JP5656158B2 - 再生組織用細胞内カルシウムイオンモニタリング装置 - Google Patents

再生組織用細胞内カルシウムイオンモニタリング装置 Download PDF

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Description

本発明は、再生医療に関連し、再生組織の構築を促進するための刺激条件を細胞内のカルシウムイオンの動態をモニタすることにより決定し、刺激の効果を評価する装置及び方法に関する。
再生医療では、患者自身の細胞を利用して、損なわれた組織を再生させる。例えば、骨の再生医療では、患者から採取した細胞を利用して骨を再生させる。再生骨等の再生組織には、細胞、担体(scaffold)、及び細胞活性因子の三つの要素が必要であり、活性化因子としては電気刺激、力学刺激、又は薬物刺激などが挙げられる。骨の再生、すなわち再生骨の石灰化等の組織の再生を効率的に行うには、効果的な刺激の条件や種類を決定することが重要であるが、刺激の石灰化促進効果等の組織の機能発現に対する刺激効果を知るには長期の培養時間を要する場合が多い(非特許文献1を参照)。一方、細胞内カルシウムイオン濃度の一過的な上昇(カルシウムシグナル)は、細胞がさまざまな機能を果たす際に重要な役割を担うことが知られている。細胞内Ca2+の濃度上昇は、細胞外からの流入以外に、細胞内の小胞体からの放出でも起こる。刺激に対する細胞の反応は、骨芽細胞等の細胞内Ca2+の濃度変化としてミリ秒単位の早さで起こることが知られている。細胞内のCa2+濃度変化のモニタ法としては従来、蛍光顕微鏡や共焦点レーザー顕微鏡が利用されているが(非特許文献2を参照)、1細胞単位でのモニタが行われるため再生組織全体の反応評価に対して適当とは言えない。またこれらの装置は、顕微鏡やレーザー装置と組み合わされるため大型で高価である。
垣尾雅文 他, 日本生体医工学会誌生体医工学, 45(Suppl.1): 108, 2007 田中茂雄 他, 日本臨床バイオメカニクス学会誌, 17: 409-413, 1996
従来から用いられている、蛍光顕微鏡や共焦点レーザー顕微鏡を利用した方法は、1細胞単位でのモニタを目的としており、組織を再生するために担体に播種した多数の細胞全体、あるいは再生した組織全体のCa2+動態をモニタすることはできなかった。このため、従来から用いられている方法では、組織再生に条件決定を行うことは困難であった。
本発明は、細胞からの組織再生を促進する刺激条件を短期間に評価し決定するための、1細胞単位ではなく、担体に播種した多数の細胞又は再生組織全体での細胞内Ca2+動態をモニタするための装置及び方法の提供を目的とする。
本発明者らは、細胞からの組織再生を促進するための刺激条件を、簡便かつ迅速に、1細胞レベルではなく、再生組織レベルで評価し、決定し得る方法について鋭意検討を行った。本発明者等は、細胞内Ca2+動態をモニタすることで早期に刺激の効果を評価する方法に着目し、Ca2+と結合し励起光照射により蛍光を発するCa2+感受性蛍光プローブを用いた方法を採用し、いかにして再生組織レベルで簡便かつ迅速に刺激条件を評価・決定できるか、さらに検討を行った。その結果、組織を再生させるためのチャンバー中に、担体とそれに播種した細胞を入れ、組織を再生させる際に、細胞を播種した担体全体あるいは再生した組織全体に刺激を加え、全体の細胞を活性化させ、細胞中のCa2+動態を多数の細胞又は再生組織レベルでモニタすることにより、再生組織レベルで刺激条件を評価・決定し得ることを見出した。本発明者は、さらに、汎用の小型光学素子である発光ダイオード(LED)やフォトダイオード(PD)を利用することで、再生組織レベルでの細胞内Ca2+動態のモニタを可能とする小型で簡易的なシステムを開発することに成功した。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 担体に播種した細胞又は該担体に播種した細胞から再生した再生組織における細胞内Ca2+動態をモニタする方法であって、
(i) 再生組織を培養するためのチャンバー中の担体に播種した細胞若しくは再生組織の細胞に細胞膜透過型Ca2+感受性蛍光プローブを接触させ細胞内に取り込ませる工程、
(ii) 担体に播種した細胞若しくは再生組織に刺激を与え、担体に播種した細胞若しくは再生組織に励起光を照射し、細胞内Ca2+と結合した前記Ca2+感受性蛍光プローブからの蛍光を検出する工程、
(iii) 検出された蛍光から、担体に播種した細胞若しくは再生組織の細胞内のCa2+濃度変化を測定する工程
を含む細胞内Ca2+動態をモニタする方法。
[2] 細胞が誘導多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、組織幹細胞及び組織幹細胞から分化した細胞からなる群から選択される、[1]の細胞内Ca2+動態をモニタする方法。
[3] 担体が生体外マトリクス構成物質を含むスポンジ状構造体である[1]又は[2]の細胞内Ca2+動態をモニタする方法。
[4] 担体がコラーゲンスポンジである[3]の細胞内Ca2+動態をモニタする方法。
[5] 刺激が電気的刺激、力学的刺激及び薬物的刺激からなる群から選択される、[1]〜[4]のいずれかの細胞内Ca2+動態をモニタする方法。
[6] 刺激がチャンバー中に設置したピエゾアクチュエータにより加えられる力学的刺激である[5]の細胞内Ca2+動態をモニタする方法。
[7] 細胞膜透過型Ca2+感受性蛍光プローブがFluo4、Fluo3、Fura2、Indo1、Rhod2、Quin2、Fura-PE3、Fura Red、calcium green1、calcium crimson、Oregon green 488 BAPTA-1、fluo-3FF、fluo-5N、mag-fura-5、mag-indo-1、rhod-5N、エクオリン及びカルモジュリンと結合した蛍光タンパク質からなる群から選択される[1]〜[6]のいずれかの細胞内Ca2+動態をモニタする方法。
[8] 細胞膜透過型Ca2+感受性蛍光プローブがFluo4である[7]の細胞内Ca2+動態をモニタする方法。
[9] 励起光がLEDから発生する光であり、発生した蛍光をフォトダイオードで検出する[1]〜[8]のいずれかの細胞内Ca2+動態をモニタする方法。
[10] 担体がコラーゲンスポンジであり、担体に播種した細胞が骨芽細胞であり、再生組織がコラーゲンスポンジ状で再生させた再生骨である、[1]〜[9]のいずれかの細胞内Ca2+動態をモニタする方法。
[11] [1]〜[10]のいずれかの方法によりモニタした担体に播種した細胞又は再生組織における細胞内Ca2+動態から、担体に播種した細胞又は再生組織の細胞中のCa2+濃度を上昇させる刺激条件を前記細胞からの組織再生に適した刺激条件であると判定する、組織再生において細胞からの組織再生を促進する刺激条件を決定する方法。
[12] (i) 担体及び細胞を細胞が担体に播種された状態で入れ、担体内で細胞を培養し再生組織を構築するためのチャンバー、
(ii) Ca2+感受性蛍光プローブと接触させた前記再生組織に励起光を照射する励起光照射手段、及び
(iii) 再生組織中のCa2+感受性蛍光プローブから発生する蛍光を検出する蛍光検出手段、
を含む再生組織における細胞内Ca2+動態をモニタするための装置であって、Ca2+感受性蛍光プローブを接触させ、さらに刺激を与えた、チャンバー中の担体に播種した細胞又は再生組織に励起光を励起光照射手段により照射し、蛍光検出手段により細胞中のCa2+と結合したCa2+感受性蛍光プローブからの蛍光を検出し、検出された蛍光から、再生組織の細胞内のCa2+濃度変化を測定することにより担体に播種された細胞又は再生組織における細胞内Ca2+動態をモニタする装置。
[13] チャンバー内の担体に播種された細胞又は再生組織に力学的刺激を与えるための手段をさらに有する、[12]の細胞内Ca2+動態をモニタする装置。
[14] チャンバー内の担体に播種された細胞又は再生組織に力学的刺激を与えるための手段がピエゾアクチュエータである[13]の細胞内Ca2+動態をモニタする装置。
[15] 励起光照射手段が複数のLEDであり、蛍光検出手段がフォトダイオードである[12]〜[14]のいずれかの細胞内Ca2+動態をモニタする装置。
現在、再生医療の技術開発が加速している。特に、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)を任意の組織の細胞へと分化させる技術が研究・開発の主なターゲットとなっている。このiPS細胞を任意の組織の細胞へと分化させ組織を再生する手法のみならず、他の幹細胞から再生組織を構築する方法において、分化させた細胞を目的の臓器機能を持つ組織片へ構造化する技術が重要となる。本発明の方法及び装置により、細胞より得た細胞の組織化・臓器化を促す効果的な刺激の種類や条件を、再生組織レベルで効率的に決定することが可能となる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の細胞内Ca2+動態モニタリングの原理を図1に示す。
まず、チャンバー内に組織を再生し得る細胞を入れて培地を満たす。例えば、細胞の足場となる担体をチャンバー内に設置し培地を満たし、そこへ、培養しておいた細胞を播種し再生組織を構築することができる。Ca2+感受性蛍光プローブが所定の濃度になるように、チャンバー内にCa2+感受性蛍光プローブを添加する。担体下方に配置した励起光照射手段から励起光を照射すると、細胞内Ca2+と結合したCa2+感受性蛍光プローブが発光する。そして担体から発せられた蛍光を励起光照射手段と並置した光検出手段により検出し、その検出強度変化から細胞内Ca2+動態をモニタし、評価する。
Ca2+動態をモニタする細胞は、播種し組織を再生する前の細胞、組織を再生している最中の細胞、再生した組織中の細胞のいずれでもよい。本発明においては、個々の細胞のCa2+動態を1細胞レベルでモニタするのではなく、組織を再生させるために担体に播種した細胞全体、あるいは細胞から構築された再生組織全体において、包括的にCa2+動態をモニタすることができる。
組織再生のためには、細胞、担体及び細胞活性化因子(細胞活性化刺激)の3つが必要になる。特に組織再生を効率的に行うためには、適切な細胞活性化因子の存在が必須である。活性化因子としては、電気刺激、力学的刺激等の物理的刺激、薬物刺激等の化学的刺激等がある。本発明により、担体と共に培養している細胞にこれらの刺激を与え、そのときの細胞の反応を細胞のCa2+動態をモニタすることにより、与えた刺激が効率的な組織の再生に有用か否かを判断することができる。また、本発明により、効率的に組織を再生するためには、どのような刺激(質及び量)が必要かを評価しスクリーニングすることができる。
刺激に応答する細胞の情報を得る検出手段には、吸光、蛍光、化学発光及び放射線を利用する方法などが挙げられ、中でも蛍光は感度や操作性などの面から最も取り扱いやすく、しかも生きた細胞内での化学過程の非破壊分析手段として利用されている。本発明においては、好ましくは蛍光を利用し、好ましくは、Ca2+感受性蛍光プローブを用いる。
Ca2+感受性蛍光プローブは、カルシウムイオンと結合し得る色素であり、カルシウムキレータと色素(蛍光団)からなり、特定の波長の励起光を照射することにより特定の波長の蛍光を発生する。キレータの化学構造によってCa2+親和性が決まる。Ca2+との結合によって特定波長におけるピーク値の強度が変動し、ピーク域の蛍光強度を測ることでCa2+濃度や分布が判り、時間経過から分子や細胞内信号の動態をモニタすることができる。測定したCa2+応答から投薬効果や細胞内信号を解析することができる。Ca2+感受性蛍光プローブとして、カルシウムキレータとしての作用を有するBAPTA(O,O’-bis(2-aminophenyl)ethyleneglycol-N,N,N’,N’-. tetraacetic acid)骨格を有するプローブが挙げられる。このようなCa2+感受性蛍光プローブとして、Fluo4、Fluo3、Fura2、Indo1、Rhod2、Quin2、Fura-PE3、Fura Red、calcium green1、calcium crimson、Oregon green 488 BAPTA-1、fluo-3FF、fluo-5N、mag-fura-5、mag-indo-1、rhod-5N等がある(R. Y. Tsien, Methods Cell Biol., 1989, 30, 127)。これらのCa2+感受性蛍光プローブの励起光及び蛍光の波長は以下のとおりである。
励起光 蛍光
Fluo4 490nm 518nm
Fluo3 508nm 527nm
Fura2 340nm, 380nm 500nm
Indo1 330nm 410nm, 485nm
Rhod2 553nm 576nm
Quin2 339nm 492nm
Fura-PE3 340nm, 380nm 500nm
Fura Red 436nm, 473nm 655-670nm
calcium green1 506nm 531nm
calcium crimson 590nm 615nm
fluo-3FF 506-515nm 526nm
fluo-5N 491-493nm 515
mag-fura-5 330nm, 473nm 655-670nm
mag-indo-1 330-349nm 417nm, 476nm
rhod-5N 549-551nm 576nm
これらの中でも、従来よく用いられていたFluo3に対し、蛍光強度が約2倍になり、細胞にローディングする色素が少なくて済み、インキュベーション時間も短くて済むFluo4が好ましい。
本発明に用いるCa2+感受性蛍光プローブは、再生組織の細胞中に取り込ませるため細胞透過性である必要がある。上記のBAPTA構造を有するCa2+感受性蛍光プローブのBAPTA構造のカルボキシル基をアセトキシメチルエステル化(acetoxymethyl ester, AM)することにより細胞透過性となる。これらの細胞透過性Ca2+感受性蛍光プローブを細胞懸濁液に混ぜるだけで容易に細胞内に取り込まれ、細胞内のエステラーゼにより加水分解されてFluo4を再生し、細胞内Ca2+を蛍光によりモニタできる。アセトキシメチルエステル化したプローブをAM誘導体と呼び、例えばFluo4-AMのように表す。AM誘導体自体はCa2+と結合せず、細胞に取り込まれ加水分解を受けAM基が除去されてCa2+との結合能を獲得する。従って、細胞外のCa2+と結合することなく、細胞内のCa2+のみを検出することができる。本発明においては、例えばFluo-4という場合、そのAM体も含む。一例として、Fluo4-AMの構造式を図2に、Fluo4-AMの蛍光スペクトルを図3に示す。
さらに、Ca2+感受性蛍光プローブとして、蛍光タンパク質を用いることもでき、例えばエクオリン(aequorin)、カルモジュリンとGFP(Green Fluorescent Protein)、YFP、BFP等との複合体などが挙げられる。また、二種の蛍光タンパク質とカルモジュリンを組み合わせ蛍光共鳴エネルギー吸収(FRET)を利用するCa2+感受性蛍光プローブを用いることもできる
これらのCa2+感受性蛍光プローブは、適切な濃度範囲で使用することが求められ、市販のものを用いる場合メーカーが推奨する濃度範囲で用いればよい。例えばFluo-4の場合は1〜5μMの濃度範囲で用いることが望ましい。
再生組織は、細胞や組織断片から再生させた生体組織をいう。
再生組織を再生するための細胞として誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell; iPS細胞)(Nakagawa M. et al., Nat Biotechnol 26: 101-106等)、胚性幹(ES)細胞、胚性生殖(EG)細胞等の分化万能性幹細胞、表皮幹細胞、膵共通幹細胞、肝幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、神経幹細胞、網膜幹細胞等の特定の組織に分化し得る組織幹細胞(体性幹細胞)等が挙げられる。
また、骨芽細胞、軟骨細胞、繊維芽細胞、筋細胞、心筋細胞、神経細胞、腱細胞、脂肪細胞、膵細胞、肝細胞、腎細胞等の間葉系幹細胞などの組織幹細胞から分化した細胞又はその前駆細胞を挙げられる。さらに、これらの細胞を遺伝子工学的手法により改変した遺伝子改変細胞も用いることができる。これらの細胞は、公知の手法により、生体から採取、分離することができる。
再生組織としては、骨、軟骨、靭帯、神経、皮膚、血管、心筋、肝臓、膵臓、小腸、腎臓、副腎、膀胱、胃腸管脂肪組織、神経組織、粘膜上皮、内皮、平滑筋、食道、脂肪組織等の生体のあらゆる組織が挙げられる。
組織再生は、細胞、担体、分化又は誘導因子の3つの組合せにより可能となる。再生組織は、再生組織培養用チャンバー(容器)に入れて用いられる。例えば、再生組織培養用チャンバー中に上記の組織に分化し得る細胞の足場となる担体(scaffold)を設置し、培地をチャンバー中に入れ、担体に細胞を播種する。この際、用いる細胞及び再生しようとする組織により、特定の誘導因子を添加すればよい。
培養用チャンバーは、チャンバー内に照射する励起光及びチャンバー内で発生した蛍光が通るように少なくとも壁の一部は光透過性である必要がある。「光透過性」とは、紫外光、可視光、赤外光又は近赤外光を透過する性質、すなわちこれらの光を反射、吸収しない性質をいう。このためには、基板は透明なものを用いることが望ましく、透明ガラス(石英ガラス、パイレックスガラス等)、透明プラスチック等を用いればよい。例えば、チャンバーの底面をガラス製としてチャンバー底面を通して励起光を照射し、蛍光を検出すればよい。
培養用チャンバーの大きさは限定されず、再生する組織により適宜決定することができる。例えば、縦×横×高さが、30〜80 mm×20〜60 mm×10〜30 mmである。また、複数のチャンバーを連結させて用いてもよい。このような複数のチャンバーを連結させた場合、一度に複数の条件検討実験を行うことができる。例えば、4つのチャンバーを連結させた場合、4ch培養チャンバーという。
担体とは、人工の細胞外マトリックスのことをいい、担体内で細胞を培養することにより、細胞が自己の細胞外マトリックスを形成し、組織が再生される。細胞を取り囲む生体内環境の一種である骨髄や基底膜において、細胞はコラーゲン等の線維状構造で構成された細胞外マトリクスである3次元マトリクス中で生育し、増殖している。そのため、細胞を生体外において培養し、組織を再生する場合、生体から抽出したコラーゲンなどのマトリクス構成物質からなるか、あるいは含んだ形でゲルやスポンジ状構造体として加工し、これを培養用の3次元の担体として用いる。
担体は、合成高分子材料、天然高分子材料等から作製される。本発明においては、担体に播種した細胞又は担体中で再生した組織全体に励起光を照射するため、担体は光の透過性を有している必要がある。このため、透明〜半透明の材料を用いたり、あるいは内部に空隙が存在し空隙内に光が到達する多孔性の材料を用いることが好ましい。高分子材料としては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、乳酸-グリコール酸共重合体、乳酪−カプロラクトン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、テフロン(登録商標)等が挙げられる。天然高分子材料としては、コラーゲン、フィブロネクチン、ゼラチン、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、アルギン酸等が挙げられる。担体材料は単独で用いることもできるし、2種以上を組み合わせ用いることもできる。例えば、上記の合成高分子、天然高分子等から選択される2種以上を混合した複合体を担体として用いることができる。
担体は、発泡構造を有するスポンジ状、線維状、膜状等の3次元構造を有する必要があり、3次元構造中の孔中で細胞が増殖し、組織が再生される。
この中でも、生体内に移植した場合に生体に吸収され得る生体吸収性材料でできた担体が好ましく、例えばタイプIコラーゲン等のコラーゲンでできたコラーゲンスポンジが好適に用いられる。コラ−ゲンは生体内において骨芽細胞及び骨芽前駆細胞の増殖・分化の足場としての役割をもつ。また、細胞表面にある細胞の接着に関与する細胞接着分子(インテグリン)と結合し細胞内シグナルを活性化する働きがある。さらに、再生組織が骨である場合、未熟な骨芽細胞をコラーゲンゲル内で培養すると増殖と分化が促進される。これらのことより、生体親和性が高く骨芽細胞の石灰化を促進する機能をもつコラーゲンは担体として適切である。また、コラーゲンスポンジは内部に多くの空隙を有する多孔性の担体であり、孔を通して光が通り、担体内部まで励起光が到達し、かつ担体内部から蛍光が蛍光検出器に到達し得る。コラーゲンスポンジは、コラーゲンがスポンジ状に架橋された担体であり、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、乳酸-グリコール酸共重合体、乳酸−カプロラクトン共重合体等の生体吸収性材料で補強されていてもよい。コラーゲンの由来は限定されないが、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヒト、鳥類、魚類、霊長類等のコラーゲンを用いることができる。コラーゲンはこれらの動物の皮膚、腱、骨、軟骨、臓器等から公知の方法により得られる。コラーゲンのタイプも限定されないが、I型、III型、IV型が好ましく、I型がさらに好ましい。また、抗原性を低下させる目的で末端のテロぺプタイドを酵素的に除去したアテロコラーゲンを用いてもよい。コラーゲンスポンジは、市販の物を用いてもよいし、あるいは例えば特開2004-194944号公報等の記載に従って、作製することもできる。
組織へと再生し得る細胞を上記担体に播種し培養することにより、再生組織が構築される。培養に用いる培地は、限定されず、細胞の種類により適宜選択することができる。培地はCa2+を含んでいてもよい。例えばMEM、αMEM、DMEM、BME、IMEM、DM-160、RPMI等が挙げられ、これらに添加剤として、必要に応じて、血清成分(例えば、ウシ胎児血清)、酸化防止剤、抗菌剤、pH調整剤等を含有させてもよい。さらに、培地には、培養する細胞の成長や分化を制御する成長因子を目的に応じて添加してもよい。このような成長因子としては、例えば骨成長因子(BMP)、神経成長因子(NGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、肝細胞成長因子(HGF)、上皮成長因子(EGF)、内皮成長因子(ECGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、インシュリン、インシュリン様成長因子(IGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、コロニー刺激因子、エリスロポイエチン、トランスフェリン、インターロイキン、インターフェロン等が挙げられる。
細胞の播種は、培養期間、担体、培地等により変えることができるが、103〜107個/cm2、好ましくは105〜106個/cm2程度の密度で播種すればよい。
細胞の培養条件は細胞の種類等に応じて適宜設定することができ、通常は30〜40℃、4.8〜5.2%CO2、pH6〜9の条件で、24時間〜数ヶ月培養することにより再生組織が構築される。
本発明の方法においては、チャンバー中に設置した担体内で細胞を培養し、培養している細胞に刺激(活性化因子)を与え、その刺激に対する反応を細胞内のCa2+動態をモニタすることにより行う。細胞に与える刺激としては、電気刺激、力学的刺激等の物理学的刺激、薬物刺激等の化学的刺激などが挙げられる。薬物刺激としては、細胞の分化・増殖に関与する薬物が挙げられる。該薬物としては、上記の細胞の成長や分化を制御する成長因子が挙げられる。薬物は再生組織培養用培地に添加すればよい。電気的刺激は、担体及び細胞が入っているチャンバー内に電圧をかけることにより与えることができる。力学的刺激としては、細胞への圧力刺激や圧縮(ひずみ)等が挙げられる。例えば、ピエゾアクチュエータ(圧電素子)をチャンバー内の培地に直接又は膜等を介して間接的に接触するように設置し、ピエゾアクチュエータを圧電駆動させ、細胞に圧縮の力学的負荷(刺激)を与えることができる。この際、チャンバー中の培地がピエゾアクチュエータの圧縮に応じて流動し、該流動(ひずみ誘導型液体流動)により担体及び細胞にひずみが生じることにより、細胞に力学的刺激を与えることができる。ピエゾアクチュエータとしては、例えば、バイモルフ型ピエゾアクチュエータが挙げられる。
例えば、再生骨等は力学的刺激適応型に再生し、ひずみ誘導型液体流動である力学的刺激により再生が促進される。このように、刺激が力学的刺激の場合、細胞内のCa2+濃度の上昇は、刺激の直後に急激に起こり数秒後に刺激前の濃度に戻る。それ以後は刺激を持続させても、細胞内のCa2+濃度の上昇は認められない。これは、細胞の鈍感化(desensitization)が起こるためであると考えられる。従って、刺激は断続的に与えるのが好ましい。
力学的刺激の頻度大きさは、用いる細胞、再生組織の種類により適宜設定することができるが、例えばピエゾアクチュエータを用いて再生骨を刺激する場合、周波数0.8 Hzで正弦波上に25秒間与えればよい。この際のスポンジの見かけのひずみ(スポンジの初期全長に対する変形量の割合)は最大0.2%程度である。
細胞がこれらの刺激を受けた場合、刺激により細胞内の分化・増殖に関連した遺伝子が活性化される場合があり、この場合細胞が分化・増殖し得る。細胞が活性化される場合、一過性で細胞内のCa2+濃度が上昇する。本発明においては、細胞内のCa2+動態をモニタし、細胞内のCa2+濃度上昇を検出する。
ある刺激を与えた場合に、刺激直後に細胞内のCa2+濃度が上昇した場合に、該刺激が細胞の分化・増殖に効果があり、組織の再生を促し得ると判断することができる。
本発明により、ある特定の刺激が細胞の分化・増殖を促し、組織再生に正の効果をもたらすか否かを判断することができ、さらに、細胞の分化・増殖を促し、組織再生に正の効果をもたらす刺激条件を決定することができる。
前記のCa2+感受性蛍光プローブを添加し、該プローブから発生する蛍光を測定することにより、細胞内のCa2+の濃度上昇を測定することができる。
蛍光の検出には、用いるCa2+感受性蛍光プローブごとに励起波長及び検出波長を変えて行う。
励起光としては、300nm〜600nmの波長範囲の光を用い、アルゴンイオンレーザ、ヘリウム・ネオンレーザ、クリプトン、キセノン、ヘリウム・カドミウムレーザ等の蛍光物質を励起することができる光を用いればよい。また、光線として発光ダイオード(LED: Light Emitting Diode)から発する光を用いることもできる。この場合、発光源としてLEDチップを用いればよい。励起光の波長を変化させるには、所望の波長の光のみを通すゼラチンフィルター、色ガラスフィルター、バンドパスフィルター等のフィルターやビームスプリッターを用いればよい。また、分光器を用いて波長を変えることもできる。分光器としては、光学フィルターを用いた分光器、分散型分光器、フーリエ変換型分光器のいずれも用いることができる。また、細胞を播種した担体全体又は再生組織全体に照射するために光を照射する部分に適宜レンズ等を組み込んでもよい。
さらに、0.7〜2.5μmの近赤外光を励起光とし、該波長の励起光により蛍光を発するCa2+感受性蛍光プローブを用いてもよい、近赤外光は、生体透過性を有し、細胞や再生組織の内部に光が到達し得る。
励起光照射手段は、上記励起光を発生する装置である。励起光照射手段としては、好ましくは、汎用されており、励起光照射手段としても小型のものを設計し得る、LEDを有する装置を用いる。
励起光は、担体内の細胞全体又は担体内で再生した組織全体に同時に照射することが望ましい。従って、励起光照射手段は、複数の光源を有し、一度に担体に播種した細胞又は再生組織全体に光が照射できるよう広い範囲にわたって、励起光を照射できるように設計する。例えば、励起光照射手段に複数のLEDを碁盤目状に並べて配置すればよい。また、上記のようにレンズ等を利用することもできる。
Ca2+感受性蛍光プローブが発した蛍光は、励起光及びその反射光の波長の光を遮断しその蛍光の波長の光のみを通すゼラチンフィルター、色ガラスフィルター、バンドパスフィルター等のフィルターを通して蛍光検出手段で検出すればよい。検出する蛍光の波長は、400〜700nmである。なお、この際、用いる光の励起波長及び検出波長は蛍光分子プローブの最適励起波長及び蛍光波長と完全に同一である必要はなく最適波長付近の波長ならばよい。用いる励起波長及び検出波長は、最適励起波長の±30nm、好ましくは±20nm、さらに好ましくは±10nmの範囲に含まれていればよい。光検出手段は、受けた光の強度を電気信号として出力する手段であり、内部光電効果型光検出器及び外部光電効果型光検出器のいずれも用いることができる。内部光電効果型光検出器は、光による半導体中の電荷分離を利用する検出器であり、電荷分離により生じた担体による電気伝導度の変化を検出する光導電型検出器と電位差を検出す光起電力型検出器がある。光導電型検出器としてフォトダイオード(PD)、フォトダイオードアレイ(PDA)、電荷結合素子(charge coupled device、CCD)等がある。外部光電効果型光検出器は、入射光子によって光電面から電子を真空中に放出させ、その電子を直接あるいは増幅した後に検出する光電管や光電子増倍管(フォトマル、photomultiplier)がある。蛍光検出手段としては、好ましくは、汎用されており、蛍光検出手段としても小型のものを設計し得る、フォトダイオード(PD)を用いる。蛍光検出手段も例えば複数のPDを並置させてもよい。
励起光照射手段と蛍光検出手段は並置させるのが好ましい。例えば、複数の励起光照射手段と蛍光検出手段を混在させて並べればよい。
本発明は、さらに再生組織を構築するために担体に播種した細胞及び再生組織の細胞における細胞内Ca2+動態をモニタするための装置を包含する。
該装置は、少なくとも(i) 担体及び細胞を細胞が担体に播種された状態で入れ、担体内で細胞を培養し再生組織を構築するためのチャンバー、(ii) Ca2+感受性蛍光プローブと接触させた前記再生組織に励起光を照射する励起光照射手段、及び(iii) 再生組織中のCa2+感受性蛍光プローブから発生する蛍光を検出する蛍光検出手段を含む。チャンバー、励起光照射手段及び蛍光検出手段は、上記のとおりである。励起光照射手段は、チャンバーの1側面を通して、チャンバー内の細胞又は再生組織に励起光を照射し、蛍光検出手段は、チャンバー内の細胞内で発生した蛍光をチャンバー内の1側面を通して受光する。従って、励起光照射手段の励起光発生部分及び蛍光検出手段の受光部分は、チャンバーに近接した位置に存在する必要がある。また、チャンバーの光が通る側面は光透過性である必要がある。「光透過性」については上記のとおりである。培養用チャンバーの大きさは限定されず、再生する組織により適宜決定することができる。例えば、縦×横×高さが、30〜80 mm×20〜60 mm×10〜30 mmである。また、複数のチャンバーを連結させて用いてもよい。このような複数のチャンバーを連結させた場合、一度に複数の条件検討実験を行うことができる。例えば、4つのチャンバーを連結させた場合、4ch培養チャンバーという。
該装置は、さらにチャンバー内の担体に播種された細胞又は再生組織に力学的刺激を与えるための手段を含んでいてもよい。該手段は、例えば、ピエゾアクチュエータ(圧電素子)からなり、ピエゾアクチュエータをチャンバーに設置し、ピエゾアクチュエータを圧電駆動させ、細胞を含む担体に圧縮の力学的負荷(刺激)を与える。この際、担体中の培地がピエゾアクチュエータの圧縮に応じて流動し、このひずみ誘導型液体流動により担体内にひずみと流動の両方が生じることにより、細胞又は再生組織に力学的刺激を与えることができる。ピエゾアクチュエータは、チャンバー内の液体培地と接触しており、ピエゾアクチュエータを駆動させると、担体の変形により担体内に流動が生じ、この培地の流動せん断力により担体基質のひずみに加え細胞膜にひずみが生じる。ピエゾアクチュエータは、変位する部分の変位量が担体内に流動を生じさせるために必要があり、チャンバー内の液体培地と直接接触するように設置してもよいし、弾力性があり、ピエゾアクチュエータの変位を担体に伝える膜等を介して液体培地に接触していてもよい。ピエゾアクチュエータとしては、例えば、バイモルフ型ピエゾアクチュエータが挙げられる。ピエゾアクチュエータの変位は、変位センサによりモニタされ、制御される。ピエゾアクチュエータを有するチャンバーとして、例えばS.M. Tanaka, J. Biomechanics, Vol.32, No.4, pp.427-430, 1999.に記載のものを用いることができる。
該装置は、さらに励起光照射手段からの光照射を制御するための電源、信号調整器、アンプ等、蛍光検出手段を制御するためアンプ等、力学的刺激を与える手段を制御するためのアンプ等の各装置を含んでいてもよい。また、装置全体を制御するとともに、得られた蛍光データを受け取り、結果を解析するためのコンピュータを含んでいてもよい。コンピュータはデータ表示部を有していてもよく、データ表示部はデータを表示するモニタやプリンタを含んでいる。
本発明の装置の構成及び使用法の例を図を用いて説明する。図による説明は本発明の一例であり、本発明は図に示された構成のものに限定されることはない。図10に本発明の装置の構成の一例を示す。培養用チャンバー12内には細胞が播種されたコラーゲンスポンジが14が入れられ、さらに培地及びCa2+感受性蛍光プローブ13が入れられる。チャンバー12に近接した位置にLED及びフォトダイオード(PD)9が設けられる。さらに、チャンバー12に接触してピエゾアクチュエータ10が設置され、ピエゾアクチュエータ10は変位センサ11により制御される。該装置は、さらに、適宜コンピュータ1、インターフェース・ボード2、BNCコネクタボックス3、LED用直流電源4、LED用信号調整器5、PD用電源・アンプ6、安定化電源7、電圧増幅器8等が連結される。図8は、チャンバー及び力学的刺激を与える手段を斜視図により示したものである。図に示すように、ピエゾアクチュエータ10はチャンバー12に接触し、ピエゾアクチュエータ10は、変位センサ11により制御される。図9は、さらにピエゾアクチュエータの作用を示す。図に示すようにピエゾアクチュエータが変位すると培地の液体流動が担体及び細胞に伝わり、力学的刺激が与えられる。
図10において、細胞が播種されたコラーゲンスポンジ14にCa2+感受性蛍光プローブが添加される。Ca2+感受性蛍光プローブは細胞膜透過型なので、細胞内に取り込まれる。ピエゾアクチュエータ10により細胞が播種されたコラーゲンスポンジ14に力学的刺激が与えられる。力学的刺激により細胞が活性化し、培地中に存在するCa2+が細胞内に流入し、または同時に細胞内の小胞体からCa2+放出するため細胞内のCa2+濃度が上昇する。細胞内のCa2+とCa2+感受性蛍光プローブが結合する。そこに、LEDにより励起光を照射するとCa2+と結合したCa2+感受性蛍光プローブから蛍光が発生する。PDにより蛍光を検出することにより、細胞内のCa2+の動態をモニタすることができる。
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
[実施例1 細胞内Ca2+動態モニタリング装置の構築]
本実施例では、Ca2+感受性蛍光プローブとしてFluo4 - AM(同仁化学研究所、Fluo4 - AM special packaging、Fluo4 - AM 50 μg × 8、ジメチルスルホキシド 1 ml)を使用した。
本研究で開発した細胞内Ca2+動態モニタリング装置は、4個のLED(epitex、L490 - 03)とPD(Photo diode、エドモンド・オプティクス・ジャパン株式会社、57508 - H)により構成されている。作製した細胞内Ca2+動態モニタリング装置の画像を図4に示す。装置の本体はアクリル樹脂で作られており、4個のLEDとPDは図5のように配置されており、大きさは20 mm × 26 mmとコンパクトである。アクリル部材同士はプラスチック用接着剤(アクリサンデー株式会社、溶剤型合成樹脂用接着剤、30 ml)で固定した。PDにはゼラチンカラーフィルター(KODAK、No.12)を取り付け、500 nm以下の波長を遮断するように作られている。
図6は分光器(日立ハイテクノロジーズ、U - 1900形レシオビーム分光光度計)によりフィルターの光学特性を測定したものである。Fluo4は波長490 nmのLEDの励起光により、波長518 nmの蛍光を発する。蛍光のみをPDで検出できるように、波長500 nmでのハイパス機能を持つフィルターを採用した。
本システムで細胞内Ca2+動態モニタするために作製した自作の4ch力学刺激装置付き培養チャンバーを図7に示す。培養チャンバーはアクリル樹脂製で同じ大きさの4つの部屋から構成されている。一室は36 mm × 40 mm × 22 mmの大きさで、それぞれの部屋にはバイモルフ型ピエゾアクチュエータが設置されており圧縮の力学負荷を与えることができる。また部屋の底面はスライドガラス製で、LEDからの励起光及び再生骨からの蛍光をクリアに通す工夫が施されている。
ひずみ誘導型液体流動を負荷するための力学刺激システムを図8に、力学刺激装置の模式図及び装置画像を図9a及び図9bに示す。ひずみ誘導型液体流動とは培地と細胞を含む担体に変位を与えることで担体及び細胞にひずみと流動の両方を生じさせる刺激方法である。培養チャンバー内に骨芽細胞を播種したコラーゲンスポンジ担体を入れた状態でピエゾアクチュエータによる圧縮の力学負荷を加えると、チャンバー内を満たす培地が流動して液体流動が生じる。この液体流動および担体のひずみにより骨芽細胞に力学的に刺激される。また、ピエゾアクチュエータは変位センサからの信号によりフィードバック制御される。
細胞内Ca2+動態モニタリング実験に用いる実験装置の構成を図10に示す。図10はシステム全体の構成を示したものである。測定中は光が入り込まないようにするために、実験装置全体に箱をかぶせた。なお、光の反射を最小限に抑えるために、箱の内面と実験装置の下に敷いた台紙には黒体塗料(ジャパン・センサー株式会社、JSC - 3号、300 ml)を塗布した。
図中の番号はそれぞれ、1:ラップトップ型コンピュータ(IBM Thinkpad T32)、2:16 bitインターフェース・ボード(National Instruments、DAQ Card - 6036E)、3:BNCコネクタボックス(National Instruments、BNC - 2110)、4:LED用直流電源(Takasago、LX018 - 2B)、5:LED用信号調整器(自作)、6:フォトダイオード用電源及びアンプ(浜松フォトニクス、c9329)、7:安定化電源(日本光電、SM - 204 V)、8:電圧増幅器(MATSUSADA Precision Inc.、HEOPS - 0.6B50)、9:LED及びPDとなっている。
細胞内Ca2+動態モニタリング装置に組み込まれた4個のLED9は、信号調整器5を経由してBNCコネクタボックス3のアナログアウトプットに、PDはPD用電源・アンプ6を経由してBNCコネクタボックスのアナログインプットにそれぞれ接続され、さらに16 bitインターフェース・ボード2を介してPC1に接続されている。
また、図11に示す回路で構成された信号調整器5ではLEDを電流制御するため、PCから出力された電圧を電流に変換している。PCから供給される電圧には限界があるため、直流電源4によって電力を供給している。
細胞内Ca2+動態モニタの流れとしては、波長490 nmのLEDを4個同時に光らせ、またそれと同時に細胞をタイプIコラーゲンスポンジ担体(Zimmer、Colla Cote、L 20 × W 16 × t 2 mm、孔径約100 μm)に約1 × 106個播種することで作製した再生骨にピエゾアクチュエータによる圧縮の力学負荷を与える。圧縮負荷による刺激で骨芽細胞内のCa2+濃度が上昇すると、Ca2+と結合したFluo4 - AM(株式会社同仁化学研究所、Fluo 4 - AM special packaging)が、LEDの光を受けて波長530 nmで蛍光発色する。その蛍光を、波長500 nm以下を遮断するフィルターを取り付けたPDによって検出する。PDは光が入射するだけで起電力が発生する光起電力モード(アンバイアスモデル)のPDを使用した。細胞への力学刺激は、培養チャンバー内に設置したバイモルフ型ピエゾアクチュエータにより、再生骨に対し繰り返し圧縮変位を与えることで行った。なお、細胞はコラーゲンスポンジの変形により生じるひずみ誘導型液体流動により刺激される。変形は、周波数0.8 Hzで正弦波上に25秒間与えられ、この際のスポンジの見かけのひずみ(スポンジの初期全長に対する変形量の割合)は最大0.2%とした。
また、計測は入力電圧5 V、周波数0.8 Hz、測定時間25秒でおこない、LEDの発光制御及びPDの検出信号のコンピュータへの転送、処理などはAD/DAインターフェース・ボード(National Instruments、DAQ Card - 6036E)を介してVisual Basicで作成したプログラムを実行することで自動的に行われた。
図12は、チャンバー内でI型コラーゲンスポンジ担体(Zimmer、Colla Cote、W 20mm×L 16mm×t 2mm)を濃度調整した塩化カルシウム水溶液(0 〜 100μM)に浸漬させて行ったモデル実験の結果である。
なお、Fluo4-AMの濃度は3μMとした。図12に示すように、0〜60μMの範囲において、塩化カルシウム濃度の増加とともに蛍光強度が高くなる傾向が示された。すなわち、本システムでは、同範囲においてCa2+濃度変化のモニタが行えると考えられた。
[実施例2 培養再生骨における細胞内Ca2+動態のモニタ]
実施例1で開発した細胞内Ca2+動態モニタリング装置を用いて、コラーゲンスポンジ担体に細胞を播種して作製した再生骨の細胞内Ca2+動態のモニタを行った。
1.細胞の調製
培養チャンバー内に設置した前述のコラーゲンスポンジ担体に対し1×106個の骨芽細胞を10%ウシ胎児血清と抗生物質を添加したα-MEM培地(Sigma)とともに播種し、再生骨を構築した。なお骨芽細胞には、マウス頭蓋冠由来の樹立系細胞株であるMC3T3-E1細胞を使用した。
細胞の調製等は以下の方法で行った。
細胞の培養は、10%ウシ胎児血清と抗生物質を添加したα-MEM培地(Sigma)を用い、2日に1回培地交換を行った。培養は、37℃、5%CO2、湿度100%のインキュベータ中で行った。また、培養容器は、骨芽細胞の培養には、底面積25又は75cm2の培養フラスコを用い、3次元培養には4チャネルの培養チャンバー(図13)を用いた。培養容器はすべて滅菌済みのものを用いた。細胞内Ca2+動態のモニタに用いる4ch培養チャンバーは、アクリル部品に培養担体であるコラーゲンスポンジを接着した後、酸素・アセチレンガス滅菌を施したものを用いた。
培養担体として骨の細胞外基質の主成分であるタイプIコラーゲン線維を主体としたコラーゲン担体を用いた。図14a及び図14bにタイプIコラーゲンスポンジの全体写真(図14a)と顕微鏡写真(図14b)を示す。
細胞内Ca2+動態モニタリング実験を行うにあたって、MC3T3 - E1細胞を3次元培養した再生骨で実験を行った。MC3T3 - E1細胞の3次元培養では担体であるタイプIコラーゲンスポンジに骨芽細胞を播種して1日培養を行った。図15〜17に作製した再生骨の写真を示す。図15は、作製した再生骨を示し、図16は細胞にHE染色を施した再生骨の顕微鏡画像を示し、図17は再生骨を凍結割断法により活断した走査電子顕微鏡画像を示す。4ch培養チャンバーのアクリル部材にW 20 mm × L 16 mm × t 1 mmに切り出したタイプIコラーゲンスポンジ(Zimmer Dental、CollaCote、CAT#: 0100、2.0 cm × 4.0 cm)を接着した。コラーゲンスポンジが接着されたアクリル部材及び4ch培養チャンバーは酸素・アセチレンガスを用いたガス滅菌法により滅菌した。また、細胞内Ca2+動態モニタリング実験の準備段階としてコラーゲンスポンジ1枚当たりに約1 × 106個の骨芽細胞を播種して3次元培養を行った。本実験で行った3次元培養の詳細な手順を以下に記す。
(1)W 20 mm × L 16 mm × t 1 mmのコラーゲンスポンジ1枚に播種する細胞数を1 × 106個とし、2次元培養により必要な数の細胞を確保しておいた。2次元培養では、骨芽細胞は培養ディッシュ底面に沿って水平方向にのみ増殖していき、薄膜状の構造を形成する。75 cm2培養フラスコに骨芽細胞を培養した場合、80%コンフルエントに達した時点で約5 × 106個の細胞が得られる。
(2)コラーゲンスポンジが接着された滅菌済みの4ch培養チャンバーにスポンジが浸る程度(約3 ml)の培地を入れる。
(3)全細胞数をn、スポンジ1枚あたりに播種する細胞数をx、スポンジの数をsとしたとき、n / s ≒xであることを確認し、細胞を (s + 1) × 1 mlの培地に懸濁する。ここでs + 1とするのは、播種の際に細胞懸濁液が足りなくなることを考慮してスポンジの数より多めに用意するためである。
(4)スポンジに培地が染みこんでいることを確認し、ディッシュ内の培地をマイクロピペットで吸引して廃棄する。
(5)上記(3)の懸濁液を1mlずつスポンジ上に播種する。このとき懸濁液はよくピペッティングしてからピペットにとる。播種の際はピペット先端を可能な限りスポンジに近づけ、細胞がスポンジ上から流れ落ちるのを防ぐために懸濁液がスポンジに浸透するのを待ちながら、少量ずつスポンジ全体に播種する。
(6)ディッシュに培地を3 mlずつ入れ、インキュベータに入れる。
2.調製した細胞を用いた細胞内Ca2+動態のモニタ
(1)装置構成
実施例1に記載の細胞内Ca2+動態モニタリング装置を用いた。計測は入力電圧5 V、周波数0.8 Hz、測定時間25秒でおこない、LEDの発光制御及びPDの検出信号のコンピュータへの転送、処理などはAD/DAインターフェース・ボードを介してVisual Basicで作成したプログラムを実行することで自動的に行われた。
培養1日後、8 μMのFluo4-AMを培養チャンバー内の培地へ添加し、さらにFluo4-AMを細胞に取り込ませるために3時間培養した後、本装置により刺激で起こる細胞内Ca2+濃度変化をモニタした。
(2)Fluo4 - AMの濃度調整
Fluo4 - AMの濃度調整はTechnical Manual(同仁化学研究所、Fluo4 - AM special packaging)を参照した。以下にFluo4 - AMの調整方法を示す。
(i) 凍結保存してあるFluo4 - AM 50gにジメチルスルホキシド 45 μlを添加してピペッティングし、1 mMの溶液に調整する。
(ii) (i)の調製液を2つ作り、マイクロピペットを使って1つの遠沈管にまとめる。
(iii) 1 mM Fluo4 - AMの入った遠沈管に培地を12 ml加え、Fluo4 - AMを8 μMに調整する。
(3)測定方法
(i) 4ch力学刺激装置付き培養チャンバー内でタイプIコラーゲンスポンジ担体(20 mm × 16 mm × 2 mm)にMC3T3 - E1骨芽細胞を約1 × 106個播種して1日間培養しておき、8 μMに調整したFluo4を各チャンバーに3 mlずつ入れて3時間インキュベートする。
(ii) 培地を用いて3回洗浄する。この際、洗浄により細胞に刺激が負荷されてしまうので洗浄後インキュベータに戻す。
(iii) ±17.5 V、0.3 Hzの正弦波信号を25秒間ピエゾアクチュエータに入力して骨芽細胞に刺激を負荷する。このとき刺激と同時に担体の下方から波長490 nmのLED 4個を同時に点灯させて励起光を照射するとともに、波長500 nm以上の光を透過するゼラチンカラーフィルターを取り付けたPDを用いて蛍光強度(波長約520 nm)を検出する。
(iv) 刺激負荷時と無負荷時の蛍光強度を検出する。測定は図18に示すようにchamber A から順に測定していく。この際、測定を繰り返す場合は、5分間インキュベータに入れてから再度測定する。
細胞への刺激は、培養チャンバー内に設置されたバイモルフ型ピエゾアクチュエータ(Tanaka, SM et al., J. Biomech, 32(4): 427-430, 1999)により再生骨に対し、繰り返し圧縮変位を与えることで行った(図10)。なお細胞は、担体として用いたコラーゲンスポンジの変形により生じるひずみ誘導型液体流動により刺激される(Tanaka, SM et al., Calcif Tissue Int, 76(4): 261-271, 2005)。変形は、周波数0.8 Hzで正弦状に25秒間与えられ、この際のスポンジの見かけのひずみ(スポンジの初期全長に対する変形量の割合)は最大2000μとした。図19は、うず電流型変位計を用いて非接触的に計測されたスポンジのひずみ波形である。
図20に代表的な計測例を示す。力学的刺激を与えた場合、刺激開始直後に細胞内Ca2+濃度の増加を示す蛍光強度の急激な上昇が見られた。この蛍光強度の増加は約2秒間持続し、その後、刺激前のレベルに低下した。一方、力学的刺激を与えない場合は蛍光強度の変動は見られなかった。以上のように、再生骨に対し持続的な力学的刺激を与えても細胞内Ca2+濃度の上昇は刺激直後に一時的にしか起こらなかった。これは、細胞や刺激の種類が変わっても同様であることが従来報告されている(Liu, W et al., Am J Physiol Renol Physiol, 285: F998-F1012, 2003)。すなわち、細胞はある一定以上の刺激量を受けることにより鈍感化(desensitization)が起こるため、細胞を効率よく刺激するには適当なインターバルを設けた断続的な刺激が効果的であると考えられる(Robling, AG et al., J Bone Miner Res, 15(8): 1596-1602, 2000)。
本発明の方法及び装置を用いることにより、所望の再生組織を効率的に構築でき、再生医療において有効に利用することができる。
本発明における細胞内Ca2+動態のモニタの原理を示す図である。 Fluo4 - AMの構造式を示す図である。 Fluo4 - AMの蛍光波長を示す図である。 細胞内Ca2+動態モニタリング装置の画像を示す図である。 細胞内Ca2+動態モニタリング装置のLEDとPDの配置を示す図である。 細胞内Ca2+動態モニタリング装置のフィルターの光学特性を示す図である。 細胞内Ca2+動態モニタリング装置の4ch力学刺激装置付き培養チャンバーの画像を示す図である。 細胞内Ca2+動態モニタリング装置の力学刺激装置の模式図である。 細胞内Ca2+動態モニタリング装置の力学刺激装置の画像を示す図である。 細胞内Ca2+動態モニタリング装置の構成を示す図である。 細胞内Ca2+動態モニタリング装置の信号調整器回路を示す図である。 細胞内Ca2+動態モニタリング装置を用いたモデル実験の結果を示す図である。 細胞の3次元培養に用いた4チャネルの培養チャンバーを示す図である。 タイプIコラーゲンスポンジの画像を示す図である。 MC3T3 - E1細胞を三次元培養して作製した再生骨を示す図である。 細胞にHE染色を施した再生骨の顕微鏡画像を示す図である。 再生骨を凍結割断法により活断した走査電子顕微鏡画像を示す図である。 細胞内Ca2+動態モニタリング装置を用いた測定の測定順序を示す図である。 うず電流型変位計を用いて非接触的に計測されたスポンジのひずみ波形を示す図である。 細胞内Ca2+動態モニタリング装置を用いた測定結果の一例を示す図である。
符号の説明
1 コンピュータ
2 インターフェース・ボード
3 BNCコネクタボックス
4 LED用直流電源
5 LED用信号調整器
6 PD用電源・アンプ
7 安定化電源
8 電圧増幅器
9 LED及びPD
10 ピエゾアクチュエータ
11 変位センサ
12 培養用チャンバー
13 培地及びCa2+感受性蛍光プローブ
14 細胞を播種したコラーゲンスポンジ

Claims (9)

  1. 3次元構造を有する担体に播種した細胞から再生した3次元構造の再生組織における、刺激を与えたときの刺激応答としての細胞内Ca2+動態をモニタする方法であって、
    (i)再生組織を培養するためのチャンバー中の3次元構造を有する担体に播種した細胞から再生した再生組織の細胞に細胞膜透過型Ca2+感受性蛍光プローブであるアセトキシメチルエステル化したFluo4を接触させ細胞内に取り込ませた後にアセトキシメチルエステル基を除去する工程、
    (ii)3次元構造を有する担体に播種した細胞から再生した再生組織に刺激を与え、3次元構造を有する担体に播種した細胞から再生した再生組織全体に励起光を照射し、細胞内Ca2+と結合した前記アセトキシメチルエステル基が除去されたFluo4からの蛍光を検出する工程、
    (iii)検出された蛍光から、3次元構造を有する担体に播種した細胞から再生した再生組織の細胞内のCa2+濃度変化を測定する工程
    を含む細胞内Ca2+動態をモニタする方法。
  2. 細胞が誘導多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、組織幹細胞及び組織幹細胞から分化した細胞からなる群から選択される、請求項1記載の細胞内Ca2+動態をモニタする方法。
  3. 3次元構造を有する担体が生体外マトリクス構成物質を含むスポンジ状構造体である請求項1又は2に記載の細胞内Ca2+動態をモニタする方法。
  4. 3次元構造を有する担体がコラーゲンスポンジである請求項3記載の細胞内Ca2+動態をモニタする方法。
  5. 刺激が電気的刺激、力学的刺激及び薬物的刺激からなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞内Ca2+動態をモニタする方法。
  6. 刺激がチャンバー中に設置したピエゾアクチュエータにより加えられる力学的刺激である請求項5記載の細胞内Ca2+動態をモニタする方法。
  7. 励起光がLEDから発生する光であり、発生した蛍光をフォトダイオードで検出する請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞内Ca2+動態をモニタする方法。
  8. 3次元構造を有する担体がコラーゲンスポンジであり、3次元構造を有する担体に播種した細胞が骨芽細胞であり、再生組織がコラーゲンスポンジで再生させた再生骨である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の細胞内Ca2+動態をモニタする方法。
  9. 請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法によりモニタした3次元構造を有する担体に播種した細胞から再生した再生組織における細胞内Ca2+動態から、3次元構造を有する担体に播種した細胞から再生した再生組織の細胞中のCa2+濃度を上昇させる刺激条件を前記細胞からの組織再生に適した刺激条件であると判定する、組織再生において細胞からの組織再生を促進する刺激条件を決定する方法。
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