JP5283104B2 - アセチル化及び脱アセチル化の蛍光可視化検出方法 - Google Patents

アセチル化及び脱アセチル化の蛍光可視化検出方法 Download PDF

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Description

本発明は、生細胞内におけるタンパク質のアセチル化及び脱アセチル化を検出する方法に関する。より詳細には、生細胞内におけるタンパク質のアセチル化及び脱アセチル化状態を検出するための蛍光プローブ及び、該蛍光プローブを用いたアセチル化及び脱アセチル化状態の検出方法に関する。
タンパク質の機能を制御する現象として、リン酸化と並びアセチル化が有名である。これまでに、ヒストンやp53タンパク質など、多くのタンパク質がアセチル化によって活性制御を受けていることが報告されている。なかでも、ヒストンのアセチル化に関する知見はこれまでに多数報告されている。
コアヒストンのアセチル化はクロマチンの構造と機能を制御する重要な翻訳後修飾であるが、ヒストンのアセチル化はヒストンアセチル化酵素(HAT)とヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)によってダイナミックに制御されている。アセチル化されたヒストンはブロモドメインと呼ばれるアセチル化リジンと特異的に結合する部位をもつタンパク質と結合する。
従来、細胞内のタンパク質のアセチル化量を調べる方法として、細胞を、トリチウム標識された酢酸で処理することにより細胞内のアセチル化タンパク質をアセチル化ラベルした後、目的のタンパク質を精製し、アセチル化タンパク質の放射能をオートラジオグラフィーで検出する方法と、アセチル化タンパク質を特異的に認識する抗体を用いたウェスタンブロッティング法が用いられてきた。また、アセチル化タンパク質の局在を調べる方法として、固定化した細胞に膜透過処理を行い、アセチル化タンパク質を特異的に認識する抗体を用いてその局在を検出する免疫染色法が知られている。これらの従来法は、いずれも細胞を破砕することが必要であり、生きた細胞におけるタンパク質のアセチル化・脱アセチル化の空間分解能及び時間分解能を持った解析をすることは不可能であった。
一方、タンパク質アセチル化と同様に重要な翻訳後修飾であるタンパク質リン酸化は、蛍光プローブを用いた生細胞内での空間及び時間分解能を持った解析が報告されている(非特許文献1、非特許文献2、特許文献1及び特許文献2)。
また、ヒストンのアセチル化を制御するヒストンアセチル化酵素(HAT)とヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の活性の異常は、癌の発症と密接に関わっていることが報告されている(非特許文献3)。HDAC阻害剤であるsuberoylanilide hydroxamic acid(SAHA)を、前立腺癌細胞を移植したマウスに投与すると、SAHAを投与していないマウスと比較して20日間で癌細胞が97%減少していることが観察された(非特許文献4)。SAHAは臨床第一相試験が報告されている(非特許文献5)。また、抗癌活性を持つ微生物由来のFK228は、HDACの活性を阻害しており、慢性リンパ球性白血病と急性骨髄性白血病患者に対する臨床第一相試験も行われている(非特許文献6)。このようHDACを阻害する化合物は有効な抗癌剤の候補になり得る。
Satoら,Nature Biotechnol.20:287−294,2002 Zhangら,Proc Natl Acad Sci USA 98:14997−15002,2001 Furumaiら、Exp.Med.24:1240−1245、2006 Butlerら、Cancer Res.60:5165−5170、2000 Kellyら、Clin.Cancer Res.9:3578−3588、2003 Byrdら、Blood 105:959−967、2005 国際公開第2002/077623号パンフレット 特表2005−501525号公報
本発明者らは、上記事情に鑑み、生細胞内におけるタンパク質のアセチル化及び脱アセチル化を検出する方法について鋭意研究を行った結果、細胞を破砕することなく、タンパク質のアセチル化及び脱アセチル化を検出することが可能な蛍光プローブを開発し、本発明を完成させるに至った。
よって、本発明は、生細胞におけるタンパク質のアセチル化及び脱アセチル化を検出するための蛍光プローブの提供を目的とする。
また、本発明は、生細胞におけるタンパク質のアセチル化及び脱アセチル化を検出するための蛍光プローブを用いた、細胞内タンパク質のアセチル化及び脱アセチル化状態を検出する方法の提供を目的とする。
すなわち、本発明は以下の(1)〜(18)に関する。
(1)本発明の第1の態様は、「アセチル化基質ドメインと、アセチル化基質結合ドメインを、リンカーペプチドで連結し、該アセチル化基質ドメインと該アセチル化基質結合ドメインに、各々、異なる2つの蛍光特性を持つ蛍光タンパク質を連結し、前記異なる2つの蛍光特性を持つ蛍光タンパク質がFRETのドナーとアクセプターの関係にある蛍光プローブ」である。
(2)本発明の第2の態様は、「前記リンカーペプチドが、グリシン及び/又はセリンからなることを特徴とする上記(1)に記載の蛍光プローブ」である。
(3)本発明の第3の態様は、「前記リンカーペプチドの配列が、配列番号1で表される配列が1〜9回繰り返された配列であることを特徴とする上記(1)に記載の蛍光プローブ」である。
(4)本発明の第4の態様は、「前記蛍光タンパク質が、GFP又はGFPの色変異体であることを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の蛍光プローブ」である。
(5)本発明の第5の態様は、「前記GFPの色変異体が、Venus、CFP、YFP、RFP、BFPからなるグループから選択されることを特徴とする上記(4)に記載の蛍光プローブ」である。
(6)本発明の第6の態様は、「前記アセチル化基質ドメインがヒストンH4であることを特徴とする上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の蛍光プローブ」である。
(7)本発明の第7の態様は、「前記アセチル化基質結合ドメインがブロモドメインを有するタンパク質であることを特徴とする上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の蛍光プローブ」である。
(8)本発明の第8の態様は、「前記ブロモドメインを有するタンパク質が以下の(a)又は(b)で示されるポリペプチドであることを特徴とする上記(7)に記載の蛍光プローブである。
(a)配列番号2で表される配列の1〜443番目のアミノ酸からなるポリペプチド、
(b)配列番号2で表される配列の1〜443番目のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失若しくは挿入を持つアミノ酸配列からなり、かつ、アセチル化されたタンパク質と結合するポリペプチド」
(9)本発明の第9の態様は、「前記ブロモドメインを有するタンパク質が以下の(a)又は(b)で示されるポリペプチドであることを特徴とする請求項7に記載の蛍光プローブ。
(a)配列番号4で表される配列の57〜468番目のアミノ酸からなるポリペプチド、
(b)配列番号4で表される配列の57〜468番目のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失若しくは挿入を持つアミノ酸配列からなり、かつ、アセチル化されたタンパク質と結合するポリペプチド」である。
(10)本発明の第10の態様は、上記(1)乃至(9)のいずれかに記載の蛍光プローブをコードする核酸」である。
(11)本発明の第11の態様は、「上記(10)に記載の核酸を含むベクター」である。
(12)本発明の第12の態様は、「上記(1)乃至(9)のいずれかに記載の蛍光プローブを生細胞内に導入し、該蛍光プローブから得られるFRET変化を検出し、生細胞内における前記アセチル化基質ドメインのアセチル化−脱アセチル化の変動を測定する方法」である。
(13)本発明の第13の態様は、「上記(11)に記載のベクターを生細胞内に形質導入し、該ベクターから蛍光プローブが発現する条件下で細胞を培養し、細胞内で発現した蛍光プローブから得られるFRET変化を検出し、生細胞内における前記アセチル化基質ドメインのアセチル化−脱アセチル化の変動を測定する方法」である。
(14)本発明の第14の態様は、「上記(7)乃至(9)のいずれかに記載の蛍光プローブを生細胞内に導入し、該生細胞と候補化合物とを反応させ、蛍光プローブから得られるFRETを検出し、生細胞と候補化合物を反応させた結果FRETが変化した場合、該候補化合物をブロモドメイン結合因子であると判定する、ブロモドメイン結合因子のスクリーニング方法」である。
(15)本発明の第15の態様は、「上記(7)乃至(9)のいずれかに記載の蛍光プローブを生細胞内に導入し、該生細胞と候補化合物とを反応させ、蛍光プローブから得られるFRETを検出し、該生細胞と候補化合物を反応させた結果FRETが変化した場合、該候補化合物をヒストンアセチル化酵素活性の制御因子であると判定する、ヒストンアセチル化酵素活性の制御因子のスクリーニング方法」である。
(16)本発明の第16の態様は、「上記(7)乃至(9)のいずれかに記載の蛍光プローブを生細胞内に導入し、該生細胞と候補化合物とを反応させ、蛍光プローブから得られるFRETを検出し、該生細胞と候補化合物を反応させた結果FRETが変化した場合、該候補化合物をヒストン脱アセチル化酵素活性の制御因子であると判定する、ヒストン脱アセチル化酵素活性の制御因子のスクリーニング方法」である。
(17)本発明の第17の態様は、「ブロモドメイン結合因子のスクリーニングシステムであって、以下の手段:
(a)上記(7)乃至(9)のいずれかに記載の蛍光プローブを生細胞に導入する手段、
(b)前記生細胞と候補化合物とを反応させる手段、
(c)蛍光プローブから得られるFRETの変化を検出する手段、及び
(d)前記FRETの変化の検出結果を指標にして、候補化合物の中からブロモドメイン結合候補化合物を選別する手段、
を含む前記システム」である。
(18)本発明の第18の態様は、「ヒストンアセチル化酵素活性又はヒストン脱アセチル化酵素活性の制御因子のスクリーニングシステムであって、以下の手段:
(a)上記(7)乃至(9)のいずれかに記載の蛍光プローブを生細胞に導入する手段、
(b)前記生細胞と候補化合物とを反応させる手段、
(c)蛍光プローブから得られるFRETの変化を検出する手段、及び
(d)前記FRETの変化の検出結果を指標にして、候補化合物の中からヒストンアセチル化酵素活性又はヒストン脱アセチル化酵素活性の制御因子候補化合物を選別する手段、
を含む前記システム」である。
本発明の蛍光プローブを用いると、生きた細胞内におけるタンパク質のアセチル化・脱アセチル化の時間的空間的動態を観察することができる。
特に、本発明の蛍光プローブを用いると、ヒストンのアセチル化・脱アセチル化の時間的空間的動態を観察することができる。
さらに、本発明の蛍光プローブを用いると、アセチル化を受けるタンパク質(以下、「アセチル化基質ドメイン」と称する)と、アセチル化を受けたタンパク質と結合するタンパク質(以下、「アセチル化基質結合ドメイン」と称する)との結合に対し、影響を与える因子のスクリーニングを行うことができる。
本発明の蛍光プローブは、生細胞内におけるタンパク質アセチル化状態を簡便かつ迅速かつ高感度で検出できる。従って、本発明の蛍光プローブは、HAT及びHDACを活性化又は阻害する化合物の生細胞を用いたスクリーニングに利用することができる。
本発明の実施形態の一つは、アセチル化基質ドメインと、アセチル化基質結合ドメインを、リンカーペプチドで連結し、該アセチル化基質ドメインと該アセチル化基質結合ドメインに、各々、異なる蛍光特性を持つ蛍光タンパク質を連結した蛍光プローブである(図1参照)。
「アセチル化基質ドメイン」には、アセチル化されるアミノ酸を含むタンパク質又はポリペプチド断片であって、必ずしも、機能的領域として作用しないものも含まれる。アセチル化基質ドメインとしては、例えば、ヒストンH2A、ヒストンH2B、ヒストンH3、ヒストンH4、p53タンパク質、α−チューブリン、HSP90、HIF1α、NF−kappaB、Importin α、Ku70、アンドロゲンレセプター 及びこれらの断片などを挙げることができる。また、「アセチル化基質結合ドメイン」とは、アセチル化基質ドメインと結合するタンパク質又はポリペプチド断片であって、必ずしも、機能的領域として作用しないものも含まれる。アセチル化基質結合ドメインとしては、例えば、BRDT(bromodomain protein testis−specific)、Brd2(bromodomain containing protein 2)、Brd4、TAFII250、PCAF、GCN5、CBPのブロモドメインなどを挙げることができる。
また、「リンカーペプチド」とは、アセチル化基質ドメインとアセチル化基質結合ドメインとを連結して一体化するためのペプチドのことである。リンカーペプチドを用いて連結して一本化することによって、同一分子内のアセチル化基質ドメインとアセチル化基質結合ドメインを優先的に結合させる。リンカーペプチドは、生細胞内において、アセチル化基質ドメインとアセチル化基質結合ドメインとの結合を阻害せず、また、アセチル化基質ドメインに連結される蛍光タンパク質と、アセチル化基質結合ドメインに連結される蛍光タンパク質との間で生じるFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を阻害しないものであれば、いかなるものでも使用可能であるが、かさ高くないアミノ酸から構成され、親水性(極性)のアミノ酸を含む15〜50アミノ酸長程度のペプチドが好ましい。このようなリンカーペプチドとしては、例えば、配列番号1で表される配列が1〜9回繰り返す配列からなるものが、より好ましくは、3〜5回繰り返す配列からなるものが好適に使用可能である。
本発明の蛍光プローブにおいて(図1参照)、2つの蛍光タンパク質、アセチル化基質結合ドメイン、リンカーペプチド、及びアセチル化基質ドメイン同士は、アセチル化基質結合ドメインとアセチル化基質ドメインが結合することができれば、直接結合しても、あるいは、数個〜数十個のアミノ酸がスペース(特に機能を有さない配列)として介在していても良い。本発明の蛍光プローブに使用される2つの「蛍光タンパク質」は、蛍光特性の異なるものであって、相互にFRETのドナーとアクセプターの関係にあるものであれば、如何なるものであってもよく、限定はしないが、例えば、Venus、CFP、YFP、RFP、GFP、BFPなどから、FRETが生じる組合せを適宜選択して使用することができる。
本発明の他の実施形態は、本発明の蛍光プローブをコードする核酸及び該核酸を有するベクターである。本発明の蛍光プローブをコードする核酸は、当業者において周知の技術により調製することができ、例えば、蛍光プローブを構成する各ポリペプチド(蛍光タンパク質、アセチル化基質結合ドメイン、リンカーペプチド、及びアセチル化基質ドメイン)をコードする遺伝子の必要領域を連結することにより、調製することができる。各遺伝子は、該遺伝子を発現している細胞からcDNAライブラリーを調製し、定法のスクリーニング方法により取得してもよく、又は、利用可能は市販のcDNAライブラリーなどを用いて取得してもよい。あるいは、各遺伝子が発現している細胞よりRNAを調製し、逆転写酵素によりcDNAを合成した後、該遺伝子配列に基づいて設計したPCRプライマーで増幅して取得してもよい。この場合、PCRプライマーの5’末端側に適当な制限酵素サイトをデザインすることで、各遺伝子を容易に連結することができる。
蛍光プローブを細胞内で発現するためのベクターとしては、目的の細胞内で複製可能なものであって、蛍光プローブを発現させることができるプロモーターなどを有するものが使用可能である。例えば、動物細胞を用いる場合には、CMVプロモーター、SRαプロモーター、LTRプロモーター又はSV40プロモーターなどが利用可能である。蛍光プローブをコードするDNAは、当業者において周知の技術を用いて、ベクター中に挿入することができる。得られた発現ベクターは、定法に従い、目的の細胞に導入することができる。
本発明の更なる実施形態は、本発明の蛍光プローブを生細胞内に導入し、該蛍光プローブから検出されるFRET変化を測定し、生細胞内における前記アセチル化基質ドメインのアセチル化−脱アセチル化の変動を検出する方法である。
本発明の蛍光プローブ(図1参照)は、アセチル化基質ドメイン(図1、ヒストンH4)とアセチル化基質結合ドメイン(図1、ブロモドメイン)との結合解離に伴うFRETの変化をモニターすることで、アセチル化基質ドメインのアセチル化及び脱アセチル化状態の変動を、生細胞内でリアルタイムに検出することを可能にするものである。つまり、アセチル化基質ドメインがアセチル化されていない状態では、アセチル化基質結合ドメインと結合せず、両ドメインに連結している蛍光タンパク質間にFRETが生じるが、アセチル化基質ドメインがアセチル化されると、アセチル化基質結合ドメインと結合するため、蛍光タンパク質間におけるFRETが解消する。このようなFRETの変化を検出することで、アセチル化基質ドメインのアセチル化状態をモニターすることができる。
さらに、本発明の蛍光プローブを用いると、アセチル化基質ドメインとして完全長のタンパク質、あるいは、該タンパク質の細胞内局在に影響を与えない程度の長さのタンパク質の一部を用いると、細胞内において適切な局在を示すことにより、アセチル化状態の変化をその局在位置においてモニターすることが可能となる。この場合、FRETの変化は特定の細胞について、蛍光顕微鏡などにより観察することができるため、目的のタンパク質(アセチル化基質ドメイン)のアセチル化状態の変化をリアルタイムで可視化することができる。
本発明の蛍光プローブの細胞内への導入は、発現させた蛍光プローブを細胞内導入試薬、あるいは、膜貫通ペプチドなどを連結させて導入することもできるが、上述した蛍光プローブの発現ベクターを目的の細胞に形質導入して、該細胞内で発現させる手法を用いてもよい。
本発明の他の実施形態は、本発明の蛍光プローブを生細胞内に導入し、ヒストンアセチル化酵素(HAT)又はヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の活性を制御する因子をスクリーニングする方法である。本発明の蛍光プローブは、細胞内において、アセチル化されたアセチル化基質ドメインと結合するとFRETが解消するという特徴をもつ。この特徴を利用すれば、細胞内における該蛍光プローブのアセチル化状態の変化をモニターすることで、ヒストンアセチル化酵素(HAT)又はヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の活性に影響を与える物質を検出することができる。ここで「制御する因子」には、酵素活性を促進する因子及び阻害する因子の両方が含まれる。本実施態様により得られた候補化合物は、対象とするヒストンアセチル化酵素(HAT)又はヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)に対する影響を更に調べることで、各酵素活性の促進因子であるか阻害因子であるかを容易に判定することができる。また、本実施態様において、あらかじめ既知の各酵素(HAT又はHDAC)活性の阻害因子又は促進因子を細胞に対して添加してもよく、あるいは、あらかじめ各酵素(HAT又はHDAC)を細胞内で発現させておいてもよい。
本発明の他の実施形態は、本発明の蛍光プローブを生細胞内に導入し、アセチル化基質ドメインとアセチル化基質結ドメインとの結合を競合的に阻害する因子をスクリーニングする方法である。上述のように本発明の蛍光プローブは、細胞内において、アセチル化されたアセチル化基質ドメインと結合するとFRETが解消するという特徴をもつ。この特徴を利用して、アセチル化基質ドメインとアセチル化基質結合ドメインとの結合を、いずれかのドメインに競合的に結合して、両ドメイン同士の結合を阻害する物質の検出を行うことができる。つまり、細胞内に本発明の蛍光プローブを導入した状態で、アセチル化基質ドメインのアセチル化状態を一定の状態に保っておけば、アセチル化基質ドメインとアセチル化基質結合ドメインとの結合も一定の状態に保たれることになる。ここに、アセチル化基質ドメイン−アセチル化基質結合ドメインの相互作用と競合する物質が作用すると、蛍光プローブに存在する蛍光タンパク質間のFRETに変動が生じるため、競合物質の存否を蛍光強度比の変化として捉えることが可能となる。例えば、アセチル化基質ドメインをヒストンH4又はH3とし、アセチル化基質結合ドメインをブロモドメインタンパク質又はそのブロモドメインとして蛍光プローブを調製すれば、ブロモドメインとヒストンとの結合を競合的に阻害する物質のスクリーニングが可能となる。ここでブロモドメインとしては、限定はしないが、例えば、配列番号2で表される配列の1〜443番目のアミノ酸からなるポリペプチド、又は、配列番号2で表される配列の1〜443番目のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失若しくは挿入を持つアミノ酸配列からなり、かつ、アセチル化されたタンパク質と結合するポリペプチド、あるいは、配列番号4で表される配列の57〜468番目のアミノ酸からなるポリペプチド、又は、配列番号4で表される配列の57〜468番目のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失若しくは挿入を持つアミノ酸配列からなり、かつ、アセチル化されたタンパク質と結合するポリペプチド、などを挙げることができる。
ブロモドメインは、転写のメディエーター/コアクチベーター等に見られるドメインのことで、アセチル化ヒストンと結合することが報告されている。ブロモドメインを有するタンパク質は、クロマチンの構造変化を通じて転写の制御に関与していると考えられているが、最近、ブロモドメインタンパク質がヒトの疾患の発症と関連している可能性も示唆されている。例えば、BRD4−NUT癌遺伝子発現を誘導するt(15:19)染色体転座が、複数の腫瘍患者において確認されている(Frenchら、Cancer Res 63:304−307、2003)。また、Brd2及びBrd4は、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)タンパク質(LANA−1)と結合することが知られており(Youら、J Virol.80:8909−8919、2006;Viejo−Borbollaら、J Virol.79:13618−13629、2005;Plattら、J Virol.73:9789−9795、1999)、さらに、Brd4はヒトパピローマウイルスE2と結合し(Youら、Cell 117:349−360、2004)、宿主染色体上の足場となり、ウイルスの宿主細胞内での伝播に利用されていることなどから、ウイルス感染に重要な役割を果たしていると考えられる。これらの機能には、アセチル化ヒストンを介して染色体に結合するブロモドメインの機能が重要と考えられるので、ブロモドメインと結合してアセチルヒストンH4との相互作用を阻害する物質は、抗癌剤、抗ウイルス剤として期待できる。
本発明の実施形態には、アセチル化基質ドメインと競合してアセチル化基質結合ドメインに結合する因子をスクリーニングするためのシステムも含まれる。
本発明のシステムには、
(a)本発明の蛍光プローブを生細胞に導入する手段、
(b)前記生細胞とブロモドメイン結合候補化合物とを反応させる手段、
(c)蛍光プローブから得られるFRETの変化を検出する手段、及び
(d)前記FRETの変化の検出結果を指標にしてブロモドメイン結合候補化合物を選別する手段、
及び、
(a)本発明の蛍光プローブを生細胞に導入する手段、
(b)前記生細胞と候補化合物とを反応させる手段、
(c)蛍光プローブから得られるFRETの変化を検出する手段、及び
(d)前記FRETの変化の検出結果を指標にして、候補化合物の中からヒストンアセチル化酵素活性又はヒストン脱アセチル化酵素活性の制御因子候補化合物を選別する手段、
を含む前記システム
本発明の蛍光プローブを細胞内へ導入する手段としては、発現ベクターを介して形質導入する方法によるのが一般的であるが、場合によっては、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法により蛍光プローブを直接導入する方法であってもよく、これらの方法を採用する場合には、各々、倒立顕微鏡、マイクロマニュピレーター及びインジェクターなどの細胞導入装置、エレクトロポレーション装置などを使用してもよい。候補化合物と細胞を反応させる手段としては、適当な量の候補化合物を適当な担体と共に細胞と混合する方法が利用可能である。蛍光イメージは、例えば、440AF21励起フィルター455DRLP2色性ミラーと、2つの放射フィルター(CFP用;480AF30、Venus用;535AF26)を備えたMetaFluor(Universal Imaging社)を用いて取り込み、480nm/535nmの蛍光強度比を経時的に観察することができる。また、候補化合物を選別する手段は、蛍光プローブからのFRETが生じた結果、蛍光強度が変化したと判断できる場合に、該候補化合物がアセチル化基質結合ドメインと結合する化合物の候補、又はヒストンアセチル化酵素又はヒストン脱アセチル化酵素の活性を制御する化合物の候補であると判断する手段である。
以下に実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
1.蛍光プローブの調製
本実施例では、アセチル化基質ドメインとしてヒストンH4の全長、アセチル化基質結合ドメインとしてBRDTのブロモドメイン又はBrd2のブロモドメイン、蛍光タンパク質としてCFPとVenusを用いて蛍光プローブを調製した(図1)。Venus、BRDTのブロモドメイン、Brd2のブロモドメイン、ヒストンH4、CFPをコードするDNAは、各々、配列番号9、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号11からなる鋳型DNAに対し、下記のプライマーセットを用いて、pyrobest DNA Polymerase(Takara社)を用い、添付の説明書に従ってPCRを行うことにより取得した。なお、鋳型となるDNAに関して、マウスヒストンH4については、プロクエストツーハイブリッドcDNAライブラリー(マウス脳;invitrogen社)から、
H4−For:5’−GGGGACAAGTTTGTACAAAAAAGCAGGCTCCGGTACCATGTCAGGACGAGGA−3’(配列番号12)
H4−Rev no Stop:5’−GGGGACCACTTTGTACAAGAAAGCTGGGTCGACGCCGCCGAAGCCGTA−3’(配列番号13)、
のプライマーペアーを用いて、pyrobestDNA polymerase(Takara社)を使用し、PCRを行い、GATEWAY法(Invitrogen社)によりクローニングを行った。また、マウスBRDTについては、Pivot−Pajotら,Mol.Cell.Biol.23:5354−5365,2003に記載のクローニング方法により、ヒトBrd2については、スーパースクリプトプリメイドcDNAライブラリー(ヒト脳;invitrogen社)から、
hBrd2_EcoRI_for:5’−CGAATTCACCCCTGCCAACCCA−3’(配列番号14)
hBrd2_XhoIstopSalI_rev:5’−AGTTCTCGAGTTAGTCGACGGCAGTAGAGACTGG−3’(配列番号15)
プライマーペアーを用いて、pyrobestDNA polymerase(Takara社)を使用し、PCRを行い、クローニングを行った。Venusについては、Nagaiら,Nat.Biotechnol.20:87−90,2000に記載のクローニング方法により入手し、CFPについては、クロンテック社から購入した。
Venus
GFPforEcoRI:5’−CCGTGGTACCATGGTGAGCAAGGGC−3’(配列番号16)
GFPrevEcoRI:5’−CCGTGAATTCCTTGTACAGCTCGTC−3’(配列番号17)
BRDTのブロモドメイン
BRDTforEcoRI:5’−AGTTGAATTCTTTAAACCCGAGGAGCTA−3’(配列番号18)
BRDTrevSalI:5’−AGTTGTCGACAAGAGACTGCATGACAGG−3’(配列番号19)
Brd2のブロモドメイン
hBrd2_EcoRI_for:5’−CGAATTCACCCCTGCCAACCCA−3’(配列番号14)
hBrd2_XhoIstopSalI_rev:5’−AGTTCTCGAGTTAGTCGACGGCAGTAGAGACTGG−3’(配列番号15)
ヒストンH4
H4forBamHI:5’−AGTTGGATCCATGTCAGGACGAGGAAAA−3’(配列番号22)
H4revSalI:5’−AGTTGTCGACGCCGCCGAAGCCGTA−3’(配列番号23)
CFP
GFPforSalI_EcoRV:5’−AGTTGTCGACCCAGCTTTCTTGTACAAAGTGGTTGATATCATGGTGAGCAAGGGC−3’(配列番号24)
GFPrevXhoI:5’−AGTTCTCGAGTTACTTGTACAGCTCGTC−3’(配列番号25)
また、リンカーペプチドをコードするDNAについては、下記のポリヌクレオチドを、定法によりアニールさせて調製した。
リンカーペプチド
Linker(GGGGS)4for:5’−TCGACGGAGGAGGTGGATCTGGTGGAGGAGGTTCTGGAGGTGGTGGTTCA GGTGGTGGAGGATCTG−3’(配列番号20)
Linker(GGGGS)4rev:5’−GATCCAGATCCTCCACCACCTGAACCACCACCTCCAGAACCTCCTCCACCAGATCCACCTCCTCCG−3’(配列番号21)
調製した各DNAは、まず、下記の制限酵素セットで切断した後、pcDNA3.1(Invitrogen社)にクローニングをおこなった、
Venus:KpnI、EcoRI
BRDT及びBrd2のブロモドメイン:EcoRI、SalI
リンカーペプチド:SalI、BamHI
ヒストンH4:BamHI、SalI
CFP:SalI、XhoI
次に、ヒストンH4とCFPをpcDNA3.1のBamHI−XhoIサイトにクローニングし、その後、Venus、BRDTのブロモドメイン及びリンカーペプチドを順次クローニングし、5’側から、Venus、BRDTのブロモドメイン又はBrd2のブロモドメイン、リンカーペプチド、ヒストンH4、CFPをコードする各DNAの順に配置された発現ベクターを調製した。
蛍光プローブを発現させるCos7細胞は、10%FCS,1%ペニシリン/ストレプトマイシン、1%MEM Non−Essential Amino Acids (Invitrogen社)、1mM ピルビン酸ナトリウムを添加したDMDM中で培養した。
調製した発現ベクターは、FuGENE6(ロシュ社)を用いてCos7細胞に形質導入し、その後、37℃、5%COの条件下で静置した。
2.蛍光プローブを用いたアセチル化及び脱アセチル化状態の検出
以下、調製した蛍光プローブ(図1、以下VB4HC(BRDTのブロモドメインを使用)又はBrd2−VB4HC(Brd2のブロモドメインを使用)とする。)を細胞内に導入し、ヒストンH4のアセチル化状態を検出した結果を示す。実験のコントロールとして、BRDTのブロモドメインに存在する2つのチロシンをアラニンに置換し、アセチル化ヒストンとの結合能を消失させたもの(図1、VB4HC−Y2A)、ヒストンH4の4つのリジン(5番目、8番目、12番目及び16番目)をアルギニンに置換し、アセチル化を受けない変異体としたもの(図1、VB4HC−K4R)を作製して、適宜使用した。
2−1.VB4HCの機能について
BRDTのブロモドメインはヒストンH4の5番目のリジンと8番目のリジンがアセチル化された時に結合するが、5番目と8番目のリジンのアセチル化はヒストンH4が高度にアセチル化された状態で生じる。従って、本実施例で使用した蛍光プローブはヒストンH4の過剰アセチル化状態をモニターすることができる。図2は、Venus−BRDTのコンストラクトを細胞内に形質導入し、Pivot−Pajotらの方法(Pivot−Pajotら、Mol.Cell Biol.23:5354−5364、2003)により行ったペプチドプルダウンアッセイの結果を示すものである。この結果から、BRDTのブロモドメインはアセチル化したヒストンH4と特異的に結合し、ヒストンH4の5番目と8番目の両方のリジンがアセチル化されたときのみBRDTのブロモドメインと結合することが明らかとなった(図2下段)。
2−2.VB4HCの細胞内局在
VB4HCの細胞内局在について検討を行った(図3)。VB4HCをCos7細胞に形質導入した後、蛍光イメージの観察のためにフェノールレッドを含まない培養液に置換した。細胞は、CCDカメラ(UIC−QE;Molecular Devies社)を備えた顕微鏡(Olympus IX81;オリンパス社)を用いて、37℃、5%COの条件下で観察を行った。Hoechst33342とVenusのイメージは、Delta Vision system(Applied Precision社)を用いて、CCDカメラ(PhotometricsCH350L;Roper社)を備えた顕微鏡(Olympus IX70;オリンパス社)を用いて取り込んだ。その結果、作製したVB4HCは、DNAと同じ局在を示すことが分かった(図3D)。
また、細胞成分を分画してVB4HCの存在を確認したところ、内在性のヒストンと同様にクロマチン内に取り込まれていることも分かった(図4)。
2−3.VB4HCの細胞内におけるアセチル化状態の経時変化
ヒストン脱アセチル化阻害剤であるトリコスタチンA(TSA)処理によるVB4HCのアセチル化の蓄積をイムノブロッティング(ウエスタンブロティング法)により検出した結果である(図5)。VB4HCを発現するCos7細胞と発現していないCos7細胞を、1μMのTSAで37℃にて、0、1、2、3、4、8時間処理し、各時点で、複数箇所(Lys5、8、12及び16)でアセチル化されたヒストンH4に対する抗体で細胞全体についてイムノブロッティングを行った(図5)。その結果、蛍光プローブのアセチル化の蓄積する時間経過は、内在性のヒストンH4のアセチル化の蓄積の時間経過と一致することが確認された(図5、AとBとの比較)。
次に、TSAの存在下でVB4HCから得られるFRETを検出した。蛍光イメージは、440AF21励起フィルター455DRLP2色性ミラーと、2つの放射フィルター(CFP用;480AF30、Venus用;535AF26)を備えたMetaFluor(Universal Imaging社)を用いて取り込み、480nm/535nmの蛍光強度比を経時的に観察した(図6及び図7)。その結果、蛍光プローブ、VB4HCを発現させたCos7細胞にTSAを添加すると、核全体においてFRETが解消するように蛍光強度比変化が生じ(図6)、この応答はTSA添加後、3時間以内に平衡に達することが分かった(図7)。この平衡に達するまでにかかる時間は、ウェスタンブロッティング法によってアセチル化のバンドが検出されるまでにかかる時間と等しい(図5参照)。VB4HCのアセチル化サイトである4つのリジンをアルギニンにかえた変異体(VB4HC−K4R)(図1、B4HC−K4R)を発現しているCos7細胞にTSAを添加しても、蛍光強度比変化は起きなかった(図8、K4R)。これは蛍光プローブの応答が蛍光プローブのアセチル化に依存していることを示している。また、アセチル化基質結合ドメインに、アセチル化ヒストンH4と結合しないようなBRDTのブロモドメインを用いた蛍光プローブ(VB4HC−Y2A)を発現しているCos7細胞にTSA添加しても、蛍光強度比変化は起きなかった(図8、Y2A)。FRETアクセプターであるVenusに直接強い励起光を当て、Venusの蛍光団を壊すと、Venusの蛍光団からの蛍光(535nm)が減少、FRETドナーであるCFPの蛍光(480nm)が回復する(図9)。この結果から、この蛍光プローブ(VB4HC)はアセチル化が誘導される前にFRETを起こしていることを示している。また、Venusの蛍光団を壊した後に、TSAを添加しても、蛍光強度比変化は起きなかった(図8、光退色)。この結果は、蛍光プローブの蛍光強度比変化が蛍光プローブのアセチル化によるFRET変化に依存していることを示している。
また、Brd2−VB4HCについても、VB4HCと同様にTSAによりFRETが解消するように蛍光強度比変化が生じた(図10及び図11)。従って、本発明の蛍光ブローブは、BRDTのみならず、他のブロモドメインを使用した場合においても、効果的に機能することが明らかとなった。
以上のことから、作製した蛍光プローブは生細胞内で内在性のヒストンH4と同様の挙動を示し、蛍光プローブのアセチル化はFRET変化に伴う蛍光強度比変化として検出可能であることがわかった。また、TSAによってアセチル化を誘導した後、培地を交換することでTSAを取り除くと、蛍光強度比は基底レベルまで減少した(図12)。この結果は、この蛍光プローブはアセチル化と脱アセチル化を可逆的に検出することが可能であることを示している。なお、この蛍光プローブを発現させたHeLa細胞を1μMTSA処理した場合も、Cos7細胞に発現させたときと同様の蛍光強度比変化が生じた(図13)。
3.各種HDAC阻害剤によるヒストンH4のアセチル化状態のモニターへの適用
本実施例で報告した蛍光プローブ(VB4HC)を用いて、各種HDAC(ヒストン脱アセチル化酵素)阻害剤によるヒストンH4アセチル化誘導を調べた。TSAの例を図14に、CHAP31、SCOP304、SCOP402(Nishinoら,Org Lett 5:5079−5082,2003)の例を、各々、図15、16、17に示した。TSAは添加後、直ちにアセチル化の蓄積がはじまるのに対し(図14)、SCOP304は添加後、90分後からアセチル化の蓄積がはじまることがわかった(図16)。これはこの蛍光プローブがヒストンH4のアセチル化の蓄積の時間変化を高分解能で追うことが可能であることを示している。また、TSA添加によるアセチル化の蓄積をウェスタンブロッティングと比較したところ、ウェスタンブロッティングでアセチル化が検出できるTSAの濃度の10分の1の濃度である1nMからアセチル化が検出できた(図14)。この結果は、この蛍光プローブがヒストンH4のアセチル化を従来のウェスタンブロッティング法より高感度で検出可能であることを示している。さらに、市販のHDAC阻害剤であるスクリプタイド(Sigme−Aldrich社)とブチル酸ナトリウム(和光純薬)添加による蛍光プローブの応答を図18、図19に示した。
以上の結果から、本発明の蛍光プローブはヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の阻害剤の影響を検出することが可能であるため、HDAC阻害因子のスクリーニング等に有効であることが明らかとなった。
4.有糸分裂期におけるヒストンH4のアセチル化状態の観察
また、本発明の蛍光プローブ(VB4HC)を用いて、有糸分裂過程におけるヒストンH4のアセチル化状態を観察した。図20に有糸分裂中のヒストンH4のアセチル化状態を擬似カラー表示で示した。染色体が凝集するとともにヒストンH4の脱アセチル化が起こり、分裂後期の初めにヒストンH4のアセチル化量は最も低くなり、分裂後期の後半からヒストンH4の再びアセチル化が起こり、分裂終期の後半には分裂前のアセチル化状態まで回復した(図20及び図21)。微小管重合阻害剤であるノコダゾール処理によって分裂期に停止させたCos7細胞は、ノコダゾール未処理のCos7細胞と比較して、分裂期のマーカーであるヒストンH3のS10のリン酸化の増加が確認され、ヒストンH4のアセチル化は減少していることをウェスタンブロッティングによって確認した(図22)。
5.ブロモドメイン結合因子のスクリーニング
以上の結果は、本発明の蛍光プローブを用いることで生体内のヒストンH4アセチル化の変動をリアルタイムで検出することを示したものであるが、原理的には、アセチル化ヒストンとブロモドメインの結合を競合阻害する物質が存在すれば、そのような阻害物質を簡便に検出できるはずである。すなわち、通常の細胞状態では一定レベルのアセチル化が存在するため、部分的なアセチル化ヒストン−ブロモドメインの相互作用があり、そのため480nm/535nmの比は一定の値を示す。アセチル化ヒストン−ブロモドメインの相互作用と競合し、阻害するものがあれば、この値は低下するはずである。実際、ブロモドメインのアセチル化リジン結合ドメインと結合する化合物A(SPECS社、ID番号;AG−670/40909956)を添加すると蛍光強度比の減少が観察された(図23)。この蛍光プローブの蛍光強度比の減少は似た構造を持つがブロモドメインと結合しない化合物B(SPECS社、ID番号;AF−399/15128278)を添加しても観察されなかった。この結果は、生細胞内でこの化合物Aが、蛍光プローブ内のBRDTのブロモドメインに競合的に結合することで、ブロモドメインとアセチル化リジンの結合を阻害していることを示している。
化合物A

化合物B
本発明の蛍光プローブにより細胞内におけるタンパク質のアセチル化状態の変動を簡便迅速にかつ高感度で検出することができる。従って、本発明の蛍光プローブは、特定のタンパク質のアセチル化状態の変動と密接に関連する疾患等の診断、あるいは、病態変動の検出などに多大なる効果をもたらすことが期待できる。特に、アセチル化ヒストンH4とブロモドメインタンパク質との結合が癌化や感染症などに関与しているとの報告もあることから、アセチル化ヒストンH4とブロモドメインタンパク質との結合を阻害する物質は、抗ガン剤や抗ウイルス剤としての効果が期待できる。従って、本発明の蛍光プローブは、癌や感染症など、各種疾患の治療剤のスクリーニングなどに利用することができる。
蛍光プローブの模式図を示す(VB4HC、Brd2−VB4HC)。ブロモドメインは、BRDTの1番目〜443番目のアミノ酸配列部分又はBrd2の57番目〜468番目のアミノ酸部分を用いた。また、実験のコントロールとして、BRDTのブロモドメインチロシンをアラニン置換したもの(VB4HC−Y2A)、ヒストンH4の全てのリジンをアルギニン置換したもの(VB4HC−K4R)を調製した。 無処理又は過剰にアセチル化(Ac)したヒストンN末端テイルペプチドを用いたペプチドプルダウンアッセイの結果を示す(上段)。また、ヒストンH4の部分的にアセチル化したN末端テイルペプチドを用いたペプチドプルダウンアッセイの結果を示す(中段及び下段)。 蛍光プローブ(VB4HC)の細胞内局在の蛍光イメージを示す。Aは、微分干渉による観察像を示し、B及びCは、Hoechst33342及びVenusによる蛍光観察像を、また、Dは、BとCを重ね合わせた観察像を示す。 蛍光プローブ(VB4HC)がヌクレオソームに取り込まれていることを確認した結果を示す。上段は、細胞質画分(1)、クロマチンを除いた核画分(2)、クロマチン画分に対し、抗ヒストンH4抗体を用いてイムノブロッティングを行った結果を示す。中段は、各画分に対して、抗GFP抗体により免疫沈降を行い、沈降物に対し、抗GP抗体でイムノブロッティングを行った結果を示す。下段は、各画分を1.5%アガロースゲルで電気泳動後、エチジウムブロマイドで染色し解析した結果を示す。なお、IP及びIBは、各々、免疫沈降及びイムノブロッティングを行ったことを表す。 蛍光プローブ(VB4HC)のアセチル化状態の経時変化を調べた結果を示す。VB4HCを発現しているCos7細胞(A)及び発現していないCos7細胞(B)を、1μMのTSAで処理し、各時点でアセチル化ヒストンに対する抗体(A及びBの上段)、GFPに対する抗体(Aの下段)、ヒストンに対する抗体(Bの下段)で細胞全体に対し、イムノブロッティングを行った結果である。コントロールとは、TSAを含まない同量のエタノールで同様の処理を8時間行ったサンプルに対する実験結果である。 蛍光プローブ(VB4HC)を発現させたCos7細胞に、TSA(1μM)を30分の時点で添加し、30分、90分、150分、210分後に、プローブから得られる480nm/535nm蛍光強度比を擬似カラーのイメージで示した図である。 蛍光プローブ(VB4HC)を発現するCos7細胞核からの蛍光強度比の経時変化を測定した結果である。細胞を1μMのTSA又は同量のエタノール(コントロール)で、30分の時点で処理し、測定を行った。 蛍光プローブ(VB4HC、VB4HC−K4R及びVB4HC−Y2A)の1μMのTSA又はTSAを含まない同量のエタノールを添加後3時間での蛍光強度比の変化(平均値±標準偏差)を示すグラフである。コントロールは、TSA(1μM)を含まない場合のVB4HCの測定結果である。また、光退色は、VB4HCのVenusを光退色させた後、TSA処理した場合の蛍光強度比変化を示す。 蛍光プローブ(VB4HC)を発現させたCos7細胞に、FRETアクセプターであるVenusを光退色させるために495±5nmの強い励起光を5分間当てた後、CFP(480nm)及びVenus(535nm)の蛍光強度の変化を測定した結果を示す。 蛍光プローブ(Brd2−VB4HC)を発現するCos7細胞核からの蛍光強度比の経時変化を測定した結果である。細胞を1μMのTSA又は同量のエタノール(コントロール)で、30分の時点で処理し、測定を行った。 蛍光プローブ(Brd2−VB4HC)の1μMのTSA又はTSAを含まない同量のエタノールを添加後3時間での蛍光強度比の変化(平均値±標準偏差)を示すグラフである。コントロールは、TSA(1μM)を含まない場合のBrd2−VB4HCの測定結果である。 蛍光プローブ(VB4HC)を発現させたCos7細胞からの480nm/535nm蛍光強度比の経時変化を示す。細胞は、30分の時点で100nMTSAで処理し、210分の時点でフェノールレッドを含まない成長培地で洗浄した。 蛍光プローブ(VB4HC)を発現するHeLa細胞核からの蛍光強度比の経時変化を測定した結果である。細胞を1μMのTSAで、30分の時点で処理し、測定を行った。 TSAで処理したVB4HC発現細胞からの蛍光強度比の経時変化(上段)と、処理濃度毎の蛍光強度比(平均値±標準偏差)(下段)を示す。経時変化の測定の場合、細胞は30分の時点でTSA処理した(上段)。また、TSAの処理濃度毎の蛍光強度比は、TSA処理後3時間で測定を行った(下段)。−はTSAを添加しないコントロールである。 CHAP31で処理したVB4HC発現細胞からの蛍光強度比の経時変化(上段)と、処理濃度毎の蛍光強度比(平均値±標準偏差)(下段)を示す。経時変化の測定の場合、細胞は30分の時点でCHAP31処理した(上段)。また、CHAP31の処理濃度毎の蛍光強度比は、CHAP31処理後3時間で測定を行った(下段)。−はCHAP31を添加しないコントロールである。 SCOP304で処理したVB4HC発現細胞からの蛍光強度比の経時変化(上段)と、処理濃度毎の蛍光強度比(平均値±標準偏差)(下段)を示す。経時変化の測定の場合、細胞は30分の時点でSCOP304処理した(上段)。また、SCOP304の処理濃度毎の蛍光強度比は、SCOP304処理後5時間で測定を行った(下段)。−はSCOP304を添加しないコントロールである。 SCOP402で処理したVB4HC発現細胞からの蛍光強度比の経時変化(上段)と、処理濃度毎の蛍光強度比(平均値±標準偏差)(下段)を示す。経時変化の測定の場合、細胞は30分の時点でSCOP402処理した(上段)。また、SCOP402の処理濃度毎の蛍光強度比は、SCOP402処理後3時間で測定を行った(下段)。−はSCOP402を添加しないコントロールである。 スクリプタイドで処理したVB4HC発現細胞からの蛍光強度比の経時変化を示す。細胞は30分の時点でスクリプタイド処理した。 ブチル酸ナトリウムで処理したVB4HC発現細胞からの蛍光強度比の経時変化を示す。細胞は30分の時点でブチル酸ナトリウム処理した。 分裂期における、VB4HCを発現するCos7細胞からの480nm/535nm蛍光強度比の経時変化を擬似カラーにより示した図である。 分裂期におけるVB4HCを発現するCos7細胞からの480nm/535nm蛍光強度比の経時変化を示す。 分裂期に同調したCos7細胞(M)と非同調のCos7細胞におけるヒストンH4のアセチル化について、5番目又は8番目のリジンがアセチル化されたヒストンH4に対する抗体、及び10番目のセリンがリン酸化されたヒストンH3に対するこ歌いを用いて解析した結果を示す。AcK5、AcK8はそれぞれ5番目、8番目のリジンがアセチル化されていることを表す。また、pS10は10番目のセリンがリン酸化されていることを表す。CBB:クマジーブリリアントブルーによる染色。 10μMの化合物A又はBで処理したVB4HC発現細胞からの蛍光強度比の経時変化を示す。細胞は30分の時点で化合物A又はBで処理した。−は化合物を添加しないコントロールである。

Claims (7)

  1. ヒストンH4とBRDTのブロモドメインがリンカーペプチドで連結され、該ヒストンH4と該BRDTのブロモドメインに、各々、異なる2つの蛍光特性を持つ蛍光タンパク質が連結され、前記異なる2つの蛍光特性を持つ蛍光タンパク質がFRETのドナーとアクセプターの関係にある蛍光ブローブを、生細胞内に導入し、該蛍光プローブから得られるFRET変化を検出し、生細胞内における前記ヒストンH4の5番目及び8番目の両方のリジンがアセチル化された状態を検出する方法。
  2. ヒストンH4とBRDTのブロモドメインがリンカーペプチドで連結され、該ヒストンH4と該BRDTのブロモドメインに、各々、異なる2つの蛍光特性を持つ蛍光タンパク質が連結され、前記異なる2つの蛍光特性を持つ蛍光タンパク質がFRETのドナーとアクセプターの関係にある蛍光ブローブをコードする核酸を含むベクターを、生細胞内に形質導入し、該ベクターから蛍光プローブが発現する条件下で細胞を培養し、細胞内で発現した蛍光プローブから得られるFRET変化を検出し、生細胞内における前記ヒストンH4の5番目及び8番目の両方のリジンがアセチル化された状態を検出する方法。
  3. 前記リンカーペプチドが、グリシン及び/又はセリンからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記リンカーペプチドの配列が、配列番号1で表される配列が1〜9回繰り返された配列であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
  5. 前記蛍光タンパク質が、GFP又はGFPの色変異体であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
  6. 前記GFPの色変異体が、Venus、CFP、YFP、RFP、BFPからなるグループから選択されることを特徴とする請求項5に記載の方法。
  7. 前記BRDTのブロモドメインが以下の(a)又は(b)で示されるポリペプチドであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
    (a)配列番号2で表される配列の1〜443番目のアミノ酸からなるポリペプチド、
    (b)配列番号2で表される配列の1〜443番目のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失若しくは挿入を持つアミノ酸配列からなり、かつ、アセチル化されたタンパク質と結合するポリペプチド
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