JP5126882B2 - 空積み石垣の安定性解析方法 - Google Patents
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田中邦熙、「石垣の地震時挙動解析にFEMを適用する手法の可能性」、土木学会土木史研究講演集、vol.26,P287−298,2006年 西山哲、大西有三、大津宏康、西村浩史、梁川俊晃、亀村勝美、関文夫、池谷清次、「不連続変形法(DDA)による石積みの擁壁の安定性に関する研究」、第38回地盤工学研究発表会講演集、P1631−1632,2003年 森本浩行、西形達明、西田一彦、玉野富雄、『個別要素法(DEM)による城郭石垣の変状に影響を及ぼす地盤条件に関する考察』、土木学会土木史研究講演集、vol.25,P317−322,2005年
また本発明では、解析対象の石垣において計測して得たデータから得た推定値又は算出値を用いて個別要素法のパラメータを設定したので、空積み石垣の静的及び動的な挙動の解析において、実際の石垣構造を比較的良好に反映する結果を得ることが可能になった。
本発明では、表面に積み上げられた複数の石材(築石、間詰石)と、背面部(裏栗石、飼石)と、背面地盤とで空積み石垣の解析モデルを構成するため、実測工程を実施する。
すなわち、解析対象とする空積み石垣の所定断面において、光波測量、レーザー測量、写真測量のうち少なくとも一つの手法と、レーダー探査による手法とを実施してデータを得る。これらのデータを用いて複数の石材、背面部及び背面地盤の断面形状を推定する。また背面地盤の構造は、ボーリング調査の地質データにより、複数の石材の下端よりも深い位置に至るまで推定する。なお、ボーリング調査の地質データについては、空積み石垣付近で既に実施されたものがあるときには、これを使用することができる。
図1は、以上のような工程により得られた空積み石垣10の推定断面図であり、複数の石材11(築石11)と、背面部12(裏栗石12)と、背面地盤13(段丘堆積物Dg、洪積層Ds)とで構成される。これは、レーダー探査(電磁波反射法)により石垣表面に沿って探査を実施し、測定線に沿った電磁波の反射画像を取得し、それに石垣の孕み出しの有無等の変形状況等を考慮し、さらに、ボーリング調査の地質データを基にして得られたものである。このような図1の推定断面図に示された断面構造を反映するように、更に一部単純化し、図2のような断面図を作成する。
個別要素法では、地盤を構成する個々の要素に対して要素間摩擦係数と要素間付着力を与える必要があり、要素間摩擦係数は各部材の内部摩擦角に相当し、要素間付着力は粘着力に相当するため、それぞれ両者の関係を求めるために個別要素法による解析を実施する。すなわち、要素間摩擦係数に対応する各部材の内部摩擦角、また要素間付着力に対応する粘着力について、それぞれ所定寸法、例えば、8.0m×4.Omのモデル地盤を個別要素で構築し、このモデル地盤を用いた仮想的な載荷試験を行い、要素間摩擦係数と内部摩擦角の関係を求めると共に、要素間付着力と粘着力の関係を求める。それぞれの結果を図3及び図4に示した。これらの図から、内部摩擦角に相当する要素間摩擦係数と、粘着力に相当する要素間付着力を求める。
図3及び図4に示したように、内部摩擦角35°以下、粘着力20kN/m2以下の領域においては、各部材の内部摩擦角と粘着力から、それぞれ解析パラメータである要素間摩擦係数と要素間付着力を算出することが可能である。
ここで、前記モデル地盤とは、土質試験における供試体に相当するものであるが、ここでは地盤の構成要素を直径3cm〜7.5cmとしているため、寸法を通常の供試体(φ5cm×10cm)より大きくしている。
前記仮想的な載荷試験とは、土質試験における三軸圧縮試験に相当するものであるが、地盤モデルが2次元モデルであるため二軸状態で載荷を行うものである。
石材を構成する要素の要素間摩擦係数を算出するために、解析対象とする空積み石垣の所定断面における石材間の摩擦角を計測する。計測した石材間の摩擦角はデータベースに蓄積する。
なお、解析対象とする空積み石垣に対して、石材間の摩擦角を計測できない場合には、他の空積み石垣を構成する石材間の摩擦角を計測するか、または同様な石材に対して既に実施された計測結果をデータベースから選択して用いる。
ここで、計測方法は、空積み石垣を構成する石材の背面から油圧ジャッキにより、一定速度で水平方向の力を加え、その際の水平変位量及び垂直変位量を変位計により計測し、載荷力も測定する。空積み石垣においては、油圧ジャッキにより載荷を開始すると、荷重は急激に上昇して最初のピークに達し、一旦、石材が動き始めると、荷重は一定範囲で変動する。
以上の計測により、算出式(1)τ=c+σtanφから石材間の摩擦角が算出できる。
φ:石材間の摩擦角(ピーク)
τ:せん断応力(載荷荷重の最初のピーク値を石材の接地面積で除したもの;kN/m2)
σ:垂直応力(石材の自重を石材の接地面積で除したもの;kN/m2)
c:粘着力(石材同士では0;kN/m2)
なお、現存する城郭の空積み石垣であって、石材が、いわゆる「打ち込み接ぎ」のものに対して計測したところ、石材間の摩擦角φは、30°〜50°程度であった。打ち込み接ぎ以外の石材、すなわち、野面石や切込み接ぎの石材に対しても、同様な方法で計測すれば、石材間の摩擦角φを求めることができる。
前記石材間の摩擦角の計測方法では、空積み石垣を構成する石材の背面から油圧ジャッキにより載荷するものであるため、大掛かりである。また解析対象には城郭の空積み石垣のように文化財的に価値の高いものもあり、油圧ジャッキによる載荷が許されないこともある。このような場合には、下記のような推定式(2)により、石材間の摩擦角を算出することができる。これは、ISRM(International Society of Rock Mechanics;国際岩の力学会)の指針に示されたものであり、不連続面の粗さから岩石の内部摩擦力を求めるせん断強度の推定式である。推定式により求めた石材間の摩擦角はデータベースに蓄積する。
推定式(2) φp=JRC×log10(JCS/σ’n)+φr
φp:内部摩擦角(ピーク)、石材間の摩擦角に相当
JRC:節理面の粗さ係数
JCS:節理面の圧縮強度
σ’n:有効鉛直応力
φr:内部摩擦角(残留)
推定式(2)における節理面の粗さ係数JRCは、解析対象の石材の所定断面について石材表面の粗さ形状を求め、これをISRM指針の図表に照らし合わせて求めるものである。
現存する城郭の空積み石垣であって、打ち込み接ぎの石材に対して実施した例を説明すれば、コニカミノルタセンシング株式会社製の非接触3次元デジタイザVIVID910を使用し、図5に示したような解析対象の石材の三次元形状を取り込んだ。この三次元形状の所定のA−A断面について、図6に示したような石材表面の粗さ形状を求めた。そして、この図6の石材表面の粗さ形状を、図7のISRM指針に示されているJRC値に対応する典型的な粗さ形状より、石材表面は第4区分、JRC値=6〜8:「粗く〜滑らかで、平坦」に属するものと判断し、JRC値を6〜8の中間値の7とした。
打ち込み接ぎの石材以外の石材、すなわち、野面石や、切込み接ぎの石材に対しても、同様な方法で計測すれば、推定式(2)における節理面の粗さ係数JRC値を求めることができる。
ここで、図7は、「岩の力学会:日本語訳ISRM指針vol.3岩盤不連続面の定量的記載方法、P31−51、1985.11」に記載されたものである。
節理面の圧縮強度JCSは、解析対象の石材に対しての所定シュミットロックハンマー試験を実施し、反発度から換算すれば求めることができる。
また有効鉛直応力σ’nは、石垣高さに比例するものと仮定できるので、石材の単位体積重量に石垣高さを乗じて求めることができる。
さらに、残留内部摩擦角φrは、ISRMの指針によれば、25〜35°と分布範囲が狭いことから平均値として30°を用いることとしている。
解析対象である打ち込み接ぎの石材において、節理面の粗さ係数JRCは7、節理面の圧縮強度JCSは7,880kN/m2が得られた。また有効鉛直応力は実際に行った実験の載荷荷重から10〜20kN/m2と仮定し、残留内部摩擦角φrは上述のISRM指針により30°と仮定した。これらの数値により、推定式(2)から得られたφp内部摩擦角(ピーク)は、52.9〜55.0°であった。ここでφpは石材間の摩擦角に相当する。
以上のように、節理面の粗さ係数JRCと、節理面の圧縮強度JCSとを計測して求め、有効鉛直応力と残留内部摩擦角とは上述の方法により仮定すれば、石材の種類(打ち込み接ぎの石材、野面石、切込み接ぎの石材)にかかわらず、推定式(2)から石材間の摩擦角(ピーク)φpを求めることができる。
[石材の解析パラメータ]
複数の石材11の解析モデルは、図2の単純化した断面図により得られた各石材11の推定断面形状に近似するように、大小多数の要素を剛結させて形成する。図2における石材11A,11Bについて、大小多数の要素を剛結させた解析モデルを図8に例示した。石材間の要素間摩擦係数は、算出式(1)又は推定式(2)により石材間の摩擦角を求める。図1及び図2の解析対象において、類似の石材における実験結果より算出式(1)を用いて求めた石材間の摩擦角は約35°であり、これから図3を用いて算出した要素間摩擦係数は2.0である。また石材間は粘着力0kN/m2であるため、石材間の要素間付着力は0kNとする。なお、要素間摩擦係数を決めるに際し、石材間の摩擦角は、推定式(2)から求めても良い。
[背面部の解析パラメータ]
背面部12(裏栗石12)を構成する要素の粒径は、それぞれ10〜20cm程度に設定する。これは、実際の栗石の実測値により求めることができる。裏栗石12a及び飼石12bの要素間摩擦係数は1.0に設定する。これは、栗石の安息角を測定することや、同等の粒径の礫の安息角を参考に求めたものである。裏栗石12a及び飼石12bは粘着力が0であるため、要素間付着力は0とする。
[背面地盤の解析パラメータ]
背面地盤13の段丘堆積物Dg及び洪積層Dsは、これを構成する要素の粒径をそれぞれ3〜7.5cm程度に設定する。これは、それぞれの実際の地盤を構成する要素の寸法を示しているものではなく、一定の範囲でばらつきをもった要素の集合体として地盤を表現したものである。こうすることにより、解析領域の要素数を解析可能な範囲内に収めることができる。また段丘堆積物Dg及び洪積層Dsの要素間摩擦係数は1.0に設定する。これは、ボーリングデータのN値より地盤の内部摩擦角(φ)を推定し、図3より求めたものである。さらに、段丘堆積物Dgの要素間付着力は10kNに設定し、洪積層Dsの要素間付着力は1kNに設定した。これは、ボーリングデータのN値と土の種類をもとに経験的に決定した粘着力から図4を用いて定めたものである。
なお、背面地盤の解析パラメータを設定する際に、ボーリング調査によって得られたコアを用いた土質試験や孔内試験によって地盤の内部摩擦角(φ)と粘着力(c)を直接求めることができる。
以上のように設定した解析パラメータの一例を図9に示した。図9の解析パラメータにより、コンピュータの仮想空間上に各要素を発生させ、背面地盤を含む空積み石垣構造体の解析モデルを構築する。
最初に、実測工程により得られた図1及び図2における背面地盤13(段丘堆積物Dg及び洪積層Ds)の形状を参照して、所定領域を境界にて規定し、この領域内に図9の解析パラメータにより3〜7.5cmの粒径の要素を発生させて、要素の自重による落下で締め固めを行う。締め固められた要素の不要な部分を取り除き、図1及び図2の背面地盤の推定断面形状に近似するように、背面地盤13の解析モデルを整形する。
次に、実測工程により得られた図1及び図2における背面部12(裏栗石12)の形状を参照し、所定領域を境界にて規定し、図9の解析パラメータにより背面部12を構成する所定粒径の要素を領域内に発生させ、要素の自重による落下で締め固めを行う。背面部12を構成する要素は、背面地盤13を構成する要素よりも大きな粒径を有する。締め固められた要素の不要な部分を取り除き、図1及び図2の背面地盤の推定断面形状に近似するように、背面部12の解析モデルを整形する。
背面部12の解析モデルを形成したら、別途、大小多数の要素を剛結させて予め形成した、例えば、図8に示したような石材の解析モデルを一つずつ背面部12上の所定位置に配置して積み上げて解析モデルを形成する。大小多数の要素からなる石材11の解析モデルは、変形も破壊もせず、剛体として変位するものである。この段階では、石材11の解析モデルの前面に変形防止のための境界を設け、前面への変形を許さない状態で石材11、背面部12及び背面地盤13の解析モデルをそれぞれの自重により馴染ませる。
以上のようにして空積み石垣構造体の解析モデルを構築したら、変形防止のために設けられた境界を取り除き、地震時の石垣構造体の安定性を評価するために、所定強度及び所定数の地震波を入力して個別要素法により解析を実施する。
例えば、図10は、石材11、背面部12及び背面地盤13の解析モデルが十分に馴染んだ状態を示したものであり、このとき、石材11の解析モデルの前面には変形防止のための境界が設けられている。前面の境界を取り去ると、図11に示したように、解析モデルには自重による静的変形が生じる。静的変形とは、解析対象の石垣の施工直後は安定状況にあったものと仮定し、その後、背面地盤13や背面部12(裏栗石)の圧密沈下や石材11の緩みなどが落ち着いた段階の変形状況を表現したものを静的な状態での変形であると解釈したものである。図11の静的変形した解析モデルでは、全体的に背面に変位しているが、石材11の表面は大きく変位していない。解析対象の石垣では、外見上はほとんど孕み出しが見られず、ほぼ直線的な勾配を呈していることから、本発明の解析方法により、静的変形を解析した図11の結果は現状にほぼ一致しているものと考えられる。
図12は地震波10波を入力した結果を示し、図13は地震波20波を入力した結果を示すものである。この解析では、積み上げられた石材11の下部の地盤変形を拘束しているが、これは地震動により背面地盤を構成する要素が対象領域外へと移動してしまい、背面地盤が全体として緩くなってしまう現象を抑制するためである。実際の現地状況も石垣下部の地盤はかなり良く締まっており、これを解析モデルにも適用した。
地震動10波を入力した図12では、全体に変状が発生し、積み上げられた複数の石材11の上方部分と下方部分で孕み出しが発生している。また地震動20波を入力した段階では、石垣が大きく変形し、ほぼ崩壊に近い状況になった。
本発明では、以上のようにして、解析モデルの静的変形や、地震波動の入力時の解析モデルの変形状態を求めることにより、空積み石垣の安定性を数値評価するものである。
11 石材(築石)
12 背面部(裏栗石)
13 背面地盤
Claims (3)
- 表面に積み上げられた複数の石材と、当該石材の裏側の地盤との間に形成された背面部と、背面地盤とを含む空積み石垣構造体の挙動を解析する方法であって、
解析対象とする空積み石垣の所定断面において、光波測量、レーザー測量、写真測量のうち少なくとも一つの手法と、レーダー探査の手法とによるデータを用いて前記石材、前記背面部及び背面地盤の断面形状を推定すると共に、ボーリング調査による背面地盤の地質データを得る実測工程と、
前記実測工程により得られた前記背面地盤の推定断面形状に近似するように、複数の要素からなる地盤モデルを所定領域に形成する背面地盤モデル形成工程と、
前記実測工程により得られた前記背面部の推定断面形状に近似するように、前記地盤モデル上の所定領域に複数の要素からなる背面部モデルを形成する背面部モデル形成工程と、
前記実測工程により得られた前記石材のそれぞれの推定断面形状に近似するように、大小多数の要素を剛結させて各石材モデルを形成し、当該石材モデルのそれぞれを、前記背面部モデル上の所定位置に配置する石材モデル形成工程と、
前記背面地盤モデル形成工程、前記背面部モデル形成工程及び前記石材モデル形成工程により形成された空積み石垣構造体を構成するそれぞれの要素の挙動を個別要素法により解析する工程とを含むことを特徴とする空積み石垣の安定性解析方法。 - 前記複数の石材、または他の空積み石垣を構成する石材のうち少なくとも一方の石材間の摩擦角を計測し、当該計測した内部摩擦角をデータベースに蓄積する工程と、
所定寸法のモデル地盤を複数の要素で構築し、当該モデル地盤に対して個別要素法により二軸圧縮シミュレーションを行い、要素間付着力と粘着力の関係式、及び要素間摩擦係数と内部摩擦角の関係式を予め求める工程と、
前記データベースから求めた石材間の摩擦角、及び、前記実測工程により求めた背面地盤の地質データを前記関係式にそれぞれ適用することにより要素間摩擦係数及び要素間付着力を算出する工程とを含み、
これら算出した要素間摩擦係数及び要素間付着力をパラメータとして設定し、空積み石垣構造体を構成するそれぞれの要素の挙動を個別要素法により解析する工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の空積み石垣の安定性解析方法。 - 前記複数の石材における接触面の粗さ及び石材の圧縮強度を計測し、当該計測した値を用いて、接触面の粗さ、圧縮強度、残留内部摩擦角及び有効鉛直応力をパラメータとする推定式により前記石材間の摩擦角を算出する工程と、
所定寸法のモデル地盤を複数の要素で構築し、当該モデル地盤に対して個別要素法により二軸圧縮シミュレーションを行い、要素間付着力と粘着力の関係式、及び要素間摩擦係数と内部摩擦角の関係式を予め求める工程と、
当該算出した石材間の摩擦角と、前記実測工程により求めた背面地盤の地質データとを、前記関係式にそれぞれ適用することにより要素間摩擦係数及び要素間付着力を算出する工程とを含み、
これら算出した要素間摩擦係数及び要素間付着力をパラメータとして設定し、空積み石垣構造体を構成するそれぞれの要素の挙動を個別要素法により解析する工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の空積み石垣の安定性解析方法。
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