上記「鼻粘膜上皮細胞核内にIL−33を含有するヒト以外のモデル動物」には、鼻粘膜上皮細胞核内のIL−33を欠損した動物は含まれない。健常な動物であれば元々鼻粘膜上皮細胞核内にIL−33を含有しているが(内因性IL−33)、例えば後述するil33−/−マウスのようなIL−33を欠損した動物は、実施例に示すように、鼻粘膜上皮細胞核内にIL−33を含まないため、アレルギー性鼻炎の発症が著明に抑制される。よって、鼻粘膜上皮細胞核内のIL−33を欠損した動物をブタクサ花粉で感作し、ブタクサ花粉を鼻腔内に投与して得られた動物は本発明に含まれない。
なお、鼻粘膜上皮細胞核内のIL−33は、抗体免疫染色法によってその存在を確認することができる。さらに、正常な鼻粘膜上皮細胞をホモジェネートした上清は、概ねタンパク質1mgあたり23.7ngのIL−33を含有する(Matsuba-Kitamura S, Yoshimoto et al., Int Immunol 2010; 22:479-89.)。
上記「鼻粘膜上皮細胞核内にIL−33を含有するヒト以外のモデル動物」は、鼻粘膜上皮細胞の核外にもIL−33を含有していてもよいが、鼻粘膜上皮細胞の核外へIL−33が放出されているモデル動物は、既にアレルギー性鼻炎を発症している可能性があるため、鼻粘膜上皮細胞の核内のみにIL−33を含有していることが好ましい。
上記モデル動物の動物種としてはブタクサ花粉によってアレルギー性鼻炎を発症しうるものであれば特に限定されるものではない。例えば、マウス、ラット、イヌ、ネコ、サル等の哺乳動物を用いることができる。
「ブタクサ花粉で感作した」とは、モデル動物の生体内に、ブタクサ花粉特異的Th2免疫応答(ブタクサ花粉特異的Th2細胞およびブタクサ花粉特異的IgE抗体)を誘導することを意味する。ブタクサ花粉としては、市販のものでも天然のものでも構わない。
上記感作に用いるブタクサ花粉の投与量および投与方法は、上記モデル動物の種類や、体重、年齢等にあわせて、適宜設定すればよい。例えば、上記モデル動物がマウスである場合、感作に用いるブタクサ花粉の投与量は、体重1kgあたり4mg〜8mgであることが好ましい。
上記モデル動物がマウスである場合、感作時のブタクサ花粉の投与方法としては、例えば、Th2免疫応答を誘導するアジュバントである水酸化アルミニウムと上記量のブタクサ花粉とを皮下注射し、その後(例えば1週間後)にブタクサ花粉を皮下注射または腹腔内投与する方法等を挙げることができる。
本発明では、上記モデル動物の感作を行った後に、ブタクサ花粉を当該モデル動物の鼻腔内に投与する。ブタクサ花粉の鼻腔内への投与量および投与方法は、上記モデル動物の種類や、体重、年齢等にあわせて、適宜設定すればよい。例えば、上記モデル動物がマウスである場合、鼻腔内投与に用いるブタクサ花粉の量は、体重1kgあたり40mg〜200mgを3回〜6回投与することが好ましい。
上記アレルギー性鼻炎モデル動物が発症するアレルギー性鼻炎の程度は、例えば、上記鼻腔内投与(以下、単に「点鼻」ともいう)の終了後10分間に上記モデル動物がしたくしゃみの回数を測定することによって早期相の程度を評価することができる。
また、例えば、上記鼻腔内投与の終了から24時間後に鼻粘膜の組織学的解析、頚部リンパ節細胞からのTh2サイトカイン産生の解析、ブタクサ花粉特異的な血清IgE値の測定を行うことなどにより、遅発相の程度を評価することができる。
なお、上記早期相とは、IgE抗体依存性の反応であり、症状としては、ブタクサ花粉に曝露された後10分以内に出現するくしゃみや鼻水が挙げられる。一方、遅発相はTh2サイトカイン依存性の反応であり、症状としては、ブタクサ花粉に曝露された後6〜12時間後に鼻粘膜に好酸球が浸潤し、鼻粘膜の過敏性が亢進することにより生じる鼻詰まりや不快感の持続が挙げられる。
後述する実施例に示すように、本発明者は、上記アレルギー性鼻炎モデル動物では、ブタクサ花粉を鼻腔内投与する前には鼻粘膜上皮細胞の核内に局在していた内因性IL−33が、上記鼻腔内投与によって鼻粘膜上皮細胞から放出され、鼻汁中へ移行することを初めて明らかにした。
それゆえ、上記アレルギー性鼻炎モデル動物は、鼻粘膜上皮細胞の核内におけるIL−33の発現強度が、ブタクサ花粉を鼻腔内投与する前の鼻粘膜上皮細胞の核内におけるIL−33の発現強度よりも小さいという性質を有している。後述するように、この性質は、IL−33がアレルギー性鼻炎発症の原因物質であることに基づいている。上記IL−33の発現強度は、従来公知の方法(例えば、後述する〔免疫組織化学的試験の定量〕、〔ELISA分析〕の項に記載の方法)によって確認することができる。
本発明にかかるアレルギー性鼻炎モデル動物は、後述する実施例に示すように、ブタクサ花粉の代わりにPBSを鼻腔内投与した群と比較して、鼻腔内投与後10分間のくしゃみ回数の亢進が見られ(例えば図1の(a))、鼻腔内投与24時間後の鼻粘膜への好酸球浸潤(例えば図2、3、5、6、7)、鼻粘膜上皮の多列化(例えば図2、5)および杯細胞からのムチン産生の亢進(例えば図4、8)を伴い、ブタクサ花粉特異的な血清IgEおよび頚部リンパ節細胞からのTh2サイトカイン産生が著明に増強されるという病態を示した。
さらに、後述する実施例に示すように、本発明にかかるアレルギー性鼻炎モデル動物では、元来鼻粘膜に存在しない好塩基球が、ブタクサ花粉の鼻腔内投与後に経時的に著明に浸潤増加するのに対し(例えば図15)、マスト細胞数に変化は見られなかった。また、組織学的鼻粘膜への好酸球浸潤は、マウス頚部リンパ節細胞中の好酸球(SSChighSiglec−F+CCR3+好酸球)数と比例し、フローサイトメトリーによって簡易に判定することができた(例えば図9,10)。
一方、IL−33欠損マウスとFcεRI欠損マウスとではくしゃみ回数、好酸球浸潤、および好塩基球浸潤が著明に抑制された(例えば図13の(a),(b)、図15の(b))。また、上述のように鼻粘膜上皮細胞核内に局在するIL−33は、ブタクサ花粉の鼻腔内投与によって鼻粘膜上皮細胞から放出された(例えば図12の(a)〜(d))。そして、ナイーブマウスにブタクサ花粉を1回点鼻後経時的に鼻洗浄液を採取してIL−33の産生をELISAにて測定した結果、点鼻後4時間をピークとしてIL−33が検出された(図12の(f))。
これらの結果から、本発明にかかるアレルギー性鼻炎モデル動物において、ブタクサ花粉によって誘導された内因性IL−33は、鼻粘膜上皮細胞から放出され、FcεRI+細胞(CTMC,MMCおよび好塩基球)を刺激してくしゃみ発生、並びに好酸球および好塩基球の遊走に関与することが示唆された。
実際、実施例に示すように、FcεRIが架橋された結合組織型マスト細胞(CTMC)と粘膜型マスト細胞(MMC)はIL−33濃度依存的にヒスタミン産生を増強することが確認された(図13)。このことから、アレルギー性鼻炎におけるくしゃみ発生は、IL−33およびFcεRI+細胞(マスト細胞および抗塩基球)を介して生じることが明らかとなった(図20)。図20は、アレルギー性鼻炎の早期相および遅発相へのIL−33の関与を示す図である。
さらに、CTMC,MMCおよび好塩基球は、FcεRIが架橋され、IL−33で刺激されると、好酸球遊走因子であるIL−13,エオタキシンおよびランテス、好塩基球遊走因子であるMCP−1およびMIP−1αを著明に産生した(図16)。このことから、鼻粘膜への好酸球および好塩基球の浸潤は、IL−33およびFcεRI+細胞(マスト細胞および抗塩基球)を介して生じることが明らかとなった(図20)。
このように、本発明にかかるアレルギー性鼻炎モデル動物は、臨床的、病理的にヒトのアレルギー性鼻炎に酷似した病態を示し、かつ、簡便に作製、解析が可能であり、アレルギー性鼻炎の発症機序の解析に非常に有効であるといえる。また、アレルギー性鼻炎に有効な新規治療薬、治療方法の開発などに好適に用いることができるという点でも非常に有用である。
本発明にかかるアレルギー性鼻炎モデル動物は、IL−33を中和することによって、アレルギー性鼻炎の症状が改善される。これは、上述のように、本発明にかかるアレルギー性鼻炎モデル動物において、アレルギー性鼻炎の発症はIL−33に依存していることによる。
本明細書において「アレルギー性鼻炎の症状が改善される」とは、アレルギー性鼻炎の諸症状(くしゃみ、鼻水、鼻詰まり等)のうち一以上が、IL−33の中和前に比べて緩和されることを意味する。例えば上記くしゃみ、鼻水、鼻詰まり等のうち、全ての症状が緩和されることが望ましいが、一つの症状が緩和される場合でも、患者から不快感を除去することができるため、IL−33を中和することによってアレルギー性鼻炎の症状の一以上が改善される場合も本発明に含まれる。
なお、本明細書において、「IL−33を中和する」とは、「IL−33の機能を阻害する」との意味のみならず、「IL−33を分解する」、および「IL−33の産生を阻害する」の意味を包含する。
したがって、上記アレルギー性鼻炎モデル動物において、アレルギー性鼻炎の症状を改善する方法としては、IL−33に対する抗体の使用、IL−33の阻害剤の使用、IL−33拮抗剤の使用、およびIL−33の産生抑制剤の使用が挙げられる。例えば、上記IL−33拮抗剤としては、sST2−Fc融合タンパク質等が挙げられる。上記sST2−Fc融合タンパク質は、IL−33に選択的に結合し、IL−33を中和するものである。つまり、sST2−Fc融合タンパク質は、デコイIL−33Rである。
具体的には、上記スクリーニング方法は、上記アレルギー性鼻炎モデル動物に被験物質を投与する工程(以下、「被験物質投与工程」ともいう)と、上記被験物質のアレルギー性鼻炎の改善効果を検定する工程(以下、「検定工程」ともいう)を含んでいればよく、その他の具体的な構成は特に限定されるものではない。以下、上記被験物質投与工程および検定工程について説明する。
例えば、上記アレルギー性鼻炎モデル動物は、上述したように、IL−33の中和により、アレルギー性鼻炎の症状が改善される。したがって、IL−33を中和することが期待される物質を被検物質とすればよい。具体的には、IL−33に対する抗体、IL−33の阻害剤、IL−33の拮抗剤、およびIL−33の産生阻害剤などが例示できる。
上記被検物質を上記アレルギー性鼻炎モデル動物に投与する方法は特に限定されるものではなく、上記被検物質の性質などによって、適宜選択して行えばよい。例えば、鼻腔内投与、経皮投与、筋内投与、腹腔内投与、静脈内投与、関節内投与、皮下投与、または経口投与などを挙げることができる。本発明では、スクリーニングされたアレルギー性鼻炎治療剤の実用化の観点から、鼻腔内投与することが好ましい。
例えば、上記被検物質を投与する前の上記アレルギー性鼻炎モデル動物の鼻汁中におけるIL−33の量と、上記被検物質を投与した後の上記アレルギー性鼻炎モデル動物の鼻汁中におけるIL−33の量とを比較して、被検物質投与後の上記鼻汁中のIL−33の量が有意に低ければ、当該被検物質にはアレルギー性鼻炎の改善効果があると考えることができる。
なお、上記項目(a)〜(g)の検証方法としては、例えば、後述の実施例に記載の方法を挙げることができる。例えば、上記鼻汁中のIL−33の量を測定する方法としては、後述する〔ELISA分析〕に記載した方法を例示することができる。
上記スクリーニング方法によってアレルギー性鼻炎の改善効果があると判断された被検物質は、アレルギー性鼻炎治療剤として用いることができる。このように、上記スクリーニング方法は新規アレルギー性鼻炎治療剤の開発に非常に有用である。
上記鼻汁採取手段としては、従来公知の綿棒、吸引用チューブなどを用いることができる。上記鼻汁中に含まれるIL−33の定量を行うための検体としては、例えばELISA測定用に調製したサンプルを挙げることができる。上記検体調製手段としては、例えばELISA測定用のサンプル調製に用いる部材、すなわち、抗体固相化プレート、ビオチン結合抗体溶液、酵素-ストレプトアビジン結合物、酵素基質溶液、標準溶液などの組み合わせを挙げることができる。上記キットには、その他の構成として、例えばELISA装置を含んでいても良い。
上記「アレルギー性鼻炎治療剤」とは、アレルギー性鼻炎の治療効果を有する薬剤をいう。「治療効果を有する」とは、上記アレルギー性鼻炎治療剤の投与によってアレルギー性鼻炎の諸症状のうち一以上が投与前よりも改善されることをいう。
よって、上記「アレルギー性鼻炎治療剤」には、アレルギー性鼻炎の治療効果を有するものであれば、既存のアレルギー性鼻炎治療剤の他、開発中の試作品なども含まれる。
上記アレルギー性鼻炎モデル動物は、ヒトのアレルギー性鼻炎に酷似した症状を呈するため、例えば既存のアレルギー性鼻炎治療剤の治療効果を、ヒトに投与することなくin vivoで効率よく判定することができる。
本発明にかかるアレルギー性鼻炎モデル動物にアレルギー性鼻炎治療剤を投与する方法は特に限定されるものではなく、上記アレルギー性鼻炎治療剤の性質などによって、適宜選択して行えばよい。例えば、鼻腔内投与、経皮投与、筋内投与、腹腔内投与、静脈内投与、関節内投与、皮下投与、または経口投与などを挙げることができる。
上記治療効果の判定は、鼻粘膜への好酸球および/または好塩基球の浸潤、鼻粘膜における杯細胞の増殖、頚部リンパ節中の好酸球数、くしゃみの回数、Th2サイトカインの産生、鼻汁中のIL−33の量などをアレルギー性鼻炎治療剤の投与前後において測定し、結果を異なるアレルギー性鼻炎治療剤間で比較すること等によって行うことができる。中でも、頚部リンパ節中の好酸球数をフローサイトメトリーによって解析する方法は、組織染色法よりも極めて簡便に、かつ迅速に治療効果を判定できるため好ましい。
なお本発明は、以上例示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術範囲に含まれる。
本発明について、実施例および図面に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
〔サンプル等〕
正常な鼻粘膜の被験体は、粘膜下鼻介骨切除術、鼻形成術、上顎全摘出術または下鼻甲介の摘出を受けた患者の下鼻甲介から取得した。アレルギー性鼻炎患者の鼻粘膜の被験体は、粘膜下鼻介骨切除術を受けたアレルギー性鼻炎患者から取得した。上記被験体を、10%のバッファーを含有するホルマリン中で室温にて一晩固定し、パラフィンに包埋した。総勢10人のアレルギー性鼻炎患者は京都府立医科大学病院の患者である。
7つのエアロアレルゲン、すなわちヤケヒョウダニ(チリダニ)、スギ、ヒノキ、鴨茅、ハンノキ、ブタクサ、ヨモギに特異的なIgEを、ファルマシアCAPシステム(ファルマシアCAP,Upsala, スウェーデン)を用いて測定した。アレルゲン特異的な血清IgEレベルが>0.7(CAP RASTスコアが2)である場合に感作陽性とした。上記患者の個体群統計学的特徴および臨床的特徴を表1にまとめた。
患者全員が2年を超えて鼻炎症状(くしゃみ、鼻水、鼻詰まり)を示しており、血清中にチリダニに対する特異的IgEを有していた。また、アレルギー性鼻炎の症状を示しておらず、全てのアレルゲンに感作を示していない総勢5人の健常者を集めた(表1を参照)。被験者は全員が日本人で、実験への参加に同意した者である。
〔試薬〕
組み換えマウスIL−33、および、マウスIL−33に対するポリクローナルウサギIgG抗体は、従来公知の方法(Kondo, Y. et al., Int Immunol 20, 791-800 (2008)、Matsuba-Kitamura, S. et al. Int Immunol 22, 479-489 (2010))によって発明者らの研究室において調製した。ヒトIL−33に対するポリクローナルウサギIgG抗体はMBL社(日本)より購入した。
PE−抗マウスc−kit、PE−抗マウスSiglec-F(E50-2440)およびビオチン抗マウスIgE(R35-118)はBDバイオサイエンス社(San Diego, CA, USA)より購入した。FITC−抗マウスST2(IL−33レセプターα鎖)はMDバイオサイエンス社(St.Paul, MN, USA)より購入した。
ビオチン−抗マウスFcεRIα(MAR−1)およびストレプトアビジン−アロフフィコシアニン(APC)はeバイオサイエンス社(San Diego, CA, USA)より購入した。抗CD16/32(FcγRII/III)はバイオレジェンド社(San Diego, CA, USA)より購入した。ラット抗マウスIgE(23G3)およびアフィニティ精製ヤギ抗マウスIgG1はSouthern Biotechnology Associates Inc.(Birmingham, AL, USA)から購入した。
マウスmMCP−8に特異的なモノクローナル抗体(クローン;TUG8)は、東京医科歯科大学より提供を受けた。ブタクサ花粉はPolyScience(Niles, IL, USA)より購入した。ブタクサ花粉抽出物はLSL社(日本)より購入した。マウスIL−3、IL−4、幹細胞因子(SCF)およびFITC−抗マウスCCR3はR&D Systems社(Minneapolis, MN, USA)より購入した。抗DNPIgEmAbおよびOVA(グレードV)はSigma社から購入し、2,4-ジニトロフェニル(DNP)複合OVAは発明者らの研究室で調製した。
〔In vitroにおけるサイトカインおよびヒスタミンの産生〕
10%ウシ胎児血清、2−ME(50μM)、L−グルタミン(2mM)、ペニシリン(100U/ml)およびストレプトマイシン(100μg/ml)を含有するRPMI1640培地中に、従来公知の照射された抗原提示細胞(APCs;照射されたT細胞除去BALB/c 脾細胞)1×105個の存在下、頚部リンパ球を、IL−2(100pM)およびブタクサ花粉抽出物(5μg/ml)とともに2×105個/0.2ml/wellとなるように96穴プレートに入れ、5日間培養した。
後述するように調製し、精製した骨髄由来の結合組織型マスト細胞(CTMC)、粘膜型マスト細胞(MMC)または好塩基球(5×104個/0.2ml/Well)を、FcεRIを架橋して、または架橋せずに、IL−3(20U/ml)のみ、または、IL−3およびIL−33(100ng/ml)で刺激した。
FcεRIを架橋するため、精製したCTMC,MMCおよび好塩基球をマウスIgE抗DNP(1μg/ml)で1時間感作し、IL−3のみ、またはIL−3およびIL−33の存在下で、DNP−OVA(10μg/ml)と共に5時間(ヒスタミン放出用)または16時間(サイトカイン放出用)培養した。
上清を回収し、サイトカインまたはヒスタミンの産生を、ELISAキット(R&D Systems)、Bio−Plex システム(BioRad, Hercules, CA, USA)またはヒスタミンELISAキット(Immunotech, Marseille Cedex, France)をそれぞれ用いて評価した。
〔フローサイトメトリーおよび細胞の精製〕
骨髄由来のCTMC、MMCおよび好塩基球を従来公知の方法(Kondo, Y. et al., Int Immunol 20, 791-800 (2008)、Karimi, K. et al., Exp Hematol 27, 654-662 (1999)、Yoshimoto, T. et al. Nat Immunol 10, 706-712 (2009))によって調製した。つまり、IL−4(10ng/ml)およびSCF(100ng/ml)またはIL−3(10U/ml)と共に、完全RPMI1640培地中でそれぞれ30日または14日培養した骨髄細胞を2回洗浄した。
まず、当該骨髄細胞を抗FcγRII/III(10μg/ml)を用いて4℃で30分間処理し、次に、ビオチン−抗マウスFcεRIα(5μg/ml)を用い、染色バッファー(1%(vol/vol)FCS含有PBS)中で4℃で2時間処理した。2回洗浄した後、細胞をストレプトアビジンAPCおよびPE−抗マウスc−kitを用いて30分間染色した。
サンプルは、蛍光セルソーター(FACS Aria; BD Bioscience)を用いてFcεRI+c−kit+細胞(マスト細胞)またはFcεRI+c−kit−細胞(好塩基球)に精製した。それぞれの集団の純度は97%以上であった。さらに、得られた集団をFITC−抗マウスST2(IL−33レセプターα鎖)を用いて染色した。頚部リンパ節中の好酸球を解析するため、細胞を回収し、FACS Calibur(BD Biosciences社製)を用いて、SSChigh 細胞(Matsuba-Kitamura, S. et al., Int Immunol 22, 479-489 (2010))上にゲートされたSiglec−F+CCR3+細胞の発現を調べた。
〔組織化学的解析〕
マウスの顔面の皮膚を剥離した後、マウスの頭部を上顎と下顎との間で切断し、鼻を除去した。サンプルをすぐに4%のパラホルムアルデヒド中に固定し、4℃で3日間放置し、0.12MのEDTA溶液(pH6.5)中、室温で7日間脱石灰した。上記EDTA溶液は毎日交換した。
脱石灰後、組織をパラフィンに包埋し、4μmの冠状切片に切断し、ヘマトキシリン・エオジン(H&E)、過ヨウ素酸シッフ(PAS)、トルイジンブルー、またはアルシアンブルーを用いて染色した。CTMC、MMCおよび好塩基球のサイトスピン標本は、ディフ・クイック(登録商標)またはトルイジンブルーで染色した。好塩基球の免疫組織化学的染色は、従来公知の方法(Ugajin, T. et al. J Leukoc Biol 86, 1417-1425 (2009))に従って行った。
まず組織切片をマイクロ波で処理し、続いて、内因性ペルオキシダーゼを阻害するための0.3%過酸化水素含有メタノールおよび抗体の非特異的結合を回避するための0.25%カゼイン含有タンパク質ブロッキング溶液(Dako, Carpinteria, CA, USA)と反応させた。
次に、組織切片を抗mMCP−8(TUG8)(2.5μg/ml)と4℃で一晩反応させ、続いてHRP複合ヤギ抗ラットIgG(1:500に希釈)と反応させた。得られた組織切片は、次に、3’−ジアミノベンジデンテトラヒドロクロライド溶液(Dako 製)中で反応させ、ヘマトキシリンを用いて対比染色した。
〔共焦点顕微鏡〕
新たに分離した鼻の検体由来の凍結切片を固定し、FITC−抗マウスST2およびPE−抗マウスSiglec−Fと4℃で一晩反応させた。IL−33タンパク質を染色するために、サンプルを4%パラホルムアルデヒド中で4℃で一晩反応させた。上記鼻のパラフィン包埋切片(4μm厚)からパラフィンを除去し、クエン酸バッファー(pH6.0)中、マイクロ波により加熱(500ワット5分、3回)した後、ブロッキングする前に室温で50分間冷却した。
上記切片を1.0%BSAおよび0.05%Tween20を含有するPBS中で反応させ、ブロッキングさせた。上記切片を一次抗体、すなわち、マウスIL−33またはヒトIL−33に対する精製ポリクローナルウサギIgG抗体と共に4℃で一晩反応させ、次に二次抗体、すなわちウサギIgGに対するビオチン複合ヤギ抗体(Vector Laboratory製、Burlingame, CA, USA)と共に室温で30分間反応させた。
次に、切片を三次抗体、すなわちAlexa Fluor 555 複合ストレプトアビジン(Invitrogen製、Carlsbad, CA, USA)を用いて室温で30分間染色した。DAPI(4',6-ジアミジノ−2−フェニルインドール)(Invitrogen製)を含有する封入剤を用いてカバーガラスをかけた切片を、Zeiss LSM 510(Carl Zeiss, Thomwood, NY, USA)を用いて観察した。コンピュータソフトウェアとしては、Zeiss LSM 510 ver.3.2(Carl Zeiss)を用い、イメージプロセシングおよび解析を行った。
〔免疫組織化学的試験の定量〕
免疫組織化学的に染色した鼻膜中のIL−33の定量画像解析を従来公知の方法(Vrekoussis, T. et al., Anticancer Res 29, 4995-4998 (2009))によって行った。つまり、マウス鼻介甲中のIL−33染色画像をZeiss LSM 510によって捕捉し、白黒の状態で保存した。サンプルあたり10個のランダムに選択した領域(20μm×20μm)の平均灰色値をNIHのウェブサイト(http://rsb.info.nih.gov/ij)からダウンロードしたfreeware image J 1.42qによって測定し、平均値±s.e.mとして解析した。
〔ELISA分析〕
IgEの総量は従来公知の方法(Yoshimoto, T et al., Proc Natl Acad Sci U S A 92, 11931-11934 (1995))によって測定した。ブタクサ花粉に特異的な血清IgEを検出するため、ビオチン複合ブタクサ花粉抽出物を発明者らの研究室において調製した(Matsuba-Kitamura, S. et al. Int Immunol 22, 479-489 (2010))。鼻汁中のIL−33をマニュアルに従い、ELISA(R&D System製)を用いて分析した。
〔統計処理〕
統計的有意差は、two-tailed Student's t-testを用いて計算し、p<0.05で統計的有意差ありと判断した。
〔実施例1:アレルギー性鼻炎モデルマウスの作製、および、ブタクサ花粉で感作し、ブタクサ花粉で誘導したアレルギー性鼻炎の確立〕
IL−33欠損マウスであるil33−/−マウス(129SvJ×C57BL/6)を、BALB/cマウス(日本チャールスリバー(株)より購入)と7世代に渡り戻し交雑させ、得られたil33+/+マウスを実験に用いた。上記il33−/−マウスは、大阪大学審良静男教授より譲渡頂いた。
上記il33+/+マウスをブタクサ花粉で感作し、その後ブタクサ花粉を点鼻することにより、本発明にかかるアレルギー性鼻炎モデルマウスを得た。すなわち、ブタクサ花粉(200μlのPBSに溶解させたブタクサ花粉100μg)と水酸化アルミニウム水和ゲル(200μlのPBSに溶解させた水酸化アルミニウム水和ゲル1mg、Sigma Aldrich, St. Louis, Mo, USA)との混合物を皮下注射し(当該皮下注射を行った日を0日目とする)、7日目に200μlのPBSに溶解させたブタクサ花粉100μgを皮下注射した。
1週間後、上記マウス(1グループあたり5匹)にブタクサ花粉(20μlのPBSに溶解したブタクサ花粉1mg)またはPBS(20μl)を4日連続で点鼻し、本発明にかかるアレルギー性鼻炎モデルマウスを得た。また、上記il33−/−マウスに対して上記il33+/+マウスに対するのと同様の処置を施したマウスも調製した。
最終点鼻後すぐに、マウスがくしゃみをした回数を盲検法で10分間測定した。最終点鼻の24時間後に、下大静脈から末梢血を回収し、血清を遠心分離によって調製した。次にマウスを屠殺し、鼻および頚部リンパ節を分離し、さらなる組織学的および免疫学的解析に供した。
いくつかの実験では、ナイーブマウスまたはブタクサ花粉で感作した上記アレルギー性鼻炎モデルマウスにブタクサ花粉(20μlのPBSに溶解させたブタクサ花粉1mg)を1回点鼻し、点鼻後1,2,4,8,12,24,48時間後にマウスを屠殺し、鼻の組織学的検査および鼻洗浄液の回収を行った。鼻は150μlのPBSを用いて2回洗浄し、得られた鼻洗浄液を遠心分離して上清を調製し、解析を行うまで−80℃で保存した。
図1は、本発明にかかるアレルギー性鼻炎モデルマウスおよび上記il33−/−マウスをブタクサ花粉で感作し、ブタクサ花粉を点鼻することによって得たマウスを用いた場合の、くしゃみの回数(図1のa)、血清IgEの総量(図1のb)、ブタクサ花粉に特異的な血清IgEの量(図1のc)を示している。
図1および他の図面の横軸において、「normal」は免疫および点鼻を行わない試験区、「PBS」はブタクサ花粉で感作し、PBSを点鼻することによって得たマウスを用いた試験区、「RW」は、ブタクサ花粉で感作し、ブタクサ花粉を点鼻することによって得たマウスを用いた試験区を表す。
図1の(a)に示すように、PBSを点鼻したコントロールマウスと比較して、ブタクサ花粉を点鼻したマウスでは、くしゃみの回数が有意に増加していた(PBSを点鼻したコントロールマウスでは4.5±2.2回、ブタクサ花粉を点鼻したマウスでは69.3±5.5回;P<0.001)。このことは、ブタクサ花粉の点鼻によって、IgE依存的に即時相タイプのアレルギー性鼻炎を誘導可能であることを示唆している。
図1の(b)および(c)に示すように、PBSを点鼻したマウスと比較して、ブタクサ花粉を点鼻したマウスでは、最終点鼻の1日後に測定すると、血清IgEの総量およびブタクサ花粉に特異的な血清IgEの量が有意に増加していた(P<0.005)。なお、図1の(a)〜(c)において、*はtwo-tailed Student's t-testにおいてp<0.05であることを示し、**はP<0.005であることを示し、***はP<0.001であることを示す。
図2は、ブタクサ花粉で感作し、ブタクサ花粉を点鼻したil33+/+マウス(本発明にかかるアレルギー性鼻炎モデルマウス)の鼻の、ヘマトキシリン・エオジンで染色した冠状切片(図2の(a)および(b))、上記il33−/−マウスをブタクサ花粉で感作し、ブタクサ花粉を点鼻することによって得たマウスの鼻の、ヘマトキシリン・エオジンで染色した冠状切片(図2の(c))を示している。図2の(b)、(c)は、図2の(a)中枠囲みした領域に相当する部分を拡大したものである。
図3は、ブタクサ花粉で感作し、PBSを点鼻したマウス、および、ブタクサ花粉で感作し、ブタクサ花粉を点鼻したマウスの外側鼻粘膜中の好酸球数をカウントした結果を示している。図中、*はtwo-tailed Student's t-testにおいてp<0.05であることを示し、***はP<0.001であることを示す。
図4は、ブタクサ花粉で感作し、ブタクサ花粉を点鼻したil33+/+マウスおよびil33ー/ーマウスの鼻中隔を過ヨウ素酸シッフ(PAS)によって染色した結果を示している。
なお、図2〜4では、15〜20個の鼻を用いて得られた結果のうち、代表的な結果を示している。
図5,6は、ブタクサ花粉で感作し、ブタクサ花粉を点鼻したil33+/+マウスでは鼻へ好酸球が誘導されることを示している。
図5の(a)〜(c)は、ブタクサ花粉で感作し、PBSを点鼻した上記il33+/+マウスの鼻の、ヘマトキシリン・エオジンで染色した冠状切片を示し、図5の(d)〜(f)は、ブタクサ花粉で感作し、ブタクサ花粉を点鼻した上記il33+/+マウスの鼻を、ヘマトキシリン・エオジンで染色した冠状切片を示す。図5の(a),(d)は外側鼻粘膜、(b)、(e)は鼻甲介、(c)、(f)は鼻中隔の切片である。図2の(b)は図5の(d)に該当する。
図6の(a)は、ブタクサ花粉で感作し、ブタクサ花粉を点鼻したil33+/+マウス(本発明にかかるアレルギー性鼻炎モデルマウス)の鼻の、ヘマトキシリン・エオジンで染色した冠状切片(図2)を更に詳細に観察した結果を示すものである。図6の(a)において、枠囲みした領域1は外側鼻粘膜;枠囲みした領域2は鼻甲介、領域3は鼻中隔をそれぞれ示す。図6の(b)は、図6の(a)において左上に枠囲みした領域の拡大図である。
図7は、IL−33欠損マウスでは鼻への好酸球の浸潤が減少することを示している。図7は、ブタクサ花粉で感作し、ブタクサ花粉またはPBSを点鼻したil33+/+マウスおよびil33−/−マウスにつき、最終点鼻の24時間後に鼻を各グループのマウスから除去し、パラホルムアルデヒド中で固定し、脱石灰し、4μmの冠状切片に切断し、ヘマトキシリン・エオジンで染色した場合の、外側鼻粘膜(図7の(a))、鼻甲介(図7の(b))、鼻中隔(図7の(c))の好酸球数を示すものである。データは3回の独立した実験のうち代表的なものを示す(5匹のマウスの平均値およびs.e.m)。図中、*印は、two-tailed Student's t-testにおいてp<0.05であったことを示す。
図8は、IL−33欠損マウスでは上皮細胞の多列化の程度、および、鼻粘膜における杯細胞の増殖が減少することを示している。(a)はブタクサ花粉で感作し、PBSを点鼻したil33+/+マウスおよびil33−/−マウスの鼻中隔の冠状切片、(b)はブタクサ花粉で感作し、ブタクサ花粉を点鼻したil33+/+マウスおよびil33−/−マウスの鼻中隔の冠状切片、(c)、(d)はそれぞれ、(b)に示すil33+/+マウスの結果の枠囲みした部分の拡大図、(b)に示すil33−/−マウスの結果の枠囲みした部分の拡大図である。
なお、図8の(b)は図4と同じである。観察した鼻中隔は、最終点鼻の24時間後に鼻を各グループのマウスから除去し、パラホルムアルデヒド中で固定し、脱石灰し、4μmの冠状切片に切断し、過ヨウ素酸シッフ(PAS)で染色したものである。
図2〜8に示すように、組織化学的解析を行った結果、ブタクサ花粉を点鼻したマウスでは、上皮の多列化、杯細胞の増殖、並びに外側鼻粘膜、鼻甲介および鼻中隔粘膜において好酸球の顕著な浸潤が見られたが、PBSを点鼻したマウスでは見られなかった。
図6の(b)に示すように、ブタクサ花粉を点鼻したいくつかのマウスでは、鼻腔内に好酸球およびブタクサ花粉を備えたクラスターが見られた。
また、ブタクサ花粉に特異的なアレルギー性結膜炎の結膜組織に浸潤した好酸球(Matsuba-Kitamura, S. et al. Int Immunol 22, 479-489 (2010)を参照)のように、鼻における好酸球の殆どはST2(IL−33レセプターα)を発現していた。
図9は、IL−33欠損マウスでは頚部リンパ節への好酸球浸潤が行われないことを示している。図9の(a)は、il33+/+マウスの頚部リンパ球におけるSSChighSiglec−F+CCR3+細胞(SSChigh 細胞(Matsuba-Kitamura, S. et al., Int Immunol 22, 479-489 (2010))上にゲートされたSiglec−F+CCR3+細胞)の発現をフローサイトメトリーによって解析した結果を示すものである。
図9の(a)の左側の図は、ブタクサ花粉で感作し、PBSを点鼻したil33+/+マウス、図9の(a)の右側の図は、ブタクサ花粉で感作し、ブタクサ花粉を点鼻したil33+/+マウスについての結果を示す。図中の数字(9.84、32.4)はSSChighSiglec−F+CCR3+細胞の割合(%)を示しており、グループあたり16〜20の頚部リンパ節を用いた結果を表している。
図9の(b)は、il33+/+マウスおよびil33−/−マウス由来の頚部リンパ球中のSSChighSiglec−F+CCR3+好酸球の割合を示している。データは、独立した3つの実験のうち代表的なものである(5匹のマウスの平均値およびs.e.m.)。図中、*はtwo-tailed Student's t-testにおいてp<0.005であることを示し、**はP<0.001であることを示す。
図10は、ブタクサ花粉で感作し、ブタクサ花粉を点鼻したil33+/+マウス(図10の(a))およびil33−/−マウス(図10の(b))由来の頚部リンパ節SSChighSiglec−F+CCR3+好酸球をフローサイトメトリーによって解析した結果を示すものである。図10の(a)は、図9の(a)の右側の図と同じである。
図中の数字(32.4および8.94)は、頚部リンパ球に占めるSSChighSiglec−F+CCR3+好酸球の割合(%)を示している。なお、図10では、20の頚部リンパ節を用いて得られた結果のうち、代表的な結果を示している。
図9,10に示すように、ブタクサ花粉で感作し、ブタクサ花粉を点鼻したマウス(本発明にかかるアレルギー性鼻炎モデルマウス)では、鼻粘膜へ好酸球が浸潤するとともに、頚部リンパ節における好酸球の数が増加していた。
野生型のBALB/cマウスでも、同じ条件下でブタクサ花粉を用いて感作し、ブタクサ花粉を点鼻すると、ブタクサ花粉に特異的なアレルギー性鼻炎を発現することが確認された。本発明にかかるブタクサ花粉特異的なアレルギー性鼻炎モデルマウスは、ヒトのアレルギー性鼻炎、特にブタクサ花粉による花粉症の主な特徴に酷似した病態を示す。
〔実施例2:IL−33欠損マウスを用いた場合の、ブタクサ花粉により誘導されるアレルギー性鼻炎〕
アレルギー性鼻炎における内因性IL−33の生理学的な役割を明確にするため、BALB/cマウスをバックグラウンドとするil33−/−マウスを用いた。図1〜4、図9の(b)、図10に示すように、il33+/+マウスに比べて、il33−/−マウスは、くしゃみの回数、血清IgEの総量、ブタクサ花粉に特異的な血清IgEの量、並びに、ブタクサ花粉点鼻後の鼻粘膜および頚部リンパ節における好酸球の浸潤が有意に減少していた。
さらに、図2,4,8に示すように、組織学的解析により、il33−/−マウスでは、上皮における多列化の程度、鼻粘膜における杯細胞の増殖の程度が減少していることが分かった。
しかしながら、ブタクサ花粉で感作し、PBSを点鼻したil33−/−マウスは、il33+/+マウスのように、非免疫il33−/−マウスと比べて、血清中のIgEの総量がかなり増加していた(図1の(b))。このことは、il33−/−マウスは免疫に応じてTh2/IgE応答を高める能力を持っているが、ブタクサ花粉の点鼻によってTh2/IgE応答を増加させる能力が顕著に低下することを示唆している。
次に、ブタクサ花粉点鼻24時間後のブタクサ花粉免疫マウスの頚部リンパ節由来のT細胞を、in vitroでブタクサ花粉抽出タンパク質を用いて刺激し、Th2サイトカインを産生する能力を比較した。
図11は、以下のように調製した細胞の上清中のIL−4,IL−5,およびIL−13をELISAにより測定した結果を示すものである。上記最終点鼻の24時間後に、マウスから分離した頚部リンパ球(2×105個/0.2ml/well)を、従来公知の照射された抗原提示細胞(APCs;照射されたT細胞除去BALB/c 脾細胞;1×105個/0.2ml/well)の存在下で、IL−2(100pM)およびブタクサ花粉抽出物(5μg/ml)を用いて96穴プレート中で5日間再刺激した。データは3つの独立した実験の代表的なデータである(5匹のマウスの平均値およびs.e.m)。図11中、*はtwo-tailed Student's t-testにおいてp<0.01であることを示し、**はP<0.0005であることを示し、***はP<0.0001であることを示す。
図11に示すように、ブタクサ花粉を点鼻したil33−/−マウスのリンパ球では、il33+/+マウス由来のリンパ球と比べて、in vitroでの刺激後のIL−4,IL−5およびIL−13の産生が著しく減少した。この結果は、ブタクサ花粉の点鼻によって産生誘導された内因性IL−33が即時性および遅発性アレルギー性鼻炎の発現に寄与していることを明確に示している。
〔実施例3:ブタクサ花粉の点鼻による鼻上皮からのIL−33放出誘導〕
発明者らは、以前に、IL−33がナイーブマウスの結膜上皮細胞の核内に局在することを免疫組織化学的な解析によって確認しており、ホモジナイズした結膜の上清が機能的な生物活性を有するIL−33を含有することをバイオアッセイによって確認している(Matsuba-Kitamura, S. et al. Int Immunol 22, 479-489 (2010))。そこで続いて、鼻粘膜上皮細胞中におけるIL−33の発現、および鼻へのブタクサ花粉の曝露に応答したIL−33の分泌について検討した。
図12は、ブタクサ花粉の点鼻により、鼻粘膜上皮細胞からIL−33の分泌が誘導されることを示している。図12の(a),(b)は、Balb/cマウスをバックグラウンドに持つil33+/+マウスおよびil33−/−マウスから分離した鼻粘膜上皮細胞の免疫蛍光染色を行った結果を示している。IL−33が存在する部分は赤く染色され、DAPI(4',6-ジアミジノ−2−フェニルインドール)が存在する部分(細胞核)は青く染色される。
例えば、図12の(a)において枠囲みした部分には赤い蛍光が強く観察されている。図12の(b)は、図12の(a)に示したil33+/+マウスの免疫蛍光染色結果において枠囲みした部分を拡大したものである。図12の(b)の左上の写真はバックグランドの組織構造を表し、右上の写真(「IL−33」と表示された写真)は赤く染色されたIL−33を示す。左下の写真(「DAP1」と表示された写真)は青く染色された細胞核を表し、右下の写真(「Merged」と表示された写真)は、上記右上の画像と左下の画像とを合成したものである。
図12の(c)は、ブタクサ花粉で感作され、PBSまたはブタクサ花粉を4日連続で点鼻したil33+/+マウスから除去した鼻粘膜上皮細胞の免疫蛍光染色結果を示す。図中、明るく表示されている部分は、赤く染色されたIL−33を示し、暗く表示されている部分は、青く染色された上皮細胞以外の細胞核を表す。図12の(a)〜(c)においては、グループあたり10〜15個の鼻を用いた場合の代表的な結果を示した。
図12の(d)〜(f)は、ナイーブBalb/c 野生型(WT)マウスにブタクサ花粉(20μlのPBSに溶解したブタクサ花粉1mg)を1回点鼻し、所定の時間に上記マウスを屠殺し、鼻の組織学的検査および鼻洗浄液の回収を行った場合の結果を示している。
図12の(d)は、上記組織学的検査におけるIL−33の染色結果を示しており、before と表示されている図は上記点鼻を行う前、「1h」と表示されている図は点鼻1時間後、「4h」と表示されている図は点鼻4時間後の染色結果を示している。
図12の(e)は、免疫組織化学的に染色された鼻粘膜中のIL−33の定量的な画像解析を行った結果を示すものである。
図12の(f)は、鼻洗浄液中のIL−33タンパク質レベルの経時変化を示すものである。
データは、3つの独立した実験のうち代表的なものである(各時間あたり3匹のマウスを使用)。図12において、*はtwo-tailed Student's t-testにおいてp<0.005であることを示し、**はP<0.0001であることを示す。
図12の(a)、(b)に示すように、免疫組織化学的な解析により、鼻上皮細胞の核内にIL−33が局在していることが明らかとなった。図12の(a)に示すように、IL−33はil33−/−マウスの鼻粘膜には検出されなかった。図12の(c)に示すように、4日連続でブタクサ花粉を点鼻したマウス由来の鼻上皮細胞の核内におけるIL−33の発現(図12の(c)の「RW」と記載した写真に示す)は、PBSを点鼻したマウス由来の鼻上皮細胞の核内におけるIL−33の発現(図12の(c)の「PBS」と記載した写真に示す)よりも顕著に減少していた。図中、明るく見える箇所(白く抜けたように見える箇所)がIL−33の発現を示している。このことは、ブタクサ花粉への曝露により、上皮細胞からIL−33が分泌され、鼻上皮細胞の核内におけるIL−33が減少した可能性を示唆している。
上記可能性を証明するため、ブタクサ花粉点鼻後の鼻上皮細胞におけるIL−33の発現を経時的に解析した。その結果、図12の(d)、(e)に示すように、鼻上皮細胞におけるIL−33の発現は迅速に減少し、ブタクサ花粉点鼻1時間後に非常に弱くなり、その後徐々に回復した。この観察は、野生型のナイーブマウスの鼻洗浄液においてIL−33タンパク質のレベルは迅速に増加するが(図2の(f))、ブタクサ花粉点鼻後のil33−/−マウスでは増加しないこと(データは示さない)と一致している。
このように、鼻がブタクサ花粉に曝露されると、鼻上皮細胞から内因性IL−33が迅速に誘導され、当該内因性IL−33はアレルギー性鼻炎発症の誘導に寄与する。
〔実施例4:IL−33によるFcεRI+マスト細胞の刺激〕
アレルギー性鼻炎の即時相の症状は、アレルゲンと、アレルゲン特異的なIgEとの複合体によるFcεRIの架橋後に活性化マスト細胞および好塩基球によって放出されるメディエーターにより誘導される。
アレルギー性鼻炎では、ヒスタミンがかゆみ、くしゃみおよび鼻詰まりの誘導に重要な役割を果たしている。図1の(a)に示すように、ブタクサ花粉で感作したil33−/−マウスではこれらの症状は有意に減少した。
次に、活性化されたマスト細胞および好塩基球における、IL−33の病理学的役割について検討した。当該検討のために、マスト細胞欠損マウスであるWBB6F1−W/WVマウス、好塩基球除去マウス、およびFcεRI欠損マウスであるFcεRI−/−マウスを用いた。
図13は、IL−33がFcεRI+細胞からのヒスタミン放出を誘導することを示している。野生型Balb/c マウス(WT)、抗FcεRI抗体を投与して好塩基球を除去したBalb/c マウス(+MAR−1)、WBB6FI−+/+マウス(+/+)およびWBB6F1−W/WV(W/WV)マウスを、実施例1に記載の方法によってブタクサ花粉で感作し、PBSまたはブタクサ花粉を点鼻した。
くしゃみの回数は最終点鼻後すぐに10分間測定した。結果を図13の(a)に示す。外側鼻粘膜中の好酸球の数は、実施例1の図2,3に関する箇所で述べたようにカウントした。
結果を図13の(b)に示す。実施例2の図11に関する箇所で述べたように、各マウス由来の頚部リンパ節の上清中のIL−4をELISAにより測定した。結果を図13の(c)に示す。データは2つの独立した実験のうち、代表的なものである(5匹のマウスの平均値およびs.e.m)。図13の(a)〜(c)において、*はtwo-tailed Student's t-testにおいてp<0.05であることを示し、**はP<0.01であることを示す。
IL−4(10ng/ml)およびSCF(100ng/ml)と共に30日間培養した骨髄細胞を蛍光セルソーター(FACS Aria; BD Bioscience)を用いてFcεRI+c−kit+細胞(CTMC)に精製した。IL−3(10U/ml)と共に14日間培養した骨髄細胞は、上記蛍光セルソーターによってFcεRI+c−kit+細胞(MMC)またはFcεRI+c−kit−細胞(好塩基球)に精製した。精製されたCTMC,MMCおよび好塩基球によってFcεRIおよびc−kitの発現をフローサイトメトリーによって解析した。
図13の(d)において枠囲みした領域は、左から、CTMC,MMC,好塩基球を示しており、数字は、図13の(d)に表れている細胞の数に対するCTMC,MMC,好塩基球の数が占める割合(%)を示す。
図13の(e)は、精製されたCTMC,MMC,および好塩基球をDiff−Quik(登録商標)により染色した結果、およびトルイジンブルーによって染色した結果を示している。倍率はいずれも400倍である。
図13の(d)に示された、骨髄細胞由来の、精製されたCTMC,MMCまたは好塩基球(5×104個/0.2ml/well)を、FcεRIを架橋して、または架橋せずに(架橋しないものを「CL−」、架橋したものを「CL+」と表示した)、IL−3のみ(20U/ml)、またはIL−3+IL−33(0.1−100ng/ml)を用いて96穴プレート中で5時間刺激した。図13の(f)は、このように調製した細胞の上清中のヒスタミンをELISAによって測定した結果を示すものである。
図13の(g)は、図13(d)に示されたCTMC,MMCおよび好塩基球によるIL−33レセプターα鎖の発現をフローサイトメトリーによって解析した結果を示すものである。図13の(d)〜(g)において、データは5つの独立した実験のうち、代表的なものについて示している。
図13の(a)の左側のグラフに「+MAR-1」で示すように、ブタクサ花粉で感作したコントロールのBALB/cマウスに比べて、ブタクサ花粉で感作した好塩基球除去マウスでは、くしゃみの回数が有意に減少した。
また、図13の(a)の左側のグラフに示すように、FcεRI−/−マウスではくしゃみの回数はさらに減少した。この減少は有意ではなかったので(p=0.14)、好塩基球およびマスト細胞が、共にくしゃみに必須であるとまでは言えない。図13の(a)の右側のグラフに示すように、マスト細胞の重要性は、ブタクサ花粉によって感作され、ブタクサ花粉を点鼻されたWBB6F1−W/WVマウスにおいて有意に減少したくしゃみの回数によって示される。
図13の(b)に示すように、好塩基球除去マウスおよびFcεRI−/−マウスでは、くしゃみの他に、鼻粘膜への好酸球の浸潤も有意に減少した。このことは、好塩基球または、好塩基球およびマスト細胞が好酸球の浸潤に重要であることを示唆している。
にもかかわらず、図13の(c)に示すように、ブタクサ花粉を点鼻した好塩基球除去マウス、FcεRI−/−マウス、およびWBB6F1−W/WVマウス由来の頚部リンパ球は、in vitroでの刺激後、コントロールマウスによって生産されたTh2サイトカインの量に匹敵する量のTh2サイトカインを産生した。
この結果は、アレルギー性鼻炎においては、Th2細胞の他に、活性化されたFcεRI+マスト細胞および好塩基球が、即時相のくしゃみおよび遅発相の好酸球浸潤の両方に寄与しうることを示唆している。
マスト細胞および好塩基球から放出されるヒスタミンによる感覚神経の刺激はくしゃみを誘導する(Baraniuk, J.N. J Allergy Clin Immunol 90, 1045-1050 (1992)、Sarin, S., et al J Allergy Clin Immunol 118, 999-1016 (2006))。il33−/−マウスがくしゃみの誘導を抑制するメカニズムについて検討するため、マスト細胞および好塩基球からのヒスタミン放出に対するIL−33の役割を検討した。
マスト細胞は一般に結合組織型マスト細胞(CTMC)と粘膜型マスト細胞(MMC)に分類され、共にアレルギー性鼻炎患者の鼻粘膜に存在する。今日までに、どのタイプのマスト細胞または好塩基球がアレルギー性鼻炎において重要な役割を果たしているのかについては意見が分かれている。そこで、マウスの骨髄細胞由来のCTMC,MMC,および好塩基球を増やし、これらの細胞がin vitroでIL−33に応答してヒスタミンを放出する能力について検討した。
図13の(d)に示すように、IL−3のみと共に14日間培養し、高度に精製した、骨髄細胞由来のFcεRI+c−Kit+またはFcεRI+c−Kit−の集団がMMCまたは好塩基球である(それぞれ、Kondo, Y. et al. Int Immunol 20, 791-800 (2008)、Yoshimoto, T. et al. Nat Immunol 10, 706-712 (2009)を参照)。同時に、図13の(d)に示すように、IL−4およびSCFと共に30日間培養したマウス骨髄細胞由来のFcεRI+c−Kit+細胞を精製した。
図13の(e)に示すように、光学顕微鏡による観察およびトルイジンブルーを用いた陽性染色によって、IL−4およびSCFによって誘導され、精製されたFcεRI+c−Kit+細胞がCTMC(Karimi, K. et al., Exp Hematol 27, 654-662 (1999))であることが明らかとなった。
図13の(f)に示すように、IL−3によって刺激したCTMCおよび好塩基球は、十分量のヒスタミンを放出したが、ヒスタミンの産生がIL−33の存在によって増強されることはなかった。FcεRIを架橋すると、CTMC,MMC,および好塩基球からのヒスタミン放出が有意に増強された。さらに、CTMC、MMCおよび好塩基球はIL−33レセプターα(IL−33Rα)鎖を発現しているが、図13の(f),(g)に示すように、CTMCおよびMMCからのヒスタミン放出がIL−33の濃度依存的に増強され、好塩基球からのヒスタミン放出は増強されなかった。
これらの結果は、ブタクサ花粉の点鼻によって産生された内因性IL−33がCTMCおよびMMCを刺激し、IgE−ブタクサ花粉を備えたFcεRIが架橋された条件下でヒスタミンの放出を増強することを示唆している。
〔実施例5:IL−33欠損マウスにおいて減少する、ブタクサ花粉により誘導される鼻への好塩基球浸潤〕
本発明にかかる、ブタクサ花粉によりアレルギー性鼻炎を誘導したモデルマウスの鼻粘膜にはCTMCおよびMMCが存在することが、組織学的検討により明らかとなった。CTMCおよびMMCの数はPBSまたはブタクサ花粉の点鼻によっては変化しなかった(データ示さず)。
しかしながら、ブタクサ花粉で感作され、ブタクサ花粉を点鼻されたマウス(本発明にかかるアレルギー性鼻炎モデルマウス)の鼻粘膜には、図14に示すように、脱顆粒したCTMCが観察された。図14の(a)は、ブタクサ花粉で感作され、ブタクサ花粉を点鼻された、Balb/cをバックグラウンドとするil33+/+マウス(本発明にかかるアレルギー性鼻炎モデルマウス)由来の鼻の冠状切片をトルイジンブルーで染色した結果を示し、図14の(b)はアルシアンブルーで染色した結果を示すものである。
対照的に、ブタクサ花粉で感作され、PBSを点鼻されたマウスの鼻粘膜中の好塩基球の数は非常に少なかった。
しかしながら、マウス好塩基球に特異的なモノクローナル抗体(クローン;TUG8)を用いた免疫組織化学的染色によって示されるように(図15の(a),(b))、ブタクサ花粉の点鼻によって、ブタクサ花粉で感作されたマウスの鼻粘膜中の好塩基球数が特に鼻の後部で有意に増加した(鼻の前部では18.5±4.5であったのに対し、鼻の後部では34.5±10.6であった)。
図15は、ブタクサ花粉によって誘導された内因性IL−33が鼻への好塩基球の浸潤を制御することを示している。Balb/cをバックグラウンドとするil33+/+マウスおよびil33−/−マウス、Balb/cの野生型(WT)、およびBalb/cをバックグラウンドとするFcεRI−欠損(FcεRI−/−)マウスをブタクサ花粉で感作し、実施例1で述べた方法により、PBSまたはブタクサ花粉を点鼻した。
図2の(a)〜(c)のところで述べたように、ブタクサ花粉で感作し、PBSまたはブタクサ花粉を点鼻したil33+/+マウスの鼻後部の切片を、抗mMCP−8抗体TUG8を用いて染色した。結果を図15の(a)に示した。図15の(a)では、1グループあたり10〜15の鼻の代表的結果を示している。
図15の(b)は、上記鼻後部の切片中の好塩基球数をカウントした結果を示している。図中、NDは検出されなかったことを示す。図15の(b)では、2または3の独立した実験のうち代表的なデータを示している(5匹のマウスの平均値およびs.e.m.)。*はtwo-tailed Student's t-testにおいてp<0.05であることを示す。
図15の(c)は、ナイーブマウス(左側のグラフ)またはブタクサ花粉で感作したBalb/cの野生型(WT)(右側のグラフ)について、鼻の前方の切片および後方の切片における好塩基球の浸潤の経時変化を示すものである。
ナイーブマウスおよびブタクサ花粉で感作したBalb/cの野生型(WT)マウスは、ブタクサ花粉(20μlのPBSに溶解させたブタクサ花粉1mg)を1回点鼻し、点鼻後図15の(c)の横軸に記載した時間にマウスを屠殺し、抗mMCP−8抗体TUG8を用いた免疫組織化学的染色を行った。データは2つの独立した実験(各時間あたりに3匹のマウス)の代表的データである。*は、ブタクサ花粉点鼻前(0h)と比較して、two-tailed Student's t-testにおいてp<0.05であることを示す。
il33−/−マウスまたはFcεR−/−マウスの鼻粘膜中の好塩基球浸潤の程度は、図15の(b)に示すように、コントロールより有意に低かった。
次に、ブタクサ花粉点鼻後の鼻粘膜中の、好塩基球浸潤の経時変化につき検討した。図15の(c)に示すように、ブタクサ花粉で感作された野生型マウスの鼻粘膜中では、特に鼻の後部で、点鼻後24時間をピークとして有意に好塩基球浸潤が増加した。一方、ナイーブマウスではそのような増加は見られなかった。これらの結果は、アレルギー性鼻炎における好塩基球の浸潤が、ブタクサ花粉によって誘導された内因性IL−33によって調節され、IL−33はTh2細胞とFcεRI+細胞の活性を順に増強することが示唆された。
〔実施例6:IL−33によるFcεRI+細胞の刺激によって生産される、好酸球および好塩基球の遊走因子〕
図3、図13の(b)、図15の(b)に示すように、ブタクサ花粉によって感作され、ブタクサ花粉を点鼻されたil33−/−マウスまたはFcεR−/−マウスの鼻粘膜への好酸球および好塩基球の浸潤は、コントロールマウスよりも有意に低かった。このことは、IL−33が刺激したFcεRI+細胞(CTMC,MMCおよび好塩基球)が好酸球および/または好塩基球の浸潤に寄与していることを示唆している。
炎症組織への好酸球および好塩基球の浸潤におけるサイトカインおよびケモカインの役割については周知である。そこで、CTMC,MMCおよび好塩基球がIL−33とFcεRIの架橋とに応答してサイトカインおよびケモカインを産生する能力について検討した。
図16は、IL−33が好酸球遊走因子および好塩基球遊走因子の産生を誘導することを示している。図13の(d)に示され、骨髄に由来し、精製されたCTMC,MMC,または好塩基球(5×104個/0.2ml/well)を、FcεRIを架橋し、IL−3(20U/ml)のみ、または、IL−3(20U/ml)+IL−33(0.1−100ng/ml)を用いて96穴プレート中で16時間刺激した。
上清を回収し、上記Bio−Plexシステムを用いてサイトカインおよびケモカインを測定した。結果を図16の(a)〜(j)に示す。縦軸はサイトカインまたはケモカインの濃度を示している。データは、3つの独立した実験のうち代表的データを示すものである(平均値およびs.e.m.)。
図16に示すように、IL−3の存在下でCTMC上およびMMC上のFcεRIを架橋すると、IL−1βおよびエオタキシンの産生が強く誘導された。しかしながら、図16に示すように、上記CTMCおよびMMCは、さらにIL−33で刺激すると、IL−9、IL−13、ランテス、GM−CSF、MIP−1α、MCP−1を強く産生した。すでに報告されているように、好塩基球は測定した全てのサイトカインおよびケモカインを強く産生した(Kondo, Y. et al., Int Immunol 20, 791-800 (2008) 、Yoshimoto, T. et al. Nat Immunol 10, 706-712 (2009))。
エオタキシンとランテスとの組み合わせ、並びにランテス、MIP−1αおよびMCP−1の組み合わせは、それぞれ好酸球、好塩基球の遊走因子として作用することが既知の事実である。ブタクサ花粉により誘導された内因性IL−33は、好酸球および好塩基球の遊走因子の産生を誘導することによって、好酸球および好塩基球の浸潤に重要な役割を果たすと考えられる。
〔実施例7:アレルギー性鼻炎患者の鼻上皮細胞におけるIL−33発現の減少〕
アレルギー性鼻炎モデルマウスとアレルギー性鼻炎患者との相関性を明らかにするため、アレルギー性鼻炎患者および健常者から採取した鼻上皮細胞におけるIL−33タンパク質の発現について検討した。
図17は、アレルギー性鼻炎患者の鼻上皮細胞ではIL−33の発現が減少することを示している。図17の(a)は健常人の鼻粘膜を免疫蛍光染色した結果を、図17の(b)はアレルギー性鼻炎患者の鼻粘膜を免疫蛍光染色した結果を示している。IL−33が存在する部分は赤く染色され、DAPI(4',6-ジアミジノ−2−フェニルインドール)が存在する部分(細胞核)は青く染色される。
図17の(c)は、免疫組織化学的に染色された鼻粘膜中のIL−33を定量的に画像解析した結果を示している。*はtwo-tailed Student's t-testにおいてp<0.005であることを示す。
IL−33は健常者3人からのサンプル由来の鼻上皮細胞の核内に強く発現していたが(図17の(a))、アレルギー性鼻炎患者5人の鼻上皮細胞中ではIL−33の発現は減少したか、検出できなかった(図17の(b))。
なお、検討した健常者5人全ての鼻上皮細胞中にIL−33が発現し、アレルギー性鼻炎患者10人全ての鼻上皮細胞中ではIL−33が減少していた。図17の(a)と(b)は、その代表例を示すものである。定量的な解析を行ったところ、アレルギー性鼻炎患者の鼻上皮細胞でのIL−33の発現は有意に減少していた(図17の(c))。
これらの結果は、アレルギー性鼻炎患者の鼻がアレルゲンに連続的に曝露されると、鼻上皮細胞からの内因性IL−33の放出が誘導され、アレルギー性鼻炎患者の鼻上皮細胞でのIL−33の発現が減少するということを示しており、アレルギー性鼻炎の誘導における鼻IL−33の関与を示している。
〔実施例8:ブタクサ花粉により誘導されたアレルギー性鼻炎の治療剤〕
in vivoでIL−33をブロックするために、実施例1で作製したアレルギー性鼻炎モデルマウスに対し、ブタクサ花粉と、sST2−Fc融合タンパク質(デコイIL−33R)またはヒトIgG(h−IgG)とを、それぞれが20μg/doseとなるようにして4日連続で点鼻し、sST2−Fc融合タンパク質(デコイIL−33R)の点鼻によってアレルギー性鼻炎に対する防御効果が得られるかどうかを検討した。最終点鼻後すぐに、マウスがくしゃみをした回数を盲検法で10分間測定した。
図18は、IL−33のデコイレセプター(デコイIL−33R)、つまりIL−33の阻害剤を点鼻すると、即時相のくしゃみ回数が有意に抑制されることを示している。図18に示すように、h−IgGで処理したマウスと比べて、sST2−Fc融合タンパク質で処理したマウスでは、有意にくしゃみの回数が減少した。sST2−Fc融合タンパク質の点鼻は、ブタクサ花粉によって鼻粘膜から誘導された内因性IL−33の生理活性を弱め、結果としてくしゃみを抑制したものと考えられる。
〔実施例9:既存のアレルギー性鼻炎治療剤の効果判定〕
既存のアレルギー性鼻炎治療剤である、フルチカゾンフランカルボン酸エステル(Avamys(登録商標))を投与するため、ブタクサ花粉で感作したマウスに、ブタクサ花粉(20μlのPBSに溶解したブタクサ花粉1mg)とフルチカゾンフランカルボン酸エステル(2.5μg/1回点鼻)とを1日1回、4日連続で点鼻した。
最終点鼻後すぐに、くしゃみの回数を10分間盲検法により測定した。最終点鼻の24時間後に、下大静脈から末梢血を回収し、血清を遠心分離によって調製した。次にマウスを屠殺し、鼻および頚部リンパ節を分離し、さらなる組織学的および免疫学的解析に供した。
図19は、フルチカゾンフランカルボン酸エステルによるアレルギー性鼻炎の治療効果を判定した結果を示す図である。図19の(a)〜(c)において、横軸の「PBS」はブタクサ花粉で感作したマウスにPBSを点鼻した試験区を示す。横軸に「RW」と示されている試験区において、白抜きのグラフはフルチカゾンフランカルボン酸エステル未点鼻でブタクサ花粉のみ点鼻の試験区を表し、黒塗りのグラフはブタクサ花粉およびフルチカゾンフランカルボン酸エステルを点鼻した試験区を表す。
図19の(d)のうち、「コントロール」と表示したものは、ブタクサ花粉で感作し、フルチカゾンフランカルボン酸エステルを点鼻せず、ブタクサ花粉のみを点鼻したマウスの鼻中隔の写真である。「フルチカゾンフランカルボン酸エステル」と表示したものは、ブタクサ花粉で感作し、ブタクサ花粉およびフルチカゾンフランカルボン酸エステルを点鼻したマウスの鼻中隔の写真である。
図19に示すように、フルチカゾンフランカルボン酸エステルの点鼻は、鼻粘膜における好酸球の浸潤(図19の(b))、杯細胞の増殖(図19の(d))だけでなく、くしゃみの回数(図19の(a))、Th2サイトカインの産生(図19の(c))を有意に減少させた。
このように、本発明にかかるアレルギー性鼻炎モデル動物は、既存のアレルギー性鼻炎治療剤の治療効果判定にも用いることができることが分かる。
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。