JP4960662B2 - 生分解性疑似餌 - Google Patents

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本発明は、環境へ与える影響が少ない生分解性疑似餌に関し、詳細には、使用中の吸水膨潤や破断等に対する耐久性が向上して満足な使用可能時間が確保される生分解性疑似餌に関する。
近年、趣味としての釣りの人気が上昇し、釣り人口が増加しているが、これに伴い、疑似餌や釣り糸などの釣り具が大量に環境中に放置されることによって生物や自然環境へ及ぼす影響が顕著になっている。このため、環境保護の観点から、環境中に放置しても分解するような釣り具が必要とされている。
上記ニーズに対応すべく、生分解性を有する物質を用いた疑似餌の製造が研究され、例えば、下記特許文献1では、生分解性合成高分子を用いた疑似餌が提案されている。また、蒟蒻や多糖類、寒天等のような天然素材の利用も検討されており、例えば、下記特許文献2では蒟蒻製疑似餌が、下記特許文献3では寒天を利用した疑似餌が、下記特許文献4ではカードランを用いた疑似餌が、下記特許文献5ではゼラチンを利用した疑似餌が提案されている。
特開2005−143413号公報 特開平10−084884号公報 特開平09−322676号公報 特開2001−309737号公報 特開2000−060363号公報
合成材料は、必要とされる材料特性に近づけるための分子設計の変更が可能であるが、自然環境下での分解性が不十分となるおそれがある。又、プラスチック製疑似餌に用いられる添加剤には、環境ホルモンとして作用する疑いのある成分もあり、予測不可能な生態系への影響が懸念されることから、疑似餌の素材としては天然素材の使用が望ましい。
一方、天然素材は生分解性が良いが、素材自体の強度や耐熱性等が高くないため、天然素材の疑似餌は、引き裂き強度不足により針から外れ易い。このため、上記特許文献においては、添加剤の配合、酵素処理、化学処理等によって材質が改善されているが、満足なものは得られ難く、また、吸水膨潤や耐熱性不足などの問題もあることから、現状において市場に提供されているのは、カードラン製の疑似餌のみである。
本発明は、上述の点を解決し、天然素材で構成され、実用に耐え得る引き裂き強度及び耐熱性を備え、吸水膨潤による強度低下等の問題が解決された生分解性疑似餌の提供を可能とすることを課題とする。
また、本発明は、副産物として扱われている天然素材の有効利用を促進でき、現在市場に提供されている生分解性疑似餌と同等又はそれ以上の物性を備える生分解性疑似餌を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ゼラチンを用いて疑似餌を製造するプロセスを工夫することによって実用に耐え得る疑似餌を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の一態様によれば、生分解性疑似餌は、JIS K6503に準じて測定される粘度が4.0mPa・s以上となるゼラチンゲル化物を主成分とすることを要旨とする。
又、本発明の他の態様によれば、生分解性疑似餌は、エポキシ架橋剤及びアルデヒド架橋剤のうちの少なくとも一種で架橋処理されたゼラチンゲル化物を主成分とし、JIS K6503に準じた粘度測定において不融物が残存することを要旨とする。
更に、本発明の他の態様によれば、生分解性疑似餌は、エポキシ架橋剤及びアルデヒド架橋剤のうちの少なくとも一種の架橋成分とゼラチンとを含有するゼラチン組成物のゲル化物で形成されることを要旨とする。
上記架橋成分の含有量は、前記ゼラチンの含有量の1〜10質量%としてよい。
上記生分解性疑似餌は、JIS K6503に準じて測定される粘度が4.0mPa・s以上となる融解ゼラチンをゲル化して疑似餌に成形することによって得られる。
あるいは、疑似餌のゼラチンを架橋する架橋処理を設け、架橋処理において、エポキシ架橋剤及びアルデヒド架橋剤のうちの少なくとも一種を用いた疑似餌全体又は疑似餌表面のゼラチンの架橋を行うことによって得られる。
上記疑似餌表面の架橋は、成形した疑似餌を架橋剤水溶液に浸漬して施すことができ、架橋剤で処理した後に、疑似餌を60〜110℃の温度に加熱すると柔軟性が向上する。
上記生分解性疑似餌は、耐熱温度40℃以上で提供でき、吸水後の引き裂き強度を100gf以上に維持可能である。架橋処理によって膨潤度90%以下のものが提供可能であり、JIS K6503に準じた粘度測定において不融物が残存するものとして区別し得る。
本発明によれば、ゼラチンを用いて実用に耐え得る生分解性疑似餌を製造することができ、自然環境に放置される釣り具による自然破壊の防止に貢献でき、又、ゼラチン原料として、皮革製品の製造における副産物である床皮を使用可能であり、副産物の有効利用に貢献することができる。
一般に皮革製品の製造に用いられる原料皮は、乳頭層(銀面)及び網状層からなる構造を有し、鞣工程前に適当な厚さに分割する。分割後、乳頭層は鞣工程を経て皮革製品の原料として用いられるが、網状層は緻密性に欠けるため皮革原料としては用いられず、床皮として副産物となる。このため、これを有効利用するために、床皮の用途開発が試みられており、用途の1つにゼラチン原料としての利用がある。ゼラチンを用いて実用に耐え得る生分解性疑似餌が製造できれば、副産物の有効利用となるので、非常に有用である。
しかし、ゼラチンは、吸水膨潤し易いため、水中で短時間に膨潤して崩壊し、耐熱性も低いので夏期の温度上昇により容易に融解する。ゼラチンを用いて疑似餌を製造するためには、(a)引き裂き強度を高める、(b)吸水膨潤及びそれに伴う強度減少を抑制する、(c)実用的な耐熱性を付与する、(d)疑似餌の素材として適切な柔軟性を確保する、の4点の改良が必要であり、これらを実現する手段は、得られる疑似餌が自然環境に影響を及ぼさないようなものでなければならない。
上記改良に有効な手段として、(1)特化したゼラチンを用いる、(2)ゼラチンに架橋処理を施す、の2つがある。(1)では、一般的なゼラチンより高分子量のゼラチンで疑似餌を構成することにより、ゲル化・成形したゼラチンの強度が向上するので、吸水によって強度が低下しても実用に耐え得る程度の強度が確保される。又、成形時の冷却速度を適切に制御することによって特に有効性が高まる。(2)では、疑似餌の形状に成形されるゼラチンに架橋処理を施す(従って、分子量が増加する)ことにより、耐水性及び耐熱性が付与され、吸水による強度及び硬度の低下が抑制される。架橋処理は、疑似餌全体又は表面のみのゼラチンに施すことができる。更に、架橋後に加熱処理を施すことによって柔軟性の向上が可能である。(1)及び(2)は、高分子量化という点では共通する。(1)及び(2)を組み合わせると、効果は相乗的に増大し、有効性は格段に向上する。以下、本発明の生分解性疑似餌の製造方法について詳細に説明する。
本発明において生分解性疑似餌を構成する素材は、コラーゲンの熱等による変性物であるゼラチンであり、上記(1)で用いられるゼラチンは、市販のゼラチンより分子量が大きい、つまり、高粘度のゼラチンである。具体的には、市販されるゼラチンのJIS K6503に準じて測定される粘度(試料を70℃で融解して15分以内に60℃で測定)が概して2.0〜3.5mPa・s程度であるのに対し、(1)として用いられるものは、JIS K6503による粘度が4.0mPa・s以上、好ましくは7〜30mPa・s、より好ましくは15〜25mPa・sとなるゼラチン(コラーゲンの変性物)である。このような高粘度(高分子量)のゼラチン融解物をゲル化・成形することによって、得られる疑似餌の引き裂き強度及び硬度が増加し、吸水しても実用に耐え得る強度及び適正な硬度が確保され、耐熱温度も上がる。このようなゼラチンは、コラーゲン原料に含まれる不溶性コラーゲンを可溶化する際の処理条件を調節することによって得られる。
ゼラチンは、牛、豚、鳥等の動物の生皮、腱、骨やその他のコラーゲンを多量に含む組織を利用して調製される。魚皮や魚鱗等の水生生物原料から得ても良く、原料を特に限定する必要はない。皮革製造の副産物である床皮のコラーゲンを原料として使用すると、資源の有効利用の点で特に好ましい。牛皮、豚皮等のコラーゲン原料は、必要に応じて、石灰漬け等による脱毛、水洗、チョッパー等を用いた細切などの処理を施して適切な寸法の原料片に調製する。
コラーゲン分子は、3本のポリペプチド鎖からなる棒状の分子で、主要部はヘリックス構造を有し(ヘリックス領域)、両端にヘリックスを形成しない短いテロペプチド領域を有する。生体内では、コラーゲンは、テロペプチド領域及びヘリックス領域の間に形成された分子間架橋により重合した巨大分子として存在するため、通常、水、希酸、希アルカリ、有機溶媒などに対して不溶性であり、コラーゲン原料片を加熱しても溶解しない。しかし、コラーゲン原料片に可溶化処理を施すことによって、コラーゲン中の結合が切断されて分子量が低下し、加熱融解が可能な状態のコラーゲンが得られる。これを熱融解その他等によって変性させるとゼラチンになる。
コラーゲンの可溶化処理は、タンパク質分解酵素を用いた方法(例えば特公昭44−1175号公報参照。以下、酵素処理法と称する)と、苛性アルカリ及び硫酸ナトリウムが共存する水溶液中に少量のアミン類又はその類似物を添加したもので処理する方法(例えば特公昭46−15033号公報参照。以下、アルカリ処理法と称する)とに大別できる。本発明では、アルカリ処理法に準じて可溶化処理を施すが、加熱溶解が可能な範囲で可能な限り重合度の高いコラーゲンを得るために、特定条件下での可溶化処理を施す。具体的には、可溶化を促進するアミン類等を用いず、苛性アルカリ及び硫酸ナトリウムのみが存在する水溶液を用いて浸漬処理する。これは、本発明で用いる好適な粘度のゼラチンを調製可能な特徴的な処理方法であり、コラーゲン分子間のテロペプチド領域のみが選択的に分解してテロペプチド領域とヘリックス領域との間の架橋が切断されるので、重合度は減少するが、コラーゲン分子内の切断が起き難く、過度の低分子化を避けることが可能である。処理時間は1〜3日程度、好ましくは1〜2日程度、より好ましくは1日程度に設定する。この間にコラーゲン分子間架橋の切断が進行し、処理時間が増すに従って低分子化が進行するが、4日程度を越えると粘度が過度に低下する。又、処理温度が30℃を超えるとヘリックス領域の切断が起こり、得られるゼラチンの分子量が小さくなるので、この温度以下、好ましくは20〜28℃に維持する。アルカリ処理法では、アスパラギン残基及びグルタミン残基が脱アミノ反応によって各々アスパラギン酸残基及びグルタミン酸残基に変化し、コラーゲンの等イオン点は概して約4.8〜5.0となる。可溶化処理後の水溶液のpHを等イオン点に調整して、脱水等により水分を除去することによって、原料片の形状を保った加熱溶解可能なコラーゲンが回収される。更に、必要に応じて、水洗及び脱水を行って金属塩等の不純物を除去する。このコラーゲンは等イオン点に調整されているため、水洗により金属塩が除去されても水に溶解しない。可溶化処理、pH調整及び水洗工程を経て得られるコラーゲンは、固形分量が約30質量%前後の含水物で、原料片の形状を保持した固形コラーゲンである。
コラーゲンは、30℃程度の加熱処理によってヘリックス構造を失ってゼラチンに変性するので、上述の固形コラーゲンを加熱融解するとゼラチンに変性し、JIS K6503に準じて測定される粘度が4.0mPa・s以上の融解ゼラチンが得られ、より適切な可溶化処理条件によって7〜30mPa・s程度の融解ゼラチンを得ることができる。pHは弱酸性〜中性の範囲を示す。食材等の用途で市販されているゼラチンの一般的な製造法においては、可溶化処理においてコラーゲン分子内の切断を伴い、中和及び水洗を経た可溶化コラーゲンを60〜100℃で熱抽出して得ているので、熱抽出中の低分子化も被っているため、市販のゼラチンのJIS K6503による粘度は概して2.0〜3.5mPa・s程度である。
本発明の疑似餌の製造では、上述で得られた固形コラーゲン、または、これを熱変性したゼラチンを原料とし、コラーゲン又はゼラチンを加熱融解した融解物を疑似餌の形状に成形する。つまり、液状の融解ゼラチンを疑似餌の形状の鋳型中で冷却してゲル化することによって疑似餌に成形する。融解ゼラチンは、固形コラーゲン又はゼラチンを鋳型中で加熱して得ても、又は、鋳型の外で融解して鋳型に流し込んでも良い。あるいは、ゲル化したゼラチン塊を切削等により疑似餌に成形加工することも可能である。コラーゲン及びゼラチンは、加熱融解により低分子化が進行して粘度が低下するので、原料ゼラチンはゲル化・融解を繰り返したり長時間の加熱を経ることを避けるのが望ましく、この点で上述の固形コラーゲンを原料として用いるのが最適である。乾燥によって含水量が極度に低下したコラーゲンを用いる場合は、水を添加して含水量が50〜80質量%程度になるように調整するのが好ましい。成形物の離型性の観点では、シリコーンラバー製の鋳型を用いることが望ましい。コラーゲン又はゼラチンを融解する加熱温度は、好ましくは70〜95℃、より好ましくは90℃程度とする。加熱温度が70℃未満であると、融解が不完全なために均一な融解物が得られなくなる虞があり、95℃を超えると、ゼラチンの分解が促進されて分子量の減少が著しくなる。過剰な加熱はゼラチン分子の分解を進行させるので、可能な限り短時間の加熱で融解することが好ましく、10分以内が望ましい。この点に関しては水蒸気加熱が有効であり、熱伝導が促進され、5分程度以内の加熱で透明な融解ゼラチンが得られる。
融解ゼラチンを冷却すると、ゼラチンがゲル化して疑似餌に成形される。この際の冷却速度は、得られる疑似餌の強度に影響し、徐冷するとゼラチンゲル化物の強度が高くなる。これは、ゲル化中にゼラチン分子間で螺旋の巻き戻りが起こり易くなるためと考えられる。従って、疑似餌の強度向上の点から、氷冷、水冷等よりも空冷の方が適している。冷却速度を1℃/分以下(特にゲル化温度から室温に達するまでの平均)に調節すると好ましい。
疑似餌を構成するゼラチンに架橋処理を施すと、耐水性及び耐熱性が向上した疑似餌が得られるので、市販の低粘度のゼラチンを用いた場合にも実用可能な疑似餌の製造が可能になる。使用可能な架橋剤は、水溶性の架橋剤であり、親水性のエポキシ系架橋剤やアルデヒド系架橋剤等が挙げられる。但し、アルデヒド系架橋剤は着色を生じる場合があるので、製品色調を考慮する必要がある。架橋処理によってゼラチンのアミノ基と架橋剤のエポキシ基やアルデヒド基とが反応して架橋が形成される。ゼラチン成形物に耐水性及び耐熱性を付与するには、架橋剤がゼラチンのヘリックスの解離を抑制するアンカーとして作用すればよい。反応性基(エポキシ基等)が3つ以上、特に4つ以上ある分子構造の架橋剤であると、ヘリックスの解離を抑制する効果が高い。但し、架橋剤の分子構造が剛直であると、ゼラチンの柔軟性が低下するので、疑似餌の柔軟性を重視する場合は、架橋剤が柔軟な分子構造であることが望ましい。このためには、単結合を主とする柔軟性のある鎖状基で反応性基間が結合された分子構造の化合物を架橋剤として用いると好適である。鎖状基としては、例えば、直鎖状又は分岐状の炭化水素鎖があり、その構成原子として酸素原子、硫黄原子等を含んでも良い。ある程度以上の長さの鎖状炭化水素は、その親油性(疎水性)によってゼラチンに耐水性を付与し得る。また、架橋剤が水酸基を有すると、ゼラチンの極性基との水素結合によって分子間の親和性が増すので、分子間の相互作用及び架橋反応性が高まり、成形物表面付近で架橋を密に形成し易い。このようなことから、好ましいエポキシ系架橋剤として、1つ以上の水酸基と複数(望ましくは3つ以上)の末端エポキシ基とを有する脂肪族化合物が挙げられ、例えば、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル等が好適に用いられる。その入手可能な市販品としては、例えば、ナガセケムテック社製のデナコールEX−512(商品名)が挙げられ、これは、4つの末端エポキシ基と2つの水酸基とを有する化合物である。
架橋処理は、疑似餌全体のゼラチンを架橋する方法であっても、疑似餌表面のゼラチンを架橋する方法であってもよい。表面の架橋は、特に耐水性の付与に優れており、全体の架橋は、条件によって柔軟性に優れた疑似餌を得るのに有用である。
疑似餌全体のゼラチンを架橋する場合には、ゲル化・成形する前の融解ゼラチンに架橋剤を均一に混合して疑似餌に成形し、ゲル化・成形中又はそれ以後に架橋反応を進行させる。この際、アルデヒド系架橋剤は反応速度が速いので、成形作業が難しくなる場合にはエポキシ系架橋剤を用いるとよい。また、温度が50℃程度の融解ゼラチンに架橋剤を配合し、配合後30分程度以内に鋳型に投入することが好ましい。架橋剤の均一配合を容易にするために、必要に応じて水を添加して固形分量を低下させることによって融解ゼラチンに流動性を付与してもよい。この場合、成形物の強度を確保するために、固形分量が10質量%程度以上、好ましくは約15質量%以上になるように水量を調整するのが好ましい。但し、固形分量が40質量%を超えると流動性が低下して鋳型への流し込みが難しくなるので配慮を要する。架橋剤の量は、ゼラチン(乾燥質量)の1〜10質量%程度が好ましく、より好ましくは2〜8質量%程度に調整し、架橋剤が過剰であるとゲル化物が脆くなる。ゲル化物を20〜30℃程度で約1日以上静置することにより架橋反応が充分に進行して安定化する。あるいは、ゲル化物を60〜70℃程度に30分程度加熱して架橋反応を完了させる。
疑似餌表面のゼラチンを架橋する場合は、融解ゼラチンをゲル化・成形した疑似餌を架橋剤水溶液と接触させる。つまり、成形された疑似餌を架橋剤水溶液中に浸漬して、架橋剤と接触する疑似餌表面からゼラチンを架橋する。この場合、反応速度が速いアルデヒド系架橋剤等も好適に使用できる。架橋剤水溶液の架橋剤の濃度は、0.05〜0.4質量%程度が好ましく、架橋反応は、23〜28℃程度の温度で約2〜7日間行うとよい。これにより、架橋剤は、主として疑似餌表面で反応し、状況によって一部が疑似餌表面から浸透して反応が内側に進行する。この結果、疑似餌表面部分のゼラチンは強く架橋されて内部より強度及び硬度が増し、被膜のように作用して、表面付近に耐水性を付与すると共に耐熱性が向上する。架橋処理後の疑似餌は、架橋剤水溶液を除去して、必要に応じて水洗等により洗浄する。
上述の疑似餌は、そのまま釣りに使用可能であるが、更に、短時間の熱処理を施すと、疑似餌内部でゼラチン分子のペプチド鎖間の水素結合が解離して分解が起こり、柔軟性が向上する。これにより、水中で疑似餌として好ましい挙動を示し易くなる。熱処理を施す温度は、60〜110℃程度、好ましくは90〜105℃程度であり、処理時間は1〜60分程度、好ましくは5〜30分程度である。処理温度が高すぎ処理時間が長すぎると、ゼラチンの分解により疑似餌の強度が低下する。
上述に従って調製することにより、ゼラチンの高分子量化に起因して強度及び耐熱温度が向上した疑似餌が得られる。このため、吸水による強度低下を経ても使用に耐え得る程度の強度が保持される。架橋処理を施さないゼラチンで疑似餌を形成する場合、JIS K6503の粘度が4.0mPa・s以上、好ましくは7.0mPa・s以上となるゼラチンを用いると、引き裂き強度が500gf程度以上、耐熱温度が40℃以上の疑似餌が得られ、面積当たり破断強度も2000gf/cm程度以上に向上する。このような疑似餌は、吸水後でも崩壊せずに、100gf程度以上の引き裂き強度、500gf/cm程度以上の面積当たり破断強度を発揮する。架橋処理されたゼラチンによる疑似餌の場合は、原料ゼラチンのJIS K6503の粘度が4.0mPa・s以下であっても、引き裂き強度300gf以上、耐熱温度40℃以上の疑似餌を得ることができ、同時に膨潤度が90%以下になって吸水膨潤による強度低下が抑制されるので、吸水後引き裂き強度100gf程度以上、面積当たり破断強度500gf/cm程度以上を達成できる。より高粘度(15mPa・s以上)のゼラチンを用いたり、架橋処理を併用することによって、引き裂き強度が700gf以上、耐熱温度が70℃程度のゼラチン製生分解性疑似餌を得ることができ、吸水後の引き裂き強度は200gf以上の値が確保される。ゼラチンは加熱によって分解が進行するので、疑似餌のJIS K6503による粘度は、原料ゼラチンの値より減少はするが、近い値になり、架橋処理を経た場合は、粘度測定の際に架橋程度に応じて不融物が残存するので、判別基準に用いられる。架橋によって耐水性及び耐熱性を付与でき、且つ、柔軟性を損なわずに強度を高められるので、水中で好ましい挙動を示す疑似餌が提供される。
更に、疑似餌に防腐処理を施すことによって、疑似餌の保存可能な期間が長くなる。防腐処理は、ゼラチン成形物に防腐剤を接触させることで可能であり、例えば防腐剤としてエチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ペンチレングリコール、硫酸ナトリウム水溶液等を用い、12〜24時間程度浸漬すればよい。防腐処理後の疑似餌は、20〜25℃程度で4ヶ月間以上保存できる。
ゼラチン製疑似餌は、上述のように、ゼラチンゲル化物又は架橋処理されたゼラチンゲル化物からなることが好ましいが、その性質を実質的に損なわない範囲での添加剤の配合を排除するものではない。つまり、ゼラチンゲル化物又は架橋処理されたゼラチンゲル化物を主成分として、着色剤、防腐剤、誘引剤、蛍光剤等のような主成分の機能に影響を与えない添加剤を配合することができる。その配合割合は、添加剤総量として20質量%を限度とし、ゼラチンの融解時に均一混合できるように導入する。又、疑似餌を、ゼラチンゲル化物又は架橋処理されたゼラチンゲル化物を主成分とする主体と、主体を補助する副体とで構成するように応用することも可能である。例えば、天然繊維等の水に不溶の生分解性材料で紐状の副体を調製して、ゲル化成形の際に主体中に副体を埋設又は軸設したり、副体を主体に巻装することによって、主体の補強が可能である。
上記疑似餌は、釣りに使用するものとして構成されているが、魚類の養殖、生育用の餌として使用することも可能であり、一般的に使用される各種添加物を必要に応じて配合しても良い。
以下、本発明の疑似餌の製造方法について、実施例を参照して具体的に説明する。尚、本願において、試料の等イオン点は、以下の操作に従って測定している。
先ず、予め活性化及び洗浄した陽イオン交換樹脂(アンバーライトIPR−120B、オルガノ(株)社製)と陰イオン交換樹脂(アンバーライトIPA−400、オルガノ(株)社製)とを2:5の割合で混合して混床イオン交換体を調製する。次に、混床イオン交換体100mLを脱イオン水で平衡化させた後、タンパク質濃度が5%になるように試料を水に溶解した試料溶液を50mL加えて、40℃の水浴中に保持して30分間穏やかに攪拌して混合し、混合液から上澄みを分離して上澄みのpHを測定して、その値を等イオン点とする(J.W.Janus, A.W.Kenchington and A.G.Ward, Research, 4247(1951)に記載の方法を参考としている)。
(試料A1)
<ゼラチンの調製>
定法に従って、牛塩蔵皮から水洗・水漬け、フレッシング(肉面除去)・トリミング、脱毛石灰漬けの工程を経て得られた皮を、銀面を有する銀面層と肉面層(床皮)とに分割して、得られた床皮を細片状に裁断した。これを原料として、以下の操作を行った。
可溶化液として、水酸化ナトリウム5.0質量%、硫酸ナトリウム12.0質量%を含有する水溶液1600gを調製して、液温を25℃に保ち、この中に細片状床皮400g(固形分28.3質量%)を浸漬し、30分間程度攪拌混合して可溶化液とよく馴染ませた後、24時間静置した。この後、液温を23〜25℃に保持しながら37.5質量%硫酸水溶液を徐々に加えて中和し、pHを4.8に調整することによってコラーゲンを等電点沈澱状態にして、原料形状を保持した皮片を得た。中和した可溶化液を皮片から除去し、更に軽く圧搾して内部に含まれる水分を押し出した。更に、皮片を流水で洗浄して脱塩した後、再度軽く圧搾して内部に含まれる水分を押し出して除去し、アルカリ処理皮片401g(固形分26.9質量%、回収率95%)を得た。アルカリ処理皮片ではコラーゲンの変性(ゼラチン化)は起きていないが、コラーゲン間の架橋切断が進行している。このアルカリ処理皮片の、JIS K6503に準じて測定した粘度(温度70℃でゼラチンを融解して60℃において測定)は、24.7mPa・sであった。
このアルカリ処理皮片乾燥物のタンパク質含有量をキエルダール法による総窒素測定の結果から算出したところ、91.3質量%であり、JIS K6503に準じた塩酸分解ヘキサン抽出法により検出された粗脂肪は2.40質量%であった。また、アルカリ処理皮片乾燥物の灰分(JIS K6503:2001の灰分測定法参照)は0.5質量%であった。
<疑似餌の製造>
シリコーン製鋳型のワーム形状型孔(幅:約0.8cm、長さ:約8cm)にアルカリ処理皮片4gを入れ、蒸気発生用の水を収容するステンレス容器中に鋳型を配置し、90℃に加熱して約5分間水蒸気加熱することにより、アルカリ処理皮片が融解した。この後、鋳型を取り出して室温で放置することにより徐冷し、ゼラチン成形物を得た。
エポキシ架橋剤(商品名:デナコールEX−512、ナガセケムテックス社製)0.1質量%、硫酸ナトリウム12質量%及び酢酸ナトリウム3質量%を含有する架橋剤水溶液(pH8.5)を調製し、これに鋳型から取り出したゼラチン成形物を浸漬して25℃で3日間静置した。ここで、硫酸ナトリウムを用いないと処理中にゼラチン成形物が膨潤してしまう。この後、架橋剤水溶液からゼラチン成形物を取り出して、水に投入して12時間流水水洗して、疑似餌を得た。この疑似餌をプロピレングリコールに12時間浸漬することにより防腐処理を施した。
(試料A1’)
試料A1の疑似餌の製造において、防腐処理を施す前に、疑似餌に105℃で10分間加熱処理を施したこと以外は試料A1と同様の操作を行って試料A1’の疑似餌を得た。
(試料a1)
試料A1の疑似餌の製造において、エポキシ架橋剤による架橋処理を行わなかったこと以外は試料A1と同様の操作を行って試料a1の疑似餌を得た。
(試料A2)
ゼラチンの調製において可溶化処理時間を24時間から3日に変更したこと以外は試料A1と同様の操作を行って、アルカリ処理皮片559g(固形分14.9質量%、回収率74%)を得た。このアルカリ処理皮片の、JIS K6503に準じて測定した粘度(温度70℃でゼラチンを溶解して60℃において測定)は7.9mPa・sであった。このアルカリ処理皮片乾燥物のタンパク質含有量をキエルダール法による総窒素測定の結果から算出したところ、89.4質量%であり、JIS K6503に準じた塩酸分解ヘキサン抽出法により検出された粗脂肪は0.24質量%であった。また、アルカリ処理皮片乾燥物の灰分(JIS K6503:2001の灰分測定法参照)は0.5質量%であった。
上記ゼラチンを用いたこと以外は試料A1と同様の操作によって試料A2の疑似餌を製造した。
(試料A3)
ゼラチンの調製において可溶化処理時間を24時間から5日に変更した以外は試料A1と同様の操作を行って、アルカリ処理皮片512g(固形分16.3質量%、回収率74%)を得た。このアルカリ処理皮片の、JIS K6503に準じて測定した粘度(温度70℃でゼラチンを溶解して60℃において測定)は5.8mPa・sであった。このアルカリ処理皮片乾燥物のタンパク質含有量をキエルダール法による総窒素測定の結果から算出したところ、88.5質量%であり、JIS K6503に準じた塩酸分解ヘキサン抽出法により検出された粗脂肪は0.13質量%であった。また、ゼラチン乾燥物の灰分(JIS K6503:2001の灰分測定法参照)は0.5質量%であった。
上記ゼラチンを用いたこと以外は試料A1と同様の操作によって試料A3の疑似餌を製造した。
(試料B1〜B3)
市販のゼラチン乾燥物3種について、JIS K6503に準じて粘度を測定したところ、試料B1(商品名:PG-80、Gelita社製)は2.3mPa・s、試料B2(商品名:PG-120、Gelita社製)は3.1mPa・s、試料B3(商品名:PG-240、Gelita社製)は3.4mPa・sであった。
上記市販のゼラチン乾燥物を用いたこと以外は試料A1と同様の操作によって試料B1〜B3の疑似餌を製造した。
(疑似餌の物性評価)
試料A1〜A3,A1’,a1,B1〜B3の疑似餌について、下記に従って、引き裂き強度、伸び、破断強度及び硬度(柔軟性)を測定した。尚、参考試料として、市販のカードラン製疑似餌(試料C1、商品名:EDUM、Jackall Bros.社製)、プラスチック疑似餌(試料C2、商品名:Paramax 5 inch、マルキュー社製)及びシリコーン製疑似餌(試料C3、商品名:Crazy Shaker 315-Orange Neon Craw、Angler Technologies社製)についても同様の測定を行った。
又、18℃の水に24時間浸漬した後の疑似餌にも同じ測定を行って、吸水膨潤が物性に及ぼす影響も評価した。
<引き裂き強度及び伸び>
疑似餌を3cmの長さに裁断し、中央部分に釣り針(商品名:WIDE GAPE WRM951 Size 1、FINA社製)2本を5mm間隔で掛け、レオメータ(商品名:FUDOH NRM-2010J-CW、レオテック社製)を用いて、釣り針の間隔を6cm/分の比率で増加することによって引っ張り荷重をかけて疑似餌が破断する迄の伸びと荷重との関係を調べてプロットし、引き裂き強度(破断時の最大荷重[gf])を求めた。結果を表1に示す。尚、表1の記載において、吸水前の試料C2の疑似餌は、所定測定範囲において破断しなかったことを意味し、ブランクは、測定を省略したものである。
表1によれば、粘度の高いゼラチンを用いて製造した疑似餌(試料A1、A1’)は、粘度の低いゼラチンを用いた場合(試料B1〜B3)に比べて引き裂き強度が格段に高いことが明らかである。又、架橋処理がない場合(試料a1)も、吸水により強度が低下しても実用可能な程度の引き裂き強度が確保される。カードラン製の疑似餌(試料C1)は、吸水膨潤による引き裂き強度の低下が著しい。
(表1)
疑似餌の伸び及び引き裂き強度
試料 引き裂き時間[秒] 伸び[%] 引き裂き強度[gf]
吸水前 吸水後 吸水前 吸水後 吸水前 吸水後
A1 18 19 360 380 780 420
A1’ 27 13 540 260 560 250
a1 29 11 580 220 720 280
A2 19 25 380 500 720 220
A3 16 11 320 220 550 120
B1 14 0 280 0 100 0
B2 20 0 400 0 220 0
B3 13 8 260 160 330 100
C1 19 20 380 400 580 100
C2 >39 >39 >780 >780 >740 >880
(吸水前後で裂けず)
C3 12 19 240 380 160 250
<破断強度>
レオメータ(商品名:FUDOH NRM-2010J-CW、レオテック社製)に歯型を取り付け、歯型に疑似餌を6cm/分の比率で押し進めることによって荷重をかけて、疑似餌が破断する時の最大荷重[gf]を調べ、破断強度とした。また、疑似餌の断面積を測定して単位面積当たり破断強度[gf/cm]を算出した。結果を表2に示す。
表2によれば、粘度の高いゼラチンを用いて製造した疑似餌(試料A1、A1’)は、粘度の低いゼラチンを用いた場合(試料B1〜B3)に比べて破断強度が格段に高く、又、吸水膨潤による破断強度の低下も抑制されることが明らかである。A1とa1との比較により、架橋処理によって強度が増加するだけでなく、吸水による強度低下の抑制が可能であり、耐水性が付与されることが解る。尚、架橋処理がない場合でも、実用可能な程度の吸水後破断強度は得られる。
(表2)
疑似餌の破断強度
試料 断面積[cm] 破断強度[gf] 面積当たり破断強度[gf/cm]
吸水前 吸水後 吸水前 吸水後 吸水前 吸水後
A1 0.63 0.71 2700 2200 4279 3099
A1’ 0.63 0.76 2800 2700 4438 3541
a1 0.74 0.84 1600 550 2173 654
A2 0.55 0.97 2000 1550 3622 1593
A3 0.45 0.76 1100 550 2461 721
B1 0.71 1.26 400 220 563 182
B2 0.58 1.10 400 800 692 721
B3 0.63 0.87 800 1250 1268 1441
C1 0.50 0.82 800 80 1602 98
C2 0.71 0.60 1200 1200 1690 1984
C3 0.21 0.42 1100 1400 5230 3328
<硬度(柔軟性)>
ゴム・プラスチック用の硬度計(商品名:デュロメータGS-754G、テクロック社製)を用いて、弾性体用モードで疑似餌の硬度を測定した。結果を表3に示す。
ゼラチン製疑似餌の吸水膨潤による硬度の変動は、架橋処理によって抑制されているが、表3によれば、粘度の高いゼラチンを用いて製造すると疑似餌の硬度が高く、柔軟性に欠ける。しかし、この点は、架橋処理後に加熱処理を施すことによって改善されることが試料A1’から明らかである。
(表3)
疑似餌の硬度
試料 硬度 硬度差
吸水前 吸水後
A1 70 68 −2
A1’ 43 41 −2
a1 53 40 −13
A2 57 52 −5
A3 45 56 11
B1 1 9 8
B2 16 10 −6
B3 45 45 0
C1 38 25 −13
C2 22 19 −3
C3 30 15 −15
<加熱処理の効果>
架橋後の加熱処理の効果を評価するために、試料A1と同様にして粘度25mPa・sのゼラチンから疑似餌を製造し、これを105℃に加熱しながら硬度を測定して、硬度の経時変化を調べた。併せて、試料の長さを測定し、加熱による収縮率を算出した。結果を表4に示す。
表4によれば、加熱によって疑似餌の硬度が減少し、柔軟性が向上することが明らかである。但し、表1に示されるように、引き裂き強度の低下も起こるので、この点を考慮して加熱時間を設定する必要がある。
(表4)
加熱による硬度変化
加熱時間[分] 硬度 硬度変化 試料長さ[mm] 収縮率[%]
0 57 0 78 0
5 43 −14 75 4
10 41 −16 73 6
20 30 −27 71 9
30 20 −37 70 10
<膨潤度>
18℃の水に疑似餌を24時間浸漬し、浸漬前後の質量変化を調べて膨潤度(浸漬前の質量に対する質量変化の割合(%))を算出した。結果を表5に示す。
<耐熱性>
ポリプロピレン製袋に疑似餌を封入し加熱乾燥機に入れ、室温から105℃まで温度を上昇させて、疑似餌が融解する温度(耐熱温度)を測定した。結果を表5に示す。
表5によれば、A1及びa1の結果は、架橋処理によって吸水膨潤が抑制され、耐熱温度が向上することを示す。又、粘度の高いゼラチンを用いることによっても、疑似餌の耐熱性が向上し、吸水膨潤も抑制されることが解る。
(表5)
疑似餌の膨潤度及び耐熱温度
試料 膨潤度[%] 耐熱温度[℃]
A1 10 〜70
A1’ 44 〜70
a1 147 60
A2 85 〜70
A3 84 40
B1 111 30
B2 97 30
B3 53 40
C1 45 融解せず
C2 2 融解せず
C3 −5 融解せず
<ゼラチン成形物の調製>
蒸気発生用の水を収容するステンレス容器中に、実施例1における試料B3のゼラチン乾燥物(240ブルーム、JIS K6503に準じた粘度:3.4mPa・s)及び水を入れた容器を据えて、70℃に加熱して約10分間水蒸気加熱することにより、固形分30質量%のゼラチン水溶液18gを調製した。これをシリコーン製鋳型のワーム形状型孔(幅:約0.8cm、長さ:約8cm)に流し込み、鋳型を室温で放置することにより徐冷し、ゼラチン成形物を得た。
<浸漬処理によるゼラチンの架橋>
下記に示す架橋剤の1種、硫酸ナトリウム及び酢酸ナトリウムを用いて、架橋剤濃度:0.1質量%、硫酸ナトリウム濃度:12質量%及び酢酸ナトリウム濃度:3質量%の架橋剤水溶液を調製した。原料の架橋剤が水溶液の場合は、その濃度から換算して調製後の濃度が0.1質量%になるように配合した。この溶液に、上述の鋳型から取り出したゼラチン成形物を浸漬して25℃で3日間静置した。この後、架橋剤水溶液からゼラチン成形物を取り出して、水に投入して12時間流水水洗して、疑似餌を得た。この疑似餌をプロピレングリコールに12時間浸漬することにより防腐処理を施した。
得られた疑似餌について、実施例1と同様にして、吸水後の引き裂き強度及び耐熱温度を測定した。又、外観及び性状を観察して着色及び柔軟性やべとつきなどの触感を評価した。結果を表6に示す。尚、測定値は、2回の測定の平均値である。
表6によれば、架橋処理の有効性は、架橋剤の種類によって傾向が異なる。金属系架橋剤M1,M2では、耐水性及び強度が付与される反面、柔軟性が損なわれ、耐熱性は得られ難い。アルデヒド系架橋剤L1〜L3では、柔軟性及び耐熱性が得られない場合や着色が生じる場合があるが、概して耐水性及び強度が付与されることが吸水後の引き裂き強度から理解される。エポキシ系架橋剤E1〜E6では、化合物によって効果に差があるが、着色は生じず、架橋剤E4に関しては、耐水性、強度、耐熱性及び触感の何れについても良好である。架橋剤E4の反応性基(エポキシ基)の多さ、反応性基間が柔軟な分子鎖で結合されること、親水性及びゼラチンへの親和性を発現する水酸基を有することによって、架橋の強度及び柔軟性と反応性とを発現すると考えられる。架橋剤E3は水溶性が低く、そのためにゼラチンへの反応性が架橋剤E4より低いと考えられる。
尚、架橋剤E1〜E6,L1〜L3を用いた疑似餌を、湖沼水に浸漬して25℃で放置したところ、30〜40日で腐敗し溶解したことを確認した。
(架橋剤)
架橋剤E1:グリシドール(アルドリッチ社製)、エポキシ基数:1
架橋剤E2:グリセロールポリグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX-313、ナガセケムテックス社製)、エポキシ基数:2〜3
架橋剤E3:ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX-414、ナガセケムテックス社製)、エポキシ基数:4
架橋剤E4:ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX-512、ナガセケムテックス社製)、エポキシ基数:3
架橋剤E5:ソルビトールポリグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX-614B、ナガセケムテックス社製)、エポキシ基数:4以上
架橋剤E6:ポリエチレングリコールグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX-830、ナガセケムテックス社製)、エポキシ基数:2
架橋剤M1:硫酸クロム(商品名:ベアクロム、日本電工社製)
架橋剤M2:硫酸アルミニウム(商品名:硫酸バンド、日本軽金属社製)
架橋剤L1:40重量%グリオキサール水溶液(ナカライ社製)
架橋剤L2:36重量%ホルムアルデヒド水溶液(小宗化学社製)
架橋剤L3:40重量%グルタルアルデヒド水溶液(ナカライ社製)
(表6)
架橋剤の影響(浸漬法)
架橋剤 引き裂き強度[gf] 耐熱温度[℃] 着色 触感
E1 12 30 無し 不良(べとつく)
E2 30 30 無し 良好
E3 70 40 無し 良好
E4 330 70 無し 良好
E5 10 30 無し 不良(べとつく)
E6 0 30 無し 不良(べとつく)
M1 320 30 緑色 不良(硬い)
M2 610 30 無し 不良(硬い)
L1 220 60 薄褐色 良好
L2 260 30 無し 不良(硬い)
L3 210 30 薄褐色 不良(硬い)
<ゼラチンに配合した架橋剤>
(架橋剤E4を用いたゼラチン成形物)
蒸気発生用の水を収容するステンレス容器中に、実施例1における試料B3のゼラチン乾燥物(240ブルーム、JIS K6503に準じた粘度:3.4mPa・s)及び水を入れた容器を据えて、70℃に加熱して約10分間水蒸気加熱することにより、固形分30質量%のゼラチン水溶液48gを調製した。これに1.5gの酢酸ナトリウム及び0.48gの上記架橋剤E4を均一に混合して、シリコーン製鋳型のワーム形状型孔(幅:約0.8cm、長さ:約8cm)に流し込み、鋳型を室温で放置することにより徐冷し、ゼラチン成形物を得た。
得られたゼラチン成形物を25℃で4日間静置した後、鋳型からゼラチン成形物を取り出して、水に投入して12時間流水水洗して、疑似餌を得た。この疑似餌をプロピレングリコールに12時間浸漬することにより防腐処理を施した。
得られた疑似餌について、実施例1と同様にして、吸水後の引き裂き強度及び耐熱温度を測定した。又、外観及び性状を観察して着色及び触感を評価した。結果を表7(測定値は2回の測定の平均値である)に示す。
(架橋剤L1を用いたゼラチン成形物)
蒸気発生用の水を収容するステンレス容器中に、実施例1における試料B3のゼラチン乾燥物(240ブルーム、JIS K6503に準じた粘度:3.4mPa・s)及び水を入れた容器を据えて、90℃に加熱して約5分間水蒸気加熱することにより、固形分30質量%のゼラチン水溶液30gを調製した。これに27gのグリセリン及び3gの上記架橋剤L1を均一に混合して、シリコーン製鋳型のワーム形状型孔(幅:約0.8cm、長さ:約8cm)に流し込み、鋳型を室温で放置することにより徐冷し、ゼラチン成形物を得た。
得られたゼラチン成形物を70℃で30分間加熱した後に放冷して、鋳型からゼラチン成形物を取り出して疑似餌を得た。この疑似餌をプロピレングリコールに12時間浸漬することにより防腐処理を施した。
得られた疑似餌について、実施例1と同様にして、吸水後の引き裂き強度及び耐熱温度を測定した。又、外観及び性状を観察して着色及び柔軟性を評価した。結果を表7に示す。
(D−グルコースを架橋剤として用いたゼラチン成形物)
蒸気発生用の水を収容するステンレス容器中に、実施例1における試料B3のゼラチン乾燥物(240ブルーム、JIS K6503に準じた粘度:3.4mPa・s)及び水を入れた容器を据えて、70℃に加熱して約10分間水蒸気加熱することにより、固形分30質量%のゼラチン水溶液9gを調製した。これに0.9gのD−グルコース(和光純薬社製)を混合して均一になったことを確認し、シリコーン製鋳型のワーム形状型孔(幅:約0.8cm、長さ:約8cm)に流し込み、鋳型を室温で放置することにより徐冷し、ゼラチン成形物を得た。
得られたゼラチン成形物を90℃で1時間加熱した後に放冷して、鋳型からゼラチン成形物を取り出して疑似餌を得た。この疑似餌をプロピレングリコールに12時間浸漬することにより防腐処理を施した。
得られた疑似餌について、実施例1と同様にして、吸水後の引き裂き強度及び耐熱温度を測定した。又、外観及び性状を観察して着色及び触感を評価した。結果を表7に示す。
(表7)
架橋剤の影響(混合法)
架橋剤 引き裂き強度[gf] 耐熱温度[℃] 着色 触感
E4 180 40 無し 良好
L1 160 >90 褐色 良好
D−グルコース 50 30 薄褐色 良好
<ゼラチン成形物の調製>
蒸気発生用の水を収容するステンレス容器中に、実施例1における試料B3のゼラチン乾燥物(240ブルーム、JIS K6503に準じた粘度:3.4mPa・s)及び水を入れた容器を据えて、70℃に加熱して約10分間水蒸気加熱することにより、固形分30質量%のゼラチン水溶液18gを調製した。これをシリコーン製鋳型のワーム形状型孔(幅:約0.8cm、長さ:約8cm)に流し込み、鋳型を室温で放置することにより徐冷し、ゼラチン成形物を得た。
<浸漬処理における架橋剤濃度>
硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、及び、架橋剤として前述のエポキシ系架橋剤E4を用いて、架橋剤濃度:0〜1.0質量%、硫酸ナトリウム濃度:12質量%及び酢酸ナトリウム濃度:3質量%の架橋剤水溶液を調製した。
この溶液に、上述の鋳型から取り出したゼラチン成形物を浸漬して25℃で3日間静置した。この後、架橋剤水溶液からゼラチン成形物を取り出して、水に投入して12時間流水水洗して、疑似餌を得た。この疑似餌をプロピレングリコールに12時間浸漬することにより防腐処理を施した。
得られた疑似餌について、実施例1と同様にして、吸水後の引き裂き強度及び耐熱温度を測定した。又、外観及び性状を観察して着色及び触感を評価した。結果を表8に示す。測定値は、2回の測定の平均値である。
表8によれば、ゼラチン成形物を浸漬する架橋剤溶液の濃度が増加すると、疑似餌の耐熱性、耐水性及び強度が向上するが、0.1質量%を超えると、耐水性及び強度は減少し、硬度が過剰になるために柔軟性が損なわれ脆くなる。表8の結果からは、架橋剤濃度の最適値は0.1質量%前後にあると考えられる。
(表8)
架橋剤濃度の影響
架橋剤濃度 引き裂き強度 耐熱温度 着色 触感
[%] [gf] [℃]
0 80 30 無し 不良(べとつく)
0.01 50 30 無し 良好
0.05 110 30 無し 良好
0.1 330 70 無し 良好
0.5 180 90 無し 不良(脆い)
1.0 150 90 無し 不良(脆い)
(架橋剤を混合したゼラチン成形物)
蒸気発生用の水を収容するステンレス容器中に、実施例1における試料A1のアルカリ処理皮片(JIS K6503に準じた粘度:24.7mPa・s)及び水を入れた容器を据えて、80〜90℃に加熱して約10分間水蒸気加熱することにより、固形分13〜28質量%のゼラチン水溶液(D1:13質量%、D2:18質量%、D3:23質量%、D4:28質量%)30gを調製した。これに0.3gの前記架橋剤E4(ポリグリセロールポリグリシジルエーテル)を均一に混合して、50℃でシリコーン製鋳型のワーム形状型孔(幅:約0.8cm、長さ:約8cm)に30分以内に流し込み、鋳型を室温で放置することにより徐冷し、試料D1〜D4のゼラチン成形物を得た。
得られたゼラチン成形物を鋳型から取り出して25℃で3日間静置した後、ゼラチン成形物を水に投入して12時間流水水洗して、疑似餌を得た。この疑似餌をプロピレングリコールに12時間浸漬することにより防腐処理を施した。
得られた疑似餌について、実施例1と同様にして、吸水前後の伸び及び引き裂き強度(表9)、破断強度(表10)、硬度(表11)、膨潤度及び耐熱温度(表12)を測定した。
表9〜11によれば、ゼラチン水溶液の固形分濃度が高いほど吸水前の引き裂き強度、破断強度及び硬度が高い。吸水後の引き裂き強度については、固形分濃度による差が減少すると思われる。また、表11では、表3の浸漬法による架橋の場合(試料A1)と比べて硬度が小さく、柔軟性があることが分かる。又、表12によれば、浸漬法の場合と比べて膨潤度がやや大きいが、耐熱温度が高い。
(表9)
疑似餌の伸び及び引き裂き強度
試料 引き裂き時間[秒] 伸び[%] 引き裂き強度[gf]
吸水前 吸水後 吸水前 吸水後 吸水前 吸水後
D1 14 11 280 220 195 140
D2 15 12 300 240 220 180
D3 15 19 300 380 290 200
D4 9 16 180 320 420 130
(表10)
疑似餌の破断強度
試料 断面積[cm] 破断強度[gf] 面積当たり破断強度[gf/cm]
吸水前 吸水後 吸水前 吸水後 吸水前 吸水後
D1 0.44 0.74 1800 1500 4091 2027
D2 0.59 0.67 1750 1700 2966 2537
D3 0.66 0.81 2600 1400 3939 1728
D4 0.50 0.72 3200 3100 6400 4306
(表11)
疑似餌の硬度
試料 硬度 硬度差
吸水前 吸水後
D1 37 39 2
D2 42 41 −1
D3 43 40 −3
D4 50 49 −1
(表12)
疑似餌の膨潤度及び耐熱温度
試料 膨潤度[%] 耐熱温度[℃]
D1 42 80
D2 30 80
D3 36 80
D4 44 80
(架橋剤濃度の影響)
前述の試料D3のゼラチン成形物の調製において、架橋剤E4の添加量をゼラチン水溶液の0〜5質量%(ゼラチン質量の0〜21.5%)の範囲で変更した点以外は同様にしてゼラチン成形物を調製し、得られたゼラチン成形物を鋳型から取り出して25℃で3日間静置した後、ゼラチン成形物を、水に投入して12時間流水水洗して、疑似餌を得た。この疑似餌をプロピレングリコールに12時間浸漬することにより防腐処理を施した。
得られた疑似餌について、外観及び性状を観察して着色及び触感を評価し、実施例1と同様にして、引き裂き強度、面積当たり破断強度、耐熱温度、膨潤度及び硬度を測定した。結果を表13に示す。測定値は、2回の測定の平均値である
表13によれば、架橋剤量の最適値は、ゼラチン水溶液質量の1質量%付近にあると考えられ、この時の引き裂き強度は290gf、破断強度は3939gf/cmであった。
(表13)
架橋剤濃度の影響
架橋剤量 引き裂き 耐熱温度 着色 触感 膨潤度 硬度 面積当たり破断
[%] 強度[gf] [℃] [%] 強度[gf/cm
0 80 30 無し 良好 113 38 1883
0.1 220 30 無し 良好 52 35 4099
0.5 290 70 無し 良好 39 50 3663
1.0 290 80 無し 良好 36 43 3939
3.0 160 80 無し 不良 22 43 3958
(脆い)
5.0 140 80 無し 不良 13 50 3000
(脆い)

Claims (4)

  1. 不溶性コラーゲンを可溶化処理し、70〜95℃で熱により変性させて得られる、JIS K6503による粘度(試料を融解して15分以内に60℃で測定)が7〜30mPa・sであるゼラチン融解物に、エポキシ架橋剤及びアルデヒド架橋剤のうちの少なくとも一種を混合した後、ゲル化し、成形してゼラチンゲル化物を主成分とする生成物を得ることを特徴とする不融物が残存する生分解性疑似餌
  2. 不溶性コラーゲンを可溶化処理し、70〜95℃で熱により変性させて得られる、JIS K6503による粘度(試料を融解して15分以内に60℃で測定)が7〜30mPa・sであるゼラチン融解物を、ゲル化し、成形した後、エポキシ架橋剤及びアルデヒド架橋剤のうちの少なくとも一種を用いて架橋処理して、ゼラチンゲル化物を主成分とする生成物を得ることを特徴とする不融物が残存する生分解性疑似餌
  3. 前記架橋処理して、ゼラチンゲル化物の主成分中に含まれる架橋成分の含有量(乾燥質量)は、前記ゼラチンの含有量の1〜10質量%であることを特徴とする請求項1または2記載の不融物が残存する生分解性疑似餌。
  4. 請求項1、2または3いずれか記載の不融物が残存する生分解性疑似餌を、さらに60〜110℃で熱処理することにより、引き裂き強度500gf以上で耐熱温度が40℃以上及び破断強度が2000gf/cm以上とすることを特徴とする不融物が残存する生分解性疑似餌。
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