(関連出願の相互参照)
これは、以下の同時係属出願、第09/037,328号(1998年3月9日出願、題名「通信システムにおける雑音を低減する装置と方法」、発明者Oscar E.Agazzi)、第09/078,466号(1998年5月14日出願、題名「高スループット通信システム用起動プロトコル」、発明者Oscar E.Agazzi及びJohn L.Creigh、第09/078,933号(1998年5月14日出願、題名「高スループット通信システム用起動プロトコル」、発明者Oscar E.Agazzi)、及び第09/143,476号(1998年8月28日出願、題名「通信システムにおける電力散逸を低減する装置と方法」、発明者Oscar E.Agazzi、John L.Creigh、及びMehdi Hatamian)の一部継続出願である。
基本通信システムが図1に例示される。このシステムにはハブと、ローカルエリア・ネットワーク(LAN)内でハブによるサービスの対象となる複数のコンピュータが含まれる。例示として4つのコンピュータが示されるが、異なった数のコンピュータがシステム中に含まれることもある。各コンピュータは普通、約100メートル(100m)程度の距離だけハブから離れている。コンピュータはまた、互いに離れている。ハブは通信線路によって各コンピュータに接続されている。各通信線路には、アンシールド・ツイストペア・ワイヤまたはケーブルが含まれる。一般に、ワイヤまたはケーブルは銅から形成される。4つのアンシールド・ツイストペア・ワイヤが各コンピュータとハブの間の各通信線路に提供される。図1に示されるシステムは、通信産業でカテゴリー3、4、6及び7として指定されるいくつかのカテゴリーのアンシールド・ツイストペア・ケーブルと共に動作する。カテゴリー3ケーブルは最低品質(かつ最低費用)であり、カテゴリー6及び7は最高品質(かつ最高費用)である。
各通信システムに関連するのは「スループット」である。システムのスループットは、システムがデータを処理する速度であり、普通ビット/秒で表される。大部分の通信システムは、10メガビット(Mb)/秒または100Mb/秒のスループットを有する。通信システム技術の急速に発展する領域では、既存のカテゴリー5アンシールド・ツイストペア・ケーブル上で1Gb/秒全二重通信が可能になっている。このシステムは一般に「ギガビット・イーサネット」と呼ばれている。
通常のギガビット・イーサネットの一部が図2に示される。ギガビット・イーサネットは、1つのコンピュータとハブの間のデジタル信号の送信と、もう一方のコンピュータとハブでのその信号の受信を提供する。同様のシステムが各コンピュータに提供される。このシステムにはギガビット媒体独立インタフェース(gigabit medium independent interface、GMII)が含まれるが、これは、バイトワイド形式のデータを指定されたレート、例えば125MHzで受信し、スクランブル、コーディング、及び多様な制御機能を行う物理コーディング副層(physical coding sublayer、PCS)にこのデータを伝える。PCSはGMIIからのビットを5段階のパルス振幅変調(PAM)信号に符号化する。5つの記号レベルは−2、−1、0、+1及び+2である。コンピュータとハブの間の通信は、各々250Mb/秒で動作する4つのアンシールド・ツイストペア・ワイヤまたはケーブルと、アンシールド・ツイストペアの各終端に1つずつ配置された8つの送受信機を使用して達成される。全二重双方向動作は各アンシールド・ツイストペアの2つの終端でのハイブリッド回路の使用を規定する。このハイブリッドは通信線路へのアクセスを制御し、それによって通信線路各終端の送受信機間での全二重双方向動作を可能にする。
多数のアンシールド・ツイストペアと多数の送受信機を利用する通信システムに関連する共通の問題は、漏話及びエコー雑音または障害信号が伝送信号に導入されることである。雑音は、システム・スループットと無関係にこの種の全ての通信システムに固有である。しかし、こうした障害信号の影響はギガビット・イーサネットでは大きくなる。障害信号にはエコー、近端漏話(NEXT)、及び遠端漏話(FEXT)信号が含まれる。こうした障害信号の結果、送受信機、特に受信機部分の性能は劣化する。
NEXTは、近端送信機から受信機の入力への信号の容量性及び誘導性結合から生じる障害信号である。送受信機A中の受信機が遭遇するNEXT障害信号が図3に示される。受信機Aは送信機Eからの直接信号を検出しようとしているが、受信機Aには送信機B、C及びDからの漏話信号が雑音として現れる。システム中の各受信機は同じ影響に遭遇するので、受信機を通過する信号はNEXT障害信号による劣化を経験する。図3ではわかりやすくするために、受信機Aが経験するNEXT障害信号だけが例示されている。
同様に、通信システムの双方向的性質のため、エコー障害信号は、送信機と同じ送受信機中に含まれる受信機でも、各送信機によって発生する。各送受信機中の受信機が遭遇するエコー障害信号が図4に示される。受信機は通信線路の反対側終端で送信機からの信号を検出しようとしているが、受信機には送信機からの漏話信号が雑音として現れる。システム中の各受信機は同じ影響に遭遇するので、受信機を通過する信号はエコー障害信号による信号歪みを経験する。
遠端漏話(FEXT)は、遠端送信機から受信機の入力への信号の容量性結合から生じる障害である。送受信機A中の受信機が遭遇するFEXT障害信号が図5に示される。受信機Aは送信機Eからの直接信号を検出しようとしているが、受信機Aには送信機F、G及びHからの漏話信号が雑音として現れる。システム中の各受信機は同じ影響に遭遇するので、受信機を通過する信号はFEXT障害信号による信号歪みを経験する。図5ではわかりやすくするために、受信機Aが経験するFEXT障害だけが例示されている。
こうした雑音障害信号の結果、通信システムの性能は劣化する。システムによって伝えられる信号は歪められ、システムは高い信号誤差率を経験する。従って、当業技術分野では、雑音障害信号によって発生する通信システム性能の劣化を補償する方法と装置を提供し、かつ、ギガビット・イーサネットのような高スループット・システムにおいてこの種の雑音を低減する方法と装置を提供する必要が存在する。本発明の態様はこうした必要を満たすものである。
通信線路の1つの終端の4つの送受信機が図6に例示されている。送受信機の構成要素は、各層が1つの送受信機に対応する、重なり合うブロックとして示されている。図6のGMII、PCS及びハイブリッドは図2のGMII、PCS及びハイブリッドに対応し、送受信機とは独立したものと考えられる。送受信機とハイブリッドの組合せは通信システムの1つの「チャネル」を形成する。従って、図6は、各々同様の方法で動作する4つのチャネルを例示している。各送受信機の送信機部分にはパルス整形フィルタとデジタル・アナログ(D/A)変換器が含まれる。各送受信機の受信機部分には、アナログ・デジタル(A/D)変換器、先入れ先出し(FIFO)バッファ、フィードフォワード等化器(FFE)を含むデジタル適応等化器システム及び検出器が含まれる。受信機部分にはまた、タイミング回復システムと、NEXTキャンセル・システム及びエコー・キャンセラを含む近端雑音低減システムも含まれる。NEXTキャンセル・システムとエコー・キャンセラには通常非常に多くの適応フィルタが含まれる。
通信線路の特性、例えば長さは、NEXTとエコー雑音を有効に打ち消すNEXTキャンセル・システムとエコー・キャンセラの能力に影響することがある。通常のケーブル応答の測定とシミュレーションが示すところによれば、こうした干渉源の十分なキャンセル・レベルを提供するためには、「長い」エコー及びNEXTキャンセラが必要である。「長い」という術語はケーブルの特性によって必要になる多数のタップを有するキャンセラを説明するために使用されている。例えば、図7は、85オーム及び100オーム終端の特性インピーダンスを有する100mケーブルのエコー・インパルス応答を示す。定格特性インピーダンスは100オームであるが、製造規格は15%の公差を許容している。このインピーダンス不整合の結果ケーブルの遠端で反射が発生し、約1マイクロ秒の遅延を伴う2次パルスが発生することがある。長い遅延のため、このパルスを打ち消すには約140タップ(1マイクロ秒の遅延を対象とする125タップ、プラス2次パルスを打ち消す約15の追加タップ)が必要になる。
エコー・インパルス応答は遅延の中間値に付加的反射を有することが多い。さらに、ケーブルの不均等反射減衰量のためケーブルに沿って特性インピーダンスの連続的な変化が発生し、その結果中間点で多数の小さな反射が生じることがある。こうした中間反射が意味することは、エコー・キャンセラは初期インパルスと終端反射だけを打ち消すように構成すべきではなく、全範囲のインパルス応答を対象にするように構成すべきだということである。ケーブル特性が変化する結果、ケーブル・インパルス応答の変化も多様になる。さらに、個々のケーブルの応答はその動作環境の結果として変化することがある。例えば、動作温度の変化によってケーブルのインパルス応答が変化することがある。従って、タップが必要になる位置を事前計算し、この位置をエコー及びNEXTキャンセラの設計に組み込むことは困難である。図8は、100mケーブルのNEXTインパルス応答を示す。示されるように、NEXT応答も長く、NEXTキャンセル・システムを構成するNEXTキャンセラ中の多数のタップを必要とすることになる。NEXT及びエコー・キャンセラの組合せはギガビット・イーサネットにおけるDSP動作の大部分を消費する。
こうしたシステムで満足の行く性能を達成するために必要な多数のタップのため、高度の電力散逸が生じる。こうした高度の電力散逸は、高スループット通信システム、特にギガビット・イーサネットを動作不能で市場に向かないものにするという点で望ましくない。従って、当業技術分野では、多数のタップを利用する通信システムの電力散逸を低減する方法と装置を提供し、かつ、ギガビット・イーサネットのような高スループット・システムにおいてこの種の電力散逸を低減する方法と装置を提供する必要が存在する。本発明の態様はこうした必要を満たすものである。
ギガビット・イーサネット送受信機の動作の最も重要な段階の1つは起動である。この段階で、送受信機内に含まれる適応フィルタが収束し、タイミング回復サブシステムが周波数と位相の同期を獲得し、4つのワイヤ・ペアの間の遅延の差が補償され、ペアの一致と極性が獲得される。起動が成功裡に完了すると、送受信機の正常な動作を開始することが可能になる。
「ブラインド開始」として知られる1つの起動プロトコルでは、送受信機はその適応フィルタとタイミング回復システムを同時に収束する一方、タイミング同期をも獲得する。この起動の欠点は、送受信機中の様々な適応及び獲得アルゴリズムの間で高レベルの対話が必要なことである。この高レベルの対話は、起動中に発生する収束及び同期動作の信頼性を低下させる。
従って、当業技術分野では、最適な動作のシーケンスを使用し、様々な適応及び獲得アルゴリズム間の対話を最小化する、ギガビット・イーサネットのような高スループット通信システムで使用するための起動プロトコルを提供する必要が存在する。本発明の態様はこうした必要を満たすものである。
簡単に、かつ一般的に言うと、本発明は通信システム中の雑音と電力散逸を低減するシステムと方法に関する。本発明はまた、通信システムで使用するための起動プロトコルに関する。
第1の態様では、本発明は、所定のしきい値誤差を有する通信システムに関する。この通信システムには、複数のツイスト・ワイヤ・ペアを有する通信線路と、各ツイスト・ワイヤ・ペアの各終端に1つの送信機がある複数の送信機と、各ツイスト・ワイヤ・ペアの各終端に1つの受信機がある複数の受信機とが含まれ、各受信機は、受信機が関連するツイスト・ワイヤ・ペアの反対側終端の送信機からの直接信号と複数の雑音信号を含む組合せ信号を受信する。このシステムにはまた、組合せ信号に応答する複数の適応フィルタが含まれ、各適応フィルタは、各々係数を有する複数のタップを有し、各タップはアクティブ及びイナクティブ状態の間で切換可能である。このシステムにはさらに、通信システムの誤差がしきい値誤差を越えないことを保証しつつ、タップを選択的に非活動化することで、少なくとも1つの適応フィルタの伝達関数を周期的に調整する制御装置が含まれる。
少なくとも1つの適応フィルタのタップを選択的に非活動化することで、本発明はフィルタの電力消費と、ひいては通信システムの総合電力消費を低減する。
さらに詳細な態様では、この通信システムにはさらに、各々少なくとも1つの適応フィルタを備える複数の雑音低減システムが含まれる。1つの雑音低減システムは各受信機に関連し、少なくとも1つの複製雑音障害信号を提供する。このシステムにはまた、1つが各受信機に関連する複数の装置が含まれる。各装置はその受信機によって受信される組合せ信号と、その受信機に関連する雑音低減システムによって提供される複製雑音障害信号とに応答し、組合せ信号から少なくとも1つの雑音信号をほぼ除去する。別の面では、雑音信号には、受信機が関連するツイスト・ワイヤ・ペアの反対側終端の送信機以外の、通信線路の反対側終端の各送信機から1つの、複数の遠端漏話(FEXT)障害信号が含まれ、雑音低減システムには、複製雑音障害信号の1つとして複製FEXT障害信号を提供するFEXTキャンセル・システムが含まれる。また別の態様では、雑音信号には、受信機が関連するツイスト・ワイヤ・ペアの同じ終端の送信機以外の、通信線路の同じ終端の各送信機から1つの、複数の近端漏話(NEXT)障害信号が含まれ、雑音低減システムには、複製雑音障害信号の1つとして複製NEXT障害信号を提供するNEXTキャンセル・システムが含まれる。また別の態様では、雑音信号には、受信機が関連するツイスト・ワイヤ・ペアの同じ終端の送信機から受信されるエコー障害信号が含まれ、雑音低減システムには、複製雑音障害信号の1つとして、複製エコー障害信号を提供するエコー・キャンセラが含まれる。別の詳細な態様では、制御装置には、各タップの状態を設定する手段と、システムの現在の誤差を計算する手段と、現在の誤差をしきい値誤差と比較する手段とが含まれる。さらに別の面では、各タップの状態を設定する手段には、各タップについてタップしきい値を指定する手段と、各タップについてタップ係数の絶対値とタップしきい値を比較する手段と、絶対値がタップしきい値より小さい係数を有するタップを非活動化する手段とが含まれる。
第2の態様では、本発明は、複数のツイスト・ワイヤ・ペアを有する通信線路と、各ツイスト・ワイヤ・ペアの各終端に1つの複数の送受信機とを有する通信システムを動作させる方法である。各送受信機は受信機と送信機を有する。各受信機は、受信機が関連するツイスト・ワイヤ・ペアの反対側終端の送信機からの直接信号と、複数の雑音信号とを含む組合せ信号を受信する。各送受信機にはさらに、組合せ信号に応答する複数の適応フィルタが含まれる。各適応フィルタは、各々係数を有する複数のタップを有する。各タップはアクティブ及びイナクティブ状態の間で切換可能である。本方法には、システムのしきい値を指定するステップと、システムの誤差がしきい値誤差を越えないことを保証しつつタップを選択的に非活動化することで少なくとも1つの適応フィルタの伝達関数を周期的に調整するステップとが含まれる。
さらに詳細な面では、本方法にはさらに、各受信機について、少なくとも1つの複製雑音障害信号を生成するステップと、少なくとも1つの雑音信号がほとんどない出力信号を発生するために、少なくとも1つの複製雑音障害信号を組合せ信号と結合するステップとが含まれる。別の面では、伝達関数を調整するステップには、各タップの状態を設定するステップと、システムの現在の誤差を計算するステップと、現在の誤差をしきい値誤差と結合するステップとが含まれる。別の面では、通信システムの1つの送受信機はマスタの役目を果たし、もう1つの送受信機はスレーブの役目を果たす。各送受信機は雑音低減システム、タイミング回復システム及び少なくとも1つの等化器を有する。本方法にはさらに、スレーブのタイミング回復システムと等化器がトレーニングされマスタの雑音低減システムがトレーニングされる第1段階を実行するステップと、マスタのタイミング回復システムと等化器がトレーニングされスレーブの雑音低減システムがトレーニングされる第2段階を実行するステップと、マスタの雑音低減システムがトレーニングされる第3段階を実行するステップとが含まれる。また別の面では、通信システムの1つの送受信機はマスタの役目を果たし、もう1つの送受信機はスレーブの役目を果たす。各送受信機は雑音低減システム、タイミング回復システム及び少なくとも1つの等化器を有する。本方法にはさらに、スレーブのタイミング回復システムと等化器がトレーニングされマスタの雑音低減システムがトレーニングされる第1段階を実行するステップと、マスタのタイミング回復システムが周波数と位相の両方についてトレーニングされマスタの等化器がトレーニングされスレーブの雑音低減システムがトレーニングされる第2段階を実行するステップと、マスタの雑音低減システムが再トレーニングされマスタのタイミング回復システムが位相について再トレーニングされスレーブのタイミング回復システムが周波数と位相の両方について再トレーニングされる第3段階を実行するステップとが含まれる。
第3の面では、本発明は、複数のツイスト・ワイヤ・ペアを有する通信線路と、各ツイスト・ワイヤ・ペアの各終端に1つの送信機がある複数の送信機と、複数の受信機とを含む通信システムである。1つの受信機は各ツイスト・ワイヤ・ペアの各終端にある。各受信機は、受信機が関連するツイスト・ワイヤ・ペアの反対側終端の送信機からの直接信号と、通信線路の反対側終端の残りの各送信機から1つの複数の遠端漏話(FEXT)障害信号を含む組合せ信号を受信する。このシステムにはまた、1つが各受信機に関連する、複数のFEXTキャンセル・システムが含まれる。各FEXTキャンセル・システムは複製FEXT障害信号を提供する。このシステムにはさらに、1つが各受信機に関連する、複数の遅延装置が含まれる。各遅延装置は、その受信機が受信した組合せ信号に応答し、組合せ信号を遅延する。また、1つが各受信機に関連する、複数の第1装置が含まれる。各第1装置は、その受信機に関連する遅延装置の出力と、その受信機に関連するFEXTキャンセル・システムによって提供される複製FEXT障害信号に応答し、組み合わせ信号からFEXT障害信号をほぼ除去する。
複製FEXT障害信号を生成する複数のFEXTキャンセル・システムと、複製FEXT障害信号を組み合わせ信号と結合する複数の装置を提供することで、本発明は組み合わせ信号からFEXT障害信号をほぼ打ち消す。従って、通信システム中の雑音による信号劣化は低減され、伝送された情報はさらに確実に回復される。
さらに詳細な面では、FEXTキャンセル・システムには、FEXTキャンセラが関連する受信機以外の通信システムの同じ終端の各受信機から信号を受信する手段が含まれる。FEXTキャンセル・システムにはまた、各受信信号について個別複製FEXT障害信号を生成する手段と、複製FEXT障害信号を生成するために、個別複製FEXT障害信号を結合する手段とが含まれる。別の態様では、直接信号がFEXT信号の後到達する時、遅延装置は、FEXT障害信号と直接信号が受信機に到達する間の時間遅延にほぼ等しい量だけ組み合わせ信号を遅延する。また別の面では、直接信号がFEXT障害信号の後到達する時、遅延装置は、FEXT障害信号と直接信号が受信機に到達する間の時間遅延にほぼ等しい量と、
その組合せ信号が他の受信機からの組合せ信号と同期するような量との大きい方だけ組合せ信号を遅延する。
第4の態様では、本発明は通信システムにおいて雑音を低減する方法に関する。このシステムには、複数のツイスト・ワイヤ・ペアを有する通信線路が含まれる。このシステムにはまた、各ツイスト・ワイヤ・ペアの各終端に1つの送信機がある複数の送信機が含まれる。このシステムにはさらに、各ツイスト・ワイヤ・ペアの各終端に1つの受信機がある複数の受信機が含まれる。各受信機は、受信機が関連するツイスト・ワイヤ・ペアの反対側終端の送信機からの直接信号と、通信線路の反対側終端の残りの各送信機から1つの複数の遠端漏話(FEXT)障害信号を含む組合せ信号を受信する。本方法には、各受信機について、複製FEXT障害信号を生成するステップと、FEXT障害信号がほとんどない出力信号を生成するために複製FEXT障害信号を組合せ信号と結合するステップとが含まれる。
第5の態様では、本発明は、各タップがアクティブ及びイナクティブ状態の間で切換可能であり、各々係数を伴う複数のタップを伴う複数の適応フィルタを有する通信システム内の電力散逸を低減する方法を伴う。本方法には、a)システムの許容可能な誤差を指定するステップと、b)各アクティブ・タップについてタップしきい値を設定するステップと、c)各アクティブ・タップについて、絶対値がアクティブ・タップについて設定されたタップしきい値より小さい係数を有するタップを非活動化するステップと、d)システム誤差を計算するステップと、e)計算されたシステム誤差を許容可能なシステム誤差と比較するステップと、f)計算されたシステム誤差が許容可能なシステム誤差より小さい場合、各アクティブ・タップについてタップしきい値を増大するステップと、g)計算されたシステム誤差が許容可能なシステム誤差を越えることなく許容可能なシステム誤差に接近するまでステップc)〜ステップf)を繰り返すステップとが含まれる。
第6の面では、本発明は、各タップがアクティブ及びイナクティブ状態の間で切換可能であり、各タップが係数を有する複数のタップを伴う少なくとも1つの適応フィルタを有する通信システム内の電力散逸を低減する方法を伴う。本方法には、a)初期システム誤差を計算するステップと、b)各アクティブ・タップについて、タップ誤差しきい値を設定するステップと、c)各アクティブ・タップについて、絶対値がアクティブ・タップについて設定されたタップ誤差しきい値より小さい係数を有するタップを非活動化するステップと、d)次のシステム誤差を計算するステップと、e)次のシステム誤差と初期システム誤差の間の差が所定の値より小さい場合、各アクティブ・タップについてタップ誤差しきい値を増大するステップと、f)次のシステム誤差と初期システム誤差の間の差が所定の値を越えるまでステップc)〜ステップe)を繰り返すステップが含まれる。
第7の態様では、本発明は、ツイスト・ワイヤ・ペアの1つの終端のマスタ送受信機と、ツイスト・ワイヤ・ペアの反対側終端のスレーブ送受信機を有する通信システムで使用するための起動プロトコルである。各送受信機は、近端雑音低減システム、遠端雑音低減システム、タイミング回復システム、及び少なくとも1つの等化器を有する。本プロトコルには、第1段階中に、信号を送信するが何ら信号を受信しない半二重モードにマスタを維持するステップと、マスタからの信号を受信するが何ら信号を送信しない半二重モードにスレーブを維持するステップと、マスタ近端雑音低減システムを収束するステップと、周波数と位相がマスタによって送信される信号の周波数と位相に同期するように、スレーブによって受信される信号の周波数と位相を調整するステップと、スレーブの等化器を収束するステップとが含まれる。また、第2段階中に、信号を送信するが何ら信号を受信しない半二重モードにスレーブを維持するステップと、スレーブからの信号を受信するが何ら信号を送信しない半二重モードにマスタを維持するステップと、スレーブの周波数と位相をフリーズするステップと、スレーブ近端雑音低減システムを収束するステップと、位相がスレーブによって送信される信号の位相に同期するように、マスタによって受信される信号の位相を調整するステップと、マスタの等化器を収束するステップとが含まれる。また、第3段階中に、スレーブが信号を送信及び受信するような全二重モードにスレーブを維持するステップと、マスタが信号を送信及び受信するような全二重モードにマスタを維持するステップと、マスタ近端雑音低減システムを再収束するステップとが含まれる。
第8の面では、本発明は、通信線路の1つの終端のマスタ送受信機と、通信線路の反対側終端のスレーブ送受信機を有し、各送受信機が近端雑音低減システム、遠端雑音低減システム、タイミング回復システム、及び少なくとも1つの等化器を有する通信システムで使用するための起動プロトコルである。本プロトコルには、第1段階中に、信号を送信するが何ら信号を受信しない半二重モードにマスタを維持するステップと、マスタからの信号を受信するが何ら信号を送信しない半二重モードにスレーブを維持するステップと、マスタ近端雑音低減システムを収束するステップと、周波数と位相がマスタによって送信される信号の周波数と位相に同期するように、スレーブによって受信される信号の周波数と位相を調整するステップと、スレーブの等化器を収束するステップとが含まれる。本プロトコルにはさらに、第2段階中に、自走クロックを使用して信号を送信するが何ら信号を受信しない半二重モードにスレーブを維持するステップと、スレーブからの信号は受信するが何ら信号を送信しない半二重モードにマスタを維持するステップと、スレーブ近端雑音低減システムを収束するステップと、周波数と位相がスレーブによって送信される信号の周波数と位相に同期するようにマスタによって受信される信号の周波数と位相を調整するステップと、マスタの等化器を収束するステップとが含まれる。本プロトコルにはまた、第3段階中に、スレーブが信号を送信及び受信するような全二重モードにスレーブを維持するステップと、マスタが信号を送信及び受信するような全二重モードにマスタを維持するステップと、マスタ近端雑音低減システムを再収束するステップと、位相がスレーブによって送信される信号の位相に同期するように、マスタによって受信される信号の位相を調整するステップと、周波数と位相がマスタによって送信される信号の周波数と位相に同期するように、スレーブによって受信される信号の周波数と位相を調整するステップとが含まれる。
起動プロトコルを3つの段階に分割することで、等化器とタイミング回復システムの収束は、雑音低減システムの収束と分離される。従って、送受信機中の様々な適応及び獲得アルゴリズム間の対話は減少し、収束及び同期動作の信頼性が向上する。
本発明のこれらと他の態様及び利点は、本発明の好適実施形態を例示として示す添付の図面と共に見る時、以下のさらに詳細な説明から明らかになるだろう。
本明細書中の議論は、本発明の説明と理解を目的とし、特にギガビット・イーサネットに関するものと考えられる。しかし、本発明の概念と請求項の範囲はギガビット・イーサネット以外の種類の通信システムにも適用されることが理解される。
通信システムの概観
本発明の特徴を組み込んだ通信システムは一般に図1に10で示される。このシステム10には、ハブ12と、ローカルエリア・ネットワーク(LAN)中のハブのサービスの対象となる複数のコンピュータが含まれる。4つのコンピュータ14が例示として示されているが、異なった数のコンピュータが本発明の範囲から離れることなく使用されることがある。各コンピュータ14は約100メートル(100m)程度の距離だけハブ12から離れている。コンピュータ14はまた、互いにも離れている。
ハブ12は通信線路16によって各コンピュータ14に接続されている。通信線路16は複数のアンシールド・ツイストペア・ワイヤまたはケーブルを備えている。一般に、ワイヤまたはケーブルは銅から形成される。4つのアンシールド・ツイストペア・ワイヤがシステム10中の各コンピュータとハブ12の間に提供される。図1に示されるシステムは、通信産業でカテゴリー3、4、5、6及び7として指定されるいくつかのカテゴリーのツイストペア・ケーブルと共に動作する。カテゴリー3ケーブルは最低品質(かつ最低費用)であり、カテゴリー6及び7は最高品質(かつ最高費用)である。ギガビット・イーサネットはカテゴリー5ケーブルを使用する。
図2は、1つの通信線路16と1つのコンピュータ14及びハブ12の一部を含む、図1の通信システムの一部を詳細に例示する。通信線路16には、250Mb/秒/ペアで動作する4つのアンシールド・ツイストペア・ワイヤ18が含まれる。送信機(TX)22と受信機(RX)24を含む送受信機20が、各ツイストペア18の各アンシールド終端に配置されている。各送受信機20とその関連するアンシールド・ツイストペア18の間にはハイブリッド26がある。ハイブリッド26は、通信線路の各終端の送受信機20間で全二重双方向動作を可能にする通信線路16へのインタフェースである。ハイブリッドはまた、送受信機に関連する送信機と受信機を互いに分離するよう機能する。
この通信システムには、ギガビット媒体独立インタフェース(GMII)28と呼ばれる標準コネクタが含まれる。GMII28は、送信及び受信両方向の8ビット幅データ経路である。125MHzといった適切な周波数でクロックされ、GMIIは250Mb/秒/ペアといった適切な速度の両方向データのネット・スループットを生じる。GMIIは送信及び受信両方向で対称インタフェースを提供する。物理コーディング副層(PCS)30はGMII28と送受信機20の間でデータを受信及び送信する。PCS30は、データを送受信機またはGMIIの何れかに転送する前のデータのスクランブル、符号化/復号化といった機能を果たす。PCSはGMIIからのビットを5レベルのパルス振幅変調(PAM)信号に符号化する。5つの記号レベルとは−2、−1、0、+1及び+2である。PCSはまた、以下説明されるようにスキュー制御のような、送受信機のいくつかの機能を制御する。
送受信機回路
4つの送受信機20が図9で詳細に例示される。送受信機20の構成要素は、各層が1つの送受信機に対応する重なり合うブロックとして示される。図9のGMII28、PCS30及びハイブリッド26は、図2のGMII、PCS及びハイブリッドに対応し、送受信機と分離したものとみなされる。送受信機20とハイブリッド26の組合せは通信システムの1つの「チャネル」を形成する。従って、図9は、各々同様の方法で動作する4つのチャネルを例示する。
各送受信機20の送信機部分には、パルス整形フィルタ32とデジタル・アナログ(D/A)変換器34が含まれる。本発明の好適実施形態では、D/A変換器34は125MHzで動作する。パルス整形フィルタ32はPCSから1つの1次元(1−D)記号を受信する。この記号は、xが4つのチャネル各々に対応する1〜4である時TXDatax記号36と呼ばれる。TXDatax記号36は2ビットのデータを表す。PCSは各チャネルについて1つの1−D記号を生成する。各チャネルの記号は、パルス整形フィルタ32でフォーム0.75+0.25z-1のスペクトル整形フィルタを通過し、エミッションがFCC要求の範囲内に制限される。この簡単なフィルタは、送信機出力の電力スペクトル密度が2ペアのカテゴリー5ツイストペア・ワイヤ上で100Mb/秒で動作する通信システムのものより低くなるようにスペクトルを整形する。次に記号は、低域通過フィルタの役目をも果たすD/A変換器34によってアナログ信号に変換される。アナログ信号はハイブリッド回路26を通じてアンシールド・ツイストペア・ワイヤ18へのアクセスを得る。
各送受信機の受信機部分には、信号検出器41、A/D変換器42、FIFO44、デジタル適応等化器システム、タイミング回復回路及び雑音低減回路が含まれる。デジタル適応等化器システムには、フィードフォワード等化器(FFE)46、2つの装置50、56、スキュー調整器54及び2つの検出器58、60が含まれる。これらの構成要素の機能は、本発明に関連して以下説明される。雑音低減回路には、NEXTキャンセル・システム38、エコー・キャンセラ38及びFEXTキャンセル・システム70が含まれる。
A/D変換器42は、125MHzといった、信号のボー・レートに等しい適切な周波数で、ハイブリッド26から受信された信号のデジタル変換を提供する。A/D変換器42は、決定志向タイミング回復回路64によって提供されるアナログ・サンプル・クロック信号によりアナログ信号をサンプリングする。FIFO44はA/D変換器42からデジタル変換信号を受信し、それを先入れ先出しベースで保存する。FIFO44は、タイミング回復回路64によって提供されるデジタル・サンプル・クロック信号80によって個々の信号をFFE46に転送する。FFE46はFIFO44からデジタル信号を受信し、その信号をフィルタリングする。FFE46は最小二乗平均(LMS)形適応フィルタであり、チャネル等化及び先行符号間干渉(ISI)キャンセルを行い信号の歪みを訂正する。
注意されるように、A/D変換器42に導入されその後FIFO44及びFFE46に導入される信号はいくつかの構成要素を有する。こうした構成要素には、受信機24が関連するアンシールド・ツイストペア・ワイヤ18の反対側終端の送信機22から直接受信された直接信号が含まれる。また、前に説明したように、他の送信機22からの1つかそれ以上のNEXT、エコー、及びFEXT障害信号も含まれる。直接信号と1つかそれ以上の障害信号を含む信号は「組合せ信号」と呼ばれる。
FFE46は組合せ信号48を、通常合計装置である第2装置50に転送する。第2装置50では、組合せ信号48はNEXTキャンセル・システム38とエコー・キャンセラ40の出力と組み合わされ、NEXT及びエコー障害信号がほとんどない信号が生成される。この信号は「第1ソフト決定」52と呼ばれる。信号検出器41は第2装置50からの信号を検出し、その信号をスキュー調整器54に転送する。信号検出の際、信号検出器41は様々なシステム動作を開始するが、その1つには、以下説明されるように、起動プロトコル各段階間の遷移が含まれる。スキュー調整器54は第2装置50から第1ソフト決定52を受信し、「第2ソフト決定」66と呼ばれる信号を出力する。スキュー調整器54は2つの機能を行う。第1に、システム中の全ての受信機からの第2ソフト決定66が同期するように第1ソフト決定52を遅延することで、アンシールド・ツイストペア18の長さの差を補償する。第2に、第2ソフト決定66がFEXTキャンセル・システム70の出力とほぼ同時に第1装置56に到達するように、第1ソフト決定52の遅延を調整する。スキュー調整器54はPCS30からスキュー制御信号82を受信する。
スキュー調整器54は、第2ソフト決定66を、通常合計装置である第1装置56に転送する。第1装置56では、第2ソフト決定66がFEXTキャンセル・システム70の出力と結合され、FEXT障害信号がほとんどない信号が生成される。この信号は「第3ソフト決定」68と呼ばれる。第1検出器58は第1装置56から第3ソフト決定68を受信する。第1検出器58は出力信号、すなわち「最終決定」72を提供する。第1検出器58は、第3ソフト決定68のレベルに最も近い大きさのアナログ信号レベルに対応する最終決定72を生成するスライサである。第1検出器58はまた、記号毎の検出器、または、ヴィテルビ復号器のように、全ての4つのチャネルにわたって信号の順序に基づいて動作する順次検出器である。
送受信機の1つの構成では、第1検出器58は記号毎の検出器である。各チャネルに1つの記号毎の検出器58のグループが図10に示される。各第1検出器58にはスライサ98、適応フィードバック・フィルタ100及び加算器102が含まれる。加算器102は第3ソフト決定68を適応フィードバック・フィルタ100の出力と結合し、出力を提供するが、その出力はスライサ98に導入される。スライサ98の出力は適応フィードバック・フィルタ100に導入される。第1検出器58は、第3ソフト決定68とフィードバック・フィルタ100の出力の間の差に最も近い、集合[−2、−1、0、1、2]からの離散的レベルに対応する出力信号72を提供する。適応フィードバック・フィルタ100は第3ソフト決定68の歪みを訂正する。このフィルタ100は過去のスライサ98の決定を使用して、チャネルによって発生する後続ISIを推定する。このISIは第3ソフト決定68から打ち消され、最終決定信号72が形成される。
送受信機の別の構成では、第1検出器58は、普通多重DFEアーキテクチャ(MDFE)順次検出器として知られるアーキテクチャを使用する、順次復号器と決定フィードバック等化器(DFE)の組合せである。順次復号器58は、同時かつ、単位時間のいくつかの期間にわたって各チャネルからの連続サンプルで、4つのチャネル全てから全ての信号を見る。順次復号器は入力として、各第1装置56から少なくとも1つの信号を受信する。順次復号器58は、一般に、第1装置56からの出力信号の順序に応答し、(1)その信号の許容可能な順序を通過させ、(2)システムに関連する符号標準によって確立される制約によって、その信号の許容できない順序を廃棄する。許容可能な順序とは符号制約に従うものであり、許容できない順序とは符号制約に違反するものである。
第2検出器60(図9)は第2装置50から第1ソフト決定52を受信する。第2検出器60は第1検出器58(図10)と同様の記号毎の検出器である。これは、第1ソフト決定52とフィードバック・フィルタ100の出力の間の差に最も近い、集合[−2、−1、0、1、2]からの離散的レベルに対応する出力信号74を提供する。第2検出器60はFEXTキャンセルを利用しない出力信号74を生成するので、その結果、この決定は、FEXTキャンセルを利用する第1検出器58によるものより高い誤差率を有する。この事実のため、この決定は「暫定的決定」と呼ばれる。第2検出器60への入力中に存在する後続ISIは、暫定的決定74を入力とする第2検出器内に収容される適応フィードバック・フィルタ100(図10)を使用して打ち消されることに注意することは重要である。この適応フィードバック・フィルタ100の係数は、第1検出器58(図9)に関連する適応フィードバック・フィルタのものと同じである。
通常合計装置である第3装置62は、第2装置50からの第1ソフト決定信号52と、第2検出器60からの暫定的決定信号74を受信する。第3装置62では、第1ソフト決定52は暫定的決定信号74と結合されて誤り信号76が生成され、それがタイミング回復回路64に導入される。タイミング回復回路64は、第2検出器60からの暫定的決定74と、第3装置62からの誤差信号76を受信する。これらの信号を入力として使用して、タイミング回復回路64は、A/D変換器42に導入されるアナログ・クロック同期信号78と、FIFO44に導入されるデジタル・クロック同期信号80を出力する。前に言及したように、これらの信号は、A/D変換器42がハイブリッド26から受信するアナログ入力をサンプリングするレートと、FIFOがデジタル信号をFFE46に転送するレートを制御する。
前に言及したように、通信システム中の送信機22(図2)によって送信された記号は各チャネルの受信信号中にNEXT、エコー及びFEXT障害を発生する。各受信機24はこの干渉を発生する他の3つのチャネルのデータへのアクセスを有するので、こうした影響の各々をほぼ打ち消すことが可能である。NEXTキャンセルは、図11の構成図に示されるように3つの適応NEXTキャンセル・フィルタ84を使用して達成される。各NEXTキャンセル・システム38は、通信線路18の、NEXTキャンセル・システムが関連する受信機と同じ終端の各送信機から3つのTXDatax記号36を受信する。各NEXTキャンセル・システム38には、各TXDatax記号36について1つの3つのフィルタ84が含まれる。これらのフィルタ84は送信機からのNEXT雑音のインパルス応答をモデル化し、例えば、LMSアルゴリズムを利用する適応トランスバーサル・フィルタ(ATF)として実現される。フィルタ84は各TXDatax記号36についてNEXT障害信号の複製を生成する。合計装置86は3つの個別複製NEXT障害信号92を結合し、NEXTキャンセル・システム38が関連する受信機によって受信される組合せ信号内に含まれるNEXT障害信号の複製を生成する。複製NEXT障害信号88は第2装置50(図9)に導入され、そこで組合せ信号48と結合されて、NEXT障害信号がほとんどない第1ソフト決定信号52が生成される。
エコー・キャンセルは、図12の構成図に示されるような適応エコー・キャンセル・フィルタ85によって達成される。各エコー・キャンセラ40は、ツイスト・ワイヤ・ペア18のエコー・キャンセラが関連する受信機と同じ終端の送信機からTXDatax記号36を受信する。図12に示されるように、各エコー・キャンセラ40には1つのフィルタ85が含まれる。このフィルタ85は送信機からのエコー雑音のインパルス応答をモデル化し、例えば、LMSアルゴリズムを利用するATFとして実現される。このフィルタは、エコー・キャンセラ40が関連する受信機によって受信される組合せ信号中に含まれるエコー障害信号の複製を生成する。複製エコー障害信号90は第2装置50(図9)に導入され、組合せ信号48と結合されて、エコー障害信号がほとんどない第1ソフト決定信号52が生成される。
FEXTキャンセルは、図13の構成図で示されるように、3つの適応FEXTキャンセル・フィルタ87によって達成される。各FEXTキャンセル・システム70は、通信線路のFEXTキャンセル・システムが関連する受信機と同じ終端の各受信機から1つの、3つの暫定的決定記号74を受信する。各FEXTキャンセル・システム70には、各暫定的決定記号74について1つの、3つのフィルタ87が含まれる。これらのフィルタ87は送信機からのFEXT雑音のインパルス応答をモデル化し、例えば、LMSアルゴリズムを利用するATFとして実現される。フィルタ87は個別暫定的決定記号74の各々についてFEXT障害信号96の複製を生成する。合計装置108は3つの個別複製FEXT障害信号96を結合し、FEXTキャンセル・システムが関連する受信機によって受信される組合せ信号48中に含まれるFEXT障害信号の複製を生成する。複製FEXT障害信号94は第1装置56(図9)に導入され、そこで第2組合せ信号66と結合されて、FEXT障害信号がほとんどない第3ソフト決定信号68が生成される。FEXTを打ち消すために使用される決定は、FEXTが打ち消される受信機によってなされる最終決定72と統計的に無関係なので、暫定的決定74の高い誤差率はFEXTキャンセル・システム70の性能を劣化させないことに注意することは重要である。
第1検出器58によって提供される記号は、GMIIに導入される前にPCS30の受信セクションによって復号化及びデスクランブルされる。ワイヤ・ペアの撚り合わされ方の変化によって50ナノ秒までの4つのチャネルを通じた遅延が発生することがある。その結果、4つのチャネルにわたって記号が同期しないことがある。前に言及したように、第1検出器が順次検出器である場合、PCSは1−D記号の4つのストリームの相対的スキューをも判定し、第1検出器58に到達する前にスキュー調整器54によって記号遅延を調整するので、順次復号器は適切に構成された4次元(4−D)記号に対して動作することができる。さらに、ケーブル・プラントによって4つのアンシールド・ツイストペア間のペア内のワイヤの入れ替えやペアの入れ替えが導入されることがあるので、PCS30はこうした条件をも判定し訂正する。
雑音低減
前に言及したように、FEXTは、図5に示されるように、遠端送信機から受信機の入力への信号の容量性結合の結果発生する障害である。送信機F、G及びHからの漏話信号は、送信機Eからの信号を検出しようとしている受信機Aに対して雑音として現れる。同様の状況は、線路の反対側終端に配置された適当な送信機からの信号に関して他の受信機全てに当てはまる。
受信機Aが経験し送信機Fから発生するFEXT雑音は、ケーブルの特性に依存し、送信機Fと受信機Aが使用するアンシールド・ツイストペアの結合特性をモデル化するあるインパルス応答を伴い、Fによって送信されるデータ記号の収束としてモデル化することができる。通常測定されるFEXTインパルス応答104が図14〜図16に示される。同様の記述は他の全ての可能な受信機と送信機の組合せについて行うことができる。従って、送信機E、F、G及びHから受信機A、B、C及びDへのFEXT雑音信号を記述する合計12のFEXTインパルス応答が存在する。これらの12のインパルス応答は同一ではないが、各々図14〜図16に示されるものと同様の一般形状を有する。
FEXTはギガビット・イーサネット以外の多くの通信システムにとっても障害となるが、それらのシステムでは、受信機は物理的に同じ場所に配置されていないことがあり、かつ/またはFEXTを経験する受信機のデータ・レートと同期していないレートで他の受信機が動作するので、所与の受信機は普通他の受信機によって検出された記号へのアクセスを有しない。本発明の態様は、ギガビット・イーサネット送受信機では、4つのチャネル全てに対応する決定が4つの受信機に利用可能であり、決定が同期されるという事実を利用する。
動作の際、通信線路にわたって信号を送信することに関連する遅延が存在することがある。システム内の信号の同期は、雑音の有効な打ち消しにとって非常に重要である。複製雑音障害信号が組み合わせ信号及び/またはソフト決定信号とほぼ同時に合計装置に到達することが重要である。FEXT障害信号に関しては、障害が受信機の反対側終端の送信機で発生するため、第2ソフト決定信号66が第1装置56に到達する時間と複製FEXT障害信号94が到達する時間との間で遅延が発生しやすい。チャネルの中には、図14に例示されるように、FEXT信号104のグループ遅延が望ましい信号106のグループ遅延より小さいものがある。この場合、図5の受信機B、C及びDによって提供される暫定的決定74が受信機AのFEXTキャンセル・システム70に到達するのは遅すぎるので、FEXT障害を打ち消す際有効でない。
この遅延を補償するため、本発明はスキュー調整器54を利用するが、これは、前に言及したように、受信機に到達する直接信号とその受信機に関連するFEXT障害信号の間の時間遅延とほぼ等しいかそれより大きい時間だけ第1ソフト決定信号52を遅延する。出力が時間遅延より大きい量だけ遅延される場合、結果として図16に例示される状況が生じるが、FEXTキャンセル・システム70中の適応フィードバック・フィルタ87(図13)は複製FEXT障害信号94を遅延することによる過大遅延を補償するので、それは第2ソフト決定信号66とほぼ同時に第1装置56(図9)に到達するようになる。
FEXTキャンセルの結果として生じる第3ソフト決定68によって、第1検出器58は、はるかに誤差率の低い、より信頼性の高い最終決定72を行うことができる。コンピュータ・シミュレーションが示すところによれば、本出願で説明された本発明によって達成可能な通常の改善は、FEXTキャンセル以前の第1検出器58の入力の信号対雑音比が約25dBである場合約2〜3dBである。これは1000倍またはそれ以上の記号誤差率の低減に対応する。
通信線路にわたる信号の伝送に関連する遅延がない場合、FEXT障害信号104と直接信号106の両方は、図15に示されるようにほぼ同時に受信機に到達する。この状況では、スキュー調整器54はゼロに設定される。代替案では、図17に示されるような、1つの検出器110と1つの合計装置112だけを有する本発明の実施形態が使用される。この構成では、合計装置112は複製NEXT、エコー及びFEXT障害信号88、90、94と組合せ信号48を受信し、障害信号がほとんどない第1ソフト決定52を生成する。この第1ソフト決定52が検出器110と第3装置62に導入される。検出器110には、単一の記号毎の検出器かまたは、記号毎の検出器と順次検出器の両方が含まれうる。記号毎の検出器の場合、最終決定72と検出器110の第2出力114は同一である。記号毎の検出器と順次検出器の両方の場合、最終出力は順次検出器によって提供され、PCS30に導入される。第2出力114は記号毎の検出器によって提供されてタイミング回復回路64と第3装置62に導入され、誤差信号76を決定する際に使用される。
電力散逸低減
前に言及したように、NEXTキャンセル・システム、エコー・キャンセラ及びFEXTキャンセル・システムはATFを使用し、組合せ信号から雑音を有効に打ち消す。利用されるATFの例が図18に示される。ATF120には、各々多重装置124と加算器126を含む複数のタップ122が含まれる。各タップ122には係数Cnが関連するが、ここでnは、xがATF中のタップの数である時0〜x−1である。各タップに関連する回路には、タップの活動化と非活動化を可能にする1−ビット記憶装置(図示せず)が含まれる。係数Cnの値は、前に言及されたように、LMSアルゴリズムによって調整される。タップ122の間にレジスタ128が挿入される。こうしたレジスタ128はクロック信号に合わせた時間間隔でタップ122にデータを提供する。
図7及び図8に示されるような、エコー及びNEXTのインパルス応答が示すところによれば、NEXT及びエコー・キャンセラ38、40中の全てのタップ122が通信システムの性能に大きく寄与するわけではない。本発明の態様は、システムの平均二乗誤差(MSE)の低減にあまり寄与しないタップ122がどれかを判定してそうしたタップを非活動化し、それによってそれらをフィルタリング計算から除去し、システムの電力散逸を大きく低減する。さらに、図7及び図8のインパルス応答が示すように、スパンの長いNEXT及びエコー・キャンセラ38、40を構成する必要を回避することは困難である。個々のケーブル応答は図7及び図8に示されたものと異なることがあるので、必要となるタップ122は図7及び図8のケーブルで必要となるものより多かったり少なかったりすることがある。前に言及したように、個々のケーブルでどのタップ122が必要かをアプリオリに決定することは困難である。
本発明の態様によれば、NEXT、エコー及びFEXTキャンセラ38、40、70は十分な数のタップ122を利用するATF120によって構成され、最悪の場合の予想インパルス応答に対しても十分な打ち消しを提供する。これは、図7の例のように140のタップ122を必要とすることがあり、さらに長いケーブルの場合もっと多くのタップを必要とすることがある。電力散逸を低減するために、タップ122は収束後検査され、システムの性能にあまり寄与していないことが判明したタップは非活動化される。タップ122は、非活動化されると、NEXT、エコー及びFEXT複製計算と適応から除去され、システム全体の電力散逸への寄与はほぼ除去される。
システムが初期収束される時、全てのタップ122はアクティブとなり、NEXT、エコー及びFEXTキャンセラ38、40、70はそれらの全長に沿って収束される。収束後、図19に示されるタップ走査アルゴリズムを使用してタップ122が検査され、どのタップを非活動化できるかが判定される。ステップS1では、システムについて誤差の許容可能なレベルSeaが指定される。ステップS2では、各アクティブ・タップについてタップ係数しきい値Tthが設定される。個々のタップは各々固有のタップしきい値Tthを有することがあるが、本発明の好適実施形態では、全てのタップのタップ係数はほぼ等しい。タップ係数しきい値Tthの初期値は十分に低いので、非活動化されるタップ122はごく少数であり、システムの性能はあまり影響されない。本発明の好適実施形態では、タップ係数しきい値Tthは当初、最小絶対値を有するタップ係数Cnと等しい値に設定される。また、シミュレーションによって妥当な値を決定することもできる。この初期値は、タップ走査手順が最初に応用される時システムの性能の大きな劣化を回避する十分な低さである限り重要ではない。
ステップS3では、各アクティブ・タップに関するタップ係数Cnの絶対値がタップ係数しきい値Tthと比較される。タップ係数Cnがタップ係数しきい値Tthより小さい場合、タップ122はステップS4で非活動化される。この処置は、フィルタ120中の各タップ122について繰り返される。好適には、タップ122を非活動化するかの決定は、フィルタ120の入力端から開始される順次的な方法でなされる。ステップS5では、システムの誤差Secが計算される。この誤差は、タップ係数Cnの絶対値に平均エネルギー信号を乗算することで、最初に各アクティブ・タップ122のMSEを計算することで計算される。タップ122に関連するフィルタ120の誤差は、個々のタップ誤差を合計することで決定される。その後システムの誤差が、個々のフィルタの誤差を合計することで決定される。
ステップS6では、計算されたシステム誤差Secが指定された許容可能なシステム誤差Seaと比較される。計算されたシステム誤差Secが許容可能なシステム誤差Seaより小さい場合、各アクティブ・タップのタップしきい値TthはステップS7で小さな量だけ増大され、ステップS3〜S6が繰り返される。その結果、いくつか追加してタップ122が非活動化されるが、タップしきい値Tthの増大は小さいので、非活動化されるタップの数は普通あまり多くない。計算されたシステム誤差Secが、許容可能なシステム誤差を越えることなく許容可能なシステム誤差Seaに接近するまでステップS3〜S6が繰り返される。計算されたシステム誤差Secが許容可能なシステム誤差Seaより大きい場合、タップ走査アルゴリズムは停止する。
通信システムのMSEに基づいてタップを非活動化するかを決定することに対する代替案として、個々のフィルタのMSEに基づいて決定がなされることがある。本発明のこの実施形態では、フィルタの誤差の許容レベルFeaが指定される。前に説明されたように、個々のタップが非活動化され、計算フィルタ誤差Fecが計算される。タップの非活動化によって計算フィルタ誤差Fecが許容可能なフィルタ誤差Feaを越えないならば、タップはイナクティブのままになる。
本発明のまた別の実施形態では、フィルタと、ひいてはシステムのMSEへの非活動化された各タップの寄与が計算される。タップのMSEへの寄与が許容された量であると判定されれば、タップは非活動化されたままとなる。この方法は、システム中のフィルタ係数が非収束状態にあるためシステム全体のMSEが大きいシステムの初期起動中には一般に好適である。システムのフィルタ係数が初期収束すると、タップを非活動化するかの決定は一般に、図19に関連して前に説明されたようにシステムのMSEへのタップの寄与に基づいてなされる。
タップ走査アルゴリズムの最終結果は、通信システムの通常のチャネルでは、多数のタップ122が非活動化され、電力散逸が大きな割合で低減されるというものである。一例として、エコー応答が図7に示されるチャネルで動作するタップ走査アルゴリズムのコンピュータ・シミュレーションが図20に提示される。この図は、システムの初期収束中の時間の関数として、マスタとスレーブ両方のMSE対信号比を示している。時間t=360,000ボーでタップ走査アルゴリズムが開始され、その結果MSE対信号比は24dBという所定の目標まで増大する。図21はしきい値24dBで収束した後のエコー・キャンセラのタップを示し、図22はしきい値26dBのタップを示す。非活動化されたタップは0として示される。図21では、エコー・キャンセラのアクティブ・タップの合計数は22である。同様に、NEXTキャンセル・システムを形成する3つのNEXTキャンセラ(図示せず)のアクティブ・タップ122の数はそれぞれ6、2及び0である。図22では、エコー・キャンセラのアクティブ・タップの合計数は47である。同様に、3つのNEXTキャンセラ(図示せず)のアクティブ・タップ122の数はそれぞれ6、2及び0である。
24dBしきい値の場合、440の初期アクティブ・タップのうち、タップ走査アルゴリズムの適用後アクティブのままなのは30だけであり、必要なビット誤差率に対して5dBの余裕を維持している。図21及び図22から認められるように、アクティブのままとなるタップ122は疎な位置に発生しており、タップの位置は個々のケーブル応答に大きく依存するため、NEXT及びエコー・キャンセラの設計中にこうしたタップを統計的に割り当てることは困難であろう。
本発明の別の実施形態では、タップ走査アルゴリズムは、タップ走査アルゴリズムの進行中MSEの変化を監視する。アルゴリズムは、MSE自体ではなく、MSEの変化が、例えば1dBである所定の値を越えるまで適用される。走査が適用される前のMSE対信号比が25dBであれば、最終MSE対信号比は24dBであり、多数のタップが非活動化される。タップ走査アルゴリズムのこの実施形態が図23に示される。ステップS10では、初期システム誤差Seiが計算される。ステップS11では、許容可能なシステム誤差の差Deが指定される。ステップS12では、各アクティブ・タップについてタップ係数しきい値Tthが設定される。他のタップ走査アルゴリズムと同様、タップしきい値Tthの値は十分に低いので、非活動化されるタップ122はごく少数であり、システムの性能はあまり影響されない。
ステップS13では、各アクティブ・タップのタップ係数Cnの絶対値がタップ係数しきい値Tthと比較される。タップ係数Cnがタップ係数しきい値Tthより小さい場合、タップ122はステップS14で非活動化される。この処理はフィルタ120中の各タップ122について繰り返される。好適には、タップ122を非活動化するかの決定は、フィルタ120の入力端から開始される順次的な方法でなされる。ステップS15では、システムの次の誤差Sesが計算される。
ステップS16では、システムの次の誤差Sesが初期システム誤差Seiと比較される。もし次のシステム誤差Sesと初期システム誤差Seiの差が所定の値より小さい場合、タップ係数しきい値Tthはステップ17で小さな量だけ増大され、ステップS13〜S16が繰り返される。その結果、いくつか追加してタップ122が非活動化される。次のシステム誤差Sesと初期システム誤差Seiの間の差が所定の値を越えるまで、ステップS13〜S16が繰り返される。
場合によっては、NEXT、エコー及びFEXTのインパルス応答が、例えば温度変化の結果正常な動作中に変化することがある。従って、好適には順次的な方法で、前に非活動化したタップ122を周期的に活動化し、タップ係数Cnの絶対値がタップしきい値Tth以下であるかを再検査することが望ましい。タップ係数Cnがタップしきい値Tthを越える値になっていれば、タップ122はアクティブのままとされ、そうでなければ非活動化される。同様に、アクティブであったタップ122がタップしきい値Tth以下になることもあるが、その場合タップは非活動化される。こうしたことは全て、正常動作中の順次タップ走査アルゴリズムの周期的再適用によって達成できる。
本発明の代替実施形態では、フィルタ120の入力端に位置する選択された数、例えば10のタップ122は非活動化の対象にならない。普通これら最初のいくつかのタップ122には大きなスキュー・レートが存在するが、それは、サンプリング位相が変化する場合数値が大きく変化しうることを意味する。このサンプリング位相はジッタの結果動的に変化し、以前に非活動化されたタップ122の一部を有意にすることがある。フィルタの入力端のいくつかのタップをアクティブ状態に維持することで、ジッタが存在する際の劣化の可能性が回避される。
タップの合計数が非常に大きく、例えば440である時、タップ走査アルゴリズムがタップを非活動化する可能性を有する前の初期収束過渡事象中、電力散逸が大きくなることがある。システムの平均電力散逸が大きく低減されても、ピーク電力散逸は低減されない。本発明の好適実施形態は、NEXT、エコー及びFEXTキャンセラを段階的に収束することでこれを補償する。例えば、一度に20タップのブロックが収束され、その後タップ走査アルゴリズムがそれらのタップにブロック毎に適用される。例えば、20タップの最初のブロックが低いMSEを提供する十分な大きさのものでないという事実の結果、初期収束中のMSEが大きい場合、アルゴリズムを終了するかの尺度として非活動化されたタップ122の係数の平方値の合計を監視した方がよい。
起動プロトコル
通信システムの動作の最も重要な段階の1つは送受信機の起動である。この段階では、各送受信機の受信機部分のFFE46(図9)、エコー・キャンセラ40、NEXTキャンセル・システム38、FEXTキャンセル・システム70、タイミング回復システム64及び検出器58中に含まれる適応フィルタが収束する。収束中適応フィルタの実際の出力がフィルタの予想出力と比較され誤差が判定される。誤差は、フィルタの伝達関数を定義するアルゴリズムの係数を調整することでほぼ0まで低減される。同様に、タイミング回復システムは、チャネルの信号対雑音比が最適化されるように、タイミング回復システム中に含まれる位相同期ループとローカル発振器の周波数と位相を調整することで収束される。さらに、4つのワイヤ・ペア間の遅延の差が補償され、ペアの一致と極性が獲得される。起動が成功裡に完了することで、送受信機が正常な動作を開始できることが保証される。
本発明の態様によれば、各送受信機チャネルは、図24に示されるように、ループ時間方式で動作する。各ツイスト・ワイヤ・ペア18の2つの終端の送受信機20は、同期に関する限り2つの異なった役割を負っている。マスタ130と呼ばれる送受信機の1つは、GMIIインタフェース28(図9)を通じて提供される独立クロックGTX_CLKを使用してデータを送信する。このクロック信号は周波数と位相の両方が固定され、通信システムの4つの送受信機チャネル各々のマスタ送受信機130に提供される。実際には、マスタ130によって使用される送信クロックは、ジッタを低減するためにごく狭い帯域幅の位相同期ループを使用して得られたGTX_CLKのフィルタリングされたバージョンのことがある。スレーブ132と呼ばれる、ツイスト・ワイヤ・ペア18の他の終端の送受信機20は、受信機24に配置されたタイミング回復システム64(図9)を使用して、その受信及び送信クロックの周波数と位相の両方をマスタ130から受信された信号に同期させる。スレーブ132送信クロックは、常にスレーブ受信クロックとの一定の位相関係を維持する。マスタ130の受信クロックは、スレーブ送信機22から受信された信号と、周波数ではなく位相が同期する。すなわち、初期獲得期間の後、マスタ130受信クロックは、ループの往復遅延によって決定される位相差でマスタ送信クロックに追従する。この位相関係は、マスタ130受信クロックがスレーブ132から受信された信号中に存在するジッタを追跡する必要があるため動的に変化することがある。
固定スレーブ送信クロック
本発明の起動プロトコル中のイベントの順序が図25に示される。プロトコルは3つの段階134、136、138からなり、その間に受信機がトレーニングされる、例えば、適応フィルタが収束される、タイミング同期が獲得される、等の後、第4段階140で正常な動作が開始される。第1段階134では、マスタは周波数と位相の両方が固定された送信クロック信号を使用してスレーブへの送信を開始する。マスタは、エコー・キャンセラとNEXTキャンセル・システム中に含まれる適応フィルタを収束することで、近端雑音低減システムをトレーニングする(E)。同時に、スレーブは、DFE、FFE及びFEXTキャンセル・システム中に含まれる適応フィルタを収束することで、等化器と遠端雑音低減システムをトレーニングする(D)。等化器と遠端雑音低減システムをトレーニングする間、スレーブは同時に周波数と位相両方のタイミング同期を獲得する(T)。スレーブはまたこの時、4つのツイスト・ワイヤ・ペア間の差動遅延を保証し、4つのペアを識別し、ペアの極性を訂正する。
プロトコルの1つの実施形態では、マスタとスレーブ両方での第1段階134から第2段階136への遷移が固定された所定の期間の後行われる。しかし、好適実施形態では、スレーブは、その受信機がDFE、FFE及びFEXTキャンセル・システム中に含まれる適応フィルタを収束し(D)、タイミング同期を獲得した(T)ことを検出すると、第1段階134から第2段階136に遷移する。前に言及したように、マスタ受信機には、スレーブから来る線路中のエネルギーを検出する信号検出器41(図9)が含まれる。マスタは、スレーブからのこのエネルギーを検出すると第1段階134から第2段階136に遷移する。従って、スレーブは第1段階134から第2段階136に遷移する際主導権を有し、マスタはスレーブからの信号を検出する時追従する。
マスタでの第1段階134中のエコー・キャンセラとNEXTキャンセル・システムの収束は、マスタの信号検出器がスレーブからの信号を検出できるようにするという目的を持って行われる。適切なエコー及びNEXTキャンセルがない場合、信号検出器は受信機中に存在するエコー及びNEXT雑音によってトリガされることがある。遷移が行われた後、マスタは、第1段階134での収束の結果生じたエコー・キャンセラ及びNEXTキャンセル・システムの係数を廃棄する。これは、エコー・キャンセラとNEXTキャンセルシステム中の適応フィルタをリセットすることによってなされる。マスタの4つの受信機の正しいサンプリング位相は第3段階138で得られるので、第1段階134で得られるエコー・キャンセラとNEXTキャンセル・システムの係数は、第3段階138で再獲得される最終値とは異なりうることに注意することは重要である。
第2段階136では、スレーブは、エコー・キャンセラとNEXTキャンセル・システム中に含まれる適応フィルタを収束することで、近端雑音低減システムをトレーニングする(E)。同時に、マスタは、DFE、FFE及びFEXTキャンセル・システム中に含まれる適応フィルタを収束することで、等化器及び遠端雑音低減システムをトレーニングする(D)。等化器と遠端雑音低減システムをトレーニングしている間に、マスタは同時に位相のみのタイミング同期を獲得する(P)。マスタはまたこの時、4つのツイスト・ワイヤ・ペア間の差動遅延を補償し、4つのペアを識別し、ペアの極性を訂正する。第2段階では、スレーブは第1段階134で獲得されたタイミング回復状態変数をセーブし、周波数と位相をフリーズする。これを行うことで、第3段階138の開始時にマスタが送信を再開する時、スレーブはマスタからスレーブに来る信号を正しい位相でサンプリングすることが保証される。スレーブにはまた、第1段階134で獲得されたDFE、FFE及びFEXTキャンセル・システムの係数をフリーズする。
第1段階134から第2段階136への遷移と同様、第2段階136から第3段階138への遷移は固定された所定の期間の後行われる。第1、第2及び第3段階134、136、138の持続期間は固定されているが、持続期間は全ての段階について必ずしも等しくない。しかし、好適実施形態では、マスタは、受信機がDFE、FFE及びFEXTキャンセル・システム中に含まれる適応フィルタを収束し(D)、タイミング同期を獲得した(P)ことを検出すると、第2段階136から第3段階138に遷移する。マスタと同様、スレーブ受信機には、マスタから来る線路中のエネルギーを検出する信号検出器41(図9)が含まれる。スレーブは、マスタからのこのエネルギーを検出すると、第2段階136から第3段階138に遷移する。従って、マスタは第2段階136から第3段階に遷移する際主導権を有し、スレーブはマスタからの信号を検出する時追従する。
第3段階138では、スレーブはエコー・キャンセラとNEXTキャンセル・システムの係数をフリーズし、定常状態条件を維持するが、その間はスレーブの動作特性は調整されない。同様に、マスタはDFE、FFE及びFEXTキャンセル・システムの係数とそのクロック信号の位相をフリーズする。マスタはまた、第3段階138中エコー・キャンセラとNEXTキャンセル・システムを再収束することで、近端雑音低減システムを保持する(E)。第3段階138では、スレーブはマスタから送信された信号から回復されたクロックを使用して送信を再開するので、マスタはすでに受信機が動作する正しい周波数を知っているということに注意することは重要である。4つの受信機の「相対サンプリング位相」、すなわち、3つの受信機と、基準として任意に使用される1つの受信機のサンプリング位相の差も、第2段階136で獲得されているため知られている。しかし、受信機の「総合サンプリング位相」、すなわち、基準として任意に選択された受信機のサンプリング位相は知られておらず、第3段階138で獲得しなければならない。マスタとスレーブの両方がトレーニング動作を完了すると、両者は有効なデータを送信する用意があることを示すメッセージを交換する。第4段階140では、以前フリーズされた適応フィルタの全ての係数はフリーズを解かれデータの送信を行う用意ができる。
自走スレーブ送信クロック
本発明の起動プロトコル中のイベントの順序が図26に示される。プロトコルは3つの段階144、146、148からなり、その間に受信機がトレーニングされる、例えば、適応フィルタが収束される、タイミング同期が獲得される、等の後、第4段階150で正常な動作が開始される。起動プロトコルは、周波数と位相の両方が固定された送信クロック信号を使用してマスタがスレーブへの信号の送信を開始する時マスタによって開始される。第1段階144では、マスタはエコー・キャンセラとNEXTキャンセル・システム中に含まれる適応フィルタを収束することで、近端雑音低減システムをトレーニングする(E)。前に言及したように、スレーブ受信機にはマスタから来る線路中のエネルギーを検出する信号検出器41(図9)が含まれる。マスタからの信号を検出すると、スレーブは、DFE、FFE及びFEXTキャンセル・システム中に含まれる適応フィルタを収束することで等化器と遠端雑音低減システムをトレーニングする(D)。等化器と遠端雑音低減システムをトレーニングしている間、スレーブは同時に周波数と位相両方のタイミング同期を獲得する(T)。スレーブはまたこの時4つのツイスト・ワイヤ・ペア間の差動遅延を補償し、4つのペアを識別し、ペアの極性を訂正する。
プロトコルの1つの実施形態では、マスタとスレーブ両方での第1段階144から第2段階146への遷移が固定された所定の期間の後行われる。しかし、好適実施形態では、スレーブは、その受信機がDFE、FFE及びFEXTキャンセル・システム中に含まれる適応フィルタを収束し(D)、タイミング同期を獲得した(T)ことを検出すると、第1段階144から第2段階146に遷移する。マスタ受信機にはまた、スレーブから来る線路中のエネルギーを検出する信号検出器41(図9)が含まれる。マスタは、スレーブからのこのエネルギーを検出すると第1段階144から第2段階146に遷移する。従って、スレーブは第1段階144から第2段階146に遷移する際主導権を有し、マスタはスレーブからの信号を検出すると追従する。
マスタでの第1段階144中のエコー・キャンセラとNEXTキャンセル・システムの収束は、マスタの信号検出器がスレーブからの信号を検出できるようにするという目的を持って行われる。適切なエコー及びNEXTキャンセルがない場合、信号検出器は受信機中に存在するエコー及びNEXT雑音によってトリガされることがある。遷移が行われた後、マスタは、第1段階144での収束の結果生じたエコー・キャンセラ及びNEXTキャンセル・システムの係数を廃棄する。これは、エコー・キャンセラ及びNEXTキャンセル・システム中の適応フィルタをリセットすることによってなされる。マスタの4つの受信機の正しいサンプリング位相は第3段階148で得られるので、第1段階144で得られるエコー・キャンセラ及びNEXTキャンセル・システム係数は、第3段階148で再獲得される最終値とは異なりうることに注意することは重要である。
第2段階146では、スレーブは、エコー・キャンセラ及びNEXTキャンセル・システム中に含まれる適応フィルタを収束することで、近端雑音低減システムをトレーニングする(E)。スレーブはまた、第1段階144で獲得されたDFE、FFE及びFEXTキャンセル・システムの係数をフリーズする。同時に、マスタは、DFE、FFE及びFEXTキャンセル・システム中に含まれる適応フィルタを収束することで、等化器と遠端雑音低減システムをトレーニングする(D)。等化器と遠端雑音低減システムをトレーニングしている間に、マスタは同時に周波数と位相両方のタイミング同期を獲得する(T)。マスタはまたこの時、4つのツイスト・ワイヤ・ペア間の差動遅延を補償し、4つのペアを識別し、ペアの極性を訂正する。スレーブは、マスタ送信クロックと比較すると、例えば200ppmといった所定の限度未満の周波数オフセットを有する何らかの安定なクロックから外れることがある。第2段階146では、スレーブ送受信機は自走クロックを使用して送信する。その結果、マスタは第2段階146で周波数と位相両方の同期を獲得する。位相同期は、マスタがどのような形態の起動プロトコルでも行う正常な機能であるが、周波数同期は普通のマスタの機能ではなく、第1段階144から第2段階146に遷移する際タイミング回復状態変数をセーブしないスレーブ送受信機と共に適切な動作を行うことを目的とする起動の第2段階146でだけ行われる。
第1段階144から第2段階146への遷移と同様、第2段階146から第3段階148への遷移は固定された所定の期間の後行われる。第1、第2及び第3段階144、146、148の持続期間は固定されているが、持続期間は全ての段階について必ずしも等しくない。しかし、好適実施形態では、マスタは、受信機がDFE、FFE及びFEXTキャンセル・システム中に含まれる適応フィルタを収束し(D)、タイミング同期を獲得した(T)ことを検出すると、第2段階146から第3段階148に遷移する。マスタはスレーブへの信号の送信を開始する。スレーブは、マスタからのこの信号を検出すると、第2段階146から第3段階148に遷移する。従って、マスタは第2段階144から第3段階148に遷移する際主導権を有し、スレーブはマスタからの信号を検出する時追従する。
第3段階148では、スレーブはエコー・キャンセラとNEXTキャンセル・システムの係数をフリーズし、近端雑音低減システムを定常状態条件に維持する。タイミング回復状態変数は第2段階146への遷移の際にセーブされていないので、スレーブはまた、第3段階148で周波数と位相の両方のタイミング同期を再獲得する(T)。マスタは、第3段階148で、DFE及びFEXTキャンセル・システムの係数とクロック信号の周波数をフリーズする。マスタはまた、エコー・キャンセラ及びNEXTキャンセル・システムを再収束することで、近端雑音低減システムを再トレーニングする(E)。マスタはまた、位相だけのタイミング同期を再獲得する(P)。第3段階148では、スレーブはマスタによって送信される信号から回復されるクロックを使用して送信を再開するので、マスタはすでに受信機が動作する正しい周波数を知っているということに注意することは重要である。4つの受信機の「相対サンプリング位相」、すなわち、3つの受信機と、基準として任意に使用される1つの受信機のサンプリング位相の差も、第2段階146で獲得されているため知られている。しかし、受信機の「総合サンプリング位相」、すなわち、基準として任意に選択された受信機のサンプリング位相は知られておらず、第3段階148で獲得しなければならない。マスタとスレーブの両方がトレーニング動作を完了すると、両者は有効なデータを送信する用意があることを示すメッセージを交換する。第4段階150では、以前フリーズされた適応フィルタの全ての係数はフリーズを解かれデータの送信を行う用意ができる。
本発明は特定の実施形態に関連して開示され例示されたが、そこに包含される原理は、当業技術分野に普通に熟練した者に明らかな非常に多くの他の実施形態で使用可能である。従って、本発明は添付の請求項の範囲によって示される限りにおいてのみ制限される。