JP4226157B2 - 超電導磁気浮上式鉄道用高温超電導バルクマグネット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、超電導磁気浮上式鉄道車両に搭載する超電導磁気磁石装置に係り、特に、その高温超電導バルクマグネットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
液体窒素温度で超電導状態になる高温超電導体が発見されて以来、その組成や製法の改良などにより、ピン止め力や臨界電流密度の増加、結晶の大型化などの特性の向上が図られており、それと共に各種機器への応用についての検討が進められている。現在開発が進められている超電導磁気浮上式鉄道への応用としても、磁気シールドや超電導磁石として使用できる可能性があり、その実用化に向けて各種の検討を進めている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
現在の浮上式鉄道用超電導磁石は、NbTi超電導線を使用しており、液体ヘリウムでの冷却が必要であるため、経済性や安定性などの点から更なる改良が期待されている。
【0004】
また、浮上式鉄道用超電導磁石に高温超電導体を応用する場合には、液体窒素による冷却や、安定性の向上が期待できることから、その実用化が期待されている。
【0005】
高温超電導体を応用する場合としては、従来のNbTi超電導体と同様に線材化してコイルに巻く場合や、バルクの状態で着磁して用いるバルクマグネットの場合が考えられる。
【0006】
本願発明者らも、主に溶融法Y系やNd系などの高温超電導バルク体の持つ大きなピン止め力に注目し、浮上式鉄道用のバルクマグネットとして用いることについて検討を進めている。
【0007】
本発明は、上記状況に鑑みて、浮上式鉄道用超電導磁石として高温超電導バルクマグネットを用い、冷却の簡便化と安定性を図ることができる超電導磁気浮上式鉄道用高温超電導バルクマグネットを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕超電導磁気浮上式鉄道用高温超電導バルクマグネットにおいて、液体窒素用冷凍機を含む液体窒素タンクと、この液体窒素用冷凍機を含む液体窒素タンクに接続される注液用配管及び回収用配管と、外槽と、この外槽内に荷重支持材を介して固定される内槽と、この内槽内に複数個密に並べて固定される中心部に穴の開いた矩形高温超電導バルク体と、この矩形高温超電導バルク体の冷却用通路とを具備することを特徴とする。
【0009】
〔2〕上記〔1〕記載の超電導磁気浮上式鉄道用高温超電導バルクマグネットにおいて、前記矩形高温超電導バルク体を、SUSからなる前記内槽を用いて溶接歪みや熱収縮により押さえて固定することを特徴とする。
【0010】
〔3〕上記〔1〕記載の超電導磁気浮上式鉄道用高温超電導バルクマグネットにおいて、前記冷却用通路は前記高温超電導バルク体のみに、前記内槽のみに、又は前記高温超電導バルク体と前記内槽の両方に設けられることを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1は本発明の実施例を示す超電導磁気浮上式鉄道車両に搭載する高温超電導バルクマグネットの全体模式図、図2は図1のA−A′線断面図、図3はその内槽に収納された高温超電導バルクマグネットの1極分の構成図、図4は図3のB−B′線断面図である。
【0013】
これらの図において、1は液体窒素用冷凍機を含む液体窒素タンク、2はその液体窒素タンク1に接続される注液用配管、3は回収用配管、4は初期冷却、励磁用注液回収ポート、5は外槽、6は内槽、7は外槽と内槽との間に配置される荷重支持材、8は矩形高温超電導バルク体〔ここでは250mm角(2×4個/極配置)〕、9はその矩形高温超電導バルク体に形成される穴、10は高温超電導バルク体、内槽及び高温超電導バルク体と内槽の両方に形成される冷却用通路である。
【0014】
以下、超電導バルクマグネットに要求される大きさや臨界電流密度、バルクマグネットを構成した場合の構造、経験磁界、重量などについて説明し、また、250mm角で200mm角の穴を開けた矩形高温超電導バルク体を、厚さ100mmで用いた場合の浮上式鉄道用高温超電導バルクマグネットの構成についても説明する。
【0015】
上記したバルクマグネットを用いることにより、
(1)冷却の簡素化を図ることができる。すなわち、溶融法Y系やNd系などの高温超電導バルク体は、液体窒素中でも比較的大きな臨界電流密度を有するため、液体窒素による浸漬冷却できる。したがって、液体窒素冷却により、冷却効率の向上、冷却設備の簡素化、さらに車上電源への負荷低減になる。
【0016】
(2)重量の低減を図ることができる。すなわち、液体窒素冷却により、低温容器、熱遮蔽、荷重支持材などの構造が簡単になり、重量の低減化を図ることができる。
【0017】
(3)安定性の向上を図ることができる。すなわち、熱容量が大きく、振動などによる機械的な発熱があってもクエンチが発生しにくい。また、超電導コイルの場合とは異なり、仮に一部が常電導転移した場合でも、極全体の磁束が瞬時に減少することがないため、対向消磁などの対策がなくても、車両運動の安定性を向上させることができる。
【0018】
浮上式鉄道用高温超電導バルクマグネットを用いるに際しては、第1に従来の超電導磁石と同等の磁界を地上コイル位置で発生できることが必要である。
【0019】
ここでは、超電導バルク体を密に並べて効率的な着磁ができるように、矩形超電導バルク体を密に並べた場合について、発生磁界の分布や大きさ、必要な電流密度、さらに経験磁界の大きさを検討する。
【0020】
これまでの検討から、超電導バルク体が大きくなるほど必要な電流密度が小さくなることや、超電導バルク体の中心部分より外周部分の方が外部に発生する磁界への寄与が大きいことなどが分かっている。
【0021】
近年の材料開発により、均質で大きな超電導バルク体の製作が可能になってきているので、100mm角(5×10個/極配置)、167mm角(3×6個/極配置)及び250mm角(2×4個/極配置)の超電導バルク体を密に並べて、厚さを100mmとした場合について検討した。
【0022】
また、図1〜図4に示すように、穴9の開いた矩形超電導バルク体8において、その穴の大きさを変えた場合についても検討した。なお、計算の条件は、着磁により超電導バルク体には、磁界によらず一定の電流密度で、断面全体に均一の電流が流れると仮定した。
【0023】
検討の結果として、表1及び図5に超電導バルク体の大きさや穴の大きさを変えた場合について、必要な電流密度と最大経験磁界の関係を示した。
【0024】
【表1】
検討結果から、超電導バルク体が大きくなるほど必要な電流密度や最大経験磁界は小さくなる。また、穴を開けた場合には、穴の大きさが大きくなると、最大経験磁界は小さくなるが、必要な電流密度が増加する。外部に発生する磁界に対して超電導バルク体の中心部分の寄与が小さいため、必要な電流密度は穴が外径の半分程度になるまでは増加が小さい。一方、経験磁界は、超電導バルク体の中心部分で大きくなるため、その最大値は穴の大きさが大きくなるに従って減少するが、穴が外径の半分程度になると、電流密度の増加により減少の割合は小さくなる。
【0025】
(1)高温超電導バルクマグネットの重量
溶融法Y径高温超電導バルク体の比重は6g/cm3 程度であり、極全体に超電導バルク体を並べて敷き詰めると、コイルの場合に比べて相当な重量増になる。一方、超電導バルク体の中心部分は、外部、特に離れた位置に発生する磁界に対する寄与が小さいため、中心部分に穴9を開けた矩形超電導バルク体の使用が、重量の軽減に有効と考えられる。
【0026】
表1には、厚さ100mmとして、それぞれの寸法の矩形超電導バルク体にした場合の、1つの極当たり超電導バルク体の重量を示した。
【0027】
超電導バルク体を、厚さ100mmとして穴を開けないで極全体に敷き詰めた場合の重量は300kg/極となり、超電導磁石全体では超電導バルク体だけで1200kgに達し、従来の超電導磁石の総重量に匹敵してしまう。一方、外径に対して4/5の内径を持つ穴を開けた場合の重量は108kg/極となり、重量の増加は抑えられる。このように、バルクマグネットでは、穴を開けたり、臨界電流密度を向上させて厚さを薄くすることにより、重量の増加を抑える必要がある。
【0028】
そこで、浮上式鉄道用超電導磁石にバルクマグネットの一例として、250mm角で200mm角の穴を開けた矩形超電導バルク体を、厚さ100mmで用いた場合の浮上式鉄道用バルクマグネットについて検討する。
【0029】
バルクマグネットに適した超電導体としては、溶融法Y系、Nd系などの高磁界中でも臨界電流密度が大きい高温超電導バルク体がある。こうした高温超電導バルク体では、クラックや粒界により特性が低下するため、均質な高温超電導バルク体を使用する必要があり、現在製作されている均質な高温超電導バルク体の大きさは、100mmを越えるものがあり、さらに大型化への挑戦が進められている。
【0030】
一方、発生磁界、必要な電流密度、重量などの観点から、できるだけ大型で、穴の開いた高温超電導バルク体を使用することが有利である。そこで、ここでは、250mm角で200mm角の穴を開けた矩形高温超電導バルク体の使用を考える。なお、高温超電導バルク体の厚さは、通常20mm程度のものが作られているので、それを5枚重ねる構成として、合計の厚さを100mmとする。配置は、一つの極当たり4×2個で、寸法が1m×0.5m、極ピッチ1.35mの4極配置として、従来の超電導磁石に合わせる。
【0031】
この場合、高温超電導バルク体の重量は、比重を6.0g/cm3 とすると、一つの極当たり、13.5kg/個×(4×2)個/極=108kg/極となり、従来の超電導コイルの巻線より多少重くなる程度に収まる。
【0032】
(2)発生磁界
250mm角で200mm角の穴を開けた矩形高温超電導バルク体を用いて、厚さ100mmのバルクマグネット構成した場合には、表1に示すように、必要な電流密度は36894A/cm2 程度、最大経験磁界は7.9T程度である。
【0033】
このようなバルクマグネットが発生する磁界の浮上・案内及び推進コイルとの鎖交磁束量は、図6に示すようになる。従来の超電導磁石が発生する磁界と比べると、高温超電導バルク体を並べたことにより、多少の変動が見られるが、ほとんど同等の鎖交磁束量になっていることが分かる。
【0034】
(3)冷却方法
溶融法Y系、Nd系などの高温超電導バルク体は、Bi系超電導体と比べて、液体窒素温度において高磁界中でも臨界電流密度が高い。この特性を活かして液体窒素による浸漬冷却を行うことで、高温超電導バルク体全体を均一な温度に保持するとともに、走行で加わる機械的な振動による発熱が発生しても充分な冷却効果を確保することができる。
【0035】
従来の超電導磁石では、液体窒素用の冷凍機は搭載せず、地上からの注液により貯蔵タンクに液体窒素を供給している。しかし、バルクマグネットでは、液体ヘリウムによる冷却の必要がなくなるため、液体ヘリウム用の冷凍機の代わりに液体窒素用の冷凍機を搭載しても問題はなく、外部から液体窒素を供給しないシステムとすることができる。
【0036】
さらに、冷却効率の向上や電流リードが無いことで外部からの熱浸入量が低減されることにより、従来の冷凍機に比べると、小型で、軽量化ができ、消費電力も少なく車上電源の負荷低減になる。なお、初期冷却や励磁時には、液体窒素を地上設備から供給して、効率化することが必要である。
【0037】
(4)構造
バルクマグネットの構造は、超電導バルク体の機械的な強度が弱いため、電磁力や機械的な振動に耐えるような補強が必要である。バルクマグネットでは、従来の超電導磁石における外槽の強化、荷重支持材の追加などの振動対策に加えて、発生する電磁力に高温超電導バルク体が耐えられるようにするなどの補強も必要になる。
【0038】
上記を踏まえて、基本的な構造は、図1〜図4に示すように、従来の超電導磁石と同様に、矩形高温超電導バルク体8を納めてそれを液体窒素温度に保つ内槽6、熱遮蔽のための真空層や熱シールド板、機械的な強度と電磁気的な遮蔽効果を持つ外槽5及び液体窒素用冷凍機と貯蔵用タンク1などから構成される。
【0039】
内槽6は、図3及び図4に示すように、矩形高温超電導バルク体8を液体窒素により冷却するための低温容器の役割と、機械的な強度を補強する役割が必要であることから、SUSを用いて溶接歪みや熱収縮により矩形高温超電導バルク体8を固定し、液体窒素が流れる冷却用通路10を確保するような構造とする。
【0040】
荷重支持材7や熱シールド板(図示なし)などは、従来に準じた構成が考えられるが、冷却が液体窒素であるため、荷重支持材7の多重円筒数の減少、熱シールド板の省略など、構造の簡素化と軽量化を図ることができる。
【0041】
外槽5には、従来の超電導磁石では、機械的な強度と地上コイルからの変動磁界を遮蔽する役割を持たすために構造用アルミニウムに加えて純アルミが使われており、本発明のバルクマグネットでも同様の構造とすることが考えられる。
【0042】
バルクマグネットを用いるにあたっては、内槽6部分で矩形高温超電導バルク体8の重量や補強のために重量が増加する可能性があるが、冷凍機や熱シールド板などの冷却系や荷重支持材7などの部分では軽量化できるため、総重量では従来の超電導磁石を用いた場合と同等に抑えることが可能である。
【0043】
また、内槽の材料としては、SUSを挙げたが、これに限定されるものではなく、例えば、アルミニウムやチタンなどを用いるようにしてもよい。
【0044】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【0045】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0046】
(A)バルクマグネットを用いることにより、冷却の簡素化、重量の低減化、及び安定性の向上を図ることができる。
【0047】
(B)SUSを用いて溶接歪みや熱収縮により超電導バルク体を固定することにより、機械的な強度を補強することができる。また、超電導バルク体の冷却通路の形成により、液体窒素が流れ、内槽は低温容器として機能させることができる。
【0048】
(C)超電導バルク体の中心部分は、外部、特に離れた位置に発生する磁界に対する寄与が小さいため、中心部分に穴を開けた矩形超電導バルク体により、磁界への格別の影響を与えること無く、重量の軽減に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例を示す超電導磁気浮上式鉄道車両に搭載する高温超電導バルクマグネットの全体模式図である。
【図2】 図1のA−A′線断面図である。
【図3】 本発明の実施例を示す内槽に収納された高温超電導バルクマグネットの構成図である。
【図4】 図3のB−B′線断面図である。
【図5】 本発明の実施例を示す超電導バルク体の寸法、形状による必要電流密度、最大経験磁界の関係(厚さ100mmの場合)を示す図である。
【図6】 本発明の実施例を示す高温超電導バルクマグネットが発生する磁界の地上コイルと鎖交磁束量(均衡変位:40mmの場合、浮上・案内コイルは上下単位コイルの鎖交磁束量差)である。
【符号の説明】
1 液体窒素用冷凍機を含む液体窒素タンク
2 注液用配管
3 回収用配管
4 初期冷却、励磁用注液回収ポート
5 外槽
6 内槽
7 外槽と内槽との間に配置される荷重支持材
8 矩形高温超電導バルク体
9 穴
10 冷却用通路
Claims (3)
- 超電導磁気浮上式鉄道用高温超電導バルクマグネットにおいて、
(a)液体窒素用冷凍機を含む液体窒素タンクと、
(b)該液体窒素用冷凍機を含む液体窒素タンクに接続される注液用配管及び回収用配管と、
(c)外槽と、
(d)該外槽内に荷重支持材を介して固定される内槽と、
(e)該内槽内に複数個密に並べて固定される中心部分に穴の開いた矩形高温超電導バルク体と、
(f)該矩形高温超電導バルク体の冷却用通路とを具備することを特徴とする超電導磁気浮上式鉄道用高温超電導バルクマグネット。 - 請求項1記載の超電導磁気浮上式鉄道用高温超電導バルクマグネットにおいて、前記矩形高温超電導バルク体を、SUSからなる前記内槽を用いて溶接歪みや熱収縮により押さえて固定することを特徴とする超電導磁気浮上式鉄道用高温超電導バルクマグネット。
- 請求項1記載の超電導磁気浮上式鉄道用高温超電導バルクマグネットにおいて、前記冷却用通路は前記高温超電導バルク体のみに、前記内槽のみに、又は前記高温超電導バルク体と前記内槽の両方に設けられることを特徴とする超電導磁気浮上式鉄道用高温超電導バルクマグネット。
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