本発明は物体の透視技術に関する。ことに、誘電率の異方性を有する物体、たとえば木材などの透視技術に関する。
可視光に対して不透明なある種の媒質は、周波数が30GHzから300GHzにあるミリ波帯電磁波に対しては半透明に振る舞う。こうした媒質には、人間が身にまとまう衣類、住宅建材として使用される木材などがある。この性質は隠匿された危険物の察知や、媒質内部の非破壊検査に応用しうるもので、その有用性は極めて大きい。
媒質を透視する技術には、X線CT、超音波イメージング、核磁気共鳴イメージングなどが挙げられる。X線CTによる場合、X線の透過能が大きいゆえに、媒質よりの反射信号を検知することがむずかしく、X線発生装置とX線検知装置を対向して配置する必要が生じる。媒質透視を行うにあたって、反射信号を検知が可能となれば、単一の送受信器による簡素なシステム構成が可能であり、適用領域の拡大という観点からも強く望まれるところである。また、得られた像は実像の空間スペクトルに該当し、適当な画像処理を介して初めて人が理解できる像となる。像処理を必ず必要とすることもシステム規模の簡素化が難しいものとなる要因をなしている。システム規模の大なることは超音波イメージング、核磁気共鳴イメージングにおいても同様であって、万人が容易に使用することのできるような簡素な透視技術を提供することが求められる。X線はまた健康被害の恐れのあることも欠点といえる。
ミリ波帯電磁波は周波数がX線に比べて格段に小さく、媒質をイオン化するなどといった損傷の恐れはまずもっていない。また、反射信号を受けて透視像を得ることが可能であり、大変魅力的なイメージング手法といえる。ミリ波帯電磁波を媒質に照射する際には、なるべく開口の大きなアンテナ(合成開口アンテナを含む)を単独で用いる形態、アンテナから放射された電磁波を結像レンズ系を用いて媒質中に結像させる形態の二つが考えられる。前者では実像のフーリエ像が得られるために逆フーリエ変換を施す画像処理が不可避となる。内部の散乱過程がX線の場合のように先験的にわからないため、人間による恣意が介在してしまう。後者の場合には結像点の実像がそのまま得られるため、透視像の解釈に恣意が介在しない。結像する方式によれば電磁波パワーを一点に集中させることができる。物体内部のセンシングを行う場合には、パワー集中が可能な方式には一層魅力がある。
さて、ところで、反射型イメージングを行う際に、入射ミリ波と散乱ミリ波の干渉性が問題となる場合がある。発振器のコヒーレンス時間が、実用上許される撮像時間を越えてしまうと、像には顕著な干渉縞が生じてしまうのである。散乱波の強度のみに注目する計測を行う場合には、この干渉縞を低減する必要がある。同様の技術がレーザ光源の設計においてなどでは知られるものの(非特許文献1)、ミリ波帯での実効性のある提案はこれまでなされていない。得られる画像の解釈が容易な結像レンズ系を伴うミリ波イメージングシステムにおいて、入射波と散乱波との重ね合わせによる干渉縞を低減する技術が与えられれば、非常に多くの場で利益を与えることが可能となる。
ミリ波イメージングの価値はまた、ミリ波の偏波を分離したセンシングによって超音波、X線などのスカラー媒体を用いてセンシングにはない物体特定能を有することがあげられる。世の中にあふれるプラスティック、木材の類は誘電率の異方性を有している。偏波に感度を持つセンシングを行うと、この誘電率の異方性ゆえに与えられる新しい情報を手にすることが可能である。
さて、元来が天然にある木材には、その繊維の配向、腐朽、欠陥などの非均一性が備わっている。木材を建材として用いる場合、木材内部の欠陥、腐朽はその強度を著しく劣化させるため、排除すべく目視による検査が行われている状況にある。しかしながら、木材内部の腐朽、欠陥を表面から可視光で得た情報によって推定することには匠の技が求められ万人がそれを行うことは不可能な状況にある。こうした腐朽などの木材劣化部位の検出の他にも、例えば集成材の接着不良検出といった木質加工材料にする用途、あるいは木材・木質構造体の含水率分布の評価など、課題の山積する状況にある。木材内部の透視はこの建材検査を主としてなる重要な技術案件である。
木材内部を透視するための技術としても、X線CT、熱分布イメージング、超音波イメージング、マイクロ波イメージングなどが知られる。一般住宅の部屋にいて、壁越しに柱を構成する木材の腐朽の程度を明らかにするなどといった場合では透過信号でのみ透視がかなうX線CTでは適用限界がおのずと生ずる。熱分布イメージングは木材の表面からみた温度分布を可視化するもので、健全部位と腐朽、欠陥部位での熱伝導特性に隔たりのあることを利用するものである。しかるに、熱拡散は無視できない程度にまで速やかに生起する結果、像には十分な空間解像度の得られないことが困難とされる。超音波イメージングはパルス状に超音波を木材表面より印加し、木材中を伝搬する弾性波を検知し、腐朽、欠陥を見通す技術である。この場合も基本的には検知器を信号発生器と対向させることが望ましく、また得られる像は数値的に合成することによってのみ実像となる。内部情報に不確定な要因の多い木材の場合、常に数値的像再合成に成功するものではない。マイクロ波を用いたイメージング装置は、木材が繊維方向の誘電率が動径方向の誘電率に比べて大きいという性質によって偏向性を有することを利用する(非特許文献1)。レーダーシステムを採用して内部情報を得るなど散見されるものの、空間解像度に難がある。近接プロービングにより波長以下の解像度を与えている(非特許文献2)もあるが、木材表層部の検知にとどまり応用は限られることが現状である。
反射信号を検知する形態を持ち、十分な空間解像度をもって、直接ターゲットたる木材に接触すること無く、木材内部の情報を透視することは多くの場面で必要とされる反面これまでに知られる技術では実現が不可能である。
さて、木材の非破壊検査を広く考えてみると、上述のような製材時の課題解決の他に、我々が日々暮らす木造住宅の非破壊検査においても重要な解決すべき課題が存在する。
元来、耐用年数が千年にも及ぶとされる木材を用いた住宅が、数十年程度の寿命に甘んじている現状には、天災に伴う倒壊、雨漏りあるいは結露による腐食などに加えて木材を住処あるいは食料とする昆虫による被害が大きく関与している。なかでもシロアリによる食害は築後十年を過ぎた住宅被害において最も顕著となる。殊に地震大国である我が国においては住宅の堅固なることは防災の要ともいえる。シロアリ食害対策に資する技術の確立が強く求められている状況にある(非特許文献3)。
このシロアリ食害対策の一翼を担う技術項目がシロアリ食害の診断である。一般にシロアリ食害はその兆侯を人間が自覚する時にはすでに甚大な被害の及んでいる場合が多い。熟練したシロアリ防除士は、日当たり、土地の性質あるいは住宅の形状、使用方法などを情報として食害の有無を判断する匠を有するとされる(非特許文献3)が、万人がさような能力に恵まれることはあり得ず、実際には生じていないシロアリ食害を装った詐欺まがいの暴挙も散見される状況には憂いを禁じ得ない。従って、万人が客観的にシロアリ食害の有無を判断できるような診断装置がつよく望まれる。
シロアリ食害の診断方法として現在の主流は、小型ビデオカメラやファイバースコープを用いた床下/壁内部の可視光診断である。しかし建材内部にのみ食害の及んでいる場合には検知できないことから早期発見に資するには及ばない。
シロアリ特有の代謝ガスを検出するセンサー、あるいはシロアリの行動に起因する発生する音響を検知するといった建材内部の食害診断の方式にも検討が及んでいる(非特許文献3)。これらは一定の成功を納めておりシロアリ食害の早期発見がようやく叶う段階に至ったと理解されている。一方で、一層の技術の集積をもって診断確度の向上、診断適応領域の拡大を図っていく必要があることも事実である。最近になってマイロク波を用いた診断装置が提案されている(非特許文献4)。これは、シロアリ食害部にマイクロ波を入射させ得られる散乱波のスペクトル解析を行いシロアリの行動を反映したスペクトル分布をパターンマッチすることで診断するというものである。可視光では不透明な木材内部をマイクロ波を用いて透視するという点で一定の価値は認められるものの、実際にはパターンマッチという情報処理が介在する結果として診断結果に恣意的な操作が加わり、適応領域が限定されてしまう困難がある。診断結果の信憑性を維持するためには検知したデータをそのままシロアリ食害の有無に結びつけることができるシステムが好ましい。
ある波長帯の電磁波は木材に対する透過能を有限としている。代謝ガス診断、音響診断と並び立つ効果を伴って電磁波診断を可能とすれば、一層ユニバーサルな適用領域が確保され、シロアリ食害早期発見に資する包括的診断システムが実現されえるのである。
Kaestner,A,P.,Baath,L.,"Microwave Polarimetry Based Wood Scanning,"12th Symposium on Nondestructive Testing of Wood,Sopron,2000,pp.349-356.
Predak,S.,Ringger,T.,Aicter,S.,Busse,G.,"Inspection of Dielectric Materials with Microwaves,"in Nondestructive Characterization of Materials XI,Springer,Berlin,2003,pp.281-289.
今村、角田、吉村編、「住まいとシロアリ」海青社、2000年。
Tirkel,A.Z.,Sanderson,G,J.,Davies,R.J., 米国特許番号US6,313,643 B1,2001.
本発明は、ミリ波イメージングシステムにおいて、反射信号を検知する形態をもち、十分な空間解像度をもって、直接ターゲットに接触すること無く、信号可干渉性と偏波情報あるいは動体検知を随意とし、ターゲット内部の情報を透視することを課題とする。
本発明の請求項1は、ミリ波帯の発振周波数f1を有する発振器OSC1の出力を、発振周波数f2を有する発振器OSC2の出力を変調信号とする電磁波変調スイッチに入力し、該電磁波変調スイッチ出力をアンテナANT1を介して、静電的特性の異方性を有するターゲットに入射し、該ターゲットの透過信号を結像レンズ系に入力せしめ、その出力をポラライザによって、前記静電的特性の異方性を反映するように2つの偏波成分に分離させ、一方の偏波成分をアンテナANT2を介して検波器D1で検出し、他方の偏波成分をアンテナANT3を介して検波器D2で検出することを特徴とする物体透視装置を用いることによって上述する課題を解決する。
本発明の請求項2は、ミリ波帯の発振周波数f1を有する発振器OSC1の出力を、発振周波数f2を有する発振器OSC2の出力を変調信号とする電磁波変調スイッチに入力し、該電磁波変調スイッチ出力をアンテナANT1を介して、静電的特性の異方性を有するターゲットに入射し、該ターゲットの反射信号を結像レンズ系に入力せしめ、その出力をポラライザによって、前記静電的特性の異方性を反映するように2つの偏波成分に分離させ、一方の偏波成分をアンテナANT2を介して検波器D1で検出し、他方の偏波成分をアンテナANT3を介して検波器D2で検出することを特徴とする物体透視装置を用いることによって上述する課題を解決する。
本発明の請求項3は、ミリ波帯の発振周波数f1を有する発振器OSC1の出力をアンテナANT1を介して、静電的特性の異方性を有するターゲットに入射し、該ターゲットの透過信号を結像レンズ系に入力せしめ、ポラライザによって、前記静電的特性の異方性を反映するように2つの偏波成分に分離させ、一方の偏波成分をアンテナANT2を介して発振周波数f2を有する発振器OSC2の出力を変調信号とする電磁波変調スイッチSW1に入力しその出力を検波器D1で検出し、他方の偏波成分をアンテナANT3を介して発振周波数f3を有する発振器OSC3の出力を変調信号とする電磁波変調スイッチSW2に入力しその出力を検波器D2で検出することを特徴とする物体透視装置を用いることによって上述する課題を解決する。
本発明の請求項4は、ミリ波帯の発振周波数f1を有する発振器OSC1の出力をアンテナANT1を介して、静電的特性の異方性を有するターゲットに入射し、該ターゲットの反射信号を結像レンズ系に入力せしめ、ポラライザによって、前記静電的特性の異方性を反映するように2つの偏波成分に分離させ、一方の偏波成分をアンテナANT2を介して発振周波数f2を有する発振器OSC2の出力を変調信号とする電磁波変調スイッチSW1に入力しその出力を検波器D1で検出し、他方の偏波成分をアンテナANT3を介して発振周波数f3を有する発振器OSC3の出力を変調信号とする電磁波変調スイッチSW2に入力しその出力を検波器D2で検出することを特徴とする物体透視装置を用いることによって上述する課題を解決する。
本発明の請求項5は、ミリ波帯の発振周波数f1を有する発振器OSC1の出力を、発振周波数f2を有する発振器OSC2の出力を変調信号とする電磁波変調スイッチに入力し、該電磁波変調スイッチの出力を信号分離器のポートP1に入力しポートP2よりの出力をアンテナANT1に与えて放射させ、ポラライザと結像レンズ系を介して、静電的特性の異方性を有するターゲットに入射し、該ターゲットからの反射波を、結像レンズ系を介して、ポラライザに至らしめ、該ポラライザによって、前記静電的特性の異方性を反映するように2つの偏波成分に分離させ、ポラライザを透過した前記一方の偏波成分をアンテナANT1で受信し信号分離器のポートP2に入力しポートP3よりの出力を検波器D1に与え、ポラライザで反射した前記他方の偏波成分をアンテナANT2で受信し、検波器D2に与えることを特徴とする物体透視装置を用いることによって上述する課題を解決する。
本発明の請求項6は、ミリ波帯の発振周波数f1を有する発振器OSC1の出力を、発振周波数f3を有する発振器OSC3の出力を変調信号とする電磁波変調スイッチSW1に入力し、一方またミリ波帯の発振周波数f2を有する発振器OSC2の出力を、発振周波数f4を有する発振器OSC4の出力を変調信号とする電磁波変調スイッチSW2に入力し、電磁波変調スイッチSW1の出力と電磁波変調スイッチSW2の出力を信号結合器に入力し、該信号結合器の出力を信号分離器のポートP1に入力しポートP2よりの出力をアンテナANT1に与えて放射させ、ポラライザと結像レンズ系を介して、静電的特性の異方性を有するターゲットに入射し、該ターゲットからの反射波を、結像レンズ系を介して、ポラライザに至らしめ、該ポラライザによって、前記静電的特性の異方性を反映するように2つの偏波成分に分離させ、ポラライザを透過した前記一方の偏波成分をアンテナANT1で受信し信号分離器のポートP2に入力しポートP3よりの出力を検波器D1に与え、ポラライザで反射した前記他方の偏波成分をアンテナANT2で受信し、検波器D2に与えることを特徴とする物体透視装置を用いることによって上述する課題を解決する。
本発明の請求項7は、ミリ波帯の発振周波数f1を有する発振器OSC1の出力を、発振周波数f2を有する発振器OSC2の出力を変調信号とする電磁波変調スイッチに入力し、該電磁波変調スイッチの出力を信号分離器のポートP1に入力しポートP2よりの出力をアンテナに与えて放射させ、ポラライザと結像レンズ系を介して、静電的特性の異方性を有するターゲットに入射し、該ターゲットからの反射波を結合レンズ系を介してアンテナで受信し信号分離器のポートP2に入力し、ポートP3よりの前記静電的特性の異方性を反映する偏波成分を検波器に与える機構からなる撮像器S1と撮像器S2の二つを並列に配置し、前記ターゲットを走査することを特徴とする物体透視装置を用いることによって上述する課題を解決する。
本発明の請求項8は、撮像器S1による走査と撮像器S2による走査を時間差をおいて行うことを特徴とする請求項7記載の物体透視装置を用いることによって上述する課題を解決する。
本発明の請求項1は、波長がミリメートル程度のミリ波帯電磁波を用いて十分な空間解像度を得て、生成したミリ波をターゲットに入射させ、その透過波をポラライザを配して偏波成分ごとに分離し、それぞれを検出する。さらに結像レンズ系の結像点をターゲット内部の所望の点に合致させることによって、ターゲット内部の透視を実現する。偏波分離による撮像は、木材を始めとする異方性媒質の非破壊検査に有効である。
本発明の請求項2は、波長がミリメートル程度のミリ波帯電磁波を用いて十分な空間解像度を得て、生成したミリ波をターゲットに入射させ、その反射波をポラライザを配して偏波成分ごとに分離し、それぞれを検出する。さらに結像レンズ系の結像点をターゲット内部の所望の点に合致させることによって、ターゲット内部の透視を実現する。偏波分離による撮像は、木材を始めとする異方性媒質の非破壊検査に有効である。
本発明の請求項3は、本発明の請求項1と同様の効果を有する。
本発明の請求項4は、本発明の請求項2と同様の効果を有する。
本発明の請求項5は、本発明の請求項2と同様の効果を有する。
本発明の請求項6は、本発明の請求項2と同様の効果を有し、さらに、入射信号と反射信号の干渉に起因する雑音成分を排除する効果をあわせ有する。
本発明の請求項7は、本発明の請求項2と同様の効果を有し、さらに、同一ターゲットの像を時間差を与えて撮像する効果を持ち、その像差分をもって有意義な透視像を与える効果をあわせ有する。
本発明の請求項8は、本発明の請求項2と同様の効果を有し、さらに、同一ターゲットの像を時間差を与えて撮像することで、その像差分をもって有意義な透視像を与える効果をあわせ有する。
図1には本発明の第1の物体透視装置の構成をブロック図で表した。図中、発振器OSC1の発振周波数f1はミリ波帯にあり、発振器OSC2の発振周波数f2は例えばkHz程度の低周波帯にある。電磁波変調スイッチSW1は周波数f1のミリ波帯信号をf2の低周波信号で強度変調する作用を果たす。この作用はダイオードの整流作用を利用するなどをして容易に実現できる。その出力がアンテナANT1より空間に放射される。放射された電磁波はよい直線偏波を有し、ターゲットTに照射される。ターゲットTを透過した電磁波は、結像レンズ系LNを通り、ポラライザPLに至る。ここに結像レンズ系LNとは、誘電体レンズ、フレネルレンズといったミリ波帯レンズを一つ以上構成要素として含み、出力する電磁波が結像する形態に設計されている準光学系のことを意味している。ポラライザPLを透過した電磁波はアンテナANT2に至り検波器D1で検出され、ポラライザで反射された電磁波はアンテナANT3に至り検波器D2で検出される。検波器D1および検波器D2はミリ波信号強度に応じた振幅が周波数f2の発振器の出力信号に与えられる形の応答を行う。そこで、それらの出力信号と発振器OSC2の出力信号とのミキシングを行い、ミリ波強度を得ることが可能である。検波器D1および検波器D2としては二乗検波器、ホモダイン検波器、ヘテロダイン検波器を採用することができる。
図2には本発明の第2の物体透視装置の構成をブロック図で表した。図中、発振器OSC1の発振周波数f1はミリ波帯にあり、発振器OSC2の発振周波数f2は例えばkHz程度の低周波帯にある。電磁波変調スイッチSW1は周波数f1のミリ波帯信号をf2の低周波信号で強度変調する作用を果たす。この作用はダイオードの整流作用を利用するなどをして容易に実現できる。その出力がアンテナANT1より空間に放射される。放射された電磁波はよい直線偏波を有し、ターゲットTに照射される。ターゲットTを反射した電磁波は、結像レンズ系LNを通り、ポラライザPLに至る。ポラライザPLを透過した電磁波はアンテナANT2に至り検波器D1で検出され、ポラライザPLで反射された電磁波はアンテナANT3に至り検波器D2で検出される。検波器D1および検波器D2はミリ波信号強度に応じた振幅が周波数f2の発振器の出力信号に与えられる形の応答を行う。そこで、それらの出力信号と発振器OSC2の出力信号とのミキシングを行い、ミリ波強度を得ることが可能である。検波器D1および検波器D2としては二乗検波器、ホモダイン検波器、ヘテロダイン検波器を採用することができる。ターゲットTからの反射波をよく検知するために、アンテナANT1よりの入射電磁波の光軸と、結像レンズ系LNへと至る反射電磁波の光軸のなす角度を調整する機構を具備する。
図3には本発明の第3の物体透視装置の構成をブロック図で表した。図中、発振器OSC1の発振周波数f1はミリ波帯にあり、発振器OSC2の発振周波数f2、および発振器OSC3の発振周波数f3は例えばkHz程度の低周波帯にある。発振器OSC2と発振器OSC3は同一のものであってもかまわない。電磁波変調スイッチSW1および電磁波変調スイッチSW2は入力された信号を周波数f2およびf3の低周波信号で強度変調する作用をそれぞれ果たす。本発明の第3の物体透視装置では、発振器OSC1で生成されたミリ波信号がアンテナANT1より空間に放射される。放射された電磁波はよい直線偏波を有し、ターゲットに照射される。ターゲットTを透過した電磁波は、結像レンズ系LNを通り、ポラライザPLに至る。ポラライザPLを透過した電磁波はアンテナANT2に至り、電磁波変調スイッチSW1を経て検波器D1で検出され、ポラライザPLで反射された電磁波はアンテナANT3に至り、電磁波変調スイッチSW2を経て検波器D2で検出される。検波器D1および検波器D2はそれぞれミリ波信号強度に応じた振幅が周波数f2およびf3の発振器の出力信号に与えられる形の応答を行う。そこで、それらの出力信号と発振器OSC2および発振器OSC3の出力信号とのミキシングを行い、ミリ波強度を得ることが可能である。検波器D1および検波器D2としては二乗検波器、ホモダイン検波器、ヘテロダイン検波器を採用することができる。
図4には本発明の第4の物体透視装置の構成をブロック図で表した。図中、発振器OSC1の発振周波数f1はミリ波帯にあり、発振器OSC2の発振周波数f2、および発振器OSC3の発振周波数f3は例えばkHz程度の低周波帯にある。発振器OSC2と発振器OSC3は同一のものであってもかまわない。電磁波変調スイッチSW1および電磁波変調スイッチSW2は入力された信号を周波数f2およびf3の低周波信号で強度変調する作用をそれぞれ果たす。本発明の第4の物体透視装置では、発振器OSC1で生成されたミリ波信号がアンテナANT1より空間に放射される。放射された電磁波はよい直線偏波を有し、ターゲットTに照射される。ターゲットTを反射した電磁波は、結像レンズ系LNを通り、ポラライザPLに至る。ポラライザPLを透過した電磁波はアンテナANT2に至り、電磁波変調スイッチSW1を経て検波器D1で検出され、ポラライザPLで反射された電磁波はアンテナANT3に至り、電磁波変調スイッチSW2を経て検波器D2で検出される。検波器D1および検波器D2はそれぞれミリ波信号強度に応じた振幅が周波数f2およびf3の発振器の出力信号に与えられる形の応答を行う。そこで、それらの出力信号と発振器OSC2および発振器OSC3の出力信号とのミキシングを行い、ミリ波強度を得ることが可能である。検波器D1および検波器D2としては二乗検波器、ホモダイン検波器、ヘテロダイン検波器を採用することができる。ターゲットからの反射波をよく検知するために、アンテナANT1よりの入射電磁波の光軸と、結像レンズ系LNへと至る反射電磁波の光軸のなす角度を調整する機構を具備する。
図5には本発明の第5の物体透視装置の構成をブロック図で表した。図中、発振器OSC1の発振周波数f1はミリ波帯にあり、発振器OSC2の発振周波数f2は例えばkHz程度の低周波帯にある。電磁波変調スイッチSW1は周波数f1のミリ波帯信号をf2の低周波信号で強度変調する作用を果たす。その出力が信号分離器SAに与えられる。信号分離器SAは三つのポートを持ち、ポートP1から入力された信号をポートP2に出力し、ポートP2に入力された信号をポートP3より出力する作用をもつ。たとえば、サーキュレーターや方向性結合器として知られる素子がこの機能を実現する。この還流性を用いれば、ポートP1より入力された信号をポートP2にわたし、ターゲットTからの反射信号を再びポートP2より受けたのちに、これをポートP3にわたすことができる。信号分離器SAのポートP2からの出力は接続されるアンテナANT1より空間に放射される。放射された電磁波はよい直線偏波を有し、その偏波の電磁波を透過させるようにポラライザPLを配置する。ポラライザPLを透過した電磁波は結像レンズ系LNに至り、その結像作用によってターゲットT内部で結像するように配置する。検波器はポラライザPLで分波した成分と、信号分離器SAのポートP3から与えられる成分との二つに用意される(D1とD2)。検波器はミリ波信号強度に応じた振幅が周波数f2の発振器の出力信号に与えられる形の応答を行う。そこで、その出力信号を同一の発振器の出力信号によってミキシングすることによってミリ波強度を可視化することが可能である。検波器D1および検波器D2としては二乗検波器、ホモダイン検波器、ヘテロダイン検波器を採用することができる。
図6には本発明の第6の物体透視装置の構成をブロック図で表した。図中、発振器OSC1の発振周波数f1および発振器OSC2の発振周波数f2はミリ波帯にあり、f1とf2は異なる。発振器OSC3の発振周波数f3および発振器OSC4の発振周波数f4は例えばkHz程度の低周波帯にある。電磁波変調スイッチSW1は周波数f1のミリ波帯信号をf3の低周波信号で強度変調する作用を果たし、一方、電磁波変調スイッチSW2は周波数f2のミリ波帯信号をF4の低周波信号で強度変調する作用を果たす。それぞれが信号結合器SBによって合波され、その出力が信号分離器SAに与えられる。信号分離器SAのポートP1より入力された信号をポートP2にわたし、ターゲットTからの反射信号を再びポートP2より受けたのちに、これをポートP3にわたす。信号分離器SAのポートP2からの出力は接続されるアンテナANT1より空間に放射される。放射された電磁波はよい直線偏波を有し、その偏波の電磁波を透過させるようにポラライザPLを配置する。ポラライザPLを透過した電磁波は結像レンズ系LNに至り、その結像作用によってターゲットT内部で結像するように配置する。検波器はポラライザで分波した成分と、信号分離器のポートP3から与えられる成分との二つに用意される(D1とD2)。検波器はミリ波信号強度に応じた振幅が周波数f3およびf4の発振器の出力信号に与えられる形の応答を行う。そこで、その出力信号を同一の発振器の出力信号によってミキシングすることによってミリ波強度を可視化することが可能である。検波器D1および検波器D2としては二乗検波器、ホモダイン検波器、ヘテロダイン検波器を採用することができる。周波数f3でミキシングして得られる信号は周波数f1のミリ波信号に対するターゲットTの応答となり、周波数f4でミキシングして得られる信号は周波数f2のミリ波信号に対するターゲットTの応答となる。本発明の第6の物体透視装置によっては、二つの異なるミリ波帯電磁波の応答を同一ターゲットの同一撮像領域を同時に検知することができ、それら検知結果をもとにして、信号の可干渉性により生じるスペックル雑音を取り除くことに成功する。
図7には本発明の第7の物体透視装置の構成をブロック図で示した。図7(a)は本発明の第7の物体透視装置で用いられる撮像器の構成を与える。この場合の撮像器は、ミリ波帯に発振周波数をもつ発振器OSC1の出力を、例えばkHz程度の低周波帯に発振周波数をもつ発振器OSC2によって駆動された電磁波変調スイッチSWに入力する。スイッチSWの出力が、信号分離器SAのポートP1に与えられ、ポートP2がアンテナANTと接続される。アンテナANTより放射されたミリ波帯信号は結像レンズ系LNを介してターゲットTへと至り、その反射信号を再びアンテナANTで受信し、信号分離器SAのポートP3に至らせしめ、検波器Dで検出する。図7(b)に示すように、本発明の第7の物体透視装置は、上記した撮像器を二つ並列に備える。図面ではこれらを撮像器S1および撮像器S2と記載している。撮像器S1と撮像器S2は、互いに同一の軌跡を描くように走査され、撮像器S1で撮像される情報が、撮像器S2で撮像される情報に対して、ある有限の時刻だけ先んじるように設計される。すなわち、ターゲットTに経時変化がみられない場合には、全く同一のミリ波像を与えることになる。本発明の第7の物体透視装置は、これら二つの撮像器によって与えられる二つのミリ波像の差分を与える機構によって、ターゲットT内部あるいは表面の時間とともに変化する情報を選択的に与えることができる。
以上示すところにより、可視光に対して不透明である媒質にあってミリ波帯電磁波に対して透明に振る舞う媒質に適用することによって、本発明は、信号可干渉性、信号偏波を柔軟に設計しうる物体透視手法を供することがわかる。撮像対象は本来が任意であるが、以下、特に木材の非破壊検査における本発明の適合性の大きいことを主張し、議論をあつくする。
木材は、図8に示すところであるが、年輪に沿う接線方向、樹皮から髄へと向かう動径方向、そして樹木のそびえる方向である繊維方向のそれぞれに異なる誘電的特性を備える。繊維方向に誘電率が大きい異方性媒質なのである。この知見は、周波数が10GHz以下程度までの電磁波に対して知られている。これが事実であるならば、繊維方向に偏波した電磁波はこれと直交する方向に偏波した電磁波にくらべ伝搬速度が小さくなる。このため、適当な直線偏波で入射した電磁波は木材内部を伝搬するとともに、繊維方向と繊維に直交する方向の電磁界成分ごとに異なる速度を獲得する結果、楕円偏波に変化する。この特性によって、入射電磁波と直交する偏波成分を散乱波から切り出して検知することによって、木材内部情報を一層明確に得ることが可能となる。本発明ではこのために、反射波の偏波成分をポラライザによって二分岐させ、平行偏波、垂直偏波のそれぞれを独立して検知する能力を備えており、ミリ波帯においても木材の誘電的特性の異方性が顕著であるならば、木材の透視に適合性が大きいことが主張される。
ミリ波帯電磁波に対する木材の応答を評価した例はこれまでになく、その物性は不明である。そこで、図9、図10には、本発明の有意性を主張すべく行った計測結果を与えた。図9は厚さ14mmのスプルース材に95GHzから140GHzまでのミリ波帯電磁波を照射した際のその透過強度を木材が無い場合に対してどれほどであるかという相対的な値として示したものである。計測は木目がミリ波帯電磁波の偏波と平行する場合と直交する場合とについて行った。木目は繊維と平行するため、誘電率の非等方性がミリ波帯にまで及んでいることを陽に示すことが目的である。結果をみると木目と偏波が直交している場合に比し、木目と偏波が平行している場合には相対透過強度が40%以下にとどまっていることがわかる。誘電体内部での信号減衰は誘電率が大きいほど大きく、図3の帰結は、木目にそって誘電率が大きくなっていることの反映と考えることができる。すなわち、ミリ波帯信号に対しても、木材の静電的特性の異方性が顕著であることが主張された。一方、図10はミリ波帯電磁波に特徴的な性質を浮き彫りにする二つの鳥瞰図を示す。これらは、厚さ14mmのスプルース材を透過したミリ波帯電磁波の空間的強度分布を示すものである。木目が偏波と直交する場合と平行する場合とを併せ示したが、木目の間隔と信号波長が近接しているために生ずる回析像が得られている。この結果は木目に対して、ミリ波帯電磁波が感度を有するという事実を与え、木目の可視化を木材表層から内部に至るまで実現する事を示唆する意味で有意義である。
さて、図11には実際に本発明の第5の物体透視装置を具現化したミリ波帯撮像システムを用いて得られるミリ波像の例を示す。この結果は、本発明の有効性を強く主張するものである。図11は節のある木材サンプルを合板で隠蔽し撮像した結果を示している。目視が困難な状況であっても内部の欠陥(この場合には節)の検知が可能であることを示すものである。実際、透視に成功し、合板で隠された木材の木目および節の検出に成功している様が確認できる。図12には木材深層にある欠陥を垂直偏波成分の検知によって実現した例を示す。図12(a)は検知対象サンプルの様子である。一辺が100mmの木材ブロック二つを、繊維方向が垂直に対して45度をなすように上下に重ねて配置し、それぞれのブロックの中心に空隙を設けたものである。空隙位置は従って、表面からおおよそ50mmに位置する。繊維方向を垂直に対して45度とした理由は、入射ミリ波の偏波が垂直に向いており、最もよく誘電率の異方性を拾うためである。実際の応用の場面は、入射偏波を繊維方向に対して45度をなすように装置を設計すれば十分である。図12(b)には、本発明の第5の物体透視装置を具現化したミリ波撮像システムを用いて行った垂直偏波成分検知によるミリ波像を示す。これをみると、深さ50mmに位置する空隙を反射型センシングで検知することに成功している。偏波を有効に用いる本発明の有効性が明らかになった。
さて、本発明の第7の物体透視装置は、ミリ波像の差分を与えることを顕著な特徴として持っている。このことの応用上の目的として、シロアリの非破壊検査をあげる。図13を用いて我々が考えるミリ波によるシロアリ検知の原理を示す。図13(a)に模式図を示した。図中、矢印Aが入射電磁波を、矢印Bがレンズ境界面で反射された電磁波を、矢印Cがレンズを透過しターゲットたるシロアリに入射する電磁波を、矢印Dがターゲットによって反射された電磁波を示している。実際にはこのほかにも反射点は存在するが、議論の本質によらないのでここでは省略する。反射電磁波Bと反射電磁波Dはともにアンテナに至り検出信号として処理されることになる。このBとDとはミリ波発振器のコヒーレンス時間の範囲内で互いに干渉し、レンズとアンテナを境界として定在波を生成する。端点たるアンテナでの振幅強度は、BとDのなす位相差にきわめて敏感であり、シロアリの運動に際してDの位相が変化すると、それを強度変化に速やかに変換することに成功する。この事情を図13(b)によって説明する。いま時刻t1と時刻t2においてシロアリが距離Lだけ電磁波の伝搬方向に移動する場合を考える。シロアリは体長が大きいもので5mm程度であり、t1とt2とを数秒とするならばLはミリメートル単位での値となる。シロアリによって反射された電磁波は時刻t2においては時刻t1においてよりも伝搬距離にして2Lを余計に伝搬することになる。これは、電磁波の波長をλと書くと、電磁波の位相が4πL/λだけ変化することを意味している。いま、波長λはやはりミリメートルの程度であるために、この位相変化は応分に大きい。この大きな位相変化を拾って検知信号たる定在波振幅強度変化も応分に大きくなり、高感度でシロアリの運動を検知することに成功するのである。
ところで、レンズを用い、ミリ波ビーム径を絞ると、シロアリ検知のS/Nを著しく向上させることができる。この効果を図14によって説明する。ミリ波をレンズで結像しない場合、アンテナから照射される電磁波は伝搬距離とともに広がり応分に単位面積あたりの強度は低下する。ターゲットたるシロアリコロニーでのビーム径が広がってしまうために、このビームに照らされるシロアリの個体数が大数に及び検知される信号はこれら大数のシロアリの応答が積算されたものになってしまう。さらに単位面積あたりの強度が低下しているために、かく個体からの応答も軽微なものとなってしまう。一方、レンズを用いて電磁波を結像する場合には、ターゲット位置でのスポットサイズをミリメートル程度にまでに集中させることができ、単位面積あたりの強度も格段に大きくなる。スポットサイズが小さいために、電磁波の照射点に入るシロアリの個体数は少数に限定することができ、また反射される信号強度は格段に大きなものとすることができる。図14には、ミリ波電磁波を結像する場合としない場合のそれぞれについて典型的な検出信号の振る舞いを示した。結像しない場合には小振幅のイベントが間髪を置かず現れ、結像する場合には大振幅のイベントが散発的に現れることになる。計測には有限の雑音が無視できない。前者の応答はこの雑音との差別化が難しく、スペクトル評価するなどのデータ処理なくしてシロアリ検知は難しい。後者の場合、雑音との明らかな差別化が可能であり、検知信号から無用な類推を行うこと無くシロアリ検知に成功する。この機能によって高い信憑性をもった診断が実現されるのである。さらに、シロアリコロニーは建材深部に有る場合もあり、強度を集中させる方式は、建材の透過能を向上させるという副次的な効果も有している。
図15には、ミリ波によるシロアリ検知の実際をみる予備実験結果を示し、本発明の第7の物体透視装置を適用した場合の効果の大きさを実証する。この実験では、本発明の具現化のために、本発明の第7の物体透視装置に用いる撮像器一つを用意した。この際、ミリ波周波数を100GHz、電磁波変調スイッチとしてPINスイッチを、信号分離器としてサーキュレータを、アンテナとして円形ホーンアンテナを、レンズとして誘電体凸レンズをそれぞれ採用した。シロアリコロニーをいれた容器を厚さ25mmの無垢材で隠匿した形態でターゲットとし、レンズから300mmのところに結像点を置き、計測を行った。実験は容器を置いた場合と置かない場合の比較を行う形である。図15(a)にはシロアリ容器を置かない場合の、図15(b)にはシロアリ容器を置いた場合の検出電圧値の経時変化を示している。縦軸は任意単位としているが図15(a)と図15(b)で同一のスケールで記載している。明らかに図15(b)には雑音とは考えられない有意な信号が現れている。
以上について総括する。レンズを使用することなくシロアリのミリ波検知を試みても、得られる時間波形が雑音成分に酷似してきり分けが困難であり、かつミリ波ビーム径が大きく、シロアリ位置を特定することが不可能である。一方、レンズを使用するならば、まずビーム径を小さく絞り込むことができるため、シロアリ位置を特定することが可能となり、かつシロアリ個体数が少数である場合には、シロアリの運動を特徴的なスパイク状波形として検出することがかなうため雑音成分からの切り分けが可能となる。ゆえに、レンズを用いることに一定の価値が生ずる。しかるに、シロアリ個体数が増大してくると、果たしてレンズを用いても雑音成分とシロアリの運動に起因する信号成分を切り分けることが困難になる可能性が生じてくる。過剰な頻度でスパイク状波形が生じてくるならば一見して波形は乱雑な様相を呈するためである。本発明の第7の物体透視装置は、同一領域を時間をおいて二度撮像し、像の差分をえることを特徴とした。この場合には、レンズによるビーム径の絞り込みによってシロアリ位置を特定しつつ、応答時間波形の経時変化を複数点で検知することにより、シロアリ応答波形と雑音波形との明確な切り分けに成功する。
図16は、本発明の第7の物体透視装置の効果を模擬する実験結果を示している。図16(a)に検知対象の模式図を示す。使用したサンプルはベイツガ材であり、ミリ波照射面から10mmおよび20mmの位置に空隙を設ける。本発明の第7の物体透視装置の撮像器一つを用いて、同一領域について時間をおいて二度計測し、得られた二つの像の差分をとる形態で、これを模擬する。いまの場合は、第一の計測と第二の計測とは30分の時間をおいている。シロアリの運動が特徴的に変化する時間スケールは数十秒の程度であり、この程度以上の時間的遅延を持って第二の計測を行えばよい。図16(b)は第1の試行の結果得られたミリ波像である。シロアリの存否を解釈することは難しい。図16(c)には、空隙にシロアリを封入することなく、二回の試行を行い、各試行の結果の差分をとって得られた像を示す。各試行結果はよく一致しており、差分はおおむね一様にゼロを与えた。図16(d)には、空隙Aおよび空隙Bにシロアリを複数封入し、得られた差分像である。レンズの結像点位置を空隙Bの位置にあわせているために、空隙Aでの応答にはボケが生じてはいるが、動体たるシロアリのみを選択的に検知していることがわかる。本発明によるシロアリ検知は、これまで叶わなかった木材内部におけるシロアリの分布状況の可視化にはじめて成功している意味においてもきわめて重要な効果を有している。
本発明の第1の物体透視装置の構成を示す図である。
本発明の第2の物体透視装置の構成を示す図である。
本発明の第3の物体透視装置の構成を示す図である。
本発明の第4の物体透視装置の構成を示す図である。
本発明の第5の物体透視装置の構成を示す図である。
本発明の第6の物体透視装置の構成を示す図である。
本発明の第7の物体透視装置の構成を示す図である。特に、図7(a)は、撮像器のブロック図であり、図7(b)は、全体構成図である。
木材の誘電的特性を示す図である。
木材のミリ波帯電磁波透過強度の偏波依存性を示す図である。
木材のミリ波帯電磁波透過強度の空間プロファイルを示す図である。特に、図10(a)は、木目と偏波が垂直である場合を、図10(b)は、木目と偏波が平行である場合を示す。
本発明の効果たる隠匿された木目/節の検知について示す図である。
本発明の効果たる垂直偏波成分検知による深層部欠陥検知について示す図である。特に、図12(a)は、計測サンプルの概念図であり、図12(b)は、垂直偏波成分検知によるミリ波像について示す図である。
可干渉性ミリ波によるシロアリ検知の方法について示す図である。特に図13(a)は、検知装置概念図を、図13(b)は、定在波を用いた動体検知について示す。
レンズ系を用いることによるシロアリ検知感度向上の様子を示す図である。
ミリ波を用いたシロアリ検知の原理実験結果を示す図である。特に図15(a)は、シロアリのいない場合の検知信号の経時変化を、図15(b)は、シロアリのいる場合の検知信号の経時変化を示す。
本発明の第7の物体透視装置によるシロアリ分布可視化の模擬実験結果を示す図である。特に図16(a)は、計測サンプルを、図16(b)は、第一試行による撮像結果を、図16(c)は、シロアリ非封入時の差分像を、図16(d)は、シロアリ封入時の差分像を示す。
符号の説明
ANT,ANT1,ANT2,ANT3…アンテナ
D,D1,D2…検波器
LN…結像レンズ系
OSC1,OSC2,OSC3,OSC4…発振器
P1,P2,P3…ポート
PL…ポラライザ
S1,S2…撮像器
SA…信号分離器
SB…信号結合器
SW,SW1,SW2…電磁波変調スイッチ
T…ターゲット