JP5120942B2 - 反応速度差を利用する燃料油の酸化脱硫方法及びそのための装置 - Google Patents
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Description
このうち酸化脱硫は、常温、常圧で反応が進むこと、水素化脱硫で除去が困難な4位又は6位にメチル基のついたアルキルジベンゾチオフェン類の除去が比較的容易なことから注目されている。酸化脱硫の方法としては、化学試薬を用いる方法、光反応を利用する方法、微生物を利用する方法が研究されている。一般に、酸化脱硫では、化学試薬や光反応を利用して硫黄化合物を酸化した後、水或いは極性有機溶媒へ抽出するか、活性炭やモレキュラーシーブなどの吸着剤に吸着させて除去することが行われている。また、酸化脱硫を水素化脱硫と競合する技術ではなく相補的な技術として捉え、水素化脱硫で一定程度精製したものを更に酸化脱硫で超深度脱硫を行う方法も考えられていれる。
微生物を利用する方法は省エネの観点から望ましいが、脱硫の程度が低く、現時点で超深度脱硫を行うことは技術的に困難である。
しかし、光酸化は燃料油中に含まれる芳香族炭化水素によってクエンチングされることが多く、ヘキサンやテトラデカンのような飽和炭化水素溶媒中では成功しても、実際の燃料油中では効率が低下するのが一般的であった。この欠点を解決する方法としては、光酸化と抽出の順番を逆転して、硫黄化合物を極性溶媒に抽出した後、光酸化を行う方法も提案されている(非特許文献7、12)。しかしながら、これまで知られている光酸化脱硫方法ではほとんどの場合、高圧水銀ランプやXe−Hgランプから発せられる280nmより長波長の光を利用しているため酸化反応の効率が低く、高出力のランプを必要とし、エネルギーコストが高くついていた。さらに、これまでの光酸化方法では、難反応性の硫黄化合物であるベンゾチオフェンやジベンゾチオフェン、及びこれらがアルキル化されたアルキルベンゾチオフェンやアルキルジベンゾチオフェンをスルフォキシドやスルフォンにまで酸化することが行われてきたため、多大なエネルギーを必要とした(特許文献6、7、非特許文献5〜12)。なお、光化学の基礎研究において、脂肪族のジスルフィドやスルフィド、チオール化合物の光解裂や光酸化メカニズムの解明が行われており、これらの基礎研究においては280nmより短波長の光が用いられているが(非特許文献13、14)、脱硫への応用は想定されていない。また、TiO2光触媒を用いる脱硫方法の対照実験として、低圧水銀ランプの254nmの光を用いる光酸化法が報告されているが(非特許文献11)、テトラデカン中のジベンゾチオフェンをスルフォンに酸化するための検討が行われているだけで、他の硫黄化合物や、実際の燃料油に対して検討されたものではない。また、特許文献8では、軽質油中のスルフィドやチオール化合物を365nm(高圧水銀ランプ)や254nm(低圧水銀ランプ)の光を照射して酸化する方法が記述されているが、反応速度差に関する考察はまったくなされていない。また、実施例としても365nmの例が示されているだけで、本特許で有用性が示された254nmを用いる例は示されていない。
一般に、吸着は吸着メカニズムに応じて2つに分類される。すなわち、物理吸着と化学反応を伴う吸着である。物理吸着は、吸着剤の表面に硫黄化合物が物理的に吸着するもので、ゼオライトやゼオライトの金属イオンを他の金属で置換したゼオライト(非特許文献16、17)、活性炭に金属イオンを担持させたもの(非特許文献18)、シリカゲル(非特許文献19)、モレキュラーシーブ13X(非特許文献19)、活性アルミナ(非特許文献20)、活性炭や活性炭素繊維(非特許文献21)などが使用されている。化学反応を伴う吸着脱硫としては、IRVAD、S−Zorbプロセスが知られているが、反応温度として各々240℃(IRVAD)や340〜410℃(S−Zorb)が報告されており、エネルギー効率的には常温での物理吸着が望ましい。これらの方法では、通常、燃料油に含まれる硫黄化合物を酸化することなく、直接、吸着して除去することが行われているが、酸化脱硫後の硫黄酸化物を吸着分離する方法としても、ベンゾチオフェン−1,1−ジオキシドをシリカゲル又は活性炭埋蔵シリカゲル、もしくはモレキュラーシーブで吸着除去する試みがなされている(非特許文献19)。
これまでの光酸化脱硫方法では、非特許文献11及び特許文献8に記述された方法を除いて、高圧水銀ランプやXe−Hgランプから発せられる280nmより長波長の光を利用していたため酸化反応の効率が低く、高出力のランプを必要とし、エネルギーコストが高くついていた。さらに重要なことは、これまでの光酸化脱硫方法ではいずれの場合も、難反応性硫黄化合物であるチオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、及びこれらがアルキル化されたアルキルチオフェン、アルキルベンゾチオフェン、アルキルジベンゾチオフェンなどを、スルフォキシドやスルフォン、或いは硫酸イオンにまで、強力に酸化することを行っていたため、多大なエネルギーを必要とした。
[1] 燃料油から硫黄化合物を除去する脱硫方法であって、
分子状酸素の存在下、280nmより短波長の光を燃料油に一定時間照射して光酸化反応を起こさせた後の燃料油中の各硫黄化合物の濃度の減少率を光酸化反応速度として、
燃料油中に存在する難反応性硫黄化合物である、チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、及びこれらがアルキル化されたアルキルチオフェン、アルキルベンゾチオフェン、アルキルジベンゾチオフェンのいずれかに比べて10倍以上の光酸化反応速度をもつ易反応性硫黄化合物がほぼ100%反応する時間、前記光を照射することによって、該易反応性硫黄化合物を酸素と反応させ、その後、該反応により生成した反応生成物と、燃料油中に残存する前記易反応性硫黄化合物以外の硫黄化合物を、吸着剤に吸着させることを特徴とする脱硫方法。
[2]前記易反応性硫黄化合物が、前記難反応性化合物に比べて100倍以上の光酸化反応速度をもつことを特徴とする[1]の脱硫方法。
[3]前記280nmより短波長の光の光源として、低圧水銀ランプを用いることを特徴とする[1]又は[2]の脱硫方法。
[4]前記吸着剤が、モレキュラーシーブ、ゼオライト、シリカゲル、活性アルミナ、フロリジル、活性炭、活性炭素繊維、及びカーボンナノチューブから選ばれる少なくとも1つである[1]〜[3]のいずれかの脱硫方法。
[5]前記燃料油が、天然ガス液体、ナフサ、ガソリン、LPG、灯油、軽油、ジェット燃料、重油、シェールオイル、オイルサンド油、石炭液化油、GTL、廃プラスチック油、バイオフューエル、及びこれらを脱硫して得られた精製物から選ばれる少なくとも1つである[1]〜[4]のいずれかの脱硫方法。
[6]光反応管内蔵型光反応器と、該光反応管内蔵型光反応器の後段に設置された、吸着剤を保持したカラムからなる吸着除去器とを有する[1]〜[5]のいずれかの脱硫方法に用いる脱硫装置であって、前記光反応管内蔵型光反応器が、280nmより短波長の光を照射するランプと、該ランプ内を貫通するように設置され、前記燃料油を導入且つ排出できる光反応管とからなり、該光反応管内の燃料油に前記ランプの光を照射可能にしたものであるとともに、前記光反応管内に酸素透過性の交換用光反応管を挿脱可能に装着し、上記光反応管と上記交換用光反応管の間に酸素又は酸素を含む混合ガスを、送風機により、或いは前記ランプの熱による対流を利用して、流通させるようにしたものであることを特徴とする脱硫装置。
[7]前記ランプの外側の表面に反射材を施したことを特徴とする[6]の脱硫装置。
[8]二重管型光反応器と、該二重管型光反応器の後段に設置された、吸着剤を保持したカラムからなる吸着除去器とを有する[1]〜[5]のいずれかの脱硫方法に用いる脱硫装置であって、該二重管型反応器が、燃料油を導入且つ排出できる二重管型光反応管と、該二重管型光反応管中心部を貫通するように設置された280nmより短波長の光を照射するランプとからなり、前記二重管型光反応管内の燃料油に前記ランプの光を照射可能とするようにしたものであるとともに、前記二重管型光反応管内に酸素透過性の管を挿脱可能に装着し、該酸素透過性の管を介して、酸素又は酸素を含む混合ガスを、送風機により、又は該ランプの熱による対流を利用して、流通させるようにしたものであることを特徴とする脱硫装置。
[9]前記二重管型光反応管の外側の管の外表面又は内表面に反射材を施したことを特徴とする[8]の脱硫装置。
(1)従来の光酸化(又はオゾン酸化)脱硫方法では、燃料油中に存在する硫黄化合物のうち、チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、及びこれらがアルキル化されたアルキルチフェン、アルキルベンゾチオフェン、アルキルジベンゾチオフェンなどの難反応性硫黄化合物をスルフォキシドやスルフォン或いは硫酸イオンにまで酸化することが行われてきたため、多大な電気エネルギーを必要としたが、本発明では、上記の難反応性硫黄化合物が殆ど反応しない穏やかな反応条件下又は短い反応時間内に、易反応性硫黄化合物を酸素(又はオゾン)と反応させた後、当該反応生成物と難反応性硫黄化合物を吸着剤によって燃料油から除去するため、光照射(又はオゾン生成)に必要な電力エネルギーを大幅に低下できる。
(2)280nmより短波長の光によって酸化反応が効率的に進むため、ランプ出力が低くてもよい。このため、電力エネルギー大幅に低下できる。また、反応時間も短くてよい。
(3)空気中の酸素を酸化剤として利用できるため、危険・有害な試薬はまったく必要としない。
(4)光酸化(又はオゾン酸化)反応及び吸着除去とも、常温、常圧で進行させることができるため、脱硫装置の維持管理が容易であり、装置部材の消耗が少ない。低圧水銀ランプの寿命は16000時間を越えており、交換頻度が少なくてすむ。
(5)吸着剤としては、活性炭、ゼオライト、モレキュラーシーブ、シリカゲル、活性アルミナなどの市販汎用品を使用できるため、実用性が高い。
(6)従来の光酸化脱硫法は、芳香族炭化水素によるクエンチング現象のため、ヘキサンやテトラデカンのような飽和炭化水素溶媒では有効であっても、実際の燃料油中では効率が低下するのが一般的であったが、本発明は、芳香族炭化水素を多量に含む実際の燃料油に対しても有効である。
(7)光酸化(又はオゾン酸化)反応器及び吸着除去器とも小型化、カートリッジ化することが可能であり、オンサイト型、車載型として使用することができる。
(8)穏やかな反応条件下又は短い反応時間内に光反応を終了するため、燃料油の有用成分である炭化水素の酸化を殆ど引き起こさない。
(9)水素化脱硫の後処理工程に組み込むことにより、水素化脱硫の余熱を利用して、高速で光酸化(又はオゾン酸化)反応及び吸着除去を行うことができる。また、水素化脱硫の還元条件と、本発明の光酸化(又はオゾン酸化)条件を併用することによって、広範な種類の硫黄化合物を効率的に脱硫できる。
(10)燃料電池システムにおける水蒸気改質装置の前段に使用するための脱硫装置を提供できる。
本発明において「燃料油」とは、天然ガス液体、ナフサ、ガソリン、LPG、灯油、軽油、ジェット燃料、重油、シェールオイル、オイルサンド油、石炭液化油、GTL、廃プラスチック油、バイオフューエル、及び、これらを既存の脱硫方法、例えば水素化脱硫などによって精製したもの、及びその混合物を指す。
一方、本発明における「易反応性硫黄化合物」とは、チオール類、スルフィド類、ジスルフィド類の他、本発明で記載する光酸化(又はオゾン酸化)反応条件における反応速度が、上記の難反応性硫黄化合物に比べて10倍以上、好ましくは100倍以上大きいものをいう。なお、「難反応性硫黄化合物」と「易反応性硫黄化合物」の反応速度は、この後に記載する実施例1〜3に示す実験から簡便に求めることができる。
また、本発明においては、吸着剤を、燃料油に混合した状態で、前述の光照射を行うか、或いは、オゾンと反応させてもよい。
交換用光反応管の内側では光酸化反応により酸素が消費されるため酸素分圧が低下する。従って、交換用光反応管の外側に酸素又は酸素を含む混合ガス(空気など)を流しておけば、外側から内側に向かって、内外の酸素分圧の差に応じて、酸素が供給されることとなる。交換用光反応管の外側に酸素又は酸素を含む混合ガスを流す方法としては、高圧の酸素ボンベから供給する方法、送風機で空気を送る方法がある。また、空気の取り入れ口を下部に、排出口を上部に設けておき、ランプから発せられる熱による空気の対流を利用して空気を流通させる方法もある。この方法はランプのほかに部品が不要であり、省エネルギーの観点からも優れている。
前記ランプの外側の表面に施す反射材としては、アルミニウムなどが上げられるが、これに限定されるものではなく280nmより短波長の光の反射率がよいものであれば用いることができる。施す方法としては、箔で被覆する、鍍金、蒸着等の公知の方法を用いることができる。
本発明の装置における光反応管内蔵型光反応器は、前記ランプから発せられた光が交換用光反応管に集光されるため光の利用効率が高く、且つ、酸化反応に必要な酸素ガスをバブリングすることなく供給できるため、流通式の脱硫装置として、オンサイト脱硫や車載型脱硫装置に適した構造となっている。なお、光反応器の後段に設置される吸着剤カラムは公知のものであれば、特段の制限なく用いることができる。
該内管の材質としては、石英ガラスがあげられるが、これに限定されず280nmより短波長の光の透過率がよいものであれば用いることができる。また、該外管の材質は石英ガラスのほか、ステンレス鋼、アルミニウムなど光を透過させないものも使用可能である。光を透過させない材料を用いた場合は、280nmより短波長の光の反射率が高い材質であることが望ましい。また、外管に石英ガラスを用いた場合は、外管の外表面又は内表面を箔で被覆する、鍍金、蒸着するなどして、光の反射効率を上げることが反応速度を上げるうえで有効である。
二重管型光反応管内に装着する酸素透過性管としては、多孔質シリカガラス、テフロン(登録商標)AFチューブ(DuPont社:登録商標)などがあげられるが、これに限定されるものではなく、耐油性、耐光性に優れたものであれば、公知のものを特段の制限なく用いることができる。この酸素透過性管を用いる方法は、酸素又は酸素を含む混合ガスをバブリングする方法に比べて、燃料油の管軸方向の乱れが少ないため燃料油がプラグフローとなり、反応器に導入された燃料油の反応器内での滞在時間を一定にするという特徴がある。
また、これらの光反応器においては、燃料油の層の厚さ(光路長)を薄くすることが、光反応効率を上げるうえで重要である。すなわち、燃料油自体が280nmより短波長の光を吸収するため、反射材がない場合は、照射される光量はランプ表面からの距離に応じて指数関数的に減衰する。このため層が厚いとランプ表面から遠くにある液体には僅かしか光が照射されない。従って、燃料油の全領域に渡って十分な光量を確保するためには、層の厚さを薄くすることに配慮すべきである。なお、適切な厚さはランプ出力、光反応管内での滞留時間、易反応性硫黄化合物の反応速度などによって異なる。また、二重管型光反応管の内管又は外管に攪拌板を設置して、管の直径方向の混合をよくすることで、燃料油の全領域で均一な反応速度を得ることが可能となる。
低圧水銀ランプを用いる灯油中硫黄化合物の光酸化反応
図1に示すように、パイレックス(登録商標)ガラス製の試験管に10gの灯油を入れ、ここに出力5Wの低圧水銀ランプ(オゾンレスタイプ、ランプ本体のガラスは200nmより短波長の光を透過させない石英を使用)を浸け、酸素ガスを流量5ml/minでバブリングしながら反応させた。反応溶液の温度は約25℃である。一定時間反応させた後、灯油の一部(約0.2ml)を採取し、ガスクロマトグラフ/誘導結合プラズマ質量分析法(以下ではGC/ICP−MS法と略す)で、灯油に含まれる硫黄化合物を定量した。このときのGCの分離条件を表1に示す。また、本分析法では硫黄化合物のほか、炭素化合物も測定し、光酸化反応中に主成分である炭化水素類の変化も観察した。その結果、炭化水素組成には変化がないことが確認された(実施例9を参照)。
本実施例で得られた硫黄のクロマトグラムを図2に示す。ここで、(A)は光酸化前の灯油であり、各ピークは分子構造の異なる硫黄化合物に対応している。aと記されたピークは化学構造は不明であるが、易反応性硫黄化合物の一種である。一方、fと記されたピークは4,6−ジメチルジベンゾチオフェンであり、難反応性硫黄化合物の一種である。(B)は30分間反応後の灯油であり、(A)でaと記された化合物、及びGCの保持時間1200秒〜1800秒(下記の表1に示す条件での保持時間)の間に出現する多数の硫黄化合物(これらも易反応性硫黄化合物の一種)のピークはほぼ消滅し、変わって、b、c及びeと記された反応生成物のピークが出現していることが認められる。このときfと記された4,6−ジメチルジベンゾチオフェンは殆ど反応していないことが分かる。(C)は5時間反応後の灯油であり、(B)でb、c及びeと記された反応生成物がさらに反応して、これらのピークが小さくなる一方、dと記された別の反応生成物へと変化していることが分かる。このときfのピークもわずかではあるが小さくなっており、わずかに反応していることが分かる。なお、本実施例では、酸素ガスをバブリングしたが、酸素ガスの代わりに空気をバブリングしても等しい酸化反応速度が得られた。さらに、酸素又は空気をバブリングすることなく、燃料油を空気にさらした状態で自然に空気中から燃料油に溶け込む酸素の量だけでも、ほぼ等しい反応速度が得られることが確認された。
低圧水銀ランプから発せられる光の波長の影響、及び酸素の有無の影響の検討
硫黄化合物の光酸化反応に対する、波長の影響を検討するため、2種類の低圧水銀ランプとガラス管、吸収液の組み合わせによって4種類の波長領域の光を発生させた。すなわち、i)ランプが合成石英製で185nm、254nm他、図3(A)及び図3(B)の再上段に示すような、多数の発光線を出すもの(浜松ホトニクス製L937−02)、ii)ランプが200nmより短波長の光を吸収する石英ガラス製で、上記i)の185nm以外の光を発するもの(浜松ホトニクス製L937−04)、iii)約280nmより短波長の光を吸収するパイレックス(登録商標)ガラス製チューブに上記ii)のランプを納めたもの、iv)上記のパイレックス(登録商標)ガラス製チューブに約400nmより短波長の光を吸収する5%NaNO2水溶液を入れ、ここに上記ii)のランプを入れたものを使用した。なお、図3(A)は、低圧水銀ランプの主な発光線を示す図であり、図3(B)は、浜松ホトニクスの低圧水銀ランプL937−02及びL937−04の製品カタログより抜粋したものであり、上から順に、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、及び超高圧水銀ランプの主な発光スペクトルを示す図である。
これら4種類の波長領域の光を照射しつつ光酸化を行ったときの、反応経過を図4に示す。図中、●、△、□及び◇は、それぞれ図2における、a、b、d及びfを示している。
図4の(A)は上記i)のランプを、(B)はii)のランプを用いた場合であり、ほぼ同じ反応速度が得られていることから、185nmの光が特段重要な働きをしていないことが分かる。一方、(C)は上記のiii)のランプを用いた場合であり、約280nmより短波長の光をカットすると反応速度が急激に小さくなることが分かる。さらに、(D)はiv)のランプを用いた場合であり、約400nmより短波長の光をカットすると反応が殆ど進まないことが分かる。なお、(A)〜(D)の条件における、185nmと254nmの波長における光エネルギーの量を表2に示す。
難反応性硫黄化合物の光酸化反応速度の検討
トルエンとイソオクタンを1:4の割合で混合した混合溶媒、又は灯油中に、ベンゾチオフェン(BT)、2−メチルベンゾチオフェン(2−MBT)、3,5−ジメチルベンゾチオフェン(3,5−DMBT)、ジベンゾチオフェン(DBT)、及びジフェニルスルフィド(DPhS)を添加して、実施例2の(B)の条件[ランプii)を使用して、酸素をバブリング]で反応させた。上記化合物のうち、最初の4種類の硫黄化合物は、難反応性硫黄化合物に分類されるものである。一方、DPhSは、本実験結果から、易反応性硫黄化合物に分類されるものであるということが分かった。図5に灯油中での反応経過を示す。図中、□はBT、■は2−MBT、○は3,5−DMBT、▲はDPhS、●はDBTを示している。なお、混合溶媒中でも反応速度は灯油中とほとんど同じであった。
光酸化反応速度に及ぼす温度の影響
灯油中に、チオフェン(T)、ベンゾチオフェン(BT)、ジベンゾチオフェン(DBT)、テトラヒドロチオフェン(tetraHT)、ジエチルジスルフィド(DEtDS)、1−オクタンチオール(1−OcSH)、ジフェニルスルフィド(DPhS)を添加して、実施例2の(B)の条件[ランプii)を使用して、酸素をバブリング]で反応させた。上記化合物のうち、最初の3種類の硫黄化合物は、難反応性硫黄化合物に分類されるものである。一方、tetraHT以降の4種類の硫黄化合物は本実験結果から、易反応性硫黄化合物に分類されるものであるということが分かった。灯油の温度を70℃に加熱して、一定時間反応させた後、灯油の一部(約0.2ml)を採取し、GC/ICP−MS法で硫黄化合物を定量した。
反応温度だけが異なる図5の結果と比べると、DPhSが100%反応するのに要する時間は、25℃では約2.5時間、70℃では約0.5時間であった。同様に、図4(B)の結果と比べると、易反応性硫黄化合物aが100%反応するのに要する時間は、25℃では30分以内、70℃では10分以内であった。また、反応生成物bが100%反応するのに要する時間は、25℃では約10時間、70℃では約1時間であった。これらのことから、反応温度を25℃から70℃に上げると、反応速度が5〜10倍大きくなることが分かる。このことは、水素化脱硫のように反応溶液が高温となるような脱硫プロセスの後工程として本光酸化反応を組み込めば、反応溶液の余熱を利用した高速光酸化が可能なことを意味している。
ガソリン中硫黄化合物の光酸化反応の検討
市販のガソリンを実施例2の(B)の条件[ランプii)を使用して、酸素をバブリング]で反応させた。光酸化反応前後の硫黄のクロマトグラムの一部を図8に示す。該図から、チオフェン等の難反応性硫黄化合物は殆ど反応していないが、一部のピーク高さが減少しており、易反応性硫黄化合物が存在していることが分かる。
光酸化反応後の灯油中硫黄化合物の吸着特性のスクリーニング
光酸化反応処理後の燃料油中の硫黄化合物を除去する方法としては、溶媒抽出法が多数報告されているが、溶媒抽出法は硫黄化合物の最終処分プロセス、燃料として有用な炭化水素成分の回収プロセス等に労力と時間を要するため、本発明では吸着剤による吸着除去法を検討した。
まず最適な吸着剤を選定するため、スクリーニング試験を行った。これには20gの灯油(光酸化処理後)に吸着剤2gを加えて、一定時間反応させた後、灯油中に残存する硫黄化合物をGC/ICP−MS法で測定した。その結果を図9に示す。
光酸化反応後の灯油中硫黄化合物の吸着率に対する活性炭及びモレキュラーシーブ量の影響の検討
吸着剤の量が多いほど吸着率は向上することは当然であるが、吸着剤のコストを抑えるためには、できるだけ少ない量が望ましい。そのため、吸着率に対する、吸着剤/灯油(光酸化後)の比の影響を調べた結果を図11に示す。ここで(A)は吸着剤として活性炭を、(B)はモレキュラーシーブ1.0を用いた場合である。上記の比が約0.1で十分な吸着率が得られることが分かる。
光酸化反応後の灯油中硫黄化合物の吸着率に対する活性炭及びモレキュラーシーブ吸着時間の影響の検討
吸着時間が長いほど吸着率は向上することは当然であるが、生産性を上げるためには吸着時間はできるだけ短いほうが望ましい。そのため、吸着率に対する、吸着時間の影響を調べた。結果を図12に示す。ここで(A)は吸着剤として活性炭を、(B)はモレキュラーシーブ1.0を用いた場合である。吸着時間が約15時間で十分な吸着率が得られることが分かる。吸着時間を短くするためには、吸着剤の粒径を小さくする、吸着温度を上げる、超音波をかける、カラム方式を採用するなどといった公知の方法を採用することができる。
光酸化/吸着除去法による灯油の超深度脱硫
光酸化反応と吸着処理を併用して、灯油を脱硫したときに得られるクロマトグラムを図13に示す。ここで(A)は光酸化前の灯油であり、(B)は光酸化後の灯油、(C)は光酸化後、活性炭による吸着を行った後の灯油、(D)は光酸化、活性炭吸着後さらにモレキュラーシーブ1.0による吸着を行った灯油である。このとき得られた灯油の性状と組成を表3に示す。
化学試薬による酸化方法との比較
すでに(実施例2)において、本発明の光酸化反応速度がオゾンによる酸化反応速度に比べて大きいことを示したが、他の酸化剤に比べてどのような特徴があるかを検討した。
酸化剤としては、KMnO4、CuO、V2O5、ZrW2O8、CeO2、WO3、MnO2、H2O2を検討した。この試験では灯油1gに酸化剤0.1gを添加し、ボルテックスミキサーで緩やかに振とうしながら22時間反応させた。その結果、KMnO4、CuO、V2O5、MnO2、H2O2はまったく或いは殆ど反応しなかった。反応が見られたZrW2O8、CeO2、WO3のクロマトグラムを図14に示す。いずれの酸化剤でもaで記された化合物が22時間後も残存しており、本発明の光酸化及びオゾン酸化に比べれば反応速度がはるかに小さいことが分かる。また、これらの酸化試薬ではb又はcで記される化合物のピークが見られず、直接dで記される化合物のピークが出現することも、本発明の光酸化及びオゾン酸化とはメカニズムが異なっていることが示唆された。
光反応管内蔵型光酸化反応器と吸着除去器を用いる流通式脱硫装置
装置の概略図を図15に示す。ランプとしては各種のランプが使用できるが、ここでは低圧水銀ランプを用いた実施例を説明する。低圧水銀ランプは出力6Wのものを使用した。材質は石英ガラスを使用し、外表面をアルミ箔で覆い、光を中心部の光反応管に集光するとともに、有害な紫外線が外部に漏れないようにした。光反応管は石英ガラス製で長さ190mm、内径3mmである。また、酸素透過性交換用光反応管はテフロン(登録商標)AFチューブ(DuPont社:登録商標)の長さ250mm、内径1.0mmのものを使用した。吸着剤Aとして活性炭(粒径約2mm)を15g詰めたカラムと、吸着剤Bとしてモレキュラーシーブ1.0(粒径約2mmを15g詰めたカラムを連結した。コネクターはテフロン(登録商標)製で容易に光酸化反応器、吸着除去器を装脱着可能とした。光酸化反応器を垂直に配置し、上部の燃料油溜めから一定流量で落下させた。流量は流量調整用バルブにて制御した。ランプの熱は光反応管と酸素透過性交換用光反応管との間にある空気に伝わるため、自然対流が起こり、下部から上部に向かって空気が流れる。もちろん、送風機で空気を流してもよい。なお、ここに記したランプ、光反応管等の寸法、材質はこれらに限定されるものではない。
二重管型光反応管内に酸素透過性管を装着した光酸化反応器
装置の概略図を図16に示す。ランプとしては各種のランプが使用できるが、ここでは低圧水銀ランプを用いた実施例を説明する。低圧水銀ランプは出力40Wのものを使用した。材質は石英ガラスで、長さが300mm、管外径18mmである。光反応管外管は長さ250mm、内径40mm、光反応管内管は長さ250mm、内径20mmの石英ガラスを使用した。反射材としてアルミ箔を使用し、光反応管外管の表面を覆った。酸素透過性管はテフロン(登録商標)AFチューブ(DuPont社:登録商標)の長さ320mm、内径1.0mmのものを使用した。チューブホルダーはステンレス鋼製とした。低圧水銀ランプの熱は、上部のチューブホルダーに伝わりこの内部の空気を加熱するため、自然対流で空気は下部のチューブホルダーから上部のチューブホルダーに向かって流れる。もちろん、送風機で空気を流してもよい。なお、ここに記したランプ、光反応管等の寸法、材質はこれらに限定されるものではない。
Claims (9)
- 燃料油から硫黄化合物を除去する脱硫方法であって、
分子状酸素の存在下、280nmより短波長の光を燃料油に一定時間照射して光酸化反応を起こさせた後の燃料油中の各硫黄化合物の濃度の減少率を光酸化反応速度として、
燃料油中に存在する難反応性硫黄化合物である、チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、及びこれらがアルキル化されたアルキルチオフェン、アルキルベンゾチオフェン、アルキルジベンゾチオフェンのいずれかに比べて10倍以上の光酸化反応速度をもつ易反応性硫黄化合物がほぼ100%反応する時間、前記光を照射することによって、該易反応性硫黄化合物と酸素と反応させ、その後、該反応により生成した反応生成物と、燃料油中に残存する前記易反応性硫黄化合物以外の硫黄化合物を、吸着剤に吸着させることを特徴とする脱硫方法。 - 前記易反応性硫黄化合物が、前記難反応性化合物に比べて100倍以上の光酸化反応速度をもつことを特徴とする請求項1に記載の脱硫方法。
- 前記280nmより短波長の光の光源として、低圧水銀ランプを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の脱硫方法。
- 前記吸着剤が、モレキュラーシーブ、ゼオライト、シリカゲル、活性アルミナ、フロリジル、活性炭、活性炭素繊維、及びカーボンナノチューブから選ばれる少なくとも1つである請求項1〜3のいずれか1項に記載の脱硫方法。
- 前記燃料油が、天然ガス液体、ナフサ、ガソリン、LPG、灯油、軽油、ジェット燃料、重油、シェールオイル、オイルサンド油、石炭液化油、GTL、廃プラスチック油、バイオフューエル、及びこれらを脱硫して得られた精製物から選ばれる少なくとも1つである請求項1〜4のいずれか1項に記載の脱硫方法。
- 光反応管内蔵型光反応器と、該光反応管内蔵型光反応器の後段に設置された、吸着剤を保持したカラムからなる吸着除去器とを有する請求項1〜5のいずれか1項に記載された脱硫方法に用いる脱硫装置であって、前記光反応管内蔵型光反応器が、280nmより短波長の光を照射するランプと、該ランプ内を貫通するように設置され、前記燃料油を導入且つ排出できる光反応管とからなり、該光反応管内の燃料油に前記ランプの光を照射可能にしたものであるとともに、前記光反応管内に酸素透過性の交換用光反応管を挿脱可能に装着し、上記光反応管と上記交換用光反応管の間に酸素又は酸素を含む混合ガスを、送風機により、或いは前記ランプの熱による対流を利用して、流通させるようにしたものであることを特徴とする脱硫装置。
- 前記ランプの外側の表面に反射材を施したことを特徴とする請求項6に記載の脱硫装置。
- 二重管型光反応器と、該二重管型光反応器の後段に設置された、吸着剤を保持したカラムからなる吸着除去器とを有する請求項請求項1〜5のいずれか1項に記載された脱硫方法に用いる脱硫装置であって、該二重管型反応器が、燃料油を導入且つ排出できる二重管型光反応管と、該二重管型光反応管中心部を貫通するように設置された280nmより短波長の光を照射するランプとからなり、前記二重管型光反応管内の燃料油に前記ランプの光を照射可能とするようにしたものであるとともに、前記二重管型光反応管内に酸素透過性の管を挿脱可能に装着し、該酸素透過性の管を介して、酸素又は酸素を含む混合ガスを、送風機により、又は該ランプの熱による対流を利用して、流通させるようにしたものであることを特徴とする脱硫装置。
- 前記二重管型光反応管の外側の管の外表面又は内表面に反射材を施したことを特徴とする、請求項8に記載の脱硫装置。
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