JP5848020B2 - 生物活性測定装置 - Google Patents

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Description

本発明は、生物細胞の代謝活動に伴って発生する熱の測定を原理とする生物活性測定装置に関するものであり、特に、微生物細胞量を推定可能な生物活性測定装置に関するものである。
従来より、微生物の増殖を追跡する手段として(1)光学的方法、(2)インピーダンス測定法、(3)寒天平板培養法などが知られている。上記の内、(1)の光学的方法は光を透過する試料に限定され、(2)のインピーダンス測定法は電気伝導性のある試料に限定されるという制約があり、また、いずれの方法も計測可能な微生物濃度、すなわちダイナミックレンジに一定の制約がある。そのため、一般には、200年前にドイツのロベルト・コッホにより創始された(3)の寒天平板培養法が採用されている。しかし、シャーレ上での微生物の培養を基本とする寒天平板培養法は、膨大な量のプラスチックシャーレを消費し、また、培養のための時間が非常に長い(通常24時間もしくは48時間)ため、微生物の培養ために要する労力の点においてあまりにも浪費が多いという問題がある。
上記のような従来の微生物活性の測定方法における問題を解決するものとして、下記の特許文献1に記載される装置が知られている。この装置は、微生物細胞の代謝活動により発生する熱の検出を原理としており、微生物細胞の代謝活性を忠実に定量化した信頼性の高い情報を得ることができる。また、シャーレを大量に使用する(3)の寒天平板培養法に比べて極めて簡易に測定を行うことができる。
特許第1903288号明細書
微生物が生息あるいは増殖すると好ましくない食品・医薬品・化粧品などの製品において、その中にどれだけの微生物が含まれるかを把握することは、国民生活に直結する極めて重要な課題である。とりわけ、輸血用の保存血液、その他の医用輸液、各種の化粧品、また飲料をはじめとする各種食品などについては、出荷時の検査において微生物細胞が検出されてはならない、あるいは一定数以上の微生物細胞が検出されてはならない、というように微生物管理に関して明確に定められている。そのため、それらを扱う分野では、自主検査を抜きにして製品を社会に出すことは考えられない。
微生物による汚染が問題となるような製品を扱う分野において、その中に生息するかもしれない微生物の量(微生物個体数または重量)を把握することは極めて重要な課題である。しかしながら、それを検査する手段としては、長年にわたり上述した寒天平板培養法が使われているのが現状である。被検体中の微生物量を観測する場合、被検体をすり潰し、なおかつ溶液状態に懸濁し、適切な濃度になるように希釈した上で、寒天を主体とする培養用の培地に塗布し、その微生物の増殖を観測するという手順が必要である。こうした方法での検査には多大な労力と検査時間を要し、検査に用いる資源の消費が大きいという問題がある。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、生物細胞の代謝熱の検出を原理とする生物細胞の代謝活性あるいは増殖活性を測定することにより、簡単かつ短時間に微生物の量を推定できる生物活性測定装置を提供することにある。
本発明の第1の観点は、試料に含まれる生物細胞が発生した熱を測定する生物活性測定装置に関する。この生物活性測定装置は、断熱材によって形成された断熱箱と、前記断熱箱の内部に配置され、第1試料が入れられた第1試料容器と、前記断熱箱の内部に配置され、前記第1試料と比較される第2試料が入れられた第2試料容器と、前記第1試料容器と前記第2試料容器との間に挟まれて設置され、前記第1試料容器に接触する第1の面と前記第2試料容器に接触する第2の面との温度差に応じた起電力を発生する熱電素子と、前記熱電素子で発生した前記起電力を測定する測定部とを有する。
好適に、上記生物活性測定装置は、複数の時刻において前記測定部が測定した前記起電力を取得する制御部と、前記複数の時刻を示す複数の時刻データと、前記複数の時刻において測定された起電力を示す起電力データとに基づいて、前記起電力と前記測定時刻との関係を表す所定の関数の係数を回帰分析法により算出し、前記算出した係数に基づいて、前記測定時刻が十分経過した後の前記起電力の予測値を取得する予測値取得部とを有する。
好適に、前記予測値取得部は、前記複数の時刻を示す複数の時刻データと、前記複数の時刻において測定された起電力を示す起電力データとに基づいて、前記熱電素子の起電力Esと時刻tとの関係を表す下記の式
Es=a+b・exp(−t/τ)
における少なくとも係数aを回帰分析法により算出し、前記算出した係数に基づいて、前記時刻tが十分経過した後の前記起電力の予測値を取得する。
好適に、前記予測値取得部は、前記回帰分析に用いる前記起電力データの時間範囲を広げながら上記の式における係数aの算出を繰り返し、算出した一連の係数aの変化が一定の割合より小さくなったら、上記の式における係数aの算出値を確定する。
本発明の第2の観点に係る微生物量推定方法は、微生物細胞を含む試料が入れられた第1試料容器、及び、微生物細胞を含まない試料が入れられた第2試料容器を準備する工程と、前記第1試料容器及び前記第2試料容器、並びに、前記第1試料容器と前記第2試料容器との間に挟んで配置された熱電素子を断熱箱の内部に配置して閉じ込める工程と、前記第1試料容器に接触する第1の面と前記第2試料容器に接触する第2の面との温度差に応じて発生する前記熱電素子の起電力を繰り返し測定する工程と、前記測定した一連の起電力のデータとその測定時刻を示す一連の測定時刻のデータとに基づいて、前記起電力と前記測定時刻との関係を表す所定の関数の係数を回帰分析法により算出し、前記算出した係数に基づいて、前記時刻が十分経過した後の前記起電力の予測値を取得する工程とを有し、前記予測値が前記第1試料容器の微生物細胞の代謝熱に対応した微生物量を示す。
本発明の実施形態に係る生物活性測定装置の構成の一例を示す図である。 図1に示すように2つの試料容器で挟まれたセンサにおいて両容器の温度差に応じて発生する起電力と、2つの試料容器の試料に含まれる微生物量の差との関係を表した図である。 断熱箱内の基準温度に比べて温度の低い試料を含む試料容器を断熱箱の内部に導入した後のセンサの測定電圧の経時変化を例示する図である。 断熱箱内の基準温度に比べて温度の高い試料を含む試料容器を断熱箱の内部に導入した後のセンサの測定電圧の経時変化を例示する図である。
まず、本発明の実施形態に係る生物活性測定装置の概要を説明する。
本実施形態に係る生物活性測定装置は、断熱箱の内部に微生物が含まれた試料が導入・設置された直後から、微生物細胞が増殖過程で放出する代謝熱の経時変化を熱電素子によって測定する。生物活性測定装置は、断熱箱に導入された試料の温度が平衡温度に達するまで待つことなく、時間の経過とともに変化する一連の熱電素子の起電力データに基づいて、十分時間が経過したときの起電力の予測値(試料の平衡温度)を回帰分析法により算出する。ここで算出された予測値は、試料中の微生物が発生した代謝熱に対応する。同じ生理状態にある微生物細胞は一定の代謝熱を放出するため、この予測値は試料中の微生物量にほぼ比例する。
この計測原理を以下にさらに詳しく説明する。
断熱箱内への試料(被検体)の導入・設置にともない、試料とともに外部から熱(温熱または冷熱)が持ち込まれるが、この持ち込まれた熱は周囲環境との熱交換により、やがて拡散し、断熱箱の内部の基準温度である平衡温度に達する。しかし、ある一定の微生物細胞を含む溶液は、その微生物量に比例した代謝熱を放出しているため、試料の導入・設置に際して外部から持ち込まれた熱が熱交換により完全に拡散してしまった後も、その系の温度は平衡温度に比べて代謝熱の放出分だけ高くなる。この平衡温度からのずれは、系に含まれる微生物量に比例する。
ところが、外部から持ち込まれた熱が完全に拡散してしまうためには、理論上、無限大の時間を待たなければならない。したがって、試料中の微生物量に対応する平衡温度からのずれを実測するためには長い時間を要し、実際の検査において不便さがついてまわる。
そこで、本実施形態に係る生物活性測定装置では、この熱の拡散をもたらす熱交換がニュートンの熱伝導則に支配されていることを利用して、熱交換に伴う試料の温度変化を表す熱電素子の起電力の経時的な変化過程(熱平衡化過程)にニュートンの熱伝導式(後述の式(1))をあてはめて回帰分析を行う。すなわち、生物活性測定装置は、時間の経過とともに変化する熱電素子の起電力の測定結果とその測定時刻との関係をニュートンの熱伝導式に当てはめて回帰分析を行い、測定結果によく合うニュートンの熱伝導式の係数を算出する。そして、生物活性測定装置は、算出した熱伝導式の係数に基づいて、無限大時間放置すれば到達するであろう被検体の温度、すなわち試料温度の基準温度に対する差の予測値を取得する。
熱平衡化の速度は、装置の熱伝導の時定数、特に試料を含む試料容器の熱伝導の時定数に依存するが、この時定数(通常2分位)は微生物細胞の増殖の時定数(通常30分〜120分)に比べてはるかに短い。そのため、断熱箱内に試料容器を入れた直後の比較的短い時間スパンにおいては、外部から断熱箱内に持ち込まれた熱の拡散に起因する温度の変化が支配的であり、微生物細胞の増殖に起因して発熱量が増大することによる温度変化の影響は非常に小さい。すなわち、断熱箱内に試料容器を入れた直後の比較的短い時間スパンにおいて、熱電素子の起電力の経時変化はニュートンの熱伝導式とよく一致する。従って、本実施形態に係る生物活性測定装置は、十分時間が経過したときの起電力の予測値(微生物量に比例)を、平衡状態へ到達する前の段階で非常に迅速に算出することができる。
次に、本実施形態に係る生物活性測定装置について、図面を参照して詳しく説明する。
図1は、本実施形態に係る生物活性測定装置の構成の一例を示す図である。
図1に示す生物活性測定装置は、断熱箱10と、微生物細胞を含む試料(第1試料)が入れられた試料容器17と、第1試料と同量の物質であって微生物細胞を含まない物質(第2試料)が入れられた試料容器18と、熱電素子を含んだセンサSと、センサSの起電力を測定する測定部40と、システム制御装置50とを有する。
図1に示す生物活性測定装置において、試料容器17,18とセンサSと測定部40を含んだ測定ユニットは、1つの試料について測定を行うものであり、複数の試料について同時に測定を行う構成の場合には、この測定ユニットが複数設けられる。
断熱箱10は、全体が断熱材によって形成されており、その内部に試料容器17,18とセンサSが閉じ込められている。図1の例に示す断熱箱10は、上部に開口部が設けられた箱体12と、この開口部を塞いて内部を密閉する蓋部11を有する。
試料容器17,18は、断熱箱10の内部に設けられた不図示の保持部材によって保持される。
センサSは、熱エネルギーと電気エネルギーを交換する機能を持った熱電素子であり、試料容器17と18との間に挟まれて設置される。センサSは、試料容器17に接触する面(第1の面)と試料容器18に接触する面(第2の面)との温度差に応じて、ゼーベック効果による起電力を発生する。
測定部40は、システム制御装置50の制御に従って、センサSが発生したゼーベック効果による起電力を測定する。
図1の例において、測定部40は、センサSが発生する微小な起電力(ゼーベック電圧)を増幅する増幅回路41と、この増幅回路41の出力信号をデジタル信号に変換するアナログ−デジタル変換回路42を含む。アナログ−デジタル変換回路42は、例えばシステム制御装置50の制御に従って、アナログ−デジタル変換動作を実行する。
システム制御装置50は、生物活性測定装置の動作を統括的に制御する装置であり、例えばプログラムに従って処理を実行するコンピュータを含んで構成される。システム制御装置50のコンピュータは、例えば、プログラムのコードを格納するメモリ、メモリに格納されたプログラムコードを順次読み込んで処理を実行するプロセッサ、プロセッサとメモリを接続するバス、バスを制御するバスコントローラ、プロセッサとメモリの間に介在するキャッシュメモリなどを含む。また、システム制御装置50は、ハードディスク装置70やディスプレイ装置60などの周辺装置とコンピュータがデータをやり取りするための種々のデバイスコントローラや、ネットワークを介して他の装置と通信を行うためのネットワークインターフェース回路を含んでもよい。
システム制御装置50は、コンピュータ等のハードウェアとプログラムとの協働による構成要素として、制御部51と、予測値取得部52を有する。
制御部51は、測定部40においてセンサSの起電力の測定を実行させ、その測定結果の起電力データを取得し、記憶装置(例えばハードディスク装置70)に格納する。
例えば、制御部51は、断熱箱10の内部に試料容器17,18が設置されて断熱箱10が密閉された後、測定を開始する指示が不図示の入力装置(スイッチ、ボタン、キーボード等)によって入力されると、一定時間ごとにセンサSの起電力の測定結果を測定部40から取得して、記憶装置に順次格納する。
予測値取得部52は、測定部40において測定が行われた複数の時刻を示す複数の時刻データと、その複数の時刻において測定されたセンサSの起電力を示す起電力データとに基づいて、センサSの起電力と測定時刻との関係を表すニュートンの熱伝導式の係数を回帰分析法により算出する。具体的には、予測値取得部52は、一連の起電力データとその測定時刻のデータとに基づいて、センサSの起電力Esと時刻tとの関係を表す下記の式(1)における係数a,b,τを回帰分析法により算出する。
[数1]
Es=a+b・exp(−t/τ) …(1)
予測値取得部52は、回帰分析法により式(1)の係数を算出すると、この算出した係数に基づいて、時刻tが十分経過した後の起電力Esの予測値を取得する。具体的には、予測値算出部52は、回帰分析法により算出した式(1)の係数aを、時刻tが十分経過した後の起電力Esの予測値Es_eqとして取得する。
予測値Es_eqは次式により表される。
[数2]
Es_eq=a …(2)
ここで、上述した構成を有する図1に示す生物活性測定装置における微生物量の測定動作について説明する。
まず利用者は、微生物細胞を含む第1試料が入れられた試料容器17、及び、第1試料と同量の物質であって微生物細胞を含まない物質(第2試料)が入れられた試料容器18を準備する。そして利用者は、これらの試料容器17及び18をセンサSとともに断熱箱10の内部に配置して閉じ込め、その直後、システム制御装置50の図示しない入力装置(スイッチ、ボタン、キーボード等)を操作して測定の開始指示を入力する。
制御部50は、入力装置において測定開始指示が入力されると、センサSのゼーベック効果による起電力を(例えば一定の時間間隔で)繰り返し測定するように測定部40を制御し、測定結果のデータを記憶装置(ハードディスク装置70等)に格納する。
微生物細胞を含む第1試料が入れられた試料容器17は、微生物細胞の代謝熱の放出により、微生物細胞を含まない第2試料が入れられた試料容器18に比べて温度が高くなる。そのため、試料容器17から試料容器18に向けて熱流が起こり、センサSにはその熱流速に比例した起電力がゼーベック効果によって発生し、それが増幅回路41並びにアナログ−デジタル変換回路42を通じてシステム制御装置50に取り込まれる。
図2は、図1に示すように2つの試料容器17,18で挟まれたセンサSにおいて両容器の温度差に応じて発生する起電力と、2つの試料容器17,18の試料に含まれる微生物量の差との関係を表した図である。図2において、横軸は微生物量(微生物細胞個体数またはその重量)を対数目盛で表示し、縦軸はセンサSのゼーベック効果による起電力の測定値を対数目盛で表示している。
一般に、同じ生理状態にある微生物細胞は同じ代謝熱を放出する。そのため、2つの試料容器17,18の温度差はこれらの試料(被検体)に含まれた微生物が放出する代謝熱の差に比例し、この代謝熱の差は微生物量の差に比例する。従って、図2に示すように、センサSが試料容器17,18の温度差に応じて発生する起電力(ゼーベック電圧)は、2つの試料容器17,18の試料に含まれる微生物量の差に比例して変化する。
検査対象の試料に含まれる微生物量は様々であるが、代謝熱の放出量と微生物量との比例関係は非常に幅広い範囲で成り立つ。
このように、測定部40において測定されるセンサSの起電力は、試料容器17の試料に含まれる微生物量に比例する。しかしながら、外部から断熱箱10の内部へ試料を含む試料容器17,18を導入した直後は、試料容器17,18の温度が断熱箱10内部の温度(基準温度)と異なるため、試料容器17,18とともに断熱箱10内に持ち込まれた熱(温熱または冷熱)が断熱箱10の内部へ拡散し、この熱拡散によって試料容器17,18の温度が過渡的に変化する。熱が十分に拡散して熱平衡に達するまでは、図3,図4に示すように、センサSの起電力は試料容器17の試料に含まれる微生物量に正しく比例した値とならない。
図3は、断熱箱10内の基準温度に比べて温度の低い試料を含む試料容器17,18を断熱箱10の内部に導入した後のセンサSの測定電圧の経時変化を例示する図である。
図3において、曲線CV1は試料容器17の第1試料に微生物細胞が含まれる場合のグラフを示し、曲線CV2は試料容器17の第1試料に微生物細胞が含まれない場合(すなわち第1試料と第2試料の熱的条件が実質的に同じ場合)のグラフを示す。
図3の例では、断熱箱10内の基準温度より試料容器17,18の温度が低いため、測定開始時点のセンサSの測定電圧E0は、基準温度より低い温度を示す値となっている。断熱箱10内へ試料容器17,18とともに持ち込まれた熱が拡散することにより、センサSの測定電圧の絶対値は徐々に減衰してゆき、平衡状態のレベルへ近づいていく。曲線CV1,CV2の何れも、約50分ほどで平衡状態のレベルになっている。
試料容器17,18の何れの試料にも微生物細胞が含まれていない場合は、何れの試料においても微生物による代謝熱は発生せず、平衡状態において試料容器17,18の間の熱交換は起こらない。そのため、平衡状態におけるセンサSの測定電圧は、曲線CV2に示すように温度差ゼロを示す値(Er)となる。図3の例において、レベルErはゼロである。
一方、試料容器17の第1試料に微生物細胞が含まれている場合は、微生物細胞を含まない試料容器18と試料容器17との間に温度差が生じ、その温度差は第1試料の微生物細胞が発生する代謝熱に由来する。そのため、平衡状態におけるセンサSの測定電圧は、曲線CV2に示すように微生物細胞の代謝熱による温度差を示す値(Es_eq)となる。
従って、仮に迷電流などがあったとしても、レベルErとレベルEs_eqとの差ΔE(ΔE=Es_eq−Er)は、試料容器17の第1試料に含まれる微生物細胞の代謝熱に由来するものであり、第1試料の微生物量(微生物細胞個体数またはその重量)に比例する。
図4は、断熱箱10内の基準温度に比べて温度の高い試料を含む試料容器17,18を断熱箱10の内部に導入した後のセンサSの測定電圧の経時変化を例示する図である。
図4において、曲線CV3は試料容器17の第1試料に微生物細胞が含まれる場合のグラフを示し、曲線CV4は試料容器17の第1試料に微生物細胞が含まれない場合(すなわち第1試料と第2試料の熱的条件が実質的に同じ場合)のグラフを示す。
図4の例では、図3とは逆に、断熱箱10内の基準温度より試料容器17,18の温度が高いため、測定開始時点のセンサSの測定電圧E0は、基準温度より高い温度を示す値となっている。断熱箱10内へ試料容器17,18とともに持ち込まれた熱が拡散することにより、センサSの測定電圧の絶対値は徐々に減衰してゆき、平衡状態のレベルへ近づいていく。
試料容器17,18の何れの試料にも微生物細胞が含まれていない場合は、試料容器17,18の間で微生物細胞の代謝熱による熱交換が起こらないため、平衡状態におけるセンサSの測定電圧は、曲線CV4に示すように温度差ゼロを示す値(Er=0)となる。
一方、試料容器17の第1試料に微生物細胞が含まれている場合は、試料容器17,18の間で微生物細胞の代謝熱による熱交換が起こるため、平衡状態におけるセンサSの測定電圧は、曲線CV3に示すように、微生物細胞の代謝熱による温度差を示す値(Es_eq)となる。
従ってこの場合も、レベルErとレベルEs_eqとの差ΔE(ΔE=Es_eq−Er)は、微生物量(微生物細胞個体数またはその重量)に比例する。
この図3,図4の曲線CV1〜CV4で表されるセンサSの測定電圧の変化は、ニュートンの熱伝導則に基づく熱交換を表しており、試料を含んだ装置の熱伝導時定数により決まるニュートンの熱伝導式(式(1))で表現される。
そこで予測値取得部52は、測定部40で測定された一連の起電力データとその測定時刻のデータを記憶装置から読み出し、これらのデータに基づいて、ニュートンの熱伝導式(式(1))における係数a,b,τを回帰分析法により算出する。そして予測値取得部52は、この回帰分析法により算出した式(1)の係数aを、時刻tが十分経過した後の起電力Esの予測値Es_eqとして取得する(式(2))。これにより、平衡状態に到達するより前の早い段階で、微生物量に比例する正確な予測値Es_eqが得られる。
例えば図3,図4の場合、微生物細胞を含む第1試料の温度が基準温度に達するまで約50分もかかる。ところが、図3,図4において太線で表示してある曲線CV1,CV3は、測定開始後10分間で測定値が最終平衡値の90%以上に到達していることを示している。従って、測定開始後から10分間で得られる測定値を用いて回帰分析により各係数を算出すれば、十分信頼できる予測値Es_eqを算出できることが分かる。
図3,図4の例において、式(1)にあてはめた回帰分析を行い、式(2)によって予測値Es_eqを求めると、その値は60[μV]となる。測定値が平衡状態に収束するのを待った場合、この値を得るために約50分を要するが、本実施形態のように回帰分析を行って予測値Es_eqを算出すれば、約10分でこの値を算出することができる。すなわち、本実施形態によれば、微生物細胞量の検査時間が約5分の1に短縮される。
以上説明したように、本実施形態によれば、微生物細胞を含む試料と含まない試料とを断熱箱10へ導入した後、これらの温度差を示すセンサSの測定電圧を繰り返し取得し、取得した一連の測定電圧のデータとその測定時刻のデータとに基づいて、ニュートンの熱伝導式の係数を回帰分析法により算出し、当該算出した係数に基づいて、十分に時間が経過した後の測定電圧の予測値を取得することにより、断熱箱10へ試料を導入してから未だ熱平衡に至っていない非常に早い段階で試料中の微生物量を推定することができる。
従って、例えば食品や医薬品、化粧品等の中に含まれる微生物量を極めて短い時間で推定することが可能になり、シャーレを用いる従来の寒天平板培養法と比較して検査の労力や時間を劇的に削減することができる。
ここまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々のバリエーションを含んでいる。
上述した実施形態では、利用者による入力装置の操作によって測定開始指示が入力された場合にシステム制御装置50が測定処理を開始するが、本発明はこれに限定されない。本発明の他の実施形態では、試料容器が断熱箱10内に密閉されたか否かを検出するセンサ(接触センサ等)を設けて、この出力信号を測定開始指示としてもよい。すなわち、断熱箱10内に試料容器が密閉されたことを上記のセンサが検出すると、システム制御装置50が直ちに測定処理を開始するようにしてもよい。
予測値取得部52は、例えば、記憶装置に記憶される任意に利用者が変更可能な設定情報に基づいて、熱伝導式の係数を算出するために使用する測定部40の測定データの時間範囲を設定するようにしてもよい。これにより、試料を含む装置の熱伝導時定数に応じて、回帰分析に用いる測定データの適切な時間範囲を設定することができる。
また、予測値取得部52は、回帰分析に用いる測定データの時間範囲を広げながら熱伝導式の係数を算出を繰り返し、算出した一連の係数値の変化が一定の割合より小さくなったら、熱伝導式の係数の算出値を確定するようにしてもよい。これにより、試料を含む装置の熱伝導時定数が不明の場合でも、適切な係数を算出することができる。
微生物量の推定が必要な食料品、医薬品、化粧品等の開発、製造、流通等に係る各種の産業分野において、本発明は広く利用可能である。
10…断熱箱、11…上蓋、12…箱体、17,18…試料容器、40…測定部、41…増幅回路、42…アナログ−デジタル変換回路、50…システム制御装置、51…制御部、52…予測値取得部、60…ディスプレイ装置、70…ハードディスク装置

Claims (2)

  1. 試料に含まれる生物細胞が発生した熱を測定する生物活性測定装置であって、
    断熱材によって形成された断熱箱と、
    前記断熱箱の内部に配置され、第1試料が入れられた第1試料容器と、
    前記断熱箱の内部に配置され、前記第1試料と比較される第2試料が入れられた第2試料容器と、
    前記第1試料容器と前記第2試料容器との間に挟まれて設置され、前記第1試料容器に接触する第1の面と前記第2試料容器に接触する第2の面との温度差に応じた起電力を発生する熱電素子と、
    前記熱電素子で発生した前記起電力を測定する測定部と、
    を有する生物活性測定装置。
  2. 微生物細胞を含む試料が入れられた第1試料容器、及び、微生物細胞を含まない試料が入れられた第2試料容器を準備する工程と、
    前記第1試料容器及び前記第2試料容器、並びに、前記第1試料容器と前記第2試料容器との間に挟んで配置された熱電素子を断熱箱の内部に配置して閉じ込める工程と、
    前記第1試料容器に接触する第1の面と前記第2試料容器に接触する第2の面との温度差に応じて発生する前記熱電素子の起電力を繰り返し測定する工程と、
    前記測定した一連の起電力のデータとその測定時刻を示す一連の測定時刻のデータとに基づいて、前記起電力と前記測定時刻との関係を表す所定の関数の係数を回帰分析法により算出し、前記算出した係数に基づいて、前記時刻が十分経過した後の前記起電力の予測値を取得する工程と、
    を有し、
    前記予測値が前記第1試料容器の微生物細胞の代謝熱に対応した微生物量を示す、
    微生物量推定方法。
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