JP4505588B2 - 神経幹細胞の分化誘導方法及び分化誘導培地及び分化誘導剤 - Google Patents

神経幹細胞の分化誘導方法及び分化誘導培地及び分化誘導剤 Download PDF

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Description

本発明は、神経幹細胞をインビトロで分化誘導させる方法、分化を誘導できる培地、及び分化誘導剤に関し、特にニューロンへの分化割合が高い分化誘導方法、分化誘導培地及び分化誘導剤に関する。
パーキンソン病や脊椎損傷のような神経疾患の治療に、胎児神経組織の移植が効果的であることが報告されているが、ドナー不足さらには倫理的問題などから、胎児神経組織の代わりに、神経幹細胞を移植することも検討されている。
移植による神経再生の治療方法としては、1)インビトロで増幅した神経幹細胞を移植し、患者体内で目的の損傷神経細胞・組織に分化させる方法と、2)予めインビトロで神経幹細胞を目的の神経細胞・組織に分化させ、得られた神経細胞・組織を移植する方法とがある。
神経幹細胞自身を移植した場合、移植した細胞の最終的な分化を正確に制御することが困難であり、生体内で目的とする神経細胞が必ずしも十分に分化誘導されないおそれがある。例えば、神経幹細胞を海馬へ移植した場合はニューロンへ分化できるが、線条体や大脳皮質部に移植すると殆ど未分化のままで、ニューロンに分化できるのはわずかであることが報告されている(非特許文献1)。従って、移植効果を高めるためには、予め生体外で神経幹細胞を一定の神経細胞に分化誘導し、それを移植する方法が望まれる。
培養中の神経幹細胞を分化誘導する方法としては、例えば、神経幹細胞増殖培養方法として代表的なニューロスフェア法から神経幹細胞増殖因子(LIF、EGF、FGF2など)を除外し、代わりに1%ウシ血清と1μMレチノイン酸を添加した培地で培養すると、ニューロン20%程度、アストロサイト約80%であることが報告されている(非特許文献2)。
一方、神経疾患治療用神経細胞・組織としては、疾患の種類によって損傷している神経細胞種が異なる。例えば、脳梗塞、脳挫傷といった血管性疾患や外傷性疾患ではニューロンとグリア細胞が必要とされ、パーキンソン病やアルツハイマー病等の変性疾患では、特定のニューロンが必要とされる。従って、パーキンソン病やアルツハイマー病等の変性疾患治療のための神経細胞供給のためには、ニューロンに分化誘導する割合が高い分化誘導方法が望まれる。
さらに、これらの変性疾患は対象となるニューロンが異なる。例えば、パーキンソン病ではドーパミン作動性ニューロンであり、ハンチントン病ではGABA作動性ニューロンであり、アルツハイマー病ではコリン作動性ニューロンが必要とされる。従って、神経細胞・組織治療用の神経組織の生産性を高めるためには、特定のニューロンに分化誘導する方法が確立されることが望まれている。ここで、上述の血清を添加した培地を用いて分化誘導させた場合には、誘導されるニューロンの大部分がGABA作動性ニューロンであることが知られており、発病者の割合が高いアルツハイマー病やパーキンソン病治療のために、ドーパミン作動性ニューロンやコリン作動性ニューロンを優先的に誘導できる分化誘導方法が強く望まれている。
特定のニューロンを多く得るための分化誘導方法としては、例えば、特許文献1に、胚性幹細胞をノギンタンパク質の存在下又は不在下で浮遊培養して胚様体を形成させ、これを繊維芽細胞増殖因子及びソニックヘッジホッグタンパク質の存在下で浮遊培養して神経幹細胞に培養し、次いでこれを分化させることにより、運動ニューロン及びGABA作動性ニューロンを選択的に生産する方法が開示されている。
また、ドーパミン作動性ニューロンへの分化誘導については、マウスES細胞をレチノイン酸非局在下で、ストローマ細胞(PA6細胞)と無血清培地で共培養すると、ドーパミン作動性ニューロンが分化したと報告されている(非特許文献3)。
また、bFGF、ヘパリン、ラミニンを含有する培地で培養すると、コリン作動性ニューロンが得られることが報告されている(非特許文献4)。
特開2002−291469号 Fricker,R.A.ら:J.Neurosci.,1999年,19:5990−6005頁 Kanemura,Yら:J.Neurosci.Res.,2002年,69:869−879頁 Kawasaki,Hら:Neuron.2000年,28:31−40頁 Wu,P.ら:Nature Neuroscience,2002年,5:1271−1278頁
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、神経幹細胞からの新たな分化誘導方法、特にニューロンを高い割合で分化誘導できる方法、培地、及び分化誘導剤を提供することにある。
本発明の神経幹細胞の分化を誘導する第1の方法は、神経幹細胞の基本培地に塩基性繊維芽細胞増殖因子、上皮増殖因子又は白血球遊走阻止因子が添加された培地にて、ニューロスフェア法で培養中に、コンドロイチナーゼを添加する方法である。
前記第1及び下記第2の方法において、前記培地には血清が含まれていないことが好ましい。
本発明の神経幹細胞を分化誘導する第2の方法は、神経幹細胞の基本培地に塩基性繊維芽細胞増殖因子、上皮増殖因子又は白血球遊走阻止因子が添加された培地にて、ニューロスフェア法で培養する神経幹細胞に、ニューロカン及びコンドロイチナーゼを添加する方法であり、分化誘導する第3の方法は、ニューロカンのコンドロイチナーゼ分解により得られるタンパク質を添加する方法である。
上記第1〜第3の分化誘導方法において、前記コンドロイチナーゼは、コンドロイチナーゼABC又はコンドロイチナーゼACであることが好ましい。
本発明の神経幹細胞の分化を誘導する方法は、コリン作動性ニューロン、GABA作動性ニューロン、及びグルタミン酸作動性ニューロンを分化誘導する方法である。
本発明の神経幹細胞の分化誘導培地は、神経幹細胞及び/又は神経前駆体細胞をニューロスフェア法で培養したならし培地(conditioned medium)及びコンドロイチナーゼを含有する。前記コンドロイチナーゼは、コンドロイチナーゼABC又はコンドロイチナーゼACであることが好ましい。
本発明の神経幹細胞分化誘導剤は、神経幹細胞及び/又は神経前駆体細胞が分泌するコンドロイチン硫酸プロテオグリカンにコンドロイチナーゼを処理して得られるタンパク質を主成分とする。前記コンドロイチナーゼは、コンドロイチナーゼABC又はコンドロイチナーゼACであることが好ましい。
また、本発明の別の見地の神経幹細胞分化誘導剤は、神経幹細胞及び/又は神経前駆体細胞を一夜以上、ニューロスフェア法で培養した神経幹細胞増殖用培地の上清とコンドロイチナーゼを含有するものである。
さらに、本発明の別の見地の神経幹細胞分化誘導剤は、コンドロイチナーゼ及びニューロカンを含むものであり、ニューロカンのコンドロイチナーゼ分解により得られるタンパク質を有効成分とするものであってもよい。
尚、本発明にいう「神経幹細胞」とは、自己増殖能を有し、分化誘導により分化する能力を有している細胞をいい、「神経前駆細胞」とは、神経幹細胞から分裂した細胞で、分化はしていないが、1〜2回程度の分裂後、分化する細胞をいう。
本発明の神経幹細胞の分化誘導方法は、コンドロイチナーゼ又はコンドロイチナーゼとニューロカンとの組合わせ、又はニューロカンのコンドロイチナーゼ分解物を添加するといった簡易な方法で、しかもニューロン、特にコリン作動性ニューロンへの分化割合が高い。また、本発明の神経幹細胞分化誘導培地を用いれば、従来の血清を添加した培地よりも分化細胞としてニューロンを高い割合で得ることができる。さらに、本発明の神経幹細胞分化誘導剤を用いれば、ニューロン割合を高めにした分化を誘導することが可能となる。
本発明で用いられる神経幹細胞及び神経前駆細胞は、いずれもヒト由来のものである。
本発明の第1の分化誘導方法は、培養中の神経幹細胞培地に、コンドロイチナーゼを添加して、該神経幹細胞の分化を誘導する方法である。
本発明の方法に用いることができる神経幹細胞培地は、神経幹細胞増殖培地として用いられている公知の培地を用いることができる。具体的には、細胞の生存増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、ビタミン)を含む基本培地(例えば、Iscove改変ダルベッコ培地(IMDM)、RPMI、DMEM、Fischer培地、α培地、Leibovitz培地、L−15培地、NCTC培地、F−12培地、MEM、McCoy培地)に、増殖因子として塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、上皮増殖因子(EGF)又は白血球遊走阻止因子(LIF)の少なくともいずれか1種を添加した培地が用いられ、好ましくはこれらの増殖因子の全てが含有されたものである。また、増殖速度を増大させるために、インスリン、プロゲステロン、プラレッシン、トランスフェリン、セレナイトの添加物、あるいは神経細胞培養用添加物が含まれているB27添加物やN2添加物と、必要に応じて、ヘパリンやヘパラン硫酸又はこれらの脱硫酸化グリコサミノグリカンが含有されていてもよい。また、必要に応じて、抗生物質が含有されていてもよい。
市販品としてはユーロクローン社のNS−A培地やケンブレックス社のNeural Progenitor Basal Medium(NPBMTM)などを用いることができる。
一方、上記培地には、血清は含まれないことが好ましい。血清には未知の分化誘導剤が含まれており、本発明のニューロン割合が高い分化を阻害し得るからである。さらに、血清の存在によりGABA作動性ニューロンの誘導割合が高くなり得るため、GABA作動性ニューロン以外のニューロンを優先的に誘導したい場合には、むしろ血清は存在しないことが好ましい。
上記のような組成を有する培地での培養時間は特に限定しないが、新たな培地に植え替えてから少なくともー夜以上、好ましくはー昼夜以上、より好ましくは2日間程度は培養されていることが好ましい。後述するように、本発明の分化誘導方法は、添加したコンドロイチナーゼがニューロスフェア法で培養中の神経幹細胞及び/又は神経前駆細胞(以下、神経幹細胞と神経前駆細胞を区別しないときは、まとめて「hNSPC」と称する)が分泌するコンドロイチン硫酸プロテオグリカンを分解し、その結果生じた分解産物が、hNSPCの分化誘導剤として作用することから、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンが分泌されるのに要する期間だけ、培養される必要がある。
このような培養中の培地に、コンドロイチナーゼを添加する。コンドロイチナーゼは、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンからコンドロイチン硫酸基を分解除去する酵素の1種で、その反応機序は、コンドロイチン硫酸A,コンドロイチン硫酸C,デルマタン硫酸,コンドロイチン及びヒアルロン酸のN−アセチルヘキソサミニド結合を分解して、非還元末端に不飽和ヘキスロン酸を含む二糖、オリゴ糖を与える。コンドロイチナーゼとしては、Proteus vulgaris菌体由来のコンドロイチナーゼABCの他、コンドロイチナーゼB、コンドロイチナーゼC、コンドロイチナーゼAC−I、コンドロイチナーゼAC−IIなど種々のコンドロイチナーゼを用いることができるが、これらのうち、分化誘導活性の高さの点から、コンドロイチナーゼABC、コンドロイチナーゼACが好ましく用いられる。
このようなコンドロイチナーゼは、培養中の培地に最終濃度1mU/ml程度の範囲で添加することが好ましい。
このように、hNSPCの培養中にコンドロイチナーゼが添加された培地は、本発明の神経幹細胞分化誘導培地に該当する。すなわち、本発明の分化誘導培地は、hNSPCを培養したならし培地及びコンドロイチナーゼを含有する。
ならし培地には、hNSPCが培養された結果の分泌物であるコンドロイチン硫酸プロテオグリカンが含まれている。従って、コンドロイチナーゼが添加された本発明の分化誘導培地には、神経幹細胞が分泌したコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコンドロイチン硫酸が分解除去された結果、得られるタンパク質が含まれている。このタンパク質は、本発明の神経幹細胞分化誘導剤に該当する。
以上のように、本発明の分化誘導方法によれば、すなわち、本発明の分化誘導培地を用いれば、あるいは本発明の分化誘導剤を用いれば、神経幹細胞の分化が開始される。そして、分化の結果、ニューロン:アストロサイトが、ほぼ4:5の割合で分化する。このことは、従来の血清を用いた分化誘導と比べてニューロンへの分化割合が高い。さらに、分化誘導により得られるニューロンは、GABA作動性ニューロン、コリン作動性ニューロン、グルタミン酸作動性ニューロンであり、従来の神経幹細胞の分化誘導方法と比べて、コリン作動性ニューロンを高い割合で得ることができる。
本発明の第2の神経幹細胞の分化誘導方法は、神経幹細胞に、ニューロカン及びコンドロイチナーゼを添加する方法である。換言すると、第2の分化誘導方法は、分化誘導剤として、ニューロカンとコンドロイチナーゼの組合わせを使用する方法である。ニューロカンとコンドロイチナーゼは、別々に神経幹細胞に添加されてもよいし、添加直前に、両者を混合して、添加してもよい。
ニューロカンは、hNSPCから分泌されるコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの実体であり、その組成、構造については、Christa Kら:GENE,1998年,221:199−205頁に開示されており、タンパク質部分のアミノ酸配列は、配列リストのNo.1に示されている。
本発明の第2の分化誘導方法では、別途、hNSPCのならし培地から分離採取できるニューロカンを使用することができるので、培養によりコンドロイチン硫酸プロテオグリカンが分泌されるのを待つ必要がない。よって、分化誘導しようとする神経幹細胞は、培地から分離採取したばかりのものを、新たな培地に播種した状態などにも適用できる。但し、ニューロカンがコンドロイチナーゼで分解される必要があるので、対象となる神経幹細胞はコンドロイチナーゼが変性しない条件で存在している必要がある。
本発明の第3の分化誘導方法は、神経幹細胞に、ニューロカンをコンドロイチナーゼで分解して得られるタンパク質を添加する方法である。分化誘導は、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンであるニューロカンの糖鎖を除去して得られるタンパク質が何らかの作用をすることによるものであることに着目し、本発明の第3の方法では、分化誘導の実体であるニューロカンのコンドロイチナーゼ分解産物であるタンパク質を、分化誘導剤として添加する。
コンドロイチナーゼによるニューロカンの分解には一晩程度要するのに対し、第3の分化誘導方法では、分化誘導できるニューロカンのタンパク質部分を直接作用させるので、分化を早く誘導させたい場合に有効である。
尚、コンドロイチナーゼによるニューロカンの分解処理により得られるタンパク質部分は、配列リストNo.1で示されるようなアミノ酸配列を有するタンパク質である。また、第3の分化誘導方法で使用できるコンドロイチナーゼは、第1の分化誘導方法で列挙したものである。
上記第2及び第3の分化誘導方法においても、第1の分化誘導方法と同様に、コリン作動性ニューロンを高い割合で得ることができる。
〔神経幹細胞〕
神経幹細胞は、国立病院機構大阪医療センター倫理委員会及び産業技術総合研究所倫理委員会承認の下、妊娠9週齢のヒト胎児前脳部より取り出したhNSPCを、継代培養後、前述の神経幹細胞増殖培地で、約4日間培養して得られたニューロスフェアを、トリプシン処理により単一細胞にしたものを測定に用いた。
〔神経幹細胞培養培地〕
下記実施例で使用した培地組成は、以下の通りである。
(a)ニューロスフェア法で使用した培地
DMEM /F12(1:1混合物、シグマ社)
ヒト組換え(以下「hr−」と略記する)EGF(Pepro Tech社)20ng/ml
hr−FGF2(Pepro Tech社)20ng/ml
hr−LIF(ケミコン・インターナショナル社)10ng/ml
ヘパリン(シグマ社)5mg/ml
B27(インビトロジェン社)
HEPES15mM
Antibiotic−antimycotic(インビトロジェン社)
(b)hNSPCの分化誘導培地
DMEM /F12(1:1混合物、シグマ社)
ヘパリン(シグマ社)5mg/ml
B27(インビトロジェン社)
HEPES15mM(インビトロジェン社)
Antibiotic−antimycotic(インビトロジェン社)
1%ウシ胎児血清(JPHバイサイエンス社)
レチノイン酸1μM(シグマ社)
(c)CMCH培養液
DMEM /F12(1:1混合物、シグマ社)
ヘパリン(シグマ社)5mg/ml
B27(インビトロジェン社)
15mM HEPES(インビトロジェン社)
Antibiotic−antimycotic(インビトロジェン社)
〔神経幹細胞がコンドロイチン硫酸プロテオグリカンを合成することの確認〕
上記神経幹細胞培養培地(a)で、4日間培養した後、培養液を回収した。この培養液を20000×gで15分間遠心分離して、細胞及び細胞くずを除去して、培養上清を得た。
(1)培養上清
得られた培養上清を、イムノドット(ATTO社)を用いて、10μlづつ、ニトロセルロース膜(Advantec社)にブロッティングした。
抗体のニトロセルロース膜への非特異吸着を抑制するために、0.1%Tween20とPBSとの混合液(以下「PBS−T」という)、及び1%BSAを含む溶液中に、ニトロセルロース膜を、室温で1時間浸漬することにより、ブロッキング処理を行った。
一次抗体液として、抗コンドロイチン硫酸モノクローナル抗体であるモノクローナル抗−コンドロイチン硫酸クローンCS−56(シグマ社)を、PBS−Tで1000倍希釈したものを用いた。この一次抗体液中に、ブロッキング処理したニトロセルロース膜を、4℃で一晩浸漬して、一次抗体と反応させた。反応後、ニトロセルロース膜をPBS−Tで洗浄し、次いで二次抗体反応を行った。
二次抗体として、ヤギ抗マウスIgM(μ)F(ab)抗体を使用し、この二次抗体とHRP(イムノグロブリンGと西洋わさび由来ペルオキシダーゼの架橋物、American Qualex社)をPBS−Tで10000倍希釈した二次抗体液と、室温で、1時間反応させた。
二次抗体反応後、PBS−Tで洗浄し、ECL・Plusキット(Amersham Biosciences社)を用いて、化学発光させ、X線フィルムと一緒にカセットにいれて露光し、現像した。結果を図1に示す。
(2)コントロール
コントロールとして、細胞を培養していない神経幹細胞培養液(a)を同様にしてニトロセルロース膜にブロッティングし、同様にブロッキング処理した後、抗体反応させた。抗体反応後、(1)と同様にして発光させた結果を、図1に示す。
図1から、コントロールでは、変化がなく、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンは含まれていないことが確認できる。一方、神経幹細胞培養上清では、ドットが認められ、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンが存在することを確認できた。従って、神経幹細胞は、培養により、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンを分泌していることが確認できる。
〔コンドロイチナーゼと分化誘導の関係〕
実施例1:
神経幹細胞培養培地(a)で、hNSPCを4日間培養した後、培養液を回収し、この培養液を、10000×gで15分間遠心分離し、培養上清を得た。この培養上清を2つに分け、一方を分子量100000以上と100000未満の化合物とを分離できる分離膜を用いて分画した。分子量100000未満の画分(i)及び分子量100000以上で熱処理されていない画分(ii)に、プロテアーゼフリーコンドロイチナーゼABC(生化学工業社)を1mU/mlとなるように添加し、37℃で、1.5時間反応させた。
他方の培養上清に、プロテアーゼフリーコンドロイチナーゼABC(生化学工業社)を1mU/mlとなるように添加し、37℃で、1.5時間反応させた後、100℃で10分間加熱処理した(この加熱処理された培養上清を(iii)とする)。
(i)(ii)(iii)の各コンドロイチナーゼ処理培養液中でhNSPCを培養したところ、(ii)の画分だけが、hNSPCは分化を開始した。(ii)の画分では、分化開始2時間後、培養中のほぼ全てのニューロスフェアが細胞培養用ディッシュの底面に張り付き、培養24時間後には、これらのニューロスフェアから突起を延ばす細胞を確認した(図2)。一般に、コンドロイチン硫酸は、分子量100000以下であるから、(i)の画分ではコンドロイチン硫酸が含まれ、(ii)(iii)の画分にはコンドロイチナーゼによりコンドロイチン硫酸が分解除去されたタンパク質が含まれている。そして、(iii)の画分では、添加したコンドロイチナーゼによって生じた分化誘導剤と考えられるコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの分解産物が、加熱処理により、分化誘導能力を喪失したと考えられる。
培養2日後、等量の上記CMCH培養液を加えて4日間培養した後、半分量のCMCH液を変換し、さらに4日間培養した。培養開始から10日後、図3に示すように、ニューロスフェアから多くの細胞が移動して広がり、モノポーラー、バイポーラーの突起をもつ細胞へ分化していることが確認できた。
比較例1:
新しい神経幹細胞培養培地(a)に、1mU/mlとなるようにプロテアーゼフリーコンドロイチナーゼABC(生化学工業社)を添加し、この培養液で、hNSPCを培養した。
hNSPCは、培養開始後、増殖を開始し、ニューロスフェアを形成したが、3日後に、突起をもつ細胞が確認され、分化が誘導されたことが確認できた。
hNSPC培養培地(a)に、単にコンドロイチナーゼを添加しただけでは、分化が誘導されないこと、分化誘導にはhNSPCによる分泌物の存在が必要であることがわかる。
比較例2:
培養中のhNSPCを新しい神経幹細胞培養培地(a)に移し、1mU/mlコンドロイチナーゼABCを添加して、37℃で1時間30分反応させた。
反応後、コンドロイチナーゼABCが含まれている培養液を除去し、細胞を分離した。この細胞をDMEM/F12(1:1混合物)で3回洗浄し、コンドロイチナーゼABCを除いた。洗浄した細胞を新しい神経幹細胞培養培地(a)で培養を開始した。培養後、増殖を開始し、ニューロスフェアが形成された。培養開始から3日すぎても、分化は認められなかった。
従って、予め細胞をコンドロイチナーゼABCで処理しても、ならし培地にコンドロイチナーゼABCが存在しないと、分化を誘導できないことがわかる。
〔分化誘導の解析〕
実施例2:
上記実施例1で10日間培養したhNSPCについて、培養液を除去し、分化誘導された細胞集団を回収した。この細胞集団を、4%パラホルムアルデヒドを添加し、4℃で20分間反応させた。パラホルムアルデヒドによる固定後、細胞をPBSで10分間、3回洗浄した。
洗浄した細胞を、ヤギ血清(10%)、トリトンX−100(0.01%)を含むPBSと混合し、室温で1時間ブロッキング反応を行った。ブロッキング後、一次抗体液を添加して、4℃で一晩反応させた。ここで、一次抗体液としては、10%ヤギ血清、0.01%トリトンX−100を含有するPBSを希釈液として、βIII(βIIIチューブリンに対するモノクローナル抗体:BABCO社)を500倍、GFAP(抗グリア細胞繊維性酸性タンパク質ポリクローナル抗体:シグマ社)を80倍に希釈した溶液を用いた。
一次抗体溶液との反応後、反応液を除去して、PBSで洗浄した。次いで、二次抗体液と室温で1時間反応させた。ここで、二次抗体液としては、Alexa抗マウスIg抗体488及びAlexa抗マウスIg抗体568(いずれもモレキュラー・プローブ社)を、ヤギ血清(10%)及びトリトンX−100(0.01%)を含むPBSで、500倍希釈したものを用いた。また、二次抗体液にTOPRO−3(モレキュラー・プローブ社)を添加し、二次抗体溶液との反応の間に、核染色を行った。
反応後、培養液を除去して、PBSで洗浄し、更に超純水で洗浄して、封入した。
共焦点レーザースキャン顕微鏡(LSM510、Carl Zeiss社製)を用いて、細胞を観察した。各染色結果を図4〜図6に示す。また、顕微鏡観察に基づいて、ニューロンマーカー分子であるβIII陽性細胞、アストロサイトマーカー分子であるGFAP陽性細胞の割合を解析した結果、表1のようになった。
比較例3:
神経幹細胞増殖培養方法であるニューロスフェア法に用いる培地から、増殖因子を除外した従来の分化誘導培地(上記(b)参照)を用いて、実施例2と同様にして、神経幹細胞を10日間培養した。培養後、実施例1と同様にして、一次抗体反応、二次抗体反応を行い、共焦点レーザースキャン顕微鏡(LSM510、Carl Zeiss社製)を用いて、細胞を観察した。各染色結果を図7〜図9に示す。また、顕微鏡観察に基づいて、ニューロンマーカー分子であるβIII陽性細胞、アストロサイトマーカー分子であるGFAP陽性細胞の割合を解析した結果、表1のようになった。
参考例1:
コントロールとして、分化誘導培地に供する前の細胞について、一次抗体反応及び二次抗体反応を行い、初期の神経細胞の存在割合を調べた。結果を表1に示す。
表1から、従来の分化誘導培地では、グリア細胞に分化する割合が高かった(ニューロン:アストロサイト=2:7)のに対し、本発明の分化誘導培地では、ニューロンに分化する割合が高い(ニューロン:アストロサイト=4:5)ことがわかる。従って、本発明の分化誘導方法は、神経幹細胞からニューロンを高効率に分化誘導する方法であることがわかる。
〔分化誘導されたニューロンの解析〕
実施例2で得られた β−III陽性細胞(ニューロン)の種類を確認するために、以下の実験を行った。
上記実施例1で10日間培養したhNSPCについて、培養液を除去し、分化誘導された細胞集団を回収した。この細胞集団を、4%パラホルムアルデヒドを添加し、室温で20分間反応させた。パラホルムアルデヒドによる固定後、細胞をPBSで10分間、3回洗浄した。
洗浄した細胞を、0.25%ゼラチン、0.01%トリトンX−100を含むPBSを用いて、室温で1時間ブロッキング反応を行った。ブロッキング後、一次抗体液を添加して、4℃で一晩反応させた。ここで、抗アセチルコリントランスフェラーゼ抗体の反応については、図10に示す操作フローに基づいて反応させ、抗GABA抗体及び抗グルタミン酸抗体との反応については、図11に示す操作フローに基づいて反応させた。
(1)抗アセチルコリントランスフェラーゼ抗体との反応
一次抗体液として、ヤギ抗コリンアセチルトランスフェラーゼ(chat)ポリクローナル抗体(Chemicon社)を、0.25%ゼラチン、0.01%トリトンX−100を含むPBSで200倍希釈した希釈液を用いた。この一次抗体溶液と4℃で一晩反応させた後、反応液を除去し、PBSで10分間3回洗浄した。次いで、二次抗体液と室温で1時間反応させた。ここで、二次抗体液としては、Alexa抗ヤギIg抗体568を、0.25%ゼラチン、0.01%トリトンX−100を含むPBSで希釈した希釈液を用いた。反応後、反応液を除去し、PBSで10分間3回洗浄した。次いで、ヤギ血清(10%)及びトリトンX−100(0.01%)を含むPBSで、ブロッキング反応(室温、60分間)を行った後、β−III(β−チューブリンに対するモノクローナル抗体:バブコ社)をヤギ血清(10%)及びトリトンX−100(0.01%)を含むPBSで希釈した一次抗体反応液と反応させた(室温、2時間)。反応後、反応液を除去し、PBSで10分間3回洗浄した後、Alexa抗ヤギIgG抗体568を、ヤギ血清(10%)、トリトンX−100(0.01%)、TOPRO3を含むPBSで希釈した二次抗体液と、室温で60分間反応させた。反応液を除去後、細胞をPBSで10分間3回洗浄した後、共焦点レーザースキャン顕微鏡(LSM510、Carl Zeiss社製)を用いて、細胞を観察した。
(2)抗GABA抗体、抗グルタミン酸抗体との反応
はじめに、ウサギ抗GABAポリクローナル抗体(シグマ社)とβIII(βチューブリンに対するモノクローナル抗体:バブコ社)との混合液、ウサギ抗グルタミン酸ポリクローナル抗体(シグマ社)とβ−III(バブコ社)との混合液を調製し、これらの混合液をヤギ血清(10%)及びトリトンX−100(0.01%)を含むPBSで希釈した希釈液を一次抗体反応液として用いた。
この一次反応液と4℃で一晩反応させた後、反応液を除去し、PBSで10分間3回洗浄した。次いで、二次抗体反応を室温で60分間行った。二次抗体反応液としては、Alexa抗ヤギIgG抗体568、Alexa抗ウサギ抗体488(いずれもモレキュラー・プローブ社)を、ヤギ血清(10%)、トリトンX−100(0.01%)及びTOPRO−3(モレキュラー・プローブ社)をPBSで希釈した希釈液を用いた。反応後、反応液を除去し、PBSで10分間3回洗浄した後、共焦点レーザースキャン顕微鏡(LSM510、Carl Zeiss社製)を用いて、細胞を観察した。
(3)観察結果
顕微鏡観察により、各標識二次抗体に基づいて、β−III陽性細胞における各抗体の存在割合を調べた。コリン作動性ニューロンが33.3±6.76%、GABA作動性ニューロンが56.2±9.43%、グルタミン酸作動性ニューロンが11±3.61%であった。
〔コンドロイチナーゼの種類と分化誘導の関係〕
上記神経幹細胞培養培地(a)で、hNSPCを14日間培養した後、培養液を回収し、この培養液を、1000×gで15分間遠心分離し、培養上清を得た。
この培養上清を3つのグループの分け、各グループに、プロテアーゼフリーコンドロイチナーゼABC、コンドロイチナーゼAC−I、又はコンドロイチナーゼB(いずれも生化学工業社)を1mU/ml添加し、hNSPCを加えて培養した。24時間培養後の状態を顕微鏡で観察した。コンドロイチナーゼABCを添加した場合の顕微鏡写真を図12に、コンドロイチナーゼAC−Iを添加した場合の顕微鏡写真を図13に、コンドロイチナーゼBを添加した場合の顕微鏡写真を図14に示す。
図12〜図14を比較するとわかるように、コンドロイチナーゼABC、コンドロイチナーゼAC−Iを含む培養上清では十分な分化誘導が起っていたが、コンドロイチナーゼBを含む培養上清では分化誘導割合が少なかった。
〔分化誘導因子の単離〕
(1)分化誘導能を有する画分の決定
神経幹細胞培地(a)にhNSPCを播種し、14日間培養した後、10000×gで15分間遠心し、上清を分取した。この上清を分子量100000で分画する限外濾過膜アミコンウルトラ−15(ミリポア社)に移し、分子量100000以上と分子量100000未満に分離した。ここで、分子量100000以上の画分に対しては、分画時にタンパク質濃縮を行なった後、溶媒をDEAEカラム平衡化バッファー(50mM Tris、300mM NaCl)で置換した。
得られた分子量100000以上の画分をマイクレス0.45μm(ミリポア社)で、濾過することにより、不溶物を除いた後、陰イオン交換カラムHitrap DEAE FF(アマシャムバイオサイエンス社)に投入した。このイオン交換カラムを、DEAEカラム平衡化バッファーで洗浄した後、DEAEカラム溶出バッファー1(50mM Tris、600mM NaCl)で溶出し、引き続きDEAEカラム溶出バッファー2(50mM Tris、1M NaCl)で溶出した。DEAEカラム溶出バッファー1で溶出した画分に、界面活性剤ポリオキシエチレンラウリンエーテル(Brij35)を、最終濃度0.01%になるように加えた。この画分に、ヘパリンカラム平衡化バッファー(50mM Tris、0.01%Brij35)1画分の5倍量を加え、アフィニティカラムHitrapヘパリンHP(アマルシャムバイオサイエンス社)に充填した。ヘパリンカラム平衡化バッファーで洗浄した後、クロマトグラフィーシステムAKTAexplorer10XT(アマシャムバイオサイエンス社)に接続した。このシステムを用いて、ヘパリンカラム平衡化バッファーからヘパリンカラム溶出バッファー(50mM Tris、1M NaCl、0.01%Brij35)のグラジエント溶出を行ない、hNSPCの分化誘導分子を含む溶出画分を採取した。分化誘導分子を含む溶出画分は50mM Tris、350mM NaCl、0.01%Brij35の溶出バッファーから、50mM Tris、420mM NaCl、0.01%Brij35の溶出バッファーで溶出される画分に含まれる。
尚、溶出画分が分化誘導分子を含むか否かの確認(分化誘導能の確認)は、CMCH培地をいれた培養ディッシュに、溶出画分を確認培地の2.5%〜5%量(50mMトリス+1M NaCl+0.01%Brij35が溶媒となっている)と1mUプロテアーゼフリーコンドロイチナーゼABC(生化学工業社)を添加して、COインキュベーター内に一晩静置した後、顕微鏡でhNSPCの形態、培養ディッシュへの付着を観察することにより行なった。浮遊していたhNSPCの細胞塊が、培養ディッシュ底面へ付着し、突起を延ばし、細胞塊からの移動が見られたとき、hNSPCが分化した、すなわち当該溶出画分は分化誘導能を有すると判定した。
(2)分化誘導能を有する分子の単離精製
(1)で採取した分化誘導能を有する溶出画分を、ヘパリンカラム平衡化バッファーで10倍希釈した。この希釈液を、陰イオンカラムMONOQカラム(アマシャムバイオサイエンス社)に充填した。ヘパリンカラム平衡化バッファーでカラムを洗浄した後、ヘパリンカラム平衡化バッファーからヘパリンカラム溶出バッファーのグラジエント溶出を行なった。(1)で行なった分化誘導能の確認方法にしたがって、hNSPCへの分化誘導能を評価した結果、50mM Tris、950mM NaCl、0.01%Brij35の溶出バッファー画分から、50mM Tris、1M NaCl、0.01%Brij35の溶出バッファーで溶出される画分では、図15に示すように、分化誘導が見られた。尚、CMCH培地に、50mMトリス+1M NaCl+0.01%Brij35+1mUプロテアーゼフリーコンドロイチナーゼABC(生化学工業社)を添加したものをコントロールとして、COインキュベーター内に一晩静置した場合には、図16に示すように、細胞塊から延びる突起が認められなかった。図15及び図16中のスケールバーの長さは、50μmである。
(1)のへパリンカラムに充填した画分、上記MONOQカラムに充填した画分、及びMONOQの溶出画分のうち、分化誘導能を示した画分について、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−−PAGE)の結果を、図17に示す。分化誘導能を有するMONOQ画分では、分子量578000ダルトンのバンドがひとつ見られた。hNSPCの馴し培地に含まれる分化誘導活性化能を有する分子は、578000ダルトンの分子であることがわかった。
〔分化誘導因子の同定〕
精製した578000ダルトンの分子について、以下のようにして、質量分析計(BRUKERDALTONICS社のUltraflex)を用いて同定した。
はじめに、578000ダルトンの分子に、1mUプロテアーゼフリーコンドロイチナーゼABCを加え、37℃で60分間反応させて、コンドロイチン硫酸鎖を切断した。
コンドロイチナーゼ処理により得られたタンパク質分子をSDS−PAGEにかけ、クマシー染色後、染色されたバンドを切り出した。切り出したバンドをトリプシン処理し、得られた断片について、MS/MS解析で同定した。MS/MS解析結果(マススペクトル)を、図18(a)(b)(c)に示す。これらから、単離した分子は、ニューロカン(配列リストNo.1)であることがわかった。図18(a)は、アミノ酸配列145−165番目に該当する「GIEDEQDLVPLEVTGVVFHYR」であり、図18(b)は、257−269番目に該当する「ELGGEVFYVGPAR」であり、図18(c)は1155−1170番目に該当する「DFQWTDNTGLQFENWR」である。
〔単離物質のニューロン分化誘導能の確認〕
上記で単離精製した分化誘導能を有する分子(578000ダルトン)を含む画分を用いて分化誘導された細胞集団を回収した。この細胞集団を、4%パラホルムアルデヒドを添加し、4℃で20分間反応させた。パラホルムアルデヒドによる固定後、細胞をPBSで10分間、3回洗浄した。
洗浄した細胞を、ヤギ血清(10%)、トリトンX−100(0.01%)を含むPBSと混合し、室温で1時間ブロッキング反応を行った。ブロッキング後、一次抗体液を添加して、4℃で一晩反応させた。ここで、一次抗体液としては、10%ヤギ血清、0.01%トリトンX−100を含有するPBSを希釈液として、βIII(βIIIチューブリンに対するモノクローナル抗体:BABCO社)を500倍、GFAP(抗グリア細胞繊維性酸性タンパク質ポリクローナル抗体:シグマ社)を80倍に希釈した溶液を用いた。
一次抗体溶液との反応後、反応液を除去して、PBSで洗浄した。次いで、二次抗体液と室温で1時間反応させた。ここで、二次抗体液としては、Alexa抗マウスIg抗体488及びAlexa抗マウスIg抗体568(いずれもモレキュラー・プローブ社)を、ヤギ血清(10%)及びトリトンX−100(0.01%)を含むPBSで、500倍希釈したものを用いた。また、二次抗体液にTOPRO−3(モレキュラー・プローブ社)を添加し、二次抗体溶液との反応の間に、核染色を行った。
反応後、培養液を除去して、PBSで洗浄し、更に超純水で洗浄して、封入した。
共焦点レーザースキャン顕微鏡(LSM510、Carl Zeiss社製)を用いて、細胞を観察した。βIII及びGFAPの染色結果を図19に示す。図19より、ニューロンマーカー分子であるβIII陽性細胞及びアストロサイトマーカー分子であるGFAP陽性細胞が存在することがわかる。図19中のスケールバーの長さは50μmである。
βIII陽性細胞(ニューロン)の種類を確認するために、上記の「(1)抗アセチルコリントランスフェラーゼ抗体(ChAT)と反応」に従って反応させた。反応後、共焦点レーザースキャン顕微鏡(LSM510、Carl Zeiss社製)写真の結果を図20に示す。図20からわかるように、アセチルコリントランスフェラーゼ陽性細胞が認められ、コリン作動性ニューロンが存在することが確認できた。図20中のスケールバーの長さは50μmである。
本発明の神経幹細胞の分化誘導方法によれば、ニューロスフェア法で培養中のhNSPCにコンドロイチナーゼを添加するだけで、あるいは継代したばかりのhNSPCにニューロカン及びコンドロイチナーゼの組合わせ、又はニューロカンのコンドロイチナーゼ分解により生じるタンパク質分子を加えるだけで、高効率でニューロンへ分化誘導することができ、しかもGABA作動性ニューロンだけでなく、コリン作動性ニューロンを高い割合で得ることができる。
従って、本発明の分化誘導方法、分化誘導剤、分化誘導培地は、神経疾患の移植用ニューロン、特にアルツハイマー治療用ニューロンをインビトロで簡易に製造する方法として利用できる。
抗コンドロイチン硫酸モノクローナル抗体との発光反応の結果を示す図である。 実施例1の分化開始24時間後の状態を示す光学顕微鏡写真(倍率100倍)である。 実施例1の分化開始10日後の状態を示す光学顕微鏡写真(倍率100倍)である。 実施例2のβIII染色結果を示す光学顕微鏡写真(倍率200倍)である。 実施例2のGFAPの染色結果を示す光学顕微鏡写真(倍率200倍)である。 実施例2の核染色結果を示す光学顕微鏡写真(倍率200倍)である。 比較例3のβIII染色結果を示す光学顕微鏡写真(倍率200倍)である。 比較例3のGFAPの染色結果を示す光学顕微鏡写真(倍率200倍)である。 比較例3の核染色結果を示す光学顕微鏡写真(倍率200倍)である。 抗アセチルコリントランスフェラーゼ抗体との反応操作を示すフロー図である。 抗GABA抗体及び抗グルタミン酸抗体との反応操作を示すフロー図である。 コンドロイチナーゼABCを添加した場合の顕微鏡写真(倍率200倍)である。 コンドロイチナーゼAC−Iを添加した場合の顕微鏡写真(倍率200倍)である。 コンドロイチナーゼBを添加した場合の顕微鏡写真(倍率200倍)である。 分化誘導能を有するMONOQ溶出画分で分化誘導したhNSPCの結果を示す顕微鏡写真(100倍)である。 コントロールの分化誘導能評価試験結果を示す顕微鏡写真(100倍)である。 ヘパリン充填液、MONOQ充填液、及びMONOQの分化誘導活性画分のSDS−PAGEの結果である。 単離物質のMS分析の結果(マススペクトル)である。 MONOQの分化誘導活性画分のβIII及びGFAP染色結果を示す光学顕微鏡写真(倍率200倍)である。 βIII陽性細胞を、ChATで染色した結果を示す光学顕微鏡写真(倍率200倍)である。

Claims (12)

  1. 神経幹細胞の基本培地に塩基性繊維芽細胞増殖因子、上皮増殖因子又は白血球遊走阻止因子が添加された培地にて、ニューロスフェア法で培養中の神経幹細胞培地に、コンドロイチナーゼを添加して、神経幹細胞の分化を誘導する方法。
  2. 前記培地には血清が含まれていない請求項1に記載の誘導方法。
  3. 神経幹細胞の基本培地に塩基性繊維芽細胞増殖因子、上皮増殖因子又は白血球遊走阻止因子が添加された培地にて、ニューロスフェア法で培養する神経幹細胞に、ニューロカン及びコンドロイチナーゼを添加して、神経幹細胞の分化を誘導する方法。
  4. 神経幹細胞に、ニューロカンのコンドロイチナーゼ分解により得られるタンパク質を添加して、神経幹細胞の分化を誘導する方法。
  5. 前記コンドロイチナーゼは、コンドロイチナーゼABC又はコンドロイチナーゼACである請求項1〜のいずれかに記載の分化誘導方法。
  6. コリン作動性ニューロン、GABA作動性ニューロン、及びグルタミン酸作動性ニューロンを分化誘導する請求項1〜のいずれかに記載の方法。
  7. 神経幹細胞及び/又は神経前駆体細胞を、ニューロスフェア法で培養したならし培地(conditioned medium)及びコンドロイチナーゼを含有する神経幹細胞分化誘導培地。
  8. 前記コンドロイチナーゼは、コンドロイチナーゼABC又はコンドロイチナーゼACである請求項7に記載の神経幹細胞分化誘導培地。
  9. 神経幹細胞の基本培地に塩基性繊維芽細胞増殖因子、上皮増殖因子又は白血球遊走阻止因子が添加された培地にて、ニューロスフェア法で培養した神経幹細胞及び/又は神経前駆体細胞が分泌するコンドロイチン硫酸プロテオグリカンにコンドロイチナーゼを処理して得られるタンパク質を主成分とする神経幹細胞の分化誘導剤。
  10. 神経幹細胞及び/又は神経前駆体細胞をー夜以上、ニューロスフェア法で培養した神経幹細胞増殖用培地の上清とコンドロイチナーゼを含有する神経幹細胞の分化誘導剤。
  11. ニューロカン及びコンドロイチナーゼを含む神経幹細胞の分化誘導剤。
  12. ニューロカンのコンドロイチナーゼ分解により得られるタンパク質を有効成分とする神経幹細胞の分化誘導剤。
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