JP4543168B2 - 海水または海水土壌の生物毒性評価方法 - Google Patents

海水または海水土壌の生物毒性評価方法 Download PDF

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Description

発明の分野
本発明は、試料、例えば海水または海域底質に毒性物質が含まれているか評価するための新規方法に関する。
従来の技術
近年、生態毒性学(Ecotoxicology)と呼ばれる分野が環境関連の学問の中で重要になってきている。生態毒性学(Ecotoxicology)とは一般的に「生態系における毒性のある物質の運命と生態系への影響に関する研究」と定義されている(非特許文献4)。現在、生態毒性学の中で藻類、甲殻類、魚類を用い、水の毒性の評価を行っている。また、底質の毒性を評価する研究が行われているが標準的に利用できる生物は見当たらず、特に海域の底質を評価する生物の開発が必要不可欠である。
土壌の毒性を評価するため土壌線虫Caenorhabditis elegansを用いた化学物質の評価は盛んに行われている。また、カナダ国立陸水学研究所により、自由生活性線虫Panagrellus redivivus とPristionchus pacificusを用いてCuに対する感受性をC. elegansと比較した結果、C. elegansが優れていると結論している(非特許文献11)。また、海産線虫では河口域に生息するChromadorina germanicaおよびDiplolaimella punicea (ともにバクテリア食性線虫)を用いてCu, Zn, Pb,Cd, Hgに対する感受性を調べている(非特許文献15)。しかし、海域底質の評価を行った研究は見あたらない。
このように、生態毒性学(ecotoxicology)の重要性が叫ばれており、生態系を構成する複数種の生物に対する化学物質の影響を調べる必要性が指摘されている。しかしながら、海域底質で重要な地位を占める海産線虫を用い海域底質の毒性評価を行った報告は殆どなく、海域底質の毒性を評価する一般的な試験法も開発されていない。
一方、海産自由生活性線虫は海域底質中に高密度に生息し、その密度は1m2あたり100 万個体にも及び、ほとんどの海域で全メイオベントス(体のサイズ1-0.032mm )の8 割以上を占めると言われ、底生生態系のエネルギー消費の23%ほどを占めると言う試算もされている重要な多細胞生物である。また、多様性に富み、総種数は1億種にのぼるという推定もされている(非特許文献1および2)。
また、海産線虫は、海域底質のメイオベントスのサイズ画分で圧倒的に優占しているため、微生物食物連鎖上で重要な地位を占め、環境浄化に貢献を果たしていると考えられる。また、海域底質の攪拌を行い、海底を多孔質で酸化的な状態に保ち、健全な生態系の維持に役立っている(非特許文献1)。
しかしながら、海洋における線虫学は著しく遅れている。その理由として、線虫類は一般的に体が小さく、形態学的特徴に乏しいため、同定が非常に困難である事、また、培養系の確立が困難であり、生理学的研究を行うことが難しい事などが挙げられる。
石橋信義, 相場聡, 一戸稔, 神崎菜摘, 工藤博恵, 白山義久, 多田功, 名和行文, 長谷川英男, 二井一禎, 真宮靖治, 丸山治彦, 水久保隆之, 三輪錠司, 吉賀豊司 (2003) 線虫の生物学 東京大学出版会 上野俊一, 奥谷喬司 :朝日百科動物たちの地球第二巻無脊椎動物, 1994, pages 94-96 Kamal J. Elnabris (2003) Biological and Ecotoxicological Studieson Free-living Marine Nematodes 九州大学農学部博士論文 若林明子 (2000) 化学物質と生態毒性 社団法人 産業環境環境管理協会 Blaxter, M. L., P. De Ley, J. R. Garey, L. X. Liu, P. Scheldeman, A. Vierstraete, J. R. Vanfleteren, L. Y. Mackey, M. Dorris, L. M. Frisse, J. T. Vida and W. K. Thomas (1998) A molecular evolutionary framework for the phylum Nematode. Nature, 392 : 71-75 Litvaitis, M. K., J. W. Bates, W. D. Hope and T. Moens (2000) Inferring a classification of the Adenophorea (Nematode) from nucleotide sequence of the D3-expansion segment (26/28S rDNA) Can. J. Zool. 78 : 911-922 Litvaitis, M. K., G. Nunn, K. Thomas and T. D. Kocher (1994) A molecular approach for the identification of meiofaunal turbellarians (Platyhelminthes, Turbellaria) Mar. Biol. 120 : 437-442 Nadler, S. A. (1992) Phylogeny of Some Ascaridoid Nematodes, Inferred from Comparison of 18S and 28S rDNA Sequences Mol. Biol. Evol. 19 : 932-94 Fitch, D. H. A., Bugaj-Gaweda, B. and Emmons, S. H. (1994) 18S Ribosomal RNA Gene Phylogeny for Some Rhabditidad Related to Caenorhabditis Mol. Biol. Evol. 12(2) : 346-358 Dorris, M., De Ley, P. and Blaxter M. L. (1999) Molecular Analysis of Nematode Diversity and the Evolution of Parasitism Parasitology Today 15(5) : 188-193 Boyd, A. W. and Williams, L. P. (2003) Comparison of the sensitivity of three nematode species to copper and their utility in aquatic and soil toxicity tests Environmental Toxicology and Chemistry: Vol. 22, No. 11, pp. 2768 2774. 井上英(2003)海域における有機スズの分布と二枚貝の再生産への影響に関する研究九州大学農学部博士論文 Bogeart, T., Sanoiloff, M. R., and Persoone, G. (1984) Determination the toxicity of four heavy metal compounds and three carcinogens using two marine nematode species , Monohystera microphthalma and Diplolaimella bruciei. In Ecotoxicological testing for the marine environment, pp. 21-30. Ed. By G. Persoone, E. Jasper and C. Cluas Belgium. State University Ghent and Inst. Mar. Sci. Res. Bredene. Howell, R. (1984) Acute Toxicity of Heavy Metals to Two Species of Marine Nematodes Mar. Environ. Res. 11: 153-161 Tietjen, J. H. and Lee, J. J. (1984) The use of Free-Living Nematodes as a Bioassay for Estuarine Sediments Mar. Environ. Res. 11: 233-251 Vranken, G., Vanderhaeghen, R., Van Brussel, D., Heip, C. and Hermans, D., (1984) The toxicity on mercury no the free-living nematode Monohystera disjuncta Bastian, 1885. In, Ecotoxicological Testing for the Marine Environment, Vol. 2, edited by G.persoone et al., State University, Ghent and Inst. Mar. Sci. Res., Bredene, Belgium. 271-291 Vranken, G., Vanderhaeghen, R. & Heip, C. (1985) Toxicity ofcadmium to free-living marine and brackish water nematodes (Monhystera microphthalma, Monhystera disjuncta, Pellioditis marina). Dis. Aquat. Organisms 1: 49 58. Vranken, G., and Heip, C. (1986) Toxicity of Copper, Mercury and Lead to a Marine Nematode Mar. Pollut. Bull. 17(10): 453-457 Vranken, G., Vanderhaeghen, R. & Heip, C. (1991). Effects ofpollutants on life-history parameters of the marine nematode Monhystera disjuncta. J. Mar. Sci. 48: 325-334. 内海誓一郎, 鈴木啓介, 坪田博行, 野田春彦, 妹尾学, 吉田章一郎 (1974) 共立化学ライブラリー(7) 水−生命のふるさと−共立出版株式会社
本発明は、試料中の汚染物質の有無を判定する簡単な方法を提供する。
本発明はさらに、海水および/または海域底質の汚染度の評価方法、特に化学物質による汚染度の評価方法を提供する。
本発明はさらに、海産自由生活性線虫、特に珪藻食性の線虫を用いて、海洋の環境保全のために短時間に実施可能で感度および信頼性が高い、海水および/または海域底質の汚染度の評価方法を提供する。
本発明者らは、所属研究室で培養に成功した4種の海産自由生活線虫の、遺伝子学的同定を行うとともに、それらのうちのProchromadorella sp.1 を珪藻食性海産自由生活性線虫の例として用い、化学物質(Cd、Cu)を接種した底質および現場汚染底質が珪藻と海産自由生活性線虫の食物連鎖にどのような影響を及ぼすのか、また海産自由生活性線虫にどのような影響を及ぼすのかを研究した。また、環境中での化学物質の複合汚染を考慮に入れるため(Cd、Cu)を混合し、珪藻食性海産自由生活性線虫にどのような影響を及ぼすかも研究した。本発明の方法は、これらの研究の結果完成した。
本発明の試料中の汚染物質の有無の判定方法は、下記の工程を含んでなる:
(1) 汚染物質の有無を試験すべき試料および汚染物質を含まない対照試料を用意する;
(2) 海産自由生活性線虫をその餌の存在下に培養して、好ましくは世代サイクルを同調させる;
(3) 工程(2) で世代サイクルを同調させた線虫を、工程(1) で用意した試験試料または対照試料および該線虫の餌と共に、該線虫の生育に適する条件で培養する;
(4) 試験試料の存在下に培養した線虫の世代サイクルおよび生態を観察し、対照試料の存在下に培養した正常な世代サイクルで増殖する線虫に対して、生態および/または世代サイクル時間に異常があるか判断する;
(5) 工程(4) で異常がない場合に試験試料は汚染物質を含まないと判定し、相違がある場合に該試料は汚染物質を含むと判定する。
本発明の方法で、汚染物質の有無を調べることができる試料は、水性の試料であっても、それ以外の試料であってもよい。水性試料とは、汚染物質が含まれる可能性のある水性の溶液、懸濁液等である。本発明の方法に適する水性試料は、海水、例えば化学物質の汚染が懸念される港湾、河口付近、工場排水口付近等から採取した海水であるが、これらに限定されず、湖、河川、沼、水田等から採取した試料でもよい。水性試料以外の試料は、例えば、土壌試料、あるいは海、河川、湖沼、水田等の水底の砂、汚泥、沈殿物等を含む底質試料である。本発明の方法は、海水または海域の底質試料の汚染物質の有無を調べるために特に有用である。
本発明で用いる海産自由生活性線虫とは、海に生息し、他の多細胞生物に依存(寄生)せずに生活する線虫のことを意味する。自由生活性線虫を用いる利点は,寄生性線虫に比べて飼育が容易であり,自然界に広く分布している点である。自由生活性線虫の例としては、バクテリアを餌とする線虫および珪藻を餌とする線虫等が知られている。好ましくは、線虫は珪藻食性のものである。その中でも、実施例1に記載したProchromadorella sp.1 は汚染物質に対する感度が高いうえ、付着珪藻Cylindrotheca closteriumのみを餌として容易に培養できる。付着性珪藻は、底質の固体に付着する性質を有し、人工的に培養するとき、培養容器の面に付着するものをいう。付着性珪藻を用いる場合は、餌となる珪藻が沈んで培養容器の底に付着するため、底性に生息する線虫の飼育上有利である。Prochromadorella sp.1 は、九州大学大学院農学研究院水産生物環境学研究室にて保管されており、研究目的であることを条件に誰にでも分譲する用意がある。実施例1に記載したProchromadorella sp.2 、およびNeochromadora sp. も、Prochromadorella sp.1 とほぼ同様に使用できる。
本発明に使用する海産自由生活性線虫は、Kamal J. Elnabris ら(非特許文献3)の方法により、海藻から採取することができる。その概要を本発明者らが行った方法を例にして述べると、福岡県津屋崎町恋の浦海岸で採取した海藻Sargassum piluliferum, Hypnea charoides and Grateloupia filicina各300gを採取し,実験室に持ち帰り,Vranken et al. (1981) およびMoens and Vincx (1998)の方法に従い,付着していた数種の線虫を分離した。海藻を裁断して2Lのビーカーに入れ,海水とともに激しく撹拌して線虫を分離させた。得られた海水をプランクトンネット(mesh size 100 μm) でろ過して,さらに藻体をプランクトンネット上に広げさらに,線虫を絞り出した。約2時間静置後,上澄みをデカントして,沈殿物を50mLのプラスチックチューブに移し,1,000rpmで5分間遠心し,上澄みはすてた。得られたペレットを清浄な海水に再懸濁した。この溶液の約50μL を25°C下寒天平板培地 (Guillard, 1975).)で培養し,ケイ藻およびバクテリアを餌として培養を重ねた結果線虫の単離・系代飼育に成功した。得られた線虫が本発明の方法に使用できることは、珪藻またはバクテリアを餌として無菌で複数世代にわたり飼育が可能であること、その世代時間は1週間程度と短いこと、および世代の同調が可能であること等の性質を有することを調べて確認することができる。
本発明の方法に使用する線虫を増殖させる培地は、線虫およびその餌となる珪藻等が増殖し得る培地であれば、特別な制限は無いが、海水をそのまま又は人工海水あるいは一般に用いられる海産植物プランクトン培地(例えばSWM-III)を都合よく使用できる。培養は、判定結果の信頼性を高めるために、可能なかぎり無菌状態で行い、餌以外の夾雑生物の混入を防止することが好ましい。採集した線虫を純粋な培養状態にする方法は、非特許文献3に記載されている。培養の温度は、用いる線虫の生育に適する温度を調べて適宜設定できる。参考までに述べれば、培養温度は例えば25℃付近である。
本発明を実施するに際しては、好ましくは線虫の世代サイクルを同調させる。これにより、試料中の汚染物質の有無の判定結果の信頼性を高めることができる。世代サイクルの同調のために、卵が培養器の壁に付着する性質を有する線虫を用いることが好ましい。例えば線虫としてProchromadorella sp.1 およびその餌として付着珪藻Cylindrotheca closteriumを用いる場合には、線虫の卵が培養容器に付着するため、付着した卵を残して、培養容器を一旦空にし、その後再び線虫の餌および培養液を容器に添加し、インキュベートするという容易な方法により、世代サイクルを同調させることができる。
本発明の方法における、線虫の培養規模としては、上記工程(3) を行うに際して、肉眼で線虫の生存が観察できる規模であれば、特に限定されない。例として、5〜50ml容量の培養器を使用し、線虫が100〜1000匹培養器中に存在するようにし、試料が水性試料の場合は約2〜20ml、固形試料なら約0.1〜1mlを培養器に線虫とともに添加する。
本発明の方法は、汚染物質が、重金属(Cd、Cu、TBT、Zn等)を含む化学物質である場合特に有用であり、その有無を感度よく検出することが可能である。試料に汚染物質を含む場合、上記の工程(4) において、線虫の生態および/または世代サイクルに異常が生じる。線虫としてProchromadorella sp.1 および餌として付着珪藻Cylindrotheca closteriumを用いる場合には、世代サイクルの時間が正常な場合(約6.5時間)に比べて長くなるか、極端な場合は世代サイクルが停止し、さらには線虫が死滅する。試料中の汚染物質または汚染程度によっては、餌である珪藻自体にも損傷が生じ、線虫の死滅が助長される。従って、本発明は非常に感度よく汚染物質を検出できる。また、Prochromadorella sp.1 は重金属を含む汚染物質に対する感度が特に高く、例えば、後述の実施例3において、Cdについて約600 ppb 、Cuについて約150 ppb、TBTについて約260 ppb、Znについて約2 ppm(mg/L)の検出感度が得られた。
本発明の完成にあたり、使用できる海産自由生活性線虫につき、本発明者らは新たに4種の線虫の採集・単離・培養に成功した。これらの4種の線虫のうち、珪藻食性線虫3種は本発明で使用する線虫として特に適している。これらの線虫の分子系統学的同定は、下記実施例1に記載したように行った。
実施例1 rDNAを用いた海産自由生活性線虫の同定
線形動物門は伝統的な形態分類学的に、側尾腺phasmid と呼ばれる尾部に見られる器官の有無で、幻器綱Secernentea と尾腺綱Adenophorea に大別される。また、それに加えDe Man's ratioや双器amphidの形態や位置、口腔buccal cavity の形態、オスの尾部の形態、また生態学的・行動学的特徴などにより分類が行われている。しかし、1)多様性に富み、種数は1 億種を超えるとも言われている、2)一般的に体が小さく体の構造自体見づらい、と言った線形動物門の一般的な特徴や、3)線虫の分類を出来る熟練した研究者が少ない、4)線虫の形態学的特徴を示した文献・参考資料が少ない、などと言った問題がありその分類は非常に困難である(非特許文献1)。
近年、分子系統学的手法の著しい進歩に伴い、分子系統学的手法を用いた線虫類の分類群の再検討が行われている。しかし、この手法と形態学的特徴を用いた手法では、分類結果が異なることが報告され、形態学的特徴および、分子系統学的手法の両手法を用いる必要性が言われている(非特許文献5−10)。
本研究は、我が研究室で単離・培養に成功し、形態学的特徴により同定を行った海産自由生活性線虫4 種の28Sおよび18S rDNA 塩基配列を決定し、それらの分子系統学的分類を行い、形態学的特徴に基づく同定の確認を行うことを目的とした。
材料と方法
供試生物
福岡県宗像郡津屋崎町恋の浦より採集・単離・培養に成功し、形態学的特徴により同定を行った海産自由生活性バクテリア食性線虫Pellioditis marina ssp. 、および珪藻食性線虫3種、それぞれProchromadorella sp.1 、Prochromadorella sp.2 、Neochromadora sp. を供試生物として用いた。これらの線虫の形態を図1に示す。
Total DNA の抽出
バクテリア食性線虫
線虫が十分に繁殖したアガー培地に滅菌ASW(The artificial sea water Aquamarine, Yashida pure chemicals, Osaka, Japan)を注ぎ線虫を浮遊さた。その後15mlプラスチックチューブ(Falcon)にASW を回収し、3000rpm 、10分間遠心分離を行い、線虫を回収した。回収した線虫からスクロース洗浄(Sulston and Hodgkin, 1988 )を改良した方法(図2)によりバクテリアの除去を行い線虫のペレットを得た。これをサンプルとしてDneasyTM Tissue Kit(QIAGEN) を用いてtotal DNA の抽出を行った。
珪藻食性線虫
海産植物プランクトン培地である改変SWM‐IIIにより線虫、数千個体が得られるまで大量培養を行った。その後、線虫を培地ごと15mlプラスチックチューブに移し、3000rpm 10分間遠心分離を行い、線虫及び珪藻を回収した。32℃にインキュベートしておいた0.8 % low melting point agaroseを線虫、珪藻を含む培地と等量加え、よく混合し10cm2 のプラスチック製シャーレ(Falcon)の端に静かに注ぎ、アガロースを固めた。その後、何も含有しない0.4 %low melting agarose で線虫、珪藻の入ったアガロースを覆った。10mLの滅菌ASW をシャーレに注ぎ35rpm で振とうし、線虫をASW 中に移動させた。大量に線虫を含んだASW を15mlファルコンチューブに回収し、3000rpm 、10分間遠心分離する事により珪藻を除去し、線虫のペレットを得た。その後、DneasyTM Tissue Kit(QIAGEN) を用いてtotal DNA の抽出を行った。
PCR 法による28S 、18S rRNA遺伝子断片の増幅
マイクロチューブに10μl の10×PCR buffer、10μl の10mM dNTP mixture、68.5μl のddH2O 、5 μl の20μM primer (図3、表1) 、1 μl のサンプル(ng/μl)、0.5 μl のTaq polymeraseを入れ、よく混合した。
その後、プログラムテンプコントロールシステム(PC−701 、アステック社、日本)によって94℃で10min プレヒート後、1サイクル、94℃ 1min(熱変性) 、48℃ 1min(アニーリング) 、72℃ 1min(伸長反応) を30サイクル繰り返し、72℃ 10minで最終伸長反応を行った。
増幅した遺伝子断片の確認
ブロムフェノールブルー(BPB) とPCR 反応終了液を1:5の割合で混合し、1.5 %アガロースゲルに注入した。1×TAE (Tris-HCl, Sodium acetate, EDTA)buffer内で100V、30min 電気泳動し、ゲルをエチジウムブロミド溶液(0.5 μl /ml)に30min 浸し、トランスイルミネ―ター上で遺伝子断片の確認を行った。
目的遺伝子断片のサブクローニングおよびプラスミド精製
サブクローニングはTOPO TA Cloning Kit for Sequencing( インビトロゲン社) を用い行った。目的の遺伝子断片の増幅が確認されたPCR 反応終了液を直接ライゲーション反応溶液に混合しover night、室温でインキュベートして目的遺伝子断片のライゲーションを行い、ライゲーション反応終了液をコンピテントセル(Escherichia coli)にトランスフォーメーションした。その後、LB培地( アンピシリン+) に E. coliを植え継ぎ、37℃、over nightインキュベーションしE. coli のコロニーの生育を確認した。生育したE. coli のコロニーをPCR 反応溶液に混合し、上記PCR 条件でDirect PCRを行った後、電気泳動を行いE. coli 中に目的遺伝子断片が存在するか確認を行った。目的遺伝子断片が確認されたE. coli は液体LB培地9ml により大量培養し、QIAGEN Plasmid Mini Kit(QIAGEN社) を用いプラスミド精製を行いサイクルシーケンス反応のサンプルとした。
サイクルシーケンス反応(ジデオキシ法)
0.2ml マイクロチューブに、精製したプラスミド溶液、1.6pM PCR プライマー、BigDyeTMPrimer v3.0 cycle Sequencing Ready Reaction Kit(ABI 社) を4 μl 入れ、滅菌水で全量を10μl にした。その後、プログラムテンプコントロールシステム(PC −701)を用い、96℃ 30sec、50℃ 15sec、60℃ 4min を25サイクル、サイクルシーケンス反応を行い、イソプロパノール沈殿を行った後、デジケーター内で反応物を真空乾燥した。乾燥した反応物に4 μl のローディングバッファー(50mg /ml濃度のブルーデキストランを含んだ25mM EDTA 1 μl とFormamid 5μl の混液) を加えよく混合し、ローディングサンプルとした。
塩基配列の解読
377 オートシーケンサー(ABI社) を用いてローディングサンプルの塩基配列を解読し、SeqEd プログラム(version1.0.3 ;ABI) を用いて5’および3’の両末端方向から解読した塩基配列より最終的な配列を決定した。
解析および遺伝距離の測定
得られた塩基配列および国立遺伝学研究所のDNA データーベースより集めた線虫の塩基配列はClustal W を用いて配列のアライメントを行い、系統解析はPHYLIPを用いて行った。
アライメントした後のデーターを木村の2 ‐パラメーター法を用いて遺伝距離を計算した後、近隣結合法(NJ)を用いて28S および18S rDNAの分子系統樹を作成した。なお、この分子系統樹の信頼性を調べるために100 回のブーツストラップ検定を行った。
結果
28S rDNA
実験の結果P. marina ssp.の28S rDNA 295bpの塩基配列を決定し、そのGC含量は52.5%であった(表2)。また、GenBank のBLAST を用い塩基配列の同一性の検索を行った結果Pellioditis marina marina (AF210415)と99.0%で最も高い同一性を示した。両者はバクテリア食で食性が一致しており、形態学的特徴も非常に類似していた(図4、表3)。また、近隣結合法(NJ法)による分子系統樹においてもP. marina marinaが最も近縁種であり、ブーツストラップ値も100 回中100 と分岐が有意であることが確認された(図5)。
珪藻食性線虫では、Prochromadorella sp.1 、Prochromadorella sp.2 、Neochromadora sp. 、28S rDNA、それぞれ302 、300 、302bp の塩基配列の決定し、そのGC含量はそれぞれ53.7、54.0、52.3%であった(表2)。3 種珪藻食性線虫間の同一性はProchromadorella sp.1 とProchromadorella sp.2 で94.0%、Prochromadorella sp.1 とNeochromadora sp. で94.3%、Prochromadorella sp.2 とNeochromadora sp. で92.7%であった(表4)。また、GenBank のBLAST を用い塩基配列の同一性の検索を行った結果Chromadora nudicapitata (AF210401)に対し、それぞれ97.6、92.3、92.7%と最も高い同一性を示した。C. nudicapitata は珪藻食であり培養3 種と食性が一致し、形態学的特徴も近かった(表5)。また、近隣結合法による分子系統樹においてもC. nudicapitata が最も近縁種であり、ブーツストラップ値が100 回中、C. nudicapitata とProchromadorella sp.2 で80、その2 種のクラスターとProchromadorella sp.1 で77、その3 種のクラスターとNeochromadora sp. で100 と有意に分岐した(図5)。
18S rDNA
実験の結果P. marina ssp.の18S rDNA 1692bp の塩基配列を決定し、そのGC含量は46.6%であった(表2)。また、GenBank のBLAST を用い塩基配列の相同性の検索を行った結果Pellioditis marina mediterranea (AF083020)と97.9%と同一性が最も高く、次いでP. marina marina(AF210415)と96.7%の同一性を示し、これら3 種はバクテリア食で食性が一致し、形態学的特徴も非常に類似していた(図6、表3)。また、近隣結合法による分子系統樹においても、P. marina mediterranea、P. marina marinaと近縁種であり、ブーツストラップ値もP. marina ssp.とP. marina mediterraneaで100 回中100 、その2 種のクラスターとP. marina marinaで99と分岐が有意であることが確認された(図7)。
また、珪藻食性線虫では、Prochromadorella sp.1 、Prochromadorella sp.2 、Neochromadora sp. の28S rDNA、それぞれ1713、1713、1714bpの塩基配列の決定し、そのGC含量はそれぞれ46.9、46.8、47.3%であった(表2)。3 種珪藻食性線虫間の同一性はProchromadorella sp.1 とProchromadorella sp.2 で94.7%、Prochromadorella sp.1 とNeochromadora sp. で94.5%、Prochromadorella sp.2 とNeochromadora sp. で93.3%であった(表4)。また、GenBank のBLAST を用い塩基配列の同一性の検索を行った結果、高い同一性を示す線虫は存在せず、Praeacanthonchus caecus (AF047888)とそれぞれ87.6、85.5、86.9%、Praeacanthonchus sp.(AF036612)とそれぞれ87.5、85.8、87.3%の同一性を示した(表5)。また、近隣結合法による分子系統樹において、珪藻食性線虫3 種はクラスターを形成し、そのブーツストラップ値はProchromadorella sp.1 と Prochromadorella sp.2で100 回中98、その2 種のクラスターとNeochromadora sp. で100 と分岐が有意であることが確認された(図7)。
考察
本研究により得られた塩基配列を用いて、塩基配列の相同性の検索を行った結果、同一の塩基配列を有する線虫は存在しなかった。また、分子系統樹においても分岐が支持された。今回の分子系統樹を作成した結果、バクテリア食性線虫、珪藻食性線虫ともに、それぞれ食性および形態学的特徴の近い線虫が近縁種として確認された。
これらのことから、カマルら(非特許文献3,2003)が形態学的手法を用い、バクテリア食性線虫をPellioditis marina ssp. 、珪藻食性線虫をそれぞれProchromadorella sp.1 、Prochromadorella sp.2 、Neochromadora sp. と分類・同定を行った結果が、分子系統学的手法により、裏付けられ、本研究室で単離・培養に成功した線虫4 種は塩基配列上新規の線虫であることが判明した。

実施例2. 珪藻−珪藻食性線虫培養系を用いた底質の毒性評価法への応用−1
(重金属(Cd、Cu)を添加した底質を用いた毒性試験)
方法
供試生物
福岡県津屋崎町恋の浦より採取し単離、培養に成功した珪藻食性海産自由生活性線虫Prochromadorella sp.1 および、その餌である付着珪藻Cylindrotheca closteriumの混合培養系を用いた(図8)。
供試底質
福岡県津屋崎町恋の浦より採集してきた底質(砂質)を送風定温乾燥器(Constant temperature oven DK-42, Yamato Scientific Co.,Ltd., Tokyo, Japan) にて100 ℃、24時間、乾燥処理したものを用いた。
毒性物質の作成
本試験で、CdとしてCdCl2.2・1/2 H2O (Wako Pure Chemical Industries, Tokyo, Japan)、またCuとしてCuCl2.2H2O(Wako Pure Chemical Industries, Tokyo, Japan)を用いた。各物質とも脱イオン水により5,000mg/L の濃度のstock solutionを作成した後、希釈し試験に使用した。
世代サイクルの同調
75cmの細胞培養フラスコ(Iwaki Scitech Divison, Asahi Techno Glass, Tokyo, Japan)にて、培地SWM −III 、餌として付着珪藻C. closterium を用い、継代培養を行っているProchromadorella sp.が十分に繁殖した後、僅かに培地が残るように静かに培地の上清を捨てた。その後フラスコをよく振り線虫を集め、25cm細胞培養フラスコ(Iwaki Scitech Divison, Asahi Techno Glass, Tokyo, Japan)に線虫を集めた。12時間、25℃でインキュベーションし線虫が卵を産卵した後、フラスコを激しく振り、線虫を含む培地を捨てた。この作業を何回か繰り返して、卵だけを残し線虫をフラスコから取り除いた。この時、卵はフラスコ底の表面にしっかりと付着しているため捨ててしまう事はない。また、フラスコの中に残った線虫がないかどうかを顕微鏡下で確認し、線虫が確認されたときはプラスチック製のinoculation loopを用い線虫を取り除いた。
試験培地の作成
卵のみになったフラスコにC. closterium を十分に含有するSWM −III を10ml加えた。その後、CdおよびCuを添加した底質を加えた。CdおよびCu濃度はともに(0.15, 0.31, 0.62, 1.25, 2.5, 5.0 mg/L )になるよう調整した。また、control 区として底質を加えない区、sediment control区として重金属を添加していない底質を加えた区を作成した。また、各濃度区とも、3回繰り返して実験を行った。
毒性の評価方法
本試験の毒性評価の方法として、25℃で培養した線虫の世代時間(約半数の卵が孵化し成虫になり次世代の卵を産み、その卵が孵化するまでの時間)を用いた(図9)。また、線虫の状態および餌である珪藻の状態の観察を行った。
重金属濃度、pHおよびECの測定
試験が終了した後の培地10mlをポアサイズ0.45μm メンブレンフィルター(MILLIPORE) により濾過し、分析用硝酸を1 〜2 滴加えバクテリアの増殖を防ぎ保存した。その後、重金属濃度は原子吸光分光光度計(Atomic absorption flame emission AA-670 , Shimadzu Co , Kyoto , Japan )を、pH はpHメーター(Compact pH meter B-212 ,HORIBA ,Ltd , Kyoto, Japan)、ECは伝導率計(Conductivity meter B-173 , HORIBA ,Ltd , Kyoto,Japan)を用い測定を行った。
結果
培地中の重金属濃度の実測値を表6、7に示す。重金属暴露試験においてCdの無作用濃度(NOEC)は0.31 mg/Lであり、最小影響濃度(LOEC )は0.62mg/Lであった。0.62mg/L区から世代時間が6.5 日から7.0 日に延長し、1.25mg/L区で7.0 、7.5 日に延長すること確認され、濃度の上昇に伴い世代時間が延長した。また、2.5mg/L 区で、成虫まで成長する線虫は確認されたものの次世代の卵および線虫は確認されず、5.0mg/L 区で成虫まで成長する線虫は確認されなかった(表8)。
Cuでは最小影響濃度区(LOECs )は0.15mg/L区であった。0.15mg/L区から世代時間が6.5 日から7.0 日に延長する試験があり、0.31mg/L区で全ての試験で7.0 日になり、濃度の上昇に伴い、世代時間が延長された。また、0.62mg/L区から成虫まで成長する線虫は確認されたものの次世代の卵および線虫は確認されない試験があり、1.25mg/L区から成虫まで成長する線虫が確認されない試験が、5.0mg/L 区では卵が孵化せずに死亡した(表9)。
Cd、Cuともに、濃度の上昇とともに線虫の死亡率および、成長阻害された線虫の割合が増加してCdでは、0.62mg/L区、Cuでは1.25mg/L区から線虫の排泄口および排卵口に異常なふくらみを観察した(図10)。
次世代の線虫が観察されなかった試験において世代時間を仮定し、世代時間の逆数と重金属濃度の実測値によりグラフを描き、ロジスティック曲線により、それぞれのグラフの近似曲線を描いた(図11、図12)。そのグラフより、重金属が世代時間に及ぼす50%影響濃度(EC50)はCdでおよそ2mg/L 、Cuでおよそ0.3mg/L と推定された。
実施例3. 珪藻−珪藻食性線虫培養系を用いた底質の毒性評価法への応用−2
(実環境中の底質を用いた毒性試験)
方法
供試底質
福岡県宗像郡津屋崎町恋の浦沿岸、熊本県玉名郡長洲町有明海沖合(造船所前)、福岡県糸島郡二丈町福吉港内、福岡県福岡市西区唐泊港内、長崎県長崎市長崎港内(造船所前)より採集してきた底質を送風定温乾燥器(Constant temperature oven DK-42 , Yamato Scientific Co.,Ltd. , Tokyo , Japan)により100 ℃、24時間、乾燥処理したものを用いた。
TBT 濃度の測定
TBT 濃度は井上(2003)の方法に従い行った(非特許文献12)。まず、約1 g の堆積物試料を50mL 遠心分離管に入れ,内部標準物質として1 μg ずつのTBTCl-d27 を添加した後,1 M 塩酸含有メタノールおよび0.1%トロポロン含有ヘキサンを加えて振とう抽出を2 回行なった。抽出液は窒素気流下で濃縮し,5 %テトラエチルホウ酸ナトリウム水溶液にてエチル化を行い,フロリジルカートリッジによりクリーンアップを行い,窒素気流下で濃縮を経て,質量選択検出器付ガスクロマトグラフィー(GC-MS )でTBT を測定した。GC-MS はHewlett Packard 社製(Avondale, PA,USA) HP6890 型GCに同社製質量選択検出器(MS)HP5973を装備したものを使用した。TBT 濃度の算出はTBT ピークのエリア面積とTBTCl-d27 のエリア面積を比較することにより行った。
以下、上記、重金属試験と同様に毒性試験を行った。
結果
各試験区における培地含有Cd、Cu濃度および底質含有TBT 濃度を測定した結果を(表10)に示す。Cd濃度が顕著に高い試験区はなかったが、Cu濃度およびTBT 濃度はそれぞれ福吉港内(0.4, 17 ppm)、唐泊港内(0.8, 31ppm)および長崎港内(0.7, 64ppm)と非常に高かった。また、汚染が検出されなかった津屋崎の底質ではコントロール区と比較し世代時間の延長は起こらず、Cd、Cu、TBT それぞれ0.01、0.02、0.01ppm と僅かに汚染が確認された有明海の底質では世代時間が1 日延長した。しかし、CuおよびTBT 濃度の高い福吉、唐泊および長崎港内の底質を用いた毒性試験において、珪藻の形が徐々に崩れ、最終的に珪藻が死滅することが観察され(図13)、次世代の卵および次世代の線虫は確認されなかった(表11)。この原因として、餌である珪藻が死滅した結果、線虫の成長阻害が助長されたこと、およびCu、TBT による直接的な線虫の成長阻害が引き起こされたためであると考えられる。また、CuおよびTBT 濃度の高い試験区ほど、珪藻が死滅する時間が短く、また線虫の成長阻害が起こり、成虫まで成長する線虫が観察できなかった。
考察
海産線虫を用いた毒性試験の報告は少なく、底質の毒性評価を行った報告はほとんど報告されていない(非特許文献13−19)。また、これらのほとんどがバクテリア食性線虫を用いており、珪藻食性線虫を用いた毒性試験はこれまで報告がない。
Tietjen and Lee(非特許文献15,1984) は、海産線虫で河口域に生息するChromadorina germanicaおよびDiplolaimella punicea (ともにバクテリア食性線虫)を用いて河口域の底質の評価を行い、線虫の増殖率と底質中のPCBs、PAH sおよび重金属濃度との間には関連性があることを指摘している。
今回、実験に用いたProchromadorella sp.1 の特性はカマル(非特許文献3,2003)により報告されており、重金属の急性毒性試験の結果Cu>Zn>Cdの順で感受性が高く、その中で最も報告の多いCdについてEnoplus communisを除く他種線虫より4.3 〜43倍感受性が高いことを報告している。また、TBT についても急性毒性試験を行いC. elegansおよびP. marina marinaと比較して感受性が高いことが報告されている。これらからProchromadorella sp.1 は化学物質に対する感受性が他種線虫より比較的高く、感度よく底質の毒性を評価することが可能である種であるといえる。
本研究では、海産自由生活珪藻食性線虫Prochromadorella sp.1 および付着珪藻C. closterium の培養系を用い、Prochromadorella sp.1 の世代時間を指標として毒性評価を行った。その結果、化学物質の濃度上昇とともに、線虫の世代時間の延長が確認され、本培養法を用いた毒性評価法の有用性が確認させた。また、Tietjen ら(非特許文献15)の試験が2 週間を要するのに対し、本試験法はおよそ1 週間で結果が得られ、より簡便かつ迅速な方法であると言える。また、これまで報告のない珪藻食性線虫を用いたことも本試験法の特色である。
しかしながら、世代時間を毒性評価の指標として用いたことにいくつかの問題点が挙げられる。今回試験を行う上で、毒性物質への耐性は線虫の個体毎に異なり、単一の試験区においても、成虫まで成長する個体、幼虫で死亡する個体が確認された。珪藻食性線虫Prochromadorella sp.1 は雌雄異体であり、次世代の線虫が誕生するためには交尾を行うことが不可欠である。Cuを用いた毒性試験の0.62、1.25(mg/L)区など、本研究で測定された線虫の世代時間にはばらつきがある。これは、高濃度区の試験において、成虫まで成長する線虫が減少し、線虫が交尾をする機会が著しく減少した結果、運良く交尾をする機会を得た試験区では、次世代が誕生し、機会を得なかった試験区では次世代が誕生しなかったためであると考察される。また、餌である付着珪藻C. closterium がProchromadorella sp.1 より鋭敏に化学物質の毒性に反応したとき、その毒性をどのように評価するかも問題点として挙げられる。
本研究で用いた毒性評価法には、このような問題点があり、改善する必要性がある。現在、底質の毒性評価法として土壌線虫C. elegansおよび、淡水産線虫P. redivivusなどを用いる方法が開発されており、これらは死亡率、成長阻害、突然変異などを指標として毒性評価を行っている。そこで、Prochromadorella sp.1 においても、線虫の体長を測定して、線虫の成長阻害を毒性評価の指標として用いることで、より厳密な毒性評価を行うことが可能になると考えられる。また、本試験法による結果を底質の毒性が海産線虫Prochromadorella sp.1 への及ぼす影響としてでなく、付着珪藻C. closterium およびProchromadorella sp.1 の食物連鎖への影響としてとらえ、生態系を考慮に入れた毒性評価を行う必要がある。
また、本培養系には培地として海産植物プランクトン培地SWM −IIIを用いた。SWM −III中には付着珪藻C. closterium が生育する上で不可欠であるTrisやEDTAが含有されている。TrisやEDTAは、重金属とキレートを形成し、重金属の毒性を変化させることが知られている。また、重金属の形態は水温、DO( 溶存酸素) 、pH 、汚濁(フミン酸)などにより変化し、その毒性はその形態により大きく変化することが知られている(非特許文献4および20)。Kamal(非特許文献3,2003) の試験においても指摘されているように、試験培地として人工海水(ASW)用いるのとSWM −IIIを用いるのでは、毒性が大きく変化する。このような化学物質の動態も考慮に入れ、毒性評価を行う必要性が必要である。また、他の生物との毒性物質に対する耐性の比較を行う上でも、試験条件による化学物質の形態の変化を考慮に入れる必要性ある。
本試験法は上記に述べたような問題点が残されている。しかし、実環境中の汚染底質は、Prochromadorella sp.1 およびC. closterium の食物連鎖に重大な影響を与えることが明らかとなり、これら港湾の底質は現在も様々な化学物質により汚染されていることが示唆された。よって、これら地点は実環境中においても、ベントスに対する影響が懸念され、早急な環境改善が必要である。
海産自由生活性バクテリア食性線虫Pellioditis marina ssp.、および珪藻食性線虫3種(Prochromadorella sp.1、Prochromadorella sp.2、Neochromadora sp.)の形態を示す。 実施例1において、改変スクロース洗浄法により、バクテリア食性線虫のバクテリアを除去し、さらに線虫をペレット化した際の工程を示す図である。 Pellioditis marina ssp.、Prochromadorella sp.1 、Prochromadorella sp.2、およびNeochromadora sp. から抽出したDNAから、PCR法により、28Sおよび18S rRNA遺伝子断片を増幅させるために使用したプライマーの位置を示す図である。 28S rDNAにおけるP. marina ssp.とP. marina marinaとの塩基配列の比較である。 海産自由生活性線虫の、28S rDNAにおける分子系統樹(近隣結合法)を示す図である。 28S rDNAにおけるP. marina ssp.と近縁種との塩基配列の比較である。 28S rDNAにおけるP. marina ssp.と近縁種との塩基配列の比較であり、図6−1の続きである。 28S rDNAにおけるP. marina ssp.と近縁種との塩基配列の比較であり、図6−2の続きである。 28S rDNAにおけるP. marina ssp.と近縁種との塩基配列の比較であり、図6−3の続きである。 28S rDNAにおけるP. marina ssp.と近縁種との塩基配列の比較であり、図6−4の続きである。 海産自由生活性線虫の、18S rDNAにおける分子系統樹(近隣結合法)を示す図である。 本発明の珪藻−珪藻食性線虫培養系の一例を示す。 珪藻食性線虫の世代サイクルを示す。 重金属暴露試験で観察された線虫の異常を示す。 Cdが世代時間に及ぼす50%影響濃度(EC50)を求めるため、Cd濃度と線虫の世代時間の関係を描いたグラフである。 Cuが世代時間に及ぼす50%影響濃度(EC50)を求めるため、Cu濃度と線虫の世代時間の関係を描いたグラフである。 実施例3において、重金属の濃度が高いとき、餌である珪藻が死滅し、線虫の生長阻害が助長された様子を示す。

Claims (12)

  1. 下記の工程を含んでなる、試料中の汚染物質の有無を判定する方法:
    (1) 汚染物質の有無を試験すべき試料および汚染物質を含まない対照試料を用意する;
    (2) 海産自由生活性線虫をその餌の存在下に培養する;
    (3) 工程(2) で培養した線虫を、工程(1) で用意した試験試料または対照試料および該線虫の餌と共に、該線虫の生育に適する条件で培養する;
    (4) 試験試料の存在下に培養した線虫の世代サイクルおよび生態を観察し、対照試料の存在下に培養した正常な世代サイクルで増殖する線虫に対して、生態および/または世代サイクル時間に異常があるか判断する;
    (5) 工程(4) で異常がない場合に試験試料は汚染物質を含まないと判定し、相違がある場合に該試料は汚染物質を含むと判定する方法であって、線虫が、珪藻食性海産自由生活性線虫Prochromadorella sp.1 である、方法
  2. 珪藻が付着珪藻Cylindrotheca closteriumである、請求項記載の方法。
  3. 下記の工程を含んでなる、試料中の汚染物質の有無を判定する方法:
    (1) 汚染物質の有無を試験すべき試料および汚染物質を含まない対照試料を用意する;
    (2) 海産自由生活性線虫をその餌の存在下に培養する;
    (3) 工程(2) で培養した線虫を、工程(1) で用意した試験試料または対照試料および該線虫の餌と共に、該線虫の生育に適する条件で培養する;
    (4) 試験試料の存在下に培養した線虫の世代サイクルおよび生態を観察し、対照試料の存在下に培養した正常な世代サイクルで増殖する線虫に対して、生態および/または世代サイクル時間に異常があるか判断する;
    (5) 工程(4) で異常がない場合に試験試料は汚染物質を含まないと判定し、相違がある場合に該試料は汚染物質を含むと判定する方法であって、線虫が、珪藻食性海産自由生活性線虫であり、珪藻が付着珪藻Cylindrotheca closteriumである、方法。
  4. 工程(2)において、線虫の世代サイクルを同調させ、そして工程(3)が、工程(2)で世代サイクルを同調させた線虫を培養するものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 線虫の培養に海産植物プランクトン培地SWM-III を用いる、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
  6. 海産自由生活性線虫が、その卵が培養器の壁に付着する線虫であり、培養器の内壁に付着した線虫の卵のみを残して培養器を一旦空にし、該容器内に再度培地および珪藻を添加して培養することにより、線虫の世代サイクルの同調を行う、請求項1〜のいずれか1項記載の方法。
  7. 培養器が5〜50mlの培養器であり、工程(3) の直前の線虫の数が、100〜1000匹である、請求項1〜のいずれか1項記載の方法。
  8. 試料が海水または海域の底質である、請求項1〜のいずれか1項記載の方法。
  9. 工程(3) で海水試料2〜20mlを用いる、請求項記載の方法。
  10. 工程(3) で海域底質試料0.1〜1gを用いる、請求項記載の方法。
  11. 汚染物質が、Cd、Cu、TBT及びZnからなる群から選択される重金属を含む化学物質である、請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
  12. 検知感度がCdについて約600 ppb、Cuについて約150 ppb、TBTについて約260ppb、Znについて約2 ppmである請求項11記載の方法。
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