JP4338493B2 - 細胞培養体の生産方法 - Google Patents
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Description
例えば、表皮細胞(ケラチノサイト:Keratinocyte)で構成されたシート形状の培養組織、すなわち培養表皮細胞シートの作製方法としては、フィーダー・レイヤー培養法が知られている。この培養法は、ガンマ線などの放射線やマイトマイシンCなどの薬剤を用いて、細胞の分裂・増殖能を欠失させるとともに、代謝能を残すようにマウス線維芽細胞を不活性化し、この不活性化したマウス線維芽細胞をフィーダー細胞に使用して表皮細胞を培養する方法である(特許文献1)。このフィーダー・レイヤー培養法は高い細胞増殖率を得ることができることが知られている。一方、フィーダー細胞を用いずにMCDB153などの無血清培地を用いて細胞を培養する方法も知られている(特許文献2)。また、マウス線維芽細胞を培養することで細胞外マトリクス(ECM:Extra Cellular Matrix)を産生させ、その後に細胞を死滅させることによって、細胞外マトリクスが付着した培養容器で細胞を培養する方法なども、案出されている(特許文献3)。
本発明の細胞培養体の生産方法は、
不活性化したフィーダー細胞と培養対象細胞とを共培養する第1の培養工程と、
該第1の培養工程後の細胞群から前記フィーダー細胞を選択的に除去するフィーダー細胞除去工程と、
該除去工程後の培養対象細胞を継続して培養する第2の培養工程と、
を備えている。
また、本発明の処理方法は、不活性化したフィーダー細胞と培養対象細胞との共培養系の処理方法であって、前記培養対象細胞がサブコンフルエント状態に至る前に、具体的には、培養対象細胞の占有面積が培養面積の90%(より好ましくは80%)に到達しない範囲で前記共培養系から前記フィーダー細胞を選択的に除去する工程を備える、方法である。また、本発明の細胞培養体は、フィーダー・レイヤー培養法によって増殖可能な細胞であって、該細胞は所定の培養系においてサブコンフルエント状態に至る前のコロニー、具体的にはその占有面積が培養面積の90%(より好ましくは80%)に到達する前のコロニーを形成しており、かつフィーダー細胞をほとんど有しない、細胞培養体である。
なお、本発明において「細胞培養体」とは、培養細胞シートなどの培養組織だけでなく細胞懸濁液などの状態のものも含む。また、「培養対象細胞」とは、フィーダー・レイヤー培養法によって増殖可能な全ての細胞を含み、最終的に得ようとする細胞培養体を構成する細胞をいう。さらにまた、「細胞群」とは、本発明の生産方法及び処理方法における培養工程に供される細胞をいい、フィーダー細胞と培養対象細胞の双方を含む。
不活性化したフィーダー細胞と培養対象である細胞とを共培養する第1の培養工程と、
該第1の培養工程後の細胞群から前記フィーダー細胞を選択的に除去する除去工程と、
該除去工程後の培養対象細胞を継続して培養する第2の培養工程と、
を備えており、本発明は、細胞培養体、共培養系の処理方法にも関連している。
本発明の細胞培養体の生産方法は、フィーダー細胞と培養対象細胞とを所定期間共培養し(第1の培養工程)、その後、フィーダー細胞を選択的に除去し、フィーダー細胞除去後の培養対象細胞を継続して所定期間培養すること(第2の培養工程)により細胞培養体を得る。フィーダー細胞と培養対象細胞とを共培養するため、培養対象細胞は第1の培養工程においてフィーダー細胞によって増殖が促進される。一方、フィーダー細胞は、第1の培養工程と第2の培養工程との間に除去されるため、継続して行われる第2の培養工程の後に最終的に得られる細胞培養体におけるフィーダー細胞の存在量を容易に低減できる。さらに、常法ではフィーダー細胞の存在による物理的な増殖阻害によってコンフルエント状態に達するまでの期間が遅くなる場合もあるが、本発明においては、除去工程によってフィーダー細胞が除去されるため、第2の培養工程におけるフィーダー細胞による物理的な増殖阻害を回避でき、細胞培養体を得るまでの期間を短縮することができる。
(フィーダー細胞及び培養対象細胞)
本発明の生産方法は、フィーダー細胞と培養対象細胞とをともに培養するいわゆるフィーダー・レイヤー培養法に使用できる。フィーダー・レイヤー培養法は、先に説明したように、増殖能を有さないが代謝能を有するように生存可能に不活性化した線維芽細胞などの細胞をフィーダー細胞として使用し、培養対象となる細胞を増殖させる方法である。フィーダー細胞としてはフィーダー・レイヤー培養法に適用できるフィーダー細胞であればいずれの細胞であってもよいが、ヒトの他、マウス、ラット、ハムスター、ウサギなどの非ヒト哺乳動物由来の線維芽細胞を例として挙げることができる。好ましくは、3T3マウス線維芽細胞である。また、培養対象細胞としても、フィーダー・レイヤー培養法に適用できる細胞であればいずれでもよいが、ヒトや非ヒト動物の上皮細胞や肝細胞などを例として挙げることができる。なお、上皮細胞には、小腸、口腔、鼻腔などの表面細胞である粘膜上皮細胞や角膜上皮細胞などの各種上皮細胞や、皮膚の表皮細胞なども含むものである。また、肝細胞とは肝小葉を構成する細胞を含むものである。
常法に従って不活性化したフィーダー細胞と培養対象細胞とを共培養するにあたっては、これらの細胞懸濁液をそれぞれ調製し、同時に培養容器に播種することもできるが、好ましくは、不活性化したフィーダー細胞を予め播種し、その後、培養対象細胞を播種する。培養対象細胞は、例えば、皮膚組織片を採取し、ディスパーゼなどにより酵素処理し、真皮層と表皮層とに分離し、次いで、この表皮層をトリプシン処理することで表皮細胞に分散し、5%FBS(ウシ胎児血清)含有DMEM(ダルベッコ変法イーグル培地)で懸濁することによって表皮細胞懸濁液として調製することができる。培養条件は特に限定されるものではなく、培養対象となる細胞の種類に応じて適当な条件を採用することができる。本発明におけるフィーダー細胞及び培養対象細胞の播種密度(cells/cm2)は、特に限定されるものではなく、常法の値で行えばよい。例えば、フィーダー細胞にマウス線維芽細胞を、培養対象細胞にヒト表皮細胞を使用した場合には、フィーダー細胞の播種密度は1.0×104〜3.0×104の範囲で、表皮細胞の播種密度は1.0×103〜1.0×105の範囲で行われている。
一方、サブコンフルエント状態に到達する前に第1の培養工程を終了することで、時期に応じてより多くのフィーダー細胞を効果的に除去することができる。例えば、第1の培養工程の終了タイミング(培養期間)を、フィーダー細胞除去工程を実施しない以外は本生産方法と同一の条件で培養対象細胞を培養した場合においてコンフルエント状態に到達するまでに必要な培養期間、すなわち、常法のフィーダー・レイヤー培養法におけるコンフルエント状態に到達するまでに必要な培養期間Tcに対して、第1の培養工程を終了するタイミングを培養期間Tcの50%以下の培養期間内とすることで、播種したフィーダー細胞の95%以上を容易に除去する(除去率が95%という)ことができ、同40%以下の培養期間内に終了することでほぼ全てのフィーダー細胞(99%以上、より好ましくは100%を意味し、除去率99%及び同100%と同義である。)を容易に除去できる。なお、第1の培養工程の培養期間は、同培養期間Tcの10%以上とすることが好ましい。さらに好ましくは同15%以上である。したがって、第1の培養期間は、同10%以上50%以下とすることができ、また、同15%以上40%以下とすることもできる。なお、コンフルエント状態とは、培養対象細胞が集密な状体となり、培養容器の培養面が観察されなくなった状態を云う。
第1の培養工程終了後の細胞群に対してフィーダー細胞除去工程を実施する。フィーダー細胞を除去する方法については、フィーダー細胞を選択的に除去できる方法であれば、物理的、化学的、生化学的のいずれであっても特に限定しない。例えば、化学的あるいは生化学的処理として、エチレンジアミン四酢酸あるいはその塩(以下、単にEDTAという。)等のキレート剤を用いることができる。EDTAは濃度や処理時間の調整により、第1の培養工程終了時点におけるフィーダー細胞を高い選択性で除去することができる。好ましくは、EDTAのみを用いてフィーダー細胞除去工程を行う。なお、EDTA等のキレート剤は、カルシウムイオンを除去することでフィーダー細胞を選択的に除去することが可能となっている。したがって、カルシウムイオンに対して有効なキレート剤を用いることができる。EDTAは通常、0.01wt%以上0.05wt%以下とすることができる。また、処理時間は1分以上5分以下とすることができ、好ましくは1分以上3分以下である。
フィーダー細胞除去工程を実施後、該培養対象細胞の培養を再び継続して実施する。本発明における第2の培養工程は、第1の培養工程後の細胞群からフィーダー細胞のみを選択的に除去した後の状態のままの細胞群を継続して培養するため、いわゆる継代培養とは異なる。なお、必要に応じ、第2の培養工程前に培養対象細胞を洗浄してもよい。培養条件は、培養対象細胞に対して行う一般的な培養条件を適用でき、第1の培養工程の培養条件をそのまま適用することもできる。なお、第2の培養工程における細胞群は、フィーダー細胞除去工程におけるフィーダー細胞除去率に応じ、フィーダー細胞をほとんど含まず培養対象細胞のみであることが好ましいが、依然としてフィーダー細胞と培養対象細胞とを含む場合もある。
本発明方法で得られた細胞培養体は、培養対象細胞の種類や目的等により、シート状等の各種の形態を備える。さらに、細胞懸濁液を所望する場合には、シート化する前の段階、殊にサブコンフルエント状態に至る前において、常法による細胞分散処理を行って回収することもできる。本細胞培養体は、細胞培養体が形成された状態においてフィーダー細胞をほとんど含まない(除去率99%以上)。特に、ヒト表皮細胞の細胞培養体がかかる特性を有していることにより、好ましい培養表皮細胞シートを提供できる。
Claims (14)
- 細胞培養体の生産方法であって、
不活性化したフィーダー細胞と培養対象細胞とを共培養し、培養対象細胞がサブコンフルエント状態に至る前に該共培養を終了する第1の培養工程と、
該第1の培養工程後の細胞群から前記フィーダー細胞を選択的に除去するフィーダー細胞除去工程と、
該フィーダー細胞除去工程後の培養対象細胞を継続して培養する第2の培養工程と、
を備える、方法。 - 培養対象細胞の占有面積が培養面積の80%に到達しない範囲で前記第1の培養工程を終了し、前記フィーダー細胞除去工程を実施する、請求項1に記載の方法。
- 培養対象細胞の占有面積が培養面積の70%に到達しない範囲で前記第1の培養工程を終了し、前記フィーダー細胞除去工程を実施する、請求項1に記載の方法。
- 前記第1の培養工程を、前記フィーダー細胞除去工程を実施しない以外は同じ条件で培養を行った場合のコンフルエント状態到達までに必要な培養期間に対して50%以下の培養期間内に終了して、前記フィーダー細胞除去工程を実施する、請求項1〜3のいずれかに記載の培養方法。
- 前記培養対象細胞のコロニーの過半数が隣あうコロニーと接触する状態に至らない範囲で前記第1の培養工程を終了して、前記フィーダー細胞除去工程を実施する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
- 前記培養対象細胞のコロニーの構成細胞数が80個以下である、請求項5に記載の方法。
- 前記フィーダー細胞の除去工程において前記フィーダー細胞の95%以上を除去する、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
- 前記フィーダー細胞除去工程は、フィーダー細胞のほぼ全てを除去できるように実施する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
- 前記第2の培養工程において細胞培養体がコンフルエント状態となったとき前記フィーダー細胞がほとんど存在しない状態となるように前記第1の培養工程及び前記フィーダー細胞除去工程を実施する、請求項1に記載の方法。
- 前記第2の培養工程において培養対象細胞がコンフルエント状態に到達する培養期間が、前記第1の培養工程後に前記フィーダー細胞を除去しない以外は同じ条件で培養を行った場合のコンフルエント状態到達までに必要な培養期間よりも短期間となるように前記第1の培養工程及び前記フィーダー細胞除去工程を実施する、請求項1に記載の方法。
- 前記第1の培養工程を培養対象細胞がサブコンフルエント状態に至る前に終了し、前記フィーダー細胞除去工程を実施して前記フィーダー細胞のほぼすべてを除去した後、前記第2の培養工程において前記培養対象細胞がコンフルエント状態になるまで培養する、請求項1に記載の方法。
- 前記フィーダー細胞除去工程は、エチレンジアミン四酢酸又はその塩を用いて前記フィーダー細胞を選択的に除去する工程を含む、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
- 前記フィーダー細胞がマウス線維芽細胞であって、前記細胞がヒト表皮細胞である、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
- 前記第2の培養工程後に得られた細胞培養体に対して細胞分散処理する工程と、
該細胞分散処理後に、細胞を回収する工程と、
を備える、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
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