JP5317405B2 - 脳機能の改善剤及びそのスクリーニング方法 - Google Patents

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Description

本発明は、脳機能の改善剤及びそのスクリーニング方法などを提供する。
1973年、Blissらは、海馬歯状回内に神経終末を有する貫通線維に対するテタニー性電気刺激により、シナプス後細胞である歯状回の電気刺激に対する引き続く応答が持続的に増強することを解明した。この現象はLTP(長期増強)と呼ばれ、学習及び記憶の細胞モデルとして認識されており(非特許文献1)、このモデルでは、学習及び記憶は、特定のRNA又はペプチドに保存されるのではなく、シナプス伝達効率の長期増強に基づくと考えられている。LTPは、学習及び記憶の役割を担う中枢神経系の可塑性形成プロセスモデルである、神経伝達の長期増強により生じると考えられている。LTPはまた、例えばてんかん、虚血性脳障害、アルツハイマー病などの種々の神経及び精神疾患の発症に関与すると考えられている。従って、LTP発現を誘導する物質は、認知症を含むこれらの神経及び精神疾患の治療薬又は予防薬となる可能性を有する。
LTP発現の制御に関与すると考えられる種々の因子の1つは、アラキドン酸である(非特許文献2)。アラキドン酸は、膜脂質の1つであるホスファチジルコリンのホスホリパーゼA2による加水分解で生じる不飽和脂肪酸であり、プロテインキナーゼCの活性化経路との相互作用は、LTP発現の制御への関与について注目を集めてきた(非特許文献3)。また、アラキドン酸は、ニューロンのニコチン性アセチルコリンレセプターの活性化を延長させることによって、シナプス伝達のLTP様増強に関与することが示唆されている(非特許文献4)。
アラキドン酸は、生体で産生され、急速に代謝される。従って、長時間にわたる安定な効果は期待できない。この問題を克服するために、体内での代謝の遅延を可能とし、且つシナプス伝達の安定なLTP様増強を持続できる、シナプス伝達のLTP様増強作用を有する化合物の開発が望まれていた。本発明者は、このような作用に優れた化合物として、8−[2−(2−ペンチル−シクロプロピルメチル)−シクロプロピル]−オクタン酸(DCP−LA)を見出している(特許文献1)。
また、NSAIDとして知られているインドメタシン及びカルボン酸部分を保持するその誘導体についても、脳機能の改善作用を有することが報告されている(非特許文献5、特許文献2)。
ところで、N−エチルマレイミド感受性因子(NSF:N-ethylmaleimide-sensitive factor)は、ゴルジ体層板間の小胞輸送において小胞融合に関与する因子として発見されたアミノ酸744残基からなるタンパク質であり(非特許文献6)、SNAP/SNARE結合領域であるN末端側と、ATPase活性を持つ領域D1、D2からなる3つのドメイン構造をとっている(非特許文献7)。NSFは、3量体のα−SNAP(soluble N‐ethylmaleimide-sensitive factor)を橋掛かりとして膜上に存在するcis−SNAREに6量体で結合することにより20s複合体を形成する(非特許文献8)。それにより、D1に存在するATPase活性がcis−SNAREを加水分解することによりv−SNAREとt−SNAREが解離する(非特許文献9)。NSFは酵母からヒトと幅広く存在することから、小胞膜輸送において融合、解離を調節する重要な因子であると考えられている(非特許文献10)。近年では、哺乳類の脳神経伝達においては、PKCによる、NSFの237番目のセリンのリン酸化によってα−SNAPとの結合が阻害され、その結果、20s複合体形成を構築出来ないことが報告されている(非特許文献11)。それと同様なことが83番目のチロシンのチロシンキナーゼSrcによるリン酸化においても報告されているが、その場合、同時に伝達物質の放出が減少することから、NSFのリン酸化は伝達物質の放出の調節に重要な働きがあると考えられている(非特許文献12)。学習や記憶のメカニズムに関係があるAMPA型グルタミン酸レセプターについては、その構成サブユニットであるGluR2がNSFとの結合によりシナプス伝達効率の調節を受けていることが報告されている(非特許文献13)。また、α7ニコチン性アセチルコリン受容体の神経細胞体突起への輸送は、受容体活動によって駆動されるNSF依存性に行われている(非特許文献14)。
国際公開第02/50013号 米国出願公開第2005/0004104号 T.V.P. Bliss及びG. L. Collingridge, Nature Vol.361, p.31, 1993 J. H. Williams, J. Lipid. Mediat. Cell Signal., Vol.14, p.331, 1996 Y. Nishizuka, FASEB J, Vol.9, p.484, 1995 T. Nishizaki et. al., Molecular Brain Research, vol. 69, p263, 1999 Bruce-Jones et al. British journal of clinical pharmacology Vol.38, p.45, 1994 D.W. Wilson et.al., Nature vol. 339, p. 355, 1989 S.W. Whiteheart,. Int. Rev. Cytol. vol. 207, p. 71, 2001 A. Morgan et. al., J. Biol. Chem. vol. 269, p. 29347, 1994 R.J.O. Barnard et. al., J. Cell Biol. vol. 139, p. 875, 1997 A. Morgan & R. D. Burgoyne, Curr. Biol. vol. 14, p. 968, 2004 E.A. Matveeva et al., J. Biol. Chem, vol. 276, p. 12174, 2001 H. Ohnishi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA vol. 98, p. 10930, 2001 J.G. Hanley et al., Neuron vol. 34, p. 53, 2002 Z. Liu et al., J. Neurosci. Vol 25, p. 1159, 2005
本発明は、脳機能の新規改善剤及びその開発を可能とする方法を提供することを目的とする。
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、DCP−LA及びインドメタシンを始めとする脳機能の改善作用を有する物質がN−エチルマレイミド感受性因子(NSF)に結合し、その機能を促進することによりその作用を発揮し得ることなどを見出した。従って、NSFの発現又は機能の促進により、脳機能を改善することが可能になると考えられ、実際、本発明者らは、このような化合物の開発に成功した。また、NSFの発現又は機能を促進する物質のスクリーニングは、脳機能を改善し得る医薬の開発などに有用であると考えられる。
以上に基づき、本発明者は、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、以下の通りである。
[1]NSFの機能を促進し得る物質を含む、脳機能の改善剤。
[2]NSFの機能を促進し得る物質が、下記式(I):

〔式中、
、Rは、各々独立して、水素であるか、又は置換基を有していてもよい、C1−6アルキル、C3−8シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキル若しくはヘテロアリールアルキルであるか、あるいはR及びRはその隣接する窒素原子と一緒になって、置換基を有していてもよいN含有ヘテロ環を形成し、
は、水素であるか、あるいはアミノ、ハロゲン及びヒドロキシからなる群より選ばれる置換基を有していてもよい、C1−6アルキル又はC3−8シクロアルキルであり、
は、水素、−CH、−C(O)R、−SO、又は−CONRであり、
は、ハロゲン、C1−6アルキル、ハロゲン化C1−6アルキル、−O−C1−6アルキル、−O−ハロゲン化C1−6アルキル、−CN、−SH、−S−C1−6アルキル、及び−S−ハロゲン化C1−6アルキルからなる群より選ばれる1以上の置換基で置換されていてもよい、アリール又はヘテロアリールであり、
、Rは、各々独立して、水素であるか、又はアミノ、ハロゲン及びヒドロキシからなる群より選ばれる置換基を有していてもよい、C1−6アルキル、C3−8シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキル若しくはヘテロアリールアルキルであるか、あるいはR及びRはその隣接する窒素原子と一緒になって、アミノ、ハロゲン及びヒドロキシからなる群より選ばれる置換基を有していてもよいN含有ヘテロ環を形成し、
nは、1、2又は3であり、
−(CH−におけるCHは、各々独立して、メチル、ハロゲン及びヒドロキシからなる群より選ばれる1以上の置換基で置換されていてもよい〕で表される化合物又はその塩である、上記[1]の剤。
[3]式(I)で表される化合物が、下記式(II):

〔式中、
、R、Rは、上記[2]と同義であり、
は、ハロゲン、C1−6アルキル、ハロゲン化C1−6アルキル、−O−C1−6アルキル、−O−ハロゲン化C1−6アルキル、−CN、−SH、−S−C1−6アルキル、及び−S−ハロゲン化C1−6アルキルからなる群より選ばれる1以上の置換基で置換されていてもよい、アリール又はヘテロアリールであり、
nは、1、2又は3であり、
−(CH−におけるCHは、各々独立して、メチル、ハロゲン及びヒドロキシからなる群より選ばれる1以上の置換基で置換されていてもよい〕で表される化合物である、上記[2]の剤。
[4]nが1であり、かつ−(CH−におけるCHが未置換である、上記[2]又は[3]の剤。
[5]R、Rは、各々独立して、水素であるか、又は未置換のC1−6アルキルである、上記[2]〜[4]のいずれかの剤。
[6]NSFの機能を促進し得る物質が、2−[1−(4−クロロ−ベンゾイル)−5−メトキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル]−N−メチル−アセトアミド又はその塩である、上記[1]の剤。
[7]脳機能の改善剤が、認知症あるいは学習又は記憶障害の予防又は治療剤である、上記[1]〜[6]のいずれかの剤。
[8]認知症が、老人性認知症、アルツハイマー認知症、脳血管性認知症、外傷後認知症、脳腫瘍により生じる認知症、慢性硬膜下血腫により生じる認知症、正常圧脳水腫により生じる認知症、髄膜炎後認知症、及びパーキンソン認知症からなる群より選択される疾患である、上記[7]の剤。
[9]脳機能の改善剤が、学習又は記憶の向上剤である、上記[1]〜[6]のいずれかの剤。
[10]上記式(I)で表される化合物又はその塩。
[11]式(I)で表される化合物が、上記式(II)で表される化合物である、上記[10]の化合物又はその塩。
[12]nが1であり、かつ−(CH−におけるCHが未置換である、上記[10]又は[11]の化合物又はその塩。
[13]R、Rは、各々独立して、水素であるか、又は未置換のC1−6アルキルである、上記[10]〜[12]のいずれかの化合物又はその塩。
[14]上記式(I)で表される化合物が2−[1−(4−クロロ−ベンゾイル)−5−メトキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル]−N−メチル−アセトアミドである、上記[10]の化合物又はその塩。
[15]上記[10]〜[14]のいずれかの化合物を含む、医薬。
[16]被験物質がNSFの発現又は機能を促進するか否かを評価することを含む、脳機能を改善し得る物質のスクリーニング方法。
[17]被験物質のNSFに対する結合能を測定することを含む、上記[16]の方法。
[18]以下(a)〜(d)の工程を含む方法により、被験物質のNSFに対する結合能が測定される、上記[17]の方法:
(a)被験物質、NSF結合性物質を、NSFに接触させる工程;
(b)被験物質の存在下におけるNSF結合性物質のNSFに対する結合量を測定する工程;
(c)(b)で測定された結合量を、被験物質の非存在下におけるNSF結合性物質のNSFに対する結合量と比較する工程;
(d)(c)の比較結果に基づいて、NSF結合性物質のNSFに対する結合量の低下をもたらす被験物質を選択する工程。
[19]NSF結合性物質が、DCP−LAあるいはインドメタシン又はそのアミド誘導体である、上記[18]の方法。
[20]動物を用いて、被験物質が脳機能の改善作用を有するか否かを確認することをさらに含む、上記[16]〜[19]の方法。
[21]被験物質がPKC−εの機能を調節するか否かを評価することをさらに含む、上記[16]〜[19]のいずれかの方法。
[22]以下(a)〜(e)から選ばれる少なくとも1つを用いて行われる、上記[16]〜[21]のいずれかの方法:
(a)NSF発現ベクターで形質転換された細胞;
(b)NSFタンパク質;
(c)PKC−ε阻害剤;
(d)CaMKII阻害剤;
(e)脳機能の改善作用を有する、NSFに対する結合能を有する化合物。
[23]脳機能を改善し得る物質が、認知症あるいは学習又は記憶障害を予防又は治療し得る物質である、上記[16]〜[22]のいずれかの方法。
[24]認知症が、老人性認知症、アルツハイマー認知症、脳血管性認知症、外傷後認知症、脳腫瘍により生じる認知症、慢性硬膜下血腫により生じる認知症、正常圧脳水腫により生じる認知症、髄膜炎後認知症、及びパーキンソン認知症からなる群より選択される疾患である、上記[23]の方法。
[25]脳機能を改善し得る物質が、学習又は記憶を向上し得る物質である、上記[16]〜[22]のいずれかの方法。
[26]被験物質がPKC−εの発現又は機能を調節するか否かを評価することを含む、脳機能を改善し得る物質のスクリーニング方法。
本発明の剤は、例えば、認知症、学習又は記憶障害などを含む種々の疾患の予防及び/又は治療、あるいは学習又は記憶の向上に有用であり得る。本発明はまた、本発明の剤に好適に含まれ得る化合物又はその塩を提供する。
本発明の方法は、例えば、認知症、学習又は記憶障害などを含む種々の疾患を予防及び/又は治療し得る物質、あるいは学習又は記憶を向上し得る物質のスクリーニングに有用であり得る。
本発明は、NSFの発現又は機能を促進し得る物質を含む、脳機能の改善剤を提供する。
NSFの発現とは、NSFからの翻訳産物(即ち、蛋白質)が産生され且つ機能的な状態でその作用部位に局在することをいう。本明細書で使用される場合、NSFの発現の促進としては、NSF(蛋白質)自体の補充をも含むものとする。
NSFの発現又は機能を促進する物質の例は、NSF(タンパク質)、NSFをコードする核酸を含む発現ベクター(NSF発現ベクター)、不飽和脂肪酸(例、リノール酸)又はその誘導体(例、DCP−LA)、インドメタシン又はその誘導体(例、カルボン酸部分を保持するインドメタシンの誘導体又はそのエステル誘導体、インドメタシンのアミド誘導体)あるいはそれらの塩が挙げられる。
NSFは、天然蛋白質又は組換え蛋白質であり得る。NSFは、自体公知の方法により調製でき、例えば、a)NSFを含む生体試料(例、骨、軟骨、肝臓、脳)からNSFを回収してもよく、b)宿主細胞(例、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞)にNSF発現ベクター(後述)を導入することにより形質転換体を作製し、該形質転換体により産生されるNSFを回収してもよく、c)ウサギ網状赤血球ライセート、コムギ胚芽ライセート、大腸菌ライセート等を用いる無細胞系によりNSFを合成してもよい。NSFは、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィー、NSF抗体の使用などの特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法;これらを組合せた方法などにより適宜精製される。
本発明の剤が発現ベクターを含む場合、当該ベクターで使用されるプロモーターは、投与対象である哺乳動物で機能し得るものであれば特に制限されず、例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR、ラウス肉腫ウイルスLTR、MoMuLV由来LTR、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター、ならびにβ−アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーターなどが挙げられる。
発現ベクターは、好ましくは核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドの下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含む。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含むこともできる。
発現ベクターとして使用される基本骨格のベクター、プラスミド又はウイルスベクターであり得るが、ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、エプスタイン・バー・ウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
特定の実施形態では、NSFの機能を促進する物質は、インドメタシンの非アミド誘導体又はその塩であり得る。インドメタシンの非アミド誘導体は、例えば、上記(I)で表される化合物のうち−NRが−OH又はエステル(例、−O−C1−6アルキル)で交換された化合物であり得る。
好ましい実施形態では、NSFの機能を促進する物質は、上記式(I)で表される化合物であり得る。式(I)で表される化合物は、例えば、上記式(II)で表される化合物であってもよい。本発明はまた、このような化合物を提供する。
本発明の化合物又はその塩において、「C1−6アルキル」は、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキルであり得る。C1−6アルキルとしては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、1−エチルプロピル、ヘキシルが挙げられる。
「C3−8シクロアルキル」は、炭素数3〜8の環式アルキルであり得る。C3−8シクロアルキルとしては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルが挙げられる。
「アリール」は、環構成原子として炭素原子を含有する単環式又は多環式芳香族基であり得る。アリールとしては、例えば、フェニル、ナフチル(例、1−ナフチル、2−ナフチル)、アントラセニルが挙げられる。
「ヘテロアリール」は、環構成原子として炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれるヘテロ原子を1〜4個(好ましくは1〜3個、より好ましくは1又は2個)含有する4〜7員(好ましくは5又は6員)の単環式又は多環式芳香族基であり得る。ヘテロアリールとしては、例えば、フリル、チエニル、ピリジル、ピリミジニル、ピリダジニル、ピラジニル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリルが挙げられる。
「アリールアルキル」は、上記「アリール」で置換された上記「C1−6アルキル」であり得る。アリールアルキルとしては、例えば、ベンジル、フェネチルが挙げられる。
「ヘテロアリールアルキル」は、上記「ヘテロアリール」で置換された上記「C1−6アルキル」であり得る。
「N含有ヘテロ環」は、環構成原子として炭素原子以外に少なくとも1個(例、1又は2個)の窒素原子を含有する4〜7員(好ましくは5又は6員)の単環式又は多環式の複素環基であり得る。N含有ヘテロ環としては、例えば、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニルが挙げられる。
〜Rにおける基は、未置換であっても、又は置換基で置換されていてもよい。このような置換基としては、例えば、アミノ(−NH)、ハロゲン(例、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、ヒドロキシ(−OH)、ハロゲン化C1−6アルキル、−O−C1−6アルキル、−O−ハロゲン化C1−6アルキル、−CN、−SH、−S−C1−6アルキル、−S−ハロゲン化C1−6アルキル、並びに上述した「C1−6アルキル」、「C3−8シクロアルキル」、「アリール」、「ヘテロアリール」、「アリールアルキル」又は「ヘテロアリールアルキル」、「N含有ヘテロ環」が挙げられる。
「ハロゲン化C1−6アルキル」は、1以上の上記「ハロゲン」で置換された上記「C1−6アルキル」であり得る。ハロゲン化C1−6アルキルとしては、例えば、−CFH、−CFH、−CFが挙げられる。
「−O−C1−6アルキル」は、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキルオキシ基であり得る。−O−C1−6アルキルとしては、例えば、上記「C1−6アルキル」で置換されたヒドロキシ基(例、−OCH、−OC)が挙げられる。
「−O−ハロゲン化C1−6アルキル」は、上記「−O−C1−6アルキル」が1以上の上記「ハロゲン」で置換された基であり得る。−O−ハロゲン化C1−6アルキルとしては、例えば、−OCFH、−OCFH、−OCFが挙げられる。
「−S−C1−6アルキル」は、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキルチオ基であり得る。−S−C1−6アルキルとしては、例えば、上記「C1−6アルキル」で置換されたチオ基(例、−SCH、−SC)が挙げられる。
「−S−ハロゲン化C1−6アルキル」は、上記「−S−C1−6アルキル」が1以上の上記「ハロゲン」で置換された基であり得る。−S−ハロゲン化C1−6アルキルとしては、例えば、−SCFH、−SCFH、−SCFが挙げられる。
上記式(I)又は(II)で表される本発明の化合物の好ましい例は、2−[1−(4−クロロ−ベンゾイル)−5−メトキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル]−N−メチル−アセトアミド(例、実施例22参照)であり得る。
上記式(I)又は(II)で表される本発明の化合物はまた、米国出願公開第2005/0004104号に開示されるカルボン酸化合物のアミド誘導体であり得る。本発明者は、インドメタシン又はその誘導体等がNSFに結合し、その機能を促進することにより、脳機能の改善効果を示し得ることを見出した。即ち、NSFは、インドメタシン又は脳機能の改善作用を有するその誘導体の標的タンパク質であると考えられる。米国出願公開第2005/0004104号は、脳機能の改善作用を有し得る、カルボン酸部分を保持するインドメタシンアナログを開示している。本発明者は、後述する実施例に示されるように、インドメタシンのカルボン酸部分の改変(例えば、アミド誘導体化)は、NSFに対する結合能を保持し得ること、及びアミド誘導体が、非アミド化化合物に比し、顕著なグルタミン酸放出作用を有し得ることを見出した。従って、米国出願公開第2005/0004104号に開示される、脳機能の改善作用を有し得るインドメタシンアナログのアミド誘導体もまた、NSFに対する結合能を保持し、優れたグルタミン酸放出作用を有し得、それ故、該作用に起因する脳機能の改善効果を示し得ると考えられることから、このようなアミド誘導体もまた、本発明では好適に用いられ得る。即ち、上記式(I)又は(II)で表される本発明の化合物は、米国出願公開第2005/0004104号に開示される以下のカルボン酸化合物のアミド誘導体〔例、R、R(上記式(I)と同義)を有するアミン(−NR)と、以下のカルボン酸化合物とのアミド化反応により生成する化合物〕であってもよい:
・(5−メトキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル)酢酸;
・(5−ヒドロキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル)酢酸;
・(1−ベンジル−5−ヒドロキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル)酢酸;
・[1−(3,4−ジクロロベンゾイル)−5−ヒドロキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル]酢酸;
・[1−(3−クロロベンゾイル)−5−メトキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル]酢酸;
・[1−(3−クロロベンジル)−5−メトキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル]酢酸;
・[1−(3,4−ジクロロベンゾイル)−5−メトキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル]酢酸;
・[1−(3,4−ジクロロベンゾイル)−5−ヒドロキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル]酢酸;
・(1−ベンジル−5−ヒドロキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル)酢酸;
・[1−(4−クロロベンジル)−5−ヒドロキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル]酢酸;
・[1−(3,4−ジクロロベンゾイル)−5−メトキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル]酢酸;
・[1−(3,4−ジクロロベンゾイル)−5−ヒドロキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル]酢酸;
・{5−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(トリフルオロメチル)ベンゾイル]−1H−インドール−3−イル}酢酸;
・[1−(2,4−ジクロロベンゾイル)−5−ヒドロキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル]酢酸;
・[1−(2,3−ジクロロベンゾイル)−5−メトキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル]酢酸;
・[1−(2,3−ジクロロベンゾイル)−5−ヒドロキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル]酢酸;
・{1−[(6−クロロピリジン−3−イル)カルボニル]−5−ヒドロキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル}酢酸;
・[1−(3−クロロベンゾイル)−5−メトキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル]酢酸;
・[1−(3−クロロベンゾイル)−5−ヒドロキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル]酢酸;
・[1−(3,4−ジフルオロベンゾイル)−5−メトキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル]酢酸;
・[1−(3,4−ジフルオロベンゾイル)−5−ヒドロキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル]酢酸;
・[1−(4−ブロモベンジル)−5−ヒドロキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル]酢酸;
・[1−(4−クロロベンジル)−5−メトキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル]酢酸;
・[1−(4−フルオロベンジル)−5−メトキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル]酢酸;
・[5−ヒドロキシ−2−メチル−1−(3−メチルベンゾイル)−1H−インドール−3−イル]酢酸;
・{1−[(4−クロロフェニル)スルホニル]−5−メトキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル}酢酸;
・{1−[(4−クロロフェニル)スルホニル]−5−ヒドロキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル}酢酸;
・[5−メトキシ−2−メチル−1−(ピペリジン−1−イルカルボニル)−1H−インドール−3−イル]酢酸;
・[5−ヒドロキシ−2−メチル−1−(3−フェニルプロプ−2−イノイル)−1H−インドール−3−イル]酢酸;
・[1−(4−クロロベンゾイル)−5−メトキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル]酢酸。
本発明の化合物は、例えば実施例に記載されるような自体公知のアミド化反応を利用することにより、公知化合物(例、米国出願公開第2005/0004104号に開示される化合物)から製造することができる。
本発明において、塩としては、特に限定されないが、医薬上許容され得る塩が好ましく、例えば無機塩基(例、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属;カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属;アルミニウム、アンモニウム)、有機塩基(例、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N−ジベンジルエチレンジアミン)、無機酸(例、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸)、有機酸(例、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸)、塩基性アミノ酸(例、アルギニン、リジン、オルニチン)又は酸性アミノ酸(例、アスパラギン酸、グルタミン酸)との塩などが挙げられる。
本発明の剤は、NSFの発現又は機能を調節する物質に加え、任意の担体、例えば医薬上許容され得る担体を含むことができる。医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水のような希釈液に有効量の物質を溶解させた液剤、有効量の物質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、顆粒剤、散剤又は錠剤、適当な分散媒中に有効量の物質を懸濁させた懸濁液剤、有効量の物質を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等である。
非経口的な投与(例、静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、局所注入など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容され得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解又は懸濁すればよい状態で保存することもできる。
本発明の剤の投与量は、有効成分の活性や種類、投与様式(例、経口、非経口)、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001mg〜約2.0gである。
本発明の剤は、例えば、医薬として有用である。本発明の剤が医薬として使用される場合、認知症(例、老人性認知症、アルツハイマー認知症、脳血管性認知症、外傷後認知症、脳腫瘍により生じる認知症、慢性硬膜下血腫により生じる認知症、正常圧脳水腫により生じる認知症、髄膜炎後認知症、パーキンソン認知症などの種々の疾患により生じる認知症)、学習又は記憶障害(例、脳発達障害に伴う学習及び記憶障害)などを含む種々の疾患の予防及び/又は治療、あるいは学習又は記憶(例、短期記憶、長期記憶)の向上のために使用することができる。
本発明はまた、被験物質がNSFの発現又は機能を促進し得るか否かを評価することを含む、脳機能を改善し得る物質のスクリーニング方法を提供する。本発明はまた、当該スクリーニング方法により得られる物質を提供する。
スクリーニング方法に供される被験物質は、いかなる化合物であってもよく、例えば、核酸(例、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド)、糖質(例、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖)、脂質(例、飽和又は不飽和の直鎖、分岐鎖および/又は環を含む脂肪酸)、アミノ酸、蛋白質(例、オリゴペプチド、ポリペプチド)、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。
本発明のスクリーニング方法は、被験物質がNSFの発現又は機能を調節し得るか否かを評価可能である限り、如何なる形態でも行われ得る。例えば、本発明のスクリーニング方法は、NSFの発現を測定可能な細胞又は動物を用いたNSFの発現の測定により行われ得る。
NSFの発現を測定可能な細胞を用いるスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a)〜(d)を含み得る:
(a)被験物質をNSFの発現を測定可能な細胞に接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた細胞におけるNSFの発現量を測定する工程;
(c)(b)で測定された発現量を、被験物質を接触させない対照細胞におけるNSFの発現量と比較する工程;
(d)上記(c)の比較結果に基づいて、NSFの発現量を促進する被験物質を選択する工程。
以下、上記の工程(a)〜(d)を含む方法論を、方法論Iと省略する。
方法論Iの(a)では、被験物質がNSFの発現を測定可能な細胞と接触条件下におかれる。NSFの発現を測定可能な細胞に対する被験物質の接触は、培地中で行われ得る。
NSFの発現を測定可能な細胞とは、NSFの産物(例、転写産物、翻訳産物)の発現レベルを直接的又は間接的に評価可能な細胞をいう。NSFの産物の発現レベルを直接的に評価可能な細胞は、NSF発現細胞であり得、一方、NSFの産物の発現レベルを間接的に評価可能な細胞は、NSF遺伝子の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞であり得る。NSFの発現を測定可能な細胞は、動物細胞、例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サル、ヒト等の哺乳動物細胞であり得る。
NSF発現細胞は、NSFを潜在的に発現するものである限り特に限定されない。かかる細胞は、当業者であれば容易に同定でき、例えば、神経細胞が好適に使用される。また、NSF発現細胞としては、初代培養細胞、細胞株(例、PC−12細胞、Neuro2A細胞、SK−N−SH細胞)もまた好ましい。
NSF遺伝子の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞は、NSF遺伝子の転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子を含む細胞である。NSF遺伝子の転写調節領域、レポーター遺伝子は、発現ベクター中に挿入され得る。NSF遺伝子の転写調節領域は、NSFの発現を制御し得る領域である限り特に限定されないが、例えば、各NSF遺伝子の転写開始点から上流約2kbpまでの領域、あるいは該領域の塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、且つこれらのNSFの転写を制御する能力を有する領域などが挙げられる。レポーター遺伝子は、検出可能な蛋白質又は検出可能な物質を生成する酵素をコードする遺伝子であればよく、例えばGFP(緑色蛍光蛋白質)遺伝子、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、LUC(ルシフェラーゼ)遺伝子、CAT(クロラムフェニコルアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子等が挙げられる。
NSF遺伝子の転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子が導入される細胞は、NSF遺伝子の転写調節機能を評価できる限り、即ち、該レポーター遺伝子の発現量が定量的に解析可能である限り特に限定されない。しかしながら、NSFに対する生理的な転写調節因子を発現し、NSFの発現調節の評価により適切であると考えられることから、該導入される細胞としては、NSF発現細胞が好ましい。
被験物質とNSFの発現を測定可能な細胞とが接触される培地は、用いられる細胞の種類などに応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などである。培養条件もまた、用いられる細胞の種類などに応じて適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。
方法論Iの(b)では、被験物質を接触させた細胞におけるNSFの発現量が測定される。発現量の測定は、用いた細胞の種類などを考慮し、自体公知の方法により行われ得る。例えば、NSFの発現を測定可能な細胞として、NSF発現細胞を用いた場合、発現量は、NSFの産物、例えば、転写産物又は翻訳産物を対象として自体公知の方法により測定できる。例えば、転写産物の発現量は、細胞からtotal RNAを調製し、RT−PCR、ノザンブロッティング等により測定され得る。また、翻訳産物の発現量は、細胞から抽出液を調製し、免疫学的手法により測定され得る。免疫学的手法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、蛍光抗体法などが使用できる。一方、NSFの発現を測定可能な細胞として、NSF転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞を用いた場合、発現量は、レポーターのシグナル強度に基づき測定され得る。
方法論Iの(c)では、被験物質を接触させた細胞におけるNSFの発現量が、被験物質を接触させない対照細胞におけるNSFの発現量と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質を接触させない対照細胞におけるNSFの発現量は、被験物質を接触させた細胞におけるNSFの発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
方法論Iの(d)では、NSFの発現量を促進する被験物質が選択される。例えば、NSFの発現量を増加させる(発現を促進する)被験物質は、脳機能の改善などに使用され得る。より詳細には、このような被験物質は、認知症(例、老人性認知症、アルツハイマー認知症、脳血管性認知症、外傷後認知症、脳腫瘍により生じる認知症、慢性硬膜下血腫により生じる認知症、正常圧脳水腫により生じる認知症、髄膜炎後認知症、パーキンソン認知症などの種々の疾患により生じる認知症)、学習又は記憶障害(例、脳発達障害に伴う学習及び記憶障害)などを含む種々の疾患の予防及び治療剤として、あるいは学習又は記憶(例、短期記憶、長期記憶)の向上などに有用である。
動物を用いる本発明のスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a)〜(d)を含み得る:
(a)被験物質を動物に投与する工程;
(b)被験物質を投与した動物におけるNSFの発現量を測定する工程;
(c)(b)で測定された発現量を、被験物質を投与しない対照動物におけるNSFの発現量と比較する工程;
(d)上記(c)の比較結果に基づいて、NSFの発現量を調節する被験物質を選択する工程。
以下、上記の工程(a)〜(d)を含む方法論を、方法論IIと省略する。
方法論IIの(a)では、動物として、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サル等の非ヒト哺乳動物、およびニワトリ等の鳥類などの動物が使用される。動物としてはまた、疾患モデル動物が使用され得る。被験物質の動物への投与は自体公知の方法により行われ得る。
方法論IIの(b)では、NSFの発現量の測定は自体公知の方法により行われ得る。例えば、動物から単離又は採取された脳組織又は神経細胞におけるNSFの発現量が、方法論Iの(b)と同様により測定され得る。方法論IIの(c)、(d)もまた、方法論Iと同様に行われ得る。
本発明のスクリーニング方法はまた、NSFに対する被験物質の結合能を測定することを含み得る。
結合性の測定に基づくスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a)〜(c)を含み得る:
(a)被験物質をNSFに接触させる工程;
(b)被験物質のNSFに対する結合能を測定する工程;
(c)上記(b)の結果に基づいて、NSFに結合能を有する被験物質を選択する工程。
以下、上記の工程(a)〜(c)を含む方法論を、方法論IIIと省略する。
方法論IIIの(a)では、被験物質がNSFと接触条件下におかれる。被験物質のNSFに対する接触は、溶液中での被験物質とNSFとの混合により行われ得る。
NSFは自体公知の方法により調製できる。例えば、上述したNSF遺伝子の発現組織からNSFを単離・精製できる。しかしながら、迅速、容易かつ大量にNSFを調製し、また、ヒトNSFを調製するためには、遺伝子組換え技術により組換えタンパク質を調製するのが好ましい。組換えタンパク質は、細胞系、無細胞系のいずれで調製したものでもよい。
方法論IIIの(b)では、NSFに対する被験物質の結合能が測定される。結合能の測定は、自体公知の方法により行われ得る。測定は、例えば、表面プラズモン共鳴を利用する方法(例、Biacoreの使用)、免疫沈降法などにより行われ得る。
方法論IIIの(c)では、NSFに結合能を有する被験物質が選択される。NSFに結合能を有する被験物質は、NSFの機能を促進し得る。このように選択された被験物質は、脳機能の改善作用を有し得る。
NSFに対する被験物質の結合能を測定するスクリーニング方法はまた、下記の工程(a)〜(d)を含む方法により行われ得る:
(a)被験物質、NSF結合性物質を、NSFに接触させる工程;
(b)被験物質の存在下におけるNSF結合性物質のNSFに対する結合量を測定する工程;
(c)(b)で測定された結合量を、被験物質の非存在下におけるNSF結合性物質のNSFに対する結合量と比較する工程;
(d)上記(c)の比較結果に基づいて、NSF結合性物質のNSFに対する結合量の低下をもたらす被験物質を選択する工程。
上記(a)〜(d)の工程を含む方法論を、方法論IVと省略する。
方法論IVの(a)では、被験物質、NSF結合性物質のいずれもがNSFと接触条件下におかれる。被験物質、NSF結合性物質のNSFに対する接触は、溶液中での被験物質、NSF結合性物質、NSFの混合により行われ得る。また、NSFに対して被験物質、NSF結合性物質を接触させる順番は特に限定されず、いずれかを先にNSFに接触させても、同時に接触させてもよい。
NSFは自体公知の方法により調製できる。例えば、NSFの調製は、方法論IIIで上述した方法により行われ得る。
NSF結合性物質は、NSFに対する結合能を有するものである限り特に限定されないが、好ましくは、脳機能の改善作用を有する物質であり得る。このような物質としては、例えば、不飽和脂肪酸(例、リノール酸)又はその誘導体(例、DCP−LA)、インドメタシン又はその誘導体(例、カルボン酸部分を保持するインドメタシンの誘導体又はそのエステル誘導体、インドメタシンのアミド誘導体)が挙げられる。NSF結合性物質は、標識されていても未標識であってもよく。また、標識体と未標識体を所定の割合で含む混合物もNSF結合性物質として使用できる。標識用物質としては、例えば、FITC、FAM等の蛍光物質、ルミノール、ルシフェリン、ルシゲニン等の発光物質、H、14C、32P、35S、123I等の放射性同位体、ビオチン、ストレプトアビジン等の親和性物質などが挙げられる。
方法論IVの(b)では、被験物質の存在下、NSF結合性物質のNSFに対する結合量が測定される。結合量の測定は、用いたNSF結合性物質の種類、標識の有無などを考慮し、自体公知の方法、例えば、上述した方法により行われ得る。
方法論IVの(c)では、被験物質の存在下におけるNSF結合性物質のNSFに対する結合量が、被験物質の非存在下におけるNSF結合性物質のNSFに対する結合量と比較される。結合量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行われる。被験物質の非存在下におけるNSF結合性物質のNSFに対する結合量は、被験物質の存在下におけるNSF結合性物質のNSFに対する結合量の測定に対し、事前に測定した結合量であっても、同時に測定した結合量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した結合量であることが好ましい。
NSFに対する被験物質の結合能を測定するスクリーニング方法はさらに、NSF発現細胞を用いて行われ得る。例えば、蛍光タンパク質と融合したNSFを発現する細胞を、蛍光物質で標識された被験物質で処理した後、当該細胞におけるNSF、被験物質の局在が一致するか否かを評価することに行われてもよい(例、実施例8参照)。
本発明のスクリーニング方法は、被験物質がPKC−εの発現又は機能を調節するか否かを評価することをさらに含むこともできる。本発明はまた、このようなスクリーニング方法を提供する。
例えば、被験物質がPKC−εの機能を調節するか否かを評価するスクリーニング方法は、下記の工程(a)〜(c)を含み得る:
(a)被験物質の存在下において、PKC−εの活性を測定する工程;
(b)(a)で測定されたPKC−εの活性を、被験物質の不在下におけるPKC−εの活性と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、PKC−εを活性化する被験物質を選択する工程。
上記(a)におけるPKC−εの活性の測定は、細胞系(例えば、実施例1参照)、無細胞系(例えば、実施例2参照)にて行われ得る。上記(a)はまた、PKC−εの基質の存在下で行われ得、PKC−εにより基質から変換された生成物の量に基づき活性が測定され得る。PKC−εの活性の測定が細胞系で行われる場合、細胞としては、例えば、PKC−εを天然に発現する細胞、PKC−ε発現ベクターによる形質転換体、PKC−ε及びNSFの共発現細胞(例、天然細胞、形質転換体)が用いられ得る。細胞はまた、NSF発現細胞と同様の細胞であり得る。活性の測定はまた、PKC−ε阻害剤を併用することにより行われてもよい。
本発明のスクリーニング方法はまた、被験物質がα7ACh受容体電流を増強するかどうかを評価すること(例、実施例3、4参照)、被験物質がα7ACh受容体の細胞膜への移行を増強するかどうかを評価すること(例、実施例5参照)、被験物質が細胞表面α7ACh量を増加させるかどうかを評価すること(例、実施例6参照)、被験物質がカルシウム/カルモデュリン依存性タンパク質リン酸化酵素II(CaMKII)を活性化するかどうかを評価すること(例、実施例12参照)、被験物質の微小興奮性シナプス後電流(mEPSC)に対する効果を評価すること(例、実施例13参照)をさらに含んでいてもよい。
本発明のスクリーニング方法はさらに、選択された被験物質が、脳機能の改善作用を有することを確認することを含み得る。このような確認は、例えば、正常な動物又は疾患モデル動物に対し、選択された被験物質を投与し、脳機能の改善作用の有無及びその程度を評価することにより行なわれ得る。
本明細書中で挙げられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制約されるものではない。
実施例1:DCP-LAは、PC-12細胞におけるPKCを活性化する
RT-PCR解析では、PC-12細胞(ラット褐色細胞種)は、PKC-vを除く全てのPKCアイソザイムを発現していた(データ省略)。本発明者は、ミエリン塩基性タンパク質上のリン酸化部位を誘導体化した合成PKC基質ペプチド (Yasuda et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 166: 1220-1227 (1990)) を用いてPC-12細胞におけるPKC活性をアッセイした。
PC-12細胞におけるPKC活性を、既報 (Heasley et al., J. Biol. Chem. 264: 8646-8652 (1989)) を改変した方法によりアッセイした。PC-12細胞を、96ウェルプレート (1×104細胞/ウェル) に蒔いた。細胞を、GF109203Xの存在下および非存在下において、ホルボール 12-ミリステート 13-アセテート (phorbol 12-myristate 13-asetate: PMA)、DCP-LA、又はリノール酸とともに37℃にて10分間処理した。次いで、細胞を100μlのCa2+フリーリン酸緩衝化生理食塩水 (PBS) でリンスし、50μlの137 mM NaCl、5.4 mM KCl、10 mM MgCl2、5 mM エチレングリコール-ビス (2-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-テトラ酢酸、0.3 mM Na2HPO4、0.4 mM K2HPO4、20 mM 4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジン-エタンスルホン酸 (pH 7.2)、50μg/mlジギトニン、25 mM グリセロール 2-ホスフェート、200μM ATP、および100μM合成PKC基質ペプチド中において30℃で15分間インキュベートした。上清を回収し、100℃で5分間煮沸することにより、反応を停止させた。溶液のアリコート (20μl) を逆相HPLC (LC-10ATvp, Shimadzu, Co., Kyoto, Japan) 上にロードした。基質ペプチドピークおよび新生成物ピークを214 nmの吸光度で検出した (SPD-10Avp- UV-VIS検出器、Shimadzu Co., Kyoto, Japan)。各ピークが、マトリクス支援レーザー吸着イオン化飛行時間型質量分析計 (Voyager ST-DER, PE Biosystems Inc., Foster City, USA) の解析における非リン酸化およびリン酸化基質ペプチドに対応することを確認した。リン酸化基質ペプチド量を、PKC活性の指標として算出した。
その結果、PKCアクチベータであるPMA (1μM) は、PC-12細胞におけるPKCを活性化したが、これは、PKCの選択的インヒビターであるGF109203X (100 nM) により無効化された(図1、2)。このことはPKCアッセイが信頼できるものであることを示す。DCP-LA (100 nM) はまたPKCを活性化したが、この作用はGF109203Xによりブロックされた(図1、2)。PKC活性に対するDCP-LA作用は、10 nM-100μMに及ぶ濃度で用量依存様式であり、その作用は100 nMで最大であった(図3)。同様のPKC活性化がリノール酸でも得られたが、その効力はDCP-LAよりも弱かった(図3)。これらの結果は、DCP-LAがPKCを活性化することを示唆する。
実施例2:DCP-LAは、PKC-εの選択的かつ直接的なアクチベータとして働く
DCP-LA標的であるPKCアイソザイムを同定するため、PKC活性をセルフリーシステムによりアッセイした。
セルフリーシステムにおけるPKC活性は、既報 (Miyamoto et al., Mol. Brain Res. 117: 91-96 (2003); Ohta et al., Mol. Brain Res. 119: 83-89 (2003)) の方法により定量した。簡潔には、合成PKC基質ペプチドを、ホスファチジルセリン、ジアシルグリセロール、DCP-LA、又はリノール酸の存在下および非存在下において、20 mM Tris-HCl (pH 7.5)、5 mM Mg2+-アセテート、0.1 mM CaCl2、および10μM ATPを含む培地中において、種々のPKCアイソザイムと30℃で5分間反応させた。逆相HPLC (LC-10ATvp, Shimadzu Co., Kyoto, Japan) 上へのロード後に、基質ペプチドピークおよび新生成物ピークを214 nmの吸光度で検出した。リン酸化基質ペプチド量を、PKC活性を指標として算出した。
その結果、ここで試験した9種のPKCアイソザイム (α、βI、βII、γ、δ、ε、μ、ηおよびζ) のうち、DCP-LA (100μM) が、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロール、ジアシルグリセロール、およびホスファチジルセリン−ジオレオイルの非存在下において、他のPKCアイソザイムよりも7倍以上の効力で、新規PKCであるPKC-εを最も強力に活性化した (リン酸化8.96±0.76 pmol/分) (各PKCアイソザイムのDCP-LA誘導活性化と比較するとP<0.001, unpaired t検定)(図4)。このことは、DCP-LAがPKC-εの選択的かつ直接的アクチベータとして働くことを説明する。DCP-LAは、10 nM-100μMに及ぶ濃度にて用量依存様式でPKC-εを活性化し、その作用は100μMで最大であった(図5)。
実施例3:α7 ACh受容体応答に対するDCP-LAの作用
GF109203X (GF) (100 nM) の存在又は非存在下において、DCP-LA (100 nM) による5分間の処理の前後5分間隔で10秒間、PKC-εを注入していない (なし) 又は注入した (+PKC-ε) (終濃度、〜1μg/ml) α7受容体発現卵母細胞にACh (100μM) をバスアプライ (bath-apply) した。電位を-60mVに固定して、DCP-LAで10分間処理した10分前 (-10分) および30分後にPKC-εを注入した卵母細胞にて、示された電流を記録した。
その結果、DCP-LAは、α7 ACh受容体電流を有意に増強した (P<0.01, ANOVA)(図6)。さらなる増強がPKC-ε注入により得られた (PKC-εを注入していない卵母細胞に対する増強と比較、P<0.01,ANOVA)(図6)。このことは、DCP-LAが、PKC、特にPKC-εを活性化することによりα7 ACh受容体応答を増強することを示唆する。
実施例4:α7 ACh受容体応答に対する小胞輸送インヒビターの作用
butandione monoxime (5 mM)、jasplakinolide (5μM)、又はlatrunculin B (1μM) の存在および非存在下で、DCP-LA (100 nM) による10分間の処理の前後に10分間隔で10秒間、ACh (100μM) をα7受容体発現卵母細胞にバスアプライ (bath-apply) した。
その結果、α7 ACh受容体電流の増強は、butandione monoxime、jasplakinolide、又はlatrunculin Bにより有意に阻害された (P<0.01, ANOVA)(図7)。このことは、DCP-LAが、サイトゾルから原形質膜へのα7 ACh受容体の小胞輸送を刺激することによりα7 ACh受容体応答を増強することを示唆する。
実施例5:DCP-LAはα7 ACh受容体の細胞膜への移行を促進する
DCP-LA (100 nM) 未処理又は処理 (30分) のラット海馬切片を蔗糖密度勾配遠心分離法により13分画に分離し、抗α7 ACh受容体抗体および抗カドヘリン (細胞接着因子) 抗体にてウェスタンブロッティングを行った。
その結果、DCP-LA処理によりα7 ACh受容体の細胞質から原形質膜 (9-11分画) への移行が認められた(図8、9)。このことは、DCP-LAがα7 ACh受容体の細胞膜への移行を促進することを示唆する。
実施例6:DCP-LAは細胞質から細胞膜へのα7 ACh受容体小胞輸送をPKC依存性に促進する
DCP-LA (100 nM) 未処理又は処理 (30分) のα7 ACh受容体強制発現PC-12細胞において細胞全体のα7 ACh受容体発現に対する細胞膜表面α7 ACh受容体発現の割合を抗α7 ACh受容体抗体を用いたウェスタンブロッティングにて検討した。詳細には、細胞表面タンパク質をビオチン化し、細胞溶解物を調製した後、アビジン結合ゲルを用いてビオチン化細胞表面タンパク質を分離し、ビオチン化した細胞表面タンパク質をゲルから溶出させ、次いで抗Hisタグ抗体を用いたイムノブロットでHisタグα7を検出した。
その結果、DCP-LAは、細胞表面α7 ACh受容体発現量を増加させ、その作用は選択的PKCインヒビター GF109203X (100 nM) あるいは小胞輸送インヒビターlatrunculin B (10μM) で抑制された(図10、11)。このことは、DCP-LAが細胞質から細胞膜へのα7 ACh受容体小胞輸送をPKC依存性に促進することを示す。
実施例7:DCP-LAはNSF (N-ethylmaleimide-sensitive factor) に結合する
7.1.ラットNSFの免疫沈降
ウイスターラット (雄7週齢) の前脳を取り出し、予め4℃で冷却していたPBS (150 mM NaCl, 2.7 mM KCl, 10 mM Na2HPO4, 1.8 mM KH2PO4, pH 7.4)で洗浄後、Lysis Buffer (25 mM Tris-HCl (pH 7.5), 150 mM NaCl, 0.5% CHAPS, 1 mM PMSF, protease inhibitor cocktail (Nacalai tesque社)) に懸濁し、ホモジナイザーで粗く組織を砕いた後、超音波ホモジナイザー (BRANSON) により組織のタンパク質溶解液を作製した。得られた溶液を超遠心分離機 (ベックマン) 100,000g×1 hr×4℃で遠心分離し、可溶化分画である上清を得た。抗NSF抗体 (oncogene) とProtein G (アマシャム・バイオサイエンス) を架橋したビーズを100μl (溶液に対して1/10量) 上清に加え、コールドルームにて一晩ロータリーシェーカー (タイテック) で混合の後、卓上遠心機 (トミー機器) 15000 rpm×10 sec×4℃でビーズを沈殿させ、上清を取り除き、Wash Buffer (25 mM Tris-HCl (pH 7.5), 150 mM NaCl, 0.1% Tween 20) で3回洗いを繰り返し、変性溶液 (0.1 Mグリシン (pH 2.7)) により、タンパク質を溶出させ、中和溶液 (1 M Tris-HCl (pH 9.0)) にて中和し、ラットNSFタンパク質を含む溶液を得た。
7.2.インビトロDCP-LA結合アッセイ
DCP-LAのカルボキシル基にフルオレセインを結合させたDCP-LA-Flu(下記参照)200μMにNSF溶液0.5μgを加え、また一方は10 mM DCP-LAを競合物として加え、コールドルームにて一晩ロータリーシェーカーで混合し、10% アクリルアミドゲルを用いてSDS-PAGE (ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動) にて、分子量ごとに分離し、DCP-LA-Fluと結合したタンパク質をバリアブル・イメージ・アナライザTyphoon 8600S (アマシャム・バイオサイエンス) で可視化した(図12)。

7.3.インゲル消化(in gel digestion)
DCP-LA-Fluと結合したタンパク質ゲルバンドを1 mmの厚さに刻み、洗浄液 (50% アセトニトリル、25 mM重炭酸アンモニウム (pH 8.0)) 500μl×15分攪拌し、これを3回繰り返した後、100% アセトニトリル溶液500μl×5分でゲルを脱水させ、Speed-Vac (トミー機器) で30分乾燥させた。トリプシン (プロメガ) を10μg/ml、25 mM重炭酸アンモニウム (pH 8.0) で調製した酵素溶液を15μl加え、ゲルに吸収させた後37℃一夜インキュベートした。翌日、2倍量の抽出溶液 (50% アセトニトリル、5% トリフルオロ酢酸) を加え60分攪拌後、ペプチド溶液を新しいチューブに移し、再度等量の抽出溶液をゲルに加えて60分攪拌し、得られたペプチド溶液をSpeed-Vacで2μlが残るように液を蒸発させた。
7.4.MALDI-TOF MS
ペプチド溶液とマトリクス溶液 (飽和CHCA水溶液) 1μlを同量ずつTOF MSプレート上にて混合し、乾燥後、MALDI飛行時間型質量分析計Voyager (アプライド・バイオシステムズ) にてMSスペクトル(図13)を得た。
7.5.質量分析データベース解析
University of California San Francisco Mass Spectrometry Facilityがwebサイトで提供する解析ツール、MS-Fitを使用して得られたMSスペクトルを検索したところ、DCP-LAの結合タンパク質がNSFであることを示す結果が得られた。
実施例8:ラットCA1ニューロンの免疫組織化学
ウイスターラット (雄5週齢) から、氷冷クレブス溶液 (10 mM Hepes, 129 mM NaCl, 5 mM NaHCO3, 4.8 mM KCl, 1.2 mM KH2PO4, 1.2 mM MgCl2, 1 mM CaCl2, 2.8 mMグルコース, pH 7.4) 中に脳を摘出し、冠状海馬切片を作製した。室温にて1時間二酸化炭素でバブリングしながらクレブス溶液に放置し、0.2 mg/ml pronase (Calbiochem) クレブス溶液中で15 min×31℃でインキュベートした後、0.2 mg/ml protease TypeX (Sigma) クレブス溶液中で15 min×31℃インキュベートして、切片を再度室温にて1時間二酸化炭素でバブリングしながらクレブス溶液に放置した。プラー (NARISIGE PB-7) を用いて400μm、280μm、200μmに引いたガラス管ピペットをヒートポリッシャー (NARISIGE MF-83) にて微調整を行い、酵素処理した切片の海馬CA1領域をガラス管ピペットで取り出し、タイロード溶液 (5 mM Hepes, 135 mM NaCl, 5 mM KCl, 1 mM MgCl2, 2.5 mM CaCl2, 10 mMグルコース, pH 7.3) 中にてバラバラに砕き、その細胞懸濁液をコラーゲンコートしたスライドガラス上に30分室温放置後、スライドグラス上に接着した細胞を4%パラホルムアルデヒドPBS溶液にて固定した。固定された細胞を、PBSにて5分間3回洗い、ブロッキング溶液 (10% BSA, 0.1% Triton-X 100, PBS) にて1時間室温で放置後、一次抗体 (NSFモノクローナル抗体 (oncogen)) 1/500が溶解した抗体希釈溶液 (10% BSA, 0.01% Triton-X 100, PBS) でコールドルームにて一晩放置した。一次抗体溶液中の細胞をPBSで3回洗い、二次抗体 (Alexa Fluor 633 ヤギ抗マウスIgG (H+L) (Invtrogen)) 1/500と10μM DCP-LA-Fluが溶解した抗体希釈溶液で室温にて2時間放置後、PBSにて5分間3回洗い、核染色液 (500 nM DAPI (Invtrogen), PBS) で5分間染色後、再度PBSにて5分間3回洗い、封入剤 (20%グリセロール, PBS) でカバーガラスに封入して共焦点レーザースキャン顕微鏡 (xiover/LSM 510 META (Carl Zeiss)) を用いて顕微鏡観察した。
その結果、フルオレセイン標識DCP-LAの局在は、NSFの局在と同じであった(データ示さず)。以上より、DCP-LAは、NSFとの結合を通じてNSFと共局在し、その機能を調節し得ることが示唆された。
実施例9:フルオレセイン標識インドメタシンの合成
DMFにインドメタシン(ナカライ社製)を溶解させ、NHS-フルオレセイン(Pierce社製)とEDC(Pierce社)を2倍量加え、室温で攪拌した。反応物に等量の滅菌水を加えて攪拌し、13000rpmで2分間遠心分離後、上清を除いた。再度DMFを加え沈殿物を溶解後、等量の滅菌水を加え攪拌、遠心分離と一連のステップを5回繰り返して純粋化した。最後に適当量のDMFに溶解し、-20℃で遮光保存した。
フルオレセイン標識インドメタシンが合成できているかどうかはクロロホルムーメタノール(9.8:0.2)に溶解し、薄層クロマトグラフィー(Rf値:0.37)で確認した。また、合成されたメチルフルオレセイン標識インドメタシンの粉末を適当量の0.1%トリフルオロサクサン50%アセトニトリル飽和α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸溶液に溶かし、質量分析用プレートに散布後、MALDI飛行時間型質量分析計(Voyager アプライド・バイオシステムズ)により解析し質量分析を行った(TOF MSによる実測値:854.975486)。
実施例10:インドメタシンのNSFに対する結合能
ウィスターラット(雄6週齢)全脳をホモジネートし、抗NSF抗体でNSFの免疫沈降を行った。得られたNSF含有サンプルを電気泳動し、上述の通り作製した蛍光標識インドメタシンを用いてアッセイを行った。詳細には、1) 無標識インドメタシン非存在下での蛍光標識インドメタシン(1 mM)の反応、2) 無標識インドメタシン(10 mM)存在下(同時処理)での蛍光標識インドメタシン(1 mM)の反応、3) 無標識インドメタシン(10 mM)処置後の蛍光標識インドメタシン(1 mM)の反応を行った。NSFと結合した蛍光標識インドメタシンは蛍光バンドとして捕らえることができる。無標識インドメタシン存在下及び前処置群では蛍光標識インドメタシンとNSFと結合が競合阻害されるため、蛍光バンド強度は減少・消失する。
その結果、無標識インドメタシン存在下及び前処置群で蛍光バンド強度の減少・消失が確認された(図14)。このことは、インドメタシンがNSFに結合することを示す。また、蛍光標識インドメタシンもNSFに結合した(図14、レーン1)ことから、インドメタシンにおけるインドール環の3位の置換基は、NSFとの結合に本質的に影響を及ぼし得ないことが示された。
実施例11:培養ラット海馬神経細胞の免疫組織化学
次いで、培養ラット海馬神経細胞の免疫組織化学を行った。ウィスターラット(雌妊娠17日)胎児脳から海馬を分離し、海馬神経細胞をニューロベーサル溶液で2週間培養した。その後、4%ホルムアルデヒドPBS溶液で細胞を固定後、PBSで3回洗浄し、2%トライトンPBS溶液に5分間浸した。続いて、10%ヤギ血清0.01%トライトンPBS溶液で30分間ブロッキングを行い、1/500希釈の抗NSF抗体を含む10%ヤギ血清0.01%トライトンPBS溶液により免疫反応を4℃で1晩行った。その後、0.01%トライトンPBS溶液で3回洗浄し、1/500希釈の抗マウス633二次抗体(モレキュラープローブ社)とフルオロセイン標識インドメタシンを1 mM含む10%ヤギ血清0.01%トライトンPBS溶液を用いて、1時間室温で免疫反応を行った。反応後、0.01%トライトンPBS溶液で3回洗浄後、PBS溶液で満たして、共焦点レーザースキャン顕微鏡(Axiovert/LSM510 META ツアイス社)で蛍光観察を行った。
その結果、フルオレセイン標識インドメタシンの局在は、NSFの局在と同じであった(データ示さず)。以上より、インドメタシンは、NSFとの結合を通じてNSFと共局在し、その機能を調節し得ることが示唆された。
実施例12:培養ラット海馬神経細胞におけるカルシウム/カルモデュリン依存性タンパク質リン酸化酵素II (CaMKII) 活性化に対するインドメタシンの効果
ウィスターラット(雌妊娠17日)胎児脳から海馬を分離し、海馬神経細胞をニューロベーサル溶液で2週間培養した。培養海馬神経細胞に対してKN-93 (3μM) 存在下および非存在下においてインドメタシン(10-100μM) を37℃にて10分間処理した。続いて、氷冷PBSで洗浄した後、50μlの反応溶液[137 mM NaCl, 5.4 mM KCl, 10 mM MaCl2, 5 mM EGTA, 0.3 mM Na2HPO4, 0.4 mM K2HPO4, 50μg/ml digitonin, 25 mM β-glycerophosphate, 100μM ATP, 20 mM HEPES(pH 7.2)]と40μM 合成CaMKII基質ペプチドautocamtide-2(biomol社)を加え、35℃で5分間反応後、100℃で反応を停止させた。上清液をスピンカラム(コスモスピンフィルターH、ナカライテスク社)でスピンダウンし、その内10μlを逆相HPLC (LC-10ATvp, Shimadzu, Co., Kyoto, Japan) 上にロードした。基質ペプチドピークおよび新生成物ピークを214 nmの吸光度で検出した (SPD-10Avp- UV-VIS検出器、Shimadzu Co., Kyoto, Japan)。リン酸化基質ペプチド量をCaMKII活性の指標として算出した。
その結果、コントロールと比較してインドメタシン存在下では有意にCaMKII活性が増加した(図15)。この活性はCaMKIIの選択的抑制剤であるKN-93により抑制されたことから、海馬神経細胞内において、インドメタシンはCaMKIIを活性化することが示された。
実施例13:微小興奮性シナプス後電流 (mEPSC) に対するインドメタシンの効果
ウィスターラット(雄6週齢)から調製された海馬切片のCA1錐体神経細胞にホールセルパッチクランプを施行し、インドメタシン(100μM)投与前後のmEPSPを記録した。
その結果、コントロール(無処理)と比較して、インドメタシン (100μM) 投与によりmEPSC発現頻度は有意に増加した (P<0.01, Kolmogorov-Smirnov test)(図16、17)。この結果は、インドメタシンがシナプス前終末からのグルタミン酸放出を刺激することを示す。
実施例14:CaMKII経路を介したインドメタシンのグルタミン酸放出刺激作用
ウィスターラット(雄6週齢)から調製された海馬切片のCA1錐体神経細胞にホールセルパッチクランプを施行し、選択的CaMKII抑制剤KN-93 (3μM)非存在下および存在下で、インドメタシン(100μM)投与前後のmEPSPを記録した。
その結果、インドメタシン (100μM) によるmEPSC発現頻度の増加はKN-93 (3μM) で有意に抑制された (P<0.01, Kolmogorov-Smirnov test)(図18、19)。この結果は、インドメタシンによるシナプス前終末からのグルタミン酸放出増加がCaMKII経路を介することを示す。
実施例15:ラット海馬切片からのグルタミン酸放出に対するインドメタシンの効果
ウィスターラット(雄6週齢)を断頭後、脳から海馬を分離し、海馬切片(400μM) を作製して、95% O2、5% CO2で飽和した人工髄液 (117 mM NaCl, 3.6 mM KCl, 1.2 mM NaH2PO4, 1.2 mM MgCl2, 2.5 mM CaCl2, 25 mM NaHCO3, 11.5 mM glucose) 中で1時間、室温でインキュベーションした。ラット海馬切片に高濃度K(80 mM) 脱分極刺激を加え、KN-93 (3μM) 非存在下・存在下でインドメタシン (100μM) を加え、放出されたグルタミン酸を高速液体クロマトグラフィーで測定した。
その結果、インドメタシン処理によりラット海馬切片からのグルタミン酸放出は有意に増加し、また、この効果は、選択的カルシウム/カルモデュリン依存性タンパク質リン酸化酵素II (CaMKII )阻害剤KN-93で抑制された(図20)。この結果は、インドメタシンがカルシウム/カルモデュリン依存性タンパク質リン酸化酵素IIの経路を介してグルタミン酸放出を刺激することを示す。
実施例16:海馬シナプス伝達に対するインドメタシンの効果
ウィスターラット(雄6週齢)から調製された海馬切片のシェーファー側枝を電気刺激し (0.03 ヘルツ、0.1 ミリ秒間)、CA1領域からの細胞外興奮性シナプス後電位 (fEPSP) をインドメタシン10分間投与前後で記録した。
その結果、インドメタシン10分間処理により海馬シナプス伝達は濃度依存性に促進した(図21)。この結果は、インドメタシンに認知機能亢進作用があることを示唆する。
実施例17:CaMKIIの経路を介したインドメタシンの海馬シナプス伝達促進作用
ウィスターラット(雄6週齢)から調製された海馬切片のシェーファー側枝を電気刺激し (0.03 ヘルツ、0.1 ミリ秒間)、CA1領域からの細胞外興奮性シナプス後電位 (fEPSP) を記録した。選択的カルシウム/カルモデュリン依存性タンパク質リン酸化酵素II (CaMKII) 阻害剤KN-93 (3μM)、選択的タンパク質リン酸化酵素C (PKC) 阻害剤GF109203 (100 nM)、選択的タンパク質リン酸化酵素A (PKA) 阻害剤H-89 (1μM)、選択的α7ニコチン性アセチルコリン受容体阻害剤α-ブンガロトキシン (bungarotoxin)(100 nM) 存在下でインドメタシン100μMを10分間処理した。
その結果、インドメタシンの海馬シナプス伝達促進作用はKN-93で抑制された(図22)。この結果は、インドメタシンがCaMKIIの経路を介して海馬シナプス伝達を促進することを示す。
実施例18:正常ラット空間学習・記憶に対するインドメタシンの効果
正常ウィスターラット(雄6週齢)をインドメタシン (1 mg/kg) 非投与群 (コントロール)、投与群 (インドメタシン) に分け、水迷路試験を1日1回、5日間行った。インドメタシンは0.2 N NaOHで溶解し、Tris-HCl (0.05%) で中和した。水迷路試験1時間前に、コントロール群はインドメタシン非溶解液を、インドメタシン投与群はインドメタシン溶解液をそれぞれ100μl腹腔内注入した。インドメタシン投与群のプラットホームへの到達時間 (潜時) を5日間調べた。また、5日間の学習試験後、プラットホームを取り除き、プラットホームがあった場所にどれ位の時間留まるか (停滞時間) を調べた。
その結果、インドメタシン投与群のプラットホームへの到達時間(潜時)は、コントロール群と比較して有意に短縮した(図23)。この結果は、インドメタシンが正常ラットの空間学習脳を高めることを意味する。また、インドメタシン投与群の停滞時間は、コントロール群と比較して有意に延長していた (ANOVA)(図24)。この結果は、インドメタシンが、正常ラットの空間記憶能を高めることを意味する。
実施例19:スコポラミン処理学習・記憶障害ラットに対するインドメタシンの効果
スコポラミン (1 mg/kg) をウィスターラット(雄6週齢)腹腔内に注入し、記憶障害モデルを作製した (M. Diez-Ariza, et al., Psychopharmacology (Berl) Vol. 169, p35, 2003.)。そのコントロール群として生理食塩水を腹腔内に注入した。コントロール群、スコポラミン処理記憶障害ラットに対してインドメタシン (1 mg/kg) 非投与群 (スコポラミン)、投与群 (スコポラミン+インドメタシン) に対し、水迷路試験を1日1回、4日間行った。インドメタシンは0.2 N NaOHで溶解し、Tris-HCl (0.05%) で中和した。水迷路試験1時間前に、コントロール群とインドメタシン非投与群 (スコポラミン) はインドメタシン溶解液をそれぞれ100μl、スコポラミンと同時に腹腔内注入した。インドメタシン投与群のプラットホームへの到達時間 (潜時) を5日間調べた。また、5日間の学習試験後、プラットホームを取り除き、プラットホームがあった場所にどれ位の時間留まるか (停滞時間) を調べた。
その結果、スコポラミン処理群の潜時は、コントロール群と比較して延長していた(図25)。この結果は、スコポラミン処理により空間学習が障害されることを示す。インドメタシン投与群(スコポラミン+インドメタシン)の潜時は、非投与群(スコポラミン)と比較して有意に短縮した(図25)。この結果は、インドメタシンがスコポラミン処理学習障害を改善することを意味する。
また、インドメタシン非投与スコポラミン処理ラットの停滞時間は、コントロール群と比較して短縮していた(図26)。この結果は、スコポラミン処理により空間記憶が障害されることを示す。インドメタシン投与群(スコポラミン+インドメタシン)の停滞時間は、非投与群(スコポラミン)と比較して延長していた(図26)。この結果は、インドメタシンがスコポラミン処理空間記憶障害を改善する傾向があることを示唆する。
実施例20:老化促進マウス空間学習・記憶に対するインドメタシンの効果
老化促進マウス (SAMP) に対してインドメタシン (1 mg/kg) 非投与群 (−インドメタシン)、投与群 (+インドメタシン)、SAMPのコントロールとして正常マウスSAMR群に対し、水迷路試験を1日2回、5日間行った。インドメタシンは0.2 N NaOHで溶解し、Tris-HCl (0.05%) で中和した。水迷路試験1時間前に、SAMR群とインドメタシン投与群 (-インドメタシン) はインドメタシン非溶解液を、インドメタシン投与群 (+インドメタシン) はインドメタシン溶液をそれぞれ50μl腹腔内注入した。SAMPインドメタシン非投与又はインドメタシン投与群のプラットホームへの到達時間 (潜時) を5日間調べた。また、5日間の学習試験後、プラットホームを取り除き、プラットホームがあった場所にどれ位の時間留まるか (停滞時間) を調べた。
その結果、SAMPインドメタシン非投与群のプラットホームへの到達時間 (潜時) はSAMR群と比較して延長していた(図27)。この結果は、老化促進マウスは空間学習が障害されていることを示す。また、SAMPインドメタシン投与群(+インドメタシン)の潜時はSAMPインドメタシン非投与群と比較して有意に短縮した(図27)。この結果は、インドメタシンがSAMPの空間学習障害を改善することを意味する。
SAMPインドメタシン非投与群の停滞時間はSAMR群と比較して短縮していた(図28)。この結果は、老化促進マウスは、空間記憶が障害されていることを示す。また、SAMPインドメタシン投与群の停滞時間は、非投与群と比較して延長していたが有意な差はなかった(図28)。
実施例21:健常人学習・記憶に対するインドメタシンの効果
ボランティアの健常成人100人 (20-45歳) を対象とし、コントロール群50人 (男性24人、女性26人)、インドメタシン (商品名: インダシン) 服用群50人 (男性30人、女性20人) に分け、試験を行った。試験は無作為に選んだ5桁の数字を3種類1秒毎に提示し、その5分後と3日後にどれだけ記憶しているかを検討した。1回目の試験終了翌日から、コントロール群はインダシンに類似したカプセルに入った消化剤を、インドメタシン服用群はインダシンカプセル (インドメタシン25 mg含有) をそれぞれ1日3回 (食後) に6日間服用した。消化剤カプセル、インダシンカプセル服用3日後に、1回目と同じ試験 (数字は異なる) を行った。正解した数字の数をスコアとした (満点は15)。
その結果、インドメタシン服用群は、コントロール群と比較し、5分後、3日後に記憶している数字の数が有意に増加していた(図29)。この結果は、インドメタシンに学習・記憶機能亢進作用があることを示す。
実施例22:2-[1-(4-クロロ-ベンゾイル)-5-メトキシ-2-メチル-1H-インドール-3-イル]-N-メチル-アセトアミドの合成
インドメタシン(ナカライ社製)(1.0等量)とメチルアミン塩酸塩(1.2等量)にDMF(インドメタシンの10V/W)を加えた後、WSCD(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド:peptide institute, INC.社製)(1.2等量)を加え室温で攪拌した。反応物に容量の2倍量の滅菌水と酢酸エチルを加え攪拌後、3000rpmで2分間遠心分離した。上清の酢酸エチル層を新しいチューブに移し、そこに等量の飽和重曹水を加え攪拌し、3000rpmで2分間で遠心分離した。再度上清の酢酸エチル層に等量の10%塩酸を加え、攪拌、3000rpmで2分間遠心分離後、上清を等量の滅菌水で二回洗浄し、最後に適量の硫酸マグネシウムを加え、攪拌後、得られた上清を乾燥機で乾燥させた。
インドメタシンアミド誘導体である2-[1-(4-クロロ-ベンゾイル)-5-メトキシ-2-メチル-1H-インドール-3-イル]-N-メチル-アセトアミドが合成できているかどうかはクロロホルムーメタノール (9.8:0.2) に溶解し薄層クロマトグラフィー(Rf値:0.525)で確認した。また、合成されたインドメタシンアミド誘導体の粉末を適当量の0.1%トリフルオロサクサン50%アセトニトリル飽和α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸溶液に溶かし、質量分析用プレートに散布後、MALDI飛行時間型質量分析計(Voyager アプライド・バイオシステムズ)により解析し質量分析を行った(TOF MSによる実測値:370.685474)。
実施例23:ラット海馬切片からのグルタミン酸放出に対する2-[1-(4-クロロ-ベンゾイル)-5-メトキシ-2-メチル-1H-インドール-3-イル]-N-メチル-アセトアミドの効果
ウィスターラット(6 週齢)の海馬切片を作製し、95% O2、5% CO2で飽和したテトロドトキシン(0.5μM)添加人工脳脊髄液(117 mM NaCl, 3.6 mM KCl, 2.5 mM CaCl2, 1.2 mM MgCl2, 1.2 mM NaH2PO4, 25 mM NaHCO3, 11.5 mMグルコース)に浸した。海馬切片に高濃度K+(20 mM)脱分極刺激を与え、KN-93 (3μM)非存在下ならびに存在下でインドメタシン (100μM) あるいはインドメタシンアミド誘導体(100μM)を34℃で20分間処理した。その後、上清をNBD-Fで蛍光標識し、高速液体クロマトグラフィーによりグルタミン酸を定量した。海馬スライスのタンパク量はBCA法で測定し、放出されたグルタミン酸量を補正した。インドメタシンアミド誘導体である2-[1-(4-クロロ-ベンゾイル)-5-メトキシ-2-メチル-1H-インドール-3-イル]-N-メチル-アセトアミドは、実施例22で合成したものを用いた。
その結果、インドメタシンアミド誘導体はインドメタシンよりも有意にグルタミン酸放出を増加させていた(図30)。このことは、インドメタシンアミド誘導体が認知機能亢進作用・認知機能障害改善作用についてインドメタシンよりも優れていることを示唆する。また、インドメタシンおよびインドメタシンアミド誘導体によるグルタミン酸放出増加は選択的CaMKII抑制剤KN-93で抑制された。このことは、インドメタシンと同様にインドメタシンアミド誘導体によるグルタミン酸放出もCaMKII経路に依存していることを示す。
(結論)
本発明者は、NSFが脳機能の改善における作用標的であり得ることを見出した。
例えば、インドメタシンはNSFに結合し、シナプス前終末からのグルタミン酸放出をCaMKII依存性に刺激し、海馬シナプス伝達を促進し得る、即ち、認知機能を亢進する、又は認知機能障害を改善する作用を有し得る。
DCP-LAはNSFに結合し、直接的PKC-ε活性化を通してα7ニコチン性アセチルコリン受容体の細胞膜への輸送を刺激し、シナプス前終末α7ニコチン性アセチルコリン受容体反応を増大し得る。その結果、DCP-LAはシナプス前終末からのグルタミン酸放出を刺激し、海馬シナプス伝達を促進し得る、即ち、認知機能を亢進する、又は認知機能障害を改善する作用を有し得る。
PC-12細胞におけるDCP-LA誘導PKC活性化を示す図である。 HPLCプロフィールにおいて、基質および生成物は、非リン酸化およびリン酸化基質ペプチドにそれぞれ対応する。 PC-12細胞におけるDCP-LA誘導PKC活性化を示す図である。 リン酸化基質ペプチド量を、PKC活性を指標として算出した。 各カラムは、平均 (±SEM) PKC活性 (pmol/分/μgタンパク質) を示す (n=5)。P, unpaired t検定。 PC-12細胞におけるリノール酸又はDCP-LA誘導PKC活性化を示す図である。 各点は、平均(±SEM) PKC活性 (pmol/分/μgタンパク質) を示す (n=5)。 基底PKC活性 (DCP-LA未処理の細胞におけるPKC活性) と比較すると**P<0.01, ***P<0.001。基底PKC活性 (リノール酸未処理の細胞におけるPKC活性) と比較すると#P<0.05, #P<0.01, ###P<0.001。各濃度でのリノール酸誘導PKC活性化とDCP-LA誘導PKC活性化との間で§P<0.05, §§P<0.01, unpaired t検定。 DCP-LAによる、選択的かつ直接的PKC-ε活性の誘導を示す図である。 各カラムは、平均 (±SEM) PKC活性 (pmol/分) を示す (n=4-6)。P, unpaired t検定。 DCP-LAによるPKC-εの用量依存性活性化を示す図である。 各点は、平均 (±SEM) PKC-ε活性 (pmol/分) を示す (n=8)。 基底PKC-ε活性 (DCP-LAの非存在下におけるPKC-ε活性) と比較すると**P<0.01, ***P<0.001, unpaired t検定。 α7 ACh受容体応答に対するDCP-LAの作用を示す図である。 図中の各点は、最初の振幅 (-10分) の平均 (±SEM) 百分率を表す (n=5-8)。 DCP-LAは、α7 ACh受容体電流を有意に増強した (P<0.01, ANOVA)。さらなる増強がPKC-ε注入により得られた (PKC-εを注入していない卵母細胞に対する増強と比較するとP<0.01,ANOVA)。 α7 ACh受容体応答に対する小胞輸送インヒビターの作用を示す図である。 図中の各点は、最初の振幅 (-10分) の平均 (±SEM) 百分率を表す (n=5-6)。 α7 ACh受容体電流の増強は、butandione monoxime、jasplakinolide、又はlatrunculin Bにより有意に阻害された (P<0.01, ANOVA)。 DCP-LA処理によるα7 ACh受容体の細胞質から原形質膜 (9-11分画) への移行を、ウェスタンブロッティングにより示す図である。 図5−Aのウェスタンブロッティング解析の定量を示す図である。 細胞質から細胞膜へのα7 ACh受容体小胞輸送の、DCP-LAによるPKC依存性促進を、ウェスタンブロッティングにより示す図である。 未処理又はDCP-LA処理による、α7 ACh受容体強制発現PC-12細胞における細胞全体のα7 ACh受容体発現に対する細胞膜表面α7 ACh受容体発現の割合の変化を示す図である。 DCP-LA-Fluと結合したタンパク質のバンドを示す図である。 DCP-LA-Fluと結合したタンパク質のMSスペクトルを示す図である。 インドメタシンのNSFに対する結合能を示す図である。 培養ラット海馬神経細胞におけるカルシウム/カルモデュリン依存性タンパク質リン酸化酵素II (CaMKII) 活性化に対するインドメタシンの効果を示す図である。 各カラムは、平均 (±SEM) CaMKII活性 (pmol/分/μgタンパク質) を示す (n=16)。P, ANOVA。 微小興奮性シナプス後電流 (mEPSC) に対するインドメタシンの効果を示す図である。ラット海馬切片CA1錯体細胞からのmEPSCの波形を示す(n=5)。 微小興奮性シナプス後電流 (mEPSC) に対するインドメタシンの効果を示す図である。インドメタシンのmEPSC発現頻度ならびに振幅に対する効果を示す (n=5)。 CaMKII経路を介したインドメタシンのグルタミン酸放出刺激作用を示す図である。ラット海馬切片CA1錯体細胞からのmEPSCの波形を示す (n=7)。 CaMKII経路を介したインドメタシンのグルタミン酸放出刺激作用を示す図である。KN-93非存在下ならびに存在下におけるインドメタシンのmEPSC発現頻度ならびに振幅に対する効果を示す (n=7)。 ラット海馬切片からのグルタミン酸放出に対するインドメタシンの効果を示す図である。 各カラムは平均 (±SEM) を示す (n=8)。P, ANOVA。 海馬シナプス伝達に対するインドメタシンの効果を示す図である。 各点は、fEPSP傾きの平均 (±SEM) 百分率を示す (n=5)。 CaMKIIの経路を介したインドメタシンの海馬シナプス伝達促進作用を示す図である。 ラット海馬切片のCA1領域から細胞外興奮性シナプス後電位 (fEPSP) を記録した。選択的カルシウム/カルモデュリン依存性タンパク質リン酸化酵素II (CaMKII)阻害剤KN-93 (3μM)、選択的タンパク質リン酸化酵素C (PKC) 阻害剤GF109203 (100 nM)、選択的タンパク質リン酸化酵素A (PKA) 阻害剤H-89 (1μM)、選択的α7ニコチン性アセチルコリン受容体阻害剤α-ブンガロトキシン(bungarotoxin)(100 nM)存在下でインドメタシン100μMを10分間処理した。 各点はfEPSP傾きの平均 (±SEM) 百分率を示す (n=5)。 正常ラット空間学習・記憶に対するインドメタシンの効果を示す図である。インドメタシン投与群のプラットホームへの到達時間 (潜時) を測定した。P, ANOVA。 各点は平均 (±SEM) 潜時 (秒) を示す (n=10)。 正常ラット空間学習・記憶に対するインドメタシンの効果を示す図である。5日間の学習試験後、プラットホームを取り除き、プラットホームがあった場所にどれ位の時間留まるか (停滞時間) を調べた。 各カラムは平均 (±SEM) 停滞時間 (秒) を示す (n=10)。P, ANOVA。 スコポラミン処理学習・記憶障害ラットに対するインドメタシンの効果を示す図である。インドメタシン非投与又はインドメタシン投与スコポラミン処理ラットのプラットホームへの到達時間 (潜時) を測定した。 各点は平均 (±SEM) 潜時 (秒) を示す (n=5)。P, ANOVA。 スコポラミン処理学習・記憶障害ラットに対するインドメタシンの効果を示す図である。インドメタシン非投与又はインドメタシン投与スコポラミン処理ラットについて、4日間の学習試験後、プラットホームを取り除き、プラットホームがあった場所にどれ位の時間留まるか (停滞時間) を調べた。 各カラムは平均 (±SEM) 停滞時間 (秒) を示す (n=5)。P, ANOVA。 老化促進マウス空間学習・記憶に対するインドメタシンの効果を示す図である。SAMR及びSAMP (インドメタシン非投与群及びインドメタシン投与群) のプラットホームへの到達時間 (潜時) を測定した。 各点は平均 (±SEM) 潜時 (秒) を示す (n=10)。P, ANOVA。 老化促進マウス空間学習・記憶に対するインドメタシンの効果を示す図である。SAMR及びSAMP (インドメタシン非投与群及びインドメタシン投与群) について、5日間の学習試験後、プラットホームを取り除き、プラットホームがあった場所にどれ位の時間留まるか (停滞時間) を調べた。 各カラムは平均 (±SEM) 停滞時間 (秒) を示す (n=10)。P, ANOVA。SAMP, senescence-accelerated mouse proneSAMR, senescence-accelerated mouse resistant 健常人学習・記憶に対するインドメタシンの効果を示す図である。P, ANOVA。 ラット海馬切片からのグルタミン酸放出に対するインドメタシンアミド誘導体の効果を示す図である。 各カラムは平均 (±SEM) を示す (n=6)。P, ANOVA。

Claims (2)

  1. −[1−(4−クロロ−ベンゾイル)−5−メトキシ−2−メチル−1H−インドール−3−イル]−N−メチル−アセトアミド又はその塩を含む、脳機能の改善剤であって、脳機能の改善が、NSFの機能を促進して海馬からのグルタミン酸放出を促進することによるものである、剤。
  2. 認知症あるいは学習又は記憶障害の予防又は治療剤、若しくは学習又は記憶の向上剤である、請求項1記載の剤。
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