JP5391558B2 - イオン注入プロセスのシミュレーション方法 - Google Patents

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本発明は、半導体装置設計に用いられる半導体装置製造プロセスのシミュレータのための計算方法について、特にイオン注入プロセスにおける注入されたイオンの分布の計算方法に関する。
高性能な半導体装置の設計を短時間、低経費で行うことが産業上重要である。半導体の電気特性は不純物をドーピングすることにより任意に設計できるが、この不純物分布を、実際に試作する前にコンピュータシミュレーション等によりあらかじめ精密に予測できれば、無駄な試作を省くことができる。
特に、不純物導入技術はイオン注入法が主流であるが、このイオン注入プロセスのシミュレーション方法として、注入された個々のイオンのターゲット基板中での動きを計算機上で模擬計算する方法がある。注入されたイオンとターゲット基板構成原子の逐次的な動きを全て計算する方法は分子動力学法、注入イオンの運動のみに着目し、計算機で一様乱数を用いた多数回の計算結果から注入分布を得る方法はモンテカルロ法と呼ばれている。
ターゲット基板が結晶の場合、注入量が少ないと結晶構造の隙間をイオンが通過すること、すなわちチャネリングという運動が多いために、注入イオンの分布が深くなる傾向があるが、注入量が多くなると結晶構造が壊れ、チャネリング運動が阻害され、注入分布が浅くなる傾向がある。モンテカルロ法に基づくイオン注入のシミュレーション方法は、BFのような分子イオンの注入分布の計算にも適用されている。
例えば、非特許文献1の2.1節には、シリコン結晶にBFを注入した場合の計算方法の記述がある。そこでは、計算上、BFはボロン1個とフッ素2個を合わせただけの重さとチャージを持つ仮想的な一イオンとして計算され、ターゲット結晶原子と大きなエネルギー損失を被る散乱を経た直後に、ボロン1個とフッ素2個に分解させ、分解前のエネルギーをボロンとフッ素の重量比で分け与えて計算が続行される。
一方、分子動力学法による計算では、非特許文献2のようにB,B,B10,およびB18という様々な大きさのボロンクラスター型分子の注入が計算されている。分子動力学計算では、原子間ポテンシャルに基づくニュートンの運動方程式を全原子について解くため、注入されたイオンの動きを忠実に計算できる反面、モンテカルロ法に比べれば計算の手間が膨大で、計算時間は注入量にも依存するが、ほぼ100〜1000倍以上の計算時間が掛かり、多くの条件を検討する必要のある半導体装置の設計に用いられることは少なく、そういった設計に用いられるイオン注入分布の計算は通常ではモンテカルロ法で行われる。
また、微細デバイスを実現するための浅い接合を効果的に得る要求から、非特許文献3にあるように、これまでの注入種であるBやBFに加え、B10〜B18といった多数原子のクラスター型分子イオンの注入が提案されており、実際に微細デバイスの試作への適用が検討され始めている。分子イオンでは、注入種のサイズが大きいため前述のチャネリング現象が抑制できて注入深さが浅くなると同時に、注入時のエネルギーと注入イオンビームの電流を大きく取れるため、注入プロセスに掛かる時間が短くできて制御性・生産性に優れるとされている。
M. Hane, T. Ikezawa, and H. Matsumoto, "A fast Monte Carlo ion implantation simulation based on statistical enhancement technique and parallel computation", NEC Research and Development, vol.37, no.2, pp.170-178, (1996) T. Aoki, T. Seki, and j. Matsuo, "MD study of damage structures with poly-atomic boron cluster implantation", Extended Abstract of the 7thinternational workshop on Junction technology 2007, pp.23-24 (2007) L. M. Rubin. M.S. Ameen, M. A. Harris, and C. Huynh, "Molecular implants for advanced devices", Extended Abstract of the 7thinternational workshop on Junction technology 2007, pp.113-118 (2007)
近年の微細半導体装置は殆どイオン注入により不純物がドーピングされている。このイオン注入プロセスをシミュレーションし、注入後の不純物プロファイルを求めるシミュレーション方法には、近似解析式、モンテカルロ法、分子動力学法、などがあるが、実際の設計場面で実用になるのは、モンテカルロ法だけである。近似解析式は、斜め注入や複雑なターゲット構造・注入前のターゲット状況に対応しきれず、分子動力学法は計算時間が掛かりすぎて(モンテカルロ法の100倍以上)分布を求めるのは非現実的である。実用的なモンテカルロ法であるが、従来技術の節で述べたように、近年になって微細なデバイスの試作への適用例が報告されているクラスター型分子イオン注入のシミュレーションを行うには問題がある。
従来のモンテカルロ法での分子イオン注入のシミュレーションは、例えばBFのシミュレーションでは、注入計算の初めはBFを分子量がBFに等しい仮想的な単一粒子と見なし、ターゲット構造に注入された後、大きなエネルギー損失を受ける大角度散乱を受けた直後に、BとF2個に分裂させ、そのまま計算を進める。その際に初めにBFが持っていたエネルギーから散乱損失で失ったエネルギーを引いた残りのエネルギーを分子構成原子(BとF)の質量比で分配し計算を継続する。
これでBFのような軽い小さい分子であれば、殆ど問題無いが、最近の大きなクラスター型分子イオン、例えばオクタデカボランB1822の場合は問題である。詳細な分子動力学計算によれば、B19はシリコン結晶に注入された後、四方へ散らばるように分解すると見られている。であれば、従来のモンテカルロ法では、次のような問題が生じる。
従来の計算手法では分裂後の各原子の進行方向が全部同じになってしまい、B1822の注入プロファイルが深くなりすぎる。さらに、現実には後方散乱のため、retain−doseと呼ばれる実質的に注入されターゲット基板内に留まる量、が少なくなるのが問題であるが、従来の計算ではそれが再現できない。
本願発明の目的は、上記のようなオクタデカボランB1822のような大きなサイズのクラスター型分子イオン注入であっても、高精度かつ高速に計算ができるイオン注入分布のシミュレーション方法を提供することにある。
本発明のイオン注入プロセスのシミュレーション方法は、イオン注入プロセスのモンテカルロシミュレーション計算過程において、10個以上の原子からなるクラスター型分子イオンのモンテカルロ法による散乱を計算する場合に、クラスター型分子の分解処理の時に、分解した個々の原子の進行方向を空間的に一様ランダムな方向に決定することを特徴とする。
また、イオン注入プロセスのモンテカルロシミュレーション計算過程において、10個以上の原子からなるクラスター型分子イオンのモンテカルロ法による散乱を計算する場合に、所定のパラメータで指定したエネルギー損失になる大角度散乱イベントが起きた段階で、クラスター型分子を分解させ、かつ分解した個々の原子の進行方向をランダムに決定することを特徴とする。
本発明によれば、計算時間が掛かり分布の計算には不向きな分子動力学法に比べても遜色無い精度で、かつ、現実的な計算時間でのイオン注入分布が計算で得られる。また、後方散乱も比較的正しく扱えるため、retain−dose=実質的に注入されターゲット基板内に留まる量、の計算精度が向上する、という効果が生じる。
図1は本発明の実施の形態であるクラスター型分子イオンの注入分布シミュレーション方法の要点を示すフローチャートである。
まず、図1のフローステップs1にてイオンの初期入射条件を設定する。クラスター型分子イオンは、ターゲット結晶基板に入射する前から全原子の質量分の原子量とチャージを持つ仮想的な一つの擬似粒子として計算が進められる。
図2に概念的に示すように、この擬似粒子は、ターゲット結晶中の隙間を進み、その過程でターゲット結晶構成原子と衝突することが伺われる。入射時のエネルギーと入射方向から、図1のフローステップs2の段階で、ターゲット結晶中の衝突相手の探索が単純な幾何学計算で行われる。
ターゲット結晶中の衝突相手原子と注入された擬似粒子との位置関係が決まり次第、散乱角度と散乱に伴うエネルギー損失(核素子能)がフローステップs3で計算される。散乱角度の計算は古典的な運動方程式を解けば算出可能である。もし、この段階で充分に大きなエネルギー損失になるような大角度散乱が生じた場合、クラスター型分子イオンを模擬した擬似粒子は、フローステップs4で個々の原子に分解される。
この分解操作は、図3に示すように、BFなどの比較的小さい分子イオンの場合では、ボロン1個とフッ素2個に分解するが、従来方法に従い、それ以前のエネルギーを個々の原子の質量比で分配する。オクタデカボランのようにボロン原子を18個含むクラスター型分子イオンの場合では、従来方法に従えば、分解した直後それぞれのボロン原子は個別に分配されたエネルギーで全て同じ方向を向いて計算上飛行を続ける。
本発明の方法では、この図1のフローステップs4の段階での分解方法を、図4に示すように、大きなサイズのクラスター型分子イオンでは、分解後の個々のボロンイオンの方向を一様ランダムに再配分することを特徴とする。分解後は、従来方法と同様に結晶中のイオンの挙動の計算を継続すれば良い。ターゲット基板中を飛行するイオンの衝突から衝突の間のフリー飛行中にはターゲット結晶中の価電子との相互作用で失うエネルギー、すなわち電子阻止能がフローステップs5で計算される。この電子阻止能のモデルについては従来から提案されている方法に従えば良い。
図1のフローチャートに従い、エネルギー損失を被ったイオンの残留エネルギーが、あらかじめ指定されたエネルギーEstopになった場合、フローステップs6に従って、該当イオンの計算は終了し、その時点でのイオンの位置を記録して、次のイオンの入射に計算を移す。スローステップs7にあるように、所望のイオンを全て計算し終わったならば、記録された全イオンの位置から、注入分布が結果的に求まることになる。
本発明の実施の形態に従った具体的な実施例と結果を図5に示す。
清浄な(100)面方位を表面に持つシリコン結晶基板に、クラスター型分子イオンであるオクタデカボランB1822を単独ボロンイオン注入換算で1x1014cm相当のドーズ量で500eV相当の換算エネルギーで注入した場合を計算した。
図1のフローチャートに従い、フローステップs4での分解に必要なエネルギーは20eVとした。計算は100000個相当のボロンイオンについて実行し、図5に示すような深さ方向分布を計算結果として得た。従来方法での計算結果は、分解後の方向が揃ってしまっているためをシリコン結晶に特有のチャネリング現象を含めてイオン注入分布が深さ方向に実測よりも広がってしまっている。これに対し、本発明の方法によれば、実測とほぼ同様の注入イオンの分布が得られている。
本発明の方法を示すフローチャート 注入された分子イオンがターゲット結晶を進む概念図 従来の計算方法による分子イオンの大角度散乱時の分解操作を示す図 本発明の計算方法による分子イオンの大角度散乱時の分解操作を示す図 本発明の実施例に従った計算結果について、従来方法による計算結果との比較を示した図
符号の説明
1…ターゲット結晶基板
2…注入される分子イオン
3…注入イオンの飛跡
4…従来方法による深さ方向注入イオン濃度分布計算結果(破線)
5…本方法による深さ方向注入イオン濃度分布計算結果(実線)
6…実測の例(黒四角印)

Claims (2)

  1. イオン注入プロセスのモンテカルロシミュレーション計算過程において、クラスター型分子イオンであるオクタデカボロン(B 18 22 のモンテカルロ法による散乱を計算する場合に、
    クラスター型分子であるオクタデカボロン(B 18 22 の分解処理の時に、分解した個々のボロン原子の進行方向を空間的に一様ランダムな方向に決定することを特徴とするイオン注入プロセスのシミュレーション方法。
  2. イオン注入プロセスのモンテカルロシミュレーション計算過程において、クラスター型分子イオンであるオクタデカボロン(B 18 22 のモンテカルロ法による散乱を計算する場合に、
    所定のパラメータで指定したエネルギー損失になる大角度散乱イベントが起きた段階で、クラスター型分子であるオクタデカボロン(B 18 22 を分解させ、かつ分解した個々のボロン原子の進行方向をランダムに決定することを特徴とするイオン注入プロセスのシミュレーション方法。
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