環境問題への関心が高まる昨今では、回転機械にもその潮流が押し寄せつつあり、オイルレス化や省エネルギー化が求められるようになってきた。しかしながら、オイルレス化は回転機械の振動を抑制する観点からは問題がある。すなわち、潤滑油よりも粘性が大幅に低いプロセス流体(取扱液)を潤滑剤として用いなければならないため、大きな負荷能力を可能とする油潤滑の滑り軸受や高い減衰作用を期待できるスクイズフィルムダンパなどが回転機械に適用できなくなり、回転体の振動特性の悪化が懸念される。
このような観点を考慮して、プロセス流体潤滑軸受が開発されてきている。この種の軸受の主たる形式は、回転速度が低い領域では固体潤滑剤などで表面処理された軸受摺動面の固体潤滑作用により回転体を支持し、回転速度が高くなると動圧が増してその結果生じる液膜の動的作用で回転体を支持するタイプである。軸受上流と下流との間の圧力差が大きければ軸受の動的な性能が高くなり、回転体に作用する弾性力や減衰力が増大し、回転体の安定性が改善される。しかし、この種の軸受の性能は、上記圧力差や回転体の回転速度などの運転パラメータに大きく依存する。このため、回転体の回転速度が高くなると、軸受の動的な性能の源となる周方向の圧力分布が回転運動に対して遅れ、結果として、クロスカップル力と呼ばれる減衰力と逆の作用をなす動的な力が回転体に作用することになる。そして、回転体の回転周波数よりも低い周波数帯域に回転体の固有振動数が存在すると、自励振動を発生させる一因となりうる。
また、最近では、省エネルギー化のニーズから回転体の回転速度を大きく変えることができる可変速回転機械が増えている。このような回転機械には、大きく変化する運転条件下においても安定した運転を確保することが必要とされる。このため、動的な安定性を確保しなければならない回転速度領域が増すことになり、それに伴って軸受の制振能力も大きくする必要がある。また、軸受荷重の変動幅が大きくなるため、軸受の負荷能力も増大させる必要がある。このような背景から、軸受性能の安定性を向上させるために、摺動面に円形やハニカム形状などの孔を有する軸受やシール機能を有するダンパーが開発されている。
しかしながら、シール機能を有するダンパーや自液潤滑軸受は、その幾何形状が設計段階で一義的に決まるため、負荷性能や動的な性能が固定されてしまう。このため、回転機械の性能制約につながり、各回転機械の仕様に応じた個別的な設計が必要となる。また、可変速回転機械では、回転速度変化に伴う軸受に対する動的な荷重の変動が大きいため、軸受の負荷性能の不足に起因して回転体が大きく偏心運動する場合がある。このため、回転体が軸受の摺動面に接触してしまい、また、この接触に伴って発生する自励振動の一種であるフリクションフォワールという問題が起こる可能性がある。さらに、支持剛性の不足から回転体の固有振動数が低下し、共振や自励振動(ハイドロフォワール)といった振動トラブルが発生する。このように、回転体の振幅が過大となると回転機械の性能を低下させ、運転条件が大きく制約される場合がある。したがって、回転体の安定性向上のために、上記軸受の動的な性能を改善する技術や制御する技術が渇望されている。
それに対して、磁気軸受の場合、磁極、コイル、及び制御回路を回転機械の仕様に応じて設計することにより、定常運転時の回転周波数範囲内での回転体の安定性を確保することができ、不釣合い力や流体加振力といった外乱に対するロバスト性を確保することができる。また、軸受力に相当する制御ゲインの制御限界周波数が最高速度運転時の回転周波数を下回った場合でも、減衰力に相当する位相進みを補償して充分な制御性が確保できれば、回転機械を安定に運転することができる。
しかしながら、前述したように、磁気軸受は、電磁石の大きさに起因するインダクタンスの影響により高い周波数帯域で制御ゲインが急激に低下するという問題がある。また、制御回路にPID制御を取り入れている場合には、位相進みを補償するために微分動作を強化すると、高周波数帯域のゲインが上昇し、外乱に対して高次の固有振動数が励起されやすくなるという問題点がある。そして、位相進みでは補償できない高周波数帯域に位置する高次の固有振動数が外乱等で励起された場合には、バンドエリミネーションフィルター(BEF)などを制御回路に組み入れて対処することが必要となる。しかしながら、制御回路が複雑化するという問題と、運転条件に応じて制御対象が変わりやすい回転機械では、バンドエリミネーションフィルターのみでは対処しきれなく、適応制御などの高度な制御技術が要求される場合もある。
また、磁気軸受の配置の問題も生じる。すなわち、回転機械の構造によっては、磁気軸受の耐熱性や磁気軸受自体の大きさなどの理由から最適な位置に磁気軸受を配置できるとは限らず、振動の節に磁気軸受が位置した場合には制御が不可能となる。このような問題から、磁気軸受を含む回転機械の設計から納入までに消費される労力は莫大なものになる。また、回転機械の仕様によっては、単一の製作工程では製作することが困難となりうるため、製造コストを削減することが困難である。
以上の観点から、低回転周波数から高回転周波数までの帯域において安定した弾性力と減衰力を得ることができ、シンプルな制御ロジックで成立する軸受が望まれる。つまり、負荷性能を制御でき、広い回転周波数帯域において安定して回転体の振動を抑制できる軸受が望まれている。さらには、構造が簡素かつ安価で、回転機械のオイルレス化や省エネルギー化に対応した軸受の開発が渇望されている。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、簡素な構成を有し、回転機械のオイルレス化及び省エネルギー化に対応でき、さらには、広い回転周波数帯域において回転体の振動を抑制することができる流体軸受を提供することを目的とする。
上述した目的を達成するために、本発明の一態様は、回転体を非接触に支持する流体軸受であって、前記回転体の半径方向外側に支持部材を設け、前記回転体と前記支持部材との間に、半径方向の隙間が狭い複数の第1の領域と、該複数の第1の領域の間に配置され前記第1の領域よりも広い隙間を有する第2の領域とを形成し、前記第2の領域内の流体の圧力を可変とする圧力可変手段を設け、前記圧力可変手段は、軸方向に移動可能な可動部材であり、該可動部材は前記第2の領域の軸方向の幅を変化させることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記可動部材は半径方向に移動可能に構成されていることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記複数の第1の領域のうちの少なくとも1つは、前記可動部材の内周面と前記回転体との間に形成されることを特徴とする。
電気的な制御のみに頼った磁気軸受では、上述した問題点が発生するが、流体的な制御を取り入れることでこれらの問題点を解決することが可能である。狭い隙間を流れる流体は、回転周波数の1/2以下の周波数帯域を除いた総ての周波数帯域で減衰力を回転体に与えることができる。この減衰力が作用する周波数帯域では、羽根車などの他の機械要素において発生する回転体を不安定化させる外力を打ち消す程度の大きさの減衰力があれば、回転体の固有振動数が上記周波数帯域に存在しても問題が起きることはまれである。例外として、軸受と回転体との間の極端なミスアライメントや、軸受と回転体との隙間内での局所的な急激な温度上昇、ラビング(接触)などの発生がある場合には、減衰効果が低下してしまうため、振動問題を誘起する可能性がある。
もう一つの問題点は、半径方向に作用する流体反力に関するものである。すなわち、回転体との隙間が狭く幅の大きい動圧軸受において、狭い隙間を流れる流体には、軸振動の周波数の二乗に比例する慣性力が付与されるため、この慣性力は高い周波数帯域で振動的な作用をする。この作用は隙間が狭くなるほど強くなるので、弾性力や減衰力を強めようとして、隙間を狭く設計すると、回転体の固有振動数の低下に起因する振動トラブルを発生させてしまうことがある。
この問題を解決するために、本発明は、動圧軸受の動的な特性を利用する。具体的には、軸受の幅に対する軸受の直径の比(以下、L/Dという)に対する弾性力の特性曲線が極大値を有する点を利用する。弾性力以外の力は、理想的な条件下では軸受の幅を長くすると単調増加する。このことは、軸受の直径や回転側と固定側との隙間を一定とした場合に、軸受の幅を制御することで弾性力と慣性力とのバランスを制御できることを意味する。また、狭い隙間の第1の領域の中間に隙間の広い第2の領域を設けることで隙間内の圧力分布が変化し、弾性力を増大させ、同時に慣性力を大幅に低減できる。
以下に具体例を示す。弾性力が極大値になるように軸受の幅を制御すると、L/Dが小さくなるので、慣性力や減衰力は小さくなる。従って、固有振動数は上昇し、減衰効果は低下する。逆に、L/Dを弾性力が極大値となる値より大きくなるように軸受の幅を長くすると、慣性力や減衰力が大きくなり、弾性力が小さくなる。従って、固有振動数は低下して減衰効果は増大する。この原理は、回転機械の運転状況の変化により共振点が変化することに伴って発生する共振の回避に利用できる。
ここで、軸受の負荷能力の制御について説明する。一般に、軸受の幅を長くすると負荷能力が増す。従って、軸受の偏心率が大きくなって(例えば90%を超えて)負荷能力が不足する場合には、軸受の偏心率を監視して所定の偏心率に収まるように軸受の幅を変化させる。これによって軸受の負荷能力を増加させることができる。ここで、軸受の偏心率は回転体の偏心量を軸受隙間の大きさで除して得られる。
本発明の好ましい態様は、前記回転体の外周面に半径方向に突出する円板部を設け、前記円板部を収容する凹部を前記支持部材の内周面に形成し、前記凹部の一部を前記可動部材により構成したことを特徴とする。
回転機械の一例であるポンプにおいては、羽根車の回転に伴って流体の圧力分布が軸方向において不平衡となるため、軸方向の荷重を受けるための軸受が必要とされる。このような軸方向の荷重を受けるために、本発明では、回転体の外周面に半径方向に突出する円板部を設け、この円板部を収容する凹部を支持部材の内周面に形成し、凹部の一部を可動部材により構成する。そして、可動部材を軸方向に移動させることにより、回転体に生じる軸方向の荷重と、凹部と円板部との間に形成される軸方向隙間内の圧力分布に起因して発生する力とが平衡になるようにする。また、回転体の円板部と凹部の一部を構成する可動部材との間の軸方向隙間を変化させることで、円板部の表面における周方向圧力分布が変化する。その結果として、円板部の上流側にある狭い隙間の第1の領域の圧力分布を変化させることができ、半径方向に作用する動圧を制御できる。また、同時に、回転体に軸方向に作用する動的な力に起因した軸振動を抑制することもできる。このようにして、軸受の動的な力の高度な制御が可能となる。
本発明の好ましい態様は、前記可動部材を周期的に軸方向に振動させ、前記第2の領域内に圧力交番を発生させる加振手段を設けたことを特徴とする。
本発明によれば、第2の領域内に圧力交番が発生することにより、回転体の半径方向に作用する変動圧力が発生する。この圧力を制御することにより、回転体から発生する振動を抑制する効果や回転体の動的な特性を調べるための加振機能を当該軸受にもたせることが可能となる。
本発明の好ましい態様は、高圧流体を前記第2の領域に供給する高圧流体供給源を設け、前記可動部材が前記第2の領域の幅を広げる方向に移動して所定の位置に到達すると、前記高圧流体供給源から前記第2の領域に高圧流体が供給されることを特徴とする。
本発明によれば、第2の領域に高圧流体を押し込むことによって、回転体と支持部材との隙間全体の圧力分布が変化し、大きな静圧を回転体に対して作用させることができる。例えば、回転機械の起動時において動圧が小さい場合や、キャビテーションの発生により隙間を流れる流体(液体)が気液2相の状態である場合には、通常の動圧軸受では液膜による十分な動圧を発生させることができない。このような場合には、第2の領域に高圧流体を供給することによって負荷能力を増加させることができ、軸受の動的な性能を向上させることができる。
本発明の好ましい態様は、前記可動部材が前記第2の領域の幅を狭める方向に移動して所定の位置に到達すると、前記高圧流体供給源からの前記第2の領域への高圧流体の供給が停止することを特徴とする。
高圧流体供給源から高圧流体が第2の領域に供給されている場合には、軸受のポケット(レセス)に相当する第2の領域における静圧効果による負荷能力が高い反面、減衰能力が低い。これは、静圧軸受の原理に基づく理由による。それに対して、高圧流体供給源を停止し、可動部材を移動させて第2の領域を狭めた(或いはなくした)場合には、第1の領域の端部に最も高い流体圧力を持つ動圧軸受の流れ状態になる。この場合には、静圧軸受と比較して減衰能力が高い。したがって、軸受での動圧が立ちにくい回転機械の起動時には、高圧流体を高圧流体供給源から第2の領域に供給することで静圧軸受として機能させ、動圧が立ち始めた時点で動圧軸受に切り替える。このような構成を備えた本発明に係る流体軸受は、基本的に固体潤滑を必要としないため、支持部材と回転体との接触に伴う磨耗や動力損失などが緩和される。
本発明の好ましい態様は、高圧流体を供給する高圧流体供給源と、前記可動部材の内周面と前記回転体との間に形成された前記第1の領域を前記高圧流体供給源に連通させる第1の流体配管と、前記第2の領域を前記高圧流体供給源に連通させる第2の流体配管と、前記高圧流体供給源からの高圧流体を前記第1の流体配管および前記第2の流体配管のいずれか一方に導く流路切換弁とを更に備え、前記流路切換弁を操作することにより、前記可動部材の内周面と前記回転体との間に形成された前記第1の領域を流れる高圧流体の流れ方向を切り替えることを特徴とする。
本発明によれば、流体軸受の隙間内における高圧流体の流れる方向を切り替えることにより、隙間内の軸方向の圧力分布を変えることができる。この圧力分布を変える作用と可動部材の位置制御との相乗効果により、流体膜から回転体に作用する動的な軸受能力をより幅広く制御することができる。
本発明の好ましい態様は、所定の状態量を検出する状態量検出手段と、状態量の基準となる信号を出力する参照信号発生器と、前記状態量検出手段及び前記参照信号発生器の出力信号を比較して前記回転体の状態を判断する状態判断手段とを更に備え、前記状態判断手段は前記回転体の状態が異常と判断したときは、前記状態判断手段から出力された信号に基づいて前記圧力可変手段を介して前記第2の領域内の流体の圧力を変化させることを特徴とする。
回転体が最高回転速度に到達する前に回転体が共振する場合、すなわち、危険速度を越える場合には、危険速度通過時に減衰力を回転体に与える必要がある。このため、第1の領域の幅を長くし、かつ、第2の領域の幅を短く、またはなくすようにような操作を行う。危険速度を越えたと判断された場合には、第1の領域の幅を短く、かつ、第2の領域の幅を長くするように操作する。これにより、危険速度を通過するときの過大な振動の発生を防止することができる。
危険速度を越えた回転周波数で回転体が回転しているときは、回転体の固有振動数を引き上げておく必要があるため、定常運転時には軸受全体の幅を最も短くすることが好ましい。また、本発明によれば、回転体に作用する減衰力を調整することが可能であるので、万一自励振動が発生した場合でもこれを抑制することが可能となる。
本発明の他の態様は、回転体を非接触に支持する流体軸受であって、前記回転体の半径方向外側に支持部材を設け、前記回転体の外周面に半径方向に突出する円板部を設け、前記円板部を収容する凹部を前記支持部材の内周面に形成し、前記回転体と前記支持部材との間に、半径方向の隙間が狭い第1の領域と、前記第1の領域よりも広い隙間を有する第2の領域とを形成し、前記凹部の一部を構成する軸方向に移動可能な可動部材を設け、前記可動部材と前記円板部との軸方向の隙間を可変としたことを特徴とする。
本発明によれば、潤滑油を用いることなく、潤滑用流体としてプロセス流体自体を用いることができて、その流体が水などの粘性を低い流体である場合においても、良好な軸受能力を得ることができる。そして、動的な軸受能力が向上するので、回転機械の可変速運転が容易になり、危険速度を安全に通過することが可能となり、また、回転機械の振動に対する信頼性も向上できる。従って、高い動圧を発生させるために油を用いる必要がなく、また、油を軸受に供給する装置などを不要とすることができ、オイルレス化や製作コストの削減が実現できる。また、回転体が高速で回転するほど、軸受能力が強まるので高速回転が実現できる。すなわち、多段ポンプに本発明を適用した場合には、羽根車一段あたりのエネルギー密度が上げられる。従って、羽根車の段数を減らすことができるので、回転軸の長さを短くすることができ、省スペース化が実現できる。そして、軸受能力が向上するので、回転機械の振動に対する信頼性が更に増す。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明の第1の実施形態に係る流体軸受を備える遠心ポンプ示す断面図である。図2は図1に示す流体軸受の断面図である。図3(a)乃至図3(c)は図2に示す可動部材を移動させた状態を示す断面図である。なお、本実施形態では、本発明に係る流体軸受を遠心ポンプに用いた例を示しているが、これに限らず他の回転機械にも本発明の流体軸受を用いることができる。
図1に示すように、羽根車10は回転軸11に固定され、ケーシング12内に収容されている。回転軸11にはモータ30が連結されており、モータ30により回転軸11を介して羽根車10が回転駆動される。ケーシング12には吸込口12a及び吐出口12bが形成されており、羽根車10が回転することにより流体(液体)が吸込口12aからケーシング12内に吸い込まれ、羽根車10によって昇圧された後、吐出口12bから吐出されるようになっている。羽根車10の下流側には軸スリーブ13が配置され、この軸スリーブ13は回転軸11の外周面に固定されている。なお、本実施形態では、回転軸11、羽根車10、及び軸スリーブ13により回転体15が構成される。
羽根車10の下流側には、軸スリーブ13と所定の隙間を介して流体軸受20が設けられている。流体軸受20は、ケーシング12に固定される固定部材(ブラケット)21と、固定部材21の内周面に配置される円筒状の可動部材(圧力可変手段)22とを備えている。なお、支持部材は固定部材21と可動部材22とから構成される。可動部材22は軸方向に移動可能に構成されている。流体軸受20の下流側には、円筒状のカバー部材16が配置されており、このカバー部材16の外周面には、可動部材22の下流側の端部を収容するハウジング17が設けられている。すなわち、可動部材22の下流側の端部は、カバー部材16の周壁とハウジング17の周壁との間に形成された空間に収容されている。
カバー部材16の周壁とハウジング17の周壁との間に形成された空間は、可動部材22の下流側の端部によって上流側に位置する第1の空間23と下流側に位置する第2の空間24とに区画されている。第1の空間23及び第2の空間24には、高圧流体供給源25から流体配管40を介して流体が供給されるようになっている。流体配管40には三方弁などのサーボバルブ50が設けられており、このサーボバルブ50を操作することにより、第1の空間23または第2の空間24のいずれかに流体が供給される。このような構成により、第1の空間23に流体が供給されると可動部材22が下流側(第2の領域2を広げる方向)に移動し、第2の空間24に流体が供給されると可動部材22が上流側(第2の領域2を狭める方向)に移動する。また、第1の空間23に流体を供給することで反羽根車側に可動部材22が移動し、第2の空間24内の圧力を可動部材22の羽根車側端部の流体圧力と平衡状態になるように制御することで、可動部材22の移動を停止させることができる。すなわち、第1の空間23と第2の空間24内の圧力を制御することで、可動部材22の軸方向の位置を決定することができる。
回転する羽根車10によって昇圧された流体の一部は、流体軸受20と軸スリーブ13との隙間に導かれ、カバー部材16の内部に流れ込む。カバー部材16にはドレインパイプ26が設けられており、カバー部材16の内部に流入した流体は、ドレインパイプ26を介してポンプの吸込み側に移送されるようになっている。なお、可動部材22の外周面とハウジング17の周壁との間には、可動部材22の動きをガイドするリング状のガイド部材27が設けられている。
図2に示すように、固定部材21の内周面には周方向に沿って延びる段差部21aが形成されており、固定部材21の内周面には、第1の内周面21bと、この第1の内周面21bよりも径の大きい第2の内周面21cとが形成されている。上述した可動部材22は第2の内周面21cの半径方向内側に配置されている。なお、可動部材22の外周面と第2の内周面21cの間にはOリングなどのシール部材28が設けられている。また、可動部材22の下流側の端部とカバー部材16の周壁との間、及び可動部材22の下流側の端部とハウジング17の周壁との間にも、Oリングなどのシール部材28が設けられている。
第1の内周面21bと回転体15との間には第1の領域1が形成され、可動部材22の内周面と回転体15との間には第1の領域3が形成され、第2の内周面21cと回転体15との間には第2の領域2が形成されている。すなわち、支持部材(固定部材21および可動部材22)と回転体15との間には、半径方向の隙間が狭い第1の領域1,3と、第1の領域1,3よりも隙間の広い第2の領域2とが形成され、第2の領域2は、第1の領域1,3の間に位置している。
次に、流体軸受20の機能について図3(a)乃至図3(c)を参照して説明する。なお、図3(a)乃至図3(c)に示すグラフは、流体軸受と回転体との隙間における軸方向の圧力分布を示すものであり、縦軸は圧力値(P)を表し、横軸は軸方向の位置を表している。
まず、可動部材22の端部を段差部21aに当接させ、第1の領域1,3が互いに接している状態にする。この時、第2の領域2は形成されない。次に、図3(a)乃至図3(c)に示すように、可動部材22を軸方向に移動させると、広い隙間を有する第2の領域2の幅(軸方向の長さ)が広がると同時に第1の領域3の幅が狭まるため、第2の領域2が形成されないときの状態に比べて隙間全体の圧力バランスが変化する。すなわち、狭い隙間を有する第1の領域1内での圧力損失が大きくなり、狭い隙間を有する第1の領域3内での圧力損失が小さくなる。つまり、第1の領域1,3での圧力損失が変化すると同時に、第2の領域2内の静圧が変化する。流体軸受20と回転体15との間に形成される隙間の圧力分布の変化は、回転体15の振動により発生する動的な流体圧力も変化することを意味している。従って、この圧力分布の変化が動的な力を制御する源となり、回転体15の振動を制御することが可能となる。
なお、可動部材22を移動させる機構として、電気的な方法によるアクチュエータやリニアモータ、ボールねじのような機構を採用してもよい。また、本実施形態のように圧力の異なる流体を利用することで可動部材22の位置決めをすることができる。
次に、本発明の第2の実施形態について図4(a)乃至図4(d)を参照して説明する。図4(a)は本発明の第2の実施形態に係る流体軸受を示す断面図であり、図4(b)及び図4(c)は可動部材が半径方向に移動した状態を示す断面図である。図4(d)は図4(b)のIV−IV線断面図である。図4(b)及び図4(c)に示すグラフは支持部材と回転体との隙間における周方向の圧力分布を示すものであり、縦軸は圧力値(P)を表し、横軸は周方向の角度(θ)を表す(図4(d)参照)。なお、特に説明しない構成及び作用については第1の実施形態と同様であるので、重複する説明を省略する。
本実施形態では、可動部材22は軸方向及び半径方向に移動可能に構成されている。従って、第1の領域1での偏心率と第1の領域3での偏心率とが互いに異なるように設定できる。例えば、図4(a)に示すように、最初に、第1の領域1での偏心率と第1の領域3での偏心率とが同一であったとする。図1に示す遠心ポンプのような横軸型の回転機械の場合には、通常回転体15から軸受に作用する荷重と液膜の反力とが釣り合う位置で回転体15が支持される。
図4(b)に示すように、可動部材22を反荷重方向(上方)に移動させると、第1の領域3での偏心率が大きくなり、第1の領域3での負荷能力(軸受力)が大きくなるので、回転体15は反荷重方向に上昇して釣り合う。逆に、図4(c)に示すように、可動部材22を荷重方向(下方)に移動させると、第1の領域3での偏心率が小さくなり、第1の領域3の負荷能力が小さくなるので、回転体15は荷重方向に下降して釣り合う。
回転体の偏心率を変化させるような可動部材22の動作により、遠心ポンプを構成している羽根車10の動翼と静翼との間の隙間に対する半径方向位置を制御することができる。その結果、ポンプ効率を向上することができ、また、羽根車10の動翼と静翼との干渉により発生する流体加振力の低減を実現することができる。また、偏心率が大きくなると、動的な力の異方性(偏心率が大きくなる方向では大きな力が、偏心率が小さくなる方向では小さな力が回転体に働く性質)が生じるので、動的な力を制御することが可能である。
次に、本発明の第3の実施形態について図5及び図6を参照して説明する。
図5(a)及び図5(b)は本発明の第3の実施形態に係る流体軸受の第1例を示す断面図である。図6(a)及び図6(b)は本発明の第3の実施形態に係る流体軸受の第2例を示す断面図である。なお、特に説明しない構成及び作用については第1の実施形態と同様であるので、重複する説明を省略する。
図5(a)及び図5(b)に示すように、回転体15(軸スリーブ13)の外周面には半径方向外側に突出する円板部31が設けられている。この円板部31を収容するように、固定部材21には周方向に沿って凹部32が形成されている。可動部材22は軸方向に移動可能に構成されている。凹部32の一部、すなわち、凹部32の下流側の周壁は可動部材22の上流側の端部によって構成されている。固定部材21と回転体15との間、及び可動部材22と回転体15との間には、隙間の狭い第1の領域1,3がそれぞれ形成され、円板部31の外周面と固定部材21との間には、隙間の広い第2の領域2が形成される。
本実施形態では、可動部材22を軸方向に移動させることによって、円板部31と可動部材22の端部との間の隙間を変化させることができる。すなわち、図5(a)に示すように、円板部31と可動部材22の端部との間の隙間が小さい場合は、円板部31の周方向の圧力損失が大きくなり、同時に第1の領域1,3間の差圧が低下する。従って、半径方向に作用する反力(動圧)が小さくなるが、軸方向の制振性が向上する。
図6(a)及び図6(b)に示す第2例のように、可動部材22と回転体15との間に狭い隙間の領域を設けずに、円板部31と可動部材22との間の軸方向隙間のみを変化させるようにしてもよい。第2例では、可動部材22の上流側の端部には、半径方向内側に突出する円板状の壁部22aが形成されており、この壁部22aによって凹部32の一部、すなわち、凹部32の下流側の周壁が構成されている。回転体15と固定部材21との間には隙間の狭い第1の領域1が形成され、円板部31の外周面と固定部材21との間には、隙間の広い第2の領域2が形成される。この可動部材22の移動により、円板部31の表面の周方向の圧力分布が変化し、結果として第1の領域1内の圧力分布が変化し、半径方向に作用する反力を制御することが出来る。
次に、本発明の第3の実施形態について図7を参照して説明する。
図7(a)は本発明の第3の実施形態に係る流体軸受を示す断面図である。図7(b)乃至図7(d)は、軸方向の圧力分布を示すグラフである。なお、特に説明しない構成及び作用については第1の実施形態と同様であるので、重複する説明を省略する。
図7(a)に示すように、固定部材21には、第2の領域2で開口する流体通路33が形成されている。この流体通路33は、流体配管41及びサーボバルブ(三方弁など)51を介して高圧流体供給源(例えばポンプ)25に接続されている。サーボバルブ51には流体逃し配管34が接続されており、サーボバルブ51を操作することにより、高圧流体供給源25からの流体または流体通路33から流れ込む流体を流体逃し配管34から排出させることができる。高圧流体供給源25は駆動源としてのモータ30によって駆動され、モータ30の回転速度はインバータ35を介してコンピュータ36により制御が可能である。
高圧流体供給源25を駆動させると、第2の領域2に高圧流体が供給され、第2の領域2内の圧力が増加する。この場合、流体軸受20を静圧軸受として機能させることができる。すなわち、可動部材22を軸方向に移動させて第2の領域2の幅を広げ、さらに高圧流体供給源25を駆動させて高圧流体を流体通路33から第2の領域2に供給した場合には、第2の領域2内の静圧値が第1の領域1,3の静圧値と比較して高くなるため、図7(b)に示す圧力分布となり、静圧軸受として機能する。一方、高圧流体供給源25を停止させ、或いはサーボバルブ51を操作して流体逃し配管34と高圧流体供給源25とを連通させることにより、第2の領域2への高圧流体の供給が停止される。この場合には、流体軸受20を動圧軸受として機能させることができる。すなわち、第2の領域2の幅を広げた状態で高圧流体供給源25を停止させると共にサーボバルブ51を閉じた場合には、図7(c)に示すような圧力分布となり、動圧軸受として機能する。そして、サーボバルブ51を介して流体逃し配管34と第2の領域2とを連通させると、第1の領域1内の静圧値の勾配が大きくなり、図7(d)に示すような圧力分布になる。このように、サーボバルブ51や高圧流体供給源25を操作することにより流体軸受の負荷能力や動的軸受作用を制御することができる。
さらに、高圧流体供給源25を作動させた状態で可動部材22を移動させて第2の領域2の幅を広くすると、第2の領域2での静圧が作用する回転体への投影面積が広がるので静圧軸受としての機能を強めることができる。このような構成により、遠心ポンプの起動時において動圧が十分に生成されない場合や、液体中でのキャビテーションの発生に起因して第1の領域1,3内の流れが気液2相となって動圧が十分に形成されない場合でも、負荷能力(軸受力)が確保でき、回転体15と固定部材21との接触によるダメージを防止できる。
次に、本発明の第4の実施形態について図8(a)乃至図9(d)を参照して説明する。
図8(a)は本発明の第4の実施形態に係る流体軸受を示す断面図であり、図8(b)は図8(a)の部分断面図である。図9(a)及び図9(b)は本実施形態に係る流体軸受の他の例を示す部分断面図である。なお、特に説明しない構成及び作用については第1及び第3の実施形態と同様であるので、重複する説明を省略する。
図8(a)に示すように、可動部材22の外周面には傾斜部22bが形成されている。また、固定部材21には、傾斜部22bの位置に対応して位置センサ37が埋設されており、この位置センサ37によって可動部材22の軸方向の位置が検出されるようになっている。位置センサ37は増幅器38及びA/D変換器45を介してコンピュータ36に接続されており、コンピュータ36はD/A変換器46を介してインバータ35に接続されている。また、流体通路33と高圧流体供給源25とを接続する流体配管41にはサーボバルブ51が設置され、このサーボバルブ51はD/A変換器46の出力信号を受けて作動するようになっている。
図8(a)に示すように、可動部材22の端部が段差部21aに当接して第2の領域2が形成されていない場合は、この可動部材22の位置を位置センサ37が検出してコンピュータ36及びインバータ35などを介して高圧流体供給源25を駆動させないようにする。図8(b)に示すように、可動部材22が軸方向に沿って第2の領域2を広げる方向に移動して所定の位置に到達すると、この可動部材22の位置を位置センサ37が検出してコンピュータ36及びインバータ35などを介して高圧流体供給源25を駆動させる。これにより、高圧流体供給源25から高圧流体が第2の領域2に供給される。従って、第2の領域2内の圧力が上昇し、流体軸受20を静圧軸受として機能させることができる。また、第2の領域2が形成されている状態において高圧流体供給源25を停止させるか、或いはサーボバルブ51を操作すると、第2の領域2への高圧流体の供給が停止され、流体軸受を動圧軸受として機能させることができる。さらに、この状態で、可動部材22を第2の領域2の幅を狭める方向に所定の位置まで移動させて、第2の領域2の幅を短くした場合または第2の領域2をなくした場合には、動圧軸受としての機能を高めることができる。
図9(a)に示す本実施形態に係る流体軸受の例においては、可動部材22の羽根車側の端部には固定部材21の内周面に接する位置検出面22cが形成され、可動部材22には周方向に延びる溝22dが位置検出面22cに隣接して形成されている。すなわち、可動部材22の外周面には、位置検出面22cと溝22dとによって段差が形成されている。固定部材21の溝22dに対応する位置には位置センサ37が埋設されている。このような構成において、可動部材22が移動して位置検出面22cが位置センサ37の前にくると、位置センサ37の出力信号が変化するので、可動部材22が所定の位置まで移動したことがコンピュータ36(図8(a)参照)などによって検知される。そして、可動部材22が軸方向に沿って移動して所定の位置に到達すると、コンピュータ36及びインバータ35などを介して高圧流体供給源25が駆動され、高圧流体供給源25から第2の領域2に高圧流体が供給される。
図9(b)に示す本実施形態に係る流体軸受の例においては、可動部材22の外周面には、可動部材22とは材質が異なる金属または非金属からなるターゲット22eが取り付けられている。このような構成によれば、可動部材22が移動してターゲット22eが位置センサ37の前にくると、位置センサ37の出力信号が変化し、これにより、高圧流体供給源25の駆動を開始させることができる。
次に、本発明の第5の実施形態について図10(a)乃至図10(c)を参照して説明する。
図10(a)乃至図10(c)は本発明の第5の実施形態に係る流体軸受を示す断面図である。なお、特に説明しない構成及び作用については第1の実施形態と同様であるので、重複する説明を省略する。
可動部材22の下流側には、2重の周壁47aと円形の側部47bとを有する円筒状のカバー部材47が配置されている。可動部材22の下流側の端部はカバー部材47の2重の周壁47aの間に収容されている。また、可動部材22の外周面と固定部材21の第2の内周面21cとの間には、可動部材22の動きをガイドするリング状のガイド部材27が設けられている。なお、カバー部材47の側部47bにはドレイン孔47cが設けられている。ドレイン孔47cは吸込み配管(図示せず)に戻される。
2重の周壁47a内の空間は、可動部材22の下流側の端部によって第1の空間23と第2の空間24に区画されている。可動部材22の下流側の端部、2重の周壁47a、及び側部47bによって画成される第2の空間24には、高圧源65から流体配管42を介して空気などの流体が供給されるようになっている。なお、高圧源65は第1のモータ55により駆動されるようになっている。また、第2の空間24は流体配管43を介して低圧源57に連通しており、第2のモータ56により低圧源57を駆動させると、低圧源57により第2の空間24内の流体が排出され、第2の空間24が減圧されるようになっている。
固定部材21には、回転体15の変位(状態量)を検出する変位センサ(状態量検出手段)58が埋設されている。この変位センサ58は増幅器38を介して状態判断部(状態判断手段)59に接続されている。この状態判断部59には、状態量の基準となる信号を出力する参照信号発生器60が接続されている。そして、状態判断部59は、変位センサ58及び参照信号発生器60の出力信号を比較して、回転体15の状態、例えば回転体15が共振しているか否かを判断する。
状態判断部59は、第1のON/OFFスイッチ63を介して第1のモータ55に接続されている。状態判断部59からの指令信号に応じて第1のON/OFFスイッチ部63が作動し、高圧源65の運転が制御されるようになっている。また、状態判断部59は、第2のON/OFFスイッチ64を介して第2のモータ56に接続され、状態判断部59により低圧源57が制御される。このような構成により、高圧源65及び低圧源57を介して第2の空間24内の圧力が変化するようになっている。
第1の空間23よりも第2の空間24の圧力が低い場合には、図10(b)に示すように、可動部材22は下流側に移動し、可動部材22の下流側の端部がカバー部材47の側部47bに当接する。この状態において、第2の領域2の幅は最も大きくなる(以下、第1の状態という)。一方、第1の空間23と第2の空間24との圧力が等しい場合には、図10(a)に示すように、第2の領域2の幅が第1の状態よりも短くなる(以下、第2の状態という)。さらに、図10(c)に示すように、第1の空間23よりも第2の空間24の圧力が大きい場合は、可動部材22の上流側の端部が固定部材21の段差部21aに当接する。この状態においては、第2の領域2は形成されない(以下、第3の状態という)。
次に、上述のように構成される流体軸受の動作について図11(a)及び図11(b)を参照して説明する。図11(a)は、本発明の第5の実施形態に係る流体軸受における状態量の変化を説明するためのグラフ図であり、図11(b)は従来の流体軸受における状態量の変化を説明するためのグラフ図である。なお、図11(a)及び図11(b)において、Sは状態量を表し、tは時間を表し、Rは回転体の回転速度を表している。
まず、図11(a)において、回転体15の始動時には可動部材22は第1の状態(図10(b)参照)にある。回転体15の回転速度が上昇すると、状態量としての回転体15の変位(振幅)が大きくなる。そして、状態量が参照信号に達すると(t1)、状態判断部59は回転体15の回転速度が危険速度に達したと判断し、第1のモータ55に指令信号を出力して高圧源65を駆動させる。これにより、第2の空間24内の圧力が増加して第3の状態(図10(c)参照)となり、第2の領域2がなくなり、連続した第1の領域1,3の幅が広がる。したがって、第1の領域1,3での流体流れにより発生する慣性力(付加重量)が増大し、減衰力が大きくなる。これにより、回転体15の固有振動数が低下するので危険速度が下がり、あたかも回転体15の回転速度が危険速度を越したような挙動をする。更に、減衰力が大きくなるので、仮に回転体15の回転速度の近くに危険速度が存在するとしても、共振倍率の低下により回転体15の変位が小さくなるので、過大な共振が回避できる。
ここで、危険速度とは、回転周波数と回転体15の固有振動数が一致して共振が発生するときの回転体15の回転速度を意味する。共振が起こらない程度の十分な時間が経過した後は(t2)、状態判断部59は第1のモータ55を停止させると共に、第2のモータ56に指令信号を出力し、低圧源57を駆動させる。これにより、第2の空間24内の圧力が減少して第1の状態となり、回転体15の固有振動数が引き上げられ、共振の再発を防止することができる。なお、状態量としては、第1の領域1,3または第2の領域2を流れる流体の圧力が挙げられる。状態量として流体の圧力を用いる場合には、変位センサに代えて圧力センサを用いる。
次に、本発明の第6の実施形態について図12を参照して説明する。
図12は本発明の第6の実施形態に係る流体軸受を示す断面図である。なお、特に説明しない構成及び作用については第1及び第5の実施形態と同様であるので、重複する説明を省略する。
第1の空間23は、流体配管67,68を介して高圧源65に接続され、さらに、流体配管66,69を介して低圧源57に接続されている。また、第2の空間24は、流体配管68を介して高圧源65に接続され、さらに、流体配管69を介して低圧源57に接続されている。流体配管68にはサーボバルブ52が設けられており、このサーボバルブ52を操作することにより、高圧源65からの流体が第1の空間23または第2の空間24のいずれか一方に供給されるようになっている。また、流体配管69にはサーボバルブ53が設けられており、このサーボバルブ53を操作することにより、低圧源57によって第1の空間23または第2の空間24が減圧されるようになっている。固定部材21には第1の空間23と外部とを連通する通孔85が形成されている。なお、低圧源57の目的が、高圧源65から供給された流体を第1の空間23または第2の空間24から排出することのみである場合には、この低圧源57を省略することも可能である。
それぞれのサーボバルブ52,53は、バルブ操作機構54に接続されている。そして、このバルブ操作機構54を介してサーボバルブ52,53を交互に操作することにより、第1の空間23及び第2の空間24内の圧力が所定の周期で交互に増減するようになっている(以下、この圧力を交番圧力という)。バルブ操作機構54は、交番圧力の周期を変化させる可変機構(図示せず)を備えている。なお、サーボバルブ52,53及びバルブ操作機構54により加振手段が構成される。
このような構成により、可動部材22は交番圧力により周期的に軸方向に振動し、第2の領域2の幅が周期的に変動する。その結果、第1の領域1,3及び第2の領域2内に発生する動圧が変動し、第1の領域1,3及び第2の領域2内を流れる流体から回転体15に作用する加振力とその周波数とを制御することが可能となる。
次に、本発明の第7の実施形態について図13を参照して説明する。
図13は本発明の第7の実施形態に係る流体軸受を示す断面図である。なお、特に説明しない構成及び作用については第1及び第3の実施形態と同様であるので、重複する説明を省略する。
図13に示すように、固定部材21の側面にはカバー部材49が固定されており、このカバー部材49の内側には、第1の領域3に連通するチャンバー77が形成されている。カバー部材49と高圧流体供給源25とは流体配管(第1の流体配管)72を介して接続され、高圧流体供給源25から流体配管72を介してチャンバー77に高圧流体が供給されるようになっている。流体配管72には流路切換弁61が設けられており、この流路切換弁61を操作することにより、高圧流体供給源25とチャンバー77とが流体配管72を介して連通するようになっている。なお、流体配管72は、流路切換弁61とチャンバー77との間に位置するサーボバルブ79を有しており、このサーボバルブ79を介してドレイン配管76が流体配管72に接続されている。
第2の領域2は、固定部材21に形成された流体通路33及び流体配管74を介してサーボバルブ62に接続されている。このサーボバルブ62にはドレイン配管75および流体配管73が接続されている。そして、このサーボバルブ62を操作することによって、流体配管74は、ドレイン配管75および流体配管73のいずれか一方に連通するようになっている。流体配管73は流路切換弁61に接続され、この流路切換弁61を操作することにより、高圧流体供給源25からの高圧流体は、流体配管72および流体配管73のいずれか一方に流入するようになっている。なお、流体配管73,74により第2の流体配管が構成される。
上述の構成において、流路切換弁61を介して高圧流体供給源25から高圧流体が流体配管73に流入するときは、サーボバルブ62を介して流体配管73が流体配管74に連通するようになっており、さらに、チャンバー77がサーボバルブ79を介してドレイン配管76に連通するようになっている。したがって、高圧流体は流体配管73,74を通って第2の領域2に流入し、第1の領域3を通過してチャンバー77に流れ込み、ドレイン配管76から外部に排出される。この時、可動部材22は流体の圧力分布の変化により第2の領域2の幅を広げる方向に移動する。
一方、流路切換弁61を介して高圧流体供給源25から高圧流体が流体配管72に流入するときは、流体配管74はサーボバルブ62を介してドレイン配管75に連通するようになっている。したがって、高圧流体は流体配管72からチャンバー77に流入し、第1の領域3及び第2の領域2を通過し、流体通路33、流体配管74、及びドレイン配管75を介して外部に排出される。この時、可動部材22は流体の圧力分布の変化により第2の領域2の幅を狭める方向に移動する。この状態での流体軸受は、その両側(第1の領域1側および第1の領域3側)から高圧流体が第2の領域2に流れ込む動圧軸受として機能することになる。したがって、高い圧力の範囲が広がるので負荷能力が高まり、優れた動的軸受能力を得ることができる。また、この状態での流体の圧力分布を軸方向において対称とすることもできる。このように、第1の領域3を流れる高圧流体の流れ方向を切り替えることにより、流体の圧力分布が変化すると共に、可動部材22を軸方向に移動させることができる。
上述した第1乃至第7の実施形態では、圧力可変手段として可動部材を用いたが、可動部材を用いることなく高圧流体供給源のみを圧力可変手段として用い、高圧流体供給源から第2の領域に高圧流体を供給するようにしてもよい。この例を図14に示す。
図14は本発明の第8の実施形態に係る流体軸受を示す断面図である。なお、特に説明しない構成及び作用については上述した第1の実施形態と同様であるので、重複する説明を省略する。
図14に示すように、固定部材(支持部材)21の内周面の中央部には、周方向に延びる断面凹状の溝部21dが形成されている。この溝部21dによって、第1の領域1,3の間に第2の領域2が形成されている。第2の領域2は、固定部材21に形成された通孔90及び流体通路91を介して圧力可変手段としての高圧流体供給源25に連通しており、モータ30を駆動させることによって高圧流体供給源25から第2の領域2に高圧流体が供給されるようになっている。なお、モータ30の回転速度はインバータ35により加減速されるようになっている。本実施形態によれば、第2の領域2に高圧流体を押し込むことによって、隙間全体の圧力分布が変化し、大きな静圧を回転体15に対して与えることができる。
なお、本発明は、L/Dが大きく、上流側と下流側との差圧が高いバランスピストンシールや、水中軸受に好適に適用可能な技術である。例えば、本発明に係る流体軸受20は、バランスピストンシールおよび水中軸受として構成することができる。図15はバランスピストンシールおよび水中軸受を備えた一般的な遠心ポンプを示す断面図である。なお、図15において図1と同一の構成には同一の番号を付す。
モータ30は、回転軸11の端部に固定されるモータロータ30aと、モータロータ30aの外周側に配置されるモータステータ30bとを備えている。モータロータ30a及びモータステータ30bはそれぞれモータロータ側キャン70及びモータステータ側キャン71で覆われており、これによりモータロータ30a及びモータステータ30bの密封性が確保される。
羽根車10とモータ30との間には、バランスピストンシール80が配置され、モータ30の下流側には水中軸受81が配置されている。このバランスピストンシール80は水中軸受としても機能する。モータカバー83には流体導入孔83aが形成され、水中軸受81が設けられるブラケット84には流体排出孔84aが形成されている。流体導入孔83aから導入された流体はブラケット84と水中軸受81との間の隙間を通過した後、流体排出孔84aから排出される。また、羽根車10によって昇圧された流体の一部は、バランスピストンシール80と軸スリーブ13との間の隙間に導かれ、さらに、モータロータ側キャン70及びモータステータ側キャン71との間を通過した後、流体排出孔84aから排出される。なお、この遠心ポンプでは、回転軸11、羽根車10、モータロータ30a、及び軸スリーブ13により回転体が構成される。本発明は、図15に示すバランスピストンシール80及び水中軸受81のいずれにも適用することができる。すなわち、本発明に係る流体軸受は、軸受やシール機構として機能させることができる。
また、本発明は、図16及び図17に示すバランスピストンシール及び水中軸受にも適用することができる。図16及び図17はバランスピストンシールおよび水中軸受を備えた一般的な遠心ポンプを示す断面図である。なお、図16及び図17において図1および図15と同一の構成には同一の番号を付す。
図16に示す遠心ポンプは、吸込口12aが羽根車10とモータ30との間に配置され、吐出口12b及びバランスピストンシール80は回転軸11の下流側の端部に配置されている。図17に示す遠心ポンプは、回転軸11の中央にモータ30、吸込口12a、及び吐出口12bが配置され、モータ30の両側に羽根車10が互いに向かうように配置されている。バランスピストンシール80は回転軸11の両端部にそれぞれ配置されている。図16及び図17に示すバランスピストンシール80及び水中軸受81は、本発明に係る流体軸受20に置き換えることができる。