JP5211276B2 - 電磁誘導電圧予測方法 - Google Patents

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Description

本発明は、電磁誘導電圧予測方法に関する。
ガス、水道、石油などの輸送または供給手段として、埋設した金属製パイプラインを使用することが一般的となっている。金属製埋設パイプラインは、通常、土壌中における腐食を防止するために、絶縁性能を有する塗覆装を施す。しかし、塗覆装に欠陥が生じて金属製埋設パイプラインの表面が土壌と接する可能性があり、こうした塗覆装欠陥部において、腐食の進行が懸念される。
ここで、金属製パイプラインが、送電線または交流電気鉄道に近接して埋設されている場合、送電している交流電流が周囲に形成する磁場の影響を受けて、金属製埋設パイプラインの管軸方向に電磁誘導電圧が発生する。発生した電磁誘導電圧により、金属製埋設パイプラインと大地との間に電位差、すなわち、管対地交流電位が発生する。その結果、上記の塗覆装欠陥部において交流電流が流れることとなる。塗覆装欠陥部における交流電流が高い場合に、交流電流による腐食、すなわち交流迷走電流腐食が発生する。また、金属製埋設パイプラインに発生した管対地交流電位があるレベルまで上昇すると、現場作業中において、作業者が金属製埋設パイプラインに触れることで感電してしまうという可能性が生じる。
こうした交流迷走電流腐食や感電への対策の一例として、低接地措置が挙げられる。具体的には、マグネシウム電極などを分散して金属製埋設パイプラインに接続して分散的にアースを取ることが挙げられる。これにより、交流電流はマグネシウム電極を流れるようになり、塗覆装欠陥部に流れる交流電流を低減して、交流迷走電流腐食を防止するとともに、管対地交流電位を低減して、感電を防止する。
通信ケーブルや電話線が、送電線あるいは交流電気鉄道に近接して敷設されている場合、同様に送電している交流電流による電磁誘導の影響を受けて、ノイズが発生する。そこで、離隔を十分確保したり、遮蔽ケーブルを適用したりといった対策が実施されている。
他方、金属製パイプラインを埋設する前に、金属製パイプラインに発生するであろう電磁誘導電圧、さらには管対地交流電位を予測するために、予測に用いる理論式やコンピュータシミュレーションの手法が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。
また、簡易な近似式を用いて電磁誘導電圧、さらには管対地交流電位を予測することが提案されている(例えば、非特許文献2参照。)。
磯貝浩、雨谷昭弘、細川裕司、電気学会論文誌B、126巻1号、pp.43〜50、2006 細川裕司、古賀隆二、磯貝浩、雨谷昭弘、高接地状態に保持した埋設パイプラインの交流誘導評価、第53回材料と環境討論会、B−306、pp.241〜244(2006)
しかしながら、非特許文献1に記載のように、理論式を用いて電磁誘導電圧を予測する場合には、送電線が多数ある場合や、金属製埋設パイプラインや通信ケーブルと送電線との位置関係が一定でない場合には、計算が煩雑になるという問題がある。さらに、鋼製シールド内に敷設されるパイプライン等の周囲が磁性材料で覆われた特殊な環境においては、計算が極めて困難である。たとえ、理論式を用いて金属製埋設パイプラインや通信ケーブルに発生する電磁誘導電圧を予測したとしても、金属製埋設パイプラインや通信ケーブルの敷設後に実際に発生している電磁誘導電圧を測定すると、予測値と大きく異なるケースも少なくない。
他方、非特許文献2に記載のように簡易な近似式を用いる方法では、電磁誘導に寄与する見かけの送電電流を推定して設定しなければならず、実際の送電電流が見かけの送電電流と異なる場合には、誤差が大きくなるという問題があった。
ここで、金属製埋設パイプラインや通信ケーブルに電磁誘導電圧の発生が予測される箇所については、予め金属製埋設パイプラインや通信ケーブルの敷設時に低接地物の設置や遮蔽ケーブルの使用といった対策を実施することが一般的である。しかし、上述のように、金属製埋設パイプラインや通信ケーブルに発生する電磁誘導電圧を予測することについては多くの課題がある。そのため、事前に適正な接地物の接地抵抗や接地物の配置といった対策の具体的内容を定量的に推定できず、安全側の対策を講じるために過剰に対策を実施したり、あるいは、対策不足が判明して追加の対策を講じる必要が生じるケースもあり、対策費用が増大するという問題があった。
以上のような背景から、金属製埋設パイプラインや通信ケーブルに発生する電磁誘導電圧、金属製埋設パイプラインの場合にはさらに管対地交流電位を、高い精度で簡便に予測可能な方法が希求されていた。
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、極めて高い精度で金属製埋設パイプラインや通信ケーブルに発生する電磁誘導電圧を予測することができ、従来の理論式を適用することができなかった環境においても電磁誘導電圧を予測することが可能な、新規かつ改良された電磁誘導電圧予測方法を提供することにある。
上記課題を解決するために、本願発明者らが鋭意研究を行なった結果、埋設金属導体または架空金属導体の敷設前に、これら埋設金属導体または架空金属導体の敷設予定ルートに沿って磁束密度を実測し、磁束密度の測定値に基づいて所定の演算を行なうことで、埋設金属導体または架空金属導体の敷設後にこれら埋設金属導体または架空金属導体に発生する電磁誘導電圧を容易に予測することが可能であることに想到した。
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、本発明がその要旨とするところは、以下の通りである。
(1) 交流架空送電線または交流式電気鉄道による磁束密度に起因して、前記交流架空送電線または前記交流式電気鉄道に隣接して敷設される埋設金属導体または架空金属導体に発生する電磁誘導電圧を、敷設前に予測する電磁誘導電圧予測方法であって、磁束密度測定手段を前記埋設金属導体または前記架空金属導体の敷設予定ルートに沿って移動させながら、前記敷設予定ルートもしくは前記敷設予定ルート近傍における磁束密度の絶対値を測定し、前記敷設予定ルートに沿って測定した前記磁束密度の絶対値を、前記敷設予定ルートに沿って積算し、積算した前記磁束密度の絶対値に基づいて、敷設後の前記埋設金属導体または前記架空金属導体に発生する電磁誘導電圧を演算することを特徴とする、電磁誘導電圧予測方法。
(2) 交流架空送電線または交流式電気鉄道による磁束密度に起因して、前記交流架空送電線または前記交流式電気鉄道に隣接して敷設される埋設金属導体または架空金属導体に発生する電磁誘導電圧を、敷設前に予測する電磁誘導電圧予測方法であって、磁束密度測定手段を前記埋設金属導体または前記架空金属導体の敷設予定ルートに沿って移動させながら、前記敷設予定ルートもしくは前記敷設予定ルート近傍における磁束密度の絶対値を測定し、測定した前記磁束密度の絶対値と、前記交流架空送電線または前記交流式電気鉄道と前記敷設予定ルートとの幾何学的な位置関係とに基づいて、敷設後の前記埋設金属導体または前記架空金属導体に発生する電磁誘導電圧を演算することを特徴とする、電磁誘導電圧予測方法。
(3) 前記交流架空送電線または前記交流式電気鉄道の近傍に参照用磁束密度測定手段を固定し、前記磁束密度測定手段により測定される磁束密度と、前記参照用磁束密度測定手段により測定される磁束密度と、の位相差をあわせて測定することを特徴とする、(1)または(2)に記載の電磁誘導電圧予測方法。
(4) 前記磁束密度の前記敷設予定ルートに直交する成分について、前記磁束密度の絶対値および前記位相差に基づいて余弦成分及び/又は正弦成分を算出し、前記余弦成分および前記正弦成分それぞれについて、前記敷設予定ルートに沿って積算を行い、前記余弦成分の積算値及び/又は前記正弦成分の積算値を用いて、前記磁束密度の積算値を算出することを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の電磁誘導電圧予測方法。
(5) 少なくとも2つの前記磁束密度測定手段を用いて、前記磁束密度の前記敷設予定ルートに直交する成分を計測することを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の電磁誘導電圧予測方法。
本発明によれば、金属製埋設パイプラインや通信ケーブルに発生する電磁誘導電圧を煩雑な計算を行うことなく予測することができ、従来の理論式を適用することができなかった環境においても電磁誘導電圧を極めて高い精度で予測することが可能である。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
以下に示す本発明の各実施形態においては、金属製埋設パイプラインが交流架空送電線から電磁誘導の影響を受ける場合について説明するが、金属製埋設パイプラインが交流電気鉄道からの影響を受ける場合や、通信ケーブルが交流架空送電線または交流電気鉄道から影響を受ける場合についても同様であることは言うまでもない。
(第1の実施形態)
金属製パイプラインは、一般に、絶縁性の高い塗覆装により周囲土壌と電気的に絶縁されており、この金属製パイプラインが、図1に示すように、交流架空送電線に近接して埋設される場合について、以下で説明する。
本発明の第1の実施形態に係る電磁誘導電圧予測方法は、隣接する送電鉄塔10と送電鉄塔11との間に張られた交流架空送電線12に近接して金属製パイプラインの敷設予定ルート14が設定される場合に、敷設後の金属製パイプラインに生じる電磁誘導電圧を、パイプラインの敷設前に予測する方法である。
本実施形態に係る電磁誘導電圧予測方法では、参照用磁束密度測定手段の一例である参照用磁気センサ100と、交流電圧計102と、磁束密度測定手段の一例である磁気センサ104と、を用いて、電磁誘導電圧の予測を行なう。
参照用磁気センサ100は、交流架空送電線12の近傍に固定設置される磁気センサである。この参照用磁気センサ100は、交流架空送電線12に流れる交流電流により生じる磁束密度の振幅と位相とを計測し、磁束密度に比例する交流電圧を出力する。出力される交流電圧は、後述する交流電圧計102に入力される。
交流電圧計102は、参照用磁気センサ100から出力される交流電圧と、後述する磁気センサ104から出力される交流電圧とが入力される電圧計である。この交流電圧計102は、同期検波機能を有する。ここで、同期検波とは、検波する信号の周期に合わせた信号(同期信号)を生成し、この同期信号を受信信号に乗算することで相関を検出する方法をいう。
磁気センサ104は、金属製パイプラインの敷設予定ルート14上の地表面16に設置される磁気センサである。この磁気センサ104を敷設予定ルート14に沿って移動させることで、交流架空送電線12に流れる交流電流に起因して敷設予定ルート14に沿って発生する磁束密度の振幅と位相とを測定することが可能となる。この磁気センサ104は、交流架空送電線12により生じる磁束密度に比例する交流電流を出力し、出力される交流電圧は、交流電圧計102に入力される。なお、図1においては、磁気センサ104は1つしか図示していないが、本発明に係る磁気センサ104の個数は、上記の例に限定されるわけではなく、複数個の磁気センサを用いることが可能である。
交流電圧計102では、参照用磁気センサ100から入力された交流電圧と、磁気センサ104から入力された交流電圧とに基づいて、磁気センサ104から入力された交流電圧の中で、参照用磁気センサ100から入力された交流電圧の波形に同期する成分を、同期検波により計測する。これにより、交流架空送電線12に起因して発生している磁束密度にノイズが重畳している場合には、重畳しているノイズを除去して、高精度な磁束密度計測を行なうことが可能となる。
ここで、パイプの軸方法をx方向、パイプの軸方向に対して水平に直交する方向をy方向、鉛直方向をz方向とした場合、図2に示すように、金属製埋設パイプラインに発生する電磁誘導電圧に寄与する磁束密度の成分は、金属製埋設パイプラインの軸方向に対して直交する方向(すなわち、y方向およびz方向)となる。計測に際しては、y方向とz方向の磁束密度を別個に計測しても、あるいは、それらを合成した磁束密度を計測してもよい。また、これらの計測は、ひとつの磁気センサ104を用いて行っても、あるいは、少なくとも2つの磁気センサ104を用いて行ってもよい。磁気センサ104は、磁束密度の大きさを以下の式に基づいて算出する。
Figure 0005211276
また、参照用磁気センサ100、交流電圧計102および磁気センサ104を制御するコンピュータ等の制御装置(図示せず。)が、参照用磁気センサ100、交流電圧計102および磁気センサ104それぞれに接続されていてもよく、これらの制御装置が、各磁気センサおよび交流電圧計で行われる演算等の処理を自動的に行っても良い。
<磁束密度の測定例1>
図3に、上記の参照用磁気センサ100、交流電圧計102および磁気センサ104を用いて実際に測定した磁束密度の一例を示す。図3は、一般によく用いられる三相2回線の交流架空送電線を流れる交流電流により発生した磁束密度の水平方向成分(y方向成分)と鉛直方向成分(z方向成分)とを、交流架空送電線を横切るように地表面にて実測した結果である。図3(a)は、実測した磁束密度の振幅を示しており、図3(b)は、磁束密度の鉛直方向成分が最大となる点における位相を基準とし、位相差を示したものである。図3(a)および図3(b)の横軸は、送電鉄塔10からの水平距離を表しており、原点(横軸の値が0の点)が送電鉄塔10の中央の位置を表している。また、この時、参照用磁気センサ100は、上記の磁束密度の鉛直方向成分が最大となる点に設置した。
図3(a)を参照すると、磁束密度の振幅は、原点を中心にしてほぼ線対称となっていることがわかる。また、送電鉄塔10の位置では、磁束密度の鉛直方向成分の振幅が極大となっているのに対し、水平方向成分の振幅は極小となっている。また、水平方向成分の極大は、送電鉄塔10から離れた位置にあることがわかる。
また、図3(b)を参照すると、磁束密度の水平方向成分の位相は、図3(b)に示した領域のほぼ全てにおいて、負の値となっている(すなわち、磁気センサ104の測定値は、参照用磁気センサ100の測定値よりも位相が遅れている)のに対し、磁束密度の鉛直方向成分の位相は、原点付近(すなわち、送電鉄塔10付近)において、逆転していることがわかる。
図3(a)および図3(b)から明らかなように、交流架空送電線12を流れる交流電流により生じる磁束密度の水平方向成分および鉛直方向成分の振幅(すなわち絶対値)と位相は、一定の値を有するわけではなく、送電鉄塔10からの距離に応じて変化することがわかる。
<磁束密度の測定例2>
続いて、図4および図5を参照しながら、三相2回線の交流架空送電線から発生した磁束密度を実際に測定した一例について説明する。以下に示す測定例では、図4に示した敷設状況にある金属製埋設パイプライン18について、当該金属製埋設パイプライン18に沿って測定を行なった。
図4に示したように、磁束密度の測定区間では、2つの送電鉄塔10および11が存在し、これらの送電鉄塔10〜11間に、交流架空送電線12が設置されており、金属製埋設パイプライン18は、交流架空送電線12に略直交する区間と、並行する区間との2つの区間から成り立っている。以下に示す測定例では、交流架空送電線12と並行している区間(約440m)について、金属製埋設パイプライン18上の地表面における磁束密度の測定を行なった。なお、金属製埋設パイプライン18上に設けられているT1〜T3は、それぞれターミナルボックスを表している。ターミナルボックスとは、金属製埋設パイプライン18に接続されたリード線が地表面まで立ち上がっており、管対地交流電位が測定可能な箇所である。
磁束密度の測定に当たっては、上記の場合と同様に、参照用磁気センサ100と、磁気センサ104と、参照用磁気センサ100および磁気センサ104が接続された交流電圧計102とを用い、参照用磁気センサ100を固定し、磁気センサ104を金属製埋設パイプライン18が交流架空送電線12と並行となった位置からターミナルボックスT3の位置(図4における送電鉄塔11の位置)まで移動させた。なお、図4中の送電鉄塔10は、金属製埋設パイプライン18が交流架空送電線12と平行となった位置から80m付近に位置し、送電鉄塔11は、金属製埋設パイプライン18が交流架空送電線12と平行となった位置から440m付近に位置している。また、磁束密度の測定に当たっては、2つの磁気センサ104を用いて、金属製埋設パイプライン18のルート上の地表面における磁束密度の水平方向成分Byと鉛直方向成分Bzをそれぞれ測定した。
測定した磁束密度の振幅、位相、余弦成分、正弦成分を、それぞれ図5A、図5B、図5Cおよび図5Dに示す。この測定に当たっては、磁束密度の水平方向成分Byの位相が、送電鉄塔10の中央で0度となるように、水平方向成分Byおよび鉛直方向成分Bz全てについて、補正を行なった。なお、図5A〜図5Dにおいて、横軸は、図4における金属製埋設パイプライン18が交流架空送電線12と並行している左端から右端までの距離であり、左端が原点となっている。
図5Aを参照すると、磁束密度の水平方向成分Byの振幅は、80m付近と440m付近で、極小となっていることがわかる。架空された送電線は自重で弛むため、送電線の高さは鉄塔の位置で高く、鉄塔と鉄塔の中間付近では低くなる。80m付近および440m付近は、それぞれ送電鉄塔10および11が位置している場所であることから、送電線の高さが高い、すなわち、送電線と磁束密度測定点との離隔が大きいため、磁束密度の水平方向成分Byの振幅が極小となる。また、250m〜260m付近は、送電鉄塔10と送電鉄塔11のほぼ中間地点に当たり、送電線の高さが低い、すなわち、送電線と磁束密度測定点との離隔が小さいため、磁束密度の水平方向成分Byの振幅が極大となる。
他方、磁束密度の鉛直方向成分Bzの振幅も、水平方向成分Byの場合と同様に、送電線と磁束密度測定点との離隔に応じて変化している。
図5Bを参照すると、磁束密度の水平方向成分Byにおける位相差(すなわち、磁気センサ104の計測した位相と参照用磁気センサ100の計測した位相との位相差)は、測定した全ての区間でほぼゼロであるのに対し、磁束密度の鉛直方向成分Bzにおける位相差は、150m近傍で約180度となっている。これは、磁束密度の鉛直方向成分Bzは、150m近傍で極性が反転することを意味している。
図5Cを参照すると、磁束密度の余弦成分に関して、磁束密度の水平方向成分の余弦成分Bcyについては、位相の変化が図5Bに示したようにほぼ一定であるために、磁束密度の振幅(図5A)と同様の挙動を示していることがわかる。また、磁束密度の鉛直方向成分の余弦成分Bczについては、80m付近および320m付近で極大となり、160m付近で極小となっていることがわかる。また、図5Dを参照すると、磁束密度の正弦成分に関しては、水平方向成分の正弦成分Bsyおよび鉛直方向成分の正弦成分Bsz共に、測定範囲全体にわたってほぼ0μTの値となっていることがわかる。
図5A〜図5Dに示したように、磁束密度の水平方向成分および鉛直方向成分の振幅および位相は一定ではなく、測定位置によって大きく異なることがわかる。
(電磁誘導電圧の予測方法−演算方法1)
<磁束密度の余弦成分と正弦成分の計算>
電磁誘導電圧(さらには、管対地交流電位)の予測にあたっては、まず、磁束密度のy方向成分Byと、磁束密度のz方向成分Bzとの余弦成分および正弦成分をそれぞれ計算する。余弦成分は、以下の式102および式103により算出することが可能である。
Figure 0005211276
また、正弦成分は、以下の式104および式105により算出することが可能である。
Figure 0005211276
ここで、上記の式102〜式105において、Byは、磁束密度のy方向成分を計測している磁気センサ104から得た磁束密度の振幅であり、Bzは、磁束密度のz方向成分を計測している磁気センサ104から得た磁束密度の振幅であって、φおよびφは、磁気センサ104から得た磁束密度の各成分と参照用磁気センサ100から得た磁束密度との位相差である。
<余弦成分および正弦成分の積算>
続いて、算出した余弦成分および正弦成分それぞれについて、y方向成分とz方向成分の積算を行なう。余弦成分の積算は、以下の式106および式107により行なわれる。
Figure 0005211276
また、正弦成分の積算は、以下の式108および式109により行なわれる。
Figure 0005211276
ここで、上記のjは、虚数単位であり、上記のΔlは、パイプラインの単位長さである。また、上記の変数iは、磁束密度を測定した場所の数を表す変数である。
次に、算出した余弦成分の積算値および正弦成分の積算値から、磁束密度積算値ΣBを以下の式110により算出する。
Figure 0005211276
図5A〜図5Dに示した磁束密度の測定結果を基に、測定開始点(0m)を起点として、上記の式102〜式110を用いて磁束密度の積算値の計算を行なった。終点(440m)における積算値を以下の表1に示す。また、計算結果を、図7に示す。
Figure 0005211276
ここで、上記表1において、磁束密度の余弦成分のy方向成分は、以下で説明する図7(a)におけるΣBcyに対応し、磁束密度の余弦成分のz方向成分は、図7(a)におけるΣBczに対応し、磁束密度の余弦成分の合成値は、図7(a)におけるΣBcに対応する。また、磁束密度の正弦成分のy方向成分は、以下で説明する図7(b)におけるΣBsyに対応し、磁束密度の正弦成分のz方向成分は、図7(b)におけるΣBszに対応し、磁束密度の正弦成分の合成値は、図7(b)におけるΣBsに対応する。また、上記表1における磁束密度積算値ΣBは、以下で説明する図7(c)におけるΣBに対応する。
表1および図7(a)、図7(b)を参照すると、磁束密度の余弦成分および正弦成分は、共に、鉛直方向の成分であるz方向成分よりも水平方向の成分であるy方向成分が、各成分の合成値において大きな割合を占めている。また、表1および図7(c)を参照すると、磁束密度積算値ΣBにおいて、磁束密度の余弦成分が大きな割合を占めている。
<管対地交流電位への変換>
図8に、図7(c)に示した磁束密度積算値ΣBと、図4に示した金属製埋設パイプラインにおける管対地交流電位EACの測定結果とを、比較して示す。また、以下の表2に、ターミナルボックスT、T、Tにおける磁束密度積算値ΣBと、EACの値の比較を示す。
なお、金属製埋設パイプラインにおける管対地交流電位EACは、図6に示したように、金属製埋設パイプライン18に発生している電磁誘導電圧Vmが軸方向に積算されていくことによりもたらされる。管対地交流電位EACは、金属製埋設パイプライン18と、地表面に設けられた照合電極20との電位差を、交流電圧計にて測定することで得ることが可能である。
Figure 0005211276
これらの結果から、管対地交流電位EACと磁束密度積算値ΣBとの関係は、以下に示す式111のようになる。
Figure 0005211276
上述の測定結果以外のデータについても検討を行なった結果、管対地交流電位EACと、磁束密度積算値ΣBとの関係は、以下の式112の範囲の値となることがわかった。
Figure 0005211276
従って、任意の金属製埋設パイプラインに関して、金属製パイプラインの敷設後に当該金属製パイプラインに生じる管対地交流電位を予測するためには、敷設予定ルートに沿って磁束密度を測定し、上述の方法で算出した磁束密度積算値ΣBに対して、以下の式113を計算することにより、金属製埋設パイプラインに発生する管対地交流電位EACiを予測することができる。
Figure 0005211276
以上説明したように、金属製パイプラインの敷設予定ルートに沿って磁束密度の絶対値および位相を測定し、上記の式102〜式113に基づいて演算を行なうことで、敷設後の金属製埋設パイプラインに発生する電磁誘導電圧(さらには、管対地交流電位)を、敷設前に予測することが可能となる。
これにより、金属製埋設パイプラインや通信ケーブルに対して、電磁誘導対策の要否の評価、および、対策が必要な場合については適正な対策の設計を行なうことで金属製埋設パイプラインや通信ケーブルの敷設と同時に電磁誘導対策を施工することができ、電磁誘導対策の費用を大幅に削減することが可能となる。
(電磁誘導電圧の予測方法−演算方法2)
続いて、本実施形態に係る電磁誘導電圧予測方法の第2の演算方法について、以下に詳細に説明する。この演算方法は、金属製パイプラインの敷設予定ルートと、交流架空送電線との幾何学的位置関係を考慮に入れて演算を行い、敷設後に金属製パイプラインに発生する電磁誘導電圧および管対地交流電位を予測する方法である。
(単相交流方式の交流架空送電線における予測方法)
まず、送電鉄塔に単相交流方式の交流架空送電線が設けられている場合における電磁誘導電圧予測方法を、詳細に説明する。
本演算方法においては、図9に示したように、交流架空送電線A(図中の白抜きの三角印)と、金属製パイプラインの敷設予定ルートP(図中の白抜きの丸印)と、磁束密度を測定する磁気センサS(図中の白抜きの菱形印)との位置関係を定義する。また、金属製パイプラインの敷設予定ルート(すなわち、金属製パイプラインの軸方向)をx方向、水平方向をy方向、鉛直方法をz方向とする。
:交流架空送電線Aの地表面16からの高さ
:磁気センサSの測定位置(地表面からの高さ)
:金属製パイプラインの敷設予定深度
:磁気センサSおよび敷設予定ルートPの交流架空送電線Aからの水平離隔距離
a :交流架空送電線Aと敷設予定ルートPとの直線距離
c :交流架空送電線Aと磁気センサSとの直線距離
また、予測のための演算に際しては、交流架空送電線Aおよび金属製パイプラインの敷設予定ルートPの鏡像を考慮する必要がある。鏡像を考慮する際には、鏡面を地表面16とするのではなく、地表面16から大地透過深度と呼ばれる深さだけ下方の位置を鏡面22とする。この鏡面22を対称面として、交流架空送電線の鏡像A’および金属製パイプラインの敷設予定ルートの鏡像P’を考え、交流架空送電線の鏡像に関して、以下のようにパラメータを定義する。
:大地透過深度
:交流架空送電線Aと敷設予定ルートの鏡像P’との直線距離
:磁気センサSと交流架空送電線の鏡像A’との直線距離
上記のように交流架空送電線A、金属製パイプラインの敷設予定ルートPおよび磁気センサSの位置関係を定義し、交流架空送電線Aに流れる送電電流をIaとすると、金属製パイプラインの軸方向に誘導される電磁誘導電圧Vmは、送電電流Iaと金属製パイプラインと交流架空送電線との間の大地帰路相互インピーダンスZmとを用いて、以下の式201で表される。
Figure 0005211276
ここで、上記の大地帰路相互インピーダンスは、Pollaczekにより厳密解が与えられているが、本実施形態に係る方法では、Deriらによる架空導体間の近似式を変形した雨谷らによる近似式(式202)を用いる。
Figure 0005211276
ここで、上記の式202において、jは虚数単位であり、ωは送電電流Iaの角周波数(=2πf、関東地区ではf=50Hzであり、関西地区ではf=60Hzである。)であり、μは真空の透磁率(=4π×10−7)である。また、aは、上述のように送電線とパイプラインとの直線距離であり、bは、送電線とパイプラインの鏡像との直線距離であって、それぞれ、以下の式203および式204で表される。
Figure 0005211276
また、上記式204において、hは、上述のように大地透過深度であるが、このhは、以下の式205で表される。
Figure 0005211276
ここで、ρは大地抵抗率であり、例えば、大地抵抗率ρを50Ωmとすると、hの絶対値として356(m)が得られる。なお、hは、複素数あるいはその絶対値のどちらを用いてもよい。以下では、絶対値を用いた場合を例にとり、説明する。
一方、磁気センサにより計測された磁束密度は、大地を考慮して、交流架空送電線およびその鏡像からの磁束密度の合成として考えることが出来る。交流架空送電線の鏡像は、地表面からh+2hの深さに、逆向きの送電電流を配置することで与えられる。
交流架空送電線からの磁束密度Bおよび交流架空送電線の鏡像からの磁束密度Bは、それぞれ以下の式206および式207で表される。
Figure 0005211276
パイプラインに誘導される電磁誘導電圧は、磁束密度のy方向成分およびz方向成分により発生することから、BおよびBをy方向成分とz方向成分にそれぞれ分離すると、それぞれ以下の式のようになる。
Figure 0005211276
これより、磁束密度Bは、式206〜式213を用いて、以下のように表される。
Figure 0005211276
上記式214を変形して、以下に示す式215が得られる。この式215は、実測した磁束密度から送電電流を算出可能であることを表している。
Figure 0005211276
よって、式201、式202および式215より、電磁誘導電圧Vmを表す式として、以下の式216が得られる。
Figure 0005211276
ここで、上記の式216において、a,b,c,d,hは、金属製パイプラインの幾何学的位置関係と大地抵抗率から決まる定数であり、hは、大地抵抗率や真空の透磁率等から算出可能な値である。従って、金属製パイプラインの敷設予定ルートに沿って磁束密度を計測し、式216に基づいて演算を行うことで、金属製パイプラインの単位長さ当たりに発生する電磁誘導電圧を予測することができる。
また、式216を用いて算出された電磁誘導電圧Vmを、パイプラインの軸方向に積算することにより、管対地交流電位EACを算出することができる。
以上説明したように、送電線とパイプラインの幾何学的な位置関係(送電線とパイプラインとの水平離隔y、送電線の地上高h、パイプラインの埋設深さh)と地表面における磁束密度Bを計測することにより、電磁誘導電圧Vm、さらには管対地交流電位EACを予測することが可能となる。なお、単相の送電線の例としては、交流電鉄の架線を挙げることができる。
(多相交流方式の交流架空送電線における予測方法)
上述の説明では、単相の送電線に近接したパイプラインにおける電磁誘導電圧Vmを磁束密度Bから予測する手法について説明した。実際の送電線のほとんどは多相、具体的には三相交流方式であるが、取り扱いは基本的に単相を同じである。以下では、代表的な例として、三相交流方式で逆相の2回線垂直配列送電線を例に、この送電線に近接するパイプラインPにおける磁束密度Bと電磁誘導電圧Vmの関係について、詳細に説明する。
本演算方法においては、図10に示したように、送電鉄塔Aに架設されたu,v,w,u’,v’,w’の6本の交流架空送電線(図中の白抜きの三角印)と、金属製パイプラインの敷設予定ルートP(図中の白抜きの丸印)と、磁束密度を測定する磁気センサS(図中の白抜きの菱形印)との位置関係を、以下のように定義する。また、金属製パイプラインの敷設予定ルート(すなわち、金属製パイプラインの軸方向)をx方向、水平方向をy方向、鉛直方法をz方向とする。
:交流架空送電線u,u’の地表面16からの高さ
:交流架空送電線v,v’の地表面16からの高さ
:交流架空送電線w,w’の地表面16からの高さ
:磁気センサSの測定位置(地表面からの高さ)
:金属製パイプラインの敷設予定深度
:磁気センサSおよび敷設予定ルートPの送電鉄塔Aの中心からの水平離隔距離
:交流架空送電線u,u’の送電鉄塔Aの中心からの離隔距離(送電鉄塔のアーム長)
:交流架空送電線v,v’の送電鉄塔Aの中心からの離隔距離(送電鉄塔のアーム長)
:交流架空送電線w,w’の送電鉄塔Aの中心からの離隔距離(送電鉄塔のアーム長)
:各交流架空送電線と敷設予定ルートPとの直線距離
:各交流架空送電線と磁気センサSとの直線距離
また、予測のための演算に際しては、各交流架空送電線および金属製パイプラインの敷設予定ルートPの鏡像を考慮する必要がある。鏡像を考慮する際には、鏡面を地表面16とするのではなく、地表面16から大地透過深度と呼ばれる深さだけ下方の位置を鏡面22とする。この鏡面22を対称面として、送電鉄塔Aの鏡像A’と金属製パイプラインの敷設予定ルートの鏡像P’を考え、各交流架空送電線の鏡像に関して、以下のようにパラメータを定義する。
:大地透過深度
:各交流架空送電線と敷設予定ルートの鏡像P’との直線距離
:磁気センサSと各交流架空送電線の鏡像との直線距離
ここで、演算方法の説明に先立ち、三相交流方式で逆相の2回線垂直配列送電線について、簡単に説明する。
三相交流方式の2回線垂直配列送電線とは、図10に示したように、(u,v,w)の3本の交流架空送電線の組み合わせを1回線とする送電線(三相)が、送電鉄塔を中心として両側に架設され(2回線)、1回線を構成する3本の交流架空送電線が垂直に配列されているものである。ここで、1回線を構成する3本の交流架空送電線u,v,wは、それぞれ120°ずつ位相差がつけられており、例えば、vの送電線の位相を中心に、uはvよりも120°位相が進んでおり、wはvよりも120°位相が遅れているように設定される。また、逆相とは、uとw’、vとv’、wとu’がそれぞれ同位相となっている場合をいう。なお、uとu’、vとv’、wとw’がそれぞれ同位相となっている場合は、同相という。
このような三相交流方式で逆相の2回線垂直配列送電線において、各交流架空送電線によりパイプラインの軸方向に発生する電磁誘導電圧Vmは、以下の式301で表される。
Figure 0005211276
ここで、i=u,v,w,u’,v’,w’であり、Vmは各交流架空送電線による電磁誘導電圧、Iは各相の送電電流、Zmは各交流架空送電線とパイプラインの間の大地帰路相互インピーダンスである。
また、各交流架空送電線における送電電流Iは、送電電流の絶対値Iを用いて、以下の式302で表される。
Figure 0005211276
上記式302における係数kは、各交流架空送電線における送電電流の位相に由来する係数であり、逆相配列の場合、各交流架空送電線の係数kは以下の式303〜式305で表される。
Figure 0005211276
なお、交流架空送電線が同相の2回線垂直配列である場合には、係数kは、以下の式306〜式308のようになる。
Figure 0005211276
また、各交流架空送電線とパイプラインの間の大地帰路相互インピーダンスZmは、以下の式309で表される。
Figure 0005211276
上記式309において、aは送電線とパイプラインとの離隔、bは送電線とパイプラインの鏡像との離隔であるが、これらは、具体的には、以下の式310、式311のように表される。
Figure 0005211276
また、上記式310および式311において、yおよびhは、それぞれ具体的に式312〜式320で示される。
Figure 0005211276
上記式311において、hは大地透過深度であり、上述の式205で表される。hは、複素数あるいはその絶対値のどちらを用いてもよい。以下では、複素数を用いた場合を例にとり、説明する。
式302および式309を用いて、式301は、以下の式321のように表される。
Figure 0005211276
他方、磁気センサにより得られる磁束密度Bは、以下の式322に示すように、磁束密度のy方向成分(水平成分)Byおよびz方向成分(鉛直成分)Bzの平方和として計測される。ここで、Byは、各相からの磁束密度のy方向成分Biyの和の絶対値として計算され、Bzは、各相からの磁束密度のz方向成分Bizの和の絶対値として計算される。
Figure 0005211276
ここで、各交流架空送電線からの磁束密度は、交流架空送電線およびその鏡像からの磁束密度の合成として考えることが出来る。交流架空送電線の鏡像は、地表面からh+2hの深さに、逆向きの送電電流を配置することで与えられる。交流架空送電線およびその鏡像からの磁束密度は、それぞれ式323および式324で表される。また、以下の式323および式324中のcおよびdは、それぞれ式325および式326で表される。
Figure 0005211276
各相からの磁束密度のy方向成分Biyおよびz方向成分Bizは、B1iおよびB2iのy方向成分B1iyおよびB2iy、z方向成分B1izおよびB2izを用いて、それぞれ以下の式のように表される。
Figure 0005211276
上記式327および式329より、磁束密度B(式322)は、以下のように表される。
Figure 0005211276
上記式331を変形して、以下に示す式333が得られる。この式333は、多相交流方式の交流架空送電線においても、実測した磁束密度から送電電流を算出可能であることを表している。
Figure 0005211276
よって、式322および式331から、電磁誘導電圧Vmを表す式として、以下の式334が得られる。
Figure 0005211276
また、式334を用いて算出された電磁誘導電圧Vmを、パイプラインの軸方向に積算することにより、管対地交流電位EACを算出することができる。
以上、逆相の2回線垂直配列の送電線を例に挙げたが、その他の場合の多相系においても、送電線とパイプラインの幾何学的な位置関係(すなわち、送電鉄塔のアーム長g〜gおよび高さh〜h、送電線とパイプラインとの水平離隔y、送電線の地上高h、パイプラインの埋設深さh)と地表面における磁束密度Bを計測することにより、電磁誘導電圧V、さらには管対地交流電位EACを予測することが可能となる。
また、多相系の交流架空送電線に起因する電磁誘導電圧Vおよび管対地交流電位EACを算出する際に、これを単相に近似することも可能である。この場合、各相の中心点などに単相の送電線が位置していると仮定すれば良い。なお、多相系を単相系に近似する場合には、複数の送電線から発生する磁界を平均して考える場合に相当するため、金属製埋設パイプラインの敷設予定位置が、多相系の交流架空送電線からある程度離れている場合に、精度良く単相に近似することが可能である。
続いて、図11〜図13を参照しながら、本演算方法の適用例について、詳細に説明する。図11は、磁束密度の測定区間について説明するための説明図であり、図12は、交流架空送電線と金属製パイプラインとの水平離隔距離を説明するためのグラフ図であり、図13は、管対地交流電位の予測値を説明するためのグラフ図である。
本適用例では、図11に示したように、逆相垂直配列2回線の三相交流架空送電線Aに近接して埋設されているパイプライン(ポリエチレン塗覆装鋼管)について、管対地交流電位の予測値を算出するとともに、実測した管対地交流電位との比較を行った。図11中のターミナルボックス(TB)TB56〜TB64の約2kmの区間が試験対象区間である。なお、ターミナルボックスとは、パイプラインからのリード線が地表面のマンホール内に立上っている計測地点のことである。パイプラインの各地点における送電線Aとの水平離隔yを、図12に示す。
磁気センサを搭載した車両により、パイプラインルート直上の地表面を走行し、パイプラインの軸直角方向(水平方向)成分である磁束密度のy方向成分Byおよび鉛直方向成分である磁束密度のz方向成分Bzをそれぞれ計測した。また、各ターミナルボックスにおいて、飽和硫酸銅照合電極を土壌中に設置し、この飽和硫酸銅照合電極とパイプラインとの間の交流電圧(管対地交流電位EAC)を計測した。
各測定地点における磁束密度Bは、計測した磁束密度ByおよびBzと、位相差φおよびφとを用いて、以下の式335により算出した。
Figure 0005211276
また、TB56〜TB57の区間については、位相差φを測定できなかったため、上記式335において、φ=0として磁束密度を算出した。なお、実質的には、φ≒0である場合が多いことから、得られる値に大きな影響はない。
得られた磁束密度Bと、式334とを用いて、パイプラインの各地点において軸方向に発生する電磁誘導電圧Vmおよびこれを軸方向に積算して得られる管対地交流電位EACを算出した。なお、算出に使用した各パラメータの値を、以下の表3に示す。
Figure 0005211276
各地点における電磁誘導電圧VmをTB56より積算して得られた管対地交流電位EACの予測値を、実測した管対地交流電位EACと併せて図13に示す。図13に示すように、特に送電線と近接して並行し、管対地交流電位が急激な上昇を見せたTB60〜TB64において、2V程度の誤差で予測することができた。図13に示したように、送電線に近接している区間において、管対地交流電位の予測値と実測値とが非常に良い一致を示しているということは、算出した電磁誘導電圧の予測値が、実際にパイプラインに発生している電磁誘導電圧と良い一致を示していることを示唆している。
以上説明したように、本演算方法では、従来のように正味の送電電流を仮定する必要がなく、高い精度で金属製パイプラインに発生する電磁誘導電圧や管対地交流電位をパイプラインの敷設前に予測することが可能となる。
また、上記の第1の演算方法および第2の演算方法による電磁誘導電圧や管対地交流電位の予測値を、例えば参照用磁気センサ100や交流電圧計102や磁気センサ104の制御を行っているコンピュータ等の制御装置を用いて演算することが可能である。また、これらの計測機器から得られた実測データに基づいて、上記の第1の演算方法や第2の演算方法に関するプログラムを、CPUやROM、RAM等のメモリを有する他のコンピュータで実行することで、電磁誘導電圧や管対地交流電位の予測値を算出することが可能である。
上記のコンピュータプログラムは、コンピュータが備える記憶部に格納され、コンピュータが備えるCPUに読み込まれて実行されることにより、そのコンピュータを上記の電磁誘導電圧予測装置として機能させる。また、コンピュータプログラムが記録された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
以上説明したように、本発明に係る電磁誘導電圧の予測方法によれば、送電線が複数存在し、送電線と金属製埋設パイプラインとの位置関係が複雑である場合にも、煩雑な計算を行うことなく、金属製埋設パイプラインに発生する電磁誘導電圧を高い精度で予測することができる。また、大深度地下の鋼製シールド内といった特殊環境内に敷設する金属製パイプラインに発生する電磁誘導電圧を予測することは、従来の予測方法では極めて困難であったが、本発明に係る電磁誘導電圧の予測方法によれば、大深度地下の鋼製シールド内における磁束密度を計測することによって、予測が可能である。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、上述した実施形態においては、金属製埋設パイプラインの場合について説明したが、架空通信ケーブルや大深度地下シールドに設けられる金属製パイプラインや通信ケーブル等であっても、同様に電磁誘導電圧や管対地交流電位の予測値を算出することが可能である。
本発明の各実施形態に係る電磁誘導電圧予測方法において、磁束密度の計測法の一例を説明するための説明図である。 磁束密度の各成分を説明するための説明図である。 磁束密度の測定結果の一例を説明するためのグラフ図である。 磁束密度の測定区間を説明するための説明図である。 磁束密度の測定結果の一例を説明するためのグラフ図である。 磁束密度の測定結果の一例を説明するためのグラフ図である。 磁束密度の測定結果の一例を説明するためのグラフ図である。 磁束密度の測定結果の一例を説明するためのグラフ図である。 敷設後の金属製パイプラインの管対地交流電位を計測する方法の一例を説明するための説明図である。 磁束密度積算値の計算結果を説明するためのグラフ図である。 磁束密度積算値と管対地交流電位との関係を説明するためのグラフ図である。 交流架空送電線と金属製パイプラインの敷設予定ルートとの位置関係を説明するための説明図である。 交流架空送電線と金属製パイプラインの敷設予定ルートとの位置関係を説明するための説明図である。 磁束密度の測定区間について説明するための説明図である。 交流架空送電線と金属製パイプラインとの水平離隔距離を説明するためのグラフ図である。 管対地交流電位の予測値を説明するためのグラフ図である。
符号の説明
10,11 送電鉄塔
12 交流架空送電線
14 敷設予定ルート
16 地表面
18 金属製埋設パイプライン
20 照合電極
22 鏡面
100 参照用磁気センサ
102 電圧計
104 磁気センサ

Claims (5)

  1. 交流架空送電線または交流式電気鉄道による磁束密度に起因して、前記交流架空送電線または前記交流式電気鉄道に隣接して敷設される埋設金属導体または架空金属導体に発生する電磁誘導電圧を、敷設前に予測する電磁誘導電圧予測方法であって、
    磁束密度測定手段を前記埋設金属導体または前記架空金属導体の敷設予定ルートに沿って移動させながら、前記敷設予定ルートもしくは前記敷設予定ルート近傍における磁束密度の絶対値を測定し、
    前記敷設予定ルートに沿って測定した前記磁束密度の絶対値を、前記敷設予定ルートに沿って積算し、
    積算した前記磁束密度の絶対値に基づいて、敷設後の前記埋設金属導体または前記架空金属導体に発生する電磁誘導電圧を演算する
    ことを特徴とする、電磁誘導電圧予測方法。
  2. 交流架空送電線または交流式電気鉄道による磁束密度に起因して、前記交流架空送電線または前記交流式電気鉄道に隣接して敷設される埋設金属導体または架空金属導体に発生する電磁誘導電圧を、敷設前に予測する電磁誘導電圧予測方法であって、
    磁束密度測定手段を前記埋設金属導体または前記架空金属導体の敷設予定ルートに沿って移動させながら、前記敷設予定ルートもしくは前記敷設予定ルート近傍における磁束密度の絶対値を測定し、
    測定した前記磁束密度の絶対値と、前記交流架空送電線または前記交流式電気鉄道と前記敷設予定ルートとの幾何学的な位置関係とに基づいて、敷設後の前記埋設金属導体または前記架空金属導体に発生する電磁誘導電圧を演算する
    ことを特徴とする、電磁誘導電圧予測方法。
  3. 前記交流架空送電線または前記交流式電気鉄道の近傍に参照用磁束密度測定手段を固定し、
    前記磁束密度測定手段により測定される磁束密度と、前記参照用磁束密度測定手段により測定される磁束密度と、の位相差をあわせて測定する
    ことを特徴とする、請求項1または2に記載の電磁誘導電圧予測方法。
  4. 前記磁束密度の前記敷設予定ルートに直交する成分について、前記磁束密度の絶対値および前記位相差に基づいて余弦成分及び/又は正弦成分を算出し、
    前記余弦成分および前記正弦成分それぞれについて、前記敷設予定ルートに沿って積算を行い、
    前記余弦成分の積算値及び/又は前記正弦成分の積算値を用いて、前記磁束密度の積算値を算出する
    ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の電磁誘導電圧予測方法。
  5. 少なくとも2つの前記磁束密度測定手段を用いて、前記磁束密度の前記敷設予定ルートに直交する成分を計測することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の電磁誘導電圧予測方法。
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