望遠鏡など像拡大用の光学器具の基本動作を図1に示す。実質的に無限遠にある物体12を出て光学器具に到達する進行方向角度がθ1の光線は、望遠鏡などの光学器具11を通してより大きな進行方向角度θ2の光線に変換される。ここで、進行方向角度は光学器具の軸に対しての角度である。目14には光線が角度θ2の方向から来るように見えるため、物体の像13は角度θ2の方向に見える。θ1とθ2が比例するとすれば、物体の像は拡大像となり、その像拡大倍率はθ2/θ1となる。
よく知られているガリレオ望遠鏡は凸レンズと凹レンズからなり、図1に表したような進行方向角度の増大機能がある。そして、例えばガリレオ望遠鏡で視野の寸法が1cm径となるように設計した場合、望遠鏡の全長はその数倍の長さ、即ち数cmとなる。もし、全長を短くするために短焦点距離のレンズを用いると、レンズの収差が増大することになる。
図2はガリレオ望遠鏡が進行方向角度θ1の入射光線を進行方向角度θ2の出射光線に変換する様子を示す。その際、入射光束の直径 D1はそれよりも小さい出射光束の直径D2に変換される。図2の構成では、入射光束は凸レンズ21によって屈折を受け集光点に向かう光に変換されるが、その屈折効果は集光点に到達する以前に凹レンズ22による屈折によって打ち消されて、出射光束となる。ここで、集光点は凸レンズの焦点面の上にある。基本構成では、凸レンズと凹レンズは焦点位置を共有している。この構造は、逆方向に進む光に対しては光束拡大作用を、順方向に進む光に対しては光束縮小作用を持つ。
一般的に、図3に示したように、入射光束の直径D1を出射光束の直径D2に変換する光学器具31は望遠鏡の機能を持つ。また、そのような光学器具の像拡大倍率は、以下に説明するように直径の比D1/D2となる。
以上の結果から、θ2/θ1とD1/D2はともに像拡大倍率を与え、従ってこれらは同じ数値となることが予想される。θ2/θ1=D1/D2の関係は、一様な光強度分布の光束の一次元モデルを使って説明が可能である。簡単のため、共に光束直径がDinで進行方向角度が微小角度θinだけ異なる2つの光束を望遠鏡への入射光と考える。これらの光束は望遠鏡内で空間を共有する。光束内で光強度が一様であるという仮定から、もし2つの入射光束の相対光位相が光束直径Dinの範囲で2π変化すれば、この2つの入射光束は光学モードが直交していることになる。エネルギー保存の性質から、光学モードの直交性は望遠鏡内を通過する間維持される。従って、望遠鏡を出射角度差θoutで出射する、共に光束直径Doutの2つの出射光束の相対光位相は、光束直径Doutの範囲で2π変化する。相対光位相差2πが空間距離としては波長λに対応することを使えば、Dinθin=Doutθout=λが得られ、従ってDin/Dout=θout/θinが得られる。Din=D1、Dout=D2、θout/θin=θ2/θ1と考えれば、θ2/θ1=D1/D2の関係が得られる。
望遠鏡の設計においては色収差の低減が重要な要素となる。色収差はレンズ材料の屈折率の波長分散が原因となっており、単一レンズを用いて除去することはできない。形状による収差は非球面レンズを用いることで低減できるが、望遠鏡を短く設計する場合にはその効果にも限界がある。本発明の中でのこれに関連する問題については後に論じられる。
本発明の目的は、光学器具の厚さ方向の寸法を小さくする点と実用的な広さの視野を確保する点の双方を満たす光学像拡大器具を実現することにある。本発明の像拡大器具は二次元配列したMMMを基本構造とする。個々のMMMは望遠鏡の機能を持つ小形の素子であり、個々のMMMの軸は、光学像拡大器具の軸と平行の場合もあるし、また、光学像拡大器具の軸に対して角度を持っている場合もある。図3に示したのと同様に、MMMへの入射光束は光の進行方向角度がθ1からθ2へ増大すると共に、入射光束よりも直径が小さい出射光束へと変換される。MMMの二次元配列における周期は、最終的に目に向かう光束の中で、隣接した全ての2光束の組合せに対して、2光束の間隙が二次元のどちらの方向に対しても目の瞳孔の直径よりも小さくなるという条件によって定まる。このような方法で二次元配列したMMM配列を像拡大板と定義する。
図4は像拡大板の一部を側面から見た光束を表す。入射光束は左側から像拡大板44に入射し、像拡大板からは、その中に配列されたMMM、41a、41b、41c、41dから出射する複数の光束から成る出射光束が右側に向けて出射する。像拡大器具の視野の広さは像拡大板の実際の寸法で決まる。図4(上部図)は入射光束がMMMの軸と平行に像拡大板に入射する場合を示す。MMMを出射する光束はその軸に平行であるが、光の進行方向に垂直な面内で見た時に光束と光束の間には光の空白領域がある。図4(下部図)は入射光束がMMMの軸に対して角度を持って像拡大板に入射する場合を示す。MMMを出射する光束は、お互いには平行ではあるが、軸に対するその進行方向角度は増大されている。この場合にも光の進行方向に垂直な面内で見た時に光束と光束の間には光の空白領域がある。出射光は目の水晶体レンズ42を通って網膜43上の一点に集光する。もし瞳孔が光束と光束の間の光の空白領域に位置すれば、目には光が入らず、物体を見ることはできない。従って、目に向かう光束と光束の間の光の空白領域の大きさが瞳孔の寸法に比べて小さいことが重要となる。この空白領域はMMMの断面寸法を小さくするか、光束を分割して増倍する素子を付加することによって小さくできる。このうち後者は、後述する本発明の実施例の1つである。空白領域の寸法が瞳孔よりも十分に小さい場合には、空白領域は識別できず、目は物体の拡大像を空白領域の影響を受けずに見ることができる。
MMMは本発明における像拡大器具の基本要素となるので、図5の側面図を使って詳細に説明する。MMMは通常はガラスやプラスチックなどの透明体51からできている。像拡大器具は多くの場合は可視光で用いられるため、透明体51は可視光帯域またはその中の1波長に対して95%程度以上の透過率を持つ。応用によっては他の波長、例えば赤外域などに使われることもあり、それに対応した波長における透明度が要求される。赤外波長の場合、シリコンを透明体51に使うこともできる。
MMMはMMMの内部に向かって形成された凹面鏡52と凸面鏡53から成る。凹面鏡は中心部に開口がある。多くの場合、凹面鏡と凸面鏡の焦点位置は同一点54かまたはお互いに近接した位置にある。太線の曲線は鏡面を示し、両鏡面の間の空間は上に述べた材料が充填されている。MMMは透明体51の内部反射を利用しているため、色収差は問題とならない。MMM左側の凸面鏡の周囲の平坦面55は光入射窓である。MMM右側の凹面鏡中央付近の開口部にある平坦面56は光出射窓である。図5では光入射窓と光出射窓は細線で示してあり、これらの面は反射防止膜処理または外部媒質との屈折率整合をとることが望ましい。なお、図5に示した光出射窓は平坦であるが、もし光出射窓の内外の屈折率が同一であれば、必ずしも平面状である必要はない。さらに、その面は凹面鏡形状の一部として空気と接することも可能であるが、その場合には窓が曲面であることの影響を別途補償する必要がある。また、不要な光反射を低減するため、目に向いている側である凹面鏡の外側(右側)表面は黒色または光吸収性の表面であることが望ましい。
個々のMMMの構造は凹面鏡の中央部に開口がある点でカセグレイン望遠鏡と似ている。しかし、本発明におけるMMMは凹面鏡と凸面鏡の間が中空ではなく透明体、望ましくは固形材料で充填されていることを基本とし、通過する光束に対しては光束拡大、縮小作用を持つため、凸面鏡および凹面鏡は両者とも放物面またはそれに近いことが望ましい。
MMMの有用な点は、MMMの内部反射を経て光が屈折することなくMMMを通過することである。入射光と出射光が光入射窓や光出射窓にほぼ垂直である場合には、MMMを通しての屈折効果はほとんどない。従って、MMMは色収差の影響を受けることなく光線の進行方向角度を増大できる。
MMM51の二次元配列の代表例は、本体51に凹面鏡52と凸面鏡53を付加した平板である。図5では鏡は本体51に食い込む形となっているが、鏡は本体51に付加する形とすることもでき、実際の構造は製造方法によって決まる。
多くの場合、MMMは二次元面内に周期的に配列される。しかし、MMMは周期的および不規則配列を含むどんな配列にも適用できる。個々のMMMは縦方向には短いが、光の回折を抑制するため断面方向にはあまり小さくできない。本設計を使えば像拡大板の厚さが1mmから8mm程度と薄くでき、しかも進行方向角度が増大された良質の光束を出射できる。
以下の説明に用いるMMMの各寸法の表記を図6に示す。なお、この実施例に示したMMMは、出射光の方向から見た時に鏡が円形であることを想定しているが、必ずしも円形である必要はなく、円形ではない場合の実施例の一部についても後で論じられる。図6でDAは凹面鏡の直径、DBは凸面鏡の直径、DCは光出射窓の直径、Lは凹面鏡と凸面鏡の間の中心軸上での距離である。ここに示されていない数値としては、凹面鏡の焦点距離f1、凸面鏡の焦点距離f2、およびMMM媒質の屈折率nがある。
以下の説明に用いられる数値例は、DA=1.8mm、DB=0.9mm、DC=0.66mm、L=1.8mm、f1=2.7mm、f2=0.9mm、n=1.5である。これらの数値を用いると、MMMの像拡大倍率はf1/f2=3となる。ただし、これらの数値は像拡大倍率やその他の要因により異なるものとなる。
像拡大板全体の機能を見た時、像拡大板への入射光束は、各MMMで直径が縮小され進行方向角度が増大された多数の出射光束に変換される。その結果、隣接する出射光束の間に光の空白領域が生じる。前にも述べたように、目に向かう出射光束間の空白領域は瞳孔の寸法よりも十分に小さいことが望ましい。目指す空白領域の寸法は2mm以下、理想的には1mm以下である。これにより、目が遠方を見ている時には空白領域がほとんど識別されなくなる。
MMMを通過する光束の光路を、入射光束が軸に平行な場合と軸に角度を持っている場合の双方について、図7に示す。図の左側から光入射窓を通ってMMMに入った平行光束は、まず凹面鏡71によって反射され、凹面鏡の焦点面上にある一点に向かう。光が焦点面に到達する前に、光は凸面鏡72によって反射され、右向きの平行光束となる。その理由は、凹面鏡と凸面鏡の焦点位置が、同一位置または近接した位置にあるためである。凸面鏡で反射した光束は凹面鏡中央部にある光出射窓を通ってMMMを出る。この図から明らかなように、出射光束の直径は入射光束の直径よりも小さくなる。
光束の位置やその断面形状はMMMの内部で光の進行に伴い変化する。図8に、光路に沿ったMMM内の3箇所、A、B、C、の位置における光束の位置と断面形状を示す。位置Aは光が凹面鏡に到達する時、位置Bは光が凸面鏡に到達する時、位置Cは光が凹面鏡の中央付近に位置する光出射窓を通る時である。まず、入射光束がMMMの軸に平行な場合、A位置での光束は直径1.8mmであるが、中央部の直径0.9mmが凸面鏡によって遮蔽されている。B位置での光束はA位置での光束を単純に1/3の寸法に縮小したものである。さらに、C位置での光束はB位置での光束と同一である。軸に平行な光では光束の中心は常に軸上にある。一方、入射光束がMMMの軸に対して角度を持っている場合、A位置での光束はやはり直径1.8mmであるが、凸面鏡によって遮蔽されている領域は中央部からずれる。B位置での光束はA位置での光束を1/3の寸法に縮小したものであるが、その上さらに光束全体が軸からずれる。C位置での光束は軸からさらにずれ、光束の一部は光出射窓の外側となる場合もある。従って、図8に示したように、入射光束の進行方向角度が大きい場合には光束の一部が凹面鏡によって遮られる場合もある。
MMMでは一対の鏡によっては色収差を生じないものの、図7に示すように光入射窓と光出射窓では光が屈折する。前に説明したように、窓が像拡大板に平行な場合には光は窓に対してほぼ垂直に通過し、光入射窓と光出射窓での屈折はほとんど打ち消されるため、色収差はほとんど生じない。数値計算によると、可視光の範囲での屈折率変化による出射光進行方向角度のずれは10-4radよりも十分に小さく、像の質には影響しない。
前に述べたように、MMMの機能は入射する平行光束をより小さい直径の平行な出射光束に変換することである。しかし、MMMの形状による収差は、たとえ入射光束内の光線が完全に平行でも出射光束内の光線の進行方向角度がその位置により変化する原因となり得る。従来の望遠鏡と異なり、平行な入射光束から得られる出射光束が完全に平行でないと、像の鮮明度の劣化の原因となる。従来の望遠鏡では目の瞳孔の範囲内にある、望遠鏡出射光の中の一部の光線のみが目に入るため、その瞳孔の範囲内での光線が平行であれば像の鮮明度は劣化しない。光線の進行方向角度が出射光束全域の中で徐々に変化するだけであれば、像の歪を生じるだけである。一方、本発明のMMMの場合は、出射光束の全て、または殆どが目に入る。従って、鮮明な像を得るためには、全ての光線が相互に平行であることが重要である。
そこで、像の鮮明度が十分に確保できることを確認するために、入射光束が相互に平行な光線群からなる時の、出射光束の中の光線群の平行度を解析した。この解析には図6の説明の中で述べた構造数値が用いられた。解析で用いたMMMの長さは1.8mm、直径は1.8mm、MMM内部の屈折率は1.5である。実際の凹面鏡、凸面鏡の形状は放物面でも非放物面でもよいが、解析では凹面鏡と凸面鏡は曲率の異なる放物面であると仮定した。凹面鏡は焦点距離が2.7mmで、その中央部に直径0.66mmの開口がある。凸面鏡は焦点距離が0.9mmでその直径は0.9mmである。この設計数値では焦点距離の比が3であるので、像拡大倍率は3となることが予想される。入射光束径が1.8mmで像拡大倍率が3であることから、出射光束径は0.6mmとなるはずである。直径0.6mmの出射光束の回折角度は人の目の角度分解能に比べて大きくはないので、像の品質は光の回折効果によっては劣化せず、解析には光線追跡法を利用できる。
上に述べたように、凹面鏡と凸面鏡は共に放物面鏡であり、それらの軸は共通で焦点の位置も同一であるとした。この条件では、軸に平行な全ての入射光線は、無収差で平行な出射光線としてMMMを出射する。即ち、光線の位置に関係なく光入射窓全体に渡って、軸に対する出射光線の進行方向角度は0度となる。この出射光線の完全平行性は放物面の性質であり、入射光線が軸に平行な場合にのみ解析的に導かれる。
入射光束が軸に対して角度を持っている場合には、収差が生じる。即ち、出射光線は相互に平行ではなく、出射光線の進行方向角度は均一ではない。解析で用いた設計数値では像拡大倍率3であり、入射光線角度1/30radは出射光線角度0.1radへと増大するはずである。そこで、数値解析を-1/30rad、0rad、1/30radの3つの入射光線角度で行い、その結果を図9に示した。それぞれの曲線はMMMの光入射窓上の位置と軸に対する出射光線角度の関係を示したものである。実際のMMMにおいては光入射窓中央付近の光は凸面鏡によって遮蔽されるが、解析の上では遮蔽されず、また、凹面鏡の中央付近の開口部も考慮しないという仮定をして行った。解析によると、入射光線角度が軸に対して1/30radおよび-1/30radの時の出射光線角度の不均一は10-3rad以内である。1/30radは出射光線角度0.1radに対応し、実用的に十分な視野角度である。光束全体に渡って出射光線角度の不均一が10-3rad以内であることは、物体の鮮明な像を得るためには十分な均一性である。
入射光線角度と出射光線角度の線形的な関係を図10に示す。曲線はMMMの一端、中央、反対側の端に相当する、位置が-0.9mm、0mm、0.9mmの3点においての解析結果である。この解析においても光線は凸面鏡によって遮蔽されず、また、凹面鏡の中央付近の開口部も考慮しないという仮定をして行った。結果は像拡大倍率3のよい線形性を示している。
上に示した解析結果は一次元でのものである。二次元の解析でも同様の出射光線の平行度が予想される。その根拠は以下の通りである。凹面鏡と凸面鏡は共に放物面であり、幾何学的には凸面鏡は焦点位置を固定したまま凹面鏡を1/3に縮小した相似形となっている。従って、軸に平行に凹面鏡に入射し焦点に集光する光線の軌跡を、鏡と共に焦点位置を中心に1/3に縮小すると、凹面鏡は凸面鏡に一致し、対応する出射光線は縮小された入射光線の延長線となる。このことは、入射光束の断面内各点の光がそのまま軸を中心に1/3に縮小されて出射光束の断面内各点の光になっていることを意味する。この性質を利用すれば、入射光束の断面内で任意の一部領域に相当する細い光束が入射した場合、出射光束は軸を中心に断面内で縦横とも1/3に縮小された光束となる。前に述べたθ2/θ1=D1/D2の関係を使えば、この細い光束の光線角度の入出射比が、軸から見て径方向、周方向とも3になる。このうち、径方向とは上に述べた一次元の解析のことである。結果として、光束に垂直な面内の二次元で見てどの位置でも、入射光線の進行方向角度と出射光線の進行方向角度の関係は一次近似の範囲で一様となる。
ここでの解析では、凹面鏡と凸面鏡は共に放物面鏡であると考えた。非放物面鏡の使用は光線が軸に平行でない場合の出射光線の平行性をさらに高めることが予想される。
上の解析では、物体までの距離は実質的に無限大であり、物体上の一点から来る光線は相互に平行であるとした。さらに、目は無限遠に焦点を合わせていると仮定した。実際にはこれらの仮定は必ずしも正しいとは限らない。物体は有限の距離にあるかもしれないし、目も近視、遠視などで別の距離に焦点が合っているかもしれない。これらの場合には、条件によって設計数値を最適化できる。その最適化によっては、凹面鏡と凸面鏡の焦点位置が同一ではない場合もある。有限の距離にある物体に焦点を合わせる場合には、凹面鏡の焦点位置を物体とは反対の方向に移動する。近視の目に合わせるためには、凸面鏡の焦点位置を目の方向に移動する。焦点位置を移動するためには、鏡の位置を変えてもよいし鏡の形状を変えてもよい。
このように物体に合わせて調節可能な像拡大板の実施例を図11に示す。像拡大板は一枚板の代わりに113と114の2枚の板を空間で隔てて構成する。凹面鏡111は板114にその一部として形成されており、凸面鏡112は板113にその一部として形成されている。ここでは2つのMMMのみが、像拡大板の一部であることを示す切取り線で他の部分から隔てて示されている。板の間の空間距離115、即ち鏡の間の空間距離は調節可能である。これにより、必要に応じて鏡の焦点位置を同一にしたり異なる点にしたりできる。この調節は適切なねじなどを用いて行えるが、調節範囲が小さいことからピエゾ素子などを使って電気的にも調節可能である。この実施例では調節機能だけでなく、製造上の利点もあり得るが、光屈折面が増えるため適切な反射防止処理が必要となる。
像拡大板の最も単純な形はこれまで述べたような円形MMMの二次元配列であり、MMM内部の鏡も円形である。しかし、円形素子の配列には素子の間に無駄になる領域があることはよく知られている。像を扱う素子においてはこの無駄な領域の存在は望ましくない。そこで、これを改善するために幾何学的な配列を修正することが考えられる。
平面内の二次元配列でよく知られている2つの形は、図12と図13に示した正方形または六角形を基本としたものである。これらを用いれば、個々のMMMの光入射窓の外形、および凹面鏡の外形はこれらの基本形状、即ち正方形または六角形となる。ただし、光入射窓については隣接するMMMの光入射窓と連続的に接続すれば、物理的な境界線はなくなる。個々の基本形状部分に入射した平行光束はより小さい径の光束となって基本形状の中央付近から出射する。個々のMMMから出射する光束の断面は凹面鏡の形を反映している。即ち、出射光束の断面は基本形状を像拡大倍率の逆数で縮小したものとなる。出射光束の断面を図12と図13に斜線で示す。前に述べた設計数値を用いると、出射光束径は基本形状の1/3となる。基本形状が正方形の場合には出射光束の中心位置、即ち、各基本形状の中心位置の並びは正方形模様となる(図12)。基本形状が六角形の場合には出射光束の中心位置は正三角形模様となる(図13)。
MMMは凹面鏡の中央付近に開口部がある。即ち、その開口部の周囲は凹面鏡であり、開口部以外の場所を透過して目に向かう光は存在しないはずである。凹面鏡は開口部を持つ素子として機能し、不要な光を遮断することで像の品質を維持する。しかし、MMMから見て凹面鏡の裏側、即ち目に面している表面に目の側から光が照射すると、凹面鏡の位置から目に向かう光が発生してしまう。そこで、前に触れたように、凹面鏡の目に面している側の表面を黒色または光吸収面とすることによって、凹面鏡の目に面している側での不要な反射光を抑えることができる。
像の品質低下を招く3種類の光線を図14に示す。直接透過光141は鏡で反射することなく光入射窓から光出射窓へと進む光である。凸面鏡は光出射窓に比べて相応に広い領域となるよう設計されているので、この光は軸に対する角度が一定値以上の光線に限定され、結果的に視野角度の範囲外となる。直接反射光142は凹面鏡の開口部に目の側から進入し、凸面鏡で反射される光である。この光量は図8を使って説明できる。この光は凸面鏡の中にできる光出射窓の像の範囲から来る。ここでの設計数値を用いると、光出射窓の径は基本形状領域の約1/3であり、凸面鏡は像の大きさを1/3に小さくする。従って、凸面鏡の中に見える光出射窓の像は、直径で1/9、光強度としては1/81、即ち反射量1.2%に対応する。多重反射光143は主に凸面鏡に隣接した凹面鏡から入り込む光である。ここでの設計数値を用いると、この光の光入射窓での光線角度は臨界角よりも大きく、光が窓から直接進入することはできない。
図6の説明で示したように、凸面鏡の直径DBは光出射窓の直径DCに比べて大きくなるよう設計されている。その理由は図14に141で示された直接透過光が視野角度内で進行するのを防ぐためである。図8からわかるように、たとえ軸に対して角度のある光束でもB位置での光は凸面鏡の外周部付近に当ることはない。従って、凸面鏡の外周部付近は必ずしも反射鏡となっている必要はない。むしろ、凸面鏡の外周部付近のMMM内部に面した側は黒色または光吸収構造など、光吸収性であることが望ましい。その理由は、図14に143で示された多重反射光は凸面鏡の外周部付近で反射されて生じるものであり、外周部付近が図15(上部図)のMMM151に光吸収領域153で示すように光吸収性となっていれば、多重反射光を抑圧できるためである。この考えをさらに拡張すれば、凸面鏡の外周部付近は凸面に限らず任意の形状でよい。例えば、凸面鏡の外周部付近の光吸収領域は図15(下部図)のMMM152の中にある平坦な光吸収領域154で示すように、平面的で光入射窓の形状の一部といえる形状でもよいし、それ以外の形状でもよい。
さらにまた、図8からわかるように、B位置での光は凸面鏡の中心部付近には当らない。従って、凸面鏡の中心部付近のMMM内部に面した側が黒色または光吸収構造など、光吸収性であれば、図14に142で示された直接反射光を抑圧できる。この場合も、凸面鏡の中心部付近は平坦面を含む任意の形状でよい。
上に述べた光吸収領域は凸面鏡のMMM内部側に面した表面に形成したものであるが、不要な反射光を抑圧する目的では凹面鏡のMMM内部側に面した表面にも光吸収領域を形成することが有効な場合がある。一実施例としては、隣接する凹面鏡の間に無駄となる領域が生じた場合に、その無駄となる領域を鏡面とせずに黒色または光吸収構造など、光吸収性とすることにより、その領域からの反射光を抑圧できる。その他にも、凹面鏡開口部の周囲など、必要に応じて凸面鏡や凹面鏡の一部に光吸収領域を形成することは有効である。
図16(上部図)に上記の3つの実施例で述べた光吸収領域を付加したMMM161を通って進む光線を側面図として示す。MMMは凹面鏡162、凸面鏡163、第一の光吸収領域164、第二の光吸収領域167、第三の光吸収領域168、光入射窓165、光出射窓166からできている。さらに、図16(下部図)にこれらの光吸収領域を正面図として示す。これらはいずれもMMM内部から見た正面図で、第一の光吸収領域164は凸面鏡163と光入射窓165の境界に沿って形成されている(左図)。また、第二の光吸収領域167は凸面鏡163の中央部付近に形成されている(中図)。さらに、第三の光吸収領域168は凹面鏡162の周辺部付近に形成されている(右図)。
図16の正面図ではMMMが円形で示されているが、必ずしも円形である必要はない。形状は正方形、六角形、後に述べる同心円間の一部の形状を含む任意の形状でよい。
以前に図4で示したように、出射光束間の光の空白領域の寸法が瞳孔の大きさに比べて小さい限りは、その空白領域は原則的に目の網膜上に形成される物体の像にはあまり影響しない。このことは目の水晶体レンズに形状による収差がなく、水晶体が入射光位置に反応しない限り事実であるが、この前提は正しい場合とそうでない場合がある。もし水晶体に収差がある場合には、像の品質は空白領域の影響を受け得る。そのような場合には、光束間の空白領域が小さいほど目に形成される像の品質は高くなる。即ち、空白領域の寸法を瞳孔よりも小さくすることは最低限の必要条件であり、空白領域をさらに小さくすることは高品質の像を形成する上で有効である。図4に一次元で示したように、空白領域の寸法はMMMの断面寸法とMMMから出る出射光束径から定まる。実際の二次元配列では、空白領域は図12や図13の斜線部分の間の領域である。多くの応用においてこの寸法は15mm以下であることが望ましい。
以前に説明した通り、光の回折効果による像の品質低下を避けるためには、一定のMMM寸法が必要である。そこで、適切なMMM寸法を用いて空白領域の寸法を小さくするため、本発明の1つの実施形態である光束増倍板を用いて、像拡大板からの出射光束のうち隣接する光束間の空白領域をさらに小さくする。光束増倍板はMBMの二次元配列によって構成できる。光束増倍板の機能および構造について以下に説明する。
MBMは図17および図18に示すように、部分反射または完全反射の鏡面を複数組合わせた構造となっている。個々のMBMは、それぞれが対応するMMMから出射する光束を受ける位置に配置されており、1本の入射光束に対して同一進行方向角度、同一形状の光束を複数出射する。従って、MBM全体としては多数の光束を出射する。MBM自体に光損失がなければ、総合光強度がMBMによって変化することはない。MMMから出射した光束を分割して、本来の光束の間隙に新たな光束を出射するだけである。しかし、MBMにより空白領域の寸法を低減し、時には空白領域をほとんど消滅できる。
1本の光束を分割して2本の光束に増倍するMBMの機能について、一次元で見た時の様子を、配列のうち2つのMBMの部分について示したものが図17である。また、1本の光束を分割して3本の光束に増倍するMBMの機能について、一次元で見た時の様子を、配列のうち2つのMBMの部分について示したものが図18である。これらには、部分反射または完全反射の鏡面、171、172、181、182、183が使われている。出射光束のそれぞれの光強度が厳密に同一である必要はない。ただし、もし図17でそれぞれの鏡面に対する反射率が鏡171=50%かつ鏡172=100%、図18でそれぞれの鏡面に対する反射率が鏡181=67%、鏡182=50%、鏡183=100%であれば、出射光束は同一の強度となる。図17に示した2本の出射光束を作るMBMは基本形状が正方形の像拡大板に応用すると効果的であり、図18に示した3本の出射光束を作るMBMは基本形状が六角形の像拡大板に応用すると効果的である。図12に示した正方形基本形状の場合、基本形状内のMBMからの出射光束は2光束に分けられ、その位置は図19に示すように、元の位置と正方形の辺の1/21/2だけ移動した位置である。図13に示した六角形基本形状の場合、基本形状内のMBMからの出射光束は3光束に分けられ、その位置は図20に示すように、元の位置、正三角形の辺の1/31/2だけ移動した位置、正三角形の辺の2/31/2だけ移動した位置である。
実用的な光束増倍板は基板と上板の2枚の板を組合わせて構成できる。そのうち、基板はその表面に小形プリズムの配列が形成されている。より正確には、表面には台形または三角形の突起状プリズムが配列されている。例えば1光束を2光束に変換する、図17の光束増倍板を構成するためには、図21か図22に側面図として示した基板および上板を用いる。図21と図22では基板211と221の上面に台形プリズムが配列されている。基板上のプリズム212と222の斜面には図17の面171に対応する膜処理が施されており、基板上のプリズム213と223の斜面には図17の面172に対応する膜処理が施されている。図21に示した上板214の下面は基板と組合わさるように台形のプリズム配列と類似の形状になっており、図22に示した上板224の下面は平坦である。
一方、例えば1光束を3光束に変換する、図18の光束増倍板を構成するためには、図23か図24に側面図として示した基板および上板を用いる。図23と図24では基板231と241の上面に台形プリズムが配列されている。基板上のプリズム232と242の斜面には図18の面181に対応する膜処理が施されており、基板上のプリズム233と243の斜面には図18の面182に対応する膜処理が施されており、基板上のプリズム234と244の斜面には図18の面183に対応する膜処理が施されている。図23に示した上板235の下面は基板と組合わさるように台形のプリズム配列と類似の形状になっており、図24に示した上板245の下面は平坦である。各図21−24において、基板と上板の間は屈折率整合材料、215、225、236、246を充填することが望ましい。
図21−24は台形プリズムを用いた場合の側面図を示したものである。三角形プリズムを用いた場合の側面図は、単に台形プリズムの上部平坦部が存在しないだけである。
多くの応用において、光束増倍板の中の各MBMは特定のMMMから出射した光束のみに動作する。特定のMMMからの出射光のみを受けるためには、台形または三角形のプリズムの図21−24の紙面に垂直方向の寸法が、出射光束の径またはMMMの寸法と同程度であることが要求される。その条件を満たすためには、台形または三角形のプリズムは3次元プリズムである必要がある。一例として、図25に基板の上面251に形成された一つの台形プリズム252を示す。また、三角形プリズムの例として、図26に基板の上面261に形成されたプリズム262を示す。前に述べたように、基板上のプリズムの斜面には反射率が50%、67%、100%、またはそれ以外の膜処理が施されている。図25に示した台形プリズムを用いて図21−24に示した台形プリズム状突起のうちの1個を形成するためには、斜面の反射率を50%、67%、または100% とする。基板と上板が組合わされることによって、図17や図18に示した機能を有する光束増倍板が構成できる。
なお、基板のプリズム形成面が直接MMMに面していて、基板とMMMの間に屈折率整合材料を充填すれば、上板は省略できる。一例として、1光束を2光束に変換するMBMを用いた像拡大器具の構造を図27に示す。ここに示すように、光はMMM271、屈折率整合材料273、光束増倍板272によって構成された像拡大器具を通って多数の光束となって出射する。
なお、どの構造においても光損失を低減するために、部品の表面には必要に応じて反射防止膜の形成、低反射表面構造の採用、外部媒体との屈折率整合などを行うことが望ましい。
光束増倍板を使用しない場合の光束を表した側面図を以前に図4に示した。光束増倍板を使用した場合の光束を表した側面図を図28に示すが、目に向かう光束の間の空白領域が縮小されていることは明白である。図28において、像拡大板はMMM281a-281dから成り、光束増倍板は 284、目の水晶体は282、網膜は283で表されている。光束増倍板の効果は図29に示すように二次元的に見るとより明らかである。この図はMMMの基本形状が六角形で、MBMは1光束から3光束を生成し、光束増倍は図20に示した方法によって行われる場合のものである。図29では、前方から見た図(左図)に像拡大板291の光入射窓が斜線領域で示されており、白い領域は光が凸面鏡によって遮蔽される部分である。後方から見た図(右図)では、斜線領域は光が出射する範囲を示す。出射光束間の実質的な間隙は、後方から見た図で斜線領域となっていない部分である。光束増倍板を使用せず像拡大板291のみを用いた像拡大器具を示した図29(上部図)の後方から見た図と、像拡大板291に光束増倍板292を併用した像拡大器具を示した図29(下部図)の後方から見た図を比較すると、光束増倍板の使用によって出射光束間の間隙が大幅に縮小されていることが明白である。
三角形プリズムを使った光束増倍板の基板の表面形状の例を2つ、図30と図31に示す。図30では、基板301上にあるプリズム302とプリズム303のそれぞれがMMMから出射した光束の1本のみに動作する。この場合、プリズム302は一列おきに配列され、プリズム303はプリズム302の列の間に配列される。また、プリズム303の列とプリズム302の列は、並びが半周期ずれている。図31では、基板311上にある各プリズム312はMMMから出射した複数の光束に動作する。この場合には各列の並びはずれない。
光束間の空白領域は複数の光束増倍板を接続することでさらに縮小できる。図31に示した光束増倍板を2枚用い、1枚目で横方向に光束を増倍し、2枚目で縦方向に光束を増倍すれば、基本形状が正方形の時の空白領域はほとんど消滅する。その様子を図32に示す。同様に、図30で示した光束増倍板と図31で示した光束増倍板を使って、1枚目で横方向に光束を増倍し、2枚目で縦方向に光束を増倍すれば、基本形状が六角形の時の空白領域は大幅に低減できる。その様子を図33に示す。
上板を使うか使わないかにかかわらず、プリズム配列を用いて複数の光束増倍板を接続する方法は複数通りある。その1つは、第一のプリズム配列を基板の一方の面に形成し、第二のプリズム配列を基板の他方の面に形成する方法である。また、別の方法は、プリズム配列が基板の一方の面に形成された基板を別々に用意して組合わせるものである。
像拡大板と光束増倍板を組合わせて薄い板状にできる。前に解析に用いた設計数値を使えば、その厚さは3mm程度になる。その薄板自体、それを通して遠方にある物体を見ることにより拡大像を見ることができる。図34に示したように、薄板状の像拡大器具341は取っ手付きの枠342で支持することができる。この操作方法は、手元の物体を見るための従来の天眼鏡と似ている。しかし、従来の天眼鏡の用途とは異なり、物体「ABC」343は遠方または無限遠にある。像拡大器具を通して見ることにより、目345には物体の拡大像344が見える。
本発明の応用の中には、像拡大器具の面が光の進行方向に対して垂直ではなく角度を持っている場合がある。そのような場合、MMMの軸は必ずしもMMM配列面に対して垂直である必要はない。図35に示すように、目354の方向がMMM配列面に垂直な方向に対して角度を持っている場合には、個々のMMM351はそれらの軸がMMM配列面に垂直ではなく、目に向かって進む光線に平行となるように傾けてある。このようなMMMを傾ける方法は、MMMの収差を低減する上で有用である。MBMを併用してもしなくても、MMMが空間352に置かれている場合には、MMMの実際の軸が目に向かう光線と平行である。MMMがガラスやプラスチックなどの透明板353の中に形成されている場合には、透明板表面での屈折を経て目に向かう光線がMMM内でMMMの軸と平行となるように形成される。このようなMMMを傾ける方法は、像拡大板が自動車の前面窓などのような傾いた面の上に適用される場合に特に有用である。
本発明の重要な応用分野の1つに、眼鏡への付属部品、または眼鏡レンズ自体として像拡大器具を用いる方法がある。像拡大器具を用いた眼鏡は手による保持が不要で軽量な望遠鏡または天眼鏡の機能を実現する。一般に視力が不十分な場合、眼鏡を用いる。しかし、視力低下が水晶体の複雑な歪に起因していたり、網膜の欠陥が原因となっている場合には、従来の眼鏡による視力回復は困難である。そのような場合には、物体を見るために像を拡大することが現実的な方法である。本発明の像拡大器具は眼鏡レンズの一部分のみに形成することもでき、その場合、必要に応じてその部分を通して拡大像を見ることができる。像拡大器具を眼鏡に応用する他の方法としては、像拡大器具を回転移動できる枠に取付けて、眼鏡に装着するものである。像拡大器具は必要に応じて視野に入れたりそこから出したりできる。
像拡大器具を組入れた眼鏡を用いることで、図36(上部図)に示すように、視力が低い人でも離れた位置からテレビを見ることができる。また、通常の眼鏡を使って書類を読む時に視力が十分でない人は、やはり図36(下部図)に示すように、天眼鏡を併用することなく書類を読むことができる。像拡大器具を眼鏡として用いる場合には、左右2つの像拡大器具を使用するが、その場合、それぞれの像拡大器具の軸は平行であるかまたは対象物の方向を向くかまたはその間であることが望ましい。
物体が無限遠または実質的に無限遠にない場合、像拡大器具に到達する光線は相互に平行となっていない。その結果、物体の拡大像は有限な距離に形成される。拡大像の位置とその寸法を図37に示す。図37(上部図)に光線の経路を示したように、MMM371の内部で実際の光線372は凹面鏡373と凸面鏡374の間を往復する。しかしここでは説明を理解し易くするため、MMMの軸に沿った、凹面鏡や凸面鏡を含む全ての位置を、図37(下部図)に示すように一方向に展開して表現した。もし凸面鏡374がなければ、凹面鏡373は物体375の実像を形成し、その実像をここでは非可視像377という。次に、凸面鏡は非可視像の虚像を形成し、この凸面鏡によって作られた虚像をここでは拡大像376という。このようにして、像拡大器具を通して物体の拡大像を見ることができる。図37に示すように、aを物体と凹面鏡の間の距離、bを凹面鏡と非可視像の間の距離、cを拡大像と凸面鏡の間の距離、dを凸面鏡と非可視像の間の距離と定義する。また、凹面鏡と凸面鏡の焦点距離をそれぞれf1およびf2とする。
物体までの距離であるaが定まった時、bにより非可視像の位置と寸法が決まる。凹面鏡の焦点距離f1が与えられれば、bは1/a+1/b=1/f1の関係で求まる。ここで、非可視像の寸法は物体の寸法にb/aを乗じたものである。次に、cとdにより拡大像の位置と寸法が決まる。特に、拡大像の寸法は非可視像の寸法にc/dを乗じたものとなる。これらの結果、拡大像の寸法は物体の寸法にbc/adを乗じたものとなる。bやdはMMMの寸法程度であり1-5mm程度と考えてよく、aやcに比較して遥かに小さい。従って、それらは物体までの距離や拡大像までの距離を見積もる上では無視してよい。即ち、物体までの距離をa、拡大像までの距離をcと考えてさしつかえない。1/c+1/d=1/f2を用いれば、cはdまたはf2を僅かに調整するだけで広い範囲内で調節可能である。
上に述べたように、拡大像の位置と寸法は設計数値によって定まる。図37は拡大像の位置が物体の位置に比べてMMMに近く、拡大像の寸法が物体の寸法よりも大きい場合の例である。像拡大器具においては、もし拡大像の寸法が物体の寸法よりも小さくても、拡大像の位置が物体の位置よりも目に近ければ、拡大像は物体よりも大きく見える。
本発明の応用で像拡大器具が眼鏡に利用される場合に、像拡大器具は広い視野を得るために大きな進行方向角度の光線にも使えることが望ましい。この様子を図38に示す。その場合、ここに示したように、対象となる光線が物体が存在する面382から目に向かって広い角度範囲で進行する。ここで対象となる光線とは、物体から目に向かう光線のうち、二次元配列をしたMMMのうちのいずれかを通過する光線をさす。後に説明するように、結果的には対象となる光線はそれぞれのMMM内部でその軸に沿って通過する光線をさし、それらの光線がいずれも目に向かうように光学系が設計される。目に向かう光線とは、以下に述べるように眼球の中心近くにある一点に向かうように設計される。眼鏡への応用で像拡大器具の設計上有利な点は、像拡大器具381が、像拡大器具と眼球383の相対位置を固定した状態で保持できることである。さらに、目が広範囲を見る際には、眼球が眼球の中心の近くにある一点を中心として回転する。この点の位置は瞳孔の位置384とは異なる。以下、この点を眼球の回転中心385と定義し、その点が上記の眼球の中心近くにある一点であり、光線が向かう一点である。このように設計する結果、広い視野を見るために眼球が回転した場合でも、実際に目に入る光線は常に瞳孔に対してほぼ垂直となる。
以上の条件を含めて整理すると、光線が以下の2つの条件を満足して像拡大器具を通過することにより広い視野角度で拡大像が形成される。第一の条件は、対象となる光線が眼球の回転中心またはその近くに集光することである。第二の条件は、入射光線の進行方向角度θ1と出射光線の進行方向角度θ3の比θ3/θ1が異なるMMMを通過する光線に対して一定となることである。この関係は、図3においてはθ1とθ2との関係として説明された。この比は像拡大器具の像拡大倍率に相当し、個々のMMMの像拡大倍率もこの数値に合うようにMMMが設計される。広い視野の眼鏡ではこれらの条件が像拡大器具全面で満たされることが必要となる。図38からわかるように、これらの条件に合う光線はMMMの高さ方向位置によって定まる進行方向角度で像拡大器具を通過する。従って、個々のMMMは光線の広い進行方向角度全体に渡って動作する必要はなく、そのMMMの高さ方向位置によって定まる角度を中心とした一定の角度範囲で動作すればよい。
MMMの二次元配列である像拡大器具では、個々のMMMから物体までの距離はほぼ一定であると考えてよい。従って、MMMが全て同一の設計である限りは個々のMMMから拡大像までの距離も等しい。さらに、個々のMMM内での拡大像の寸法も同一である。図39には、物体392の拡大像393が別々のMMM391によって作られる際に、単一の像となる様子を示す。この図では拡大像が物体よりもMMMに近く、拡大像の寸法が物体よりも大きい場合を示している。破線394は像拡大器具の中心軸である。図には物体から3つのMMMのうちの1つを通って眼球の回転中心に向かう3つの光線が描かれている。これらのMMMは高さ方向において、中心、その上側、さらにその上側に位置する。第一の光線は物体の下部から出て中心軸394に沿って中心部のMMMを通り、中心軸上に拡大像の下部を形成する。第二の光線395は物体の中程から出て二番目のMMMを通り、二番目の光線の方向397に拡大像の中程部分を形成する。この方向は第二の光線が眼球の回転中心へ到達する時の光線を延長した方向である。第三の光線396は物体の上部から出て三番目のMMMを通り、三番目の光線の方向398に拡大像の上部を形成する。この方向は第三の光線が眼球の回転中心へ到達する時の光線を延長した方向である。設計の目的は、異なるMMMによって形成される全ての拡大像が、その位置、高さ、寸法において等しいことである。上に述べたように、MMMが全て同一の設計であれば、拡大像の位置と寸法は同一となる。各MMMでの拡大像の高さについては、MMMに入射する光線の進行方向角度θ1とMMMから出射する光線の進行方向角度θ3との間に一定の関係があり、その関係が全てのMMMについて成立すれば、同一の高さとなる。ここで、θ1およびθ3はそれぞれ図3で定義したθ1とθ2に相当するものである。
像拡大器具から物体までの距離が像拡大器具自体に比べて十分に大きい場合には、上に述べた関係とは、θ3/θ1がMMMの像拡大倍率と同じ値になる、というものである。像拡大器具から物体までの距離が十分に大きくない場合には、θ3/θ1は一定値とはならないが、像拡大器具上で多少変動するだけである。
望ましい実施例の設計としては、像拡大器具を通過した後の、像拡大器具の中心軸に対する光線の進行方向角度θ3が、像拡大器具を通過する前の、像拡大器具の中心軸に対する光線の進行方向角度θ1に比べて、MMMの像拡大倍率またはそれからの誤差が1%以内となる数値の倍率で増倍されることである。
図38と図39からわかるように、光線が中心部から離れたMMMを通過する時には、像拡大器具の中心軸に対して角度を持っている。そして、この角度はMMMの位置が像拡大器具の中心軸から離れるほど大きくなる。もし、全てのMMMが像拡大器具の面に垂直で、θ3/θ1が一定という条件が満たされていれば、光線角度による収差は問題とはならない。ここで、一定というのは、小さい誤差は許容することも意味する。誤差の範囲としては20%、望ましい品質を得るためには1%である。
放物面鏡は近軸光線だけでなく、軸に平行で軸から離れている光線に対しても収差を生じないで動作する。しかし、光線が軸に対して大きな角度で進行する場合には収差が増大し、MMMのθ3/θ1が一定という条件は満たされなくなる。従って、全てのMMMを像拡大器具の面に垂直に配列した像拡大器具では、視野の角度は制限される。
一般にMMMは入射光線の進行方向角度がその軸に対して0度かそれに近い場合には収差を生じることなく動作する。従って、光線がMMMの軸に平行かそれに近い角度で進行するような設計ができれば理想的である。この条件を満足し、広い視野が得られるような光線の角度でMMMの収差を抑えるために、光線角度を補償する光部品を新たに導入し、MMMと組合わせる。この場合にはMMMは像拡大板または像拡大器具に対して傾いていてもよい。この光部品は光線角度補償素子(RAA)で、各MMMに対応して配置され、MMM内での光線角度を補償する。RAAを使って光線角度を適切に補償すれば、像拡大器具に入射角度θ1で入射する光線はMMMの中では軸に平行に進行し、しかもθ3/θ1が一定となるような出射角度θ3で像拡大器具を出射するようにできる。これが上に述べた、対象となる光線である。個々のMMMに対して、対象となる光線の光線角度をθ1とθ3に対応して補償すれば、全ての光線はMMMの中では軸に対して平行または小さい進行方向角度で進行し、RAAを経て眼球の回転中心に集まるようにすることができる。MMMに広い光線角度での動作を必要とすることなく、全てのMMMを通った光線が眼球の回転中心に向かう。各MMMはその軸に対して小さい光線進行方向角度で動作するように設計され、かつ、像拡大器具の視野角度を有害な収差を生じることなく拡張できる。
この考え方は、像拡大器具と目または観測を行う位置との相対位置が維持される限りは、眼鏡への応用以外にも適用できる。その場合、眼球の回転中心とは目の位置、または観測を行う位置、の意味として解釈される。
RAAはMMMの両側に設置してもよいし、光の入射側または出射側の一方に設置してもよい。図40にRAAをMMM401の両側に設置した実施例での角度補償を示す。図に示したように、MMM内部で軸に平行となる2本の入射光線402と1本の出射光線403で光線を代表させ、これらの入射光線と出射光線のMMMを通しての経路を示した(上部図)。MMMの左側に設置された第一のRAA404とMMMの右側に設置された第二のRAA405を用いることにより、第一のRAA、MMM、第二のRAAを通過する光線を示した(下部図)。これらの光線はMMMの軸に平行にMMMを通るが、もし、第一のRAAへ入射する入射光線406の進行方向角度が少し変化した場合、第二のRAAから出射する出射光線407の進行方向角度はMMMの像拡大倍率に相当する量だけ増大して変化する。即ち、第一のRAAと第二のRAAは、出射光線の進行方向角度θ3が入射光線の進行方向角度θ1にMMMの像拡大倍率を乗じた値となる、という条件を満足するように設計される。MMMは既に像拡大器具に必要とされるだけの拡大機能を持っているので、RAAには拡大機能はないことが望ましい。しかし、もし第一のRAAに拡大機能が残ってしまう場合は、第二のRAAの拡大機能によってそれを打消すよう設計することもできる。
MMMとRAAにより構成された像拡大板では、図38に示されているように、光線が像拡大板の軸に平行であるかないかにかかわらず、いずれの光線もそれぞれのMMMの中をそのMMMの軸に平行かまたはそれに対して小さい進行方向角度で進行し、眼球の回転中心の位置またはそれに近い位置に光集する。
より一般的な実施例として、RAAはMMMの少なくとも一方の側に設置され、物体から目に向かう光線はMMMの内部ではその軸に沿って進行し、その後出射光線はその延長が理想的には像拡大器具から50cm以内にある一点、またはその一点から1cm以内を通過する。
像拡大器具の代表的な設計例では、MMMの光出射窓は図41に示したように平坦面を形成する。重要な点は、光入射窓で入射光線 413 が屈折した後、光線は傾いたMMM411の軸にほぼ平行に進行することである。像拡大器具の中心から離れた位置のMMMに対する光線ほど光入射窓に対して大きな角度を持っている。光線進行方向角度はこの光入射窓での屈折によって変化する。この角度変化は、図40の第一のRAA404による効果と見なすことができる。光線はRAA412を通過し、光線進行方向角度がRAAを通過することで変化して出射光線414となる。
RAAを構成するための1つの実施例は、以下に述べるような楔状の素子による光屈折を用いるものである。楔状素子は色収差を打消すために複数の楔状素子の組合わせとしてもよい。なお、一般的に光学分野での楔状素子(Optical Wedge)とは、光の入射面と出射面が平行ではなく、所定の角度を持っている板状の透明体を意味し、多くの場合、側面から見た形状が台形で、必ずしも三角形のものをさすわけではない。RAAを構成するための他の実施例は、図42に示すように、平行ではない一対の鏡による反射を利用するものである。
平行ではない一対の鏡の配置が、一実施例421(上部図)に示すように二番目の鏡の反射角度が一番目の鏡の反射角度よりも小さいか、他の実施例422(下部図)に示すように二番目の鏡の反射角度が一番目の鏡の反射角度よりも大きいかに関わらず、入射光線423の進行方向角度は出射光線424の進行方向角度に変換される。それがRAAの機能である。
図41に示した、MMMとRAAを通過する光線の経路の詳細を図43に示す。傾けられたMMM431の光入射窓に向かって空間を進行する光線433の進行方向角度がθ1である。この光線はMMMの光入射窓で屈折し、屈折率nの媒質の中を進行方向角度θ1nで進行する。ここで、基本的に凹面鏡と凸面鏡からなるMMMは角度θtだけ傾いている。角度θtはMMM内部の平均的なθ1nにほぼ等しくなるように設定される。従って、MMM内部での光線のMMMの軸に対する進行方向角度θ1n-θtは小さく、即ち、光線はMMMの軸にほぼ平行に進行する。MMMから出射する光線の媒質内での進行方向角度をθ2nとすると、MMMから出射する光線のMMMの軸に対する進行方向角度はθ2n-θtである。光線が空間を角度θ2で進行した後、進行方向角度はRAA432によって予め設定された角度θAAだけ変化し、出射光線434の進行方向角度θ3になる。
図43に示すように、入射光線は光入射窓に対して角度を持って進行するので、このMMMは光入射窓が傾いていないMMMの左側に楔状素子を付加した構成と同等と見なすことができる。MMMの右側のRAAを含めると、図43に示したような傾いたMMMとRAAの全体は、図44に示すように光入射窓が傾いていないMMM441を、MMMの左側にある第一の楔状素子442とMMMの右側にある第二の楔状素子443で挟んだ構成と見なすことができる。
実際に用いた設計数値では、像拡大器具の像拡大倍率を3と仮定したので、θ1を入射光線444の進行方向角度、θ3を出射光線445の進行方向角度とした時に、光波長λにおいてθ3=3θ1、かつdθ3/dθ1=3となることが像拡大器具全面に渡って求められる。それに加えて、1個のMMMが占める範囲内においてdθ3/dθ1=3を満足するために、個々のMMMも像拡大倍率が3となっている。従って、図43においてθ2n-θt=3(θ1n-θt)となる。
RAAの一例として、θ1=1/9rad、θ3=1/3radの時の設計値を見積もる。第一の楔状素子の屈折率をn1=1.7とすると、θ1=1/9radからθt=3.74度が求まる。図44に示したように、傾き角θtは第一の楔状素子の楔角になる。従って、第二の楔状素子による光線の進行方向角度の変化はθ3-θt=15.36度にならなくてはならない。MMMの像拡大倍率が3であるので、dθ3/dθ1=3を得るためには楔状素子は拡大機能を持つ必要はない。実際、第一の楔状素子における、入射光線の進行方向角度変化に対する出射光線の進行方向角度変化の比は、1.004とほとんど1である。即ち、第一の楔状素子には拡大機能がほとんどないといえる。像拡大倍率の1からの僅かな違いは、MMMによって増大されるが、第二の楔状素子の左右の楔面の角度θLとθRを非対称とすることによって打消すこともできる。しかし、第一の楔状素子の像拡大倍率が1に非常に近いため、打消す必要はないともいえる。その場合には、第二の楔状素子の楔面は対称で、θL=θR=θwとなる。第二の楔状素子が対称でその屈折率がn2=1.5の場合、θw=14.71とすれば第二の楔状素子による光線進行方向角度の変化が15.36度になり、上に示したθ3-θtと一致する。
楔状素子に要求されるもう一つの条件は、色収差を打消すこと、即ち、色収差のない楔状素子を構成することであり、この条件は、入射光線角度θ1においてdθ3/dλ=0である。色収差は図45の構成を用いて計算できる。MMM451の左側にある第一の楔状素子452の、波長による出射光進行方向の角度分散Δθaは、dΔθa/dλ=dn1/dλtanθtとなる。MMMの右側にある第二の楔状素子453の、波長による出射光進行方向の角度分散Δθbは、dΔθb/dλ=dn2/dλ(2/n2)tanθwaとなる。ここで、第一、第二の楔状素子の屈折率をそれぞれn1、n2とした時にsinθwa=n2sinθwとする。第一の楔状素子による出射光進行方向の角度分散はMMMによって3倍に増大されるので、無収差の条件はdΔθb/dλ=3dΔθa/dλとなる。この条件は、第一、第二の楔状素子に対して屈折率n1、n2をそれぞれ1.7および1.5とし、アッベ数V1、V2をそれぞれ30および60とした時、θw=14.71度とすれば満足する。
他の数値例として、n1=1.6、n2=1.5、θt=3.97度、θw=14.51度、V1=27、V2=60も使える。
なお、図44および図45では楔状素子を三角形で表現しているが、前にも述べたように、光学分野での楔状素子とは、光の入射面と出射面が平行ではなく、所定の角度を持っている板状の透明体をさすので、実際には側面から見た形状が台形となることが多い。
上に述べた楔状素子を図41に示したようなMMM配列に対して用いた像拡大器具の実際の構造の一部を図46に示す。像拡大器具の眼鏡への応用では、光線の進行方向角度は入射光線463と出射光線464の位置が像拡大器具の中心から周辺に向かうほど大きくなる。従って、MMM461の傾き角度および楔状素子462の楔角も、図38に表された性質を反映してMMMの位置が像拡大器具の中心から遠くなるほど増大する。図46では楔状素子はMMMから独立した部品として描かれている。なお、個々の楔状素子は上にも述べた通り、側面から見た形状が台形であるが、それらを二次元配列した結果、それらの間の物理的境界線はなくなり、楔状素子全体が一枚の板になり角度補償板を構成する。
像拡大器具は必要に応じてRAAやMBMを付加したMMMの二次元配列である。よく知られている二次元配列の形状は、基本形状が正方形(図12)と六角形(図13)であった。像拡大器具を眼鏡に応用する場合には、図38に示したように、光線が眼球の回転中心に集まり、光線の角度には中心対称性があるので、同心円を基本とした二次元配列も配列の形状として候補となる。同心円状の形状を図47に示す。
その形状は正面から見た時に(上部図)同心円を基本としている。ほぼ等間隔の同心円が像拡大器具の範囲を円周に沿った細い輪の形状の領域に分割する。隣接した同心円の間の個々の細い輪の形状の領域はさらに円周に沿った方向に分割され細かい領域になる。これらの細かい領域が図12と図13で示した基本形状に相当する形となり、個々の細かい領域にMMMが必要に応じてRAAやMBMを伴って配列される。
隣接する同心円の半径の差は細かい領域の半径方向の寸法を決める。円周方向の分割間隔は細かい領域の円周方向の寸法を決める。従って、それぞれの細かい領域は4つの境界によって囲まれており、そのうち領域を半径方向に分割する2つの境界は円弧となっている。その円弧はそれぞれ隣接する同心円の一部である。残る2つの境界は領域を中心角方向に分割する直線である。唯一の例外は中心部の領域で、それは単に最小の円であるか、または最小の円は無視してもよい。境界の形は必ずしも円弧や直線である必要はなく、適切な任意の形状でよい。細かい領域の半径方向の寸法と円周方向の寸法はおよそ同程度とすることが望ましい。
図47にこのRAAの斜視図(下部図)を示す。そのRAAの断面図に示したように、RAAは楔状素子からなっている。角度補償板は同心円状の輪の集まりによって構成されており、斜面がその片面または両面に形成されている。同心円状の輪は個々に分かれていてもよいし、全体として一体化していてもよい。図には輪の一つが描かれている。輪の断面471は楔形状をしており、光線472の進行方向角度はこの楔状素子を通って変化する。
図47に示した角度補償板の正面図は円形で、全体を一体として作ると角度補償板は薄い円板状またはその一部となる。その表面は楔形状の片面を反映するように形成されており、楔の表面は円板の中心方向、またはその反対方向に傾いている。この円板の径方向の断面図を図48に示す。楔角は中心部481で零で、楔の位置が中心から円板の周囲482に向かうに従って楔角は大きくなる。この構造では入射光線483は円板の中心方向に向かう出射光線484へと進行方向を変える。
MMMから出射する光束が楔状素子を通過する範囲は楔状素子表面の一部を占めるだけである。従って、図48の楔の突端部はRAAとして利用されない場合もある。この場合、突端部は除去してもよい。それにより、角度補償板を薄くできる。
MBMをMMMとRAAの組合わせに付加した場合、個々のMBMがMMM/RAAの組合わせからの出射光束の数を増倍し、MBMを出射する複数の光束を形成する。MBMはRAAと一体化してもよい。図49にRAA/MBMの組合わせ492を伴った傾いたMMM491が描かれている。図41と似ているが、入射光束493はその数が増倍されて出射光束494に変換されている。
図38に示した像拡大器具は平板状であった。しかし、本発明の像拡大器具が平板状である必要はない。眼鏡への応用において、対象となる光線が眼球の回転中心に向かい、入射光線の進行方向角度と出射光線の進行方向角度の比θ3/θ1が一定という条件を満たしさえすれば、像拡大器具は機能する。従って、図50に示されたような曲面状の像拡大器具も実用上は有用である。図38と同様に、物体の位置にある面502から出た光線は曲面状の像拡大器具501を通ってその進行方向角度をθ1からθ3に変え、眼球503の回転中心505に向かう。目を動かす時にも、瞳孔504は対象となる入射光線に対してほぼ垂直となる関係が維持される。眼鏡に応用する場合には、曲面状の像拡大器具の方が望ましいこともある。
図51に傾いたMMM511とRAA512を用いた曲面状像拡大器具の構造の一部を示す。図41に示した平板状像拡大器具と違い、MMMの光入射窓は曲面となっている。従って、光入射窓にはレンズ効果が伴っており、入射光線513から出射光線514への変換特性に影響を与える。レンズ効果により図37の非可視像の位置と寸法が少し異なる。
レンズ効果が光線に与える影響は、図52を使って、MMM521の物体側に置かれたレンズ524を使って説明できる。図52(上部図)に示すように、実際の光線525はMMMの内部では凹面鏡522と凸面鏡523の間を往復する。ここで図37の説明と同様に、MMMの軸に沿った、凹面鏡522、凸面鏡523、レンズ524を含む総ての位置を一方向に展開して表現した。図52は曲面状像拡大器具の表面のレンズ効果を説明するために使われたものであるが、同様の原理は像拡大器具に隣接して設置される付加レンズの説明にも利用できる。
図52のうち、中央図はレンズ効果を付加しない場合であり、下部図はMMMから見て物体の側に凸レンズ効果を付加した場合である。レンズ効果により、MMMからレンズを通して見た物体526はその位置と大きさが変化する。レンズ効果が凸レンズの場合には、物体が実際よりもMMMから遠くに位置するように見える。図52に示した例では、下部図に示された物体の位置が中央図に示された物体の位置よりも像拡大器具に近いが、レンズを通して見た物体の虚像527はレンズ効果のない場合(中央図)の物体と同じ位置にある。下部図においての物体の虚像の位置が中央図における物体の位置と同じであるため、凹面鏡と凸面鏡からなるMMMはどちらに対しても同様の拡大像529を形成する。
レンズ効果が強い場合に、物体の虚像が形成されないこともある。しかし、レンズ効果が強いかどうかによらず、凹面鏡を調整することにより、レンズと凹面鏡の組合わせとしては非可視像528を形成できる。凹面鏡や凸面鏡の焦点距離や焦点位置など総ての構造設計値の調整は本発明の範囲に含まれている。
本発明の像拡大器具が平面状であっても曲面状であっても、眼鏡レンズとして用いられた場合に、像拡大器具の光入射窓を覆う形で凹レンズまたは凸レンズを付加することができる。たとえ凹レンズまたは凸レンズの焦点距離が長くて、その効果が小さくても、レンズにはそれを通して物体を見た時の物体の寸法や位置を変える機能がある。
上に述べたように、凸レンズを通して物体の像を見ると、実際の物体がある位置よりも遠くに見える。もし、眼鏡内の像拡大器具がある距離の物体を見るように設計されている場合には、その像拡大器具に凸レンズを付加することにより、それよりも近い距離にある物体を見るために使うことができる。そのような例として、図36(上部図)に示したように、目から約3m離れた位置にあるテレビを見るように設計された像拡大器具を挙げる。その同じ像拡大器具が、凸レンズを付加することによって、図36(下部図)に示したように目から約40cm離れた位置にある書類を読むのにも使える。
このような付加レンズは、常時ではなく一時的に使うという利用方法もある。そのような場合には、付加レンズを取外し可能としたり、異なる焦点距離や付加レンズ無しの間で入替え可能とする方法が、便利または実際的である。図53にそのような眼鏡枠の実施例を2種類、側面図として示す。像拡大器具531は眼鏡枠532に組込まれており、それとは別に眼鏡枠に取付けられた回転機構533を介してレンズが固定されている。1つの実施例(上部図)は、視界の外に凹レンズ535を置いたり必要に応じて回転してそのレンズ534を視界の中に入れることができる構成を示す。他の実施例(下部図)は、視界の外に凸レンズ537を置いたり必要に応じて回転してそのレンズ536を視界の中に入れることができる構成を示す。
上に述べた実施例では単レンズが像拡大器具への付加部品であった。一般に、通常の従来型眼鏡は物体の焦点を合わせるために使われるため、眼鏡は単レンズから成っている。そこで、本発明の他の実施例として、像拡大器具をこのような従来型眼鏡に対する付加部品として扱うこともできる。そのような場合には、レンズの機能が像拡大器具に対して目の側に位置する。
光線に対するこのレンズ効果は、図54を使って、MMM541から見て物体とは反対側にレンズ544を置いた構成によって説明できる。図54(上部図)に示すように、MMMの内部で実際の光線545は凹面鏡542と凸面鏡543の間を往復する。ここで図37や図52の説明と同様に、MMMの軸に沿った、凹面鏡542、凸面鏡543、レンズ544を含む総ての位置を一方向に展開して表現した。
図のうち、中央図はレンズ効果を付加しない場合であり、下部図はMMMから見て目の側に凸レンズ効果を付加した場合である。どちらの場合でも、MMMにより物体546の非可視像547が作られる位置は同じで、また、同一の距離に拡大像548が形成される。図54の中央図に示した配置では拡大像は目からレンズ効果を介さずに観測される。図54の下部図に示した、MMMから見て目の側に凸レンズを付加した配置では、拡大像を目から見た時に、レンズ効果のために物体の拡大像がその虚像549の位置にあるように観測される。もし、本来の眼鏡が無限遠に焦点を合わせてある場合には、MMMも物体の拡大像を無限遠に作るべきである。
上に述べたような眼鏡に固定された像拡大器具が広い視野の角度で動作するためには、像拡大器具と眼球の相対位置が固定されていることが前提となっている。図38や図50で光線が集まる位置を眼球の回転中心かその近傍に維持するためには、図55に示すように像拡大器具551の位置や角度についての調整機構を設けることが便利である。調整には、像拡大器具面内での横方向位置552と縦方向位置553、それらの方向に垂直方向の位置、左右の像拡大器具間の距離、横方向軸554と縦方向軸555の回りの回転などの調整が含まれる。このような機構を用いることによって、左右の像拡大器具を通過した光線がそれぞれ左右の眼球の回転中心の近くを通るように調整できる。
マイクロルーバー技術を用いて、角度を持って通過する光線を遮断する光部品が開発されている。そのような部品は、携帯電話、コンピューター、ATMの表示板用として商品化されている。光学用のルーバーフィルターの断面図を図56に示す。その構造は、単純に光吸収領域(ルーバー)と透明領域から成っており、このルーバーにほぼ平行な光だけがルーバーフィルターを透過できる。面全体で一様な像拡大器具に対しては、図56(上部図)に示したルーバーフィルター561が用いられる。光吸収領域であるルーバー563がルーバーフィルターの面に垂直であるため、ルーバーフィルターの面に垂直な方向の光565だけが透明領域564を経て透過できる。図38や図50に示したような中心対称性を有する像拡大器具では、図56(下部図)に示したルーバーフィルター562が用いられる。ルーバー566に角度が付いているため、眼球の回転中心の方向に進む光568だけが透明領域567を経て透過できる。
ルーバーフィルターは像拡大器具に対して各種の配置の仕方がある。図57に3つの実施例として示す。MMMが傾いている場合でも傾いていない場合でも、目575は像拡大器具を通して物体574を見る。第一の実施例(上部図)では、光576は第一のルーバーフィルター572、像拡大器具571をこの順で通過する。第二の実施例(中央図)では、光は像拡大器具571、第二のルーバーフィルター573をこの順で通過する。第三の実施例では、光は第一のルーバーフィルター572、像拡大器具571、第二のルーバーフィルター573をこの順で通過する。
像拡大器具があまり目に近くない場合には、像拡大器具から出射する光束間の空白領域が像の品質劣化の原因となり得る。空白領域を見えにくくするための1つの方法として、図58に示すように、像拡大器具の面内で横方向582、縦方向583に、像拡大器具581を連続的に動かすことが考えられる。この動きは空白領域の位置を目が追跡できない程度に速い必要がある。動きの速さは、1秒当たり空白領域の大きさの10倍程度以上であることが望ましい。その動作は手動、機械的のどちらでもよい。もし動作が時間的に同一周波数の正弦波状である場合には、横方向と縦方向の位相は一致させず、相対位相90度が望ましい。
本発明の記述において、MMMまたはMBMまたはRAAなどについて、それぞれの素子、部品が個々の素子、部品であるような表現が随所に使われている。一方で、これらの素子、部品の二次元配列という表現も使われている。本発明の趣旨はどちらの場合も含み、二次元配列にした場合には、個々の素子、部品は連続的に接続されるため、それらの物理的な境界線は存在しないか明確ではなくなる。したがって、二次元配列されたMMMまたはMBMまたはRAAなどは、それぞれが、像拡大板または光束増倍板または角度補償板と定義された1枚の板状の部品となり、それらの板状の部品を組合わせて像拡大器具を構成するという見方ができる。その際には、それらの板状の部品の中にあるMMM、MBM、RAAの個々に対応関係がある。別の見方では、各1個のMMMやMBMやRAAなどを組合わせて1つの部品と見なし、その部品を二次元配列すると考えることもできる。
本発明の像拡大器具においては、拡大像の明るさは実際の物体に比べて低くなる。その理由は、像が拡大する一方で、像拡大器具に光損失がない場合でも像拡大器具を通過することによって光エネルギーの空間平均は不変であり、瞳孔に入る光エネルギーは変らないためである。従って、目の中で同じ量の光エネルギーがより広い像の上に分配されるからである。
本発明の像拡大器具は本来遠方の物体を裸眼で見ることを目指したものであるが、その特長を生かして像を扱う各種の器具、部品、素子などへの応用が可能である。
本発明のMMMはより一般的にプリズムと見ることもできる。図5と図11に示したように、プリズムは媒質が充填されていても中空でもよい。記述の目的では、一般的なプリズムは両端に多角形の端面を有し、側面が相互に平行な多角柱であるといえる。望ましい実施例の1つはプリズムの端面の形状が四角形で、プリズムは四角柱ある。他の望ましい実施例はプリズムの端面の形状が六角形である。端面のうちMMMへ光が入射する側が入射端面、反対側の光が出射する側が出射端面である。入射端面での光線角度は入射端面に垂直であることが望ましく、出射端面での光線角度は出射端面に垂直であることが望ましい。
入射端面にはその中央付近に凸面鏡がある。その反射面はMMMの内側を向いており、凸面鏡の焦点はMMMから離れる方向に軸を延長した点にある。凸面鏡は入射端面の一部を占有しており(この領域を占有領域という)、入射端面上のそれ以外の領域である凸面鏡の回りの領域(非占有領域)が光照射領域である。出射端面には凹面鏡があり、その中央付近には光照射領域となる開口部がある。凹面鏡の焦点はMMMを通り越えて軸を延長した点にある。
MMMの配列はここで述べたプリズムの配列と見ることもできるが、一枚の板上の集約されていることが望ましい。発明を規定する上で、前に述べたMMMの配列は二次元面内に形成された個々のMMMと解釈してもよいし、複数のMMMを表面または内部に形成した一枚の板と解釈してもよい。MMMは一般的にプリズム、四角柱、立方体など、MMMが個別である場合には形が明確であるものの、これらを集約、一体化した場合にはその明確な形状は消滅する。
詳細な記載のまとめとして、本発明の基本に戻らなくても、関係する分野の人々にとって数多くの変形、修正が実施例に対して容易に適用できることは明白である。これらの全ての実質的な同等構成、修正、変形は、以下の請求項にある通り、本発明の構想に含まれることを意図している。
本発明は上述した実施形態には限定されない。
すなわち、当業者は、本発明の技術的範囲またはその均等の範囲内において、上述した実施形態の構成要素に関し、様々な変更、コンビネーション、サブコンビネーション、並びに代替を行ってもよい。