JP5545460B2 - 細胞のインテグリンを介した接着性の制御方法 - Google Patents
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Description
接着性の動物細胞では血清中の成長因子と共に、接着した細胞外基質からのシグナルにより細胞死をまぬがれていると考えられるため、これらの細胞接着現象及びシグナルの受け渡しにはインテグリンが重要な役割を果たしている可能性があるが、その役割は十分に解明されてはおらず、インテグリンが関与する接着現象を確実に制御するには至っていない。
接着性細胞を効率的かつ安定的に浮遊化するためには、細胞表面のインテグリンを制御する必要があると考えられるが、どのように細胞表面のインテグリンを制御すれば、接着性細胞の他の性質を変化させることなく接着性を減じて浮遊化させることができるのかが不明であった。
これら白血球細胞表面のマイクロビライの働きは、よく解明されておらず、浮遊細胞である白血球同士の接着や、白血球が血管壁、各種組織を形成する細胞などと接着するのを阻害する作用がある可能性もあるが、同じ浮遊細胞で血液細胞の赤血球にはマイクロビライがないことから、少なくとも単純な接着阻害作用の役割というわけではない。リンパ球等血球系の細胞表面のマイクロビライが細胞表面タンパク質の足場となり細胞機能を調節する(非特許文献2)との報告もあり、白血球が血管壁を通って移動する際には、むしろ血管壁を形成する血管上皮細胞との相互作用に関与し、かつ細胞の隙間を通り抜ける際に重要な役割をしている可能性がある。このようにマイクロビライは細胞間のインターラクション(interaction)、メカニカルセンサーとしての役割を果たしていることが考えられる。実際に、マイクロビライは、腸粘膜や腎の近位尿細管のような吸収上皮細胞では、細胞の頂部(消化管等の管腔側)に存在して表面積を増大させて、物質や水の吸収を促進する機能を有している。また、精巣上体では溶液の吸収の為の表面積を増やす作用があり、内耳の有毛細胞では、平行、聴覚機能の感覚受容体として作用する等様々な機能を担っているとされる。
このように、各種細胞にとってマイクロビライが重要な機能を担っている点が注目され、その役割や形成のメカニズムの研究が活発化している。
そして、マイクロビライとインテグリンの関係についての報告はなく、マイクロビライ形成と細胞の接着現象との関連性に着目した報告もなされていなかった。
そして、本来接着性の細胞表面にマイクロビライを形成させることで接着性を減じ浮遊細胞となった細胞を用い、被検物質が、マイクロビライ形成を促進又は阻害するか否かを観察することで、インテグリンとそのリガンドとの結合作用を増大又は減少させる物質のスクリーニング方法についての本発明を完成した。
〔1〕 細胞に、下記の(1)〜(3)の群から選ばれる少なくとも1つ以上の蛋白質をコードするDNAを含む組換えDNAを導入し、当該蛋白質を細胞表面で発現させることを特徴とする、細胞表面におけるマイクロビライ形成を促進させる方法;
(1)CD34蛋白質又は少なくともその細胞外ドメインを含む融合蛋白質、
(2)CD43蛋白質又は少なくともその細胞外ドメインを含む融合蛋白質、
(3)PSGL−1/CD162蛋白質又は少なくともその細胞外ドメインを含む融合蛋白質。
〔2〕 前記細胞表面上のマイクロビライが、インテグリン分子を集約させたマイクロビライであることを特徴とする、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕 前記細胞が、本来接着性の細胞であり、細胞表面にマイクロビライを全く、もしくはほとんど形成していない細胞である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕 細胞に、下記の(1)〜(3)の群から選ばれる少なくとも1つ以上の蛋白質をコードするDNAを含む組換えDNAを導入し、当該蛋白質を細胞表面で発現させることを特徴とする、細胞表面のインテグリンのリガンド結合に基づく作用を制御する方法;
(1)CD34蛋白質又は少なくともその細胞外ドメインを含む融合蛋白質、
(2)CD43蛋白質又は少なくともその細胞外ドメインを含む融合蛋白質、
(3)PSGL−1/CD162蛋白質又は少なくともその細胞外ドメインを含む融合蛋白質。
〔5〕 前記インテグリンのリガンド結合に基づく作用が、インテグリンを介した細胞接着作用である前記〔4〕に記載の方法。
〔6〕 前記細胞が、血球系細胞であり、前記インテグリンのリガンド結合に基づく作用が血管内皮細胞表面への接着現象であることを特徴とする、前記〔4〕又は〔5〕に記載の方法。
〔7〕 前記細胞が、本来接着性の細胞であり、細胞表面にマイクロビライを全く、もしくはほとんど形成していない細胞である、前記〔4〕又は〔5〕に記載の方法。
〔8〕 本来接着性の細胞であって、かつ細胞表面にマイクロビライを全く、もしくはほとんど形成していない細胞に対して、下記の(1)〜(3)の群から選ばれる少なくとも1つ以上の蛋白質をコードするDNAを含む組換えDNAを導入し、当該蛋白質を細胞表面で発現させることを特徴とする、接着性細胞を浮遊性細胞に変換する方法;
(1)CD34蛋白質又は少なくともその細胞外ドメインを含む融合蛋白質、
(2)CD43蛋白質又は少なくともその細胞外ドメインを含む融合蛋白質、
(3)PSGL−1/CD162蛋白質又は少なくともその細胞外ドメインを含む融合蛋白質。
〔9〕 細胞表面のインテグリンのリガンド結合に基づく作用を制御する物質のスクリーニング方法であって、以下の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とするスクリーニング方法;
(a)本来接着性の細胞であり、細胞表面にマイクロビライを全く、もしくはほとんど形成していない細胞に、下記の(1)〜(3)の群から選ばれる少なくとも1つ以上の蛋白質をコードするDNAを含む組換えDNAを導入し、当該蛋白質を細胞表面で発現させることにより、接着性細胞を浮遊性細胞に変換する工程、
(1)CD34蛋白質又は少なくともその細胞外ドメインを含む融合蛋白質、
(2)CD43蛋白質又は少なくともその細胞外ドメインを含む融合蛋白質、
(3)PSGL−1/CD162蛋白質又は少なくともその細胞外ドメインを含む融合蛋白質、
(b)(a)の細胞を培養し、細胞表面のマイクロビライ形成が促進された細胞を取得する工程、
(c)(b)の細胞に対して、被検物質を作用させ、細胞表面のマイクロビライ形成を促進するか又は抑制する効果が存在することを確認する工程。
〔10〕 前記工程(b)及び/又は(c)において、細胞表面のマイクロビライ形成の促進又は抑制を、細胞の接着性の増減を観察することにより確認することを特徴とする、前記〔9〕に記載のスクリーニング方法。
〔11〕 前記被検物質が、あるタンパク質をコードするDNAであり、前記被検物質を作用させる方法が被検物質を組換えDNAとして前記細胞内に導入することである、前記〔9〕又は〔10〕に記載のスクリーニング方法。
〔12〕 前記スクリーニング方法が、白血球由来細胞のHoming現象又は血管外遊走現象を促進又は阻害する物質の候補を選択するための方法である、前記〔9〕〜〔11〕のいずれかに記載のスクリーニング方法。
〔13〕 前記スクリーニング方法が、癌細胞の浸潤転移性を阻害する物質の候補を選択するための方法である、前記〔9〕〜〔11〕のいずれかに記載のスクリーニング方法。
これら各遺伝子は、哺乳動物細胞間での遺伝子配列の保存性は高く、互換性があるので、いずれの生物種由来の遺伝子でもよいが、導入する細胞の由来生物種と同一もしくは近縁の種であることが好ましい。また、本発明において、マイクロビライ形成促進のためには、これら遺伝子のうち、O型糖鎖を多数有する細胞外ドメインをコードする領域が重要であることが確認されている。すなわち、本発明におけるCD34遺伝子、CD43遺伝子及びPSGL-1/CD162遺伝子については、細胞外ドメインをコードする領域を含むフラグメントを用いることが好ましく、同一の機能を有する限り、さらに短いそのフラグメントであってもよい。
Homo sapiens CD34 isoform a (NP_001020280) = CD34 variant 1 (NM_001025109)
Homo sapiens CD34 isoform b (NP_001764) = CD34 variant 2 (NM_001773)
ヒトCD34遺伝子がコードするアミノ酸配列を配列番号1及び2で示す。
Homo sapiens CD43 (NP-001025459) = CD43 (NM_001030288)
Mus musculus CD43 (NP_001032899) = CD43 (NM_001037810)
ヒトCD43遺伝子及びマウスCD43遺伝子がコードするアミノ酸配列をそれぞれ配列番号3及び4で示す。なお、ヒトCD43の細胞外ドメインは配列番号3のアミノ酸1〜253に相当する。
Homo sapiens CD162/PSGL-1 (NP_002997) = CD162 (NM_003006)
ヒトCD162/PSGL-1がコードするアミノ酸配列を配列番号5で示す。
本発明の実施例では、これらの遺伝子は特異的プライマーを用いてRT-PCRにより増幅・単離したものをDNAシークエンシングにて塩基配列を確認した上で使用した。
これらの細胞を培養する場合、接着性が減じて浮遊細胞となっても用いる培地は特に変化させる必要はない。例えばDMEM培地、RPMI1640培地などの通常の培地を用いることができる。他の血球系細胞など本来浮遊性の細胞の場合も同様である。
そのような細胞として典型的な細胞は、白血球又は白血球由来などの血球系の浮遊細胞である。本発明の実施例では、最も典型的な白血球由来培養細胞株であるヒト急性骨髄性白血病細胞由来KG-1細胞を用いて、マイクロビライがインテグリンを介した接着に関与することを解明した。このタイプの細胞には、造血幹細胞/前駆細胞、及びほとんどの白血球が包含される。これらの白血球系細胞は血管を通過する場合、まず、セレクチンとPSGL-1上の糖鎖の間の結合でrollingをし、その後、ケモカイン等の刺激により白血球上のインテグリンと血管内皮細胞間の結合が起こると言われている。PSGL-1をはじめ、CD34, CD43はそのO型糖鎖の上にセレクチンリガンドを有することが知られているが、本発明において、これらの分子はマイクロビライ上に存在し、インテグリンもマイクロビライ上に局在することが解明されたことからみて、CD34、CD43及びPSGL-1/CD162遺伝子の働きは、マイクロビライを形成し、そのマイクロビライを介して血管内皮との結合、血管外への遊走を制御していると考えられる。
したがって、本発明において、マイクロビライの全くない、もしくは少ない血球系細胞、あるいは、一般的な付着細胞に対しては、CD34、CD43及びPSGL-1/CD162遺伝子を導入することでマイクロビライを形成させることができるのだから、その結果、これらの細胞を血管内皮に結合させたり、血管外に遊走させたりすることができる可能性が高い。
インテグリンは、α鎖とβ鎖とで構成されるヘテロ二量体糖タンパク質であって、異なるα鎖とβ鎖が存在し多種類の組み合わせ方で分類され、インテグリンファミリーとも呼ばれる。最も一般的に知られたインテグリンの一つが「インテグリンα4β1」であり、インテグリンα4鎖(CD49d)とβ1鎖(CD29)とから構成され、別名very late antigen-4 (VLA-4)とも呼ばれる。主要な細胞表面接着分子の一つであり、VCAM-1およびファイブロネクチンCS-1ペプチドをリガンドとする。白血球や造血幹細胞/前駆細胞の接着及びHoming現象に関与することが知られている(非特許文献9)。特にリンパ球での役割は非常に重要であり、α4インテグリン遺伝子をノックアウトしたマウスでは成体のリンパ球発育が見られないことが知られている(非特許文献10)。
本発明の実施態様では、「インテグリンのリガンド結合に基づく作用」として最も典型的な「インテグリンを介した細胞接着作用」を取り上げ、マイクロビライ形成が「インテグリンを介した細胞接着現象」に関与していることを確認した。
CS-1ペプチドをリガンドとする「インテグリンα4β1」との作用を観察する場合、必要に応じて「インテグリンα4」遺伝子を導入して、細胞表面に「インテグリンα4β1」を発現させ、α4β1インテグリン特異的リガンドであるファイブロネクチンCS-1ペプチドをコーティングした基盤を用いて、インテグリンを介した結合状態を観察する。
典型的なヒトα4インテグリンのアミノ酸配列及び塩基配列は、以下のアクセッション番号で示される。
Homo sapiens a4 integrin (ITGA4) (NP_000876) = (NM_000885)
ヒトα4インテグリンをコードするアミノ酸配列を配列番号6として示す。
本発明の実施例では、当該遺伝子を特異的プライマーを用いてRT-PCRにより増幅・単離したものをDNAシークエンシングにて塩基配列を確認した上で使用した。
本来浮遊性の細胞にインテグリン遺伝子を導入するか又は導入せずに、細胞が発現しているインテグリンと相互作用をするリガンド物質(例えば、α4β1インテグリンの特異的リガンドであるファイブロネクチンCS-1ペプチド)を基盤表面に塗布して培養することで、本来浮遊性の細胞であっても基盤表面に接着させることができる。
本発明においては、KG-1 細胞に「インテグリンα4」遺伝子を導入してインテグリンα4β1を発現させたため、基盤表面にはファイブロネクチンCS-1ペプチドを塗布して用いた。
本発明では、そのうちの典型的なCD34遺伝子のsiRNAを用いてKG-1細胞中のCD34の発現を抑制したところ、マイクロビライ形成が部分的に抑制された(実施例添付せず)。
また、これらの蛋白質の量を増減させなくとも、マイクロビライを崩壊させる試薬を用いることでも白血球等の細胞の血管外遊走を抑制することができる可能性がある。本発明では、KG-1細胞をPMA処理する事でインテグリンを介する接着を誘導しているが、PMAはマイクロビライの数・長さを減弱させることが知られている(非特許文献7)。また、ケモカインや脱リン酸化酵素阻害剤などでマイクロビライが制御されることが知られている(非特許文献6、8)。リンパ節などの血管内皮細胞もCD34を発現していることが知られており、発現している内皮細胞ではマイクロビライ様構造が見られる。この構造がL-セレクチン等を介する白血球との接着に関与していることが考えられ、血管内皮細胞のマイクロビライを制御することで白血球や癌細胞のリンパ節などへの移行を制御できる可能性がある。また、造血細胞は間葉系細胞とインテグリンを介する接触をすることで増殖が制御されていると考えられており、マイクロビライ制御により造血を制御できる可能性が考えられる。癌細胞のうちでも中皮細胞由来の悪性中皮腫細胞の場合は周囲を長いマイクロビライで覆われている細胞であり、マイクロビライ形成が癌細胞の浸潤転移を促進したり免疫細胞と癌細胞の接触を抑制する可能性があるので、マイクロビライを制御することで悪性中皮腫を治療する、あるいは、治療可能にすることができる可能性がある。
本発明のスクリーニング法においては、本来接着性のもともとマイクロビライ形成が全くもしくはほとんど無い細胞に、CD34、CD43又はPSGL-1/CD162遺伝子を発現させ、細胞表面にマイクロビライを形成させることで接着性を減じ浮遊細胞となった細胞を用いる。
当該細胞に対して被検物質を作用させて、当該細胞のマイクロビライの量的変化を観察してもいいが、その接着性変化に基づく形態上の変化を光学顕微鏡などで観察することもできる。つまり、本来付着性細胞が浮遊性細胞になったことは、平べったい細胞が丸い細胞になるという細胞の形状変化として光学顕微鏡などで観察できる。当該細胞に対して被検物質を作用させた場合、その丸い形が平べったい形状に戻るとすれば、マイクロビライ形成を抑制する物質を取得したことに相当する。ここで、被検物質を作用させる、というとき培地中に直接被検物質を添加する場合と共に、被検物質が核酸である場合に、組換えベクターなどにより上記細胞中に導入する場合を含む。
(1)HEK293T細胞にCD34, CD43, PSGL-1, あるいはこれら蛋白質に別のアミノ酸配列を付加した融合蛋白質の発現ベクターを導入して培養し、発現ベクターにコードされている蛋白質を発現させてHEK293Tにマイクロビライを形成させ、細胞の円型化、接着能低下を起こさせる。この系に薬剤を加え、薬剤による細胞の円型化あるいは接着能低下の阻害を検出する。検出方法としては、1細胞当たりの細胞接着面積を測定しても良く、また、細胞を培地等で穏やかに洗って洗浄液に含まれる細胞数ないし接着したままはがれない細胞数を測定しても良い。薬剤によるマイクロビライ形成阻害は、薬剤を加えて培養した細胞のマイクロビライを顕微鏡的に観察することで行う。CD34等とGFPなど蛍光蛋白質の融合蛋白質を発現させると、薬剤のマイクロビライ形成に対する影響をマイクロビライを蛍光顕微鏡を用いて観察することで明らかにできる。もしくは、薬剤添加して培養後に細胞を針つきシリンジに通し、遠心してマイクロビライ画分と細胞体を分離し、マイクロビライ画分に含まれるアクチンなどマイクロビライ構成成分を測定しても良い。
(2)KG-1細胞など元からマイクロビライを有する細胞も、薬剤のマイクロビライに対する影響を見る系として使う事が出来る。この場合には細胞に薬剤を投与し、一定時間後に細胞上のマイクロビライを顕微鏡で観察検討することで薬剤のマイクロビライに与える影響を評価する。また、薬剤添加一定時間後に細胞を針つきシリンジに通し、遠心してマイクロビライ画分と細胞体を分離し、マイクロビライ画分に含まれるアクチンなどマイクロビライ構成成分を測定しても良い。
KG-1細胞及びCD34+ 臍帯血由来細胞はRIKEN BioResource Center (Tsukuba, Japan) より、HEK293T細胞はATCC (Manassas, VA) 、CD34+骨髄細胞はLonza (Wakersville, MD)から入手した。 HEK293T 細胞と KG-1細胞はそれぞれ10% fetal calf serum を加えたDMEM培地またはRPMI1600培地で培養した。
Poly-L-lysin(PLL), Phorbol 12-myristate 13-acetate(PMA), puromycin, paraformaldehyde(PFA), BSA, 及びファロイジンはSigma(St. Louis, MO)から入手した。Mowiol 4-88 ReagentはCALBIOCHEM (Darmstadt, Germany)から入手した。OSGEPはCEDARLANE Laboratories (Burlington, NC)から入手した。モノクローナル抗体: 抗CD34抗体(581), 抗α4 integrin抗体(9F10), 抗β1 integrin 抗体(MAR4), 及び抗Ezrin抗体(18)はBD Biosciences(San Jose, CA)から入手した。 ポリクローナル抗体: 抗リン酸化ERM抗体と抗ERM抗体はCell Signaling Technologies Inc. (Danvers, MA)から入手した。
レトロウイルス発現ベクター、pCpuroCMVSはpCLNCMV(Imgenex, San Diego, CA)を用いて作製した。ヒトCD34の全長cDNAとヒトα4インテグリンはRT-PCR法によってクローニングし、pCpuroCMVSにサブクローニングした。GFPのDNA断片とGFPをC末端に融合させたヒトCD34 DNA断片はpCpuroCMVSにサブクローニングした。pGEX-CS1はDr. Kenjiro Kamiguchiから分与していただいた。
発現ベクターはLipofectAmine 2000 (Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて細胞に導入した。pCpuroCMVS-α4インテグリンをHEK293T cellsに導入し、puromycin 抵抗性の細胞を選択した。
1.走査型電子顕微鏡法
細胞を1.2% グルタルアルデヒド/0.1M リン酸バッファー (pH 7.2)を用いて一晩固定した。5% ショ糖/0.1M リン酸バッファーで3回洗浄した後poly-L-lysine処理したガラスに貼り付けた。サンプルを1% 四酸化オスミウム / 0.1M リン酸バッファーで室温20分間固定し、エタノールを用いた脱水処理後、臨界点乾燥を行い金−パラジウムでコーティングして走査電子顕微鏡JSM-5800LV microscope (JEOL、Tokyo, Japan)で観察した。
細胞を1.2% グルタルアルデヒド / 0.1Mリン酸バッファー (pH 7.2)で一晩固定した。5% ショ糖 / 0.1Mリン酸バッファーで3回洗浄後、細胞を2% グルタルアルデヒド / 0.1M リン酸バッファー (pH 7.2) で一晩固定した。0.06Mカコジル酸バッファーで洗浄した後、0.5mg / mlルテニウムレッド / 1.2% グルタルアルデヒド / 0.06M カコジル酸バッファーで一晩固定した。0.15M カコジル酸バッファーで洗浄後、0.5mg / ml ルテニウムレッド / 1% 4酸化オスミウム / 0.06M カコジル酸バッファーで3時間固定した。0.15Mカコジル酸バッファー で洗浄後、エタノールの濃縮系列と酸化プロピレンを用いて脱水し、エポキシ樹脂に包埋した。それぞれのサンプルの超薄切片を作製し、酢酸ウランとクエン酸鉛で染色し、透過型電子顕微鏡 Hitachi H7500 electron microscope (Hitachi High-Technologies Corp, Tokyo, Japan)を用いて観察した。
細胞をカバーガラスに貼り付け、4% PFA / PBSを用い、室温で10分間固定し、PBSで3回洗浄した。0.2% Triton X-100 / PBSで室温5分間透過処理を行いPBSで3回洗浄した。サンプルを1% BSA / PBSで室温10分間遮断処理した後、一次抗体溶液中で室温一時間静置した。サンプルをPBSで3回洗浄し、二次抗体溶液中で室温30分静置した。PBSで3回洗浄した後、サンプルを、Mowiol中に包埋した。蛍光顕微鏡IX71 (OLYMPUS, Tokyo, Japan) またはBZ8000 (KEYENCE, Osaka, Japan)を用いてサンプルを観察し、BZ8000で得られたZ軸方向の重ね合わせ画像、及び断面像の解析にはBZ-Analyzer software (BZ-HIA,Ver. 3.5)を用いた。その他、得られた画像はAdobe Photoshop softwareを用いて解析を行った。
遺伝子導入HEK293T 細胞を用いた接着アッセイは以下のように行った。
細胞培養プレートのコーティングは10 μg / ml のGST / PBSまたはGST-CS1 / PBS を入れて3時間CO2 incubator内で静置し、PBSで3回洗浄した後、1% BSA / PBSで室温1時間静置して遮蔽処理し、さらに PBSで3回洗浄した。遺伝子導入HEK293T細胞を回収、洗浄し、GSTまたはGST-CS1コーティング済みのプレートに捲いた。CO2 incubator内で30分間静置し、 細胞の状態を光学顕微鏡IX71 (Olympus)を用いて観察、撮影した。その後、プレートをDMEM培地で3回洗い、プレートに付着した細胞を観察、撮影した。
KG-1細胞を用いた接着アッセイは、24 well プレートに12 mm カバーガラス(Fisher) を入れ、10 μg/ml のGST-CS1 / PBSまたはPLLを入れて、CO2 incubator内に3時間静置後、PBSで3回洗浄してコーティングしたものを用いておこなった。KG-1細胞を遠心して集め、1 ng / ml PMA有無の10% FCS を含むRPMI 1640培地で再懸濁し、プレートに播いた。CO2 incubator内で30分間静置し、カバーガラスに接着した細胞を4% PFA/PBSで室温10分固定し、続く実験に用いた。
遺伝子導入HEK293TをRPMI 1640培地で洗浄し、0.5% PFA / PBSで固定した。これらの細胞をフローサイトメーター(FACS Canto II, BD Biosciences)を用いて解析した。
遺伝子導入HEK293T細胞とKG-1細胞はPBSで洗浄し、1% Nonidet-P40 を含む可溶化溶液で可溶化した。細胞可溶化液を超音波破砕処理の後、遠心して上清を回収した。この細胞可溶化液にlameli bufferを加えて煮沸し、SDS-PAGEで分離した後、ニトロセルロース膜(Protoran, S&S)に転写して, 5% BSA / PBSで遮蔽処理を行い抗リン酸化ERM 抗体及び抗ERM抗体を用いてイムノブロッティングを行った。
KG−1細胞は、ヒト急性骨髄性白血病細胞に由来する典型的な浮遊細胞であり、細胞表面に表面抗原のCD34を発現している培養細胞(CD34+培養細胞)である。
RIKEN BioResource Center (Tsukuba, Japan)から入手したKG−1細胞を10% fetal calf serum を加えたDMEM培地で培養した後、まず、抗CD34抗体(BD Biosciences社製、CA)、抗Ezrin抗体(BD Biosciences社製)あるいは抗β1-インテグリン抗体(BD Biosciences社製)及び重合アクチンを染色するファロイジン(Sigma社製)を用いて二重染色した(図1A)。
次いで、KG-1細胞表面付近の透過型電子顕微鏡像と、その超薄切片像を図1Bに示す。
図1Bによれば、KG-1細胞は多数の小突起で覆われており、この小突起は平行に走るアクチン繊維を有していることからマイクロビライ(微絨毛)であることがわかる。図1Aの免疫染色でもKG-1細胞はEzrinおよびファロイジンで染色される微絨毛に覆われていることがわかる。そして、CD34は、KG−1細胞表面上のマイクロビライの表面に局在して存在することが明らかとなった。また、β1-インテグリンもマイクロビライ上に局在していた。
従来は、KG−1細胞表面に表面抗原のCD34が存在することは知られていたが、その細胞表面にマイクロビライが存在すること、及びその生物学的意義については知られておらず、まして、CD34とマイクロビライとの細胞表面上での位置関係が詳細に観察されたことはなかった。本実施例によるKG−1細胞表面の詳細な観察の結果はじめて、KG−1細胞表面にはマイクロビライが存在し、CD34及びβ1-インテグリンは、いずれもそのマイクロビライの表面にそれぞれ局在していることがわかった。
生体内のCD34陽性細胞としては造血幹細胞/前駆細胞が知られている。このCD34陽性細胞と微絨毛との関係について調べるために、ヒト骨髄や臍帯血由来のCD34陽性造血幹細胞/前駆細胞(理研バイオリソースセンターあるいはLonzaより購入。)を電子顕微鏡および免疫組織化学で解析した。
走査電顕を用いた観察により、ヒト骨髄由来、臍帯血由来CD34陽性細胞の細胞表面に微絨毛が認められた。(図2A)また、抗CD34抗体、phalloidinを用いた免疫染色により重合化アクチンを有する微絨毛が細胞表面に局在しており、その微絨毛の上にCD34が局在していることが明らかになった。(図2B)これらの結果より、造血幹細胞/前駆細胞と考えられるCD34陽性血液細胞表面にも微絨毛があり、その微絨毛の上にCD34があることが明らかになった。
CD34は造血幹細胞/前駆細胞のマーカーであるが、その機能については明らかでなかった。CD34陽性造血幹細胞/前駆細胞の細胞表面に微絨毛があり、CD34分子がその微絨毛上にあったことから、造血幹細胞/前駆細胞においてもKG-1細胞同様にCD34分子が細胞表面微絨毛形成に寄与することで細胞接着を制御している可能性が示唆された。
HEK293T細胞は、ヒト胎児腎臓細胞に由来する典型的な付着細胞であり、細胞表面にCD34は発現していない(CD34−培養細胞)。このHEK293T細胞(ATCCより入手)に対して、CD34遺伝子発現ベクターを導入してCD34を強制発現させた。発現ベクター(Imgenex社製を改変)を用いて、CD34遺伝子cDNA全長をHEK293T細胞に導入した後、2日間、37℃5%CO2条件下で10% fetal calf serum を加えたDMEM培地で培養し、CD34を細胞表面に発現させた。コントロールのため、空ベクターを導入したHEK293T細胞も同様に培養した。
HEK293T形質転換細胞表面を、以下の方法で観察した。
(1)位相差顕微鏡像による観察。(図3A, a and b)
(2)重合化アクチンを検出する蛍光付きPhalloidinを用いた免疫染色で蛍光顕微鏡による観察。(図3B, b and c)
(3)蛍光蛋白質であるGFPとCD34の融合蛋白質(CD34-GFP)を発現させ、GFPの蛍光で蛍光顕微鏡による観察。(図3Ba)
また、CD34を発現させたHEK293T細胞を、シアロムチン細胞外ドメインを切断するO-siaologlycoprotein endopeptidase (OSGEP, CEDARLANE Laboratories社製)で処理前後に位相差顕微鏡で観察した。(図3A, c and d)
図3Baより、CD34-GFPは細胞表面より突出した微絨毛様構造に局在していることがわかった。また、CD34発現細胞では細胞表面に多量の重合化アクチンを微絨毛様の形で検出した(図3Bc)のに対して、空ベクター導入細胞(図3Bb)では同様な構造の重合化アクチンははるかに少量であった。このことから、HEK293T細胞表面で発現させたCD34分子は重合化アクチンを含む微絨毛様構造に局在することがわかった。
これらの結果より、CD34を強制発現するとHEK293T細胞表面の微絨毛構造を著しく増加・伸長させ、細胞は円形化して付着底面より遊離すること、発現したCD34は重合アクチンに富む細胞表面微絨毛様構造の上に局在することが明らかになった。
CD34発現によるHEK293T細胞の形態変化をより詳細に観察するために、発現細胞を、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡による電子顕微鏡法および免疫組織化学的な免疫蛍光顕微鏡法で観察した。
電顕観察の結果、図4Aに示す様にCD34発現細胞は細胞表面より長い突起が多数出ていることが観察された(図4Ab and d)。さらに、これらの突起内部にはアクチン繊維が平行に走行していることが観察された(図4Af、矢印)。一方、空ベクター導入細胞では突起の長さは短く数も少なかった(図4A a and c)が、その突起にもアクチン繊維は認められた。(図4Ae)
これらの結果から、CD34発現により細胞表面に長い微絨毛(マイクロビライ)が多量に形成されたと考えられる。
また、抗CD34抗体を用いた免疫染色の結果(図4B)、CD34発現HEK293T細胞上でCD34は細胞表面の微絨毛様構造に重合化アクチンと共局在していた。CD34発現細胞の重合化アクチンは微絨毛に局在するEzrinと共局在していたことから、微絨毛に存在していることがより明らかになった。この結果より、CD34は発現させた細胞で微絨毛上に存在することが明らかになった。
KG-1細胞はCD34以外にも細胞表面ムチン型糖蛋白質であるCD43を発現している。また、上記実施例3、4で用いたHEK293T細胞は、CD43−培養細胞でもある。実施例3と同様の手順で、CD43遺伝子をHEK293T細胞に導入して強制発現させ、同様に培養し、CD43発現による細胞形態の変化を観察した。
図5AよりCD43発現によりHEK293T細胞が円形化して底面より浮いてきていること(図5Abと図5Aaの比較)、その現象変化がOSGEP処理により部分的に回復したこと(図5Adと図5Acの比較)がわかった。
図5Baより、CD43-GFPは細胞表面より突出した微絨毛様構造にあることがわかった。また、CD43発現細胞では細胞表面に多量の重合化アクチンを微絨毛様の形で検出した(図5Bc)のに対して、空ベクター導入細胞では同様な構造の重合化アクチンははるかに少量であった。このことから、HEK293T細胞表面で発現させたCD43分子は重合化アクチンを含む微絨毛様構造に局在することがわかった。
実施例5で得たCD43を発現させたHEK293T細胞の形態変化を実施例4と同様の手法で観察した。
電顕観察の結果、図6Aに示す様にCD43発現細胞は細胞表面より長い突起が出ていることが観察された。(図6Abおよび図6Ad)さらに、これらの突起内部にはアクチン繊維が平行に走行していることが観察された。(図6Af、矢印)。一方、空ベクター導入細胞では突起の長さは短く数も少なかった(図6Aa および図6Ac)が、その突起にもアクチン繊維は認められた。(図6Ae)これらの結果から、CD43発現により細胞表面に長い微絨毛(マイクロビライ)が多量に出来たと考えられる。
また、抗CD43抗体を用いた免疫染色の結果、CD43発現HEK293T細胞上でCD43は細胞表面の微絨毛様構造に重合化アクチンと共局在していた。(図6B, a to c)この結果より、CD43は発現させた細胞で微絨毛上に存在することが明らかになった。
これらの結果を総合すると、CD43をHEK293細胞に発現させると微絨毛形成を促進し、CD43分子は微絨毛上に局在する。
CD34発現によるHEK293T細胞の円形化・接着面からの浮遊の機序を明らかにするために、インテグリンを介する細胞接着の変化を観察した。インテグリンは主要な細胞表面接着リセプターであり、主に細胞外マトリックスをリガンド(特異的結合パートナー)とする。付着細胞は細胞表面インテグリンと細胞外マトリックスとの結合を介して培養用プラスチックシャーレ等に付着している。
HEK293T細胞はαvβ1インテグリンという一般的でないインテグリンを発現していると考えられたので、ヒトα4インテグリンcDNAをRT-PCRを用いてヒトcDNAよりクローニングし、発現ベクターでHEK293T細胞に発現させることでα4β1インテグリンを発現する細胞(α4-HEK293T)を得た。この細胞はα4β1インテグリンの特異的リガンドであるファイブロネクチンCS-1ペプチド(のGST融合蛋白質)をコーティングした培養用プレートに特異的に接着して伸展することが明らかになった。(図7A)この細胞にCD34-GFP発現ベクター、GFP発現ベクターを導入し、それぞれの蛍光蛋白質を発現させた。図7B図7Cでは蛍光蛋白質を発現している細胞のみ視認される。図7Bに示す様にGFP発現細胞は接着して伸展するのに対し、CD34-GFPを発現する細胞は伸展せず球状である。また、図7Cに示す様に図7Bの状態から洗浄すると、GFP発現細胞は接着しているのに対し、CD34-GFPを発現する細胞は洗い流されてしまう。(接着して残っている細胞数を図7Ccに記載。)また、接着した細胞(図7Cd破線)と接着しておらず洗い流された細胞(実線)の蛍光強度をFACSで比較すると、GFP発現細胞では差がないのに対し、CD34-GFP発現細胞ではCD34融合蛋白の発現量が多いほど接着しない傾向が明らかである。
これらの結果より、CD34を発現したα4インテグリン発現HEK293T細胞ではα4β1インテグリンを介する細胞接着が阻害されていることが明らかであり、細胞表面CD34、あるいは、CD34発現のため増強した微絨毛によって、インテグリンを介する細胞−基質接着が制御できることを発見した。
CD43発現によるHEK293T細胞の円形化・接着面からの浮遊の機序を明らかにするために、実施例7と同様の手法でインテグリンを介する細胞接着の変化を観察した。
ヒトα4インテグリンcDNA発現ベクターを発現させたHEK293T細胞にCD43-GFP発現ベクター、GFP発現ベクターを導入し、それぞれの蛍光蛋白質を発現させ、α4β1インテグリンのリガンドであるCS-1ペプチドをコーティングしたプレート上で培養後、培地で洗浄し、接着した細胞を蛍光顕微鏡で観察した。図8aでは蛍光蛋白質を発現している細胞のみ視認される。図8(a and b)に示す様にGFP発現細胞に比較してCD43-GFP発現細胞は接着する細胞数が少なく、図8cに示す様にCD43-GFP発現細胞で接着した細胞はしなかった細胞に較べCD43-GFPの発現量が少ないことが明らかになった。CD43-GFP発現細胞をOSGEP処理してCD43の細胞外部分を切断した場合は接着が部分的に改善することから、CD43の細胞外部分が接着制御に重要な役割を果たしていることがわかった。
HEK293T細胞にCD34あるいはCD43を異所性に発現させることによりマイクロビライを細胞表面に作らせると、インテグリンを介する細胞接着を阻害することを実施例7、8で示した。そこで、CD34を内在性に発現している細胞でのインテグリンを介する接着とCD34/ 微絨毛の関連を調べるために、KG-1細胞のGST-CS-1コーティングプレートへの接着を観察した。KG-1細胞は通常培養条件下では浮遊細胞であり、培養用プレートに接着しない。言い換えると、インテグリンを介する細胞接着が阻害されている。しかし、Protein kinase C (PKC)の活性化剤であるPhorbol 12-myristate 13-acetate (PMA)を培地に加えるとGST-CS-1をコーティングした培養用プレートに接着する。(図9A)
GST-CS-1コーティングプレートに接着した場合には細胞が伸展するのに対し、GSTをコーティングしたプレートにはほとんど接着せず接着した細胞も伸展しないことから、この細胞接着および細胞伸展はα4β1インテグリンを介したものであった(ここでは結果を示していない。)。細胞接着/伸展した細胞を各種抗体やphalloidinで染色し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、CD34および(Ezrinや重合化アクチンで描き出される)微絨毛はこの接着部位・接着面(矢印で示す)には認められなかった。(図9Bc and e)
一方、α4β1インテグリンは接着部位にも局在していた(図9B d and f、矢頭で示す)。
細胞表面の内、接着面以外の部位については微絨毛があり、CD34もα4β1インテグリンも局在していた。
この結果より、インテグリンを介する細胞接着が起こった細胞表面部位ではCD34および微絨毛は排除されており存在しないことが明らかになった。すなわち、インテグリンを介する細胞接着において微絨毛およびCD34分子は接着阻害因子であり、接着が起こる時には接着面より排除される。しかし、その一方で、インテグリンは微絨毛上にも局在することから、微絨毛は単位細胞表面面積当たりのインテグリン量を高く保持することに役立っている可能性が示唆された。
細胞における微絨毛などの重合アクチン関連構造の形成あるいは維持において、細胞質内のERM蛋白質(Ezrin, Radixyn, Moesinの略)の特異的リン酸化が重要な働きをしていると考えられている。そこでHEK293T細胞におけるリン酸化ERM蛋白(p-ERM)の量を抗p-ERM抗体を用いたウエスタンブロッティングで解析するとともに、p-ERMの細胞内局在を免疫組織化学で解析した。また、KG-1細胞にPMAを加えた場合の細胞内p-ERM量の継時変化をウエスタンブロッティングで、PMAを加えてGST-CS-1コーティングガラスに結合させた細胞およびPMAを加えずにpoly-L-lysinコーティングガラスに結合させた細胞を抗p-ERM抗体を用いた免疫染色で解析した。
その結果、HEK293T細胞ではCD34発現により細胞内p-ERMは著しく増大しており(図10A右)、免疫染色ではp-ERMは微絨毛に局在していた(図10B下)。KG-1細胞ではPMA処理によりp-ERMは著しく減少しており(図10A左)、また、KG-1細胞でもp-ERMは微絨毛に局在していた(図10B上)。
これらの結果より、p-ERMがHEK293TにCD34を発現させて微絨毛を形成させた時に微絨毛の形成に伴って微絨毛に局在して出現することが明らかになった。一方、KG-1細胞では元々微絨毛にp-ERMが局在しており、PMA処理によりp-ERMが減少するのと一致して細胞がインテグリンを介した接着を行える様になり、その接着面にはp-ERMは存在していないことが明らかになった。これらの結果より、p-ERMが微絨毛形成・維持と密接な関係があり、CD34発現によりERM蛋白リン酸化を介して微絨毛が形成される可能性が示唆された。
HEK293T細胞に発現させると細胞の円形化・マイクロビライ形成を起こすCD34, CD43はいずれも血球系細胞表面の主要なシアロムチン糖蛋白質である。そこで、本実施例では、血球系細胞に発現している他のシアロムチン型糖蛋白質、Glycophorin-AおよびPSGL-1/CD162、ならびに血球系を含む様々な細胞に発現しておりCD43同様ERM蛋白質との結合ドメインを細胞質に有するCD44についても同様の検討を行った。すなわち、HEK293T細胞において、CD43,CD44,マウスGlycophorin-A,PSGL-1,およびそれらのキメラ蛋白質を発現させ、細胞形態の変化を観察した。
その結果、GFPとのキメラ蛋白質を発現させた場合、CD43同様PSGL-1はHEK293T細胞を円形化/脱接着させるのに対して、細胞表面ムチン型糖蛋白質であるGlycophorin-Aや、細胞質内ドメインでCD43同様にERM蛋白質に結合するCD44を発現させても細胞の円形化・マイクロビライ形成は起こらなかった(図11A)。
そこで、次に、CD43分子内のどのドメインが細胞の円形化・マイクロビライ形成に必要か調べるために、CD43とGlycophorin-AあるいはCD44とのキメラ分子をHEK293T細胞に発現させ、細胞の円形化・マイクロビライ形成を起こすかどうか観察した。。図11Bにキメラ蛋白の構造と細胞を円形化させたかどうかをプラスマイナスで示した。例えば、CD43の細胞外ドメインとCD44、あるいは、Glycophorin-Aの細胞内ドメインを持つキメラはHEK293T細胞の形態変化を誘導するのに対し、CD44、あるいは、Glycophorin-Aの細胞外ドメインとCD43の細胞内ドメインを持つキメラは誘導しない。この結果より、CD43の細胞外ドメインが形態変化に重要な役割を果たしていることがわかった。
Claims (4)
- 細胞表面のインテグリンのリガンド結合に基づく作用を制御する物質のスクリーニング方法であって、以下の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とするスクリーニング方法;
(a)本来接着性の細胞であり、細胞表面にマイクロビライを全く、もしくはほとんど形成していない細胞に、in vitro条件下で、下記の(1)〜(3)の群から選ばれる少なくとも1つ以上の蛋白質をコードするDNAを含む組換えDNAを導入し、当該蛋白質を細胞表面で発現させることにより、接着性細胞を浮遊性細胞に変換する工程、
(1)CD34蛋白質又は少なくともその細胞外ドメインを含む融合蛋白質、
(2)CD43蛋白質又は少なくともその細胞外ドメインを含む融合蛋白質、
(3)PSGL−1/CD162蛋白質又は少なくともその細胞外ドメインを含む融合蛋白質、
(b)(a)の細胞を培養し、細胞表面のマイクロビライ形成が促進された細胞を取得する工程、
(c)(b)の培養細胞に対して、被検物質を作用させ、顕微鏡的な観察により細胞表面のマイクロビライ形成の促進又は抑制効果が存在することを確認する工程。 - 前記被検物質が、あるタンパク質をコードするDNAであり、前記被検物質を作用させる方法が被検物質を組換えDNAとして前記培養細胞内に導入することである、請求項1に記載のスクリーニング方法。
- 前記スクリーニング方法が、白血球由来細胞のHoming現象又は血管外遊走現象を促進又は阻害する物質の候補を選択するための方法である、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
- 前記スクリーニング方法が、癌細胞の浸潤転移性を阻害する物質の候補を選択するため
の方法である、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
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