JP5849508B2 - Bgmのマスキング効果評価方法及びbgmのマスキング効果評価装置 - Google Patents

Bgmのマスキング効果評価方法及びbgmのマスキング効果評価装置 Download PDF

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Description

この発明は、会話に対するバックグラウンド・ミュージック(以下、BGMと称する)のマスキング効果の高さをそのBGMの音特性に基づいて評価できるようにしたBGMのマスキング効果評価方法及びBGMのマスキング効果評価装置に関するものである。
従来、会議や談話等における会話の内容を他に漏らさないようにするため、すなわちマスキングするための手法として、ホワイトノイズやBGMのようなマスキング音(以下、マスカーという)を、マスキングしようとする会話に被せて再生することが行われている。通常このような手法は、話者の音声との関連性を考慮することなくマスカーを再生しているのみであるため、話者の音声とマスカーとは別々の音であると傍聴者に自然に区別されてしまい、マスキング効果が低い。これを解消するために、話者の音声を分析し、分析された音声に基づいてマスカーを決定し、そのマスカーを再生するようにした技術が提案されている(特許文献1参照)。
特開2005−84645号公報
しかしながら、特許文献1の技術は、話者の音声波形のスペクトルの特徴に基づいてマスカーを調整して生成するものであって、そのための特別な設備を必要とする上、そもそも生成されるマスカーは特殊な音であるため、周囲に違和感を与えるものである。
ところで、BGMを用いてマスキングを行おうとする場合、そのBGMの種類によりマスキング効果に大きな差があることが知られている。
例えばピアノ曲やスイングジャズ等のようにピアノやドラム等の間欠的な打音が中心となっているBGMの場合、打音の発生時には高いマスキング効果を得られるが、それ以外の時にはマスキング効果が得られにくい。逆に、例えばフーガやカノンのように弦楽器等による連続的な音が中心となっているBGMの場合、ピアノ曲とは異なり、高いマスキング効果がほぼ切れ目なく得られる。
さらに、BGMのマスキング効果は、マスキングのターゲットである会話の性質、すなわち、会話が会議のものか、談話のものかの違い、あるいは、話者の性別や年齢別等による声質の違い等によって変化すると考えられる。従って、ターゲットに応じたマスキング効果の高いBGMを選定するには、膨大な数のBGM候補中からマスキング効果の高そうなBGM候補を選定して、そのBGM候補によるマスキングを実際に行って比較評価しなければならず、大変な手間を要する。
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、ターゲットに対するBGMのマスキング効果の高さを容易に評価することができるBGMのマスキング効果評価方法及びBGMのマスキング効果評価装置を提供することにある。
上記の目的を達成するために、この発明のマスキング効果評価方法は、マスカーとしてのBGM候補の音特性を入力パラメータとした評価式に基づいて、ターゲットに対する同BGM候補のマスキング効果の高さを評価することを特徴とする。ここで「音特性」とは、例えば、一定時間内の音響エネルギーの時間平均値をレベル表示した等価音圧レベル、一定時間内の音圧レベルがあるレベルを越えている時間の合計が一定時間のN%(例えば5%)に相当するときの音圧レベルを示すN%時間率音圧レベル、N%時間率音圧レベルと(100−N)%時間率音圧レベルとの差Mである時間率音圧レベルのM%レンジ幅、一定時間内の音圧レベルのサンプリング値の標準偏差等、BGM候補の音の時間特性を表す物理的特性を示している。
従って、この発明においては、BGM候補から簡単に取得できる音特性を数学的に処理することにより、ターゲットに対する同BGM候補のマスキング効果の有効性を適切に、かつ容易に評価することができる。このため、ターゲットに対して高いマスキング効果を発揮するBGMを、膨大なBGM候補の中から容易に選定することができる。
前記の方法において、サンプルBGMをマスカーとして用いたときにマスキング効果が得られる等価音圧レベルのターゲット/マスカー比(以下、T/M比と称する)を目的変数とし、前記サンプルBGMの音特性を説明変数とする回帰分析により回帰式をもとめて評価式に設定する。この評価式からその他のBGM候補に対する前記T/M比の予測値を取得し、この予測値に基づいて、ターゲットに対する同BGM候補のマスキング効果の高さを評価するとよい。
さらに、前記評価式を用いることにより、複数のBGM候補についてT/M比の予測値の大きさを互いに比較することができ、この複数のBGM候補間においてマスキング効果の高さを相対評価することができる。なお、「マスキング効果が得られる等価音圧レベルのT/M比」とは、例えば、ターゲットとサンプルBGMとを複数の被験者に聞かせたときに、所定の割合の被験者がマスキング効果を得られたと判断したときのターゲットの等価音圧レベルと、マスカーの等価音圧レベルの差を意味する。すなわち、このときのT/M比が大きいマスカーほど、他のマスカーよりも高いマスキング効果が得られることを示す。従って、T/M比が、BGM候補のマスキング効果の高さを示す指標となる。
前記の方法において、複数種の前記音特性を取得し、この各音特性と前記各サンプルBGMのT/M比とのそれぞれの単相関係数に基づいて前記説明変数として用いる音特性の種類を選択するとよい。
単相関係数がより大きな音特性を説明変数とすれば、より精度の高い評価式を取得することができる。そして、この評価式を用いれば精度のより高いT/M比の予測値を求めることができるため、BGM候補間のマスキング効果の高さをより高い精度で評価することができる。
前記の方法において、前記複数種の音特性は、1/1オクターブ帯域毎の等価音圧レベル、同じく5%時間率音圧レベル、同じく時間率音圧レベルの90%レンジ幅、及び、同じく音圧レベルのサンプリング値の標準偏差のうちの少なくとも1つであるとよい。
今回の発明において選択された前記音特性は、1kHz(ヘルツ)帯域の等価音圧レベルLeq,1kHzと、250Hz帯域の5%時間率音圧レベルL5,250Hzであり、前記回帰分析によって得られた評価式は、T/M比=0.98×L5,250Hz−1.35×Leq,1kHz+26.3である。
この方法によれば、他のBGM候補から上記2つの音特性を取得することにより、そのBGM候補のT/M比の予測値を得ることができる。
前記の方法におけるBGM候補の前記音特性は、コンピュータや騒音計により簡便に取得できるので、そのBGM候補のT/M比の予測値も簡単に得ることができる。
この発明のマスキング効果評価装置は、サンプルBGMをマスカーとして用いたときにマスキング効果が得られる等価音圧レベルのT/M比と、前記サンプルBGMの複数種の音特性との関連性を表す評価式を、複数種のターゲット種別に応じて記憶する評価式記憶手段と、新たに取得したBGM候補の曲データから、指定されたターゲット種別に対応する音特性のデータを取得する音特性取得手段と、指定されたターゲット種別に対応する評価式により、取得した前記音特性のデータに対応する前記T/M比の予測値を求める予測値算出手段とを備えたことを特徴とする。
この構成によれば、BGM候補の曲データのみから、そのBGM候補のマスキング効果の高さを評価することができる。
この発明によれば、ターゲットに対するBGMのマスキング効果の高さを容易に評価することができるという効果を発揮する。
BGMのマスキング効果評価方法が適用される建物の平面図。 男性アナウンスのA特性補正済み音圧レベル−出現回数特性を示すグラフ。 管弦楽曲1のA特性補正済み音圧レベル−出現回数特性を示すグラフ。 管弦楽曲2のA特性補正済み音圧レベル−出現回数特性を示すグラフ。 バイオリン曲のA特性補正済み音圧レベル−出現回数特性を示すグラフ。 アコースティック・ギター曲のA特性補正済み音圧レベル−出現回数特性を示すグラフ。 イージーリスニングのA特性補正済み音圧レベル−出現回数特性を示すグラフ。 スイングジャズのA特性補正済み音圧レベル−出現回数特性を示すグラフ。 ピアノ曲のA特性補正済み音圧レベル−出現回数特性を示すグラフ。 管弦楽曲1の人数割合−T/M比特性を示すグラフ。 管弦楽曲2の人数割合−T/M比特性を示すグラフ。 バイオリン曲の人数割合−T/M比特性を示すグラフ。 アコースティック・ギター曲の人数割合−T/M比特性を示すグラフ。 イージーリスニングの人数割合−T/M比特性を示すグラフ。 スイングジャズの人数割合−T/M比特性を示すグラフ。 ピアノ曲の人数割合−T/M比特性を示すグラフ。 各BGMサンプルのT/M比−マスキング効果特性を示すグラフ。 各BGMサンプルのT/M50%比と各特性値との対応表。 回帰式に基づくT/M比の予測値と観測値との相関図。 マスキング効果評価装置を示すブロック図。 マスキング効果評価処理のフローチャート。
次に、この発明を具体化した一実施形態について、図1〜図21を参照して説明する。
図1は、この実施形態のBGMのマスキング効果評価方法が実施される建物の一例を示している。この建物において、会議室AR内の会話の内容が、その会議室ARと壁W及びドアDRを隔てて隣接する廊下Cのドア前位置R2にいる聴者に聞き取られないように、廊下Cに設けたスピーカS2からBGMが再生される。この実施形態は、会議室ARから廊下Cに漏れる会話の内容に対して有効なマスキング効果を発揮するためのものである。
(マスキング効果評価方法)
このマスキング効果評価方法は、マスカーとしてのBGM候補の音特性に基づいて、ターゲットとしての会話に対するBGM候補のマスキング効果の高さを評価するものである。
上記音特性は、BGM候補の音の時間特性を表すものであり、1/1オクターブ帯域毎の等価音圧レベル、同じく5%時間率音圧レベル、同じく時間率音圧レベルの90%レンジ幅、同じく音圧レベルのサンプリング値(例えば、50秒間における100msec.毎の音圧レベル)の標準偏差等の物理的特性である。
具体的には、まず、任意に選択された複数のサンプルBGMを前記ターゲットに対するマスカーとして用いたときに一定のマスキング効果が得られる等価音圧レベルのT/M比と、そのサンプルBGMの複数種の音特性とを取得する。なお、「一定のマスキング効果が得られる等価音圧レベルのT/M比」とは、例えば、ターゲットとサンプルBGMとを複数の被験者に聞かせたときに、所定の割合の被験者がマスキング効果を得られたと判断したときのターゲットの等価音圧レベルと、マスカーの等価音圧レベルとの差を意味する。すなわち、このときのT/M比が大きいマスカーほど、他のマスカーよりも高いマスキング効果が得られることを示す。従って、T/M比が、BGM候補のマスキング効果の高さを示す指標となる。
次に、各サンプルBGMに対する前記T/M比を目的変数とし、各サンプルBGMの前記音特性を入力パラメータとしての説明変数とする回帰分析により評価式としての以下の回帰式を求める。
T/M比=0.98×L5,250Hz
−1.35×Leq,1kHz+26.3
次に、この評価式から他のBGM候補に対する前記T/M比の予測値を取得する。
ここで、サンプルBGMの複数種類の音特性を取得し、この各音特性及び前記サンプルBGMのT/M比の2つの変量の単相関係数の大きさに基づいて、前記説明変数として用いる音特性を選択することが好ましい。これは、回帰分析により求める評価式の精度を高めるためである。
上記のように求められた評価式を用いることにより、他のBGM候補から取得した音特性を用い、そのBGM候補をBGMとして用いた場合のマスキング効果の高さを示すT/M比の予測値を求めることができる。
そして、このBGM候補について得られたT/M比の予測値を他のBGM候補について同様に得られたT/M比の予測値と比較することにより、この各BGM候補間におけるマスキング効果の高さを容易に比較することができる。
このようにして、BGM候補から簡単に取得できる音特性を数学的に処理することにより、ターゲットに対する同BGM候補のマスキング効果の有効性を適切に、かつ容易に評価することができる。このため、ターゲットに対して高いマスキング効果を発揮するBGMを、膨大なBGM候補の中から容易に選定することができる。
(マスキング効果評価装置)
次に、上記BGMのマスキング効果評価を自動的に行うBGMのマスキング効果評価装置について説明する。このマスキング効果評価装置は、BGM候補の音特性から、評価式に基づいてそのBGM候補のマスキング効果を自動的に評価することができるようにしたものである。
図20に示すように、このマスキング効果評価装置10は、コンピュータからなりBGMのマスキング効果評価処理を行うデータ処理部11と、同処理に用いるデータが予め記憶された記憶部12とを備えている。
この記憶部12には、複数のサンプルBGMのT/M比と、各サンプルBGMの複数種の音特性との関連性を表す評価式が、複数種のターゲット種別に応じて記憶されている。このターゲット種別とは、ターゲットである会話の音質を決定する話者の性別や年齢別等の種別である。また、記憶部12には、図21に示すプログラムが記憶されている。
データ処理部11には、再生装置13、キーボード14及びデータ書込装置15が接続されており、BGM候補の曲データが再生装置13からデジタル信号で入力される。また、データ処理部11には、ターゲットである会話の話者の種別が、キーボード14から入力される。また、データ処理部11で生成されたデータが、データ書込装置15により曲データや音楽CD(コンパクトディスク)のタイトル欄の一部に記録される。この実施形態では、データ処理部11が、評価式記憶手段、音特性取得手段及び予測値算出手段である。
データ処理部11は、記憶部12に予め記憶されているプログラムにより、図21のフローチャートで示すBGMのマスキング効果評価処理を実行する。
次に、マスキング効果評価装置10による作用を説明する。この作用は、データ処理部11の制御のもとに、記憶済みのプログラムが実行されるものである。この装置によるマスキング効果評価処理では、まず、ステップ(以下、Sと略記する)10において、前記キーボード14により入力された会話の話者の特性、すなわちターゲット種別の選択によりターゲット種別が設定される。
そして、S20において、ターゲット種別に応じた評価式を選択する処理が実行される。
次に、S30において、前記再生装置13からBGM候補の曲データを取り込む処理が実行される。
次に、S40において、再生装置13から入力したBGM候補の曲データから、前記ターゲット種別に対応する音特性を取得する処理が実行される。
次に、S50において、S20で選択した評価式により、S40で取得した音特性に対応するT/M比の予測値を求めて出力する処理が実行される。
以上のように実行されるマスキング効果評価処理により、そのBGM候補について、ターゲット種別に応じたマスキング効果の高さを示すT/M比が自動的に求められて出力される。
(BGMの音楽媒体)
上記マスキング効果評価装置10により求められるT/M比の予測値は、曲データや音楽CDタイトル欄の一部に付加的な情報として記録される。すなわち、ターゲットに対するマスキング効果の高さの情報が示された曲データや音楽CDが実現される。ここで、「マスキング効果の高さの情報」とは、ターゲット種別ごとに適・不適が設定された情報であり、例えば「好適ターゲット:男・30代、適ターゲット:男女・20代以上」、「適ターゲット:女・20代、不適ターゲット:女・40代」のように段階的にランク付けした情報である。ユーザは、BGM候補の音楽CDから取得する前記情報により、ターゲットである会話に対するBGM候補のマスキング効果の高さを、容易に把握することができる。また、上記指標を、音楽CDのラベルに印刷すれば、そのBGM候補のマスキング効果の高さを一目で把握できる。さらに、マスキング効果の高いBGMだけを選択して再生することも出来る。
また、上記マスキング効果評価装置10により求められるT/M比の予測値やマスキング効果の高さの情報は、有線放送やインターネット等により配信されるBGMの曲データの一部にも付加的な情報として加えられる。この場合、配信元より取得した前記情報により、BGMの曲データのマスキング効果の高さを容易に把握することができる。この前記データは、BGMの再生アンプの表示部やパソコン画面に表示すれば、そのBGMのマスキング効果の高さを一目で把握することが出来る。さらに前記情報からマスキング効果の高いBGMを選択して再生する番組を作ることも出来る。
次に、上述したBGMのマスキング効果評価方法の実施例について説明する。
(実施条件)
図1に示す建物において、会議室ARから廊下Cに漏れる会話をターゲットとし、この廊下Cに再生するBGMをマスカーとすることによりマスキングを行う。なお、会議室ARと廊下Cとの間の室内音圧レベル差Dr はDr =−20dBであり、廊下Cにおけるドア前位置R2での特定場所間音圧レベル差Dp,r は、Dp,r =−15dBである。
(複数種のサンプルBGMのT/M比の取得)
まず、ターゲットとしての録音された男性アナウンス再生用のスピーカS1を会議室ARの座席位置に設置した。そして、会議室AR内の所定位置R1(スピーカS1から距離1m)における等価音圧レベルLAeqが
LAeq =65dBA
となるようにターゲット再生時の音の大きさを設定した。
このとき、廊下Cのドア前位置R2におけるターゲット再生時の等価音圧レベルLAeq は
LAeq =41dBA
であり、同ドア前位置R2におけるターゲット非再生時の暗騒音の等価音圧レベルLAeq は
LAeq =31dBA
である。
また、マスカーとしてのBGM再生用のスピーカS2を廊下Cの天井付近に設置した。そして、ドア前位置R2における等価音圧レベルLAeq が−15,−10,−5,0,+5dBのT/M比となるように、スピーカS2から再生するマスカーの大きさをそれぞれ設定した。マスカーに用いたサンプルBGMは、バイオリン曲、ピアノ曲、アコースティック・ギター曲、スイングジャズ、イージーリスニング、フーガ・カノニカ、及び、カノン・フーガの7種である。具体的には以下の通りである。
・バイオリン曲 「モーツァルト 弦楽四重奏曲第20番K499」
・ピアノ曲 「村松宗継 あなたがいるから」
・アコースティック・ギター曲
・スイングジャズ 「Isn’t It Romantic」
・イージーリスニング (シンセサイザー曲)
・管弦楽曲1「バッハ 音楽の捧げもの 上方5度フーガ・カノニカ」
・管弦楽曲2「バッハ 音楽の捧げもの 5度のカノン・フーガ」
参考として、ターゲットの男性アナウンスと、マスカーのサンプルBGMを対象に、100msec毎の騒音レベル、及び1/1オクターブ125Hz〜4KHzの各帯域の音圧レベルの頻度分布を図2〜図9に示す。なお、図2〜図9の横軸は音圧レベル(dB)、縦軸は出現回数を示し、動特性Fast、50秒間の等価音圧レベルLAeq が100dBA となるようにターゲット及びマスカーの大きさを補正して頻度分布を作成した。
(マスキング効果が得られるT/M比の取得)
次に、被験者をドア前位置R2に立たせて、ターゲットとマスカーの同時再生を50秒間聞かせた後、男性アナウンスの会話内容の理解程度を以下の4段階から選択させた。被験者は、正常な聴力を持つ20〜50代の男性8名である。すなわち、前記会話を再生しつつ7種類の前記サンプルBGMを前記5種類の各T/M比で50秒間ずつ再生した。従って、各被験者は、7種類のサンプルBGMと5種類のT/M比との組み合わせからなる35種類の状況において、会話内容の理解程度を選択した。なお、各被験者に提示する35種類の組み合わせの再生順序はランダムである。
A:会話は聞こえるが単語は判別できない。又は、会話が聞こえない。
B:会話中の単語を聞き取ることができる場合があるが、内容は理解できない。
C:会話をほとんど聞き取ることができ、内容をほぼ理解できる。
D:会話を完全に聞き取ることができ、内容を理解できる。
図10〜図16に示すグラフは、7種類の前記各サンプルBGMにおける5種類のT/M比について、8名の前記被験者が上記各T/M比毎に上記の4段階評価を行った結果を示している。この各グラフから理解されるように、ピアノ曲やスイングジャズについては、前記評価のランクAを選択した被験者が存在せず、又はランクBを選択した被験者の割合も相対的に低い。このため、ピアノが中心のサンプルBGMは、マスキング効果が相対的に低いと判断される。一方、バイオリン曲や管弦楽曲1,2については、前記評価のランクAを選択した被験者が存在し、またランクBを選択した被験者の割合も相対的に高い。このため、弦楽器や管楽器が中心のサンプルBGMは、マスキング効果が相対的に高いと判断される。
また、図3〜図9に示すグラフからは、マスキング効果が高いサンプルBGMほど、各周波数帯域の音が高い音圧レベル領域にまとまっており、逆に、マスキング効果が低いサンプルBGMほど、各周波数帯域の音が低い音圧レベル領域から高い音圧レベル領域までの範囲に広がっていることが分かる。
次に、前記各サンプルBGMについて、図10〜図16の評価結果から、5種類のT/M比と、この各T/M比において上記評価段階のランクA又はB、すなわち一定のマスキング効果があったと評価した被験者の割合との関係を示す近似曲線を図17に示すように求めた。そして、この近似曲線から、被験者の割合が50%となるときの各サンプルBGMのT/M50%比を求めた。このT/M50%比が、後記回帰分析における目的変数となる。
(音特性の取得)
サンプルBGM候補のワヴ(WAV)ファイルデータを騒音計(リオン株式会社製「精密騒音計 NA−28」)にライン入力させることにより、前記サンプルBGMの音特性である等価音圧レベルLAeq 、5%時間率音圧レベルL5 、時間率音圧レベルの90%レンジ幅L95-5、及び、音圧レベルのサンプリング値の標準偏差σの特性値を、125〜4kHzの範囲で各1/1オクターブ帯域について取得した。この各音特性値のデータを図18の表に示す。なお、このときの騒音計の動特性はFastであり、また各周波数帯域の音圧レベルはA特性補正済みデータである。
(回帰分析)
次に、前記各サンプルBGMについて得られた前記T/M50%比を目的変数とし、そのサンプルBGMから取得した前記各音特性を説明変数とする回帰分析を行った。このとき、説明変数に用いる音特性は、前記T/M50%比との単相関係数が0.7以上のものを採用した。ここでは、1kHz帯域における等価音圧レベルLeq,1kHzと、250Hz帯域における5%時間率音圧レベルL5,250Hzとを説明変数として採用した。なお、図18において単相関係数が0.7以上の音特性は3つあるが、標準偏回帰係数が大きい方の上記2つの音特性を採用した。この回帰分析は、マイクロソフト社の表計算ソフト「エクセル」の回帰分析プログラムである「ソルバー」機能を用いて行うことができる。
そして、この2つの説明変数を用いた重回帰分析により、説明変数としたサンプルBGMの2つの音特性から、そのサンプルBGMのT/M50%比の予測値が算出される回帰式(1)を求めた。すなわち、この回帰式(1)を評価式として用いることにより、他のBGM候補から取得した等価音圧レベルLAeq,1kHzと、5%時間率音圧レベルL5,250Hzとから、そのBGM候補をBGMとして用いたときに半数の被験者がマスキング効果を得られたと感じるT/M50%比となる予測値が得られる。
T/M比=0.98×L5,250Hz
−1.35×Leq,1kHz+26.3 … (1)
(精度)
上記の回帰式(1)の精度を統計手法により調べると、目的変数であるT/M50%比とその予測値との相関係数が0.87、相関係数の二乗である決定係数が0.76(>0.5)、自由度補正済み決定係数が0.66、又、有意Fが0.029(<0.05)となった。よって、上記回帰式(1)の検定結果は、有意であり、その有効性が確認された。図19のグラフに示すように、この回帰式(1)を用いて求めたT/M50%比の予測値は、サンプルBGMのT/M50%比にほぼ一致していることが確認された。
従って、上記の回帰式(1)を用いることにより、他のBGM候補について、そのBGM候補から取得した音特性から、そのBGM候補を実際にBGMとして用いた場合のT/M50%比の予測値を求めることができる。
(用語の説明)
・等価音圧レベル:一定時間内の音エネルギーの時間平均値をレベル表示した値
・N%時間率音圧レベル:一定時間内の音圧レベルがあるレベルを越えている時間の合計が一定時間のN%(例えば5%)に相当するときの音圧レベル
・時間率音圧レベルのM%レンジ幅:N%時間率音圧レベルと(100−N)%時間率音圧レベルとの差M
・室内音圧レベル差Dr:JIS A1417による規定
・等価音圧レベルLAeq :JIS Z8731による規定
・1/1オクターブ帯域毎の等価音圧レベル、及びA特性補正済み音圧レベル:JIS Z8731による規定
(他の実施形態)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ サンプルBGMをマスカーとして用いたときにマスキング効果が得られる等価音圧レベルのT/M比を、複数の被験者の内の例えば40,60,70,80%等、別の割合のグループが上記A又はBを選択するときの値とすること。
・ マスキング効果を評価する音特性として、1kHz帯域以外の1/1オクターブ帯域等価音圧レベルや、250Hz帯域以外の1/1オクターブ帯域5%時間率音圧レベルを用いること。
・ マスキング効果を評価する音特性として、各1/1オクターブ帯域の時間率音圧レベルの90%レンジ幅や、各1/1オクターブ帯域の音圧レベルのサンプリング値の標準偏差等、他の値を用いること。
・ ターゲットである会話の話し手の性別や年齢別、室内音圧レベル差Dr、特定場所間音圧レベル差Dp,r、T/M比、あるいは、音特性を取得する複数のサンプルBGMの種類等に応じて、評価式としての回帰式(1)とは異なる切片及び偏回帰係数の回帰式を取得し、この回帰式を用いて、他のBGM候補のT/M比の予測値を取得すること。
・ 音特性として、音の強さのレベル、音響パワーレベル、1/nオクターブバンドレベル、音の大きさ、音の高さ、音の大きさ等、前記実施形態とは異なる種類のデータを用いること。
(他の技術的思想)
以下、前記各実施形態から把握され、請求項として挙げられていない技術的思想を記載する。
・マスキングのターゲットに対するマスキング効果の高さを示す指標が記録されていることを特徴とするBGM音楽媒体。またはマスキング効果の高いBGMを集めたことを特徴とするBGM音楽媒体。
従って、マスキング用のBGMとして用いるにあたり、そのマスキング効果をビジュアルに一目で理解できる。
10…マスキング効果評価装置、11…評価式記憶手段、音特性取得手段及び予測値算出手段としてのデータ処理部、Leq …音特性としての1/1オクターブ帯域毎の等価音圧レベル、L5 …同じく5%時間率音圧レベル、L95-5…同じく時間率音圧レベルの90%レンジ幅、M…差、σ…音特性としての1/1オクターブ帯域毎の音圧レベルのサンプリング値の標準偏差。

Claims (6)

  1. サンプルBGMをマスカーとして用いたときにマスキング効果が得られる等価音圧レベルのT/M比を目的変数とし、前記サンプルBGMの音特性を説明変数とする回帰分析により設定した評価式を用いて、他のBGM候補の前記T/M比の予測値を取得し、
    この予測値の値に基づいて、ターゲットに対する同BGM候補のマスキング効果の高さを評価することを特徴とするBGMのマスキング効果評価方法。
  2. 前記各サンプルBGMの複数種の前記音特性を取得し、この各音特性と前記各サンプルBGMのT/M比とのそれぞれの単相関係数に基づいて前記説明変数として用いる音特性を選択することを特徴とする請求項に記載のBGMのマスキング効果評価方法。
  3. 前記複数種の音特性は、1/1オクターブ帯域毎の等価音圧レベル、同じく5%時間率音圧レベル、同じく時間率音圧レベルの90%レンジ幅、及び、同じく音圧レベルのサンプリング値の標準偏差のうちのいずれかであることを特徴とする請求項に記載のBGMのマスキング効果評価方法。
  4. 前記音特性は、1kHz帯域の等価音圧レベルLeq,1kHzと、250Hz帯域の5%時間率音圧レベルL5,250Hzであり、
    前記回帰分析によって得られた回帰式は、
    T/M比=0.98×L5,250Hz−1.35×Leq,1kHz+26.3
    であることを特徴とする請求項に記載のBGMのマスキング効果評価方法。
  5. 前記音特性は、騒音計により取得されることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載のBGMのマスキング効果評価方法。
  6. サンプルBGMをマスカーとして用いたときにマスキング効果が得られる等価音圧レベルのT/M比と、各サンプルBGMの複数種の音特性との関連性を表す評価式を、複数種のターゲット種別に応じて記憶する評価式記憶手段と、
    新たに取得したBGM候補の曲データから、音特性のデータを取得する音特性取得手段と、
    指定されたターゲット種別に対応する評価式により、取得した前記音特性に対応する前記T/M比の予測値を求める予測値算出手段とを備えたことを特徴とするBGMのマスキング効果評価装置。
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