JP5147852B2 - 手術後の予後を推定する方法及び診断キット - Google Patents
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Description
本発明は、肺腺がん患者の手術後の予後を推定する方法と、これらの診断を行うための診断キットに関する。
今日、様々な治療法の改良にもかかわらず、日本を含む殆どの先進諸国において、肺がんによる死亡はがん死の第1位を占めている。さらに、肺癌の早期発見の機会が増えているにも拘わらず、日本において毎年約60,000人の肺がん患者が死亡している。手術療法施行後の肺癌患者の主な死亡原因は遠隔転移である。非小細胞肺癌患者における肺内転移を含む遠隔転移は、しばしば、外科的切除だけを行った患者に起こる。なぜならば、このような患者の場合、微小転移巣が、外科的切除の時点で既に存在するからである。微小転移再発を抑える目的で行う術後補助化学療法は、非小細胞肺癌患者における予後の改善を妨げるものではないにも拘わらず、根治手術をおこなった非小細胞肺癌患者に対する術後補助化学療法の効果については、1980年代からよく議論されてきた。2003年においても、術後補助化学療法の効果は、有効性が証明されていなかった(Scagliotti GV,Frossati R,Torri V,Crino L,Giaccone G,Silvano G,Martelli M,Clerici M,Cognetti F,Tonato M.,J Nat Cancer Inst.(2003)95:1453−1461)。2004年になり、術後補助化学療法の効果について幾つかの報告がなされ、その有効性を示すデータが示された(Winton T,Livingston R,Johnson D,Rigas J,Johnston M,Butts C,Cormier Y,(2005)N Engl J Med 352:2589−2597,Strauss GM,Herndon J,Maddaus MA,Johnstone DW,Johnson EA,Watson DM,Sugarbaker DJ,Schilsky RL,Green MR.,(2004)Proc Am Soc Clin Oncol 23:621,Arriagada R,Bergman B,Dunant A,Le Chevalier T,Pignon JP,Vansteenkiste J.,(2004)N Engl J Med 350:351−360)。
I期の原発性肺腺がん患者においても2004年に、経口テガフール・ウラシル(モル比4:1の合剤、以下UFT)による術後補助化学療法によって、手術単独の患者よりも予後の改善が認められたことが報告された(Kato H,Ichinose Y,Ohta M,Hata E,Tsubota N,Tada H,Watanabe Y,Wada H,Tsuboi M,Hamajima N,Ohta M.,(2004)N Engl J Med 350:1713−1721)。しかしながら、経口テガフール・ウラシルによる術後補助化学療法によって予後の改善が見込まれるのは、わずか15%のIB期の原発性肺腺がん患者である。したがって、分子生物学的な観点に基づいて、術後化学療法の患者予後を合理的・客観的に予測・判定できるバイオマーカーが見出されれば、その有用性は大きいと考えられる。
従来、薬効関連マーカーを同定する手法としては、免疫生化学的同定法と呼ばれる方法が知れている。近年、ポストゲノム研究の一環として、病態プロテオミクスと呼ばれるアプローチ、すなわち実際に発現しているタンパク質を一斉に包括的に分析し、そこから疾患のマーカータンパク質を探索する方法が注目されている。この病態プロテオミクス・アプローチとしては、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析計(MALDI−TOF−MS)を用いる方法や液体クロマトグラフィーイオントラップ型質量分析計を用いる方法を挙げることができる。
しかしながら、健常者由来の生体試料と患者由来の生体試料とにおけるタンパク質の発現パターンを比較するといった疾患病態解析のように、多くの因子の変動が予想され、しかもそれぞれの変動量が微細で、個体差や測定誤差などに紛れそうな場合には、上述した従来の病態プロテオミクス・アプローチでは十分な分析能を発揮できない。
そこで、本発明者らは、下記特許文献1にて病態プロテオミクス解析を可能とする、優れた分析能を達成する試料解析方法及び試料解析プログラムを報告し、またそれを利用して完成させた「肺腺癌リンパ節転移診断方法及び診断キット」(特許文献2)をも報告している。
非筋型ミオシンIIAは、アクトミオシン細胞骨格の主要構成要素であり、通常、細胞遊走の間、細胞の後側の収縮に関与することが知られている。細胞の突起は、ミオシンIIAとは独立し、フィラメントアクチンの重合によって調節されていると考えられていたが、近年、非がん細胞において、細胞遊走に関連した細胞の突起にミオシンIIAが関与することが報告された。しかしながら、細胞遊走におけるミオシンIIAの正確な機能は分かっていない。ミオシンIIAは、細胞遊走に明らかに関与するが、これまでの研究は、がん細胞の細胞遊走の間の蛋白質の発現レベルでのプロファイルあるいは複数のミオシンIIAのアイソタイプを評価するだけであった。
近年、非小細胞肺がんの臨床研究において、ミオシンIIを活性化するミオシンライトチェーンキナーゼの発現レベルと転移、再発の相関関係が示され、さらにミオシンIIAの活性化が転移の要因であることが示された(非特許文献1)。転移性がん細胞におけるミオシンIIAの重要な役割は、小カルシウム結合蛋白メタスタチン−1に注目した間接的な研究によって示唆された。メタスタチン−1は、多くの転移性培養細胞株において、発現が増加し、培養細胞へのメタスタチン−1の導入によって、転移性は増強する(非特許文献2)。さらに、メタスタチン−1の主要な標的分子は、ミオシンIIAであると見られている(非特許文献3)。また、遊走しているがん細胞の先端部分においては、メタスタチン−1とミオシンIIAが同一部位に局在し(非特許文献4)、メタスタチン−1が、ミオシンIIAとフィラメントの重合を調節していると考えられているプロテインキナーゼによるリン酸化に影響することが示されている(非特許文献5、6)。
分子量57kDaのビメンチンは、細胞分化の間、初期の段階で発現し、広範に分布する中間系フィラメントの蛋白質である。全ての最初の細胞型は、ビメンチンを発現するが、多くの非間葉細胞において、ビメンチンは、分化の過程で他の中間系フィラメントの蛋白質に置き換わってゆく。ビメンチンは、線維芽細胞、内皮細胞など、多種多様な間葉細胞において発現し、中胚葉、中皮と卵巣のgranulose cellに由来するいくつかの細胞タイプがある。この過程において、上皮細胞は、器官形成に不可欠な可逆的あるいは非可逆的な間葉系の形質を獲得する。形態形成における上皮−間質の移行(相互作用)は、甲状腺、肝臓、腎臓、前立腺、乳腺、肺を含む種々の上皮性がんにおいて、腫瘍形成の間、異常な発現をする(非特許文献7、8)。腫瘍形成過程における一般的な特徴は、正常上皮の形質の欠失、分極化する上皮の形態学的な欠失、部分的あるいは全体的な運動性と浸潤性という形質の段階的な獲得を伴った間質としての形質の獲得を含んでいる(非特許文献9)。
さらに上皮の形態の崩壊には、接着分子の調節異常とN−カドヘリンの異常発現、上皮細胞におけるフィブロネクチン、ビメンチンのような本来間質に発現する分子が発現する上皮−間質移行(相互作用)が起こる。腫瘍や形質転換細胞におけるビメンチンの異常発現は、運動性の増大、浸潤性、予後の不良と相関する(非特許文献10、11)。肺においてビメンチンは、線維芽細胞、平滑筋、内皮、リンパ球系細胞に認められるが、正常の気管支上皮細胞には発現していない。近年の研究において、主に線維化部分のビメンチン陽性腫瘍細胞は、上皮−間質移行(相互作用)を伴う腫瘍の線維化と関連することが報告され、このことは他の研究と一致した結果である(非特許文献12)。実際、間葉系形質の獲得は、間葉系のマーカーである蛋白質の発現と細胞外基質の異常な沈着と関連する。同様の知見は、ビメンチン陽性の上皮細胞の存在が線維化組織の程度の増大が関連する進行性の腎線維症のような他のモデルにおいても報告されている(非特許文献13、14)。
マーカーとしては、ミオシンは横紋筋肉腫の鑑別診断マーカーとして、ビメンチンは、悪性黒色腫を始め、さまざまな良性腫瘍および悪性腫瘍のマーカータンパク質であることが知られている(特許文献3)。特に最近は上皮型悪性中皮腫と肺腺癌の鑑別のための免疫組織化学マーカーとして研究されている(非特許文献15、16)。
国際公開番号WO 2004/090526
公開特許公報第2006−53113号
公表特許公報2006−518982号
Tumour Biol 26 153−157,2005
Oncogene 8 999−1008,1993
J Biol Chem 281 677−680,2006
J Biol Chem 278 30063−30073,2003
Biochemistry 44 6867−6876,2005
Biochemistry 42 14258−14266,2003
Nat Rev Cancer 2 442−454,2002
Cell 105 425−431,2001
J Cell Biol 135 1643−1654,1996
J Pathol 180 175−180,1996
Am J Pathol 150 483−495,1997
Lab Invest 84 999−1012,2004
Virchows 433 359−367,1998
Kidney Int 58 587−597,2000
The American Journal of Surgical Pathology 27(8)1031−1051,2003
Pathology International 57 190−199,2007
I期の原発性肺腺がん患者においても2004年に、経口テガフール・ウラシル(モル比4:1の合剤、以下UFT)による術後補助化学療法によって、手術単独の患者よりも予後の改善が認められたことが報告された(Kato H,Ichinose Y,Ohta M,Hata E,Tsubota N,Tada H,Watanabe Y,Wada H,Tsuboi M,Hamajima N,Ohta M.,(2004)N Engl J Med 350:1713−1721)。しかしながら、経口テガフール・ウラシルによる術後補助化学療法によって予後の改善が見込まれるのは、わずか15%のIB期の原発性肺腺がん患者である。したがって、分子生物学的な観点に基づいて、術後化学療法の患者予後を合理的・客観的に予測・判定できるバイオマーカーが見出されれば、その有用性は大きいと考えられる。
従来、薬効関連マーカーを同定する手法としては、免疫生化学的同定法と呼ばれる方法が知れている。近年、ポストゲノム研究の一環として、病態プロテオミクスと呼ばれるアプローチ、すなわち実際に発現しているタンパク質を一斉に包括的に分析し、そこから疾患のマーカータンパク質を探索する方法が注目されている。この病態プロテオミクス・アプローチとしては、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析計(MALDI−TOF−MS)を用いる方法や液体クロマトグラフィーイオントラップ型質量分析計を用いる方法を挙げることができる。
しかしながら、健常者由来の生体試料と患者由来の生体試料とにおけるタンパク質の発現パターンを比較するといった疾患病態解析のように、多くの因子の変動が予想され、しかもそれぞれの変動量が微細で、個体差や測定誤差などに紛れそうな場合には、上述した従来の病態プロテオミクス・アプローチでは十分な分析能を発揮できない。
そこで、本発明者らは、下記特許文献1にて病態プロテオミクス解析を可能とする、優れた分析能を達成する試料解析方法及び試料解析プログラムを報告し、またそれを利用して完成させた「肺腺癌リンパ節転移診断方法及び診断キット」(特許文献2)をも報告している。
非筋型ミオシンIIAは、アクトミオシン細胞骨格の主要構成要素であり、通常、細胞遊走の間、細胞の後側の収縮に関与することが知られている。細胞の突起は、ミオシンIIAとは独立し、フィラメントアクチンの重合によって調節されていると考えられていたが、近年、非がん細胞において、細胞遊走に関連した細胞の突起にミオシンIIAが関与することが報告された。しかしながら、細胞遊走におけるミオシンIIAの正確な機能は分かっていない。ミオシンIIAは、細胞遊走に明らかに関与するが、これまでの研究は、がん細胞の細胞遊走の間の蛋白質の発現レベルでのプロファイルあるいは複数のミオシンIIAのアイソタイプを評価するだけであった。
近年、非小細胞肺がんの臨床研究において、ミオシンIIを活性化するミオシンライトチェーンキナーゼの発現レベルと転移、再発の相関関係が示され、さらにミオシンIIAの活性化が転移の要因であることが示された(非特許文献1)。転移性がん細胞におけるミオシンIIAの重要な役割は、小カルシウム結合蛋白メタスタチン−1に注目した間接的な研究によって示唆された。メタスタチン−1は、多くの転移性培養細胞株において、発現が増加し、培養細胞へのメタスタチン−1の導入によって、転移性は増強する(非特許文献2)。さらに、メタスタチン−1の主要な標的分子は、ミオシンIIAであると見られている(非特許文献3)。また、遊走しているがん細胞の先端部分においては、メタスタチン−1とミオシンIIAが同一部位に局在し(非特許文献4)、メタスタチン−1が、ミオシンIIAとフィラメントの重合を調節していると考えられているプロテインキナーゼによるリン酸化に影響することが示されている(非特許文献5、6)。
分子量57kDaのビメンチンは、細胞分化の間、初期の段階で発現し、広範に分布する中間系フィラメントの蛋白質である。全ての最初の細胞型は、ビメンチンを発現するが、多くの非間葉細胞において、ビメンチンは、分化の過程で他の中間系フィラメントの蛋白質に置き換わってゆく。ビメンチンは、線維芽細胞、内皮細胞など、多種多様な間葉細胞において発現し、中胚葉、中皮と卵巣のgranulose cellに由来するいくつかの細胞タイプがある。この過程において、上皮細胞は、器官形成に不可欠な可逆的あるいは非可逆的な間葉系の形質を獲得する。形態形成における上皮−間質の移行(相互作用)は、甲状腺、肝臓、腎臓、前立腺、乳腺、肺を含む種々の上皮性がんにおいて、腫瘍形成の間、異常な発現をする(非特許文献7、8)。腫瘍形成過程における一般的な特徴は、正常上皮の形質の欠失、分極化する上皮の形態学的な欠失、部分的あるいは全体的な運動性と浸潤性という形質の段階的な獲得を伴った間質としての形質の獲得を含んでいる(非特許文献9)。
さらに上皮の形態の崩壊には、接着分子の調節異常とN−カドヘリンの異常発現、上皮細胞におけるフィブロネクチン、ビメンチンのような本来間質に発現する分子が発現する上皮−間質移行(相互作用)が起こる。腫瘍や形質転換細胞におけるビメンチンの異常発現は、運動性の増大、浸潤性、予後の不良と相関する(非特許文献10、11)。肺においてビメンチンは、線維芽細胞、平滑筋、内皮、リンパ球系細胞に認められるが、正常の気管支上皮細胞には発現していない。近年の研究において、主に線維化部分のビメンチン陽性腫瘍細胞は、上皮−間質移行(相互作用)を伴う腫瘍の線維化と関連することが報告され、このことは他の研究と一致した結果である(非特許文献12)。実際、間葉系形質の獲得は、間葉系のマーカーである蛋白質の発現と細胞外基質の異常な沈着と関連する。同様の知見は、ビメンチン陽性の上皮細胞の存在が線維化組織の程度の増大が関連する進行性の腎線維症のような他のモデルにおいても報告されている(非特許文献13、14)。
マーカーとしては、ミオシンは横紋筋肉腫の鑑別診断マーカーとして、ビメンチンは、悪性黒色腫を始め、さまざまな良性腫瘍および悪性腫瘍のマーカータンパク質であることが知られている(特許文献3)。特に最近は上皮型悪性中皮腫と肺腺癌の鑑別のための免疫組織化学マーカーとして研究されている(非特許文献15、16)。
しかしながら、現在のところ肺腺がん患者において特異的に発現量が変化するタンパク質についての知見はなく、当然のことながらミオシンIIAやビメンチンの発現プロファイルと肺腺がん患者の予後との間の相関関係は知られていなかった。そこで、本発明者らは、特許文献1に記載の解析方法又は解析プログラムを使用することによって、肺腺がん患者において特異的に発現量が変化するタンパク質を同定することで、感度及び/又は特異度に優れた肺腺がん患者への手術後の予後を判定するための方法及び検査キットを提供することを目的としている。
上述した目的を達成するため、本発明者は、先に出願した病態プロテオミクス解析を可能とする、優れた分析能を達成する試料解析方法及び試料解析プログラム(特許文献1)を適用して、肺腺がんの手術後の予後に関連し、奏効とも密接に関連したマーカーを同定し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下を包含する。
(1)肺腺がん患者から採取した生体由来試料における、ミオシンIIA及び/又はビメンチンの発現量を測定するステップaと、測定の結果、ミオシンIIA及び/又はビメンチンの発現量に基づいて予後を予測又は判定するステップbとを含む手術後の予後を推定する方法。
(2)前記ステップaでは、表1のPEPTIDE_SEQの欄に挙げたアミノ酸配列を有するペプチド群から選ばれる少なくとも1以上のペプチドの発現量を測定することを特徴とする(1)記載の予後を推定する方法。
(3)前記ステップaでは、モノクローナル抗体を用いた免疫組織化学的染色法によって、上記ミオシンIIA及び/又はビメンチンの発現量を測定することを特徴とする(1)記載の予後を推定する方法。
(4)前記ステップaでは、モノクローナル抗体を固定した支持体に、前記肺腺がん患者から採取した生体由来試料からの抽出物を接触させることによって、上記ミオシンIIA及び/又はビメンチンの発現量を測定することを特徴とする(1)記載の予後を推定する方法。
(5)肺腺がん患者が病理組織診断にてI期と診断された早期肺腺がん患者である(1)乃至(4)いずれか一つ記載の予後を推定する方法。
(6)ミオシンIIAと特異的に結合する抗体及び/又はビメンチンと特異的に結合する抗体を少なくとも1以上含む、肺腺がん患者の予後を推定する検査キット。
(7)上記抗体は、上記表1のPEPTIDE_SEQの欄に挙げたアミノ酸配列を有するペプチド群から選ばれるペプチドと特異的に結合する抗体であることを特徴とする(6)記載の検査キット。
(8)上記抗体は、モノクローナル抗体であることを特徴とする(6)記載の検査キット。
(9)上記抗体は支持体に固定されていることを特徴とする(6)記載の検査キット。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2007−271139号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
上述した目的を達成するため、本発明者は、先に出願した病態プロテオミクス解析を可能とする、優れた分析能を達成する試料解析方法及び試料解析プログラム(特許文献1)を適用して、肺腺がんの手術後の予後に関連し、奏効とも密接に関連したマーカーを同定し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下を包含する。
(1)肺腺がん患者から採取した生体由来試料における、ミオシンIIA及び/又はビメンチンの発現量を測定するステップaと、測定の結果、ミオシンIIA及び/又はビメンチンの発現量に基づいて予後を予測又は判定するステップbとを含む手術後の予後を推定する方法。
(2)前記ステップaでは、表1のPEPTIDE_SEQの欄に挙げたアミノ酸配列を有するペプチド群から選ばれる少なくとも1以上のペプチドの発現量を測定することを特徴とする(1)記載の予後を推定する方法。
(4)前記ステップaでは、モノクローナル抗体を固定した支持体に、前記肺腺がん患者から採取した生体由来試料からの抽出物を接触させることによって、上記ミオシンIIA及び/又はビメンチンの発現量を測定することを特徴とする(1)記載の予後を推定する方法。
(5)肺腺がん患者が病理組織診断にてI期と診断された早期肺腺がん患者である(1)乃至(4)いずれか一つ記載の予後を推定する方法。
(6)ミオシンIIAと特異的に結合する抗体及び/又はビメンチンと特異的に結合する抗体を少なくとも1以上含む、肺腺がん患者の予後を推定する検査キット。
(7)上記抗体は、上記表1のPEPTIDE_SEQの欄に挙げたアミノ酸配列を有するペプチド群から選ばれるペプチドと特異的に結合する抗体であることを特徴とする(6)記載の検査キット。
(8)上記抗体は、モノクローナル抗体であることを特徴とする(6)記載の検査キット。
(9)上記抗体は支持体に固定されていることを特徴とする(6)記載の検査キット。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2007−271139号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
図1Aは、液体クロマトグラフィー質量分析(LC−MS)によって検出された同一の蛋白質由来のペプチド群のシグナルの強度の比較を示す。比較はそれぞれの群(U0R0、U0R1、U1R0、U1R1)で行った。縦軸はLC−MSで測定されたシグナル強度を正規化した値を示す。それぞれのボックスプロット(箱ひげ図)において、箱の上と下はそれぞれ上位四分位点と下位四分位点を表し、箱の外に出ている水平線は、それぞれ上位隣接値と下位隣接値を表す。ここでいう上位隣接値は、Q3+1.5×(Q3−Q1)以下で最大値となるもの、下位隣接値は、Q1−1.5×(Q3−Q1)以上で最小値となるものを採用している。黒三角は中央値、黒四角は外れ値を表す。U0R0:手術後補助化学療法非施行非転移再発症例U0R1:手術後補助化学療法非施行転移再発症例U1R0:手術後補助化学療法施行非転移再発症例U1R1:手術後補助化学療法施行転移再発症例 AはミオシンIIAに由来する各症例群のシグナル強度の分布を示す。
図1Bは、液体クロマトグラフィー質量分析(LC−MS)によって検出された同一の蛋白質由来のペプチド群のシグナルの強度の比較を示す。比較はそれぞれの群(U0R0、U0R1、U1R0、U1R1)で行った。縦軸はLC−MSで測定されたシグナル強度を正規化した値を示す。それぞれのボックスプロット(箱ひげ図)において、箱の上と下はそれぞれ上位四分位点と下位四分位点を表し、箱の外に出ている水平線は、それぞれ上位隣接値と下位隣接値を表す。ここでいう上位隣接値は、Q1+1.5×(Q3−Q1)以下で最大値となるもの、下位隣接値は、Q3−1.5×(Q3−Q1)以上で最小値となるものを採用している。黒三角は中央値、黒四角は外れ値を表す。U0R0:手術後補助化学療法非施行非転移再発症例U0R1:手術後補助化学療法非施行転移再発症例U1R0:手術後補助化学療法施行非転移再発症例U1R1:手術後補助化学療法施行転移再発症例 Bはビメンチンに由来する各症例群のシグナル強度の分布を示す。
図2は、抗ミオシンIIA抗体と抗ビメンチン抗体を用いて行った典型的な免疫組織化学染色の結果を示し、Aは免疫組織化学的染色結果がミオシンIIA及びビメンチンのいずれも陽性である例の写真を示し、Bは免疫組織化学的染色結果がミオシンIIA陽性、ビメンチン陰性である例の写真を示し、Cは免疫組織化学的染色結果がミオシンIIA陰性、ビメンチン陽性である例の写真を示し、Dは免疫組織化学的染色結果がミオシンIIA及びビメンチンのいずれも陰性である例の写真を示す。
図3は、UFTによる術後補助化学療法非施行例(A)と術後補助化学療法施行例(B)におけるミオシンIIA及びビメンチンの免疫組織化学的染色結果別の生存曲線を示す。免疫組織化学染色を施行した全症例(C)における非再発生存曲線を示す。
図1Bは、液体クロマトグラフィー質量分析(LC−MS)によって検出された同一の蛋白質由来のペプチド群のシグナルの強度の比較を示す。比較はそれぞれの群(U0R0、U0R1、U1R0、U1R1)で行った。縦軸はLC−MSで測定されたシグナル強度を正規化した値を示す。それぞれのボックスプロット(箱ひげ図)において、箱の上と下はそれぞれ上位四分位点と下位四分位点を表し、箱の外に出ている水平線は、それぞれ上位隣接値と下位隣接値を表す。ここでいう上位隣接値は、Q1+1.5×(Q3−Q1)以下で最大値となるもの、下位隣接値は、Q3−1.5×(Q3−Q1)以上で最小値となるものを採用している。黒三角は中央値、黒四角は外れ値を表す。U0R0:手術後補助化学療法非施行非転移再発症例U0R1:手術後補助化学療法非施行転移再発症例U1R0:手術後補助化学療法施行非転移再発症例U1R1:手術後補助化学療法施行転移再発症例 Bはビメンチンに由来する各症例群のシグナル強度の分布を示す。
図2は、抗ミオシンIIA抗体と抗ビメンチン抗体を用いて行った典型的な免疫組織化学染色の結果を示し、Aは免疫組織化学的染色結果がミオシンIIA及びビメンチンのいずれも陽性である例の写真を示し、Bは免疫組織化学的染色結果がミオシンIIA陽性、ビメンチン陰性である例の写真を示し、Cは免疫組織化学的染色結果がミオシンIIA陰性、ビメンチン陽性である例の写真を示し、Dは免疫組織化学的染色結果がミオシンIIA及びビメンチンのいずれも陰性である例の写真を示す。
図3は、UFTによる術後補助化学療法非施行例(A)と術後補助化学療法施行例(B)におけるミオシンIIA及びビメンチンの免疫組織化学的染色結果別の生存曲線を示す。免疫組織化学染色を施行した全症例(C)における非再発生存曲線を示す。
以下、本発明に係る肺腺がん患者の手術後の予後を推定する方法及び/又は検査キットを詳細に説明する。
肺腺がん患者の手術後の予後を予測・判定する本方法は、患者から採取した組織、血液、尿等の生体由来試料における、ミオシンIIA及び/又はビメンチンの発現量を測定するステップaと、測定の結果、ミオシンIIA及び/又はビメンチンの発現量に基づいて予後を予測・判定するステップbとを含んでいる。なお、ステップaにおいては、ミオシンIIA及びビメンチンのいずれか一方の発現量を測定しても良いが、好ましくは両方の発現量を測定する。また、ステップbでは、ステップaで測定されたミオシンIIAの発現量及びビメンチンの発現量の両方に基づいて予後を予測又は判定することが好ましいが、ステップaで測定されたミオシンIIAの発現量及びビメンチンの発現量のうち一方の発現量に基づいて予後を予測又は判定してもよい。
また、ミオシンIIA及びビメンチンの発現量を測定する際には、特に限定されないが、例えば、表2のPEPTIDE_SEQの欄に挙げたアミノ酸配列を有するペプチド群から選ばれる少なくとも1以上のペプチドの発現量を測定すればよい。
表2において「Protein Name」の欄は一般的なタンパク質の名称を意味している。また、「Name」の欄はNCBIのEnTrez GeneのSymbol名、「Peptide」は同定されたペプチドの番号、「Fraction」はタンパク抽出後に分画した画分である。さらに「PEPTIDE_SEQ」はMS/MSスペクトルから同定されたペプチド部分配列を示す。なお、MYH9_1に示したペプチドのアミノ酸配列を配列番号1に示し、MYH9_2に示したペプチドのアミノ酸配列を配列番号2に示し、MYH9_3に示したペプチドのアミノ酸配列を配列番号3に示した。VIM_1に示したペプチドのアミノ酸配列を配列番号4に示し、VIM_2に示したペプチドのアミノ酸配列を配列番号5に示し、VIM_3に示したペプチドのアミノ酸配列を配列番号6に示し、VIM_4に示したペプチドのアミノ酸配列を配列番号7に示した。
表2に挙げたタンパク質は、本発明者らが先に開発した試料中に含まれる成分を解析する解析方法によって、予後と関連していることが新たに同定されたものである。したがって、本発明にかかる予後を推定する方法では、先ず、肺腺がん患者から採取した組織、血液、尿等の生体由来試料における、ミオシンIIA及び/又はビメンチンの発現量を測定する。
ここで、肺腺がん患者としては、手術後の肺腺がん患者であれば特に限定されず、補助化学療法を検討している患者、補助化学療法を施行されている患者、及び補助化学療法を実施しない患者のいずれであっても良い。特に肺腺がん患者としては、病理組織診断にてI期と診断された早期肺腺がん患者であるのが好ましい。また、本発明に係る予後を推定する方法は、肺腺がん患者に対して直接何らかの処置を施すものではなく、患者から採取した組織、血液、尿等の生体由来試料を用いて実施する。
本発明に係る予後を推定する方法において生体由来試料としては、以下のものに限定されないものの、次のようなものを含む。即ち、補助化学療法を検討している患者、補助化学療法を施行されている患者、及び補助化学療法を実施しない患者から採取された、全血、血漿、血清、血球等の細胞成分のいずれかを使用することができる。また、これら患者から採取された組織や尿を使用することができる。
具体的に、肺腺がん患者から採取した生体由来試料における、ミオシンIIA及び/又はビメンチン(以下、これらをまとめて「測定対象のタンパク質」と称する場合もある)の発現量を測定するには、例えば、測定対象のタンパク質に対するモノクローナル抗体を使用することができる。
なお、測定対象のタンパク質を抗原とし、当該抗原に結合する限り、前記抗体としては特に制限はなく、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヒツジ抗体等を適宜用いることができる。抗体は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよいが、均質な抗体を安定に生産できる点でモノクローナル抗体が好ましい。ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体は当業者に周知の方法により作製することができる。
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、所望の抗原や所望の抗原を発現する細胞を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングすることによって作製できる。ハイブリドーマの作製は、たとえば、ミルステインらの方法(Kohler.G.and Milstein,C.,Methods Enzymol.(1981)73:3−46)等に準じて行うことができる。
ここで、モノクローナル抗体を作製する際には、測定対象のタンパク質若しくは当該タンパク質の断片(例えば、表2におけるPEPTIDE_SEQの欄に挙げたアミノ酸配列を有するペプチド)を抗原として使用することができ、また、測定対象のタンパク質若しくは当該タンパク質の断片を発現する細胞を抗原として使用することができる。なお、測定対象のタンパク質若しくは当該タンパク質の断片や断片を発現する細胞は、例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual第2版第1−3巻Sambrook,J.ら著、Cold Spring Harber Laboratory Press出版New York1989年に記載された方法に準じて、当業者であれば容易に取得することができる。
なお、測定対象のタンパク質のアミノ酸配列及び当該タンパク質をコードする塩基配列は、表中「Name」の欄に記載したNCBIのEnTrez GeneのSymbol名及び/或いは「PEPTIDE_SEQ」に記載したアミノ酸部分配列に基づいて取得することができる。そして、当業者であれば、取得したアミノ酸配列及び塩基配列に基づいて、測定対象のタンパク質若しくはその断片を定法に従って容易に取得することができる。
得られたモノクローナル抗体は、測定対象のタンパク質の定量用に、エンザイム−リンクイムノソルベントアッセイ(ELISA)、酵素イムノドットアッセイ、ラジオイムノアッセイ、凝集に基づいたアッセイ、あるいは他のよく知られているイムノアッセイ法で検査試薬として用いることができる。また、モノクローナル抗体は標識化されることが好ましい。標識化を行う際、標識化合物としては例えば当分野で公知の酵素、蛍光物質、化学発光物質、放射性物質、染色物質などを使用することができる。
一方、本発明に係る予後を推定する診断用検査キットは、ミオシンIIAと特異的に結合する抗体及び/又はビメンチンと特異的に結合する抗体を含むものである。ここで、当該検査キットは、例えばミオシンIIAと特異的に結合する複数の抗体を備えるものであっても良い。複数の抗体とは、それぞれの抗体が異なる部位をエピトープとする抗体であることが好ましい。同様に、当該検査キットは、ビメンチンと特異的に結合する複数の抗体を備えるものであっても良い。なお、抗体としては、好ましくはモノクローナル抗体を使用する。
例えば、当該検査キットは、支持体(例えばマイクロタイターウェルの内壁)に上述したモノクローナル抗体(又はそのフラグメント)を被覆したものを挙げることができる。支持体としてはポリスチレンやポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリビニール製のマイクロタイタープレート、試験管、キャピラリー、ビーズ、膜、フィルターなどが挙げられる。
また、当該検査キットは、抗体群のなかから選ばれた1以上、より好ましくはミオシンIIA及びビメンチンそれぞれに由来する2つの抗体を備える。
以上のようにして、肺腺がん患者から採取した組織、血液、尿等の生体由来試料における、測定対象のタンパク質の発現量を測定した後、本発明にかかる予後を推定する方法では、当該発現量に基づいて肺腺がん患者の手術後の予後の事前予測あるいは治療効果の予測を行う。ミオシンIIAの発現量が高いか、ビメンチンの発現量が高い場合には、肺腺がん患者の術後の予後は不良であると判断することができる。
より具体的には、測定対象のタンパク質の発現量を、生体試料中においても構成的に発現しているタンパク質の発現量、あるいはこれ以外の血清アルブミン等一般的な血清学的検査で測定されるタンパク質の量で除算した比(相対値)を用いて、この値が基準値を有意に上回る場合に予後不良と診断することができる。ここで、基準値とは、例えば5年以内に再発が認められた肺腺がん患者群における測定対象のタンパク質の発現量(相対値)の平均値と設定することができる。また、基準値としては、例えば5年以内に無再発(5年生存)であった肺腺がん患者群における測定対象のタンパク質の発現量(相対値)の平均値と設定することもできる。なお、基準値は、測定対象のタンパク質のそれぞれについて設定することができる。
ここで、「有意に上回る」とは、統計上の有意差をもって発現量が基準値を超える場合を指す。すなわち、かかる用語は、上記「ステップaで測定したタンパク質の発現量から算出した比(相対値)」が、測定対象のタンパク質について予め算出した基準値±標準偏差の範囲外であることを指す。
また、本発明に係る予後を推定する方法は、対象患者から採取した組織を用いた免疫組織化学的染色によって測定対象のタンパク質の発現量を測定してもよい。この場合、発現量の測定の結果としては、免疫組織化学的染色を行った組織全体に含まれる測定対象タンパク質の発現が認められた細胞数割合を算出する。そして、ミオシンIIA陽性細胞が50%以上である場合に予後不良と推定することができ、また、ビメンチン陽性細胞が25%以上である場合に予後不良と推定することができる。
本発明に係る予後を予測・判定する方法及び検査キットによれば、非常に優れた感度及び/又は優れた特異度で肺腺がん患者の手術後の予後の事前予測を行うことができる。ここで、感度とは、予後不良群における陽性率を意味する。特異度とは、予後良好群における陰性率を意味する。
これによって、予後を事前に予測することで、予後不良が予測される患者に選択的に抗がん剤を投与することが可能となる。また、免疫組織化学染色法により、ミオシンIIA陰性かつビメンチン陰性の肺腺がん患者では術後のUFT投与にかかわらず、再発を全く認めなかったことから、術後のUFT投与を回避できる患者群と推測することができる。たとえ抗がん剤に関する安全性に問題がない場合でも、無駄な投薬を抑制することは、医療経済的な効果も極めて大きい。
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明に係る技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。本実施例では、上記特許文献1に記載の方法を実際の臨床検体に適用して、早期肺腺がんにおける手術後補助化学療法施行患者において、予後を予測することができるタンパク質群を探索、同定し、診断マーカーとして使用できることを検証した。
肺腺がん患者の手術後の予後を予測・判定する本方法は、患者から採取した組織、血液、尿等の生体由来試料における、ミオシンIIA及び/又はビメンチンの発現量を測定するステップaと、測定の結果、ミオシンIIA及び/又はビメンチンの発現量に基づいて予後を予測・判定するステップbとを含んでいる。なお、ステップaにおいては、ミオシンIIA及びビメンチンのいずれか一方の発現量を測定しても良いが、好ましくは両方の発現量を測定する。また、ステップbでは、ステップaで測定されたミオシンIIAの発現量及びビメンチンの発現量の両方に基づいて予後を予測又は判定することが好ましいが、ステップaで測定されたミオシンIIAの発現量及びビメンチンの発現量のうち一方の発現量に基づいて予後を予測又は判定してもよい。
また、ミオシンIIA及びビメンチンの発現量を測定する際には、特に限定されないが、例えば、表2のPEPTIDE_SEQの欄に挙げたアミノ酸配列を有するペプチド群から選ばれる少なくとも1以上のペプチドの発現量を測定すればよい。
表2に挙げたタンパク質は、本発明者らが先に開発した試料中に含まれる成分を解析する解析方法によって、予後と関連していることが新たに同定されたものである。したがって、本発明にかかる予後を推定する方法では、先ず、肺腺がん患者から採取した組織、血液、尿等の生体由来試料における、ミオシンIIA及び/又はビメンチンの発現量を測定する。
ここで、肺腺がん患者としては、手術後の肺腺がん患者であれば特に限定されず、補助化学療法を検討している患者、補助化学療法を施行されている患者、及び補助化学療法を実施しない患者のいずれであっても良い。特に肺腺がん患者としては、病理組織診断にてI期と診断された早期肺腺がん患者であるのが好ましい。また、本発明に係る予後を推定する方法は、肺腺がん患者に対して直接何らかの処置を施すものではなく、患者から採取した組織、血液、尿等の生体由来試料を用いて実施する。
本発明に係る予後を推定する方法において生体由来試料としては、以下のものに限定されないものの、次のようなものを含む。即ち、補助化学療法を検討している患者、補助化学療法を施行されている患者、及び補助化学療法を実施しない患者から採取された、全血、血漿、血清、血球等の細胞成分のいずれかを使用することができる。また、これら患者から採取された組織や尿を使用することができる。
具体的に、肺腺がん患者から採取した生体由来試料における、ミオシンIIA及び/又はビメンチン(以下、これらをまとめて「測定対象のタンパク質」と称する場合もある)の発現量を測定するには、例えば、測定対象のタンパク質に対するモノクローナル抗体を使用することができる。
なお、測定対象のタンパク質を抗原とし、当該抗原に結合する限り、前記抗体としては特に制限はなく、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヒツジ抗体等を適宜用いることができる。抗体は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよいが、均質な抗体を安定に生産できる点でモノクローナル抗体が好ましい。ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体は当業者に周知の方法により作製することができる。
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、所望の抗原や所望の抗原を発現する細胞を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングすることによって作製できる。ハイブリドーマの作製は、たとえば、ミルステインらの方法(Kohler.G.and Milstein,C.,Methods Enzymol.(1981)73:3−46)等に準じて行うことができる。
ここで、モノクローナル抗体を作製する際には、測定対象のタンパク質若しくは当該タンパク質の断片(例えば、表2におけるPEPTIDE_SEQの欄に挙げたアミノ酸配列を有するペプチド)を抗原として使用することができ、また、測定対象のタンパク質若しくは当該タンパク質の断片を発現する細胞を抗原として使用することができる。なお、測定対象のタンパク質若しくは当該タンパク質の断片や断片を発現する細胞は、例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual第2版第1−3巻Sambrook,J.ら著、Cold Spring Harber Laboratory Press出版New York1989年に記載された方法に準じて、当業者であれば容易に取得することができる。
なお、測定対象のタンパク質のアミノ酸配列及び当該タンパク質をコードする塩基配列は、表中「Name」の欄に記載したNCBIのEnTrez GeneのSymbol名及び/或いは「PEPTIDE_SEQ」に記載したアミノ酸部分配列に基づいて取得することができる。そして、当業者であれば、取得したアミノ酸配列及び塩基配列に基づいて、測定対象のタンパク質若しくはその断片を定法に従って容易に取得することができる。
得られたモノクローナル抗体は、測定対象のタンパク質の定量用に、エンザイム−リンクイムノソルベントアッセイ(ELISA)、酵素イムノドットアッセイ、ラジオイムノアッセイ、凝集に基づいたアッセイ、あるいは他のよく知られているイムノアッセイ法で検査試薬として用いることができる。また、モノクローナル抗体は標識化されることが好ましい。標識化を行う際、標識化合物としては例えば当分野で公知の酵素、蛍光物質、化学発光物質、放射性物質、染色物質などを使用することができる。
一方、本発明に係る予後を推定する診断用検査キットは、ミオシンIIAと特異的に結合する抗体及び/又はビメンチンと特異的に結合する抗体を含むものである。ここで、当該検査キットは、例えばミオシンIIAと特異的に結合する複数の抗体を備えるものであっても良い。複数の抗体とは、それぞれの抗体が異なる部位をエピトープとする抗体であることが好ましい。同様に、当該検査キットは、ビメンチンと特異的に結合する複数の抗体を備えるものであっても良い。なお、抗体としては、好ましくはモノクローナル抗体を使用する。
例えば、当該検査キットは、支持体(例えばマイクロタイターウェルの内壁)に上述したモノクローナル抗体(又はそのフラグメント)を被覆したものを挙げることができる。支持体としてはポリスチレンやポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリビニール製のマイクロタイタープレート、試験管、キャピラリー、ビーズ、膜、フィルターなどが挙げられる。
また、当該検査キットは、抗体群のなかから選ばれた1以上、より好ましくはミオシンIIA及びビメンチンそれぞれに由来する2つの抗体を備える。
以上のようにして、肺腺がん患者から採取した組織、血液、尿等の生体由来試料における、測定対象のタンパク質の発現量を測定した後、本発明にかかる予後を推定する方法では、当該発現量に基づいて肺腺がん患者の手術後の予後の事前予測あるいは治療効果の予測を行う。ミオシンIIAの発現量が高いか、ビメンチンの発現量が高い場合には、肺腺がん患者の術後の予後は不良であると判断することができる。
より具体的には、測定対象のタンパク質の発現量を、生体試料中においても構成的に発現しているタンパク質の発現量、あるいはこれ以外の血清アルブミン等一般的な血清学的検査で測定されるタンパク質の量で除算した比(相対値)を用いて、この値が基準値を有意に上回る場合に予後不良と診断することができる。ここで、基準値とは、例えば5年以内に再発が認められた肺腺がん患者群における測定対象のタンパク質の発現量(相対値)の平均値と設定することができる。また、基準値としては、例えば5年以内に無再発(5年生存)であった肺腺がん患者群における測定対象のタンパク質の発現量(相対値)の平均値と設定することもできる。なお、基準値は、測定対象のタンパク質のそれぞれについて設定することができる。
ここで、「有意に上回る」とは、統計上の有意差をもって発現量が基準値を超える場合を指す。すなわち、かかる用語は、上記「ステップaで測定したタンパク質の発現量から算出した比(相対値)」が、測定対象のタンパク質について予め算出した基準値±標準偏差の範囲外であることを指す。
また、本発明に係る予後を推定する方法は、対象患者から採取した組織を用いた免疫組織化学的染色によって測定対象のタンパク質の発現量を測定してもよい。この場合、発現量の測定の結果としては、免疫組織化学的染色を行った組織全体に含まれる測定対象タンパク質の発現が認められた細胞数割合を算出する。そして、ミオシンIIA陽性細胞が50%以上である場合に予後不良と推定することができ、また、ビメンチン陽性細胞が25%以上である場合に予後不良と推定することができる。
本発明に係る予後を予測・判定する方法及び検査キットによれば、非常に優れた感度及び/又は優れた特異度で肺腺がん患者の手術後の予後の事前予測を行うことができる。ここで、感度とは、予後不良群における陽性率を意味する。特異度とは、予後良好群における陰性率を意味する。
これによって、予後を事前に予測することで、予後不良が予測される患者に選択的に抗がん剤を投与することが可能となる。また、免疫組織化学染色法により、ミオシンIIA陰性かつビメンチン陰性の肺腺がん患者では術後のUFT投与にかかわらず、再発を全く認めなかったことから、術後のUFT投与を回避できる患者群と推測することができる。たとえ抗がん剤に関する安全性に問題がない場合でも、無駄な投薬を抑制することは、医療経済的な効果も極めて大きい。
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明に係る技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。本実施例では、上記特許文献1に記載の方法を実際の臨床検体に適用して、早期肺腺がんにおける手術後補助化学療法施行患者において、予後を予測することができるタンパク質群を探索、同定し、診断マーカーとして使用できることを検証した。
病理組織診断によって、I期と診断された早期肺腺がん患者外科的切除組織を用い、後述する手法で蛋白質を抽出・消化し、LC−MS装置を用いて測定した。得られたプロファイルを、後日、手術後補助化学療法施行転移再発群、手術後補助化学療法施行非転移再発群、手術後補助化学療法非施行転移再発群、手術後補助化学療法非施行非転移再発群に分け、群間で有意に変動しているシグナルを拾い出し、それらについてMS/MS解析を行って蛋白質を同定した。
試料
LC−MS/MS測定・解析に用いた試料は、1995年から2001年の間に、外科的切除をされた早期肺腺がん組織、24症例を用いた。これら試料は、病理組織診断によってI期と診断され、外科的切除後直ちに−80℃保存されていた。早期肺腺がん24症例のうち11症例は、手術後UFT(テガフール+ウラシル)による術後補助化学療法を施行され、手術後2年以内に転移再発をした「手術後補助化学療法施行転移再発(U1R1)」5症例、手術後5年間転移再発をしていない「手術後補助化学療法施行非転移再発(U1R0)」6症例である。さらに早期肺腺がん24症例のうち13症例は、UFTを含め手術後一切の補助化学療法を施行せず、手術後2年以内に転移再発をした「手術後補助化学療法非施行転移再発(U0R1)」6症例、手術後5年間転移再発をしていない「手術後補助化学療法非施行非転移再発(U0R0)」7症例である。
試料の調製
LC−MS/MS測定・解析に用いた試料は、分析対象の凍結保存組織切片を、PBS溶液中で4℃にて破砕した。プロテアーゼによる非特異的な分解を抑えるため、PBS溶液にはあらかじめプロテアーゼ活性阻害剤の混合物(コンプリートプロテアーゼインヒビターカクテル錠:ロシュ・ダイアグノスティックス(株)社製)を溶解しておいた。破砕懸濁液を10分間振とう攪拌した後、懸濁液を遠心分離にかけた(条件:52000×g、4℃にて20分間、この操作によって生じた上清を以下、可溶画分と称する)。可溶画分を−80℃にて保存した。一方、沈殿に対しては、PBS溶液への懸濁と上記条件の遠心分離を3回繰り返し、最後にSDSを含む溶液に溶解した。その組成はPBS(プロテアーゼ活性阻害剤混合物を含む)、5% w/v SDSであった(この溶液を以下、不溶画分と称する)。
総蛋白質濃度の測定
Lowryの方法の変法によって、両画分の蛋白質濃度を測定した。検量線のための標準蛋白質として、ウシ血清アルブミンを用いた。
SDS−PAGE
可溶・不溶の両画分から、正味75μg総蛋白質に相当する容積の溶液を取り、これに対して150pmol分の卵白リゾチーム水溶液を混合した。つづいて、減圧留去によって混合液を乾固し、乾固した試料を、70μLのSDS−PAGE用試料緩衝液(62.5mMトリス−塩酸(pH6.8)、2%w/v SDS、5%v/v2−メルカプトエタノール、10%v/vグリセリン、0.0025%w/vブロモフェノールブルー)に溶解した。この溶解液を37℃にて60分間振とうしたのち、50μL分をLaemmliのSDS−PAGEにかけた。このときに用いたポリアクリルアミドゲルは不連続の緩衝液系、すなわち上部の濃縮ゲル(pH6.8)と下部の分離ゲル(pH8.8)から成っていた。ポリアクリルアミドゲルの濃度は各々4%と12.5%であり、全体の大きさは幅14cm、高さ14cm、および厚さ1mmであった。電気泳動時の電流は一定の20mAであった。色素ブロモフェノールの泳動フロントが、濃縮ゲルと分離ゲルの境界面から分離ゲルの約2mmまで達したところで泳動を停止した。各試料について、濃縮ゲルと分離ゲルの境界面から泳動フロントまでの間の範囲を切り出した。ゲル切片のおよその大きさは4×10×1mmであった。
ゲル内トリプシン消化
上記ゲル切片を約1mLの40%メタノール、10%酢酸水溶液中に浸して振とうし、ゲル内に含まれる蛋白質を固定した。ゲル切片をさらに一辺約1mmのサイコロ状に分割し、以下の手順にしたがって、ゲル中の蛋白質を処理した。システイン残基のSH基の修飾のため、ジチオトレイトールによる還元反応、つづくヨードアセトアミドによるアルキル化反応を行った。つぎにゲル片を十分量の水で洗浄してからアセトニトリルで脱水した。ゲル片に残った水とアセトニトリルを減圧留去してからトリプシン溶液を加え、37℃にて16時間保温し消化反応を行った。ゲル片に含まれるペプチド断片の抽出は、25mM重炭酸アンモニウム/50%アセトニトリル水溶液で1回、続いて5%ギ酸/50%アセトニトリル水溶液で2回行い、抽出溶液は1個の容器にまとめて減圧濃縮した。
LC−MS/MS測定
各ペプチド試料の三次元プロファイルを得るために、以下に示す装置と操作によってペプチド試料を分析した(Proteomics 5(2005)856−864)。まず、プロテアーゼ消化後のペプチド試料を、0.1%トリフルオロ酢酸水溶液100μLに溶解した溶液を測定試料とした。
測定試料10μl分をPeptide CapTrapカートリッジ(内径0.5mm,長さ2mm,Michrom BioResources社製)で脱塩・濃縮後、MAGIC MSTMC18キャピラリーカラム(内径0.2mm,長さ50mm,粒径3μm,孔径200Å)に導入した。各ペプチドの溶出はParadigm MS−4TMHPLCシステム(Michrom BioResources社)を用いて行った。このときのHPLC移動相Aはギ酸、アセトニトリルおよび水を0.1:2:98の容積比で混合した溶媒とし、これに対して移動相Bの混合比は0.1:90:10とした。そして移動相Bの濃度上昇を5%から95%までの直線勾配に設定し、ペプチド断片を連続的に溶出した。このときの流速は約1μL/minとした。
LCの溶出液は、AMR社製のFrotisTMニードル(内径20μm)を介し、Finnigan LTQTMイオントラップ型質量分析計(ThermoElectron社)のイオン源に直接導入した。ESIニードルの位置は加熱キャピラリーとの距離を微調整できるようになっている。スプレー電圧はニードルではなく、溶離液に直接荷電するようにした。分析ノイズを下げるために窒素ガスを2arbの流速でイオン源に導入し、スプレー電圧は2.0kVとした。
データ解析
データ解析は、いずれも上記特許文献1に記載のi−OPALプログラムを用いて行った。具体的な手順は以下のとおりである。
解析手順
全てのfull MSデータは、i−OPAL半定量LC−MSデータ解析システム(i−OPAL algorithm)を用いて解析した。最初にfull MSスキャンのシグナル強度をノーマライズし、各々のサンプルの総シグナル強度を同じ値にした。内部標準物質として注入された卵白リゾチーム由来あるいはサンプルに内在性の共通蛋白質由来の複数の標準シグナルをi−OPALのアライメント(整列化)マーカーとして選択した。i−OPALアライメント(整列化)プログラムは、非線形的に揺らぐ各々のLC−MSデータのLCの溶出時間軸を整列化し、最終的には、可溶画分と不溶画分の各々について、一つのLC−MSデータに重ね合わせをするために用いた。分散解析(ANOVA)は、最終的に重ね合わせたLC−MSデータの中から、特定の症例群において明らかに異なる強度のマーカー候補のシグナルを選択するように用いた。ANOVAは、Spotfire DecisionSiteパッケージを用いた。
データベース検索
全てのMS/MSデータは、Mascot検索エンジン(Matrix Science,London,UK.[http://www.matrixscience.com])を用いて、Swiss−Protヒトサブセット、RefSeq蛋白質配列データベースを検索した。データベース検索は、システイン残基(carbamidomethylation,+57Da)の固定修飾、メチオニン残基(oxidation,+16Da)の可変修飾、ペプチド質量の許容誤差±2.0Da、断片質量の許容誤差±0.8Daとした。
結果
i−OPALを用いたアライメントの後、可溶画分において13,136ピーク、不溶画分において14,984ピークが検出された。Spotfireを用いて、以下の条件によって候補シグナルを絞り込んだ。
(1)Mascot検索エンジンによる検索結果のスコアが50以上であること
(2)ANOVA分析によるP値が、可溶画分において1×10−5以下、不溶画分において1×10−6以下あるいは等しいこと
以上の条件によって、可溶画分において23ピーク、不溶画分において28ピークの候補ピークを絞り込んだ。さらに、これらの複数の候補ピークの中から、複数の異なるアミノ酸配列が検出され、同様のシグナル強度のパターンを示したミオシンIIAおよびビメンチンを最終的なバイオマーカー候補として選択し、それらのペプチド配列を上述した表2に示した。また、本実施例のLC−MS分析によるペプチドシグナル強度の比較の結果を図1Aおよび図1Bに示す。図1Aは、ミオシンIIAから生じた複数のペプチドイオンのシグナル強度の分布を示している。図1Aにおけるこれらの3つのペプチド信号は、タンデム質量分析によって、ミオシンIIAに帰属することが示された。U1R1グループと他のグループ間には有意差が認められた(p<9.7×10−7)。また、図1Bは、ビメンチンから生じた複数のペプチドイオンのシグナル強度の分布を示す。図1Bにおけるこれらの4つのペプチド信号は、タンデム質量分析によって、ビメンチンに帰属することが示された。U1R1グループと他のグループ間には有意差が認められた(p<3.8×10−7)。
全てのシグナルにおいて、手術後補助化学療法施行転移再発患者群(U1R1)のシグナル強度は、他の患者群とは明らかに異なるパターン(著しく高い)を示した。
試料
LC−MS/MS測定・解析に用いた試料は、1995年から2001年の間に、外科的切除をされた早期肺腺がん組織、24症例を用いた。これら試料は、病理組織診断によってI期と診断され、外科的切除後直ちに−80℃保存されていた。早期肺腺がん24症例のうち11症例は、手術後UFT(テガフール+ウラシル)による術後補助化学療法を施行され、手術後2年以内に転移再発をした「手術後補助化学療法施行転移再発(U1R1)」5症例、手術後5年間転移再発をしていない「手術後補助化学療法施行非転移再発(U1R0)」6症例である。さらに早期肺腺がん24症例のうち13症例は、UFTを含め手術後一切の補助化学療法を施行せず、手術後2年以内に転移再発をした「手術後補助化学療法非施行転移再発(U0R1)」6症例、手術後5年間転移再発をしていない「手術後補助化学療法非施行非転移再発(U0R0)」7症例である。
試料の調製
LC−MS/MS測定・解析に用いた試料は、分析対象の凍結保存組織切片を、PBS溶液中で4℃にて破砕した。プロテアーゼによる非特異的な分解を抑えるため、PBS溶液にはあらかじめプロテアーゼ活性阻害剤の混合物(コンプリートプロテアーゼインヒビターカクテル錠:ロシュ・ダイアグノスティックス(株)社製)を溶解しておいた。破砕懸濁液を10分間振とう攪拌した後、懸濁液を遠心分離にかけた(条件:52000×g、4℃にて20分間、この操作によって生じた上清を以下、可溶画分と称する)。可溶画分を−80℃にて保存した。一方、沈殿に対しては、PBS溶液への懸濁と上記条件の遠心分離を3回繰り返し、最後にSDSを含む溶液に溶解した。その組成はPBS(プロテアーゼ活性阻害剤混合物を含む)、5% w/v SDSであった(この溶液を以下、不溶画分と称する)。
総蛋白質濃度の測定
Lowryの方法の変法によって、両画分の蛋白質濃度を測定した。検量線のための標準蛋白質として、ウシ血清アルブミンを用いた。
SDS−PAGE
可溶・不溶の両画分から、正味75μg総蛋白質に相当する容積の溶液を取り、これに対して150pmol分の卵白リゾチーム水溶液を混合した。つづいて、減圧留去によって混合液を乾固し、乾固した試料を、70μLのSDS−PAGE用試料緩衝液(62.5mMトリス−塩酸(pH6.8)、2%w/v SDS、5%v/v2−メルカプトエタノール、10%v/vグリセリン、0.0025%w/vブロモフェノールブルー)に溶解した。この溶解液を37℃にて60分間振とうしたのち、50μL分をLaemmliのSDS−PAGEにかけた。このときに用いたポリアクリルアミドゲルは不連続の緩衝液系、すなわち上部の濃縮ゲル(pH6.8)と下部の分離ゲル(pH8.8)から成っていた。ポリアクリルアミドゲルの濃度は各々4%と12.5%であり、全体の大きさは幅14cm、高さ14cm、および厚さ1mmであった。電気泳動時の電流は一定の20mAであった。色素ブロモフェノールの泳動フロントが、濃縮ゲルと分離ゲルの境界面から分離ゲルの約2mmまで達したところで泳動を停止した。各試料について、濃縮ゲルと分離ゲルの境界面から泳動フロントまでの間の範囲を切り出した。ゲル切片のおよその大きさは4×10×1mmであった。
ゲル内トリプシン消化
上記ゲル切片を約1mLの40%メタノール、10%酢酸水溶液中に浸して振とうし、ゲル内に含まれる蛋白質を固定した。ゲル切片をさらに一辺約1mmのサイコロ状に分割し、以下の手順にしたがって、ゲル中の蛋白質を処理した。システイン残基のSH基の修飾のため、ジチオトレイトールによる還元反応、つづくヨードアセトアミドによるアルキル化反応を行った。つぎにゲル片を十分量の水で洗浄してからアセトニトリルで脱水した。ゲル片に残った水とアセトニトリルを減圧留去してからトリプシン溶液を加え、37℃にて16時間保温し消化反応を行った。ゲル片に含まれるペプチド断片の抽出は、25mM重炭酸アンモニウム/50%アセトニトリル水溶液で1回、続いて5%ギ酸/50%アセトニトリル水溶液で2回行い、抽出溶液は1個の容器にまとめて減圧濃縮した。
LC−MS/MS測定
各ペプチド試料の三次元プロファイルを得るために、以下に示す装置と操作によってペプチド試料を分析した(Proteomics 5(2005)856−864)。まず、プロテアーゼ消化後のペプチド試料を、0.1%トリフルオロ酢酸水溶液100μLに溶解した溶液を測定試料とした。
測定試料10μl分をPeptide CapTrapカートリッジ(内径0.5mm,長さ2mm,Michrom BioResources社製)で脱塩・濃縮後、MAGIC MSTMC18キャピラリーカラム(内径0.2mm,長さ50mm,粒径3μm,孔径200Å)に導入した。各ペプチドの溶出はParadigm MS−4TMHPLCシステム(Michrom BioResources社)を用いて行った。このときのHPLC移動相Aはギ酸、アセトニトリルおよび水を0.1:2:98の容積比で混合した溶媒とし、これに対して移動相Bの混合比は0.1:90:10とした。そして移動相Bの濃度上昇を5%から95%までの直線勾配に設定し、ペプチド断片を連続的に溶出した。このときの流速は約1μL/minとした。
LCの溶出液は、AMR社製のFrotisTMニードル(内径20μm)を介し、Finnigan LTQTMイオントラップ型質量分析計(ThermoElectron社)のイオン源に直接導入した。ESIニードルの位置は加熱キャピラリーとの距離を微調整できるようになっている。スプレー電圧はニードルではなく、溶離液に直接荷電するようにした。分析ノイズを下げるために窒素ガスを2arbの流速でイオン源に導入し、スプレー電圧は2.0kVとした。
データ解析
データ解析は、いずれも上記特許文献1に記載のi−OPALプログラムを用いて行った。具体的な手順は以下のとおりである。
解析手順
全てのfull MSデータは、i−OPAL半定量LC−MSデータ解析システム(i−OPAL algorithm)を用いて解析した。最初にfull MSスキャンのシグナル強度をノーマライズし、各々のサンプルの総シグナル強度を同じ値にした。内部標準物質として注入された卵白リゾチーム由来あるいはサンプルに内在性の共通蛋白質由来の複数の標準シグナルをi−OPALのアライメント(整列化)マーカーとして選択した。i−OPALアライメント(整列化)プログラムは、非線形的に揺らぐ各々のLC−MSデータのLCの溶出時間軸を整列化し、最終的には、可溶画分と不溶画分の各々について、一つのLC−MSデータに重ね合わせをするために用いた。分散解析(ANOVA)は、最終的に重ね合わせたLC−MSデータの中から、特定の症例群において明らかに異なる強度のマーカー候補のシグナルを選択するように用いた。ANOVAは、Spotfire DecisionSiteパッケージを用いた。
データベース検索
全てのMS/MSデータは、Mascot検索エンジン(Matrix Science,London,UK.[http://www.matrixscience.com])を用いて、Swiss−Protヒトサブセット、RefSeq蛋白質配列データベースを検索した。データベース検索は、システイン残基(carbamidomethylation,+57Da)の固定修飾、メチオニン残基(oxidation,+16Da)の可変修飾、ペプチド質量の許容誤差±2.0Da、断片質量の許容誤差±0.8Daとした。
結果
i−OPALを用いたアライメントの後、可溶画分において13,136ピーク、不溶画分において14,984ピークが検出された。Spotfireを用いて、以下の条件によって候補シグナルを絞り込んだ。
(1)Mascot検索エンジンによる検索結果のスコアが50以上であること
(2)ANOVA分析によるP値が、可溶画分において1×10−5以下、不溶画分において1×10−6以下あるいは等しいこと
以上の条件によって、可溶画分において23ピーク、不溶画分において28ピークの候補ピークを絞り込んだ。さらに、これらの複数の候補ピークの中から、複数の異なるアミノ酸配列が検出され、同様のシグナル強度のパターンを示したミオシンIIAおよびビメンチンを最終的なバイオマーカー候補として選択し、それらのペプチド配列を上述した表2に示した。また、本実施例のLC−MS分析によるペプチドシグナル強度の比較の結果を図1Aおよび図1Bに示す。図1Aは、ミオシンIIAから生じた複数のペプチドイオンのシグナル強度の分布を示している。図1Aにおけるこれらの3つのペプチド信号は、タンデム質量分析によって、ミオシンIIAに帰属することが示された。U1R1グループと他のグループ間には有意差が認められた(p<9.7×10−7)。また、図1Bは、ビメンチンから生じた複数のペプチドイオンのシグナル強度の分布を示す。図1Bにおけるこれらの4つのペプチド信号は、タンデム質量分析によって、ビメンチンに帰属することが示された。U1R1グループと他のグループ間には有意差が認められた(p<3.8×10−7)。
全てのシグナルにおいて、手術後補助化学療法施行転移再発患者群(U1R1)のシグナル強度は、他の患者群とは明らかに異なるパターン(著しく高い)を示した。
上記実施例によって予後因子として同定されたタンパク質を実施例1で使用した症例とは全く異なる症例において、病理組織診断によってI期と診断された早期肺腺がん患者外科的切除組織を用い、後述する手法で検証した。
試料
実施例1において同定された早期肺腺がんにおける予後因子蛋白質の検証のために用いた試料は、1995年から2001年の間に、外科的切除をされた早期肺腺がん組織のホルマリン固定パラフィン包埋標本90症例を用いた。これら全ての症例は、肺がんの根治手術が施行され、手術後病理組織診断によってI期と診断された。手術後3ヶ月ごとに胸部レントゲン写真、血清腫瘍マーカー(CEA,CA19−9,SLX)、6ヶ月ごとに頭部と胸腹部のCT、骨シンチグラフィーによって再発の有無が評価された。これらの検査によって再発の判定が困難な場合は、細胞化学的あるいは病理学的な検査によって確定診断が成された。I期肺腺がん90症例のうち51症例は、手術後UFTによる術後補助化学療法を施行され、手術後2年以内に転移再発をした「手術後補助化学療法施行転移再発」24症例、手術後5年間転移再発をしていない「手術後補助化学療法施行非転移再発」27症例である。さらに早期肺腺がん90症例のうち39症例は、UFTを含め手術後一切の補助化学療法を施行せず、手術後転移再発をした「手術後補助化学療法非施行転移再発」17症例、手術後転移再発をしていない「手術後補助化学療法非施行非転移再発」22症例である。
免疫組織化学的染色
ホルマリン固定パラフィン包埋早期肺腺がん症例標本を4μmの厚さに薄切し、スライドガラスに採取した。組織標本は、メタノール、キシレンによって脱パラフィン後、0.01%トリプシン処理、100℃で10分間オートクレープ処理した。さらに0.5%メタノール・100%過酸化水素処理、2%正常血清・PBSによって内因性ペルオキシダーゼを不活化した。続いて、各々の標本に抗ミオシンIIAマウスモノクローナル抗体(abcam社製、clone ab24762)及び抗ビメンチンマウスモノクローナル抗体(Dako Cytomation社製)を4℃で一晩反応させた。抗マウスIgG抗体、avidin−biotin complex抗体と反応後、顕微鏡下において、0.03%過酸化水素を含むTris−buffered saline溶液中で0.06%の3,3’−diaminobenzidinetetrahydrochlorideとDAB反応をさせた。核染色は、Meyer’s hematoxylinで行った。
免疫組織化学的染色の判定
がん細胞におけるミオシンIIA、ビメンチンの発現は、各々同一症例の同一標本の正常気管支上皮部分を内部コントロールとして比較し、がん細胞の細胞質の染色性の有無を判定した。
免疫組織化学的染色の統計学的解析
免疫組織化学的染色の統計学的解析は、SPSS ver.15(臨床統計ソフトウェア;エス.ピー.エス.エス(株)社製)を用いた。無再発生存期間は、Kaplan−Meier法を用い、患者群間の生存率は、log−rank testを用いた。p−value<0.05を統計学的に有意であると判定した。
結果
予後不良な早期肺線がんで有意に発現が検証されたタンパク質であるミオシンIIA及びビメンチンの典型的な免疫組織化学的染色を図2に、及びそれぞれのタンパク質の染色結果を表3に示す。
ミオシンIIAとビメンチンの発現は、細胞質に認められた。ミオシンIIAは50%以上の細胞において発現が認められた場合、陽性と判定した。ビメンチンは、25%以上の細胞において発現が詔められた場合、陽性と判定した。90例中、ミオシンIIA陽性は75例(83.3%)、陰性は15例(16.7%)であり、ビメンチン陽性は48例(53.3%)、陰性は42例(4.7%)であった。また、両方とも陽性は42例(46.7%)、両方陰性は9例(10%)であった。ミオシンIIAとビメンチンの免疫組織化学反応性には、関連性は認められなかった。
免疫組織化学的染色結果別のUFTによる術後補助化学療法非施行例(A)と術後補助化学療法施行例(B)における生存曲線を図3に示す。図3A、B及びCにおいてa線はミオシンIIAとビメンチンがともに陰性の症例であり、b線はミオシンIIA陰性、ビメンチン陽性の症例又はミオシンIIA陽性、ビメンチン陰性の症例であり、c線はミオシンIIAとビメンチンがともに陽性の症例である。
術後補助化学療法の施行の有無に関わらず、いずれも陰性例であった患者は5年後の生存率は100%であった。術後補助化学療法の非施行患者において、ミオシンIIAとビメンチンの発現が陰性であった症例(a群)とミオシンIIAとビメンチンの発現が陽性であった症例(c群)の間には、統計学的に有意な差が認められた(p=0.011)(図3A)。術後補助化学療法施行患者において、統計学的に有意な差は認められなかった(図3B)。ミオシンIIAとビメンチンの発現が陽性であった症例(c群)において、UFTによる術後補助化学療法を施行した患者では約19%の5年生存率の上乗せが認められたが、術後補助化学療法の施行患者と非施行患者の間には統計学的に有意な差は認められなかった。
全症例における非再発生存曲線において、ミオシンIIAとビメンチンの発現の両方が陰性であった症例(a群)とミオシンIIAとビメンチンの発現の両方が陽性であった症例(c群)の間には、統計学的に有意な差が認められ(p=0.006)(図3C)、ミオシンIIAとビメンチンの発現のいずれか一方が陽性であった症例(b群)とミオシンIIAとビメンチンの発現の両方が陰性であった症例(c群)の間にも、統計学的に有意な差が認められた(p=0.029)(図3C)。
手術後補助化学療法の施行の有無にかかわらず、ミオシンIIAとビメンチンの発現が陰性の患者は、予後が良好(5年生存率100%)であった。したがって、この2種類の蛋白質は、患者の予後を予測する因子であると同時に術後補助化学療法を必要としない患者の選抜のために極めて有用なバイオマーカーであることが検証された。さらに統計学的な有意差こそ認められなかったが、ミオシンIIAとビメンチンの発現が陽性であった症例において、UFTによる術後補助化学療法を施行した患者では約19%の5年生存率の上乗せが認められたことから、本来予後不良である患者群の中に術後補助化学療法によって予後が改善される患者群が存在することが確認された。
試料
実施例1において同定された早期肺腺がんにおける予後因子蛋白質の検証のために用いた試料は、1995年から2001年の間に、外科的切除をされた早期肺腺がん組織のホルマリン固定パラフィン包埋標本90症例を用いた。これら全ての症例は、肺がんの根治手術が施行され、手術後病理組織診断によってI期と診断された。手術後3ヶ月ごとに胸部レントゲン写真、血清腫瘍マーカー(CEA,CA19−9,SLX)、6ヶ月ごとに頭部と胸腹部のCT、骨シンチグラフィーによって再発の有無が評価された。これらの検査によって再発の判定が困難な場合は、細胞化学的あるいは病理学的な検査によって確定診断が成された。I期肺腺がん90症例のうち51症例は、手術後UFTによる術後補助化学療法を施行され、手術後2年以内に転移再発をした「手術後補助化学療法施行転移再発」24症例、手術後5年間転移再発をしていない「手術後補助化学療法施行非転移再発」27症例である。さらに早期肺腺がん90症例のうち39症例は、UFTを含め手術後一切の補助化学療法を施行せず、手術後転移再発をした「手術後補助化学療法非施行転移再発」17症例、手術後転移再発をしていない「手術後補助化学療法非施行非転移再発」22症例である。
免疫組織化学的染色
ホルマリン固定パラフィン包埋早期肺腺がん症例標本を4μmの厚さに薄切し、スライドガラスに採取した。組織標本は、メタノール、キシレンによって脱パラフィン後、0.01%トリプシン処理、100℃で10分間オートクレープ処理した。さらに0.5%メタノール・100%過酸化水素処理、2%正常血清・PBSによって内因性ペルオキシダーゼを不活化した。続いて、各々の標本に抗ミオシンIIAマウスモノクローナル抗体(abcam社製、clone ab24762)及び抗ビメンチンマウスモノクローナル抗体(Dako Cytomation社製)を4℃で一晩反応させた。抗マウスIgG抗体、avidin−biotin complex抗体と反応後、顕微鏡下において、0.03%過酸化水素を含むTris−buffered saline溶液中で0.06%の3,3’−diaminobenzidinetetrahydrochlorideとDAB反応をさせた。核染色は、Meyer’s hematoxylinで行った。
免疫組織化学的染色の判定
がん細胞におけるミオシンIIA、ビメンチンの発現は、各々同一症例の同一標本の正常気管支上皮部分を内部コントロールとして比較し、がん細胞の細胞質の染色性の有無を判定した。
免疫組織化学的染色の統計学的解析
免疫組織化学的染色の統計学的解析は、SPSS ver.15(臨床統計ソフトウェア;エス.ピー.エス.エス(株)社製)を用いた。無再発生存期間は、Kaplan−Meier法を用い、患者群間の生存率は、log−rank testを用いた。p−value<0.05を統計学的に有意であると判定した。
結果
予後不良な早期肺線がんで有意に発現が検証されたタンパク質であるミオシンIIA及びビメンチンの典型的な免疫組織化学的染色を図2に、及びそれぞれのタンパク質の染色結果を表3に示す。
免疫組織化学的染色結果別のUFTによる術後補助化学療法非施行例(A)と術後補助化学療法施行例(B)における生存曲線を図3に示す。図3A、B及びCにおいてa線はミオシンIIAとビメンチンがともに陰性の症例であり、b線はミオシンIIA陰性、ビメンチン陽性の症例又はミオシンIIA陽性、ビメンチン陰性の症例であり、c線はミオシンIIAとビメンチンがともに陽性の症例である。
術後補助化学療法の施行の有無に関わらず、いずれも陰性例であった患者は5年後の生存率は100%であった。術後補助化学療法の非施行患者において、ミオシンIIAとビメンチンの発現が陰性であった症例(a群)とミオシンIIAとビメンチンの発現が陽性であった症例(c群)の間には、統計学的に有意な差が認められた(p=0.011)(図3A)。術後補助化学療法施行患者において、統計学的に有意な差は認められなかった(図3B)。ミオシンIIAとビメンチンの発現が陽性であった症例(c群)において、UFTによる術後補助化学療法を施行した患者では約19%の5年生存率の上乗せが認められたが、術後補助化学療法の施行患者と非施行患者の間には統計学的に有意な差は認められなかった。
全症例における非再発生存曲線において、ミオシンIIAとビメンチンの発現の両方が陰性であった症例(a群)とミオシンIIAとビメンチンの発現の両方が陽性であった症例(c群)の間には、統計学的に有意な差が認められ(p=0.006)(図3C)、ミオシンIIAとビメンチンの発現のいずれか一方が陽性であった症例(b群)とミオシンIIAとビメンチンの発現の両方が陰性であった症例(c群)の間にも、統計学的に有意な差が認められた(p=0.029)(図3C)。
手術後補助化学療法の施行の有無にかかわらず、ミオシンIIAとビメンチンの発現が陰性の患者は、予後が良好(5年生存率100%)であった。したがって、この2種類の蛋白質は、患者の予後を予測する因子であると同時に術後補助化学療法を必要としない患者の選抜のために極めて有用なバイオマーカーであることが検証された。さらに統計学的な有意差こそ認められなかったが、ミオシンIIAとビメンチンの発現が陽性であった症例において、UFTによる術後補助化学療法を施行した患者では約19%の5年生存率の上乗せが認められたことから、本来予後不良である患者群の中に術後補助化学療法によって予後が改善される患者群が存在することが確認された。
本発明によれば、肺腺がん患者の手術後の予後を事前に予測し、あるいは治療中に優れた信頼度をもって診断できる手術後の予後を推定するための方法及び検査キットを提供することができる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
[配列表]
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
[配列表]
Claims (9)
- 肺腺がん患者から採取した生体由来試料における、ミオシンIIA及び/又はビメンチンの発現量を測定するステップaと、
測定の結果、ミオシンIIA及び/又はビメンチンの発現量に基づいて予後を予測又は判定するステップbと、
を含む手術後の予後を推定する方法。 - 前記ステップaでは、表1のPEPTIDE_SEQの欄に挙げたアミノ酸配列を有するペプチド群から選ばれる少なくとも1以上のペプチドの発現量を測定することを特徴とする請求項1記載の予後を推定する方法。
- 前記ステップaでは、モノクローナル抗体を用いた免疫組織化学的染色法によって、上記ミオシンIIA及び/又はビメンチンの発現量を測定することを特徴とする請求項1記載の予後を推定する方法。
- 前記ステップaでは、モノクローナル抗体を固定した支持体に、前記肺腺がん患者から採取した生体由来試料からの抽出物を接触させることによって、上記ミオシンIIA及び/又はビメンチンの発現量を測定することを特徴とする請求項1記載の予後を推定する方法。
- 肺腺がん患者が病理組織診断にてI期と診断された早期肺腺がん患者である請求項1乃至4いずれか一項記載の予後を推定する方法。
- ミオシンIIAと特異的に結合する抗体及び/又はビメンチンと特異的に結合する抗体を少なくとも1以上含む、肺腺がん患者の予後を推定する検査キット。
- 上記抗体は、表2のPEPTIDE_SEQの欄に挙げたアミノ酸配列を有するペプチド群から選ばれるペプチドと特異的に結合する抗体であることを特徴とする請求項6記載の検査キット。
- 上記抗体は、モノクローナル抗体であることを特徴とする請求項6記載の検査キット。
- 上記抗体は支持体に固定されていることを特徴とする請求項6記載の検査キット。
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