JP5071940B2 - 抗真菌剤 - Google Patents
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Description
この問題を解決するために、安全性や選択性に優れ、副作用が少なく、且つ全く新しい機序に基づく新規な抗真菌剤が強く望まれていた。
荒田 次郎 西岡 清 滝川 雅浩著「標準皮膚科学」 Kawasaki T. Structure and biology of mannan-binding protein, MBP, an important component of innate immunity. (1999) Biochim Biophys Acta. 1473, 186-95. Cash HL, Whitham CV, Behrendt CL, Hooper LV. Symbiotic bacteria direct expression of an intestinal bactericidallectin. (2006) Science 313, 1126-30. Zhou YB, Cao JB, Yang HM, Zhu H, Xu ZG, Wang KS, Zhang X, Wang ZQ, Han ZG. (2007) Biochem Biophys Res Commun 355, 679-686 Bourne Y, Zamboni V, Barre A, Peumans WJ, Van Damme EJ, Rouge P. (1999)Helianthus tuberosus lectin reveals a widespread scaffold for mannose-binding lectins. Structure. 7, 1473-82. Meagher JL, Winter HC, Ezell P, Goldstein IJ, Stuckey JA. (2005)Crystal structure of banana lectin reveals a novel second sugar binding site. Glycobiology. 15, 1033-42. Bourne Y, Roig-Zamboni V, Barre A, Peumans WJ, Astoul CH, Van Damme EJ, Rouge P. (2004) The crystal structure of the Calystegia sepium agglutinin reveals a novel quaternary arrangement of lectin subunits with a beta-prism fold. J Biol Chem. 279, 527-33. Peumans WJ, Barre A, Hao Q, Rouge P, Van DammeEJM.(2000)Higher Plants Developed Structurally Different Motifs to Recognize Foreign Glycans. Trends in Glycoscience and Glycotechnology Vol.12,No.64 (2000) 83-101
発明者らは、これらヒト由来レクチンのうち、真菌表層に発現する糖鎖構造であるマンノースを特異的に認識するレクチンが存在していることから、これらレクチンのうちで、抗真菌活性を有するものがある可能性があると着想した。
本発明者らは、これらのレクチン候補遺伝子を網羅的にリコンビナント体として発現し、糖鎖アレイを用いたスクリーニング系でマンノースポリマーに結合するタンパク質を探索したところ、ヒトZymogen granule protein 16(ZG16)と呼ばれる分子がマンノース糖鎖に特異的な結合活性を有することを見出した。ZG16は従来、硫酸化グリコサミノグリカンに結合することによりチモーゲン顆粒の形成や糖タンパク質の輸送に関係していると考えられてきた分子である。
ZG16は、ヒトも含め哺乳類一般のみならず、魚類なども含め広く存在しているタンパク質であり、いずれもN末端側とC末端側の2箇所にはマンノースへの結合に関与する保存モチーフが存在する。本発明者らは、これらの保存モチーフが植物において多数同定されているマンノース特異性ジャッカリン関連レクチン(mJRLs)(非特許文献5)に特有の保存モチーフと共通していることに着目し、mJRLsの抗真菌活性を調べたところ、ZG16と同様に抗真菌活性を有することを確認した。これらの知見を得たことで、マンノース特異性レクチンを用いた抗真菌剤に係る本発明を完成させた。
本発明は人を含めた生物がもともと有する生体防御因子を抗真菌剤として利用するものであるために、真菌に対して選択的であり、糖鎖認識機能という従来とは全く異なる機序に基づく新規な抗真菌剤を提供するものである。
〔1〕 N末端領域にGly-X-(Tyr/Trp)-Gly-X-X-Gly-Glyモチーフを有し、C末端領域に(Leu/Ile/Val)-Asp-(Ser/Ala)-Ile-(Gly/Ser)モチーフを有するマンノース特異的レクチンであって、かつ抗真菌活性を有するレクチンを有効成分として含有することを特徴とする抗真菌剤。
〔2〕 前記レクチンが100〜200アミノ酸残基から構成されることを特徴とする、前記〔1〕に記載の抗真菌剤。
〔3〕 前記レクチンがβプリズム1構造を有していることを特徴とする、前記〔1〕又は〔2〕に記載の抗真菌剤。
〔4〕 前記レクチンがZG16(Zymogen granule protein 16)又はその部分ペプチドであることを特徴とする、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の抗真菌剤。
〔5〕 前記レクチンが、植物由来のmJRLs(マンノース特異性を有するジャッカリン関連レクチン)又はその部分ペプチドであることを特徴とする、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の抗真菌剤。
〔6〕 ヒトを含む動物の真菌類による感染症の予防又は治療に用いる、前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の抗真菌剤。
〔7〕 農園芸用抗カビ剤又は抗真菌剤として使用する前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の抗真菌剤。
〔8〕 食品、医薬品又は化粧品用の防カビ剤として使用する前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の抗真菌剤。
特に、ヒト由来のZG16の抗真菌活性はpH依存的であり、膣などの特に真菌が繁殖し易い弱酸性の生体内環境下において高い効果を発揮し、且つ人体組織には作用しないため、とりわけ深在性真菌症の治療における効果が期待できる。また、本タンパク質分子を家畜用の抗真菌剤として使用することで、人体に無害な安全性の高い食品を提供することができる。また、農作物や観賞用植物のための抗真菌剤、防カビ剤としても安全かつ効果的に用いることができる。
レクチンは全ての生物で発現するタンパク質であり、多くの植物においても多量に含有されるタンパク質であるにもかかわらず、従来は生化学実験の試薬としてのみ使用されることがほとんどで、医療や産業への有効利用が遅れていたが、本発明により治療薬として、また食品用や農園芸用の防カビ剤などとして幅広く利用可能となったことから、産業応用が一気に加速する効果が期待できる。また植物には多量のレクチンが含有されているため、資源の有効利用にも貢献するものである。
本発明における「抗真菌活性を有するマンノース特異的レクチン」とは、100〜200アミノ酸残基で構成されたマンノースに対して結合特異性を有するレクチンであり、いずれもN末端側には「Gly-X-(Tyr/Trp)-Gly-X-X-Gly-Gly」モチーフ、C末端側には「(Leu/Ile/Val)-Asp-(Ser/Ala)-Ile-(Gly/Ser)」モチーフと呼ばれるアミノ酸配列が高度に保存されている領域を有している。そして、これらの保存モチーフは、植物において多数同定されている「ジャッカリン関連レクチン(JRLs)」の2つのサブグループのうち、マンノースに結合特異性を示す「mJRLs」も有している。「ジャッカリン関連レクチン(JRLs)」とは、ジャカリン(jack fruitの種子由来ガラクトース特異的レクチン)と構造的、進化的に近縁の全てのレクチンからなるファミリーであり、ガラクトースに特異性を示す「gJRLs」とマンノースに結合特異性を示す「mJRLs」の2つのサブグループに分類される(非特許文献5、6、7)が、本発明の抗真菌剤には、真菌表層を高濃度に覆うマンノースに対して結合性を示す「mJRLs」が有効成分として利用される。「ジャッカリン関連レクチン(JRLs)」は、X線解析によれば、3つの4本鎖のβシートからなる3回軸対称の「βプリズム1構造」という特有の3次元立体構造を有している。mJRLsの一種であるHeltuba、Calsepa、BanLecにおいても、上記「βプリズム1構造」が確認されており、マンノース結合部位はβプリズム構造の先端に位置する3つの露出したループ領域にある。Heltuba結晶ではβ11−β12ループのGly-Asp-Val(135-137)及びAsp(139)と、β1−β2ループに位置するGly(18)がマンノースに結合することが確認された(非特許文献5)。本発明のN末側のモチーフは、このマンノース結合部位であるβ1−β2ループに対応している(非特許文献8)。
すなわち、上記各データベースに示されるアミノ酸配列(例えば、配列番号1など)において、当該アミノ酸配列中のN末端側及びC末端側のそれぞれの保存モチーフを有していれば、その部分ペプチドであってもよく、又は当該アミノ酸配列と60%、好ましくは70%、より好ましくは80%、さらに好ましくは90%、特に好ましくは95%の相同性(同一性)を保持していれば、複数のアミノ酸を欠失、置換、付加したアミノ酸配列であってもよい。
したがって、本発明において「抗真菌活性を有するマンノース特異的レクチン」というとき、ZG16、mJRLsなどのN末側及びC末側保存モチーフを保持するレクチン自体のみならず、その部分ペプチド又は改変体も含める。
本発明の抗真菌活性を有するマンノース結合特異性レクチンは、天然から抽出して得てもよいが、各種形質転換宿主を用いて発現させ、又はさらに分泌させたリコンビナントの形で取得できるが、いずれのタンパク質、ペプチドの場合でも、アフィニテリィークロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー法などの通常のタンパク質精製法を適用し精製物として得ることが好ましい。そして、均一性や容易に大量調整し得るという観点からはリコンビナントが好ましく、その際の宿主として大腸菌を例示できるが、これに限定されず、動物細胞、昆虫細胞、酵母、カイコなどを宿主細胞として生産する方法も用いることができる。また、無細胞翻訳系でタンパク質調整することも可能である。
また、上記レクチンの部分ペプチドの場合は、全長のタンパク質を得た後に断片化して得てもよいが、アミノ酸配列に基づき化学合成することもできる。
上記レクチンについての改変体は、公知データベースの塩基配列情報が利用できるので、周知の部位突然変異法などを適用して適宜作製することができる。また、各種生物由来のcDNAライブラリーやゲノムライブラリーに対して、通常のハイブリダイゼーション手法やPCR法などを適用することで相同性(同一性)の高い未知のレクチン類を取得することができる。
本発明でいう抗真菌剤とは、真菌類に対して殺菌作用または増殖阻害作用を有する薬剤を広く意味する。本発明の抗真菌剤は、上記レクチンを有効成分とし、真菌類に対して殺菌作用または増殖阻害作用を有する。真菌類としては、酵母、キノコの他、いわゆる糸状菌(カビ)が挙げられ、医療用抗真菌剤としては、特に皮膚カンジダ症、慢性粘膜皮膚カンジダ症、口腔カンジダ症、外陰カンジダ症など主な原因菌であるカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)やカンジダ・グラブラータ(Candida glabrata)などの真菌に対して抗真菌スペクトルを有する。また本発明の抗真菌剤は、例えば、体部白癬(たむし)・股部白癬(いんきん)・足白癬(水虫)・爪白癬(爪水虫)(Trichophyton ruburum,Trichophyton mentagrophytes)、頭部白癬(しらくも)・ケルズス禿瘡(Microsporum canis、Trichophyton verrucosum)、癜風(Malassezia furfur)、マラセチア毛包炎(Malassezia furfur)、スポロトリコーシス(Sporothrix schenckii)、黒色真菌症 (Fonsecaea pedrosoi、Exophiala jeanselmei、Exophiala dermatitidis、Phialophora verrucoza、Cladosporium trichoides)、皮膚クリプトコッカス症(Criptococcus neoformans)、肺真菌症である肺アスペルギルス症(Aspergillus fumigates)やクリプトコッカス症(Criptococcus neoformans)の治療に用いることができる。
外用剤として投与するばあい、クリーム剤、液剤、軟膏剤、眼軟膏剤、座剤、膣剤、パウダー、乳剤などの剤形が調製可能である。調製するにあたっては、油性基剤または乳剤性基剤などを用いて調製することができ、有効成分の好ましい含量は0.1〜10重量%である。投与量は患部の広さおよび症状によって適宜調節すればよい。
経口投与のばあい、粉末、錠剤、顆粒剤、カプセル剤またはシロップとして使用され、さらには皮下、筋肉内または静脈内注射剤などの注射剤としても使用される。
特に、本発明のZ16は、生体内の深部体温の37℃でかつ弱酸性の条件で最も抗真菌活性が高いことから、深在性真菌症用の内服液として使用することが有効である。
投与量は患者の年齢、体重および個々の条件により異なるが、一般的には、有効成分量として成人一日あたり1μg/kgから1000mg/kg程度の範囲である。上記投与量は一日一回投与しても一日に数回に分けて投与してもよい。また投与期間及び投与間隔も特に限定されず、毎日投与してもよいしあるいは数日間隔で投与してもよい。
また、農作物や観賞用植物に害を及ぼすジャガイモがんしゅ病、こうがい毛かび病、てんぐ巣病、うどんこ病、灰色かび病、さび病、裸黒穂病、なまぐさ黒穂病などに対して、抗真菌剤、防カビ剤として用いることができ、食品や医薬品、化粧品、家屋などに見られる主なカビ類である、坦子菌門に対しても有効であるので、広く一般的な防カビ剤として使用可能である。
農園芸用の抗真菌剤、防カビ剤で有効成分として用いる場合には、その使用目的に応じて単体でも施用できるが、生物効果を助長または安定化するために、農薬に常用される適当な担体および補助剤例えば界面活性剤などを配合して製剤化し、これを直接に植物の茎葉または種子に対して施用するか、あるいは必要に応じて水、アルコールなどで希釈した液を施用する。
さらに、本発明の抗真菌剤は、食品、飼料、化粧品等のように人又は動物の体内に摂取され、または体表面に適用される製品、その他一般に真菌の増殖を防止又は抑制することが望まれるあらゆる製品に配合して使用することができる。また、本発明の抗真菌剤を製品又は原料素材の表面処理に用いることもできる。具体的には、食品(例えばチュウインガム、生菓子等)、医薬品(例えば、目薬、乳房炎治療薬、水虫薬等)、医薬部外品(例えば口中洗浄剤、制汗剤、養毛剤等)、各種化粧品(例えば整髪料、ハンドクリーム、乳液等)、各種歯磨用品(例えば、歯ブラシ等)、各種生理用品(例えばナプキン、タンポン等)、各種ベビー用品(例えば紙オムツ等)、各種高齢者用品(例えば入れ歯固定剤、成人用紙オムツ等)、各種洗剤(例えば石鹸、シャンプー、リンス、洗濯用洗剤等)、各種除菌用品(キッチン又はトイレ用除菌クリーナー等)、ペット飼料(例えば、ドッグフード、キャットフード等)、各種家畜試料、各種養魚飼料、各種建築材料、各種塗料、各種農園芸用品、並びにそれらの原料となる素材、その他一般に真菌等の微生物の増殖の防止、抑制が望まれるあらゆる物品に添加、配合、噴霧、付着、被覆、含浸等を行ってもよく、またその他一般に真菌類の増殖防止、抑制が望まれるあらゆる物品の処理に用いることもできる。
植物由来mJRLsであるHeltuba、Orysata、Morniga M、Artocarpin、CCA-C、CCA-N、Calsepa、Conarva、CRLL-N、CRLL-C、BanLec、及びヒト(ZG16_Human)、ラット(ZG16_Rat)、マウス(ZG16_Mouse)由来Zymogen granule 16 (ZG16)をClustal Wを用いてマルチプルアライメントを実行した。なお、これらアミノ酸配列は、公共データベースであるGenBankにより、それぞれアセッション番号Heltuba(BAB18761, AAZ30387, AAD11575, AAD11578, AAD11576)、Orysata(DQ122757)、Morniga M(AAL10685)、Artocarpin (AAY35063, AAY35064)、CCA-C(AAG40322)、CCA-N(AAG40322)、Calsepa(AAC49564)、Conarva(AAG10403)、CRLL-N(BAE95375)、CRLL-C(BAE95375)、BanLec(AAM48480)、及びヒトZG16(NP_689551)、ラットZG16(NP_599236)、マウスZG16(Q8K0C5)として取得できる。
ZG16どうしの相同性(同一性)は、80%程度あるが、mJRLsどうしの相同性(同一性)には20-85%程度のばらつきがあり、ZG16とmJRLs間での相同性も、15〜20%程度であって必ずしも高くはない。しかし、図1からみて、いずれも100〜200アミノ酸残基からなるレクチンであり、ほぼ対応する位置にN末端側のGly-X-(Tyr/Trp)-Gly-X-X-Gly-Glyモチーフ、及びC末端側の(Leu/Ile/Val)-Asp-(Ser/Ala)-Ile-(Gly/Ser)モチーフを有していること、及びmJRLsと同様にZG16でも「βプリズム1構造」をとると考えられる「βシート」にほぼ対応する繰り返し配列が観察されることも、大きな類似点である。
プライマー1(CATATGAATGCCATTCAGGCCAGGTCTTCCTCCTAT)(配列番号2)とプライマー2(CTCGAGGCATCTGCTGCAGCTAGTGGGGTAAACATC)(配列番号3)を用いて増幅したヒトZG16遺伝子(以下、単にZG16遺伝子という、)を、pGEM-T easyベクターにサブクローニングした。得られたベクターからZG16遺伝子を制限酵素で切り出し、pET27b(+)発現ベクター(Novagen社)にクローニングした(ZG16-pET27b)。ZG16-pET27bを大腸菌BL21(DE3)codon+(Novagen社)に形質転換し、IPTG(Fermentus社)で3時間誘導後、大腸菌を回収した。大腸菌を超音波で破砕して、得られた上清からリコンビナントZG16をニッケルアガロースカラム(Qiagen)で精製し、電気泳動に供した。20kDa付近に単一なバンドを示し、ZG16のサブユニットが20kDaの単量体で構成されていることが確認された。
リコンビナントZG16及び151番目のアスパラギン酸をアスパラギンに変えた変異体(D151N)をプロービングバッファー(1% Triton-X 100と500 mMグリシンを含有するトリス緩衝生理食塩水溶液(TBS))を用いて10μg/ml(100 μL)になるように調整し、100 μg/mLの抗HSV抗体(一次抗体)を0.5 μL, 二次抗体として140 μg/mLのCy3ラベル化抗マウスIgG抗体を0.5 μL加え、30分間プレインキュベートした。これを糖鎖アレイ基板の反応槽内に100 μL供して、3時間インキュベート後にエバネッセント波励起蛍光観察を行った(Tateno, H.ら (2008) Glycobiology 18, 789-798の方法による。)。その結果、リコンビナントZG16はalpha-マンノース及びbeta-マンノースに特異的に結合することが分かった。ZG16の糖への結合に関与すると予想される151番目のアスパラギン酸をアスパラギンに変えた変異体(D151N)ではalpha-マンノース(及びbeta-マンノースへの結合は大きく減少したことから、151番目のアスパラギン酸が糖への結合に重要であることが確認された。
次に、スポッティングバッファー(松浪硝子工業社)で500-2 μg/mlになるように希釈したリコンビナントZG16及びその糖鎖結合欠損変異体(D151N)をスライドグラス基板上に固定化したアレイを作製した。Saccharomyces cerevisiae、Candida albicans、Candida glabrata、Candida kefyr、Candida kruseiを細胞内変換型色素であるCell Tracker Orange CMRA (Invtrogen社)で蛍光標識した後、1%BSAを含むリン酸緩衝生理食塩水溶(pH7.0)に懸濁し、反応層あたり1x106個を供して4度で1時間反応後、非結合細胞を洗浄し、結合細胞をエバネッセント波励起蛍光スキャナーで検出した。その結果、リコンビナントZG16はこれら真菌に対して結合活性を有することが確認された。一方で、真菌への結合は糖鎖結合部位である151番目のアスパラギン酸をアスパラギンに変異することで劇的に減少したことから、真菌への結合はZG16の糖鎖結合部位が関与していることが確認された。
1×105のSaccharomyces cerevisiaeを0.1Mクエン酸バッファー/0.15M NaCl pH5.0に懸濁した溶液100 μLに対して、最終濃度0.1 mg/mlになるようにZG16もしくはD151Nを加え、37度で2時間インキュベートした。400 μLの25 mMリン酸緩衝生理食塩水溶液(pH 7.0)と5 μLの1 mg/mlのPropidium iodideを加え、4度で1時間インキュベートした後、フローサイトメトリーで解析した。ZG16を作用させたSaccharomyces cerevisiaeの一部に形態変化が確認された(図4、上中央パネル、実線囲)。さらにこの画分の酵母細胞はZG16が結合し、死細胞の核を染色するPropidium iodide(PI、Sigma-Aldrich)で染色された(図4、下パネル)。一方で、糖鎖結合活性欠損変異体(D151N)及び緩衝役のみの場合には酵母細胞の形態変化は確認されなかった(図4、上右端パネル)。以上の結果から、ZG16は酵母細胞表層糖鎖に結合して、酵母細胞死を誘導することが確認された。
実施例4と同様の試験をカンジダ症の原因菌であるCandida albicansとCandida glabrataに対して行った。即ち、1x105のCandida albicans及びCandida glabrataを0.1Mクエン酸バッファー/0.15M NaCl pH5.0に懸濁した溶液100 μLに対して、最終濃度0.1 mg/mlになるようにZG16もしくはD151Nを加え、37度で2時間インキュベートした。400 μLの25 mMリン酸緩衝生理食塩水溶液(pH 7.0)と5 μLの1 mg/mlのPropidium iodideを加え、4度で1時間インキュベートした後、フローサイトメトリーで解析した。その結果、Saccharomyces cerevisiaeと同様に、ZG16を作用させたCandida albicans及びCandida glabrataの一部に形態変化が確認された(図5、中央パネル、実線囲)。さらにこの実線で示した画分の酵母細胞はPropidium iodide(PI、Sigma-Aldrich)で染色された。一方で、糖鎖結合活性欠損変異体(D151N)及び緩衝液のみの場合には細胞の形態変化は確認されなかった。以上の結果から、ZG16はSaccharomyces cerevisiaeだけでなく、カンジダ症の原因菌であるCandida albicans及びCandida glabrataに対しても細胞死を誘導する活性を有することが確認された。
異なる濃度のZG16(0-100 μg/ml)を用いて、実施例4と同様の試験を行った。即ち、1x105のSaccharomyces cerevisiae 、Candida albicans及びCandida glabrataを0.1Mクエン酸バッファー/0.15M NaCl pH5.0に懸濁した溶液100 μLに対して、最終濃度0-0.1 mg/mlになるようにZG16もしくはD151Nを加え、37度で2時間インキュベートした。400 μLの25 mMリン酸緩衝生理食塩水溶液(pH 7.0)と5 μLの1 mg/mlのPropidium iodideを加え、4度で1時間インキュベートした後、フローサイトメトリーで解析した。その結果、濃度依存的な酵母細胞死が確認された。ZG16の濃度が100 μg/mlの場合、約60%(Candida glabrata)、40%(Candida albicans)、30%(Saccharomyces cerevisiae)の細胞死が確認された。
ZG16の抗真菌活性をコロニー形成単位(CFU)で評価した。1×104のCandida albicansを0.1Mクエン酸バッファー/0.15M NaCl pH5.0に懸濁した溶液100 μLに対して、最終濃度0.1 mg/mlになるようにZG16もしくはD151Nを加え、37度で2時間インキュベートした。400 μLの25 mMリン酸緩衝生理食塩水溶液(pH 7.0)を加え、4度で1時間インキュベートした後、5 μLを培養プレートにスポットして、室温で一晩培養後、形成されたコロニーの数を測定した。その結果、緩衝液のみの場合と比較して、ZG16を加えた場合には75%の細胞死が確認され、抗真菌活性を有することを確認した。一方で糖鎖結合活性欠損変異体(D151N)の場合には、緩衝液のみとほぼ同じ程度のコロニー数が測定され、ZG16の抗真菌活性はZG16の糖鎖結合活性依存的であることを確認した。
1×104のCandida albicansを0.1Mクエン酸バッファー/0.15M NaCl pH5.0に懸濁した溶液100 μLに対して、最終濃度0.1 mg/mlになるようにZG16もしくはD151Nを加え、37度で2時間インキュベートした後、96穴平底マイクロプレートのウエルに各100 μL加えた。次に、YPD培地を100μL加えて室温で培養して、酵母の発育を濁度(A650)で測定した。その結果、20時間後に緩衝液のみ及び糖鎖結合活性欠損変異体(D151N)を加えた場合には、A650がそれぞれ0.8と0.5の濁度が測定されたが、ZG16を加えた場合には0.1と測定され、Candida albicansの増殖を抑制する活性を有することを確認した。
ZG16が抗真菌活性を示す至適pHを検討した。抗真菌活性試験は実施例4と同様の方法で行った。即ち、異なるpHの緩衝液(pH3-7)に懸濁した1x105のCandida albicansを含む溶液100 μLに対して、最終濃度0.1 mg/mlになるようにZG16もしくはD151Nを加え、37度で2時間インキュベートした。400 μLの25 mMリン酸緩衝生理食塩水溶液(pH 7.0)と5 μLの1 mg/mlのPropidium iodideを加え、4度で1時間インキュベートした後、フローサイトメトリーで解析した。結果、弱酸性付近(pH 4-5)で最も強い抗真菌活性を示し、pH4では75%の酵母細胞の細胞死が確認された。緩衝液のみ、及び糖鎖結合活性欠損変異体(D151N)では酵母細胞死は確認されなかった。真菌の至適pHは弱酸性付近のpH4-5であることから、真菌が特に増殖し易い環境下において、ZG16は最も効果的に抗真菌活性を示すことが確認された。
ZG16が抗真菌活性を示す至適時間を検討した。抗真菌活性試験は実施例4と同様の方法で行った。即ち、1×105のCandida albicansを0.1Mクエン酸緩衝生理水溶液(pH5.0)に懸濁した溶液100 μLに対して、最終濃度0.1 mg/mlになるようにZG16もしくはD151Nを加え、37度で0-2時間インキュベートした。400 μLの25 mMリン酸緩衝生理食塩水溶液(pH 7.0)と5 μLの1 mg/mlのPropidium iodideを加え、4度で1時間インキュベートした後、フローサイトメトリーで解析した。結果、37度、0分でも20%の細胞死が確認されたが、経時的に死細胞数の増加が確認され、1時間でほぼ最大の活性(約40%の細胞死)が確認された。
次にZG16が抗真菌活性を示す至適温度を検討した。抗真菌活性試験は実施例4と同様の方法で行った。即ち、1×105のCandida albicansを0.1Mクエン酸緩衝生理水溶液(pH5.0)に懸濁した溶液100 μLに対して、最終濃度0.1 mg/mlになるようにZG16もしくはD151Nを加え、4−37度で2時間インキュベートした。400 μLの25 mMリン酸緩衝生理食塩水溶液(pH 7.0)と5 μLの1 mg/mlのPropidium iodideを加え、4度で1時間インキュベートした後、フローサイトメトリーで解析した。その結果、4−20度で反応させた場合にも抗真菌活性は確認されたものの(約20%)、37度で最大(約40%)の抗真菌活性が確認された。
ウサギ、ヒトA、B、O型赤血球に対するZG16の凝集活性及び溶血活性を測定した。ZG16(0.1 mg/ml、20 μL)を25 mMリン酸緩衝生理食塩水溶液(pH 7.0)を用いて2倍希釈系列をつくり、そこに4%赤血球を25 μL加えて、室温で30分インキュベート後、視覚的に凝集及び溶血活性を確認した。その結果、ZG16は赤血球に対して凝集及び溶血活性を有しないことが確認された。
植物由来のジャッカリン関連レクチンファミリーに分類されるmJRLsが、全体の配列の相同性は低いもののN末側及びC末側のモチーフ及び他の構造的な特徴もよく保存されている(実施例1)ことから、ZG16と同様の抗真菌活性を有することが期待された。そこで、mJRLsに分類されるマンノース特異的レクチンが共通して抗真菌活性を示すかどうかについて検討した。
ジャッカリン関連レクチンファミリーに分類されるHeltuba(キクイモ、Helianthus tuberosus)、Calsepa(ヒロハヒルガオ、Calystegia sepium)、Morniga M(ブラックマルベリー、Morus nigra)、Conarva(セイヨウヒルガオ、Convolvulus arvensis)、及び、このファミリーに分類されない他のマンノース特異的レクチンであるConA(NPA、GNA、HHLをコントロールとして抗真菌活性試験を行った。1×105のCandida albicansを0.1Mリン酸緩衝生理食塩水溶液(pH 7.0)に懸濁した溶液100 μLに対して、最終濃度0.1 mg/mlになるように各種レクチンを加え、4〜37℃で2時間インキュベートした。400 μLの25 mMリン酸緩衝生理食塩水溶液(pH 7.0)と5 μLの1 mg/mlのPropidium iodideを加え、4度で1時間インキュベートした後、フローサイトメトリーで解析した。その結果、ジャッカリン関連レクチンファミリーに分類されるレクチンは全て抗真菌活性(10〜55%)を示した。一方で、他のファミリーに分類されるレクチンでは顕著な抗真菌活性は確認されなかった。
Claims (6)
- N末端領域にGly-X-(Tyr/Trp)-Gly-X-X-Gly-Glyモチーフを有し、C末端領域に(Leu/Ile/Val)-Asp-(Ser/Ala)-Ile-(Gly/Ser)モチーフを有するマンノース特異的レクチンであって、100〜200アミノ酸残基から構成され、βプリズム1構造を有し、かつ抗真菌活性を有するレクチンを有効成分として含有することを特徴とする抗真菌剤。
- 前記レクチンがZG16(Zymogen granule protein 16)又はその部分ペプチドであることを特徴とする、請求項1に記載の抗真菌剤。
- 前記レクチンが、植物由来のmJRLs(マンノース特異性を有するジャッカリン関連レクチン)又はその部分ペプチドであることを特徴とする、請求項1に記載の抗真菌剤。
- ヒトを含む動物の真菌類による感染症の予防又は治療に用いる、請求項1〜3のいずれかに記載の抗真菌剤。
- 農園芸用又は抗真菌剤として使用する請求項1〜3のいずれかに記載の抗真菌剤。
- 食品、医薬品又は化粧品用の防カビ剤として使用する請求項1〜3のいずれかに記載の抗真菌剤。
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