JP6041333B2 - 抗腫瘍剤 - Google Patents

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本発明は、抗腫瘍剤に関する。
CD44は細胞−細胞間、あるいは細胞−細胞外基質(ECM;extracellular matrix)間を接着させる接着分子のひとつである。CD44は、ヒアルロン酸、オステオポンチン、コラーゲンなどをリガンドとする受容体として機能し、細胞の接着や遊走、Tリンパ球活性化、血管新生、癌の浸潤転移などに関与している。
CD44はI型膜蛋白質であり、N末端側の細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及びC末端側の細胞内ドメインの3つのドメインからなる。細胞外ドメインの遠位側は、主にヒアルロン酸結合に関与する領域で、細胞外ドメインの近位側は、CD44mRNAの選択的スプライシングによって生じるCD44アイソフォームに寄与する領域である。
CD44遺伝子は、20のエクソンから構成される。標準型CD44(CD44sと表記される)は、エクソン1〜5、16〜18、20によってコードされるが、エクソン6〜15が、選択的スプライシングによってバリアントエクソン(variant exon)としてエクソン5とエクソン16の間に挿入され、CD44アイソフォーム(CD44vまたはCD44variantと表記される)を生じる。これらの挿入パターンの多様性によって様々なアイソフォームが存在し、現在発見されている数は約60種類ほどにのぼる。
CD44sは、血液細胞、消化管、筋肉、皮膚、神経系など最も広範に発現しているが、近年、特定のCD44vが腫瘍細胞特異的に発現していることが多数報告されている(特許文献1及び非特許文献1参照)。例えば、CD44vに対するモノクローナル抗体を用いて、ヒト組織におけるCD44vの発現が調べられた(非特許文献2参照)。また、PCRあるいは組織染色法を用いて、ヒト非小細胞肺癌においては、エクソンv8、v9、v10を含むCD44v8−10(CD44R1とも称される)が最も高頻度に高発現しているアイソフォームであることが明らかにされた(非特許文献3参照)。その他、大腸癌、膀胱癌、乳癌、胃癌、甲状腺癌においても同様に、特異的なCD44vが高頻度で発現していることが報告されている。さらに、最近、CD44vは、ある種の腫瘍において、がん幹細胞(CSC; cancer stem cells)のマーカーであることが示された(非特許文献4−6参照)。これらの結果から、CD44vをターゲットとした癌治療法の開発が期待されている。
特表2008-508903号公報
Gunthert et al. (1991), Cell, vol.65 p.13-24 Mackay et al. (1994), J. Cell Biol., vol.124 p.71-82 Sasaki et al. (1998), Int. J. Oncol., vol.12 p.525-533 Al-Hajj et al. (2003), Proc Natl. Acad. Sci. U.S.A., vol.100 p.3983-3988 Collins et al. (2005), Cancer Res., vol.65 p.10946-10951 Dalerba et al. (2007), Proc Natl. Acad. Sci. U.S.A., vol.104 p.10158-10163
本発明は、CD44vを発現している腫瘍に対する新規抗腫瘍剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、CD44R1がxCTと共局在し、相互作用することでxCTを細胞膜上に安定的に存在させていることを新たに見出した。xCTは、細胞内からグルタミン酸を放出し、細胞外からシスチンを取り込んでシステインに還元する、生体内の主要な抗酸化物質のひとつであり、ペプチドの一種であるグルタチオン(GSH)を生成させる機能を有するアミノ酸トランスポーターの一つである。ここで、細胞内GSHの役割は2つあり、1つは細胞内の活性酸素(reactive oxygen species:ROS)を還元することで、細胞死から回避させることであり、もう1つは、グルタチオン抱合により薬剤を細胞外に排出することである。そうすると、腫瘍細胞に発現しているCD44R1はxCTを安定化させることによって、GSHの合成を促進し、細胞内のROSを還元することによって細胞死を回避し、腫瘍細胞の増殖に寄与していると考えられる。
そこで、本発明者らは、CD44vのv9領域を特異的に認識する抗v9抗体と抗癌剤の併用により、抗腫瘍効果が増強することを確認した。このことから、抗v9抗体が、CD44R1のxCT安定化機能を阻害し細胞内ROS濃度を上昇させることで、抗癌剤による細胞死誘導を促進することが示された。このとき、GSHはグルタチオン抱合による薬剤排出にも関与していることから、CD44R1を阻害することで、細胞内の活性酸素種量が上昇すると同時に細胞内に抗癌剤が貯留しやすくなり、薬剤の効果が増強していると考えられる。
すなわち、本発明は、以下を提供する。
[1]CD44のv9領域に特異的に結合し、CD44のv9領域を有するCD44vを発現する細胞に対する細胞障害活性を有する抗体またはその抗原結合断片。
[2]CD44のv9領域に特異的に結合し、CD44のv9領域を有するCD44vとアミノ酸トランスポーターxCTとの相互作用を阻害する活性を有する抗体またはその抗原結合断片。
[3](i)細胞内活性酸素種の低下を抑制するか、または、
(ii)薬剤の細胞外排出を阻害する、上記[1]または[2]に記載の抗体またはその抗原結合断片。
[4]CD44のv9領域に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、
(i)配列番号12のアミノ酸配列、または
(ii)(i)のアミノ酸配列中に1個または数個のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入、または付加を有するアミノ酸配列、
に対して特異的に結合する、抗体またはその抗原結合断片。
[5]配列番号10のアミノ酸配列に特異的に結合する、上記[4]に記載の抗体またはその抗原結合断片。
[6]配列番号10のアミノ酸配列に結合しない、上記[4]に記載の抗体またはその抗原結合断片。
[7]CD44のv9領域に特異的に結合し、CD44のv9領域を有するCD44vを発現する細胞に対する細胞障害活性を有する、上記[4]〜[6]のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片。
[8]CD44のv9領域に特異的に結合し、CD44のv9領域を有するCD44vとアミノ酸トランスポーターxCTとの相互作用を阻害する活性を有する、上記[4]〜[6]のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片。
[9]上記抗体またはその抗原結合断片が、
(1)(i)配列番号:1のアミノ酸配列、または(ii)配列番号:1において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む軽鎖相補性決定領域1(CDRL1)、
(2)(i)配列番号:2のアミノ酸配列、または(ii)配列番号:2において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む軽鎖相補性決定領域2(CDRL2)、
(3)(i)配列番号:3のアミノ酸配列、または(ii)配列番号:3において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む軽鎖相補性決定領域3(CDRL3)、
(4)(i)配列番号:4のアミノ酸配列、または(ii)配列番号:4において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む重鎖相補性決定領域1(CDRH1)、
(5)(i)配列番号:5のアミノ酸配列、または(ii)配列番号:5において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む重鎖相補性決定領域2(CDRH2)、
(6)(i)配列番号:6のアミノ酸配列、または(ii)配列番号:6において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む重鎖相補性決定領域3(CDRH3)、
(7)(i)配列番号:7のアミノ酸配列、または(ii)配列番号:7において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異をに有するアミノ酸配列、を含む重鎖相補性決定領域1'(CDRH1')、
(8)(i)配列番号:8のアミノ酸配列、または(ii)配列番号:8において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む重鎖相補性決定領域2'(CDRH2')、および
(9)(i)配列番号:9のアミノ酸配列、または(ii)配列番号:9において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む重鎖相補性決定領域3'(CDRH3')、のうちの少なくとも1つを含む、上記[1]〜[8]のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片。
[10]上記抗体またはその抗原結合断片が、
(1)(i)配列番号:1のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:1において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む軽鎖相補性決定領域1(CDRL1)、
(2)(i)配列番号:2のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:2において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む軽鎖相補性決定領域2(CDRL2)、および
(3)(i)配列番号:3のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:3において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む軽鎖相補性決定領域3(CDRL3)、
を含む少なくとも1つの軽鎖、ならびに
(4)(i)配列番号:4のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:4において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む重鎖相補性決定領域1(CDRH1)、
(5)(i)配列番号:5のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:5において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む重鎖相補性決定領域2(CDRH2)、および
(6)(i)配列番号:6のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:6において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む重鎖相補性決定領域3(CDRH3)、
を含む少なくとも1つの重鎖
を含む、上記[1]〜[8]のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片。
[11]上記抗体またはその抗原結合断片が、
(1)(i)配列番号:7のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:7において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む重鎖相補性決定領域1'(CDRH1')、
(2)(i)配列番号:8のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:8において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む重鎖相補性決定領域2'(CDRH2')および
(3)(i)配列番号:9のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:9において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む重鎖相補性決定領域3'(CDRH3')、
を含む少なくとも1つの重鎖
を含む、上記[1]〜[8]のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片。
[12]モノクローナル抗体である、上記[1]〜[11]のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片。
[13]ラット、マウス、霊長類、またはヒト抗体である、上記[1]〜[12]のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片。
[14]キメラ抗体またはヒト化抗体である、上記[1]〜[12]のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片。
[15]以下の(i)または(ii) のいずれかである、上記[1]〜[14]のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片。
(i)受託番号FERMP-21821で特定されるハイブリドーマ細胞によって産生されるモノクローナル抗体またはその抗原結合断片、または
(ii)受託番号FERMP-21822で特定されるハイブリドーマ細胞によって産生されるモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
[16]上記[1]〜[15]のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片をコードする単離された核酸分子。
[17]上記[16]に記載の核酸分子を含む発現ベクター。
[18]上記[16]に記載の核酸分子を含む、ハイブリドーマ細胞。
[19]上記[1]〜[15]のいずれかに記載の抗体を産生する、ハイブリドーマ細胞。
[20]受託番号FERMP-21821または受託番号FERMP-21822で特定されるハイブリドーマ細胞。
[21]上記[18]〜[20]のいずれかに記載のハイブリドーマ細胞を培養し、得られる培養液からCD44のv9領域に特異的に結合する抗体を採取することを含む、CD44のv9領域に特異的に結合するモノクローナル抗体の製造方法。
[22]上記[19]または[20]に記載のハイブリドーマ細胞から抗v9モノクローナル抗体をコードする遺伝子を単離し、該遺伝子を含む発現ベクターを構築し、該発現ベクターを宿主に導入して上記モノクローナル抗体を発現せしめ、得られる宿主、宿主の培養上清または宿主の分泌物からCD44のv9領域に特異的に結合するモノクローナル抗体を採取することを含む、CD44のv9領域に特異的に結合するモノクローナル抗体の製造方法。
[23]上記宿主が、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、哺乳動物細胞、植物細胞、またはヒト又はヒト以外の哺乳動物である、上記[22]に記載の製造方法。
[24]上記[1]〜[15]のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片を含有する組成物であって、CD44のv9領域を有するCD44vを発現する細胞に適用して該細胞のアポトーシスを誘導するために使用する、組成物。
[25]上記[1]〜[15]のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片を含有する、腫瘍の予防または治療のための医薬。
[26]上記腫瘍が、大腸癌、結腸直腸癌、肺癌、乳癌、脳腫瘍、黒色腫、腎細胞癌、膀胱癌、白血病、リンパ腫、T細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、胃癌、膵臓癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、卵巣癌、食道癌、肝臓癌、頭頸部扁平上皮癌、皮膚癌、尿路癌、前立腺癌、絨毛癌、咽頭癌、喉頭癌、舌癌、口腔癌、胆嚢癌、甲状腺癌、中皮腫、胸膜腫、男性胚腫、子宮内膜過形成、子宮内膜症、胚芽腫、線維肉腫、カポジ肉腫、血管腫、海綿状血管腫、血管芽腫、網膜芽腫、星状細胞腫、神経線維腫、稀突起謬腫、髄芽腫、神経芽腫、神経膠腫、横紋筋肉腫、謬芽腫、平滑筋肉腫、およびウィルムス腫瘍からなる群から選択される少なくとも1つである、上記[25]に記載の医薬。
[27]上記腫瘍が、大腸癌、結腸直腸癌、肺癌、乳癌、脳腫瘍、膀胱癌、リンパ腫、胃癌、膵臓癌、肝臓癌、または前立腺癌である、上記[25]に記載の医薬。
[28]上記腫瘍が、トリプルネガティブ乳癌(HER2陰性、ER陰性、PR陰性)である、上記[25]に記載の医薬。
[29]細胞増殖抑制剤と同時、個別、又は逐次投与するための、上記[25]〜[28]のいずれかに記載の医薬。
[30]上記細胞増殖抑制剤が、アルキル化剤、代謝拮抗剤、分子標的薬、植物アルカロイド、抗癌性抗生物質、およびプラチナ製剤からなる群から選択される少なくとも1つである、上記[29]に記載の医薬。
[31]上記アルキル化剤が、イホスファミド、シクロフォスファミド、ダカルバシン、テモゾロミド、ニムスチン、ブスルファン、プロカルバジン、メルファラン、およびラニムスチンからなる群から選択され、上記代謝拮抗剤が、エノシタビン、カペシタビン、カルモフール、クラドリピン、ゲムシタビン、シタラビン、シタラビンオクボスファート、テガフール、テガフールウラシル、TS-1、ドキシフルリジン、ネララビン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、フルダラビン、ペメトレキセド、ペントスタチン、メルカプトプリン、およびメトトレキサートからなる群から選択され、
上記分子標的薬が、ゼヴァリン、イマチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、スニチニブ、セツキシマブ、ソラフェニブ、ダサチニブ、トラスツズマブ、トレチノイン、パニツムマブ、ベバシズマブ、ボルテゾミブおよびリツキシマブからなる群から選択され、
植物アルカロイドが、イリノテカン、エトポシド、ソブゾキサン、ドセタキセル、ノギテカン、パクリタキセル、ビノレルビン、ビンクリスチン、ビンデシン、およびビンブラスチンからなる群から選択され、上記抗癌性抗生物質が、アクチノマイシンD、アクラルビシン、アムルビシン、イダルビシン、エピルビシン、スマンクス、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、ブレオマイシン、ペプロマイシン、マイトマイシンC、ミトキサントロン、およびドキシルからなる群から選択され、上記プラチナ製剤が、オキサリプラチン、シスプラチン、カルボプラチン、およびネダプラチンからなる群から選択される少なくとも1つである、上記[30]に記載の医薬。
[32]以下の(1)〜(9)からなる群から選択される単離された相補性決定領域(CDR)
(1)配列番号:1のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域1(CDRL1)、
(2)配列番号:2のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域2(CDRL2)、
(3)配列番号:3のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域3(CDRL3)、
(4)配列番号:4のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域1(CDRH1)、
(5)配列番号:5のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域2(CDRH2)、
(6)配列番号:6のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域3(CDRH3)、
(7)配列番号:7のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域1'(CDRH1')、
(8)配列番号:8のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域2'(CDRH2')、および
(9)配列番号:9のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域3'(CDRH3')。
[33]CD44vを発現している腫瘍に対する抗腫瘍剤であって、xCT阻害剤を含有する抗腫瘍剤。
[34]第2の抗腫瘍剤と共投与されることを特徴とする、[33]に記載の抗腫瘍剤。
[35]さらに第2の抗腫瘍剤を含有することを特徴とする、[33]に記載の抗腫瘍剤。
[36]前記第2の抗腫瘍剤は、細胞内活性酸素種(ROS)を増加させることを特徴とする、[34]または[35]に記載の抗腫瘍剤。
[37]前記xCT阻害剤がスルファサラジンであることを特徴とする、[33]〜[36]のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
[38]前記第2の抗腫瘍剤がシスプラチンであることを特徴とする、[33]〜[37]のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
[39]腫瘍の転移を抑制することを特徴とする、[33]〜[38]のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
[40]治療後の腫瘍の再発を防止することを特徴とする、[33]〜[38]のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
[41]前記CD44vがCD44R1であることを特徴とする、[33]〜[40]のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
本発明によって、CD44vを発現している腫瘍に対する新規抗腫瘍剤を提供できるようになった。
図1は、CD44R1強制発現細胞のFACS解析による(A)LGadhO1-01モノクローナル抗体、(B)LGadhO1-02モノクローナル抗体の特異性を示す図である。Controlとしてv9領域を有さないCD44s強制発現系を使用した。横軸:強制発現させた遺伝子のGFPによる発現量、縦軸;モノクローナル抗体の反応性。 図2は、ELISA解析によるLGadhO1-01モノクローナル抗体のCD44における結合部位を示す図である。抗原としてCD44R1、v8-10領域、v8-9領域、v8領域、v9-10領域、v9領域の組換えペプチドを使用した。Controlは抗体を含まないときの値を示す。縦軸は1450nmにおける吸光度である。 図3は、FACS解析による(A)LGadhO1-01モノクローナル抗体、(B)LGadhO1-02モノクローナル抗体のCD44v10における結合部位を示す図である。FACSにはCD44v8、CD44v9、CD44v10、CD44v8-10、CD44v9-10をHEK293細胞の細胞膜表面に強制発現させたサンプルを使用した。横軸はモノクローナル抗体の反応性で値は抗体反応時のMFI(mean fluorescenceintensity)からControlとして抗体を含まないときのMFIを引いた値を示す。 図4は、ヒト乳癌組織アレイから得られた乳癌組織に対するLGadhO1-01モノクローナル抗体による典型的な免疫組織染色像を示す。ヘマトキシリン3Gによる染色された核(実際は青色)、及びLGadh2001-01モノクローナル抗体が結合したCD44vの発現(実際は茶褐色)を示す。 図5は、(A)ヒト乳癌細胞株20種および正常細胞2種、(B)ヒト癌細胞株6種(大腸癌、肺癌、膵臓癌、皮膚癌、子宮頸癌、舌癌)におけるCD44vの発現量を示す図である。値は抗体反応時のMFIからContro1として抗体を含まないときのMFIを引いた値を示す。 図6は、CD44のv9領域を有するCD44vとxCTが、細胞膜上で共局在し、CD44vがxCTの膜上での安定化に関与していることを示す図である。蛍光顕微鏡画像で、xCTのシグナル(実際は緑色)、CD44vのシグナル(実際は赤色)、は核(実際は青色)を示している。 図7は、CD44R1とxCTとの相互作用を示す図である。図の上段のInputは蛋白質の抽出液を示し、Control抗体および抗xCT抗体は免疫沈降に用いた抗体を示す。右側には検出されたバンドの蛋白質名、およびWesternBlotに用いた抗体を示す。 図8は、CD44vのノックダウンによる細胞内活性酸素種(ROS)抵抗性への影響を示す図である。値はDCF蛍光強度を示す。*はp<0.05を示す。 図9は、(A)乳癌細胞株、(B)肺癌細胞株、(C)大腸癌細胞株、(D)膵癌細胞株、および(E)子宮癌細胞株についての、LGadhO1-01モノクローナル抗体と従来の細胞増殖抑制剤の併用効果を示す図である。値は抗体または薬剤処理群の未処理群に対する割合(% of control(non-treat))である。コントロール抗体およびLGadhO1-01モノクローナル抗体の処理濃度はすべてのサンプルにおいて10μg/mlであり、各細胞増殖抑制剤の処理濃度はグラフ中の薬剤名の下に示す。左の棒グラフはコントロール抗体(ラットIgG)と各細胞増殖抑制剤で処理した結果、右の棒グラフはLGadhO1-01モノクローナル抗体と各細胞増殖抑制剤で処理した結果を示す。*はp<0.05を示す。 図10は、LGadhO1-01モノクローナル抗体を用いたヒト乳癌細胞BT20に対するADCC活性を示す図である。値は細胞障害率(%)を示す。(A)異なるエフェクター/ターゲット比での細胞障害活性、(B)異なる抗体濃度での細胞障害活性。 図11は、LGadhO1-01モノクローナル抗体によるヒト舌癌細胞HSC-3のXenograftに対する抗腫瘍効果を示す図である。縦軸はハイブリドーマ投与後と投与前の腫瘍容量の比の平均値を示す。ControlはHSC-3に結合しないことを確認している抗マウスCD44抗体を産生するハイブリドーマ投与群を示す。 図12は、LGadhO1-01モノクローナル抗体によるヒト大腸癌細胞HT29のXenograftに対する抗腫瘍効果を示す図である。縦軸は腫瘍体積(長径×短径2/2)、横軸は投与開始からの日数を示す。 スルファサラジン(Sulfasalazine)の抗腫瘍効果を示すグラフである。*はp<0.05を示す。 スルファサラジン(SASP)による、シスプラチン(CDDP)の抗腫瘍効果の増強効果を示すグラフである。*はp<0.05を示す。 様々な乳癌細胞株において、細胞の転移能とCD44vR1の発現の相関を示す結果を表す図である。 CD44v+細胞とCD44v-細胞では、転移能が大きく異なることを示すグラフである。 CD44v+細胞での(A)xCTトランスポーターと(B)GSHの発現レベルがCD44v-細胞より高いことを示すグラフである。 スルファサラジン(SASP)が腫瘍細胞の転移を抑制する効果を有することを示すグラフである。
本発明者らは、CD44R1がxCTを安定化させることによって、生体内の主要な抗酸化物質のひとつであるGSHの合成を促進し、細胞内のROSを還元するのに貢献しているという新たな知見を得た。したがって、CD44R1を発現している腫瘍細胞において、CD44R1またはxCTの機能を阻害したり、CD44R1とxCTとの相互作用を阻害したりすることによって、腫瘍細胞の増殖を抑制することができるので、CD44R1の機能阻害剤、xCTの機能阻害剤、CD44R1とxCTとの相互作用阻害剤は腫瘍の治療に有効である。特に、既に組織化した腫瘍に対してだけでなく、少数の腫瘍細胞に対し腫瘍組織の形成も抑制することができるので、腫瘍の再発や転移の抑制を含む腫瘍の予防にも有効である。具体的な方法として、CD44R1を特異的に認識する抗体(特にCD44R1を認識しCD44sを認識しない抗体)、スルファサラジン(サラゾピリン)を投与する方法などを例に挙げて説明するが、その方法は、特に限定されない。
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.等の標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例等は、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
(1)CD44のv9領域を特異的に認識する抗体
本発明は、1つの実施形態において、CD44R1の機能を特異的に阻害する阻害物質、例えば、CD44R1の発現を特異的に抑制する発現抑制剤(例えば、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、siRNA、miRNAなど)、CD44R1、特にCD44のv9領域に特異的に結合する抗体、およびその抗原結合断片を提供する。これらの阻害物質は、CD44sに結合しないか、CD44sの機能を阻害しないことが好ましい。
典型的には、上記抗体またはその抗原結合断片は、
(i)配列番号12のアミノ酸配列、または
(ii)(i)のアミノ酸配列中に1個または数個のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入、または付加を有するアミノ酸配列、
に対して特異的に結合する。数個とは、2〜9個、好ましくは2〜7個、さらに好ましくは2〜5個、最も好ましくは2〜3個を意味する。
すなわち、本発明は、上記(i)または(ii)のアミノ酸配列をエピトープとする抗体およびその抗原結合断片を提供する。上記(ii)のアミノ酸配列の具体例としては、配列番号10のアミノ酸配列が挙げられるが、これに限定されない。
好ましい実施形態では、本発明の抗体またはその抗原結合断片は、配列番号12のアミノ酸配列に結合し、かつ配列番号10のアミノ酸配列に結合する。別の好ましい実施形態では、本発明の抗体またはその抗原結合断片は、配列番号12のアミノ酸配列に特異的に結合するが、配列番号10のアミノ酸配列には結合しない。
さらなる実施形態において、本発明の抗体およびその抗原結合断片は、典型的には、CD44のv9領域に結合し、CD44のv9領域を有するCD44vの活性を阻害するかまたは細胞障害性因子を誘導して、その細胞を、アポトーシスによる細胞死に至らしめることができる。細胞は、腫瘍細胞であることが好ましい。
本明細書中、「CD44v9」は、31アミノ酸残基からなるv9エクソンが挿入されているCD44のバリアントアイソフォームを表す。v9エクソンのアミノ酸配列、mRNA配列等の情報は、それぞれNM_001001390、NP_001001390等のアクセッション番号でGenBank等の公にアクセス可能なデータベースから入手することができる。また、マウスや他の哺乳動物(例えば、ラット、ウシなど)のCD44v9も同様に、公にアクセス可能なデータベースから入手することが出来る。
本明細書中、「CD44variant9」という場合、CD44v9のことを指すものとし、単に「CD44v9」という場合、特に、CD44v9蛋白質のことを指すものとする。本明細書中、CD44v9は、典型的には、ヒトCD44v9であるが、ヒト以外の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウシなど)のCD44v9であってもよい。他のCD44vに関しても、この記載方法に従うものとする。
本明細書中、「CD44のv9領域」とは、CD44遺伝子のv9エクソンにコードされているアミノ酸配列を表す。単に「v9領域」というときも、同じ意味を有するものとする。
本明細書中、「v9領域を有するCD44v」とは、v9領域を有しているCD44vであればよく、例えば、CD44v8-10、CD44v9-10、CD44v9などを含むものとする。
なお、他のCD44vに関しても、以上の記載方法に従うものとする。
さらなる実施形態において、本発明の抗体およびその抗原結合断片は、典型的には、v9領域を有するCD44vを発現する細胞に発現しているCD44vに結合し、アミノ酸トランスポーターxCTとの相互作用を阻害する機能(または活性)を有する。CD44sに結合しないことが好ましい。
シスチン・グルタミン酸交換輸送系である「ヒトxCT(cationic aminoacid transporter, y+system)」は、501アミノ酸残基からなる12回膜貫通型の膜タンパク質である。ヒトxCTのアミノ酸配列、mRNA配列等の情報は、それぞれAAG35592、AC110804、AF200708等のアクセッション番号でGenBank等の公にアクセス可能なデータベースから入手することができる。また、マウスや他の哺乳動物(例えば、ラット、ウシなど)のxCTも同様に、公にアクセス可能なデータベースから入手することができる。
本明細書中、単に「xCT」という場合、xCTタンパク質のことを指すものとする。本明細書中、xCTは、典型的には、ヒトxCTであるが、ヒト以外の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウシなど)のxCTであってもよい。
アミノ酸トランスポーターの一つであるxCTは、細胞内からグルタミン酸を放出し、細胞外からシスチンを取り込んでシステインに還元して、ペプチドの一種であるGSHを生成させる。細胞内GSHの役割は2つあり、1つは細胞内のROSを還元することで、細胞死から回避させることである。もう1つは、グルタチオン抱合により薬剤を細胞外に排出することである。
本発明者らは、CD44R1がxCTを安定化させることによって、生体内の主要な抗酸化物質のひとつであるGSHの合成を促進し、細胞内のROSを還元するのに貢献しているという新たな知見を得た。したがって、v9領域を有するCD44vとxCTとの相互作用を阻害することができる抗体およびその抗原結合断片は、(i)細胞内活性酸素種の低下を抑制するか、または(ii)薬剤の細胞外排出を阻害することができると考えられる。このような抑制または阻害を受けた細胞は、細胞死へと導かれうる。
本明細書中、抗体またはその抗原結合断片が、抗原に「特異的に結合する」とは、その抗体または抗原結合断片が他のアミノ酸配列よりも、この抗原の特定のアミノ酸配列に対して実質的に高い親和性で結合することを意味する。ここで、「実質的に高い親和性」とは、所望の測定装置によって、その特定のアミノ酸配列を他のアミノ酸配列から区別して検出することが可能なほどに高い親和性を意味し、典型的には、結合定数(K)が少なくとも107M-1、好ましくは、少なくとも108M-1、より好ましくは、109M-1、さらにより好ましくは、1010M-1、1011M-1、1012M-1、1013M-1あるいはそれより高いものであるような結合親和性を意味する。
本明細書中、「抗体」は、免疫グロブリンの全てのクラスおよびサブクラスを含むものとする。好ましくは、本発明の抗体は、IgGサブクラスのものであり、より好ましくは、ヒトIgG1サブクラスのものである。「抗体」は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でも良いが、モノクローナル抗体が好ましい。また、天然の抗体であっても、キメラ抗体、ヒト化抗体などの人工抗体であっても良い。
本明細書中、「抗原結合断片」は、抗体の抗原結合領域を有するフラグメントであれば特に限定されないが、たとえば、上記抗体のFab、Fab'、F(ab')2、Fv、ScFvフラグメントが例示される。こうしたフラグメントは、当業者に周知の方法によって作製することができる。
本明細書中、「細胞障害活性」とは、細胞に対して細胞障害を引き起こす能力を意味し、本発明の場合、例えば、v9領域を有するCD44vを発現する細胞に本発明の抗体またはその抗原結合断片が特異的に結合して、該細胞に細胞障害性因子を誘導して、該細胞を、アポトーシスによる細胞死に至らしめる能力をいうものとする。細胞障害活性は、例えば、本発明の実施例2に記載される方法で測定し、細胞障害率として評価することができる。
本発明の抗体またはその抗原結合断片の例としては、
(1)(i)配列番号:1のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:1において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む軽鎖相補性決定領域1(CDRL1)、
(2)(i)配列番号:2のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:2において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む軽鎖相補性決定領域2(CDRL2)、
(3)(i)配列番号:3のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:3において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む軽鎖相補性決定領域3(CDRL3)、
(4)(i)配列番号:4のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:4において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む重鎖相補性決定領域1(CDRH1)、
(5)(i)配列番号:5のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:5において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む重鎖相補性決定領域2(CDRH2)、
(6)(i)配列番号:6のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:6において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む重鎖相補性決定領域3(CDRH3)、
(7)(i)配列番号:7のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:7において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む重鎖相補性決定領域1'(CDRH1')、
(8)(i)配列番号:8のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:8において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む重鎖相補性決定領域2'(CDRH2')、および
(9)(i)配列番号:9のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:9において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む重鎖相補性決定領域3'(CDRH3')、
のうちの少なくとも1つを含む、抗体またはその抗原結合断片が挙げられる。
本明細書中、「1個または数個のアミノ酸残基の変異」とは、元となるアミノ酸配列中で、1個または数個のアミノ酸残基が、欠失、置換、挿入、または付加されていることを意味する。本明細書中、そのような変異を有する抗体またはその抗原結合断片は、元となるアミノ酸配列を有する抗体またはその抗原結合断片と同等の生物学的活性を有する。ここで、「同等の生物学的活性」としては、(i)元となるアミノ酸配列を有する抗体またはその抗原結合断片が特異的に結合する抗原に対して特異性をもって結合する能力、(ii)v9領域を有するCD44vを発現する細胞上の当該CD44vに結合した場合における細胞障害活性、または(iii)これらの両方が挙げられる。最も好ましくは、「同等の生物学的活性」とは、上記(iii)を意味する。また、上記の「1個または数個のアミノ酸残基の変異」における変異したアミノ酸残基の数の上限は、このような同等の特異性を保持することができるか否かという基準(criteria)によって制限されるが、数個とは、例えば、2〜9個、好ましくは2〜7個、さらに好ましくは2〜5個、最も好ましくは2〜3個を意味する。
本発明の抗体またはその抗原結合断片のより好ましい例としては、
(1)(i)配列番号:1のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:1において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む軽鎖相補性決定領域1(CDRL1)、
(2)(i)配列番号:2のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:2において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む軽鎖相補性決定領域2(CDRL2)、および
(3)(i)配列番号:3のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:3において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む軽鎖相補性決定領域3(CDRL3)、
を含む少なくとも1つの軽鎖、ならびに
(4)(i)配列番号:4のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:4において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む重鎖相補性決定領域1(CDRH1)、
(5)(i)配列番号:5のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:5において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む重鎖相補性決定領域2(CDRH2)、および
(6)(i)配列番号:6のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:6において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む重鎖相補性決定領域3(CDRH3)、
を含む少なくとも1つの重鎖
を含む、抗体またはその抗原結合断片が挙げられる。
本発明の抗体またはその抗原結合断片の別のより好ましい例としては、
(1)(i)配列番号:7のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:7において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む重鎖相補性決定領域1'(CDRH1')、
(2)(i)配列番号:8のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:8において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む重鎖相補性決定領域2'(CDRH2')、および
(3)(i)配列番号:9のアミノ酸配列、または(ii) 配列番号:9において1個もしくは数個のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列、を含む重鎖相補性決定領域3'(CDRH3')、
を含む少なくとも1つの重鎖
を含む、抗体またはその抗原結合断片が挙げられる。
本発明の抗体またはその抗原結合断片の最も好ましい例としては、茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305-8566)、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに2009年6月23日付で寄託された、受託番号FERMP-21821で特定されるハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体が挙げられる。
本発明の抗体またはその抗原結合断片の別の最も好ましい例としては、茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305-8566)、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに2009年6月23日付で寄託された、受託番号FERMP-21822で特定されるハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体が挙げられる。
(2)抗v9抗体をコードする核酸
本発明は、別の実施形態において、CD44vのv9領域に特異的に結合する抗v9抗体およびその抗原結合断片をコードする、単離された核酸分子を提供する。本発明の核酸分子は、本発明の抗体またはその抗原結合断片を作製するために使用することができる。
したがって、本発明の別の実施形態では、抗v9モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから抗v9モノクローナル抗体をコードする免疫グロブリン遺伝子を単離し、その遺伝子を含む発現ベクターを構築し、その発現ベクターを宿主に導入して抗v9抗体を発現させて宿主の培養上清または宿主の分泌物を得、それらから抗v9抗体を得るという、v9領域に特異的に結合するモノクローナル抗体の製造方法が提供される。
単離した免疫グロブリン遺伝子は、宿主に導入する際、相同的なマウス配列をヒト重鎖および軽鎖定常ドメインの配列で置換することによってヒト化したり(Morrisonら,Proc.Nat.cad.sci.,usA,81:6851[1984])、または免疫グロブリンをコードしない塩基配列を結合したり挿入したりしてもよい。宿主細胞としては、大腸菌などの細菌、ヒトHEK293胎児腎由来細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または骨髄腫細胞のような哺乳類培養細胞などが例示できる。
(3)抗v9抗体を産生するハイブリドーマ
本発明はさらに別の実施形態において、CD44vのv9領域に特異的に結合する抗体およびその抗原結合断片を産生するハイブリドーマを提供する。本発明はまた、v9領域に特異的に結合する抗体およびその抗原結合断片をコードする核酸分子を含有するハイブリドーマを提供する。最も好ましい本発明のハイブリドーマとしては、茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305-8566)、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに2009年6月23日付で寄託された、受託番号FERMP-21821で特定されるハイブリドーマが挙げられる。別の最も好ましい本発明のハイブリドーマとしては、茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305-8566)、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに2009年6月23日付で寄託された、受託番号FERMP-21822で特定されるハイブリドーマが挙げられる。
本発明のハイブリドーマは、v9領域を含むペプチドを産生する細胞、その細胞画分、精製されたv9領域を含むペプチド、さらには、ペプチド合成機を用いて合成されたv9領域を含むペプチド等を用い、当業者に周知の方法によって製造することができる。
さらに、本発明の別の実施形態では、抗v9抗体を産生するハイブリドーマから、抗v9抗体を採取することを含む、v9領域に特異的に結合するモノクローナル抗体の製造方法が提供される。具体的に抗体を単離する方法は特に限定されず、例えば、ハイブリドーマを培養し、培養上清などの得られる培養物からv9領域に特異的に結合する抗体を採取したり、ハイブリドーマをマウスの腹腔に移植して得られる腹水から抗体を採取したりしても良い。目的によっては、培養上清や腹水をそのまま利用することも可能である。
(4)腫瘍の予防または治療のための医薬
本発明は、さらに別の実施形態において、抗v9抗体またはその抗原結合断片を含有する、腫瘍の予防または治療のための医薬組成物を提供する。本明細書で、腫瘍の予防とは、腫瘍の転移や再発を防ぐことを含む。腫瘍の再発は、例えば、化学的治療や外科的治療によって、一旦、腫瘍が検出されなくなった後で、再度、生き残った腫瘍細胞が増殖することにより生じる。
後述の実施例に示されるように、抗v9抗体またはその抗原結合断片は、v9領域に特異的に結合して、v9領域を有するCD44vの活性を阻害するか、または細胞障害因子を誘導し、該細胞を細胞死に至らしめることができる。あるいは、抗v9抗体またはその抗原結合断片は、v9領域を有するCD44vを発現する細胞のv9領域に特異的に結合し、CD44vとアミノ酸トランスポーターであるxCTとの相互作用を阻害し、その結果として、該細胞を細胞死に至らしめることができる。
したがって、本発明の抗体またはその抗原結合断片を含有する医薬組成物は、正常細胞にはほとんど発現しない、v9領域を有するCD44vを細胞表面に発現する腫瘍細胞を特異的に死滅させるため、そのような細胞で特徴付けられる腫瘍および、同様の機序により生ずる疾患の予防または治療のために、少ない副作用で使用することができる。
上記「腫瘍」の例としては、大腸癌、結腸直腸癌、肺癌、乳癌、脳腫瘍、黒色腫、腎細胞癌、膀胱癌、白血病、リンパ腫、T細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、胃癌、膵臓癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、卵巣癌、食道癌、肝臓癌、頭頸部扁平上皮癌、皮膚癌、尿路癌、前立腺癌、絨毛癌、咽頭癌、喉頭癌、舌癌、口腔癌、胆嚢癌、甲状腺癌、中皮腫、胸膜腫、男性胚腫、子宮内膜過形成、子宮内膜症、胚芽腫、線維肉腫、カポジ肉腫、血管腫、海綿状血管腫、血管芽腫、網膜芽腫、星状細胞腫、神経線維腫、稀突起謬腫、髄芽腫、神経芽腫、神経膠腫、横紋筋肉腫、謬芽腫、平滑筋肉腫、およびウィルムス腫瘍等が挙げられるが、これらに限定されない。より好ましくは、大腸癌、結腸直腸癌、肺癌、乳癌、脳腫瘍、膀胱癌、リンパ腫、胃癌、膵臓癌、肝臓癌、および前立腺癌が挙げられる。さらに乳癌においては、トリプルネガティブ乳癌(HER2陰性、ER陰性、PR陰性)が挙げられる。なお、胃癌を発生するマウスモデルにおいて、CD44vの発現を抑制すると胃癌の発生を抑制することができるため、胃癌の治療に用いることが好ましい。
抗v9抗体またはその抗原結合断片を医薬として使用する場合は、常套手段に従って製剤化することができる。例えば、抗v9抗体またはその抗原結合断片は、IgA化し分泌成分を結合した後、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤などとして経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、または懸濁液剤などの注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、該抗体またはその抗原結合断片を生理学的に認められる公知の担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤などとともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって製造することができる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な用量が得られるようにするものである。
また、抗v9抗体またはその抗原結合断片は、他の細胞増殖抑制剤や抗腫瘍剤とともに使用され得る。例えば、抗v9抗体またはその抗原結合断片は、抗癌剤としての治療効果をより高めるために、細胞増殖抑制剤や抗腫瘍剤と同時に、逐次的に、または個別に、治療を必要とする対象または患者に投与されることができる。
本発明において使用され得る「細胞増殖抑制剤」や「抗腫瘍剤」の例としては、アルキル化剤、代謝拮抗剤、分子標的薬、植物アルカロイド、抗癌性抗生物質、プラチナ製剤等が挙げられるが、これらに限定されない。アルキル化剤の例としては、イホスファミド、シクロフォスファミド、ダカルバシン、テモゾロミド、ニムスチン、ブスルファン、プロカルバジン、メルファラン、ラニムスチン等が挙げられるが、これらに限定されない。代謝拮抗剤の例としては、エノシタビン、カペシタビン、カルモフール、クラドリピン、ゲムシタビン、シタラビン、シタラビンオクホスファート、テガフール、テガフールウラシル、TS-1、ドキシフルリジン、ネララビン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、フルダラビン、ペメトレキセド、ペントスタチン、メルカプトプリン、メトトレキサート等が挙げられるが、これらに限定されない。分子標的薬の例としては、ゼヴァリン、イマチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、スニチニブ、セツキシマブ、ソラフェニブ、ダサチニブ、トラスツズマブ、トレチノイン、パニツムマブ、ベバシズマブ、ボルテゾミブ、リツキシマブ等が挙げられるが、これらに限定されない。植物アルカロイドの例としては、イリノテカン、エトポシド、ソブゾキサン、ドセタキセル、ノギテカン、パクリタキセル、ビノレルビン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチン等が挙げられるが、これらに限定されない。抗癌性抗生物質の例としては、アクチノマイシンD、アクラルビシン、アムルビシン、イダルビシン、エピルビシン、スマンクス、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、プレオマイシン、ペプロマイシン、マイトマイシンC、ミトキサントロン、ドキシル等が挙げられるが、これらに限定されない。プラチナ製剤の例としては、オキサリプラチン、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン等が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の医薬組成物は、さらに薬学的に許容し得る担体を含有してもよい。「薬学的に許容し得る」という用語は、通常の医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー応答、またはその他の問題もしくは合併症を示すことのない、ヒトおよび動物の組織と接触させて使用するのに適した、化合物、材料、組成物、および/または剤形を指すために、本明細書において利用される。
担体以外に、例えば、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩:酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、酸化防止剤などと配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填される。このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、ヒトを含む哺乳動物に対して投与することができる。
医薬組成物の投与は、周知の方法、例えば、静脈内、腹膜内、脳内、皮下、筋肉内、眼内、動脈内、脳内脊髄、または病巣内経路での注射または注入、または徐放系による。またさらに、該抗体またはその抗原結合断片を直接腫瘍部位へ投与する手段として、カテーテル等による投与等も可能である。医薬組成物の投与量は、投与対象、症状、投与方法などにより、適切に選択される。
(5)xCT阻害剤を含有する抗腫瘍剤
本発明者らは、CD44R1がxCTを安定化させることによって、生体内の主要な抗酸化物質のひとつであるGSHの合成を促進し、細胞内のROSを還元するのに貢献しているという新たな知見を得た。そこで、本発明の抗腫瘍剤は、xCT阻害剤を含有し、抗CD44v抗体と同様に、特にCD44vを発現している腫瘍に対して顕著な抗腫瘍効果を有する。腫瘍細胞が発現しているCD44vは、v9を有することが好ましく、CD44vR1であることが最も好ましい。
従来、抗腫瘍剤であるシスプラチンを腫瘍患者に投与し続けると、腫瘍に薬剤耐性が生じる場合があることが広く知られていた。このシスプラチン耐性には、xCTが関与しており、xCTの過剰発現が腫瘍細胞内のGSHの濃度を高く保つことによって、細胞にシスプラチン耐性を与えると報告されている(British J. Cancer vol.88 p.951-956 2003)。しかしながら、どのような場合に薬剤耐性が生じるかは明らかではなかった。本発明者らは、CD44R1がxCTを安定化させることによって、生体内の主要な抗酸化物質のひとつであるGSHの合成を促進し、細胞内のROSを還元するのに貢献しているという新たな知見を得た。そのことから、CD44vを発現している腫瘍細胞は、xCTの安定化を通じて、シスプラチン耐性を生じやすいことが明らかになった。従って、CD44vを発現している腫瘍に対し、シスプラチンを投与すると共に、xCTの阻害剤を投与することは、シスプラチン耐性を起こさせない効果を生じることが明らかになった。
すなわち、xCT阻害剤を含有する抗腫瘍剤は、CD44vを発現している腫瘍に対する抗腫瘍剤であって、xCT阻害剤を含有しない他の細胞増殖抑制剤や抗腫瘍剤と共投与されてもよく、その例は(4)に記載されている通りであるが、他の細胞増殖抑制剤や抗腫瘍剤は細胞内ROSを増加させる薬剤であることが好ましく、例えば、パクリタキセル等が例示されるが、特にシスプラチンが好ましい。それによって、シスプラチン耐性を生じないため、通常使用されるシスプラチンの濃度以下の濃度でも、従来以上の効果を得られることが期待される。なお、これらの抗腫瘍剤を共投与するのではなく、両者を含有する単剤の抗腫瘍剤に剤形化しても良い。また、xCT阻害剤は、特に限定されず、例えば、L-シスチン等が例示されるが、特にスルファサラジンが好ましい。これまで、スルファサラジンはリューマチや潰瘍性大腸炎の治療薬として使われており、安全性が確立されているからである。
なお、CD44vは、細胞接着に関与しており、このxCT阻害剤を含有する抗腫瘍剤は、腫瘍の転移を抑制する効果があり、抗腫瘍転移剤としても用いることができる。さらに、xCT阻害剤は、少数の癌細胞からの腫瘍組織形成されるのを抑制できるため、抗腫瘍転移剤としてだけでなく、腫瘍の再発を抑制する腫瘍再発抑制剤としても用いることができる。このように、xCT阻害剤は、腫瘍の予防にも用いることができる。
(6)xCT阻害剤を含有する抗腫瘍剤の投与方法
上述したように、xCT阻害剤を含有する抗腫瘍剤は、CD44vを発現している腫瘍に対して顕著な抗腫瘍効果を有する。従って、xCT阻害剤を含有する抗腫瘍剤を投与する前に、治療対象の腫瘍細胞がCD44vを発現しているかどうか、調べることが好ましい。すなわち、xCT阻害剤を含有する抗腫瘍剤の投与方法は、
1)患者の腫瘍細胞がCD44vを発現しているかどうか、調べる工程と、
2)当該腫瘍細胞がCD44vを発現している場合に、当該患者に、xCT阻害剤を含有する抗腫瘍剤を投与する工程を含む。
患者の腫瘍細胞は、生検でも外科手術でも取得することもできる。
この抗腫瘍剤を、腫瘍の再発の抑制に用いる場合、例えば、以下のような態様となる。すなわち、
1)患者の腫瘍を外科手術によって除去する工程と、
2)除去した腫瘍細胞がCD44vを発現しているかどうか、調べる工程と、
3)当該腫瘍細胞がCD44vを発現している場合に、当該患者に、xCT阻害剤を含有する抗腫瘍剤を投与する工程、を含む。あるいは、
1)患者の腫瘍細胞がCD44vを発現しているかどうか、調べる工程と、
2)患者の腫瘍を化学的に治療する工程と、
3)当該腫瘍細胞がCD44vを発現している場合に、当該患者に、xCT阻害剤を含有する抗腫瘍剤を投与する工程、を含む。
得られた腫瘍細胞がCD44vを発現しているかどうかは、PCR法、組織染色法、ウエスタンブロット法など、当業者に周知の方法によって調べることができる。そして、その腫瘍細胞がCD44vを発現していることが判明すれば、その患者に、xCT阻害剤を含有する抗腫瘍剤を投与する。抗腫瘍剤の投与方法等は、(4)で述べたように抗体を含有する医薬と同様である。
なお、xCT阻害剤を含有する抗腫瘍剤を投与する際、xCT阻害剤を含有しない抗腫瘍剤を共投与してもよい。これらの抗腫瘍剤の詳細は、(5)で記載した通りである。
以下、実施例により本発明をより具体的に記載するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されない。
[実施例1]
(1)免疫原の調製
抗v9モノクローナル抗体を作製するために必要な抗原として、GFP融合CD44R1発現ラット肝癌細胞株RH7777細胞株を樹立した。CD44R1をコードするcDNAの全長を公知の方法を用いて組換え融合蛋白として発現させ、発現が強いものを薬剤選択性および限界希釈法にて単一クローン化し安定発現株とした。
(2)動物の免疫と抗体産生細胞の調製
ラット(F344/N、雌)3匹に、(1)に示した細胞株から作製した抗原を免疫して、その脾臓より抗体産生細胞を採取した。免疫は、ラットの皮下に抗原としてGFP-CD44R1発現RH7777細胞3×106個を投与することにより行った。抗原の投与は、1回目の投与の3週間後および6週間後に2回行った。脾細胞を骨髄腫細胞との融合に供するにあたって、抗原の最終投与後3日後に、免疫したラットより脾臓を摘出し脾細胞を採取した。脾臓を血清無添加の基礎培地(以下洗浄用培地という。)中で裁断し、遠心分離して細胞を回収後、トリス−塩化アンモニウム緩衝液(pH7.65)で3〜5分間処理し赤血球の除去を行い、洗浄用培地で洗浄した後に融合用脾細胞として用いた。
(3)ハイブリドーマの作製
実施例1(2)で得られたマウス脾細胞とマウス骨髄腫細胞株X63とを4:1の比率で混合し、遠心分離(1,200rpm、5分)した後、上清を捨て、沈澱した細胞群をよくほぐした後、擁搾しながら、37℃で、ポリエチレングリコール-1500(PEG-1500)2g、DMEM培地2mlおよびジメチルスルポキシド0.7mlの混液を0.2〜1ml/108個マウス脾細胞の割合で加え、さらに1〜2分間毎にDMEM培地1〜2mlを数回加えた後、DMEM培地を加えて全量が50mlになるようにした。遠心分離(900rpm、5分)後、上清を捨てHAT培地100ml中に細胞をゆるやかに懸濁した。
この懸濁液を96ウェル培養用プレートに100μ1/ウェルずつ分注し、5%CO2インキュベーター中、37℃で10〜14日間培養した
(4)抗体スクリーニング
GFP融合CD44R1発現ベクター(GFP-sCD44R1)をトランスフェクトしたHEK293F細胞の培養上清から得られた、1μg/mlのCD44R1細胞外領域断片蛋白質をELISA用96穴プレート(住友べ一クライト)に40μ1加え、4℃にて一晩インキュベートした。3%脱脂粉乳溶液を100μ1加えて37℃で1時間プロッキングしたのち、実施例1(3)で得られたハイブリドーマ培養上清を40μ1加え37℃で2時間インキュベートした。PBSで1回、0.05%Tween20-PBS(T-PBS)で5回、さらにPBSで1回洗浄後、HRP標識抗体(Dako)を800〜3000倍希釈し40μ1ずつ加え、37℃で45分間反応させた。PBSで1回、0.05%T-PBSで5回、さらにPBSで1回洗浄後、基質溶液S5ureBlue珊TMBMicrQwellPeroxidaseSubstrate(1-Component)(KPL)を各穴に50μ1加えて発色させた。適度に発色した時点で0.5N硫酸を70mlずつ加えて反応を停止し、MicroplateReaderModel550(BIO-RAD)にて各穴の吸光度(OD4105D)を測定した。吸光度が0.3以上の陽性反応を示したハイブリドーマを1次スクリーニングとして選択した。
得られたハイブリドーマ培養上清をGFP-CD44R1トランスフェクタントと反応させ、FACS解析を行うことによりCD44R1特異的抗体を産生しているかどうかを調べる、2次スクリーニングを行った。FACSの反応は96ウェルプレートにて行った。トランスフェクタントを2.5×105〜3×106個/ウェルになるように50μ1ずつチューブに分注した。この細胞浮遊液にハイブリドーマの培養上清50μ1を加え、氷冷下で60分反応させた。チューブに0.2%BSA-PBS200〜500μ1を加え、190g、4℃で5分間遠心し上清を捨てる操作を3回繰り返して洗浄した後、2次抗体としてFITC標識抗ラット抗体を添加し遮光氷冷下で45分間反応させた。ウェルを遠心し洗浄した後0.2%BSA-PBS500μ1に懸濁し、40μmのナイロンメッシュを通した。死細胞を除くために測定直前にDAPIを1mg/mlの濃度になるよう添加し、BDLSR(BectonDickinson)にて蛍光強度を測定した。図1に示すように、GFP-CD44R1トランスフェクタントに陽性反応を示すクローンを選別し、抗CD44R1抗体産生ハイブリドーマ株を樹立した。
得られた抗体の認識部位を同定するために、大腸菌により発現させたGST融合sCD44R1、GST融合v8-10、GST融合v8-9、GST融合v8およびHis融合v9-10、His融合v9の精製蛋白質を固相化抗原として用いたELISAを行った。図2に示すように、LGadhO1-01およびLGadhO1-02はv9を含むペプチドのみに反応したことから、この抗体がCD44のv9領域に特異的に結合すると結論付けられた。
(5)モノクローナル抗体の精製
プリスタン処理した8週令ヌード雄マウス(KSN)に実施例1(4)で得られたハイブリドーマ株を1×107細胞/匹それぞれ腹腔内注射した。10〜21日後に、ハイブリドーマは腹水癌化した。腹水のたまったマウスから腹水を採取し、遠心分離(2000rpm、5分、4℃)した後50%飽和硫酸アンモニウムにて塩析し、沈渣を溶かして10000g、4℃で10分間遠心した。プレフィルター、メンブランフィルター(0.22μm)を通過させた後、ProteinG(GEヘルスケアバイオサイエンス)を用いて液体クロマトグラフィーシステムAKTAにより精製し、抗v9モノクローナル抗体とした。
[実施例2]
(1)FACSによるモノクローナル抗体の結合部位の確認
CD44v8、CD44v9、CD44v10、CD44v8-10、CD44v9-10を強制発現させたHEK293細胞をPBSにて2.5×105〜1×106cells/wellになるように調整し、50μLずつチューブに分注した。この細胞浮遊液にハイブリドーマ上清または濃度調整した精製抗体50μLを加え、氷冷下で60分反応させた。0.2%BSA-PBS200〜500μLを加え、9,100g、4℃でフラッシュする洗浄を3回行い、細胞ペレットにFITC標識またはPE標識の二次抗体(1%BSA-PBSで200倍希釈)を50μL加え、遮光氷冷下45分間反応させた。遠心洗浄後、0.2%BSA-PBS500μLにサスペンドし、40μmのナイロンメッシュ(BDFalcon#35-2340)を通した後、死細胞を除くため測定直前にDAPIを0.5μg/mLの濃度になるように添加し、BD-LSR(BectonDickinson)にて測定した。図3のヒストグラムにて矢印で示すように、LGadhO1-01モノクローナル抗体及びLGadhO1-02モノクローナル抗体は、細胞がv9領域を有している時のみ結合し、こうしてCD44のv9領域に特異的に結合することが認められた。
(2)ファージディスプレイによるモノクローナル抗体の認識エピトープ解析
10μg/mLに調整した精製抗体を50μ1/wellでELISAプレート(MS-7296F)に固相化した。BiQLabsのPhD-7ランダムペプチドライブラリーを用い、結合ファージを得た。
このバイオパニング操作を3回繰り返し、回収ファージの塩基配列をDNAシーケンスで解読、アミノ酸配列に変換した。LGadhO1-01モノクローナル抗体が最も頻度高く結合した配列としてTPLEEDK(配列番号10)が得られ、ヒトCD44のv9領域と比較したところ、LEEDK(配列番号11)が共通であった。配列番号10のアミノ酸配列の両端にヒトCD44のv9領域由来の2アミノ酸を加えた合成ペプチドEGLEEDKDH(配列番号12)との反応をELISAで調べた結果、LGadhO1-01モノクローナル抗体及びLGadhO1-02モノクローナル抗体が結合することが認められた。ただし、LGadhO1-02モノクローナル抗体は配列番号10をもつファージと反応しなかったため、LGadhO1-01モノクローナル抗体とLGadhO1-02モノクローナル抗体のエピトープは異なることが認められた。
(3)免疫組織染色法によるヒト乳癌組織におけるCD44vの発現量の検討
ホルマリン固定後パラフィン包埋された検体組織切片のアレイスライドを、60℃で1時間加熱した後、コプリンジャー内でキシレンに30分間浸し、さらに新しいキシレンで2回洗浄することで脱パラフィン化した。一連の段階的濃度(100%〜75%)のエタノールで処理した後、切片を純水で再水和した。スライドを10nMクエン酸緩衝液(pH6.0)に浸し、続いて電子レンジ(700W)に7分間かけ、30分間室温で放冷した。スライドをTBST (25mMTris-HClpH7.4, 130mMNaCI, 2.5mMKC1, 0.1%Tween20)で5分間3回洗浄した後、メタノールで3%に希釈した過酸化水素水に15分間浸した。TBSTで5分間3回洗浄した後、TBSTで10%に希釈した正常ウサギ血清とともにインキュベートした。正常ウサギ血清を除いた後、TBSTで1.5%に希釈した正常ウサギ血清を用い0.2μg/mlになるよう希釈したLGadhO1-01モノクローナル抗体をスライドに滴下し、室温で1時間インキュベートした。スライドをTBSTで5分間3回洗浄した後、二次抗体として、TBSTで1.5%に希釈した正常ウサギ血清で200倍に希釈したビオチン標識抗ラットイムノグロブリン・ウサギポリクローナル抗体(DAKO#EO468)とともに室温で1時間インキュベートした。
スライドをTBSTで5分間3回洗浄した後、VECTASTAIN EIite ABC Standard Kit(VECTOR LABORATORIES #PK-6100)を用いて添付のプロトコールに従い作成したアビジンDHとビオチン標識ペルオキシダーゼHの混合液とともに30分間室温でインキュベートした。スライドをTBSTで5分間3回洗浄した後、Metal Enhanced DAB Substrate Kit(PIERCE #34065)を用いて添付のプロトコ-ルに従い発色基質溶液を作成し、スライドに滴下することで呈色反応を生じさせた。スライドをTBSTに浸すことで呈色反応を停止させた後、対比染色としてヘマトキシリン3G(サクラファインテック #8656)を用いて核を染色した。段階的濃度のエタノール(75%〜100%)によって脱水し、キシレンによって透徹した。封入のためにマウントクイソク(大道産業#DM-01)を用いて、スライドにカバースリップを乗せた。BX51-34-FL-1(オリンパス)を用い、スライドの検鏡を行った。図4に示すように、乳癌組織中の癌細胞の細胞膜にLGadhO1-01モノクローナル抗体の結合が認められた。表1は乳癌組織アレイHuman, Breast cancer-metastasis-normal (SuperBioChip #CBA3)のLGadhO1-01抗体染色をまとめたものである。各組織のシグナル強度を比較し、シグナルなしを0、シグナルありの場合、その強度を1+、2+、3+の3段階でスコア化した。全体的に35人の患者の原発巣の約54%がv9エピトープに対し陽性であった。悪性度の高いサブタイプであるトリプルネガティブ乳癌(HER2陰性、ER陰性、PR陰性)の患者では、13人のうち9人が陽性であった。また、リンパ節転移巣においては10人の患者のうち7人が陽性であった。
(4)癌細胞株におけるv9領域を有するCD44v発現量の検討
FACS法によりLGadhO1-01モノクローナル抗体を用いてヒト乳癌細胞株7種および非癌細胞2種におけるv9領域を有するCD44vの発現量を測定した。図5に示すように、v9領域を有するCD44vは非癌細胞に比べ、乳癌細胞で優位に高発現していることが認められた。また、大腸癌、肺癌、膵癌、皮膚癌、子宮頸癌、舌癌細胞においても高発現が認められ、v9領域を有するCD44vが癌細胞で特異的に発現していることが示唆された。
(5)CD44vとxCTの細胞膜上での共局在
CD44vの機能としてROSの抵抗性への関与が示された。ROSの制御においては、生体内の主要な抗酸化物質のひとつであるGSHの合成を促進し細胞内の活性酸素種の還元へ関与しているxCTが知られていることから、CD44vとxCTの相互作用について検討を行った。
ヒト大腸癌細胞HcT116に対して、cD44siRNA(v9領域を有するCD44vを標的とするsiRNA)あるいはコントロールとしてヒトの配列に相同性を持たないsiRNA(luciferase由来)を、RNAiMAX(Invitrogen)を用いてトランスフェクトした。37℃で3日間培養後、4%パラフォルムアルデヒドにより固定した。抗v9ラットモノクローナル抗体あるいは抗xCTラットモノクローナル抗体を室温で60分間反応させ、その後PBSで3回洗浄した。AlexaFluor488-conjugated2次抗体(Invitrogen)あるいはTexasred-conjugated2次抗体(Invitrogen)を、室温で60分間反応させ、その後PBSで3回洗浄した。さらに対比染色として、Hoechst33342(Invitrogen)により核染色を行い、BiorevoBZ-9000蛍光顕微鏡(Keyence)を用いて、観察を行った。
図6上段に示すように、Control siRNAで処理した細胞の染色結果から、v9領域を有するCD44vとxCTが細胞膜上で共局在していることが認められた。さらに下段に示すように、CD44siRNAで処理した細胞においては、CD44vのノックダウンにより、xCTの膜上の発現の減少が認められた。以上のことから、CD44vとxCTは膜上で共局在し、CD44vがxCTの膜上での安定化に関与していることが示唆された。
さらに、免疫沈降法によるCD44R1とxCTの相互作用の検討を行った。CD44R1を発現するpRc-CMVベクター、CD44sを発現するpRc-CMVベクター、および空のベクターをFuGene(RocheDiagnostics)を用いてトランスフェクトした。37℃で24時間培養後、プロテアーゼ阻害剤入りのRIPAbufferで溶解し、蛋白質抽出液を取得した。抗xCTラットモノクローナル抗体を加え、氷上で1時間作用させた。その後G-Sepharosebeads(GEHealthcare)を加え、1時間反応させた。遠心後上清を除去し、RIPAbufferにより3回洗浄を行った。その後、抗CD44ウサギポリクローナル抗体および抗xCTウサギポリクローナル抗体によるWesternblot法で、CD44とxCTの複合体形成状態を解析した。検出はChemiluminescence Reagent Plus(Perkin-Elmer)を用いて行った。図7に示すように、CD44R1を発現するpRc-CMVベクター、CD44sを発現するpRc-CMVベクターをトランスフェクトした細胞において、それぞれ標的蛋白質が強制発現されていることが確認された。それらの細胞に対し、抗xCT抗体を用いて免疫沈降した結果、CD44R1を強制発現させた細胞において、バンドが検出されたことから、xCTはCD44R1と複合体を形成していることが認められ、一方CD44sを強制発現させた細胞においては、バンドが検出されず、xCTとの相互作用はCD44R1特異的な現象であることが明らかになった。
(6)CD44vの活性酸素種(ROS)への抵抗性効果の検討
ヒト大腸癌細胞HcTll6に対して、cD44siRNA(v9領域を有するCD44vを標的とするsiRNA)あるいはコントロールとしてヒトの配列に相同性を持たないsiRNA(1uciferase由来)を、RNAiMAX(Invitrogen)を用いてトランスフェクションした。37℃で3日間培養後、0.5mM過酸化水素水(H2O2)を20分作用させ、その後10μM DCFH-DA(MolecularProbes, Invitrogen)試薬を37℃で15分間作用させた。FACSを用いてDCFの蛍光を測定し、細胞内のROS蓄積量を解析した。図8に示すように、Control siRNA処理群に過酸化水素水を加えてもDCF蛍光値は低くROSは蓄積していないのに対し、cD44siRNA処理によりCD44vをノックダウンした細胞に過酸化水素水を加えるとROSが蓄積していることが確認され、CD44vがROS抵抗性へ関与していることが認められた。
(7)抗v9モノクローナル抗体と従来の細胞増殖抑制剤の併用効果の検討
5種の臓器の癌細胞株を標的抗原とし、乳癌細胞株、肺癌細胞株、大腸癌細胞株、膵臓癌細胞株、および子宮頸癌細胞株を、96 well plateに播種した。37℃で24時間培養後、培地を取り除き、LGadhO1-01モノクローナル抗体10μg/mlおよび本発明において好ましい各細胞増殖抑制剤(代謝拮抗剤の5FUおよびゲムシタビン、微小管脱重合阻害薬のタキソテール、アルキル化剤のオキサリプラチン、トポイソメラーゼ阻害薬のドキソルビシン)を0〜300μMの範囲の用量で調整した培地を150μ1/wellで加えた。37℃で3日間培養後、培地を取り除き、アラマーブルー試薬(Invitrogen)を10倍に希釈した培地を150μ1/wellで加えた。
37℃で2時間培養後、Infinite M200(TECAN)を用いて590nmにおける蛍光強度を測定した。図9に示すように細胞増殖抑制剤の単剤の効果に比べ、LGadhO1-01モノクローナル抗体の併用による抗腫瘍効果の強化が検出された。評価に使用したいずれの細胞増殖抑制剤においても増強効果が見られ、LGadhO1-01モノクローナル抗体の作用により、xCTの薬剤排出能が抑えられたことが示唆された。
(8)抗v9モノクローナル抗体の抗体依存性細胞障害活性の検討
ベノジェクトH真空採血管(テルモ#VP-H100K)に採血したヒト末梢血6mLを、リンフォセパールI(IBL#23010)4mLに対し静かに重層し、1800rpmで30分遠心して分離した単核球の層を回収した。PBSで倍量に希釈し、200gで10分間遠心した。ペレットにPBSを加え、200gで10分間遠心して洗浄し、適切な細胞密度になるよう培地で懸濁した細胞をエフェクター細胞とした。一方、標的細胞としてBT20細胞を2×105cells/mLとなるように培地で調整した。丸底96 well plateに予めLGadhO1-01ヒトキメラ抗体50μLずつ分注し、標的細胞液を50μL加えた。4℃で15分インキュベート後、1500rpmで3分遠心して、上清を捨てた。エフェクター細胞液100μLを加え、1200rpmで1分遠心して37℃で4時間インキュベートした。インキュベート後、1200rpmで3分遠心し、上清50μLを平底96 well plateに移した。Substratemix (Cytotox96 Non-Radioactivecytotoxicityassay(Promega #G1780))を50μL/wellで加え、30分静置した。Stop solutionを50μ1/well加え、InfiniteM200(TECAN)を用いて490nmにおける吸光度を測定し、次の式で細胞障害率を算出した。
細胞障害率(%)=[(sample release - spontaneous release)/(total release - spontaneous release)]×100
図10に示すようにLGadhO1-01モノクローナル抗体のADCC活性が検出された。エフェクター/ターゲット比依存的な活性および抗体濃度依存的な活性が認められた。
(9)抗v9モノクローナル抗体のin vivoでの抗腫瘍効果の検討
ヒト舌癌細胞HSC-3をKSNヌードマウスに皮下投与し、腫瘍を形成させた。腹腔内にプリスタン500μl/匹を投与後、マウスを156匹と15匹の群に分けた。16匹の群の腹腔内にハイブリドーマLGadhO1-01を投与し、15匹の群の腹腔内に陰性コントロールとして、HSC-3に結合しない抗マウスCD44抗体を産生するハイブリドーマを投与し、腹水が貯留した時点で各マウスの腫瘍容量を測定した。図11に示すように、陰性コントロール群に比べ、ハイブリドーマLGadhO1-01投与群で腫瘍の増殖抑制が認められた。
4×106cellsのヒト大腸癌細胞HT29を100μLのMatrigelで懸濁し、Balb/cヌード雌マウスに皮下投与した。
その4日後にLGadhO1-01ラットモノクローナル抗体の投与を開始し、抗体は1mg/mouseで週2回投与を2週間続け、投与毎に腫瘍容量を測定した。図12に示すように、陰性コントロールのPBS投与群に比べ、LGadhO1-01投与群で腫瘍の増殖抑制が認められた。
[実施例3]
(1)スルファサラジンの抗腫瘍効果
CD44v依存的に増殖するヒト大腸がん細胞HCT116を用い、実施例2(9)と同様に、KSNヌードマウスに皮下投与し、腫瘍を形成させた。10匹のマウスに細胞を移植し、5匹は、250mg/kgのスルファサラジン、5匹は100マイクロリットルの生理食塩水を毎日一回腹腔内注射した。移植14日後と28日後に腫瘍径を計測し、腫瘍径に基づき重量を計算し、各群で比較した。
図13に示すように、スルファサラジンを投与した群では、対照群に比べて腫瘍増殖が有意に遅かった。このように、スルファサラジンは、腫瘍増殖抑制効果を有し、抗腫瘍剤として有用である。
(2)スルファサラジンによる、シスプラチンの抗腫瘍効果の増強
(1)と同様に、CD44vを高く発現しているHCT116細胞をKSNヌードマウスに皮下投与し、腫瘍を形成させた。15匹のマウスに細胞を移植し、5匹は2mg/kgのシスプラチン、5匹は、2mg/kgのシスプラチン+250mg/kgのスルファサラジン、5匹は100マイクロリットルの生理食塩水を毎日一回腹腔内注射した。移植28日後に腫瘍径計測し、腫瘍径に基づき重量を計算し、各群で比較した。
図14に示すように、スルファサラジン単独より、シスプラチンとスルファサラジンシスプラチンを投与した方が、腫瘍増殖抑制効果は有意に大きかった。この腫瘍増殖抑制効果の増強は、スルファサラジン単独の抗腫瘍効果から予測されるよりも大きく、スルファサラジンは、それ自体で抗腫瘍効果を示す以外に、シスプラチンの効果を増強していると考えられた。このように、スルファサラジンは、シスプラチンの抗腫瘍効果を増強する効果を有し、シスプラチンの抗腫瘍効果増強剤として有用である。
(3)スルファサラジンの腫瘍転移抑制効果
マウス乳癌細胞4T1は転移能が高く、マウスの乳腺に移植すると3〜4週間で肺を含めた全身の組織に転移する。この細胞株と、他の転移能の低い乳癌細胞(4Y07、168FARN、67NR)に対し、RT-PCTを用いて、CD44s及びCD44vの発現を調べた。なお、マウス乳癌細胞株4T1、CD44v+、CD44v-は、10%FBS含有RPMI 1640 (Sigma, St. Louis, MO)を用いて、37°C、5%CO2 の条件下で培養した。また、PCRに用いたプライマーは、以下の通りである。
CD44v-1:5’-GGAGATCAGGATGACTCCTTCT-3’
CD44v-2:5’-AGTCCTTGGATGAGTCTCGATC-3’
その結果、図15に示すように、4T1細胞では、他の乳癌細胞に比べ、CD44vが高発現しており、細胞の転移能とCD44vの発現には、相関関係があった。
そこで、マウスの尾静脈から細胞を注入して、肺に転移巣を作らせる系を用い、CD44v+の腫瘍転移に対する効果を調べた。まず、1x105 個のCD44v+細胞またはCD44v-細胞を同腹のBalb/c野生型雌マウス(8−10週令、各5匹)の4番目の乳腺に注入した。移植30日後、開腹して肺を取り出し、蛍光イメージングを行いて肺転移した腫瘍の量を計測した。蛍光イメージングにはClairvivoOPT (島津株式会社)を用い、励起光として785nmの光を照射し、845/55nmのバンドパスフィルターを通してIntegrisence 750の蛍光を検出し、腫瘍転移した領域の蛍光シグナルの総量を計測して、腫瘍転移効果の定量的指標とした。
その結果、図16に示すように、CD44v+細胞は肺定着が検出されたが、CD44v-細胞は、ほとんど肺定着は検出されなかった。このように、CD44vは、腫瘍の転移に重要な役割を有している。
次に、CD44v8-10を発現する細胞(CD44v+)と発現しない細胞(CD44v-)をマウスCD44v8-10を特異的に認識する抗体で蛍光染色しFACSで分取し、それらのxCTトランスポーター発現をxCTに対する抗体により測定し、また細胞内のGSHのレベルを プロメガのGSH-Glo Glutathione Assay kitを用いて調べたところ、図17に示すように、CD44v+細胞でのxCTトランスポーターとGSHの発現レベルがCD44v-細胞より有意に高かった。このように、CD44vは、xCTの安定化を通じて、GSHの発現を高レベルに維持している。
さらに、in vivoにおいて、スルファサラジンの腫瘍転移に対する効果を調べた。まず、同様に、1x105 個の4T1細胞を12匹のマウスの尾静脈より注入した。そして、各6匹のマウスに対し、生理食塩水または8mg/匹のスルファサラジンを、1日に2度腹腔投与した。2週間後、蛍光イメージングによって、肺に定着し増殖した腫瘍の重量を測定した。
その結果、図18に示すように、スルファサラジンを投与した群では、肺での腫瘍細胞の定着率が低かった。このように、スルファサラジンは、腫瘍細胞の転移を抑制することができる。

Claims (7)

  1. CD44vを発現している腫瘍に対する抗腫瘍剤であって、
    スルファサラジンを含有する抗腫瘍剤。
  2. 細胞内ROSを増加させる第2の抗腫瘍剤と共投与されることを特徴とする、請求項1に記載の抗腫瘍剤。
  3. さらに細胞内ROSを増加させる第2の抗腫瘍剤を含有することを特徴とする、請求項1に記載の抗腫瘍剤。
  4. 前記第2の抗腫瘍剤がシスプラチンであることを特徴とする、請求項2または3に記載の抗腫瘍剤。
  5. 腫瘍の転移を抑制することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
  6. 治療後の腫瘍の再発を防止することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
  7. 前記CD44vがCD44R1であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
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