以下、本発明の漏洩同軸ケーブルの実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
〔1.偏向電流モデル〕
スロットがない同軸ケーブルにおいては、同軸ケーブルの外部導体を流れる電流と中心導体を流れる電流とは、大きさが等しく逆方向である。その結果、各電流による磁界成分が互いに相殺し、ケーブル外部に磁界が漏れることはない。
図1は、同軸ケーブルにおける漏洩スロットの配置と偏向電流との関係を示す側面図である。
一方、図1に示すように、長さLのスロット1を外部導体に配置すると、外部導体を流れる電流はスロット1の近傍で乱され、円周方向の電流成分Iyが発生する。このIyによって発生する磁界成分を相殺する電流は中心導体側には存在しないため、この磁界がケーブル外部に漏れることになる。この磁界が時間的に変化すれば、電磁波放射が行われることになる。このように、外部導体に流れる電流が偏向されることにより、放射が行われるものとするモデルにより、漏洩同軸ケーブルの特性を計算する。
なお、以下の説明において、「スロット」とは穴を意味し、「スロット群」とは、複数のスロットからなる1集団を意味する。スロットは、スロットの長さ及び/又は傾きが周期的に変化しており、これら長さ及び/又は傾きの変化の1周期内に存在する複数のスロットが、一つのスロット群を構成している。
スロット1の近傍の円周方向電流成分Iyならびにそれによる磁界成分Hyは、
ただし、I
0はスロットに沿って流れる電流、θはスロットのケーブル軸方向となす角度、C
iとC
hは比例定数である。また、スロット近傍の軸方向電流成分Ixならびにそれによる磁界成分Hxは、
(1.2)式及び(1.4)式から、相殺されないで外部に漏れる磁界成分は、
となる。ただし、Hoは、中心導体によってスロット近傍に発生する円周方向磁界成分である。これに対応する外部導体電流は、(1.5)式のHをIと読みかえればよい。この外部漏洩に寄与する電流成分(偏向電流)が流れる範囲は、ほぼスロット長の範囲である。ここで、角度θが小さいものとすれば、偏向電流方向の距離は、Lsinθで近似できる。したがって、外部漏洩に寄与する偏向電流は、Lsinθの距離だけ流れていることになり、スロット1は、円周方向に設置された等価長Lsinθの電流源と等価と考えられる。なお、等価偏向電流の方向は、円周方向とは若干異なり、以下で計算される。
〔2.輻射電界の計算〕
前述の〔1.〕の偏向電流モデルにしたがって、各スロットに電流源が配置されているものとする。
図2は、輻射電界強度の計算を示す図である。
各電流源は、軸方向に関しては点波源とみなすことができる。図2に示すように、それらからの放射波を受信点で複素合成して受信電界強度(FS)を得る。
ただし、Pはスロットの間隔、r
kは漏洩点から受信点までの距離でr
k=√{(x−kP)
2+y
2}、τはスロットの1ピッチを進む電流の伝搬時間でτ=P√ε/c、cは光速、εはケーブルの絶縁体部の比誘電率、A
kはk番目の漏洩点の放射振幅、xとyは受信点の座標、ωはLCXに流れる電流の角周波数である。また、P
tは放射電力、√30は変換定数である。ここで、アンテナ等価長(前述の等価偏向電流源の等価長)が波長より小さい場合に放射される電界強度は、波長に逆比例(周波数に比例)することを考慮すると、A
kは周波数に比例する値をとるものになる。
次に、ケーブルから輻射される全電力について考える。ケーブルからの距離がrである半波長ダイポールアンテナに誘起される電圧Eは、漏洩点の放射振幅A
Kが周波数に比例することを考慮すると、
と表される。ただし、FS
0は基準周波数f
0における輻射電界強度である。この半波長ダイポールをケーブルに沿って隙間なく一列に並べる場合、ケーブル長をCableとすると、並べられる半波長ダイポールの数は、2Cable/λになる。この一列のアンテナ群に誘起される電力は、
となる。さらに、ケーブルからの全輻射電力を受信するために、上述した一列配置のアンテナ群を、半径rの円周上にケーブルを囲んで配置する。各アンテナ群は、相互干渉しないようにするため、適切な間隔を空けて配置する。干渉があると、(2.3)式で示した受信電力が得られない。この適切な間隔は波長に比例することを考えると、円周上に配置されるアンテナ群の個数は、波長に反比例することになる。したがって、全アンテナで受信される電力、すなわち、ケーブルから輻射される全電力は、
と計算され、波長の2乗に反比例(または、周波数の2乗に比例)するものとなる。
漏洩ケーブルの結合損失は、ケーブルから1.5mの距離にある半波長ダイポールに誘起される電力と、ケーブル内を伝播する電力との比で定義されるが、その定義については、以下の検討が必要である。
仮に(2.2)式のように、1つのダイポールアンテナに誘起される電力で定義されるものとすれば、結合損失は、周波数に依存しないものとなる。また、(2.3)式のように、ケーブルに沿った1列配置のアンテナ群で定義するものとすれば、結合損失は−3dB/octの周波数特性となる。さらに、(2.4)式の輻射電力で定義するものとすれば、結合損失は−6dB/octの周波数特性となる。実際のケーブル特性を見ると、−6dB/oct、すなわち、全電力で定義することが妥当である。
以下の論議では、結合損失は、ケーブルから1.5mの距離におけるポインティング電力と、ケーブル内の伝搬電力との比と定義する。ポインティング電力は、実効開口面積1m2のアンテナの有能電力でもある。この定義は、上記の全電力で定義することと等価であり、その周波数特性は、−6dB/octになる。
〔2.1上限周波数(進行波限界)〕
図2において、漏洩点0からの輻射波が漏洩点1に到達する複素振幅ならびにケーブルを伝播して漏洩点1から輻射される波の複素振幅は、
と書ける。E
0とE
1とがちょうど逆相となる周波数では、それぞれの輻射波が相殺されてしまうため、ケーブルからの輻射がゼロとなることになる。通常の漏洩ケーブルでは、A
0=1及びA
1=−1のように配置するから、輻射が相殺される周波数は次式となる。
〔2.2下限周波数(後進波限界)〕
前節と同様に、漏洩点1からの輻射波が漏洩点0に到達する複素振幅は、
と書ける。この輻射波が漏洩点0からの輻射波E
0=A
0と丁度逆相になる周波数では、両輻射波が相殺される。その周波数は次式となる。
〔2.3最小分割数〕
基本周期を分割して各分割点にスロットを配置するとともに、各スロットの輻射係数をできる限り正弦波状に設定するというのが、漏洩ケーブルの基本的な構成である。この場合、隣接するスロットの輻射係数は、分割数が十分に大きいときには、ほぼ同じ値となる。この状態において、(2.6)式の上限周波数を適切に輻射するためには、隣接するスロットから輻射位相が、180度以内でなければならない。サンプリング定理と同様に、最大周波数に少なくとも2つの標本が必要である。分割数をNとして、この限界条件を数式で表すと、
となる。上式をNについて解くと、
が得られる。すなわち、(2.10)式より小さい分割数の場合には、(2.6)式で与えられる上限周波数をカバーすることができない。
〔2.4最大輻射方向〕
ケーブルからの電波輻射は、各漏洩点からの輻射波と、これに隣接する漏洩点からの輻射波が同一位相となる方向に行なわれる。この条件は、図3Aにおいて、漏洩点1の位相φ1と漏洩点0からDだけ離れた位置の位相φ0とが等しいと置いて、次式で表される。
(2.11)式の3行目の式は、漏洩点1からの輻射波が1波長分遅れていることを表している。(2.11)式を解いて、次式を得る。
〔3.ケーブルVSWR(電圧定在波比)の計算〕
〔3.1共振周波数〕
各漏洩点(スロット)で反射されて送信点に戻ってくる反射波の総和について考える。送信点から数えてk番目の漏洩点(スロット)での電圧反射係数をαとすると、反射波及び透過波の振幅は、次式となる。
ただし、R(k)は当該スロットで反射される波の複素振幅、T(k)は当該漏洩点を通過していく透過波の複素振幅である。各漏洩点(スロット)が同一の形状、すなわち、αが一定値である場合、T(k)の大きさは次式で表される。
反射波が送信端に戻ってくる間には、図3Bに示すように、(3.1)式と同一の振幅・位相の変化が作用する。したがって、
ただし、Sは送信端に戻ってくる全反射波の総和を表す。また、αが十分に小さいものとして、近似値を得ている。
(3.5)式は、すべてのλに対してωkτ=整数となる周波数で極大値をとる。具体的には、
の整数倍の周波数で反射波が極大となり、共振周波数となる。
複数の輻射振幅が周期的に配置されている場合、その周期を基本ピッチP0とする。また、基本ピッチ内の放射振幅は、正弦波状の配列になっているものとする。この場合、反射係数は放射係数の絶対値に比例するので、反射係数の周期はP0/2となる。したがって、共振周波数は、(3.6)式の2倍となる。
〔3.2反射係数の値〕
図4Aは、漏洩点の反射係数を示す等価回路図である。
漏洩点(スロット)では偏向電流により電磁放射が行われて、その分だけケーブル内を伝播する電力が減少する。スロットが1つだけのケーブルを考えると、図4Aに示すように、スロットでは、インピーダンス(z)が接続され、そこに偏向電流に相当する電流が流れるものとして表すことができる。送信機の電流源をI0とし、偏向電流(h)と終端抵抗(Z0)に流れる電流の比をβとすると、次式が成立する。
このとき、漏洩点における電圧反射係数αは、ZpをZとZ
0の合成インピーダンスとすると、
と計算される。通常の漏洩ケーブルのβは小さいな値であるので、漏洩点の電圧反射係数αは、βの1/2に等しいとおける。
ところで、図4Aの終端インピーダンスをZrxと書き、これを変化させて、Is=Itx/2とすることを考える。すなわち、
上式にしたがってスロットを通過するたびにケーブルインピーダンスを高くしていくと、図4AのIsはスロットの有無に関わらず一定となる。これは、反射波が生じないことと等価である。(3.10)式の実現として、例えば、中心導体を徐々に細くしていくとか、外部導体を徐々に太くしていくとか、絶縁体の誘電率を小さくしていくとかの手段が考えられる。
〔3.2.1反射係数の値(その2)〕
漏洩点(スロットの位置)では、外部導体電流が偏向されるため電流の流れる経路は長くなり、その分だけ伝播遅延が増えるものと考えられる。
図5Aは、スロットの傾斜と偏向電流の実効長Leffとの関係を示す図である。偏向電流Ihは、Lに近いものからゼロに近いものまであるのでその実効長はLの半分となる。
図5Aに示すように、放射スロットの長さをL、その角度をθとする。放射スロットのない部分では、電流は同軸外部導体上を均等に流れているとする。偏向電流(I
h)は、同軸外部導体の円周長に対するスロットの円周投影長に比例するから、全電流をI
0と書くと、rを絶縁体の半径として、
この電流をn分割して考える。各電流(I
1、I
2・・・I
n)の経路は、Lに近いもの(I
1)からゼロに近いもの(I
n)まで存在する。I
h全体としての経路は各電流経路の平均値であるから、その経路増加は、
となる。偏向されない外部導体電流の経路増加はゼロであるから、外部導体電流全体としての経路増加にともなう遅延時間は、
ただし、Vc=c/√εでケーブル内の電流の伝播速度である。(3.13)式の遅延を与える等価回路として、図4Aのインピーダンス(Z)を容量(C)で置き換えればよい。この場合の回路応答は、
であり、その遅延時間は周知の時定数(=CZ
0/2)となる。この遅延時間が(3.13)式のΔDLに等しいとおいてh及びβを求める。すなわち、h=jωCE及びIrx=E/Z
0より、
を得る。
上記モデルでは、反射はスロットの中心で集中して起こるものとしている。しかし、実際のケーブルでは、1つのスロット内においても分布的に反射が生じる。そのため、スロット内における位相ずれを考慮する必要がある。スロットあたりの見かけ上の反射係数をα
mesとすると、(3.15)式のαとの関係は、
ただし、λc=λ/√εで、ケーブル内の電流の波長である。例えば、L=140mm、ε=1.3の場合、この値は、220MHzではα
mes=0.947α、600MHzでα
mes=0.648αとなる。(3.15)及び(3.16)式より、
が得られる。
なお、(3.16)式の積分範囲の厳密な値は、±(Lcosθ)/2であるが、式が煩雑となるのでθが小角であるとしてcosθを省略している。省略しない場合は、
となる。
〔ΔDLの別の導出方法〕
ΔDLは、以下のようにして導出することもできる。
ケーブルの単位長あたりのインダクタンス及びキャパシタンスを、L
0、C
0とすると、
等価付加容量ΔCの付加による伝播速度の変化及び単位長あたりの遅延時間の変化は、
これよりΔDLを求めると(DL+ΔDL)
2=L
0(C
0+C)より、ΔDL≒ΔCZ
0/2を得る(ただし、ΔC<<C
0の場合)。
〔付加容量について〕
次に、付加容量について説明する。
漏洩点(スロット)で電流経路が長くなることを考えると、その等価回路として、インダクタンスが増加すると考える方が自然である。図4Bはインダクタンスを増加させた等価回路、図4Cはキャパシタンスを増加させた等価回路である。両等価回路において負荷に流れる電流を求める。
ただし、Y
0=1/Z
0である。両電流が等しいとおいて、ΔC=ΔL/Z
0 2を得る。これよりΔDLを求めると、ΔDL≒ΔL/2Z
0となり、等価付加容量の場合と同形の式になる。
〔3.2.2反射係数の値(その3)〕
図6は、実測ケーブルの構造を示す側面図である。このケーブルのスロット群には6個のスロットが存在する。
実測ケーブルの特性を、以下の〔表1〕に示す。
上記の遅延モデルによる計算値と実際のケーブル特性とを比較してみる。220MHzの共振周波数では、ケーブル上の波長が基本周期と一致する(図6)。このとき、基本周期あたりの各漏洩点からの反射波は、位相ずれを考慮すると、
ただし、αは各スロットの反射係数である。
実測したケーブルの各漏洩点(スロット)はすべて同一構造であり、各漏洩点の反射係数も同一となる。また、反射波の位相は、φ=2π(2/9)で与えられるが、これは各スロット間隔の2倍の位相ずれとなっている。1/2波長離れたスロットの位相も同様に、2πずれる。
実測したケーブルは100mであり、約83の基本周期が含まれる。したがって、
と計算される。
一方、(3.17)式に、表1に示す実測ケーブルの構造パラメータを代入すると、α=58.3dBとなる。計算値と実測値との間に約2dBの差異があるが、概ね前述した遅延モデルは成立していると言える。
〔3.2.3反射係数の値(その4)〕
これまでの計算は、外部導体電流が図5Aに示すように流れるものとして行なってきた。しかし、実際の電流経路は、図5Bに示すようなものになると考えられる。すなわち、図5Bにおいて、スロットの左側(電流の上流側)の領域では、電流がスロットにより偏向され、偏向電流が発生する。スロットの右側(電流の下流側)直近では、電流が遮断されているため、電位が下がっている。そのため、周囲の電流がこの領域に向かって流れ込むことになる(このように流れ込む電流を「吸引電流」と呼ぶこととする)。さらに、スロットからある程度離れた右側(電流の下流側)では、円周方向で電流密度の高い部分(図3.5中の上側)から外部導体電流が均一な電流密度となるように広がっていく。このとき、偏向電流と逆向きの円周方向電流成分が生じる(この電流を「緩和電流」と呼ぶこととする)。
吸引電流及び緩和電流は、いずれも円周方向成分を持つが、その方向が逆向きであるため、スロットからの輻射効果は相殺される傾向にある。後述するように、輻射電力に関する計算と実測値はよく一致していることからも、吸引電流成分と緩和電流成分は、輻射に関しては、相殺されるものと考えられる。一方、吸引電流及び緩和電流のいずれも、電流経路は、スロットの無い場合よりも長くなるため遅延が生じる。この遅延を考慮すると、(3.13)式の遅延量ΔDLは増加することになり、(3.15)式の反射係数βもその分だけ増加する。前節で述べた反射係数の計算値と実測値の乖離(2dB)は、吸収電流及び緩和電流の効果に起因するものとも考えられる。
〔3.3放射効率の値〕
まず、放射電力と電流の関係について考える。電流I0により放射される電力をP0とするとき、図7の左側(基準系)で考える場合は、次式が得られる。
図7の右側(電流分割系)は、電流をn分割して考える場合である。分割した電流をInとすると、各電流により放射される電力は、次式のように計算される。
放射電力は、基準系、電流分割系のいずれで考えても同じであるから、P
0=P
nである。したがって、
を得る。すなわち、電流を分割して放射電力を計算する場合には、分割数に応じて放射インピーダンスを増加させたものを用いる必要がある。
分割数をnとすると、
と書ける。放射に関わる実効偏向電流は、(1.5)式を参照して、
である。実効偏向電流の方向は、(1.6)式によりπ/2+θ/2であるから、その方向の等価長は、
となる。すなわち、(3.24)式で表される放射電流leq
kが等価長Leq
kの距離を流れているとみなせる。この場合、各放射電流による放射電力は、微小ダイポールの放射公式を用いて求められる。
ここで、Iは微小ダイポールに流れる電流、lは微小ダイポール長、θは電流となす角、E
θは距離xにおける電界強度である。
上式を全空間で積分して微小ダイポールからの放射電力として次式を得る。
ここでZ
air=120πは、大気のインピーダンスである。各分割電流による放射電力は、(3.22)式を考慮して次式で書ける。
ケーブル内伝播電力をPtとするとき、I
0 2=Pt/Z
0を考慮して各放射電力の総和をとる。
以上の議論では、放射点が無限小の大きさと仮定している。有限長のスロットの場合、スロット内の各微小部分から放射される波の位相を考慮する必要がある。スロット中心の放射波位相を基準にすると、スロット中心からxの距離にある微小部分の位相は、φ=2πx/λcであるから、スロット全体としての平均振幅は、
となる。これを考慮すると、放射効率η
eqは、
と修正される。実測ケーブルの場合、この補正は600MHzで1dB程度である。
実測ケーブル(Z0=50Ω)について220MHzで、(3.30)式を計算すると、η=−61dBとなり、シミュレーション計算で実測ケーブルと同じ結合損失を得る条件と一致している。
偏向電流は外部導体の円周上を流れるため、電波放射に寄与する微小ダイポールの実効長が短くなる。実効長をLeqとすると、図8を参照して、
この実効長短縮による放射効率の低下は、
と計算される。したがって、(3.30)式は次式に修正される。
実測ケーブルの場合、(3.32)式の値は、−0.001dB程度で無視できる。スロットが外部導体円周の1/2を覆っている場合、すなわち、Lsinθ=πrの場合、(3.32)式は、2r/πr=−2.0dBとなる。さらにスロットが長くなると、放射効率は急激に低下する。
〔正弦波状スロット配置の場合〕
前述の説明では、同一構造のスロットを配置した場合について論じている。下記の実施例では、異なる構造のスロットを配置している。具体的には、放射係数が正弦波状になるようにスロット構造(スロット長またはスロット傾斜角)を変化させている。
以下では煩雑な数式展開を避けるため、スロット内で分布的に生じる効果を無視することとする。すなわち、スロット長L及び傾斜角θは小さいものとする。これは、スロットでの反射ならびに放射は、スロット中心の1点で生じるものと仮定することに他ならない。
スロットあたりの反射係数αとスロット構造との関係は、(3.13)及び(3.15)式より
である。また、スロットあたりの放射振幅係数√ηとスロット構造との関係は、(3.28)より、
(3.34)及び(3.35)からLを消去する。
上式より、反射率と放射振幅とは比例することが分かる。またその比例係数(≒2.1dB)は、ケーブルの特性インピーダンス及び誘電率で定まり、周波数に依存しない(厳密には、スロット内での分布効果を考慮すると、周波数依存性は存在する)。
さて、各スロットの長さまたは傾斜角、或いはその両者を変化させれば、放射振幅を変化させることができるが、ここでは、スロット長のみを変化させることとする。ケーブル上で放射振幅が変化する周期(正弦波の周期)をP、1周期あたりのスロット数をN、最大のスロット長をL
0とする。(3.36)式より、放射振幅はスロット長の2乗に比例するから、正弦波状の放射振幅を得るためには、各スロットの長さL(n)は、
となる。無損失ケーブルの場合に送信端に戻ってくる1周期あたりの反射波は(3.34)及び(3.37)式を(3.5)式に代入して、次式を得る。
上式では構造パラメータに関するものをまとめて、K={sinθsin
2(θ/2)}/{2πrVc}と置いている。
図9に反射波の様子を示す。図の横軸は(2.6)式で与えられるケーブルの上限周波数で基準化してある。縦軸は、1周期あたりの放射電力で正規化した反射波の振幅である(Vc波0.877V0で計算)。図のように、スロット数Nを大きくすることにより、高周波数領域での反射波を軽減することができる。
以下、本発明の実施例1について図面を参照しながら説明する。
〔共振分散手法〕
前述したように、漏洩ケーブルの共振現象は、各スロットで生じた反射波が送信端に戻ってくるときに、全ての反射波の位相が特定の周波数で同一となることに起因している。この現象を緩和するため、本実施例においては、各スロットの間隔を適切に変化させることにより、反射位相が同一にならないようする。
また、前述したように、スロットは、スロットの長さ及び/又は傾きが周期的に変化しており、これら長さ及び/又は傾きの変化の1周期に対応するスロット群を構成している。そして、各スロットのピッチ間隔は、同軸ケーブルの軸方向について、複数のスロット群に亘って一周期をなす周期関数に対応して、周期的に偏移している。
図10は、この実施例におけるスロット位置の偏移の様子を示す図である。図中「偏移なし」は均等間隔のスロット配置、「偏移あり」は、スロット位置を(4.1)式で示す位置に配置した場合である。ただし、yは送信端から見たスロット位置、kは送信端から数えたスロット番号、P0は偏移のない場合のスロット間隔である。
各スロットから送信端の戻ってくる反射波の総和S(ω)は、
と書ける。各スロットが同一の場合(すなわちα
k=α
0)、
となり、周波数変調(FM)のスペクトルと同一形式の式となる。FMのスペクトル解析はベッセル関数展開等を用いて行なわれるのが通例であるが、以下では、物理的イメージが明確になるように解析する。
図10は、スロット偏移が1次関数の場合のものである。この場合のスロットは、P
0±P
divの2種類の間隔で配置されることになる。共振周波数は、(3.7)式のようにスロット間隔で決まり、ω=2πVc/Pで与えられる。したがって、偏移のある場合の共振周波数は、2種類のスロット間隔に対応して、
となる。共振周波数ω
1における反射振幅は、当該共振に寄与するスロット数が全スロットの半数であるので、偏移のない場合に比べて1/2となる。共振周波数ω
2についても同様である。
図11に、1次関数偏移の場合に(4.3)で求めた反射波ならびにVSWRを示す。図のように、スロット偏移を行なうことにより、偏移なしの場合の共振周波数が2つの共振周波数に分離する様子が見られる。
上記の物理的考察を拡張する。(4.1)式のスロット偏移を与える周期関数がなだらかである場合、スロット間隔は次式で表される。
ただし、g(k)=Δf(k)/P
0=〔f(k)−f(k−1)〕/P
0
この場合にも、共振周波数の分離が生じるとともに、その反射波振幅は当該共振に寄与するスロット数に比例するものと考えられる。今、ある共振周波数ω
kを中心に±dω/2の微小帯域内の共振に寄与するスロット数について考える。
ここで、ω
0は、スロットの位置の偏移がない場合の共振周波数である。(4.6)式を見ると、共振周波数がω
k±dω/2の範囲に入る条件は、関数g(i)が、g(k)±dω/2ω
0の範囲内にあることである。
図12は、偏移関数と共振に寄与するスロット数の関係を表したものである。図のように、正規化偏移関数f(x)/P0の微分関数g(x)が、g(k)±dω/2ω0の範囲となるような位置にあるスロットが、当該共振ω0に寄与するものとなる。このスロット位置の範囲をdxとすると、当該共振周波数における反射波振幅dsは、次式で書ける。
反射波振幅は単位長あたりのスロット数に比例すること、すなわち、スロット間隔に逆比例することを考慮するとともに適切な比例係数Aを導入すると、(4.7)式は、次式のように書ける。
この式から、共振周波数近傍における反射波振幅のスペクトル密度(ds/dω)は、共振周波数ならびにスロット間隔に逆比例し、正規化偏移導関数の逆関数(g
−1(y))の微係数に比例することがわかる。なお、「正規化偏移導関数の逆関数の微係数に比例する」ことは、「正規化導関数の確率密度に比例する」ことと同意である。
図13に共振分散の例を示す。同図(a)は、パラボラ関数(2次関数)を接続して周期化した偏移関数(すなわち、符号が周期的に反転する2次関数)の場合である。このときの偏移導関数は1次関数であり、その確率密度は平坦である。その結果、共振分散のスペクトル密度も平坦特性を示す。同図(b)は、偏移関数が正弦波の場合である。図のように分散の両端部分でスペクトル密度が高くなる特性を示す。
共振分散を導入する目的は、顕著な共振現象の発生をできるだけ抑制すること、すなわち、特定の周波数で反射波振幅が大きくならないようにすることである。その目的のためには、偏移関数として2次関数を用いるのが適切となる。
〔スロット偏移による輻射電界への影響〕
スロットの位置の偏移を導入すると、スロット間隔がケーブルの各位置で異なるようになる。各スロットが同一形状である場合には、スロット間隔が狭い(スロットが密な)部分では輻射電界は強くなり、スロット間隔が広い(スロットが疎な)部分では電界は弱くなる。その結果、輻射電界強度は、ケーブルに沿って変動することになる。輻射電界強度FSが単位長あたりのスロット数に比例するものとすると、輻射電界強度には、次式で表される変動が生じる。
ただし、FS
0=AP
0で偏移のない場合の電界強度である。
(4.9)式の変動要素に加えて、輻射方向の変化に伴う電界強度変動も考慮しなければならない。図14はその説明図である。図中の各グラフは、輻射電界の計算例で、3dB単位で区分けされている。図の中央部は、スロット間隔が広い領域(P>P0)、左右両端部は間隔が狭い領域(P<P0)である。
上段のグラフは、偏移のない場合に輻射角が0度となる周波数(この例では125MHz)におけるものである。スロット間隔が広い領域では、輻射角は伝送方向に傾き、間隔が狭い領域では逆方向に傾く((2.11)式参照)。その結果、スロットが密から疎に変わる位置では、各スロットからの放射波が互いに離れる方向となるため、電界強度が低くなる。逆にスロットが疎から密に変わる位置では、各スロットからの放射波が互いに近接する方向となるため、電界強度が高くなる。下段のグラフは、スロットの位置の偏移のない場合の輻射角が約60度となる周波数(この例では、500MHz)におけるものである。図のように、電界強度変動が信号伝送方向に傾く様子が見られる。
上記した例は、偏移関数が1次関数の場合である。実際に導入する偏移関数としては、正弦波、または、2次関数が想定される。これら関数の場合の計算例を図15Aに示す。図14の場合の1次偏移関数に比べて、正弦波や2次関数は、導関数が滑らかであるため、輻射電界の変動も緩やかになっている。
図15Bは、ケーブルから1.5m、3m、6m、12mの各距離における電界強度をグラフ化したものである。ケーブルからの距離が小さい場合には輻射角変化による影響は小さく、電界はほぼ偏移導関数と同様の変動を示すが、距離が大きくなるに従って輻射角変化の影響が大きくなるため、段差状の変動が顕著になってくる(2次偏移関数の場合)。偏移関数が正弦波の場合には、その導関数も正弦波状であることと輻射角変化も連続的であることから、段差状の電界変動は出現していない。
〔輻射電界変動の解析〕
輻射角変化に起因する電界変動について解析する。図16に示すように、スロット間隔の変化点近傍での輻射角について考える。輻射角とスロット間隔の関係を示す前出の(2.12)と、スロット間隔及び偏移関数の関係を示す(4.5)式を参照する。(4.5)式を(2.12)に代入して微分関係を調べると、次式が得られる。
ただし、g′(x)は、g(x)の導関数(偏関数の2次微分)である。上式を整理して次式を得る。
ケーブルの微小区間dxから放射された波は、g(x)が一定値の場合には図4.7の破線上(ケーブルからの距離がyの位置)でもdxの範囲に分布するが、g(x)が変化する場合には図のようにdx+dLの範囲に広がることになり、その広がりに応じて電力束密度が増減する。
なお、(4.12)式の計算では、下記の関係を用いた。
FS
0をスロット間隔が一定値の場合の基準距離y
0に置ける電界強度とすると、スロット間隔変化に伴う変動は次式で表現される。
以上のように、輻射角の変化に伴う電界強度の変動は、偏移関数の2次微分に比例するとともにケーブルからの距離にも比例する。さらに、輻射角そのもの(すなわち周波数)の関数でもある。実際の電界変動は、この輻射角変化に伴うものとスロットの疎密(間隔の広狭)に伴って、単位長あたりの放射電力が増減することによるもの((4.9)式)との積となる。したがって、
なお、(4.13)の近似式の適用については、g′(x)y/y
0の値が小さい場合に限られることに注意が必要である。(4.14)式についても同様である。図17に、(4.13)式のA(ω)とFS/FS
0の計算例を示す。計算はVc=0.877Vo(比誘電率ε=1.3)の条件で行なった。また、図の周波数は共振周波数(この例では125MHz)で基準化してある。
図17中の(b)のように、g′(x)y/y0の値が大きくなるに従って電界変動の周波数依存性が強くなる。また、漏洩可能帯域の上限/下限の周波数領域では変動が急激に増加する。この変動が大きくなる領域は、偏移関数のみならずケーブルからの距離yにも依存する。すなわち、スロット偏移を導入した場合、ケーブル遠方の電界が変動することを覚悟しておかなければならない。
図18は、輻射電界強度をシミュレーション計算したものである。図中左側のグラフは、偏移関数が1次関数、右側は2次関数の場合のものである。また周波数125MHzは、輻射角が0度となる共振周波数である。このシミュレーションでは、単位長あたりの放射電力変動の影響を排除するように輻射電力を適切に制御したものである。図のように、偏移関数の2次微分波形が見られるとともに、ケーブルからの距離に比例して変動が大きくなる様子がわかる。
〔電界変動の補償〕
スロット偏移による輻射電界の変動は、(4.13)または(4.14)式で与えられ、その逆特性が変動を補償する理想特性となる。しかし、これは周波数ならびにケーブル離隔距離の関数であるため、ケーブル構造パラメータのみの調整では理想的な補償を得ることはできない。
輻射電界の変動を軽減する方法として、各スロットからの放射振幅を適切に制御することが考えられる。具体的には、各スロット長を偏移関数に応じて次式のように変化させる。
ここで、C
1及びC
2は、補償の程度を定める係数で、目的とする周波数ならびにケーブル離隔距離で最適補償となるように設定する。なお、上式で平方根を採っているのは、(3.36)式に示したように、放射振幅がスロット長の2乗に比例するからである。
図19は、500MHz及び離隔距離y=6mにおいて電界変動が最小となるように補償係数を選んだ場合のものである。図4.6と比較して、変動が改善されていることが見られる。
以下、本発明の実施例2について図面を参照しながら説明する。なお、本発明の漏洩同軸ケーブルは、中心導体と、漏洩電磁界形成用の複数の放射スロットが形成された外部導体とを同軸に配してなる。また、実際の漏洩同軸ケーブルにおいて、外部導体1の外周上には外皮が設けられている。
すなわち、本発明の漏洩同軸ケーブルは、従来と同様に、同軸内部(中心導体と外部導体との間の空間)の電磁エネルギーを外部に漏洩させるために、外部導体上に周期的に放射スロット(細長い開孔)を設けている。
図20は、本発明の実施例2に係る漏洩同軸ケーブルの外部導体1の構成を示す図である。具体的には、図20は、半径rの外部導体1を切り開いて展開した図となっており、複数の放射スロットが形成されている。本発明の複数の放射スロットの各々は、複数の放射スロット系列のいずれかに属する。
本実施例においては、複数の放射スロットの各々は、2つの放射スロット系列(第1励振系列、第2励振系列)のいずれかに属するものとするが、さらに多数の放射スロット系列を形成することも可能である。2つの放射スロット系列を外部導体1に有する場合には、図20上部のようなオフセット配置とする場合と、図20下部のような1列配置とする場合が考えられる。しかしながら、本実施例において、複数の放射スロットの各々は、他の放射スロット系列に属する放射スロットとの関係において、外部導体1の円周方向に互いに異なる位置にオフセット配置されているものとする。理由として、図20下部に示すような1列配置を採用した漏洩同軸ケーブルの外部導体1は、2つの放射スロット系列に属する放射スロットの位置が互いに近接し、あるいは重なり合うため実現が困難であることが挙げられる。また、放射スロットの穴を小さくして互いに重なり合わないように設計したとしても、1列配置の外部導体1は、図20下部に示すように、必然的に同じ列に放射スロット穴が連なる形状となるため、断裂し易い構造になる。さらに、多相励振では、多相数に応じて隣接スロット間隔は狭くなるが、図20上部に示すようなオフセット配置は、間隔に関する制約を緩和することができる。ここで、「多相励振」とは、本実施例に示す漏洩同軸ケーブルのように、複数の放射スロット系列の各々により位相の異なる放射振幅が複数形成されることを指す。
また、本実施例の複数の放射スロットの各々は、異なる放射スロット系列に属する放射スロットと同一位置とならないようにケーブル軸方向に対して互いにずれて配置されている。したがって、各放射スロット系列に属する放射スロットは、互い違いに配置(インターリーブ配置)されることとなり、限られた外部導体1の面積を有効に活用することができる。なお、本実施例の漏洩同軸ケーブルにおいて、各放射スロット系列が形成する放射振幅の正弦波の1周期の長さをPとし、1放射スロット系列における1周期あたりの放射スロット数をNとすると、互い違いに配置された放射スロット間は、図20に示すようにP/2Nで表される。
本実施例のように図20上部に示すようなオフセット配置を施した場合において、外部導体1の下半分に設けられた複数の放射スロットは、第1励振系列に属するものとし、外部導体1の上半分に設けられた複数の放射スロットは、第2励振系列に属するものとする。1例として、放射スロット3aは、第1励振系列に属し、放射スロット3bは、第2励振系列に属する。
複数の放射スロット系列の各々は、自己が有する複数の放射スロットの各々による放射振幅を正弦波状に形成する。ここで、複数の放射スロット系列の各々は、自己が有する複数の放射スロットの各々に対するスロット長とスロット角度との少なくとも1つを調整して設けることにより、放射振幅を正弦波状に形成する。一般的に、漏洩同軸ケーブルの外部導体に設けられた放射スロットは、スロット長を長くすると放射振幅が大きくなる。また、ケーブル軸方向に対する放射スロットの傾斜角度が大きい場合にも、当該放射スロットにおける輻射は大きくなる。本実施例における漏洩同軸ケーブルは、図20に示すように、放射スロットのスロット長を調整することにより、放射振幅を正弦波状に形成する。
また、複数の放射スロット系列の各々による放射振幅位相は、適切に調整される必要がある。本実施例において、複数の放射スロットの各々は、放射スロット系列の数をMとした場合に、各放射スロット系列の放射振幅の正弦波位相がπ/Mずつずれるように配置される。本実施例の漏洩同軸ケーブルは、放射スロット系列の数が2であるため(第1励振系列、第2励振系列)、第1励振系列と第2励振系列との間における放射振幅の正弦波位相差は、π/2である。
次に、上述のように構成された本実施の形態の作用を説明する。図21は、漏洩同軸ケーブルの反射を説明する図である。ここで、各漏洩点(放射スロット)で反射されて送信点に戻る反射波の総和について考える。送信点から数えてk番目の漏洩点(放射スロット)での電圧反射係数をαとすると、反射波及び透過波の振幅は、次式により表される。
ただし、R(k)は、当該漏洩点(放射スロット)で反射される波の複素振幅を示す。また、T(k)は、当該漏洩点を通過していく透過波の複素振幅を示す。また、τは、スロット間隔を伝播するのに要する遅延時間である。各漏洩点が同一形状、すなわちαが一定値である場合、T(k)の大きさは、次式により表される。
反射波が送信端に戻ってくる間には、(5.1)式と同一の振幅・位相の変化が作用する。したがって、送信端に戻ってくる全反射波の総和Sは、以下の式により求められる。
ただし、αは十分小さいものとして近似式を用いている。(5.5)式において、全反射波の総和Sは、全てのkに対してωkτ=2π×整数となる周波数で極大値をとる。具体的には、次式に示す周波数fの整数倍の周波数で反射波が極大となり、共振周波数となる。
ここで、V
0は光速であり、εは漏洩同軸ケーブルの誘電率である。したがって、ケーブルの信号伝播速度Vcは、Vc=V
0/√εとなる。
放射振幅が周期的に配置されている場合、その周期をPとする。また、1周期内の放射振幅は、正弦波状の配列になっているものとする。この場合、反射係数は、放射係数の絶対値に比例するので、反射係数の周期はP/2となる。したがって、共振周波数f0は、(5.6)式の2倍となり、次式により表される。
図22は、漏洩点の反射係数を示す等価回路図である。漏洩点では偏向電流により電磁放射が行われ、その分だけケーブル内を伝播する電力が減少する。今、漏洩点(放射スロット)が1つだけのケーブルを考えると、図22に示すように、漏洩点は、インピーダンス(Z)が接続され、そこに放射電力に対応する電流が流れるものとして表すことができる。放射電流(h)と終端抵抗(Z
0)に流れる電流の比をβとすると、次式が成立する。
このとき、ZpをZとZ
0の合成インピーダンスとすると、漏洩点における電圧反射係数αは、次式のように求められる。
図23は、放射スロット3の傾斜と偏向電流の実効長との関係を示す図である。偏向電流Ihは、Lに近いものからゼロに近いものまであるのでその実効長はLの半分となる。放射スロット3のない部分では、外部導体1と図示しない中心導体に流れる電流は平行であり、その方向は互いに逆向きであるため、各電流が発生する磁界はキャンセルされてケーブル外部には生じない。一方、放射スロット3部分では図23のように、外部電流が軸に対して斜め方向に流れるのに対し、中心導体に流れる電流は軸方向のままである。そのため、外部電流の斜め成分(同軸ケーブルの円周方向)はキャンセルされず、この電流成分により電界輻射が行なわれる。
図23に示すように、放射スロット3の長さをLとし、放射スロット3がケーブル方向となす角度をθとする。放射スロット3のない部分では、電流は同軸外部導体上を均等に流れているとする。偏向電流Ihは、同軸外部導体の円周長に対する放射スロット3の円周投影長に比例するから、全電流をI0と書くと、rを外部導体1の半径として以下の式により表される。
この電流をn分割して考える。各電流(I1,I2,・・・,In)の経路は、Lに近いもの(I1)からゼロに近いもの(In)まで存在する。Ih全体としての経路は各電流経路の平均値であるから、その経路増加は以下の式により表される。
ここで、放射スロット3部分における外部電流の電流経路は、斜め方向となる分だけ電流経路が長くなり、外部導体電流全体として遅延を生じさせる。この場合の遅延時間増加量は、以下の式により表される。
ただし、Vc=V
0/√εでケーブル内の電流の伝播速度である。また、V
0は光速であり、εはケーブルの比誘電率である。(5.13)式の遅延を与える等価回路として、図22のインピーダンス(Z)を容量(C)で置き換えればよい。この場合の回路応答は、次式により表される。
その遅延時間は、周知の時定数(=CZ
0/2)となる。この遅延時間が(5.13)式のΔDLに等しいとおいてh及びβを求める。すなわち、h=jωCE及びIrx=E/Z
0より、次式が求められる。
放射スロットあたりの反射係数αとスロット構造との関係は、(5.16)式により与えられる。また、正弦波状の放射振幅を得るための各スロットの長さL(n)は、次式により与えられる。
ただし、L
0は、最大の放射振幅を与えるスロット長である。無損失ケーブルの場合に送信端に戻ってくる1周期あたりの反射波は、(5.16)式及び(5.17)式を(5.5)式に代入して次式により表される。
なお、(5.18)式におけるKは、構造パラメータに関する値をまとめたものである。
図24は、漏洩同軸ケーブルのスロット周期あたりの反射波の様子を示す図である。ただし、上述したように、放射振幅は周期的に配置されている。また1周期内にN個の放射スロットが設けられており、各放射スロットによる放射振幅は、例えば、各放射スロットの長さを調節することにより正弦波状の配列になっている。図24の横軸は、ケーブルの輻射上限周波数で基準化した正規化周波数である。図24の縦軸は、1周期あたりの放射電力で正規化した反射波の振幅を示す。なお、Vc=0.877V0で計算してある。図24のように1周期あたりの放射スロット数Nを大きくすることにより、高周波数領域における反射波は、軽減することが可能である。
なお、図24において、1周期あたりの放射スロット数Nは、4,8,18,1000の場合について計算されているが、実際にはN=18で十分であり、例えば1周期を1m程度と考えるとN=1000の漏洩同軸ケーブルを作製することは現実的には困難である。
放射振幅が正弦波状となるように放射スロットが配置されているものとし、これに信号を供給すると、ケーブル長方向に対して正弦波状の振幅分布をもつ微小ダイポールが形成される。本明細書において、この状態は、「ケーブルが正弦波状に励振されている」状態と呼ぶことにする。
図25は、本実施例の漏洩同軸ケーブルに採用した2つの励振系列を示す図である。本実施例における漏洩同軸ケーブルは、図25に示すような2つの正弦波上の丸の位置に放射スロットを設け、各放射スロットは放射振幅に対応するスロット長を有する。図20に示す漏洩同軸ケーブルは、これを実現したものである。
当該漏洩同軸ケーブルは、この正弦波状のスロット列(これを第1励振系列と呼ぶ、sin(x))と同一周期を持つ第2のスロット列(第2励振系列、sin(x+φ))を導入する。ただし、図25に示すように、各励振系列の放射スロットは、同一位置とならないようスロット間隔(P/N)の1/2だけシフトして配置するものとする。このとき、各励振系列の1周期あたりの反射波は、(5.18)式を用いて次式により表される。
ここで、φは、第2励振系列の第1励振系列に対する位相である。また、S2の式にある(n+1/2)の項は、第2系列のスロット位置が第1系列と重ならないようにシフトしたことに依るものである。
基底共振周波数をω1とすると、ω1=2πVc/Pとなる。これを(5.19)式に代入すると、次式が導かれる。
上式の値をA(ω1)と表すものとすると、(5.19)式のS2は、次式により表される。
ただし、n´=n+φ/(2π)である。Nが十分大きい場合にはπ/Nは無視できるようになり、(5.21)式のΣ項は、A(ω1)に近づく。反射波Sは、S1とS2との和であるため、次式が得られる。
ここで、第2系列の位相をφ=π/2に設定すると、(5.22)式は次式のようになる。
(5.23)式に示すように、この場合の反射波Sは相殺されて、共振現象が消滅する。共振現象は、基底共振周波数の整数倍でも生じる。これらの周波数に対する反射波S(k)は、次式のように計算される。
(5.24)式より、2相励振の場合において、基底共振周波数の奇数倍の反射波は消滅するが、基底共振周波数の偶数倍の反射波振幅は2倍となることが導き出せる。さらに、励振相数Mを増加した場合に、各共振周波数における反射波SM(k)は、次式により表される。
図26は、多相励振の反射波振幅の値を示す図であり、(5.25)式の具体的な値である。図26に示すように、多相励振を採用した漏洩同軸ケーブルは、励振相数に応じて共振を消滅させる。例えば、2相励振、3相励振、4相励振のいずれを採用したとしても、共振周波数における反射波振幅は0となり、共振が消滅したことを示す。ただし、図26に示すように、相数の整数倍の共振周波数において、共振は依然として残る。しかしながら、高次の共振周波数における反射波は、ケーブルロスにより減衰するため、VSWRを大きく劣化させることはない。したがって、1倍の共振周波数の反射波を失わせることができるメリットの方が大きく、本発明の漏洩同軸ケーブルは、VSWRを大きく改善することができるといえる。
上述のとおり、本発明の実施例2の形態に係る漏洩同軸ケーブルによれば、正弦波状の複数の放射スロット系列を有することにより、反射波を相殺してVSWRの劣化を防止することができる。特に、本発明の漏洩同軸ケーブルは、放射スロットの配置、及び放射スロットのスロット長あるいはスロット角度を調節するのみで実現できるため、現在の製造工程に対する大幅な変更が不要であり、低コストで実現可能であるとともに大きな効果を得ることができる。
ただし、実際には1周期あたりのスロット数Nが十分大きくないため、高次の共振周波数における特性は、(5.25)式と異なってくる。図27は、本発明の実施例2の形態の漏洩同軸ケーブルにおける多相励振の共振特性を示す図である。図27の横軸は、第1励振に対する第2励振の位相φである。図27(a)は、1周期あたりの放射スロット数が18の漏洩同軸ケーブルによる2相励振の共振特性である。図27(a)に示すように、φ=π/2=90°において、当該漏洩同軸ケーブルは、共振周波数×1,3,5,7の周波数における反射波を大きく低減させることができる。図27(b)は、同様に2相励振の共振特性であり、1周期あたりの放射スロット数が20の漏洩同軸ケーブルの場合を示す。この場合において、共振特性は、φ=π/2=90°で反射波の低減が期待できる点で図27(a)と同一であるが、上述したように放射スロット数が有限個の影響からか(5.25)式とは異なる特性を示す。
図27(c)は、1周期あたりの放射スロット数が18の漏洩同軸ケーブルによる3相励振の共振特性である。なお、3相励振の場合において、各放射スロット系列の正弦波位相は60°ずつずれている。すなわち、第3励振の位相は、第2励振位相に60°を加えたものであり、φ3=φ+π/3としている。また、図27(d)は、同様に3相励振の共振特性であり、1周期あたりの放射スロット数が20の漏洩同軸ケーブルの場合を示す。
図27(d)に示すように、φ=π/3=60°において、当該漏洩同軸ケーブルは、共振周波数×1,2,4,5,7の周波数における反射波を大きく低減させることができる。図27(c)は、図27(b)と同様に、放射スロット数が有限個の影響からか(5.25)式とは異なる特性を示す。いずれにしても、励振相数と放射スロット数とは、組み合わせに最適値があり、設計者はよりVSWRの改善ができるように適切な組み合わせを選択すればよい。
図28は、本発明の実施例2の形態の漏洩同軸ケーブルのVSWR特性のシミュレーション例を示す図である。ただし、図28(a)は、単相励振の場合を示す図であり比較の基準である。図28(b)及び(c)は、2相励振の場合であるが、スロット数Nにより高次の共振周波数の様子が異なる。また、図28(d)及び(e)は、3相励振の場合を示す。図28により、いずれの場合においても多相励振とすることで、VSWR劣化が大きくなりがちな基底共振周波数が消滅することを確認することができる。
このように基底共振を消滅できることのメリットは大きく、さらに、ごく僅かな共振分散を施すことで、実質的に無共振とみなせる漏洩同軸ケーブルが実現できる。ここで、本実施例の漏洩同軸ケーブルの別例として、共振分散を施した漏洩同軸ケーブルについて説明する。この漏洩同軸ケーブルにおいて、複数の放射スロットの各々は、放射スロット系列の数をMとした場合に、放射スロット系列間の正弦波位相差がπ/Mからわずかにずれるように周期的に変化した位置に設けられる。すなわち、この漏洩同軸ケーブルは、放射スロットの位置を本来の位置からずらすことにより、共振分散をかけて高次の共振周波数における反射波も低減することができる。
なお、共振分散の詳細な説明は、特開平5−121926号公報に記載されている。スロットのピッチ間隔を軸方向に周期的に変化させて共振分散をかけることにより、共振分散を施した漏洩同軸ケーブルは、スロットからの微小反射が累積せず、使用可能周波数帯域を拡大させることができる。
複数の放射スロットの位置を周期的に変化した位置に設けるために、スロットのピッチ間隔は、正弦関数あるいは2次関数に対応して変化させる。これにより、VSWR(電圧定在波比)は、極端に悪化することなく、低く分散した値になるため、高周波まで使用することが可能になる。
図29は、本発明の実施例2の漏洩同軸ケーブルに共振分散を施した場合において、共振分散に関するパラメータを変えた場合のVSWRの計算例を示す図である。図29(a)及び(b)は、2相励振の場合を示す。ただし、図29(b)において励振位相は80°に設定されている。この場合、図29(b)に示す条件の漏洩同軸ケーブルは、基底共振周波数及びその奇数倍の周波数で反射波を僅かに生じるが、第2共振周波数でのVSWRを若干改善することができる。
また、図29(c)及び(d)は、3相励振の場合を示す。図29により、いずれの例においても、共振分散を施した漏洩同軸ケーブルは、十分良好なVSWR特性が全帯域にわたって得られることがわかる。
上述したように、本発明の漏洩同軸ケーブルは、位相の異なる放射スロット系列を複数有するため基底共振周波数の反射波を抑えることができ、さらに高周波数に対して有効な共振分散を組み合わせることにより、高次の共振周波数での反射波を抑えてVSWRを改善することができる。