JP5692841B2 - 状況を分類するツリー構造の自動生成プログラム及び状況を分類するツリー構造の自動生成装置 - Google Patents
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Description
この確率論的安全評価手法は、大規模かつ複雑であるにも関わらず高度の信頼性・安全性が求められる原子力発電所等の巨大システムを主たる対象として開発されてきた。検討すべき主要な多数の事象をシナリオとして想定し、その発生頻度と影響を定量評価することで、総合的な安全性を検討するものである。近年は原子力発電所のプラント設計・改良や安全審査において重要な役割を果たすようになってきている(平野ら,連載講座 軽水炉の確率論的安全評価(PSA)入門 第1〜7回,日本原子力学会誌,vol.48,No.3-10)。
確率論的安全評価手法の典型的な手続きは以下のようになる。まず、事故のきっかけとなる事象を起点に、その後の進展状況及びそれへの対処の成功・失敗の組合せを事故シナリオ(あるいは事故シーケンス)で表現する。シナリオの骨格は通常、イベントツリー(Event Tree、ET)で表現し、シナリオを構成する各分岐への分岐確率はフォールトツリー(Fault Tree、FT)解析・GO-FLOW手法(松岡猛,確率論的安全評価のためのシステム信頼性解析手法GO-FLOW-基本概念から実際の使用まで-,CRCソリューションズ)などのシステム信頼性解析で求める。そして、各シナリオの発生確率と当該シナリオにおける被害の程度を計算・集計して、被害発生の様相を定量的に明らかにする。これにより、事故が発生する前にシステムにとって問題となる箇所を抽出し、対策を施すことが可能となる(T.ベッドフォード,確率論的リスク解析基礎と方法,Springer(2006))。
一方、決定論的なアプローチによる安全性の評価は、事前に予想される頻度及び重大性から安全上検討すべき小数の事象のみを取り上げ、それらが起こった場合に安全が確保されるかを評価することでシステムが安全であるかどうか判断する。
この決定論的なアプローチには、確率論的なアプローチに比べて評価の実施コストが低いという長所がある。しかし、取り上げる事象数に制約があるため重大な結果をもたらすシナリオの検討漏れの恐れがあり、また、各シナリオの起こりやすさを直接には評価しないため、総合的な影響評価を行えないという欠点がある。
例えば、Tsu-Mu Kaoらの報告(Tsu-Mu Kao, Chun-Sheng Weng, Applications of Quantitative Risk Assessment Technique on Liquefied Natural Gas Tanks System, 2008, PSAM9)では、液化天然ガスプラントの安全評価に関する研究について述べている。また、田辺らの研究(田辺安雄,山下正弘,原子力発電所のPSAとその一般産業への適用,REAJ誌,Vol.22,No.7,2000,pp.607-615)では、ITS(Intelligent Transport Systems)のような将来の交通システム等への適用例が示されている。海事分野では、1993年に英国が国際海事機関(IMO)に対して確率論的安全評価に基づいた総合的安全評価法(FSA:Formal Safety Assessment)の導入を提案し、2001年にFSA指針が採択されている(田村謙吉,海技研のリスク評価技術戦略,http://www.nmri.go.jp/main/research/happyoukai/H19/SS/SS15.pdf)。また、安全性以外の観点での応用例としては、二酸化炭素貯留技術(CCS:Carbon Capture and Storage)の評価について安全性に加えて性能や効率に関する評価指標を組み込んだClaudiaらの研究(Claudia Vivalda, Laurent Jammes, Probabilistic Performance Assessment Methodology for long term subsurface CO2 storage, 2008, International Probabilistic Safety Assessment and Management Conference (PSAM) 9)がある。
このように、不確定要素を多様なシナリオとして捉え、網羅的に評価を行う確率論的安全評価手法は、原子力分野のみならず他分野への適用が有望であり、重要な役割を期待されつつある。
また、道路トンネルの構造や防火対策、設計交通量等の条件を加味して、道路トンネルの火災リスクを精度良く定量的に評価することを目的として、火災事故の発生頻度と、火災性状または被害の大きさに影響を与えうる各事象に基づいてイベントツリーを生成する方法が提案されている(特許文献2)。しかし、同文献に記載されている方法は、標準イベントツリーを予め用意しておき、シナリオを設定する際に、表示装置に各事象の修正入力或いは追加入力を利用者に促し、利用者によって各事象に関する設定入力が行われるものであり、客観的な基準に基づいてイベントツリーを最初から生成するものではない。
また、過去の経験や知識にはない想定外の状況についても訓練を行うことが可能な訓練システムおよび訓練システムのシナリオ構築方法を提供することを目的として、イベントツリーによって形成されたシナリオを展開するシミュレーション手段を備えた訓練システムが提案されている(特許文献3)。同文献に記載されている訓練システムでは、初期事象と複数の進展キーを時系列順に並べて予め構成されたイベントツリーが用いられているが、客観的な基準に基づいてイベントツリーを生成する方法については記述されていない。
また、災害進展シナリオの数を削減しながら推定確度を向上させることを目的として、評価対象の災害で想起されるイベントの中で結果に直接影響を与える要素で、かつ互いに成功と失敗に影響を与える要素のみに対してイベントツリーを生成し、災害抑止対策に対する成功時間の確率密度関数を生成するとともに、全てのシーケンスに同様の分岐をもたらす場合分けの要素をイベントツリーの外に出す方法が提案されている(特許文献4)。同文献において提案されている方法は、全てのシーケンスに同様の分岐をもたらす場合分けの要素を除いてイベントツリーを生成するものであり、これらの事象をも含むイベントツリーを客観的な基準に基づいて生成する方法ではない。
しかし、上述した特許文献1〜4はいずれも、自動でイベントツリーを生成することができる客観的な方法を提案するものではない。また、上述した非特許文献1〜2は、いずれも、状態変数がその条件に合致した際に分岐を生成するものであって、イベントツリーの生成状況を評価しフィードバックするものではない。
そこで、本発明は、解析者による多くの判断や手間・時間を削減し、発生確率を考慮した状況を分類するツリー構造を生成するのに要する計算量を減らし、客観性・正確性の向上や工数削減・計算時間短縮等を実現するため、イベントツリー等のツリー構造の生成状況を評価しフィードバックすることにより、客観的な基準に基づいて、効率的に状況を分類するツリー構造の自動生成プログラム及び状況を分類するツリー構造の自動生成装置を提供することを目的としている。
ここで、「初期条件」とは、既にあるツリー構造に関する条件をいい、これは、最小構成のツリー構造である必要はない。「分岐」とは、実数で表される事象や良い悪いといった程度で表され数値化することが可能な事象を一定の区間で分割し、当該区間を代表する代表値とその発生確率により特定されるものである。
また、「評価値」とは、当該分岐を評価するために用いられる値をいい、例えば、期待値などがあたる。また、「隣接する」分岐とは、ある事象に関する分岐を代表値に関して降順又は昇順に並べたときに、隣り合うこととなる分岐をいう。
また、「分岐追加ステップ」は、評価値差計算ステップにおいて計算された全ての事象に関する全ての評価値差を比較して、その中で最も評価値差の大きい分岐の間に新しい分岐が追加するものであり、事象毎に評価値差を比較して、その事象の中で最も評価値差の大きい分岐の間に新しい分岐を追加するものではない。
また、「新しい分岐を備えたツリー構造から得られる情報」とは、ツリー構造に基づいて得られる情報をいい、例えば、ツリー構造を構成する各事象の分岐を組み合わせたものであるシナリオの数、シナリオをもとに計算したシナリオ評価値、シナリオの発生確率、ツリー構造全体の示すシナリオ評価値の平均値等をいう。
ここで、「出力の推移」とは、前記評価値計算ステップ、前記評価値差計算ステップ及び前記分岐追加ステップが繰り返される毎に、前記分岐追加ステップで追加された新しい分岐を備えたツリー構造に基づいて得られる出力の移り変わりをいう。例えば、当該出力の値の変化が一定値以下となったこと、出力の値が変化する方向が変ったこと、またシナリオ数が所定値に達したなどを終了条件とすることができる。
ここで、「分岐事象の発生確率データ」とは、何らかの根拠に基づいて当該事象を代表値により代表させて分岐させた一定の区間の事象の発生確率に関するデータをいい、例えば、当該事象に関する過去の事実の統計的なデータや、確率分布関数などがあたる。また、「初期の分岐を生成するための情報」とは、初期の分岐の数、初期の各分岐の代表値、初期の各分岐の発生確率といった、初期の分岐生成に用いられる情報をいう。また、「評価値を計算するための評価式」とは、各分岐の評価値を計算するために用いられる式をいい、例えば、評価値として期待値を用いる場合には、ある分岐についてシナリオをもとに計算したシナリオ評価値に、そのシナリオの発生確率を乗じて得られる値の総和をその分岐の発生確率により除する式を用いることができる。
ここで、「分岐事象の代表値の組」とは、シナリオを構成する各事象の分岐の代表値の組み合わせをいう。また、「シナリオの発生確率」とは、シナリオを構成する各事象の分岐の分岐確率を乗じて得られるものをいう。また、「シナリオ評価値」とは、当該シナリオを構成している各事象の組み合わせにより得られる値をいう。
また、本発明の状況を分類するツリー構造の自動生成プログラムが、終了条件判断ステップをさらに備えている場合、出力ステップの出力が終了条件に合致するまで、評価値計算ステップ、評価値差計算ステップ、及び分岐追加ステップを繰り返すことにより、終了条件として規定された条件を満足するツリー構造を自動的に生成することができる。
また、終了条件を出力ステップにおける出力の推移に基づいて決めることにより、出力の移り変わりに応じて適宜プログラムの実行を終了させることができる。
また、出力ステップの出力を各シナリオを構成する分岐事象の代表値の組、シナリオの発生確率、及びシナリオの評価値とすることにより、これらを参考として意思決定が行い易くなる。
また、出力ステップの出力として、意思決定のための参考案を出力することとすれば、例えば企業の意思決定のために有用な参考情報を提供することができる。
本発明の状況を分類するツリー構造としては、イベントツリーやデシジョンツリー等があるが、ツリー構造の自動生成プログラムの実施形態として、イベントツリーを自動的に生成する方法について以下に説明する。以下では、イベントツリーの自動生成方法の説明の前に、まず、イベントツリーを用いた確率論的評価の概要、及び状態量に着目したイベントツリーの生成について説明する。
イベントツリーによる確率論的な評価の概略について、図2(A)(B)に示す。
図2(A)は、イベントツリーを示している。各分岐事象(イベントXi)について、成功/失敗あるいは状態変数の値に応じて分岐を生成して場合分けをしていく。それぞれの分岐時には、分岐の示す代表値と分岐確率を計算する。各分岐の代表値のセットがシナリオsjとなる。
次に、各シナリオsjの発生確率pjと評価値gjを計算する。各シナリオsjの発生確率pjは、当該シナリオsjを構成している各分岐の発生確率の積であり、また、評価値gjは、代表値のセットを評価用の関数あるいは評価シミュレータに与えて計算した結果となる。
イベントツリーから得られる最も基本的な情報は、図2(B)に示したような、(1)評価値の平均値と(2)最低評価値の発生確率グラフである。前者により最も可能性の高い評価値が分かり、後者により、評価値の分布がどのような特徴を持っているのかを知ることが出来る。その他必要に応じて感度解析や不確実さ解析、重要度解析など(平野ら, 連載講座 軽水炉の確率論的安全評価(PSA)入門第1〜7回, 日本原子力学会誌, vol.48, No.3-10, 2006)を実施することとなる。
なお、確率論的安全評価のイベントツリーにおいては、最初の事象は起因事象となるが、企業意思決定においては起因事象を必ずしも必要としない。また、イベントツリーは事象の成功/失敗や状態量の両方により分岐が生成されるが、本実施の形態では特に状態量に着目してイベントツリーを生成することとする。
本実施の形態において自動で生成されるイベントツリーにおける分岐とは、連続的な実数値をとる事象を離散的に扱うことを意味する。連続的な実数値をとる事象を区間で区切り、分岐を生成した例を図3に示す。同図に示すように、連続的な実数値をとる事象のうち分割された区間の代表値をvとする。さらに、代表値vの生起する確率をpとし、これを分岐確率と呼ぶ。すなわち、各分岐は代表値vとその分岐確率pの組ω=(v,p)によって構成され、連続的な事象を代表値vと分岐確率pを用いて離散的に扱うことを分岐としている。
従って、本実施の形態の提案手法におけるイベントツリーは、以下のように表すことができる。扱う事象を互いに独立なA、Bとすると、各事象の分岐は、ωの集合となる。そこで、事象A、Bをそれぞれl(エル)分岐させると、集合A、Bは、
イベントツリーは事象A、Bの直積集合A×Bとして表すことができ、
A×B={(ωa,ωb)|ωa∈A,ωb∈B} …(3)
となる、また、この集合の元sをシナリオと呼び、
s={(ωsa,ωsb)|s∈A×B} …(4)
と表すことができる。さらに、イベントツリーから得られるシナリオの総数は集合A×Bの大きさLとなる。そして、これらのシナリオの生起する確率psは、
本実施の形態ではこのようにしてイベントツリーを生成し、各要素の将来の変化を代表値と分岐確率を用いて表現している。そして、イベントツリーから得られるシナリオを用いることで、網羅的に将来の環境の変化を表現することができる。
本発明の実施の形態であるイベントツリー自動生成手法(方法)の概要を、図4及び図1に基づいて、以下に説明する。
図4はイベントツリー生成手法の基本的考えを示している。まず図4(A)のように分岐数の少ない初期イベントツリーを用意する。次に、各分岐が含まれる全てのシナリオにおける評価値の期待値を計算し、続いて隣り合う分岐間の上記評価値の期待値の差(分岐間の感度)dを計算する。最後に図4(B)のように、最も差が大きい、すなわち最も感度の高い区間(隣接する分岐間)に新しく枝(分岐)を挿入する。以上を十分な詳細度のイベントツリーが出来るまで繰り返す。
このように、少数の分岐からなる単純なイベントツリーからはじめ、イベントツリーの生成するシナリオの評価状況をフィードバックして、最も効果的と期待出来る区間に動的に新しい枝を生成していくのが本発明の手法の特徴である。
以下では、n個の事象からなるイベントツリーを取り上げ、上記を具体化する手続きを述べる。なお、事象Xi(i=1,2,…,n)の分布関数Fi、確率密度関数fiとする。
初期イベントツリーは、入力手段から入力された事象の初期条件を読み込む読込ステップ(S10)と前記初期条件に基づき初期の分岐を生成する分岐生成ステップ(S20)により生成する。
なるべく小さな木から始めるため、初期イベントツリーは、各事象についてそれぞれ2分岐のみしたものとする。ただし後述のように、既存の分岐の内側に新しい枝を挿していくので、初期分岐の両枝(初期木)の外側は考慮しないこととなる。そのため両枝の幅はなるべく大きい方が望ましい。そこで初期イベントツリーでは、各事象の確率分布のそれぞれ上位・下位のa%(aは小値)に相当する値を代表値として分岐するよう設定する。本実施の形態においては、2つの枝への分岐確率pは共に0.5とおく。
すなわち、事象Xiの2つの初期分岐(1、2の添字で表す)の代表値はvi1=F−1(Xi=a)、vi2=F−1(Xi=1−a)、分岐確率はpi1=pi2=0.5となる。分岐はωで表し、枝を表す事象Xiの代表値とその分岐確率の組をωi={vi,pi}とすると、事象Xiの初期分岐の集合xiはxi={ωi1,ωi2}である。n個の事象から作られる初期イベントツリーは下式のようにx1、x2、…xnの直積集合として表される。
x1×x2×…×xn
={(ω1,ω2,…,ωn)|ω1∈x1,ω2∈x2,…,ωn∈xn}
上記イベントツリーはシナリオsの集合Sでもある。
S={s=(ω1,ω2,…,ωn)|ω1∈x1,ω2∈x2,…,ωn∈xn}
また、評価値はシナリオs(s∈S)に対して、評価関数g(s)により求まるとする。なお、上記は初期以降のイベントツリーにも共通の表現である。
本実施の形態では、初期分岐を生成するための初期条件として、各事象の分岐数をいずれも2分岐、各分岐の分岐確率をいずれも0.5としている。しかし、初期の分岐は、これに限られるものではなく、各事象の分岐数を3以上としてもよく、各事象の分岐数を異ならせてもよい。また、分岐確率の異なる分岐を初期分岐としてもよい。
読込ステップにおいては、評価値を計算する評価式も初期条件として読み込まれるが、これについては後述する。
各分岐の評価値を計算する評価値計算ステップ(S30)につき、以下に説明する。以下では、各分岐の評価値として、評価値の期待値を計算する方法について説明する。
各分岐の「評価値の期待値」とは、ある分岐の代表値を含むシナリオのみについて、各シナリオのシナリオ評価値にそのシナリオの発生確率を乗じて得られる値の総和のことをいう。事象Xiのある分岐θ(θ∈xi,θ={vθ,pθ})に対して分岐θを含むシナリオの集合Sθは以下となる。
Sθ={s=(ω1,ω2,…,θ,…,ωn)|
ω1∈x1,ω2∈x2,…, θ∈xi,…,ωn∈xn}
={sθ1, sθ2,…,sθm}
また、Sθに属する各シナリオsの発生確率の集合Pθは以下のように表される。
Pθ={p=f1(v1)*f2(v2)*…* fθ(vθ)*…*fn(vn)|
s∈Sθ,v1∈s,v2∈s,…,vθ∈s,…,vn∈s}
={pθ1,pθ2,…,pθm}
以上から分岐θの評価値の期待値Eθは、分岐θの発生確率pθを用いて下記のように表される。
隣接する分岐の評価値の差を計算する評価値差計算ステップ(S40)につき、以下に説明する。
評価値差計算ステップでは、同一事象内における分岐間の感度、すなわち隣り合う分岐間における評価値の期待値どうしの差を全事象について算出する。すなわち、事象Xiがli本に分岐しているとして分岐間の感度dの集合Diを全ての事象について求める。
前記評価値差計算ステップで得られた評価値差の最も大きい前記分岐の間に新しい分岐を追加する分岐追加ステップ(S50)につき、以下に説明する。
本実施の形態の分岐追加ステップでは、全事象を通じて最も大きな感度を持つ分岐の区間のうち、当該区間の確率分布の面積を2等分する点に新しい枝(分岐)を挿入する。
具体的には、最も感度の高い区間を事象Xiの分岐ωikとωik−1の間とすると、両分岐で囲まれる区間の確率分布の面積Uは、U=2Ak=F(vik)−F(vik−1)であり、新しい枝は下記の位置に挿入されることとなる。
vinew=F−1(Xi=F(vik−1)+Ak)
なお、本実施の形態では、確率分布の面積を2等分する点に新しい枝(分岐)を挿入したが、新しい枝を挿入する位置はこの点に限られるものではなく、例えば、最も感度の高い区間の真ん中の点に新しい枝を挿入することとしても良い。
追加した枝及びその両側の枝の分岐確率を計算する。その際、両側の枝で囲まれた面積を4等分して隣接する枝に割り当てる。ただし、上記(1)の初期イベントツリーの生成において確率分布のそれぞれ上位・下位のa%を考慮していないことから、上記面積を初期時に両分岐で囲まれた面積U0(=F(v2)−F(v1))で割って規格化した値を当該分岐の発生確率とする。
図5(A)は枝を挿入する前の状態を表しており、vk−1、vkの発生確率はそれぞれpk−1=(Ak−1+Ak)/U0、pk=(Ak+Ak+1)/U0である。次に図5(B)でvkとvk−1の表す枝で囲まれた面積を等分する場所vnewに新しい枝を挿入する。その際、vkとvk−1の表す枝で囲まれた面積2Akは4等分され、新しい分岐確率はpk−1=(Ak−1+Ak/2)/U0、pnew=Ak/U0、pk=(Ak/2+Ak+1)/U0となる。
ただし、初期イベントツリーで生成された分岐については、確率密度関数においてその両側を考慮しないため、Ak−1=Ak+1=0である。
より具体的には、終了条件判断ステップ(S70)において、前記入力手段から入力された終了条件と出力ステップ(S60)における出力とを比較して、イベントツリーから得られる情報の出力が終了条件に合致しない場合は、イベントツリーから得られる情報の出力が終了条件に合致するまで、分岐追加ステップ(S50)で追加された新しい分岐を備えたイベントツリーに基づいて評価値計算ステップ(S30)、評価値差計算ステップ(S40)、分岐追加ステップ(S50)及び出力ステップ(S60)を繰り返す。
終了条件としては、例えば、出力ステップにおける出力の推移に基づいて決められたものを用いることができる。具体的には、イベントツリーから得られる情報である評価値の平均値の変化が所定の範囲内にとなることを終了条件とすることができる。このようにすれば、評価値の平均値の変化が小さくなったことを確認した上で、イベントツリーの生成を終了することができるから、信頼性の高いイベントツリーを得ることができる。なお、上記以外の終了条件としては、例えば、シナリオ数が挙げられる。
上述した本実施の形態のイベントツリー自動生成手法を用いることでイベントツリーの生成に関して従来から広く行われている手法に比べて次の(ア)〜(エ)のようなメリット(有利な効果)が得られる。
従来手法ではシナリオ数が急激に増大して計算量が増えることのないよう常に留意する必要がある。そのため、取り上げる分岐事象は必要最小限にすることが通常である。
しかし、分岐事象が解析結果にどのように影響を与えるかは当該分岐事象を取り上げて分析を行って初めて分かるものであるため、ともすれば、解析者による「これは重要ではない」という主観により必要な事象を排除してしまう恐れがある。
上述した本実施形態のイベントツリーの生成手法においてもいわゆる組み合わせ爆発には注意が必要ではあるものの、新規に事象を取り上げても、それが感度の高いものではなく重要でなければたかだか2分岐するだけであり、従来手法に比べて計算量の増大に与える影響は小さいと期待出来る。重要か否か判断がつかないものでも解析に入れて計算してみることを比較的やりやすいという点で、客観性を向上できる。
イベントツリーは本来連続である解析対象を非連続に場合分けするアプローチである。分岐数が増えればそれだけ対象の連続な取り扱いに近づき、正確性は向上すると期待出来る。しかし、分岐を多数加えると急激に計算量が増加し、実用的な時間内に解析を行うことが困難となる。
従来手法では、解析者の判断により各事象における分岐数を決めてイベントツリーを生成する。そのため、効果的ではない、換言すれば正確性への寄与が少ない箇所に分岐を加えることも多く、計算機資源を浪費してしまって必要な正確性を確保できない恐れがある。
一方上述した本実施形態のイベントツリーの自動生成手法は、最小限のイベントツリーから始め、最も効果的な箇所に分岐を加えていくというものである。これにより、本実施形態の手法により生成されたものの方が従来のものと比較してより正確なイベントツリーとなることを期待出来る。
(イ)の理由により、従来手法と同じシナリオ数で比較すると本発明の提案手法の方がより正確なイベントツリーとなることを期待出来る。
また、新しく分岐を挿入した場合、新たに計算する必要があるのは、挿入した枝を含む全シナリオの発生確率とその評価値(シナリオ評価値)、及び挿入した枝の前後の枝を含むシナリオの発生確率のみである(前後の枝の関連するシナリオについては以前計算した評価値と同じであり、評価値を再計算する必要はない。本実施形態のイベントツリーの生成手法では過去に行った評価計算結果が不要となることはない)。評価値の計算が通常は最も時間を要し、他の計算に要する時間はわずかである(特に海上輸送システムの課題を扱った場合に経路探索を伴う場合などシナリオ評価値を求めるのに時間を要する場合、この傾向は顕著である)。枝を増やしたことによる計算時間の増加は最小限に抑えられる。
なお、従来では全ての枝の評価が終わらなければ結果を得られないのに対し、提案手法では解析者が解析結果の品質に満足できればどの時点でも計算を終えることが可能である。
以上により、組合せ爆発による計算量増大の制約を受けづらいのも長所である。
また、従来では、計算の結果得られた値がどの程度の精度であるのか把握することは不可能であったが、提案手法では、容易に値の推移を観察できるため、解の精度の目処を付けることが可能である。従来手法においては、イベントツリーのシナリオ数を次第に増加させながら平均値の推移を観察することは不可能ではないが、工数上からは非現実的である。
従来手法と比較した場合、提案手法を行うには新たに自動分岐生成システムと確率密度分布形式の事象の発生確率データを用意する必要がある。
自動分岐生成システムについては、解析対象に固有の要素はないため汎用的な解析システムを開発可能である。一度汎用の自動分岐生成システムを作成してしまえば再利用可能なため、従来と比較して工数上不利とはならない。
次に、確率密度分布形式の発生確率データについては、従来の取り組みでも解析者は意識的・無意識的にかかわらず分岐確率を与える際には想定していたものである。また、従来手法であっても不確実さ解析を行う場合には必要なデータである。そのため本手法では明示的に確率密度分布の形で発生確率データを作成する手間はあるが、問題となるほどの工数増加とはならない。
以上より、解析の体制が整えば、後はほぼ自動で上記(ア)〜(ウ)の特質を備えた解析結果を得ることが可能である。従来はイベントツリーの生成、結果の検討、必要な修正というサイクルを手作業で行わなければならなかったことを考えると、同程度の品質の解析結果を得るための工数としては大幅な削減が可能である。
なお、本手法は、状態量を分岐させる手続きに関し、企業意思決定のみならず、木構造で状態の場合分けを行うデシジョンツリーや従来の確率論的なアプローチ全般に利用可能である。
本発明をイベントツリーの自動生成装置として実施する場合について、図6及び図7に基づいて以下に説明する。
図6は、本実施形態のイベントツリーの自動生成装置の概略構成を示すブロック図である。同図に示すように、本実施形態のイベントツリーの自動生成装置40は、コンピュータ10、入力手段20、出力手段30を備えている。以下、イベントツリーの自動生成装置40の構成について説明する。
すなわち、終了条件判断手段116は、情報出力手段115から出力された情報が終了条件を充足している場合にのみ、評価値計算手段112に対し、評価値の計算を終了させる指示を出力する。これにより、イベントツリーの生成が終了する。終了条件としては、例えば、情報出力手段115から出力された情報の推移、より具体的には評価値の期待値の平均値の変化が一定範囲内となったことが挙げられる。これを終了条件とすることにより、自動的に精度の高いイベントツリーを生成することが可能となる。なお、上記以外の終了条件としては、シナリオの数や、平均値の変化する方向(上昇または下降)が変ったこと等が挙げられる。
情報出力手段115及び/又は終了条件判断手段116は、終了条件判断手段116の終了条件を充足しなくとも、一回の計算毎にその結果を出力手段30に出力することができる。すなわち評価値の期待値の平均値、発生確率−最小期待値のグラフ、シナリオ数などの情報を刻々と出力し、終了条件に対する現時点の状況もモニターなどで操作者が確認することができる。
3種の独立な事象X,Y,Zがあり、それぞれを表す変数vx,vy,vzの確率密度関数fが、下記の平均μ及び標準偏差σの対数正規分布に従うものとする。
vx:μ=6.380, σ=1.219
vy:μ=7.000, σ=1.400
vz:μ=5.000, σ=1.500
ここで上記に対し、評価値gを以下のように定義する場合、評価値の平均値はどのようになるかを本発明の提案手法で求める。その際、各分岐事象の値の組(vx,vy,vz)がシナリオsとなる。
g(s)=vx+vy+vz
なお、上記の具体例としては、3つの異なる地域で油田を開発した場合の合計埋蔵量の期待値の評価などがある(http://www.weblio.jp/content/油田規模分布)。
従来のイベントツリーの分岐生成方法として代表的と思われるものとして以下の2種類を取り上げる。1つは、確率変数の変化域を等分割して分岐を設定するものであり、もう1つは確率密度関数の面積を等分割するものである。以下、前者を比較例1、後者を比較例2と記す。
事象Xが分布関数F(x)に従っているとき、確率変数の存在範囲の最小値min、最大値maxを下記とする。この際、最小値minと最大値max間の確率密度関数の面積はU=0.9554となり、これを全体とみなすこととする。このことについては、後述する比較例2についても同様である。
最小値min=μ−2σ=F−1(0.0228)
最大値max=μ+2σ=F−1(0.9772)
最小値min、最大値maxの間をn等分する。ここで値域をn個に等分割する際の代表値間の間隔δ、各分岐の始点aと終点bの集合A、B、それぞれの代表値v及び分岐確率pの集合V、Pは以下となる。
δ=(max−min)/2n
A={ai=min+2(i−1)δ|ai∈X(i=1,2,…,n)}
B={bi=ai+2δ|bi∈Xi,a∈A(i=1,2,…,n)}
V={vi=min+(2i−1)δ|vi∈X,(i=1,2,…,n)}
P={pi=(F(bi)−(F(ai))/U
|a∈A,b∈B(i=1,2,…,n)}
最小値min、最大値max間の確率密度関数の面積をn等分する。ここで値域をn個に等分割する際の、代表値p及び分岐確率pの集合V、Pは以下となる。
V={vi=F−1((2i−1)U/2n+0.0228)
|vi∈X,(i=1,2,…,n)}
P={pi=1/n|a∈A,b∈B(i=1,2,…,n)}
評価値の期待値の平均値Eの推移を観察する。本実施例では近似値を計算することが出来、Eは約3566.6である。図9に提案手法である実施例のイベントツリー自動生成手法と従来手法である比較例1及び2における評価値の期待値の平均値Eの推移を示す。
評価値の期待値の平均値Eの推移から、シナリオ数が729本における正しい値との乖離は、従来手法1(比較例1)で約+9.9%、従来手法2(比較例2)で−5.2%と大きく、未だ漸近途上であるのに比べ、提案手法(実施例)では(上記に最も近いシナリオ数である)720本で乖離は+0.06%未満と高い精度に達している。このように、提案手法である本実施例のイベントツリー自動生成手法により生成されたイベントツリーの方がイベントツリー全体の評価値が、早く正確な値となっていた。
イベントツリーの分岐が必要な網羅性をもつことを検討するため、最低評価値の確率形状の推移を図10に示す。
図10で、実施例の結果であるP1、P2、P3(P:Proposed)は、従来手法でシナリオ数がおおよそ同じである比較例1の結果であるC1、C2、C3(C:Conventional)がそれぞれ対応する比較対象である。
前述のように、イベントツリーは本来連続である解析対象を非連続に場合分けする手法である。分岐数(シナリオ数)が増えればそれだけ対象の連続な取り扱いに近づき、正確性は向上すると期待出来る。そのため、(1)の結果と併せて、図10の形状においては比較例1よりも実施例の方が、またその中でもP3がより正確な形に近いと期待出来る。
実施例ではシナリオ数が少ないP1でもP3に近い形状となっているが、比較例1ではC3であっても曲線の両端においてP3とはかなり異なった形状である。イベントツリーの分岐の網羅性は実施例の方が優れている。
以上(1)(2)の検討から、実施例では、従来手法による比較例1及び比較例2よりも優れたイベントツリーを効率的に生成可能であることが分かる。
11 CPU
111 初期分岐生成手段
112 評価値計算手段
113 評価値差計算手段
114 分岐追加手段
115 情報出力手段
12 メモリ(評価値記憶手段)
13 記憶手段(評価値記憶手段)
14 入出力部
20 入力手段
30 出力手段
40 イベントツリーの自動生成装置(状況を分類するツリー構造の自動生成装置)
Claims (8)
- コンピュータに、入力手段から入力された事象Xiの初期条件を読み込む読込ステップと、
前記初期条件に基づき初期の分岐ωを生成する分岐生成ステップと、
前記分岐ωの評価値を計算する評価値計算ステップと、
隣接する前記分岐ωの評価値の差を計算する評価値差計算ステップと、
前記評価値差計算ステップで得られた評価値差の最も大きい前記分岐ωの間に新しい枝を追加する分岐追加ステップと、
前記分岐追加ステップで追加された前記新しい枝を備えたツリー構造から得られる情報を出力する出力ステップと、を実行させ、
前記初期条件は、初期の前記分岐ωの数、初期の各前記分岐ωの代表値、及び初期の各前記分岐ωの分岐確率を含み、
前記分岐生成ステップでは、
前記初期条件として読み込まれたn個の前記事象Xiから、前記分岐ω、及び前記分岐ωの代表値vとその分岐確率pの組を用いて、初期の前記分岐ωの集合xnとして表される初期イベントツリーを作成し、
前記初期イベントツリーから、シナリオsの集合Sを取得し、
前記評価値計算ステップでは、
前記事象Xiのある分岐θ(θ∈xi,θ={vθ,pθ})に対して前記分岐θを含むシナリオsの集合Sθ、及び前記集合Sθに属する各シナリオsの分岐確率の集合pθを用いて表される前記初期条件として読み込まれた期待値Eθを計算する評価式を用いて、前記事象Xiの前記分岐θ(θ∈xi,θ={vθ,pθ})に対する前記評価値を計算し、
前記分岐追加ステップでは、
分岐ωikと分岐ωik−1の間を前記評価値差が最も大きい区間とすると、前記分岐ωikと前記分岐ωik−1で囲まれる区間の確率分布の面積を二等分する点に前記新しい枝を挿入することを特徴とする状況を分類するツリー構造の自動生成プログラム。 - 前記入力手段から入力された終了条件と前記出力ステップにおいて出力された前記情報とを比較する終了条件判断ステップをさらに備え、前記出力ステップの前記出力が前記終了条件に合致しない場合は前記出力が前記終了条件に合致するまで、前記評価値計算ステップ、前記評価値差計算ステップ、前記分岐追加ステップ及び前記出力ステップを繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の状況を分類するツリー構造の自動生成プログラム。
- 前記終了条件が、前記出力ステップにおける出力の推移に基づいて決められたものであることを特徴とする請求項2に記載の状況を分類するツリー構造の自動生成プログラム。
- 前記読込ステップで読み込む前記初期条件は、各前記分岐ωを生成する前記事象Xiの発生確率データ及び前記評価値計算ステップにおいて前記評価値を計算するための前記評価式を含んでいることを特徴とする請求項1乃至3のうちの1項に記載の状況を分類するツリー構造の自動生成プログラム。
- 前記出力ステップの出力は、前記分岐ωの組み合わせである各前記シナリオsにおける各前記分岐ωを生成する前記事象Xiの代表値の組、前記シナリオsの発生確率、及び前記シナリオsのシナリオ評価値であることを特徴とする請求項1乃至4のうちの1項に記載の状況を分類するツリー構造の自動生成プログラム。
- 前記出力ステップの出力は、状況による分類がなされた参考案であることを特徴とする請求項1乃至5のうちの1項に記載の状況を分類するツリー構造の自動生成プログラム。
- コンピュータと、入力手段と、出力手段とを備え請求項1乃至請求項6のうちの1項に記載の状況を分類するツリー構造の自動生成プログラムを前記コンピュータに適用し、前記入力手段の入力に従って状況を分類するツリー構造を自動生成し、結果を前記出力手段に出力することを特徴とする状況を分類するツリー構造の自動生成装置。
- 事象Xiの初期条件を入力するための入力手段と、
前記入力手段により入力された初期条件に基づいて前記事象Xiを一定の区間で分割し、当該区間を代表する代表値とその発生確率により特定される分岐ωを生成する分岐生成手段と、
前記分岐ωのそれぞれについて評価値を計算する評価値計算手段と、
前記評価値計算手段により計算された評価値を記憶する評価値記憶手段と、
前記評価値のうち隣接する前記分岐ωの評価値の差を計算する評価値差計算手段と、
前記評価値差計算手段により計算された評価値差が最も大きい分岐ωの間に新しい枝を挿入する分岐追加手段と、
前記分岐追加手段により追加された前記新しい枝を備えたツリー構造から得られる情報を出力する出力手段とを備え、
前記初期条件は、初期の前記分岐ωの数、初期の各前記分岐ωの代表値、及び初期の各前記分岐ωの分岐確率を含み、
前記分岐生成手段では、
前記初期条件として読み込まれたn個の前記事象Xiから、前記分岐ω、及び前記分岐ωの代表値vとその分岐確率pの組を用いて、初期の前記分岐ωの集合xnとして表される初期イベントツリーを作成し、
前記初期イベントツリーから、シナリオsの集合Sを取得し、
前記評価値計算手段では、
前記事象Xiのある分岐θ(θ∈xi,θ={vθ,pθ})に対して前記分岐θを含むシナリオsの集合Sθ、及び前記集合Sθに属する各シナリオsの分岐確率の集合pθを用いて表される前記初期条件として読み込まれた期待値Eθを計算する評価式を用いて、前記事象Xiの前記分岐θ(θ∈xi,θ={vθ,pθ})に対する前記評価値を計算し、
前記分岐追加手段では、
分岐ωikと分岐ωik−1の間を前記評価値差が最も大きい区間とすると、前記分岐ωikと前記分岐ωik−1で囲まれる区間の確率分布の面積を二等分する点に前記新しい枝を挿入することを特徴とする状況を分類するツリー構造の自動生成装置。
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