JP5208105B2 - ErbB2を介するシグナル伝達経路のダウンレギュレーションの有無を判定する方法、抗癌剤による治療の要否の判断を補助する方法、およびシグナル伝達阻害剤 - Google Patents

ErbB2を介するシグナル伝達経路のダウンレギュレーションの有無を判定する方法、抗癌剤による治療の要否の判断を補助する方法、およびシグナル伝達阻害剤 Download PDF

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本発明は、シグナル伝達阻害方法、それに用いるシグナル伝達阻害剤およびその用途に関する。
シグナル伝達経路の受容体チロシンキナーゼが、癌の発症に関与することが、広く知られている。中でも、ErbBファミリーに属するErbB2は、細胞膜に発現する、チロシンキナーゼ活性を有する受容体型タンパク質であり、種々の癌での過剰発現が報告されている。ErbB2は、HER2、neuとも呼ばれており、乳癌(10〜30%)、卵巣癌(約30%)、膀胱癌(30〜40%)等で、過剰発現が確認されている。このようにErbB2の過剰発現が癌の発症と関連していることから、この受容体に対する抗体を分子標的抗癌剤として使用することが試みられている。具体例としては、ErbB2タンパク質を標的とし、一般的に乳癌の治療薬として使用される抗体ErbB2抗体(一般名トラスツマブ、商品名ハーセプチン)があげられる。しかしながら、ErbB2を標的とする抗癌剤の投与は、前記受容体を過剰発現している癌症例に限られている。したがって、新たな抗癌剤の提供が望まれている。
また、乳癌患者の治療方針を決定するにあたっては、例えば、予め、ErbB2(HER2)の過剰発現の有無が確認される。前述のハーセプチンが適応される患者が、ErbB2過剰発現の認められる症例に限られるためである。前記ErbB2の過剰発現の検査方法としては、従来、ハーセプテスト(Hercep Test)が採用されている。これは、細胞表面に発現したErbB2をモノクローナル抗体で免疫染色する方法であり、0、1+、2+および3+の4段階で判定し、2+および3+を過剰発現と評価するものである。このErbB2の検出においては、チロシンリン酸化によって活性化したErbB2の検出が望まれる。しかし、リン酸化部位の特異的な検出を試みると、他のリン酸化されたErbBファミリーも検出してしまうという問題がある。このため、過剰発現したErbB2がリン酸化を受けることによって、実際に、シグナル伝達経路が働いているか否かは、判断し難いという問題がある。さらに、ErbB2が過剰発現している場合であっても、ErbB2のシグナル伝達が実際に働いていなければ、ハーセプチンによる治療は、不適切となってしまう。
Oncology vol.20,p1763−1771,2006 Journal of Clinical Oncology,vol.25,p587−595,2007
そこで、本発明は、ヒト細胞におけるErbB2を介したシグナル伝達経路の活性化を阻害する方法、ならびにそれに用いるシグナル伝達阻害剤の提供を目的とする。また、本発明は、ヒト細胞におけるErbB2を介したシグナル伝達が関与する癌に対する抗癌剤ならびに癌の治療方法の提供を目的とする。さらに、本発明は、ヒト細胞において、前記ErbB2を介したシグナル伝達経路が働いているか否かを判定する方法の提供を目的とする。
前記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
1.シグナル伝達経路のダウンレギュレーションの有無を判定する方法であって、
前記シグナル伝達経路が、ヒト細胞におけるErbB2を介するシグナル伝達経路であり、
ヒトFRS2βおよびヒトFRS2β遺伝子の転写産物の少なくとも一方を検出する工程を含む、ダウンレギュレーション判定方法;
2.前記検出する工程における検出量が、予め設定されたカットオフ値よりも大きい場合に、ErbB2を介するシグナル伝達経路のダウンレギュレーションが存在すると判定する、上記1に記載のダウンレギュレーション判定方法。
3.前記ヒト細胞がErbB2を発現している、上記1または2に記載のダウンレギュレーション判定方法;
4.ヒト癌細胞に対する抗ErbB2抗体を標的とする抗癌剤による治療の要否の判断を補助する方法であって、
ヒト癌細胞由来の生体試料において、ヒトFRS2βおよびヒトFRS2β遺伝子の転写産物の少なくとも一方を検出する工程を含む、方法;
5.前記検出する工程における検出量が、予め設定されたカットオフ値よりも大きい場合に、前記抗ErbB2抗体による治療を要しないと判定する、上記4に記載の方法;
6.前記ヒト癌細胞がErbB2を発現している、上記4または5に記載の方法;
.シグナル伝達経路の活性化を阻害するシグナル伝達阻害剤であって、
前記シグナル伝達経路は、ヒト細胞におけるErbB2を介するシグナル伝達経路であり、
核酸を含み、
前記核酸は、配列番号2に記載の塩基配列における1番目〜555番目の領域を含む塩基配列からなる核酸であり、
前記核酸は、コードするポリペプチドを細胞内で発現する、シグナル伝達阻害剤。
.前記シグナル伝達阻害剤が、さらにベクターを含み、前記核酸が前記ベクターに連結されている、上記に記載のシグナル伝達阻害剤;
.シグナル伝達経路の活性化を阻害するシグナル伝達阻害剤であって、
前記シグナル伝達経路は、ヒト細胞におけるErbB2を介するシグナル伝達経路であり、
ポリペプチドを含み、
前記ポリペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列における1番目〜185番目の領域を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドである、シグナル伝達阻害剤。
本発明者等は、鋭意研究の結果、FRS2βが、ErbB2のシグナル伝達をダウンレギュレーションすることを見出した。そして、さらに、FRS2βのPTBドメイン(リン酸化チロシン結合ドメイン)、および、FRS2βのERK2(細胞外シグナル制御キナーゼ2)との結合ドメイン(以下、「ERK2結合ドメイン」という)の少なくとも一方を有するポリペプチド(以下、「本発明のポリペプチド」という)であれば、前記ダウンレギュレーションが生じることを見出した。なお、FRS2βのERK2結合ドメインは、本発明者らが決定したドメインである。
このように、本発明のポリペプチドによれば、前記ErbB2を介するシグナル伝達経路がダウンレギュレーションされる。このため、例えば、目的のヒト細胞に、本発明のポリペプチドを導入したり、本発明のポリペプチドを発現する核酸を導入することによって、前記細胞における前記シグナル伝達を抑制できる。さらに、ErbB2のシグナル伝達は、前述のように、癌の発症に関与していることから、本発明によりシグナル伝達を阻害することで、癌の発症を予防し、また、癌の治療を行うことができる。また、前記シグナル伝達の阻害によって、例えば、細胞の癌化ならびに細胞の増殖や生育を抑制できることからも、本発明は癌の予防や治療に有用といえる。
また、FRS2βによりErbB2のシグナル伝達がダウンレギュレーションされることから、目的の細胞におけるFRS2βを検出することによって、前記シグナル伝達が働いているか否かも判定できる。そして、その判断結果に基づけば、例えば、ErbB2の機能を阻害する、ハーセプチン等の分子標的薬による治療の要否も判断できる。このように本発明は、例えば、医療分野や、分子細胞学等の分野において、非常に有用な技術といえる。
図1は、本発明の一実施例において、NIH3T3細胞のコロニー形態を示す写真である。 図2は、前記実施例において、NIH3T3細胞のコロニー数を示すグラフである。 図3は、本発明のその他の実施例において、FRS2βを発現させた細胞の経時的な増殖を示すグラフである。 図4は、本発明のさらにその他の実施例において、ErbB2およびFRS2βを発現させたHEK293T細胞のイムノブロッティングの結果を示す写真である。 図5は、本発明のさらにその他の実施例において、MCF−7細胞のイムノブロッティングの結果を示す写真である。 図6は、本発明のさらにその他の実施例において、FRS2βを発現させたBT474細胞のイムノブロッティングの結果を示す写真である。 図7は、本発明のさらにその他の実施例において、ErbB2およびFRS2βを発現させたHEK293T細胞のイムノブロッティングの結果を示す写真である。 図8において、(A)は、本発明のさらにその他の実施例における、内因性にErbB2を過剰発現しているヒト乳癌細胞株BTB474に対するレンチウイルスによる感染効率を調べるため、d2Venus発現レンチウイルスを感染させ、d2Venus発現細胞をFACSにて分離した結果を示す図であり、(B)は、FRS2βを発現するレンチウイルスおよびコントロールd2Venus発現細胞ライセートの電気泳動の写真であり、(C)は、ハーセプチンの濃度と培養細胞の吸光度との関係を示すグラフである。 図9は、本発明のさらにその他の実施例において、乳癌細胞のイムノブロッティングの結果を示す写真である。 図10において、(A)は、本発明のさらにその他の実施例における、各種癌細胞のマイクロアレイ解析の結果を示す写真であり、(B)は、乳癌細胞のマイクロアレイ解析の結果を示す写真である。
<シグナル伝達阻害方法>
本発明のシグナル伝達阻害方法は、前述のように、シグナル伝達経路の活性化を阻害するシグナル伝達の阻害方法であって、前記シグナル伝達経路は、ヒト細胞におけるErbB2を介するシグナル伝達経路であり、前記(A1)、(A2)、(B1)および(B2)からなる群から選択された少なくとも一つのポリペプチドにより、前記シグナル経路の活性化を阻害する方法である。
(A1) 配列番号1に記載のアミノ酸配列における1番目〜185番目の領域を含むアミノ酸配列からなるポリペプチド
(A2) 前記(A1)のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、ヒトFRS2βのPTBドメインと同等の機能を有するポリペプチド
(B1) 配列番号1に記載のアミノ酸配列における232番目〜252番目または237番目〜252番目の領域を含むアミノ酸配列からなるポリペプチド
(B2) 前記(B1)のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、ヒトERK2と結合する機能を有するポリペプチドである。
ErbB2は、前述のように、シグナル伝達に関与するErbBファミリーに属する受容体型チロシンキナーゼである。ErbB2は、同じファミリーであってEGF(上皮増殖因子)等をリガンドとするErbB1とは異なり、対応するリガンドを有さない受容体である。このErbB2は、外部からの刺激により、ホモ二量体化や他の受容体とのヘテロ二量体化が誘導され、これによって、ErbB2の細胞内ドメインにおけるキナーゼドメインが活性化される。ErbB2は、HER2、または、neuとも呼ばれる。
ヒトFRS2βは、SNT−2またはFRS3とも呼ばれる。FRS2βは、FGFR(繊維芽細胞成長因子受容体)やニュートロフィン受容体のシグナル伝達に関与するドッキングタンパク質であり、以下のことが知られている。FRS2βは、N末端にミリスチレーションシグナルを持つことにより、細胞膜の脂質に結合している。そして、前記FGFRやニュートロフィン受容体が活性化すると、FRS2βは、FRS2βのPTBドメイン(リン酸化チロシン結合ドメイン)を介して、前記受容体の細胞内ドメインに結合する。前記受容体に結合したFRS2βは、さらに、チロシン残基にリン酸化を受ける。FRS2βがリン酸化を受けると、このチロシンリン酸化ドメインに、各種シグナル伝達分子(例えば、Shp2、Grb2等)が結合し、これらのシグナル伝達分子が活性化する。そして、これらのシグナル伝達分子の活性化により、例えば、Ras−ERK経路等の活性化が引き起こされる。しかしながら、FRS2βは、ErbB2のシグナル伝達において、すでに報告されている前記FGFRのシグナル伝達における機能とは、全く異なる機能を示す。そして、このことは何ら報告されていない。ErbB2のシグナル伝達において、FRS2βが、シグナル伝達の活性化ではなく、ダウンレギュレーションを引き起こすことは、前述のように、本発明者らがはじめて見出したことである。そして、本発明者らは、さらに、FRS2βにおけるPTBドメイン、および、ERK2と結合するドメイン(ERK2結合ドメイン)の少なくとも一方によれば、前記ダウンレギュレーションを実現できることを見出した。具体的には、例えば、ErbB2の自己リン酸化や下流分子のリン酸化が阻害されるというような、シグナル伝達のダウンレギュレーションが生じる。
ヒトFRS2βのアミノ酸配列、ヒトFRS2β遺伝子の完全長配列、および、ヒトFRS2βをコードするCDS配列(終止コドンを含む)等は、例えば、NCBIアクセッションNo.NM_006653に登録されている。ヒトFRS2βのアミノ酸配列を配列番号1に、ヒトFRS2β遺伝子のCDS配列(cDNA)を配列番号2に、それぞれ示す。ヒトFRS2βのPTBドメインは、配列番号1のアミノ酸配列における1番目〜185番目の領域(配列番号3)であり、そのコード配列は、配列番号2のcDNA配列における1番目〜555番目の領域(配列番号4)である。また、ヒトFRS2βのERK2結合ドメインは、配列番号1のアミノ酸配列における237番目〜252番目の領域(配列番号5)であり、そのコード配列は、配列番号2のcDNA配列における709番目〜756番目の領域(配列番号6)である。
本発明におけるポリペプチドは、PTBドメインの機能、および、ヒトERK2と結合する機能の少なくも一方を有するポリペプチドであればよい。
まず、PTBドメインの機能を有するポリペプチドとしては、例えば、下記(A1)〜(A2)に示すポリペプチドがあげられる。
(A1) 配列番号1に記載のアミノ酸配列における1番目〜185番目の領域を含むアミノ酸配列からなるポリペプチド
(A2) 前記(A1)のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、ヒトFRS2βのPTBドメインと同等の機能を有するポリペプチド
前記(A2)における「PTBドメインと同様の機能」とは、例えば、ヒトErbB2と結合する機能があげられる。前記(A2)において、欠失、置換または付加が可能なアミノ酸残基数は、例えば、ヒトFRS2βのPTBドメインの機能を喪失しない範囲であれば特に制限されない。前記欠失等が可能なアミノ酸残基数は、例えば、50アミノ酸残基に対して、1〜4個が好ましく、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個である。また、前記(A1)のポリペプチドに対するアミノ酸配列の相同性は、例えば、70%以上である。
前記(A1)のポリペプチドは、例えば、前述のように、PTBドメインを含むポリペプチドでもよいし、下記(A3)に示す、PTBドメインのみからなるポリペプチドであってもよい。
(A3) 配列番号1に記載のアミノ酸配列における1番目〜185番目のアミノ酸配列からなるポリペプチド(配列番号3)
つぎに、ERK2結合ドメインの機能を有するポリペプチドとしては、例えば、下記(B1)〜(B2)に示すポリペプチドがあげられる。
(B1) 配列番号1に記載のアミノ酸配列における232番目〜252番目または237番目〜252番目の領域を含むアミノ酸配列からなるポリペプチド
(B2) 前記(B1)のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、ヒトERK2と結合する機能を有するポリペプチド
前記(B2)において、欠失、置換または付加が可能なアミノ酸残基数は、例えば、ヒトERK2結合ドメインの機能を喪失しない範囲であれば特に制限されない。前記欠失等が可能なアミノ酸残基数は、例えば、50アミノ酸残基に対して、1〜4個が好ましく、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個である。また、前記(B1)のポリペプチドに対するアミノ酸配列の相同性は、例えば、70%以上である。
前記ERK2結合ドメインの機能を有するポリペプチドは、例えば、前述のようにERK2結合ドメインを含むポリペプチドでもよいし、下記(B3)に示す、ERK2結合ドメインのみからなるポリペプチドであってもよい。
(B3) 配列番号1に記載のアミノ酸配列における232番目〜252番目または237番目〜252番目のアミノ酸配列からなるポリペプチド(配列番号5)
また、前記ERK2結合ドメインの機能を有するポリペプチドは、例えば、下記(B4)に示すポリペプチドであってもよい。
(B4) 配列番号1に記載のアミノ酸配列における250、251、315および316番目のアミノ酸の少なくとも1つを含むアミノ酸配列からなるポリペプチド
配列番号1において、250、251、315、316番目のアミノ酸は、FRS2βにおけるERK2との結合部位であり、本発明者らによって決定された。前記ポリペプチドとしては、例えば、250−251番目のアミノ酸を含むペプチドや、315―316番目のアミノ酸を含むペプチド、250−316番目のアミノ酸を含むペプチドがあげられる。また、本発明においては、前記ERK2結合ドメインの機能を有するポリペプチドに代えて、配列番号1に記載のアミノ酸配列における250、251、315または316番目のアミノ酸であってもよい。
本発明におけるポリペプチドは、前述のようなPTBドメインの機能を有するポリペプチドおよびERK2結合ドメインの機能を有するポリペプチドのいずれか一方でもよいし、両者であってもよい。また、本発明におけるポリペプチドは、PTBドメインおよびERK2結合ドメインの両方の機能を有するポリペプチドであってもよい。前記両ドメインの機能を有するポリペプチドとしては、例えば、下記(C1)〜(C3)に示すポリペプチドがあげられる。なお、下記(C3)において、欠失等のアミノ酸数は、例えば、前述と同様である。
(C1) 配列番号1のアミノ酸配列からなるヒトFRS2β
(C2) 前記(A1)および(A2)の少なくも一方のポリペプチドと前記(B1)および(B2)の少なくとも一方のポリペプチドとを含む融合ポリペプチド
(C3) 前記(C1)または(C2)のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、PTBドメインと同等の機能とヒトERK2と結合する機能とを有するポリペプチド
前述のように、ヒト細胞におけるErbB2を介するシグナル伝達経路は、少なくともPTBドメインの機能を有するポリペプチドおよびERK2結合ドメインの機能を有するポリペプチドの少なくとも一方が存在することによって、ダウンレギュレーションが生じる。したがって、本発明においては、少なくともいずれかのドメインを有するポリペプチドが、目的とするヒト細胞に存在すればよい。このため、本発明においては、例えば、前記ポリペプチドをコードする核酸を目的細胞に投与し、細胞内で前記ポリペプチドを発現させてもよいし、ポリペプチドを目的細胞に投与してもよい。そこで、以下に、第1の実施形態として、核酸を含むシグナル伝達阻害剤を導入する形態を、第2の実施形態として、ポリペプチドを含むシグナル伝達阻害剤を導入する形態を、それぞれ説明する。なお、これらは例示であり、本発明は、これらの実施形態には制限されない。
第1の実施形態(核酸の投与)
本発明のシグナル伝達阻害方法は、例えば、ヒト細胞に、核酸を含むシグナル伝達阻害剤を投与する工程を含み、前記核酸は、前記ポリペプチドをコードする核酸であり、前記核酸は、ヒト細胞内で前記ポリペプチドを発現する。なお、前記核酸を含むシグナル伝達阻害剤を、以下、本発明における「第1のシグナル伝達阻害剤」ともいう。
前記核酸としては、前述のようなポリペプチドをコードする核酸であればよい。核酸の種類は、制限されず、例えば、DNA、RNA、mRNA、siRNA等があげられる。また、前記核酸は、例えば、天然由来であっても、遺伝子工学により合成したものであってもよい。
まず、PTBドメインの機能を有するポリペプチドをコードする核酸としては、例えば、下記(a1)および(a2)に示す核酸があげられる。
(a1) 配列番号2に記載の塩基配列における1番目〜555番目の領域を含む塩基配列からなる核酸
(a2) 前記(a1)の塩基配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列からなる核酸であり、ヒトFRS2βのPTBドメインと同等の機能を有するポリペプチドをコードする核酸
前記(a2)において、欠失、置換または付加が可能な塩基数は、例えば、核酸がコードするポリヌクレオチドが、PTBドメインの機能を喪失しない範囲であれば特に制限されない。前記塩基数としては、特に制限されないが、例えば、50塩基に対して、1〜6個が好ましく、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜4個、特に好ましくは1〜3個である。
前記(a2)に示す核酸は、例えば、PTBドメインの機能を喪失しない範囲であれば、例えば、前記(a1)の核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸であってもよいし、前記(a1)の核酸との相同性が90%以上の核酸でもよい。ハイブリダイズのストリンジェントな条件とは、例えば、当該技術分野における標準の条件があげられるが、例えば、温度条件は、前記(a1)の核酸のTm値の±5℃、好ましくは±2℃、より好ましくは±1℃である。条件の具体例として、5×SSC溶液、10×Denhardt溶液、100μg/mlサケ精子DNAおよび1%SDS中、65℃でのハイブリダイゼーション、0.2×SSCおよび1%SDS中、65℃、10分の洗浄(2回)があげられる。また、相同性は、例えば、90%以上であり、好ましくは95%以上、より好ましくは97.5%以上である。
前記(a1)の核酸は、例えば、前述のようにPTBドメインのコード配列を含む核酸でもよいし、下記(a3)に示す、PTBドメインのコード配列のみからなる核酸であってもよい。
(a3) 配列番号2に記載の塩基配列における1番目〜555番目塩基配列からなる核酸(配列番号4)
また、前記PTBドメインの機能を有するポリペプチドをコードする核酸としては、例えば、下記(a4)または(a5)に示す核酸であってもよい。
(a4) 配列番号1に記載のアミノ酸配列における1番目〜185番目の領域を含むアミノ酸配列をコードする核酸
(a5) 前記(a4)の塩基配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列からなる核酸であり、ヒトFRS2βのPTBドメインと同等の機能を有するポリペプチドをコードする核酸
つぎに、ERK2結合ドメインの機能を有するポリペプチドをコードする核酸としては、例えば、下記(b1)および(b2)に示す核酸があげられる。
(b1) 配列番号2に記載の塩基配列における709番目〜756番目の領域を含む塩基配列からなる核酸
(b2) 前記(b1)の塩基配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列からなる核酸であり、ヒトERK2と結合する機能を有するポリペプチドをコードする核酸
前記(b2)において、欠失、置換または付加が可能な塩基数は、例えば、核酸がコードするポリヌクレオチドが、ERK2結合ドメインの機能を喪失しない範囲であれば特に制限されない。前記塩基数は、例えば、前述と同様である。
前記(b2)に示す核酸は、例えば、ERK2結合ドメインの機能を喪失しない範囲であれば、例えば、前記(b1)の核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸であってもよいし、前記(b1)の核酸との相同性が90%以上の核酸でもよい。前記ストリンジェントな条件は、前述と同様であり、前記相同性の好ましい範囲も、前述と同様である。
前記ERK2結合ドメインの機能を有するポリペプチドをコードする核酸としては、例えば、前述のようにERK2結合ドメインのコード配列を含む核酸でもよいし、下記(b3)に示す、ERK2結合ドメインのコード配列のみからなる核酸であってもよい。
(b3) 配列番号2に記載の塩基配列における709番目〜756番目塩基配列からなる核酸(配列番号6)
また、前記ERK2結合ドメインの機能を有するポリペプチドをコードする核酸としては、例えば、下記(b4)〜(b6)からなる群から選択された少なくとも一つの核酸であってもよい。
(b4) 配列番号1に記載のアミノ酸配列における232番目〜252番目または237番目〜252番目の領域を含むアミノ酸配列をコードする核酸
(b5) 配列番号1に記載のアミノ酸配列における250、251、315および316番目のアミノ酸の少なくとも1つを含むアミノ酸配列をコードする核酸であり、ヒトERK2と結合する機能を有するポリペプチドをコードする核酸
(b6) 前記(b4)または(b5)の塩基配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列からなる核酸であり、ヒトERK2と結合する機能を有するポリペプチドをコードする核酸
前記(b5)の核酸としては、例えば、250−251番目のアミノ酸を含むペプチドや、315―316番目のアミノ酸を含むペプチド、250−316番目のアミノ酸を含むペプチドをコードする核酸があげられる。
前記核酸は、例えば、前述のようなPTBドメインの機能を有するポリペプチドをコードする核酸およびERK2結合ドメインの機能を有するポリペプチドをコードする核酸のいずれか一方でもよいし、両者であってもよい。また、本発明において、前記核酸は、PTBドメインおよびERK2結合ドメインの両方の機能を有するポリペプチド(タンパク質を含む)をコードする核酸であってもよい。後者のポリペプチドとしては、例えば、下記(c1)〜(c3)に示すポリペプチドがあげられる。なお、下記(c3)において、欠失等の塩基数は、例えば、前述と同様である。また、ヒトFRS2β遺伝子の完全長配列やその部分配列であってもよい。
(c1) 配列番号2の塩基配列からなるヒトFRS2β遺伝子
(c2) 前記(a1)〜(a5)からなる群から選択された少なくとも一つの核酸と前記(b1)〜(b6)からなる群から選択された少なくとも一つの核酸とを含むキメラ核酸
(c3) 前記(c1)および(c2)の塩基配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列からなる核酸であり、ヒトPTBドメインの機能とヒトERK2と結合する機能とを有するポリペプチドをコードする核酸
本実施形態におけるシグナル伝達阻害剤は、前述のような核酸を含んでいればよい。そして、目的とする細胞への前記核酸の導入方法に応じて、例えば、適宜、さらなる物質を含んでいてもよい。前記核酸の導入方法としては、制限されず、従来公知の方法が使用できる。具体例としては、例えば、ベクターを用いる方法と、ベクターを用いない方法があげられる。
前記ベクターを用いる方法の場合、前記シグナル伝達阻害剤は、例えば、さらにベクターを有し、前記ベクターに前記核酸が連結されていることが好ましい。前記ベクターは、制限されず、従来公知のベクターが使用できる。前記ベクターとしては、例えば、非ウイルスベクターとウイルスベクターとがあげられ、目的の細胞や生体内で前記核酸を発現できるベクターを選択することが好ましい。前記非ウイルスベクターとしては、例えば、pGEX−4T−1、pcDNA3.1(Invitrogen社)、pZeoSV(Invitrogen社)、pBK−CMV(Stratagene社)、pCAGGS等の発現ベクターが使用できる。また、ウイルスベクターとしては、例えば、レトロウイルスベクター、レンチウィルスベクター、アデノウィルスベクター、アデノ随伴ベクター(AAVベクター;adeno associated virus)、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、センダイウイルス、SV40、免疫不全症ウイルス(HIV)等のDNAウイルスやRNAウイルスがあげられる。通常、これらのベクターのプロモーターの下流に、発現可能なように前記核酸を挿入すればよい。このようにベクターに前記核酸を挿入した組換えベクターを、前記シグナル伝達阻害剤として使用できる。
前記組換えベクターは、さらに、前記遺伝子の発現を調節する調節配列を含んでもよい。前記調節配列としては、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)由来のプロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、シミアンウイルス−40(SV−40)、筋βアクチンプロモーター、単純ヘルペスウイルス(HSV)等の構成プロモーター、チミヂンキナーゼプロモーター等の組織特異的プロモーター、成長ホルモン調節性プロモーター、lacオペロン配列の制御下にあるプロモーター、亜鉛誘導性メタロチオネインプロモーター等の誘導性プロモーターや調節性プロモーターがあげられる。前記調節配列は、例えば、従来公知の方法に基づいて、前記遺伝子の発現を機能的に調節できる部位に配置または結合させればよい。この他にも、例えば、エンハンサー配列、ポリアデニル化シグナル、複製起点配列(ori)等を含んでもよい。
また、前記組換えベクターは、例えば、薬剤耐性マーカー、蛍光タンパク質マーカー、酵素マーカー、細胞表面レセプターマーカー等の選択マーカーをコードする配列を有してもよい。
ベクターを用いない方法の場合、前記シグナル伝達阻害剤は、例えば、さらに、リポソームや遺伝子銃用の粒子(金属粒子)を含むことが好ましい。例えば、前記核酸をリポソーム内に取り込ませることによって、前記リポソーム中の核酸を細胞内に取り込ませることができる。また、例えば、前記核酸で被覆した前記粒子を遺伝子銃で細胞に打ち込むことによって、細胞内に前記核酸を導入することができる。このような場合、前記核酸が、細胞内で目的のポリペプチドを発現するように、例えば、プロモーター等の調節配列をさらに含むことが好ましい。
前記核酸を含むシグナル伝達阻害剤を被検体に導入する方法は、制限されない。例えば、in vivoで直接体内に導入する方法や、被検体から取り出した目的の細胞や組織にex vivoで前記シグナル伝達阻害剤を導入し、導入後の細胞等を被検体の体内に戻す方法等がある。
前者のin vivo法の場合、例えば、前記シグナル伝達阻害剤に、適宜滅菌処理を施した後、被検体に導入すればよい。導入方法は、特に制限されず、例えば、注射や、遺伝子銃による投与、液浸等、従来公知の方法が適宜採用できる。
後者のex vivo法の場合、例えば、リン酸カルシウム法、ポリエチレングリコール法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、超音波核酸導入法、遺伝子銃による導入法、DEAE−デキストラン法、微小ガラス管等を用いた直接注入法、前述のようなウイルスベクターを用いた方法等があげられる。
このように前記核酸を含むシグナル伝達阻害剤を細胞に投与すれば、細胞内で前述のようなポリペプチドが発現される。この発現したポリペプチドによって、ErbB2のシグナル伝達経路がダウンレギュレーションされる。
第2の実施形態(ポリペプチドの投与)
本発明のシグナル伝達阻害方法は、例えば、ヒト細胞に、前記ポリペプチドを含むシグナル伝達阻害剤を投与する工程を含む。このように、目的の細胞に直接前記ポリペプチドを投与することによっても、ErbB2のシグナル伝達経路をダウンレギュレーションできる。なお、前記ポリペプチドを含むシグナル伝達阻害剤を、以下、本発明の「第2のシグナル伝達阻害剤」ともいう。
前記ポリペプチドは、例えば、天然物でもよいし、化学合成による合成物でもよい。容易に大量調製が可能であることから、組換えDNA技術を用いて発現させたポリペプチドやタンパク質が好ましい。このような組換えDNA技術を用いる調製方法としては、特に制限されないが、例えば、前記第1の実施形態で述べた組換えベクターが使用できる。前記組換えベクターを、例えば、宿主−ベクター系に基づいて、適当な宿主に導入することにより、前記ポリペプチドを発現させることができる。このような方法により得られたポリペプチドは、例えば、遠析、遠心分離、カラムクロマトグラフィー等の精製処理を必要に応じて施し、回収した精製ポリペプチドを、本実施形態のシグナル伝達阻害剤として使用できる。
前記ポリペプチドを含むシグナル伝達阻害剤を被検体に投与する方法は、特に制限されず、従来公知の方法が採用できる。例えば、目的の細胞や組織等の種類に応じて適宜採用できるが、例えば、注射、液浸等があげられる。
前記シグナル伝達阻害剤は、さらに、リポソームやポリマーを含んでもよく、前記リポソーム中に前記ポリペプチドを封入したり、前記ポリペプチドに前記ポリペプチドを接合させてもよい。
このように前記ポリペプチドを含むシグナル伝達阻害剤を細胞に投与することによって、ErbB2のシグナル伝達経路をダウンレギュレーションができる。
本発明のシグナル伝達阻害方法において、対象となるヒト細胞は、制限されないが、例えば、ErbB2が過剰発現した細胞に有用である。本発明において、ErbB2が発現とは、erbB2遺伝子からのRNAへの転写や、ErbB2タンパク質の発現を含む。ErbB2の過剰発現は発癌と関連していることから、例えば、乳癌、卵巣癌、胃癌、膀胱癌、口腔癌、食道癌、脳腫瘍、肺癌、頭頚部癌、皮膚癌、子宮癌、大腸癌、膵臓癌等の癌細胞に、本発明を適用することが有効である。これらの中でも、特に、乳癌は、ErbB2の過剰発現が発癌に関与していることが知られているため、乳癌細胞への適用に有効である。また、前述の癌が発生する可能性がある細胞、例えば、乳房、卵巣、胃、膀胱、口腔、食道、脳、肺、頭頚部、皮膚、子宮、大腸、膵臓等の正常細胞への適用も有用である。また、対象となるヒト細胞は、生体から採取した細胞でもよいし、生体内の細胞であってもよい。
このような本発明のシグナル伝達阻害方法によれば、細胞におけるErbB2を介したシグナル伝達を阻害できる。これによって、例えば、ErbB2のシグナル伝達経路の活性化による細胞の癌化を抑制したり、細胞(例えば、癌細胞)の増殖を抑制できる。なお、本発明は、ヒト以外の動物や、動物細胞にも同様に適用できる(以下、同様)。
<シグナル伝達阻害剤>
本発明のシグナル伝達阻害剤は、前述のように、ヒト細胞におけるErbB2を介するシグナル伝達経路の活性化を阻害する阻害剤である。本発明のシグナル伝達阻害剤としては、まず、前述のような、核酸を含む第1のシグナル伝達阻害剤があげられる。前記第1の阻害剤は、前記PTBドメインの機能を有するポリペプチドおよびERK2結合ドメインの機能を有するポリペプチドの少なくとも一方をコードし、細胞内でこれを発現する核酸を含んでいればよい。このような核酸を含む第1のシグナル伝達阻害剤は、前述の通りである。つぎに、本発明のシグナル伝達阻害剤としては、前述のようなポリペプチドを含む第2のシグナル伝達阻害剤があげられる。前記第2の阻害剤は、前記PTBドメインの機能を有するポリペプチドおよびERK2結合ドメインの機能を有するポリペプチドの少なくとも一方を含んでいればよい。このようなポリペプチドを含む第2のシグナル伝達阻害剤は、前述の通りである。
本発明のシグナル伝達阻害剤によれば、細胞のシグナル伝達を阻害できる。これによって、例えば、ErbB2を介したシグナル伝達経路の活性化による細胞の癌化を抑制したり、細胞(例えば、癌細胞)の増殖を抑制できる。したがって、本発明のシグナル伝達阻害剤は、例えば、抗癌剤や細胞増殖阻害剤としても、有用である。
<癌の治療方法>
本発明の治療方法は、ヒトの癌の治療方法であって、本発明のシグナル伝達阻害剤を投与する工程を含む。本発明の治療方法においては、本発明のシグナル伝達阻害剤を使用すること自体が特徴であって、その他の工程や条件は制限されない。本発明のシグナル伝達阻害剤の投与方法は、例えば、前述と同様である。具体的には、ヒトの癌化部位に、in vivoで、前記シグナル阻害剤を直接投与してもよいし、取り出した目的細胞や組織に、ex vivoで、前記シグナル阻害剤を導入し、導入後の細胞等をヒトの体内に戻す方法等があげられる。また、本発明を適用する癌は、例えば、ErbB2のシグナル伝達経路が関与するものが好ましく、例えば、乳癌、卵巣癌、胃癌、膀胱癌、口腔癌、食道癌、脳腫瘍、肺癌、頭頚部癌、皮膚癌、子宮癌、大腸癌、膵臓癌等があげられる。また、前述の癌が発生する可能性がある細胞、例えば、乳房、卵巣、胃、膀胱、口腔、食道、脳、肺、頭頚部、皮膚、子宮、大腸、膵臓、頭頚部等の正常細胞への適用も有用である。なお、本発明の治療方法は、例えば、癌化の予防も含む。
<抗癌剤>
本発明の抗癌剤は、ヒトの抗癌剤であって、本発明のシグナル伝達阻害剤を含む。本発明の抗癌剤は、前記シグナル伝達阻害剤を含んでいればよく、その形態は制限されない。また、その使用方法等も、前述の通りである。
前述のように、シグナル伝達経路の受容体であるErbB2の過剰発現が、癌化に関係することが知られている。このため、本発明のシグナル伝達阻害剤を含む抗癌剤は、ErbB2が過剰発現する細胞や、これらのシグナル伝達経路が関与する癌細胞を処理するのに有用である。前記癌細胞としては、例えば、乳癌、卵巣癌、胃癌、膀胱癌、口腔癌、食道癌、脳腫瘍、肺癌、頭頚部癌、皮膚癌、子宮癌、大腸癌、膵臓癌等の癌細胞があげられる。また、前述の癌が発生する可能性がある細胞、例えば、乳房、卵巣、胃、膀胱、口腔、食道、脳、肺、頭頚部、皮膚、子宮、大腸、膵臓、頭頚部等の正常細胞への適用も有用である。なお、本発明の抗癌剤は、例えば、癌化の予防剤も含む。
本発明の抗癌剤は、さらに、従来公知の抗癌剤を含んでもよい。前記抗癌剤としては、ハーセプチン、イレッサ(gefitinib)、タルセバ(erlotinib)、スニチニブ、ラパチニブ等があげられる。
本発明者らの研究より、ErbB2のシグナル伝達が、FRS2βによってダウンレギュレートされている場合、前記モノクローナル抗体によるシグナル伝達阻害効果を促進することがわかった。そこで、本発明のシグナル伝達阻害剤は、従来公知の抗癌剤の薬効促進剤ともいえる。前記抗癌剤としては、ハーセプチン、イレッサ(gefitinib)、タルセバ(erlotinib)、スニチニブ、ラパチニブ等があげられる。この場合、例えば、本発明の薬効促進剤と公知の抗癌剤を併用してもよいし、予め本発明の薬効促進剤を投与した後に、公知の抗癌剤を投与して、治療や予防を行うこともできる。
<細胞増殖阻害剤>
本発明の細胞増殖阻害剤は、本発明のシグナル伝達阻害剤を含む。本発明の細胞増殖阻害剤は、前記シグナル伝達阻害剤を含んでいればよく、その形態は制限されない。また、その使用方法等も、前述の通りである。また、本発明の細胞増殖阻害剤を適用する細胞も、制限されないが、前述のような癌細胞や正常細胞があげられる。
<マーカー>
本発明のマーカーは、前述のように、シグナル伝達経路のダウンレギュレーションの有無を判定するためのマーカーであって、前記シグナル伝達経路が、ヒト細胞におけるErbB2を介するシグナル伝達経路であり、ヒトFRS2βおよびヒトFRS2β遺伝子の転写産物の少なくとも一方を含む。
前述のように、発明者らによって、ヒトFRS2βが、ErbB2のシグナル伝達経路をダウンレギュレーションすることが明らかとなった。このため、目的のヒト細胞における、ヒトFRS2βの発現の有無または発現量を測定すれば、前記シグナル伝達経路がダウンレギュレーションを受けているか否かを判断できる。ヒトFRS2β遺伝子の転写の有無または転写量(例えば、mRNA量)によっても、同様に判断できる。具体例としては、例えば、FRS2βmRNA/GAPDHmRNA value 1.452×10−2をカットオフ値として、ダウンレギュレーションを受けているか否か判断可能である。
ダウンレギュレーションの有無を判断することによって、さらに、以下のようなことが可能になる。
(1)前述のように、ErbB2の過剰発現、および、過剰発現したErbB2の活性化が、癌化の一因であることが知られている。したがって、ヒト細胞について本発明のマーカーを検出し、ダウンレギュレーションの有無を判断すれば、例えば、ヒト細胞の癌化の危険性を判断できる。すなわち、ダウンレギュレーションが起こっていれば、前記シグナル伝達経路に起因する癌化の可能性は低いと判断でき、ダウンレギュレーションが起こっていなければ、前記シグナル伝達に起因する癌化の可能性があると判断できる。
(2)ヒト癌細胞について本発明のマーカーを検出し、ダウンレギュレーションの有無を判断すれば、前記癌細胞の癌化が、前記シグナル伝達経路に起因するものか、他のメカニズムに起因するものかを判断できる。
(3)さらに、前記(2)のように、癌化の原因が前記シグナル伝達経路に起因するか否かを判断すれば、癌の治療方針を決定することも可能となる。一例として、乳癌の治療方針をあげる。乳癌は、約10〜30%の患者で、ErbB2の過剰発現が確認されており、このような患者に有効な抗癌剤として、ErbB2の機能を阻害する前記ハーセプチン等のモノクローナル抗体が使用されている。しかし、ErbB2が強陽性でも、ハーセプチンが奏功する症例は約40%に満たないことが問題になっている。今回、本発明者らの研究より、ErbB2のシグナル伝達が、FRS2βによってダウンレギュレートされている場合、前記モノクローナル抗体によるシグナル伝達阻害効果を促進することがわかった。そこで、患者の乳癌細胞について本発明のマーカーを検出し、ダウンレギュレーションの有無を確認することによって、ハーセプチン等の低分子化合物による治療が適切であるかを判断できる。
(4)また、乳癌に関しては、前述のようにErbB2の過剰発現を検出するハーセプテストが行われている。しかしながら、ErbB2のリン酸化を検出する必要があるものの、この方法では、他のErbファミリーも検出してしまう。このため、実際に、ErbB2のシグナル伝達が働いているか否かを判断し難いという問題がある。これに対して、本発明のマーカーを検出して、ダウンレギュレーションの有無を確認すれば、ErbB2自体を検出するのではなく、実際に、ErbB2のシグナル伝達が働いているか否かを検出することが可能となる。
ヒトFRS2βのアミノ酸配列およびヒトFRS2β遺伝子の配列は、前述のように、NCBIアクセッションNo.NM_006653に登録されている。前記マーカーとしては、例えば、ヒトFRS2β遺伝子の転写産物(mRNA)が好ましく、前記mRNAの転写の有無または転写量を測定することが好ましい。
<マーカーの測定方法>
本発明のマーカーの測定は、制限されず、マーカーの種類に応じて適宜決定できる。
(1)ヒトFRS2βの測定
前記本発明のマーカーが、ヒトFRS2βの場合、例えば、特定のポリペプチドやタンパク質を検出する従来公知の測定方法が採用できる。前記測定方法は、何ら制限されない。具体例としては、例えば、抗体を用いた免疫測定法(イムノアッセイ法)があげられる。前記免疫測定法としては、例えば、酵素免疫測定法(ELISA)、ラテックス免疫凝集法等の免疫凝集法、ラテックス免疫比朧法等の免疫比朧法、ラジオイムノアッセイ、ウェスタンブロッティング法等があげられる。前記免疫測定法としては、中でも、ELISAが好ましい。前記ELISAとしては、例えば、サンドイッチELISA法や競合ELISA法等があげられる。
免疫測定法によりヒトFRS2βを測定する場合、検出用抗体としては、例えば、抗ヒトFRS2β抗体があげられる。前記抗ヒトFRS2β抗体は、例えば、従来公知の方法によって調製できる。具体例としては、例えば、動物に、ヒトFRS2βを抗原として接種し、免疫感作することによって、ポリクローナルまたはモノクローナルの抗ヒトFRS2β抗体が得られる。免疫感作させる宿主細胞の動物の種類は、特に制限されず、例えば、ヒト、ウサギ、ラット、マウス、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ブタ、モルモット等のヒトを除く哺乳動物、ニワトリ、ハト、アヒル、ウズラ等の鳥類等が使用できる。また、動物に対する抗原の接種方法も、特に制限されず、皮内投与、皮下投与、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与等が採用できる。このようにして得られる抗体は、通常、免疫グロブリンクラスがIgMまたはIgGである。また、得られた抗体は、例えば、それ自体を抗体として使用でき、さらに、酵素処理して得られるFab、Fab’、F(ab’)等の抗体の活性フラグメントを、抗体として使用することもできる。
ヒトFRS2βの測定について、一例をあげて説明する。なお、本発明は、これには制限されない。
すなわち、本発明のマーカーの測定方法は、前述のように、前記マーカーが、FRS2βを含むマーカーであり、下記工程(1)および(2)を含む。
(1) 生体試料に、前記ヒトFRS2βに対する抗ヒトFRS2β抗体を添加し、前記生体試料中のヒトFRS2βに、前記抗ヒトFRS2β抗体を結合させて複合体を形成させる工程
(2) 前記複合体を測定する工程
取り扱い性に優れることから、前記抗体は、例えば、前記(1)工程に先立って、プレート(例えば、ELISAプレート)に固定(吸着)させておくことが好ましい。この場合、前記プレートに生体試料を添加し、前記プレート内で前記複合体を形成することができる。前記(2)工程において、前記複合体の測定方法は、特に制限されない。具体例として、前記複合体の抗原(生体試料中のヒトFRS2β)に、さらに標識化された抗ヒトFRS2β抗体を結合させ、前記標識化抗体を測定する方法があげられる(サンドイッチ免疫測定法)。前記標識としては、特に制限されず、例えば、酵素標識、蛍光標識、放射能標識等の従来公知の標識があげられる。標識化抗体としては、中でも、酵素標識化抗体が好ましい。
標識化物質として酵素を使用した、サンドイッチELISA法の一例を説明する。まず、診断対象となるヒト細胞を採取する。そして、前記細胞からタンパク質を抽出し、抽出画分を調製する。他方、測定目的のヒトFRS2βに対する抗ヒトFRS2β抗体を準備し、これを測定容器に固定化する。そして、前記測定容器に前記抽出画分を加える。これによって、固定化抗体と前記抽出画分中の抗原(ヒトFRS2β)とが反応し、両者が結合する。前記測定容器を洗浄後、さらに、酵素で標識化した抗体(標識化抗ヒトFRS2β抗体)を加える。これによって、前記固定化抗体に結合した抗原と前記標識化抗体とが反応して、両者が結合し、前記抗原を2つの抗体が挟んだ形状の複合体が形成される。そして、前記抗原と結合しなかった標識化抗体を除去した後、前記複合体における標識(酵素)の活性を測定する。この酵素活性は、前記複合体の量に比例し、前記抽出画分における測定目的の抗原の量を示すこととなる。前記酵素としては、何ら制限されず、例えば、パーオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ等が使用できる。この方法において使用する2種類の抗体は、例えば、互いに、抗原に対して異なる結合部位を持つことが好ましい。
(2)ヒトFRS2βの転写産物(mRNA)の測定
前記本発明のマーカーが、ヒトFRS2βの転写産物の場合、例えば、mRNAの転写の有無や転写量を測定すればよい。これらの測定方法としては、従来公知の測定方法が採用できる。具体例としては、例えば、特異的なプライマーを用いた核酸増幅法や、検出プローブを用いた方法があげられる。前者としては、例えば、PCR法、逆転写PCR法、リアルタイムPCR法等があげられ、後者としては、例えば、サザンブロット法、ノーザンブロット法等があげられる。なお、特異的プライマーや検出プローブの配列は、ヒトFRS2β遺伝子およびmRNAの配列に基づいて適宜決定できる。
mRNAの転写を測定する場合、一般的に、逆転写PCR法およびリアルタイムPCR法が広く利用されている。この手法は、例えば、生体試料中で発現したトータルRNAまたはmRNAを鋳型として、逆転写PCR法によりcDNAを合成し、リアルタイムPCRによって、前記cDNAを鋳型として、目的配列の増幅を行う。これによって、前記生体試料中で発現した目的のmRNAの量が測定できる。したがって、本発明においては、例えば、生体試料中で発現したヒトFRS2β遺伝子のmRNA以外に、PCR等の遺伝子工学的手法によって合成したcDNAや、増幅した目的配列(増幅DNA産物)をマーカーということもできる。なお、トータルRNAまたはmRNAを鋳型として合成するcDNAは、特に制限されないが、例えば、ヒトFRS2β遺伝子の全長cDNAまたはその部分配列を含んでいればよい。また、cDNAを鋳型として増幅させる目的配列は、例えば、ヒトFRS2βの全長cDNA配列でもよいし、部分的なcDNA配列でもよい。
<マーカー測定キット>
本発明のマーカー測定キットは、前記ヒトFRS2βを含むマーカーを測定するための第1のキットと、前記ヒトFRS2β遺伝子の転写物を含むマーカーを測定するための第2のキットがあげられる。前記第1のキットは、ヒトFRS2βに特異的な抗体を含む。前記抗体は、前述と同様である。また、第2のキットは、ヒトFRS2β遺伝子に特異的なプローブ、および、ヒトFRS2β遺伝子に特異的なプライマーからなる群から選択された少なくとも一つを含む。前記プローブやプライマーは、前述と同様である。本発明のマーカー測定キットは、さらに、取り扱い説明書を含んでもよい。
前述のように本発明のマーカーの検出によって、シグナル伝達経路のダウンレギュレーションを判定できる。したがって、本発明のマーカー測定キットは、ヒト細胞におけるErbB2を介するシグナル伝達経路のダウンレギュレーションの有無を判定するためのキットともいえる。また、ダウンレギュレーションの有無から、ヒト癌細胞に対する、抗癌剤による治療の要否を判定するためのキットともいえる。前記抗癌剤としては、何ら制限されず、例えば、従来公知のハーセプチン、イレッサ(gefitinib)、タルセバ(erlotinib)、スニチニブ、ラパチニブ等があげられる。
<診断方法>
本発明の診断方法は、ヒト癌細胞に対する抗癌剤による治療の要否を判断する診断方法であって、本発明のマーカーを検出する工程を含む。前述のように、ErbB2の過剰発現が原因となる癌に対しては、例えば、前述のハーセプチン等が分子標的抗癌剤として使用されている。しかし、前述のように、ErbB2が強陽性でも、ハーセプチンが奏功する症例は約40%に満たないことが問題になっている。今回、本発明者らの研究より、ErbB2のシグナル伝達が、FRS2βによってダウンレギュレートされている場合、前記モノクローナル抗体によるシグナル伝達阻害効果を促進することがわかった。このため、本発明では、マーカーを検出し、ダウンレギュレーションの有無を判断することによって、前記分子標的抗癌剤による治療の要否を判断できる。
<核酸・ポリペプチドの使用>
本発明は、ヒト細胞におけるErbB2を介するシグナル伝達経路の活性化を阻害するための、前記(a1)〜(a5)および(b1)〜(b6)からなる群から選択された少なくとも一つの核酸の使用である。また、本発明は、ヒトの癌を治療するための、前記(a1)〜(a5)および(b1)〜(b6)からなる群から選択された少なくとも一つの核酸の使用である。また、本発明は、ヒト細胞におけるErbB2を介するシグナル伝達経路の活性化を阻害するための、前記(A1)〜(A3)および(B1)〜(B4)からなる群から選択された少なくとも一つのポリペプチドの使用である。また、本発明は、ヒトの癌を治療するための、前記(A1)〜(A3)および(B1)〜(B4)からなる群から選択された少なくとも一つのポリペプチドの使用である。
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記の実施例によってなんら制限されない。
(組換えベクターの作製)
FRS2βの全長cDNAと、C末端にFLAGを付加するFLAG−tagのコード配列とを、レトロウイルスベクター(pMXs−puroベクター:東大医科研・北村俊雄教授より供与)、プラスミドベクター(商品名pcDNA:Sigma社製)、レンチウイルス(CSII−EFベクター、理化学研究所・バイオリソースセンターより供与)に連結した。これらを、FRS2β発現レトロウイルスベクター、FRS2β発現プラスミドベクター、FRS2β発現レンチウイルスベクターという。これらのベクターから発現する目的のポリペプチドは、C末端にFlag−tagが付加される。また、配列番号1に示すFRS2βのアミノ酸配列のうち、232番目〜252番目の領域を欠損したΔ232-252FRS2βをコードするcDNAを調製し、同様に前記レトロウイルスベクター、前記プラスミドベクターまたは前記レンチウイルスベクターに連結した。これを、Δ232-252FRS2β発現レトロウイルスベクター、Δ232-252FRS2β発現プラスミドベクター、Δ232-252FRS2β発現レンチウイルスベクターという。
ヒト野生型ErbB2の全長cDNAを、NCBIデータベースのアクセッションNo.NM_004448(ヒトerbB2)に基づいて調製した。そして、前記全長cDNAを、プラスミドベクター(商品名pcDNA−neo:Sigma社製)に連結した。野生型ErbB2のcDNAを連結した発現ベクターを、野生型ErbB2発現プラスミドベクターという。なお、前記cDNAを連結していないベクターをコントロールベクターとした。
膜貫通ドメインにアミノ酸変異があるヒト活性型ErbB2の全長cDNAを、NCBIデータベースのアクセッションNo.NM_004448(ヒトerbB2)に基づいて調製した。前記変異は、ヒト野生型ErbB2において、659番目のアミノ酸バリンがグルタミン酸に変異している。そして、前記全長cDNAを、前記プラスミドベクターに連結した。活性型ErbB2のcDNAを連結した発現ベクターを、活性化型ErbB2発現プラスミドベクターという。
ヒト野生型ErbB2のcDNAにラット乳癌遺伝子に存在する細胞膜貫通ドメインの変異に相当する変異を入れた、ErbB2変異体のcDNAを調製した。前記変異は、ヒト野生型ErbB2において、659番目のアミノ酸バリンがグルタミン酸に変異している。そして、前記全長cDNAを、前記プラスミドベクターに連結した。変異型ErbB2のcDNAを連結した発現ベクターを、変異型ErbB2発現プラスミドベクターまたは活性型ErbB発現プラスミドベクターという。
ヒトErbB3の全長をコードするcDNAを、NM_001982(ヒトerbB3)に基づいて調製した。そして、前記cDNAを、前述と同様のプラスミドベクターに連結した。ErbB3のcDNAを連結した発現ベクターを、ErbB3発現プラスミドベクターという。
1.FRS2βによるトランスフォーミング活性の抑制
NIH3T3細胞にErbB2およびFRS2βを発現させて、FRS2βによるトランスフォーミング活性の抑制を確認した。
(軟寒天コロニー形成アッセイ)
前記活性型ErbB2発現プラスミドベクターを用いて、NIH3T3細胞にトランスフェクションし、安定形質転換株を得た(参考文献:BBRC178,p724−732,1991)。この細胞に、FRS2β発現レトロウイルスベクター、Δ232-252FRS2β発現レトロウイルスベクターならびに空のレトロベクターをそれぞれ導入し、ピューロマインで処理し、安定形質転換株を選択した。これらの形質転換細胞を、10%ウシ新生仔血清(NBCS)および3%アガロースを含むDMEM培地に懸濁した。続いて、この懸濁液(細胞数:約1000個)を、直径3.5cm培養皿の0.6%アガロース含有DMEM培地上に重層した。そして、37℃、5%COの条件下で培養し、3週間後、肉眼で確認できるコロニー(直径約0.2mm以上の肉眼で確認できるコロニー数をカウントした。なお、コントロールとして、各レトロベクターを導入していない活性化ErbB2を発現するNIH3T3細胞についても、同様にアッセイを行った。
アッセイの結果を、図1および図2に示す。図1は、発現レトロウイルスベクターを導入していない活性化ErbB2発現NIH3T3細胞の形態および発現レトロウイルスベクターを導入した活性化ErbB2発現NIH3T3細胞の形態を示す写真である。同図において、上の写真は、発現レトロウイルスベクターを導入していない活性化ErbB2発現NIH3T3細胞の形態の写真である。下の写真は、各種発現レトロウイルスベクターを導入した活性化ErbB2発現NIH3T3細胞の形態の写真であって、左が、空のレトロウイルスベクターのみを導入した細胞(コントロール)、真ん中が、FRS2β発現ベクターを導入した細胞、右が、Δ232-252FRS2β発現ベクターを導入した細胞の結果である。図2は、前記各細胞のコロニー数を示すグラフである。同図において、縦軸は、5×10個の細胞の培養から形成されたコロニー数を示す。同図において、「Control」は、空のレトロウイルスベクターのみを導入した細胞、「FRS2β」は、FRS2β発現ベクターを導入した細胞、「Δ232-252FRS2β」は、Δ232-252FRS2β発現ベクターを導入した細胞の結果である。
両図に示すように、活性型ErbB2のみを発現させた細胞、または、この細胞に空のレトロウイルスベクターのみを導入した細胞(図2においてControl)からは、トランスフォームされたコロニーが観察された。これと比較して、FRS2βを発現させた細胞は、トランスフォームされたコロニーの数は少なかった。また、FRS2βの232番目〜252番目の領域を欠くΔ232/252FRS2βを発現させた細胞は、トランスフォームされたコロニーの数に回復がみられた。この結果から、FRS2βを発現させることで、ErbB2によるトランスフォーミング活性が抑制されること、また、232番目〜252番目の領域を欠くΔ232/252FRS2βは、野生型FRS2βに比較し、ErbB2のトランスフォーミング活性の抑制効果が減弱していることがわかった。
2.FRS2βによるヒト乳癌細胞の増殖抑制
ヒト乳癌細胞株MCF−7細胞にFRS2βを発現させて、その増殖の抑制を確認した。
MCF−7細胞に、前記「1.」と同様にして、FRS2β発現レトロウイルスベクターを導入し、安定形質転換株を得た。この形質転換細胞を、0.5%胎児牛血清(FBS)含有DMEMを用いて、37℃、5%COの条件下、且つ、EGF(10ng/ml)の存在下または非存在下で培養を行った。そして、前記EGF刺激の刺激から所定時間(day)における細胞数をカウントした。また、コントロールとして、コントロールベクターを導入したMCF−7細胞(mock)についても、同様に増殖アッセイを行った。
これらの結果を図3に示す。同図は、形質転換したMCF−7細胞の増殖に関する経時変化を示すグラフである。同図において、横軸は、日数(day)、縦軸は、細胞数(×10)を示す。同図において、「FRS2β EGF+」は、FRS2β発現ベクターを導入して、EGF刺激を与えた形質転換体、「FRS2β EGF−」は、FRS2β発現ベクターを導入して、EGF刺激を与えていない形質転換体、「mock EGF+」は、EGF刺激を与えたコントロール、「mock EGF−」は、EGF刺激を与えていないコントロールの結果である。同図の「FRS2β EGF+」に示すように、EGFおよび血清で刺激したヒト乳癌細胞株MCF−7細胞は、FRS2βの発現によって、増殖が著しく抑制された。
3.FRS2βとErbB2との結合性
FRS2βがErbB2に結合するか否かを確認した。
野生型ErbB2発現プラスミドベクター、活性化型ErbB2発現プラスミドベクター、FRS2β発現プラスミドベクター、および、コントロールベクターを、それぞれHEK293T細胞に一過性に導入した。これらの形質転換体を、10%FBS含有DMEM培地を用いて、37℃、5%COの条件下で培養した。得られた培養細胞を、TNEバッファーを用いて可溶化させた。回収した可溶化液と抗体(抗Flag M2モノクローナル抗体:Sigma-Aldrich社)とを4℃で1時間インキュベートした後、さらに、protein G‐Agarose ビーズ(Amersham社製)を添加して、4℃で2時間インキュベートした。遠心分離で上清を除去し、回収した前記ビーズを前記TNEバッファーで5回洗浄した。洗浄後、前記ビーズに2%ドデシル硫酸含有サンプルバッファーを添加して、3分間ボイルし、免疫共沈実験のサンプルとした。そして、前記サンプルをドデシル硫酸ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に供し、抗体を用いてイムノブロッティングを行った。イムノブロッティングの抗体としては、抗EGFR抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)および抗ErbB2抗体(OP15,Calbiochem社製)を使用した。
これらの結果を図4に示す。同図は、ErbB2およびFRS2βを発現させたHEK293T細胞のイムノブロッティングの結果を示す写真である。同図において、上から、1番目のブロックは、ErbB2のバンド、2番目のブロックは、FRS2βのバンドを示すイムノブロッティングの結果であり、3番目のブロックは、可溶化液の電気泳動の結果である。同図のErbB2のレーンにおいて、「−」は、ErbB2発現ベクター未導入、「wt」は、野生型ErbB2発現ベクターの導入、「VE」は、活性化型ErbB2発現ベクターの導入を示し、FRS2βのレーンにおいて、「−」は、FRS2β発現ベクターの未導入、「+」は、FRS2β発現ベクターの導入を示す。同図に示すように、HEK293T細胞内で発現したFRS2βは、野生型ErbB2および活性化型ErbB2と結合することが確認できた。
4.ErbB2およびErbB3に対するFRS2βの影響
ErbB2は、同じErbファミリーのErbB3とヘテロ二量体を形成し、この二量体化の誘導によって、前記受容体(ErbB2やErbB3)の細胞内ドメインが活性化されることが知られている。そこで、FRS2βが、ErbB2およびErbB3の活性化に与える影響を確認した。
FRS2β発現レトロウイルスベクター、および、コントロールベクターを、それぞれ、ヒト乳癌細胞株MCF−7細胞に導入し、ピューロマイシンにて選択し、安定形質転換株を得た。これらの形質転換体を、0.5%FBS含有DMEMを用いて、37℃、5%COの条件下で、12時間培養した後、ErbB3のリガンドであるニューレギュリン(NRG:10ng/ml)の存在下または非存在下、10分間刺激を行った。そして、抗体として、抗ErbB2抗体(OP15、Calbiochem)および抗ErbB3抗体(sc-285G、Santa Cruz Biotechnology Inc.)を使用した以外は、前記「3.」と同様にして、共免疫沈降法のサンプルを調製し、抗体を用いてイムノブロッティングを行った。イムノブロッティングの抗体としては、抗ホスホチロシン抗体(4G10、Biotech社)を使用した。
これらの結果を図5に示す。同図は、各発現ベクターを導入したMCF−7細胞のイムノブロッティングの結果を示す写真である。同図において、上のブロックから、チロシンリン酸化ErbB3、ErbB3、チロシンリン酸化ErbB2、ErbB2のバンドを示すイムノブロッティングの結果であり、一番下のブロックが、可溶化液の電気泳動の結果である。同図のFRS2βのレーンにおいて、「−」は、FRS2β発現ベクター未導入、「+」は、FRS2β発現ベクター導入をそれぞれ示し、NRGのレーンにおいて、「+」は、NRGの添加、「−」は、NRGの無添加をそれぞれ示す。同図に示すように、NRG刺激を受けた細胞の中でも、FRS2βを発現する細胞(FRS2β+:NRG+)は、FRS2β未発現の細胞(FRS2β−:NRG+)と比較して、ErbB3およびErbB2の自己リン酸化(チロシンリン酸化)が抑制されていた。この結果から、FRS2βは、ErbB2およびErbB3の活性化(チロシンリン酸化)を阻害でき、これによって、ErbB2のシグナル伝達経路をダウンレギュレーションできるといえる。
5.ERKおよびEGFRのリン酸化への影響
FRS2βがERKおよびErbB3のリン酸化に与える影響を確認した。
FRS2β発現レトロウイルスベクター、および、コントロールベクターを、それぞれ、ヒト乳癌細胞株BT474細胞に導入し、ピューロマイシンにて選択し、安定形質転換株を得た。これらの形質転換体を、0.5%FBS含有DMEMを用いて、37℃、5%COの条件下で、12時間培養した後、ErbB3のリガンドであるニューレギュリン(NRG:10ng/ml)の存在下または非存在下、所定時間(0、10分、30分、1時間、3時間、6時間)刺激を行った。そして、細胞ライセートをSDS−PAGEにて電気泳動し、抗体として、抗リン酸化ERK抗体、抗ERK抗体、抗リン酸化EGFR抗体、抗リン酸化ErbB3抗体、抗SPRY2抗体を使用してイムノブロッティングを行った。また、コントロールベクターを導入したBT474細胞(mock)についても、同様にイムノブロッティングを行った。
これらの結果を図6に示す。同図は、各発現ベクターを導入したBT474のイムノブロッティングの結果を示す写真である。同図において、上のブロックから、チロシンリン酸化ERK1/2、ERK1、チロシンリン酸化EGFR、チロシンリン酸化ErbB3、SPRY2のバンドを示すイムノブロッティングの結果である。同図において、「mock」は、コントロールベクターを導入したBT474細胞、「FRS2beta」は、FRS2β発現レトロウイルスベクターを導入したBT474細胞の結果であり、時間(hr)は、NRG刺激の時間を示す。
同図に示すように、NRG刺激を受けた細胞の中でも、FRS2βを発現する細胞は、FRS2β未発現のコントロール細胞(mock)と比較して、EGFRの自己リン酸化(チロシンリン酸化)およびERKのリン酸化並びにErbB3のチロシンリン酸化が抑制されていた。この結果から、この結果から、FRS2βは、ErbB2のヘテロダイマーパートナーであるErbB3のシグナル伝達ならびに下流のERKの活性をダウンレギュレーションできるといえる。
6.ヘテロ二量体化に対するFRS2βの影響
ErbB2とEGFRとのヘテロ二量体の形成に対するFRS2βの影響を確認した。
野生型ErbB2発現プラスミドベクター、変異型ErbB2発現プラスミドベクター、FRS2β発現プラスミドベクター、および、コントロールベクターを、それぞれHEK293T細胞に一過性に導入した。これらの形質転換体を、0.1%FBS含有DMEMを用いて、37℃、5%COの条件下で、12時間培養した後、EGF(10ng/ml)の存在下または非存在下、10分間刺激を行った。そして、抗体として、抗ErbB2抗体(OP15、Calbiochem)および抗EGFR抗体(sc-03、ポリクローナル抗体、Santa Cruz)を使用した以外は、前記「3.」と同様にして、共免疫沈降法のサンプルを調製し、抗体を用いてイムノブロッティングを行った。イムノブロッティングの抗体としては、抗ErbB2抗体、抗EGFR抗体、抗Flag抗体(M2モノクローナル抗体:Sigma-Aldrich社)を使用した。
これらの結果を、図7に示す。同図は、各発現ベクターを導入したHEK293T細胞のイムノブロッティングの結果を示す写真である。同図において、上の4つのブロックは、上から、ErbB2と沈降したEGFR、ErbB2、EGFRと沈降したErbB2、EGFRのバンドを示すイムノブロッティングの結果であり、下の3つのブロックは、可溶化液の電気泳動の結果である。同図において、「EGF」と「−」は、EGF刺激の有無を示し、SNT−2−FLAG(FRS2β)、MT−ErbB2、および、WT−ErbB2のレーンにおいて、「+および−」は、それぞれ、FRS2β発現ベクター、変異型(MT)ErbB2発現ベクター、野生型(WT)ErbB2発現ベクターの細胞への導入の有無を示す。同図に示すように、FRS2βを発現する細胞(FRS2β+:EGF+)では、FRS2β未発現の細胞(FRS2β−:EGF+)と比較して、EGF刺激により生じるEGFRとErbB2とのヘテロダイマーの形成が抑制された。この結果から、例えば、FRS2βが他のErbBファミリー分子にも相互作用し、ErbBファミリー分子のヘテロダイマー形成やホモダイマー形成をも抑制することが示唆される。また、ErbBファミリー分子は、ヘテロダイマー形成により活性されることから、ErbB4も、FRS2βによって抑制されると考えられる。
7.ハーセプチン感受性に対するFRS2βの影響
FRS2βの発現によるハーセプチン感受性に対する影響を確認した。
(MTSアッセイ)
FRS2β発現レンチウイルスベクターならびにコントロールベクター(dsVenusを発現)を、ヒト乳癌細胞株BT474細胞に導入し、安定形質転換株を得た。これらの形質転換体を、1well当たり約1×10個となるように96well培養プレートに播き、24時間、37℃、5%COの条件下、10%牛胎児血清を含有するRPMI培地で培養した。24時間後、培地を希釈系列ハーセプチン含有培地に交換し、さらに培養を行った。培地交換から10日後、さらに、前記培地について、MTSアッセイ用試薬(Promega)を用いて、添付されたプロトコールに従って処理を行い、490nmにおけるwellの吸光度を測定した。
これらの結果を図8に示す。同図において、(A)は、感染効率の指標となるd2Venusの発現を、d2Venusの発する蛍光を指標にFACSによりソーティングした結果を示す図であり、同図において、縦軸は、細胞数、横軸は、細胞の蛍光強度を示す。同図において、(B)は、FRS2βを発現する細胞およびコントロールベクターを導入した細胞の電気泳動の写真であり、右のレーンが、FRS2β発現細胞、左のレーンが、コントロールベクター導入細胞を示す。また、同図において、(C)は、ハーセプチンの濃度と培養細胞の吸光度との関係を示すグラフである。同図(C)において、縦軸は、吸光度、横軸は、ハーセプチン濃度を示し、濃度の単位(mcrg)は、培地1ml当たりのマイクログラムを示す。また、同図において、d2Vは、d2Venusを示し、wtは、野生型FRS2βを示す。
同図(A)の結果から、今回使用したレンチウイルスベクターの感染効率は、ほぼ100%であることがわかった。また、同図(B)から、レンチウイルスベクター導入によって野生型FRS2βが発現することがわかった。また、同図(C)から、FRS2βの発現により、細胞のハーセプチンに対する感受性が増強されることがわかった。以上の結果から、乳癌細胞においてFRS2β(SNT−2)を発現させることによって、ハーセプチン感受性が増強することがわかった。この結果に基づくと、例えば、FRS2β陽性の癌細胞は、ハーセプチンに対する感受性が高いと判断できるため、FRS2βは、抗癌剤に対する効果を予測するためのバイオマーカーとして有用であるといえる。
8.乳癌細胞株におけるErbB2とFRS2βとの傾向
乳癌細胞株におけるErbB2とFRS2βの発現を確認した。
35株の乳癌細胞を、前記「3.」と同様に培養して、可溶化液を調製した。この可溶化液をSDS−PAGEに供し、抗体を用いてイムノブロッティングを行った。イムノブロッティングに使用した抗体は、抗FRS2β抗体(Oncogene,vol.25,p6457,2006)、抗ErbB2抗体(OP15,Calbiochem社製)、抗ERK1/2抗体(Santa Cruz社製)を使用した。
これらの結果を、図9に示す。同図は、各乳癌細胞のイムノブロッティングの結果を示す写真で、横軸は、様々な細胞株の種類を示す番号である。その結果、同図に示すように、ヒト乳癌組織に見られると同様に、ヒト乳癌細胞株においても、ErbB2が過剰発現する細胞株が多数存在した。FRS2βの発現も、いくつかの細胞株において検出された。しかし、ErbB2が過剰発現する細胞におけるFRS2βの発現は総じて少なく、ErbB2発現とFRS2βの発現とに逆相関の傾向がみられた。このことから、ErbB2癌遺伝子依存状態にある癌細胞においては、FRS2βの発現が抑制されていることがわかった。つまり、FRS2βによるErbB2シグナルのダウンレギュレーションが強く示唆された。
9.各種癌細胞株におけるerbB2とFRS2βとの傾向
各種癌細胞株におけるerbB2とFRS2βの発現を確認した。
乳癌細胞株(35株)、および、肺癌、大腸癌、胃癌、前立腺癌、脳腫瘍、膵臓癌、食道癌、頭頸部癌、腎臓癌等の細胞株、合計108株について、マイクロアレイにより、FRS2βおよびerbB2の転写産物量を確認した。その結果を、図10に示す。同図(A)は、108株の細胞株について、FRS2β転写産物量とerbB2転写産物量とをプロットしたグラフであり、同図(B)は、35株の乳癌細胞株について、FRS2β転写産物量とerbB2転写産物量とをプロットしたグラフである。同図に示すように、FRS2β転写産物量とerbB2転写産物量との間には、逆相関がみられた。この結果から、erbB2癌遺伝子依存状態にある乳癌のみならず、様々な癌細胞において、FRS2βの発現が抑制されていることがわかった。つまり、様々な癌において、FRS2βによるErbB2シグナルのダウンレギュレーションが強く示唆された。
10.乳癌患者におけるErbB2とFRS2βとの傾向
乳癌患者の癌組織における、FRS2βの発現を確認し、同患者における、ErbB2の発現との比較を行った。
患者より下記5種類の組織型の乳癌組織を採取した。これらの組織について、プロトコールに従ってハーセプトテストを行い、4段階の判定を行った。他方、同じ乳癌組織について、抗FRS2β抗体を用いた免疫染色により、前記乳癌組織におけるFRS2βの発現の有無を確認した。具体的には、まず、各乳癌組織をホルマリン固定し、脱パラフィン処理した後、オートクレーブにより10mMクエン酸バッファー(pH6)で20分間処理した。そして、処理後の乳癌組織と、PBSで100倍希釈した前記抗FRS2β抗体とを、室温で1時間インキュベートした。インキュベート後の乳癌組織を、商品名LSABCkit(Dako Japan社製)を用いて、そのプロトコールに従って、免疫染色を行った。発色剤としては、3,3’−diaminobenzidineを使用した。また、Hematoxilineで核染色を行った。これらの結果を下記表に示す。
Figure 0005208105
以上のように、ハーセプテストによりErbB2が過剰発現と判断された試料(サンプル1〜3)は、FRS2β(−)であり、ErbB2が非過剰発現である試料(サンプル4〜5)は、FRS2β(+)であった。この結果から、乳癌組織においてFRS2βの発現とErbB2の発現とが逆相関することが考えられる。また、FRS2βの発現が、ErbBの増幅に何らかのメカニズムで関与している可能性が考えられる。
このように、本発明のポリペプチドによれば、ErbB2を介するシグナル伝達経路がダウンレギュレーションされる。このため、例えば、目的のヒト細胞に、本発明のポリペプチドを導入したり、本発明のポリペプチドを発現する核酸を導入することによって、前記細胞における前記シグナル伝達を抑制できる。さらに、ErbB2のシグナル伝達は、前述のように、癌の発症に関与していることから、本発明によりシグナル伝達を阻害することによって、癌の発症を予防し、また、癌の治療を行うことができる。また、前記シグナル伝達の阻害によって、細胞の癌化ならびに細胞の増殖を抑制できることからも、本発明は癌の治療に有用といえる。
また、FRS2βによりErbB2のシグナル伝達がダウンレギュレーションされることから、目的の細胞におけるFRS2βを検出することによって、前記シグナル伝達が働いているか否かも判定することができる。そして、その判断結果に基づけば、例えば、ErbB2の機能を阻害する分子標的抗癌剤による治療の要否も判断することができる。このように本発明は、例えば、医療分野や、分子細胞学等の分野において、非常に有用な技術といえる。

Claims (9)

  1. シグナル伝達経路のダウンレギュレーションの有無を判定する方法であって、
    前記シグナル伝達経路が、ヒト細胞におけるErbB2を介するシグナル伝達経路であり、
    ヒトFRS2βおよびヒトFRS2β遺伝子の転写産物の少なくとも一方を検出する工程を含む、ダウンレギュレーション判定方法。
  2. 前記検出する工程における検出量が、予め設定されたカットオフ値よりも大きい場合に、ErbB2を介するシグナル伝達経路のダウンレギュレーションが存在すると判定する、請求項1に記載のダウンレギュレーション判定方法。
  3. 前記ヒト細胞がErbB2を発現している、請求項1または2に記載のダウンレギュレーション判定方法。
  4. ヒト癌細胞に対する抗ErbB2抗体による治療の要否の判断を補助する方法であって、
    ヒト癌細胞由来の生体試料において、ヒトFRS2βおよびヒトFRS2β遺伝子の転写産物の少なくとも一方を検出する工程を含む、方法。
  5. 前記検出する工程における検出量が、予め設定されたカットオフ値よりも大きい場合に、前記抗ErbB2抗体による治療を要しないと判定する、請求項4に記載の方法。
  6. 前記ヒト癌細胞がErbB2を発現している、請求項4または5に記載の方法。
  7. シグナル伝達経路の活性化を阻害するシグナル伝達阻害剤であって、
    前記シグナル伝達経路は、ヒト細胞におけるErbB2を介するシグナル伝達経路であり、
    核酸を含み、
    前記核酸は、配列番号2に記載の塩基配列における1番目〜555番目の領域を含む塩基配列からなる核酸であり、
    前記核酸は、コードするポリペプチドを細胞内で発現する、シグナル伝達阻害剤。
  8. 前記シグナル伝達阻害剤が、さらにベクターを含み、前記核酸が前記ベクターに連結されている、請求項に記載のシグナル伝達阻害剤。
  9. シグナル伝達経路の活性化を阻害するシグナル伝達阻害剤であって、
    前記シグナル伝達経路は、ヒト細胞におけるErbB2を介するシグナル伝達経路であり、
    ポリペプチドを含み、
    前記ポリペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列における1番目〜185番目の領域を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドである、シグナル伝達阻害剤。
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