本発明に係るメソ孔を有する構造体の一実施形態について、図1を用いて説明する。
図1において、12は樹状の骨格部、13は当該骨格部が有するメソ孔、14は骨格部を構成するメソ孔の孔壁、11は骨格部間の間隙やマクロ孔を示している。本発明に係る構造体は、同図のように、メソ孔が骨格部12を、その長手方向15に交差する方向16に貫通している。図1の符号Aは、樹状の骨格部12の一部分を拡大して示しており、図1の符号Bは樹状の骨格部12の他の一部分の部分的な断面を拡大して示している。
図1に示すように、骨格部が分岐することにより樹状形状が形成される。図1の実施形態では、骨格部の分岐により、3次元網目形状が形成されている。樹状とは、骨格部が枝分かれしたもの(単に分岐構造を有するもの)だけでなく、3次元網目状のものも含む概念である。
メソ孔とは、2nm以上50nm以下の孔径を有する細孔のことであり、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)において定義されている。なお、IUPACでは、2nm未満の孔径を有する孔はミクロ孔、50nmより大きい孔径を有する孔はマクロ孔と定義されている。
なお、図1は本実施形態に係る構造体の模式図であるが、実際の構造体のSEM写真を図2に示す。同図において、樹状の骨格部12及び骨格間の間隙11が示されている。
このように本実施形態に係る構造体は、図1に示すように、隣り合う骨格部間にマクロ孔サイズの間隙11(間隙11のある方向からの投影面積が直径50nmより大きな円の面積以上である間隙)が空いていてもよい。また、図3に示すように骨格部が分岐を繰り返して、骨格部同士がつながることにより形成されたマクロ孔11を有するものであってもよい。構造体は粒子や膜でもいいが、粒子が好ましく用いられる。
(メソ孔の形状、孔径、長さ、配列)
本実施形態におけるメソ孔13は、図1に示したように骨格部12の長手方向15を横切る方向16に、チューブ状に伸びている。交差する方向16は、例えば長手方向15に直交する方向である。
特に、電子顕微鏡で観察できる範囲内(例えば、500nm×500nm)において、その90%以上のメソ細孔が、上記直交する方向に配向していることが好ましい。
本発明に用いられるメソ孔としては、例えば、一方の開口部から他方の開口部まで孔径が単調増加している形状、孔径が不連続に変化する形状などであってもよい。また、メソ孔自体が途中で複数に分岐する形状でもよい。
本発明に用いられるメソ孔の配列としては、例えば図4に示すように升目の交点にメソ孔が配列したものや、ハニカム状に細孔が配列したものに限らず、規則的或いは不規則に配列したものであっても良い。
本発明に用いられるメソ孔の孔径は、2nm以上50nm以下、より好ましくは10nm以上30nm以下である。本発明に係る構造体をどのような用途に用いるかもによるが、例えば、バイオセンサに適用する場合には、抗体等の生体物質がメソ孔に導入できるように10nm以上であることが好ましく、生体物質の立体構造安定化の点から30nm以下であるのがよい。なお、孔径は孔の断面形状が円であれば直径のことであり、楕円など変形した円の場合は、最も長い部分である。
メソ孔の長さとしては、50nm以上500nm以下が好ましい。バイオセンサー等の反応場として利用する観点からは、50nm以上300nm以下がより好ましいものである。
また、メソ孔同士の間隔は、例えば、1nm〜4nm程度である。なお、隣接する複数のメソ孔の伸長方向が、同じ方向に揃っていることもより好ましいものである。
ここで、メソ孔の孔径の具体的測定方法について説明する。
粉末状態のメソ孔を有する構造体について、窒素ガス吸脱着測定を行い、細孔径に関する情報を得ることができる。具体的には、窒素ガス吸着測定の結果から、Berret−Joyner−Halenda(BJH)法により細孔径分布を求める。本発明に好適に用いられる構造体の孔径分布は、単一の極大値を示し、且つ、当該孔径分布において、60%以上のメソ孔が、極大値を含む10nmの幅を持つ範囲に含まれる。後述する実施例によれば、例えば、80%以上の細孔の孔径が極大値から±5nm以内の範囲内、つまり極大値を含む10nmの幅を持つ範囲内に含まれる。より好ましくは90%以上の細孔が10nmの幅を持つ範囲内に含まれると良い。
メソ孔の周期性は、X線回折(XRD)測定からその情報を得ることができる。本実施形態に係る構造体は、XRD測定において、1ナノメートル以上の構造周期に対応する角度領域に少なくとも1つの回折ピークを有する。これは、メソ孔が規則的に配列していることを意味する。
なお、隣り合う骨格部間の間隙は、マクロ孔サイズの間隙、即ち50nmより大きいことが好ましく、より好適には100nm以上700nm以下である。また、分岐した骨格部がつながることにより形成されるマクロ孔は、孔径が50nmより大きいことが好ましく、より好適には100nm以上700nm以下である。
(構成材料)
本発明に用いられる、骨格部12、即ちメソ孔の孔壁を構成する材料としては、例えば、酸化シリコン、酸化チタン、あるいは酸化スズなどの酸化物が好ましく用いられる。また、無機材料(例えば、シリカ)と有機材料(例えば、ベンゼン、エチレン)とのハイブリット材料であってもよい。
なお、メソ孔の孔内壁にシランカップリング剤などによる被覆層を設けたり、メソ孔内に酵素、抗体、DNAなどを導入し、担持させることもできる。例えば、シランカップリング剤で細孔表面(孔内壁面)を修飾したり、酸化物を形成し得る金属を含有する金属塩の水溶液を用いてメソ孔表面を修飾することもできる。
(構造体の製造方法)
本発明の一実施形態によるメソ孔を有する構造体の製造方法について説明する。
まず、配向制御剤と、界面活性剤と、構造体の骨格部になる物質と、を含む反応溶液を用意する。
次に、加水分解触媒の存在下で、反応溶液を120℃に加熱し、水熱合成条件下で界面活性剤を含む構造体を形成する。
そして、構造体から界面活性剤を除去する。
具体的には、骨格部の原料になる物質、界面活性剤、及び配向制御剤を含む反応溶液に加水分解触媒を添加し、室温付近で攪拌した後、例えば数時間から数日間の範囲で、原料物質の縮重合反応を生じさせる。次に、溶液中にできた沈殿物を回収し、洗浄した後に乾燥させる。そして、前記沈殿物から界面活性剤を除去する。こうすると、骨格部を、その長手方向に交差する方向に貫通しているメソ孔を有する構造体が得られる。
前記骨格部の原料になる物質とは、ハロゲン化物、カルコゲン化物、あるいは金属アルコキシド等である。メソ孔の孔壁を酸化シリコンで形成する場合には、金属アルコキシドであるテトラエトキシシランやテトラメトキシシランが好適に用いられる。
界面活性剤としては、ポリエチレンオキシドを親水基として含むブロックコポリマーなどの非イオン性界面活性剤が好ましく用いられる。
配向制御剤としては、樹状骨格部の長手方向を横切るように界面活性剤を配向させることができる有機物であればよく、例えば、n−decane(C10H22)が挙げられる。本発明に用いられる配向制御剤の詳細な機構については、究明中であるが、界面活性剤の配向が骨格部の長手方向を横切る方向であった場合に、エントロピー的に安定な状態を生ぜしめているのかもしれない。反応時間を数時間〜数日程度、反応時の温度を120℃に設定することにより、粒子となる前にシリコン酸化物が積層したり、反応が進行中のシリコン酸化物粒子同士が結合することにより、樹状に成長するものと推測される。120℃の温度は、溶液を加熱する炉の雰囲気温度であるが、溶液は耐圧の容器の中にあり、実質的に溶液の温度も雰囲気の温度と同じになる。
得られた樹状の構造体は、溶液中に沈殿するので、遠心分離を用いて回収することができる。そして、自然乾燥などで回収物を乾燥させる。
回収した沈殿物からミセルを形成している界面活性剤を除去することで、多孔体を得ることができる。
なお、界面活性剤の除去方法は、細孔構造を破壊せずに界面活性剤を除去できる方法であれば特に限定されるものではない。例えば、溶剤により界面活性剤を溶かし出して除去する方法や、超臨界状態の流体を付与して孔内から界面活性剤を押し出す方法、更にはオゾンを用いて酸化除去する方法などがある。
より好ましくは、酸素を含んだ雰囲気中で構造体を焼成して界面活性剤を除去する方法が良い。この場合、構造体を空気中で、550℃において5時間焼成することによって、メソポーラス構造をほとんど破壊することなく、界面活性剤を除去することができる。
焼成温度と時間は、細孔壁又は骨格を形成する材料と使用する界面活性剤により、適宜選択される。
なお、上述の方法により得られる構造体に以下の工程を付加し、生体物質担持体を製造することもできる。
具体的には、生体物質を含んだ溶液中に、前記メソ孔を有する構造体を入れ、攪拌することによって多孔体の穴に生体物質を吸着させる方法である。また、生体物質を、前記メソ孔に導入し易くするために、メソ孔の細孔表面(孔壁面)に官能基(例えば、アミノ基、カルボン基)を導入してもよい。このように、生体物質がメソ孔へ入りやすくなるのは、孔壁表面に存在する官能基と生体物質との電気的相互作用によるものと考えられる。
例えば、シランカップリング剤で細孔表面を修飾する方法や酸化物を形成し得る金属を含有する金属塩の水溶液を用いて細孔表面を修飾する方法がある。なお、シランカップリング剤は、一般的にR−Si−X3の化学式で表される化合物で、分子中に2個以上の異なった官能基を持っている。上記Xは無機材料から成る多孔体表面と反応することができる部位である。例えば、Sol−Gel Science誌1989年第662頁には、メソポーラス材料が酸化シリコンである場合が記述されている。それは、細孔表面に存在するシラノール基の水素が有機ケイ素基によって置換され、Si−O−Si−R結合を形成し、細孔表面に有機物Rの層を形成する。Xとしては、クロル基、アルコキシ基、アセトキシ基、イソプロペノキシ基、アミノ基等である。勿論、細孔表面と反応し、Rの層を形成することができれば、Xが三官能基のものでなくても、二官能基や一官能基のカップリング剤を用いることもできる。Rは有機基であり、アミノ基やカルボン基、あるいはマレイミド基等である。
また、酸化物を形成し得る元素を含有する金属塩の水溶液を用いて細孔表面を修飾する場合は、当該酸化物層を形成し得る元素として、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、スズ等を用いることができる。例えば、メソポーラスシリカをオキシ硝酸ジルコニウムの水溶液で処理を行うことにより、表面にジルコニウムの酸化物層を形成することが可能である。
図5は、生体物質をメソ孔中に担持した構造体についての模式図である。
同図では、生体物質23がメソ孔の孔壁22に囲まれて担持されている様子が示されている。21は、図1における骨格部である。このような生体物質担持体をバイオセンサーとして用いる場合は、図5に拡大して示しているように、生体物質23と特異的結合性を持った物質24が反応する現象を利用する。
本発明者は、酵素反応や抗原抗体反応の反応場に適した構造体を検討しており、本発明に係る構造体は、このような反応場として好適であることを見いだしている。
本発明に用いられる生体物質としては、抗体、抗体フラグメント、DNA、タンパク質、酵素などである。また、生体物質には、シングルストランドのDNA、Fab抗体などの活性部位を含む断片なども含まれる。DNA断片は、動植物や微生物から抽出し、所望の形状に切断したものでも良く、また遺伝子工学的、化学的に合成したものでも良い。
物質24としては、抗原、抗体フラグメント、DNA、タンパク質、酵素などが挙げられる。例えば、生体物質23が抗体である場合には、生体物質と特異的な結合性を持つ物質24は抗原となる。
また、不図示ではあるが、メソ孔の孔壁22の内面と生体物質23とを連結するアンカーを設けることも好ましいものである。
このアンカーには、生体物質の大きな構造変化を抑制して安定に維持する効果がある。アンカーを構成する成分としては、メソ孔を有する構造体を構成する材料と同じ構成材料であることが好ましい。前記アンカーは、生体物質に結合する部位として、水酸基、アミド基、アミノ基、ピリジン基、ウレア基、ウレタン基、カルボン基、フェノール基を有することが好ましい。さらに、アゾ基、ヒドロキシル基、マレイミド基、シラン誘導体、アミノアルキレン基等の官能基を有している化合物であってもよい。
個々のメソ孔には1個または2個以上の生体物質を収容できる。したがって、このメソ孔は生体物質を固定化するのに適当な大きさが必要である。
メソ孔のサイズと、それに固定化する生体物質のサイズとが適合する場合、生体物質表面はメソ孔の孔壁に近接するため、生体物質はメソ孔の壁壁からのvan der waals力によりメソ孔内に吸着する。これにより、生体物質の立体構造がより一層保たれ、立体構造の変化による生体物質の失活がより一層抑制できる。なお、van der waals力による保持だけではなく、静電的結合、水素結合、イオン結合の非共有結合で活性ユニットをメソ孔内に保持することも可能である。
(本発明に係る構造体を用いた機能デバイス)
次に、本発明に係る構造体を用いた機能デバイスについて説明する。
上述しているように、メソ孔に生体物質を担持した構造体は、機能デバイスとしてのバイオセンサーに適用することができる。
要するに、本発明の一実施形態による、検体の検出方法について説明する。
まず、上述した構造体のメソ孔内に生体物質を担持させたセンサーを用意し、当該センサーに検体を含む流体(液体、気体)を付与する。すると、検体を含む流体は樹状の構造体の間隙やマクロ孔を通過しながら、メソ孔内に侵入し、メソ孔内に担持された生体物質と反応する。樹状の骨格部を有する構造体の間隙やマクロ孔は流体に対するコンダクタンスが大きいために、満遍なく樹状の骨格部を有する構造体全体に行き渡り、更には、そこに連通するメソ孔内に届くことになる。メソ孔の長手方向と骨格部の長手方向が平行であると、メソ孔が骨格部の側壁に対して開口している部分の存在密度が極めて低くなるために、検体がメソ孔内に侵入する確立が極めて低くなる。本発明は、メソ孔の長手方向と骨格の長手方向が交差することにより、構造体の多数のメソ孔内で発生する生体物質と検体との反応に基づいた出力信号を検出するので、感度が向上する。
検体の検出原理は、詳しくは、抗原と抗体間の抗原抗体反応や、シングルDNAとシングルDNA間等の特異的結合反応などを利用したものである。いずれも、電流、電圧、光量、質量、熱量等の物理量の変化を利用して、目的物質の検出を行う。検出する手段としては、酵素電極、過酸化水素電極、ISFET(Ion Sensitive Field Effect Transistor)、光ファイバ、サーミスタ、水晶振動子、表面プラズモン共鳴素子等が挙げられる。
本発明に係る構造体は、バイオセンサー以外の機能デバイスとして、吸着剤や分離剤のようなカラムとして用いることができる。この場合には、上述した本実施形態の構造体からなる粒子を多数用意して、これらを成型して多孔体を作製するとよい。
そして、この多孔体と電子伝達系素子とを組み合わせて電極を設ければ、上記物理量の変化を電気的出力信号として検出することができる。
以下、実施例を用いて、本発明について詳述する。
(実施例1)
本実施例では、メソ孔の孔壁材料がシリカである構造体について説明する。
まず、2.40gの非イオン界面活性剤であるトリブロックコポリマー(EO20PO70EO20;HO(CH2CH2O)20(CH2CH(CH3)O)70(CH2CH2O)20H)を76.5mlの純水に溶解した。さらに、7.5mlの36wt.%濃塩酸を添加し、室温で30分撹拌した。続いて、配向制御剤としてn−decaneを13.9g添加し、室温で2時間撹拌した。
さらに、この混合溶液に加水分解触媒としてNH4Fを0.027g、および5.10gのテトラエトキシシラン(TEOS)を添加したものを前駆体溶液とした。最終的な前駆体溶液の組成(モル比)は、TEOS:HCl:EO20PO70EO20:NH4F:n−decane=25:90:0.4:0.7:100となるようにした。
この前駆体溶液を40℃において、20時間撹拌し、120℃で48時間反応させた。得られた白色沈殿物は純水で十分に洗浄し、真空乾燥させた。
得られた粉末試料を、空気中550℃で焼成し、細孔内から界面活性剤を分解・除去し、中空の細孔とした。界面活性剤等の有機物の除去は、赤外吸収スペクトル測定法によって確認された。
合成されたメソポーラスシリカ粉末をX線回折法により評価した結果、図6のように面間隔11.7nmのヘキサゴナル構造の(100)面に帰属する回折ピークを始め、(110)、(200)、(210)面に帰属する回折ピークを確認した。この結果は、このメソポーラスシリカの細孔構造が、高い規則性を持ったヘキサゴナル配列を有していることを示している。
77Kにおける窒素吸脱着等温線測定を行った結果、吸着等温線形状はIUPAC分類におけるIV型となった。B.E.T.法によって算出された比表面積は700m2/gとなり、細孔容量は1.88ml/gとなった。また、この吸着等温線の結果から、BJH法により細孔径を算出すると、本実施例で合成したメソポーラスシリカの細孔径分布は、14.3nmに単一のピークを有する狭い分布となった。極大値を含む10nm以内の範囲内に90%以上のメソ孔が分布している孔径分布を有する構造体が得られた。
次に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察を行ったところ、図2のように無数の枝分かれしたロッド状の構造体(樹状の骨格部を有する構造体)が形成されていた。
この枝分かれしたロッド状の構造体の間隙(骨格部間の間隙)には、300〜500nmのマクロ孔、あるいはマクロ孔サイズの間隙が形成されていた。
さらに高倍率でSEM観察を行ったところ、図7のように樹状の構造体の長手方向を交差する方向に直径14nmのチューブ状のメソ孔が配向していた。図7において、11は樹状の骨格部により形成されているマクロ孔の孔径を示している。また、その断面図では図8のように、均一なチューブ状のメソ孔がハニカムパッキングした細孔構造を形成していた。尚、観察中に電子線によりメソ孔構造が破壊されることはなかった。
こうして、樹状の骨格部間に形成されたマクロ孔と、骨格部に形成されたメソ孔との2種類の径の異なる細孔を有する構造体(以下、階層的な構造体と称する場合がある。)を合成することができた。
(実施例2)
次に、実施例1において作製した構造体(メソポーラスシリカ)のメソ孔内に、酸化還元酵素の一種である西洋わさびペルオキシダーゼ(以下、HRPと略記する。平均直径=4.8nm、等電点(IEP)=7.2)を固定化させた。そして、有機溶媒に対する耐性と熱に対する耐性とを測定した。さらに、溶液の拡散性についても検討した。
(1)メソ孔内への酵素固定化について
5mMのリン酸緩衝液(pH=7.4)を用いてHRPを5mg/mlに調製し、この酵素溶液1ml中に、合成した前記メソポーラスシリカを10mg添加した。混合溶液は4℃、20時間の条件下でシェーカーを用いて攪拌し、HRPをメソポーラスシリカ細孔内に吸着させた。
反応終了後、4℃、10分、20000gで遠心分離を行い、HRP−メソポーラスシリカの沈殿物は純水で3回洗浄した。この際、元の酵素溶液と上澄み液のそれぞれをUV−Vis吸光度測定を行った。HRPの403nmにおける吸収極大を利用し、吸着前後の濃度変化からHRPのメソポーラスシリカへの吸着量を算出した。洗浄後の酵素固定化メソポーラスシリカは、10時間の凍結真空乾燥を行い、粉末試料を得た。吸着したHRPはメソポーラスシリカの1gの重量に対し、252mg/gと高い値を示した。また、リン酸緩衝液のpHを変化させることによって、HRPの吸着量が変化した。この結果から、HRPとメソポーラスシリカ細孔は、静電的相互作用によって固定化されているものと考えられる。
細孔の中にHRP分子が導入されていることは、HRP吸着後のメソポーラスシリカにおける窒素吸着測定により、その細孔への吸着量が減少したことで確認した。
(2)有機溶媒に対する耐性について
メソポーラスシリカに固定化されたHRPの有機溶媒中での酵素活性を評価するために、酸化剤にt−ブチルヒドロペルオキシドを用いた、トルエン中での1,2−ジアミノベンゼンの酸化反応を利用した。
無水トルエンに50mMの1,2−ジアミノベンゼンを含む溶液を8mlとn−decaneにt−ブチルヒドロペルオキシドを溶解して調製した1.1Mのt−ブチルヒドロペルオキシド溶液2mlを混合した。この混合溶液1mlにHRPを固定化したメソポーラスシリカ10mgを加え、37℃で反応を開始し、1,2−ジアミノベンゼンの酸化によって生成する1,2−ジニトロベンゼンの470nmでの吸光度を測定し、経時変化を求めた。そして、トルエン溶媒中でのHRPの酵素活性を決定した。
また比較試験としてHRPそのものを0.5mg調製し、上記の酸化反応を行い、同様に470nmでの吸光度の上昇を測定した。その結果を図9に示す。HRP(Free HRP)だけではトルエン中における酸化反応は全く起こらなかったが、HRPを固定化したメソポーラスシリカでは、非常に高い活性を示した。これは、トルエンにHRPを添加した直後にHRPが変性してしまったためであると考えられ、メソポーラスシリカにHRPを固定化することによって高い安定性を発現していることが分かった。
(3)熱に対する耐性について
HRPを固定化したメソポーラスシリカおよび固定化していない通常のHRPをリン酸緩衝溶液中、70度で0〜2時間熱処理した後に、残存の酵素活性を測定した結果を図10に示す。メソポーラスシリカ内に固定化されたHRPの熱安定性は、フェノールの酸化分解速度を測定することによって決定した。フェノールの定量は4−アミノアンチピリン比色法を用いた。
上記HRP吸着によって調製したHRP固定化メソポーラスシリカ10mgに、50mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH=4.0)400μlを加え、70℃で30、60、90、120分間それぞれ加熱した。加熱後遠心分離を行い、HRP固定化シリカを純水で2回洗浄した。次に50mM Tris−HCl(ヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩)緩衝液(pH=7.5)400μl、5000ppmフェノール水溶液 8μl、30%過酸化水素水2μlを加えて、37℃にて30分間反応させた。遠心分離後、上澄み液を150μlと、1Mのグリシン水溶液(pH=9.6)で調製した、1%ヘキサシアノ鉄酸塩と、1% 4−アミノアンチピリンをそれぞれ、150μl、300μl加え撹拌した。その後、すばやく500nm付近の吸光度を測定した。
固定化されていないHRPは、70℃、30分の熱処理により酵素活性が半減してしまい、2時間後には初期の酵素活性に対し約10%しか活性を示さなかった。これに対してHRPを固定化したメソポーラスシリカでは、熱に対する高い安定化効果が確認された。70℃、2時間の熱処理後も90%以上の酵素活性を有していた。
上記のフェノールの酸化反応を用いて、HRPの温度依存性を測定した結果を図11に示した。HRPおよび固定化HRPは、25℃から100℃で、それぞれ30分前処理した後、酵素活性を測定した。通常のHRPが70℃、30分の条件下において、残存活性が0%になったのに対して、階層的メソポーラスに固定化したHRPは同条件下でも50%以上の活性を示した。また、100℃で処理をしても0%になることはなく、40%近くの酵素活性を保持していた。
(4)溶液の拡散性について
次に、マクロ孔あるいは隣り合う骨格部間にマクロ孔サイズの空隙を持つことによる吸着物質の内部拡散の違いを検討する。具体的には、本発明によって調製された階層的なポーラス材料と、マクロ孔を持たない単分散性のメソポーラス材料を合成し、これらを円板状のペレットに成型し、HRPの吸着挙動を測定した。
上記合成方法によって合成された階層的ポーラスシリカと、マクロ孔を有していない単分散性のメソポーラスシリカの焼成粉末(非特許文献1の粒子)を各0.2gを計りとった。計り取ったものを錠剤成型用の加圧器を用いて、直径15mm、厚さ1mmの円板状のペレットに成型した。
5mMのリン酸緩衝液(pH=7.4)を用いてHRPを5mg/mlに調製し、このHRP溶液5ml中に各ペレット状メソポーラスシリカを加えた。混合溶液は4℃、48時間、シェーカーを用いてゆっくり振とうし、HRPを各メソポーラスシリカに吸着させ、HRP溶液の403nmにおける吸収波長の変動より、吸着量の経時変化を測定した。階層的なメソポーラスシリカは、吸着開始から約1時間で相対吸着量80%以上の吸着を示した。この吸着量の値は、成型前の焼成粉末の場合と比較しても、ほぼ同じ値であった。
しかし、樹状の骨格部を備えず、マクロ細孔を持たないメソポーラス材料は、ペレット状に成型することによって、吸着速度が大きく減少した。これは、本発明の階層的なメソポーラス材料が成型ペレット中においてもマクロ孔を形成しており、高い内部拡散速度を維持しているためであると本発明者らは考察している。一方、樹状の骨格部を備えていないメソポーラス材料は、それら材料同士が成型により密に詰まり過ぎたため、吸着速度が大きく減少したものと思われる。
比較例1(メソ孔への酵素固定化について)
比較例として、ロッド状粒子の長軸方向に平行にチューブ状細孔径が形成されているSBA−15を合成し、HRPの吸着及び有機溶媒中の安定効果を測定した。SBA−15の合成方法は、Science誌第279号第548頁に記載されている。
合成したSBA−15をX線回折法により評価した結果、面間隔9.8nmのヘキサゴナル構造の(100)面に帰属する回折ピークを確認した。また、窒素吸着等温線測定より、合成したSBA−15は800m2/gの比表面積と7.4nmの細孔径を有していた。
合成したSBA−15を実施例1と同様のHRP吸着実験を行った。HRPの吸着量は25mg/gとなり、本発明者らが合成した階層的なメソポーラスシリカに比べ、1/10以下の非常に少ない吸着量を示した。また、HRP吸着後の試料を用いた窒素吸着等温線解析から、HRPの吸着前後でSBA−15の細孔容量に減少が見られず、HRPがSBA−15細孔内にほとんど吸着していないことが分かった。
次に、各メソポーラスシリカへのHRPの経時吸着量を測定した結果、飽和吸着量に達する時間が、本発明によるマクロ孔を有した階層的なメソポーラスシリカにおいて非常に短かった。
比較例2(有機溶媒に耐性について)
続いて、このSBA−15を用いて上記方法によるHRPの有機溶媒安定性の測定を行い、本発明による階層的なメソポーラスシリカとの比較を行った。僅かにSBA−15に固定化されたHRPによる酵素活性が観察された。ところが、SBA−15固定化HRPにおいて、反応開始と共に徐々に反応生成物である1,2−ジニトロベンゼンが確認された。これに対して、階層的なメソポーラスシリカでは、反応開始直後からSBA−15に比べて10倍以上の1,2−ジニトロベンゼンが確認された。
したがって、SBA−15ではロッド状粒子の長軸方向に平行にチューブ状細孔径が形成されている。このためチューブ状細孔のアスペクト比が大きく、外部から細孔の内部、および細孔内部から外部へのHRPや基質の拡散が悪くなる。また、表面における細孔の開口部の数が少ないため、HRPや基質の導入が遅くなることが原因であると推察した。この結果から、本発明者らが合成した階層的なメソポーラスシリカが、マクロ孔等を持つことによってタンパク質や基質の内部拡散に優れ、生体物質等の担持体として優れている点が明らかになった。
(実施例3)
本実施例は、実施例1で作製した階層的なメソポーラスシリカ表面をジルコニウムの酸化物で修飾し、酸化還元酵素の一種であるグルコースオキシダーゼ(GODと略記、直径=8.0nm、IEP=4.6)を固定化させ、熱に対する安定性を測定した例である。
オキシ硝酸ジルコニウム2水和物10gを純水90mlに添加し、室温で溶解させ、10wt%のオキシ硝酸ジルコニウム水溶液を調製した。この溶液に実施例1で合成した階層的なメソポーラスシリカを添加して、20時間浸漬させた。その後、遠心分離により上澄みを取り除き、純水で3回洗浄し、室温で乾燥させた。
ジルコニウムで修飾した階層的なメソポーラスシリカをX線回折法により評価した結果、修飾前とほぼ同様の回折パターンを示し、メソ細孔の周期構造が壊れていないことを確認した。また、X線光電子分光分析(XPS)を用いてシリカ表面の化学結合状態を測定した結果、Zr−Oに起因するピークが確認され、シリカ表面にジルコニウムの酸化物層が形成されていることを確認した。
続いて、ジルコニウム修飾後の階層的なメソポーラスシリカの細孔内にGODを固定化し、フェノールの酸化分解反応を用いて、安定化効果を測定した。
5mMのリン酸緩衝液(pH=5.0)を用いてGODを5mg/mlに調製し、このGOD溶液1ml中に前記ジルコニウム修飾した階層的なメソポーラスシリカを10mg加えた。混合溶液は4℃、20時間の条件下でシェーカーを用いて撹拌し、GODをメソポーラスシリカ細孔内に固定化させた。吸着後、4℃、10分、20000gで遠心分離を行い、GOD固定化シリカを得た。GOD固定化前後の上澄み溶液における280nmの吸収極大を利用し、メソポーラスシリカへのGODの吸着量を算出した。GODは120mg/g以上の吸着量を示した。細孔の中に酵素分子が導入されていることは、窒素吸着測定装置により、その細孔への吸着量が減少したことで確認した。また、ジルコニウム修飾をしていないメソポーラスシリカでは、GDOはほとんど吸着しなかった。
上記GOD吸着によって調製したGOD固定化メソポーラスシリカおよびGOD固定化SBA−15の各10mgに、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH=4.0)400μlを加え、70℃で30、60、90、120分間それぞれ加熱した。加熱後遠心分離を行い、GOD固定化シリカを純水で2回洗浄した。次に50mM Tris−HCl緩衝液(pH=7.5)400μl、10% β−D−グルコース水溶液100μl、5000ppmフェノール水溶液 8μl、100μ/mlのHRP溶液100μlを加えて、37℃にて30分間反応させた。遠心分離後、実施例2と同様に500nm付近の吸光度を測定した。
固定化されていないGODは、70℃、30分の熱処理により相対活性が0%と失活した。これに対してメソポーラスシリカに固定化したGODでは、熱に対する高い安定化効果が確認され、70℃、120分の熱処理後も70%以上の酵素活性を有していた。
また、熱処理を行っていないGODを固定化した階層的なメソポーラスシリカを用いて、37℃におけるフェノール分解の経時変化を測定した。
上記GOD吸着によって調製したGOD固定化メソポーラスシリカ10mgに、50mM Tris−HCl緩衝液(pH=7.5)400μl、10% β−D−グルコース水溶液100μlを加えた。さらに、5000ppmフェノール水溶液8μl、100μ/mlのHRP溶液100μlを加えた。調整した溶液を37℃にて所定時間反応させた。遠心分離後、実施例2と同様に500nm付近の吸光度を測定した。この結果より、30分後のフェノール分解濃度に対する相対活性を算出した。階層的なメソポーラスシリカに固定化したGODは、5分間の反応において100%の相対活性を示した。
これらの結果から、マクロ孔を有する階層的なメソポーラスシリカは、そのマクロ孔による高い内部拡散を有していながら、メソ孔内に固定化した酵素は高い安定効果を発現していることが明らかとなった。
また、実施例1と同様にペレット状の階層的なメソポーラスシリカと、マクロ細孔を有していない単分散性のメソポーラスシリカを用いて、GODの吸着実験を行った。上記方法によるオキシ硝酸ジルコニウム水溶液に両方のペレットを含浸させジルコニム処理を行った後、GODの経時吸着挙動を測定した。実施例1と同様に、本発明によるペレット状の階層的なメソポーラスシリカは、成型前の粉末状の吸着挙動に比べ変化がなかった。しかし、マクロ細孔を有していない単分散性のメソポーラスシリカによるペレットでは、ほとんどGODが吸着しなかった。これは、ペレット状の単分散性メソポーラスシリカにおいては粒子同士が密に充填してしまうために内部拡散が遅く、メソ孔内にGODが充分に拡散できなかったためであると考察される。
(実施例4)
本実施例は、実施例1で合成した階層的なメソポーラスシリカの表面を、シランカップリング剤を用いて修飾し、α−アミラーゼを共有結合によってシリカ表面に固定化させた例である。
実施例1で合成した階層的なメソポーラスシリカ1.0gを、トルエンで調製した10%(v/v)の3−アミノプロピル トリエトキシシラン溶液の50ml中に添加し、この溶液を窒素雰囲気下において、120℃で48時間、撹拌した。反応後、沈殿物は濾過し、トルエン、メタノール、ジクロロメタンで洗浄した後、室温で乾燥させた。
次にこの乾燥試料の1.0gを、リン酸緩衝溶液(pH=6.6)で調製した2.5%グルタルアルデヒド溶液の25mlに溶解させ、室温で1時間撹拌した。得られた沈殿物は純水を用いて4回以上洗浄し、その後室温において乾燥した。
グルタルアルデヒドで修飾した階層的なメソポーラスシリカをX線回折法により評価した結果、修飾前とほぼ同様の回折パターンを示しており、メソ細孔構造が壊れていないことを確認した。また、FT−IRを用いてシリカ表面に導入した官能基の同定を行った結果、R−CH=N、C=O、−CHOに起因するピークがそれぞれ確認され、シリカ表面にSi(CH2)3N=CH(CH2)3CHOが共有結合していることを確認した。
続いて、修飾後の階層的なメソポーラスシリカの細孔内にα−アミラーゼを固定化し、澱粉のマルトースへの加水分解反応を用いて、安定化効果を測定した。
50mMのリン酸緩衝液(pH=6.0)を用いてα−アミラーゼを1mg/mlに調製し、この溶液1ml中に、上記方法で合成・修飾した階層的なメソポーラスシリカ0.2gを実施例1と同様にペレット状に成型したものを添加した。混合溶液は4℃、20時間の条件下でシェーカーを用いて含浸させ、α−アミラーゼをメソポーラスシリカ細孔内に吸着させた。反応終了後、ペレットを濾過して、純水で3回洗浄した。この際、元の酵素溶液と上澄み液のそれぞれを、UV−Vis吸光度測定を行った。α−アミラーゼの280nmにおける吸収極大を利用し、吸着前後の濃度変化からメソポーラスシリカへの吸着量を算出した。吸着したα−アミラーゼは140mg/gと高い値を示した。表面修飾を行わなかった粉末状階層的なメソポーラスシリカおよびペレット状に成型した単分散性メソポーラスシリカへの、同条件でのα−アミラーゼの吸着実験では、ほとんど吸着挙動を示さなかった。したがって、マクロ細孔による高い内部拡散により、α−アミラーゼがシリカ表面に修飾した−CHOおよびα−アミラーゼの−NH2と結合し、シリカ表面に固定化されたものと考えられる。
続いて、ペレット状のアミラーゼ固定化メソポーラスシリカおよび固定化していないアミラーゼを酢酸ナトリウム緩衝溶液中、25℃から70℃でそれぞれ熱処理した後、酵素活性を測定した。
上記アミラーゼ固定化メソポーラスシリカ10mgに、50mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH=5.0)400μlを加え、25℃から70℃で、それぞれ30分処理した。加熱後遠心分離を行い、アミラーゼ固定化シリカを純水で2回洗浄した。同様の50mM酢酸ナトリウム緩衝液を用いて、0.125%の可溶性澱粉を調製し、この澱粉溶液の300μlを洗浄後のアミラーゼ固定化シリカに添加し。40℃で15分反応させた。反応停止後、遠心分離により上澄みを得て、この上澄み溶液に1mlの0.5N酢酸及びヨウ素−カリウム溶液(0.015%ヨウ素−0.15%ヨウ化カリウム溶液)を3ml加え、よく撹拌してから700nmにおける吸収極大を測定した。通常のα−アミラーゼが60℃、30分の条件下において、相対活性が20%になったのに対して、階層的メソポーラスに固定化したα−アミラーゼでは、同条件下において90%以上の相対活性を示し、安定化効果が確認された。
(実施例5)
本実施例は、実施例1で作製した階層的なメソポーラスシリカのメソ細孔表面にシングルストランドのDNAを導入したものである。さらに、ハイブリダイゼーション反応を利用して、シングルDNA間の特異的反応を光学的に検出するバイオセンシング素子の一例であり、図12はバイオセンシング素子の構成の一例を示す図である。
ハイブリダイゼーションは、核酸のハイブリッド形成または核酸雑種分子形成のことをいい、核酸の1次構造、すなわち塩基配列の相同性を調べたり、相同の塩基配列をもつ核酸を検出したりする方法として用いられる。1本鎖にした核酸同士が、相補性をもつ塩基対間(A−T、G−C)で水素結合ができ、二重螺旋の2本鎖核酸を形成する性質を利用するものである。
実施例1で合成した階層的なメソポーラスシリカおよび比較例1で使用したSBA−15を10%の3−アミノプロピル トリエトキシシランの95%エタノ−ル水溶液に1時間浸し、遠心分離機を用いて未反応溶液を除去した。エタノール洗浄した後、窒素雰囲気下において120℃で1時間反応させ、メソポーラスシリカ細孔表面にアミノ基を導入した。
さらに、アミノ基が導入された階層的なメソポーラスシリカを1mMのGMBSジメチルスルホキシド溶液に2時間浸した後にジメチルスルホキシドで洗浄し、メソポーラスシリカ細孔表面にマレイミド基を導入した。シリカ表面に各官能基が導入されたことは、FT−IRによって確認された。
DNA自動合成機を用いてチオール基が導入されたDNAプローブを合成した後、高速液体クロマトグラフィでDNAプローブを精製した。
DNAプロ−ブ;HS−(CH2)6−O−PO2−O−5’−ataaaagtgcacacctta−3’
次に、合成・精製された濃度2μMのDNAプローブの10μlとHEPES緩衝溶液(N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N、−2−エタンスルホン酸;10mM、pH=6。5)40μlと添加剤(エチレングリコール)50μlとを混合し、反応溶液を調製した。この混合溶液を、マレイミド基を導入した階層的なメソポーラスシリカに添加し、室温で2時間放置することによってメソポーラスシリカ表面にシングルストランドのDNAを固定化した。
このDNAプローブ固定化メソポーラスシリカを図12のチップ基板上溝に充填し、その他の流路を図12のように設置することでバイオセンシング素子を作製した。この図において、101は基板であり、102は、本実施例により作製したDNAプローブを固定化した階層的なメソポーラスシリカである。103および104は溶液導入管であり、105はそれら溶液を導入した後の溶液排出管である。
DNA自動合成機を用いてDNAプローブと相補的な塩基配列を持ち、5’末端がテキサスレッドで蛍光標識されたDNAターゲットを合成した。次に、濃度0.1μMのDNAターゲット80μlと20×SSC(0.3M クエン酸ナトリウム、3.0M 塩化ナトリウム)17μlと10%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液3μlとを混合した。混合調整したハイブリダイゼーション溶液を図12の103の溶液導入菅から導入した。所定時間静止後、105の溶液排出菅から溶液を排出した。
所定時間のハイブリダイゼーション反応後、20×SSCの100倍希釈液を洗浄液として、104の洗浄液導入菅より注入し、洗浄した。次に、マイクロアレイ用スキャナーを用いてDNAプローブが固定化された部分の蛍光強度(ハイブリダイゼーションシグナル)とDNAプローブが固定化されていない試料の蛍光強度(バックグランドシグナル)を測定した。
DNAプローブ固定化SBA−15は、ハイブリダイゼーションシグナルが小さく、高い蛍光強度比(ハイブリダイゼーションシグナル/バックグランドシグナル)を達成できなかった。また、ハイブリダイゼーション反応による蛍光強度の経時変化を測定したところ、飽和強度に達するまでの時間も長かった。これに対して、DNAプローブを固定化した階層的なメソポーラスシリカは、非常に短時間でハイブリダイゼーション反応が完了しており、かつ優れた蛍光強度比を達成していた。これらの結果は、階層的なメソポーラスシリカメソ細孔内へのDNAプローブの高い吸着量が、蛍光のシグナルを増加させ、かつマクロ孔による優れた内部拡散が短時間でのハイブリダイゼーション反応の完了に繋がったと推察される。
以上の結果より、本実施例では、上記の生体物質を固定化した階層的なメソポーラスシリカを用いることで、高感度な検出が短時間で行えるバイオセンシング素子の作製が可能となることが確認された。
(実施例6)
実施例1で合成した階層的なメソポーラスシリカの細孔内に、マウスモノクローナル抗体(抗原はヒトの血清アルブミン)を固定化させ、抗原−抗体間の特異的結合反応を利用して、目的物質の検出・測定を行った例である。
実施例1で合成した階層的なメソポーラスシリカおよび比較例1で使用したSBA−15各10mgに、マウスモノクローナルFab型抗体を純水で1mg/mlに調製した溶液を10ml添加した。溶液を4℃で6時間撹拌することにより、メソポーラスシリカのメソ細孔内に抗体を固定化させた。その後、純水で3回洗浄した。上記の抗体固定化メソポーラスシリカに、西洋わさびペルオキシダーゼで標識したヒトの血清アルブミン(HRP−HSAと略記)溶液を添加し、室温にて所定時間(1〜4時間)反応させた。非特異吸着したHRP−HSAを除くために、この抗原−抗体固定化メソポーラスシリカを純水で数回洗浄した。その後、凍結真空乾燥を行い、この乾燥試料を37℃で任意の時間放置した。次に50mM Tris−HCl(pH=7.5)400μl、5000ppmフェノール水溶液8μl、30%過酸化水素水2μlを加えて、37℃にて30分間反応させた。遠心分離後、実施例2と同様に500nm付近の吸光度を測定し、固定化された抗体に特異的に結合したHSAに標識されたHRPの酵素活性を測定した。
また、前記階層的なメソポーラスシリカに対して、HRP−HSAの抗体ではない非特異的なマウスイムノグロブミン抗体(マウスIg)を上記の方法と同様にして固定化した。そして、前述のHSAに特異的な結合をする抗体と、非特異的な抗体とを用いた場合の両者の吸光度の差を上記手順により測定した。その結果、非特異的マウスIgは、本実施例によるマウスモノクローナルFab型抗体固定化メソポーラスシリカに比べ、HRP活性が明らかに小さかった。これらの結果より、メソポーラスシリカに抗体が固定化され、かつメソポーラスシリカへの抗体の固定化後も、細孔内において有効に抗原抗体反応が起きていることを確認した。
上記の抗体固定化メソポーラスシリカに、HRP−HSA溶液を添加し、室温で所定時間(1〜4時間)反応させることにより、抗原抗体反応の経時変化を測定した。その結果、実施例2、3、4で確認されたように、階層的なメソポーラスシリカを利用した場合においてのみ、高い抗原抗体反応速度を確認した。これは、非特異吸着により細孔外に吸着したHRP−HAS等の細孔内に固定化されていないHRP−HSAが、外部環境の影響により変性してしまい、安定化されなかったためであると考えられる。
また、上記で得た抗体固定化メソポーラスシリカと固定化していないマウスモノクローナル抗体粉末を乾燥状態において37℃で3週間保存し、抗原抗体反応によるHRP活性の経時変化を測定した。37℃で乾燥保存を開始する直前の両者の結合活性を100とした結果、固定化していないマウスモノクローナル抗体は1週間後には相対活性が0となり、完全に失活してしまった。一方、階層的なメソポーラスシリカに固定化したマウスモノクローナル抗体の抗原抗体反応は、3週間後においても90%以上の相対活性を示した。
(実施例7)
本実施例は、実施例1で合成した階層的メソポーラスシリカを電極上に合成し、さらにグルコースオキシダーゼ(GOD)およびメディエーターをメソ細孔内に固定化させ、グルコース濃度を測定した例である。電極としては、カーボン電極、白金電極を用いた。
2.40のトリブロックコポリマー(EO20PO70EO20;HO(CH2CH2O)20(CH2CH(CH3)O)70(CH2CH2O)20H)を76.5mlの純水に溶解し、さらに7.5mlの36wt。%濃塩酸を添加し、室温で30分撹拌した。続いて、n−decaneを13.9g添加し、室温で2時間撹拌した。さらに、この混合溶液に加水分解触媒としてNH4Fを0.027g、および5.10gのテトラエトキシシラン(TEOS)を添加したものを前駆溶液とした。最終的な前駆溶液の組成(モル比)は、TEOS:HCl:EO20PO70EO20:NH4F:n−decane=25:90:0.4:0.7:100となるようにした。
この前駆体溶液を40℃において、20時間撹拌し、120℃で48時間反応させた。得られた白色沈殿物は純水で十分に洗浄した。この白色沈殿物に適宜エタノールを加え、3000rpm〜6000rpmで遠心分離を行うことにより、ペースト状の階層的メソポーラスシリカを得た。得られた試料を、カーボン電極上に塗布し、室温中で乾燥、空気中で500℃焼成して、細孔内から界面活性剤を分解・除去し、カーボン電極上に階層的メソポーラスシリカを合成した。
電極上からサンプリングしたメソポーラスシリカ粉末をX線回折法により評価した結果、実施例1と同様にヘキサゴナル構造の(100)面に帰属される回折ピークを始め、(110)、(200)、(210)面に帰属される回折ピークを確認した。
5mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH=7.4)を用いてGODを5mg/mlに調製し、この酵素溶液10ml中に、合成した前記のメソポーラスシリカ−カーボン電極を浸漬した。4℃、20時間の条件下でシェーカーを用いてゆっくり攪拌し、GODを電極上のメソポーラスシリカ細孔内に吸着させた。電極上のGOD−メソポーラスシリカは純水で3回洗浄し、GOD固定化電極を得た。GOD固定化前後の上澄み溶液における280nmの吸収極大を利用し、カーボン電極のみへの吸着をバックグランドとして差し引いていて、メソポーラスシリカへのGODの吸着量を算出した。GODは230mg/g以上の吸着量を示した。乾燥後試料はさらに、メディエーター(電子伝達物質とも言う)をメソ細孔内に担持するために、50mLのMOPS緩衝液で調製した100mMのフェリシアン化カリウム溶液100mlに12h室温で静止させた。浸漬後、遠心分離および純水で洗浄し、室温で乾燥させることによって、グルコース測定用GOD電極を作成した。
図13に示した反応機構を利用して、グルコースの濃度を測定する。この機構を利用することにより、血液中の血糖値等を測定することが可能になる。具体的には、血液中のグルコースがセンサー部に来ると、グルコースとGODが反応するその反応したときに、グルコースは電子を放出しグルコン酸に変化する。グルコースから放出された電子は、フェリシアンイオン([Fe(III)(CN)6]3−)に補足される。電子を補足したフェリシアンイオン([Fe(III)(CN)6]3−)は、フェロシアンイオン([Fe(II)(CN)6]4−)に変化する。これらの反応が起こっているかどうかを作用電極で検出する。作用電極には、電圧が予め印加されており、フェロシアンイオン([Fe(II)(CN)6]4−)の電子を受け取る代わりに対極で、対極では水素イオン(H+)が電子を受け取り、酸素(O2)と共に水(H2O)を生じさせる。このときの電流値を測定することにより、グルコース量を求め、血糖値を判定することができる。
グルコース濃度の測定は以下のようにして行った。図14に示す恒温セルに50mMのMOPS緩衝液を入れ、一定温度に維持した。作用電極として前記合成したGOD固定化カーボン電極を用い、対極には白金電極を用いた。カーボン電極に一定の電圧を印加して、電流が定常になった後、グルコースを含む試料を加えて電流の増加を測定した結果、高い電流値が得られた。また、標準のグルコース溶液試料を用いて電流値を測定した結果、グルコース濃度に従って、電流値が直線的に上昇した。これにより、グルコース濃度を判別し、血糖値を測定することが可能なバイオセンサーを提供することができる。
(実施例8)
本実施例は、実施例1で合成した階層的メソポーラスシリカを電極上に合成し、さらにグルコースオキシダーゼ(GOD)およびメディエーターを固定化させ、グルコース濃度を測定した例である。
階層的メソポーラスシリカは、上述の実施例と同様のものを用いる。メディエータ−には、フェロセンカルボン酸を用いた。フェロセンカルボン酸とメソ孔の表面を共有結合で固定化させて、GODをメソ孔に担持した。
フェロセンカルボン酸の固定化は、まず、焼成してメソ孔を形成したメソポーラスシリカコーティング電極を、シランカップリング剤よってシリル化した。テフロン(登録商標)容器中に20mMの(3−iodopropyl) trimethoxysilane(IPTMS)を溶解したジクロロメタン溶液を用意し、電極を浸漬させ、窒素雰囲気下、室温で4時間撹拌した。調製後、ジクロロメタンとエタノールで洗浄し、80℃で乾燥した。
このようにヨードプロピルシリル化された電極は、0.13mMのフェロセンカルボン酸水溶液と0.17mMのN、N’−dicyclohexylcarbodiimide水溶液の混合溶液中に浸漬させ、Ar雰囲気下でゆっくり撹拌し、シリカ表面にフェロセンカルボン酸を固定化した。シリカ表面へのIPTMSの導入および、エステル結合によるフェロセンカルボン酸の固定化は、それぞれFT−IRで確認した。これにより、フェロセンカルボン酸を共有結合でシリカ表面に固定化した。
さらに、恒温セルにpH=7.4のPBSを入れ、上記調製のGOD固定化カーボン電極を浸漬させ、窒素バブリングを行いながら5分間撹拌した。参照電極としてAg/AgCl電極、カウンターには白金線を用いた。電極に100mVから600mVまで電圧を挿引して、酸化電流が定常になった後、電圧を下げていきCV曲線を得た。またscan rateは1 mV/sとした。測定は、グルコース濃度を変えて複数回行い、飽和電流値を測定した。この時の酸化還元電位のピークは、220mVとなった。これにより、メディエーターにフェロセンカルボン酸を用いても、バイオセンサーに応用できることが確認できた。同時に、フェロセンカルボン酸を浮遊させた状態で、酸化還元電位を測定したところ、220mVよりも大きくなった。
血中の物質が電極によって酸化・還元する時に示す酸化還元電位は、例えばアスコルビン酸では500−600mV、ヘモグロビンでは300−400mVである。そこで、ピーク電流を正確に測定するためには、これらの酸化還元電位のピークとはオーバーラップせず、より低電位にピークがあるメディエータ−を用いることが重要になる。
つまり、メソ孔にメディエータ−を共有結合を用いて固定化して用いることが浮遊させるよりも低電位にピークをシフトさせることができ好ましい。浮遊させたメディエータ−を用いた場合よりも、より低電位側にピークが確認できた理由は、マイナスの電場で支配されているシリカのメソ細孔内においてメディエーターが酸化されやすくなったためであり、またメディエーターが表面に固定化されているため電子のホッピングが起こり、効率的に電子を電極に運ぶことが可能になったためであると考えられる。これは、他の酵素でも同じことが言える。
以上説明したように、本発明によればメソ孔を有する新規な構造体が得られる。また、本発明に係るメソポーラス材料は、内部拡散に優れ、生体物質の固定化剤やカラム剤の高精度化などに利用することができる。