JP4191796B2 - 拮抗剤または作動剤として、ヒトorl1受容体に結合できることが知られていない化合物を回収する方法 - Google Patents
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Description
発明の技術分野
本発明は、核酸分子、その核酸分子がコードするペプチドおよび前記核酸分子または前記ペプチドに対するインヒビターに関する。
また、本発明は、前記産物を含有してなる医薬組成物、診断器具および/または投与器具、ならびに本発明のインヒビターの同定方法に関する。
各種のオピオイド受容体が報告され、改良された医薬を選別するのに利用されている。
本発明は、新しい核酸、特に、オピオイド受容体のリガンドであることが知られかつ前侵害受容特性(pronociceptive property)を有するペプチドと相同性が70%未満のペプチドをコードする核酸に関する。
前記核酸分子またはこの核酸分子がコードするペプチドのインヒビターは、神経内分泌、ストレス、学習と記憶、注意と情動、ホメオスタシス、感覚認知、運動力(運動)、心迫、本能行動、痛覚過敏または痛感鈍麻などの各種の行動または機能を制御する新しいタイプの医薬として使用できる。
発明の要約
本発明は、配列番号:1またはその相補的ストランドの少なくとも70%、好ましくは少なくとも90%に相当する核酸分子に関する。
本発明の核酸分子は、好ましくは、少なくとも、配列番号:1またはその相補的ストランドもしくはその一部分を含有してなる単離された核酸分子である。
“核酸分子”という用語は、RNA、またはcDNAもしくはゲノムDNAのようなDNAを意味する。
用語“単離された核酸分子の一部分”は、例えば遺伝子増幅法(PCR,LCR,CPRなど)または特定のプローブハイブリッド形成法によって、特定の単離された核酸分子を同定し再構成するのに使用できる1種のプローブまたは1種以上のプライマーのような、配列番号:1に特有のあらゆる種類の核酸分子を意味する。したがって、前記核酸分子の一部分は、15個以上の核酸を有しかつ配列番号:1に特有の前記核酸分子の一部分である。
また本発明は本発明の核酸分子がコードするペプチドに関する。したがって、このペプチドは活性ペプチドの前駆体であり、この前駆体は、活性になるには特定の部位で開裂されねばならないペプチドを意味する。前記ペプチドの一例は、以下に説明するプレプロノシセプチン(prepronociceptine)であり、これは開裂されて本発明の二つの活性ヘプタデカペプチドになる。
本発明の好ましい実施態様は、配列番号:2のアミノ酸配列:Phe−Gly−Gly−Phe−Thr−Gly−Ala−Arg−Lys−Ser−Ala−Arg−Lys−Leu−Ala−Asn−Glnを有するペプチドまたはその作動剤に関し、そしてこのペプチドは、ORL1受容体のリガンドであり、好ましくは哺乳類のORL1受容体のリガンドであり、より具体的に述べるとヒトのORL1受容体である。
本発明の別の態様は、配列番号:3のアミノ酸配列:Phe−Ser−Glu−Phe−Met−Arg−Gln−Tyr−Leu−Val−Leu−Ser−Met−Gln−Ser−Ser−Glnを有するペプチドまたはその作動剤に関する。
本発明のその外の実施態様は、配列番号:4のアミノ酸配列:Thr−Leu−His−Gln−Asn−Gly−Asn−Valを有するペプチドまたはその作動薬に関する。
本発明の作動剤は、本発明のペプチドとその受容体との相互作用をまねる分子である。このような作動剤は、本発明のペプチドの類似体またはフラグメント、またはペプチド受容体のリガンドが結合する部位のエピトープに対する抗体もしくは本発明のペプチドが受容体と相互に作用する特異的部分に結合する特定の抗体に対する抗イデオタイプ抗体である。
前記抗体は、その天然に存在する形態および組換え形態の両方のペプチドフラグメントおよびペプチド類似体である。さらに、抗体は、ペプチドに対し、その活性型または不活性型で生成させることができる。
本発明の別の態様は、本発明の核酸分子またはペプチドに対するインヒビターに関する。インヒビターは、本発明の核酸分子の翻訳を阻止することができるか、または本発明のペプチドもしくはそのペプチドの一部分とその受容体との相互作用を阻止するかもしくは低下させることができる種類の分子である。
本発明のインヒビターとして有利なのは、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体もしくはその一部分であり、特に、前記抗体のFab′,Fab,F(ab′)2などのような抗体のエピトープ部分である。
本発明の他の実施態様で、前記インヒビターは、本発明の核酸分子と相互に作用して、哺乳類、好ましくはヒトのような動物の細胞内で前記核酸分子が発現するのを阻害する分子である。
前記インヒビターとしては、本発明の核酸分子に特異的に結合して該核酸分子の発現(該核酸分子の転写および/または翻訳)を阻害できる配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
前記インヒビターは、好ましくは、予め決められた位置に互いに異なる配列を有利に有するヌクレオチドの化学的類似体で構成されている。前記オリゴヌクレオチドは、本発明の核酸を不活性化するリボザイムのような物質に結合させてもよい。
また前記インヒビターは、本発明のペプチドの受容体に対する拮抗剤でもよい。拮抗体は、該ペプチドがその受容体と相互に作用するのを阻害する、前記受容体のリガンドである。
また、本発明は、本発明の核酸分子を含有してなるベクターに関する。
本発明の他の態様は、本発明の核酸分子、ペプチド、インヒビターまたはベクターからなる群から選択される成分および医薬として許容される担体を含有してなる医薬組成物に関する。
医薬として許容される担体は、本発明の組成物を患者に送達するのに適した相容性の非毒性物質であればよい。
好ましくは、前記医薬組成物は、本発明のペプチドまたは核酸の発現から起こる発現および/または“効果”を低下させるのに有効な量の物質を含有している。
本発明の医薬組成物の有効成分の投与量は、使用される、医薬として許容される担体、治療される患者および前記有効成分の副作用によって変化する。
本発明の医薬組成物は、以下の機能および/または行動すなわち、痛覚過敏、痛感鈍麻、神経内分泌、ストレス、心迫、本能行動、学習、記憶、運動活性、好奇心、注意および/または感覚認知の減退に関する疾患の治療および/または予防に有利に用いられる。
また本発明は、本発明の核酸分子または本発明のベクターを含有する非ヒトトランスジェニック動物に関する。細胞内または非ヒトトランスジェニック動物での発現に適応している前記ベクターは、前記細胞または前記動物をトランスフェクトすることができ、かつ自ら含有する外因性核酸分子を、前記細胞または前記動物内で発現させることができる分子または微生物である。前記ベクターは、プラスミド、組換えウイルス、バキュロウイルス、アデノウイルスなどでよい。
本発明の他の態様は、本発明のペプチドに特異的に結合できることが知られていないが本発明のペプチドに特異的に結合できるインヒビターを回収する方法であって;本発明のペプチドに結合することが知られているインヒビターが結合できる条件下で本発明のペプチドを接触させ、前記ペプチドに結合するインヒビターの存在を確認し次いで前記インヒビターを回収することからなる方法に関する。
また、本発明は、本発明のペプチドの拮抗剤または作動剤として、ORL1受容体、好ましくは哺乳類のORL1受容体、特にヒトORL1受容体のペプチドに特異的に結合できることが知られていないが、前記受容体に特異的に結合できる化合物を回収する方法であって;哺乳類の細胞内での発現に適応しさらに前記ORL1受容体を細胞表面に発現する核酸分子を含有するベクターを含有する細胞、好ましくは哺乳類の細胞を、前記受容体に結合することが知られているペプチドが結合できる条件下で、前記化合物と接触させ、前記受容体に結合する化合物の存在を検出し、次いで前記化合物を回収することからなる方法に関する。
本発明の他の態様では、前記方法は、ベクターを含有する細胞、好ましくは哺乳類細胞であって、そのベクターが前記細胞内での発現に適応しさらに本発明のペプチドの受容体を前記細胞の表面に発現する核酸分子を含有する細胞から細胞抽出物を製造し、その細胞抽出物から膜画分を単離し、前記受容体に結合することが知られているペプチドが結合できる条件下で、上記膜画分とともに前記化合物をインキュベートし、次いで結合した化合物の存在を検出し、次いで前記化合物を回収することからなる方法である。
また、本発明は、本発明のペプチドの拮抗剤または作動剤としてORL1受容体、好ましくは哺乳類のORL1受容体、より具体的に述べればヒトORL1受容体に結合可能でかつ本発明のペプチドが前記受容体を活性化するのを阻害することが知られていない化合物を回収する方法であって;ベクターを含有する細胞、好ましくは哺乳類の細胞であり、そのベクターが前記細胞の発現に適応しさらに前記受容体を前記細胞の表面に発現する核酸分子を含有する細胞を、機能応答の測定が可能な条件下で前記化合物と接触させ、その化合物が、前記ペプチドが前記受容体を活性化するのを阻害するかどうかを確認し、次いで前記化合物を回収することからなる方法に関する。
前記方法によれば、細胞は第二のメッセンジャーを産生するのに必要な細胞成分を含有する非神経細胞であり、(化合物が本発明のペプチドによるORL1受容体の活性化を阻害するか、または本発明のペプチドによるORL1受容体の不活性化をまねるかどうか)の確認が、好ましくは環状AMP、リン酸イノシトールの代謝物または細胞内カルシウムからなる群から選択される第二メッセンジャーの濃度の変化を検出する方法からなり、前記第二メッセンジャーの修飾が好ましくはリポーター分子(例えばルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、グローブホルモン(grove hormone)などの二次産生によって監視されるか、または好ましくは細胞外のpHを測定することによって監視される細胞の生理学的修飾によって監視される。
本発明の方法に用いられる非神経細胞はCHOが好ましい。
また本発明は、本発明の方法によって同定される化合物、ならびにその化合物および医薬として許容される担体を含有してなる医薬組成物に関する。
また本発明は、本発明のインヒビター、ペプチドおよび場合によってはその受容体、好ましくはORL1受容体を含んでなる診断器具および/または投与器具に関する。
本発明の最後の態様は、本発明のペプチドまたは核酸配列によって、動物、特にヒトに誘発される疾患の遺伝子治療法または予防法であって;インヒビターまたはそのインヒビターをコードする核酸分子を、医薬として許容される担体とともに患者に投与して、前記ペプチドまたは前記核酸配列の発現および/またはその発現からもたらされる“効果”を低下させる方法である。
【図面の簡単な説明】
図1は、EddyとLeimbachのホットプレート試験[11]におけるマウスのリアリング(rearing)とエスケープジャンピング(escape jumping)の潜伏期に対する、マウスアンチセンスmASまたはヒトミスセンスhASのオリゴデオキシヌクレオチドを繰返しi.c.v.注射した場合の効果を示す。
図2は、CHO(ORL1 +)すなわちオーファン受容体ORL1を安定して発現する組換えCHO細胞内に、フォルスコリン(FSK)が誘発するcAMPの蓄積のエトルフィンによる阻害を示す。
図3は、オーファン受容体ORL1の内因性リガンドの精製結果を示す。
図4は、合成のヘプタデカペプチド(s-HpDPep)およびその1Tyr類似体による、組換えCHO(ORL1 +)細胞中の、フォルスコリンが誘発するcAMPの蓄積の阻害を示す。
図5は、ホットプレート試験[11]におけるマウスのリアリングとエスケープジャンピングの潜伏期に対する合成物のヘプタデカペプチド(s-HpDPep)のi.c.v.注射一回の効果を示す。
図6は、本明細書ではORL1-HpDPepと呼称されている内因性ヘプタデカペプチドの配列をジノルフィンの配列と比較して示す。ジノルフィンの配列はブタの下垂体ジノルフィンA9の配列である。
図7は、プレプロノシセプチン(PPNOC)の遺伝子の一般的体制、ならびにヒトプレプロノシセプチン(hPPNOC)、エンケファリン(hPPENK)、ジノルフィン(hPPDYN)およびオピオイメラノコルチン(hPPOMC)の遺伝子の翻訳領域を比較して示す。
図8は、ラットのプレプロノシセプチンmRNAの組織特異的発現をノーザンブロット法で分析した結果を示す。
図9は、ヒト染色体8およびプレプロノシセプチン遺伝子(PPNOC)に隣接する該染色体のショートアームの物理的地図を示す。
図10は、マウスの水平運動活性に対する、ノシセプチンの投与量を増大した場合の効果を示す。
図11は、マウスの水平運動活性のノシセプチン誘発刺激に対するナロキソンの効果を示す。
図12は、マウスの水平運動活性のノシセプチン誘発刺激に対する、SCH23390の投与量を増大した場合の効果を示す。
図13は、マウスの水平運動活性のノシセプチン誘発刺激に対する、ハロペリドールの投与量を増大した場合の効果を示す。
発明の説明
1.ORL 1 受容体のリガンド
ORL1受容体はオーファン受容体であるが、そのヒト[1]およびマウス[2〜8]のcDNAは最近、特性解析がなされた。ORL1(オピオイド受容体様1)は、構造がオピオイド受容体に類似しており、アデニル酸シクラーゼと負に結合することが報告されている[1]。ORL1転写物は、特に大脳辺縁領域、視床下部、脳橋および脊髄の中枢神経系のような脳領域[6,18,20]のいくつかに豊富に存在しているが、このことは、ORL1受容体が、学習と記憶、注意と情動、ホメオスタシスと感覚認知を含むいくつもの中枢プロセスを調節することを示唆している。
本発明の発明者らは、ORL1受容体のリガンドである本発明のペプチドの単離について以下に説明する。前記天然に存在するリガンドは、フォルスコリンが誘発してcAMPを、安定な組換えCHO(ORL1 +)中に蓄積するのを阻害するが非組換えCHO(ORL1 -)中に蓄積するのを阻害しないという該リガンドの予想される性能に基づいて精製した。そのリガンドは、エンドルフィンのジノルフィンA[9,19]に似ている新規な神経ペプチドであり、そのアミノ酸配列はF−G−G−F−T−G−A−R−K−S−A−R−K−L−A−N−Qである。他の2種のペプチドも単離した。それらペプチドのアミノ酸配列はF−S−E−F−M−R−Q−Y−L−V−L−S−M−Q−S−S−QとT−L−H−Q−N−G−N−Vである。前者の合成ヘプタデカペプチドは培養中のCHO(ORL+)中で、IC50≦1nMでアデニル酸シクラーゼを阻害し、生体内に投与するとマウスに痛覚過敏を誘発する。後者の効果は、ORL1の発現がアンチセンスオリゴヌクレオチドによって生体内で阻害されると、これらの動物に痛感鈍麻を誘発するという観察結果と一致している。総合すると、本発明の発明者らのデータは、最初に発見されたペプタデカペプチドは強力なORL1受容体の作動薬であり、かつ前侵害受容特性を有しているという見解を裏付けている。二番目に発見されたヘプタデカペプチドも前侵害受容特性を提供する。
ORL1の一次構造をμ−,δ−およびκ−オピオイド受容体の一次構造と比較した結果、推定トランスメンブランドメインのみならず四つの推定細胞質ループに、アミノ酸が同一の部分が非常に多いことが明らかになった。ORL1は、他の2種ほど一つのサブタイプのオピオイド受容体に似ていないが、その第二のエキソフェイスのループ(exofacial loop)中に多数の酸性アミノ酸の残基を示し、このことはκ−オピオイド受容体がオピオイド受容体のタイプから区別される特徴である。オーファン受容体ORL1は、受容体を安定して発現する組換えCHO細胞系中に、フォルスコリンによって誘発されてcAMPが蓄積するのを、オピエートのエトルフィンが阻害するのを仲介する[1]。しかし、エトルフィンは、アデニル酸シクラーゼを阻害する強さが、ORL1を通じて阻害する場合、オピオイド受容体を通じて阻害する場合より2〜3桁小さい。
本発明の発明者らは、ORL1が痛みの知覚に関与している証拠を得た。用いた方法は、ORL1受容体の発現を阻害するのにアンチセンスオリゴヌクレオチド[10]を使用する方法である。ORL1 mRNAを、アンチセンスオリゴヌクレオチドによって生体内で処理を繰り返したところ、マウスは、熱の侵害受容刺激に対する反応が小さくなった。図1は、EddyとLeimbachのホットプレート検定法[11]において、アンチセンスオリゴヌクレオチドmAS[25,9]で処理された動物が、食塩水で処理された動物と比べてリアリングとエスケープジャンピングの潜伏期がそれぞれ20±2secから38±2secまで(p<0.001)および71±6secから108±6secまで著しく増大したことを示している。“ミスセンス”オリゴヌクレオチドhAS[25,9]すなわちmASのヒトの同等物は、この点については、全体として、最も有意に無効力であった。このことは、アンチセンスmAS[25,9]によって誘発される痛感鈍麻効果が非特異的作用によるものではなかったことを示している。アンチセンスオリゴヌクレオチドによる処理によって、受容体の発現が低下したので、ORL1が通常、痛みを知覚し易くすると予言できる。
神経生理学および恐らく神経生理病理学でも、上記概念は非常に重要であるので、ORL1受容体の内因性リガンドの同定は重要な問題点になった。
ORL1の内因性リガンドを単離する方法は、オーファン受容体がアデニル酸シクラーゼと負に結合されるということに基づいている。したがって、望ましい化合物は、エトルフィンについて先に示したように(図2)、フォルスコリンが誘発してcAMPを、組換えCHO(ORL1 +)中に蓄積するのを阻害するが、非組換えCHO(ORL1 -)細胞系中に蓄積するのを阻害しないことが期待される化合物であった。ラットの脳から最初に抽出する方法は、主として、ORL1の一般にオピオイド受容体との相同性、特にκ−受容体との相同性に基づいて選択した。κ−オピオイド受容体の細胞外ループ2がジノルフィン類の高い親和性結合に必要である[12,13]。ORL1はこのような第二の酸性外表面ループを有しているので、問題のリガンドはジノルフィンに似ているペプチドかもしれない。したがって、本発明の発明者らは、後にジノルフィンA[9]と同定された下垂体ペプチドを、Teschemacherらが単離することができた抽出法を用いた。
粗製ペプチド抽出物の第一の精製ステップすなわちBio−Gel P−2を用いるサイズ排除クロマトグラフィーは、所望の活性すなわちcAMPのCHO(ORL1 +)中への蓄積を阻害するがCHO(ORL1 -)中への蓄積は阻害しないという活性を示すのに有効であることが分かった(図3a)。活性画分は、空隙容積(プールF1)に回収され、ある程度はプールF2中に回収された(図示せず)がこのことは、生物学的に活性な物質のMrが約1800でBio−Gel P−2の公称の排除限界であることを示している。プールF3〜F10は、前記2種類のCHO細胞系内でアデニル酸シクラーゼを阻害するとき(またはF7の場合に刺激するとき)、不活性であるかまたは等しく有効であった(データは記載していない)。プールF1をさらにカチオン交換FPLCで精製した(図3b)。活性は、ほぼ0.4MのNaClで溶出される2個の1mlずつの連続画分中に回収されたが、このことは活性化合物が強い塩基性であることを示している。次にこれら二つの画分を直接、逆相HPLCカラムに加え、アクリルニトリルで勾配溶離して(図3c)タンパク質の配列決定を行うのに十分な純度の物質の十分な量を得た。この物質は、平均分子量が1810で、決定された配列がPhe−Gly−Gly−Phe−Thr−Gly−Ala−Arg−Lys−Ser−Ala−Arg−Lys−Leu−Ala−Asn−Glnであるヘプタデカペプチドであることが分かった。
問題の配列が主要汚染物の配列ではなかったことを確認するため、放射能ヨウ素で標識化したプローブを製造するため、上記ヘプタデカペプチドとその1Tyr類似体を合成した。これら2種のペプチドは、RP−HPLCで測定したところ≧98%の純度で得られ、かつ質量分析法で測定した結果、予想分子量(それぞれ1809と1825)であった。図4は、上記合成ヘプタデカペプチドが、フォルスコリンに誘発されてcAMPが組換えCHO(ORL1 +)細胞系中に蓄積されるのを非常に強く阻害したことを示している。そのIC50は0.9×10-9mol/lで、最大阻害率は90%に達した。上記合成ペプチドは、1μMまでの濃度では、非組換えCHO(ORL1 -)細胞系内でシクラーゼに対して全く作用しなかった。興味深いことに、1Tyr類似体は、前記受容体を発現するCHO細胞内でシクラーゼに対し、親のペプチドと同様に効力があり(IC50=1.0×10-9mol/l、最大阻害率>90%)そして野生型細胞内では全く不活性であった。
また、前記合成ヘプタデカペプチドは生体内で活性であることが見出された。前記ペプチド10ngまたは100ngを脳内室に注射したところ、マウスはホットプレート試験[11]における反応が亢進した。図5は、痛覚過敏効果が、ペプチドの投与量が10ng(5.5pmol)と100ng(55pmol)の場合、投与量依存性であったことを示している。リアリングとエスケープジャンピングの潜伏期は、前記ペプチドの投与量が高い場合、高度に有意に短くなった。すなわちリアリングの潜伏期は22±2secから14±2secまで(−36%、p<0.01)、エスケープジャンプの潜伏期は65±3secから48±2secまで(−26%、p<0.001)短くなった。これらの効果は、ORL1受容体の発現を生体内で阻害することによって起こる効果(図1)の丁度逆の作用であった。
上記ヘプタデカペプチドの配列はデータバンクの中にはなかったが、ジノルフィン類、特にジノルフィンAの配列にいくらか似ていることが見出された(図6)。この新規なペプチドとジノルフィンAとの構造上の相同性は、後者がκ−オピオイド受容体と相互に作用するから[12,13,15]、前者がORL1受容体と相互に作用するかもしれないという考えを裏付けている。特に、上記新規なペプチドは、生物活性のためのN末端のPhe−Gly−Gly−Pheの“メッセージ”とこれに続く、効力を増大するためのThr−Gly−Ala−Arg−Lys−Ser−Ala−Arg−Lysの“アドレス”で構成されていると考えられる[15]。“アドレス”は、ORL1受容体の酸性の第二外表面ループに結合すると予想されるすべての塩基性アミノ酸の残基を含有している。
ORL1の内因性リガンドの配列は、種全体で高度に保存されているようである。確かに、本発明の発明者らは、ラットのペプチドと同じ生物活性と同じ分子量(1810±2)を有するウシ脳のペプチドも単離した。このペプチドは完全に配列を決定するのに十分な量が得られなかったが、10個の残基(4〜8,11,12および14〜16)がラットの配列の対応するアミノ酸と同一であることを確認することができた。
いく人もの研究者は、ORL1受容体が痛みの知覚[1,4]および運動/好奇心の制御に重要な役割を果たしていると指摘している。以下の二つの生体内の観察結果が上記の見解に実験による裏付けを与えている。すなわち、マウス内で
(i)受容体の発現をアンチセンスオリゴヌクレオチドで阻害すると痛感鈍麻を誘発し(図1)そして
(ii)本発明のヘプタデカペプチドを脳室内に投与すると痛覚過敏を誘発する(図5)。
したがって、本発明の神経ペプチドは前侵害受容特性を備えているので、本発明の発明者らは、その神経ペプチドをノシセプチンと命名することを提案する。ノシセプチンとその受容体ORL1はともに、中枢神経系における新規な痛みの調節様式に対し分子による原理を示している。
最後に、ORL1とオピオイド受容体の間、および本発明の新規なペプチドとエンドルフィン類の間に顕著な構造相同性が存在しているので、上記2クラスの受容体をコードする遺伝子と上記2クラスの神経ペプチドをコードする遺伝子が各々共通の祖先から平行して進化したようである。ジノルフィンAは、いくつものプロジノルフィン16由来のエンドルフィン類のうちの一つであるから、この新規なペプチドは、他の、メンバーが同定されるのを待っている大きなファミリーの代表的な一つに過ぎないと考えられる。
ORL1は、中枢神経系の特に大脳辺縁領域、視床下部、脳橋および脊髄のような脳の特定の部分に存在しているので、前記受容体とそのリガンドは他の機能および関連する行動の制御に関与しているかもしれない。例えばORL1受容体とそのリガンドは、神経内分泌、ストレス、学習と記憶、注意と情動、ホメオスタシスと感覚認知、運動力(運動)、心迫、本能行動、好奇心などを制御するかもしれない。
したがって、本発明は、前記機能と行動に影響し、ORL1受容体のリガンドである分子に関する。
2.プレプロノセプチン(PPNOC)とオピオイドペプチド前駆体の遺伝子の体制の比較
また、本発明は、本発明のペプチドをコードする配列番号:1の核酸配列と70%を超える相同性を有している核酸配列に関する。
上記ペプチドは、本発明の2種のヘプタデカペプチドに開裂することができるプレプロノシセプチンである。
図7(上のパネル)はプレプロノシセプチン(PPMOC)遺伝子の一般的体制を示す。PPMOC遺伝子は3個のイントロン(A,BおよびC)が間隔を置いて挿入された4個のエキソン(I〜IV番)で構成されている。黒四角部分はコーディング領域に対応する。ATG,STOPおよびポリAはそれぞれ転写開始、転写停止およびポリアデニル化の部位である。
マウスとヒトのプレプロノシセプチン(PPNOC)遺伝子のヌクレオチド配列は、内因性オピオイドペプチド類であるエンケファリン類(PPENK)、ジノルフィン類/ネオ−エンドルフィン類(PPDYN)およびβ−エンドルフィン(PPOMC)(図7の下のパネル)の前駆体をコードする遺伝子に非常に類似している体制と構造の特徴を有している。特にマウスとヒトのPPNOCの遺伝子の領域は、アミノ酸42と43のコドンの間に配置された一つのイントロンによって分断されている。また一つのイントロンがPPENK,PPDYNおよびPPOMCの遺伝子のなかの同じ位置に存在している。オピオイドペプチド遺伝子の場合と同様に、別のイントロンがPPNOC遺伝子の5′非翻訳領域にも存在している。他の前駆体の遺伝子と共有されているこれら二つのイントロンに加えて、PPNOCの遺伝子は、メッセージの3′非翻訳領域中にも一つのイントロンを含有しているがこれはPPNOC遺伝子に独特のものである。しかし、本明細書のデータは、ノシセプチンとオピオイドペプチド類の遺伝子が、共通の祖先から平行して進化したという考えと適合している。
プレプロノシセプチンの推定アミノ酸配列(deduced amino acid sequence)は、マウスとヒトの種では、特にノシセプチン自体をホストする(host)C末端の1/4に高度に保存されている。この前駆体のN末端は、粗面小胞体中に翻訳するために必要なシグナルペプチドを表す約20個のアミノ酸からなる疎水性領域およびこの領域に続く、他のホルモン前駆体、特に内因性オピオイドペプチドの前駆体にも見られるシステインが豊富な部分で構成されている。事実、プロノシセプチン中のシステイン残基のパターンはプロエンケファリンとプロジノルフィンの場合と全く同じであった。このことは、これら前駆体のタンパク質の折りたたみおよび/またはプロセシングのモードが共通のモードであることを示唆している。マウスとヒトのプレプロノシセプチンとでは、種々の数の繰返し酸性モチーフが挿入されている分子のコアの相同性が最も低い。その独特のノシセプチン配列は、前駆体のC末端の4番目に配置され、その両側にLys−Argタンパク質分解切断の規定モチーフが連結している。興味深いことに、プロノシセプチンは他の潜在開裂部位を含有している。すなわち一つは、マウス中には配列Lys−Argが、またはヒトには配列Arg−Argが上流に配置され、そして他の配列のArg−Arg−Argがノシセプチンの下流に配置されている。したがってプロノシセプチンは、2種の同定されたへプタデカペプチドとオクタペプチドのみならず本発明の他の生理的に重要な(神経)ペプチドの前駆体として利用できる。
3.ラットのプレプロノシセプチンmRNAの組織への分布
ノーザンブロット分析(図8)によって、プレプロノシセプチンのメッセンジャーRNAが、ラットの卵巣のみならずラットの神経組織(脳と脊髄)中、長さが約1.3kbの単一種として存在していることが明らかになった。肝臓、腸、胃、肺、脾臓、副腎および睾丸をはじめとする末梢組織から得たRNA抽出物にはシグナルが全く検出できなかった。
4.ヒトのプレプロノシセプチンの遺伝子のマッピング
GeneBridge 4パネルの放射能ハイブリッド細胞系にポリメラーゼ連鎖反応を実施することよって、ヒトのプレプロノシセプチンの遺伝子のマッピングを行った。Rhmapperプログラムを用いて、上記遺伝子を、STSマーカーのWI−5833とWI−1172の間のヒト染色体8に明確に帰属させることができた(図9)。
5.ノシセプチンによる、マウスの運動と好奇心の刺激
行動と機能の初期の研究結果は、ノシセプチンペプチドが、マウスに覚醒作用と精神興奮作用を発揮することを示した。運動の水平と垂直の成分および探索行動(exploratory behaviour)に対するノシセプチンの効果を試験した結果、前記観察結果が確認された。ORL1受容体はオピオイド受容体とノシセプチンのジノルフィンAに似ているので、マウスにおいてノシセプチンが誘発する行動の刺激は、オピオエートの拮抗剤のナロキソン[22]に対して不感性なので、ペプチドの運動効果によって、予想どおりに、ドパミンの伝達が起こる。
材料と方法
動物
重量が20〜25gの雄のスイスアルビノマウス
をこの試験に用いた。これらマウスは1箱(L:40cm、W:25cm、H:18cm)当たり20頭ずつ収容し、制御された環境条件下(22±1℃、午前7時〜午後7時の明暗サイクル)、標準の半合成実験用餌と水道水を無制限に得られるようにした。実験は午前10時〜午後6時の間に実施した。各動物は1回だけ使用した。
脳内室への注射
注射(10μl)はフリーハンドで左の脳室に行った[23]。これらの動物は通常、注射してから5分後に実施した。
運動活性
運動活性は、Digiscan Animal Activity Monitor(Omnitek Electronics Inc.社)を使用して評価した。このシステムは、各々8個ずつの赤外線センサーからなる二組のサーインポーズ(surimpose)されたセットでかこまれたケージ(L:20cm、W:20cm、H:30cm)で構成され、その最も下方のセットは水平方向と上方垂直方向の変位を監視し、Apple IIeコンピューターがインターフェースされている。これらのケージは、うすぐらい照明で音響減衰の部屋の中に置いた。
孔あきボード試験(hole board test)
孔あきボード試験[24]は、直径が2cmの孔16個が端縁から3.5cmの等間隔で設けられたプラスチック製正方形のプレート(20cm×20cm、厚み1cm)を用いて行う。実験動物をこのプレートの中央において、ヘッドディップ(head dip)の回数を、連続5分間ずつ4回測定した。
薬剤と溶液
本発明のノシセプチンペプチドは固相法で合成した。塩酸ナロキソンはEndo社から入手し、SCH23390(登録商標)[25]はSchering社から入手した。ハロペリドール[26]の溶液は、Haldol(登録商標)(Janssen社)を食塩水(NaCl 0.9%w/v)の希釈して得た。
統計的分析
データは平均値±標準誤差で表してある。グループ間の差は、二元配置の分散分析法(ANOVA)とスチューデントT検定法で評価した。P<0.05の場合、有意差ありとみなした。
結果
図10は、ノシセプチンを1頭のマウスに10ngの低水準でi.c.v.注射を行ったところ、水平運動活性が統計的に有意に増大したことを示している。この効果は非常に顕著で100ngの投与量で明らかに最高になった。しかしこのペプチドの刺激作用は20分間しか持続しなかった。高投与量(1μg/マウスと10μg/マウス)でノシセプチンは、モニターに導入してから少なくとも20分間おくれて運動を刺激するようであった。またこのペプチドは、100ngと1μgの投与量で0〜10分と10〜20分の観察期間でバーティカリゼーション(verticalisation)が有意に増大した。その試験結果を表1に示す。
孔あきボード試験で、ノシセプチン(100ng/マウス、i.c.v.)によって、探査孔(explored hole)の数が有意に増大した(表2参照)。20分の観察期間でこの数は、食塩水処理の動物の場合の155±15からペプチドで処理した動物の場合226±18まで増大した(p<0.01)。これとは対照的に、動物に、モルヒネ(5mg/kg、s.c.)を注射し、ノシセプチンで処置した動物と同じ条件下、15分後に試験したところ、探査孔の数はかなり減少した[食塩水で処理した場合の150±8からモルヒネで処理した場合24±2まで減少(p<0.001)]。
ナロキソン(0.0〜4.5mg/kg、s.c.)を注射してから10分後に100ngのノシセプチンを投与したところ、試験に最初の10分間に観察されたペプチドの運動刺激作用は抑制されなかった[前処理×処理の交互作用F(1,20)=0.023](図11)。
対照的に、D1ドパミン受容体の拮抗剤のSCH23390は、マウスの運動活性のノシセプチンによる刺激に拮抗させるのに有効であることが分かった[前処理×処理の交互作用F(1,20)=4.25;(p<0.01)](図12)。同様にD2ドパミン受容体の拮抗剤のハロペリドールは、運動活性のノシセプチンによる誘発刺激に拮抗した[前処理×処理の交互作用F(1,20)=2.57;p<0.05](図13)。
神経ペプチドのノシセプチンはマウスの運動の水平成分と垂直成分の両者を刺激する。この効果は、低投与量の10ng/マウスですでに現れるが、高投与量の100ng/マウスの場合効果的なようである。投与量のいかんにかかわらず、ノシセプチンの作用は短期間のようである。このことは、このペプチドが実験条件下で急速に不活性化することを示唆している。試験を行った最大投与量(10μg)では、ノシセプチンによる水平運動活性の刺激は、i.c.v.注射を行ってから少なくとも25分間まで上昇せず、この期間中、低投与量のペプチドの効果に比べて逆転している。ノシセプチンはジノルフィンAと似ており、そのジノルフィンA自体およびκオピオイド受容体のその外の作動剤は運動を抑制することがすでに強調されているので、ノシセプチンの高投与量でのこのような逆転作用はこれらオピオイド受容体の非特異的刺激から起こると考えられる。
ノシセプチンによる運動活性の刺激はオピオイド受容体を必要としない。というのは、このペプチドは、モルヒネの特徴である特性を全く示さないからである。特に、ノシセプチンが誘発する運動効果は、垂直成分を含み、オピエートが誘発するいわゆる“疾走性発作”ではない。またノシセプチンはストラウプ・テール現象(Straub tail phenomenon)を誘発しない。ノシセプチンは生体内では痛覚過敏性であり、その運動に対する刺激作用は、オピエートの拮抗剤のナロキソンによって阻害されない。
他の大きな差異は、ノシセプチンが“好奇心”を刺激するがモルヒネは好奇心を低下させることである。ノシセプチンの運動刺激効果は、δオピオイドの受容体を必要としないようであるが、δオピオイドの作動剤は運動の水平と垂直の成分の両者を刺激することが知られ、この効果は、ナロキソンによって逆転されて、ホットプレート試験においてナロキソンによる可逆性痛覚脱失が見られる。これらのデータを総合すると、マウスにおけるノシセプチンの刺激/覚醒作用がオピオイド受容体を必要という見解に反対の結論を示している。
大部分の精神興奮剤は、中枢ドパミン作用性伝達(central dopaminergic transmission)の増大によって作用する。この仮説を試験するため、ノシセプチンと、D2ドパミン受容体拮抗剤のハロペリドールおよびD1ドパミン受容体拮抗剤のSCH23390(登録商標)との交互作用を検討した。拮抗作用が各々の場合に観察された。このことは、ドパミンのニューロンが、中枢辺縁ニューロンと異なり、ノシセプチンが誘発する運動の刺激に関与していることを示している。
配列表
配列番号:1
配列の長さ:932
配列の型:核酸
鎖の数:二本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:cDNA
配列:
配列番号:2
配列の長さ:17
配列の型:アミノ酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:ペプチド
配列:
配列番号:3
配列の長さ:17
配列の型:アミノ酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:ペプチド
配列:
配列番号:4
配列の長さ:8
配列の型:アミノ酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:ペプチド
配列:
Claims (5)
- 前記細胞が、非神経哺乳類細胞である請求の範囲1〜3のいずれか一つに記載の方法。
- 前記細胞が、環状AMP(cAMP)を産生するのに必要な細胞成分を含有し、結合するいかなる化合物の確認も前記cAMPの濃度の変化を検出することによって得られる請求の範囲1〜3のいずれか一つに記載の方法。
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