JP5248888B2 - 単一光子発生方法および装置、並びに単一光子検出方法及び装置 - Google Patents

単一光子発生方法および装置、並びに単一光子検出方法及び装置 Download PDF

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Description

本発明は、単一光子を発生させる方法およびその装置、並びに単一光子を検出する方法およびその装置に関する。
単一光子の発生とその検出は、単一光子レベルで演算や通信を行ううえでの基本要素技術である。単一光子を発生させるために、従来では、半導体固体素子(半導体量子ドット)を用い、電子と正孔の対消滅によるエネルギーを光子の生成に変換する方法が提案されている(例えば、下記特許文献1、2)。
特開2001−230445号公報 特開2007−242876号公報
しかしながら、従来の単一光子発生方法では、単一レベルでの電子と正孔の制御が要請される。固体素子中では、一般に不純物や結晶格子の欠陥などにより、その制御が必ずしも容易ではない。
そこで、本発明は、単一レベルでの電子と正孔の制御を必要とせず簡便に単一光子を発生することができる単一光子発生方法および装置を提供することを課題とする。また、本発明は、単一光子検出方法および装置を提供することを課題とする。
上記の課題を解決するため、本発明の単一光子発生方法および装置、並びに単一光子検出方法および装置は、以下に述べる技術的手段を採用する。
本発明の単一光子の発生とその検出は、単一レベルでの電子や正孔の制御が要請される従来原理に基づくものではなく、動的カシミール効果による単一光子の発生とその検出という、新しい原理に基づくものである。動的カシミール効果は、量子場の零点エネルギーに関する過渡的現象である。すなわち、量子場の境界が変動することによって、ある時刻の真空の定義が別の時刻には変わることによって、真空ゆらぎが実光子として生成される現象である。例えば、真空中に置かれた共振器の壁である鏡を急激に動かして鏡間の距離を超高速で変動させると、量子場の境界が変化するため、量子場の定義が変化し、真空から光子が生成されることが理論的に予想されている。しかし、その実験的検証は、未解決問題として残されている。実験的検証がなされていないのには、大きく二つの問題があった。
一つ目は、光子発生における問題点であり、共振器を構成している鏡を、真空の定義が変わるほど高速に移動させることが困難であることである。共振器の壁を時間的に変化させる代わりに、内部に誘電率を時間的に変動させる方法も提案されているが、相互作用の大きさと応答時間のトレード・オフの関係から、現在まで問題解決に至っていない。
二つ目は、光子検出における問題点であり、動的カシミール効果によって生成された単一光子がマイクロ波領域にあるために、高効率に単一光子を検出することが困難なことである。
ところで、動的カシミール効果の本質は、量子状態を決定する境界の時間的変化に起因している点にある。この点に着目し、本発明者は、これまでの提案にみられる光子場の境界を直接変化させる手法と異なり、固体素子人工原子を用いてその量子場に対する境界を時間的に変化させることにより動的カシミール効果を生じさせ、単一光子を発生させる方法を創案した。ここで、人工原子とは、量子的な二準位を有する人工構造体をいう。
すなわち、本発明の単一光子発生方法は、量子的な二準位を有する人工構造体である人工原子を用い、該人工原子における仮想粒子のポテンシャルエネルギーレベルを変化させることで、動的カシミール効果により単一光子を発生させる、ことを特徴とする。
また、本発明の単一光子発生装置は、量子的な二準位を有する人工構造体である人工原子と、該人工原子における仮想粒子のポテンシャルエネルギーレベルを変化させるポテンシャル制御手段と、を備え、前記ポテンシャル制御手段により、人工原子における仮想粒子のポテンシャルエネルギーレベルを変化させることで動的カシミール効果により単一光子を発生させる、ことを特徴とする。
このように本発明においては、仮想物質である人工原子を用いているため、実際の物質によって作られたポテンシャル境界ではできない零点エネルギーの準位を瞬時に変化させることができる。したがって、量子場の境界を急激に変化させることで、動的カシミール効果を生じさせ、単一光子を発生させることができる。これにより、上述した一つ目の問題を解決し、単一レベルでの電子と正孔の制御を必要とせず簡便に単一光子を発生することができる。
ここで、人工原子としては、第1の超伝導ループと、この第1の超伝導ループ中に配置され第2の超伝導ループ中の2箇所にジョセフソン接合が配置された構成の超伝導量子干渉素子(dc−SQUID)とを有するものを適用できる。この場合、第2の超伝導ループを貫通する磁束を急激に変化させることで動的カシミール効果を生じさせる。
ジョセフソン接合に印加するバイアス電流は、既存技術でサブピコ秒でのオン・オフ制御が可能であるため、バイアス電流の制御によって、人工原子における仮想粒子のポテンシャルエネルギーを急激に変化させることで、動的カシミール効果を生じさせ、単一光子を発生させることができる。
また、本発明の単一光子検出方法は、上述した方法により発生させた単一光子を検出する方法であり、人工原子に近接して第2の人工原子を配置し、発生した前記単一光子を前記第2の人工原子により検出する、ことを特徴とする。
また、本発明の単一光子検出装置は、上述した単一光子発生装置により発生させた単一光子を検出する装置であり、前記単一光子発生装置における前記人工原子に近接して配置され、前記単一光子発生装置により発生させた前記単一光子を検出する第2の人工原子を備える、ことを特徴とする。
光子と人工原子の結合力が、光子と天然原子の結合力に比べて1万倍の強さを持っていることが実験的に確認されている。これにより、上述した二つ目の問題を解決し、単一光子を高効率で検出することができる。
また別の実施形態による単一光子検出方法は、上述したジョセフソン接合を適用した人工原子を用いた単一光子発生方法により発生させた単一光子を検出する方法であり、第2の超伝導量子干渉素子を前記人工原子と磁気的に結合するように配置し、単一光子を発生した際の前記人工原子の磁束の変化を前記第2の超伝導干渉素子で検出することで単一光子の発生を検出する、ことを特徴とする。
また、別の実施形態による単一光子検出装置は、上述したジョセフソン接合を適用した人工原子を用いた単一光子発生装置により発生させた単一光子を検出する装置であり、前記人工原子と磁気的に結合するように配置された第2の超伝導量子干渉素子を備える、ことを特徴とする。
上記の検出方法及び検出装置によれば、動的カシミール効果によって単一光子を発生させた際に生じる人工原子の磁束変化によって、第2の超伝導量子干渉素子の磁束が変化するので、この磁束変化を第2の超伝導量子干渉素子を流れる電流の変化として検出することで、単一光子を検出することができる。
上述したように、本発明によれば、単一レベルでの電子と正孔の制御を必要とせず簡便に単一光子を発生することができ、また発生した単一光子を高効率で検出することができる、という優れた作用効果が得られる。
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
まず、本発明の原理について説明する。
図1(a)に示すように、超伝導ループ3中にひとつのジョセフソン接合6が配置された構造を考える。ジョセフソン接合6は、二つの超伝導体の間に薄い絶縁体を挟んで接合したものである。図1(a)に示す構造体は、rf−SQUID(高周超伝導量子干渉素子)と呼ばれる。rf−SQUIDのハミルトニアンは、下記[数1]の式(1)によって記述される。
Figure 0005248888
ここで、Qは接合に蓄えられる全電荷である。式(1)の右辺第1項は、このシステムの運動エネルギーに対応するジョセフソン接合6の帯電エネルギーである。このシステムのポテンシャルエネルギーは、下記[数2]に示す式(2)によって与えられる。
Figure 0005248888
ここで、Φは超伝導ループ3を貫く磁束であり、Ej0はIΦ/2πで定義されるジョセフソン結合エネルギーである。Iはジョセフソン臨界電流、Φはh/2eで定義される量子化された磁束の単位である。式(2)の第1項は、磁束量子Φに依存するジョセフソン結合エネルギーである。第2項は、超伝導ループ3による磁気エネルギーである。超伝導ループ3に作用させる外部磁束Φexはrf−SQUIDにおける磁束量子Φを制御する。したがって、このシステムは、図1(b)に示されたポテンシャルUにおける仮想(磁束)粒子の動きによって特徴づけられる。なお、横軸は位置ではなくて磁束であり、粒子束はジョセフソン磁束領域で境界が作られる。
小さな電気容量をもつジョセフソン接合回路において、過剰なクーパー対と接合間の位相差は、非可換共役変数の関係にある。この関係によると、rf−SQUIDの共役変数は下記[数3]の式(3)の交換関係を満足する。
Figure 0005248888
そして磁束量子は、小さな磁束質量のために量子力学的な振舞いをする。ポテンシャルの底の振動は量子化される。すわなち、量子化されたエネルギーレベルがポテンシャル中に形成される。最も小さい二つのエネルギーレベルは、量子光学において従来用いられていた人工原子と同様に、量子的二準位系としての役割を果たす。
次に、超伝導人工原子を用いた非定常境界について説明する。磁束量子の境界はポテンシャル形状によって決定される。超伝導人工原子では、ポテンシャル形状は外部場を作用させることによって容易に変形させることができる。不必要なエネルギーシフトを避けるため、下記[数4]に示す式(4)によって定義されるポテンシャルの底の曲率のみを変化させる。
Figure 0005248888
式(4)から、ポテンシャル形状は基本的にジョセフソン臨界電流Iに比例する。ジョセフソン臨界電流はいくつかの方法により制御可能であることは知られているが、ここでは、制御性の観点から、クーパー対の相互作用を用いた技術を採用する。図1(c)に示すように、rf−SQUIDにおけるジョセフソン接合6を、超伝導ループ5中の2箇所にジョセフソン接合6が配置された構成の超伝導量子干渉素子(dc−SQUID)4に置き換える。
図1(c)の構造(ダブルrf−SQUIDと呼ばれることがある)において、クーパー対(超伝導電流)は2つのジョセフソン接合6を同時に流れる。この場合、ジョセフソン臨界電流は下記[数5]の式(5)で示されるように、図1(c)における小さいループに作用する磁束Φの働きとして変化する。
Figure 0005248888
図1(d)は異なるΦでのポテンシャル形状を示しており、細い実線はΦ=0の場合であり、太い実線はΦ=Φ/2πの場合である。このように、磁束Φによって磁束量子の境界をコントロールできる。以下に述べる本発明の実施形態では、このような手段によって磁束量子の境界をコントロールする。
図2は、本発明の実施形態にかかる単一光子発生装置1及び単一光子検出装置10の概略図である。
図2において、単一光子発生装置1は、量子的な二準位を有する人工構造体である人工原子2と、人工原子2における仮想粒子のポテンシャルエネルギーレベルを変化させるポテンシャル制御手段(7,8)と、を備える。人工原子2は、図1(c)に示したものと同様の構造を有しており、真空中に配置されている。
上記のように構成された単一光子発生装置1では、ポテンシャル制御手段(7,8)により、人工原子2における仮想粒子のポテンシャルエネルギーレベルを変化させることで動的カシミール効果により単一光子を発生させる。
本実施形態において、ポテンシャル制御手段は、外部磁束Φを発生して大きい超伝導ループ3(以下、第1超伝導ループという)を貫通する磁束Φを制御する第1外部磁束発生器7と、外部磁束Φxdcを発生して小さい超伝導ループ5(以下、第2超伝導ループという)を貫通する磁束Φを制御する第2外部磁束発生器8とからなる。このように構成されたポテンシャル制御手段により、第1超伝導ループ3を貫通する磁束Φを制御しながら、第2超伝導ループ5を貫通する磁束Φを急激に変化させる。すると、人工原子2の仮想粒子(磁束量子)のエネルギー状態が基底状態から励起状態に上がり、励起状態から基底状態に落ちる際に、動的カシミール効果により単一光子が自然放出される。
上述したように従来では、例えば共振器を構成している鏡を高速で動かすと、動的カシミール効果により単一光子が発生することが理論的に予想されていたものの、真空の定義が変わるほど鏡を高速に移動させることが困難であり、実現には至っていなかった。これに対し、本発明においては、仮想物質である人工原子2を用いているため、実際の物質によって作られたポテンシャル境界ではできない零点エネルギーの準位を瞬時に変化させることができる。したがって、量子場の境界を急激に変化させることで、動的カシミール効果を生じさせ、単一光子を発生させることができる。これにより、上述した問題を解決し、単一レベルでの電子と正孔の制御を必要とせず簡便に単一光子を発生することができる。
ここで、本実施形態においては、人工原子2として、超伝導量子干渉素子(dc−SQUID)4を有するものを適用している。ジョセフソン接合6に印加するバイアス電流は、既存技術でサブピコ秒でのオン・オフ制御が可能であり、図1の構成例では、外部磁束Φxdcで第2超伝導ループ5の磁束Φを制御することによって、ジョセフソン接合6に印加するバイアス電流を制御する。これにより、人工原子2における仮想粒子のポテンシャルエネルギーを急激に変化させることで、動的カシミール効果を生じさせ、単一光子を発生させることができる。
次に、本発明の単一光子検出方法および装置について説明する。
図2の構成例において、単一光子検出装置10は、人工原子2に近接して配置され、単一光子発生装置1により発生させた単一光子を検出する第2の人工原子11を備える。第2の人工原子11は真空中に配置されている。光子の検出器として人工原子を用いた場合、光子が人工原子に入ったときに、ポテンシャル曲線そのものは変化しないが、人工原子内の仮想粒子(磁束粒子)のポテンシャルエネルギーレベルが、例えば、基底状態(最低状態)から励起状態に上がる。すなわち、磁束の量子状態が変化する。この現象は、光エネルギーが仮想粒子の磁気エネルギーに変換するものとして理解でき、光子のエネルギーが、励起状態と基底状態のエネルギー差以上であれば実現する。
したがって、第2の人工原子11により磁束の量子状態の変化を検出することで、単一光子の発生を検出することができる。
光子と人工原子の結合力が、光子と天然原子の結合力に比べて1万倍の強さを持っていることが実験的に確認されている。したがって、本発明の検出方法および装置によれば、単一光子を高効率で検出することができる。
また、単一光子検出方法および装置の他の実施形態として、図3に示す構成を採用してもよい。図3において、単一光子検出装置10は、人工原子2と磁気的に結合するように配置された第2の超伝導量子干渉素子(dc−SQUID)12を備える。第2の超伝導量子干渉素子12は、超伝導ループ13に二つのジョセフソン接合14が配置された構成を有しており、極低温の状況下に配置されている。人工原子2と第2の超伝導量子干渉素子12は、近接して配置され、磁気的に結合されている。なお図3における単一光子発生装置1の構成は、図2に示した単一光子発生装置1と同じである。
上記の検出方法及び検出装置によれば、動的カシミール効果によって単一光子を発生させた際に生じる人工原子2の磁束の量子状態の変化によって、第2の超伝導量子干渉素子12を貫く磁束が変化するので、この磁束変化を第2の超伝導量子干渉素子12を流れる電流の変化として検出することで、単一光子を検出することができる。
上述した本発明の原理は、零点エネルギーの非断熱的性質に由来する動的カシミール効果に基礎を置いている。したがって、零点エネルギーのポテンシャルを急速に変化できる系であれば、動的カシミール効果によって光子を発生させることができる。現実には光の速さより早くポテンシャルを変更できる系は限られるが、例えば、上述した人工原子2と同種の半導体量子ドットを用いた人工原子系を用いた方法も考えられる。
なお、上記において、本発明の実施形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
本発明の原理を説明する図である。 本発明の実施形態にかかる単一光子発生装置および単一光子検出装置の概略図である。 本発明の実施形態にかかる単一光子発生装置および本発明の別の実施形態にかかる単一光子検出装置の概略図である。
符号の説明
1 単一光子発生装置
2 人工原子
3 第1超伝導ループ
4 超伝導量子干渉素子(dc−SQUID)
5 第2超伝導ループ
6 ジョセフソン接合
7 第1外部磁束発生器
8 第2外部磁束発生器
10 単一光子検出装置
11 第2の人工原子
12 第2の超伝導量子干渉素子
13 超伝導ループ
14 ジョセフソン接合

Claims (4)

  1. 量子的な二準位を有する人工構造体である人工原子を準備し、
    該人工原子は、第1超伝導ループと、該第1超伝導ループ中に配置され第2超伝導ループ中の2箇所にジョセフソン接合が配置された構成の超伝導量子干渉素子とを有し、
    ポテンシャル制御手段により、前記第1超伝導ループを貫通する磁束を制御しながら、前記第2超伝導ループを貫通する磁束を急激に変化させることにより、前記人工原子のエネルギー状態を上げて、次いで、当該エネルギー状態が落ちる際に動的カシミール効果により単一光子が自然放出されるようにする、ことを特徴とする単一光子発生方法。
  2. 請求項記載の単一光子発生方法により発生させた単一光子を検出する方法であって、
    第2の超伝導量子干渉素子を前記人工原子と磁気的に結合するように配置し、単一光子を発生した際の前記人工原子の磁束の変化を前記第2の超伝導量子干渉素子で検出することで単一光子の発生を検出する、ことを特徴とする単一光子検出方法。
  3. 量子的な二準位を有する人工構造体である人工原子を備え、
    前記人工原子は、第1超伝導ループと、該第1超伝導ループ中に配置され第2超伝導ループ中の2箇所にジョセフソン接合が配置された構成の超伝導量子干渉素子とを有し、
    前記第1超伝導ループを貫通する磁束を制御しながら、前記第2超伝導ループを貫通する磁束を急激に変化させることにより、前記人工原子のエネルギー状態を上げて、次いで、当該エネルギー状態が落ちる際に動的カシミール効果により単一光子が自然放出されるようにするポテンシャル制御手段を備える、ことを特徴とする単一光子発生装置。
  4. 請求項記載の単一光子発生装置により発生させた単一光子を検出する装置であって、
    前記人工原子と磁気的に結合するように配置された第2の超伝導量子干渉素子を備え
    単一光子を発生した際の前記人工原子の磁束の変化を前記第2の超伝導量子干渉素子で検出することで単一光子の発生を検出する、ことを特徴とする単一光子検出装置。
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