受信BeaconフレームのTimestamp値が大きれば、MAC共通処理部15は自己のタイマー値を当該Timestamp値に同期させ、MAC/PHY管理部70に同期した旨(即ち、要求レベルは通信相手と同一であるがタイマー値は通信相手よりも小さい旨)を通知すればよい。尚、両者のタイマー値は、稀に同一となるかもしれない。係る場合には、MAC共通処理部15は、例えば1か0の目しかないサイコロを振るなどの要領で、自己がBeaconフレームの送信権を獲得するか否かをランダムに決定すればよい。いずれにせよ、要求フレームが送信される場合には、前述の例と同様に計2フレームでネゴシエーションが終了する。
以上の手法によれば、近接方式において、Beaconフレームの送信権のためのネゴエーションに関する無駄なフレーム交換を省略すると共に、ネゴシエーションにおいて交換されるフレーム数を削減できる。従って、ネゴシエーションに要する時間を短縮できる。
また、前述のように管理フレームの交換に関して、近接方式において管理フレームを送信した後に次の管理フレームの受信を待機する時間をノーマル方式に比べて短く設定することも有効である。係る制御によれば、フレーム交換完了までに要する時間を短縮できる。例えば第3の実施形態で述べたように、MAC/PHY管理部70はアソシエーション応答を待機する時間を指定し、MLME−ASSOCIATION.requestプリミティブを通じてMAC共通処理部15に通知することができる。そこで、MAC/PHY管理部70は、近接方式を選択(dot11CloseProximityCommunicationEnabledをTRUEに)している場合にはノーマル方式に比べて短い時間を指定すればよい。尚、他の管理フレームの交換についても、同様の手法により同様の効果を得ることができる。即ち、近接方式において、MAC/PHY管理部70が管理フレームを待機する時間をノーマル方式に比べて短く指定し、MLME−ASSOCIATION.requestプリミティブを通じてMAC共通処理部15に通知することができる。
以上説明したように、第5の実施形態に係る無線通信装置は、近接方式においてデータフレームの交換を開始するまでに要する時間をノーマル方式に比べて短縮している。従って、本実施形態に係る無線通信装置によれば、通信リンクのセットアップ時間が短縮化されるので、近接方式について想定されるユースケースに適した近接無線通信を実現できる。
(第6の実施形態)
第6の実施形態に係る無線通信装置は、前述の第1乃至第5の実施形態に係る無線通信装置の一部を変更するものである。具体的には、本実施形態に係る無線通信装置は、ノーマル方式で動作する時の送信電力及びアンテナ利得を近接方式で動作する時のものと同様に設定する。
本実施形態に係る無線通信装置は、前述のアトリビュートdot11CloseProximityCommunicationImplementedの値がTRUEであるとする。例えば、無線通信装置は、ノーマル方式での最大送信電力には前述の例に従って10dBmを設定するものの、デフォルト値には近接方式での最大送信電力と同じ0dBmを設定する。
更に、無線通信装置は、近接方式において接続リンクの確立までに用いるアンテナ利得とデータフレームを交換するときに用いるアンテナ利得とを変更しないのであれば、ノーマル方式におけるアンテナ利得も基本的に変更しないこととする。
以上説明したように、第6の実施形態に係る無線通信装置は、ノーマル方式及び近接方式で動作するときの差異を基本的にキャリアセンスレベルに限っている。従って、本実施形態に係る無線通信装置によれば、他の実施形態に比べて通信方式の変更による処理負荷が軽減される。また、ノーマル方式におけるデフォルトの挙動が近接方式に類似するので、ノーマル方式での受信条件が近接方式での受信条件と類似し、近接方式での受信条件を満たす通信相手を見つけやすくなる。ひいては、無線通信装置が近接方式を選択する機会が増え、近接用アプリケーションの利用機会が増える。
(第7の実施形態)
第7の実施形態に係る無線通信装置は、前述の第1乃至第6の実施形態に係る無線通信装置を補足するものである。具体的には、本実施形態に係る無線通信装置は、近接方式におけるコンテンションパラメータをより適切な値に設定する。
IEEE802.11は、前述の通りキャリアセンスに基づく無線通信方式であって、より具体的にはCSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)を採用している。以下、CSMA/CAについて簡単に説明する。例えば、キャリアセンスを行い媒体がアイドルになったと判断すれば信号を送信するという単純な仕組みによると、複数の無線通信装置が媒体の空きを待っている場合に同じタイミングで信号を送信して衝突が生じるおそれがある。そこで、CSMA/CAによれば、各無線通信装置は所定範囲内の値(コンテンションウィンドウと呼ばれる)からランダムに値を選択し、選択した値に従って待機してから信号を送信する。
ノーマル方式によれば、データフレームに関して、上位層からデータを渡される際に当該データのプライオリティ(IEEE802.11ではUser Priority(UPと称される))が示される。また、このデータのプライオリティに基づいて、媒体にアクセスするプライオリティ(IEEE802.11ではAccess Category(ACと称される))が割り振られる。そして、データフレームは、この媒体にアクセスするプライオリティ毎に定められたコンテンションパラメータに従って送信される。コンテンションパラメータは、例えばコンテンションウィンドウの最小値及び最大値(IEEE802.11において夫々CWmin及びCWmaxと称される)、選択された乱数のカウントダウンを開始するまでに待機するフレーム間隔(IEEE802.11ではスロットと呼ばれる単位で換算され、AIFSNと称される)、最大の送信権獲得時間(IEEE802.11においてTXOP limitと称される)などを包含する。
一般に、近接方式は、ノーマル方式に比べて競合する無線通信装置の数は少なく、1対1の通信が実現できれば十分であることが多いと想定される。故に、近接方式は、ノーマル方式よりも狭いコンテンションウィンドウを使用したとしても十分に競合回避を実現できる。寧ろ、コンテンションウィンドウをノーマル方式と同程度に広く設定すると、無線通信装置は不相応に長時間に亘って待機する確率が高いうえ、待機時間に応じて信号の送信は遅れるので媒体が無駄にアイドルとなる時間が長くなり非効率である。そこで、本実施形態に係る無線通信装置は、近接方式におけるコンテンションウィンドウ幅がノーマル方式に比べて狭くなるように設定する。例えば、無線通信装置は、AC毎のCWmaxの値をノーマル方式に比べて小さく設定する。勿論、無線通信装置は、他のパラメータも近接方式用に設定してもよい。或いは、ノーマル方式ではAC毎にパラメータセットが用意されているが、無線通信装置は近接方式ではノーマル方式における最も小さいCWmaxを含む1つのパラメータセット(IEEE802.11ではAC_VOについて定められたパラメータセット)だけを使用してもよい。
尚、これらのコンテンションパラメータの値をノーマル方式とは別に近接方式について再定義する場合には、近接方式用のコンテンションパラメータセットを前述の他の実施形態と同様に例えばdot11CPCATableとしてMIBにおいて保持すればよい。同様に、ノーマル方式で使用される他のパラメータについても、近接方式用に再定義することが望ましいのであれば、再定義されたパラメータ全体を近接用パラメータセット(例えばdot11CloseProximityParameterTable)としてMIBにおいて保持してもよい。
以上説明したように、第7の実施形態に係る無線通信装置は、コンテンションパラメータを近接方式用に再定義している。従って、本実施形態に係る無線通信装置によれば、近接方式において効率的なCSMA/CAを実現できる。
(第8の実施形態)
第8の実施形態に係る無線通信装置は、前述の第1乃至第7の実施形態に係る無線通信装置を補足するものである。具体的には、本実施形態は、近接方式において接続中の無線通信装置同士が通信レンジを超えて離れた場合の動作について述べる。
一般に、ノーマル方式は、通信相手からの信号の受信状況が悪化した、或いは、受信不能となった場合に接続を維持するというポリシーに則って設計される。一方、近接方式には、無線通信装置同士が通信レンジ以下に近づいたときに通信を開始すると共に、両者が通信レンジを超えて離れたときに接続を自動的に切断することが要求されるかもしれない。
そこで、本実施形態に係る無線通信装置は、近接方式において、一旦データフレームの交換を開始した通信相手から一定期間フレームを受信しなければ、当該通信相手がいなくなったとみなして、当該通信相手との接続状態に関する情報を削除する。この一定期間は例えばMIBにおいて定められる。例えば、MAC共通処理部15は、この一定期間を参照しつつ通信相手からのフレームの受信状況をモニターする。また、MAC共通処理部15は、アソシエーション許可された他の無線通信装置に関する情報を管理する管理テーブルを保持している。そして、MAC共通処理部15は、通信相手の無線通信装置がいなくなったとみなすと、当該管理テーブルから当該無線通信装置との接続状態に関する情報を削除する。また、当該無線通信装置のための送信期間がBeacon Intervalにおいてスケジュールされているならば、MAC共通処理部15はこのスケジュールされた送信期間も削除する。
第8の実施形態に係る無線通信装置は、近接方式において、一旦データフレームの交換を開始した通信相手から一定期間フレームを受信しなければ、当該通信相手がいなくなったとみなして、当該通信相手との接続状態に関する情報を削除する。従って、本実施形態に係る無線通信装置によれば、近接方式において、通信相手の無線通信装置が通信レンジを超えて離れたときに接続を自動的に切断できる。
尚、本実施形態に係る無線通信装置は、前述の第1の実施形態と同様に近接方式についてノーマル方式に比べて高いキャリアセンスレベルを使用することによって、受信可能なMACフレームを近接方式の通信レンジ内で送信されるものに限定している。従って、通信相手の無線通信装置が通信レンジを超えて離れた場合には、当該無線通信装置から送信されるMACフレームはMAC処理部10に渡されないので、一定期間フレームを受信しないという状況が生じる。
(第9の実施形態)
第9の実施形態では、図1、図3、あるいは図4の無線通信装置の構成に加えて、バッファを備える。このように、バッファを無線通信装置に含める構成とすることにより、送受信フレームをバッファに保持することが可能となり、再送処理や外部出力処理を容易に行うことが可能となる。
(第10の実施形態)
第10の実施形態では、第9の実施形態に係る無線通信装置の構成に加えて、バス、プロセッサ部、及び外部インタフェース部を備える。プロセッサ部及び外部インタフェース部は、バスを介してバッファと接続される。プロセッサ部ではファームウエアが動作する。このように、ファームウエアを無線通信装置に含める構成とすることにより、ファームウエアの書き換えによって無線通信装置の機能の変更を容易に行うことが可能となる。
(第11の実施形態)
第11の実施形態では、図1、図3、あるいは図4の無線通信装置の構成に加えて、クロック生成部を備える。クロック生成部は、クロックを生成して出力端子より無線通信装置の外部にクロックを出力する。このように、無線通信装置内部で生成されたクロックを外部に出力し、外部に出力されたクロックによってホスト側を動作させることにより、ホスト側と無線通信装置側とを同期させて動作させることが可能となる。
(第12の実施形態)
第12の実施形態では、図1、図3、あるいは図4の無線通信装置の構成に加えて、電源部、電源制御部、及び無線電力給電部を含む。電源制御部は、電源部と無線電力給電部とに接続され、無線通信装置に供給する電源を選択する制御を行う。このように、電源を無線通信装置に備える構成とすることにより、電源を制御した低消費電力化動作が可能となる。
(第13の実施形態)
第13の実施形態では、第12の実施形態に係る無線通信装置の構成に加えて、SIMカードを含む。SIMカードは、MAC処理部10あるいはMAC/PHY管理部70と接続される。このように、SIMカードを無線通信装置に備える構成とすることにより、容易に認証処理を行うことが可能となる。
(第14の実施形態)
第14の実施形態では、第10の実施形態に係る無線通信装置の構成に加えて、動画像圧縮/伸長部を含む。動画像圧縮/伸長部は、バスと接続される。このように、動画像圧縮/伸長部を無線通信装置に備える構成とすることにより、圧縮した動画像の伝送と受信した圧縮動画像の伸長とを容易に行うことが可能となる。
(第15の実施形態)
第15の実施形態では、図1、図3、あるいは図4の無線通信装置の構成に加えて、LED部を含む。LED部は、MAC処理部10あるいはPHY処理部40と接続される。このように、LED部を無線通信装置に備える構成とすることにより、無線通信装置の動作状態をユーザに容易に通知することが可能となる。
(第16の実施形態)
第16の実施形態では、図1、図3、あるいは図4の無線通信装置の構成に加えて、バイブレータ部を含む。バイブレータ部は、MAC処理部10あるいはPHY処理部40と接続される。このように、バイブレータ部を無線通信装置に備える構成とすることにより、無線通信装置の動作状態をユーザに容易に通知することが可能となる。
(第17の実施形態)
第17の実施形態では、図1、図3、あるいは図4の無線通信装置の構成に加えて、第1の実施形態で記載したように、複数の異なるPHY処理部40を設け、無線切替部を含む。無線切替部は、複数の異なるPHY処理部40に接続され、異なるPHY処理部40による通信の間を切替える。このように、複数の異なるPHY処理部40を無線通信装置に備える構成とすることにより、状況に応じて適切なPHY処理部40を用いた通信に切替えることが可能となる。
(第18の実施形態)
第18の実施形態では、図1、図3、あるいは図4の無線通信装置の構成に加えて、第1の実施形態で記載したように、複数の異なるPHY処理部40を設け、またこれら各々のPHY処理部40に対応する対の受信処理部20及び送信処理部30を設け、無線切替部を含む。無線切替部は、対の受信処理部20及び送信処理部30を切り替えられるように接続され、異なる受信処理部20及び送信処理部30及びPHY処理部40による複数の通信方式の間を切替える。このように、複数の異なる受信処理部20及び送信処理部30及びPHY処理部40のセットを無線通信装置に備える構成とすることにより、状況に応じて適切な受信処理部20及び送信処理部30及びPHY処理部40のセットを用いた通信に切替えることが可能となる。
(第19の実施形態)
第19の実施形態では、第17の実施形態に係る無線通信装置の構成に加えて、スイッチ(SW)を含む。スイッチは、アンテナ60、複数の異なるPHY処理部40、無線切替部に接続される。このように、スイッチを無線通信装置に備える構成とすることにより、アンテナを共用しながら状況に応じて適切なPHY処理部40を用いた通信に切替えることが可能となる。
(第20の実施形態)
第20の実施形態では、第18の実施形態に係る無線通信装置の構成に加えて、スイッチ(SW)を含む。スイッチは、アンテナ60、対の受信処理部20及び送信処理部30の根元、及び無線切替部に接続される。このように、スイッチを無線通信装置に備える構成とすることにより、アンテナを共用しながら状況に応じて適切な受信処理部20及び送信処理部30及びPHY処理部40のセットを用いた通信に切替えることが可能となる。
上記各実施形態の処理は、汎用のコンピュータを基本ハードウェアとして用いることで実現可能である。上記各実施形態の処理を実現するプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記憶媒体に格納して提供されてもよい。プログラムは、インストール可能な形式のファイルまたは実行可能な形式のファイルとして記憶媒体に記憶される。記憶媒体としては、磁気ディスク、光ディスク(CD−ROM、CD−R、DVD等)、光磁気ディスク(MO等)、半導体メモリなど、プログラムを記憶でき、かつ、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体であれば、何れであってもよい。また、上記各実施形態の処理を実現するプログラムを、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ(サーバ)上に格納し、ネットワーク経由でコンピュータ(クライアント)にダウンロードさせてもよい。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。