JP4822267B2 - 二帯域短パルス高輝度光源装置 - Google Patents
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Description
高輝度光源の得難い硬X線領域においては、古くから加速器を用いた光源開発が行われていた。制動放射を利用した高エネルギー光子発生技術開発の歴史は長く、当初は大電流が得られる線形加速器を使用しており装置が大型であったが、最近では半径が1m以内の小型電子蓄積リングを使用するなど、小型化も進んでいる。また、大型放射光施設のアンジュレータ放射を用いたビームラインでは、他に類を見ない高い収量が得られるため分光してタンパク質の構造解析に実用されている。加速器の電子ビームとレーザーとの逆コンプトン散乱過程を利用した高エネルギー光子ビーム発生もまた研究開発が進められている方法の一つである。他の加速器由来の光源と比較して収量は小さいが、出力光子ビームのエネルギーの高さや準単色性に相違がある。また、小型加速器を利用することで装置を比較的小型にでき、短パルスレーザーを利用することでピコ〜サブピコ秒程度の短パルス硬X線も得ることができる。
この波長帯の光源として、特に高エネルギー電子バンチからのコヒーレント放射は、大強度で連続スペクトルが得られるために有望視されている。高周波によって加速される電子バンチは通常ガウス分布をしているが、加速勾配を細工することや、高密度による電子間の反発によって、理想的なガウス分布からずれを生じることがある。電子バンチが偏向磁石などを通過して放射光を発生するのに伴い、この分布の形状によって特徴づけられるコヒーレント放射も発生することが知られている。コヒーレント放射は、バンチ長と同程度の波長以上で強い連続スペクトルを持ち、その強度はバンチ内の電子数の2乗に比例する。そのため、バンチ長が短くてピーク電子密度の大きいリニアックを用いた研究を中心に既に数件研究が行われており、大強度のテラヘルツ光が得られている。また、出力は小さいが、蓄積リング電子ビームへ短パルスレーザーを打ち込みアンジュレータとの相互作用を利用してバンチ形状を変型させることでテラヘルツ光を得る試みも行われている。
さらに、衝突用レーザーを複数個用意するか、光パルス分割回路を利用することによって等間隔にディップを作り、コヒーレント放射のスペクトル幅を狭くすることができる。電子ビームとレーザーとの衝突点と偏向磁石の配置は1m以内に置け、また硬X線とコヒーレント放射のテラヘルツ光は原理的に同一方向に発生できるため、同時刻かつ同方向での照射が可能である。
(1)二帯域短パルス高輝度光源装置は、大電荷量の線形加速器を用いた相対論的電子ビームに大出力短パルスレーザーを衝突させるコンプトン(Compton)散乱により準単色の硬X線ビームを発生させ、前記電子ビームを周期長の短いアンジュレータで短パルスレーザーから分離した一部分と相互作用させてバンチスライス法によるテラヘルツ光を発生させたことを特徴とする。
(2)上記(1)記載の二帯域短パルス高輝度光源装置は、少なくともアンジュレータ、偏向磁石、光学系を有する真空容器と、大電荷量の線形加速器と、パルスレーザー発生器を備える光源装置であって、前記大電荷量の線形加速器からの電子ビームと、同じく前記パルスレーザー発生器からの大出力短パルスレーザーを前記真空容器内で逆コンプトン散乱過程を経ることでピコ秒からサブピコ秒までのパルス幅の準単色の硬X線ビームを発生させ、前記衝突点より後段に配置された周期長の短い前記アンジュレータ内で前記電子ビームを前記大出力短パルスレーザーの一部と相互作用を行わせ、電子バンチ内においてレーザーのパルス幅の部分でエネルギー分布の拡大を行わせテラヘルツ光を発生させることを特徴とする。
(3)上記(1)又は(2)記載の二帯域短パルス高輝度光源装置は、分離した前記短パルスレーザーから分離した一部分に対してパルス分割回路を設け、時間間隔の短いパルス列を形成し、テラヘルツ光のスペクトル幅を狭くすることを特徴とする。
(4)上記(1)乃至(3)のいずれか1項記載の二帯域短パルス高輝度光源装置は、真空容器内に設置された反射用と収束用のミラーによって前記電子バンチと相互作用を行わせるレーザーを電子バンチと同一軸上に入射し、かつ準単色の硬X線発生用の大出力短パルスレーザーと同一経路となる光学系を有することを特徴とする。
(5)上記(1)乃至(4)のいずれか1項記載の二帯域短パルス高輝度光源装置は、前記準単色の硬X線ビームと前記テラヘルツ光を前記偏向磁石を介して前記真空容器の異なるポートから出力するようにしたことを特徴とする。
本発明の実施の形態を図に基づいて詳細に説明する。
電子バンチBは、ポート2(6)から真空容器5内へ進入し、曲率半径が1mのステアリングコイル2によって10度偏向され、衝突点3へ進入する。衝突用パルスレーザーR1はポート1(4)より真空容器5内へ進入し、衝突点3にて収束して、電子バンチBと165度の角度で衝突し電子バンチBの進行方向に逆コンプトン散乱により準単色の硬X線を発生する。
衝突は発生することが重要であり、その衝突の角度は任意の角度を採り得る。衝突の角度を180度に近い角度、実施例に示す165度を採用すると、準単色の硬X線の収量が多くなる。衝突を発生するために、真空容器内に設置された反射用と収束用のミラーによって電子バンチと相互作用を行わせるレーザー光を電子バンチと同一軸上に入射し、かつ準単色の硬X線発生用の大出力短パルスレーザー光と同一経路となる光学系を構成する。
硬X線ビームはそのまま直進しBe(ベリリウム)窓(13)から真空容器5外へ射出され、利用実験に使用される。ここで、逆コンプトン散乱過程にて発生する硬X線ビームの収量について評価する。収量はおおよそ電荷量とレーザー出力に比例し、バンチ長及び衝突点の断面積に反比例するので、非特許文献1における実験結果から、1パルス当たり約3.3´106個となることがわかる。得られる硬X線のパルス幅は、電子ビームのそれと同じく約0.9mm(3ps)である。パルス幅は、衝突角を垂直に近づけることにより、電子ビームのパルス幅程度まで短くなることができ、フェムト秒硬X線を得ることができる。
非特許文献2によればモジュレーションの大きさは偏差が2MeVにも達し、偏向することで容易に電子ビームにディップを作ることができる。ディップの幅は経験的にレーザーパルスの√2倍程度であるが、偏向磁石11のように分散のあるところを通過するとディップが埋まっていく。ただし、図1のようにアンジュレータ10から発光点である偏向磁石11までの距離が短い場合はその影響が小さいので、ここではその影響を無視して考えることにする。ディップの深さはアンジュレータ10による光増幅の利得を評価して得られる。アンジュレータ10を通過する電子バンチBの特性(平均ビームサイズが0.2mm)を用いて名目の利得を計算すると0.28にもなり、飽和に達していることがわかる。従って、レーザーとの相互作用効率はほぼ100%であると想定され、偏向磁石11を通過中の電子バンチBのバンチ形状は図2のようになっていると考えられる。バンチスライス法によるテラヘルツ光は偏向磁石11により発生されて窓14から出力される。図2は、レーザーパルス1個と相互作用した電子ビームの偏向磁石を通過中の電子密度分布図である。理想的にはガウス分布をしている電子ビームに対し、レーザーパルスと相互作用することで中央付近の電子が欠けていることが図2から理解できる。
本例ではエネルギーモジュレーションが大きいため、小さな偏向角でもコヒーレント放射が発生し、硬X線とほぼ同方向でも利用可能であるが、ここでは偏向角30度の位置の放射を考える。偏向磁石の曲率半径を20cmと小さくすれば、100m radの角度内に放射されるコヒーレント放射スペクトルは図4のようになる。図3で見られた波長0.1mm〜1mmの領域における形状因子のピークに対応して、コヒーレント放射スペクトルにおいても波長0.1mm〜1mmのテラヘルツ帯と呼ばれる領域で、電子パルス毎あたり10nJ/1%b.w.以上比較的強い放射が得られることを図4は示している。特に例示したケースでは、自由電子レーザー装置の少ない300μm付近の波長域で強い放射が得られるため、利用価値が高い。
硬X線及びテラヘルツ帯コヒーレント放射共にイメージングに充分な収量を期待でき、しかもほぼ同時に得られるため、当該特許を使用した二帯域短パルス高輝度光源を活用することで、医療や工場などのオンサイトイメージングが可能になる。
2 ステアリングコイル
3 衝突点
5 真空容器
7 平面鏡
8 半円凹面鏡
9 ビームスプリッタ
10 真空封止型アンジュレータ
11 偏向磁石
R1 衝突用パルスレーザー
R2 相互作用用レーザー
21 レンズ
22 偏光ビームスプリッタ
23、24 1/2波長板
25,26 平面鏡
27 ビームスプリッタ
28,29、30 平面鏡
31 フェムト秒レーザー
Claims (5)
- 線形加速器、短パルスレーザー光源及びアンジュレータを備える二帯域短パルス高輝度光源装置であって、前記線形加速器から出射された相対論的電子ビームに、前記短パルスレーザー光源から出射された短パルスレーザーを衝突させて、コンプトン散乱により準単色の硬X線ビームを発生させるとともに、前記電子ビームと前記短パルスレーザーから分離した一部分とを前記アンジュレータ内において相互作用させて、バンチスライス法によるテラヘルツ光を発生させることを特徴とする二帯域短パルス高輝度光源装置。
- 少なくともアンジュレータ、偏向磁石、光学系を有する真空容器と、線形加速器と、短パルスレーザー光源を備える光源装置であって、前記線形加速器からの電子ビームと、同じく前記短パルスレーザー光源からの大出力短パルスレーザーを前記真空容器内で逆コンプトン散乱過程を経ることでピコ秒からサブピコ秒までのパルス幅の準単色の硬X線ビームを発生させるとともに、前記衝突点より後段に配置された周期長の短い前記アンジュレータ内で前記電子ビームを前記大出力短パルスレーザーの一部と相互作用を行わせ、電子バンチ内においてレーザーのパルス幅の部分でエネルギー分布の拡大を行わせテラヘルツ光を発生させることを特徴とする請求項1記載の二帯域短パルス高輝度光源装置。
- 前記短パルスレーザーから分離した一部分に対してパルス分割回路を設け、時間間隔の短いパルス列を形成し、テラヘルツ光のスペクトル幅を狭くすることを特徴とする請求項1又は2記載の二帯域短パルス高輝度光源装置。
- 前記電子バンチと相互作用を行わせるレーザーを電子バンチと同一軸上に入射するために、真空容器内に反射用と収束用のミラーを有し、かつ準単色の硬X線発生用の大出力短パルスレーザーと同一経路となる光学系を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の二帯域短パルス高輝度光源装置。
- 前記準単色の硬X線ビームと前記テラヘルツ光を前記偏向磁石を介して前記真空容器の異なるポートから出力するようにしたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の二帯域短パルス高輝度光源装置。
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