まずは、摩擦減衰解析装置及び摩擦減衰解析方法の考え方について説明する。ここでは、最初に、摩擦減衰の発生メカニズムについて考察する。続いて、これに基づいた解析モデルについて説明する。続いて、解析モデルを用いて摩擦減衰量を効率的に算出するための手法について説明する。
また、以下の説明では、図1(a)に示すような、2枚の板が1本のボルトによって締結された構造体1を用い、ボルト結合部にボルト結合部を中心としてねじり振動が作用する場合の摩擦減衰性能を解析する。
[摩擦減衰の発生メカニズム]
図1(a)に示す構造体1について説明する。構造体1は、ベースプレート1aと、ボルテッドプレート1bと、ボルト1cとを備えている。図1(b)は、ベースプレート1aとボルテッドプレート1bとを示す斜視図である。この図に示すように、ベースプレート1a及びボルテッドプレート1bは積層されており、その中央にはボルト結合用の穴があけられている。ボルト1cは、図1(a)に示すように、ベースプレート1a及びボルテッドプレート1bに形成されたボルト結合用の穴に挿通され、ベースプレート1aとボルテッドプレート1bとを締結している。
図1(a)の矢印で示すように、ボルト締結力は、ボルテッドプレート1bの厚み方向深さに応じて広がり、ベースプレート1aとボルテッドプレート1bの接触面間に接触応力として分布する。この時、ボルテッドプレート1bの面積が厚みに比べて十分に広い場合には、図1(a)に示されるようにボルテッドプレート1bの外周部で接触応力がゼロとなり、非接触領域が存在する。なお締結力は、最終的にベースプレート1aの下面にて支持される。なお、ベースプレート1aの下面は、ボルト締結力により変形が生じないものとし、図1(a)の上下方向に剛に固定されていると仮定する。
また、振動に起因するねじり荷重(トルク)は、ボルテッドプレート1bのボルト結合部を中心として、その外周部に負荷され、ベースプレート1aとボルテッドプレート1bの接触面をねじり分断するように作用する。このねじり荷重に対して、ベースプレート1aの下面は水平方向にも剛に固定されているものとする。
ボルテッドプレート1bは、図1(b)に示すように、平面視形状が、ボルト締結力によるベースプレート1aとボルテッドプレート1bの接触面間に生じる接触応力分布より大きな面積を有する一辺BBの正方形であり、板厚がHBである。ベースプレート1aは、平面視形状が、ボルテッドプレート1bの一辺BBより長い一辺BAの正方形であり、板厚がHAである。 なお、本説明では平面視が正方形の部材同士の結合を取り扱うが、その面積が接触面に比べて大きく、その一辺の長さと等しい直径の円形部材同士の結合を解析してもほとんど結果に変化がないことを確認している。
ボルト結合部において得られる減衰効果は、ボルト結合部の接触面で発生する微小すべり(マイクロスリップ)により、振動エネルギーの一部が摩擦損失として散逸することによって得られると考えられる。そこで、微小すべりが発生する接触面に対し、固着部(固着領域)とすべり部(すべり領域)を定義し、ねじり荷重が作用するボルト結合部の解析モデルを構築する。固着部は、ねじり荷重が作用してもベースプレート1aとボルテッドプレート1bとの間に相対すべりが生じず一体化して変位する領域である。すべり部は、ねじり荷重が作用した時にベースプレート1aとボルテッドプレート1bとの間ですべりが発生する領域である。例えばねじり荷重(トルクT)を徐々に増加すると、接触面の外周部(ボルト中心から遠い部分)からベースプレート1aとボルテッドプレート1bがすべり始め、徐々に内周部にすべり部の領域が広がり、最終的にはボルト結合部全面ですべりが発生する。ただし、全面ですべる状態は、ボルト結合部で結合部材間の位置関係が保持されていないことを意味し、不適切なボルト結合であると考えられる。
[解析モデル]
上述した摩擦減衰の発生メカニズムを考慮して「ねじり荷重が作用するボルト結合部の摩擦減衰モデル」を構築する。図2は、rx軸、 ry軸の交点を結合用ボルトの中心とし、ベースプレート1aとボルテッドプレート1bとの接触面における状態を表したものである。また、rx軸は、ベースプレート1aの底面(この面は固定され、ねじり角変位を生じない)、rΩ軸は、ボルテッドプレート1bの外周部のねじり角変位Ωiを示している。本解析モデルでは、時間を微小時間Δt(単位時間)、半径方向位置を微小半径長さΔr(単位半径長さ)を用いて離散化することで数値解析を行う。更に、同一半径方向位置における微小環形状要素(環形状要素)を考えたとき周上のどの位置においても、その条件は同じであると考えられることから、Δrピッチの微小環形状要素に分割して検討を進める。本解析モデルでは、微小時間Δt毎に変化する入力トルクTiについて接触面における力の釣合いを満たすねじり変形、固着及びすべり状態を求めるため、以下の表1に示す変数を設定する。
図2の半径方向位置r1〜rsld領域にボルト締結力による接触応力σjが働いており、その中で半径方向位置r1〜rstkは固着部、半径方向位置rstk〜rsldはすべり部である。また、半径方向位置rsld〜rmは、ボルト結合による接触応力σjが働かない非接触領域となる。固着部では、入力トルクTiにより生じる外力が最大静止摩擦力より小さく、ベースプレート1aとボルテッドプレート1bの接触面の両面が一体となって角変位している。すべり部では、最大静止摩擦力より外力が大きく、接触面にすべりが発生している。このすべり部で、摩擦損失エネルギーが得られる。図2に示す、下記の変数は、それぞれ下式(8)〜(13)によって算出される。なお、本説明において、変数の添字iは、この変数が時間の関数であることを示している。また、変数の添字jは、この変数が半径方向位置の関数であることを示している。
以上から、時刻tiにおける微小時間Δt毎の環形状要素jで発生する摩擦損失エネルギーwi, jは、下式(14)となる。
また、上式(14)をボルト接触面全体(r1〜rm)、および時間間隔(t1〜tn)で積算することで、その間に得られる摩擦損失エネルギーWを下式(15)のように求めることができる。ただし、ボルト結合部の接触面全体のうち、摩擦力が発生するのはボルト締結力による接触応力が働いている部分(σ>0)のみであるので、r1〜rsldの範囲で積算すればよく、更にエネルギーが損失するのはすべりを生じている部分(u>0)であるから、rstk〜rsldの範囲のみで積算すればよい。
[解析モデルを用いて摩擦減衰量を効率的に算出するための手法]
図2の解析モデルを用い、上式(15)から摩擦損失エネルギーを解析する。ここでは、まず外力であるトルクTが正弦波状に変動し、それがボルト結合部に負荷される場合を考える。この場合、摩擦損失エネルギーWはトルクTの変動に同期して繰り返すため、1周期分を求めればよく、更にその繰り返し変動の対称性を考慮すれば4分の1周期分を求めれば十分である。
上述の解析モデルに基づいて、摩擦損失エネルギーを有限要素法などで数値解析することを考えた場合、時刻歴解析、接触面メッシュの細分割化、摩擦の非線形性の処理などを含めながら、外力トルクとの釣合い状態を探索する膨大な計算量が必要となり、現実的な解析が困難となる。そこで、解析モデルの中で線形性が成り立つ部分を抽出し、その重ね合わせ計算を最大限活用する。すなわち、結合ボルトによる接触応力と各環形状要素へのトルク負荷によるねじり変形のみを予め有限要素法によって算出し、非線形である摩擦に対して外力トルクとの釣合い状態を探索して時刻歴解析する2重の繰返し計算の中では、予め求めた有限要素法の解の線形計算のみを行う。
(解析の条件設定・準備)
(a)入力トルクの設定
摩擦減衰は振動の大きさによって変化する非線形現象であるため、初めに振動の大きさを仮定する必要がある。ここでは、振動振幅に対応する最大入力トルク(振幅)Tampを仮定する。また、トルク変動の周波数をfとすれば、時刻tiにおけるトルクは下式(16)で与えられる。
(b)ボルト結合条件の設定と応力解析
締結力Pを設定し、その時のボルト締結力Pによる接触応力σjを図3(a)に示すように弾性有限要素法解析により求める。ボルト締結力は、穴の周囲のボルト結合用座金に相当する部分(図1(b)に示す直径Dと直径dの間の面)に平均的に作用するものとし、ベースプレート1aの下面を固定、接触面におけるボルト結合用穴の内周縁が両面間で固定されているものとする。本解析モデルにおいて同じ寸法形状、材質、荷重及び支持条件の下では、線形性が成り立つことから1回の数値解析で全ての締結力に対する接触応力を求めることができる(例えば、締結力を2倍すると接触応力も2倍となる)。
(c) 摩擦係数μ(v)の測定
摩擦係数は、解析等での取得は困難であるため実験により測定する。
(d)固着部ねじり剛性とねじり角変位の解析
固着部の範囲(r1〜rstk)は、入力トルク、ボルト締結力、摩擦係数などの条件により変化することから、それぞれの微小環形状要素毎に、固着部の剛性(入力トルクとねじり角変位の比)を弾性有限要素法解析により求め、データベース化しておく。この時、ベースプレート1aの下面を固定、ベースプレート1aとボルテッドプレート1bとの固着部を一体化して同時に解析を行う。それぞれ、図3(b)において、r=r1〜rstkの範囲を固着部、r=rstk〜rrmの範囲を非接触とし、ここでは仮にすべり部(摩擦力)は無いとして微小環形状要素毎にねじり剛性を算出する。また、同解析から非接触を仮定したr=rstk〜rsmの領域でのねじり角変位を固着部最外周部のねじり角変位に対する比(固着部より外周部分のねじり角変位φstk j, θstk j)/(固着部最外周のねじり角変位φstk stk, θstk stk)として求めておき、併せてこれもデータベース化しておく。以上の数値解析の結果から、固着部のベースプレート1aのねじり剛性KA stk、ボルテッドプレート1bのねじり剛性KB stk(例えば、KA 3はr=r1〜r3の範囲を固着部としたときのベースプレート1aのねじり剛性を表す。)また、ベースプレート1aにおける固着部より外周部のねじり角変位の比λφ j,stkと、ボルテッドプレート1bのねじり角変位の比λθ j,stkとが得られる。また、以上の結果を用いて、入力トルクTが固着部に負荷されたときの固着部(r1〜rstk)より外周部(rstk〜rm)のねじり角変位は、下式(17A)及び下式(17B)により算出される。
なお、添字j=stk〜mは微小環形状要素の半径方向位置を表し、stkは固着部の最外周半径方向位置の微小環形状要素を表している。また、微小時間毎のねじり角変位は、上式(17A)及び上式(17B)を微小時間毎に表すこととし、下式(18A)及び下式(18B)の様に書き換える。
(摩擦損失エネルギーの解析)
(ステップ1)
時間tiにおける入力トルクTiを上式(16)より求める。
(ステップ2)
入力トルクTiは、力の釣合い条件から、「入力トルク=固着部最大支持トルク+すべり部摩擦トルク」、すなわち下式(19)を満たす。
ここで固着部最大支持トルクTC stkは、固着部(r=r1〜rstk)が支持可能な最大トルクを表し、下式(20A)及び下式(20B)を満たす。
ここでKA stkはベースプレート1aにおける微小環状要素r1〜rstkで構成される円環のねじり剛性、KB stkはボルテッドプレート1bにおける微小環状要素r1〜rstkで構成される円環のねじり剛性、KA stk−1はベースプレート1aにおける微小環状要素r1〜rstk−1で構成される円環のねじり剛性、KB stk−1はボルテッドプレート1bにおける微小環状要素r1〜rstk−1で構成される円環のねじり剛性、φmax stk、θmax stkは半径方向位置rstkの微小環形状要素がすべりを生じない最大ねじり角変位を表す。半径方向位置rstkにある微小環形状要素にすべりが発生するか否かは、固着部のねじり角変位と最大静止摩擦力の関係式(21A)及び(21B)から判定することができる。
両式の左辺は、微小環形状要素stkに働くトルク、右辺はその要素が最大静止摩擦力によって支持できる摩擦トルクを表している。ベースプレート1a側でみれば上式(21A)を満たすとき、その半径方向位置の環形状要素は固着状態となり、それ以外の時にすべりが発生する。同様にボルテッドプレート1b側で判定することも可能であり上式(21B)を満たすときに固着状態となる。以上から、半径方向位置rstkにある微小環形状要素がすべりを生じない最大ねじり角変位φmax stk、θmax stkは、下式(22A)及び下式(22B)で表わされる。
上式(19)の右辺第2項のすべり部摩擦トルクは、ベースプレート1a、ボルテッドプレート1bとの間にすべりが発生したとき、この部位(図3のすべり部)における摩擦力が支持するトルクを表す。よって各微小環形状要素に働く摩擦力qi, jに半径方向位置rjを掛け、すべり領域に属する微小環形状要素j=stk〜sldにわたって積算することで、すべり部摩擦トルクが得られる。
以上から、上式(19)に上式(20A)及び上式(20B)及び上式(22A)及び上式(22B)を代入してまとめると、下式(23A)及び下式(23B)が得られる。
上式を満たすstkの最大値、固着部最大ねじり角変位φmax stk、θmax stkを探索することにより、固着部とすべり部の境界rstkを求めることができる。ベースプレート1aとボルテッドプレート1bとでも固着部とすべり部の境界rstkは共通であることから、上式(23A)及び上式(23B)のいずれを用いて求めても解は同じであり、いずれか一方を解くだけで良い。
なお、上述の[解析モデル]で説明した定義より、各ねじり角変位の間には下式(24A)、下式(24B)及び下式(25)の関係がある。
(ステップ3)
摩擦損失エネルギーを計算するためには、すべり部(r=rstk〜rsld)におけるベースプレート1a及びボルテッドプレート1bのねじり角変位φi,j、θi,jを正確に求め、そこからすべり長さui,jを得る必要がある。ねじり角変位φi,j、θi,jは、ステップ2で求められた固着部最大支持トルク(上式(20))を、予め準備したデータベース(上式(17)及び(18))に代入して得られるねじり角変位分布φstk i,j、θstk i,jと,後述する「すべり部全体の摩擦力によって生じるねじり角変位分布」φsld i,j、θsld i,jを別々に求め、それらの線形和によって下式(26A)及び下式(26B)を用いて簡便に求めることができる。
次に、ねじり角変位分布φsld i,j、θsld i,jの計算方法について解説する。ある半径方向位置の微小環形状要素j=kに摩擦力が働くと、ねじり角変位はその半径方向位置の微小環形状要素だけでなくすべての半径方向位置の微小環形状要素j=1〜mにおいて発生する。このため、摩擦力qi,kによって微小環形状要素jに生じるねじり角変位φq i,j,k、θq i,j,kを後述する方法によって求め、それらを合算することで「すべり部全体の摩擦力によって生じる各変位分布」を下式(27A)及び下式(27B)のように求めることができる。
ここで、摩擦力qi,kによって生じるねじり角変位分布φq i,j,k、θq i,j,kは、先に求めた固着部ねじり剛性KA j、KB jの解析結果またモデルの線形性を利用することで計算できる。本計算に用いる解析モデルを図4に示す。図4において半径方向位置r=rkの微小環形状要素に摩擦力qi,kが作用した時の接触面の変形は次の様に求める。まず、下式(28)の関係を満たすトルクTq k、Tq k−1を仮定する。ここで右辺は、計算対象の摩擦トルクである。
上式(28)で得られたトルクTq k、Tq k−1を用いて上式(17)及び(18)からそれぞれのねじり角変位を求め、そして得られたねじり角変位の差を求めると半径方向位置rkの微小環形状要素の摩擦力によるねじり角変位が下式(29A)及び下式(29B)から得られる。
そして上式(29)を摩擦力発生範囲rk=rstk〜rsldについて合算することで、すべり部摩擦力による接触面の変形が下式(30A)及び下式(30B)から求められる。
(ステップ4)
上式(26)を用い、すべり長さを上式(11)から算出でき、更に上式(14)から本ステップにおける摩擦損失エネルギーwi,jが計算できる。また、すべり長さから上式(12)を用いてすべり速度を求め摩擦係数を更新する。
(ステップ5)
時間tを微小時間間隔Δt進め、以降ステップ1〜4を入力トルク一周期分(振動の対象性から1/4周期計算し4倍すれば良い)繰返し、微小時間毎の摩擦損失エネルギーwi,jを計算する。更にwi,jを上式(15)を用いて合算することで摩擦損失エネルギーWを求める。
以上のように、ボルト締結力による接触応力解析と固着部領域毎のねじれ剛性及びねじり角変位の解析を行い、その線形性を利用し重ね合わせなどを行うこと、また摩擦による非線形性部分に対しては探索により解を得ることで、すべての締結力、入力トルクにおける力の釣り合い、ねじり角変位を求めることが可能である。これにより極めて少ない有限要素法解析を実施するだけで解が得られることとなり、解析の大幅な簡略化が実現できる。
このようにして求められる摩擦損失エネルギーWは、振動エネルギーが摩擦エネルギーに変換された量を示し、摩擦減衰量を示すものである。従って、摩擦損失エネルギーを求めることは、摩擦減衰量を求めることと等しく、摩擦減衰を解析したことに等しい。
次に、上述のような考え方に基づく本実施形態の摩擦減衰解析装置及び摩擦減衰解析方法について説明する。
図5は、本実施形態に係る摩擦減衰解析装置10の概略構成図である。この図に示すように、本実施形態に係る摩擦減衰解析装置10は、例えばパーソナルコンピュータやワークステーション等のハードウェアであるコンピュータ20と、当該コンピュータ20を動作させるソフトウェアであるプログラムとからなる。
コンピュータ20は、入力装置21、表示装置22、記憶装置23及び処理装置24から構成されている。入力装置21は、例えばキーボードやマウス等であり、ユーザによる入力操作に応じた信号(操作信号)を処理装置24に出力する。表示装置22は、例えば液晶ディスプレイであり、処理装置24から入力される画像信号に応じた画像を表示する。これら入力装置21及び表示装置22は、摩擦減衰解析装置10のユーザインターフェイスとして機能するものである。
記憶装置23は、OS(Operating System)プログラムやアプリケーションプログラム、各種設定データ等を記憶するHDD(Hard Disk Drive)と、処理装置24が各種処理を実行する際にデータの一時保存先として使用されるRAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリから構成されている。この記憶装置23(特にHDD)には、コンピュータ20に摩擦損失エネルギーを算出させる摩擦減衰解析プログラムPが格納されている。なお、この摩擦減衰解析プログラムPには、摩擦損失エネルギーを算出するために必要である上述した計算式が、コンピュータ20によって処理可能な形式にて含まれている。また、記憶装置23には、入力トルクTとベースプレート1aの固着部におけるねじり剛性KA stkとの比(T/KA stk)と、入力トルクTとボルテッドプレート1bの固着部におけるねじり剛性KB stkとの比(T/KB stk)と、ベースプレート1aの固着部よりも外周部分のねじり角変位と固着部最外周のねじり角変位との比λφ j,stkと、ボルテッドプレート1bの固着部よりも外周部分のねじり角変位と固着部最外周のねじり角変位との比λθ j,stkとがデータベース化されて記憶されている。また、記憶装置23には、すべり速度vi,jと摩擦係数μとの関係μ(vi,j)がデータベース化されて記憶されている。このすべり速度と摩擦係数との関係は、後述する摩擦係数計測試験機50によって、予め実験によって取得される。
処理装置24は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサであり、記憶装置23(特にHDD)に記憶されている各種プログラムと入力装置21から入力される操作信号とに基づいて各種処理を実行する。この処理装置24が、記憶装置23に記憶されている摩擦減衰解析プログラムPに従い、摩擦損失エネルギーを計算する。
摩擦減衰解析プログラムPは、コンピュータ20に対して、摩擦損失エネルギーを算出するための処理を実行させるものである。以下、図6のフローチャートを参照しながら、このような摩擦減衰解析プログラムPに基づいてコンピュータ20が行う、摩擦損失エネルギーの算出方法(摩擦減衰解析方法)について説明する。
まず、作業者によって、開始時間t1と、ボルト締結力Pと、接触応力σjと、初期摩擦係数μ(0)とが初期値として入力され、処理装置24によって、入力された初期値が記憶装置23に記憶させる(ステップS1)。なお、接触応力σjは、上述のように、ボルト締結力Pに基づいて、処理装置24が算出するようにしても良いし、データベースとして予め記憶されていても良い。また、記憶装置23には、ベースプレート1とボルテッドプレート1bの接触面が、ねじり荷重の中心を基点として同心の複数の微小環形状要素に分割された解析モデル(図2に示す解析モデル)が記憶されているものとする。なお、この解析モデルの生成自体を摩擦減衰解析装置10が行っても良い。
続いて、処理装置24は、入力トルクTiを上式(16)に基づいて算出し、算出した値を記憶装置23に記憶させる(ステップS2)。ここでは、初期値として開始時間t1が与えられているため、処理装置24は、開始時間t1を上式(16)に代入することによって、開始時間t1における入力トルクT1を算出する。
続いて、処理装置24は、上式(23A)及び上式(23B)のいずれかあるいは両方に基づいて固着部の最大半径方向位置rstkと、固着部最大ねじり角変位Φi、Θiとを求め、求めたこれらの値を記憶装置23に記憶させる(ステップS3)。ここでは、処理装置24は、ステップS2で求められた入力トルクT1を上式(23A)及び上式(23B)のTiに代入し、上式(23A)及び上式(23B)を満足する最大半径方向位置rstkと、開始時間t1における固着部最大ねじり角変位Φ1、Θ1とを求める。
続いて、処理装置24は、上式(8)〜上式(10)に基づいてすべり部に属する各微小環形状要素での摩擦力qi,jを求め、これを記憶装置23に記憶させる(ステップS4)。なお、上式(10)を計算するにあたり、処理装置24は、記憶装置23に予め記憶されたすべり速度vi,jと摩擦係数μとの関係μ(vi,j)を示すデータベースにすべり速度vi,jを代入することにより摩擦係数μを得る。ここでは、開始時間t1であることから、処理装置24は、初期値である初期摩擦係数μ(0)及びすべり速度0をデータベースに代入して静止摩擦係数を得て、更に上式(8)〜上式(10)からすべり部に属する各微小環形状要素での摩擦力q1,jを求める。
続いて、処理装置24は、上式(26A)及び上式(26B)に基づいてすべり部に属する各微小環形状要素でのベースプレート1aのねじり角変位φi,jと、ボルテッドプレート1bのねじり角変位θi,jを求めて記憶装置23に記憶させる(ステップS5)。なお、処理装置24は、上式(26A)からベースプレート1aのねじり角変位φi,jを計算するにあたり、ねじり角変位分布φstk i,jについては、上式(17A)に対して、記憶装置23に予め記憶された入力トルクTとベースプレート1aの固着部におけるねじり剛性KA stkとの比と、ベースプレート1aの固着部よりも外周部分のねじり角変位と固着部最外周のねじり角変位との比λφ j,stkとを代入することで得られたねじり角変位φstk jを上式(18A)のように微小時間ごとに表すことによって求める。また、処理装置24は、上式(26B)からボルテッドプレート1bのねじり角変位θi,jを計算するにあたり、ねじり角変位分布θstk i,jについては、上式(17B)に対して、記憶装置23に予め記憶された入力トルクTとボルテッドプレート1bの固着部におけるねじり剛性KB stkとの比と、ボルテッドプレート1bの固着部よりも外周部分のねじり角変位と固着部最外周のねじり角変位との比λθ j,stkとを代入することで得られたねじり角変位θstk jを式(18B)のように微小時間ごとに表すことによって求める。
更に、処理装置24は、ステップS5において、上式(26A)からベースプレート1aのねじり角変位φi,jを計算するにあたり、すべり部全体の摩擦力によって生じるねじり角変位分布φsld i,jについては、上式(28)、上式(29A)及び上式(30A)を用い、上式(28)に、ステップ3で求めた摩擦力qi,jを代入し、上式(29A)に、記憶装置23に予め記憶された入力トルクTとベースプレート1aの固着部におけるねじり剛性KA stkとの比と、ベースプレート1aの固着部よりも外周部分のねじり角変位と固着部最外周のねじり角変位との比λφ j,stkと関係を示すデータベースから得られた値を代入することで求める。また、処理装置24は、ステップS5において、上式(26B)からボルテッドプレート1bのねじり角変位θi,jを計算するにあたり、すべり部全体の摩擦力によって生じるねじり角変位分布θsld i,jについては、上式(28)、上式(29B)及び上式(30B)を用い、上式(28)に、ステップ3で求めた摩擦力qi,jを代入し、上式(29B)に、記憶装置23に予め記憶された入力トルクTとボルテッドプレート1bの固着部におけるねじり剛性KB stkとの比と、ボルテッドプレート1bの固着部よりも外周部分のねじり角変位と固着部最外周のねじり角変位との比λθ j,stkと関係を示すデータベースから得られた値を代入することで求める。
なお、ここでは開始時間t1であることから、処理装置24は、ステップS5において、開始時間t1における、すべり部に属する各微小環形状要素でのベースプレート1aのねじり角変位φ1,jと、ボルテッドプレート1bのねじり角変位θ1,jを求める。
続いて、処理装置24は、上式(11)に基づいてすべり長さui,jを求め、上式(12)に基づいてすべり速度vi,jを求め、これらを記憶装置23に記憶させる(ステップS6)。なお、処理装置24は、上式(11)に対して、ステップS3で求めた固着部最大ねじり角変位Φi、Θiと、ステップS5で求めたすべり部に属する各微小環形状要素でのベースプレート1aのねじり角変位φi,jと、ボルテッドプレート1bのねじり角変位θi,jと代入することによって、すべり長さui,jを求める。また、処理装置24は、上式(12)に対して、上式(11)に基づいて算出したすべり長さui,jを代入することによって、すべり速度vi,jを求める。ここでは、開始時間t1であることから、処理装置24は、開始時間t1におけるすべり長さu1,jと、すべり速度v1,jとを求める。
また、処理装置24は、ステップS3〜ステップS6と並行して、上式(13)に基づいてねじり角変位Ωiを求めて記憶装置23に記憶させる(ステップS7)。なお、処理装置24は、ステップS3で求めた固着部最大ねじり角変位Φ1、Θ1を上式(13)に代入することによって、ねじり角変位Ωiを求める。ここでは、開始時間t1であることから、処理装置24は、開始時間t1におけるねじり角変位Ω1を求める。
続いて、処理装置24は、微小時間毎(ステップごと)の摩擦損失エネルギーwiを求め、この単位時間毎の摩擦損失エネルギーwiとステップS7で求めたねじり角変位Ωiとを対応付けて記憶装置23に記憶させる(ステップS8)。なお、処理装置24は、上式(14)に、ステップS3〜ステップS6で求めた値を代入し、すべり部に属する各微小環形状要素の摩擦損失エネルギーwi,jを求め、この求められた値を全て合算することで単位時間毎の摩擦損失エネルギーwiを算出する。ここでは、開始時間t1であることから、処理装置24は、開始時間t1における摩擦損失エネルギーw1を求める。
続いて、処理装置24は、時間の更新(ステップS9)と、摩擦係数の更新(ステップS10)を行う。なお、処理装置24は、摩擦係数の更新では、予め記憶装置23に記憶されたすべり速度と摩擦係数との関係を示すデータベースに、ステップS6で求めたすべり速度vi,jを当てはめることによって取得する。ここでは、処理装置24は、すべり部に属する各微小環形状要素についての摩擦係数μ(vi,j)を更新し、これらを合わせて摩擦係数μ(vi)として記憶装置23に記憶させる。ここでは、開始時間がt1であったため、時間をt2に更新し、摩擦係数を摩擦係数μ(v2,j)に更新する。
そして、処理装置24は、時間tiが解析期間に到達するまで、ステップS2〜10を繰り返す。これによって、開始時間t1から解析期間が完了するまで時間における微小時間毎の摩擦損失エネルギーwiが記憶装置23に蓄積される。最後に処理装置24は、求めた単位時間毎の摩擦損失エネルギーwiを全て合算し、トルクTの1周期の摩擦損失エネルギーWを求め、ステップS6で求められたねじり角変位と対応付けて記憶すると共に、その結果を出力して表示装置22に表示させる(ステップ11)。
なお、上述のように、トルクTの1周期分の摩擦損失エネルギーを求めるときには、振動の対象性から、トルクTの1/4周期分の摩擦損失エネルギーを求め、これを4倍にすれば良い。このため、処理装置24は、上式(16)からトルクTの1/4周期を示す時間を求め、トルクTの1/4周期を示す時間が経過したときには、これまでに得られた微小時間あたりの摩擦損失エネルギーを足し合わせ、更にこれを4倍にすることでトルクTの1周期の摩擦損失エネルギーWを求めるようにしても良い。これによって、摩擦損失エネルギーの計算時間を大幅に削減することが可能となる。
本実施形態の摩擦減衰解析装置10及び摩擦減衰解析方法によれば、ベースプレート1aとボルテッドプレート1bとの接触面における接触応力分布と、ベースプレート1a及びボルテッドプレート1bとにねじり荷重を与える入力トルクTiとに基づいて摩擦損失エネルギーwi,jを算出し、この摩擦損失エネルギーwi,jを摩擦減衰特性とする。本実施形態の摩擦減衰解析装置10及び摩擦減衰解析方法によれば、摩擦損失エネルギーwi,jが算出でき、摩擦損失エネルギーwi,jは摩擦減衰特性を良く表す。従って、本実施形態の摩擦減衰解析装置10及び摩擦減衰解析方法によれば、摩擦減衰をより正確かつ定量的に解析することができるようになる。
次に、上記解析モデルを再現し、解析モデルのパラメータを意図的に調整させ得るための摩擦損失エネルギー評価試験機30について図7を参照して説明する。図7は、摩擦損失エネルギー評価試験機30の全体図であり、(a)が正面図、(b)がA−A線断面図である。
摩擦損失エネルギー評価試験機30は、基台31と、第1ロードセル32と、固定板33と、板ばね34と、錘35と、ピアノ線36と、ねじ部37と、第2ロードセル38と、第1変位計39と、第2変位計40と、第3変位計41と、レーザー変位計42とを備えている。
基台31は、摩擦損失エネルギー評価試験機30の他の構成物を支持すると共にボルテッドプレート1b、ベースプレート1a及びボルト1cを支持する。第1ロードセル32は、ボルト1cの軸方向から固定板33に重ねて配置されている。固定板33は、第1ロードセル32とベースプレート1aとの間に配置されている。このような本摩擦損失エネルギー評価試験機30では、図7(b)に示すように、基台31側から、ベースプレート1aと、ボルテッドプレート1bと、固定板33と、第1ロードセル32とが積層され、これらがボルト1cによって基台31に対して固定されている。つまり、本摩擦損失エネルギー評価試験機30では、第1ロードセル32を介して、ベースプレート1a及びボルテッドプレート1bがボルト結合されている。この第1ロードセル32は、ボルト1cの軸方向に僅かに伸縮可能とされており、ボルト1cによる締結力を調節可能としている。また、第1ロードセル32は、ボルト1cの締結力を計測して出力可能とされている。
板ばね34は、ボルテッドプレート1bの下部に固定されており、図7(a)の左右方向に撓むことが可能とされている。錘35は、板ばね34の下端に固定されている。ピアノ線36は、一端が板ばね34に接続され、他端が第2ロードセル38を介してねじ部37に接続されており、板ばね34とねじ部37との間に水平に張られている。ねじ部37は、基台31を介して定盤(土台)に固定されており、ピアノ線36に作用するテンションを調節する。第2ロードセル38は、ピアノ線36に作用するテンションを微調節すると共に当該テンションを計測して出力する。
図7(a)第1変位計39はボルテッドプレート1bの上端に当接され、第2変位計40はボルテッドプレート1bの側端上部に当接され、第3変位計41はボルテッドプレート1bの側端下部に当接されている。これらの第1変位計39、第2変位計40及び第3変位計41は、ボルテッドプレート1bの変位を計測結果として出力する。レーザー変位計42は、基台31を介して定盤(土台)に固定されており、板ばね34下部の左右方向の変位を計測して出力する。
このように構成された摩擦損失エネルギー評価試験機30では、第1変位計39及び第2変位計40によってボルテッドプレート1b全体が一体となって変位する全すべりの発生を監視し、第3変位計41によってボルト1c周りのねじり角変位を計測する。
また、ボルテッドプレート1bの下部に板ばね34が設置され、この板ばね34の最下部に錘35が取り付けられており、これによって、振動する周期的な外力(トルク)をボルテッドプレート1bに負荷することができる。なお、板ばね34の仕様(板厚、板幅、長さ等)や錘の質量を変えることで、上記外力の周波数を変更することができる。
ボルテッドプレート1bへの初期外力は、板ばね34下部のピアノ線36を引っ張ることにより負荷する。ピアノ線36の右端には第2ロードセル38を介してねじ部37があり、このねじ部37のねじを回しピアノ線36を引くことでテンションを与えることができる。また第2ロードセル38を介していることからピアノ線36のテンションの計測及び調整が可能となっている。ここで、ボルテッドプレート1bに静的外力を与える場合は、上述のピアノ線36にテンションを与える方法で行い、周期的外力を与える場合は、静的外力を負荷する状態と同様にセッティングを行った後、ピアノ線36をピアノ線カッター等で切断することでステップ状の外力を与えることができる。また、板ばね34のピアノ線36が取り付けられている面に対向する左側の面には、レーザー変位計42を設置しているため、ピアノ線36のテンションによる板ばね34の変位や、ステップ外力を与えた際の板ばね34のステップ応答変位を計測することができる。
本実施形態においては、上記解析結果との比較を行うにあたり、摩擦損失エネルギー評価試験機30の仕様を表2に示すように設定または調整した。
次に、上述の摩擦係数μ(v)を測定するための摩擦係数計測試験機50について、図8(a)を参照して説明する。図8(a)は、摩擦係数計測試験機50の縦断面図である。この図に示すように、摩擦係数計測試験機50は、基台51と、第1ロードセル52と、ピエゾアクチュエータ54と、第2ロードセル55と、変位計56とを備えている。
基台51は、摩擦係数計測試験機50の他の構成物を支持すると共にボルテッドプレート1b、ベースプレート1a及びボルト1cを支持する。第1ロードセル52は、ボルテッドプレート1b上に配置されている。このような本摩擦係数計測試験機50では、基台51側から、ベースプレート1aと、ボルテッドプレート1bと、第1ロードセル52とが積層され、これらがボルト1cによって基台51に締結されている。つまり、本摩擦係数計測試験機50では、第1ロードセル52を介して、ベースプレート1a及びボルテッドプレート1bがボルト結合されている。この第1ロードセル52は、ボルト1cの軸方向に僅かに伸縮可能とされており、ボルト1cによる締結力を調節可能としている。また、第1ロードセル52は、ボルト1cの締結力を計測して出力可能とされている。
ピエゾアクチュエータ54は、ボルテッドプレート1bの側方に配置されており、第2ロードセル55を介して、ボルテッドプレート1bの側端に接続されている。このピエゾアクチュエータ54は、外部からの指令によって、ボルテッドプレート1bを水平方向(図8(a)の左右方向)に移動させる。第2ロードセル55は、ピエゾアクチュエータ54とボルテッドプレート1bとの間に配置されており、ピエゾアクチュエータ54のボルテッドプレート1bに対する押圧力を微調整すると共に、ボルテッドプレート1bに作用する押圧力を計測して出力する。変位計56は、ボルテッドプレート1bを挟み込むようにしてピエゾアクチュエータ54と対向配置されており、ボルテッドプレート1bの側端に当接されている。この変位計56は、ボルテッドプレート1bの側方への変位を計測して出力する。
このように構成された本摩擦係数計測試験機50では、ベースプレート1a上にボルテッドプレート1bを配置し、その上から第1ロードセル52を介して、ボルト1cを締付ける構造となっており、ボルト締結力の計測及び調整が可能である。また、ボルテッドプレート1bの側方に第2ロードセル55を介して、ピエゾアクチュエータ54が配置されており、このピエゾアクチュエータ54を台形波速度駆動(加速→定速→減速)する。このときの、ボルテッドプレート1bの側方に配置された変位計56によって、駆動位置を計測し、定速時の正確なすべり速度が求められる。同時に第2ロードセル55の値を記録することで、摩擦係数を獲得することができる。この摩擦係数計測試験機50で得られた結果を図8(b)に示す。
次に、ボトル締結による接触面応力分布σjについて解析した。ここでは、図3(a)の解析モデルおよび表2の仕様を適用して、ベースプレート1a及びボルテッドプレート1bの接触面間に生じる接触応力を弾性有限要素法解析により求めた。結果を図9(a)に示す。接触応力は、ボルト中心から円周状に等距離にある部分においては、ほぼ同一であるため、図の横軸はボルト中心からの距離とした。また、解析は解析モデルの線形性が保たれている範囲で実施していることから、縦軸を接触応力とボルト締結力との比として一般化し、解析時間と記憶データ量を最小化している。
次に、固着部ねじり剛性KA j(ベースプレート1a)、KB j(ボルテッドプレート1b)について解析した。ここでは、図2の解析モデルのボルト結合による接触面において、固着部をある半径方向位置までの環形状とし、また外力(トルク)を仮定する。この条件下において弾性有限要素法解析を行うことでベースプレート1aとボルテッドプレート1bのねじり剛性を求めることができる。更に固着部の最外周半径を変更し計算することで、図9(b)が得られる。
次に、固着部のねじれ変形に伴う固着部より外周部のねじり角変位の比λφ j,k、λθ j,kについて解析した。ベースプレート1aとボルテッドプレート1bの接触面における固着部は、外力(トルク)によりねじり角変位を生じるが、その固着部より外周部分においても、固着部に引っ張られてねじり角変位が生じる。摩擦損失エネルギーを計算する際には、このねじり角変位を考慮する必要がある。図9(b)を得るために実施した弾性有限要素法解析の変形結果から固着部より外周部分のねじり角変位を求めることができる。数値解析例を図10(a)に、また固着部の半径を6〜26mmまで変更して算出した各変位の比を図10(b)及び図10(c)に示す。本解析は、線形の範囲で実施されていることから、縦軸を(固着部より外周部分のねじり角変位φstk j、θstk j)と(固着部最外周のねじり角変位φstk stk、θstk stk)の比で表している。本変数は、半径方向の分割毎Δrにデータが必要であるが、本解析では、図10(b)及び図10(c)で示した半径方向位置5か所の解析結果を内挿することでデータを得ている。
次に、実験及び解析結果とその考察を行う。まず、ボルト結合部で発生する摩擦損失エネルギーの測定方法について説明する。ここでは、正弦波状に変動する外力(トルク)がボルト結合部に作用するとき、その外力1周期において生じる摩擦損失エネルギーについて検討を行う。始めにボルトを所定の締結力となるよう計測及び調整する。次に、摩擦損失エネルギー評価試験機30においてピアノ線36にテンションを与えることで静的な外力(トルク)を負荷する。この状態において、ピアノ線36を切断することでステップ状の外力をボルト結合部に入力し、その時の応答変位を計測し、この減衰振動波形から摩擦損失エネルギーを測定する。応答変位の振動振幅は徐々に小さくなることから、1周期毎の振幅における摩擦損失エネルギーを測定することができる。更に、ボルト締結力を変更し、その影響についても検討する。
具体的な摩擦損失エネルギーの測定方法を以下に記す。摩擦損失エネルギー評価試験機30は、図11(a)に示すモデルとして表すことができる。このとき、応答振幅は、図11(b)の様になる。図11(a)のモデルにおけるエネルギー保存の法則から摩擦損失エネルギーは下式(31)により求めることができる。
ここでxtは、図11(a)に示すように、ベースプレート1aとボルテッドプレート1bのねじり角変位に起因する下部の変位、xpは板ばねのたわみに起因する下部の変位である。また、xt,c、xp,cは、図11(b)に示すように、ステップ応答開始後c回目の各振動振幅を表す。ktは、ベースプレート1aとボルテッドプレート1bのねじり剛性を合成したものであるが、上述のようにねじり角変位によりその値が変化する非線形性を有していることから、xt,cから算出されるねじり角変位Ωcの関数として求められる。一方、板ばねの曲げ剛性は、線形のばねであり定数kpとして表すことができる。これらの剛性kt(Ω),kpは、板ばね34下部のピアノ線36に与える引っ張り負荷を変化させ、2ヶ所(L1およびL2)の変位を測定することによって測定した。また、SDは、主に板ばね34部分の構造減衰であり、ここで求める結合部の摩擦損失エネルギーとは分離及び除去する必要がある。この構造減衰SDについては、ボルト結合部周囲4ヶ所を4本のボルトで強固に固定した状態において、ステップ入力を印加し応答を計測することで求めた。
上述の測定方法および本実施形態の摩擦減衰解析装置(摩擦減衰解析方法)により求めた摩擦損失エネルギーを図12(a)及び図12(b)に示す。図12(a)は、4段階のボルト締結力ごとに、横軸に振動振幅、縦軸に摩擦損失エネルギーをプロットしたものである。また、ボルト結合部以外の構造減衰(主に板ばね34と思われる)についても併せて図示した。図12(b)は、図12(a)の結果の表示方法を変えたものであり、4段階の振動振幅ごとに、横軸にボルト締結力、縦軸に摩擦損失エネルギーを表している。
図12(a)及び図12(b)に示されるように、解析で得られた摩擦損失エネルギーと実験結果の傾向および値は、非常に良く一致していることが分かる。具体的には、解析と実験のいずれにおいても、振動振幅が大きくなるにつれて摩擦損失エネルギーが大きくなり、またボルト締結力が大きい領域において摩擦損失エネルギーが小さくなっている。従って、本実施形態の摩擦減衰解析装置(摩擦減衰解析方法)で構築した摩擦損失エネルギーの解析モデルは、実際のボルト結合部を良く表しており、設計及び開発段階において活用できるものと考えられる。
以上のような本実施形態の摩擦減衰解析装置(摩擦減衰解析方法)及び摩擦損失エネルギー評価試験機30から得られた知見をまとめると以下の通りである。
(1)構築した「ねじり荷重が作用するボルト結合部の摩擦減衰モデル」を用いた摩擦損失エネルギー解析結果は、摩擦損失エネルギー評価試験機30を用いた実験結果と良く一致している。このことより、従来の研究で提案されていた微小すべりの概念だけでは不十分であり、これに固着部及びすべり部の概念を併せた本モデルによって現実の摩擦減衰という現象を正しく理解し得るものと考えられる。
(2)摩擦減衰解析装置(摩擦減衰解析方法)では、摩擦減衰モデル内の線形性が成り立つ部分を抽出し、繰り返し利用して計算量を大幅に削減することで、通常の解析手法では実現困難な摩擦損失エネルギーの算出を高効率に行うことができる。
(3)本解析で用いた摩擦係数以外の諸定数は、開発時点における設計値から数値解析によって算出することができる。よって、開発段階で本モデルを活用して減衰を予測及び検討することが可能である。
(4)ボルト結合部の摩擦減衰は、全減衰の大部分を占めることが確認された。よって、ボルト結合の方法が装置の振動特性にも大きな影響を与えていると考えられる。
(5)ボルト結合部におけるねじり振動振幅を増加させると、それにつれて摩擦損失エネルギーも増大する振幅依存性が存在する。これは、振動振幅の増加により、接触面のすべり距離も増加し、摩擦損失エネルギーが増加するためである。
(6)ボルト締結力を大きくすると摩擦損失エネルギーは減少する傾向がある。これはボルト結合部の接触面におけるすべり領域がボルト締結力を大きくすることで減少しているためである。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
例えば、上記実施形態の摩擦減衰解析装置(摩擦減衰解析方法)では、ベースプレート1aとボルテッドプレート1bとを1本のボルト1cで締結した構造体にねじり荷重が作用した場合における、摩擦損失エネルギーについて解析を行った。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、2つの部材が1つあるいは複数の締結手段によって締結された構造体に対してねじり荷重が作用した場合における摩擦損失エネルギーの解析に適用することが可能である。ただし、ベースプレート1aとボルテッドプレート1bとの接触面における接触応力が、全ての締結手段による締結力の影響を受けるため、1つの微小環形状要素における接触応力が均一になるとは限らず、接触応力分布が更に不均一となることが考えられる。このような場合には、予め接触応力の分布を接触面の位置に応じた関数として与え、接触面を接触応力の分布に応じて分割することによって、同様に摩擦損失エネルギーを求めることができる。また、同じように、入力トルクについても、複数方向から外力が作用したときや、締結手段の数が変わったときには、トルク分布が1つの微小環形状要素において均一とならずに不均一となることが考えられる。このような場合には、予め入力トルクの分布を接触面の位置に応じた関数として与え、接触面を接触応力の分布に応じて分割することによって、同様に摩擦損失エネルギーを求めることができる。つまり、上記実施形態の摩擦減衰解析装置(摩擦減衰解析方法)は、接触面における接触応力分布と入力トルク分布とが与えられ、摩擦力とすべり距離が分かれば摩擦損失エネルギーを求めることができる。
また、ベースプレート1aとボルテッドプレート1bとは、ボルト1c以外の手段により結合されていても良い。例えば、ベースプレート1aとボルテッドプレート1bとは、接着剤や溶接によって結合されていても良い。ただし、摩擦損失エネルギーを発生させるためには、すべり領域が生じるように締結されている必要がある。
また、ベースプレート1aとボルテッドプレート1bとを1本のボルト1cで締結した構造体に付与される荷重はねじり荷重に限定されるものではない。例えば、ボルト1cの軸方向と直交する直線方向に作用する剪断荷重や、ボルト1cの軸方向に作用する伸縮荷重の荷重が上記構造体に付与される場合の解析も同様に行うことが可能である。特にこのような場合には、荷重を付与する外力は上述の入力トルクに限られるものではない。このように、本発明において荷重を付与する外力は、入力トルクに限定されない。
続いて、上述の解析結果に基づいて、設計された結合構造体に係る実施形態について説明する。以下に説明する結合構造体は、ボルトによって2つの部材が締結された締結構造体であり、上記解析によって得られた摩擦減衰特性を、設計上要求される摩擦減衰特性と照らし合わせて結合構造体の設計変更を行った結果得られたものである。なお、上述の摩擦減衰解析装置10は、設計上要求される摩擦減衰特性を記憶し、上記設計変更まで行うようにしても良い。
(締結構造体の第1実施形態)
図13は、第1実施形態に係る締結構造体101の概略構成図であり、(a)が縦断面図であり、(b)が平面図である。これらの図に示すように、本実施形態の締結構造体101は、ベースプレート102と、ボルテッドプレート103と、ボルト104とを備えている。
ベースプレート102は、例えば円板状の金属からなる板材であり、中央にボルト104が挿通されるボルト孔を有している。ボルテッドプレート103は、ベースプレート102よりも小さな円板状の板材であり、中央にボルト104が挿通されるボルト孔を有している。ボルト104は、重ねて配置されるベースプレート102とボルテッドプレート103とのボルト孔に対して挿通されており、ベースプレート102とボルテッドプレート103とを締結している。なお、ベースプレート102及びボルテッドプレート103の形状は一例であり、実際には、締結対象である部品形状に応じた形状となる。
このように本実施形態の締結構造体101は、ベースプレート102と、このベースプレート102と接触状態で結合されるボルテッドプレート103と、これらを締結するボルト104とから構成されている。ベースプレート102とボルテッドプレート103との接触面105には、ボルト104の締結力に起因する接触応力が作用する。ボルト104に近づく程、ボルト104の締結力は強く作用することから、接触応力は、ボルト104を中心として半径方向に向かうに連れて弱まる分布を有している。このような締結構造体101に、ベースプレート102とボルテッドプレート103とを相対移動させようとする振動が付与されると、接触面105において、接触応力の強い中心付近の領域では、ベースプレート102とボルテッドプレート103とのすべりが生じず、接触応力の弱い外側の領域では、ベースプレート102とボルテッドプレート103とのすべりが生じる。なお、中心付近の領域においてすべりが生じ、外側の領域においてすべりが生じない締結構造体に応用することも可能である。
なお、接触面105において、所定の振動が付与されたときに振動周期内にてベースプレート102とボルテッドプレート103とが滑らない領域が固着領域Raであり、所定の振動が付与されたときに振動周期内にてベースプレート102とボルテッドプレート103とが滑る領域がすべり領域Rbである。なお、振動が付与されたときに、実際に滑っている領域と滑っていない領域との境界は、振動変位の大きさに応じて大きく変位する。つまり、振動の振幅変位がゼロである瞬間には、実際に滑っている領域は存在しない。ただし、本実施形態で言う「固着領域Raとすべり領域Rbとの境界」とは、上述のような実際に滑っている領域と滑っていない領域との境界を意味するものではなく、所定の振幅の振動が付与されたときに、振動周期内において全く滑りが生じない領域を固着領域Raとし、振動周期内において短時間でも滑りが生じる領域をすべり領域Rbとし、これらの境界を意味している。なお、所定の振動の振幅や周期については、締結構造体101が使用される条件等を考慮して設定される。
また、以下の説明では、接触面105の固着領域Raを表面とするベースプレート102の部位を固着部位102aと称し、接触面105のすべり領域Rbを表面とするベースプレート102の部位をすべり部位102bと称する。また、接触面105の固着領域Raを表面とするボルテッドプレート103の部位を固着部位103aと称し、接触面105のすべり領域Rbを表面とするボルテッドプレート103の部位をすべり部位103bと称する。
本実施形態の締結構造体101では、ボルテッドプレート103のすべり部位103bがベースプレート102と同じ金属材によって形成されており、ボルテッドプレート103の固着部位103aがすべり部位3bよりも弾性率の小さな材料によって形成されている。例えば、ボルテッドプレート103のすべり部位103bが鉄によって形成されている場合には、ボルテッドプレート103の固着部位103aは、銅、アルミニウム、プラスチックによって形成することができる。これによって、ボルテッドプレート103の固着部位103aは、すべり部位103bと比較して剛性が低い部位となっている。すなわち、本実施形態においては、通常であれば、ベースプレート102やボルテッドプレート103のすべり部位103bと同一の材料で形成されるボルテッドプレート103の固着部位103aが、弾性率の小さな材料に変えて形成され、これによって固着部位103aの剛性が低くなるように調節されている。
剛性が低いということは、変形し易いことを意味する。つまり、ベースプレート102とボルテッドプレート103とが相対変位するように、ボルト104の軸方向と直交する方向に振幅する振動が付与されたときに、ボルテッドプレート103の固着部位103aは、ベースプレート102の固着部位102aの変位に追従して変形する。このため、固着部位102aとすべり領域102bとを設定するために考慮した所定の振動振幅よりも大きな振動振幅の振動が発生した場合や、何らかの原因によりボルト104による締結力が小さくなっている場合であっても、ベースプレート102の固着部位102aとボルテッドプレート103の固着部位103aとのすべりが生じ難くなる。よって、ボルテッドプレート103の固着部位103aの剛性が低く調節されない場合と比較し、固着領域Raにおける締結性を向上させることできる。このようなボルテッドプレート103の固着部位103aは、ボルテッドプレート103の一部からなり、ボルテッドプレート103の一部の剛性を調節することにより、ベースプレート102とボルテッドプレート103との締結性を高め、後に説明するようにすべり領域Rbにおける摩擦損失量を増加(変更)可能とする。なお、ここでの締結性とは、外力が作用したときのベースプレート2とボルテッドプレート3との接触面における滑りの発生し難さを意味している。
以上のような本実施形態の締結構造体101によれば、ボルテッドプレート103の固着部位103aによって、結合されるベースプレート102とボルテッドプレート103のうちボルテッドプレート103の一部の剛性が低く調節される。このようにボルテッドプレート103の固着部位103aの剛性が低くなることによって、接触面105の一部である固着領域Raにおけるすべり易さが低下し、ベースプレート102とボルテッドプレート103との締結性を高めることができる。このようにベースプレート102とボルテッドプレート103との締結性を高めることによって、すべり部位103bにおいて締結性を得る必要性が低下し、すべり部位103bにおいて積極的にベースプレート102とボルテッドプレート103とを滑らせることが可能となる。そして、すべり部位103bにおいて大きくベースプレート102とボルテッドプレート103とを滑らせることによって、すべり部位103bにおける摩擦損失量が大きく増大し、振動の減衰特性を大きくすることが可能となる。このような本実施形態の締結構造体101によれば、すべり部位103bにおけるベースプレート102とボルテッドプレート103との滑り量の設定範囲を広くとることができ、その範囲において振動の減衰特性を任意に調節することが可能となる。
また、本実施形態の締結構造体101によれば、ボルテッドプレート103のすべり部位103bのすべり方向(振動の振幅方向)の剛性が高い。このため、振動が付与されたときに、ボルテッドプレート103の固着部位103aよりも、ボルテッドプレート103のすべり部位103bが変形し難く、確実にすべり部位103bを大きく滑らすことが可能となる。このため、摩擦損失量を大きくし、大きな摩擦減衰を得ることが可能となる。
また、図13(a)に示すように、固着部位103aとすべり部位103bとの境界部分に切欠き103cを形成することが好ましい。これによって、固着領域Raとすべり領域Rbとが分断され、固着領域Raの影響を受けることなくすべり領域Rbの全域でベースプレート102とボルテッドプレート103とが滑ることが可能となる。よって、摩擦損失量をより大きくすることが可能となる。
なお、本実施形態においては、ボルテッドプレート103の固着部位103aの剛性を低く調節することによって固着領域Raにおける摩擦損失量を低減させる構成を採用した。しかしながら、ボルテッドプレート103の固着部位103aの剛性を低く調節する換わりに、ベースプレート102の固着部位102aの剛性を低く調節しても良い。この場合にも同様に固着領域Raにおける摩擦損失量が低減される。
また、ボルテッドプレート103の固着部位103aの剛性を低く調節するのではなく、ボルテッドプレート103のすべり部位103bの剛性を高く調節することも考えられる。このような場合には、同じ振動が付与されるとすれば、振動によるボルテッドプレート103のすべり部位103bの変形量が小さくなり、ベースプレート102のすべり部位102bとボルテッドプレート103のすべり部位103bとがすべり易くなる。これによって、すべり領域Rbにおける摩擦損失量が増加され、振動の減衰量を大きくすることが可能となる。なお、ベースプレート102のすべり部位102bの剛性を高く調節した場合にも、同様にすべり領域Rbにおける摩擦損失量が増加される。
また、例えば、固着部位103a及びすべり部位103bを弾性率に異方性を有するCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)を用いることも考えられる。CFRPは、炭素繊維からなる織物に対してプラスチックを含浸させることによって形成される材料であり、炭素繊維の方向によって弾性率が異なる。このようなCFRPを用いて、例えば、固着部位103aをベースプレート102とボルテッドプレート103の結合方向に高剛性でこの結合方向と直交する方向に低剛性とし、すべり部位3bをベースプレート102とボルテッドプレート103の結合方向に低剛性でこの結合方向と直交する方向に高剛性とする。このような場合には、左右前後方向及びねじり方向(すなわち上記結合方向と直交する面内での方向)での振動に対して、固着部位103aが滑らずに変位し、すべり部位103bが変形せずに大きく滑る構成を実現することができる。なお、CFRPはあくまでも一例である。CFRP以外であっても、弾性率の異方性を持つものであれば、CFRPに換えて用いることができる。
(締結構造体の第2実施形態)
次に、締結構造体の第2実施形態について説明する。なお、本実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
図14(a)は、本実施形態の締結構造体111の概略構成を示す縦断面図であり、図14(b)は、締結構造体111が備えるボルテッドプレート113の下面図である。図14(a)に示すように、本実施形態の締結構造体111は、ベースプレート112と、ボルテッドプレート113と、ボルト114とを備えている。
ベースプレート112は、例えば円板状の金属からなる板材であり、中央にボルト114が挿通されるボルト孔を有している。ボルテッドプレート113は、ベースプレート112よりも小径の円板状の板材であり、中央にボルト114が挿通されるボルト孔を有している。ボルト114は、重なるように当接して配置されるベースプレート112とボルテッドプレート113とのボルト孔に対して挿通されており、ベースプレート112とボルテッドプレート113とを締結している。
ボルテッドプレート113は、ボルト114側の部位である固着部位113aと、固着部位113aの外側の部位であるすべり部位113bとから構成されている。固着部位113aは、その下面がベースプレート112の上面と接触されている。この下面は、ベースプレート112とボルテッドプレート113とが接触する接触面115の一部を構成しており、接触面115の固着領域Rcを形成している。なお、固着領域Rcとは、上記第1実施形態の固着領域Raと同様に、締結構造体111に対して、ベースプレート112とボルテッドプレート113とを相対移動させようとする振動が付与されたときにベースプレート112とボルテッドプレート113とが滑らない領域である。このように、固着部位113aは、固着領域Rcを表面とするボルテッドプレート113の一部からなる。
また、固着部位113aは、図14(b)に示すように、下面側に複数の同心円状スリット113c及び放射状スリット113dを備えている。同心円状スリット113cは、ボルト114を中心とする環状のスリットであり、ボルト114を中心とする半径方向に複数配列されている。これらの同心円状スリット113cは、ボルト114から離れるに連れて深く形成されている。放射状スリット113dは、ボルト114を中心とする半径方向に延びる直線状のスリットであり、ボルト114を中心とする周方向に複数配列されている。なお、同心円状スリット113cは、必ずしもボルト114から離れるに連れて深く形成されている必要はない。また、同心円状スリット113cの配列間隔は、ボルト114から離れるに連れて狭くなるようにしても良い。また、同心円状スリット113cの配列間隔を一定とし、スリット幅がボルト114から離れるに連れて広くなるようにしても良い。
このような固着部位113aは、同心円状スリット113cを備えることによって、ボルト114を中心とする半径方向に変形し易い構造となっている。すなわち、固着部位113aは、同心円状スリット113cによって、ボルト114を中心とする半径方向の剛性が低くなるように調節されている。また、固着部位113aは、放射状スリット113dを備えることによって、ボルト114を中心とする円周方向に変形し易い構造となっている。すなわち、固着部位113aは、放射状スリット113dによって、ボルト114を中心とする周方向の剛性が低くなるように調節されている。
すべり部位113bは、円板状の板ばね113eと、ブロック113fとから構成されている。板ばね113eは、ボルト114から見て固着部位113aの外縁に接続される環状のばね部材である。この板ばね113eは、ボルト114の軸方向に撓み、当該軸方向と直交する方向には撓み難いよう、ボルト114の軸方向に薄い板形状とされている。このような板ばね113eは、ボルト114の軸方向に撓むことが可能となっている。このため、ボルト114の軸方向においてすべり部位113bが弾性を有している。ブロック113fは、板ばね113eの外縁に接続されており、その下面がベースプレート112の上面と接触されている。この下面は、ベースプレート112とボルテッドプレート113とが接触する接触面115の一部を構成しており、接触面115のすべり領域Rdを形成する。なお、すべり領域Rdとは、上記第1実施形態のすべり領域Rbと同様に、締結構造体111にベースプレート112とボルテッドプレート113とを相対移動させようとする振動が付与されたときにベースプレート112とボルテッドプレート113とが滑る領域である。このように、すべり部位113bは、すべり領域Rdを表面とするボルテッドプレート113の一部からなる。
接触面115は、ベースプレート112とボルテッドプレート113とが接触している面であり、固着部位113aとベースプレート112とが接触する固着領域Rcと、すべり部位113b(ブロック113f)とベースプレート112とが接触するすべり領域Rdとから構成されている。
本実施形態の締結構造体111では、上述のようにボルテッドプレート113の固着部位113aは、同心円状スリット113cを備えることによって、ボルト114を中心とする半径方向に変形し易い構造となっている。すなわち、本実施形態においては、通常であれば、同心円状スリット113cが形成されない固着部位113aが、同心円状スリット113cが形成されることによって、ボルト114の軸方向と直交する直線方向に対する剛性が低くなるように調節されている。
このような本実施形態の締結構造体111では、ボルト114の軸方向と直交する直線方向に振幅する振動が付与されたときに、ボルテッドプレート113の固着部位113aは、ベースプレート112の変位に追従して変形し易い。このため、固着部位113aとすべり領域113bとを設定するために考慮した所定の振動振幅よりも大きな振動振幅の振動が発生した場合や、何らかの原因によりボルト114による締結力が小さくなっている場合であっても、ベースプレート112に対してボルテッドプレート113の固着部位113aがすべり難くなり、ボルテッドプレート113の固着部位113aの剛性が調節されていない場合と比較し、高い締結性を得ることができる。
また、本実施形態の締結構造体111では、上述のようにボルテッドプレート113の固着部位113aは、放射状スリット113dを備えることによって、ボルト114を中心とする周方向に変形し易い構造となっている。すなわち、本実施形態においては、通常であれば、放射状スリット113dが形成されない固着部位113aに、放射状スリット113dが形成されており、これによって、固着部位113aの剛性が、ボルト114を中心とするねじり方向に対して低くなるように調節されている。
したがって、本実施形態の締結構造体に対して、ボルト114を中心とするねじり方向に振幅する振動が付与されたときに、ボルテッドプレート113の固着部位113aは、ベースプレート112の変位に追従して変形する。このため、固着部位113aとすべり領域113bとを設定するために考慮した所定の振動振幅よりも大きな振動振幅の振動が発生した場合や、何らかの原因によりボルト114による締結力が小さくなっている場合であっても、ベースプレート112に対してボルテッドプレート113の固着部位113aがすべり難くなり、ボルテッドプレート113の固着部位113aの剛性が調節されていない場合と比較して高い締結性を得ることができる。
このように、ボルテッドプレート113の固着部位113aは、ボルテッドプレート113の一部からなり、ボルテッドプレート113の一部の剛性を調節することにより、固着領域Rcにおける締結性を高める。これによって、すべり領域Rdにおいて積極的にすべり部位113bを滑らせることが可能となり、すべり領域Rdにおける摩擦損失量を増加させることが可能となる。
以上のような本実施形態の締結構造体111によれば、ボルテッドプレート113の固着部位113aによって、結合されるベースプレート112とボルテッドプレート113のうちボルテッドプレート113の一部の剛性が低く調節される。このようにボルテッドプレート113の固着部位113aの剛性が低くなることによって、接触面115の一部である固着領域Rcにおけるすべり易さが低下し、ベースプレート112とボルテッドプレート113との締結性を高めることができる。このようにベースプレート112とボルテッドプレート113との締結性を高めることによって、すべり部位113bにおいて締結性を得る必要性が低下し、すべり部位113bにおいて積極的にベースプレート112とボルテッドプレート113とを滑らせることが可能となる。そして、すべり部位113bにおいて大きくベースプレート112とボルテッドプレート113とを滑らせることによって、すべり部位113bにおける摩擦損失量が大きく増大し、振動の減衰特性を大きくすることが可能となる。このような本実施形態の締結構造体111によれば、すべり部位113bにおけるベースプレート112とボルテッドプレート113との滑り量の設定範囲を広くとることができ、その範囲において振動の減衰特性を任意に調節することが可能となる。
また、本実施形態の締結構造体111においては、板ばね113eを備えることにより、ボルテッドプレート113のすべり部位113bが、ベースプレート112とボルテッドプレート113との結合方向に弾性を有する。このため、ブロック113fが常にベースプレート112の上面に押さえつけられることになり、ブロック113fとベースプレート112との間の垂直抗力の大きさを安定させることができる。ブロック113fとベースプレート112との間の垂直抗力の大きさによって、すべり領域Rdで生じる摩擦損失量が変化するため、板ばね113eによって、ブロック113fとベースプレート112との間の垂直抗力の大きさを安定させることで、摩擦損失量も安定させることができ、常に振動の減衰量を一定に保つことが可能となる。
また、本実施形態の締結構造体111では、ボルテッドプレート113の固着部位113aは、ボルト114の軸方向と直交する方向に並ぶ同心円状スリット113c及び放射状スリット113dによって、ボルト114の軸方向と直交する方向では低剛性とされているものの、ボルト114の軸方向には剛性が維持された構成となっている。このため、ベースプレート112とボルテッドプレート113との締結性を維持することができる。
また、ブロック113fとベースプレート112との間の垂直抗力の大きさによって、すべり領域Rdで生じる摩擦損失量が変化するため、板ばね113eのばね定数と変位を調節して上記垂直抗力を調節することによって、すべり領域Rdで生じる摩擦損失量を容易に調節することが可能である。
また、本実施形態においては、同心円状スリット113cは、ボルト114の締結力が強く伝達される中央部で浅く、接触応力が低くなる外側で深くなる。このため、接触応力が低く固着の限界(静止摩擦係数)が低い領域において、固着部位113aがより柔軟に変形して振動吸収することで固着領域Rcに働く剪断応力を減少させることができる。よって、固着領域Rcにおいてよりベースプレート112とボルテッドプレート113とが滑ることを防止することができる。
なお、本実施形態においては、ボルテッドプレート113の固着部位113aに対して同心円状スリット113c及び放射状スリット113dを形成する構成を採用した。しかしながら、これに限定されるものではなく、ベースプレート112側の固着部位に対して同心円状スリット及び放射状スリットを設けても良い。また、ボルト114の軸方向に直交しかつ互いに直交する2つの方向に複数の直線状のスリットを設け、スリットを格子状に配列しても良い。
また、本実施形態においては、ボルテッドプレート113が板ばね113e及びブロック113fを備える構成について説明した。しかしながら、これに限定されるものではない。例えば、図15に示すように、ボルテッドプレート113から板ばね113e及びブロック113fを削除し、下端がベースプレート112と接触し、上端がボルテッドプレート113に固定された環状の皿ばね16を設置するようにしても良い。このような場合には、皿ばね16とベースプレート112とが接触する面が接触面115のすべり領域Rdとなり、皿ばね16が、板ばね113eとブロック113fと同じ機能を果たすことになる。
(締結構造体の第3実施形態)
次に、締結構造体の第3実施形態について説明する。なお、本実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
図16(a)は、本実施形態の締結構造体121の概略構成を示す縦断面図である。この図に示すように、本実施形態の締結構造体121は、ベースプレート122と、ボルテッドプレート123と、ボルト124とを備えている。
ベースプレート122は、例えばボルト124を中心として半径方向に広がることが可能なように分割された金属からなる板材であり、中央にボルト124が挿通されるボルト孔を有している。ボルテッドプレート123は、ベースプレート122よりも広い円板状の板材であり、中央にボルト124が挿通されるボルト孔を有している。ボルト124は、重ねて配置されるベースプレート122とボルテッドプレート123とのボルト孔に対して挿通されており、ベースプレート122とボルテッドプレート123とを締結している。また、本実施形態においては、ボルト124がベースプレート122を貫通して基台Xと螺合されており、これによってベースプレート122がボルテッドプレート123と基台Xとに挟まれるようにして締結構造体121が基台X上に固定されている。
ベースプレート122は、ボルト124側の部位である固着部位122aと、固着部位122aの外側の部位であるすべり部位122bとから構成されている。
固着部位122aは、その上面がボルテッドプレート123の下面と接触されている。この上面は、ベースプレート122とボルテッドプレート123とが接触する接触面125の一部を構成しており、接触面125の固着領域Reを形成している。なお、固着領域Reとは、上記第1実施形態の固着領域Raと同様に、締結構造体121に対して上下方向の振動が付与されたときにベースプレート122とボルテッドプレート123とが滑らない領域である。このように、固着部位122aは、固着領域Reを表面とするベースプレート122の一部からなる。
また、固着部位122aは、図16(a)に示すように、ボルト124の軸に対して傾斜された複数の斜めスリット122cを備えている。これらの斜めスリット122cは、図16(a)に示すように、ベースプレート122の表面から深さ方向に向かうに連れて、ボルト124から見て外側に向かうように傾斜されている。この固着部位122aでは、これらの斜めスリット122cによって、斜めスリット122cの法線方向(斜めスリット122cの断面形状が示す斜辺と直交する方向)への剛性が低くなる。すなわち、本実施形態では、固着部位122aの剛性が、ベースプレート22とボルテッドプレート123との結合方向、及び、この結合方向と直交する方向の2方向において調節されている。このような固着部位122aは、ボルト124の軸方向から押されると、ポアソン比による変形を超えてボルト124から見て外側に突出するように変形する。
すべり部位122bは、接続部122d、板ばね122e及びブロック122fから構成されている。接続部122dは、ボルト124から見て固着部位122aの外縁に接続されており、固着部位122aの変形によって押し出されるように、ボルト124の軸方向と直交する方向に剛性の高い環状部材である。板ばね122eは、接続部122dの外縁に接続されており、ボルト124の軸方向に撓むように形状設定されている。なお、図16(a)に示すように、板ばね122eは、接続部122dの上下に1つずつ設置されている。ブロック122fは、板ばね122eを介して接続部122dに接続されている。このブロック122fも接続部122dの上下に1つずつ設置されている。接続部122dの上側に設置されるブロック122fの上面がボルテッドプレート123の下面と接触されている。この上面は、ベースプレート122とボルテッドプレート123とが接触する接触面125の一部を構成しており、接触面125のすべり領域Rfを形成する。なお、すべり領域Rfとは、上記第1実施形態のすべり領域Rbと同様に、締結構造体121に主に上下振動が付与されたときにベースプレート122とボルテッドプレート123とが滑る領域である。このように、すべり部位122bは、すべり領域Rfを表面とするベースプレート122の一部からなる。
接触面125は、ベースプレート122とボルテッドプレート123とが接触している面であり、固着部位122aとボルテッドプレート123とが接触する固着領域Reと、すべり部位122bとボルテッドプレート123とが接触するすべり領域Rfとから構成されている。
本実施形態の締結構造体121では、上述のようにベースプレート122の固着部位122aは、斜めスリット122cを備えることによって、斜めスリット122cの法線方向に変形し易い構造となっている。すなわち本実施形態においては、通常であれば、斜めスリット122cが形成されない固着部位122aが、斜めスリット122cが形成されることによって、斜めスリット122cの法線方向に剛性が低くなっている。
このような本実施形態の締結構造体121では、ボルト124の軸方向に振幅する振動が付与されたときに、ベースプレート122の固着部位122aがボルト124の軸方向に伸縮され、これによって固着部位122aがボルト124の軸方向と直交する方向に伸縮する。例えば、固着部位122aは、ボルト124の軸方向に潰されたときにはボルト124の軸方向と直交する方向において伸び、ボルト124の軸方向に引っ張られたときにはボルト124の軸方向と直交する方向において縮む。このような固着部位122aのボルト124の軸方向と直交する方向の伸縮によって、接続部122d及び板ばね122eを介してブロック122fがボルト124の軸方向と直交する方向に大きく移動され、すべり領域Rfにおける摩擦損失量を増大させることができる。
このように、ベースプレート122の固着部位122aは、ベースプレート122の一部からなり、ベースプレート122の一部の剛性を調節することにより、ベースプレート122とボルテッドプレート123との接触面125の一部であるすべり領域Rfにおける摩擦損失量を増大する。
以上のような本実施形態の締結構造体121によればベースプレート122の固着部位122aによって、ベースプレート122の一部の剛性が斜めスリット122cの法線方向に低くなるように調節されている。このようにベースプレート122の固着部位122aの剛性が斜めスリット122cの法線方向に低くなることによって、固着部位122aでの滑りを防止して締結性を向上するとともに、接触面125の一部であるすべり領域Rfにおけるブロック122fの移動量を大きくし、すべり領域Rfにおける摩擦損失量を増大させることができる。したがって、本実施形態の締結構造体121によれば、振幅の方向がボルト124の軸方向と一致する振動の減衰量を大きくすることができる。
なお、本実施形態の締結構造体121では、ベースプレート122は、基台X側にもブロック122fを備えている。このため、ブロック122fと基台Xとの間でも摩擦損失が生じ、振幅の方向がボルト124の軸方向と一致する振動の減衰量をより大きくすることができる。
また、本実施形態の締結構造体121においては、板ばね122eを備えることにより、ベースプレート122のすべり部位122bが、ベースプレート122とボルテッドプレート123との結合方向に弾性を有する。このため、ブロック122fが常にボルテッドプレート123の下面に押さえつけられることになり、ブロック122fとボルテッドプレート123との間の垂直抗力の大きさを安定させることができる。ブロック122fとボルテッドプレート123との間の垂直抗力の大きさによって、すべり領域Rfで生じる摩擦損失量が変化するため、板ばね122eによって、ブロック122fとボルテッドプレート123との間の垂直抗力の大きさを安定させることで、摩擦損失量も安定させることができ、常に振動の減衰量を一定に保つことが可能となる。
また、ブロック122fとボルテッドプレート123との間の垂直抗力の大きさによって、すべり領域Rfで生じる摩擦損失量が変化するため、板ばね122eのばね定数と変位を調節して上記垂直抗力を調節することによって、すべり領域Rfで生じる摩擦損失量を容易に調節することが可能である。
(締結構造体の第4実施形態)
次に、締結構造体の第4実施形態について説明する。なお、本実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
図16(b)は、本実施形態の締結構造体131の概略構成を示す縦断面図である。この図に示すように、本実施形態の締結構造体131は、ベースプレート132と、ボルテッドプレート133と、ボルト134とを備えている。
ベースプレート132は、例えば円板状の金属からなる板材であり、中央にボルト134が挿通されるボルト孔を有している。ボルテッドプレート133は、ベースプレート132よりも広い円板状の板材であり、中央にボルト134が挿通されるボルト孔を有している。ボルト134は、重ねて配置されるベースプレート132とボルテッドプレート133とのボルト孔に対して挿通されており、ベースプレート132とボルテッドプレート133とを締結している。また、本実施形態においては、ボルト134がベースプレート132を貫通して基台Xと螺合されており、これによってベースプレート132がボルテッドプレート133と基台Xとに挟まれるようにして締結構造体131が基台X上に固定されている。
ベースプレート132は、ボルト134側の部位である固着部位132aと、固着部位132aの外側の部位であるすべり部位132bとから構成されている。
固着部位132aは、その上面がボルテッドプレート133の下面と接触されている。この上面は、ベースプレート132とボルテッドプレート133とが接触する接触面135の一部を構成しており、接触面135の固着領域Rgを形成している。なお、固着領域Rgとは、上記第1実施形態の固着領域Raと同様に、締結構造体131に対して振動が付与されたときにベースプレート132とボルテッドプレート133とが滑らない領域である。このように、固着部位132aは、固着領域Rgを表面とするベースプレート132の一部からなる。
また、固着部位132aは、弾性率が小さな材料(例えば、銅、アルミニウム、プラスチック等)によって形成されている。このような固着部位132aは、ボルト134の軸方向から押されると、ボルト134の軸方向に大きく変形し、これに伴ってボルト134から見て外側に大きく突出するように変形する。
すべり部位132bは、板ばね132c及びブロック132dから構成されている。板ばね132cは、固着部位132aの外縁に接続されており、ボルト134の軸方向に撓むように形状設定されている。なお、図16(b)に示すように、板ばね132cは、ボルト134の軸方向に離間して上下に1つずつ設置されている。ブロック132dは、板ばね132cを介して固着部位132aに接続されている。このブロック132dも上下に1つずつ設置されている。上側に設置されるブロック132dの上面がボルテッドプレート133の下面と接触されている。この上面は、ベースプレート132とボルテッドプレート133とが接触する接触面135の一部を構成しており、接触面135のすべり領域Rhを形成する。なお、すべり領域Rhとは、上記第1実施形態のすべり領域Rbと同様に、締結構造体131に振動が付与されたときにベースプレート132とボルテッドプレート133とが滑る領域である。このように、すべり部位132bは、すべり領域Rhを表面とするベースプレート132の一部からなる。
接触面135は、ベースプレート132とボルテッドプレート133とが接触している面であり、固着部位132aとボルテッドプレート133とが接触する固着領域Rgと、すべり部位132bとボルテッドプレート123とが接触するすべり領域Rhとから構成されている。
本実施形態の締結構造体131では、上述のようにベースプレート132の固着部位132aは、弾性率の低い材料にて形成されることによって剛性が低くなるように調節されており、ボルト134の軸方向に押圧されたときにボルト134の軸方向と直交する方向に大きく突出する。すなわち、本実施形態では、固着部位132aの剛性が、ベースプレート132とボルテッドプレート133との結合方向、及び、この結合方向と直交する方向の2方向を含んで調節されている。
このような本実施形態の締結構造体131では、ボルト134の軸方向に振幅する振動が付与されたときに、ベースプレート132の固着部位132aがボルト134の軸方向に伸縮され、これによって固着部位132aがボルト134の軸方向と直交する方向に伸縮する。例えば、固着部位132aは、ボルト134の軸方向に潰されたときにはボルト134の軸方向と直交する方向において伸び、ボルト134の軸方向に引っ張られたときにはボルト134の軸方向と直交する方向において縮む。このような固着部位132aのボルト134の軸方向と直交する方向の伸縮によって、板ばね132cを介してブロック132dがボルト134の軸方向と直交する方向に大きく移動され、すべり領域Rhにおける摩擦損失量を増大させることができる。
このように、ベースプレート132の固着部位132aは、ベースプレート132の一部からなり、ベースプレート132の一部の剛性を調節することにより、ベースプレート132とボルテッドプレート133との接触面135の一部であるすべり領域Rhおける摩擦損失量を増大する。
以上のような本実施形態の締結構造体131によれば、ベースプレート132の固着部位132aによって、ベースプレート132の一部の剛性が低くなるように調節されている。このようにベースプレート132の固着部位132aの剛性が低くなることによって、接触面135の一部であるすべり領域Rhにおけるブロック132dの移動量を大きくし、すべり領域Rhにおける摩擦損失量を増大させることができる。したがって、本実施形態の締結構造体131によれば、振幅の方向がボルト134の軸方向と一致する振動の減衰量を大きくすることができる。
なお、本実施形態の締結構造体131では、ベースプレート132は、基台X側にもブロック132dを備えている。このため、ブロック132dと基台Xとの間でも摩擦損失が生じ、振幅の方向がボルト134の軸方向と一致する振動の減衰量をより大きくすることができる。
また、本実施形態の締結構造体131においては、板ばね132cを備えることにより、ベースプレート132のすべり部位132bが、ベースプレート132とボルテッドプレート133との結合方向に弾性を有する。このため、ブロック132dが常にボルテッドプレート133の下面に押さえつけられることになり、ブロック132dとボルテッドプレート133との間の垂直抗力の大きさを安定させることができる。ブロック132dとボルテッドプレート133との間の垂直抗力の大きさによって、すべり領域Rhで生じる摩擦損失量が変化するため、板ばね132cによって、ブロック132dとボルテッドプレート133との間の垂直抗力の大きさを安定させることで、摩擦損失量も安定させることができ、常に振動の減衰量を一定に保つことが可能となる。
また、ブロック132dとボルテッドプレート133との間の垂直抗力の大きさによって、すべり領域Rhで生じる摩擦損失量が変化するため、板ばね132cのばね定数と変位を調節して上記垂直抗力を調節することができ、すべり領域Rhで生じる摩擦損失量を容易に調節することが可能である。
(締結構造体の第5実施形態)
上記第3実施形態及び第4実施形態は、付与される振動の振幅方向がボルトの軸方向であるときに、振動方向を固着部位によってボルトの軸方向と直交する方向に変換し、これによってすべり領域におけるすべり量を大きくする構成である。このような構成の他の形態としては、図17(a)に示すような形態も考えられる。
図17(a)に示す締結構造体141は、ベースプレート142と、ボルテッドプレート143と、弾性部材144と、皿ばね145と、ブロック146と、ボルト147とを備えている。なお、本実施形態においては、ボルテッドプレート143、弾性部材144、皿ばね145及びブロック146が一体化されており、集合構造体149を構成している。
ベースプレート142は、例えば円板状の金属からなる板材であり、中央にボルト147が挿通されるボルト孔を有している。ボルテッドプレート143は、ベースプレート142よりも小さな円板状の板材であり、中央にボルト147が挿通されるボルト孔を有している。ボルト147は、ベースプレート142とボルテッドプレート143とのボルト孔に対して挿通されており、ボルテッドプレート143、弾性部材144、皿ばね145及びブロック146の集合構造体149とボルテッドプレート143とを締結している。
弾性部材144は、蛇腹144aを有する管状部材であり、ボルト147を囲むようにしてベースプレート142とボルテッドプレート143との間にボルテッドプレート143に固定された状態で配置されている。この弾性部材144は、ボルト147の軸方向のみに蛇腹144aによって伸縮可能とされている。すなわち、弾性部材144は、ボルト147の軸方向に剛性が低く、ボルト147の軸方向に直交する方向の剛性が高い構造とされている。この弾性部材144の下面は、ベースプレート142の上面と接触されている。この弾性部材144の下面は、上記集合構造体149とベースプレート142との接触面148の一部を構成しており、固着領域Riとされている。なお、固着領域Riとは、上記第1実施形態の固着領域Raと同様に、締結構造体141に対して振動が付与されたときに集合構造体149とベースプレート142とが滑らない領域である。このように、弾性部材144は、集合構造体149の一部であり、固着領域Riを表面としている。
皿ばね145は、ボルト147から見て弾性部材144の外側に配置され、ボルテッドプレート143に対して上端が固定されている。この皿ばね145は、縦断面がボルト147の軸方向に斜めとなるように形状設定されている。このように斜めに配置された皿ばね145は、断面形状が示す斜辺の法線方向への剛性が低く、この法線方向と直交する方向の剛性が高く調節された部材と言う事ができる。このような皿ばね145は、ボルト147の軸方向から押されると、外縁(下端)側をボルト147から見て外側に押し広げるようにして変形される。ブロック146は、皿ばね145の外縁に接続されており、その下面がベースプレート142の上面と接触されている。この下面は、ベースプレート142と上記集合構造体149との接触面148の一部を構成しており、接触面148のすべり領域Rjを形成する。なお、すべり領域Rjとは、上記第1実施形態のすべり領域Rbと同様に、締結構造体141に振動が付与されたときにベースプレート142と上記集合構造体149とが滑る領域である。このように、皿ばね145及びブロック146は、上記集合構造体149の一部からなり、さらにブロック146はすべり領域Rjを表面としている。
接触面148は、上記集合構造体149とベースプレート142が接触している面であり、弾性部材144とベースプレート142とが接触する固着領域Riと、ブロック146とベースプレート142とが接触するすべり領域Rjとから構成されている。
このような本実施形態の締結構造体141では、ボルト147の軸方向に振幅する振動が付与されたときに、皿ばね145の外縁がボルト147の軸方向と直交する方向に移動する。例えば、皿ばね145の外縁は、ボルト147の軸方向に潰されたときにはボルト147の軸方向と直交する方向において広がるように移動し、ボルト147の軸方向に引っ張られたときにはボルト147の軸方向と直交する方向において縮むように移動する。このような皿ばね145の外縁の移動によって、皿ばね145を介してブロック146がボルト147の軸方向と直交する方向に大きく移動され、すべり領域Rjにおける摩擦損失量を増大させることができる。
このように、上記集合構造体149に含まれる皿ばね145は、当該集合構造体149の一部の剛性を調節することにより、上記集合構造体149とベースプレート142との接触面148の一部であるすべり領域Rjにおける摩擦損失量を増大する。
以上のような本実施形態の締結構造体141によれば、皿ばね145によって、集合構造体149の一部の剛性が調節されている。このように集合構造体149の一部の剛性が変わることによって、接触面148の一部であるすべり領域Rjにおけるブロック146の移動量を大きくし、すべり領域Rjにおける摩擦損失量を増大させることができる。したがって、本実施形態の締結構造体141によれば、振幅の方向がボルト147の軸方向と一致する振動の減衰量を大きくすることができる。
また、本実施形態の締結構造体141においては、皿ばね145によって集合構造体149がベースプレート142と集合構造体149との結合方向に弾性を有する。このため、ブロック146が常にベースプレート142の上面に押さえるけられることになり、ブロック146とベースプレート142との間の垂直抗力の大きさを安定させることができる。ブロック146とベースプレート142との間の垂直抗力の大きさによって、すべり領域Rjで生じる摩擦損失量が変化するため、皿ばね145によって、ブロック146とベースプレート142との間の垂直抗力の大きさを安定させることで、摩擦損失量も安定させることができ、常に振動の減衰量を一定に保つことが可能となる。
また、ブロック146とベースプレート142との間の垂直抗力の大きさによって、すべり領域Rjで生じる摩擦損失量が変化するため、皿ばね145のばね定数と変位を調節して上部推力抗力を調節することができ、すべり領域Rjで生じる摩擦損失量を容易に調節することができる。
また、本実施形態の締結構造体141においては、弾性部材144が、ボルト147の軸方向に伸縮するための蛇腹144aを備えている。このため、ボルト147の軸方向に振幅する振動が付与されたときに、ベースプレート142に対してボルテッドプレート143を大きく移動させることができ、皿ばね145の撓み量を大きくし、ブロック146の移動量をより大きく確保することができる。したがって、すべり領域Rjで生じる摩擦損失量をより大きくすることが可能となる。
また、例えば、弾性部材144を上記第1実施形態の固着部位103aのように弾性率の低い材料によって形成することも可能である。これによって、上下、左右、前後、回転のすべての振動を許容する固着部位となり、どのような振動が付与された場合であっても、皿ばね145及びブロック146の移動量を大きく確保することができ、すべり領域Rjにおいて大きな摩擦損失を得ることが可能となる。
(締結構造体の第6実施形態)
次に、締結構造体の第6実施形態について説明する。なお、本実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
図17(b)は、本実施形態の締結構造体151の概略構成を示す縦断面図である。図17(b)に示すように、本実施形態の締結構造体151は、ベースプレート152と、ボルテッドプレート153と、ボルト154とを備えている。
ベースプレート152は、例えば円板状の金属からなる板材であり、中央にボルト154が挿通されるボルト孔を有している。ボルテッドプレート153は、ベースプレート152よりも小さな円板状の板材であり、中央にボルト154が挿通されるボルト孔を有している。ボルト154は、重ねて配置されるベースプレート152とボルテッドプレート153とのボルト孔に対して挿通されており、ベースプレート152とボルテッドプレート153とを締結している。
ボルテッドプレート153は、ボルト154側の部位である内側部位153aと、内側部位153aの外側の部位である外側部位153bとから構成されている。内側部位153aは、その下面がベースプレート152の上面と接触されている。この下面は、ベースプレート152とボルテッドプレート153とが接触する接触面155の一部を構成している。外側部位153bは、その下面がベースプレート152の上面と接触されている。この下面は、ベースプレート152とボルテッドプレート153とが接触する接触面155の一部を構成している。また、外側部位153bは、図17(b)に示すように、下面側に複数の同心円状スリット153cを備えている。同心円状スリット153cは、ボルト154を中心とする環状のスリットであり、ボルト154を中心とする半径方向に複数配列されている。
このような外側部位153bは、同心円状スリット153cを備えることによって、ボルト154を中心とする半径方向に変形し易い構造となっている。すなわち、外側部位153bは、同心円状スリット153cによって、ボルト154を中心とする半径方向(ベースプレート152とボルテッドプレート153との結合方向であるボルト154の軸方向と直交する方向)の剛性が低くなるように調節されている。
本実施形態の締結構造体151では、上述のようにボルテッドプレート153の外側部位153bは、同心円状スリット153cを備えることによって、ボルト154を中心とする半径方向に変形し易い構造となっている。すなわち、本実施形態においては、通常であれば、同心円状スリット153cが形成されない外側部位153bが、同心円状スリット153cが形成されることによって、ボルト154の軸方向と直交する直線方向に対する剛性が低くなるように調節されている。
このような本実施形態の締結構造体151では、ボルト154の軸方向と直交する直線方向に振幅する振動が付与されたときに、ボルテッドプレート153の外側部位153bは、ベースプレート152の変位に追従して変形し易い。このため、ベースプレート152に対してボルテッドプレート153の外側部位153bがすべり難くなり、接触面155の全域が固着領域Rkとなる。なお、固着領域Rkとは、上記第1実施形態の固着領域Raと同様に、締結構造体151に対して振動が付与されたときにボルテッドプレート153とベースプレート152とが滑らない領域である。
このように、ボルテッドプレート153の外側部位153bは、ボルテッドプレート153の一部からなり、ボルテッドプレート153の一部の剛性を調節することにより、外側部位153bとベースプレート152と接触領域における摩擦損失量を低減(変更)する。
以上のような本実施形態の締結構造体151によれば、ボルテッドプレート153の外側部位153bによって、結合されるベースプレート152とボルテッドプレート153のうちボルテッドプレート153の一部の剛性が低く調節される。このようにボルテッドプレート153の外側部位153bの剛性が低くなることによって、外側部位153bとベースプレート152と接触領域におけるすべり易さが低下し、本実施形態の締結構造体151における振動の減衰特性を低くすることが可能となる。このような本実施形態の締結構造体151によれば、外部から付与される振動を減衰させることなく他の部材等に伝達することが可能となる。
なお、接触圧力の減少に従って、図18(a)に示すように、同心円状スリット153cの間隔を外側ほど狭くしたり、図18(b)に示すように、同心円状スリット153cの深さを増加させたりしても良い。また、同心円状スリット153cの配列間隔を一定とし、外側ほどスリット幅を広くしても良い。
また、同心円状スリット153cに加え、外側部位153bの下面に放射状スリットを設けても良い。これによって、外側部位153bがボルト154を中心とするねじり方向にも低剛性化される。したがって、本実施形態の締結構造体151に、ボルト154を中心とするねじり方向に振幅する振動が付与されたときであっても、外側部位153bとベースプレート152と接触領域において滑りが発生することを防止し、本実施形態の締結構造体151における振動の減衰特性を低くすることが可能となる。
以上、添付図面を参照しながら締結構造体の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
例えば、上記実施形態においては、ボルトによって2つの部材が締結された締結構造体について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、リベット、接着剤、溶接等の他の方法によって、2つの部材が結合された結合構造体全般に対して適用することが可能である。
また、図19に示すように、上記第2実施形態において、例えば、すべり部位113bの下部をダイアフラム状の板ばね構造113gとしても良い。このような構造においても、固着部位113aが水平方向(ボルト114の軸と直交する方向)に低剛性となることで締結性が向上し、すべり部位113gが鉛直方向(ボルト114の軸方向)に低剛性となることで、安定して大きな摩擦損失量を得ることが可能となる。