JP5952206B2 - 電子スピン操作装置 - Google Patents

電子スピン操作装置 Download PDF

Info

Publication number
JP5952206B2
JP5952206B2 JP2013034618A JP2013034618A JP5952206B2 JP 5952206 B2 JP5952206 B2 JP 5952206B2 JP 2013034618 A JP2013034618 A JP 2013034618A JP 2013034618 A JP2013034618 A JP 2013034618A JP 5952206 B2 JP5952206 B2 JP 5952206B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
spin
channel
electron
polarized
electron spin
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2013034618A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2014165313A (ja
Inventor
治樹 眞田
治樹 眞田
後藤 秀樹
秀樹 後藤
哲臣 寒川
哲臣 寒川
サントス パウロ
サントス パウロ
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Nippon Telegraph and Telephone Corp
Original Assignee
Nippon Telegraph and Telephone Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Nippon Telegraph and Telephone Corp filed Critical Nippon Telegraph and Telephone Corp
Priority to JP2013034618A priority Critical patent/JP5952206B2/ja
Publication of JP2014165313A publication Critical patent/JP2014165313A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP5952206B2 publication Critical patent/JP5952206B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Landscapes

  • Hall/Mr Elements (AREA)

Description

本発明は、電子スピンの向きを操作する電子スピン操作装置に関する。
次世代の技術として、半導体中のキャリアスピンを用いた半導体スピントロニクスと呼ばれる分野が注目されている。例えば、従来型の半導体に新たにスピン自由度を付加したスピンメモリや量子演算素子など、次世代の素子の創出が期待されている。これらの技術においては、電子スピンの操作技術が重要となる。
ここで、電子が有する「スピン」の量子状態は、三次元空間内のベクトルによって表現され、ベクトルの向きを「スピンの向き」あるいは「スピンの方向」と呼ぶ。スピンの向きは、磁場が存在すると時間と共に変化する。例えば、ある電子に対し、この電子のスピンの方向に垂直な方向の成分を有する静磁場を印加すると、スピンは歳差運動と呼ばれる回転運動を起こす。歳差運動の軸および周波数は、静磁場ベクトルの方向と大きさで決まる。しかし、現在の半導体素子内で利用されている電場や電流は、素子内の局所的な領域に発生させることが可能であるのに対し、磁場に関しては、スピンの寿命より短い時間内にスピンを歳差運動させるのに十分な大きさの磁場を局所的に発生させることは難しい。
これに対し、近年、実磁場を用いずにスピンの向きを変化させる方法として、スピン軌道相互作用の利用が注目されている。スピン軌道相互作用を有する系においては、電子が移動する際に、実磁場がない状況においても、あたかも磁場が存在するように作用し(これを有効磁場と呼ぶ)、この有効磁場ベクトルの周りをスピンが歳差運動する。歳差運動の周波数は、有効磁場の強度に比例することから、外部電場などを利用してスピン軌道相互作用の大きさを変化させることによって、スピンの向きを調節することもできる(非特許文献1参照)。
猪俣浩一郎監修、「スピンエレクトロニクスの基礎と最前線」第22章 電界によるスピン制御とスピンFET、シーエムシー出版、2004年発行。 高梨 弘毅、「固体中におけるスピン流の創出と制御」、応用物理、第77巻、第3号、255−263頁、2008年。 L. Meier et al. , "Measurement of Rashba and Dresselhaus spin-orbit magnetic field", Nature Physics,vol.3, pp.650-654, 2007. Y. Kunihashi et al. , "Semiclassical approach for spin dephasing in a quasi-one-dimensional channel", Physical Review B 85, 035321, 2012. H. C. Koo et al. , "Control of spin precession in a spin-injected field effect transistor", Science, vol.325, pp.1515-1518, 2009. T. Sasaki et al. , "Comparison of spin signals in silicon between nonlocal four-terminal and three-terminal methods", Applied Physics Letters, vol.98, 012508, 2011. N. Tombros et al. , "Electronic spin transport and spin precession in single graphene layers at room temperature", Nature, vol.448, pp.571-574, 2007.
しかしながら、上述したスピン操作方法では、スピンを任意の方向に配向させる技術には使えないという問題がある。スピンの量子力学的性質を情報処理や通信に応用する際には、あらゆる量子力学的重ね合わせ状態を作り出せること、すなわちスピンを任意の方向に操作する技術が必要となる。
上述したスピン軌道相互作用を用いたスピン操作方法では、電子は直進させることを想定しており、電子の進行方向が決まると有効磁場のベクトルの方向も決定される。このため、スピンの回転は、有効磁場と垂直な面内での歳差運動に限定され、これ以外の方向にスピンを向けることはできない。
任意の方向にスピンを配向させる技術としては、電子スピン共鳴の原理を用いた方法もあるが、この場合、外部から時間と共に振動する実磁場を印加する必要がある。通常、この振動磁場を形成するためには、コイルおよび高周波電源を使う必要があり、装置構成が複雑になるという問題がある。また、半導体素子の内部の単一スピンのように、局所的な領域に限定して振動磁場を発生させるのが難しいという問題もある。
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、装置を複雑にすることなくより容易に電子スピンの向きを任意の方向に操作できるようにすることを目的とする。
本発明に係る電子スピン操作装置は、半導体から構成されて所定の振れ幅の間で所定の周期で屈曲して延在方向が周期的に変化する所定の長さのチャネルと、チャネルのキャリア生成箇所にスピン偏極キャリアを生成するスピン偏極キャリア生成手段と、スピン偏極キャリア生成手段により生成されたスピン偏極キャリアをチャネルの延在方向に移動させる移動手段とを備え、チャネルの延在方向の変化による振動の角周波数が、チャネルを移動するスピン偏極キャリアのスピン共鳴条件に一致する状態とされている。
上記電子スピン操作装置において、チャネルに電界を印加するゲート電極を備えることで、例えば、スピンFETが構成できる。
上記電子スピン操作装置において、チャネルは、量子井戸構造から構成されている。
上記電子スピン操作装置において、移動手段は、表面弾性波をチャネルに発生させる表面弾性波発生手段であればよい。
上記電子スピン操作装置において、スピン偏極キャリア生成手段は、キャリアのキャリア生成箇所に円偏光のレーザー光を照射するレーザー照射手段であればよい。また、スピン偏極キャリア生成手段は、強磁性体からなる電極から構成されていてもよい。
以上説明したことにより、本発明によれば、装置を複雑にすることなくより容易に電子スピンの向きを任意の方向に操作できるようなるという優れた効果が得られる。
図1は、本発明の実施の形態における電子スピン操作装置の構成を示す構成図である。 図2は、電子の移動経路が屈曲した形状のチャネル101を通って流れる電子スピンの運動状態を説明する説明図である。 図3は、電子スピン共鳴状態にあるスピン301の運動状態を示す説明図である。 図4は、本発明の実施の形態における実施例1の電子スピン操作装置の構成を示す斜視図である。 図5は、波数空間における磁場ベクトルを説明する説明図である。 図6は、スリット405によるチャネルの形状をz軸の上方から見た構成図である。 図7は、生成されたスピンの軌跡を示す説明図である。 図8は、実施例1の電子スピン操作装置を用いたスピン操作実験におけるスピンのz軸方向の射影成分を計測した結果を示す特性図である。 図9は、本発明の実施の形態における実施例2の電子スピン操作装置の構成を示す斜視図である。
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における電子スピン操作装置の構成を示す構成図である。この電子スピン操作装置は、半導体から構成されたチャネル101と、チャネル101のキャリア生成箇所にスピン偏極キャリアを生成するスピン偏極キャリア生成部102と、スピン偏極キャリア生成部102により生成されたスピン偏極キャリアをチャネル101の延在方向に移動させる移動部103とを備える。
ここで、チャネル101は、所定の長さに形成され、電子(スピン偏極キャリア)の流れる経路が、所定の振れ幅の間で所定の周期で屈曲して延在方向が周期的に変化する状態に形成されている。振れ幅,周期,長さなどの各因子は、チャネル101の延在方向の変化による振動の角周波数が、チャネルを移動するスピン偏極キャリアのスピン共鳴条件に一致する状態とされている。言い換えると、チャネル101は、チャネルを移動するスピン偏極キャリアのスピン共鳴条件に一致する状態で、延在方向(電子が流れる方向)が周期的に変化している。
以下、上述した構成による電子スピン操作について、詳細に説明する。本発明者らは、電子スピン操作についての検討を長年進めた結果、「スピン流」として流れる電子スピンに対し、この電子スピンが移動する経路を適切に設計することにより、時間と共に振動する実磁場が全くない状況においても、移動する電子スピンにとっては時間と共に強度が振動する有効磁場を発生できることを見いだした。さらに、この有効磁場を利用した電子スピン共鳴を誘起させることによって、電子スピンの向きを任意の方向に操作可能であることを見いだし、本発明に至った。
まず、本発明のスピン操作装置においてスピン操作の対象となるスピン流について説明する。スピン流は、最近のスピントロニクス研究の発展に伴って注目されている概念である。「電流」が電荷の流れであるのに対応して、「スピン流」はスピン角運動量の流れである。固体内において「スピン流」を利用する技術は、スピンを情報処理に応用する上で大変重要である(非特許文献2参照)。
このスピン流には、大別して2種類ある。第1に、スピン偏極した電子が一方向に電流として流れる「スピン偏極電流」がある。第2に、スピンの方向の異なる電子が互いに逆方向に流れ、全体としての電流がゼロになる「純粋なスピン流」がある。本発明におけるスピン操作装置は、いずれのスピン流に対しても適用可能である。
次に、静磁場の印加について説明する。スピン系に対し静磁場を印加すると、スピンのエネルギー固有状態は2つのエネルギー準位に分裂する。このエネルギー分裂は、ゼーマン分裂と呼ばれる。通常の電子スピン共鳴においても、電磁石や永久磁石を利用して、外部から静磁場を印加する手段が用いられている。
上述した実施の形態では、スピン流として動いている電子に対するスピン操作に必要となる静磁場として、屈曲して延在方向が周期的に変化しているチャネル101によるスピン軌道相互作用によって生じる有効磁場を利用している。なお、本発明においても、外部から実磁場を印加してもかまわない。
次に、チャネル101について説明する。チャネル101は、電子の運動領域を空間的に制限し、制限した空間の内部を通して電子を移動させるための構造である。実施の形態におけるチャネル101は、曲がった部分が周期的に現れる部分を備える構成としている。チャネル101の形状に求められる条件は、電子スピンに働く静磁場と電子スピンの運動量ベクトルとによって決定される。
まず、電子が屈曲した形状のチャネル101を通って流れるときの、電子スピンの運動を考える。一般に、電子の移動方向が変化すると、スピン軌道相互作用の有効磁場の方向が変化する(非特許文献3)。例えば、図2に示すように、電子201は、チャネル101の延在方向に沿う速度ベクトル202で移動し、延在方向が変化すると、有効磁場ベクトル203の方向が変化する。
このため、チャネル101に沿って運動方向が周期的に変動しながら移動するようにチャネル101の経路を設計すれば、電子201のスピンは、時間と共に振動する有効磁場を感じることになる。この振動する有効磁場の方向(有効磁場ベクトル203)が、静磁場(あるいは静的な有効磁場)B0と垂直な成分を持ち、以下の式に示す振動の角周波数ωが電子スピン共鳴の条件に一致するようにチャネル101を設計しておけば、図3に示すように、電子スピン共鳴状態にあるスピン301が球の表面に沿って運動する。
一般の電子スピン共鳴では、「振動磁場の周波数」と、「振動磁場を印加する時間的長さ」と、「振動磁場の強さ」によって最終的なスピンの方向が決まる。これに対応させて考えると、上述した実施の形態における電子スピン操作では、「チャネル101における振動成分の周期」と、「チャネル101の長さ」と、「チャネル101の振れ幅」とを適切に調整することにより、輸送後のスピンを所望の方向に配向させること、すなわちスピンの方向を任意の方向に操作することが可能となる。
なお、チャネル101の幅が広いと、電子が様々な方向へ散乱されることで有効磁場もランダムに変動し、これが原因でスピンが緩和してしまい本原理が使えない場合がある。「Kunihashi」らによると、直線状のチャネルを用いて電子の運動を制限した際に、チャネル幅を電子の平均自由行程の10倍程度の距離より狭くすると、スピン緩和が抑制できることが報告されている(非特許文献4参照)。従って、チャネル101の幅も、電子の平均自由行程の10倍程度より細ければよい。
以下、本発明の実施の形態について、実施例を用いてより詳細に説明する。
[実施例1]
はじめに、実施例1について説明する。図4は、本発明の実施の形態における実施例1の電子スピン操作装置の構成を示す斜視図である。この電子スピン操作装置は、基板401と、基板401の上に形成された量子井戸構造からなるチャネル層402とを備える。また、チャネル層402の上に形成され、表面弾性波をチャネル層402に発生させる表面弾性波発生部403と、チャネル形成電極404とを備える。チャネル形成電極404は、所定の振れ幅の間で所定の周期で屈曲して延在方向が周期的に変化する所定の長さのスリット405を備える。また、スリット405のいずれかの部分に円偏光のレーザー光を照射するレーザー照射部406を備える。
基板401は、主表面を(001)とされた閃亜鉛鉱型の結晶構造を有する半導体から構成され、例えば、GaAsから構成されている。また、チャネル層402は、基板401の上に形成された障壁層、量子井戸層、障壁層からなる単一量子井戸から構成されたものであればよい。例えば、AlGaAsからなる2つの障壁層に、GaAsからなる井戸幅(層厚)20nm程度の量子井戸層が挟まれた構造となっていればよい。また、障壁層の厚さは、50nm程度とすればよい。この構造とすることで、表面から50nm程度下の領域に、量子井戸層からなる半導体チャネルが形成されるようになる。
また、表面弾性波発生部403は、アルミニウムなどの金属からなるインターディジタルトランスデューサ(IDT)と呼ばれる櫛形の電極であり、よく知られたフォトリソグラフィ技術または電子線リソグラフィ技術、および金属蒸着技術により形成すればよい。このIDTは、例えば、各櫛歯の部分が、厚50nm,周期2.55μmで、x軸方向に配列されている。ここで、x軸方向とは、GaAs結晶からなる基板401の[110]方向である。従って、表面弾性波発生部403により、[110]方向(x軸方向)に、表面弾性波が伝搬する。ここで、[110]方向をx軸方向とし、[−110]方向をy軸方向とし、[001]方向をz軸方向とする。
なお、表面弾性波発生部403による表面弾性波の伝搬方向は必ずしもx軸方向に一致していなくても良いが、GaAs(001)面上のIDTによって表面弾性波を発生させる場合、GaAsの結晶の対称性が原因で、<010>方向に伝搬する表面弾性波を発生させることはできない。
チャネル形成電極404は、スリット405によって直下の量子井戸にチャネルとなる領域を形成するガイドとなる。スリット405は、例えば、スリット405により形成されるチャネルの領域を通る電子の移動経路が、基板401の平面上で正弦波となる形状であればよい。この場合、正弦波の波長は23μm、振幅は2μmであればよい。
チャネル形成電極404は、例えば、チタンから構成され、厚さ10nm程度とされていればよい。また、スリット405の幅は、3μm程度とすればよい。このような形状とするチャネル形成電極404は、例えば、よく知られた電子線リソグラフィ技術および金属蒸着技術を用いて形成すればよい。なお、チャネル形成電極404は、チタンに限らず、導電性を有する他の材料から構成してもよい。
実施例1においては、スピンの揃った状態(初期状態)を生成するために、レーザー照射部406により、円偏光成分を持つレーザー光を、スリット405によるチャネルの一部に照射する。半導体における円偏光励起の選択則によって、円偏光の向きに応じたスピンの方向を持つスピン偏極電子を、スリット405により形成されたチャネルに励起することができる。レーザー照射部406が、チャネルの所望とするキャリア生成箇所にスピン偏極キャリアを生成するスピン偏極キャリア生成手段となる。
また、上述したように円偏光励起で生成した電子スピンを、表面弾性波発生部403による表面弾性波でスリット405によるチャネルを移動させることによって、スピン流が発生する。表面弾性波発生部403が、電子(スピン偏極キャリア)を移動させる移動手段となる。表面弾性波発生部403に1.15GHzの高周波電圧を印加すると、x方向に表面弾性波が伝搬し、チャネル層402の表面近傍にある量子井戸部分にも周期的な歪みが発生する。この歪みが、周期的に変化するピエゾ電界を形成し、電子に対するポテンシャル、すなわち伝導帯エネルギーを変化させる。
実施例1では、スリット405によるチャネル以外の部分は、チャネル形成電極404の金属薄膜による遮蔽効果によって、金属部分の直下の量子井戸内におけるピエゾ電界強度を減少させる。このため、スリット405によるチャネル領域にのみ、他の箇所よりも強い周期的ピエゾポテンシャルが発生する。このポテンシャルの谷に電子が捕捉されるため、スリット405によるチャネルの経路に沿って電子を移動させることができる。このように移動する電子の速度ベクトルの各成分のうち、表面弾性波の伝搬方向に沿った成分の大きさは、表面弾性波の速度である3km/sと同じになる。なお、この構造では、スリット405の幅によりチャネルの幅が規定されるものとなり、この幅が、電子の平均自由行程の10倍程度より小さくなっていることが重要となる。
半導体中の伝導帯電子に対するスピン軌道相互作用は、電子に働く有効磁場として現れる。半導体チャネルが閃亜鉛鉱型の結晶構造を有する半導体材料で形成され、(100)面の二次元系とみなされる場合、有効磁場ベクトルΩの各成分は、波数ベクトルの成分(kX,kY,kZ)の一次結合で表される。さらにこの項は,次の式(1)に示すように、αタイプとβタイプの二種類に分類されることが知られている。
ここで用いるギリシャ文字Ωを用いて表現される磁場は、便宜上、角周波数の単位で表
裂し、磁場に垂直な成分を持つスピンは|Ω|の角周波数でベクトルΩの周りを歳差運動する。
式(1)において、αとβはスピン軌道相互作用の大きさを決めるパラメータである。実施例1における量子井戸では、|β|が|α|よりも十分に大きいため、Ωβのみを考える。実施例1における量子井戸のサイズの場合、βの値は、およそ1.5〜2.0×10-13(eVm)であることが実験的に判明している。
図5の(a)に、波数空間における磁場ベクトルΩα(k)を示し、図5の(b)に波数空間における磁場ベクトルΩβ(k)を示す。図5に示すように、磁場ベクトルの方向は、波数ベクトルkの方向、すなわち運動方向に依存する。
次に、スリット405によって形成されるチャネルを輸送(移動)中の電子が感じる有効磁場について図6を用いて説明する。図6は、スリット405によるチャネルの形状をz軸の上方から見た構成図である。具体的には、スリット405の形状を、電子の輸送経路が次の式(2)により示される関数で表されるように設計する。
x方向の速度は表面弾性波の速度vSAWで一定であるのに対し、y方向の速度はxの関数となる。言い換えると、以下の式(3)および式(4)に示すように、x方向の速度は表面弾性波の速度vSAWで一定であるのに対し、y方向の速度はxの関数となる。
また、速度と波数は、以下の式(5)で表される比例関係にあるため、スリット405によるチャネルを移動中の電子が感じる有効磁場ベクトルは、以下の式(6)で示されるものとなる。
一般に静磁場Ω0と、この静磁場に垂直な成分を有する振動磁場Ω1(角周波数ω1)があるとき、ω1が|Ω0|に一致すれば電子スピン共鳴を誘起する。
実施例1では、振動磁場の角周波数に相当する式(7)を、式(8)に一致させることによって、電子スピン共鳴を生じさせることができる。言い換えると、式(9)で示されるような状態のチャネルとすればよい。
実施例1では、x=0でスピンを生成し、生成したスピンを+y軸方向に輸送するため、初期位相φに応じて図7の(a),(b),(c),(d)に示すような軌跡を描きながら時間発展することが、シミュレーションにより予想される。これによって、特定の距離を輸送した後のスピンを、チャネルの形状によって、様々な方向に配向させられることが分かる。
次に、実施例1の電子スピン操作装置を用いた実験の結果について図8を用いて説明する。実験では、磁気光学カー効果を用い、スピンのz軸方向の射影成分を計測した。図8に示すように、初期位相φによって異なる挙動を示すことが明瞭に観測されている。さらに実験結果は、本原理による電子スピン共鳴を考慮したシミュレーション結果ともよく一致している。この結果は、静磁場および振動磁場いずれについても、実際の磁場が全くない状況においても、電子スピン共鳴が誘起されることを示している。
また、この実験では、チャネル形状を決めるパラメータのうち、初期位相φを適切に選択することによって、任意のスピン量子状態を形成できることが確かめられたが、他のパラメータ(λ1やA1)についても、これらを適切に選択することによって、任意のスピン量子状態を形成できる。
なお、実施例1では外部から印加する実磁場がゼロの場合を示したが、静磁場を印加することで共鳴条件を調整してもよく、この場合でも、やはり、時間と共に変動する振動磁場を印加しない状況でスピン操作することが可能である。
[実施例2]
次に、実施例2について説明する。図9は、本発明の実施の形態における実施例2の電子スピン操作装置の構成を示す斜視図である。この電子スピン操作装置は、チャネルが形成されるチャネル層901と、チャネル層901の一端に接続するソース電極902と、チャネル層901の他端に接続するドレイン電極903と、チャネル層901に電界を印加するためのゲート電極904とを備える。この構成は、「Datta」と「Das」によって提案されたスピンFET(Field Effect Transistor)をベースとしている(非特許文献1参照)。
チャネル層901は、InAsやGaAsなどの半導体から構成されて所定の振れ幅の間で所定の周期で屈曲して延在方向が周期的に変化する形状で所定の長さに形成されている。ここで、チャネル層901は、チャネル層901の延在方向の変化による振動の角周波数が、チャネル層901を移動するスピン偏極キャリアのスピン共鳴条件に一致する状態とされている。
チャネル層901は、障壁層、量子井戸層、障壁層からなる単一量子井戸から構成されたものであればよい。例えば、AlGaAsからなる2つの障壁層に、GaAsからなる井戸幅(層厚)20nm程度の量子井戸層が挟まれた構造となっていればよい。また、障壁層の厚さは、50nm程度とすればよい。この構造とすることで、チャネル層901の表面から50nm程度下の領域に、量子井戸層からなる半導体チャネルが形成されるようになる。
これらの構造は、例えば、主表面を(001)とされた閃亜鉛鉱型の結晶構造を有するGaAsからなる基板(不図示)の上に形成されていればよい。前述した各半導体層を基板の上にエピタキシャル成長させ、これらの各層をよく知られたリソグラフィ技術とエッチング技術とによりパターニングすることで、チャネル層901の形状を形成すればよい。なお、この構造では、チャネル層901の幅がチャネルの幅となり、この幅が、電子の平均自由行程の10倍程度より小さくなっていることが重要となる。
ソース電極902およびドレイン電極903は、例えば鉄などの強磁性体から構成されている。例えば、ソース電極902およびドレイン電極903に接続する電圧印加手段を備え、ソース電極902とドレイン電極903との間に電圧を印加することで、チャネル層901にスピン偏極キャリアを生成させ(スピン偏極キャリア生成手段)、生成されたスピン偏極キャリアをチャネル層901の延在方向に移動させることができる(移動手段)。
また、実施例1と同様に、IDTなどを用いた表面弾性波により、チャネル層901に形成されているチャネルにおいて電子を移動させるようにしてもよい。
次に、実施例2における電子スピン操作装置(スピンFET)の基本的原理を簡単に説明する。スピンFETでは、強磁性体からなるソース電極902からドレイン電極903にスピン流を流す。この際、ゲート電極904によるゲート電圧が形成する電界によって、チャネル層901のチャネルにおけるスピン軌道相互作用の大きさが変化する。スピン軌道相互作用は有効磁場を形成し、形成された有効磁場の周りをスピンが歳差運動する。この歳差運動の際、スピンのベクトルの軌跡は二次元面内を円運動する。この歳差運動によって、ドレイン電極903に到達した電子スピンの向きは、ゲート電圧の大きさに依存した方向となる。ドレイン電極903とチャネル層901との界面では、スピンの向きと磁化の向きに依存した磁気抵抗が生じるため、ソース・ドレイン間の電圧をゲート電圧によって制御できる。
実施例2では、本発明によるスピン操作の構成を組み込むことによって、スピンFET内における強磁性体によるソース電極902およびドレイン電極903に対し、任意の磁化方向を使うことができる。
ところで、チャネル層901は、上述した半導体に限らず、Si,グラフェンなど半導体電子の運動量方向に依存するスピン軌道相互作用を有する半導体を用いることができる。これらのような半導体を利用し、二次元電子系とみなせる電子系が閉じ込められる層構造を結晶成長技術によって作製すればよい。
このような二次元電子系内にスピン流を発生させる方法として、強磁性体からの半導体へのスピン注入を利用する方法が一般に知られている(非特許文献5,非特許文献6,非特許文献7など参照)。
チャネル層901は、電子が通る経路の形状を特徴づけるチャネルの形状が、電子スピン共鳴を生じさせるための条件を満たす空間周波数の成分を有していればよく、必ずしも正確な正弦波の形状とする必要はない。例えば、図9に示したように、チャネル層901は、方向の異なる短い直線経路を組み合わせた繰り返し構造としてもよい。
前述したように、ゲート電極904によるゲート電圧で、ラシュバスピン軌道相互作用を変化させるようにしている。ゲート電極904に電圧を印加することによって、チャネル層901に形成されるチャネル内の電子に電界が加わり、この結果、ラシュバ効果によるスピン軌道相互作用の大きさを調節することができる。ゲート電極904によって、電子スピン共鳴条件のオン・オフの切り替えも可能であるため、より急峻なオン・オフ動作が可能となるという効果がある。
実施例2では、上述したように、チャネル層901に形成されるチャネル内に発生したスピン流に対してスピン操作を実現している。従来提案されているスピンFETとは異なり、3次元空間内のスピンの運動を利用するため、様々な方向に磁化した強磁性電極を利用できるという効果がある。
なお、上述した説明では、スピン偏極電流に対するスピン操作についての例を説明したが、純スピン流をチャネルに流し、スピン操作しても良い。純スピン流を利用した場合は、電流がゼロのため、チャネル内においてジュール熱が発生せずに、消費電力を低減できる。
以上に説明したように、本発明によれば、半導体から構成されたチャネル層を、所定の振れ幅の間で所定の周期で屈曲して延在方向が周期的に変化する所定の長さの形状とし、チャネルの延在方向の変化による振動の角周波数が、チャネルを移動するスピン偏極キャリアのスピン共鳴条件に一致する状態とされているようにしたので、装置を複雑にすることなくより容易に電子スピンの向きを任意の方向に操作できるようになる。
本発明によれば、スピン流として流れる電子に対して電子スピン共鳴現象が生じるため、チャネル形状の適切な設計によって、スピンを3次元空間内の任意の方向に操作することが可能となる。また、高周波電磁波を用いずに電子スピン共鳴を起こすという原理を利用しているため、高周波印加のためのコイルや電源が不要であり、またインピーダンスマッチングも不要であるため、装置構成が単純化できる。また、素子表面電極金属による表皮効果の影響を受けないため、表面に電極加工を施している半導体素子内でのスピン操作も可能となる。
また、スピン軌道相互作用に起因する有効磁場を静磁場として利用しているため、実際の静磁場を印加を必要とはせず、電磁石などの磁場印加装置を不要とすることができ、装置構成が単純化できる。
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、式(1)におけるαとβが等しい系は、永続的スピン螺旋状態と呼ばれ、スピン緩和時間を長くすることができる特殊な系であるが、本発明はこの永続的スピン螺旋状態を用いてスピン操作を実現することも可能である。
101…チャネル、102…スピン偏極キャリア生成部、103…移動部。

Claims (6)

  1. 半導体から構成されて所定の振幅の間で所定の周期で屈曲して延在方向が周期的に変化する所定の長さのチャネルと、
    前記チャネルのキャリア生成箇所にスピン偏極キャリアを生成するスピン偏極キャリア生成手段と、
    前記スピン偏極キャリア生成手段により生成されたスピン偏極キャリアを前記チャネルの延在方向に移動させる移動手段と
    を備え、
    前記チャネルの延在方向の変化による振動の角周波数が、前記チャネルを移動するスピン偏極キャリアのスピン共鳴条件に一致する状態とされていることを特徴とする電子スピン操作装置。
  2. 請求項1記載の電子スピン操作装置において、
    前記チャネルに電界を印加するゲート電極を備えることを特徴とする電子スピン操作装置。
  3. 請求項1または2記載の電子スピン操作装置において、
    前記チャネルは、量子井戸構造から構成されていることを特徴とした電子スピン操作装置。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子スピン操作装置において、
    移動手段は、表面弾性波を前記チャネルに発生させる表面弾性波発生手段であることを特徴とする電子スピン操作装置。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子スピン操作装置において、
    前記スピン偏極キャリア生成手段は、前記キャリアの前記キャリア生成箇所に円偏光のレーザー光を照射するレーザー照射手段であることを特徴とする電子スピン操作装置。
  6. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子スピン操作装置において、
    前記スピン偏極キャリア生成手段は、強磁性体からなる電極から構成されていることを特徴とする電子スピン操作装置。
JP2013034618A 2013-02-25 2013-02-25 電子スピン操作装置 Active JP5952206B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2013034618A JP5952206B2 (ja) 2013-02-25 2013-02-25 電子スピン操作装置

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2013034618A JP5952206B2 (ja) 2013-02-25 2013-02-25 電子スピン操作装置

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2014165313A JP2014165313A (ja) 2014-09-08
JP5952206B2 true JP5952206B2 (ja) 2016-07-13

Family

ID=51615667

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2013034618A Active JP5952206B2 (ja) 2013-02-25 2013-02-25 電子スピン操作装置

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP5952206B2 (ja)

Families Citing this family (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2020043222A (ja) * 2018-09-11 2020-03-19 日本電信電話株式会社 スピン流制御装置

Family Cites Families (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP3585763B2 (ja) * 1999-03-10 2004-11-04 日本電信電話株式会社 スピン干渉型三端子素子
JP5237232B2 (ja) * 2009-09-25 2013-07-17 独立行政法人科学技術振興機構 電子スピン共鳴生成装置および電子スピン共鳴の生成方法
JP2013026592A (ja) * 2011-07-26 2013-02-04 Nippon Telegr & Teleph Corp <Ntt> スピン偏極キャリア輸送装置

Also Published As

Publication number Publication date
JP2014165313A (ja) 2014-09-08

Similar Documents

Publication Publication Date Title
Yokouchi et al. Creation of magnetic skyrmions by surface acoustic waves
Liu et al. Dynamical skyrmion state in a spin current nano-oscillator with perpendicular magnetic anisotropy
JP6030591B2 (ja) 量子メモリの制御方法
Chumak Magnon spintronics: Fundamentals of magnon-based computing
Pingenot et al. Electric-field manipulation of the landé g tensor of a hole in an in 0.5 ga 0.5 as/gaas self-assembled quantum dot
JP4583443B2 (ja) スピントロニクス応用のための磁気電気電界効果トランジスタ
Bonetti et al. Nano-contact spin-torque oscillators as magnonic building blocks
Pingenot et al. Method for full Bloch sphere control of a localized spin via a single electrical gate
Samokhvalov et al. Stimulation of a singlet superconductivity in SFS weak links by spin–exchange scattering of Cooper pairs
Ramasubramanian et al. Tunable magnetic vortex dynamics in ion-implanted permalloy disks
Fripp et al. Spin-wave wells revisited: From wavelength conversion and Möbius modes to magnon valleytronics
Yu et al. Resonant amplification of vortex-core oscillations by coherent magnetic-field pulses
JP5952206B2 (ja) 電子スピン操作装置
JP2013026592A (ja) スピン偏極キャリア輸送装置
Hirayama et al. Nanometre-scale nuclear-spin device for quantum information processing
Takeuchi et al. Electrically driven spin torque and dynamical Dzyaloshinskii-Moriya interaction in magnetic bilayer systems
Dey et al. Basic elements of spintronics
Jonson et al. DC spin generation by junctions with AC driven spin-orbit interaction
Han et al. Tuning of oscillation modes by controlling dimensionality of spin structures
US20050276149A1 (en) Method of manipulating a quantum system comprising a magnetic moment
Zhu et al. Proposal for fast optical control of spin dynamics in a quantum wire
Shekhter et al. Spin gating of mesoscopic devices
Flatté et al. Manipulating quantum coherence in solid state systems
Tarucha et al. Spin qubits with semiconductor quantum dots
Hu et al. Discontinuous properties of current-induced magnetic domain wall depinning

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20150615

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20160526

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20160607

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20160609

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 5952206

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250