JP5809129B2 - 微生物を利用して加工する固体食品の製造方法 - Google Patents

微生物を利用して加工する固体食品の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、微生物を利用して加工する固体食品の製造方法に関する。より詳しくは、微生物を添加した固体食品に適度な圧力処理を施すことにより、微生物に内在する酵素を利用して固体食品中の呈味成分を効率よく増加させることができる固体食品の製造方法に関するものである。
食品加工において、糖質加工、タンパク質加工、油脂加工等の分野で抽出や分解、改質など様々な目的で酵素反応が用いられている。使用される酵素は、かびや細菌、酵母などの微生物に由来するものがほとんどで、活性の高い酵素を産生する微生物を選抜・培養し、菌体から単離・精製して作られ、食品用酵素製剤として食品産業に供給されている。
一方、チーズ、味噌、醤油、酒、漬物、納豆等の製造のように、微生物を利用して、微生物を培養しながら酵素を利用するプロセスも知られている。いわゆる発酵(又は醸造)である。これら発酵を利用する食品(発酵食品)は、それぞれの食品に特有の選抜された微生物を用いて、伝統的製法に基づいて製造される場合が多い。発酵食品の発酵工程から最終製品に至る製造過程においては、微生物の産生する酵素が複雑且つ巧妙に作用し最終製品の品質を作り上げていることが知られている。
例えば、味噌や醤油のような大豆を主原料とする発酵調味食品の場合は、使用する麹菌(カビ菌の一種)が各種プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)を菌体外に分泌し、これら酵素が大豆タンパク質等を分解することによって旨味成分であるアミノ酸等を生成するという重要な役割を果たす。同じ大豆食品である納豆の場合は、使用する納豆菌(バシラス属菌の一種)が菌体外に分泌するプロテアーゼ、及びアミノ酸関連酵素が納豆品質に重要な役割を果たす。
一方、ナチュラルチーズにおいては、いわゆるカード形成のために添加される凝乳酵素(レンネット)以外にも、ともに添加される乳酸菌の内在酵素が徐々に作用することにより呈味成分や風味成分が生成されると言われている。ただ、乳酸菌の酵素は菌体外に分泌されるわけでなく、細胞膜に結合したまま作用するか、死滅した菌が溶菌することにより遊離した菌体内酵素が作用すると考えられている。従ってナチュラルチーズにおける乳酸菌由来の酵素反応は非常に緩慢であり、ゴーダチーズのような硬質系チーズは半年程度の製造期間を要する。一方、カマンベールチーズのようなカビ付けしたチーズは、カビの酵素が分泌されるために比較的速やかに酵素反応が進み、セミソフト系の食感となり製造期間は1ヵ月程度に短縮される。ただ、当カビ菌はチーズの表面のみに植菌されるため、酵素がチーズマトリクス内部に浸透拡散するのに時間を要する結果1ヵ月程度の製造期間となっている。
固体食品の加工において、目的に応じた食品用酵素製剤を添加して速やかに反応を進行させたり、上記発酵食品においても、製造過程でプロテアーゼのような酵素製剤を添加して、原料中のタンパク質分解による呈味成分生成を速め、製造期間を短縮するという手法(いわゆる速醸法)が用いられる場合もある。
しかしながら、発酵微生物のような有用食品微生物や食品素材自身に内在している酵素を、食品加工に効果的且つ効率的に活かすことができれば、単離・精製して製剤化された高価な食品用酵素製剤を用いる必要がなく、よりナチュラルな酵素反応を進めることができる。特に、発酵過程における酵素の作用は、酵素製剤を添加して進む単純な酵素反応とは異なり、微生物や食品素材の有するさまざまな酵素が複合的に作用して反応が進むため、これら内在酵素を効果的且つ効率的に活用することが好ましい。
ただ、従来のこのような微生物利用プロセスにおいては、菌体外に酵素を分泌しない微生物は事実上利用できなかった。また、固体食品に外部から微生物を付着させる場合、菌体から分泌された酵素が固体食品内部に浸透拡散する速度過程が極めて遅く、プロセスの効率化を阻む要因となっていた。
そこで、微生物を利用して加工する固体食品において、微生物や食品原料に内在する酵素を食品加工に効果的且つ効率的に活用し、最終品質を制御する方法の検討が種々行われてきた。中でも、物理的処理により品質を制御する方法として、高圧処理を利用した方法が種々提案されている。生物体にある一定以上の高圧をかけると細胞破壊が起こる。これに伴い、細胞組織の破壊、微生物の菌体破壊等が起こるため、微生物制御や酵素反応制御への活用が検討されている。
特許文献1には、セミソフト系チーズの品質制御方法が提案されている。
すなわち、カマンベールのようなセミソフト系チーズに高圧処理を施し、その圧力の加減により菌数や酵素反応をコントロールするもので、2000〜3000気圧(約200〜300MPa)で酵素反応を促進、4000気圧(約400MPa)以上で酵素反応を抑制するという方法である。2000〜3000気圧では、カビや乳酸菌がある程度死滅するが内在酵素活性は残存する、4000気圧以上ではカビや乳酸菌がかなり死滅し、内在酵素もかなり失活するというメカニズムによるものと推定されるが、詳細な記載は無い。また、高圧処理後残存している微生物の影響が出ていることが、品質制御の上で課題である。
特許文献2には、熟成ニンニクエキスの製造方法として、生ニンニク及びセルラーゼ含有酵素を袋体に密封し、50MPa以上200MPa未満の圧力、30℃〜80℃の範囲で酵素の至適温度に数日間保持する方法が記載されている。これは、高圧効果により雑菌の繁殖を抑えながら、生ニンニク自体がもつ酵素活性を引き出し、さらに別に添加する酵素との協同作用により製造期間を短縮するもので、微生物は排除し、食品中の内在酵素の作用を高めるという高圧利用法である。
特許文献3には、酵素分解法による調味料の製造法において、特許文献2と同様に、高圧負荷下で微生物の増殖を抑制することにより、食塩無添加で原料の食品素材に内在する酵素と別添加する酵素の作用を促進し、製造期間を短縮する方法が記載されている。
特許文献4には、酵素や微生物の作用で発酵させて得られた水産発酵食品に対して、200MPa以上の高圧をかけることで、微生物殺菌と酵素失活の両方を同時に行う方法が記載されており、風味を損なわずに熟成を停止させる高圧利用法である。
特許文献5には、魚介類漬物食品の製造方法として、魚介類に食塩水を浸透させる工程と、魚介類をエキス化する工程に別々に高圧を施し、さらに両者(食塩水の浸透した魚介類と魚介類エキス)を混合して高圧処理することにより、エキスの浸透も速める方法が記載されており、これにより塩漬け期間を大幅短縮する高圧利用法である。
一方、物理的処理ではなく生物学的あるいは分子生物学的手法を用いる方法も提案されている。
特許文献6には、チーズ製造に使用する乳酸菌の菌体内酵素を活用するため、宿主特異的バクテリオファージの溶菌作用を利用した方法が提案されている。すなわち、ナチュラルチーズ製造時に、スターター乳酸菌以外の非スターター乳酸菌に宿主特異性と溶菌性を持つバクテリオファージを当該乳酸菌及びスターター菌とともに添加し、製造過程で当該バクテリオファージが宿主菌を溶菌させることで、菌体内酵素をチーズマトリクス内に放出させ酵素反応を促進するという方法である。
また、特許文献7、8には、溶菌性バクテリオファージの溶菌に関わる遺伝子を組み込んだプラスミドを作製し、溶菌コントロールする方法が記載されている。
特開平6−46754号公報 特開2011−87540号公報 特開2001−120219号公報 特開平6−225688号公報 特開2012−130319号公報 特開平9-224569号公報 特表平10−500013号公報 特表平10−500846号公報
特許文献1〜5に提案されている高圧処理を用いた方法は、それぞれ固体食品の品質制御に有効な手段と考えられるが、微生物を利用して加工する固体食品において、微生物に内在する酵素を効果的に利用する方法が記載されているのは特許文献1のみである。ただ前述の通り、当文献の方法によれば、高圧処理後残存した微生物がその後の品質変化に影響を与える可能性があるという問題があった。
一方、特許文献6〜8の方法は、バクテリオファージを添加したり、遺伝子工学手法を利用したりするという点において、食品に対する消費者の安全志向の観点からすれば心理的抵抗が否めないという問題があった。
本発明の課題は、微生物に内在する酵素を利用し、固体食品中の呈味成分を効率よく増加させることができる固体食品の製造方法を提供することにある。
さらに詳しくは、微生物を添加した固体食品に適度な圧力処理を施すことにより、微生物に内在する酵素を効果的に利用して、固体食品中の呈味成分を効率よく増加させることができる固体食品の製造方法を提供することを目的とする。
そこで本発明者らは、従来技術の問題点を克服し、本発明の目的を達成するため鋭意検討した結果、微生物を利用して加工する固体食品に、あらかじめ培養しておいた微生物を内部に均一に分散するよう添加して、当該微生物の菌体が破壊され内在する酵素が失活しない圧力処理を施し、その後、このような圧力処理を施した固体食品を、当該微生物が増殖せず内在酵素が作用できる温度帯で必要時間保持することにより、当該固体食品の呈味成分を効果的且つ効率的に増加させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、請求項1記載の発明は、微生物を利用して加工する固体食品に、あらかじめ培養しておいた微生物であって、酵素を菌体外に分泌しない又は分泌しにくい性質の微生物を内部に均一に分散するよう添加して、当該微生物の菌体が破壊され内在する酵素が失活しない圧力処理を施し、その後、この圧力処理を施した固体食品を、当該微生物が増殖せず内在酵素が作用できる温度帯で必要時間保持することにより、当該固体食品の呈味成分を増加させることを特徴とする微生物を利用して加工する固体食品の製造方法である。
請求項2記載の発明は、プロテアーゼを含有する微生物を用いることを特徴とする請求項1記載の微生物を利用して加工する固体食品の製造方法である。
また、請求項3記載の発明は、前記圧力処理は、処理を施す固体食品の種類及び用いる微生物の種類に応じて、100MPa〜400MPaの間のいずれかの圧力値に設定することを特徴とする請求項1に記載の微生物を利用して加工する固体食品の製造方法である。
さらに、請求項4記載の発明は、微生物を利用して加工する固体食品が、豆乳凝固物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の微生物を利用して加工する固体食品の製造方法である。
ついで、請求項5記載の発明は、用いる微生物が、乳酸菌であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の微生物を利用して加工する固体食品の製造方法である。
本発明によれば、微生物を利用して加工する固体食品に、あらかじめ培養しておいた微生物を内部に均一に分散するよう添加して、当該微生物の菌体が破壊され内在する酵素が失活しない圧力処理を施すことで、微生物を死滅させるとともに微生物に内在する酵素を放出させることができる。
その後、このような圧力処理を施した固体食品を、当該微生物が増殖せず内在酵素が作用できる温度帯で必要時間保持することにより、微生物が増殖することなく内在酵素を作用させ食品成分を分解することが可能となるので、当該固体食品の呈味成分を効果的且つ効率的に増加させることができる。
本発明を発酵食品に用いれば、使用する微生物が含有する酵素を効率よく作用させ、製造期間を短縮することができる。また、発酵を伴わない食品加工においても、目的の酵素を含有する微生物を添加して、酵素製剤を使用することなく効果的に酵素反応を進行させ、食品成分の分解や改質を行うことも可能となる。
ラクトバシラス・サケイ(Lactobacillus sakei)を添加した豆乳凝固物の圧力処理後菌数の経日変化のグラフである。 ラクトバシラス・サケイ(Lactobacillus sakei)を添加した豆乳凝固物の圧力処理後pHの経日変化のグラフである。 ラクトバシラス・サケイ(Lactobacillus sakei)を添加した豆乳凝固物の圧力処理後遊離アミノ酸量の経日変化のグラフである。 エンテロコッカス・シュードアビウム(Enterococcus pseudoavium)を添加した豆乳凝固物の圧力処理後菌数の経日変化のグラフである。 エンテロコッカス・シュードアビウム(Enterococcus pseudoavium)を添加した豆乳凝固物の圧力処理後pHの経日変化のグラフである。 エンテロコッカス・シュードアビウム(Enterococcus pseudoavium)を添加した豆乳凝固物の圧力処理後遊離アミノ酸量の経日変化のグラフである。 ストレプトコッカス・ソヤラクティス(Streptococcus sojalactis)の低脂肪豆乳中での圧力処理後の菌数変化のグラフである。
以下に本発明の実施の形態を説明するが、これらは例示的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことはいうまでもない。
本発明における微生物を利用して加工する固体食品とは、チーズ、漬物、味噌、納豆のような伝統的発酵食品、水産物発酵食品、農産物発酵食品等最終製品が固体である発酵食品、また醤油、酒のように最終製品は液体でも発酵原料が固体である発酵食品を含むほか、食品原料のタンパク質や糖質等の成分を発酵を伴わずに単に酵素分解あるいは酵素改質することを目的に、所望する酵素を含有する微生物あるいは酵素製剤を添加する食品も含む。
本発明に用いることができる微生物は、固体食品の発酵に用いられる種々の微生物、例えば乳酸菌類、バシラス属菌類等の細菌類、カビ菌類、酵母菌類、さらには特定酵素の生産菌等、食品に用いることができる微生物すべてを含み、利用する目的に応じて選抜、使い分けを行えば良い。その際、酵素を菌体外に分泌する菌であろうと分泌しない菌であろうと、いずれの菌であっても使用することができる。
ただ、本発明が大きな効果を発揮するのは、酵素を菌体外に分泌しない又は分泌しにくい微生物を利用する場合である。例えば、ナチュラルチーズの製造に用いられる乳酸菌等が代表例といえる。また、後述する実施例に記載したように、豆乳凝固物の発酵に用いる乳酸菌等も好例である。
本発明で用いる微生物は、目的に応じて検討された培養液中であらかじめ培養する。微生物の培養条件(培地組成、培養温度、培養時間、静置/振とう培養等)は、使用する微生物の種類によって異なるため、利用する目的に応じて最適条件を検討し用いれば良い。培養した微生物は必要な菌体量を食品に添加するが、その際には、内在酵素を均一に速やかに作用させるために当該微生物を食品内部に均一に分散するよう添加するのが望ましい。
微生物を添加した固体食品に対して行う圧力処理の条件は、添加した微生物の菌体が破壊され、内在する酵素が失活しない条件を選定する。
微生物の圧力に対する感受性は菌種によって異なることが知られており、用いる微生物に応じた圧力の調整が必要である。
圧力については、種々の微生物の菌体破壊が起こりやすい100MPa以上の高圧処理が好ましい。ただ菌体を完全に破壊するためには600MPa程度の圧力が必要な場合がある。しかし、一般的な高圧処理装置の能力や負担を考慮すれば、圧力処理は400MPa以下で行うのが望ましい。
圧力処理が不十分な場合、その微生物が残存したり、たとえ圧力処理直後には増殖できなくても、生育可能な温度帯に保持することにより再増殖を始める場合がある。このような場合、内在酵素による作用に、その後に再増殖する微生物の影響が加わるため、食品の最終品質が安定しなくなる可能性がある。
特許文献1にもデータが示されているが、カビ菌と乳酸菌とでは後者の方が圧力耐性が高い。一般的に微生物の中では乳酸菌類は高圧耐性が高い傾向にあるため、この圧力に強い乳酸菌類について内在酵素を活用する技術体系ができれば、当技術の汎用性は高いと考えられる。
本発明の特徴は、もし圧力処理で死滅しきれない菌が残存しても、次の温度保持過程(いわゆる熟成過程)で、当該微生物が増殖できず内在酵素は作用できる温度帯に保持することで、食品成分の酵素分解を効率よく進行させ呈味成分を増加させることができることにある。
例えば、微生物に内在する酵素が低温でも作用する性質を持ち、その低温環境で微生物は静菌状態でも酵素反応は進行する場合であれば、高圧処理後の食品を低温で保持すれば良く、逆に微生物が増殖できない高温環境においても酵素反応の方は進行する場合であれば、高圧処理後の食品をその高温環境に保持すれば良い。
よって、用いる微生物に応じて、圧力処理の条件とその後の温度保持条件を適切に選定することより、残存する微生物が増殖しない状態で内在酵素を効果的且つ効率的に作用させることができる。
本発明において、食品の呈味成分を増加させる場合の呈味成分とは、食品成分中のタンパク質の分解によって生じるペプチドやアミノ酸、多糖類の分解によって生じる糖類等である。
これら呈味成分は、食品に旨味や甘味等を付与する。特に、乳製品や大豆食品、畜肉、水産物のようなタンパク質を多く含む食品にとっては、タンパク質分解物であるペプチド、アミノ酸が重要な呈味成分であり、従って作用を期待する内在酵素はプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)である。
通常、微生物に内在するプロテアーゼには、エンドペプチダーゼ(タンパク質分子の内部を切断する酵素)、アミノペプチダーゼ(タンパク質分子のN末端側からアミノ酸を1個ずつ切断する酵素)、カルボキシペプチダーゼ(タンパク質分子のC末端からアミノ酸を1個ずつ切断する酵素)、その他トリペプチダーゼ、ジペプチダーゼ等基質特異性や作用様式が異なる種々のタイプが知られているが、本発明におけるプロテアーゼとは、これらタンパク質分解に関わる全ての内在酵素を指す。もちろん内在酵素としては、微生物により多寡はあるが、多糖成分を分解するアミラーゼ、セルラーゼ、グルコシダーゼ等他にも種々存在し、例えば糖質関連酵素は呈味成分である糖類の生成に関与するため、これらの酵素も産業利用する内在酵素として重要である。
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の趣旨はもとよりこれに限定されるものではない。前述した通り、乳酸菌類での実施例を示すことが本発明の汎用性を裏付けることになるため、以下に各種乳酸菌を対象とした実施例を示す。
微生物を利用して加工する固体食品として、我が国の代表的な食材である豆乳凝固物を選択し、微生物に由来するプロテアーゼを利用した豆乳凝固物の製造を試みた。
1.豆乳の調製
太子食品工業株式会社豆腐工場において豆腐製造用に製造した低脂肪豆乳を使用し、ロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮した。当濃縮豆乳の乾燥固形分は25%であった。
2.添加する微生物の培養
乳酸菌の一種ラクトバシラス・サケイ(Lactobacillus sakei)をMRSブイヨン培地で前培養し、豆腐ホエー液に植え次ぎ、30℃で48時間本培養した。培養液を遠心分離して集菌し、リン酸緩衝液(pH6.5)で洗浄した後、低脂肪豆乳を用いて約1010cfu/gの菌濃度となるよう菌体懸濁液を調製しスターター菌液とした。
3.圧力処理用密封試料の調製
真空包装用プラスチック袋に項目1で調製した濃縮豆乳を充填し、さらに項目2で調製したスターター菌液を約10cfu/gとなるよう均一に分散させた後真空シールし、圧力処理用試料とした。
4.圧力処理
400MPaまで圧力処理が可能な高圧処理装置(株式会社神戸製鋼所製、型式CP−900)を用いて、項目3で調製した試料の圧力処理を行った。圧力処理は、25℃、350MPa、60分間という条件で行い、その後各種温度(20℃、45℃)で保存して、菌数及びpHと生成された遊離アミノ酸量の経日変化を追跡した。なお、圧力処理後の濃縮豆乳は凝固していた。
5.遊離アミノ酸量の測定
試料中の遊離アミノ酸量は、TNBS(トリニトロベンゼンスルホン酸)法により分析した。すなわち、試料250mgをペンシル型ミキサーで破砕し、リン酸緩衝液(pH6.5)1mLに懸濁し遠心限外ろ過(ミリポア社製マイクロコン、分画分子量10,000を使用)した。透過液中の遊離アミノ酸量をTNBS法で測定、L−グルタミン酸を標準物質として作製した検量線を用い、菌無添加で圧力処理した試料を陰性対照として算出した。
菌数測定結果を図1のグラフに、pHの測定結果を図2のグラフに、遊離アミノ酸測定結果を図3のグラフにそれぞれ示した。図1のグラフに示すように、25℃、350MPa、60分の圧力処理直後は不検出だった菌数も、20℃で保存すると菌の回復が観察され、3日目には10cfu/gを超えるまで増加した。しかし45℃で保存した試料は10日目でも菌不検出であり、菌増殖は起こっていなかった。図2のグラフに示すpHの経日変化にも菌数の結果が反映されている。
すなわち、20℃で保存した試料は菌増殖による酸生成で5日目にはpH5以下に低下した。一方、45℃で保存した試料は、3日目までpH低下は見られず5日目以降わずかに低下が見られた。
このわずかなpH低下は菌の増殖によるものではなく、高圧処理により分泌された内在酵素が作用したことによる代謝産物に起因するものと推定された。
遊離アミノ酸量については、45℃で保存した試料において着実な増加が確認され、当温度でプロテアーゼが着実に作用した結果と考えられた。これに対して、20℃保存の試料の遊離アミノ酸量は不安定な傾向を示し、菌の増殖による代謝の影響が表れていると推定された。
以上の結果が示す通り、当実施例で用いた乳酸菌ラクトバシラス・サケイ(Lactobacillus sakei)の場合、25℃、350MPa、60分という圧力処理の後、当試料を当菌が増殖しない45℃で保存することにより、内在酵素が着実に作用し、呈味成分を増加させることができた。
添加する微生物を、乳酸菌の一種であるエンテロコッカス・シュードアビウム(Enterococcus pseudoavium)として、それ以外は実施例1と同様に実施した。菌数測定結果を図4のグラフに、pHの測定結果を図5のグラフに、遊離アミノ酸測定結果を図6のグラフにそれぞれ示した。
菌数及びpHの経日変化は実施例1とほぼ同様であった。遊離アミノ酸量については、45℃で保存した試料は3日目まで順調に増加した。ただし、それ以降は増加が頭打ちとなった。
一方20℃で保存した試料は実施例1と同様不安定な傾向を示した。
以上の結果は、当菌については、25℃、350MPa、60分の圧力処理と、その後の当菌が増殖しない45℃での保存という条件が、ある程度は効果があったものの最適条件ではなかったものと推定される。圧力条件が当菌の内在酵素にとって強すぎた、45℃という保存温度が当菌の内在酵素にとって高すぎたなどの理由が考えられる。これは、菌種に応じて、当該菌が増殖せず内在酵素が作用しやすい圧力・温度条件を精査する必要があることを示している。
試験例1
豆乳に微生物を添加して圧力処理した場合の圧力値と残存菌数の関係について調べた。すなわち、低脂肪豆乳に乳酸菌の一種ストレプトコッカス・ソヤラクティス(Streptococcus sojalactis)の培養液を10cfu/gとなるよう添加し、真空包装用プラスチック袋に充填して真空シールして高圧装置にかけた。
25℃で、200MPa〜600MPaの圧力で10分間処理した後の生菌数を測定した。その結果を図7のグラフに示した。圧力上昇に伴い生菌数が減少し、当菌は10分間の圧力処理では500MPa以上で不検出となった。
本発明は、微生物を利用して加工する食品産業および酵素産業において利用される。

Claims (5)

  1. 微生物を利用して加工する固体食品に、あらかじめ培養しておいた微生物であって、酵素を菌体外に分泌しない又は分泌しにくい性質の微生物を内部に均一に分散するよう添加して、当該微生物の菌体が破壊され内在する酵素が失活しない圧力処理を施し、その後、この圧力処理を施した固体食品を、当該微生物が増殖せず内在酵素が作用できる温度帯で必要時間保持することにより、当該固体食品の呈味成分を増加させることを特徴とする微生物を利用して加工する固体食品の製造方法。
  2. プロテアーゼを含有する微生物を用いることを特徴とする請求項1記載の微生物を利用して加工する固体食品の製造方法。
  3. 前記圧力処理は、処理を施す固体食品の種類及び用いる微生物の種類に応じて、100MPa〜400MPaの間のいずれかの圧力値に設定することを特徴とする請求項1に記載の微生物を利用して加工する固体食品の製造方法。
  4. 微生物を利用して加工する固体食品が、豆乳凝固物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の微生物を利用して加工する固体食品の製造方法。
  5. 用いる微生物が、乳酸菌であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の微生物を利用して加工する固体食品の製造方法。

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