本出願は、2006年9月28日に出願された、表題が「水素添加分解装置内の異常状況の防止」である米国仮出願第60/847,785号に基づいて優先権を主張するものである。米国特許仮出願代第60/847,785号は、ここで、本明細書において参照することによりその全内容を援用するものとする。
図1を参照すると、異常状況防止システムが実装されうる例示のプロセス制御プラント10が、一または複数の通信ネットワークを通じて支持装置とともに相互接続されている複数の制御システムおよび保守システムを備えている。具体的にいえば、図1のプロセス制御プラント10は、一または複数のプロセス制御システム12、14を備えている。プロセス制御システム12は、PROVOXシステムまたはRS3システムの如き従来型のプロセス制御システムまたはその他の制御システムであってもよく、オペレータインターフェイス12Aを備え、このオペレータインターフェイス12Aに制御装置12Bおよび入力/出力(I/O)カード12Cが順に接続され、次いで、これらの入力/出力(I/O)カード12Cに、アナログ型フィールドデバイスおよび高速アドレス可能遠隔トランスミッタ(HART)フィールドデバイス15の如きさまざまなフィールドデバイスが接続されている。プロセス制御システム14は、分散型プロセス制御システムであってもよく、イーサネット(登録商標)バスの如きバスを介して一または複数の分散型のコントローラ14Bに接続する一または複数のオペレータインターフェイス14Aを備えている。コントローラ14Bは、たとえばテキサス州のオースティンにあるエマソンプロセスマネージメント社により販売されているDeltaV(商標)コントローラであってもよいしまたはその他のタイプのコントローラであってもよい。コントローラ14Bは、たとえばHARTフィールドデバイスもしくはFieldbusフィールドデバイスまたはたとえばPROFIBUS(登録商標)プロトコル、WORLDFIP(登録商標)プロトコル、Device−Net(登録商標)プロトコル、AS−InterfaceプロトコルおよびCANプロトコルのうちのいずれかを用いるフィールドデバイスを含むその他のスマートフィールドデバイスもしくは非スマートフィールドデバイスの如き一または複数のフィールドデバイス16に、I/Oデバイスを介して接続されている。公知になっているように、フィールドデバイス16は、プロセス変数および他のデバイス情報に関するアナログ情報またはデジタル情報をコントローラ14Bに提供しうる。オペレータインターフェイス14Aは、たとえば制御オプチマイザ、診断エキスパート、ニューラルネットワーク、チューナなどを含む、プロセスの動作を制御するためにプロセス制御オペレータが利用可能なツール17、19を格納し、実行しうる。
さらに、上記のAMS(商標)スイートのような、インテリジェントデバイスマネージャアプリケーションあるいはその他の監視および通信アプリケーションを実行するコンピュータの如き保守システムが、保守活動、監視活動および診断活動を実行すべく、プロセス制御システム12、14またはプロセス制御システム内の個々のデバイスに接続されうる。たとえば、保守コンピュータ18は、デバイス15と通信すべく、場合によっては、デバイス15に他の保守アクティビティを再設定または実行すべく、任意の所望の通信回線またはネットワーク(無線ネットワークまたは携帯デバイスネットワークを含む)を介してコントローラ12Bおよび/またはデバイス15に接続されうる。同様に、AMS(商標)スイートのような、インテリジェントデバイスマネージャアプリケーションの如き保守アプリケーションは、デバイス16の動作ステータスに関するデータ収集を含む保守機能および監視機能を実行すべく、分散型プロセス制御システム14に付随するユーザインターフェイス14Aのうちの一または複数内に実装され、これらにより実行されうる。
また、プロセス制御プラント10は、ある恒久的な通信リンクまたは一時的な通信リンク(たとえば、バス、無線通信システム、または、回転装置20に接続され、読み取りを行うために取り付けられ、そして取り外される携帯デバイス)を介して、保守コンピュータ22に接続されるタービン、モータなどの如きさまざまな回転装置20をさらに備えている。保守コンピュータ22は、たとえばCSI(エマソンプロセスマネージメント社)により提供される公知の監視および診断アプリケーション23または回転装置20の動作状態を診断、監視、および最適化するために用いられるその他の公知のアプリケーションを格納し、実行しうる。保守作業員は、プラント10内の回転装置20の性能を保守および監視するために、回転装置20の問題を判断するために、および、回転装置20を修理または交換する必要がある時期およびその必要性を判断するためにアプリケーション23を用いることが多い。場合によっては、外部のコンサルタントまたはサービス組織が、装置20に関係するデータを一時的に取得または測定し、このデータを用いて装置20を分析し、装置20に影響する問題、劣悪な動作または他の問題を検出しうる。これらの場合、分析を実行するコンピュータは、通信回線を介してシステム10のその他の部分に接続されていなくてもよいし、または、単に一時的に接続されていてもよい。
同様に、プラント10に設けられている電力発生分配装置25を有する電力発生分配システム24は、たとえばバスを介して、プラント10内の電力発生および分配装置25を実行してその動作を監視する他のコンピュータ26に接続されている。コンピュータ26は、電力発生分配装置25を制御および維持すべく、たとえばLiebertおよびASCOまたは他の会社によって提供されるような公知の電源制御診断ルーチンアプリケーション27を実行してもよい。先の例の場合と同様に、ほとんどの場合には、外部のコンサルタントまたはサービス組織が、装置25に関するデータを一時的に取得または測定し、このデータを用いて装置25を分析し、装置25に影響する問題、劣悪な動作または他の問題を検出しうる。これらの場合、分析を実行するコンピュータ(コンピュータ26など)は、通信回線を介してシステム10のその他の部分に接続されていなくてもよいし、または、単に一時的に接続されていてもよい。
図1に示されているように、コンピュータシステム30は、異常状況防止システム35のうちの少なくとも一部を実装している。具体的にいえば、コンピュータシステム30は、構成アプリケーション38と、任意選択的な異常動作検出システム42とを格納および実行するようになっている。下記に、このことに関する実施形態をさらに詳細に記載する。これに加えて、コンピュータシステム30はアラート/アラームアプリケーション43をさらに実装してもよい。
一般的にいえば、異常状況防止システム35は、異常動作検出システムの各々を設定するために、および、異常動作検出システムが監視しているデバイスまたはサブシステムの動作に関する情報を受信するために、プロセスプラント10内のフィールドデバイス15、16、コントローラ12B、14B、回転装置20もしくはその支援コンピュータ22、発電装置25もしくはその支援コンピュータ26ならびにその他の所望のデバイスおよび装置に任意選択的に設けられている異常動作検出システム(図1に図示せず)、および/または、コンピュータシステム30内の異常動作検出システム42と通信することが可能である。異常状況防止システム35は、有線バス45によってプラント10内のコンピュータまたはデバイスのうちの少なくともいくつかの各々に通信可能に接続されてもよいし、またはこれに代えて、たとえば無線接続、OPCを用いる専用接続、データなどを収集するために携帯デバイスに依存するような接続などの如き断続的接続を含むその他の所望の通信接続を用いて接続されてもよい。同様に、異常状況防止システム35は、インターネット、電話接続などの如き公共の接続(インターネット接続46として図1で示されている)またはLANを通じて、プロセスプラント10内のフィールドデバイスおよび装置に関するデータを取得しうる。このようなデータは、たとえば第三者であるサービスプロバイダにより収集される。さらに、異常状況防止システム35は、たとえばイーサネット(登録商標)、Modbus、HTML、XML、所有権の主張が可能な技術/プロトコルなどを含むさまざまな手法および/またはプロトコルを通じて、プラント10内のコンピュータ/デバイスと通信可能に接続されうる。したがって、本明細書では、プラント10内のコンピュータ/デバイスに異常状況防止システム35を通信可能に接続するためにOPCを用いる具体例が記載されているが、当業者にとって明らかなように、プラント10内のコンピュータ/デバイスに異常状況防止システム35を接続するさまざまな他の方法が用いられてもよい。
図2Aには、異常状況防止システム35および/またはアラート/アラームアプリケーション43が例示のプロセスプラント10の部分50内の水素添加分解装置と通信しうる一の方法について記載するために、図1の例示のプロセスプラント10の部分50が示されている。一の具体例では、プロセスプラント10またはプロセスプラントの部分50は、複雑な分子を単純な分子に分解する(重質炭化水素を軽質炭化水素に分解(クラッキング)する)ための精製プラントでありうる。図2Aには、異常状況防止システム35と水素添加分解装置内の一または複数の異常動作検出システムとの間の通信が示されているが、いうまでもなく、異常状況防止システム35と図1に示されているデバイスおよび装置のうちのいずれかを含むプロセスプラント10内の他のデバイスおよび装置との間に同様の通信が行われてもよい。
図2Aに示されているプロセスプラント10の部分50は分散型プロセス制御システム54を含んでいる。この分散型プロセス制御システム54は、入出力(I/O)カードまたはデバイス68、70を通じて水素添加分解装置62の一または複数の反応器64、66に接続されている一または複数のプロセスコントローラ60を有している。この入出力(I/O)カードまたはデバイスは、いかなる所望の通信プロトコルまたはコントローラプロトコルに準拠するいかなる所望のタイプのI/Oデバイスであってもよい。これに加えて、水素添加分解装置62および/または水素添加分解装置62の反応器64、66は、いかなる所望の公開された、所有権の主張が可能なまたは他の通信プロトコルまたはプログラミングプロトコルに準拠したものであってもよいが、いうまでもなくI/Oデバイス68、70は、水素添加分解装置62および反応器64、66によって用いられる所望のプロトコルに準拠していなければならない。
詳細には示されていないが、水素添加分解装置62および反応器64、66は、いかなる数のさらなるデバイス、たとえばこれに限定されるものではないが、フィールドデバイス、HARTデバイス、センサ、弁、トランスミッタ、ポジショナなどを有していてもよい。これらのうちのいずれかまたは全部が、水素添加分解装置62および反応器64、66ならびにこれらの動作に関するプロセス変数データの如きデータを測定および/または収集するために用いられうる。たとえば、本明細書に記載されているように、温度差変数は反応器に関して監視されている。この温度差変数は、反応器内のさまざまな断面または「ベッド」の一または複数の領域で温度を測定する温度センサ、トランスミッタまたは他のデバイスから送出されうる。これらのデバイスまたはさらなるデバイスは、各断面における加重平均ベッド温度(WABT)を計算し、さまざまな断面間における温度差変数ΔTを決定するために用いられうる。したがって、下記には、温度差変数が一般的に水素添加分解装置62およびその反応器64、66から提供されるものとして記載されているが、いうまでもなく、温度差変数および/または温度差変数を導出するために用いられる温度測定値は、具体的には温度センサ、トランスミッタなどの如き水素添加分解装置62および反応器64、66の一部であるデバイスから提供されてもよい。
いずれの場合であっても、構成エンジニア、プロセス制御オペレータ、保守作業員、プラントマネージャ、スーパーバイザなどの如きプラント人員によりアクセス可能な一または複数のユーザインターフェイスまたはコンピュータ72、74(これらはいかなるタイプのパソコン、ワークステーションなどであってもよい)は、任意の所望の有線または無線通信構造を用いるとともに、たとえばイーサネット(登録商標)プロトコルの如き任意の所望のまたは適切な通信プロトコルを用いて具象化されうる通信回線またはバス76を通じてプロセスコントローラ60に接続されてもよい。さらに、データベース78は、通信バス76へ接続され、プロセスプラント10内のプロセスコントローラ60および反応器64、66を含む水素添加分解装置62に関する構成情報とともにオンライン上のプロセス変数データ、パラメータデータ、ステータスデータ、他のデータなどを収集および格納するデータヒストリアンとして動作しうる。したがって、データベース78は、プロセス構成モジュールを含む現在の構成情報とともに、プロセスコントローラ60および反応器64、66を含む水素添加分解装置62のデバイスにダウンロードされこれらに格納されているプロセス制御システム54の制御構成情報とを格納する構成データベースとして動作しうる。同様に、データベース78は、反応器64、66を含む水素添加分解装置62(または、より具体的には、水素添加分解装置62および/または反応器64、66のデバイス)により収集された統計データ、反応器64、66を含む水素添加分解装置62(または、より具体的には、水素添加分解装置62および/または反応器64、66のデバイス)および他のフィールドデバイスにより収集されたプロセス変数から求められた統計データならびに下記にさらに詳細に記載する他のタイプのデータを含む異常状況防止履歴データを格納しうる。
プロセスコントローラ60、I/Oデバイス68、70、水素添加分解装置62、反応器64、66ならびに水素添加分解装置62および反応器64,66のデバイスは、劣悪となりうるプラント環境内全体に分散されて配置されているのが一般的であるが、ワークステーション72、74およびデータベース78は、オペレータ、保守作業員などにより容易にアクセス可能な制御室、保守室または他のそれほど劣悪ではない環境に配置されることが多い。たった一つの反応器64、66のみを備えたたった一つの水素添加分解装置62のみが図示されているが、いうまでもなくプロセスプラント10は、図1に示されているようなさまざまな他のタイプの装置と共に複数の水素添加分解装置62を備えてもよい。いうまでもなく、水素添加分解装置はいかなる数の反応器を有していてもよい。本明細書に記載の異常状況防止手法は、複数の反応器または水素添加分解装置のうちのいずれにも同様に適応することができる。
一般的にいえば、プロセスコントローラ60は、複数の異なる独立して実行される制御モジュールまたは制御ブロック用いて制御戦略を実行する一または複数のコントローラアプリケーションを格納および実行することが可能である。各制御モジュールは、一般的に機能ブロックと呼ばれるものからなっており、各機能ブロックは、全体の制御ルーチンのうちの一部またはサブルーチンであり、プロセスプラント10内のプロセス制御ループを実行するに当たって他の機能ブロックと共に(リンクと呼ばれる通信を介して)動作するようになっている。公知になっているように、機能ブロックは、オブジェクト指向プログラミングプロトコルにおけるオブジェクトであり、通常、プロセスプラント10内のある物理的な機能を実行するために、トランスミッタ、センサまたは他のプロセスパラメータ測定デバイスに関連する入力機能、PID制御、ファジー論理制御などを実行する制御ルーチンに関連する制御機能、および、弁の如きあるデバイスの動作を制御するする出力機能のうちの1つを実行する。もちろん、モデル予測コントローラ(MPC)、オプチマイザなどの如きハイブリッドおよび他のタイプの複合機能ブロックも存在する。いうまでもなく、FieldbusプロトコルおよびDeltaV(商標)システムプロトコルが、オブジェクト指向プログラミングプロトコルに従って設計および構築される制御モジュールおよび機能ブロックを用いているが、これらの制御モジュールは、たとえばシーケンス機能ブロック、ラダーロジックなどを含むいかなる所望の制御プログラミングスキームを用いて設計されてもよく、機能ブロックまたはその他の特定のプログラミング手法を用いて設計されることに限定されない。
図2Aに示されているように、保守ワークステーション74は、プロセッサ74Aと、メモリ74Bと、表示デバイス74Cとを備えている。メモリ74Bは、プロセッサ74Aによりこれらのアプリケーションが実行されて情報をユーザに対して表示装置(または、プリンタの如きその他の表示装置)を通じて提供することができるように、図1に関して説明された異常状況防止アプリケーション35およびアラート/アラームアプリケーション43を格納するようになっている。
一または複数の反応器64、66および水素添加分解装置62の各々および/またはとくに反応器64、66および水素添加分解装置62のデバイスは、下記にさらに詳細に記載する異常動作を検出するための検出デバイスおよび/または検出ルーチンにより検出される一または複数のプロセス変数に関する統計データの収集を実行するためのルーチンの如きルーチンを格納するためのメモリ(図示せず)を備えうる。また、反応器64、66および水素添加分解装置62のうちの一または複数、および/またはとくにこれら装置を構成するデバイスの一部または全部は、それぞれ、統計データの収集を実行するためのルーチンおよび/または異常動作を検出するためのルーチンの如きルーチンを実行するプロセッサ(図示せず)をさらに有しうる。統計データ収集および/または異常動作検出は、ソフトウェアによって実現される必要はない。むしろ、当業者にとって明らかなように、このようなシステムは、一または複数のフィールドデバイスおよび/または他のデバイスの内部に設けられたソフトウェア、ファームウェアおよび/またはハードウェアのいかなる組み合わせによって実現されうる。
図2Aに示されているように、反応器64、66(および、潜在的には水素添加分解装置62内の反応器のうちの一部または全部)は、下記にさらに詳細に記載する異常動作検出ブロック80、82を有している。図2Aのブロック80、82が反応器64、66のうちの一つに設けられているものとして示されているが、これらのブロックまたは同様のブロックは、いかなる数の反応器または他の装置に設けられてもよいし、水素添加分解装置62内のさまざまな他の装置およびデバイスの内部に設けられてもよいし、コントローラ60、I/Oデバイス68、70、または、図1に示されているいずれかのデバイスの如き他のデバイスに設けられてもよい。これに加えて、ブロック80、82は、たとえば反応器64、66の一または複数のデバイス(たとえば、温度センサ、温度トランスミッタなど)内の如き反応器64、66のいかなるサブセット内にあってもよい。
一般的にいえば、ブロック80、82またはこれらのブロックのサブエレメントは、それらが設けられているデバイスおよび/または他のデバイスからプロセス変数データの如きデータを収集する。たとえば、ブロック80、82は、温度センサ、温度トランスミッタまたは他のデバイスの如き水素添加分解装置62または反応器64、66内のデバイスから温度差変数値を収集してもよいし、または、これらのデバイスからの温度測定値から温度差変数値を求めてもよい。これに加えて、ブロック80、82またはこれらのブロックのサブエレメントは、変数データを処理し、いかなる数の目的でそのデータを分析してもよい。たとえば、ブロック80は、反応器64(反応器_1)に関連づけされているものとして示されている、飛散温度検出ルーチンを有しうる。このルーチンは、温度差変数データを解析し、反応器64内の二つの断面間の温度差が増大しているか否かを判断する。この温度差の増大が飛散温度を示しうる。
図2Bは、図2Aに示されている水素添加分解装置62のさらに詳細な一例である。図2Bから分かるように、各反応器64、66は、断面温度が測定される反応器の断面または「ベッド」を有している。一の具体例では、各断面の温度は加重平均ベッド温度(WABT)である。各断面のWABTは、断面で測定される複数の温度測定値Tiの加重平均として提供されうる。各温度はそれに対応する重み(wi)を有している。この重みはユーザにより入力として提供されてもよい。ある与えられた断面における加重平均ベッド温度は下記の式により算出されうる:
WABTの各対間の温度差変数値(ΔT)が算出される。一般的に、n個のWABTがあり、n−1個のΔTがある。複数のΔTのうちのいずれかが増大することは飛散温度状態を示すことになる。一の具体例では、水素添加分解装置用の異常状況予防手法は、各ΔTに対するベースライン値を学習し、監視中、ΔTのうちのいずれかに対する新しい値がこのベースライン値から著しく外れている場合、たとえばあるしきい値を超えている場合、アラート/アラームの如き飛散温度示唆表示が生成される。このアラートは、ΔT(ΔT1、ΔT2、...)のうちのどれに異常状態が生じたかを特定しうる。しかしながら、ΔTの値は、正常動作状態中にある負荷変数の関数として変わることがある。下記にさらに記載するように、各ΔTの値をその負荷変数の関数としてモデル化するために回帰アルゴリズムを用いることが可能である。動作中に反応器を監視している間、ΔTの実測値と予測値とが著しく、たとえばしきい値分異なる場合に飛散温度状態が検出されうる。水素添加分解装置の一般的な動作は当業者により通常理解されているので、さらには説明しない。
図2Aをさらに参照すると、ブロック80は、一または複数で一組となる統計的プロセス監視(SPM)ブロックまたは統計的プロセス監視ユニット、たとえばブロックSPM1〜SPM4を備えており、この組は、反応器内のプロセス変数または他のデータを収集し、収集されたデータに対して一または複数の統計計算を実行して、たとえば収集されたデータの平均値、中央値、標準偏差、二乗平均平方根(RMS)、変化率、範囲、最小値、最大値などを求める、および/または、収集されたデータ内のドリフト、バイアス、ノイズ、スパイクなどのイベントを検出するようになっている。生成される具体的な統計データもそれを生成する方法も重要な意味をもっていない。したがって、上述の具体的なタイプに加えてまたはそれに代えて、異なるタイプの統計データを生成してもよい。これに加えて、このようなデータを生成するために、公知の技術を含むさまざまな技術が用いられてもよい。本明細書に用いられている用語「統計的プロセス監視(SPM)ブロック」は、温度差変数の如き少なくとも一つのプロセス変数または他のプロセスパラメータに対して統計的プロセス監視を実行する機能であって、該当するデバイスにまたはデータ収集の対象となっているデバイスの外側に存在する任意の所望のソフトウェア、ファームウェアまたはハードウェアにより実行されうる機能について言及している。いうまでもなく、SPMは、デバイスデータが収集されるデバイス内に通常設けられているので、SPMは、量的により多くのまた質的により正確なプロセス変数データを取得することができる。したがって、SPMブロックは、プロセス変数データが収集されるデバイスの外に設けられたブロックよりもプロセス変数データに関してより優れた統計計算値を通常求めることができる。
当然ながら、図2Aにはブロック80、82がSPMブロックを含むように示されているが、これに代えて、SPMブロックは、ブロック80、82とは別個の独立型のブロックであってもよく、また、対応するブロック80,82と同一の反応器内に設けられてもよいしまたは異なるデバイス内に設けられてもよい。本明細書に説明されているSPMブロックは、公知のFOUNDATION(商標)FieldbusSPMブロックから構成されていてもよいしまたは公知のFOUNDATION(商標)FieldbusSPMブロックと比較して異なるもしくはさらなる機能を有しているSPMブロックであってもよい。本明細書に用いられている用語「統計的プロセス監視(SPM)ブロック」は、プロセス変数データの如きデータを収集し、このデータに対してなんらかの統計的処理を実行し、平均値、標準偏差などの如き統計量を求めるための任意のタイプのブロックまたはエレメントのことを意味する。したがって、この用語は、この機能を実行するソフトウェア、ファームウェア、ハードウェアおよび/または他のエレメントを含む意味であって、これらのエレメントが、機能ブロックの形態を有しているか、または、他のタイプのブロック、プログラム、ルーチンまたはエレメントの形態を有しているかにも関係なければ、これらエレメントが、FOUNDATION(商標)FieldbusプロトコルまたはProfibusプロトコル、HARTプロトコル、CANプロトコルなどの如きなんらかの他のプロトコルに準拠しているかとは関係ない。所望ならば、ブロック80、82の基調をなす動作が米国特許第6,017,143号に記載されているように少なくとも部分的に実行または実現されてもよい。上記の米国特許第6,017,143号は本明細書において参照することによりここに援用する。
さらに明らかなように、図2Aにはブロック80、82がSPMブロックを含むように示されているが、ブロック80、82はSPMブロックを必要としなくともよい。たとえば、ブロック80、82の異常動作検出ルーチンは、SPMブロックにより処理されないプロセス変数データを用いて動作することができる。他の具体例では、ブロック80、82は、他のデバイスに設けられている一または複数のSPMブロックにより提供されるデータをそれぞれ受信することができるし、またはそのデータをそれぞれ演算することができる。さらに他の具体例では、多くの典型的なSPMブロックにより提供されていない方法でプロセス変数データを処理することができる。一の具体例では、帯域通過フィルタまたは他のタイプのフィルタの如き有限インパルス応答(FIR)フィルタまたは無限インパルス応答(IIR)フィルタによりプロセス変数データをフィルタリングすることができる。他の具体例では、プロセス変数データがある範囲に留まるように、プロセス変数データをトリミングすることができる。もちろん、このような異なる能力または追加加工能力を提供するために既知のSPMブロックを修正することができる。
たとえば、反応器64、66と関連づけられており、とくにその温度センサまたはトランスミッタと関連づけされているものとして図示されている図2Aのブロック80、82は、それぞれ飛散温度検出ユニットを有しうる。このユニットは、温度センサまたはトランスミッタにより収集されたプロセス変数データを解析し、反応器の温度差変数値が予測される温度差変数値から著しく外れているか否かを判断するようになっている。さらに、ブロック82は、ブロックSPM1−SPM4の如き一または複数のSPMブロックまたはSPMユニットを備えており、これらは、トランスミッタ内のプロセス変数または他のデータを収集し、収集されたデータに対して一または複数の統計計算を実行し、たとえば収集されたデータの平均値、中央値、標準偏差などを決定しうる。ブロック80、82がそれぞれ4つのSPMブロックを備えているものとして示されているが、ブロック80、82は、統計データを収集および判定するために、他のいかなる数のSPMブロックを備えてもよい。
(水素添加分解装置の異常動作検出(AOD)システムの概要)
図3Aは、異常動作検出ブロック80、82内で用いることができる、または、水素添加分解装置の反応器の異常状況防止モジュール用の図2の異常動作検出システム42として用いることができる異常動作検出(AOD)システム100を例示するブロック図である。AODシステム100は、飛散温度の如き水素添加分解装置62または水素添加分解装置反応器64、66の内部に生じたまたは生じている、異常状況と称するの異常動作を検出するために用いられうる。これに加えて、AODシステム100は、たとえば異常状況防止システム35と共に動作させることによって、水素添加分解装置62または反応器64、66の中における異常動作の発生をこれらの異常動作が実際に発生する前に予測し、水素添加分解装置62、反応器64、66またはプロセスプラント10の中で重大な損出が発生する前に、予測された異常動作を防止するステップを取るために用いられうる。
一の具体例では、各反応器がそれに対応するAODシステム100を有しうるが、いうまでもなく複数の反応器に対してまたは水素添加分解装置全体に対して共通のAODシステムが用いられてもよい。上述のように、n個のWABT102と、n−1個のΔT104があり、任意のΔT104の上昇が飛散温度状態を示すことになる。しかしながら、さらに、ΔT104が負荷変数106の関数として正常運動作状態中に変わる場合があるので、AODシステム100は、負荷変数106の値域に対する正常(normal)なまたは基準(baseline)となるΔTの値104を学習するようになっている。
図3Aに示されているように、負荷変数106および各ΔT変数104はそれぞれ対応する回帰ブロック108に供給される。AODシステム100は、各温度差変数ΔTN−1に対する回帰ブロックを有している。下記にさらに詳細に記載される学習(learning)段階では、各回帰ブロック108では、負荷変数から生成されるデータの関数としてΔTを予測するための回帰モデルが構築される。ΔTから生成されたデータおよび負荷変数から生成されたデータには、ΔTデータおよび負荷変数データ、フィルタリングされたまたはその他の方法で処理されたΔTデータおよび負荷変数データ、ΔTデータおよび負荷変数データから生成された統計データなどが含まれうる。 下記にさらに詳細に記載されているように、監視(monitoring)段階では、回帰モデルは、反応器の動作中に負荷変数から生成されるデータの値が与えられるΔTから生成されるデータに対する値を予測する。各回帰ブロックは、負荷変数から生成されたデータのある与えられた値について、ΔTから生成されたデータの予測値とΔTから生成されたデータの監視値との間に偏差(ズレ)があればそれに基づいたステータスを出力する。たとえば、ΔTの監視値がΔTの予測値と著しく外れている場合、回帰ブロック108は「Up」というステータスを出力しうる。この「Up」というのは、対応する温度差変数ΔTに飛散温度が発生していることを意味する。これに対し、「Up」を出力しない場合、回帰ブロック108は「Normal」というステータスを出力しうる。他の具体例では、ΔTの監視平均値がΔTの予測平均値から著しく外れている場合、回帰ブロック108は「Up」というステータスを出力するか、そうでなければ「Normal(正常)」というステータスを出力しうる。ステータス決定ブロック110は、各回帰ブロック108からのステータスを受信し、反応器のステータスを決定する。回帰ブロック108のうちのいずれかが「Up」というステータスを有している場合、反応器のステータスは、対応する温度差値ΔTに対応する「飛散温度」である。しかしながらいうまでもなく、ステータス決定ブロック110は、他の反応器のための回帰ブロック108の如き他の回帰ブロック108からステータスを受信して、水素添加分解装置62のステータスを決定してもよい。ΔTから生成される監視値は、センサ測定、監視されている他のプロセスの測定結果に基づいてモデル化される測定、統計的測定、解析結果などを含むさまざまな方法により導出されてもよい。下記にさらに記載されるように、温度差変数の監視値は、温度差変数の未加工の(生の)監視値であってもよいし、SPMブロックの出力値であってもよいし、または温度差変数から生成される他の値であってもよい。
図3Bは、図3Aに示されている回帰ブロック108の一例を示すブロック図である。図3Bに示されているように、回帰ブロック108は第一のSPMブロック112と第二のSPMブロック114とを有しており、これらは、それぞれモデル116に接続されている。第一のSPMブロック112は、負荷変数を受信し、この負荷変数から第一の統計データを生成するようになっている。第一の統計データは、負荷変数から計算される平均値データ、中央値データ、標準偏差データ、変化率データ、範囲データなどの如きさまざまな種類の統計データのうちのいずれであってもよい。このようなデータは、負荷変数データに関するスライディングウィンドウ法に基づいて算出されてもよいしまたは負荷変数データに関するノンオーバラッピングウインドウ法に基づいて算出されてもよい。一の具体例では、第一のSPMブロック112は、直近の負荷変数の標本およびその前の49の負荷変数の標本の如きユーザ指定の標本採取範囲から平均値データおよび標準偏差データを生成しうる。この具体例では、第一のSPMブロック112により受信された新しい個々の負荷変数標本に対して負荷変数の平均値および負荷変数の標準偏差が生成されうる。他の具体例では、第一のSPMブロック112は、ノンオーバラッピング時間枠を用いて平均値データおよび標準偏差データを生成しうる。この具体例では、5分の時間枠(または他の適切な時間枠)を用いることが可能なので、負荷変数の平均値および/または負荷変数の標準偏差値を5分毎に生成することが可能である。同様に、第二のSPMブロック114は、変数として反応器の断面間(たとえば、WABT1とWABT2との間)の温度差ΔTを受信し、この温度差変数値から、SPMブロック112と同様な方法で指定された標本採取ウィンドウの平均値データおよび標準偏差データの如き第二の統計データを生成する。
モデル116は、SPM112からの独立変数入力(x)である負荷変数入力と、SPM114からの従属変数入力(y)である温度差変数入力とを有している。下記にさらに詳細に記載されているように、モデル116は、負荷変数の関数として温度差変数をモデル化するために、複数のデータセット(x、y)を用いてトレイニングされうる。AODシステムの動作を説明するために、ここでは、温度差変数ΔTが温度差変数Yとして記載されており、温度差変数ΔT1−ΔTN−1のうちのいずれかを指し示すにあたって、ΔTおよびYの両方が交換可能に用いられてもよい。モデル116は、回帰モデルの構築にあたって、独立変数入力および従属変数入力(x、y)としてSPM112、114から負荷変数(X)および温度差変数(Y)の平均値、標準偏差値または他の統計量を用いることが可能である。たとえば、負荷変数および温度差変数の平均値は回帰モデルの(x、y)点として用いられてもよいし、また、標準偏差は、負荷変数の関数としてモデル化されてもよいし、監視段階において異常状況が検出されるときのしきい値の決定に用いられてもよい。したがって、いうまでもなく、AODシステム100は負荷変数の関数として温度差変数をモデル化するものとして記載されているが、当該AODシステム100は、回帰モデルに供与される独立入力および従属入力に基づいて負荷変数から生成されるさまざまなデータの関数として温度差変数から生成されるさまざまなデータをモデル化してもよい。ここでいう回帰モデルに供与される独立入力および従属入力としては、たとえば温度差データおよび負荷変数データ、温度差データおよび負荷変数データから生成され統計データ、ならびに、フィルタリングされたまたは他の方法で処理された温度差変数データおよび負荷変数データが挙げられる。さらに、AODシステム100は、温度差変数の値を予側し、当該温度差変数の予測値を温度差変数の監視値と比較するものとして記載されているが、ここでいう予測値および監視値は、予測および監視された温度差変数データ、温度差変数データから生成される予測および監視された統計データ、ならびに、フィルタリングされたまたは他の方法で処理された予測および監視された温度差変数データの如き温度差変数から生成されるさまざまな予測値および監視値を含んでいる。
また、下記にさらに詳細に記載されているように、モデル116は、一または複数の回帰モデルを有しており、各回帰モデルは異なる動作領域に提供されている。したがって、複数の回帰モデルは、各温度差変数(ΔT1、ΔT2、...、ΔTN−1)に対して提供されてもよいし、各温度差変数に対する回帰モデルは、一般的には水素添加分解装置、および/または、具体的には反応器のさまざまな動作領域に対応している。各回帰モデルは、従属する温度差変数の値を独立負荷変数のある範囲における当該独立負荷変数の関数としてモデル化するという機能を用いることが可能である。回帰モデルは、たとえば線形回帰モデルから構成されていてもよいしまたは他の回帰モデルから構成されていてもよい。一般的に、線形回帰モデルは、関数f(X)、g(X)、h(X)、...を線形に結合したものから構成されている。産業用プロセスのモデル化にあたって、典型的に適切な線形回帰モデルは、Xの一次関数(たとえば、Y=m*X+b)から構成されてもよいし、Xの二次関数(たとえば、Y=a*X2+b*X+c)から構成されてもよい。
図3Bに示されている具体例では、(x、y)点が学習段階の間に格納されるようになっている。学習段階の終わりには、負荷変数の関数として温度差変数の値を予測するための回帰モデルを構築すべく回帰係数が算出される。また、回帰モデルを構築するために用いられる負荷変数の最大値および最小値も格納される。モデル116は、観察された負荷変数値(x)とそれに対応する観察された温度差変数の値(y)との関数として算出されうる(たとえば、A=(XTX)−1XTY)。一の具体例では、回帰は、温度差変数Yの予測値(yp)を負荷変数値(x)に基づいて計算することが可能となるように、次数pの多項式をフィットさせる(たとえば、yp=a0+a1+...+apxp)。一般的に、多項式の次数pはユーザの入力によるものであるが、多項式の次数の決定を自動化する他のアルゴリズムが提供されてもよい。もちろん、高次多項式、正弦関数、対数関数、指数関数、べき関数などの如き他のタイプの関数が用いられてもよい。
トレイニング後、モデル116は、監視段階において、与えられた独立負荷変数入力(x)に基づいて従属する温度差変数の値Yの予測値(yp)を生成させるべく、偏差検出器262により用いられうる。また、偏差検出器118は、モデル116への温度差変数の入力(y)ならびに独立負荷変数の入力(x)をさらに用いる。一般的にいえば、偏差検出器118は、ある負荷変数の値に対する予測値(yp)を算出し、この予測値を「normal(正常)」なまたは「baseline(基準)」となる温度差として用いる。偏差検出器118は、温度差変数の監視値(y)を温度差変数の予測値(yp)と比較する。すなわち、温度差変数の値(y)が予測値(yp)から著しく外れている否か(たとえば、Δy=y−yp)を判断する。温度差変数の監視値(y)が予測値(yp)から著しく外れている場合、このことは、異常状況が生じた、生じているまたは近い将来に生じうるということを示し、偏差検出器118は、偏差示唆表示を生成しうる。たとえば、ΔTの監視値(y)がΔTの予測値(yp)よりも大きくかつこの差がしきい値を超えている場合、異常状況を示す表示(たとえば、「Up」)が生成されうる。そうでない場合は、ステータスは「normal」となる。実施形態によっては、異常状況を示す表示がアラートまたはアラームを含む場合もある。
偏差検出器118は、水素添加分解装置を異常状況について監視することに加えて、負荷変数がモデルの構築およびトレイニングの間に観察された範囲内にあるか否かをさらにチェックしうる。たとえば、偏差検出器118は、監視段階中、負荷変数のある与えられた値が、モデルの学習段階中に用いられた負荷変数の最小値および最大値により決まるような回帰モデルの動作範囲内にあるか否かを監視する。負荷変数の値が範囲外にある場合、偏差検出器118は、「Out of Range(範囲外)」というステータスを出力してもよいし、または、負荷変数が回帰モデルの動作領域外にあるということを示す表示を出力してもよい。回帰ブロック188は、新しい動作領域についての新しい回帰モデルを構築およびトレイニングするためのユーザからの入力を待つようになっていてもよいし、または、自動的に新しい動作領域についての新しい回帰モデルを構築およびトレイニングするようになっていてもよい。下記に、いくつかの具体例をさらに記載する。
当業者にとって明らかなように、AODシステム100および回帰ブロック108に対していろいろな方法で修正を加えてもよい。たとえば、SPMブロック112、114を省略し、負荷変数の未加工値や温度差の値が、回帰モデルの構築のために用いられる(x、y)点としてモデル116に直接提供されるようになっていてもよいし、また、監視のために偏差検出器118に直接提供されてもよい。他の具体例としては、SPMブロック112、114に加えてまたはそれに代えて、他のタイプの処理が使用されてもよい。たとえば、プロセス変数データは、SPMブロック112、114に先立ってまたはSPMブロック112、114の使用に代えて、フィルタリング処理、トリミング処理などが行われてもよい。
これに加えて、モデル116は、単一の独立負荷変数入力(x)、単一の従属変数温度差変数入力(y)および単一の予測値(yp)を有しているものとして示されているが、当該モデル116は、複数の負荷変数の関数として複数の監視変数をモデル化する回帰モデルから構成されていてもよい。たとえば、モデル116は、多重線形回帰(MLR)モデル、主成分回帰(PCR)モデル、部分最小二乗(PLS)モデル、リッジ回帰(RR)モデル、変数部分集合(VSS)モデル、サポートベクターマシン(SVM)モデルなどを含みうる。
AODシステム100は、全体的にまたは部分的に、水素添加分解装置の反応器64、66内に構築されてもよいし、または、反応器64、66もしくは水素添加分解装置のデバイス内に構築されてもよい。一の具体例では、SPMブロック112、134は反応器64の温度センサまたは温度トランスミッタの内部に構築されてもよく、また、モデル116および/または偏差検出器118はコントローラ60または他のデバイスの内部に構築されてもよい。一の実施形態では、AODシステム100は、Fieldbusプロトコルに準拠するシステム内で用いられる機能ブロックの如き機能ブロックとして構築されてもよい。このような機能ブロックは、SPMブロック112、114を有していてもよいし有していなくともよい。他の実施形態では、ブロック108、110,112,114,116,118のうちの少なくともいくつかの各々が機能ブロックとして構築されてもよい。たとえば、ブロック112,114,116,118が回帰機能ブロック108として構築されてもよい。一方、各ブロックの機能をさまざまな方法で分配してもよい。たとえば、偏差検出器118が回帰モデル116を実行して温度差変数の予測値(yp)を提供する代わりに、回帰モデル116が出力(yp)を偏差検出器118に提供するようにしてもよい。この実施形態では、モデル116は、トレイニングされた後、監視されている温度差変数の値(y)の予測値(yp)をある与えられた独立負荷変数入力(x)に基づいて生成すべく用いられうる。モデル116の出力(yp)は偏差検出器118に供給される。偏差検出器118は、回帰モデル116の出力(yp)とともに回帰モデル116への従属変数の入力(x)を受信する。上述のように、偏差検出器118は、従属温度差変数の監視値(y)をモデル116により生成された予測値(yp)と比較して、従属温度差変数の監視値(y)が温度差変数の予測値(yp)から著しく外れているか否かを判断するようになっている。
AODシステム100は、異常状況防止システム35(図1および図2A)と通信可能に接続されている。たとえば、AODシステム100は構成アプリケーション38と通信可能に接続され、ユーザによるAODシステム100の設定を可能としている。たとえば、SPMブロック112、114、モデル116および偏差検出器118のうちの一または複数は、構成アプリケーション38を通じて変更しうる、ユーザによって設定可能なパラメータを有しうる。
これに加えて、AODシステム100は、プロセスプラント内の異常状況防止システム35および/またはプロセスプラント内の他のシステムに情報を提供しうる。たとえば、偏差検出器118またはステータス決定ブロック110により生成された偏差示唆表示は、異常状況防止システム35および/またはアラート/アラームアプリケーション43に供給され、異常状態をオペレータに通知しうる。他の具体例では、モデル116がトレイニングされた後、モデルのパラメータは、オペレータがモデルを調べることができるようにおよび/またはモデルパラメータがデータベースに格納されうるように、異常状況防止システム35および/またはプロセスプラント内の他のシステムに送信してもよい。さらに他の具体例では、AODシステム100は、たとえば偏差が検出された場合にオペレータがそれらの値を閲覧することができるように、(x)(y)および/または(yp)の値を異常状況防止システム35へ供給しうる。
図4は、水素添加分解装置または特に水素添加分解装置62の反応器64のうちの一または複数の内部の異常動作を検出するための方法150を例示するフロー図である。上記のように、この方法150は、図3Aおよび図3Bにおいて例示されるAODシステム100を用いて具象化することができるので、この方法150を用いてAODシステム100の動作について説明する。しかしながら、当業者にとって明らかなように、方法150はAODシステム100とは異なる他のシステムにより具象化されてもよい。ブロック154では、モデル116の如きモデルがトレイニングされる。たとえば、モデルは、温度差変数を負荷変数の関数としてモデル化するように当該モデルを設定するべく、独立負荷変数Xおよび従属温度差変数Yのデータセットを用いてトレイニングされる。このモデルは、負荷変数の異なる範囲に対して、負荷変数の関数として温度差変数を各々モデル化する多重回帰モデルを有しうる。
次いで、ブロック158では、トレイニングされたモデルは、独立負荷変数Xの受信値(x)を用いて、従属温度差変数Yの予測値(yp)を生成する。次いで、ブロック162では、温度差変数の監視値(y)が、対応する予測値(yp)と比較され、温度差が予測温度差から著しく外れているか否かが判断される。たとえば、偏差検出器118は、モデル116の出力(yp)を生成または受信し、それを温度差変数の監視値(y)と比較する。温度差変数の監視値が(yp)から著しく外れていると判断された場合、偏差示唆表示は、ブロック166において生成されうる。たとえば、AODシステム100では、偏差検出器118が示唆表示を生成することが可能である。この示唆表示は、著しい偏差(たとえば、ステータス=「Up」)を検出したことを示すアラート、アラームまたは他のタイプの信号、フラグ、メッセージなどであってもよい。
下記にさらに詳細に記載されているように、モデルが初期トレイニングされた後、および、モデルが従属温度差変数Yの予測値(yp)を生成した後、ブロック280が繰り返されるようにしてもよい。たとえば、プロセス内のセットポイントが変更された場合または独立負荷変数の値が範囲XMIN、XMAXの外にある場合、モデルは再トレイニングされうる。
(モデルの概要)
図5は、図3Bのモデル116の如きモデルを初期トレイニングするための方法200を例示するフロー図である。下記にさらに記載されているように、モデル116のトレイニングはLEARNING状態と称される。ブロック204では、独立負荷変数Xについての少なくとも適切な数のデータセット(x、y)ならびに従属温度差変数Yがモデルをトレイニングするために受信されうる。上述のように、これらのデータセット(x、y)には、温度差データおよび負荷変数データ、フィルタリングされたまたは他の方法で処理された温度差データおよび負荷変数データ、これらの温度差データおよび負荷変数データから生成された統計データなどが含まれる。図3Aおよび図3BのAODシステムでは、モデル116はSPMブロック112、114からデータセット(x、y)を受信しうる。ここで図6Aを参照すると、グラフ220には、モデルにより受信され、モデルが初期トレイニングされている間、AODシステムがLEARNING状態にあることを示す複数のデータセット(x、y)の一例が示されている。具体的にいえば、図6Aのグラフ220は、収集された一群のデータセット222が含まれている。
さらに図5を参照すると、ブロック208では、モデルの有効範囲[XMIN、XMAX]が生成されうる。有効範囲は、モデルが有効である独立負荷変数Xの範囲を示している。たとえば、この有効範囲は、(x)がXMIN以上かつXMAX以下である負荷変数Xの値に対してのみモデルが有効であることを示しうる。一の具体例では、ブロック204で受信されたデータセット(x、y)の中の負荷変数の最小値としてXMINを設定することができ、ブロック204で受信されたデータセット(x、y)の中の負荷変数の最大値としてXMAXを設定することができる。図6Aをさらに参照すると、たとえばXMINが左端のデータセットの負荷変数の値として設定され、また、XMAXが右端のデータセットの負荷変数の値として設定されうる。もちろん、有効範囲の決定は他の方法で具象化されてもよい。図3Aおよび図3BのAODシステム100では、モデルブロック116は有効範囲を生成することができる。
ブロック212では、範囲[XMIN、XMAX]に対する回帰モデルをブロック204で受信されたデータセット(x、y)に基づいて構築することが可能である。下記にさらに記載されている具体例では、MONITORコマンドが発行された後、または、最大数のデータセットが収集された場合、一群のデータセット222に対応する回帰モデルが構築されうる。公知の手法を含むさまざまな手法のうちのいずれが回帰モデルを構築するために用いられてもよいし、また、さまざまな関数のうちのいずれがモデルとして用いられてもよい。たとえば、モデルは、一次方程式、二次方程式、高次方程式などから構成されてもよい。図6Bのグラフ220には、ブロック204で受信したデータセット(x、y)上に重ね合わせられた曲線224が含まれており、データセット(x、y)をモデル化するための一群のデータセット222に対応する回帰モデルが示されている。曲線224に対応する回帰モデルは範囲[XMIN、XMAX]においてに有効である。図3Aおよび図3BのAODシステム100においては、モデルブロック116は、範囲[XMIN、XMAX]についての回帰モデルを構築することができる。
(動作領域変更を含むモデルの利用)
モデルを初期トレイニングした後、このモデルがモデル化したシステムが正常動作領域内の異なる動作領域へ移動する場合がある。たとえば、セットポイントが変更される場合がある。図7は、モデル化されたプロセスが異なる動作領域に移動する場合にモデルが更新されるモデルを用いて、異常動作が生じている、生じた、または、生じる可能性があるか否かを判断するための方法240を例示するフロー図である。この方法240は、図3Aおよび図3BのAODシステム100の如きAODシステムにより具象化されてもよい。もちろん、方法240は、他のタイプのAODシステムにより具象化されてもよい。方法240は、初期モデルが構築された後、実行されてもよい。たとえば、図5の方法200が初期モデルを構築するのに用いられてもよい。
ブロック244では、データセット(x、y)が受信される。図3Aおよび図3BのAODシステム100では、モデル116はたとえばSPMブロック112、114からデータセット(x、y)を受信することができる。次いで、ブロック248では、ブロック244で受信されたデータセット(x、y)が有効範囲にあるか否かが判断されうる。有効範囲は、モデルが有効である範囲を示しうる。図3Aおよび図3BAODシステム100では、モデル116は、ブロック244で受信した負荷変数値(x)を調べてその値が有効範囲[XMIN、XMAX]に入っているか否かを判断しうる。ブロック244で受信したデータセット(x、y)が有効範囲にあると判断された場合、フローはブロック252へ進んでよい。
ブロック252では、従属温度差変数Yの温度差変数予測値(yp)がモデルを用いて生成されうる。具体的にいえば、モデルは、ブロック244で受信した負荷変数値(x)から温度差変数の予測値(yp)を生成する。図3Aおよび図3BのAODシステム100では、モデル116は、SPMブロック112から受信した負荷変数値(x)から温度差変数予測値(yp)を生成する。
次いで、ブロック256では、ブロック244で受信された温度差変数監視値(y)は、温度差変数予測値(yp)と比較されうる。この比較はさまざまな方法で具象化されうる。たとえば、差またはパーセンテージの差が生成されてもよい。他のタイプの比較が用いられても同様によい。ここで図8Aを参照すると、データセットが受信された例がドット226としてグラフ220に示されており、対応する予測値(yp)が「x」として示されている。図8Aのグラフ220には、MONITORING状態でのAODシステム100の動作が示されている。このモデルは、曲線224により示されている回帰モデルを用いて予測(yp)を生成している。図8Aに示されているように、ブロック244で受信された温度差変数監視値(y)と温度差変数予測値(yp)との間の差が−1.754%であることが算出されている。ここで図8Bを参照すると、受信されたデータセットの他の例がドット228としてグラフ220に示されており、対応する温度差変数予測値(yp)が「x」として示されている。図8Bに示されているように、ブロック244で受信された温度差変数監視値(y)と予測値(yp)との間の差が−19.298%であることが算出されている。図3Aおよび図3BのAODシステム100では、偏差検出器118は比較を行うことが可能となっている。
さらに図7を参照すると、ブロック260では、ブロック244で受信された温度差変数監視値(y)がその温度差変数予測値(yp)から著しく外れているか否かがブロック256の比較結果に基づいて判断されうる。ブロック260での判断は、さまざまな方法で具象化されてもよく、どのようにブロック256の比較が具象化されたかに依存するものであってもよい。たとえば、温度差の値がブロック256で生成された場合、この差の値があるしきい値を超えているか否かによって判断されてもよい。このしきい値は、予め決められた値であってもよいしまたは設定可能な値であってもよい。また、しきい値は一定なものであってもよいしまたは変更可能なものであってもよい。たとえば、しきい値は、ブロック244で受信される独立負荷変数Xの値に応じて変更されてもよい。他の具体例では、ブロック256でパーセンテージ差の値が生成された場合、このパーセンテージ差の値が温度差変数予測値(yp)のあるパーセンテージ分を超えるような所定のしきい値パーセンテージを超えているか否かが判断されうる。さらに他の具体例では、連続して二つまたは他の数の比較結果がしきい値を超えた場合にのみ、著しい外れがあると判断されうる。さらに他の具体例では、温度差変数監視値(y)が、温度差変数予測値(yp)の標準偏差のある数だけ温度差変数予測値(yp)を超えた場合にのみ、著しい外れがあると判断されうる。標準偏差は、負荷変数Xの関数としてモデル化されてもよいし、または、トレイニングデータの残余の変数から算出されてもよい。監視されている温度差変数(ΔT1−ΔTN−1)の各々に対して共通しきい値が用いられてもよいし、または、異なるしきい値が温度差変数の一部もしくは全部に対して用いられてもよい。
さらに図8Aを参照すると、ブロック244で受信された温度差変数監視値(y)と温度差変数予測値(yp)との間の差が−1.754%となっている。たとえば偏差が著しいか否かを判断するために10%のしきい値が用いられる場合、図8Aに示されている差の絶対値はこのしきい値未満である。一方、図8Bをさらに参照すると、ブロック244で受信された温度差変数監視値(y)と温度差変数予測値(yp)との間の差が−19.298%となっている。図8Bに示されている差の絶対値はこのしきい値10%を上回っているので、下記に記載するように異常状態示唆表示が生成されうる。図3Aおよび図3BのAODシステム100では、偏差検出器118がブロック260を実行してもよい。
一般的に、温度差変数監視値(y)が温度差変数予測値(yp)から著しく外れているか否かの判断は、公知の手法を含むさまざまな手法を用いて具象化されうる。一の実施形態では、温度差変数監視値(y)が温度差変数予測値(yp)から著しく外れているか否かの判断は、現在値(y)および(yp)を分析することを含みうる。たとえば、温度差変数予測値(yp)から温度差変数監視値(y)を減算しまたはその逆の計算をして、その結果をしきい値と比較することによりその結果がしきい値を超えているか否かを判断する。この手法は、任意選択的に過去の値(y)および(yp)を解析することも含みうる。さらに、この手法は、(y)または(y)と(yp)との差を一または複数のしきい値と比較することをさらに含みうる。一または複数のしきい値の各々は一定なものであってもよいしまたは変更可能なものであってもよい。たとえば、しきい値が、負荷変数Xまたは他の変数の値に応じて変更されてもよい。異なるしきい値が異なる温度差変数(ΔT1、...、ΔT1−N)に用いられてもよい。本明細書において参照することにより援用する、2006年7月25日に出願された、表題が「プロセス変数の期待値からのズレを検出するための方法およびシステム」である米国特許出願第11/492,347号には、プロセス変数が期待値から著しく外れているか否かを検出するためのシステムおよび方法が記載されており、これらのシステムおよび方法のうちのいずれが任意選択的に用いられてもよい。当業者にとって明らかなように温度差変数監視値(y)が温度差変数予測値(yp)から著しく外れているか否かを判断する方法は他にも多くある。さらに、ブロック256とブロック260が組み合わされてもよい。
(y)を(yp)と比較する際に用いられる判断基準(ブロック256)および/または(y)が(yp)から著しく外れているか否かを判断する際に用いられる判断基準(ブロック260)のうちの一部または全部が、たとえば構成アプリケーション38(図1および図2A)を通じてユーザによって設定可能となっていてもよい。たとえば比較のタイプ(たとえば、差の生成、差の絶対値の生成、パーセンテージ差の生成)が設定可能となっていてもよい。また、偏差が著しいか否かの判断の際に用いられる一または複数のしきい値がオペレータによりまたは他のアルゴリズムにより設定可能であってもよい。これに代えて、このような判断基準が容易に設定可能でなくてもよい。
さらに図7を参照すると、ブロック244で受信された温度差変数監視値(y)がその予測値(yp)から著しく外れていないと判断された場合、フローは、ブロック244に戻り、次のデータセット(x、y)を受信しうる。しかしながら、温度差変数監視値(y)がその予測値(yp)から著しく外れていると判断された場合、フローはブロック424へ進みうる。ブロック264では、偏差示唆表示が生成されうる。たとえば、この示唆表示はアラートであってもよいしまたはアラームであってもよい。生成された示唆表示は、たとえばブロック244で受信された値(y)が期待値よりも高いかまたは期待値よりも低いかの如きかさらなる表示を有していてもよい。図8Aを参照すると、ブロック244で受信された温度差変数値(y)と予測値(yp)との間の差が−1.754%であり、しきい値である10%を下回っているので、示唆表示は生成されない。他方、図8Bを参照すると、ブロック244で受信された(y)と予測値(yp)との間の差が−19.298%であり、しきい値である10%を上回っている。したがって、示唆表示が生成される。図3Aおよび図3BのAODシステム100では、偏差検出器118は示唆表示を生成しうる。
さらに図7のブロック248を参照すると、ブロック244で受信されたデータセット(x、y)が有効範囲内にないと判断された場合、フローはブロック268に進みうる。しかしながら、AODシステム100により構築されるモデルは、当該モデルがトレイニングされたデータの範囲において通常有効である。負荷変数Xが、曲線224により示されるようなモデルの制限範囲外にある場合、ステータスは範囲外(out of range)となり、AODシステム100は異常状態を検出することができないことになる。たとえば、図8Cでは、AODシステム100は、有効範囲内にないドット230として示されているデータセットを受信している。このことにより、AODシステム100はOUT OF RANGE状態に移行する。その場合、AODシステム100は、オペレータの命令に応じてまたは自動的に、LEARNING状態にさらに移行するようになっていてもよい。したがって、初期学習期間の後、プロセスが異なる動作領域へ移動した場合、AODシステムは、元の動作範囲用のモデルを維持すると同時に、新しい動作領域についての新しいモデルを学習することが可能となっている。
ここで図9Aを参照すると、図9AはAODシステム100がLEARNING状態へ移行する際、受信したデータセット232が有効範囲内にないときのグラフを示している。具体的にいえば、図9Aのグラフは、収集された一群のデータセット232を含んでいる。さらに図7を参照すると、ブロック268では、ブロック244で受信されたデータセット(x、y)は、後にモデルをトレイニングさせるために用いられうる適切なデータセット群に加えうる。図9Aを参照すると、データセット230は、Xの値がXMIN未満であるデータセットに対応する一群のデータセット232に加えられている。たとえば、ブロック244で受信された負荷変数Xの値がXMIN未満である場合、ブロック244で受信されたデータセット(x、y)は、負荷変数Xの値がXMIN未満である他の受信されたデータセットに対応するデータ群へ加えられうる。同様に、ブロック244で受信された負荷変数Xの値がXMAXより大きい場合、ブロック244で受信されたデータセット(x、y)は、負荷変数の値がXMAXより大きな他の受信されたデータセットに対応するデータ群へ加えられうる。図3Aおよび図3BのAODシステム100では、モデルブロック116がブロック268を実行しうる。
次いで、ブロック272では、一群のデータセット232に対応する回帰モデルを構築するためにブロック268でデータセットが加えられたデータ群内に十分なデータセットが存在するか否かが判断されうる。この判断はさまざまな手法を用いて具象化されてもよい。たとえば、一群内のデータセットの数を最小数と比較し、一群内のデータセットの数が少なくともこの最小数である場合、回帰モデルを構築するための十分なデータセットが存在していると判断されうる。この最小数は、当業者に対して公知となっている手法を含むさまざまな手法を用いて選択されてもよい。回帰モデルを構築するための十分なデータセットが存在すると判断された場合、図10に関して下記にさらに詳細に記載されているように、ブロック276でモデルが更新されうる。一方、回帰モデルを構築するための十分なデータセットが存在しないと判断された場合、フローは、ブロック244に戻り、次のデータセット(x、y)を受信しうる。他の具体例では、回帰モデルを構築させるべく、MONITORコマンドがオペレータにより発生されうる。
図10は、現在の有効範囲[XMIN、XMAX]外のデータセットについての回帰モデルを構築するために群内に十分なデータセットが存在すると判断された後でモデルを更新するための方法276を例示するフロー図である。ブロック304では、新しい回帰モデルのための範囲[X’MIN、X’MAX]が求められうる。この有効範囲は、新しい回帰モデルが有効である独立負荷変数Xの範囲を示しうる。たとえば、有効範囲は、(x)がX’MIN以上でありかつX’MAX以下である負荷変数の値(x)の範囲でのみモデルが有効であることを示しうる。一の具体例では、X’MINは一群のデータセット(x、y)の中の負荷変数の最小値として設定され、X’MAXは一群のデータセット(x、y)の中の負荷変数の最大値として設定されうる。さらに図9Aを参照すると、X’MINは群232内の左端のデータセットの負荷変数の値として設定され、X’MAXは群232内の右端のデータセットの負荷変数の値として設定されうる。図3Aおよび図3BのAODシステム100では、モデルブロック116が有効範囲を生成しうる。
ブロック308では、この範囲[X’MIN、X’MAX]における回帰モデルを上記の群の中のデータセット(x、y)に基づいて構築しうる。回帰モデルを構築するにあたって公知の手法を含むさまざまな手法のうちのいずれを用いてもよいし、また、モデルとしてさまざまな関数のうちのいずれを用いてもよい。たとえば、モデルは、一次方程式、二次方程式などから構成されてもよい。図9Bでは、群232上に重ね合わせられた曲線234は、群232の中のデータセットをモデル化するために構築された回帰モデルを示している。曲線234に対応する回帰モデルは範囲[X’MIN、X’MAX]において有効であり、また、曲線224に対応する回帰モデルは範囲[XMIN、XMAX]において有効である。図3Aおよび図3BのAODシステム100では、モデル116は、範囲[X’MIN、X’MAX]用の回帰モデルを構築することが可能である。
説明を容易にするために、ここでは範囲[XMIN、XMAX]を[XMIN_1、XMAX_1]と呼び、範囲[X’MIN、X’MAX]を[XMIN_2、XMAX_2]と呼ぶことにする。これに加えて、範囲[XMIN_1、XMAX_1]に対応する回帰モデルをf1(x)と呼び、範囲[XMIN_2、XMAX_2]に対応する回帰モデルをf2(x)と呼ぶことにする。したがって、モデルは次のように表わされうる:
さらに図10を参照すると、ブロック316では、曲線224と曲線234との間の動作領域についての範囲[XMIN_1、XMAX_1]および範囲[XMIN_2、XMAX_2]に対応する回帰モデル間に補間モデルが構築されうる。下記に記載の補間モデルは線形関数を有しているが、他の実施形態では、二次関数の如き他のタイプの関数が用いられてもよい。XMAX_1がXMIN_2よりも小さい場合、補間モデルは下記のように算出されうる:
同様に、XMAX_2がXMIN_1よりも小さい場合、補間モデルは下記のように算出されうる:
したがって、モデルは下記のように表されうる:
XMAX_1がXMIN_2よりも小さくかつXMAX_2がXMIN_1よりも小さい場合、補間モデルは下記のように表わされうる:
方程式1、4および5から分かるように、モデルは複数の回帰モデルを含んでもよい。具体的にいえば、第一の回帰モデル(すなわち、f1(x))は、第一の動作領域(すなわち、xMIN_1≦x≦xMAX_1)の従属温度差変数Yをモデル化するために用いられ、第二の回帰モデル(すなわち、f2(x))は、第二の動作領域(すなわち、xMIN_2≦x≦xMAX_2)の従属温度差変数Yをモデル化するために用いられうる。これに加えて、式4および式5から明らかなように、モデルは、これらの回帰モデルに対応する動作領域間において温度差変数Yをモデル化するための補間モデルをさらに有しうる。
さらに図10を参照すると、ブロック320では、有効範囲が更新されうる。たとえば、XMAX_1がXMIN_2よりも小さい場合、XMINがXMIN_1に設定され、XMAXがXMAX_2に設定されうる。同様に、XMAX_2がXMIN_1よりも小さい場合、XMINがXMIN_2に設定され、XMAXがXMAX_1に設定されうる。図9Cには、新しい有効範囲を有する新しいモデルが示されている。図7および図10を参照すると、モデルは方法276の如き方法を用いて複数回数更新されうる。図9Cから明らかなように、元のモデルが温度差変数Yの「normal(正常)」値を表しているため、元の動作範囲についての元のモデルは保持されている。そうでなければ、元のモデルが連続して更新された場合に、モデルが不良状態に向けて更新されてしまい、異常状況が検出されなくなってしまう恐れがある。プロセスが新しい動作地域へ移行する場合、新しいモデルを構築するためにプロセスが依然として正常な状態に置かれていると仮定され、新しいモデルが新しい動作領域で生じるシステム内のさらなる異常状況を検出するために用いられてもよい。したがって、水素添加分解装置のモデルは、さまざまな動作領域に対応するプロセスモデルとして永続的に拡張されうる。
異常状況防止システム35(図1および図2A)は、たとえば図6A、図6B、図8A、図8B、図8C、図9A、図9B、図9Cのうちの一部または全部に類似するグラフを表示デバイス上に表示させうる。たとえば、AODシステム100がモデル判断基準データをたとえば異常状況防止システム35またはデータベースへ提供する場合、異常状況防止システム35は、どのようにしてモデル116が従属温度差変数Yを独立負荷変数Xの関数としてモデル化するかを示す表示画面を生成するためにこのデータを用いうる。たとえば、この表示画面は、図8A、図8Bおよび図9Cのグラフのうちの一または複数に類似するグラフを有しうる。任意選択的に、AODシステム100は、モデル116の構築に用いられたデータセットのうちの一部または全部をたとえば異常状況防止システム35またはデータベースへさらに提供しうる。この場合、異常状況防止システム35は、図6A、図6B、図9Aおよび図9Bのうちの一または複数と類似するグラフを有する表示画面を生成するためにこのデータを用いてもよい。任意選択的に、AODシステム100は、たとえば異常状況防止システム35またはデータベースにAODシステム100がその監視段階中に評価するデータセットのうちの一部または全部をさらに提供しうる。これに加えて、AODシステム100は、データセットのうちの一部または全部に対する比較データをたとえば異常状況防止システム35またはデータベースへさらに提供してもよい。この場合、一の具体例として、異常状況防止システム35は、図8Aおよび図8Bグラフのうちの一または複数と類似するグラフを有する表示画面を生成するためにこのデータを用いてもよい。
(AODシステムの手動制御)
図5、図7および図10に関して記載されたAODシステムでは、モデルは、ある動作領域における十分なデータセットが得られたとき自動的に更新しうる。しかしながら、このような更新は人間のオペレータが許可しない限り行われないことが望ましい。これに加えて、受信データセットが有効動作領域におけるものである場合であっても人間のオペレータがモデルを更新させることが可能であることが望ましい。
図11は、図3Aおよび図3BのAODシステム100の如きAODシステムの他の動作に対応する状態遷移図550の例である。状態遷移図550に対応する動作により、人間のオペレータはAODシステムに対するさらなる制御が可能となる。たとえば、下記により詳細に記載されているように、AODシステムのモデルをLEARNING状態554へ移行させることをオペレータが望むとき、当該オペレータはLEARNコマンドをAODシステムに送信させうる。一般的にいえば、下記にさらに詳細に記載されているLEARNING状態554では、AODシステムは回帰モデルの構築のためのデータセットを取得するようになっている。同様に、AODシステムが、回帰モデルを構築し、入力されるデータセットを監視し始めることをオペレータが望むとき、当該オペレータはMONITORコマンドをAODシステムに送信しうる。一般的にいえば、AODシステムは、MONITORコマンドに応答して、MONITORING状態558へ移行しうる。
AODシステムの初期状態はたとえばUNTRAINED状態560であってもよい。AODシステムは、LEARNコマンドを受信したとき、UNTRAINED状態560からLEARNING状態554へ移行しうる。AODシステムは、MONITORコマンドを受信したとき、UNTRAINED状態560に留まりうる。任意選択的に、AODシステムがまだトレイニングされていないことをオペレータに通知するための示唆表示が表示デバイスに表示されうる。
OUT OF RANGE状態562では、各受信データセットが解析され、当該各受信データセットが有効範囲にあるか否かが判断される。受信データセットが有効範囲内にない場合、AODシステムはOUT OF RANGE状態562に留まりうる。一方で、受信データセットが有効範囲内にある場合、AODシステムはMONITORING状態558へ移行しうる。これに加えて、AODシステムは、LEARNコマンドを受信した場合、LEARNING状態554へ移行しうる。
LEARNING状態554では、AODシステムは、収集されたデータセットに対応する一または複数の動作領域において回帰モデルを構築するためにデータセットを収集しうる。これに加えて、AODシステムは、任意選択的に、最大数のデータセットを受信したか否かをチェックしうる。たとえば、最大数は、AODシステムが利用可能な格納部により決定されうる。したがって、最大数のデータセットが受信された場合、このことは、AODシステムがたとえばデータセットの格納のために利用可能なメモリが少なくなっているまたは少なくなる恐れがあることを示しうる。一般的に、最大数のデータセットを受信したと判断された場合、または、MONITORコマンドを受信した場合、AODシステムのモデルが更新され、AODシステムがMONITORING状態558へ移行されうる。
図12は、LEARNING状態554における動作方法600を例示するフロー図である。ブロック604では、MONITORコマンドを受信したか否かが判断されうる。MONITORコマンドが受信された場合、フローはブロック608へ進みうる。ブロック608では、回帰モデルを構築するための最小数のデータセットが収集されたか否かが判断されうる。最小数のデータセットが収集されていない場合、AODシステムはLEARNING状態554に留まりうる。任意選択的に、最小数のデータセットがまだ収集されていないためAODシステムが依然としてLEARNING状態に留まっていることをオペレータに通知するための示唆表示が表示デバイスに表示されてもよい。
それに対して、最小数のデータセットが収集された場合、フローはブロック612へ進みうる。図13を参照してさらに詳細に記載されるように、ブロック612では、AODシステムのモデルが更新されうる。次いで、ブロック616では、AODシステムはMONITORING状態558へ移行されうる。
ブロック604で、MONITORコマンドが受信されていないと判断された場合、フローはブロック620へ進み、ここで、新しいデータセットが受信される。次いで、ブロック624では、受信データセットが、適切なトレイニンググループに加えられうる。適切なトレイニンググループは、たとえばデータセットの負荷変数の値に基づいて決定されうる。例示される具体例では、負荷変数の値が、モデルの有効範囲のXMINよりも小さい場合、このデータセットは第一のトレイニンググループに加えられうる。また、負荷変数の値がモデルの有効範囲のXMAXより大きい場合、このデータセットは第二のトレイニンググループに加えられうる。
ブロック628では、最大数のデータセットが受信されたか否かが判断されうる。最大数のデータセットが受信された場合、フローはブロック612へ移行し、また、AODシステムは上述のMONITORING状態558へ最終的に移行する。これに対して、最大数のデータセットが受信されていない場合、AODシステムはLEARNING状態554に留まることになる。当業者にとって明らかなように、方法600に対してさまざまな修正が加えられてもよい。一の具体例では、ブロック628で最大数のデータセットが受信されていると判断された場合、AODシステムはトレイニンググループに対してデータセットを加えることを停止するだけでもよい。これに加えてまたはこれに代えて、AODシステムは、ユーザにモデルの更新の許可を促すようにしてもよい。この実施形態では、ユーザがモデルの更新を許可しない限り、最大数のデータセットが取得されたとしてもモデルは更新されないことになる。
図13は、図12のブロック612を具象化するために用いられうる方法650を例示するフロー図である。ブロック654では、範囲[X’MIN、X’MAX]が新しく収集されたデータセットを用いて構築される回帰モデルのために決定される。この範囲[X’MIN、X’MAX]は、公知の手法を含むさまざまな手法を用いて具象化されうる。ブロック658では、この範囲[X’MIN、X’MAX]に対応する回帰モデルが、図12を参照して記載されているように収集されトレイニンググループに加えられたデータセットのうちの一部または全部を用いて作成されうる。この回帰モデルは、公知の手法を含むさまざまな手法を用いて構築されうる。
ブロック662では、これがモデルの初期トレイニングであるか否かが判断されうる。一の具体例では、有効範囲[XMIN、XMAX]が、モデルがまだトレイニングされていないことを示す予め決められた範囲であるのか否かが判断されうる。モデルの初期トレイニングである場合、フローはブロック665に進み、ここで、有効範囲[XMIN、XMAX]がブロック654で決められた範囲に設定されることになる。
ブロック662で、これがモデルの初期トレイニングでないと判断されると、フローはブロック670へ進みうる。ブロック670では、範囲[X’MIN、X’MAX]が有効範囲[XMIN、XMAX]とオーバーラップするか否かが判断される。オーバーラップする場合、フローはブロック674へ進み、ここで、一または複数の他の回帰モデルまたは補間モデルの範囲がオーバーラップした割合に照らして更新されうる。任意選択的に、他の回帰モデルまたは補間モデルのうちの一の範囲が範囲[X’MIN、X’MAX]内に完全に含まれる場合、その他の回帰モデルまたは補間モデルは捨てられてもよい。このことは、たとえばメモリ資源の節約を補助しうる。ブロック678では、必要ならば、有効範囲が更新されてもよい。たとえば、X’MINが有効範囲のXMINより小さい場合、有効範囲のXMINがX’MINに設定されてもよい。
ブロック670では、範囲[X’MIN、X’MAX]が有効範囲[XMIN、XMAX]とオーバーラップしないと判断された場合、フローはブロック682へ進みうる。ブロック682では、必要ならば、補間モデルが構築されてもよい。ブロック686では、有効範囲が更新されうる。ブロック682、686は、図10のブロック316、320に関して記載されている方法と同様な方法で具象化されうる。
当業者にとって明らかなように、方法650に対していろいろな変更を加えることができる。一の具体例では、範囲[X’MIN、X’MAX]が有効範囲[XMIN、XMAX]とオーバーラップする場合、範囲[X’MIN、X’MAX]ならびにその他の回帰モデルおよび補間モデルの動作範囲のうちの一または複数は、これらの範囲のうちのいずれにもオーバーラップしないように、変更されてもよい。
図14は、MONITORING状態558における動作方法700を例示するフロー図である。ブロック704では、LEARNコマンドが受信されたか否かが判断されうる。LEARNコマンドが受信されている場合、フローはブロック708へ進みうる。ブロック708では、AODシステムはLEARNING状態554へ移行しうる。LEARNコマンドが受信されていない場合、フローはブロック712へ進みうる。
ブロック712では、上述のように、データセット(x、y)が受信されうる。次いで、ブロック716では、受信されたデータセット(x、y)が有効範囲[XMIN、XMAX]内にあるか否かが判断されうる。このデータセットが有効範囲[XMIN、XMAX]外にある場合、フローはブロック720へ進み、ここで、AODシステムがOUT OF RANGE状態562へ移行しうる。しかしながら、ブロック716でデータセットが有効範囲[XMIN、XMAX]内にあると判断された場合、フローはブロック724、728、732へ進みうる。図4を参照して記載されているように、ブロック724、728および732は、それぞれ対応するブロック158、162および166と同様に、具象化されうる。
図11の状態遷移図550、図12のフロー図600、図13のフロー図650および図14のフロー図700についての説明をさらに補足するために、図6A、図6B、図8A、図8B、図8C、図9A、図9Bおよび図9Cをさらに参照する。図6Aには、モデルが初期トレイニング中にある間、LEARNING状態554にあるAODシステムのグラフ220が示されている。具体的にいえば、図6Aのグラフは、収集された一群のデータセット222を含んでいる。オペレータがMONITORコマンドを発行した後で、または、最大数のデータセットが収集された場合に、一群のデータセット222に対応する回帰モデルが構築されうる。図6Bのグラフ220は、一群のデータセット222に対応する回帰モデルを示す曲線224を含んでいる。この次に、AODシステムはMONITORING状態558へ移行しうる。
図8Aのグラフ220には、MONITORING状態558にあるAODシステムの動作が示されている。具体的にいえば、AODシステムは、有効範囲内にあるデータセット226を受信する。モデルは、曲線224により示されている回帰モデルを用いて、予測値yp(図8Aのグラフ内の「x」により示されている)を生成する。図8Cでは、AODシステムは、有効範囲内にないデータセット230を受信する。これにより、AODシステムは、OUT OF RANGE状態562に移行しうる。
オペレータがLEARNコマンドを発行させた場合、AODシステムはLEARNING状態554へ再び移行する。図9Aのグラフ220には、AODシステムがLEARNING状態554に移行した後の当該AODシステムの動作が示されている。具体的にいえば、図9Aのグラフは、収集された一群のデータセット232を含んでいる。オペレータがMONITORコマンドを発行した後で、または、最大数のデータセットが収集された場合に、一群のデータセット232に対応する回帰モデルが構築されうる。図9Bのグラフ220は、一群のデータセット232に対応する回帰モデルを示す曲線234を含んでいる。次いで、曲線224と曲線234との間の動作領域に対する補間モデルが構築されうる。
次いで、AODシステムはMONITORING状態558へ再移行しうる。図9Cのグラフ220には、MONITORING状態558で動作するAODシステムが示されている。具体的にいえば、AODシステムは、有効範囲内にあるデータセット236を受信する。モデルは、図9Bの曲線234により示されている回帰モデルを用いて、予測値yp(図9Cのグラフ内の「x」により示されている)を生成する。
オペレータが再びLEARNコマンドを発行させると、AODシステムは再びLEARNING状態554へ移行し、この間に、一群のデータセットがさらに収集される。オペレータがMONITORコマンドを発行した後で、または、最大数のデータセットが収集された場合に、この一群のデータセットに対応する回帰モデルが構築されうる。その他の回帰モデルの範囲は更新されてもよい。たとえば、曲線224、234に対応する回帰モデルの範囲は、これら二つの間に回帰モデルを加えたことによって、拡げられてもよいしまたは狭められてもよい。これに加えて、曲線224、234に対応する回帰モデル間の動作領域についての補間モデルは、曲線224と曲線234との間の曲線に対応する新しい回帰モデルと置き換えられてもよい。したがって、所望ならば、補間モデルはAODシステムに付随するメモリから削除されてもよい。AODシステムは、MONITORING状態558に移行した後、上述のように作動しうる。
AODシステムの一の態様は、AODシステムによって提供されるさまざまな異常状況防止能力に対するユーザの相互作用を促進するために本明細書に記載されたAODシステムへ統合されるグラフィカルユーザインターフェイス(GUI)を提供するユーザインタフェースルーチンである。しかしながら、より詳細にGUIを説明する前に、GUIが任意の適切なプログラム言語およびプログラム技術を用いて実現される一または複数のソフトウェアルーチンを有しうることを認識する必要がある。さらに、GUIを構成するソフトウェアルーチンは、たとえばプラント10内のワークステーション、制御装置などの如き単一処理ステーションまたはユニット内に格納および処理されてもよく、またはGUIのソフトウェアルーチンは、複数の処理ユニットを利用して分散する方法で格納および実行されてもかまわない。これらの処理ユニットは、AODシステム内において互いに通信可能に接続されている。
好ましくは、必要というわけではないが、GUIは良く知られたグラフィカルウインドウ式構造および外見を用いて実現されうる。ここでは、相互リンクした複数のグラフィカルビューまたはグラフィカルページが一または複数のプルダウンメニューを有しており、このプルダウンメニューにより、ユーザは所望の方法でそれらのページを行き来し、特定の種類の表示を閲覧および/または検索することができる。上述されたAODシステムの特徴および/または能力は、そのGUIの一または複数の対応するページ、ビュー、または表示画面を介して、たとえば表示され、アクセスされ、呼び出されうる。さらに、GUIを構成するさまざまな表示画面は、論理的な方法で相互にリンクされており、ユーザは迅速にかつ容易にすべての表示画面を行き来して特定の種類の情報の検索またはAODシステムの特定の機能へのアクセスおよび/またはその呼び出しを行うことができる。
一般的にいえば、本明細書で記載されるGUIは、プロセス制御領域、プロセス制御ユニット、プロセス制御ループ、プロセス制御デバイスなどの分かり易いグラフィカル画像またはグラフィカル表示画面を提供する。これらのグラフィカル表示画面の各々は、GUIにより表示されている特定のビューに掲載されたステータス表示およびステータス示唆表示(これらのうちの一部または全部が上述のAODシステムにより生成されうる)を有しうる。ユーザは、任意のビュー、ページまたは表示画面の中に示されている示唆表示を用いて、表示画面内に示されている水素添加分解装置または水素添加分解装置の反応器に問題が存在するか否かを迅速に判断することが可能となる。
これに加えて、GUIは、水素添加分解装置内に発生した問題または今にも発生しうる異常状況の如き問題に関するメッセージをユーザに提供してもよい。これらのメッセージは、問題を記述し、現在の問題を回避するために実施しうるシステムに対する変更の可能性を示唆し、または潜在的な問題を回避するために実施しうるシステムに対する変更を示唆し、問題を解決または回避するために遂行されうる行動計画を記述するなどのグラフィカル表示および/またはテキスト表示を備えうる。
図15〜図19は、AODシステム用に生成され、オペレータに向けて表示されうる表示画面の具体例を示す図である。図示されている具体例では、図2Bに示されている反応器64、66のうちの一つの如き水素添加分解装置の反応器の図600が表示されている。もちろんいうまでもなく、水素添加分解装置の複数の反応器が表示されてもよい。監視中の反応器は、断面温度が測定される反応器の四つの断面または「ベッド」を有しており、断面または「ベッド」の数は反応器に応じて変更されてもよい。平均ベッド温度(WABT1−WABT4)の如き各断面の温度は各断面に対して表示される。図2Bに関して上記されているように、各断面のWABTは、断面で測定される複数の温度測定値T1の加重平均として提供されうる。
各対のWABTの間の温度差(ΔT1−ΔT3)は算出され表示されるようになっている。一の実施形態では、ΔTを示す図は監視されているΔTの数を反映するためにAODシステムにより自動的に調節されうる。図15に示されているように、ボタン602は各ΔTに関連づけされており、それが選択されると、それに応答してフェイスプレート604が作成される。ボタンが例示されているが、ある温度差変数ΔTに関するフェイスプレート604を作成するためにまたは表示画面により掲載されている複数の選択肢のうちのいずれかを実行するために、ラジオボタン、ドロップダウンメニューまたは他の図式のリンクの如き他の選択方法が用いられてもよいし、あるいは、図式ではない選択方法(たとえば、キーボード、音声など)が用いられてもよいことは言うまでもない。
フェイスプレート604は、これに限定されるわけではないが、モード、ステータス、監視されている現在のΔT(y)、予測されたΔT(yp)、現在の回帰モデル、回帰モデルの適合性などを含むさまざまな情報を含んでいる。また、フェイスプレートは、たとえば学習の長さ、統計計算の長さ、回帰次数およびしきい値範囲の如きユーザによって設定可能なパラメータを制御する機能をさらに備えうる。ユーザによって設定可能なパラメータは、データ入力、グラフィカル操作または複数の設定方法のいずれかにより制御されうる。
飛散温度状態を示すΔTのうちのいずれかに著しい上昇などが検出されることにより異常状態が検出されると、アラートまたは他の示唆表示が作成されうる。ここで、図16を参照すると、温度差変数ΔT1の監視値(y)が温度差変数ΔT1の予測値(yp)から著しく外れている場合、異常状態に関連づけされている温度差変数の図が強調表示606され、また、表示画面の下部にあるアラームバナーがアラーム608を示す。もちろん、アラートを表示する他の方法が用いられてもよい。
ユーザは、たとえばアラームバナーのアラーム608を選択することによりまたは強調表示された温度差変数606を選択することにより、異常状態示唆表示に関するさらなる表示を要求することが可能となる。ここで図17を参照すると、さらなる表示の要求に応答して異常状態に関する要約メッセージ610が作成される。この要約メッセージは、温度差変数監視値(y)(「現在のΔT:54.1°F」のように示される)および温度差変数予測値(yp)(「予測値ΔT:41.2°F」のように示される)の如き異常状態についての少なくともなんらかのさらなる表示を提供する。
図17から分かるように、要約メッセージ610は、異常状態に関するさらに詳細な表示についての図式リンクを提供するようになっている。ここで図18を参照すると、異常状態に関するさらに詳細な表示を示している表示画面ウィンドウが作成されている。さらに詳細な表示には、これに限定されるわけではないが、異常状態を解決するための命令(たとえば、温度調節、シャットダウン、交換部品命令、作業命令など)の如き異常状態に対応するためのガイド付き支援が含まれる。
図19は、オペレータによるAODシステムの設定および閲覧を可能とするために作成されうる表示画面の一例である。たとえば、AODシステムの操作は制御モジュールとして具象化されてもよい。この制御モジュールは、限定されるわけではないが、エマソンプロセスマネージメント社により販売されている、DeltaV(商標)制御システムおよびOvation制御システムを有しうる。他の実施形態では、AODシステムの操作は、エマソンプロセスマネージメントにより販売されているRosemount3420のようなフィールドデバイスインターフェイスモジュールとして具象化されうる。さらに他の実施形態では、AODシステムの操作は、独立型のアルゴリズムとして具象化されうる。図19の具体例では、AODシステムの操作は、DeltaV(商標)に実装される異常状況予防モジュールとして例示されており、オペレータによるAODシステムの設定を可能としている。たとえば、オペレータは、AODシステムのLEARN段階とMONITOR段階を制御し、含めるべきWABTを指定し、必要ならば使用する統計ブロックを指定し、自動動作モードまたは手動動作モードを指定し、学習長さを変更し、統計計算時間を変更し、異なる動作領域の再学習を可能とし、偏差しきい値またはAODシステムに関する複数の設定可能な選択肢のうちのいずれかを指定することが可能である。
回帰モデルとして単一の独立変数の関数である単一の従属変数からなる線形の回帰モデルが用いられている具体例が記載されているが、当業者にとって明らかなように、他の線形の回帰モデルおよび非線形の回帰モデルが用いられてもよい。また、当業者にとって明らかなように、線形のまたは非線形の回帰モデルが複数の独立変数の関数として複数の従属変数をモデル化してもよい。
本明細書に記載のAODシステム、モデル、回帰モデル、補間モデル、偏差検出器、論理ブロック、方法ブロックなどは、ハードウェア、ファームウェアおよびソフトウェアのいかなる組み合わせを用いて具象化されてもよい。したがって、本明細書に記載のシステムおよび手法は、標準的な多目的型のプロセッサにより実現されてもよいし、または、所望ならば特定用途向けハードウェアまたはファームウェアを用いて実現されてもよい。ソフトウェアにより実現された場合、当該ソフトウェアは、磁気ディスク、レーザディスクまたは他の格納媒体の如き任意のコンピュータが読取可能なメモリ内、コンピュータのRAM、ROMまたはフラッシュメモリ内、プロセッサ内、I/Oデバイス内、フィールドデバイス内、インターフェイスデバイス内などに格納されうる。同様に、当該ソフトウェアは、たとえばコンピュータが読取可能なディスクまたは他の移送可能なコンピュータ格納機構上の方法または通信媒体を介した方法を含むいかなる公知のまたは所望の移送方法を通じて、ユーザまたはプロセス制御システムへ移送されてもよい。通常、通信媒体は、搬送波または他の搬送機構の如き変調データ信号で、コンピュータが読取可能な命令、データ構造、プログラムモジュールまたは他のデータを具象化するようになっている。用語「変調データ信号」は、その信号内に情報をコード化するように設定または変更された一または複数のその特性を有した信号のことを意味する。たとえば一例であってこれに限定されるものではないが、通信媒体は、有線ネットワークまたは直接式有線接続(direct−wired connection)などの有線媒体、ならびに、音響、無線周波数、赤外線および他の無線媒体の如き無線媒体を含む。したがって、当該ソフトウェアは、電話回線、インターネットなどの如き通信チャンネルを通じてユーザまたはプロセス制御システムへ移送されてもよい(このことは、このようなソフトウェアを移送可能な格納媒体通じて移送することと同一または交換可能なことであると考えられる)。
上記の記載のように、本発明は特定の実施形態を参照して記載されているが、これらの実施形態は、例示のみを意図したものであって、本発明を限定することを意図したものではない。当業者にとって明らかなように、開示された実施形態に対して本発明の技術思想および技術範囲から逸脱することなく変更、追加または削除を加えうる。