近年、世界的かつ全産業にわたって、地球温暖化の主因たる二酸化炭素(CO2)ガスを削減する試みが推進されている。
ちなみに、セメント産業は、電力や鉄鋼等と共にCO2ガスの排出量が多い産業の一つであり、当該セメント産業におけるCO2ガスの排出削減は、日本全体におけるCO2ガスの排出削減に大きな貢献を果たすことになる。
図10は、上記セメント産業における一般的なセメントの製造設備を示すもので、図中符号1がセメント原料を焼成するためのロータリーキルン(セメントキルン)である。
そして、このロータリーキルン1の図中左方の窯尻部分2には、セメント原料を予熱するための2組のプレヒータ3が並列的に設けられるとともに、図中右方の窯前に、内部を加熱するための主バーナ5が設けられている。なお、図中符号6は、焼成後のセメントクリンカを冷却するためのクリンカクーラである。
ここで、各々のプレヒータ3は、上下方向に直列的に配置された複数段のサイクロンによって構成されており、供給ライン4から最上段のサイクロンに供給されたセメント原料は、順次下方のサイクロンへと落下するにしたがって、下方から上昇するロータリーキルン1からの高温の排ガスによって予熱され、さらに下から2段目のサイクロンから抜き出されて仮焼炉7に送られ、当該仮焼炉7においてバーナ7aにより加熱されてか焼された後に、最下段のサイクロンから移送管3aを介してロータリーキルン1の窯尻部分2に導入されるようになっている。
他方、窯尻部分2には、ロータリーキルン1から排出された燃焼排ガスを最下段のサイクロンへと供給する排ガス管3bが設けられており、上記サイクロンに送られた排ガスは、順次上方のサイクロンへと送られて、上記セメント原料を予熱するとともに、最終的に最上段のサイクロンの上部から、排気ファン9によって排気ライン8を介して排気されて行くようになっている。
このような構成からなるセメント製造設備においては、先ずセメント原料の主原料として含まれる石灰石(CaCO3)をプレヒータ3で予熱し、次いで仮焼炉7およびプレヒータ3の最下段のサイクロンにおいてか焼した後に、ロータリーキルン1内において約1450℃の高温雰囲気下で焼成することでセメントクリンカを製造している。
そして、このか焼において、CaCO3→CaO+CO2↑で示される化学反応が生じて、CO2ガスが発生する(原料起源によるCO2ガスの発生)。この原料起源によるCO2ガスの濃度は、原理的には100%である。また、上記ロータリーキルン1を上記高温雰囲気下に保持するために、主バーナ5において化石燃料が燃焼される結果、当該化石燃料の燃焼によってもCO2ガスが発生する(燃料起源によるCO2ガスの発生)。ここで、主バーナ5からの排ガス中には、燃焼用空気中のN2ガスが多く含まれているために、当該排ガス中に含まれる燃料起源によるCO2ガスの濃度は、約15%と低い。
この結果、上記セメントキルンから排出される排ガス中には、上述した濃度の高い原料起源によるCO2ガスと、濃度の低い燃料起源によるCO2が混在するために、当該CO2の排出量が多いにもかかわらず、そのCO2濃度は30〜35%程度であり、回収が難しいという問題点があった。
これに対して、現在開発されつつあるCO2ガスの回収方法としては、液体回収方式、膜分離方式、固体吸着方式等があるものの、未だ回収コストが極めて高いという課題があった。
また、上記セメント製造設備から排出されたCO2による地球温暖化を防止する方法として、当該排出源から低濃度で排出されたCO2を分離・回収して略100%にまで濃度を高め、液化した後に地中に貯留する方法等も提案されているものの、分離・回収のためのコストが高く、同様に実現には至っていない。
一方、下記特許文献1には、石灰石の焼成過程において発生するCO2ガスを、利用価値の高い高純度のCO2ガスとして回収する装置として、石灰石が供給される分解反応塔と、熱媒体として生石灰(CaO)が供給されるとともに、当該生石灰を燃焼ガスによって石灰石のか焼温度以上に加熱する再熱塔と、これら分解反応塔と再熱塔とを連結する連結管とを備えたCO2ガスの生成回収装置が提案されている。
そして、上記従来の回収装置においては、再熱塔で加熱された生石灰を連結管を通じて分解反応塔に供給し、流動層を形成させて石灰石を焼成することにより当該分解反応塔内にCO2ガスを生成させるとともに、これによって生じた生石灰の一部を排出し、他部を再び連結管を通じて再熱塔に送って再加熱するようになっている。
このように、上記CO2ガスの生成回収装置によれば、石灰石の分解反応を行う場所である分解反応塔と、分解反応に必要な熱量の発生を行う場所である再熱塔とを分離することによって、石灰石の分解反応によって発生するCO2ガスと熱媒体の加熱のために発生する燃焼排ガスとが混合することを防止することができるために、分解反応塔から高い濃度のCO2ガスを回収することができる、とされている。
上記特許文献1において開示されているCO2ガスの生成回収装置によって生成したCaOを用いてセメント製造しようとすると、上記生成回収装置によって石灰石を焼成した後に、さらに粘土等のSiO2、Al2O3、Fe2O3等の他のセメント原料を加えてセメントキルンにおいて焼成する必要がある。このため、原料の製粉を2系統に独立して行う必要があり、設備が大掛かりになるという問題が生じる。
また、一般に石灰石のか焼反応が起こる温度は、図11に示すように、雰囲気中のCO2ガス濃度が高くなるにしたがって急激に上昇し、100%(大気圧(1atm)の下での分圧1atmに相当)近くになると、860℃を超える温度となる。このため、CO2ガスの回収率を高めるためには、石灰石を過度の高温に加熱する必要があり、燃料コストの高騰化を招くという問題も生じる。
そして、上記CO2ガスの生成回収装置においては、熱媒体として生石灰を用い、この生石灰によって石灰石を加熱してか焼しているために、流動化させることは容易であるが、再熱塔において上記生石灰を石灰石のか焼温度以上、具体的には1000℃以上に加熱しておく必要があるため、再熱塔内で流動する生石灰等の粉体が固化しやすくなり、連結管等において付着や閉塞が生じて運転不能になるという問題もある。
一方、粒子径がセメント原料よりも大きい熱媒体を用いた場合には、連結管等において付着や閉塞等が生じないものの、流動化させることが困難となり、熱媒体から熱の放出に時間を要してしまい、効率的に混合か焼を行うことが難しいという問題もある。さらに、セメント原料を熱媒体間の空隙において流動化させるためには、空筒風速を抑えるために、炉の断面積を大きくする必要がある。しかし、炉の断面積を大きくして空筒風速を抑えたとしても、上記セメント原料を上部1箇所から投入すると、上記セメント原料の分散が悪く、熱媒体と接触して一気にCO2ガスが発生してしまい、均一な流動層が形成できず、か焼効率が低下する恐れがあるという問題もある。
さらに、セメント原料よりも粒子径の大きい熱媒体を分解反応塔の上部より投入し、下部より抜き出すことにより移動層を形成し、セメント原料を熱媒体間の空隙で発生するCO2ガスにより噴流化させて、当該CO2ガスとか焼された上記セメント原料とを回収する場合には、上記セメント原料を上部より投入した際にCO2ガスが発生し、上記移動層に供給される前に上部より排出されてしまう。この結果、CO2ガスの発生量が安定しないという問題もある。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、熱媒体の粒子径がセメント原料よりも大きい場合であっても、流動化または噴流化を容易に行い、セメント製造設備において発生するCO2ガスを高い濃度で分離して回収することが可能となる混合か焼炉を提供することを課題とするものである。
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、セメント原料を、プレヒータで予熱した後に、内部が高温雰囲気に保持されたセメントキルンに供給して焼成するセメント製造設備において発生するCO2ガスを回収するために用いられ、上記プレヒータから抜き出されたか焼前の上記セメント原料と、媒体加熱炉においてか焼温度以上に加熱した熱媒体とを供給し、混合してか焼を行いCO2ガスを発生させるための混合か焼炉において、上記セメント原料より粒子径の大きい上記熱媒体を上部から供給する供給ラインと、上記熱媒体を下部より抜き出す排出ラインとを備えることにより、上記熱媒体を上から下に移動させる移動層が形成され、上記混合か焼炉は、上記移動層において、上記セメント原料を上記熱媒体間の空隙でか焼させることにより発生したCO 2 ガスの上昇にともない、上記セメント原料を噴流化させる噴流層が形成されているとともに、か焼された上記セメント原料をか焼により発生したCO 2 ガスに同伴させて回収する回収ラインと、この回収ラインに上記CO 2 ガスとか焼した上記セメント原料とを分離させる分離手段とを備え、上記混合か焼炉において、上記セメント原料を投入する投入ラインが、上記熱媒体の上記供給ラインと上記排出ラインとの間に接続されていることを特徴とするものである。
なお、上記か焼温度とは、石灰石、即ちCaCO3(炭酸カルシウム)が、CaO(酸化カルシウム)とCO2に分解する反応が起こる温度をいう。
そして、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記セメント原料の投入ラインは、上記熱媒体の上記供給ラインと上記排出ラインとの間を1としたときに、上記熱媒体の上記供給ラインより下方に0.5〜0.9の間に接続されていることを特徴とするものである。
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記混合か焼炉は、上記セメント原料を投入する投入ラインが、上記熱媒体の上記供給ラインと上記排出ラインとの間の複数箇所に接続されていることを特徴とするものである。
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、上記セメント原料の投入ラインが、上記熱媒体の上記供給ラインと上記排出ラインとの間を1としたときに、上記熱媒体の上記供給ラインより下方に0.1〜0.9の間の複数箇所に接続されていることを特徴とするものである。
請求項1〜4に記載のセメント製造設備に用いられるプレヒータから抜き出されたか焼前の上記セメント原料と、媒体加熱炉においてか焼温度以上に加熱した熱媒体とを供給し、混合してか焼を行いCO2ガスを発生させるための混合か焼炉においては、上記セメント原料より粒子径の大きい上記熱媒体を上部から供給する供給ラインと、下部より抜き出す排出ラインとを備えることにより、上記熱媒体を上から下に移動させる移動層が形成されるとともに、上記セメント原料を上記熱媒体により形成された移動層の空隙で流動させ、か焼させる。
この結果、上記混合か焼炉は、上記熱媒体の粒子径が、上記セメント原料の粒子径より大きい場合でも、上記セメント原料のか焼によって発生したCO2ガスを、上記熱媒体間の空隙で流動化させ充満させて、当該CO2ガス濃度を略100%にさせることができる。また、上記セメント原料を上記熱媒体間の空隙で流動化させることにより、上記熱媒体からの受熱に優れている。このように、上記混合か焼炉によれば、当該混合か焼炉から略100%の濃度のCO2ガスをCO2ガス排気管から回収することができる。
なお、上記混合か焼炉は、100%近い高濃度のCO2ガス雰囲気下になるために、セメント原料のか焼温度は高くなるが、セメント原料中には、石灰石(CaCO3)とともに粘土、珪石および酸化鉄原料、すなわちSiO2、Al2O3およびFe2O3が含まれている。
そして、上記セメント原料は、800〜900℃程度の雰囲気下において、
2CaCO3+SiO2→2CaO・SiO2+2CO2↑ (1)
2CaCO3+Fe2O3→2CaO・Fe2O3+2CO2↑ (2)
CaCO3+Al2O3→CaO・Al2O3+CO2↑ (3)
で示される反応が生じ、最終的にセメントクリンカを構成する珪酸カルシウム化合物であるエーライト(3CaO・SiO2)およびビーライト(2CaO・SiO2)並びに間隙相であるアルミネート相(3CaO・Al2O3)およびフェライト相(4CaO・Al2O3・Fe2O3)が生成されることになる。
この際に、図6に示す上記(1)式の反応温度のグラフ、図7に示す上記(2)式の反応温度のグラフおよび図8に示す上記(3)式の反応温度のグラフに見られるように、縦軸に示したCO2ガスの分圧が高くなった場合においても、より低い温度で上記反応を生じさせることができる。
さらに、上記セメント原料においては、上記(1)〜(3)式で示す反応が生じることに加えて、珪石、粘土等の石灰石以外の原料から持ち込まれるSiO2、Al2O3、Fe2O3やその他の微量成分が鉱化剤となり、炭酸カルシウムの熱分解が促進されるために、図9に見られるように、炭酸カルシウム単独の場合と比較して、熱分解の開始温度および終了温度共に低下する。なお、図9は、上記セメント原料(raw material)のサンプルおよび石灰石(CaCO3)単独のサンプルを、それぞれ一般的なセメント製造設備における加熱速度に近い10K/secの速度で加熱した際の重量の変化から、上記熱分解の推移を確認したものである。
ここで、上記鉱化剤の存在によって、炭酸カルシウム単独の場合と比較して、熱分解の開始温度および終了温度共に低下する理由の一つとして、以下のことが考えられる。
すなわち、aをアクティビティ、Kを反応式CaCO3→CaO+CO2の平衡定数としたときに、
PCO2=(aCaCO3/aCaO)・K
において、一般に固体のアクティビティaは、純物質であれば種類によらず1であるものの、酸化カルシウム(CaO)については、炭酸カルシウム(CaCO3)の熱分解後、他の原料物質(すなわち上記鉱化剤)が固溶することにより、aCaOの値が1より小さくなる。この結果、上式のPCO2が高くなり、PCO2=1atmとなる温度が低下して、よりか焼が促進されるためであると考えられる。なお、aCaCO3は、石灰石の品種、産地に固有な値であり、他の原料成分の影響を受けることがない。
以上のことから、本発明によれば、混合か焼炉における運転温度を低下させても、所望のCO2ガスの回収量を確保することができる。しかも、上記混合か焼炉において、セメント原料と異なり粒径が大きく、よって極端に比表面積が小さい熱媒体によってセメント原料を加熱してか焼させているために、上記媒体加熱炉において上記熱媒体をか焼温度以上の1000℃以上に加熱しても、熱媒体同士あるいは熱媒体と炉壁やシュート内壁の固着や融着を抑えて、コーチングトラブル等の発生を抑止することが可能になる。
また、上記混合か焼炉に形成された上記移動層において、上記セメント原料を上記熱媒体間の空隙でか焼させることにより発生したCO2ガスの上昇にともない、上記セメント原料を噴流化させる噴流層が形成されているとともに、か焼された上記セメント原料をか焼により発生するCO2ガスに同伴させて回収する回収ラインが接続されているため、上記混合か焼炉の断面積を小さくして、上記熱媒体間の空隙に発生するCO2ガス空筒速度を大きくしている。これにより、設備の大型化を抑えることができるとともに、上記熱媒体からか焼された上記セメント原料を簡便に分離することができ、別途分離手段を設ける必要がないか、あるいは、分離手段の処理能力を極力抑えることができる。
なお、上記CO2ガス空筒速度は、熱媒体の流動化速度より小さいために、熱媒体がCO2ガスに同伴されて、か焼炉上部より排出されることはない。
そして、上記回収ラインに上記CO2ガスとか焼した上記セメント原料とを分離させる分離手段を備えているため、上記熱媒体間の空隙で発生した高濃度のCO2ガスと、か焼された上記セメント原料とを効率良く回収することができるとともに、回収後に高濃度の上記CO2ガスと、か焼された上記セメント原料とを簡便に分離して、個別に回収することができる。
さらに、上記セメント原料を投入する投入ラインが、上記熱媒体の上記供給ラインと上記排出ラインとの間に接続されているため、上記セメント原料を投入する際に、このセメント原料が上記熱媒体間の空隙で発生したCO2ガスに同伴され、か焼されずに排出されることなく、上記移動層に供給することができ、熱媒体からの熱を受けて十分にか焼することができる。この結果、CO2ガスの発生を安定させることができる。
また、請求項2に記載の発明においては、上記セメント原料の投入ラインが、上記熱媒体の上記供給ラインと上記排出ラインとの間を1としたときに、上記熱媒体の上記供給ラインより下方に0.5〜0.9の間に接続されているため、上記セメント原料を投入する際に、上記混合か焼炉の上部よりセメント原料が十分にか焼されずにCO2ガスに伴って排出されることを防ぐことができ、かつ、上記セメント原料を上記混合か焼炉の下部に接続されている上記熱媒体の排出ラインから、十分にか焼されずに上記熱媒体とともに排出されることを防ぐことができる。この結果、確実に上記移動層に供給して、熱媒体からの幅射熱を十分に受けてか焼するとともに、CO2ガスの発生を安定させることができる。
そして、請求項3に記載の発明においては、上記混合か焼炉の上記セメント原料を投入する投入ラインが、上記熱媒体の上記供給ラインと上記排出ラインとの間の複数箇所に接続されているため、上記セメント原料を投入する際に、このセメント原料が上記熱媒体間の空隙で発生したCO2ガスに同伴されることなく、また上記移動層と共に底部より排出されずに上記熱媒体から幅射熱を受けて、十分にか焼することができる。この結果、混合か焼炉の空間を効率的に活用して、CO2ガスの発生のさらなる安定化を図ることができ、CO2ガスの回収率を向上させることができる。
さらに、請求項4に記載の発明においては、上記セメント原料の投入ラインが、上記熱媒体の上記供給ラインと上記排出ラインとの間を1としたときに、上記熱媒体の上記供給ラインより下方に0.1〜0.9の間の複数箇所に接続されているため、上記セメント原料を投入する際に、上記混合か焼炉の上部よりセメント原料が十分にか焼されずにCO2ガスに伴って排出されることを防ぐことができ、かつ、上記セメント原料を上記混合か焼炉の下部に接続されている上記熱媒体の排出ラインから、十分にか焼されずに上記熱媒体とともに排出されることを防ぐことができる。この結果、確実に上記移動層に供給して、熱媒体からの幅射熱を十分に受けてか焼するとともに、CO2ガスの発生を安定させることができる。さらに、混合か焼炉の空間を効率的に活用して、CO2ガスの発生のより一層の安定化が図れるとともに、CO2ガスの回収率を向上させることができる。
加えて、上記混合か焼炉において十分にか焼された高温のセメント原料をセメントキルンに戻しているために、セメントキルンにおいて焼成に要する燃料を削減することができる。この結果、従来よりも長さ寸法の短いロータリーキルンを用いることができる。
ここで、上記熱媒体としては、媒体加熱炉における加熱温度に対する耐熱性と、セメント原料と混合された場合の耐摩耗性を有する生石灰(CaO)、珪石(SiO2)または、アルミナ(Al2O3)等のセラミックス材料、耐熱合金等の金属材料の他、セメントクリンカを用いることができる。ちなみに、生石灰は、融点が2500℃程度と高く、融着し難いという利点がある。また、熱媒体として循環する間に、徐々に摩耗して発生した微粉が原料に混合しても、セメント原料成分の一つであるために、弊害を生じることがない。さらに、生石灰に代えて石灰石を混合か焼炉、熱媒体供給管またはバケットエレベータに投入した場合においても、その後脱炭酸して生石灰になるので、上述した生石灰の場合と同様の作用効果が得られる。この際に、上記石灰石を混合か焼炉または熱媒体供給管に投入すれば、か焼の際に発生するCO2ガスを回収することができるために好ましい。
また、珪石も、融点が1700℃程度と高く、融着し難いとともに、非常に硬度が高いために摩耗し難く、熱媒体として補充する量が少なくて済むという利点がある。さらに、循環過程において徐々に摩耗して生じた微粉が原料に混合しても、セメント原料成分の一つであるために、不都合を生じることがない。
さらに、上記セメントキルンにおいて焼成することによって得られた硬質かつ粒子径が、セメント原料よりも遙かに大きなセメントクリンカを用いれば、経済的であるとともに、仮にセメント原料に接触した場合にも、当該摩耗粉は既に成分調整されているために、セメント原料と同質の摩耗粉が再びセメントキルンに送られることになり、よって運転や製品としてのセメントキルンの品質に悪影響を与えるおそれがない。
図1は、本発明に係るセメント製造設備におけるCO2ガスnの回収設備の一実施形態を示すもので、セメント製造設備の構成については、図10に示したものと同一であるために、同一符号を付したその説明を簡略化する。
図1において、符号10は、セメント製造装置のプレヒータ(第1のプレヒータ)3とは独立して設けられた第2のプレヒータ10である。
この第2のプレヒータ10は、上記プレヒータ3と同様に、上下方向に直列的に配置された複数段のサイクロンによって構成されており、最上段のサイクロンに供給ライン11からか焼前のセメント原料(か焼前セメント原料)kが供給されるようになっている。そして、第2のプレヒータ10の最下段のサイクロンの底部には、移送管10aの上端が接続されるとともに、この移送管10aの下端部が混合か焼炉12に導入されている。
他方、上記セメント製造設備のプレヒータ3においては、最下段のサイクロンからか焼前セメント原料kを抜き出す抜出ライン13が設けられ、この抜出ライン13の先端部が第2のプレヒータ10からの移送管10aに接続されている。これにより、第2のプレヒータ10からのか焼前セメント原料kと、プレヒータ3からのか焼前セメント原料kとが、混合か焼炉12内に導入されるようになっている。
さらに、混合か焼炉12は、図2または図3に示すように、流動層型の粉体混合炉であり、熱媒体tを上部より供給する供給ライン20と、熱媒体tを下部より抜き出す排出ライン25が接続されている。この排出ライン25は、バケットエレベータ19を介して熱媒体の循環ライン14となり、媒体加熱炉15へ接続される。また、混合か焼炉12の上部には、か焼前セメント原料kを移送管10aから供給するための投入ライン29が接続されている。さらに、図2の変形例では、図3に示すように、投入ライン29が混合か焼炉12の上部に複数(図では、2箇所)箇所に接続されている。また、か焼前セメント原料kが、か焼されないうちにオーバーフローから排出されることがないように、か焼前セメント原料kの投入箇所を、側面部、熱媒体tの供給ライン20と熱媒体tの排出ライン25の間に1個所、もしくは複数個所に設けてもよい。
また、混合か焼炉12の側面部の中央近傍には、か焼されたセメント原料(か焼済みセメント原料)k’を抜き出す回収ライン12aが接続されている。この回収ライン12aは、戻りライン16とされてロータリーキルン1の窯尻部分2に接続されている。また、熱媒体tの排出ライン25から熱媒体tと同時に排出されるか焼済みセメント原料k’は、重力沈降装置などの分離手段を用いて、熱媒体tを分離し、戻りライン16に接続してもよい。そして、混合か焼炉12には、内部で生成したCO2ガスnを排出するためのCO2ガス排気管22が接続されるとともに、このCO2ガス排気管22が、第2のプレヒータ10における加熱媒体として導入されている。
さらに、他の実施形態の混合か焼炉12においては、図4または図5に示すように、噴流層型の粉体混合炉であり、熱媒体tを上部より供給する供給ライン20と、下部より抜き出す排出ライン25が接続されている。この排出ライン25は、バケットエレベータ19を介して熱媒体tの循環ライン14となり、媒体加熱炉15へ接続される。また、熱媒体tを供給する供給ライン20と、熱媒体tを下部より抜き出す排出ライン25との間に、か焼前セメント原料kを移送管10aより供給する投入ライン29が接続されている。この投入ライン29は、供給ライン20と排出ライン25との間を1としたときに、供給ライン20より下方に0.5〜0.9の位置に接続されている。
さらに、図4の変形例では、図5に示すように、か焼前セメント原料kの投入ライン29を供給ライン20と排出ライン25との間の複数箇所に接続するとともに、供給ライン20と排出ライン25との間を1としたときに、供給ライン20より下方に0.1〜0.9の間の複数箇所に接続されている。
そして、他の実施形態の混合か焼炉12においては、内部で生成したCO2ガスnに同伴したか焼済みセメント原料k’を回収する回収ライン27が接続されている。また、この回収ライン27には、CO2ガスnとか焼済みセメント原料k’を分離するための分離手段28が備えられている。この分離手段28には、サイクロンが用いられている。また、分離手段28には、CO2ガスnを排出するためのCO2ガス排気管22が接続されるとともに、このCO2ガス排気管22が、第2のプレヒータ10における加熱媒体として導入されている。さらに、か焼済みセメント原料k’をセメントキルン1の窯尻部分2に戻す戻りライン16が接続されている。
さらに、媒体加熱炉15は、内部に送られてくるか焼前セメント原料kよりも粒子径の大きい熱媒体tを、クリンカクーラ6からの抽気を燃焼用空気とするバーナ17の燃焼によって当該熱媒体をか焼温度以上に加熱するためのものである。この媒体加熱炉15は、既存の仮焼炉を改造して用いることも可能である。そして、この媒体加熱炉15の排出側には、バーナ17における燃焼によって発生した排ガスを排気する排気管18が接続されている。この排気管18は、セメントキルン1の排ガス管3bに接続されている。また、媒体加熱炉15の下部には、混合か焼炉12の上部から熱媒体tを供給する供給ライン20が接続されている。
また、上記媒体加熱炉15内は、1100℃程度の高温に保持する必要があるのに対して、ロータリーキルン1からの排ガスは、1100〜1200℃の温度であるために、当該ロータリーキルン1からの排ガスの全量または一定量を、媒体加熱炉15内に導入して、再び排ガス管18から第1のプレヒータ3へと送るようにすれば、上記排ガスを有効利用することができる。
なお、図中符号24は、CO2ガスの排気ファンであり、符号23は、CO2ガスの排気ラインである。また、図中符号21は、熱媒体tを循環させる際に消失さる熱媒体tを補うための熱媒体タンクである。
ちなみに、混合か焼炉12として、流動層型のものを用いた場合には、当該混合か焼炉12から排出されたCO2ガスnを、CO2ガス排気管22や排気ライン24から抜き出して、再び混合か焼炉12に循環供給して使用することもできる。
次に、上記の一実施形態に示したセメント製造設備のCO2ガスnの回収設備において、本発明に係る混合か焼炉12を用いたCO2ガスnの回収方法について説明する。
先ずか焼前セメント原料kを、供給ライン4、11から各々プレヒータ3、第2のプレヒータ10の最上段のサイクロンに供給する。
すると、プレヒータ3においては、順次下方のサイクロンへと送られる過程で、従来と同様にロータリーキルン1から排ガス管3bを介して供給される排ガスによってか焼前セメント原料kが予熱される。そして、か焼温度に達する前(例えば、810℃)まで予熱されたか焼前セメント原料kが、抜出ライン13から移送管10aを介して混合か焼炉12へと供給されてゆく。
また、第2のプレヒータ10に供給されたセメント原料kは、混合か焼炉12から排出される高濃度かつ高温のCO2ガスnによって予熱され、最終的にか焼温度に達する前(例えば、760℃)まで予熱されて移送管10aから混合か焼炉12へと供給されてゆく。
一方、媒体加熱炉15においては、内部の熱媒体tが、バーナ17の燃焼によってセメント原料のか焼温度以上(例えば1200℃程度)まで加熱される。その際、発生した排ガスは、排気管18に送られ、セメントキルン1の排気管3bから排ガスととともに、第1のプレヒータ3に送られる。また、セメント原料のか焼温度以上に加熱された熱媒体tは、媒体加熱炉15の下部に接続された供給ライン20から、混合か焼炉12へと供給されてゆく。
これにより、混合か焼炉12内においては、図2または図3に示すように、上部に接続された供給ライン20から熱媒体tを供給して、この熱媒体tを下部の排出ライン25より抜き出すことにより移動層26が形成されるとともに、か焼前セメント原料kを上部の投入ライン29より投入する。そして、移動層26を形成する熱媒体t間の空隙において、か焼温度以上(例えば、900℃以上)に加熱してか焼される。
そして、か焼されたか焼済みセメント原料k’は、移動層26を形成する熱媒体t間の空隙内において、か焼の際に発生したCO2ガスnの上昇にともなって、か焼済みセメント原料k’が浮遊し流動層が形成されるとともに、オーバーフローにより回収ライン12aから回収されて、戻りライン16よりセメントキルン1の窯尻部分2に送られてゆく。また、高濃度かつ高温のCO2ガスnは、混合か焼炉12の上部に接続されたCO2ガス排気管22から、第2のプレヒータ10における加熱媒体として導入される。
この際に、図2の混合か焼炉12の変形例である図3に示す混合か焼炉12のように、投入ライン29を複数箇所に接続して、か焼前セメント原料kを混合か焼炉12内に投入することにより、空筒速度を抑えるために炉の断面積を大きくした混合か焼炉12においても、か焼前セメント原料kが分散され、熱媒体tからの伝熱が促進されることにより、か焼効率の低下を防ぐことができる。
さらに、混合か焼炉12の他の実施形態である図4および図5においては、混合か焼炉12の側面側上方に接続された供給ライン20から熱媒体tを供給して、下部の排出ライン25より抜き出することにより移動層26が形成されるとともに、か焼前セメント原料kを供給ライン20と排出ライン25との間に接続された投入ライン29より投入する。そして、移動層26を形成する熱媒体t間の空隙において、か焼温度以上(例えば、900℃以上)に加熱してか焼されるとともに、この際に発生したCO2ガスnに、か焼済みセメント原料k’が同伴され、噴流層が形成される。
そして、か焼済みセメント原料k’は、CO2ガスnに同伴され回収ライン27から分離手段28に送られ、サイクロンによりCO2ガスnとか焼済みセメント原料k’に分離される。そして、分離されたCO2ガスnは、CO2ガス排気管22から、第2のプレヒータ10における加熱媒体として導入される。また、分離されたか焼済みセメント原料k’は、回収ライン12aから戻りライン16に送られ、セメントキルン1の窯尻部分2に供給される。
この際に、混合か焼炉12の投入ライン29を、供給ライン20と排出ライン25との間の複数箇所に接続することにより、炉内の空間を十分に利用し、熱媒体t間の空隙においてか焼が行われるため、安定したCO2ガスnが発生する。そして、このCO2ガスnは、か焼済みセメント原料k’を噴流化させる。また、図4の混合か焼炉12の変形例である図5に示す混合か焼炉12においては、熱媒体tの供給ライン20と排出ライン25の間を1としたときに、供給ラインから下方に0.1〜0.9の位置の複数箇所に投入ライン29が接続され、複数箇所の投入ライン29より、か焼前セメント原料kが投入される。これにより、熱媒体t間の空隙において、熱媒体tの幅射熱を受けて、か焼が十分に行われ、高濃度のCO2ガスnが安定して発生することになる。
そして、か焼前セメント原料kが、熱媒体t間の空隙においてか焼され、高濃度のCO2ガスnが発生する。このCO2ガスnが浮流する移動層26において、か焼済みセメント原料k’は、十分な空筒速度を持ったCO2ガスに同伴されて噴流化される。そして、CO2ガスnに同伴されたか焼済みセメント原料k’が、噴流化により上部の回収ライン27より、分離手段28に送られる。さらに、この分離手段28のサイクロンにより、高濃度のCO2ガスnとか焼済みセメント原料k’が分離される。
さらに、分離手段28のサイクロンにより分離されたか焼済みセメント原料k’は、戻りライン16よりセメントキルン1の窯尻部分2に送られていく。また、高濃度かつ高温のCO2ガスnは、分離手段28の上部に接続されたCO2排気管22から、第2のプレヒータ10における加熱媒体として導入される。
そして、熱媒体tとか焼前セメント原料kを混合してか焼させると、発生するCO2ガスnにより雰囲気がCO2約100%になる。このため、か焼が全て終了しない限り、か焼温度は900℃程度で略一定になる。
また、混合か焼炉12において、粉体の流動化速度Umf<混合か焼炉の空筒速度<粉体の終末速度Utであれば、混合か焼炉でか焼済みセメント原料k’は流動化し、流動層からオーバーフローにより、か焼済みセメント原料k’が排出管12aに送られる。
一方、混合か焼炉12において、粉体の終末速度Ut<混合か焼炉の空筒速度であれば、混合か焼炉でか焼済みセメント原料k’は激しく流動または噴流化し、か焼済みセメント原料k’は、発生したCO2ガスnに同伴される。このため、サイクロンなどの粉体の分離手段を別途設けて、か焼された上記セメント原料を回収する。
ここで、上記空筒速度は、熱媒体tがか焼前セメント原料kと混合することにより、か焼温度まで低下する際に放出する熱量から、か焼前セメント原料kのか焼温度までの昇温に必要な熱量を差し引いたものが、か焼前セメント原料kのか焼に供するとして、そのか焼反応で発生するCO2ガスn流量を計算することができ、このCO2ガスn流量を混合か焼炉12の断面積かつ熱媒体の空隙率で除すことにより求めることができる。
また、粉体が流動化を開始する流動化速度であるUmf及び粉体が発生するCO2ガスnに同伴される速度である終末速度Utは、下記の式より求められる。
μ:流体の粘度(Pa・s)
d
p:粉体の平均粒径(m)
ρ
f:流体の密度(kg/m
3)
Re
mf:流動層での粉体レイノルズ数
Ar:アルキメデス数
ρ
p:粉体の密度(kg/m
3)
g:重力加速度(m/s
2)
φ
s:形状係数(真球の場合1)
ε
mf:流動層での空隙率
このように、上記セメント製造設備における混合か焼炉12によれば、セメント製造設備における熱源を有効活用して、混合か焼炉12において発生するCO2ガスnを、100%に近い高濃度で回収することができる。
さらに、混合か焼炉12において、か焼前セメント原料kより粒子径が大きく、極端に比表面積が小さい熱媒体tにより、か焼前セメント原料kを加熱してか焼させているために、媒体加熱炉15において熱媒体tをか焼温度以上の1000℃以上に加熱しても、熱媒体t同士あるいは熱媒体tと炉壁の固着や融着を抑えて、コーチングトラブル等の発生を抑止することができる。
加えて、混合か焼炉12において十分にか焼された高温のか焼済みセメント原料k’を、戻りライン16からロータリーキルン1に戻しているために、ロータリーキルン1において焼成に要する燃料を削減することができ、よって従来よりも長さ寸法の短いロータリーキルン1を用いることができる。