JP4775253B2 - 電磁波変調器 - Google Patents

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Description

本発明は、波長が1×10-2〜1×10-5mの電磁波の伝播状態を変化させる電磁波変調器に関し、特に、詳しくは波長10-3〜10-4m程度のいわゆるミリ波からテラヘルツ波領域の電磁波を変調する電磁波変調器に関するものである。
近年ミリ波からテラヘルツ波領域の電磁波に関する技術が注目され、特にそれらの電磁波を用いたイメージング、分光分析等が応用として期待されている。
イメージング、分光分析等の応用を実用化するためには、当該波長域の電磁波の発生、検出技術に加えて、電磁波の強度を変調あるいはパルスチョッピングすることが要素技術として不可欠である。
特にイメージング、分光分析への応用のためには、被変調電磁波をパルスチョッピングすることが求められ、望ましくはパルス立上りおよび立下り時間(以降、変調動作時間と呼ぶ)を約10-6sec.以下の時間スケールで任意に変えられることが求められる。さらに望ましくは、変調動作時間の最短時間にして10-9sec.程度を達成することが求められる。
電磁波をおよそ10-6sec.以下の時間スケールで変調する方法として、ポッケルスセル、カーセル等の電気光学素子や音響光学変調素子を用いる方法が一般的であるが、ミリ波からテラヘルツ波領域の電磁波に対して動作するものは存在しない。
10-9sec.の変調動作時間の強度変調あるいはパルスチョッピングを行う手法としては、バンドギャップが被変調電磁波のフォトンエネルギーよりも大きい半導体基板に電磁波を透過または反射させ、半導体基板上にバンドギャップよりフォトンエネルギーの大きい励起光を入射することにより半導体基板内に自由キャリア(電子および正孔)を生成し、自由キャリア密度を変化させることで複素屈折率を変化させ、電磁波の透過率または反射率を変化させる方法が知られている。
一般に励起光源としては変調に十分な照度を得やすいパルスレーザ、特に10-8sec.以下のパルス幅であるQスイッチYAGレーザが用いられている。
例えば非特許文献1には、上述したQスイッチYAGレーザによりSi基板を透過させた波長214.58μmの電磁波を変調し、パルスチョッピングする技術が記載されている。
また、特許文献1には、シリコンウエハの表面層の評価する方法が記載され、電磁波を照射した半導体基板にパルス励起光を入射し、電磁波の変調を測定することにより半導体基板の不純物濃度等の物理量を測定することが開示されている。
図13に励起光源としてパルスレーザを用いた従来の電磁波変調器の一例を示す。
電磁波源13から出力される被変調電磁波10aは、入射側軸外し放物面ミラー11を介して第1のシリコン基板(Si基板)7−1に入射して、励起光であるパルスレーザ光25により変調され、その反射電磁波10bは第2のSi基板7−2に入射する。第2のSi基板7−2に入射した電磁波10bは、上記と同様、励起光であるパルスレーザ光26により変調され、その透過電磁波10dは、出射側軸外し放物面ミラー12を介して電磁波の照射対象14に出力される。
励起光にはQスイッチYAGレーザ発信器21(波長1064nm,パルス幅10-8sec.)を用いている。
YAGレーザ発信器21のパルスレーザ光22はビームスプリッタ23で2つに分けられ、一方のパルスレーザ光は、ミラーM1,M2を介して1枚目のSi基板7−1に照射され、もう一方は光学遅延装置24(遅延時間td)およびミラーM3を介して2枚目のSi基板7−2に照射される。なお、Si基板7−1,7−2上の照度は例えば、約50mJ/cm2 である。
光学遅延装置24は例えば同図に示すように入射したパルスレーザ光を複数のミラーM11〜M1nで反射させて光路長をかせぎ、遅延させるものであり、図14(a)に示すように、第1のSi基板7−1に入射するパルス状のレーザ光25に対して、第2のSi基板7−2に入射するパルス状のレーザ光26を遅延時間tdだけ遅延させる。
前述したように半導体基板に励起光を照射することにより、励起光はその波長に応じた光侵入長だけ半導体基板に侵入し吸収され、自由キャリアを励起する。
被変調電磁波に対する半導体基板の反射率(R)および消衰係数(k)は上記励起される自由キャリア密度に強く依存し、自由キャリア密度が高いほど反射率(R)は1に近づき、消衰係数(k)は大きくなる。
したがって、第1のSi基板7−1に励起光であるパルスレーザ光25が入射すると、第1のSi基板7−1に入射している被変調電磁波10aは、第1のSi基板7−1で反射し、反射した電磁波10bは、第2のSi基板7−2に入射する。
このとき、第2のSi基板7−2にパルスレーザ光26が照射されていないと、第2のSi基板7−2に入射した電磁波は、Si基板7−2を透過し、この透過電磁波は、出射側軸外し放物面ミラー12を介して電磁波の照射対象14に出力される。
すなわち、図14(b)に示すように、Si基板7−1にパルスレーザ光25が入射すると、照射対象14へ出力される電磁波は増大する。
ついで、遅延時間Td経過後、第2のSi基板7−2にパルスレーザ光26が入射すると、第2のSi基板7−2の反射率が増大する。このため、第1のSi基板7−1で反射して第2のSi基板に入射した電磁波10bは第2のSi基板7−2で反射され、照射対象14へ出力されなくなる。
すなわち、図14(b)に示すように、Si基板7−2にパルスレーザ光26が入射すると、照射対象14へ出力される電磁波は減衰する。
なお、励起光により励起された自由キャリアは、励起光の照射が停止しても直ちに消滅せず、励起されたキャリアの密度は拡散および再結合によって漸減し、それに伴い反射率も漸減する。励起光照射後、反射率が励起前の値まで戻るまでの時間は主に励起キャリアの再結合緩和時間に依存し、典型的には100μsのオーダーである。
したがって、第2のSi基板7−2を用いずに、第1のSi基板7−1のみを用いて電磁波を変調する場合、出力される電磁波の幅(持続時間)は例えば上記100μsのオーダーとなる。
以上のように、被変調電磁波10aは、第1のSi基板7−1と第2のSi基板7−2へ照射される励起光25,26により変調され、照射対象14へは、立ち上がり、立下り特性が、第1のSi基板7−1での変調によるパルス立上り変調動作時間と、第2のSi基板7−2での変調によるパルス立下り変調動作時間とで定まり、励起光25,26の遅延時間tdに応じた幅の電磁波が出力される。
なお、この電磁波の立上りおよび立下りの変調動作時間はほぼレーザパルス幅で定まる10-8sec.であり、Si基板の透過率が90%から10%まで変化する時間で定義すると、1ns〜10nsである。
図13に示した装置は、被変調電磁波の立上りおよび立下りの変調動作時間が、上述したように、ほぼレーザパルス幅である10-8sec.で定まり、この値を任意に変えることはできない。
また、QスイッチYAGレーザは大型で高価であるうえに、光学遅延の長さは例えばtd=5×10-8sec.の場合15mとなり、アライメントなどの取扱いが容易ではないという欠点がある。
ビームスプリッタと光学遅延を用いずに、QスイッチYAGレーザを2台独立に駆動して2枚の基板に照射することも可能であると考えられるが、システムとしてはさらに大型で高価になる。
特開平6−97249号公報 莅戸 立夫、外2名、「光照射半導体基板を用いたサブミリ波変調法」、電子情報通信学会論文誌、C−1、Vol.J80−C−1、No.6、pp.259−266、1997年6月
上述したように、半導体基板上に励起光を入射することにより電磁波の透過率または反射率を変化させる方法が知られており、この励起光源として変調に十分な照度を得やすいパルスレーザを用いられる。
しかしながら、パルスレーザによる動作では10-8sec.以下の変調動作時間は容易に得られるが、約10-6sec.以下の時間スケールで任意に変えることはできないという問題があった。
さらに、QスイッチYAGレーザをはじめとするパルスレーザは、光源や検出器などの他の構成機器に比して大型で高価であり、これらを用いたシステムの実用化を阻む一因となっている。一方、任意の光パルス波形を得られるLED等の固体発光素子では、十分な変調を達成するための照度を発生できない。
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、半導体基板に励起光を照射して、波長が1×10-2〜1×10-5mの電磁波に対する反射率もしくは透過率を制御することにより上記電磁波を変調する電磁変調器において、最短の立ち上がり/立下り時間がパルスレーザを用いた場合と同等であって、変調動作時間を10-6〜10-9sec.の範囲で任意に変えることができ、かつ、変調された電磁波の波形の立ち上がりおよび立下りの波形をそれぞれ自由に設定することができる、従来の励起光源であるパルスレーザを用いたものよりも遥かに小型で安価な電磁波変調器を提供することを目的とする。
被変調電磁波に対する半導体基板の反射率(R)および消衰係数(k)は励起される自由キャリア密度に強く依存し、自由キャリア密度が高いほど反射率(R)は1に近づき、消衰係数(k)は大きくなる。
例として、図10に波長3×10-4mの電磁波に対するシリコン(Si)の反射率の自由キャリア密度依存性を示す。同図の横軸は自由キャリア密度、縦軸は反射率(R)である。
同図から明らかなように、およそ、6×1021-3以上の自由キャリア密度が達成できれば反射率(R)はほぼ1となり飽和することがわかる。
励起光はその波長に応じた光侵入長だけ半導体基板に侵入し吸収され、自由キャリアを励起する。励起された自由キャリアは半導体基板内を拡散する。半導体基板に吸収される励起光量とその時間波形、光侵入長および拡散の度合いによって達成される自由キャリア密度が決まる。
図11はシリコン(Si)に対する光侵入長の波長特性を示している。横軸は波長、縦軸は光侵入長である。
光侵入長は波長200−300nmで最も小さく(約10nm)なるため、同じ照度で比較した場合、波長200−300nm近傍の光による励起では他の波長域の光による励起に比べ、表面極近傍で非常に高いキャリア密度を得ることができる。
パルス光を励起光として入射する場合、その照度が非常に大きければ、非常に高い自由キャリア密度を達成することが可能である。
図12(a)にフラッシュランプから放射されるパルス光の光照度を示し、図12(b)にフラッシュランプのパルス光を励起光としたときの、シリコン(Si)基板の反射率(R)の立ち上がり特性を示す。同図(b)は、同図(a)のA,B,Cの照度のパルス光を励起光としたときのA,B,Cそれぞれの立ち上がり特性を示している。
なお、フラッシュランプのパルス光のパルス幅は、図12(a)に示すように概ね10μs〜1000μsであり、これに対し、シリコン(Si)基板の反射率(R)の立ち上がり時間は、図12(b)に示すように概ね1ns〜100nsである。
フラッシュランプの照度は非常に大きいので、図12に示すように、光パルスの立上り時間よりも遥かに早く被変調電磁波の反射率が飽和(≒1)に達し、パルス光の立上り時間よりも遥かに短い変調動作時間を得られる。
また、図12から分かるように、励起光の照度に応じてシリコン(Si)基板の反射率(R)の立ち上がり時間は変化する。
したがって、例えば減光フィルタ等により励起光照度を調整すれば、変調動作時間を任意に調整することができる。励起された自由キャリア密度は励起光入射終了後、拡散および励起キャリア(電子および正孔)同士の再結合により漸減する。それに従って反射率もまた励起光入射終了後漸減する。再結合までの平均時間(再結合緩和時間)が長いほど、反射率を飽和させるための励起光照度は小さくてすみ、励起光入射終了後の反射率の減少は遅くなる。
本発明は以上の観点に立って成されたものであり、半導体基板に励起光を照射する励起光源としてフラッシュランプを用い、フラッシュランプからのパルス放射光を集光手段により半導体基板に入射する。
これにより、フラッシュランプパルス立上りよりも遥かに短い変調動作時間を達成し、かつ励起光の照度を変えることにより、変調動作時間を任意に変えることができる。
しかも従来のパルスレーザを励起光源として用いた電磁波変調器よりも遥かに小型で安価な構成の電磁波変調器を提供できる。
ここで、前記した本発明の課題である、変調された電磁波の最短の立ち上がり/立下り時間がパルスレーザを用いた場合と同等であって、変調動作時間を10-6〜10-9sec.の範囲で変えることが可能な励起光を照射するフラッシュランプとしては、波長200−300nmの放射を高効率で得られる8kA/cm2 以上の高電流密度で駆動され、ランプパルス幅が半値幅にして1ms以下のものが望ましい。
上記フラッシュランプを用いることで、半導体基板上でのパルス照度を10mJ/cm2 以上とすることができ、上記立ち上がり/立下り時間を実現することができる。
また、上記フラッシュランプを励起光源とし、励起光照度を調整すれば、変調された電磁波の立ち上がりおよび立下りの時間を、それぞれ自由に変更することもできる。
なお、半導体基板はSi,SiC,GaAs,GaP,Ge,InAs,InP,InSb,CdS,CdTe等が使用できるが、特に再結合緩和時間が長いSiが適している。また半導体基板への励起光の吸収効率を高めるために、半導体表面上に励起光の反射を低減する手段を備えていることがさらに望ましい。
以上に基づき、本発明は次のようにして前記課題を解決する。
(1)半導体基板に励起光を照射して、波長が1×10-2〜1×10-5mの電磁波に対する該半導体基板の反射率もしくは透過率を制御することにより上記電磁波を変調する電磁変調器であって、前記励起光を照射する励起光源としてフラッシュランプを用い励起光源であるフラッシュランプを以下のように構成する。
コンデンサからフラッシュランプの一方の極に至る伝送経路及び両極の電極棒と、フラッシュランプの他方の極からコンデンサに至る略円筒状の帰還伝送路とが、略同軸構造を成し、上記帰還伝送路は、フラッシュランプの電極間の外側に相当する部分の少なくとも一部が、線状または網目状の導体、または透光性導体で構成される。そして、上記フラッシュランプからの放射光を半導体基板に集光照射して励起光とする。
)上記()において、上記帰還伝送路のフラッシュランプの電極間の外側に相当する部分の少なくとも一部を、電極間軸にほぼ平行で該電極間軸に対称に配置された複数の線状の導体で構成する。
)上記(1)〜()において、半導体基板の少なくとも一部を、半導体基板の励起光に対する屈折率よりも小さな屈折率で、かつ励起光の少なくとも一部を透過する物質の薄膜で被覆し、励起光反射率を低減する。
)上記(1)〜()において、半導体基板の少なくとも一部に、励起光波長に相当する大きさの凹凸を設け、励起光反射率を低減する。
)上記(1)〜()において、半導体基板をシリコンとする。
本発明においては、以下の効果を得ることができる。
(1)半導体基板に励起光を照射して、半導体基板の反射率もしくは透過率を制御することにより電磁波を変調する電磁変調器において励起光を照射する励起光源としてフラッシュランプを用いたので、パルスレーザを用いたものよりも遥かに小型で安価とすることができる。
(2)フラッシュランプの励起光照度を調整することにより、変調動作時間を任意に調整することができる。また、変調された電磁波の立ち上がりおよび立下りの時間を、それぞれ自由に変更することもできる。
(3)コンデンサからフラッシュランプの一方の極に至る伝送経路及び両極の電極棒と、フラッシュランプの他方の極からコンデンサに至る帰還伝送路とが同軸構造を成し、また、上記帰還伝送路のフラッシュランプの電極間の外側に相当する部分の少なくとも一部を、線状または網目状の導体、または透光性導体で構成することにより、伝送経路インダクタンスを極端に小さくすることができ、非常に高い電流密度を得ることができる。
また、インダクタンスをほとんど増加させることなく、放射される光のほとんどを集光素子に導くことができ、結果として半導体基板への光侵入長が小さい波長200−300nmの光を多く含む極めて高照度の照射が可能となる。
さらに、フラッシュランプの極間を短くすることができ、アーク長を短くすることができるので、楕円集光ミラーなどを用いて、フラッシュランプからの光を効率よく集光することができる。
(4)半導体基板の少なくとも一部を、半導体基板の励起光に対する屈折率よりも小さな屈折率で、かつ励起光の少なくとも一部を透過する物質の薄膜で被覆したり、半導体基板の少なくとも一部に、励起光波長に相当する大きさの凹凸を設けることにより、励起光反射率を低減することができ、照射された励起光が半導体基板に吸収される割合を増やすことができる。
図1に本発明の望ましい実施形態である電磁変調器の第1の実施例を示す。本実施例は、一枚の半導体基板を用い、この半導体基板にフラッシュランプから励起光を照射して、被変調電磁波を変調する場合を示す。
図1において、1は例えば棒状のフラッシュランプ、2はフラッシュランプの光を集光する樋状の集光ミラーであり、同図はフラッシュランプの長手方向の軸に垂直な平面できった断面図を示している。
図1に示すフラッシュランプ1は透光性材料からなるバルブ1e内に放電ガスが封入され、且つ、該バルブ1e内に、図示しない対向配置された一対の電極が設けられ、バルブ1eの外側にはトリガ線1aが取り付けられている。
上記一対の電極は、給電ライン5を介してコンデンサCに接続され、コンデンサCには充電電源4が接続され、充電電源4には電圧制御手段4aが設けられている。
上記充電電源4からコンデンサCに充電したのち、コンデンサCに充電されたエネルギーを給電ライン5を介してフラッシュランプ1の図示しない電極に印加することにより電極間にアークが発生し、フラッシュランプ10は点灯する。これにより、フラッシュランプ1からパルス光が放射される。
トリガ線1aとトリガパルス発生器3はトリガパルス供給ライン3aを介して接続されており、トリガ線1aに高電圧パルスを印加することでフラッシュランプ1の放電を始動することができる。フラッシュランプ1からのパルス光は集光ミラー2で集光され、Si基板7に照射される。
なお、前述したように、変調された電磁波の最短の立ち上がり/立下り時間がパルスレーザを用いた場合と同等であって、変調動作時間を10-6〜10-9sec.の範囲で変えることが可能な励起光を照射するためには、上記フラッシュランプとして、8kA/cm2 以上の高電流密度で駆動され、ランプパルス幅が半値幅にして1ms以下のものが望ましい。
一方、電磁波源13から放射される波長が、例えば1×10- 3 〜1×10- 4 mの被変調電磁波10aは軸外し放物面ミラー11を介してSi基板7に、フラッシュランプ光6と同じ側から入射する。
フラッシュランプ1からパルス光6を照射することにより、前述したようにSi基板7の被変調電磁波に対する反射率は、ランプ光パルス立上りよりも早く1に達し飽和する。その結果、Si基板で反射された電磁波の立上り変調動作時間は、ランプ光立上りよりも遥かに短くなる。
Si基板7の被変調電磁波10aに対する反射率がほぼ1に達することで、Si基板7に入射した被変調電磁波10aは、Si基板7で反射し、この反射電磁波10bは軸外し放物面ミラー12を介して電磁波照射対象14に出力される。
図2(a)にフラッシュランプ1から放射されるパルス光の強度を示し、図2(b)に電磁波照射対象14に出力される出力電磁波強度を示す。
なお、前述したようにフラッシュランプパルス光照射後、Si基板内で励起されたキャリアの密度は拡散および再結合によって漸減し、それに伴い反射率も漸減する。励起光照射後、反射率が励起前の値まで戻るまでの時間は主に励起キャリアの再結合緩和時間に依存し、典型的には100μsのオーダーである。したがって、図2(b)に示すように出力電磁波は、フラッシュランプ1からの励起光が照射されなくなった後も、反射率が励起前の値まで戻るまで持続する。
ここで、フラッシュランプ1への入力エネルギーを蓄積するコンデンサCへの印加電圧を電圧制御手段4aにより調節することで、Si基板7上のフラッシュランプ光の照度を調節することができる。これにより、図12で説明したように、立上り変調動作時間を任意に変えることができる。
フラッシュランプのランプ光のSi基板7上の照度を調節する方法は、コンデンサCへの印加電圧を調節する方法以外に、減光フィルタにより照度を調整したり、集光素子2による集光点位置を調整し、Si基板7上での集光状態を変化させて行ってもよい。
本実施例において、Si基板7上のパルス照度は最大約200mJ/cm2 である。また、フラッシュランプの光パルス波形は略正弦波であり、パルス時間幅は約10-4sec.である。被変調電磁波の波長が2.6mmの場合、立上り変調動作時間は最短で約10-7sec.である。
なお、図1では、Si基板7で反射した電磁波を変調電磁波として照射対象14に出力するようにしたが、Si基板7を透過した電磁波を変調電磁波として照射対象14に出力してもよい。
この場合は、フラッシュランプ1からSi基板7に励起パルス光が照射されると、照射対象14に出力されていた変調電磁波が、フラッシュランプ光の照度に応じた立下がり変調動作時間で立ち下がる。
図3(a)は、一般的なフラッシュランプ点灯回路の例を模式的に表したものであり、同図はフラッシュランプ1を、その管軸を通る平面で切った断面図を示している。
図3(a)に示すフラッシュランプ1は棒状ランプであり、透光性材料からなるバルブ1e内に放電ガスが封入され、且つ、該バルブ1e内に、対向配置された一対の電極1b(陽極)と電極1c(陰極)が設けられ、バルブ1eの外側にトリガ線1aが取り付けられている。
上記一対の電極1b,1cは、電極棒1fを介して給電ライン5に接続され、給電ライン5の他端は、充電電源4が接続されたコンデンサCに接続されている。
図3(a)において、充電電源4よりコンデンサCに電荷を蓄え、トリガパルス発生器3から外部トリガ1aにトリガパルスを印加することにより、コンデンサCの蓄積電荷がランプに瞬時に供給され、電極1b,1c間にアークが発生し、パルス発光を得る。
図3(a)では、電極間の距離がLの棒状ランプを示したが、フラッシュランプをできるだけ高照度で照射するためには、ミラー等の集光素子により効率よく集光することができる点光源であること、即ちフラッシュランプの極間が短いことが望ましい。
いまフラッシュランプの点灯回路におけるコンデンサ容量をC、回路インダクタンスをL、コンデンサ充電電圧をV、ピーク電流をJとすると、点灯パルス時間幅(τ)及びダンピングファクター(α)は次式で表される。
τ=(LC)-1/2 (1)
α=VJ-1/2/{V(L/C)1/2 1/2 (2)
ここで、ダンピングファクター(α)は、フラッシュランプ1に流れる電流の時間波形を表す因子である。
α≒0.75の場合、電流波形は臨界制動となり、配線経路の僅かな抵抗を無視すると、コンデンサへの充電エネルギーは全てフラッシュランプで消費される。α>0.75の場合、電流波形は過制動となり臨界制動の場合よりピーク電流値が小さくなる。また、α<0.75の場合、電流波形は過小制動(振動波形)となる。
点光源として扱える短極間のフラッシュランプの場合、ランプインピーダンスが小さくなる、すなわちVJ-1/2の値が小さくなる。このため従来の給電方法を用いると、αの値が0.75よりも遥かに小さくなり、ランプ電流の時間波形は振動波形となる。このため、極間を小さくしてもピーク照度を大きくすることができないこととなる。
図3(a)の例ではフラッシュランプのXe封入圧は3atm、電極及び電極棒の長さは両極とも50mm、コンデンサ充電電圧は300V、コンデンサ容量は100μFのものを使用した。コンデンサ・フラッシュランプ間の伝送路長は200mmであり、Ф2.5mm導線を使用した。回路インダクタンスの実測値は2.0μFであった。このとき極間長5mm,30mmの場合のαの値はそれぞれ0.40,0.75であり、それぞれ場合のランプ電流波形は図3(b)に示すようになる。同図のAは極間長30mmの時の電流波形を示し、Bは、極間長5mmのときの電流波形を示す。
同図から分かるように、極間長5mmとしても振動波形となりピーク照度を大きくできない。
図4に本発明で使用するのにさらに望ましいフラッシュランプの構成及び電磁変調器への適用例を示す。
同図はフラッシュランプ1を、その管軸を通る平面で切った断面図を示している。
図4において、放電ガスが封入された透光性材料からなるバルブ1e内に、対向配置された一対の電極(陽極)1bと電極1c(陰極)が設けられ、バルブ1eの外側にはトリガ線1aが取り付けられている。
集光ミラー2は楕円集光鏡であり、その中央に開口が設けられ、該開口から、フラッシュランプ1が、楕円集光鏡の光軸に沿って挿入されている。
フラッシュランプ1の電極1b,1cの極間は例えば5mmと短く、電極1b,1cはパルス光の照射方向に配置されている。
フラッシュランプ1のアーク位置は集光ミラー2の1つの焦点と一致するように設置されており、アークからのパルス光は集光ミラー2によりもう一方の焦点に集光される。
上記電極(陽極)1bは、電極棒1fおよび陽極側伝送経路5aを介してコンデンサCの一方の端子に接続され、電極1c(陰極)は電極棒1f及び陰極側(帰還)伝送経路5b及び4本の線状導体1gを介してコンデンサCの他方の端子に接続されている。すなわち、陽極側伝送経路5aと、陰極側(帰還)伝送経路5b及び線状導体5cの往復で略同軸構造を成している。
図示しない充電電源により上記コンデンサCに電荷を蓄え、トリガパルス発生器3から外部トリガ1aにトリガパルスを印加することにより、コンデンサCの蓄積電荷がランプに瞬時に供給され、電極1b,1c間にアークが発生し、パルス発光を得る。
このパルス光は集光ミラー2で集光され、被変調電磁波が入射しているSi基板7に照射される。
図4に示す本実施例のフラッシュランプ1は、極間が短い(5mm)ために、ランプ光を楕円ミラー2などの集光素子により効率よく集光することができる。
希ガス封入フラッシュランプでは、ピーク電流にして8kA/cm2 程度以上の高電流密度で駆動した場合、高温希ガスプラズマからのイオン線を含む波長200−300nmの放射を高効率で得られることが知られている。
ところが先に示したとおり、フラッシュランプ1の極間が短くランプインピーダンスが低い場合、コンデンサCとフラッシュランプ1を導線で接続する通常の回路では、経路インダクタンスが大きいために電流が振動波形となる、いわゆるアンダーダンピングの状態となり、高い電流密度を得ることができない。
そこで、本実施例では、フラッシュランプ1とコンデンサCとの間の伝送経路5a,5bと線状導体5cを往復で略同軸構造を成す形状としている。これにより、伝送経路インダクタンスを極端に小さくすることができ、非常に高い電流密度を得ることができる。
さらに、極間からほぼ全周囲方向に放射されるランプ光を遮ることなく集光素子2に導くために、略同軸構造の伝送経路の外側を成す帰還伝送路5bの極間部に相当する部分を、ランプ中心軸の周りに均等に配置された4本の線状導体5cとしている。
これによりインダクタンスをほとんど増加させることなく、放射される光のほとんどを集光素子に導くことができる。結果として波長200−300nmの光を多く含む極めて高照度の照射が可能である。従って、被変調電磁波の反射率はより一層早く飽和に達する。
本実施例において、ランプ光のパルス波形は略正弦波であり、パルス時間幅は約2×10-5sec.である。Si基板上の照度は約0.2J/cm2 であり、このうち約30%が波長200−300nmの光の放射である。このとき波長2.6mmの被変調電磁波の反射波強度の立上りは10-9sec.程度であった。
さらに、ランプ光は波長200−300nmの光のみならず、比較的侵入長の長い波長の光も含んでいるため、Si基板の比較的深い部分にも自由キャリアが励起される。
主に表面近傍に生成された自由キャリアはSi基板中を拡散するが、表面から比較的深い部分にも自由キャリアが生成されているため、その拡散の度合いは表面近傍のみに自由キャリアが生成された場合に比較して小さくなると考えられる。従って、波長200−300nm以外の波長も含む白色光の照射により、波長200−300nmのみを照射した場合に比べて表面近傍に高いキャリア密度を実現でき、即ち反射波強度の立上り時間をより一層短くなっていると考えられる。
図5(a)に本発明で使用するのにさらに望ましいフラッシュランプの構成を示し、同図(b)に管軸に垂直な平面で切った断面図を示す。
同図はフラッシュランプ1を、その管軸を通る平面で切った断面図を示している。
図5において、放電ガスが封入された透光性材料からなるバルブ1e内に、対向配置された一対の電極(陽極)1bと電極1c(陰極)が設けられ、電極1b,1c間にトリガ電極1gが設けられている。バルブ1eの両端は封止部1dで封止され、封止部1dを上記電極1b,1cに接続された電極棒1fが貫通している。
上記電極(陽極)1bは、電極棒1fに接続され、電極1c(陰極)は電極棒1f’を介して、帰還伝送路5b、線状導体5c及び帰還伝送路5b’に接続されている。本実施例において線状導体5cは8本であり、ランプ中心軸の周りに均等に配置されている。
すなわち、電極1b,電極棒1fと、電極1c、電極棒1f’帰還伝送経路5b、線状導体5c、帰還伝送路5b’の往復で略同軸構造を成している。
上記のように、本実施例のフラッシュランプにおいて、帰還伝送路は8本の線状導体5cで構成され、ランプ中心軸に対称に配置されている。アークは帰還伝送路を流れる電流から反発力を受けるが、伝送路が軸対称に配置されているため、結果的にアークはランプ中心軸に戻されるように力が働き、アークが安定化する。
図6に本発明の望ましい実施形態である電磁変調器の第2の実施例を示す。本実施例は、第1、第2のフラッシュランプと2枚の半導体基板を用い、この2枚半導体基板にフラッシュランプから励起光を照射して、被変調電磁波を変調する場合を示す。
図6において、1−1,1−2は前記図4に示したフラッシュランプ、2−1,2−2はフラッシュランプの光を集光する楕円集光鏡からなる集光ミラーであり、同図はフラッシュランプの長手方向の軸に垂直な平面できった断面図を示している。
電磁波源13から出力される被変調電磁波10aは、入射側軸外し放物面ミラー11を介して第1のSi基板7−1に入射して、第1のフラッシュランプ1−1のパルス光により変調され、その反射電磁波10bは第2のSi基板7−2に入射する。
第2のSi基板7−2に入射した電磁波10bは、第2のフラッシュランプ1−2のパルス光により変調されるが、第2のSi基板7−2を励起するフラッシュランプ1−2は、図7(a)に示すように、第1のフラッシュランプ1−1から時間tdだけ遅延して発光する。
したがって、第1のSi基板7−1にフラッシュランプ1−1からの励起光6−1が入射すると、第1のSi基板7−1に入射している被変調電磁波10aは、第1のSi基板7−1で反射し、反射した電磁波10bは、第2のSi基板7−2に入射する。
すなわち、上記第1のSi基板7−1で反射した電磁波10bの強度は図7(b)に示すようになる。
このとき、第2のSi基板7−2にフラッシュランプ1−2からの励起光6−1が照射されていないと、第2のSi基板7−2に入射した電磁波は、Si基板7−2を透過し、この透過電磁波は、入射側軸外し放物面ミラー12を介して電磁波の照射対象14に出力される。
遅延時間Td経過後、第2のフラッシュランプ7−2が発光すると、第2のSi基板7−2に励起光が入射し、第2のSi基板7−2の反射率が増大する。このため、第1のSi基板7−1で反射して第2のSi基板に入射した電磁波10bは第2のSi基板7−2で反射され、照射対象14へ出力されなくなる。
このため図7(c)に示すように、Si基板7−2にパルスレーザ光26が入射すると、照射対象14へ出力される電磁波は立ち下がる。
すなわち、出力される被変調電磁波の波形は、第1のSi基板7−1での変調によりパルス立上りの変調動作時間が定まり、第2のSi基板7−2での変調によりパルス立下りの変調動作時間が定まり、さらに上記遅延時間tdにより時間幅が決定されるパルスとなる。
立上りの変調動作時間は第1のSi基板7−1に照射されるフラッシュランプ7−1の照度により定まり、立下り変調動作時間は、第2のSi基板7−2に照射されるフラッシュランプ7−1の照度により定まるので、2つのフラッシュランプ7−1,7−2の照度および遅延時間tdを変化させることにより、立上り、立下りの変調動作時間およびパルス時間幅を任意に変えることができる。
図8に、本発明のさらに望ましい形態の実施例を示し、本実施例は本発明で使用される半導体基板の望ましい構成例を示す。
本実施例では同図に示すように、Si基板7の表面上にSiO2 の薄膜7aが形成されている。
SiO2 の屈折率はSiよりも小さいため、励起光6の反射率を低減することができ、照射された励起光6がSi基板に吸収される割合を増やすことができる。SiO2 以外にも例えばCaF2 ,LiF2 ,kBr,CaBr2 ,KI,CaI2 ,CsI,SiNなどを使用してもよい。SiO2 は使用するSi基板を熱処理する等の方法にて比較的容易に薄膜形成することができるためこの目的には最適である。
図9に本発明のさらに望ましい形態の実施例を示し、本実施例は本発明で使用される半導体基板のSi基板の望ましい他の構成例を示す。
Si基板7の表面上にリソグラフィによりレジストパターンを形成し、プラズマエッチングにより凹凸層7bが形成されている。
凹凸の深さdおよび凹凸パターンの大きさpは励起光波長程度であり、実施例ではともに300nmである。凹凸層7bの励起光6に対する実効的な屈折率はSi基板そのものよりも小さいため、励起光6の反射率を低減することができ、照射された励起光6がSi基板7に吸収される割合を増やすことができる。
凹凸を形成する方法として、上記のプラズマエッチングのほかにもナノインプリント法等を用いてもよい。
また、図8に示すようにSi基板7の表面上にSiO2 の薄膜7aを形成するとともに、図9に示すように、凹凸層7bを形成してもよい。
本発明の電磁変調器の第1の実施例を示す図である。 フラッシュランプから放射されるパルス光の強度と出力電磁波強度を示す図である。 一般的なフラッシュランプ点灯回路およびランプ電流波形を示す図である。 本発明で使用するのに望ましいフラッシュランプ(1)の構成及び電磁変調器への適用例を示す図である。 本発明で使用するのに望ましいフラッシュランプ(2)の構成を示す図である。 本発明の電磁変調器の第2の実施例を示す図である。 第2の実施例においてフラッシュランプから放射されるパルス光の強度と出力電磁波強度を示す図である。 本発明で使用するのに好適な半導体基板の構成例(1)を示す図である。 本発明で使用するのに好適な半導体基板の構成例(2)を示す図である。 波長3×10-4mの電磁波に対するシリコン(Si)の反射率の自由キャリア密度依存性を示す図である。 シリコン(Si)に対する光侵入長の波長特性を示す図である。 フラッシュランプから放射されるパルス光の光照度と、シリコン(Si)基板の反射率(R)の立ち上がり特性を示す図である。 励起光源としてパルスレーザを用いた従来の電磁波変調器の一例を示す図である。 図13に示す電磁波変調器のレーザ光照度と出力電磁波強度を示す図である。
符号の説明
1 フラッシュランプ
1a トリガ線
1b,1c 電極
1d 封止部
1e バルブ
1f 電極棒
1g 外部トリガ電極
2 集光ミラー
3 トリガパルス発生器
4 充電電源
4a 電圧制御手段
5 給電ライン
6 フラッシュランプパルス光
7 Si基板(半導体基板)
7a SiO2
7b 凹凸層
10a〜10e 被変調電磁波
11,12 入射側軸外し放物面ミラー
13 電磁波源
14 電磁波照射対象
C コンデンサ

Claims (5)

  1. 半導体基板に励起光を照射して、波長が1×10−2〜1×10−5mの電磁波に対する該半導体基板の反射率もしくは透過率を制御することにより上記電磁波を変調する電磁変調器であって、
    前記励起光を照射する励起光源フラッシュランプであり、
    前記励起光源であるフラッシュランプは、コンデンサからフラッシュランプの一方の極に至る伝送経路及び両極の電極棒と、フラッシュランプの他方の極からコンデンサに至る略円筒状の帰還伝送路とが、略同軸構造を成し、
    上記帰還伝送路は、フラッシュランプの電極間の外側に相当する部分の少なくとも一部が、線状または網目状の導体、または透光性導体で構成され、
    該フラッシュランプからの放射光を半導体基板に集光照射して励起光とする
    ことを特徴とする電磁波変調器
  2. 上記帰還伝送路のフラッシュランプの電極間の外側に相当する部分の少なくとも一部が電極間軸にほぼ平行で該電極間軸に対称に配置された複数の線状の導体で構成されていることを特徴とする請求項に記載の電磁波変調器。
  3. 半導体基板の少なくとも一部を、半導体基板の励起光に対する屈折率よりも小さな屈折率で、かつ励起光の少なくとも一部を透過する物質の薄膜で被覆し、励起光反射率を低減したことを特徴とする請求項1または請求項2の電磁波変調器。
  4. 半導体基板の少なくとも一部に、励起光波長に相当する大きさの凹凸を設け、励起光反射率を低減したことを特徴とする請求項1,2または請求項3の電磁波変調器。
  5. 半導体基板がシリコンであることを特徴とする請求項1,2,3または請求項4に記載の電磁波変調器。
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